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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】高所作業用部材及び高所作業方法
(51)【国際特許分類】
   B66F 11/04 20060101AFI20220713BHJP
   B66F 9/06 20060101ALI20220713BHJP
   E04G 21/32 20060101ALI20220713BHJP
   E04G 5/00 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
B66F11/04
B66F9/06 M
E04G21/32 D
E04G5/00 301B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019064474
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020164267
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】319002474
【氏名又は名称】中坪造園有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】中坪 政貴
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150138(JP,A)
【文献】特開2006-069235(JP,A)
【文献】実開昭63-048794(JP,U)
【文献】実開平05-096302(JP,U)
【文献】特開平08-033726(JP,A)
【文献】米国特許第06520290(US,B1)
【文献】米国特許第05143170(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 11/04
B66F 9/06
E04G 21/32
E04G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
一対の縦材及び一対の横材を組み付けた主フレームと、
該主フレームから内部空間に向かって延出し、前記主フレームの内部空間に複数の閉空間を形成している内部材と、
少なくとも一つの前記閉空間の内部に向かって、その閉空間を更に閉じることなく前記内部材から突出していると共に、複数が連設されている突出部材とを具備し、
作業者をその上に起立させるために水平に維持される床面を具備していない
ことを特徴とする高所作業用部材。
【請求項2】
前記内部材として、一対の前記縦部材の少なくとも一方と平行な内部縦材、及び、前記縦部材と前記内部縦材とを連結している内部連結材の複数を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の高所作業用部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高所作業用部材と、第一ロープ及び第二ロープを使用して行う高所作業方法であり、
前記第一ロープは、その両端が作業者の胴部の両脇に留め付けられることによりU字状をなすと共に第一長さ調整器を備え、
前記第二ロープは、その両端が作業者の腹部に留め付けられることにより輪状をなすロープ、または、一端が作業者の腹部に留め付けられ他端に開閉可能な輪状部を備えているロープであると共に、第二長さ調整器を備えており、
前記第一ロープを、前記高所作業用部材において隣接している前記閉空間の双方を通すことにより、前記第一ロープが通された二つの前記閉空間を区画している前記内部材の交差部を前記第一ロープのアンカーポイントとする一方、
前記第二ロープを、複数の前記突出部材が内部に向かって突出している前記閉空間と、それに隣接している前記閉空間の双方を通すことにより、前記第二ロープが通された二つの前記閉空間を区画している前記内部材と前記突出部材との交差部の複数のうち、一つを前記第二ロープのアンカーポイントとすることにより、前記第二ロープのアンカーポイントを変更可能とし、
前記第一長さ調整器または前記第二長さ調整器による長さの調整により、少なくとも前記第一ロープ及び前記第二ロープに張力をかけることにより前記高所作業用部材に作業者の身体を支持させ、ワークポジショニングシステムによって作業を行う
