(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】材料を分配するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20220712BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220712BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20220712BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20220712BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
B41J2/175 503
B41J2/01 401
B41J2/01 501
B41J2/18
B41J2/175 121
C09D11/30
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2020562106
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 US2019015942
(87)【国際公開番号】W WO2019152579
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-07-29
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】THE PROCTER & GAMBLE COMPANY
【住所又は居所原語表記】One Procter & Gamble Plaza, Cincinnati, OH 45202,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ、ステファン・ギャリー
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143075(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208776(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208533(WO,A1)
【文献】特開平04-241954(JP,A)
【文献】特開平10-024575(JP,A)
【文献】特開2003-192963(JP,A)
【文献】特表2017-524556(JP,A)
【文献】特開2017-057261(JP,A)
【文献】特開2017-114091(JP,A)
【文献】特開2015-042479(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0181557(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/175
B41J 2/01
B41J 2/18
C09D 11/30
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を分配する方法であって、
a.リザーバと、該リザーバに流体連通するマイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドと、コントローラと、該コントローラ及び前記プリントヘッドに電気的導通する電源と、を備えるシステムを含むマイクロ流体装置を準備する工程であって、前記リザーバが流体を収容し、前記流体が、1.1~5.0の屈折率を有する1~30重量%の粒子状物質
と、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩と、アルカリ膨潤性エマルションポリマー、疎水変性アルカリ膨潤性エマルションポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、レオロジー変性剤と、を含む化粧用インク組成物であって、前記(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の前記レオロジー変性剤に対する比が1未満である、化粧用インク組成物を含み、前記マイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドがノズルを含む、工程と、
b.前記マイクロ流体装置内の前記流体を1000ms未満で40℃~75℃の温度に加熱する工程と、
c.前記プリントヘッドを作動させて、第1の周波数でノズルを噴射させる工程と、
d.工程cの後に、前記プリントヘッドを作動させて、前記第1の周波数よりも小さい第2の周波数でノズルを噴射させる工程と、
