(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】荷電粒子ビームの空間位相操作
(51)【国際特許分類】
H01J 37/295 20060101AFI20220713BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
H01J37/295
H01J37/26
(21)【出願番号】P 2020521556
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2018078218
(87)【国際公開番号】W WO2019076884
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-07-14
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510214573
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト アントウェルペン
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Antwerpen
【住所又は居所原語表記】Prinsstraat 13,Antwerpen,BELGIUM
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・フェルベーク
(72)【発明者】
【氏名】アルマン・ベシェ
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/092764(WO,A1)
【文献】特開平10-039726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/295
H01J 37/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム軸(Z)に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するためのデバイス(1)であって、
-前記ビーム軸(Z)に沿って伝播する前記荷電粒子波を受信するための標的領域を有する支持素子(2)と、
-前記支持素子(2)によって支持され、前記標的領域に位置する、複数の位相調整素子(3)であって、前記荷電粒子波が前記位相調整素子に衝突しているときに、前記荷電粒子波の前記位相を局所的に調整するための、複数の位相調整素子(3)と、
-各位相調整素子を個別に制御するための、前記複数の位相調整素子に接続された複数の制御線(4)と、を含む、デバイス。
【請求項2】
前記複数の位相調整素子は、2次元配列に編成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
各位相調整素子(3)は、前記位相調整素子をコントローラ(5)に直接接続するための対応する制御線(4)に直接接続されている、請求項1または2のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項4】
前記位相調整素子(3)は、各位相調整素子(3)が少なくとも列インデックスおよび行インデックスによって一意に特定され得るように、論理行および論理列に論理的に編成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
各位相調整素子(3)は、前記位相調整素子をコントローラ(5)に接続するための前記複数の制御線(4)のうちの一対の制御線に直接接続されており、前記一対の制御線は、 列信号線(15)および行信号線(14)を含み、前記列信号線および前記行信号線は、それぞれ、論理列を形成する位相調整素子および論理行を形成する位相調整素子に接続されている、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記位相調整素子(3)は、前記行信号線(14)に接続された第1の端子と、前記列信号線(15)に接続された第2の端子と、蓄電装置に接続された第3の端子と、を有する、少なくとも1つのトランジスタを含む、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記複数の位相調整素子(3)は、デカルトグリッドパターンまたは極グリッドパターンに配設されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
各位相調整素子(3)は、円の弧、円の扇形、または円の弓形として成形されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
各位相調整素子(3)は、静電位相調整素子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記静電位相調整素子は、電極(11)を含み、前記制御線(4)のうちの少なくとも1つは、前記電極(11)の電位(V
11、V
12、V
21、V
