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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】PLL回路
(51)【国際特許分類】
   H03L 7/10 20060101AFI20220713BHJP
【FI】
H03L7/10 120
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018100567
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019205118
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-219464(JP,A)
【文献】特開2007-311876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、前記周波数と前記制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、周波数変調された入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、
前記チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される前記制御電圧値を前記電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、
前記入力信号の周波数変調によって変動する 前記制御電圧値の平均値に基づいて前記電圧制御発振器の前記キャパシタの容量値を設定して前記FV特性を調整するFV特性調整部と、
を備えるPLL回路。
【請求項2】
前記FV特性調整部は、前記制御電圧値の平均値と基準電圧値との差が予め決められた閾値以下となるように前記FV特性を調整する、
請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
前記FV特性調整部は、前記制御電圧値の平均値が予め決められた下限値と上限値との間となるように前記FV特性を調整する、
請求項1に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記FV特性調整部は、前記制御電圧値の平均値として、前記制御電圧値の最大値と最小値との平均値を求める、
請求項1~3の何れか1項に記載のPLL回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PLL回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、PLL(Phase Locked Loop)回路は、位相比較器、チャージポンプ、ループフィルタおよび電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator、VCO)を備え、これらによりループが構成されている。PLL回路は、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号を出力する周波数シンセサイザとして用いられる。また、PLL回路は、CDR(Clock Data Recovery)装置において入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックを復元することができる。
【0003】
PLL回路は以下のように動作する。電圧制御発振器に制御電圧値が入力されると、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。電圧制御発振器から出力される発振信号、または、この発振信号を分周した信号が、帰還発振信号として位相比較器に入力される。また、この帰還発振信号に加えて他の入力信号(発振信号またはデジタル信号)も位相比較器に入力される。位相比較器において、入力信号と帰還発振信号との間の位相差が検出されて、この検出された位相差を表す位相差信号がチャージポンプへ出力される。
【0004】
この位相差信号を入力するチャージポンプから、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流が出力される。この充放電電流はループフィルタに入力される。ループフィルタは、チャージポンプから出力される充放電電流に応じて電荷蓄積量が増減される容量素子を含む。ループフィルタは、この電荷蓄積量に応じた制御電圧値を電圧制御発振器へ出力する。ループフィルタから出力される制御電圧値が電圧制御発振器に入力されて、この制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号が電圧制御発振器から出力される。