e.工程dの後に、前記プリントヘッドを作動させて、前記第1の周波数よりも大きい第3の周波数でノズルを噴射させる工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記ノズルを第1の周波数で作動させる工程が、前記ノズルをノズル当たり200回作動させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の周波数が200Hz~400Hzである、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の周波数が1Hz~10Hzである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の周波数が5Hzである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第3の周波数が800Hz~1500Hzである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記流体を加熱する工程が、前記流体を65℃の温度に加熱することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
マイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドを準備する前記工程が、サーマル流体再循環要素を含むサーマルインクジェットプリントヘッドを準備する工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
流体を準備する前記工程が、
a.100nm~2,000nmの粒径分布D50を有する粒子状物質と、
b.20,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩と、
c.レオロジー変性剤であって、アルカリ膨潤性エマルションポリマー、疎水変性アルカリ膨潤性エマルションポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、レオロジー変性剤と、
を含む
化粧用インク組成物を含む流体であって、該流体が、25℃で測定した0.1秒
-1の剪断速度で1,100cP超の第1の動的粘度と、25℃で測定した1,000秒
-1の剪断速度で100cP未満の第2の動的粘度とを有する、
流体を準備する工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料を分配するためのシステム及び方法に関する。本発明は具体的には、サーマルジェットシステムを使用することによって材料を分配するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性担体の加熱によって移送(transport)ジェットを形成し、材料を分配することは周知である。サーマルインクジェットシステムは、基材上にインク液滴を生成し、正確に付着させるための手段を提供するものである。熱駆動型システムもまた、同様に担体、又は分配される実際の材料を揮発させることによって、他の材料の分配又は分散を促進するために使用されることがある。
【0003】
物質を基材上に付着させる目的で流体を環境内に分散させる「霧化」もまた知られている。典型的な分散システムは、標的基材上に配置される一群の液滴を生成する。典型的な流体は、低粘度であり、印刷システム内においてリザーバとプリントヘッドノズルとの間で容易に流れるものである。高粘度の流体は、システム全体を容易に流れない場合があり、標的基材上へのこの流体の付着の成功に課題を提示し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ノズル性能の低下を低減し、高粘度の流体の動作上の影響を低減する一方で、標的基材上に粘性材料を付着させるための、改善されたシステム及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、流体分配方法であって、リザーバと、リザーバに流体連通するマイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドと、コントローラと、コントローラ及びプリントヘッドに電気的に導通する電源と、を備えるシステムを準備する工程であって、リザーバが流体を収容し、マイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドがノズルを含む、工程と、マイクロ流体装置内の流体を約1000ms未満で約40℃~75℃の温度に加熱する工程と、プリントヘッドを作動させて、第1の周波数でノズル当たり約200回、ノズルを噴射させる工程と、工程cの後に、プリントヘッドを作動させて、第1の周波数よりも実質的に小さい第2の周波数でノズルを噴射させる工程と、工程dの後に、プリントヘッドを作動させて、第1の周波数よりも実質的に大きい第3の周波数でノズルを噴射させる工程と、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書で使用するとき、「粒径分布D50」は、分布の50パーセントがこの直径より小さい粒径を有するような直径を指す。
【0007】
