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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】防護体
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20220713BHJP
   E21F 11/00 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
E21F11/00
E21D9/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018033875
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019148122
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501194846
【氏名又は名称】▲吉▼岡建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598094724
【氏名又は名称】島 悦哉
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 康宏
(72)【発明者】
【氏名】大島 基義
(72)【発明者】
【氏名】源石 明弘
(72)【発明者】
【氏名】島 悦哉
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-026201(JP,A)
【文献】特開2010-106493(JP,A)
【文献】特開2010-096419(JP,A)
【文献】特開平09-217595(JP,A)
【文献】特開2011-241635(JP,A)
【文献】国際公開第01/020117(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/00
E21F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル横断方向に横架された防護体であって、
落下物を受け止める複数の衝撃吸収部材と、前記衝撃吸収部材を保持する保持部材と、を備え
前記保持部材は、少なくとも切羽面と平行に並設された2本の横張材を備える張設材と、前記2本の横張材の間に横架されて前記衝撃吸収部材の下面を支持する補強材と、を備えていて、
複数の前記衝撃吸収部材は、前記保持部材を介して切羽の前面において並設されていることを特徴とする、防護体。
【請求項2】
前記張設材は、前記2本の横張材と2本の縦張材とにより枠状に形成されており、
前記2本の横張材は、前記衝撃吸収部材の下面前端および下面後端に配設されていて、
前記補強材が、枠状の前記張設材の内側空間に配設された格子状部材であることを特徴とする、請求項1に記載の防護体。
【請求項3】
前記張設材の端部に、ドリルジャンボのガイドシェルに取り付け可能な取付部が形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防護体。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材が、静電気防止材からなることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の防護体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事に使用する防護体に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削作業では、例えば爆薬の装薬や結線等を行う際に、切羽の直下に作業員が入り込む場合がある。一方、切羽の直下は、肌落ち、土砂や岩塊の崩落等(以下、単に「切羽崩落」という)の危険性があるため、作業員が切羽の直下に入り込む際には、安全性に十分に注意する必要がある。
そのため、切羽崩落のおそれがある地山では、切羽に対して鏡吹付けコンクリートや鏡止ボルト等の切羽防護対策を講じることで安全性を確保するのが一般的である。ところが、事前の切羽防護対策を講じている場合や、切羽崩落の危険性がないと予想された場合であっても、予期せぬ切羽崩落が生じるおそれがある。
【0003】