22)を制御するように適合されている、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記電極(11)は、円筒形状、トロイダル形状、またはリング形状である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記複数の位相調整素子(3)の前記電極(11)の上方の平面および/または下方の平面をそれぞれ形成する第1の基準電極(12)および/または第2の基準電極(13)を含み、前記第1の基準電極(12)および/または前記第2の基準電極(13)には、基準電位(GND)が供給されている、請求項9~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスは、前記複数の位相調整素子(3)を形成する電極のパターン化された配列を含む静電ミラーを含む、請求項9に記載のデバイス。
【請求項14】
前記複数の位相調整素子(3)は、制御可能な磁気素子を含み、各制御可能な磁気素子は、磁場を局所的に制御して、Aharanov‐Bohm効果による前記荷電粒子波の前記位相を局所的に調整するように適合されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
各位相調整素子によって引き起こされる前記荷電粒子波の前記局所的な位相調整を個別に制御するための前記複数の制御線に接続されたコントローラを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記コントローラ(5)は、前記空間位相分布の空間パターンをプログラムし、複数の導電体を介して前記複数の位相調整素子を制御して、それに応じて前記デバイスをプログラムするためのプロセッサを含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
前記標的領域がビーム軸(Z)に沿って伝播する荷電粒子波内に配置されているときに、電子顕微鏡装置の前記ビーム軸(Z)に沿って伝播する前記荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するための、請求項1~16のいずれか一項に記載のデバイスを含む電子顕微鏡装置。
【請求項18】
ビーム軸(Z)に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するための方法であって、
-ビーム軸(Z)に沿って伝播する荷電粒子波を提供することと、
-前記空間位相分布の空間パターンに従って、各位相調整素子に対する位相を個別に構成するように、複数の位相調整素子(3)を制御することと、
-前記複数の位相調整素子(3)を通して前記荷電粒子波を送信することにより、前記荷電粒子波の前記位相を局所的に調整することと、を含む、方法。
【請求項19】
前記複数の位相調整素子(3)は、2次元配列に編成されている、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム操作の分野に関する。より具体的には、それは、荷電粒子ビーム、例えば、電子ビームまたはイオンビームの空間位相分布を局所的に操作するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子など荷電粒子のビームは、例えば、顕微鏡法およびリソグラフィ用途において使用される。例えば、走査型電子顕微鏡法(SEM)および透過型電子顕微鏡法(TEM)では、材料における構造および結合は、例えば、原子スケールまで、非常に詳細に調査され得る。
【0003】
電子顕微鏡法において電子ビームの位相変調を使用して、有利なビーム特性を有するようにビームを成形することが知られている。例えば、一般に、位相板と呼ばれる位相操作素子は、生物学的サンプルなど弱い位相物体を撮像するために、電子顕微鏡の電子ビーム内、例えば、かかる電子顕微鏡の対物レンズの後焦点面内に配置され得る。さらに、荷電粒子ビームの位相変調は、荷電ビームリソグラフィおよび荷電粒子加速器など他の用途でも有用であり得る。
【0004】
当該技術分野で知られているかかる位相操作素子の例は、例えば、小さな穴が内部に画定されたアモルファスカーボン薄膜を含むゼルニケ素子(例えば、US8071954を参照)、微細構造電極の内部に静電ポテンシャルを付加し得るベルシュ素子(例えば、US5814815を参照)、および/または例えば、ビーム位相に影響を与える磁性材料または磁化材料を含む磁気素子(例えば、US7851757を参照)を含む。別の例として、US2008/202918は、導電性コア位相板を含む位相板を開示している。導電性シールド薄膜は、コア位相板の周囲を覆っている。
【0005】
しかしながら、位相操作は、弱い位相物体の撮像に限定されない。荷電粒子波に軌道角運動量を与えることにより荷電粒子渦を生成することも当該技術分野で知られている。かかる渦波は、量子情報およびナノ操作などの用途において使用され得る。荷電粒子は、磁気モーメントを持っているため、軌道角運動量と磁気モーメントとの組み合わせにより、ユーザが、調査中の材料の磁気状態を調べることを可能にし、例えば、材料の原子分解能の磁気マッピングが可能になる。例えば、国際特許出願第WO2013/092762号および同第WO2013/092764号では、かかる目的のためのデバイスが開示されている。
【0006】
WO2013/092762によると、デバイスは、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波を送信するための標的領域を有する支持素子と、標的領域内に位置する自由端部を有する細長いプロファイルに沿って磁束を誘導するための誘導手段と、を含む。誘導手段は、細長いプロファイルに磁束を提供して、荷電粒子波が標的領域を通して送信されたときに、ビーム軸に対する、荷電粒子波の位相の角度勾配を誘導する。