ことを特徴とする高所作業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業のためにクレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従前より、樹木の剪定や、高い建造物における電気工事や外壁の塗装などの高所作業のために、クレーンの腕部の先端にボックス状の作業台が設けられており、腕部の長さや起伏角度を制御する制御装置が作業台に設けられている高所作業車が使用されている。しかしながら、このような高所作業車では、腕部の長さや起伏角度を作業台から制御するために、クレーン本体と作業台との間で電気的に接続された制御構造が必要であり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。
【0003】
加えて、作業者はボックス状の作業台の中で起立した状態で作業を行うため、腕部の起伏角度によらず作業台の床面を水平に保つ制御機構が必要であり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。更に、作業者が作業できる範囲が、ボックス状の作業台の中で起立した状態で、作業者の手が届く範囲に限られる。そのため、広い範囲で作業を行うためには作業台を移動させる必要があり、頻繁に作業台を移動させる作業が煩雑であるという問題があった。また、ボックス状の作業台は嵩張るため、作業台が周囲の物と干渉するような狭小な空間では、作業ができないという問題があった。
【0004】
一方、クレーンの腕部の先端に、着脱可能なボックス状の作業台を取り付けて、高所作業を行うことも提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような作業台では、クレーンの腕部の長さや起伏角度は、クレーン本体側で制御するか、作業台上の作業者が操作するリモコンを介して制御するのが一般的である。作業台に制御装置を備えさせている上記の高所作業車よりは構成が簡易であり、他の用途にも使用できるクレーンを利用できる利点はある。
【0005】
しかしながら、このような高所作業用の作業台であっても、作業者はボックス状の作業台の中で起立した状態で作業を行うため、腕部の起伏角度によらず作業台の床面を水平に保つ制御機構が必要である点は同じであり、構成が複雑となると共に高コストとなる問題があった。更に、作業者が作業できる範囲が、ボックス状の作業台の中で起立した状態で作業者の手が届く範囲に限られるという短所、及び、嵩張るボックス状の作業台が干渉するような環境では作業ができないという短所については、高所作業車と同様であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-171093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、簡易な構成であり低コストで製造できると共に、広い範囲での作業が可能な高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる高所作業用部材は、
「クレーンの腕部の先端に取り付けられる高所作業用部材であって、
一対の縦材及び一対の横材を組み付けた主フレームと、
該主フレームから内部空間に向かって延出し、前記主フレームの内部空間に複数の閉空間を形成している内部材と、
少なくとも一つの前記閉空間の内部に向かって、その閉空間を更に閉じることなく前記内部材から突出していると共に、複数が連設されている突出部材とを具備し、
作業者をその上に起立させるために水平に維持される床面を具備していない」ものである。
【0009】
クレーンの「腕部」は、クレーンにおいて伸縮及び起伏する竿状の部分であり、「ジブ」或いは「ブーム」と称される部分を指している。
【0010】
高所作業用部材が本構成であることにより、次のような高所作業方法が可能となる。すなわち、
「上記に記載の高所作業用部材と、第一ロープ及び第二ロープを使用して行う高所作業方法であり、
前記第一ロープは、その両端が作業者の胴部の両脇に留め付けられることによりU字状をなすと共に第一長さ調整器を備え、
前記第二ロープは、その両端が作業者の腹部に留め付けられることにより輪状をなすロープ、または、一端が作業者の腹部に留め付けられ他端に開閉可能な輪状部を備えているロープであると共に、第二長さ調整器を備えており、
前記第一ロープを、前記高所作業用部材において隣接している前記閉空間の双方を通すことにより、前記第一ロープが通された二つの前記閉空間を区画している前記内部材の交差部を前記第一ロープのアンカーポイントとする一方、