トンネル工事において、切羽の直下で作業を行う作業員は、落下物等による打撃から身を守る保護具として、例えば特許文献1に示すバックプロテクターを装備しているのが一般的である。しかしながら、バックプロテクターのみでは、切羽崩落時に防護しきれない場合がある。また、バックプロテクターのみでは、衝撃が作業員に伝わってしまう。
そのため、特許文献2には、切羽の直下で作業する作業員の上方に配設される肌落ち災害防止装置が開示されている。この肌落ち災害防止装置は、ドリルジャンボによって張り渡された2本のワイヤと、作業員の移動に伴ってワイヤに沿ってスライドする衝撃吸収体とを備えている。衝撃吸収体は、腰ひもを介して作業員と連結されていることで、作業員の移動に追従する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-53905号公報
【文献】特開2012-26201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の肌落ち災害防止装置は、腰ひもが作業の邪魔になるおそれがある。また、複数の作業員が同時に切羽において作業する場合には、すれ違うことができない。また、2本のワイヤーによって支持されている衝撃吸収体は、撓むことがないように、厚みを有している必要がある。衝撃吸収体の厚みが大きいと、取り扱い難い。
このような観点から、本発明は、コンパクトで取り扱い易く、かつ作業の妨げになり難く、なおかつ、作業員の安全性を確保することを可能とした防護体を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、トンネル横断方向に横架された防護体であって、落下物を受け止める複数の衝撃吸収部材と、前記衝撃吸収部材を保持する保持部材とを備えている。前記保持部材は、少なくとも切羽面と平行に並設された2本の横張材を備える張設材と、前記2本の横張材の間に横架されて前記衝撃吸収部材の下面を支持する補強材とを備えている。また、複数の前記衝撃吸収部材は、前記保持部材を介して切羽の前面において並設されている。
かかる防護体によれば、肌落ち等が生じた場合であっても、落石等は衝撃吸収部材によって受け止められるため、切羽の直下で作業を行う作業員の安全性を確保することができる。しかも、作業員は、防護体の下方において自由に移動することができるため、作業性に優れている。また、衝撃吸収部材は、横張材と補強材とによって下方から支持されているため、衝撃吸収部材の撓みが防止されている。そのため、衝撃吸収部材の厚みを小さくすることができる。衝撃吸収部材の厚みが小さければ、収納時のコンパクト化が可能であるとともに、着脱時に取り扱い易い。
なお、前記張設材は、前記2本の横張材と2本の縦張材とが前記衝撃吸収部材の下面の前後左右に配設された枠状の部材であることが望ましい。また、前記補強材は、枠状の前記張設材の内側空間に配設された格子状部材であるのが望ましい。
また、前記張設材の端部には、ドリルジャンボのガイドシェルに取り付けるための取付部が形成されているのが望ましい。
さらに、前記衝撃吸収部材が、静電気防止材により構成されていれば、静電気によるダイナマイトへの引火を防止することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防護体によれば、コンパクトで取り扱い易く、かつ作業の妨げとなることがなく、なおかつ、切羽における作業員の安全性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る防護体の使用状況を示す概略図である。
図2】(a)は第一の実施形態の防護体を上方から望む斜視図、(b)は同下方から望む斜視図である。
図3】衝撃吸収部材の断面図である。
図4】防護体の収納状況を示す斜視図である。
図5】防護体の中央部の一例を示す参考図である。
図6】本発明の第二の実施形態に係る防護体を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第一の実施形態>
本実施形態では、トンネル工事における切羽Kでの作業時に使用する防護体1について説明する。防護体1は、切羽崩落時の落下物を受け止めることで、作業員の安全性を確保するものである。
防護体1は、図1に示すように、切羽Kの前面に、ドリルジャンボのブームBを利用してトンネル横断方向に横架されている。本実施形態の防護体1は、トンネルのスプリングライン(SL)付近において、トンネル断面の略全幅に横架されている。なお、防護体1の幅(左右の長さ)は限定されるものではない。例えば、防護体1の幅をトンネル中心から左右のいずれか一方のみに横架され得る長さとしてもよい。また、防護体1の高さ位置も作業員の上方であれば限定されるものではない。