【0007】
WO2013/092764によると、デバイスは、軸の周りに配設された、角度的に離間した複数の導電体を含む第1の導体素子と、第1の導体素子から軸の方向に沿って離間した第2の導体素子と、を含む。第1の導体素子および第2の導体素子は、軸に沿って伝播する荷電粒子波を送信するように適合されている。接続手段は、第1の導体素子および第2の導体素子にわたって電位差を供給する。接続手段は、荷電粒子波が軸に沿って送信されるときに荷電粒子波の位相の角度勾配を誘導するための、角度的に離間した複数の導電体に電位を供給するように適合され、電位の軸に沿った投影は、軸に対する角度位置の関数として変化する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施形態の目的は、例えば、電子顕微鏡装置、電子またはイオンリソグラフィ装置、あるいは荷電粒子ビーム、例えば、粒子加速器を使用する類似の装置において、荷電粒子波の空間位相分布を構成するためのプログラム可能な、多用途の、良好なおよび/または効率的な手段および方法を提供することである。
【0009】
上記の目的は、本発明による方法およびデバイスによって達成される。
【0010】
本発明の実施形態の利点は、荷電粒子波の位相が、例えば、弱い位相撮像ビーム、渦波、渦波、ベッセルビーム、エアリービーム、パイビーム、ヘリコンビームおよび/またはスネークビームなどの自由空間内の非回折ビーム、ならびに/あるいは収束ビームまたは発散ビームを実装するように、動的にプログラムされ得る、例えば設計制約内で自由に構成され得る。
【0011】
本発明の実施形態の利点は、プログラム可能な荷電粒子レンズ、例えば、プログラム可能な電子レンズが、かかる実施形態によって実装され得ることである。
【0012】
本発明の実施形態の利点は、荷電粒子リソグラフィ、例えば、電子またはイオンリソグラフィにおいて、良好な解像度および/または速度を実現し得ることである。
【0013】
本発明の実施形態の利点は、例えば荷電粒子ビームレンズにおいて、かかる実施形態によって収差が補正され得ることである。
【0014】
本発明の実施形態の利点は、電子顕微鏡法における良好なコントラストが、かかる実施形態によって提供され得ることである。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、例えば、従来のレンズ、収差補正器、および/または位相板を使用する装置と比べて、電子顕微鏡法において、例えばTEMにおいて、ビーム損傷が低減され得ることである。
【0016】
本発明の実施形態の利点は、例えば、従来のレンズ、収差補正器、および/または位相板を使用する装置と比べて、電子顕微鏡法において解像度が改善され得ることである。
【0017】
本発明の実施形態の利点は、例えば、高価な、大型の、および/または複雑なレンズおよび/または位相板を本発明による実施形態に置き換えることによって、従来の荷電粒子装置に代わる簡素な、安価な、および/または小型の代替品を実現し得ることである。
【0018】
本発明の実施形態の利点は、従来の荷電粒子レンズにおけるヒステリシス効果が、実施形態によるデバイスによって容易に相殺され得ることである。
【0019】
本発明の実施形態の利点は、従来の荷電粒子レンズにおけるヒステリシス効果が、かかる荷電粒子レンズを実施形態による動的にプログラム可能なデバイスに置き換えることによって、除去され得ることである。
【0020】
本発明の実施形態の利点は、量子情報実験および/または用途を使用可能にし得ることである。
【0021】
本発明の実施形態の利点は、自由電子通信が、実施形態によるデバイスによって、動的に変調された自由電子搬送波を介して実行され得ることである。
【0022】
本発明の実施形態の利点は、荷電粒子波のプログラム可能な空間位相分布を使用して、例えば、磁気特性、キラリティ、および/またはひずみなど、荷電粒子波と相互作用する材料の材料特性測定値を取得し得ることである。
【0023】
第1の態様では、本発明は、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するためのデバイスに関する。デバイスは、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波を受信する、例えば、送信する、および/または反射するための標的領域を有する支持素子を含む。デバイスは、支持素子によって支持され、標的領域に位置する、複数の位相調整素子であって、荷電粒子波が位相調整素子に衝突する、例えば、それを通過して(それの近くに)送信される、またはそれによって反射されるときに、荷電粒子波の位相を局所的に調整するための、複数の位相調整素子、を含む。デバイスは、各位相調整素子を個別に制御するための、複数の位相調整素子に接続された複数の制御線を含む。複数の位相調整素子は、2次元配列に編成され得る。
【0024】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各位相調整素子は、位相調整素子をコントローラに直接接続するための対応する制御線に直接接続され得る。コントローラは、デバイスに統合され得、または例えば、コネクタを介してデバイスに接続され得る。