【0005】
このようなループを有するPLL回路において、位相比較器により検出される位相差が小さくなるように、ループフィルタから出力されて電圧制御発振器に入力される制御電圧値が或る値に収束していく。そして、電圧制御発振器から、入力される発振信号の周波数を定数倍した周波数を有する発振信号が出力され、或いは、入力されるデジタル信号に埋め込まれたクロックが復元されて出力される。
【0006】
電圧制御発振器としては様々なタイプのものがある。そのなかでも、LC-VCOは、インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する。他のタイプの電圧制御発振器と比較すると、LC-VCOのジッタは少ない。したがって、10Gbps以上の周波数の場合には、様々なタイプがある電圧制御発振器のなかでもLC-VCOの使用が不可欠である。
【0007】
他のタイプの電圧制御発振器と比較すると、LC-VCOでは、制御電圧値の変化に対する出力発振信号の周波数の変化は小さい。LC-VCOでは、キャパシタの容量値を変更すると、出力発振信号の周波数(F)と制御電圧値(V)との間のFV特性を変更することができる。また、LC-VCOに入力される制御電圧値の範囲は限られており、この範囲から制御電圧値が外れていると入出力間の周波数の比例関係は成立しない。
【0008】
ところで、伝送される信号の周波数は、スペクトラム拡散(Spread Spectrum、SS)により時間的に変動する場合がある。信号の周波数が一定である場合、その信号から放射される電磁波のエネルギは、その周波数に集中することから、電磁妨害(Electro Magnetic Interference、EMI)が問題となる。これに対して、SSにより信号の周波数を意図的に変調すれば、その信号から放射される電磁波のエネルギは、周波数帯域が広がり、ピークが小さくなる。SSによりEMIの問題を低減することができる。信号のビットレートが高い場合や、伝送距離が長い場合には、SSにより信号の周波数を変調するのが望ましい。SSによる周波数の変調度として、±1.0%以上が求められる場合がある。
【0009】
例えば、パラレルデータをシリアルデータに変換して出力するシリアライザ装置は、周波数が低い第1クロックが指示するタイミングでパラレルデータをラッチし、周波数が高い第2クロックが指示するタイミングでシリアルデータを出力する。このようなシリアライザ装置において、SSを印加してシリアルデータを出力する場合がある。この場合、シリアライザ装置において用いられるPLL回路は、SSが印加された第1クロックを入力して、この第1クロックの周波数の定数倍の周波数を有しSSが印加された第2クロックを生成し出力する。
【0010】
シリアルデータのビットレートが高く、第2クロックの周波数が高い場合、前述したとおり、PLL回路に含まれる電圧制御発振器としてLC-VCOを用いるのが好ましい。しかし、PLL回路に入力される第1クロックにおけるSSによる周波数の変調が大きいと、LC-VCOに入力される制御電圧値の変動も大きくなり、PLL回路から出力される第2クロックの周波数は第1クロックの周波数に比例しない事態が生じる。このような事態を回避するには、LC-VCOにおいて、キャパシタの容量値を適切に設定して、FV特性を適切なものとすることが重要である。
【0011】
FV特性を適切に設定することを意図した発明が特許文献1,2に開示されている。特許文献1に開示された発明は、第1クロックの周波数変動の範囲において第1クロックの周波数と第2クロックの周波数とが常に比例関係となるように、LC-VCOにおいてキャパシタの容量値を設定する。特許文献2に開示された発明は、第1クロックの周波数変動の範囲においてLC-VCOに入力される制御電圧値が常に所定範囲内に存在するように、LC-VCOにおいてキャパシタの容量値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-78410号公報
【文献】米国特許第7102446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に開示された発明では、当初設定時にはLC-VCOのFV特性が適切であったとしても、電圧または温度の変動があった場合にLC-VCOのFV特性が悪化する場合がある。すなわち、特許文献1に開示された発明は、電圧・温度(VT)ドリフトマージンを十分に確保することができない場合がある。
【0014】