前記第二ロープを、複数の前記突出部材が内部に向かって突出している前記閉空間と、それに隣接している前記閉空間の双方を通すことにより、前記第二ロープが通された二つの前記閉空間を区画している前記内部材と前記突出部材との交差部の複数のうち、一つを前記第二ロープのアンカーポイントとすることにより、前記第二ロープのアンカーポイントを変更可能とし、
前記第一長さ調整器または前記第二長さ調整器による長さの調整により、少なくとも前記第一ロープ及び前記第二ロープに張力をかけることにより前記高所作業用部材に作業者の身体を支持させ、ワークポジショニングシステムによって作業を行う」高所作業方法である。
【0011】
本構成の高所作業用部材を使用した高所作業方法では、第一ロープを主に、U字吊り状態で作業者の身体を高所作業用部材に支持させるロープ(ランヤード)として使用する。一方、第二ロープは、後述するように、高所作業用部材から取り外すことなくアンカーポイントを移動させることができるロープであり、作業者の位置や姿勢を変える際の移動用ロープとして使用する。そして、第一ロープ及び第二ロープは、それぞれ長さの調整が可能であるため、長さの調整によって張力をかけた状態とすることができる。従って、第一ロープ及び第二ロープの少なくとも一方の張力によって、高所作業用部材に作業者の身体を支持させることで安定した姿勢を確保することができ、ワークポジショニングシステムによって作業を行うことができる。
【0012】
ワークポジショニングシステムによる作業は、高所作業用部材から外方に身体を乗り出させた姿勢で行うことができる。そのため、ボックス状の作業台内に起立した状態で行う作業に比べて、広い範囲で作業を行うことができる。
【0013】
加えて、高所作業用部材は、閉空間の内部に向かって、その閉空間を更に閉じることなく内部材から突出している突出部材を複数備えている。従って、突出部材の自由端が上方を向く姿勢で高所作業用部材を使用することにより、第二ロープを高所作業用部材から取り外すことなく、内部材と突出部材との交差部であるアンカーポイントを移動させることができる。そのため、第一ロープの長さを調整して張力をかけた状態を維持しつつ、第二ロープのアンカーポイントを移動させることにより、作業者は高所作業用部材に対する位置や姿勢を種々とすることができ、広い範囲で作業を行うことができる。また、第二ロープのアンカーポイントを移動させられることにより、作業者は常に安定した楽な姿勢で作業を行うことができる。
【0014】
そして、それぞれ長さの調整が可能な二本のロープ(第一ロープ及び第二ロープ)を使用するため、一方の張力を緩める場合、例えば、アンカーポイントの移動のために第二ロープの張力を緩める場合であっても、他方のロープに張力がかかった状態を維持することにより、作業者の姿勢を安定して保つことができる。
【0015】
更に、第一ロープ及び第二ロープは、何れも隣接している閉空間に通されるため、作業者が意図して外さない限り、高所作業用部材から外れない。そのため、作業者が作業しやすい位置や姿勢をとるために、一方のロープについて高所作業用部材に対する取り付け位置を変更するために、いったん高所作業用部材からロープを外す場合であっても、他方のロープが墜落防止用ロープ(バックアップロープ)として機能する。従って、作業者の墜落を有効に防止して、安全に高所作業を行うことができる。
【0016】
また、本構成の高所作業用部材は枠状の構造体であるため、従来のボックス状の作業台とは異なり嵩張らない。そのため、ボックス状の作業台は進入させられない狭小な空間であっても、高所作業用部材を進入させて作業を行うことができるため、作業対象の範囲が広いものとなる。
【0017】
更に、本構成の高所作業用部材が枠状の構造体であることにより、従来のボックス状の作業台に比べてシンプルな構造である。加えて、従来のボックス状の作業台では、クレーンの起伏角度によらず作業者が起立する床を水平に保つための制御機構が必要であったところ、本構成の高所作業用部材にはそのような要請がない。従って、本構成の高所作業用部材は従来のボックス状の作業台に比べて極めて簡易な構成であり、低コストで製造することができる。
【0018】
本発明にかかる高所作業用部材は、上記構成に加え、
「前記内部材として、一対の前記縦部材の少なくとも一方と平行な内部縦材、及び、前記縦部材と前記内部縦材とを連結している内部連結材の複数を具備する」ものとすることができる。
【0019】