【0025】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、位相調整素子は、各位相調整素子が少なくとも列インデックスおよび行インデックスによって一意に特定され得るように、論理行および論理列に論理的に編成され得る。
【0026】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各位相調整素子は、位相調整素子をコントローラに接続するための複数の制御線のうちの一対の制御線に直接接続され得る。一対の制御線は、列信号線および行信号線を含み得る。列信号線および行信号線は、それぞれ、論理列を形成する位相調整素子および論理行を形成する位相調整素子に接続され得る。
【0027】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各位相調整素子は、行信号線に接続された第1の端子と、列信号線に接続された第2の端子と、蓄電装置に接続された第3の端子と、を有する、少なくとも1つのトランジスタを含み得る。
【0028】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、複数の位相調整素子は、デカルトグリッドパターンまたは極グリッドパターンに配設され得る。
【0029】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各位相調整素子は、円の弧、円の扇形、または円の弓形として成形され得る。
【0030】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各位相調整素子は、静電位相調整素子を含み得る。
【0031】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、各静電位相調整素子は、電極を含み得る。制御線のうちの少なくとも1つは、電極の電位を制御するように適合され得る。
【0032】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、電極は、円筒形状、トロイダル形状、またはリング形状であり得、実施形態は、それに限定されない。
【0033】
本発明の実施形態によるデバイスは、複数の位相調整素子の電極の上方の平面および/または下方の平面をそれぞれ形成する第1の基準電極および/または第2の基準電極を含み得る。
【0034】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、第1の基準電極および/または第2の基準電極は、穴あき平板電極であり得る。
【0035】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、デバイス、例えば、各静電位相調整素子は、基準電極を含み得る。基準電極または複数の基準電極は、静電位相調整素子の複数の電極と同一平面上に配設され得る。
【0036】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、第1の基準電極および/または第2の基準電極ならびに/あるいは基準電極(複数可)には、例えば、電気的に接地された基準電位が供給され得る。
【0037】
本発明の実施形態によるデバイスは、複数の位相調整素子を形成する電極のパターン化された配列を含む静電ミラーを含み得る。
【0038】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、静電ミラーは、静電グレージングミラーを含み得る。
【0039】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、複数の位相調整素子は、制御可能な磁気素子を含み得、各制御可能な磁気素子は、磁場を局所的に制御して、Aharanov‐Bohm(アハラノフ・ボーム)効果による荷電粒子波の位相を局所的に調整するように適合されている。
【0040】
本発明の実施形態によるデバイスは、各位相調整素子によって引き起こされる荷電粒子波の局所的な位相調整を個別に制御するための複数の制御線に接続されたコントローラを含み得る。
【0041】
本発明の実施形態によるデバイスにおいて、コントローラは、空間位相分布の空間パターンをプログラムし、複数の導電体を介して複数の位相調整素子を制御して、それに応じてデバイスをプログラムするためのプロセッサを含み得る。
【0042】
第2の態様では、本発明はまた、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波に標的領域が配置されているときに、電子顕微鏡装置のビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するための、本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスを含む電子顕微鏡装置に関する。
【0043】
