(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-11
(45)【発行日】2022-07-20
(54)【発明の名称】積層造形装置
(51)【国際特許分類】
B22F 12/70 20210101AFI20220712BHJP
B29C 64/371 20170101ALI20220712BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220712BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20220712BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20220712BHJP
B22F 12/45 20210101ALI20220712BHJP
【FI】
B22F12/70
B29C64/371
B33Y30/00
B22F3/16
B22F10/28
B22F12/45
(21)【出願番号】P 2021116288
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2022-06-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】村中 勝隆
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-144594(JP,A)
【文献】特開2017-48408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0270138(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 12/70
B29C 64/371
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口が形成された正面板を含み、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域を覆うチャンバと、
前記開口に設けられ、開閉可能に構成された扉と、
前記チャンバの上方に設けられ、前記造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、
不活性ガスを前記チャンバに供給するガス供給部と、
前記不活性ガスを前記チャンバから排出するガス排出部と、を備え、
前記ガス供給部は、
前記扉が閉じているときに前記開口を横断するように設けられ、前記不活性ガスを吹き出す中段吹出口が形成された中段ノズルと、
前記チャンバ内の前記正面板側において前記中段ノズルよりも下方に設けられ、前記不活性ガスを吹き出す下段吹出口が形成された下段ノズルと、を含み、
前記中段ノズルは、一端が前記正面板に揺動可能に支持され、前記扉の開閉と独立して揺動する、積層造形装置。
【請求項2】
前記中段ノズルは、
前記中段吹出口が形成された中段ダクトと、
前記中段ダクトを保持する中段支持部材と、を有し、
前記中段吹出口からの前記不活性ガスの吹出方向が調整可能に構成される、請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記正面板は、前記不活性ガスが流通するフレームを有し、
前記中段支持部材は、
前記フレームに固定された固定部と、
前記フレームに接離可能に構成された接離部と、
前記固定部および前記接離部の少なくとも一方を介して前記フレームから供給された前記不活性ガスが流通し、前記中段ダクトに前記不活性ガスを供給する流通部と、を有する、請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記中段ノズルは、前記中段ダクトに左右に揺動可能に軸支された中段ルーバーをさらに有する、請求項2または請求項3に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記中段ノズルは、前記中段ダクトを固定する第1面と、前記中段支持部材を固定する第2面と、を有する中段ブラケットを有し、
前記中段ブラケットの前記第1面には、ボルトが挿通される軸支孔と、ボルトが挿通される長孔と、が形成され、
前記中段ダクトは、前記中段ブラケットの前記軸支孔を中心に上下に揺動可能に支持される、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記下段ノズルは、
前記下段吹出口が形成された下段ダクトと、
前記下段ダクトを保持する下段支持部材と、を有し、
前記下段吹出口からの前記不活性ガスの吹出方向が調整可能に構成される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項7】
前記下段ノズルは、前記下段ダクトに左右に揺動可能に軸支された下段ルーバーをさらに有する、請求項6に記載の積層造形装置。
【請求項8】
前記下段ノズルは、前記下段ダクトを固定する第1面と、前記下段支持部材を固定する第2面と、を有する下段ブラケットを有し、
前記下段ブラケットの前記第1面には、ボルトが挿通される軸支孔と、ボルトが挿通される長孔と、が形成され、
前記下段ダクトは、前記下段ブラケットの前記軸支孔を中心に上下に揺動可能に支持される、請求項6または請求項7に記載の積層造形装置。
【請求項9】
前記ガス供給部は、前記チャンバ内の前記正面板側において前記中段ノズルよりも上方に設けられ、前記不活性ガスを吹き出す上段吹出口が形成された上段ノズルをさらに含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項10】
前記上段ノズルは、
前記上段吹出口が形成された第1の上段ダクトと、
前記上段吹出口が形成された第2の上段ダクトと、
前記上段吹出口が形成された第3の上段ダクトと、
前記第1の上段ダクト、前記第2の上段ダクトおよび前記第3の上段ダクトを保持する上段支持部材と、を有し、
前記第2の上段ダクトの前記上段吹出口および前記第3の上段ダクトの前記上段吹出口は、前記第1の上段ダクトの前記上段吹出口よりも下方に向けられている、請求項9に記載の積層造形装置。
【請求項11】
前記ガス供給部は、前記チャンバ内の前記正面板側において前記開口を挟んで両側方にそれぞれ設けられ、前記不活性ガスを吹き出す側方吹出口が形成された複数の側方ノズルをさらに含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項12】