本構成の高所作業用部材は、主フレームを構成する縦部材と、これに平行な内部縦材との間を複数の内部連結材が連結していることにより、“梯子”状の部分を有している。従って、作業者は内部連結材に足を掛けることにより、梯子を昇降するように、高所作業用部材おける身体の位置を容易に昇降させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、簡易な構成であり低コストで製造できると共に、広い範囲での作業が可能な高所作業用部材、及び、該高所作業用部材を使用して行う高所作業方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態である高所作業用部材の斜視図である。
図2】(a)は図1の高所作業用部材の正面図であり、(b)~(d)はそれぞれ異なる閉空間を示す正面図である。
図3】作業者が装着した第一ロープ及び第二ロープと図1の高所作業用部材との関係を説明する図である。
図4図1の高所作業用部材を使用した高所作業を説明する図である。
図5】(a)~(c)は図1の高所作業用部材を使用した高所作業における第二ロープのアンカーポイントの移動を説明する図である。
図6】(a),(b)図1の高所作業用部材を使用した高所作業における中央の閉空間を使用した作業者の移動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態である高所作業用部材1、及び、高所作業用部材1を使用して行う高所作業方法について、図面を用いて具体的に説明する。
【0023】
まず、高所作業用部材1の構成について説明する。高所作業用部材1は、クレーンの腕部の先端に取り付けられるものであって、一対の縦材11及び一対の横材12を組み付けた主フレーム10と、主フレーム10から内部空間に向かって延出し、主フレーム10の内部空間に複数の閉空間を形成している内部材13と、少なくとも一つの閉空間の内部に向かって、その閉空間を更に閉じることなく内部材13から突出していると共に、複数が連設されている突出部材18aと、を備えている。
【0024】
ここで、本実施形態の高所作業用部材1は、縦材11が上下方向となるように使用される。横材12における「横」方向は、縦材11の「縦」方向に直交する方向であり、使用状態にある高所作業用部材1における幅方向である。なお、後述するように、本実施形態の高所作業用部材1は、作業者の姿勢を保持させるように使用させるため、90度横転させて使用されたり、180度反転させて使用されたりすることはないが、傾けて使用されることがある。そのため、高所作業用部材1における上下方向は、高所作業用部材1に支持された作業者にとっての上下方向であり、鉛直方向のみを指すものではない。
【0025】
このような高所作業用部材1の使用状態における上下方向に対応させて、一対の横材12のうち上方に位置する横材12を「上方横材12a」と称すると共に、下方に位置する横材12を「下方横材12b」と称する。なお、本実施形態では、主フレーム10の縦方向の長さは140cm~180cmに、横方向の長さは80cm~120cmに設定されている。
【0026】
より具体的に説明すると、本実施形態の高所作業用部材1は、内部材13として、上方横材12aに近接して平行であり、一対の縦材11を連結している内部横材13aを一本備えている。また、他の内部材13として、一対の縦材11それぞれに近接して平行であり、内部横材13aと下方横材12bとを連結している内部縦材13bを計二本備えている。更に他の内部材13として、一対の縦材11それぞれと、その縦材11に近接している内部縦材13bとを、直交方向に連結している複数の内部連結材13cを備えている。
【0027】
このように複数種類の内部材13を備えることにより、主フレーム10の内部に、閉じた空間である複数の閉空間S1,S2,S3が形成されている。閉空間S1は、主フレーム10の上方において、上方横材12a、内部横材13a、及び、一対の縦材11に囲まれた空間である(図2(b)において太線で囲まれた空間)。
【0028】
閉空間S2は、主フレーム10の両側方において、一対の縦材11それぞれと、それに近接した内部縦材13bとが、内部連結材13cによって連結されることにより形成されている空間である。従って、閉空間S2には、縦材11と内部縦材13bとの間の空間が上方横材12a及び内部連結材13cによって区画されている空間、縦材11と内部縦材13bとの間の空間が隣接する内部連結材13cによって区画されている空間、及び、縦材11と内部縦材13bとの間の空間が内部連結材13c及び下方横材12bによって区画されている空間がある(図2(c)において太線で囲まれた空間)。
【0029】