第3の態様では、本発明はまた、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するための方法に関する。本方法は、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波を提供することと、空間位相分布の空間パターンに従って、各位相調整素子に対する位相を個別に構成するように、例えば、2次元配列に編成された複数の位相調整素子を制御することと、複数の位相調整素子に荷電粒子波を衝突させること、例えば、複数の位相調整素子を通して荷電粒子波を送信すること、または複数の位相調整素子によって荷電粒子波を反射させることにより、荷電粒子波の位相を局所的に調整することと、を含む。
【0044】
本発明の特定の、および好ましい態様は、添付の独立項および従属項に示されている。従属項からの特徴は、独立項の特徴および他の従属項の特徴と、必要に応じて、そして単に特許請求の範囲に明示的に示されているだけでなく、組み合わされ得る。
【0045】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に記載の実施形態(複数可)から明らかであり、それを参照して解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明の実施形態によるデバイスの第1の図を示す。
【
図2】本発明の実施形態によるデバイスの第2の図を示す。
【
図3】本発明の実施形態によるデバイス内の素子のアドレス指定を概略的に例解する。
【
図4】本発明の実施形態によるデバイスの写真を示す。
【
図5】本発明の実施形態によるデバイス内の例示的な静電位相調整素子を例解する。
【
図6】本発明の実施形態によるデバイス内の例示的な静電位相調整素子を例解する。
【
図7】本発明の実施形態によって取得可能な位相分布構成を例解する。
【
図8】本発明の実施形態によるデバイス内の例示的な静電ミラー位相調整素子を例解する。
【
図9】本発明の実施形態によるデバイス内の例示的な静電グレージングミラー位相調整素子を例解する。
【
図10】本発明の実施形態によるデバイス内の例示的な磁気位相調整素子を例解する。
【
図11】本発明の実施形態によるデバイス内の位相調整素子の例示的な長方形グリッドレイアウトを例解する。
【
図12】本発明の実施形態によるデバイス内の位相調整素子の第1の例示的な極グリッドレイアウトを例解する。
【
図13】本発明の実施形態によるデバイス内の位相調整素子の第2の例示的な極グリッドレイアウトを例解する。
【
図14】半波長位相板を実装するように電子ビームを成形するための、本発明の実施形態によるデバイスの動的に構成可能な2つの設定を示す。
【
図15】1/4波長位相板を実装するように電子ビームを成形するための、本発明の実施形態によるデバイスの動的に構成可能な設定を示す。
【
図16】渦波ビームを生成するように電子ビームを成形するための、本発明の実施形態によるデバイスの動的に構成可能な設定を示す。
【
図17】本発明の実施形態によるデバイスの動的に構成可能なさらに2つの例示的な設定を示す。
【0047】
図面は、単なる概要であり、非限定的である。図面において、要素のうちのいくつかのサイズは、例示目的のために誇張され、縮尺通りに描かれていない場合がある。
【0048】
特許請求の範囲におけるいずれの参照符号も、範囲を限定するものと解釈されないものとする。
異なる図面において、同じ参照符号は、同じまたは類似の要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、特定の実施形態に関して、および一定の図面を参照して記載されるが、本発明はそれに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載の図面は、単なる概要であり、非限定的である。図面において、いくつかの要素のサイズは、例示目的のために誇張され、縮尺通りに描かれていない場合がある。寸法および相対寸法は、本発明の実施に対する実際の縮小には対応していない。
【0050】
さらに、説明および特許請求の範囲における第1、第2などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも、時間的に、空間的に、順位付けして、または他の方法で順序を記載するために使用されない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載または例解する以外の順序で動作可能であることを理解されたい。
【0051】
さらに、説明および特許請求の範囲における上部、下部などの用語は、説明の目的のために使用され、必ずしも相対的な位置を記載するために使用されない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載の本発明の実施形態は、本明細書に記載または例解する以外の配向で動作可能であることを理解されたい。
【0052】
特許請求の範囲で使用される「含む」という用語は、その後に列挙される手段に限定されるものとして解釈されるべきではなく、他の要素またはステップを除外しないことに留意されたい。したがって、それは、言及された特徴、整数、ステップ、または構成要素の存在を指定するものと解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、または構成要素、あるいはそれらのグループの存在または追加を排除しない。したがって、「手段Aと、Bと、を含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなるデバイスに限定されるべきではない。それは、本発明に関して、デバイスの関連する構成要素のみがAおよびBであることを意味する。