前記中段ノズルにより形成される前記不活性ガスの気流の前記造形領域の平面視上における平均速度は、前記下段ノズルにより形成される前記不活性ガスの気流の前記造形領域の平面視上における平均速度よりも速い、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項13】
前記照射装置は、
前記レーザ光または前記電子ビームを生成する少なくとも1つの光源と、
前記レーザ光または前記電子ビームを走査する複数の走査装置と、を含み、
複数の前記レーザ光または前記電子ビームを同時に照射可能に構成される、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【請求項14】
前記ガス排出部は、
前記不活性ガスを排出する排出口が形成された排気ダクトと、
前記排気ダクトに設けられた整流板と、を含む、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形には種々の方法がある。例えば、粉末床溶融結合を実施する積層造形装置は、所望の三次元造形物を形成する領域である造形領域に材料層を形成し、材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する。そして、材料層と固化層の形成が交互に繰り返され、複数の固化層の積層体である三次元造形物が形成される。
【0003】
一般に、積層造形装置においては、材料層および固化層の変質を防止するため、造形時は、造形領域を覆うチャンバ内に不活性ガスが充満される。また、レーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する際、照射位置からヒュームと呼ばれる煙が発生する。このようなヒュームは、レーザ光や電子ビームを減衰させたり、光学部品を汚染したりするため、造形品質に影響を与える可能性がある。そのため、積層造形装置は、チャンバ内に所定濃度の不活性ガスを供給するとともに、チャンバ内からヒュームを含む不活性ガスを排出するように構成される。
【0004】
チャンバには三次元造形物の取り出し等に使用される開口が形成され、開口には開閉可能な扉が設けられる。以下、チャンバにおいて、開口が形成される側、すなわち、扉が設けられる側を正面側とし、正面側に対向する方向を背面側とし、正面側から背面側に向かって左右方向をそれぞれ左側、右側とする。また、チャンバ内の空間において、相対的に高い位置から順に上段、中段、下段とする。
【0005】
ヒュームは造形領域において発生する。そのため、造形領域の直上、すなわちチャンバ内の下段に不活性ガスの気流を生成して、ヒュームを除去することが望ましい。特許文献1は、主に、チャンバの左側面板の下部に設けられた供給口と、造形領域上を移動するリコータヘッドの右側面に設けられた供給口と、から不活性ガスの供給を行い、主に、チャンバの右側面板の下部に設けられた排出口と、リコータヘッドの左側面に設けられた排出口と、から不活性ガスの排出を行う、積層造形装置を開示している。このような構成によれば、造形領域上に左から右に流れる不活性ガスの気流が形成でき、ヒュームは気流に乗ってチャンバ外に排出される。
【0006】
また、造形領域の直上に気流を生成するだけでは、チャンバ内にヒュームが滞留する場合がある。特許文献2は、チャンバ内の上段、中段および下段に不活性ガスの気流を生成する積層造形装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5982046号公報
【文献】特許第6670813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
設計上の制約等により、左右方向の気流の形成が困難な場合がある。あるいは、左右方向の気流より、正面・背面方向の気流の方が、より好適にヒュームを除去できる場合がある。正面・背面方向の気流を生成するにあたり、不活性ガスの供給口を有するガス供給部を扉に直接設けることが考えられるが、扉の開閉に伴いガス供給部も同時に移動するので、ガス供給部上に堆積した材料が装置外に落下する虞がある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、正面から背面に流れる不活性ガスの気流を、少なくとも、チャンバの中段および下段で生成してヒュームの滞留を防止するよう構成されるとともに、材料の装置外への漏出も起こりにくい、積層造形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、開口が形成された正面板を含み、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域を覆うチャンバと、開口に設けられ、開閉可能に構成された扉と、チャンバの上方に設けられ、造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、不活性ガスをチャンバに供給するガス供給部と、不活性ガスをチャンバから排出するガス排出部と、を備え、ガス供給部は、扉が閉じているときに開口を横断するように設けられ、不活性ガスを吹き出す中段吹出口が形成された中段ノズルと、チャンバ内の正面板側において中段ノズルよりも下方に設けられ、不活性ガスを吹き出す下段吹出口が形成された下段ノズルと、を含み、中段ノズルは、一端が正面板に揺動可能に支持され、扉の開閉と独立して揺動する、積層造形装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層造形装置は、不活性ガスをチャンバに供給するガス供給部として、扉が閉じているときに正面板の開口を横断するように設けられる中段ノズルと、チャンバ内の正面板側において中段ノズルよりも下方に設けられる下段ノズルと、を備える。これにより、正面から背面に流れる不活性ガスの気流を、少なくともチャンバの下段および中段において形成することができ、ヒュームの滞留を防いでより効率よくヒュームの除去を行うことができる。また、中段ノズルは、一端が正面板に揺動可能に支持され、扉と独立して揺動する。これにより、段取作業やチャンバ内のメンテナンス、あるいは三次元造形物の取出等に際して、中段ノズルが邪魔になることなく作業を行うことができる。また、扉を開いただけでは中段ノズルは実質的に揺動しないので、中段ノズル上に堆積した材料が装置外に落下して漏出することが防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図9】チャンバ内部から正面側を見た断面図である。