上記構成により、主フレーム10の両側方それぞれにおいて内部連結材13cを境として複数の閉空間S2が連なっている。このような構成において縦材11及び内部材13(内部縦材13b,内部連結材13c)に着眼すると、主フレーム10の両側方それぞれにおいて、縦材11と内部縦材13bとの間に複数の内部連結材13cが“梯子”状に架け渡されている。
【0030】
閉空間S3は、内部横材13a、下方横材12b、及び、一対の内部縦材13bによって囲まれた空間であり、主フレーム10の中央において開口している(図2(d)において太線で囲まれた空間)。なお、本実施形態では、閉空間S3の開口高さ(縦方向の長さ)は主フレーム10の縦方向の長さの70%~90%に、開口幅(横方向の長さ)は主フレーム10の横方向の長さの50%~70%に設定されており、主フレーム10の中央において閉空間S3が広く開口している。
【0031】
本実施形態では、突出部材18として、内部材13から突出している突出部材18aに加えて、主フレーム10から突出している突出部材18bを有している。突出部材18aは内部横材13aから閉空間S1の内部に向かって、上方横材12aに達することなく突出している。一方、突出部材18bは、主フレーム10を構成する下方横材12bから閉空間S3の内部に向かって、内部横材13aに達することなく突出している。突出部材18a,18bの突出高さは、5cm~20cmとすることができる。
【0032】
なお、図面では表されていないが、高所作業用部材1において各部材(縦材11、横材12、内部材13、突出部材18)が交差する交差部は、鋭利な角部とならないよう湾曲面に形成されている。また、各部材の外表面は、ロープが引っ掛かるような突起のない滑らかな面に形成されている。これにより、後述するように各部材の交差部にロープを巻き掛けた際や、各部材に沿ってロープを摺動させた際のロープの損傷が抑制されている。
【0033】
高所作業用部材1は、更に、クレーンの腕部に取り付けるための取付部20を備えている。取付部20は、一対の縦材11の一方から外方に向かって突出している基部21と、基部21に対して着脱可能な第二基部22と、クレーンの腕部に沿わせる支持部23と、腕部に固定するための固定部25とを備えている。
【0034】
基部21及び第二基部22はそれぞれ角筒状であり、一方が他方に挿脱可能にスライドする。基部21及び第二基部22それぞれには軸方向に複数の孔(図面に表れていない)が貫設されており、いずれかの孔の位置を合わせてピン29で締結することにより、基部21と第二基部22とを合わせた長さを調整しつつ連結することができる。支持部23は、第二基部22と直角をなしている平板状であり、腕部の外表面に沿わせることができる。固定部25は一対あり、それぞれ平板状で、支持部23と共にコ字形をなすように同一方向に延出している。一対の固定部25で腕部を挟み込むように腕部の外表面に支持部23を当接させ、腕部に貫設された孔部に挿通させたピン27を一対の固定部25に留め付けることにより、取付部20が腕部に固定される。これにより、取付部20を介して高所作業用部材1がクレーンの腕部の先端に取り付けられる。
【0035】
次に、上記構成の高所作業用部材1の使用方法について説明する。作業者はハーネスを装着しており、図3に示すように、胴部を巻き締めるベルト30の両脇にある環状の留め具31に留め付けられてU字状となる第一ロープ41と、ベルト30の腹部にある環状の留め具32に両端が留め付けられて輪状となる第二ロープ42を使用する。第一ロープ41は長さを調整するための第一長さ調整器41bを備えており、第二ロープ42も同様に長さを調整するための第二長さ調整器42bを備えている。第一長さ調整器41b及び第二長さ調整器42bは、摩擦によってロープの長さを調整するものであり、ロープの縛り方によって摩擦を生じさせるもの、或いは、金具と金具とでロープを挟み込むことによって摩擦を生じさせるものを使用することができる。なお、図3は、作業者が装着する第一ロープ41及び第二ロープ42と高所作業用部材1との関係を例示するものであり、高所作業を行っている状態での作業者及び高所作業用部材1を示すものではない。
【0036】
第一ロープ41は、高所作業用部材1において隣接する閉空間の双方を通した上で留め具31に留め付けられる。これにより、第一ロープ41の折り返し部分は閉空間の内部にあるため、第一ロープ41は高所作業用部材1から外れることがない。例えば、図3に示すように、第一ロープ41を閉空間S2と閉空間S3の双方に通した場合、閉空間S2と閉空間S3とを区画する内部材13の交差部(ここでは、内部縦材13bと内部連結材13cとの交差部)のうち下方の交差部(図示、P1)が第一ロープ41のアンカーポイントとなる。縦材11と内部縦材13bとの間には複数の内部連結材13cが架け渡されており、隣接する内部連結材13c間の距離が大きくないため、閉空間S2と閉空間S3の双方に通した第一ロープ41が、アンカーポイントに至るまでに大きく摺り下がることが防止されている。
