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特許7104163リチウムイオン二次電池及びその製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20220712BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220712BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M10/058
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/58
H01M10/0566
H01M4/36 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020545286
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 CN2018112959
(87)【国際公開番号】W WO2019165795
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】201810168626.1
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】王 国宝
(72)【発明者】
【氏名】劉 江
(72)【発明者】
【氏名】劉 暁梅
(72)【発明者】
【氏名】謝 斌
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101609908(CN,A)
【文献】特表2017-513177(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105047986(CN,A)
【文献】特開2012-065474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯体と、芯体を浸漬する電解液と、外装体とを含み、
前記芯体は、
負極集電体と、前記負極集電体の表面に設けられかつ負極活物質を含む負極フィルムとを含む負極シートと、
正極集電体と、前記正極集電体の表面に設けられかつ正極活物質を含む正極フィルムとを含む正極シートと、
隣り合う前記負極シートと前記正極シートとの間に介在するセパレータとを含むリチウムイオン二次電池において、
前記負極シートはリチウムが予吸蔵された負極シートであり、前記負極活物質は炭素系負極材料であり、かつ、前記炭素系負極材料は前記負極シートに予吸蔵された金属リチウムとリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCxが生成され、ここで、x=12~150であり、
単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.2~2.1、
単位面積当たりの負極活物質容量/(単位面積当たりの正極活物質容量+単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCxが放出できる活性リチウム量)≧1.10、
であり、
単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCxが放出できる活性リチウム量=単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量+単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量-単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量であり、
前記単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量、前記単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量、及び前記単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量は、以下の方法によって測定され、
リチウムイオン二次電池を完全放電後に分解して、正極シート、負極シートを得て、それぞれ裁断して単位面積の前記正極シート及び単位面積の前記負極シートを得て、次のように実験を行い、
単位面積の正極シートと単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1C以下の倍率で満充電して、充電容量を得ると、これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量であり、次にボタン型ハーフセルを静置してから、0.1C以下の倍率で完全放電させて、放電容量を得て、これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量であり、
単位面積の負極シートと単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1C以下の倍率で満充電して、充電容量を得て、これは即ち単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記炭素系負極材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビード、ナノカーボン、炭素繊維から選ばれる1種又は複数種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記炭素系負極材料は、天然黒鉛、人造黒鉛又は両者の混合物である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、オリビン構造の含リチウムリン酸塩から選ばれる1種又は複数種である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質は、オリビン構造の含リチウムリン酸塩である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
リチウム予吸蔵化合物LiCxで、x=12~50である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.3~2.1である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を製造するための方法であって、
正極集電体の表面に正極スラリーを塗布し、乾燥させて、正極シートを得るステップと、
負極集電体の表面に負極スラリーを塗布し、乾燥させて、負極フィルムの表面に1層の金属リチウムを設け、次にセパレータ、正極シートと組み立てて芯体を得るステップと、