【
図12】扉が開き、中段ノズルが閉じた状態のチャンバを示す。
【
図13】扉および中段ノズルが開いた状態のチャンバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。各図面においては、各部を接続するパイプやホース等の配管類、ネジやボルト等の締結部材、その他発明の説明に不要な構成部材は適宜図示省略されていることがある。以下に説明される各種変形例は、それぞれ任意に組み合わせて実施することができる。なお、前述の通り、特に断りがない限り、チャンバの開口側を正面側として方向が定義される。
【0014】
図1から
図3に示されるように、本実施形態の積層造形装置1は、チャンバ10と、扉12と、材料層形成装置3と、照射装置4と、ガス供給部2と、ガス排出部13と、不活性ガス供給装置22と、ヒュームコレクタ23と、を備える。積層造形装置1は、材料層形成装置3による材料層92の形成と、照射装置4による固化層93の形成を交互に繰り返して、所望の三次元造形物を製造する。
【0015】
チャンバ10は、実質的に密閉されるように構成され、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域Rを覆う。チャンバ10は、開口111が形成された正面板11を含んで構成される。正面板11は、フレーム110を含んで構成されている。本実施形態においては、フレーム110は、配管を介して不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23と接続されており、フレーム110の内部には不活性ガスが流通する。フレーム110には、ガス供給部2の各部が取り付けられ、取付位置には不活性ガスの導入口が形成されている。フレーム110内を流通する不活性ガスは、導入口を介して、ガス供給部2の各部へと送られる。
【0016】
開口111には、開閉可能に構成された扉12が設けられている。本実施形態の扉12は、上部に覗き窓121を有しており、下部にグローブボックス124を有している。覗き窓121は、レーザ光Lまたは電子ビームの散乱光を減衰させるとともに、チャンバ10内部を視認可能な程度の透過性を有する材料でなる。オペレータは、グローブボックス124のグローブを介して、扉12を閉じた状態でチャンバ10内部の作業を行うことができる。把持部材123は、扉12を開閉させる際の持ち手である。ロック機構125は、扉12の施錠および解錠を行う。なお、本実施形態においては、扉12は左端部が正面板11に蝶着され、揺動して開閉が行われるよう構成されているが、別の開閉機構が採用されてもよい。例えば、扉12は、上下または左右にスライドして開閉が行われるように構成されてもよい。
【0017】
不活性ガス供給装置22は、造形中、すなわち所望の三次元造形物の製造を開始してから当該製造を完了するまでの間において、ガス供給部2に不活性ガスを供給する。ガス供給部2はチャンバ10に不活性ガスを供給し、チャンバ10内は所定濃度の不活性ガスで満たされる。不活性ガス供給装置22は、例えば、空気から不活性ガスを生成する不活性ガス生成装置または不活性ガスが貯留されるガスボンベである。また、固化層93の形成時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスは、ガス排出部13を介してチャンバ10内から排出される。好ましくは、ガス排出部13を介してチャンバ10から排出された不活性ガスは、ヒュームコレクタ23によりヒュームが除去された上で、ガス供給部2を介してチャンバ10内に返送される。ヒュームコレクタ23は、例えば、電気集塵機またはフィルタを有する。不活性ガスは、材料層92や固化層93と実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料の種類に応じて適当なものが選択される。
【0018】
ガス排出部13は、不活性ガスをチャンバ10から排出する。本実施形態のガス排出部13は、チャンバ10の背面板の少なくとも一部を構成している。
図4に示されるように、ガス排出部13は、排出口131が形成された排気ダクト130と、排気ダクト130に設けられた整流板132と、を含む。本実施形態においては、2つの排出口131が、チャンバ10の中段位置、すなわち開口111と略同じ高さに設けられている。ヒュームを含む不活性ガスは、排出口131の前に設置された格子状の整流板132によって整流され、排出口131を介してチャンバ10の外に排出される。前述のように、排出口131から排出された不活性ガスは、ヒュームコレクタ23へと送られる。
【0019】
材料層形成装置3はチャンバ10内に設けられ、所定厚みの材料層92を形成する。材料層形成装置3は、造形領域Rを有するベース台31と、ベース台31上に配置されるリコータヘッド33と、を含む。リコータヘッド33は、任意のアクチュエータを有する不図示のリコータヘッド駆動装置により水平方向に移動可能に構成される。造形領域Rには、造形テーブル35が配置される。造形テーブル35は、任意のアクチュエータを有する造形テーブル駆動装置37により鉛直方向に移動可能に構成される。造形にあたり造形テーブル35にはベースプレート91が載置されてもよく、この場合ベースプレート91上に1層目の材料層92が形成される。
【0020】
図5および
図6に示されるように、リコータヘッド33は、材料収容部331と、材料供給口332と、材料排出口333と、を有する。材料収容部331は、材料を貯留する。材料は、例えば金属の粉末である。材料供給口332は、材料収容部331の上面に設けられ、材料収容部331に供給される材料の受口となる。リコータヘッド33に材料を補充するにあたっては、不図示の材料供給装置からチャンバ10に設けられた案内装置16を介して、材料供給口332に材料が供給される。材料排出口333は、材料収容部331の底面に設けられ、材料収容部331内の材料を排出する。材料排出口333は、リコータヘッド33の移動方向に直交する水平方向に延びるスリット形状を有する。リコータヘッド33の側面には、材料を均して材料層92を形成するブレード334が設けられる。リコータヘッド33は、材料収容部331内に収容した材料を材料排出口333から排出しながら造形領域R上を水平方向に往復移動する。このとき、ブレード334は排出された材料を平坦化して材料層92を形成する。