【0037】
第二ロープ42は、閉空間のうち、内部材13から内部に向かって突出部材18aが突出している閉空間と、それに隣接する閉空間の双方を通した上で留め具32に留め付けられる。これにより、第一ロープ41と同様に、第二ロープ42の折り返し部分も閉空間の内部にあるため、第二ロープ42は高所作業用部材1から外れることがない。なお、ここでは、第二ロープ4として、その両端が留め具32に留め付けられることによって輪状をなすロープを例示しているが、第二ロープとしては、一端が留め具32に留め付けられると共に、他端に開閉可能な輪状部を備えているロープを使用することができる。この場合は、先端の輪状部を開いた状態で隣接する閉空間の双方に第二ロープが通された後、輪状部が閉じられる。このような第二ロープであっても、輪状部の折り返し部分は閉空間の内部にあるため、第二ロープは高所作業用部材から外れることがない。第二ロープの輪状部が開閉可能である態様としては、一本のロープの先端にカラビナなど環状で開閉する金具が設けられており、この金具に短いロープの両端が留め付けられる態様、一本のロープの先端を結ぶことにより輪状部を作る態様を、挙げることができる。
【0038】
第二ロープ42は、内部材13から突出部材18aが突出している閉空間に通されているため、高所作業用部材1の姿勢を突出部材18aの突出方向が上方となる姿勢とすることにより、第二ロープ42を高所作業用部材1から取り外すことなく、第二ロープ42のアンカーポイントを移動させることができる。例えば、図3に示すように、第二ロープ42を閉空間S1と閉空間S3の双方に通した場合、閉空間S1と閉空間S3とを区画する内部材13と突出部材18aとの交差部(ここでは、内部横材13aと突出部材18aとの交差部)の複数(図示、P2)が、それぞれ第二ロープ42のアンカーポイントとなる。
【0039】
高所作業用部材1を使用して高所作業を行う際は、取付部20を介して高所作業用部材1をクレーンの腕部に取り付け、作業者は装着した第一ロープ41及び第二ロープ42を上記のように隣接する閉空間に通した状態で高所作業用部材1に乗る。そして、高所作業用部材1に作業者の身体を支持させた状態で、クレーンの腕部の伸長及び起伏角度の制御により、高所作業を行う場所まで高所作業用部材1を移動させる。本実施形態の高所作業用部材1は、主フレーム10から外方に突出している基部21を備える取付部20を介してクレーンの腕部に固定されているため、クレーンの腕部の起伏角度を変化させるのに伴い、高所作業用部材1の角度も変化する。
【0040】
作業者が高所作業用部材1に乗っている間は、クレーンの腕部を移動させる際であっても、高所作業を行っている間であっても、常に第一長さ調整器41bまたは第二長さ調整器42bによる長さの調整によって、第一ロープ41及び第二ロープ42の少なくとも一方に張力がかかった状態とすることにより、高所作業用部材1に作業者の身体を支持させる(図4参照)。作業に伴い、身体の位置や姿勢を変えるときも、常に第一ロープ41または第二ロープ42の長さを調整して、少なくとも一方のロープに張力がかかった状態を維持することにより、高所作業用部材1に身体を安定して支持させた状態で、種々の姿勢をとることができる。
【0041】
このように、本実施形態の高所作業用部材1を使用して行う高所作業は、ワークポジショニングシステムによる作業であるため、高所作業用部材1から外方に身体を乗り出させた姿勢で作業を行うことができる。そのため、ボックス状の作業台内に作業者が起立した状態で行う作業に比べて、広い範囲で作業を行うことができる。
【0042】
高所作業用部材1は、第一ロープ41及び第二ロープ42を介して作業者の身体を支持することに加え、作業者の足場となる。高所作業用部材1では、下方横材12bから上方に向かって突出部材18bが突出しているため、そこに足裏を掛けることにより、滑りにくい足場として使用することができる。また、高所作業用部材1の両側方には、縦材11と内部縦材13bとの間に複数の内部連結材13cが梯子状に架け渡されているため、これらの内部連結材13cに足裏を掛けることにより、梯子を昇り降りするように身体の位置を昇降させることができる。
【0043】