前記芯体を外装体内に配置し、電解液を注入して封止すると、金属リチウムが電解液の作用で負極活物質内の炭素系負極材料とリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCxに変換され、次に初期充電化成を行って、リチウムイオン二次電池完成品を得るステップと、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記金属リチウムの重量は前記負極フィルムの総重量の0.5%~5%である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項10】
金属リチウムの形態は、リチウム粉末、リチウムインゴット、リチウムシートから選ばれる1種又は複数種である、請求項に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池分野に関し、特にリチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池では、リチウムイオン二次電池は他の種類の二次電池と比べてエネルギー密度が高いというメリットから市場で主流となっている。中でも、リン酸鉄リチウムを正極活物質とするリチウムイオン二次電池は安全性が高く、コストが低く、寿命が長いという特徴を有するため電気バスの動力システムに幅広く用いられ、大規模なエネルギー貯蔵の分野への幅広い利用が期待される。
【0003】
近年、1kWh当たりのコストを考慮して、リチウムイオン二次電池の長寿命化がますます要望されている。リン酸鉄リチウムは構造的に安定性が高いにもかかわらず、黒鉛負極の表面に固体-電解質界面膜(SEI膜)の溶解-修復バランスが起こるため、正極と負極の間に循環される活性リチウムイオンが減少し続け、その結果、容量の損失が避けられない。チタン酸リチウムを負極活物質、リン酸鉄リチウムを正極活物質とするリチウムイオン二次電池はSEI膜が発生しないため、SEI膜の溶解-修復バランスにより引き起こされる負極の副反応が原因になる容量の損失は避けられるが、チタン酸リチウムの電圧プラットフォームが高いため、リチウムイオン二次電池の放電電圧プラットフォームが低くなり、エネルギー密度が非常に低く、しかもチタン酸リチウムの単価が高いため1Wh当たりのコストが高まる。したがって、リチウムイオン二次電池の長寿命化という課題を解決するために効果的な技術が求められる。
【0004】
従来、リチウムイオン二次電池の寿命を引き延ばす手段としては主に、サイクル性能及び保存性能に優れたリン酸鉄リチウムと黒鉛の選択、電解液の配合最適化(有機溶媒、添加剤の変更)、正極フィルムと負極フィルムの配合最適化、SEI膜の成膜条件の最適化等が挙げられる。これらの手段はいずれもSEI膜の溶解-修復バランスにより引き起こされる負極の副反応を抑える観点から、電流制限の方法で活性リチウムイオンの低減を緩和するもので、その効果に限界がある。リチウムイオン二次電池のサイクル寿命は最大で約5000~6000回に達しているが、これは寿命が長い電気バスと大規模なエネルギー貯蔵システムで達成したい10000回以上のサイクル寿命という目標と大きな差がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術に存在する問題点に鑑みてなされたものであり、サイクル性能と保存性能に優れたリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の1つの態様によれば、リチウムイオン二次電池が提供される。当該リチウムイオン二次電池は、芯体と、芯体を浸漬する電解液と、外装体とを含む。芯体は、負極シートと、正極シートと、セパレータとを含み、前記負極シートは、負極集電体と、負極集電体の表面に設けられかつ負極活物質を含む負極フィルムとを含み、前記正極シートは、正極集電体と、正極集電体の表面に設けられかつ正極活物質を含む正極フィルムとを含み、前記セパレータは、隣り合う負極シートと正極シートとの間に介在する。なお、前記負極シートはリチウムが予吸蔵された負極シートであり、負極活物質は炭素系負極材料であり、かつ、前記炭素系負極材料は負極シートに予吸蔵された金属リチウムとリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCが生成され、ここで、x=12~150であり、単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.2~2.1、単位面積当たりの負極活物質容量/(単位面積当たりの正極活物質容量+単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量)≧1.10である。
【0007】
本発明の別の態様によれば、本発明の1つの態様のリチウムイオン二次電池を製造するためにリチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。当該方法は、正極集電体の表面に正極スラリーを塗布し、乾燥させて、正極シートを得るステップと、負極集電体の表面に負極スラリーを塗布し、乾燥させて、負極フィルムの表面にリチウム金属層を設け、次にセパレータ、正極シートと組み立てて芯体を得るステップと、芯体を外装体内に配置し、電解液を注入して封止すると、リチウム金属層は電解液の作用で負極活物質内の炭素系負極材料とリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCに変換され、次に初期充電化成を行って、リチウムイオン二次電池完成品を得るステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
従来技術と比べ、本発明は少なくとも次の有益な効果を有する。本発明のリチウムイオン二次電池は使用過程で満充電された後、負極活物質に正極活物質によって放出される全てのリチウムイオンを受け取るのに充分なスペースがあり、完全放電後に負極に過剰なリチウムイオンが貯蔵されるため、リチウムイオン二次電池の容量損失が効果的に低減され、リチウムイオン二次電池は優れたサイクル性能と保存性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施例1及び比較例1の常温サイクル性能の曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池及びその製造方法を詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池を説明する。