【0021】
照射装置4はチャンバ10の上方に設けられ、造形領域Rに形成された材料層92にレーザ光Lを照射して照射位置の材料を溶融または焼結させ、固化層93を形成する。特に、本実施形態の照射装置4は、複数のレーザ光Lを同時に照射可能に構成される。
図7に示されるように、照射装置4は、第1の照射装置41と、第2の照射装置42と、第3の照射装置43と、第4の照射装置44と、を含む。本実施形態においては、第1の照射装置41および第2の照射装置42と、第3の照射装置43および第4の照射装置44とは、それぞれ同一の筐体に収容される。
【0022】
第1の照射装置41は、光源411と、フォーカス制御ユニット412と、調整レンズ413と、走査装置414と、を有している。光源411は、レーザ光Lを生成する。フォーカス制御ユニット412は、焦点制御レンズと、焦点制御レンズを前後させるモータと、を有しており、焦点制御レンズを光軸方向に前後させることでレーザ光Lの焦点位置を調整する。調整レンズ413は、手動で位置の調整が可能であり、装置の組付時等に生じ得る光学系の誤差を微調整する。走査装置414は、具体的にはガルバノスキャナであり、レーザ光LをX軸方向に走査するX軸ガルバノミラー414aと、X軸ガルバノミラー414aを回転させるX軸アクチュエータ414bと、レーザ光LをY軸方向に走査するY軸ガルバノミラー414cと、Y軸ガルバノミラー414cを回転させるY軸アクチュエータ414dと、を有する。
【0023】
第2の照射装置42は、光源421と、フォーカス制御ユニット422と、調整レンズ423と、走査装置424と、を有している。光源421は、レーザ光Lを生成する。フォーカス制御ユニット422は、焦点制御レンズと、焦点制御レンズを前後させるモータと、を有しており、焦点制御レンズを光軸方向に前後させることでレーザ光Lの焦点位置を調整する。調整レンズ423は、手動で位置の調整が可能であり、装置の組付時等に生じ得る光学系の誤差を微調整する。走査装置424は、具体的にはガルバノスキャナであり、レーザ光LをX軸方向に走査するX軸ガルバノミラー424aと、X軸ガルバノミラー424aを回転させるX軸アクチュエータ424bと、レーザ光LをY軸方向に走査するY軸ガルバノミラー424cと、Y軸ガルバノミラー424cを回転させるY軸アクチュエータ424dと、を有する。
【0024】
好ましくは、X軸ガルバノミラー414aおよびY軸ガルバノミラー414cと、X軸ガルバノミラー424aおよびY軸ガルバノミラー424cとは、互いに面対称になるように配置され、下流側のガルバノミラー、すなわち本実施形態ではX軸ガルバノミラー414aとX軸ガルバノミラー424aとの間の距離が、近接するように構成されている。このようにすれば、第1の照射装置41で走査されたレーザ光Lと、第2の照射装置42で走査されたレーザ光Lとにおける、照射スポットの形状やエネルギー密度の差を低減することができる。第1の照射装置41の走査装置414および第2の照射装置42の走査装置424によってそれぞれ走査されたレーザ光Lは、チャンバ10の天板に設けられたウインドウ14を通過して、材料層92へと照射される。本実施形態においては、第1の照射装置41および第2の照射装置42は、造形領域Rの左半分の照射を担当する。
【0025】
第3の照射装置43は、光源431と、フォーカス制御ユニット432と、調整レンズ433と、走査装置434と、を有している。光源431は、レーザ光Lを生成する。フォーカス制御ユニット432は、焦点制御レンズと、焦点制御レンズを前後させるモータと、を有しており、焦点制御レンズを光軸方向に前後させることでレーザ光Lの焦点位置を調整する。調整レンズ433は、手動で位置の調整が可能であり、装置の組付時等に生じ得る光学系の誤差を微調整する。走査装置434は、具体的にはガルバノスキャナであり、レーザ光LをX軸方向に走査するX軸ガルバノミラー434aと、X軸ガルバノミラー434aを回転させるX軸アクチュエータ434bと、レーザ光LをY軸方向に走査するY軸ガルバノミラー434cと、Y軸ガルバノミラー434cを回転させるY軸アクチュエータ434dと、を有する。
【0026】
第4の照射装置44は、光源441と、フォーカス制御ユニット442と、調整レンズ443と、走査装置444と、を有している。光源441は、レーザ光Lを生成する。フォーカス制御ユニット442は、焦点制御レンズと、焦点制御レンズを前後させるモータと、を有しており、焦点制御レンズを光軸方向に前後させることでレーザ光Lの焦点位置を調整する。調整レンズ443は、手動で位置の調整が可能であり、装置の組付時等に生じ得る光学系の誤差を微調整する。走査装置444は、具体的にはガルバノスキャナであり、レーザ光LをX軸方向に走査するX軸ガルバノミラー444aと、X軸ガルバノミラー444aを回転させるX軸アクチュエータ444bと、レーザ光LをY軸方向に走査するY軸ガルバノミラー444cと、Y軸ガルバノミラー444cを回転させるY軸アクチュエータ444dと、を有する。
【0027】
好ましくは、X軸ガルバノミラー434aおよびY軸ガルバノミラー434cと、X軸ガルバノミラー444aおよびY軸ガルバノミラー444cとは、互いに面対称になるように配置され、下流側のガルバノミラー、すなわち本実施形態ではX軸ガルバノミラー434aとX軸ガルバノミラー444aとの間の距離が、近接するように構成されている。このようにすれば、第3の照射装置43で走査されたレーザ光Lと、第4の照射装置44で走査されたレーザ光Lとにおける、照射スポットの形状やエネルギー密度の差を低減することができる。第3の照射装置43の走査装置434および第4の照射装置44の走査装置444によってそれぞれ走査されたレーザ光Lは、チャンバ10の天板に設けられたウインドウ14を通過して、材料層92へと照射される。本実施形態においては、第3の照射装置43および第4の照射装置44は、造形領域Rの右半分の照射を担当する。
【0028】
以上のような照射装置4によれば、最大4つのレーザ光Lを同時に照射することが可能である。複数のレーザ光Lまたは電子ビームを同時に照射可能に構成された照射装置4を備える積層造形装置1においては、時間あたりのヒュームの発生量も多くなるため、より効率よくヒュームをチャンバ10から排出することが求められる。