また、特許文献2に開示された発明では、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が広いと、特許文献1に開示された発明が有する上記問題と同様の問題がある。逆に、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が狭いと、SSによる周波数変調が大きく制御電圧値の変動幅が大きいとき、制御電圧値が常に所定範囲内に存在するようなFV特性を見出すことができない場合がある。また、LC-VCOに入力される制御電圧値を監視する範囲が狭いときに、制御電圧値が少しでも所定範囲内に存在するようなFV特性を選択すると、その選択したFV特性は好適なものであるとは限らない。
【0015】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、電圧制御発振器としてLC-VCOを備えるPLL回路であって、LC-VCOのFV特性をより好適に設定することができるPLL回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のPLL回路は、(1) インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力し、周波数と制御電圧値との間のFV特性が可変である電圧制御発振器と、(2) 電圧制御発振器から出力される発振信号または該発振信号を分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力し、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号を出力する位相比較器と、(3) 位相比較器から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力するチャージポンプと、(4) チャージポンプから出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器へ出力するループフィルタと、(5) 制御電圧値の平均値に基づいてFV特性を調整するFV特性調整部と、を備える。
【0017】
FV特性調整部は、制御電圧値の平均値と基準電圧値との差が予め決められた閾値以下となるようにFV特性を調整する。或いは、FV特性調整部は、制御電圧値の平均値が予め決められた下限値と上限値との間となるようにFV特性を調整する。FV特性調整部は、制御電圧値の平均値として、制御電圧値の最大値と最小値との平均値を求めるのが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明のPLL回路は、LC-VCOのFV特性をより好適に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、PLL回路1の構成を示す図である。
図2図2は、電圧制御発振器40の一回路例を示す図である。
図3図3は、電圧制御発振器40のFV特性の一例を示す図である。
図4図4は、電圧制御発振器40の出力発振信号の周波数帯域の一例を示す図である。
図5図5は、FV特性調整部60の一回路例を示す図である。
図6図6は、FV特性調整部60における各電圧値の変化を説明する図である。
図7図7は、最大値検出回路の他の構成例を示す図である。
図8図8は、最大値検出回路の更に他の構成例を示す図である。
図9図9は、最小値検出回路の他の構成例を示す図である。
図10図10は、最小値検出回路の更に他の構成例を示す図である。
図11図11は、平均値算出回路の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1は、PLL回路1の構成を示す図である。PLL回路1は、位相比較器10、チャージポンプ21、チャージポンプ22、ループフィルタ30、電圧制御発振器40、分周器50およびFV特性調整部60を備える。
【0022】
電圧制御発振器40は、インダクタおよびキャパシタを含み、これらインダクタおよびキャパシタによる共振現象により、ループフィルタ30から入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力する。電圧制御発振器40は、出力発振信号の周波数(F)と制御電圧値(V)との間のFV特性が可変である。
【0023】
位相比較器10は、電圧制御発振器40から出力される発振信号を分周器50によりN分周した信号を帰還発振信号として入力するとともに、入力信号をも入力する。なお、分周器50は設けられなくてもよく、この場合には、電圧制御発振器40から出力される発振信号が、位相比較器10に入力される帰還発振信号となる。位相比較器10に入力される入力信号は、クロックであり、または、クロックが埋め込まれたデジタル信号であってもよい。位相比較器10は、これら帰還発振信号と入力信号との間の位相差を検出して、この位相差を表す位相差信号をチャージポンプ21,22へ出力する。
【0024】