【0012】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池は、芯体と、芯体を浸漬する電解液と、外装体とを含む。芯体は、負極シートと、正極シートと、セパレータとを含み、負極シートは、負極集電体と、負極集電体の表面に設けられかつ負極活物質を含む負極フィルムとを含み、正極シートは、正極集電体と、正極集電体の表面に設けられかつ正極活物質を含む正極フィルムとを含み、セパレータは、隣り合う負極シートと正極シートとの間に介在する。なお、負極シートはリチウムが予吸蔵された負極シートであり、負極活物質は炭素系負極材料であり、かつ、炭素系負極材料は負極シートに予吸蔵された金属リチウムとリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCが生成され、ここで、x=12~150であり、即ち負極フィルムに含まれている炭素系負極材料はリチウム予吸蔵化合物LiCの形態で負極フィルムに存在し、単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.2~2.1、単位面積当たりの負極活物質容量/(単位面積当たりの正極活物質容量+単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量)≧1.10である。
【0013】
ここで、単位面積当たりの負極活物質容量は、リチウム化されていない(又はリチウムを吸蔵していない)負極活物質(即ち炭素系負極材料)の可逆容量で計算され、単位面積当たりの正極活物質容量は、正極活物質の1グラム当たりの可逆容量で計算される。
【0014】
単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量は、単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量=単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量+単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量-単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量、という計算式で得られる。
【0015】
具体的には、リチウムイオン二次電池を完全放電後に分解して正極シート、負極シートを得て、それぞれ裁断して単位面積の正極シート及び単位面積の負極シートを得て、次の実験を行ってもよい。
単位面積の正極シートと単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1C以下の倍率で満充電して、充電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量である。次に、ボタン型ハーフセルをしばらく静置して(好ましくは5分間以上、より好ましくは5~30分間)、0.1C以下の倍率(好ましくは、充電倍率と同じ)で完全放電させて、放電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量である。
単位面積の負極シートと単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1C以下の倍率で満充電して、充電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量である。
【0016】
なお、正極シート及び負極シートの裁断位置は、正極フィルム及び負極フィルムによって完全に被覆されていれば、具体的に限定されるものではない。
【0017】
上記の実験では、充放電の電圧範囲は正極活物質と負極活物質の種類によって具体的に決定され、即ち購入される正極、負極活物質のメーカー推奨電圧によって決定され、正極、負極活物質によって、その対応する充放電電圧に多少の差がある。
【0018】
上記の実験では、組み立てられたボタン型ハーフセルで電解液の組成及びセパレータの種類の選択にあたって具体的に限定されるものではない。リチウムイオン二次電池と同じ条件にして実験を行うことが好ましく、その種類の具体的な変更が、算出される単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量に対する影響は無視できる。
【0019】
上記の単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量に関する計算方法及び実験方法は、新たに製造されるリチウムイオン二次電池にも、既に何回かのサイクルを経たリチウムイオン二次電池(特に、初期のサイクル容量減衰が小さく、例えば、最初100回のサイクル後に容量維持率が98%以上になるリチウムイオン二次電池)にも適用される。
【0020】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.2~2.1、単位面積当たりの負極活物質容量/(単位面積当たりの正極活物質容量+単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量)≧1.10であり、これによって、リチウムイオン二次電池はその使用過程で満充電された後、負極活物質に正極活物質によって放出される全てのリチウムイオンを受け取るのに充分なスペースがあり、完全放電後に負極に過剰なリチウムイオンが貯蔵されるため、リチウムイオン二次電池の容量損失が効果的に低減され、リチウムイオン二次電池のサイクル性能と保存性能が向上する。好ましくは、単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量=1.3~2.1である。
【0021】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池によれば、リチウム予吸蔵化合物LiCにおいて、x<12である場合は、リチウム予吸蔵の程度が高いため、負極の表面に金属リチウムが残留しやすく、安全問題が生じやすい。x>150である場合は、リチウム予吸蔵の程度が低いため、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善するには明らかな効果が得られない。好ましくは、リチウム予吸蔵化合物LiCで、x=12~50である。
【0022】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、負極フィルムは負極集電体の一方の表面に設けられてもよいし、負極集電体の両方の表面に設けられてもよい。
【0023】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、炭素系負極材料は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビード、ナノカーボン、炭素繊維から選ばれる1種又は複数種である。好ましくは、炭素系負極材料は天然黒鉛、人造黒鉛又は両者の混合物である。