一般的な「ドロップオンデマンド」式のインクジェット印刷方法では、流体インクは、圧力下で、典型的には直径約0.0024インチ(5~50マイクロメートル)の極小オリフィスを介して、急速圧力インパルスにより微小液滴の形態で押し出される。急速圧力インパルスは、典型的には、高周波で振動する圧電結晶の偏向、又は急速加熱サイクルによるインク内での揮発性組成物(例えば、溶媒、水、噴射剤)の揮発のいずれかにより、プリントヘッドで生成される。圧電結晶の偏向は、結晶の振動数に比例して微小液滴としてインクをオリフィスに通過させる。サーマルインクジェットプリンタは、プリントヘッド内で組成物の一部を揮発させる加熱要素を用い、オリフィスノズルを介して流体の大部分を押し出して、加熱要素のオンオフのサイクル数に比例した液滴を形成する。インクは、必要に応じてノズルから押し出され、所望の像の部分として基材にスポットを印刷する。微小液滴は、連続インクジェット印刷において見られるように通電により電荷を得て偏向してもよい。従来のインクジェットプリンタは、米国特許第3,465,350号及び同第3,465,351号により詳細に記載されている。
【0008】
本開示は、マイクロ流体ダイから作動流体を排出するように構成された流体送達システムに関する。ダイは、基材内に形成された1つ以上の活性化要素を含む。活性化要素は、熱であってもよく、また電気抵抗加熱を利用してもよい。各活性化要素は、流体チャンバに隣接して、そしてその流体チャンバに隣接して配設されたノズルにも隣接して配設されている。マイクロ流体ダイは、ダイ内に配置されかつ制御要素と連通する金属トレースを更に1つ以上(one of more)含んでもよい。電子部品に関連する周知の構造及び半導体製造の詳細は、説明には含められていない。
【0009】
一態様では、本発明は、環境の中に又は基材上に液体を分配するための装置を含む。装置は、液体を収容するリザーバを備える。リザーバは、分配要素又はプリントヘッドと流体連通する。リザーバと分配要素との連結は、流体がリザーバから流出し分配要素のチャンバへと流入することを可能にする。この装置は、流体が分配される複数のノズルと、複数のノズルに関連付けられた複数の活性化要素とを更に備える。この装置は更に、制御要素及び電源を備える。この制御要素は、ノズルから流体を分配するために、活性化要素への電力のタイミング及び配給を決定する。流体が分配されると、毛管力によって、リザーバから分配要素チャンバ及び最終的にはノズルに向かって、更に流体が引き込まれる。この装置は、ダイ内に配置されかつ制御要素と連通する、金属トレースを更に1つ以上(one of more)含んでもよい。この金属トレースを、プリントヘッド内に存在する関連する流体と共に使用して、金属トレースの電気抵抗を経時的に評価することによって、装置のプリントヘッドの温度変化を測定できる。
【0010】
測定された温度は、装置の制御に使用され得る。一実施形態では、リザーバと、リザーバに流体連通するマイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドと、コントローラと、コントローラ及びプリントヘッドに電気的導通する電源と、を備えるシステムであって、リザーバが流体を収容し、マイクロ流体サーマルインクジェットプリントヘッドがノズルを含む、システムが提供される。このシステムは、活性化要素として使用されるものとは別個の、マイクロ流体プリントヘッド上に配置された加熱要素を更に備えてもよい。別個の加熱要素は、プリントヘッドを所定の温度に加熱するよう、コントローラによって命令されてもよい。流体の温度は、流体通路の寸法が小さく、かつ流体とプリントヘッドとの間が密接に接触していることから、プリントヘッドの温度に密接に関係する。一実施形態では、マイクロ流体装置内の流体は、約1000ms未満で約40℃~約75℃の温度に加熱される。一実施形態では、流体は、約1000ms未満で約65℃の温度に加熱され得る。流体の加熱は、流体の粘度を低下させるのに有用であり得、これは、例えばアレニウスモデルによって説明される、温度の上昇に伴う動的粘度の低下を示し得る。この加熱後、プリントヘッドノズルは、第1の周波数で作動又は噴射される。一実施形態では、ノズルは、ノズル当たり約200回噴射され得る。一実施形態では、第1の周波数は約200Hz~約400Hzであり得る。ノズルのこの初期噴射の後、プリントヘッドノズルは、第2の周波数で噴射されてもよく、この第2の周波数は第1の周波数よりも実質的に小さい。一実施形態では、第2の周波数は約1Hz~約10Hzであり得る。一実施形態では、第2の周波数は約5Hzであってもよい。第2のより低い周波数での噴射の後、ノズルは第3の周波数で噴射されてもよく、この第3の周波数は、第1の周波数よりも実質的に大きい。一実施形態では、第3の周波数は約800Hz~約1500Hzであり得る。一実施形態では、第3の周波数は約1000Hzであってもよい。
【0011】
一実施形態では、提供される流体は、流体に適用される剪断に依存する動的粘度を有し得る。この動的粘度は、適用される剪断によって実質的に減少し、これによって、第1の周波数での噴射によって、動的粘度は、静止状態で観察される値から低下する。更に、流体はチキソトロピー性を呈してもよく、この場合、流体が剪断を受けた後に、高い動的粘度値に回復するために、所定の時間が必要となる。好ましい一実施形態では、第2の噴射周波数は、流体の静止状態の値よりも低い動的粘度の値を維持するように選択される。