【0029】
照射装置4は、上述の構成に限定されない。本実施形態では、複数のレーザ光Lを同時に照射するにあたり、走査装置414,424,434,444毎に光源411,421,431,441が設けられたが、1つの光源で生成されたレーザ光Lをビームスプリッタ等で分光して各走査装置414,424,434,444に送ってもよい。また、照射装置4は電子ビームを照射する装置であってもよい。例えば、照射装置4は、電子を放出するカソード電極と、電子を収束して加速するアノード電極と、磁場を形成して電子ビームの方向を一方向に収束するソレノイドと、被照射体である材料層92と電気的に接続されカソード電極との間に電圧を印加するコレクタ電極と、を有する。このとき、カソード電極およびアノード電極が電子ビームを出力する光源の役割を果たし、ソレノイドが電子ビームを走査する走査装置の役割を果たす。すなわち、照射装置4は、レーザ光Lまたは電子ビームを生成する少なくとも1つの光源と、レーザ光Lまたは電子ビームを走査する少なくとも1つの走査装置と、を含んで構成される。好ましくは、照射装置4は、レーザ光Lまたは電子ビームを生成する少なくとも1つの光源と、レーザ光Lまたは電子ビームを走査する複数の走査装置と、を含み、複数のレーザ光Lまたは電子ビームを同時に照射可能に構成される。
【0030】
チャンバ10の天板には、ウインドウ14を覆うように汚染防止装置15が設けられる。
図8に示されるように、汚染防止装置15は、円筒状の筐体151と、筐体151内に配置された円筒状の拡散部材152を有する。筐体151と拡散部材152の間に不活性ガス供給空間153が設けられる。また、拡散部材152の内側の筐体151の底面には、開口部154が設けられる。拡散部材152には多数の細孔155が設けられており、不活性ガス供給空間153に供給された清浄な不活性ガスは細孔155を通じて清浄室156に充満される。そして、清浄室156に充満された清浄な不活性ガスは、開口部154を通じて汚染防止装置15の下方に向かって噴出される。このように、ウインドウ14の下方に清浄な不活性ガスが充満されるとともに、ウインドウ14から下方に向かう不活性ガスの気流が生成されるので、ウインドウ14にヒュームが付着することが防止される。なお、不活性ガス供給空間153には、チャンバ10の天板に設けられた汚染防止装置供給口21を介して不活性ガスが供給される。ヒュームコレクタ23から返送されるガスにはわずかにヒュームが残留している可能性があるので、汚染防止装置供給口21は不活性ガス供給装置22のみと接続されることが好ましい。
【0031】
ここで、ガス供給部2の実施形態を詳述する。ガス供給部2は、不活性ガスをチャンバ10に供給する。より具体的には、ガス供給部2は、不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23から送られた不活性ガスをチャンバ10に供給して、正面から背面に流れる不活性ガスの気流を生成する。
図9は、ガス供給部2の各部の位置関係を概略的に示している。本実施形態のガス供給部2は、下段ノズル5と、中段ノズル6と、上段ノズル7と、複数の側方ノズル8と、を含む。
【0032】
下段ノズル5は、チャンバ10内の下段において、正面から背面方向への不活性ガスの気流を生成する。下段に生成された不活性ガスの気流は、造形領域Rで発生したヒュームを背面方向へと移送する。下段ノズル5は、チャンバ10内の正面板11側、すなわち、チャンバ10内における造形領域Rよりも正面側の位置において、中段ノズル6よりも下方に設けられる。より具体的には、本実施形態においては、下段ノズル5は、開口111よりも下方において、正面板11のフレーム110に取り付けられる。
図10および
図11に示されるように、下段ノズル5は、一対の下段ダクト51と、各下段ダクト51を保持する下段支持部材52と、各下段ダクト51の端部に設けられる下段ブラケット53と、を有する。
【0033】
下段ダクト51は不活性ガスが流通可能な管状部材であり、背面側、すなわち造形領域R側に、不活性ガスを吹き出す下段吹出口511が形成されている。不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23から送られた不活性ガスは、フレーム110の導入口を介して下段ダクト51へと送られ、下段吹出口511から噴出される。
【0034】
下段支持部材52は、例えば板状部材であり、下段ダクト51を保持するとともに、下段ダクト51をフレーム110に固定する。
【0035】
下段ブラケット53は、例えばL字板金であり、下段ダクト51と下段支持部材52とを接続する。すなわち、下段ブラケット53は、下段ダクト51を固定する第1面531と、下段支持部材52を固定する第2面532と、を有する。
【0036】
好ましくは、下段吹出口511からの不活性ガスの吹出方向は、調整可能に構成される。下段ノズル5は、下段ダクト51に左右に揺動可能に軸支された複数の下段ルーバー512を有する。下段ダクト51には、貫通孔である複数の軸支孔512aが形成され、軸支孔512aに挿通されたボルトにより、下段ルーバー512が固定される。下段ルーバー512を所望の角度に調整したのちに固定することで、左右方向の吹出方向が調整される。また、下段ブラケット53の第1面531には、貫通孔である軸支孔531aと、円弧状長孔である長孔531bとが形成され、軸支孔531aおよび長孔531bにそれぞれ挿通されたボルトにより、下段ダクト51が下段ブラケット53に固定される。すなわち、下段ダクト51は、軸支孔531aを中心に上下に揺動可能に支持される。下段ダクト51を所望の傾きに調整したのちに固定することで、上下方向の吹出方向が調整される。なお、造形領域R内の材料を巻き上げないよう、下段吹出口511からの不活性ガスの吹出方向は、水平方向よりもやや上を向いている方が望ましい。例えば、下段吹出口511からの不活性ガスの吹出方向は、水平方向を0°としたときに、約5°から約25°の範囲で調整可能に構成されてよい。
【0037】