チャージポンプ21,22は、位相比較器10から出力される位相差信号を入力して、この位相差信号が表す位相差に応じた充放電電流を出力する。チャージポンプ21,22は互いに同じ構成であってもよい。
【0025】
ループフィルタ30は、チャージポンプ21,22から出力される充放電電流を入力し、この充放電量に応じて増減される制御電圧値を電圧制御発振器40へ出力する。ループフィルタ30は、抵抗器31、キャパシタ32、キャパシタ33およびバッファ34を含む。抵抗器31は、チャージポンプ21の出力端とバッファ34の出力端との間に設けられている。キャパシタ32は、チャージポンプ21の出力端と接地電位端との間に設けられている。キャパシタ33は、チャージポンプ22の出力端と接地電位端との間に設けられている。バッファ34の入力端はチャージポンプ22の出力端と接続されている。バッファ34の出力端は抵抗器31と接続されている。バッファ34の利得は1である。
【0026】
FV特性調整部60は、制御電圧値の平均値に基づいて、電圧制御発振器40のFV特性を調整するためのFV特性制御信号を電圧制御発振器40へ出力する。FV特性調整部60の詳細については後述する。
【0027】
図2は、電圧制御発振器40の一回路例を示す図である。この図に示される回路例では、電圧制御発振器40は、NMOSトランジスタM1,M2、抵抗器R1,R2、キャパシタC11~C15、キャパシタC21~C25、スイッチSW0~SW2およびインダクタLを含む。
【0028】
NMOSトランジスタM1,M2それぞれのソースは接地電位端に接続されている。NMOSトランジスタM1のドレインは、NMOSトランジスタM2のゲートに接続されている。NMOSトランジスタM2のドレインは、NMOSトランジスタM1のゲートに接続されている。
【0029】
キャパシタC11,C12,C22,C21は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC12,C22の容量値は可変である。直列に接続された抵抗器R1,R2は、キャパシタC11,C12間の接続点とキャパシタC21,C22間の接続点との間に設けられている。抵抗器R1,R2間の接続点に電圧Vrが入力される。
【0030】
キャパシタC13,スイッチSW0,キャパシタC23は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC14,スイッチSW1,キャパシタC24は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。キャパシタC15,スイッチSW2,キャパシタC25は、この順に直列に接続されて、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。
【0031】
キャパシタC13~C15およびキャパシタC23~C25それぞれの容量値の間には、例えば次のような関係がある。Cは、キャパシタC13,C23の容量値である。
C15=C25=2
C14=C24=2C
C13=C23=C
【0032】
インダクタLは、NMOSトランジスタM1,M2それぞれのドレインの間に設けられている。インダクタLに電源電圧VDDが与えられる。
【0033】
3個のスイッチSW0~SW2それぞれのオン/オフは、FV特性調整部60から与えられるFV特性制御信号により設定される。FV特性制御信号は3ビットのデータで表すことができる。キャパシタC13~C15およびキャパシタC23~C25を含むキャパシタバンクCbankの全体の容量値は、FV特性制御信号(すなわち、3個のスイッチSW0~SW2それぞれのオン/オフ設定状態)に応じたものとなる。キャパシタC12,C22間の接続点に制御電圧値VCが入力される。NMOSトランジスタM2のドレインから発振信号が出力される。この出力発振信号の周波数は、制御電圧値VCに応じたものとなる。また、FV特性は、FV特性制御信号に応じたものとなる。
【0034】
図3は、電圧制御発振器40のFV特性の一例を示す図である。横軸は、電圧制御発振器40に入力される制御電圧値VCと電源電圧VDDとの比[-]である。縦軸は、電圧制御発振器40から出力される発振信号の周波数[GHz]である。3ビットのFV特性制御信号CTLVCOの値が二進数表記で000から111までの8とおりの場合について、FV特性が示されている。この図に示されるとおり、電圧制御発振器40は、入力される制御電圧値に応じた周波数を有する発振信号を出力することができ、また、FV特性制御信号によってFV特性を変更することができる。
【0035】
図4は、電圧制御発振器40の出力発振信号の周波数帯域の一例を示す図である。横軸は、電圧制御発振器40に入力されるFV特性制御信号の値である。縦軸は、電圧制御発振器40から出力される発振信号の周波数である。この図は、FV特性制御信号の各値について、出力発振信号の周波数帯域が線分で示されている。図3および図4に示されるとおり、出力発振信号の周波数帯域は、FV特性制御信号の値によって異なる。