【0010】
防護体1は、図2(a)および(b)に示すように、衝撃吸収部材2と保持部材3とを備えている。
衝撃吸収部材2は、保持部材3を介して切羽Kの前面に複数並設されている。衝撃吸収部材2は、落下物(例えば、重量30kg程度の岩塊)を受け止めることが可能な吸収性と耐力とを備えている。衝撃吸収部材2は、図3に示すように、板状部材21と、板状部材21の表面を覆う一対の被覆シート22とにより構成されている。
板状部材21は、厚さが40mmの高発泡ポリエチレン製の板材である。板状部材21は、長方形状を呈していて、長手方向がトンネル軸方向と平行となるように配置されている。板状部材21の形状寸法は、切羽崩落時の落下物を受け止めることが可能であれば限定されるものではなく、板状部材21の材質や強度等に応じて適宜決定すればよい。さらに板状部材21を構成する材料は、高発泡ポリエチレンに限定されるものではない。本実施形態の衝撃吸収部材2は、被覆シート22により板状部材21を覆うことにより防水性が確保されている。
【0011】
被覆シート22は、板状部材21の上面、下面および側面を覆っている。本実施形態では、被覆シート22として、帯電防止剤入りのポリエチレンフィルムを使用する。すなわち、本実施形態の衝撃吸収部材2は、防水性を有しているとともに、静電気防止機能を有している。なお、被覆シート22を構成する材料は、防水性を有しているとともに、落下物(例えば、重量30kg程度の岩塊)の衝撃に対して所定の強度を有した材料であれば、限定されるものではない。また、被覆シート22は、必ずしも帯電防止剤が含有されている必要はない。ここで、本実施形態の被覆シート22の「所定の強度」とは、切羽崩落の際に、落下物の衝撃により破損しない(破けない)強度、または、少なくとも落下物が抜け落ちることがない程度に破損(破け)を止めることが可能な強度をいう。
【0012】
複数の衝撃吸収部材2,2,…は、保持部材3を介して、切羽Kの前面において並設されている。本実施形態では、隣接する衝撃吸収部材2との間に5cm程度の隙間を確保している。なお、防護体1が有する衝撃吸収部材2の数や衝撃吸収部材2同士の間隔は限定されるものではないが、衝撃吸収部材2の下面(衝撃吸収部材2同士の隙間)に配設された補強材5(縦材51)のベルト幅以下であるのが望ましい。また、衝撃吸収部材2には、トンネル幅と同程度の長さ(左右の幅)を有した1枚の衝撃吸収部材2を配設してもよい。
隣り合う衝撃吸収部材2同士は、保持部材3によって連結されている。なお、衝撃吸収部材2同士は、互いの被覆シート22同士を接合することにより連結してもよい。また、衝撃吸収部材2同士は、保持部材3以外の連結部材を介して連結してもよい。
本実施形態では、衝撃吸収部材2として、圧縮試験による圧縮硬さ(80%圧縮)が0.50~0.56Mpaの範囲内、曲げ試験による降伏点応力が0.14Mpa以上、硬球落下試験における反発高さが55~60%の範囲内の高発泡ポリエチレン板材を使用する。なお、圧縮硬さの80%圧縮とは、衝撃吸収部材2の厚さを80%にするために要する圧縮力である。
【0013】
保持部材3は、衝撃吸収部材2を保持する。本実施形態の保持部材3は、ポリエステル製の帯状材(いわゆるポリエステルベルト)を組み合わせることにより形成されている。なお、保持部材3を構成する材料は、落下物(例えば、重量30kgの岩塊)の衝撃に対して十分な強度(例えば、引張強度1t以上)を有していれば限定されるものではないが、軽量なものが望ましい。保持部材3は、図2(b)に示すように、張設材4と補強材5とを備えている。
張設材4は、2本の横張材41,41と2本の縦張材42,42とにより枠状に形成されている。なお、張設材4は、少なくとも2本の横張材41,41を備えていればよく、必ずしも枠状である必要はない。また、張設材4は、3本以上の横張材41,41,…が並設されたものであってもよい。
【0014】
2本の横張材41,41は、切羽面と平行に並設されている。すなわち、2本の横張材41,41は、トンネルのSL(スプリングライン)と略平行で、かつ、横張材41同士は、トンネル軸方向に間隔をあけて配設されている。また、各横張材41は、衝撃吸収部材2の下面前端または下面後端に配設されている。すなわち、衝撃吸収部材2は、2本の横張材41,41の上面に横架されている。本実施形態の横張材41は、衝撃吸収部材2の下面に固定する。なお、横張材41と衝撃吸収部材2との固定方法は限定されるものではなく、例えば、接着してもよいし、縫い付けてもよい。また、横張材41は、必ずしも衝撃吸収部材2に固定する必要はない。