【0024】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、負極フィルムは、バインダー及び導電剤をさらに含む。バインダー及び導電剤の種類はいずれも具体的に限定されるものではなく、実際のニーズに応じて選択できる。好ましくは、バインダーは、スチレンブタジエンゴムエマルジョン(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)から選ばれる1種又は複数種であってもよい。好ましくは、導電剤は導電性カーボンブラック、超伝導カーボンブラック、導電性黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0025】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、正極フィルムは正極集電体の一方の表面に設けられてもよいし、正極集電体の両方の表面に設けられてもよい。
【0026】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵又は放出できる材料から選ばれてよい。好ましくは、正極活物質はリチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属酸化物に他の遷移金属、非遷移金属又は非金属が加えられた化合物から選ばれる1種又は複数種であってもよい。具体的には、正極活物質はリチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、オリビン構造の含リチウムリン酸塩から選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0027】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、好ましくは、正極活物質はオリビン構造の含リチウムリン酸塩である。これは、オリビン構造の含リチウムリン酸塩自体は構造的に安定性が高く、他の正極活物質のようにリチウムイオン二次電池のサイクル過程で構造が変化して容量が損失されることはないため、オリビン構造の含リチウムリン酸塩を使用するリチウムイオン二次電池の容量の減衰が主に電池内部の正極と負極の間で循環できる活性リチウムイオンの損失(例えば、負極SEI膜の形成に参与する)によるものであり、そのため正極活物質はオリビン構造の含リチウムリン酸塩である場合は、リチウムイオン二次電池の容量損失を効果的に低減でき、リチウムイオン二次電池のサイクル性能及び保存性能を大幅に向上させる。好ましくは、オリビン構造の含リチウムリン酸塩の一般式はLiFe1-x-yMnM’POであり、ここで、0≦x≦1、0≦y≦0.1、0≦x+y≦1であり、M’はFe、Mn以外の遷移金属元素又は非遷移金属元素から選ばれる1種又は複数種であり、好ましくは、M’はCr、Mg、Ti、Al、Zn、W、Nb、Zrから選ばれる1種又は複数種である。より好ましくは、オリビン構造の含リチウムリン酸塩はリン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガン鉄リチウムから選ばれる1種又は複数種である。
【0028】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、正極フィルムはさらに導電剤及びバインダーを含む。バインダー及び導電剤の種類は具体的に限定されるものではなく、実際のニーズに応じて選択できる。好ましくは、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレンターポリマー、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンターポリマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、含フッ素アクリレート樹脂から選ばれる1種又は複数種であってもよい。好ましくは、導電剤は導電性カーボンブラック、超伝導カーボンブラック、導電性黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブから選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0029】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、電解液は、リチウム塩、有機溶媒、任意選択可能の添加剤を含む。リチウム塩は有機リチウム塩であってもよいし、無機リチウム塩であってもよく、具体的には、リチウム塩にフッ素、ホウ素、リンの少なくとも1種の元素が含まれてもよい。具体的には、リチウム塩は六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、六フッ化ヒ酸リチウム、テトラフルオロオキサラトリン酸リチウム、LiN(SO、LiN(SOF)(SO)、ビストリフルオロメタンスルホンイミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビスオキサレートボラート、リチウムジフルオロ(オキサラート)ボラートから選ばれる1種又は複数種であってもよく、好ましくは、LiPF、LiN(SOのうちの1種又は複数種である。なお、置換基RはC2n+1で示され、nは1~10の整数である。有機溶媒は、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸プロピルのうちの1種又は複数種、及び炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフランのうちの1種又は複数種を含んでもよい。さらに、有機溶媒は異なる種類のイオン液体等を含んでもよい。また、本願に使用される有機溶媒は、単独で1種を使用してもよいし、用途に応じて任意の組み合わせ、比率で2種以上を混合して使用してもよい。
【0030】
本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池において、セパレータの種類は具体的に限定されるものではなく、従来のリチウムイオン二次電池に使用される任意のセパレータ材料、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン及びこれらを複数層複合させてなるフィルムであってもよく、これらに限定されるものではない。
【0031】