【0012】
一実施形態では、この装置は、追加のマイクロ流体チャネル又は他の流体再循環要素を含んでもよく、これらの追加のチャネル又は要素は、分配前にリザーバとプリントヘッドチャンバとの間に流体流路を提供し、これによって加熱された流体が流れ、チャンバ内に静止したままにならなくなり得る。一実施形態では、この流体の流れにより、流体に作用する剪断力を生じさせることができ、この剪断力は、流体の動的粘度を低下させて、マイクロ流体チャンバからの排出をよりスムーズにするのに有用なものであり得る。
【0013】
一実施形態では、加熱要素は、要素の温度が所望の設定温度に達するまで、約70%のデューティサイクル及び約100Hzの周波数を有する変調電圧を使用して活性化されてもよい。加熱要素が所望の設定点に到達すると、又は達した後、ノズルが噴射される。一実施形態では、この加熱要素は、要素が所望の設定温度に達するまで、フル出力の電圧を使用して作動されてもよい。一実施形態では、約21.6オームの電気抵抗を有する基板加熱要素を有し、約350ミリアンペアの平均電流で約11ボルトの動作電圧を使用して、要素を約500ms以内に約25Cから約65Cへと加熱することができる。
【0014】
一実施形態では、流体は化粧用インク組成物を含んでもよい。化粧用インク組成物は非ニュートン流体であってもよく、これは、この化粧用インク組成物が剪断依存性の粘度及び/又は粘弾性特性を有し得ることを意味する。化粧用インク組成物は、インクジェット装置のカートリッジとプリントヘッドとの間でインクが移動する流体排出条件下で、ずり減粘効果を示し得る。化粧用インク組成物が噴射されると、剪断速度が増加し、結果として粘度が低下し得る。したがって、化粧用インク組成物は、粒子沈降を生じずに保管することができるが、その粘度及び粒径は、化粧用インク組成物が依然として印刷され得るものである。
【0015】
化粧用インク組成物は、粒子状物質、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩、及びレオロジー変性剤を含み得る。
【0016】
一態様では、この粒子状物質は親水性であってもよい。一態様では、この粒子状物質は、粒子状物質をより親水性にするために、1つ以上の成分で実質的にコーティングされ得る。本明細書で使用するとき、「実質的にコーティングされた」とは、粒子状物質の少なくとも約25%、好ましくは約50%超の表面被覆率、より好ましくは約75%超、最も好ましくは約90%超の表面被覆率を意味し得る。粒子状物質を実質的に親水性にすることができる好適なコーティング成分としては、シリカ、アルミナ、ポリエチレングリコール(PEG)12ジメチコン、フィチン酸、グリセロリン酸ナトリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。粒子状物質は、当該技術分野において既知の技術を使用して、1つ以上のコーティング成分で実質的にコーティングされ得る。親水性粒子状物質を使用する利点の1つは、親水性粒子状物質がより容易に水中に分散され得ることである。一態様では、粒子状物質は、シリカ及び/又はアルミナで実質的にコーティングされたチタン及び/又は酸化鉄であり得る。
【0017】
好適な粒子状物質には、顔料、カプセル化顔料、マイカ、粘土、混合金属酸化物顔料、金属酸化物(酸化鉄、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、酸化鉄、及びこれらの組み合わせなど)、窒化ホウ素、シリカ、タルク、塩基性炭酸鉛、ケイ酸マグネシウム、バライト(BaSO4)、炭酸カルシウム、真珠光沢、着色剤(天然着色剤、並びに合成モノマー着色剤及び合成ポリマー着色剤を含む)、染料(例えば、医薬品及び化粧品用、並びに食品、医薬品及び化粧品用ブルー、ブラウン、グリーン、オレンジ、レッド、イエロー等として指定される、アゾ、インジゴイド、トリフェニルメタン、アントラキノン、及びキサンチン染料など)、認可された着色添加剤の不溶性金属塩(レーキと呼ばれる)、及びこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0018】
一態様では、粒子状物質は、二酸化チタン、酸化鉄、及びこれらの組み合わせを含み得る。一態様では、二酸化チタン及び/又は酸化鉄は、水中に容易に分散させることができる。一態様では、二酸化チタン及び/又は酸化鉄は、水中に容易に分散されないことがあるため、化粧用インク組成物に使用する前に疎水的に処理されない。好適な粒子状物質としては、KOBO Products Inc(South Plainfield,NJ)から入手可能な二酸化チタン及び酸化鉄のスラリー、又は同等物を挙げることができる。
【0019】
一態様では、化粧用インク組成物は白色顔料を含む。
【0020】
一態様では、化粧用インク組成物は、白色の外観を有し得る。あるいは、化粧用インク組成物は、赤色及び/又は黄色の色合いを有する白色の外観を有することができる。
【0021】