2本の縦張材42,42は、横張材41と直交している。すなわち、縦張材42は、トンネル軸方向と略平行となるように、2本の横張材41,41の端部に横架されている。横張材41と縦張材42は、互いに縫い付けられていることで、一体に固定されている。なお、各縦張材42は、衝撃吸収部材2の下面左端または下面右端に固定してもよい。
【0015】
張設材4の端部には、取付部43が形成されている。取付部43は、ドリルジャンボのガイドシェル等に取り付け可能に構成されている。本実施形態の取付部43は、縦張材42の端部を折り返して先端を縫い付けることにより環状(いわゆる「アイ」)に形成されている。なお、取付部43は、横張材41の端部に形成してもよい。また、取付部43の形成方法は限定されるものではなく、例えば、他の部材を張設材4の端部に固定することにより形成してもよい。また、取付部43は、必要に応じて張設材4の端部以外にも形成してもよい。取付部43を中央部に形成しておけば、防護体1の支持点が増えるため、より安定する。さらに、枠状の張設材4(横張材41または縦張材42)に係止したフック等の治具を利用して保持部材3をガイドシェル等に取り付ける場合には、取付部43は形成しなくてもよい。
【0016】
補強材5は、枠状の張設材4の内側空間に配設された格子状部材であって、衝撃吸収部材2の下面を支持している。本実施形態の補強材5は、5cm程度以上の幅を有する帯状材を組み合わせることにより形成されている。なお、補強材5の幅は限定されるものではない。本実施形態では、補強材5として、張設材4を構成する帯状材の幅よりも細い幅の帯状材を使用しているが、補強材5の幅は、張設材4の幅と同じであってもよいし、張設材4の幅よりも大きくてもよい。
補強材5は、2本の横張材41,41の間に横架された複数の縦材51,51,…と、2本の縦張材42,42の間に横架された横材52,52とからなる。補強材5の周縁(縦材51および横材52の端部)は張設材4に縫い付けられている。また、縦材51と横材52は、両者の交差部において互いに縫い付けられている。なお、補強材5は、少なくとも縦材51を備えていれば良く、格子状である必要はない。補強材5は、必要に応じて衝撃吸収部材2の下面に固定する。このとき、補強材5の衝撃吸収部材2への固定方法は限定されるものではなく、例えば、接着あるいや融着等すればよい。また、補強材5(縦材51または横材52)には、必要に応じて変形を抑制するための板材を添設してもよい。衝撃吸収部材2は、隣り合う縦材51同士の間に配設されている。縦材51は、衝撃吸収部材2同士の隙間の下側を遮蔽している。衝撃吸収部材2の縁部は、縦材51に上載されているとともに、必要に応じて縦材51に固定されている。なお、縦材51は、衝撃吸収部材2の幅方向中央部に配設されていてもよく、縦材51の配設ピッチおよび本数は限定されるものではない。
【0017】
防護体1は、図1に示すように、切羽Kに対して直交するように配設されたドリルジャンボのガイドシェル(ブームB)に張設材4の取付部43を固定することにより設置する。本実施形態では、切羽Kから離れた位置において、ドリルジャンボのガイドシェルに防護体1を固定した後、ドリルジャンボを操作して、防護体1を切羽Kに沿って配設する。ここで、防護体1は、図4に示すように、収納袋6に収納した状態で保管あるいは搬入する。防護体1のドリルジャンボへの取り付けは、収納袋6から取り出して、広げた状態で行う。なお、防護体1の保管、搬入方法は限定されるものではない。ガイドシェルへの防護体1の固定は、取付部43に挿通させたロープをドリルジャンボのガイドシェル(ブームB)に結び付けることにより行う。なお、防護体1は、フック等の取付具を利用してガイドシェルに固定してもよい。
【0018】
トンネル幅が大きい場合には、図5に示すように、トンネル横断方向中央部において分割された2つの分割防護体11,11を連結することで防護体1を形成する。防護体1を分割することで、軽量化および小型化を図ることが可能となり、取り扱いやすくなる。なお、防護体1の分割数は限定されるものではなく、例えば、3つ以上に分割されていてもよい。