【0036】
図4中には、SSを印加した場合における出力発振信号の周波数の中央値Fcが実線で示され、また、SSに因る出力発振信号の周波数の変動の範囲が破線で示されている。図中に示されている8とおりの帯域B1~B8のうち、帯域B1,B2,B8は、SSに因る出力発振信号の周波数の変動の範囲と全く重ならない。帯域B3,B4,B6,B7は、SSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲ではなく一部範囲のみを含む。したがって、FV特性制御信号により帯域B1~B4,B6~B8の何れかが選択された場合、出力発振信号の周波数は、入力信号の周波数またはビットレートに対して比例関係とならない。
【0037】
これに対して、帯域B5は、SSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含む。したがって、FV特性制御信号により帯域B5が選択された場合、出力発振信号の周波数は、入力信号の周波数またはビットレートに対して比例関係となるので、好ましい。SSに因る出力発振信号の周波数の変動の全範囲を含む帯域が複数とおり存在する場合、それら複数の帯域のうち何れの帯域が選択されてもよい。しかし、VTドリフトマージンを十分に確保するためには、複数の帯域のうちでも、より好適な帯域を選択するのが好ましい。
【0038】
そこで、FV特性調整部60は、制御電圧値の平均値と基準電圧値との差が予め決められた閾値以下となるように、適切なFV特性制御信号を電圧制御発振器40に与えてFV特性を調整する。或いは、FV特性調整部60は、制御電圧値の平均値が予め決められた下限値と上限値との間となるように、適切なFV特性制御信号を電圧制御発振器40に与えてFV特性を調整する。制御電圧値の平均値は、SSの1周期の期間に亘って一定時間間隔でサンプリングした制御電圧値の平均値であってもよいし、SSの1周期の期間に亘る制御電圧値の積分値を周期で割った値であってもよいし、また、簡易な構成とするためには制御電圧値の最大値と最小値との平均の値であってもよい。
【0039】
図5は、FV特性調整部60の一回路例を示す図である。この図には、チャージポンプ21、チャージポンプ22および電圧制御発振器40も示されている。FV特性調整部60は、AD変換回路61、最大値検出回路62、最小値検出回路63、平均値算出回路64、判定回路65および制御信号生成回路66を含む。
【0040】
AD変換回路61は、アナログ値である制御電圧値VCを入力して、その制御電圧値VCに対応するデジタル値DVCを出力する。AD変換回路61は、カウンタ611、参照電圧生成回路612、コンパレータ613、セレクタ614およびラッチ回路615を含む。
【0041】
カウンタ611は、初期値から一定時間間隔でカウントアップしていき、そのカウント値を参照電圧生成回路612へ出力する。参照電圧生成回路612は、カウンタ611から出力されたカウント値を入力し、そのカウント値に対応する参照電圧値RVを生成してコンパレータ613へ出力する。コンパレータ613は、参照電圧生成回路612から出力された参照電圧値RVを入力するとともに、制御電圧値VCを入力する。参照電圧値RVが制御電圧値VCを超えると、コンパレータ613から出力される信号CMPOはハイレベルからローレベルに転じる。
【0042】
カウンタ611は、信号CMPOがローレベルに転じることで初期化され、再び初期値から一定時間間隔でカウントアップしていく。セレクタ614は、信号CMPOがハイレベルであるとき、ラッチ回路615からの出力値を選択して出力する。セレクタ614は、信号CMPOがローレベルであるとき、カウンタ611からの出力値を選択して出力する。ラッチ回路615は、セレクタ614からの出力値をラッチして出力する。ラッチ回路615から出力されるデジタル値DVCは、制御電圧値VCに対応するものである。
【0043】
最大値検出回路62は、AD変換回路61のラッチ回路615から順次に出力されるデジタル値DVCの最大値VCmaxを検出して出力する。最大値検出回路62は、コンパレータ621、セレクタ622およびラッチ回路623を含む。コンパレータ621は、デジタル値DVCおよびラッチ回路623からの出力値を入力して、これら2つの値の大小を比較する。セレクタ622は、デジタル値DVCがラッチ回路623からの出力値より大きいとコンパレータ621により判定されたときに、デジタル値DVCを選択して出力する。セレクタ622は、デジタル値DVCがラッチ回路623からの出力値より小さいとコンパレータ621により判定されたときに、ラッチ回路623からの出力値を選択して出力する。ラッチ回路623は、セレクタ622からの出力値をラッチして出力する。ラッチ回路623から出力されるデジタル値VCmaxは、制御電圧値VCの最大値に対応するものである。