皮膚の欠陥を隠す及び/又は偽装するのに十分な不透明度のための、粒子状物質の典型的な濃度は、約30活性重量%であり得る。一態様では、化粧用インク組成物は、約15活性重量%超、あるいは約20活性重量%超、あるいは約30活性重量%超の粒子状物質を含み得る。一態様では、化粧用インク組成物は、約1~約30活性重量%、あるいは約3~約25活性重量%、あるいは約5~約20活性重量%、あるいは約8~約18活性重量%の粒子状物質を含み得る。
【0022】
粒子状物質は、約100nm~約2,000nm、あるいは約150nm~約1,000nm、あるいは約200nm~約450nm、あるいは約200nm~約350nmの粒径分布(PSD)D50を有する粒子を含み得る。一態様では、粒子状物質は、約2μm未満、あるいは約1μm未満のPSD D90を有する粒子を含み得る。一態様では、粒子状物質は、約700~約900μmのPSD D90を有する粒子を含み得る。理論に束縛されるものではないが、粒子が大きすぎる場合、それらはカートリッジのマイクロ流体チャネルを詰まらせ、印刷を妨害する可能性があると考えられる。当業者には、許容可能な粒径は、プリントヘッドのダイ構造に応じて変化し得ることが理解されよう。一態様では、この粒子状物質は、詰まりを引き起こすことなく、粒子がカートリッジ及び/又はプリントヘッドのマイクロ流体チャネルを通って移動することができるものである限り、任意のPSDを含むことができる。粒径分布は、以下に記載の粒径分布法に従って測定することができる。
【0023】
この粒子状物質は、約1.1~約5.0、あるいは約1.5~約4、あるいは約2~約3の屈折率を有し得る。
【0024】
この粒子状物質は、約1.5~約6g/mL、あるいは約2~約4g/mLの密度範囲を有し得る。
【0025】
化粧用インク組成物は、レオロジー変性剤を含むことができる。レオロジー変性剤は、化粧用インク組成物の撹拌をほとんど又は全く必要としないように、粒子が均一に懸濁した状態を保つことによって、沈降を防止するのに有用であり得る。
【0026】
レオロジー変性剤の1つの好ましい群は、ASEポリマーである。ASEポリマーは、親水性(メタ)アクリル酸モノマー及び疎水性(メタ)アクリレートエステルモノマーをバランスよく含有し、大量の固形分を液体形態で供給することができる。ASEポリマーは、低pHから高pHへの変化(中和)に依存して、増粘をトリガーする。増粘の「トリガー」は、水に可溶性である(メタ)アクリル酸と、水に可溶性ではない(メタ)アクリレートエステルとの約50:50の比を形成することによって、ポリマーに組み込まれる。酸が中和されていない場合(低pH)、ポリマーは水に不溶性であり、増粘しない。酸が完全に中和されると(高pH)、ポリマーは可溶性になり、増粘する。ASEポリマーは低pH(5未満)で供給され、最大固形分35%にて供給時の低粘度(100cP未満)を維持する。pHが約7以上である場合、ASEポリマーは可溶化し、膨潤し、体積排除により組成物を増粘する。増粘の度合は、ポリマーの分子量に相関し得る。ASEポリマーは、その性能が吸水及び膨潤に依存するため、分子量が非常に大きくなる傾向があり、これにより効率的に増粘することができる。ASEポリマーが生み出すレオロジー特性は、典型的には、急なずり減粘(擬塑性)であり、したがって、ASEポリマーは、非常に低い剪断速度で高粘度を構築するのによく適している。ポリマーの分子量、並びに酸及びエステルモノマーの種類及び量を操作することによって、異なるレオロジー特性を達成することができる。
【0027】
一態様では、ASEポリマーの親水性モノマーは、(メタ)アクリル酸及びマレイン酸を含むことができる。一態様では、ASEポリマーの疎水性モノマーは、(メタ)アクリル酸とC1~C4アルコールとのエステル、特にエチルアクリレート、ブチルアクリレート、及びメチルメタクリレートを含むことができる。
【0028】
一態様では、ASEポリマーは、10~90重量%の親水性モノマーA及び10~90重量%の疎水性モノマーBから合成することができる。親水性モノマーA及び疎水性モノマーBの構造を以下に示す。
【0029】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、独立に、水素又はメチルであり、
R
3は、C
1~C
4アルキルである)。
【0030】
本明細書に記載の化粧用インク組成物に使用するのに好適なレオロジー変性剤の更に別の群は、HASEポリマーである。HASEポリマーは、疎水性アクリル酸エステル及び/又はビニルエステルモノマーをポリマー組成物に添加することによって、ASEポリマー化学をもとに構築される三級ポリマーである。HASEポリマーは、それらのASEに対応する部分のpH依存性の挙動を保持しているが、水の吸収だけでなく、疎水性物質の会合(hydrophobe association)によっても増粘する。会合型増粘(すなわち、組成物中の任意の疎水性部分との会合)として知られるこのメカニズムは、より広範な剪断レベルにわたって性能特性を付与し、ASE及びセルロース系組成物などの体積排除増粘剤で可能なものよりも広範なレオロジー特性を可能にする。
【0031】