なお、本実施形態においては、下段ダクト51は一対設けられ、それぞれは独立して傾きが調整可能であるが、下段ダクト51は左右に亘って一体に形成されてもよいし、複数の下段ダクト51が接続部材で接続されてもよい。また、本実施形態においては、下段ノズル5はフレーム110に取り付けられるが、チャンバ10内の正面板11側における中段ノズル6よりも下方の任意の位置に設けられればよい。また、下段吹出口511の吹出方向を調整する手段は、上述の構成に限定されない。例えば、下段ダクト51に上下に揺動可能に軸支されたルーバーにより、上下方向の吹出方向が調整されてもよい。また、下段ノズル5にファンを設け、下段吹出口511から噴出される不活性ガスの直進性を向上させてもよい。
【0038】
中段ノズル6は、チャンバ10内の中段において、正面から背面方向への不活性ガスの気流を生成する。中段に生成された不活性ガスの気流は、下段の気流で取り除けずに上昇してきたヒュームを背面方向へと移送する。
図12および
図13に示されるように、中段ノズル6は、正面板11の開口111に設けられ、一端が正面板11に揺動可能に支持されて、扉12の開閉と独立して揺動するよう構成される。中段ノズル6は、扉12が閉じているときは、正面板11に押圧されて所定位置に固定され、正面板11の開口111を横断する。なお、以下において、中段ノズル6の他端が正面板11と接している状態を中段ノズル6が閉じている状態といい、中段ノズル6の他端が正面板11から離れている状態を中段ノズル6が開いている状態という。
図14から
図17に示されるように、中段ノズル6は、一対の中段ダクト61と、各中段ダクト61を保持する中段支持部材62と、各中段ダクト61の端部に設けられる中段ブラケット63と、を有する。
【0039】
中段ダクト61は不活性ガスが流通可能な管状部材であり、背面側、すなわち造形領域R側に、不活性ガスを吹き出す中段吹出口611が形成されている。一対の中段ダクト61は、接続部材613によって互いに接続される。
【0040】
中段支持部材62は、例えば不活性ガスが流通可能な管状部材であり、中段ダクト61を揺動可能に保持する。具体的には、中段支持部材62は、流通部623と、流通部623の両端にそれぞれ設けられた固定部621および接離部622と、を有する。固定部621は、正面板11のフレーム110に固定される。固定部621と流通部623とはヒンジ624を介して接続され、流通部623および接離部622はヒンジ624を中心に揺動する。接離部622は揺動に伴い、正面板11のフレーム110に対して接離する。なお、接離部622がフレーム110に対して当接しているときは、接離部622はフレーム110に取り付けられた保持板112によって支持される。流通部623へは、固定部621および接離部622の少なくとも一方を介して、不活性ガスが供給される。本実施形態では、固定部621および接離部622の両方から流通部623へ不活性ガスが供給される。具体的に、固定部621および接離部622は、フレーム110との当接面において形成された不活性ガス入口を有しており、不活性ガス入口はフレーム110に形成された不活性ガスの導入口と係合する。流通部623には固定部621および接離部622を介してフレーム110から供給された不活性ガスが流通し、流通部623は中段ダクト61に不活性ガスを供給する。すなわち、不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23から送られた不活性ガスは、フレーム110の導入口および中段支持部材62を介して中段ダクト61へと送られ、中段吹出口611から噴出される。
【0041】
中段ブラケット63は、例えばL字板金であり、中段ダクト61と中段支持部材62とを接続する。すなわち、中段ブラケット63は、中段ダクト61を固定する第1面631と、中段支持部材62を固定する第2面632と、を有する。
【0042】
好ましくは、中段吹出口611からの不活性ガスの吹出方向は、調整可能に構成される。中段ノズル6は、中段ダクト61に左右に揺動可能に軸支された複数の中段ルーバー612を有する。中段ダクト61には、貫通孔である複数の軸支孔612aが形成され、軸支孔612aに挿通されたボルトにより、中段ルーバー612が固定される。中段ルーバー612を所望の角度に調整したのちに固定することで、左右方向の吹出方向が調整される。また、中段ブラケット63の第1面631には、貫通孔である軸支孔631aと、円弧状長孔である長孔631bとが形成され、軸支孔631aおよび長孔631bにそれぞれ挿通されたボルトにより、中段ダクト61が中段ブラケット63に固定される。すなわち、中段ダクト61は、軸支孔631aを中心に上下に揺動可能に支持される。中段ダクト61を所望の傾きに調整したのちに固定することで、上下方向の吹出方向が調整される。例えば、中段吹出口611からの不活性ガスの吹出方向は、水平方向を0°としたときに、約-10°から約10°の範囲で調整可能に構成されてよい。
【0043】
なお、本実施形態においては、中段ダクト61は一対設けられ、互いに接続部材613によって接続されているが、中段ダクト61は左右に亘って一体に形成されてもよいし、複数の中段ダクト61が独立して傾きが調整可能に構成されてもよい。また、本実施形態では、中段ノズル6が閉じているときは中段ノズル6は保持板112によって支持されているが、中段ノズル6を直接的または間接的に正面板11に固定する別の手段が設けられてもよい。また、中段吹出口611の吹出方向を調整する手段は、上述の構成に限定されない。例えば、中段ダクト61に上下に揺動可能に軸支されたルーバーにより、上下方向の吹出方向が調整されてもよい。また、中段ノズル6にファンを設け、中段吹出口611から噴出される不活性ガスの直進性を向上させてもよい。
【0044】
以上説明した通り、中段ノズル6は、扉12の開閉と独立して揺動することができる。扉12を開いたときに中段ノズル6は実質的に閉じたままであるので、中段ノズル6に堆積した材料が装置外に落下することが防止できる。また、中段ノズル6を開閉可能に構成したことで、ベースプレート91の載置などの段取作業、チャンバ10内の清掃や部品交換などのメンテナンス、製造した三次元造形物の取出などの作業時に、中段ノズル6を作業の邪魔にならない位置に移動させることができる。また、不活性ガスの吹出方向を調整するにあたり、扉12を開き中段ノズル6が閉じた状態で調整を行うことができるので、調整作業時の作業者への負担が少ない。
【0045】