分割防護体11のトンネル中央側端部には、各横張材41,41にそれぞれ2つの連結部44,44が間隔をあけて形成しておく。連結部44は、横張材41の端部を環状に折り介して縫い付けることにより形成してもよいし、他の帯状材(ポリエステルベルト等)により形成された環状部分(いわゆるアイであって、例えば、スリングベルトの端部等)を横張材41に縫い付けることにより形成してもよい。なお、連結部44の数は限定されるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、連結部44の形成方法は限定されるものではない。トンネル中央部では、トンネル中央に配設されたガイドシェル(ブームB)の上で、分割防護体11の連結部44同士をフック状の治具等(例えば、カラビナ45)を介して連結する。このとき、カラビナ45を係止する連結部44を選択することにより、防護体1の長さ(分割防護体11,11を連結した際の長さ)を調節する。また、カラビナ45を連結する連結部44の位置を移動させた際(防護体1の全長を短くした際)には、必要に応じて分割防護体11の端部に設置された衝撃吸収部材2を撤去する。なお、図5では、分割防護体11同士の接合部を表現するため、当該接合部における衝撃吸収部材2同士の間隔(ブームBと衝撃吸収部材2との間隔)が大きく表示されているが、分割防護体11同士の間隔は、切羽崩落時の落石がすり抜けることがない大きさとする。ここで、分割防護体11同士の連結方法は限定されるものではない。
【0019】
作業員は、防護体1が所定の位置に配設されてから、切羽Kでの作業を開始する。防護体1は、切羽Kの作業箇所(作業員)の上方(本実施形態では、トンネルのSL付近)に横架する。本実施形態では、防護体1の中間部において、ドリルジャンボのブームBを防護体1に下面に添設している。すなわち、防護体1は、ドリルジャンボの3本のブームBにより支持されている。なお、防護体1は、2本のブームBのみで支持してもよいし、4本以上のブームBで支持してもよい。防護体1は、3本のブームのうち、外側の2本のブームB,Bに固定して中央のブームBには上載されているが、必要に応じて中央に配置されたブームBにも固定してもよい。
【0020】
以上、本実施形態の防護体1によれば、切羽Kでの作業中に肌落ち等が生じた場合であっても、落石等を衝撃吸収部材2によって受け止めるため、作業員の安全を確保することができる。
防護体1は、張設材4の端部(取付部43)をドリルジャンボのガイドシェル(ブームB)に取り付けることで設置が完了するため、着脱が容易である。そのため、トンネル工事の施工工程に大きな影響を与えることなく、切羽Kへの防護体1の設置を行うことができる。また、防護体1によれば、作業員は、防護体1の下方において自由に移動することができるため、作業性に優れている。
【0021】
衝撃吸収部材2は、張設材4と補強材5とを備える保持部材3によって下方から支持されているため、衝撃吸収部材2の撓みが防止されている。そのため、衝撃吸収部材2の厚みを最小限に抑えることができる。衝撃吸収部材2の厚みが小さければ、収納時のコンパクト化が可能であるとともに、着脱時に取り扱い易い。補強材5は、枠状の張設材4の内側空間に配設された格子状部材であるため、衝撃吸収部材2の下面を均等に支持する。そのため、落石などによる衝撃が1か所に集中しても衝撃吸収部材2によって破損が生じ難い。
衝撃吸収部材2および保持部材3を比較的軽量な材料を組み合わせることにより形成しているため、取り扱いやすい。また、衝撃吸収部材2が、静電気防止材であるため、静電気によるダイナマイトへの引火を防止することができ、安全である。また、衝撃吸収部材2が防水性を備えているため、水分を吸収して重量が大きくなることがない。したがって、湧水の多い場所においても取り扱い性に優れている。
さらに、保持部材3として、ポリエステルベルトを使用しているため、落石等の衝撃や、工時に使用する機器設備と接触した場合であっても、衝撃吸収部材2が破損し難い。
【0022】
<第二の実施形態>
第二の実施形態の防護体1は、第一の実施形態の防護体1と同様に、切羽Kの前面に、ドリルジャンボのブームBを利用してトンネル横断方向(左右方向)に横架する(図1参照)。
防護体1は、図6(a)に示すように、衝撃吸収部材2と保持部材3とを備えている。衝撃吸収部材2は、保持部材3を介して切羽Kの前面に複数並設されている。なお、衝撃吸収部材2の詳細は、第一の実施形態の衝撃吸収部材2と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0023】