また、第二ロープ42を通している閉空間S1で内部に向かって突出している突出部材18aは、端部が自由端である。そのため、閉空間S1を構成している部材と突出部材18aとの間の隙間(ここでは、上方横材12aと突出部材18aとの間の隙間)を介して、第二ロープ42のアンカーポイントを移動させることができる(図5(a)~(c)を参照)。第二ロープ42を移動させるには、第二ロープ42の長さを変える必要があるため、移動の間に第二ロープ42に張力がかからない時間が生じるが、その間も作業者の身体は第一ロープ41の張力によって安定して支持させることができる。
【0044】
なお、作業者がより安定した姿勢をとるために高所作業用部材1における位置を変えるとき、高所作業用部材1の角度を変える場合がある。高所作業用部材1の角度の変更は、クレーンの腕部の起伏角度の変更により行うことができるが、腕部の起伏角度の変更は、クレーン本体の操縦者による制御装置の操作により、或いは、高所作業を行う作業者の有するリモコンから制御装置に送る制御信号により、行うことができる。
【0045】
更に、作業者が作業を行い易い姿勢をとるために、第一ロープ41のアンカーポイントを変更したい場合もある。その場合は、第二ロープ42に張力をかけた状態を維持することによって、高所作業用部材1に作業者の身体を安定して支持させた状態で、第一ロープ41を付け替える。第一ロープ41は、いったん高所作業用部材1から取り外すこととなるが、第二ロープ42は閉空間に通してあり高所作業用部材1から外れない。そのため、第二ロープの長さが可能な限り短くなるように調整して張力をかけることにより、作業者の墜落を有効に防止することができる。
【0046】
加えて、高所作業用部材1は、中央に広く開口した閉空間S3を有している。そのため、図6(a)に示すように、作業者が高所作業用部材1の片面側で姿勢を安定させている状態から、閉空間S3をくぐるようにして、図6(b)に示すように高所作業用部材1の反対面側で姿勢を安定させた状態とすることができる。このように作業者は高所作業用部材1の一方の面側から他方の面側に移動することができるため、広い範囲で高所作業を行うことができる。
【0047】
上記では、作業者が高所作業用部材1を足場としつつ、作業者が高所作業用部材1に身体を支持させて高所作業を行う場合を説明したが、第一ロープ41及び第二ロープ42に張力がかかるように両ロープの長さを調整しつつ、作業者が高所作業用部材1から外へ出て作業対象の樹木や建造物に乗り移り、作業を行うことも可能である。
【0048】
例えば、樹木の剪定などを行う場合、従来は作業者が樹木に登って作業を行う際に、身体を支持させるロープ等を樹木の枝や幹に留め付けていた。そのため、アンカーポイントとして選択した枝が枯れたり腐食していたりして強度が低い場合、枝が折れることによって作業者が墜落するおそれがあった。これに対し、本実施形態の高所作業用部材1を使用して作業を行う場合は、作業者が樹木に乗り移ったとしても、あくまでも第一ロープ41及び第二ロープ42のアンカーポイントは高所作業用部材1内にあるため、仮に作業者が乗り移った枝が折れたとしても、第一ロープ41及び第二ロープ42によって作業者の墜落を防止することができる。
【0049】
また、従来、クレーンの腕部の先端にボックス状の作業台を取り付けて高所作業を行う場合であって、クレーンの腕部の伸縮や起伏角度の変更を作業者が有するリモコンを介して制御する場合、リモコンを落としてしまったり何らかの事由でクレーンのエンジンが停止してしまったりすると、腕部の動作を制御できなくなり、作業者が作業台から降りることができなくなることがあった。ボックス状の作業台で作業を行う作業者は、落下を防止するためのロープを装着しているものの、そのロープはフォールアレストシステムのロープであるため、このロープを使用して作業台から地上に降りることはできなかった。
【0050】
これに対して、本実施形態の高所作業用部材1を使用する作業者が装着している第一ロープ41及び第二ロープ42は、ワークポジショニングシステム用のロープであって、それぞれ第一長さ調整器41b及び第二長さ調整器42bを備えている。そのため、万一、リモコンを落とすなどクレーンの腕部の動作を制御できない事態に陥ったとしても、第一ロープ41及び第二ロープ42のうち一方のロープの長さを維持して身体の位置を保持させつつ、他方のロープを長くする作業を交互に繰り返すことにより、高所作業用部材1から地上まで安全に降りることができる。
【0051】
また、作業者が樹木に登って剪定などを行っていた従来では、切り落とされた枝を吊り降ろす作業の際、吊られた状態にある枝が振れて作業者に衝突する事故があった。これに対し、高所作業用部材1を使用する場合は、切り落とされる枝と作業者の身体との間に高所作業用部材1を位置させることにより、仮に吊られた状態にある枝が振れたとしても、高所作業用部材1が盾となるため、枝が作業者の身体に大きな衝撃で直接衝突することを避けることができる。