次に、本発明の第1態様のリチウムイオン二次電池を製造するための、本発明の第2態様のリチウムイオン二次電池の製造方法を説明する。当該方法は、正極集電体の表面に正極スラリーを塗布し、乾燥させて、正極シートを得るステップと、負極集電体の表面に負極スラリーを塗布し、乾燥させて、負極フィルムの表面に1層の金属リチウムを設け、次にセパレータ、正極シートと組み立てて芯体を得るステップと、芯体を外装体内に配置し、電解液を注入して封止すると、金属リチウムは電解液の作用で負極活物質内の炭素系負極材料とリチウム化してリチウム予吸蔵化合物LiCに変換され、次に初期充電化成を行って、リチウムイオン二次電池完成品を得るステップとを含む。
【0032】
本発明の第2態様のリチウムイオン二次電池の製造方法において、金属リチウムの重量は負極フィルムの総重量の0.5%~5%である。金属リチウムの含有量が過度に高いと、負極からリチウムが析出しやすくなる。
【0033】
本発明の第2態様のリチウムイオン二次電池の製造方法において、金属リチウムは圧延方式で負極フィルムの表面に設けられてもよく、金属リチウムと負極活物質(例えば、黒鉛)の分子間力を利用して金属リチウムを安定して負極フィルムの表面に固着させる。なお、金属リチウムの形態としては、リチウム粉末、リチウムインゴット、リチウムシートから選ばれる1種又は複数種であってもよい。
【0034】
次に、実施例を用いて、本願をさらに説明する。なお、これらの実施例は本願を説明するためのものに過ぎず、これらをもって本願の範囲が限定されるものではない。
【0035】
実施例1~11及び比較例1~7のリチウムイオン二次電池はいずれも次の手順によって製造される。
(1)正極シートの作製
正極活物質リン酸鉄リチウム(1グラム当たりの可逆容量は139mAh/g)、導電剤アセチレンブラック、バインダーPVDFを重量比94:4:2で混合し、溶媒としてN-メチルピロリドンを加え、充分に攪拌して均一に混合すると正極スラリーが得られ、次に正極集電体のアルミ箔の両方の表面に塗布して、乾燥させ、冷間プレスを行って、正極シートを得る。
【0036】
(2)負極シートの製造
負極活物質人造黒鉛(1グラム当たりの可逆容量は340mAh/g)、導電剤アセチレンブラック、バインダーSBR+CMCを重量比95:1.5:3.1:0.4で混合し、溶媒として脱イオン水を加え、充分に攪拌して均一に混合すると負極スラリーが得られ、次に負極集電体の銅箔の両方の表面に塗布して、乾燥させ、冷間プレスを行って、負極フィルムを得る。次に圧延方式でリチウムシート(1グラム当たりの理論容量は3861.3mAh/g)を負極フィルムの表面に結合させて、負極シートを得る。
【0037】
(3)電解液の製造
含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ジメチル(DMC)をEC:PC:DMC=3:3:3の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiPFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiPFの濃度は1mol/Lである。
【0038】
(4)セパレータの製造
厚さ20μmのポリエチレン多孔質フィルムをセパレータとする。
【0039】
(5)リチウムイオン二次電池の製造
正極シート、セパレータ、負極シートを順に積層し、セパレータは正極と負極の間に隔離させるように機能し、巻き取って芯体を得る。芯体を外装体内に配置し、調製された電解液を注入して封止し、次に初期充電化成を行って、リチウムイオン二次電池完成品を得る。
【0040】
実施例1
上記の方法でリチウムイオン二次電池S1を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.120g/1540.25mm(溶媒を含まない重量)であり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mm(溶媒を含まない重量)であり、リチウムシートの重量は3.05mg/1540.25mmである。
【0041】
単位面積当たりの(面積は1540.25mmにして計算、以下、各実施例は同じ)負極活物質容量=単位面積当たりの負極塗布重量×負極活物質の重量比×負極活物質の1グラム当たりの可逆容量=0.120g×95%×340mAh/g=38.76mAhである。
単位面積当たりの(面積は1540.25mmにして計算、以下、各実施例は同じ)正極活物質容量=単位面積当たりの正極塗布重量×正極活物質の重量比×正極活物質の1グラム当たりの可逆容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0042】
実施例2
上記の方法でリチウムイオン二次電池S2を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.05mg/1540.25mmである。
【0043】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0044】
実施例3
上記の方法でリチウムイオン二次電池S3を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.104g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は1.52mg/1540.25mmである。
【0045】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.104g×95%×340mAh/g=33.59mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0046】
実施例4
上記の方法でリチウムイオン二次電池S4を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.224g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.45mg/1540.25mmである。
【0047】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.224g×94%×139mAh/g=29.27mAhである。
【0048】
実施例5
上記の方法でリチウムイオン二次電池S5を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.45mg/1540.25mmである。
【0049】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0050】
実施例6
上記の方法でリチウムイオン二次電池S6を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.177g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.45mg/1540.25mmである。