ここで、吹出方向の調整方法を具体的に説明する。まず、扉12および中段ノズル6を開き、造形領域R上、すなわち造形テーブル35上に、風速計を設置する。風速計は、チャンバ10の下段、例えば、造形時の材料層92の上面位置である造形面から約50mmに位置する測定位置の気流速度を検出可能に設置される。好ましくは、測定位置は、造形領域Rの平面視上に格子状に複数設けられており、例えば風速計は9つの測定位置の気流速度を検出する。そして、下段ノズル5から不活性ガスを噴出させる。気流速度を確認しながら、所望の気流になるように、下段ルーバー512および下段ダクト51の取付角度を調整し、ボルトおよびナットで固定する。次に、風速計の検出高さを変更する。風速計は、チャンバ10の中段、例えば、造形面から約350mmに位置する測定位置の気流速度を検出可能に設置される。同様に、測定位置は、造形領域Rの平面視上に格子状に複数設けられることが好ましい。そして、中段ノズル6を閉じ、中段ノズル6から不活性ガスを噴出させる。気流速度を確認しながら、所望の気流になるように、中段ルーバー612および中段ダクト61の取付角度を調整し、ボルトおよびナットで固定する。
【0046】
このようにして、下段吹出口511および中段吹出口611からの不活性ガスの吹出方向が調整される。本実施形態の積層造形装置1においては、中段ノズル6は扉12に設けられてはおらず、扉12の開閉と独立して揺動することができる。そのため、扉12を開けた状態で、中段の気流速度の測定と中段吹出口611の吹出方向の調整ができ、作業性がよい。なお、前述の調整方法はあくまで一例であり、具体的な手順は異なっていてもよい。吹出方向の調整は、例えば、装置の組付後や、チャンバ10内部の気流が変わり得るメンテナンスや改造後に行われればよい。不活性ガスの吹出方向は、気流生成に係る部品の製造上または組立時の誤差や、各装置のスペックの違いの影響を受けるため、あらかじめ所望の気流を得られるように各部を設計したとしても、設計した通りの気流を得ることは困難である。下段ノズル5および中段ノズル6に吹出方向の調整機構を設けることで、所望の気流を得ることが容易となる。
【0047】
上段ノズル7は、チャンバ10内の上段において、正面から背面方向への不活性ガスの気流を生成する。上段に生成された不活性ガスの気流は、上昇してきたヒュームを下方に押し戻すとともに、それでもウインドウ14付近まで上昇してきたヒュームを背面方向へと移送する。上段ノズル7は、チャンバ10内の正面板11側、すなわち、チャンバ10内における造形領域Rよりも正面側の位置において、中段ノズル6よりも上方に設けられる。より具体的には、本実施形態においては、上段ノズル7は、開口111よりも上方において、正面板11のフレーム110に取り付けられる。
図18から
図20に示されるように、上段ノズル7は、第1の上段ダクト71と、第2の上段ダクト72と、第3の上段ダクト73と、第1の上段ダクト71、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73を保持する上段支持部材74と、を有する。
【0048】
第1の上段ダクト71、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73は、それぞれ不活性ガスが流通可能な管状部材であり、背面側、すなわち造形領域R側に、不活性ガスを吹き出す上段吹出口711,721,731がそれぞれ形成されている。
【0049】
上段吹出口711が形成された第1の上段ダクト71は、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73よりもウインドウ14側に設けられている。上段吹出口711からの不活性ガスの吹出方向は、ウインドウ14の直下に向かって略水平方向に設定されている。但し、付近に漂うヒュームが上段吹出口711から吹き出された不活性ガスの気流に巻き込まれる可能性があるため、不活性ガスが直接ウインドウ14にあたらないよう、上段吹出口711からの不活性ガスの吹出方向はわずかに下方に傾斜していることが望ましい。例えば、上段吹出口711からの不活性ガスの吹出方向は、水平方向を0°としたときに、約-5°である。
【0050】
上段吹出口721が形成された第2の上段ダクト72および上段吹出口731が形成された第3の上段ダクト73は、第1の上段ダクト71よりも正面側に設けられている。上段吹出口721および上段吹出口731からの不活性ガスの吹出方向は、真下方向または斜め下方向に設定されている。例えば、上段吹出口721,731からの不活性ガスの吹出方向は、水平方向を0°としたときに、約-45°である。すなわち、第2の上段ダクト72の上段吹出口721および第3の上段ダクト73の前記上段吹出口731は、第1の上段ダクト71の上段吹出口711よりも下方に向けられている。上段吹出口721,731からの不活性ガスの気流は、中段ノズル6よりも上方の空間におけるヒュームの滞留を抑制する。
【0051】
上段支持部材74は、例えば不活性ガスが流通可能な管状部材であり、第1の上段ダクト71、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73を保持する。不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23から送られた不活性ガスは、フレーム110の導入口および上段支持部材74を介して第1の上段ダクト71、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73へと送られ、上段吹出口711,721,731から噴出される。なお、上段吹出口711における流速は、上段吹出口721,731における流速よりも、高速であることが望ましい。
【0052】
本実施形態においては、上段ノズル7は第1の上段ダクト71、第2の上段ダクト72および第3の上段ダクト73を有していたが、上段方向の気流が生成できる限りにおいて、上段ダクトの個数は限定されない。また、上段吹出口721,731からの不活性ガスの吹出方向はそれぞれ異なっていてもよいし、吹出方向は真下、すなわち約-90°を含む任意の角度でよい。また、本実施形態においては、上段ノズル7はフレーム110に取り付けられるが、チャンバ10内の正面板11側における中段ノズル6よりも上方の任意の位置に設けられればよい。また、本実施形態においては、上段吹出口711,721,731からの不活性ガスの吹出方向は固定であったが、吹出方向を調整可能に構成されてもよい。
【0053】