HASEポリマーの親水性及び疎水性モノマーは、ASEポリマーに関して記載したものと同じであり得る。HASEポリマーの会合性モノマーは、強い疎水性特性を示すモノマーであり得る。好ましい会合性モノマーは、(メタ)アクリル酸とC8~C22アルコールとのエステルである。
【0032】
一態様では、HASEポリマーは、10~90重量%の親水性モノマーA、10~90重量%の疎水性モノマーB、及び0.01~2重量%の会合性モノマーCから合成することができる。会合性モノマーCの構造を以下に示す。
【0033】
【化2】
(式中、R
4は、水素又はメチルであり、
R
5は、C
8~C
22アルキルであり、
nは0~50の整数である)。
【0034】
あるいは、HASEポリマーは、10~90重量%の親水性モノマーA、10~90重量%の疎水性モノマーB、及び0.01~2重量%の会合性モノマーDから合成することができる。会合性モノマーDの構造を以下に示す。
【0035】
【化3】
(式中、R
6は、水素又はメチルであり、
R
7は、C
8~C
22アルキルである)。
【0036】
一態様では、会合性モノマーは、ステアレス-20メタクリレート、ベヘネス-25メタクリレート、ビニルネオデカノエート、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。一態様では、HASEポリマーの合成には、2つ以上の会合性モノマーを使用することができる。
【0037】
一態様では、ASE及びHASEポリマーは、架橋剤を含み得る。架橋剤は、少なくとも2つのエチレン性不飽和部分、あるいは少なくとも3つのエチレン性不飽和部分を含有し得る。好適な架橋剤としては、ジビニルベンゼン、テトラアリルアンモニウムクロリド、アリルアクリレート及びメタクリレート、ジアクリレート、グリコール及びポリグリコールのジメタクリレート、ブタジエン、1,7-オクタジエン、アリル-アクリルアミド、アリル-メタクリルアミド、ビスアクリルアミド酢酸、N,N’-メチレン-ビスアクリルアミド、ポリオールポリアリルエーテル(例えば、ポリアリルサッカロース及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル)、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0038】
一態様では、架橋剤は、約25~約5,000ppm、あるいは約50~約1,000ppm、あるいは約100~約500ppmの濃度で存在してもよい。
【0039】
レオロジー変性剤の別の群は、疎水変性エチレンオキシド系ウレタン(HEUR)ポリマーである。ASE又はHASE型レオロジー変性剤とは異なり、HEURポリマーは非イオン性であり、あらゆるpHで可溶性である。この可溶性は、水溶性であり、ポリマー構造の大部分を構成する、ポリマーのエチレンオキシド主鎖によるものである。したがって、HEURポリマーが構造を付与するには、組成物中の疎水性部分が、エチレンオキシド骨格と相互作用する必要がある。化粧用インク組成物は、HEURポリマーを含むことができる。あるいは、化粧用インク組成物は、疎水性部分をほとんど又は全く含まず、HEURポリマーを含まない。
【0040】
レオロジー変性剤は、(メタ)アクリレートポリマー、(メタ)アクリレートコポリマー、及びこれらの混合物であり得る。レオロジー変性剤は、ASEポリマー、HASEポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。好適なHASEポリマーとしては、ACULYN(商標)Excel、ACRYSOL(登録商標)TT615、ACULYN(商標)22、ACULYN(商標)88(全てDow Chemical Company(Lake Zurich,IL)から入手可能)、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。好適なASEポリマーとしては、Rheovis(登録商標)1125(BASF Corporation(Charlotte,NC)から入手可能)、ACULYN(商標)33、ACULYN(商標)38(両方ともDow Chemical Company(Lake Zurich,IL)から入手可能)、並びに、これらの組み合わせが挙げられる。化粧用インク組成物は、ASEポリマーを含むことができる。あるいは、化粧用インク組成物は、HASEポリマーを含むことができる。
【0041】
レオロジー変性剤は、界面活性剤、アミンオキシド、及び/又はセルロースエーテルからなるものではない。
【0042】