【0051】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.177×94%×139mAh/g=23.13mAhである。
【0052】
実施例7
上記の方法でリチウムイオン二次電池S7を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.259g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は1.99mg/1540.25mmである。
【0053】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.259g×94%×139mAh/g=33.84mAhである。
【0054】
実施例8
上記の方法でリチウムイオン二次電池S8を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.177g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は5.44mg/1540.25mmである。
【0055】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.177×94%×139mAh/g=23.13mAhである。
【0056】
実施例9
上記の方法でリチウムイオン二次電池S9を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.160g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は6.16mg/1540.25mmである。
【0057】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.160g×94%×139mAh/g=20.91mAhである。
【0058】
実施例10
上記の方法でリチウムイオン二次電池S10を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.280g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は1.10mg/1540.25mmである。
【0059】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.280g×94%×139mAh/g=36.58mAhである。
【0060】
実施例11
上記の方法でリチウムイオン二次電池S11を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.280g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は0.68mg/1540.25mmである。
【0061】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.280g×94%×139mAh/g=36.58mAhである。
【0062】
比較例1
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS1を製造する。ここで、負極フィルムの表面にリチウムシートを設けず、負極スラリーの塗布重量は0.120g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmである。
【0063】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.120g×95%×340mAh/g=38.76mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0064】
比較例2
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS2を製造する。ここで、負極フィルムの表面にリチウムシートを設けず、負極スラリーの塗布重量は0.094g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmである。
【0065】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.094g×95%×340mAh/g=30.36mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0066】
比較例3
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS3を製造する。ここで、負極フィルムの表面にリチウムシートを設けず、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.224g/1540.25mmである。
【0067】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.224g×94%×139mAh/g=29.27mAhである。
【0068】
比較例4
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS4を製造する。ここで、負極フィルムの表面にリチウムシートを設けず、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.287g/1540.25mmである。
【0069】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.287g×94%×139mAh/g=37.50mAhである。
【0070】
比較例5
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS5を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.280g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は1.99mg/1540.25mmである。
【0071】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.280g×94%×139mAh/g=36.58mAhである。
【0072】
比較例6