【0052】
本実施形態の高所作業用部材1は、樹木の剪定などの高所作業や、高い建造物における電気工事や外壁の塗装工事に使用することができるが、その他にも、高所における人の救助作業にも使用することができる。仮に、従来のボックス状の作業台を人の救助に使用しようとした場合、ボックス状の作業台の内部にいる作業者がひとりで、被救助者の身体を作業台の内部まで引き込むことは極めて困難である。これに対し、本実施形態の高所作業用部材1は枠状の構造体であるため、被救助者の身体を高所作業用部材1に乗り移らせることは容易である。そのため、高所作業用部材1に身体を支持させた作業者が、高所作業用部材1に乗り移らせた被救助者の身体をしっかりと抱えた状態で、クレーンの腕部の制御によって高所作業用部材1を降下させることにより、ひとりの作業者で容易に被救助者を高所から地上に降ろすことができる。
【0053】
加えて、本実施形態の高所作業用部材1は枠状の構造体であり、各部材の交差部を多数備えている。そのため、これらの交差部に作業用道具や救助用品を吊り下げておくことができる。従って、作業用道具や救助用品を作業者が携帯する場合に比べて、作業者を身軽にすることができ、作業者の身体的負担を低減することができる。
【0054】
そして、高所作業用部材1は枠状の構造体であるため、樹木の枝の又部など、ボックス状の従来の作業台では進入できない狭小な空間であっても、高所作業用部材1を進入させて作業を行うことができる。また、高所作業用部材1は枠状のシンプルな構造体であり、従来のボックス状の作業台とは異なり、クレーンの起伏角度によらず水平に保つための制御機構が不要であるため、極めて簡易な構成であり低コストで製造することができる。
【0055】
以上のように、本実施形態の高所作業用部材1は、簡易な構成であり低コストで製造できると共に、高所作業用部材1を使用して行う高所作業方法によれば、広い範囲での高所作業を安全に行うことができる。
【0056】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記の実施形態で示した内部材13や突出部材18の位置及び数は、単なる例示である。例えば、上記の実施形態では、内部横材13aは上方横材12aに近接させた一本であったが、二本以上の内部横材を備える高所作業用部材とすることができる。また、上記では、内部材13から突出している突出部材18aが高所作業用部材1の上部に設けられており、主フレーム10から突出している突出部材18bが高所作業用部材1の下部に設けられている場合を例示したが、これに限定されず、内部材から突出している突出部材を高所作業用部材の下部に設けることもできる。
【0058】
更に、上記では、クレーンの腕部に取り付けるための取付部20を備えている高所作業用部材1を例示したが、取付部は高所作業用部材とは別体であっても良いし、クレーン側に高所作業用部材を取り付けるための取付部を備えさせることもできる。
【0059】
加えて、上記では、取付部を介して高所作業用部材がクレーンの腕部の先端に取り付けられる場合を例示したが、クレーンのフックを介して高所作業用部材をクレーンの腕部の先端に取り付ける使用方法も可能である。この場合、高所作業用部材は、フックによってクレーンの腕部の先端から吊り下げられる。このような使用方法は、現行の日本の法制下では許容されないと解釈されるが、法が許容すればわが国でも実施可能な方法である。
【0060】
また、上記では、ワークポジショニングシステムによる作業について説明したが、第一ロープにより作業者の身体が支持された状態あるいは吊られた状態を維持しつつ、第二ロープの長さを調整することによって移動することができるため、ロープアクセスシステムによる作業も可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 高所作業用部材
10 主フレーム
11 縦材
12 横材
13 内部材
13b 内部縦材(内部材)
13c 内部連結材(内部材)
18a 突出部材(内部材から突出している突出部材)
41 第一ロープ
41b 第一長さ調整器
42 第二ロープ
42b 第二長さ調整器
P1 アンカーポイント(第一ロープのアンカーポイント)
P2 アンカーポイント(第二ロープのアンカーポイント)
S1,S2,S3 閉空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6