化粧用インク組成物は、25℃で測定した剪断速度0.1秒-1での化粧用インク組成物の第1の動的粘度が約1,100cP超である限り、任意の量のレオロジー変性剤を含み得る。化粧用インク組成物は、約0.30活性重量%超、あるいは約0.40活性重量%超、あるいは約0.50活性重量%超のレオロジー変性剤を含み得る。化粧用インク組成物は、約0.30~約1活性重量%、あるいは約0.30~約0.80活性重量%、あるいは約0.40~約0.50活性重量%のレオロジー変性剤を含み得る。活性重量%は、標準的な高速液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC-MS)技術を使用して測定することができる。レオロジー変性剤の濃度をこの範囲内に保つことの利点の1つは、化粧用インク組成物の粘度を、粒子が組成物中に懸濁され得るように構築できることである。この粒子は、25℃で約11日間以上、あるいは25℃で約30日間以上、あるいは25℃で約90日間以上、あるいは25℃で約300日間以上懸濁させることができる。理論に束縛されるものではないが、レオロジー変性剤の濃度がこの範囲を下回ると、粒子は十分に懸濁されない可能性があり、沈殿が生じ得ると考えられる。レオロジー変性剤の濃度が高すぎる場合、化粧用インク組成物の粘度は、噴射に影響を及ぼし得る点まで増加し得る(すなわち、化粧用インク組成物は、効率的な印刷に十分な程度にずり流動化しない可能性がある)。
【0043】
一態様では、化粧用インク組成物は、(NaOHのようなアルカリ塩塩基(alkali salt base)と比較して)中性の無機塩を実質的に含まなくてもよい。理論に束縛されるものではないが、塩化カルシウム又は塩化ナトリウムなどの中性無機塩は、化粧用インク組成物のイオン強度を増大させる場合があり、内部構造を損ない、安定性に影響を与える恐れがあると考えられる。HASE及び/又はASEポリマーは、高pHで高分子電解質になることが知られている。pHが上昇すると、HASE及び/又はASEポリマー上のカルボン酸が中和され、ポリマー鎖上にイオン基が生成される可能性があり、これが静電反発力を生じ得る。この静電反発力は、ポリマーを膨張させ、組成物中に内部構造を形成することができる。無機中性塩は、この静電反発を遮蔽する可能性があり、HASE及び/又はASEポリマーの構造を変化させ、したがって安定性の促進における効果を変化させる可能性がある。
【0044】
化粧用インク組成物は、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩を含み得る。許容できる塩の非限定的な例としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、及びこれらの混合物が挙げられる。(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、粒径を制御するように作用することができ、かつ化粧用インク組成物中の低粘度を維持するのに役立ち得る、低分子量材料であってよい。(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、化粧用インク組成物の粘度を大きく増加させない。好適な(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の非限定的な例としては、Darvan(登録商標)811D(RT Vanderbilt Holding Company Inc.(Norwalk,CT)から入手可能)などのポリアクリル酸ナトリウム、約3,500ダルトンの重量平均分子量を有するポリアクリル酸アンモニウム(Darvan(登録商標)821A(RT Vanderbilt Holding Company Inc.から入手可能)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、約20,000ダルトン未満、好ましくは約10,000ダルトン未満、より好ましくは約5,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する。化粧用インク組成物は、約1,000~約20,000ダルトン、あるいは約1,000~約10,000ダルトン、あるいは約2,000~約5,000ダルトン、あるいは約2,500~約4,000ダルトンの重量平均分子量を有する(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩を含み得る。重量平均分子量は、ASTM法D5296-11(2011年9月1日)に従い標準的な高性能サイズ排除クロマトグラフィーによって測定することができる。
【0045】
一態様では、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、フィルム形成ポリマーではない。理論に束縛されるものではないが、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、低分子量であるためフィルムを形成しないと考えられる。
【0046】