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS6を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.104g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.198g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.05mg/1540.25mmである。
【0073】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.104g×95%×340mAh/g=33.59mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.198g×94%×139mAh/g=25.87mAhである。
【0074】
比較例7
上記の方法でリチウムイオン二次電池DS7を製造する。ここで、負極スラリーの塗布重量は0.136g/1540.25mmであり、正極スラリーの塗布重量は0.287g/1540.25mmであり、負極フィルム表面のリチウムシートの重量は3.45mg/1540.25mmである。
【0075】
単位面積当たりの負極活物質容量=0.136g×95%×340mAh/g=43.93mAhである。
単位面積当たりの正極活物質容量=0.287g×94%×139mAh/g=37.50mAhである。
【0076】
次に、リチウムイオン二次電池の実験過程を説明する。
【0077】
(1)単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量に関する実験
実施例1~11及び比較例1~7の初期充電化成されたリチウムイオン二次電池完成品を公称倍率1C(即ち、1時間以内に理論容量が完全に放出される電流値)で完全放電させた後に分解して、正極シート、負極シートを得て、それぞれ裁断して単位面積の正極シート及び単位面積の負極シートを得て実験を行う。
【0078】
裁断された単位面積の正極シートと電解液(実施例1~11及び比較例1~7と同じもの)、セパレータ(実施例1~11及び比較例1~7と同じもの)、単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1Cの倍率で3.75Vに満充電して、充電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量である。次にボタン型ハーフセルを30分間静置し、0.1Cの倍率で2.0Vに完全放電させて、放電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量である。
【0079】
裁断された単位面積の負極シートと電解液(実施例1~11及び比較例1~7と同じもの)、セパレータ(実施例1~11及び比較例1~7と同じもの)、単位面積の金属リチウムシートを組み合わせてボタン型ハーフセルを得て、0.1Cの倍率で1.0Vに満充電して、充電容量を得る。これは即ち単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量である。
【0080】
単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量と単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量の和から、単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量を引いて、単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量を得る。
【0081】
(2)LiCのxの計算方法
x=(単位面積当たりの負極活物質容量/黒鉛の1グラム当たりの可逆容量/黒鉛のモル質量)/(単位面積当たりの負極フィルムにおけるLiCが放出できる活性リチウム量/金属リチウムの1グラム当たりの理論容量/金属リチウムのモル質量)
【0082】
(3)リチウムイオン二次電池の常温サイクル性能実験
25℃で、実施例1及び比較例1の初期充電化成されたリチウムイオン二次電池完成品に対して、公称倍率1Cで完全放電させて実験を行う。実験手順は以下のとおりである。リチウムイオン二次電池に対して、1C定電流で、電圧が3.65Vになるように充電し、次に3.65V定電圧で、電流が0.05Cになるように充電し、5分間静置して、リチウムイオン二次電池に対して1C定電流で、電圧が2.5Vになるように放電させる。これは1つの充放電サイクルプロセスであり、この放電容量は初回サイクルの放電容量である。リチウムイオン二次電池に対して、上記の方法で、リチウムイオン二次電池の放電容量が80%に減衰するまで複数サイクルで充放電実験を行い、リチウムイオン二次電池のサイクル回数を記録する。
【0083】
(4)リチウムイオン二次電池の高温サイクル性能実験
60℃で、実施例1~11及び比較例1~7の初期充電化成されたリチウムイオン二次電池完成品に対して、公称倍率1Cで完全放電させて実験を行う。実験手順は以下のとおりである。リチウムイオン二次電池に対して、1C定電流で、電圧が3.65Vになるように充電し、次に3.65V定電圧で、電流が0.05Cになるように充電し、5分間静置して、リチウムイオン二次電池に対して1C定電流で、電圧が2.5Vになるように放電させる。これは1つの充放電サイクルプロセスであり、この放電容量は初回サイクルの放電容量である。リチウムイオン二次電池に対して、上記の方法で、複数サイクルで充放電実験を行って、500回目のサイクルの放電容量を測定する。
【0084】
リチウムイオン二次電池の60℃で500回サイクル後の容量維持率=(500回目のサイクルの放電容量/初回サイクルの放電容量)×100%である。
【0085】
(5)リチウムイオン二次電池の保存性能実験
まず、25℃で、実施例1~11及び比較例1~7のあらかじめ充電化成されたリチウムイオン二次電池完成品に対して、公称倍率1Cで完全放電させて実験を行う。実験手順は以下のとおりである。リチウムイオン二次電池に対して、0.5C定電流で、電圧が3.65Vになるように充電し、次に3.65V定電圧で、電流が0.05Cになるように充電し、5分間静置して、リチウムイオン二次電池に対して0.5C定電流で、電圧が2.5Vになるように放電させる。この放電容量は保存前の放電容量である。次に、0.5Cの充電電流でリチウムイオン二次電池を満充電して、60℃で90日間静置してから、取り出して25℃で2時間静置し、次に0.5C定電流で、電圧が2.5Vになるように放電させ、5分間静置して、0.5C定電流で、電圧が3.65Vになるように充電し、次に3.65V定電圧で、電流が0.05Cになるように充電し、5分間静置して、リチウムイオン二次電池に対して0.5C定電流で、電圧が2.5Vになるように放電させる。この放電容量は90日間保存後の放電容量である。
【0086】