【0044】
最小値検出回路63は、AD変換回路61のラッチ回路615から順次に出力されるデジタル値DVCの最小値VCminを検出して出力する。最小値検出回路63は、コンパレータ631、セレクタ632およびラッチ回路633を含む。コンパレータ631は、デジタル値DVCおよびラッチ回路633からの出力値を入力して、これら2つの値の大小を比較する。セレクタ632は、デジタル値DVCがラッチ回路633からの出力値より小さいとコンパレータ631により判定されたときに、デジタル値DVCを選択して出力する。セレクタ632は、デジタル値DVCがラッチ回路633からの出力値より大きいとコンパレータ631により判定されたときに、ラッチ回路633からの出力値を選択して出力する。ラッチ回路633は、セレクタ632からの出力値をラッチして出力する。ラッチ回路633から出力されるデジタル値VCminは、制御電圧値VCの最小値に対応するものである。
【0045】
平均値算出回路64は、最大値検出回路62から出力される最大値VCmaxを入力するとともに、最小値検出回路63から出力される最小値VCminを入力して、これら最大値VCmaxと最小値VCminとの平均値VCave(=(VCmax+VCmin)/2)を求めて出力する。平均値算出回路64は、最大値VCmaxと最小値VCminとを加算して加算結果の値を出力する加算回路641と、この加算結果に1/2を乗算して乗算結果の値を出力する乗算回路642と、を含む。乗算回路642から出力される値は、最大値VCmaxと最小値VCminとの平均値VCaveである。
【0046】
判定回路65は、平均値算出回路64から出力される平均値VCaveを入力して、予め決められた下限値LVthと上限値HVthとの間に平均値VCaveがあるか否かを判定する。或いは、判定回路65は、平均値VCaveと基準電圧値との差が予め決められた閾値以下であるか否かを判定してもよい。制御信号生成回路66は、判定回路65による判定結果に基づいて、電圧制御発振器40に与えるFV特性制御信号を生成して、そのFV特性制御信号を電圧制御発振器40へ出力する。制御信号生成回路66は、平均値VCaveが下限値LVthと上限値HVthとの間に存在するように、或いは、平均値VCaveと基準電圧値との差が予め決められた閾値以下となるように、FV特性制御信号を生成する。
【0047】
図6は、FV特性調整部60における各電圧値の変化を説明する図である。この図には、制御電圧値VCの時間変化、および、参照電圧生成回路612から出力される参照電圧値RVの時間変化、が示されている。また、制御電圧値VCの時間変化および参照電圧値RVの時間変化が一部拡大して示されている。この図に示されるように、参照電圧値RVは、初期値から段階的に増加していき、参照電圧値RVを超えると初期値に戻って、再び初期値から段階的に増加していく。
【0048】
また、この図には、最大値検出回路62から出力される最大値VCmaxのレベル、最小値検出回路63から出力される最小値VCminのレベル、平均値算出回路64から出力される平均値VCaveのレベル、ならびに、判定回路65による判定に用いられる下限値LVthおよび上限値HVthの各レベル、が示されている。
【0049】
下限値LVthおよび上限値HVthは、制御電圧値VCの変動範囲の略中央を挟み、かつ、電圧制御発振器40の周波数帯域が必ず存在する範囲内で、狭く配置される。このようにすることで、SS強度に依らず、VTドリフトマージンが最大となる周波数帯域を選択することができる。LC-VCOのFV特性をより好適に設定することができる。
【0050】
これまでに説明したFV特性調整部60は、制御電圧値VCをAD変換回路61によりデジタル値DVCに変換した後に、デジタル処理により、最大値VCmax、最小値VCminおよび平均値VCaveを求め、その平均値VCaveを判定するものであった。しかし、図7図11に示されるように、アナログ値である制御電圧値VCからアナログ処理により、最大値VCmax、最小値VCminおよび平均値VCaveを求めることもできる。
【0051】
図7は、最大値検出回路の他の構成例を示す図である。この図に示される最大値検出回路62Aは、差動アンプ624、ダイオード625、キャパシタ627、バッファ628および電流源629を含む。差動アンプ624の非反転入力端子は、制御電圧値VCが入力される。差動アンプ624の反転入力端子は、ダイオード625のカソードに接続されている。差動アンプ624の出力端子は、ダイオード625のアノードに接続されている。キャパシタ627は、ダイオード625のカソードと接地電位端との間に設けられている。電流源629は、ダイオード625のカソードと接地電位端との間に設けられている。利得1のバッファ628の入力端は、ダイオード625のカソードと接続されている。バッファ628は、ダイオード625のカソードの電位を最大値VCmaxとして出力する。