化粧用インク組成物は、約0.01~約1活性重量%、あるいは約0.10~約0.85活性重量%、あるいは約0.20~約0.75活性重量%、あるいは約0.30~約0.65活性重量%の、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩を含み得る。理論に束縛されるものではないが、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、粒子の周囲に負の表面電荷を生成することによって、粒子状物質の凝集、ひいては粒径を制御することができると考えられる。したがって、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩は、プリンタカートリッジ及びノズルに適合する粒径を維持するのに役立ち得る。理論に束縛されるものではないが、0.01活性重量%未満の(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩を含む化粧用インク組成物は、十分な粒径制御を有さない可能性があり、及び/又はその粘弾性率は、マイクロ流体の確実な再充填を可能にするには高すぎる可能性があると考えられる。
【0047】
(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の、レオロジー変性剤に対する比は、約1未満であり得る。(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の、レオロジー変性剤に対する比は、約0.10~約0.75、あるいは約0.30~約0.65であり得る。理論に束縛されるものではないが、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の濃度が、レオロジー変性剤の濃度よりも大きい場合、レオロジー変性剤は、粒子を懸濁させるために必要な内部構造を構築することができない可能性があると考えられる。(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の、レオロジー変性剤に対する比が低すぎる場合、凝集が十分に制御されず、粒径が、プリンタのノズルを通り抜けられないほど大きくなる場合があるので、これにより印刷が困難になり得る。
【0048】
安定性は、(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩の濃度に反比例し、レオロジー変性剤の濃度に正比例すると考えられる。
【0049】
一実施形態では、分配される流体は、100nm~2,000nmの粒径分布D50を有する粒子状物質と、20,000ダルトン未満の重量平均分子量を有する(メタ)アクリル酸ホモポリマー又はその塩と、レオロジー変性剤(アルカリ膨潤性エマルションポリマー、疎水変性アルカリ膨潤性エマルションポリマー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される)と、を含み得る。この実施形態では、流体は、25℃で測定した0.1秒-1の剪断速度での1,100cP超の第1の動的粘度と、25℃で測定した1,000秒-1の剪断速度での100cP未満の第2の動的粘度とを有する。
【0050】
本発明の方法は、表面ケア及び基材への化粧料流体の適用を含む、基材への流体の任意の意図された適用のための、基材上への流体の付着において、適切な装置と共に利用することができる。
【0051】
本明細書において範囲の両端として開示される値は、列挙される正確な数値に厳密に限定されるものとして理解されるべきではない。むしろ、特に指示がない限り、それぞれの数値範囲は、列挙される値及びその範囲内の任意の整数の両方を意味するものとする。例えば、「1~10」として開示されている範囲は、「1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10」を意味するように意図されている。
【0052】
本明細書にて開示された寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳密に限定されるものとして理解されるべきではない。その代わりに、特に指示がない限り、このような寸法はそれぞれ、列挙された値とその値を囲む機能的に同等な範囲との両方を意味することが意図されている。例えば、「40mm」と開示された寸法は、「約40mm」を意味することが意図される。
【0053】
相互参照される又は関連する全ての特許又は特許出願、及び本願が優先権又はその利益を主張する任意の特許出願又は特許を含む、本願に引用される全ての文書は、除外又は限定することを明言しない限りにおいて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。いかなる文献の引用も、本明細書中で開示又は特許請求される任意の発明に対する先行技術であるとは見なされず、あるいはそれを単独で又は他の任意の参考文献(単数又は複数)と組み合わせたときに、そのような発明全てを教示、示唆又は開示するとは見なされない。更に、本文書における用語の任意の意味又は定義が、参照することによって組み込まれた文書内の同じ用語の意味又は定義と矛盾する場合、本文書におけるその用語に与えられた意味又は定義が適用されるものとする。
【0054】
本発明の特定の実施形態を例示及び説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を行うことができる点は当業者には明白であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を添付の特許請求の範囲に網羅することが意図されている。