リチウムイオン二次電池の60℃で90日間保存後の容量維持率=(90日間保存後の放電容量/保存前の放電容量)×100%
【0087】
【表1】
【0088】
注:
式1:単位面積当たりの負極活物質容量/単位面積当たりの正極活物質容量
式2:単位面積当たりの負極活物質容量/(単位面積当たりの正極活物質容量+単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量)
【0089】
【表2】
【0090】
図1は、実施例1及び比較例1の常温サイクル性能の曲線図である。図1から明らかなように、比較例1のリチウムイオン二次電池は常温環境で容量が80%に減衰している時、最大で約6000回サイクルできると想定されるが、実施例1のリチウムイオン二次電池は6000回サイクル後になおも90%の可逆放電容量があり、しかも容量が80%に減衰している時、約16000回サイクルできると想定されるため、寿命の長い電気バス及び大規模なエネルギー貯蔵システムでの使用ニーズを満たし得る。
【0091】
比較例1と2を比較して明らかなように、正極活物質の容量が確定する条件では、負極塗布重量を増やして負極活物質容量が増加すると、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命と保存寿命に大きな影響はなく、依然として使用ニーズを満たしていない。実施例1と2を比較して明らかなように、負極フィルムの表面にリチウム金属層が設けられると、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命と保存寿命が明らかに向上している。
【0092】
比較例3と4を比較して明らかなように、負極活物質の容量が確定する条件では、正極塗布重量を減らして正極活物質容量が減少すると、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命と保存寿命に大きな影響はない。実施例4~6の比較によって明らかなように、負極フィルムの表面にリチウム金属層が設けられると、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命と保存寿命が明らかに向上している。
【0093】
比較例5~7では、式2の比値が過度に低いと、リチウムイオン二次電池のサイクル性能と保存性能はいずれも好ましくない。これは当該比値が過度に低いと、正極、負極活物質容量とリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量とマッチングせず、満充電後、負極活物質に正極活物質から放出される全てのリチウムイオンを受け取るのに充分なスペースがないため、負極からリチウムが析出して、リチウムイオン二次電池に膨張と漏液が起こり、リチウムイオン二次電池のサイクル性能と保存性能が劣化するからである。
【0094】
次に、ボタン型ハーフセルの電解液及びセパレータの組成を変えて、実施例1のLiCが放出できる活性リチウム量に対する影響を調べる。
【0095】
実験1において、電解液の調製手順は以下のとおりである。含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、EC、PC、DMCをEC:PC:DMC=2:2:4の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiN(SOCFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiN(SOCFの濃度は1mol/Lである。
【0096】
セパレータとして、厚さ20μmのポリプロピレン多孔質フィルムを使用する。
【0097】
実験2において、電解液の調製手順は以下のとおりである。含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、EC、PC、DMCをEC:PC:DMC=4:2:2の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiPFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiPFの濃度は1mol/Lである。
【0098】
セパレータとして、厚さ20μmのポリプロピレン多孔質フィルムを使用する。
【0099】
実験3において、電解液の調製手順は以下のとおりである。含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、EC、PC、DMCをEC:PC:DMC=3:3:3の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiPFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiPFの濃度は1mol/Lである。
【0100】
セパレータとして、厚さ20μmのポリプロピレン多孔質フィルムを使用する。
【0101】
実験4において、電解液の調製手順は以下のとおりである。含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、EC、PC、DMCをEC:PC:DMC=3:3:3の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiPFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiPFの濃度は0.8mol/Lである。
【0102】
セパレータとして、厚さ20μmポリエチレン多孔質フィルムを使用する。
【0103】
実験5において、電解液の調製手順は以下のとおりである。含水量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックスで、EC、PC、DMCをEC:PC:DMC=2:2:4の重量比で混合して、混合有機溶媒を得て、次に充分に乾燥させたリチウム塩LiPFを当該混合有機溶媒に溶解して、均一に攪拌することによって、電解液を得る。ここで、LiPFの濃度は1.2mol/Lである。
【0104】
セパレータとして、厚さ20μmポリエチレン多孔質フィルムを使用する。
【0105】
【表3】
【0106】
表3から明らかなように、電解液の組成とセパレータの種類の変化が、単位面積当たりの正極フィルムが放出できる活性リチウム量、単位面積当たりの負極フィルムが放出できる活性リチウム量、単位面積当たりの正極フィルムが吸蔵できる活性リチウム量及び単位面積当たりの負極フィルムにおけるリチウム予吸蔵化合物LiCが放出できる活性リチウム量に与える影響は無視できる。本願の実験で、ボタン型ハーフセルを組み立てる時は、電解液とセパレータの組成がフルセルと同じである。
図1