側方ノズル8は、チャンバ10内の左右側方において、正面から背面方向への不活性ガスの気流を生成する。左右側方に形成された不活性ガスの気流は、チャンバ10内の左右の空間に滞留し得るヒュームを背面方向へと移送するとともに、不活性ガスの逆流を防止する。側方ノズル8は、チャンバ内の正面板11側において開口111を挟んで両側方にそれぞれ設けられる。より具体的には、本実施形態においては、3つの側方ノズル8が開口111よりも左側に設けられ、3つの側方ノズル8が開口111よりも右側に設けられ、各側方ノズル8は正面板11のフレーム110に取り付けられる。
図21に示されるように、各側方ノズル8は、側方ダクト81と、側方ダクト81を保持する側方支持部材82と、を有する。
【0054】
側方ダクト81は不活性ガスが流通可能な管状部材であり、背面側に不活性ガスを吹き出す側方吹出口811が形成されている。不活性ガス供給装置22およびヒュームコレクタ23から送られた不活性ガスは、フレーム110の導入口を介して側方ダクト81へと送られ、側方吹出口811から噴出される。側方支持部材82は、例えば板状部材であり、側方ダクト81を保持するとともに、側方ダクト81をフレーム110に固定する。
【0055】
本実施形態においては、左右に3つずつ、合計6つの側方ノズル8が設けられたが、左右側方に気流が生成できる限りにおいて、側方ノズル8の個数は限定されない。また、本実施形態においては、側方ノズル8はフレーム110に取り付けられるが、チャンバ10内の正面板11側において開口111を挟む任意の位置に設けられればよい。また、本実施形態においては、側方吹出口811からの不活性ガスの吹出方向は固定であったが、吹出方向を調整可能に構成されてもよい。
【0056】
以上説明した構成によれば、チャンバ10内の上段、中段、下段、左右側方を含む全体に亘って、正面から背面の略一方向に流れる不活性ガスの気流を生成することができる。これにより、チャンバ10内にヒュームが滞留することが防止され、より効率よくヒュームをチャンバ10の外に排出することができる。ひいては、ヒュームの影響により造形品質が低下することを防止でき、また、ヒュームの回収のために造形を一時停止させることも抑制できるので、造形時間が短縮できる。本発明は、時間あたりのヒュームの発生量が多い場合、例えば、複数のレーザ光Lまたは電子ビームを同時に照射可能に構成される積層造形装置において、特に有効である。
【0057】
なお、下段の気流により材料が巻きあがって飛散しないようにする必要があるため、下段の気流には速度的な限界が存在する。例えば、造形面から50mmの位置で測定された、下段ノズル5により形成される気流の造形領域Rの平面視上における平均速度は、材料の種類にもよるが、例えば2m/s程度であることが望ましい。本実施形態においては、中段の気流を下段の気流よりも速く構成することで、材料の飛散を防止しつつ、より好適にヒュームを排出できる。すなわち、中段ノズル6により形成される不活性ガスの気流の造形領域Rの平面視上における平均速度は、下段ノズル5により形成される不活性ガスの気流の造形領域Rの平面視上における平均速度よりも速く構成されることが望ましい。
【0058】
本発明は、すでにいくつかの例が具体的に示されているように、図面に示される実施形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形または応用が可能である。例えば、ガス供給部2で生成した気流を阻害しない範囲において、別の不活性ガスの供給口や排出口がチャンバ10またはチャンバ10内の部材に設けられてもよい。例えば、リコータヘッド33の側面に、不活性ガスの供給口および排出口が設けられてもよい。また、本実施形態においては2つの排出口131が、チャンバ10の背面板としての排気ダクト130に形成されたが、正面から背面へと向かう気流が生成できるのであれば、排出口131の位置および個数は限定されない。例えば、排出口131は、背面側のチャンバ10の天板に形成されてもよい。但し、中段ノズル6で生成した中段の気流を効率よく排出する上で、排出口131は中段ノズル6と略同じ高さに設けられていることが望ましい。また、不活性ガスの排出や循環を促進するため、ファンがガス排出部13やヒュームコレクタ23等に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 積層造形装置
10 チャンバ
11 正面板
110 フレーム
111 開口
12 扉
4 照射装置
411 光源
421 光源
431 光源
441 光源
414 走査装置
424 走査装置
434 走査装置
444 走査装置
2 ガス供給部
5 下段ノズル
51 下段ダクト
511 下段吹出口
512 下段ルーバー
52 下段支持部材
53 下段ブラケット
531 第1面
531a 軸支孔
531b 長孔
532 第2面
6 中段ノズル
61 中段ダクト
611 中段吹出口
612 中段ルーバー
62 中段支持部材
621 固定部
622 接離部
623 流通部
63 中段ブラケット
631 第1面
631a 軸支孔
631b 長孔
632 第2面
5 上段ノズル
71 第1の上段ダクト
711 上段吹出口
72 第2の上段ダクト
721 上段吹出口
73 第3の上段ダクト
721 上段吹出口
74 上段支持部材
8 側方ノズル
811 側方吹出口
13 ガス排出部
130 排気ダクト
132 整流板
131 排出口
92 材料層
93 固化層
L レーザ光
R 造形領域
【要約】 (修正有)
【課題】ヒュームの滞留および装置外への材料の漏出が防止された積層造形装置を提供する。
【解決手段】開口が形成された正面板を含み、所望の三次元造形物が形成される領域である造形領域を覆うチャンバと、開口に設けられ、開閉可能に構成された扉と、チャンバの上方に設けられ、造形領域に形成された材料層にレーザ光または電子ビームを照射して固化層を形成する照射装置と、不活性ガスをチャンバに供給するガス供給部と、不活性ガスをチャンバから排出するガス排出部と、を備え、ガス供給部は、扉が閉じているときに開口を横断するように設けられ、不活性ガスを吹き出す中段吹出口が形成された中段ノズル6と、チャンバ内の正面板側において中段ノズルよりも下方に設けられ、不活性ガスを吹き出す下段吹出口が形成された下段ノズル5と、を含み、中段ノズルは、一端が正面板に揺動可能に支持され、扉の開閉と独立して揺動する、積層造形装置が提供される。
【選択図】
図9