保持部材3は、衝撃吸収部材2を保持する。本実施形態の保持部材3は、ポリエステル製の帯状材(いわゆるポリエステルベルト)を組み合わせることにより形成されている。保持部材3は、張設材4と補強材5とを備えている。
張設材4は、切羽面と平行に並設された2本の横張材41,41からなる。2本の横張材41,41は、切羽面と平行に並設されている。すなわち、2本の横張材41,41は、トンネルのSL(スプリングライン)と略平行で、かつ、横張材41同士は、トンネル軸方向に間隔をあけて配設されている。また、各横張材41は、衝撃吸収部材2の下面前端または下面後端に配設されている。すなわち、衝撃吸収部材2は、2本の横張材41,41の上面に横架されている。本実施形態の横張材41は、衝撃吸収部材2の下面に固定する。なお、横張材41と衝撃吸収部材2との固定方法は限定されるものではなく、例えば、接着してもよいし、縫い付けてもよい。また、横張材41は、必ずしも衝撃吸収部材2に固定する必要はない。
【0024】
張設材4の端部には、取付部43が形成されている。取付部43は、ドリルジャンボのガイドシェル等に取り付け可能に構成されている。本実施形態の取付部43は、横張材41の端部を折り返して先端を縫い付けることにより環状に形成されている。なお、取付部43の形成方法は限定されるものではなく、例えば、他の部材を張設材4の端部に固定することにより形成してもよい。また、取付部43は、必要に応じて張設材4の端部以外にも形成してもよい。取付部43を中央部に形成しておけば、防護体1の支持点が増えるため、より安定する。
【0025】
補強材5は、2本の横張材41の間に横架された、複数の縦材51,51,…からなる。縦材51の端部は、横張材41に縫い付けられている。補強材5は、必要に応じて衝撃吸収部材2の下面に固定する。このとき、補強材5の衝撃吸収部材2への固定方法は限定されるものではなく、例えば、接着あるいは融着等すればよい。本実施形態の縦材51は、図6(b)に示すように、筒状部材からなる。縦材51の内部には補強板53が挿入されている。補強板53は、繊維強化プラスチック製である。なお、補強板53を構成する材料は限定されるものではない。
【0026】
以上、第二の実施形態の防護体1によれば、衝撃吸収部材2が、張設材4と補強材5とを備える保持部材3によって下方から支持されているため、衝撃吸収部材2の撓みが防止されている。そのため、衝撃吸収部材2の厚みを最小限に抑えることができる。衝撃吸収部材2の厚みが小さければ、収納時のコンパクト化が可能であるとともに、着脱時に取り扱い易い。
また、防護体1によれば、作業員は、防護体1の下方において自由に移動することができるため、作業性に優れている。
補強材5は、内部に補強板53が挿入された縦材51により形成されているため、折れることがない。そのため、防護体1がトンネル軸方向に対して撓むことが防止されて、防護体1によって前後方向の保護範囲が狭まることがない。なお、補強板53は、軽量な材料により形成されているため、補強板53を使用しても、防護体1の取り扱い性が低下することはない。
この他の第二の実施形態に係る防護体1の作用効果は、第一の実施形態の防護体1と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0027】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、切羽Kに防護体1を設置する場合について説明したが、防護体1の設置個所は限定されるものではなく、例えば、側壁に沿って設置してもよい。
また、防護体1は、必ずしもドリルジャンボを利用して設置する必要はなく、例えば、設置済の支保工や、ロックボルトの端部等に固定してもよい。
また、図示は省略するが、複数の衝撃吸収部材2を積層していてもよい。また、衝撃吸収部材2として、複数の板状部材21が積層されたものを使用してもよい。
さらに、一対の保持部材3,3によって、衝撃吸収部材2を挟んでもよい。
また、補強板53は、補強材5(縦材51)に設けるのではなく、衝撃吸収部材2の下面に直接添設してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 防護体
2 衝撃吸収部材
21 板状部材
22 被覆シート
3 保持部材
4 張設材
41 横張材
42 縦張材
43 取付部
5 補強材
51 縦材
52 横材
53 補強板
6 収納袋
B ブーム
K 切羽
図1
図2
図3
図4
図5
図6