【0052】
図8は、最大値検出回路の更に他の構成例を示す図である。この図に示される最大値検出回路62Bは、差動アンプ624、PMOSトランジスタ626、キャパシタ627、バッファ628および電流源629を含む。差動アンプ624の非反転入力端子は、制御電圧値VCが入力される。差動アンプ624の反転入力端子は、PMOSトランジスタ626のドレインに接続されている。差動アンプ624の出力端子は、PMOSトランジスタ626のゲートに接続されている。PMOSトランジスタ626のソースは、電源電位端に接続されている。キャパシタ627は、PMOSトランジスタ626のドレインと接地電位端との間に設けられている。電流源629は、PMOSトランジスタ626のドレインと接地電位端との間に設けられている。利得1のバッファ628の入力端は、PMOSトランジスタ626のドレインと接続されている。バッファ628は、PMOSトランジスタ626のドレインの電位を最大値VCmaxとして出力する。
【0053】
図9は、最小値検出回路の他の構成例を示す図である。この図に示される最小値検出回路63Aは、差動アンプ634、ダイオード635、キャパシタ637、バッファ638および電流源639を含む。差動アンプ634の非反転入力端子は、制御電圧値VCが入力される。差動アンプ634の反転入力端子は、ダイオード635のアノードに接続されている。差動アンプ634の出力端子は、ダイオード635のカソードに接続されている。キャパシタ637は、ダイオード635のアノードと接地電位端との間に設けられている。電流源639は、ダイオード635のアノードと電源電位端との間に設けられている。利得1のバッファ638の入力端は、ダイオード635のアノードと接続されている。バッファ638は、ダイオード635のアノードの電位を最小値VCminとして出力する。
【0054】
図10は、最小値検出回路の更に他の構成例を示す図である。この図に示される最小値検出回路63Bは、差動アンプ634、NMOSトランジスタ636、キャパシタ637、バッファ638および電流源639を含む。差動アンプ634の非反転入力端子は、制御電圧値VCが入力される。差動アンプ634の反転入力端子は、NMOSトランジスタ636のドレインに接続されている。差動アンプ634の出力端子は、NMOSトランジスタ636のゲートに接続されている。NMOSトランジスタ636のソースは、接地電位端に接続されている。キャパシタ637は、NMOSトランジスタ636のドレインと接地電位端との間に設けられている。電流源639は、NMOSトランジスタ636のドレインと電源電位端との間に設けられている。利得1のバッファ638の入力端は、NMOSトランジスタ636のドレインと接続されている。バッファ638は、NMOSトランジスタ636のドレインの電位を最小値VCminとして出力する。
【0055】
図11は、平均値算出回路の他の構成例を示す図である。この図に示される平均値算出回路64Aは、差動アンプ643および抵抗器644~646を含む。抵抗器644および抵抗器645は直列に接続されており、抵抗器644の一端に最大値VCmaxが入力され、抵抗器645の一端に最小値VCminが入力される。差動アンプ643の非反転入力端子は、抵抗器644と抵抗器645との接続点に接続されている。差動アンプ643の反転入力端子は、参照電圧値Vrefが入力される。差動アンプ643の非反転入力端子と出力端子との間に、抵抗器646が設けられている。抵抗器644および抵抗器645それぞれの抵抗値は、互いに等しく、抵抗器646の抵抗値の1/2である。差動アンプ643の出力端子から平均値VCaveが出力される。
【0056】
平均値算出回路64Aからアナログ値として出力される平均値VCaveを判定する判定回路も、差動アンプを含む構成とすることができる。
【符号の説明】
【0057】
1…PLL回路、10…位相比較器、21,22…チャージポンプ、30…ループフィルタ、31…抵抗器、32…キャパシタ、33…キャパシタ、34…バッファ、40…電圧制御発振器(LC-VCO)、50…分周器、60…FV特性調整部、61…AD変換回路、62,62A,62B…最大値検出回路、63,63A,63B…最小値検出回路、64,64A…平均値算出回路、65…判定回路、66…制御信号生成回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11