【0053】
本明細書全体を通して「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な場所での「一実施形態では」または「実施形態では」という句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているとは限らないが、そうである場合もある。さらに、この開示から当業者には明らかなように、1つ以上の実施形態では、特定の特徴、構造、または特性を任意の適切な方法で組み合わせされ得る。
【0054】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明において、本発明の様々な特徴は、開示を簡素化し、様々な発明の態様のうちの1つ以上の理解を助ける目的で、単一の実施形態、図面、またはその説明にまとめられる場合があることを認識されるべきである。しかしながら、本開示のこの方法は、特許請求された発明が各請求項に明示的に列挙されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映するものとして解釈されるものではない。むしろ、以下の特許請求の範囲が反映するように、発明の態様は、前述の単一の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない特徴にある。したがって、詳細な説明に続く特許請求の範囲は、本明細書によって、この詳細な説明に明示的に組み込まれ、各請求項は、本発明の別個の実施形態として独立している。
【0055】
さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが他の特徴は含まないが、異なる実施形態の特徴の組み合わせは、当業者によって理解されるように、本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することが意図されている。例えば、以下の特許請求の範囲では、特許請求された実施形態のいずれも、任意の組み合わせで使用され得る。
【0056】
本明細書で提供される説明では、多数の具体的な詳細が示されている。しかしながら、本発明の実施形態は、これらの具体的な詳細を伴わずに実施され得ることが理解される。他の例では、この説明の理解を不明瞭にしないために、周知の方法、構造、および技術は、詳細には示されていない。
【0057】
第1の態様では、本発明は、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するためのデバイスに関する。デバイスは、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波を受信する、例えば、送信する、および/または反射するための標的領域を有する支持素子と、支持素子によって支持され、標的領域に位置する、複数の位相調整素子であって、荷電粒子波が位相調整素子に衝突する、例えば、位相調整素子を通って、またはその近くに送信される、あるいは位相調整素子上、またはその近くに反射するときに、荷電粒子波の位相を局所的に調整するための、複数の位相調整素子と、を含む。デバイスはまた、各位相調整素子を個別に制御するための、複数の位相調整素子に接続された複数の制御線を含む。複数の位相調整素子は、2次元配列に編成され得る。さらに、複数の位相調整素子はまた、例えば、3次元に積層された複数の2次元配列を含む、3次元配列に編成され得る。
【0058】
図1および
図2を参照すると、本発明の実施形態による例示的なデバイス1が示されている。
【0059】
デバイス1は、ビーム軸Zに沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するように適合されている。荷電粒子波は、コヒーレント荷電粒子波であり得る。
【0060】
荷電粒子波は、電子波、または他の荷電粒子波、例えば、イオンまたはハドロン粒子波を含み得る。
【0061】
特に、デバイスは、動作中、例えば、位相シフト分解能および/または範囲制約、ならびに/あるいは設計によって課せられた空間分解能および/または範囲制約内で、例えば、設計パラメータによる境界および/または制約内で自由に選択可能な、例えば、2次元平面内で、自由に選択可能および制御可能な空間分布に従って荷電粒子波の位相を操作するのに適し得る。
【0062】
例えば、
図2に概略的に例解するように、デバイスは、荷電粒子波、例えば、球面波または平面波の初期空間位相分布を、デバイスへの入射時に、調整された位相分布に変化させ得る。例えば、デバイスに入射する波面Aは、デバイスによる制御可能な方法で出射波面Bに歪み得る。
【0063】
デバイス1は、ビーム軸Zに沿って伝播する荷電粒子波を受信するための標的領域を有する支持素子2、および支持素子によって支持され、標的領域に位置する複数の位相調整素子3を含む。したがって、支持素子は、ビーム軸Zに対して位相調整素子を機械的に支持および位置決めするための基板、フレーム、または同様の機械的支持構造を含み得る。
【0064】
例えば、支持素子2は、電子顕微鏡装置など荷電ビーム装置のための真空接触子ホルダを含み得る、それに含まれ得る、またはそれに取り付けられ得る。
【0065】
複数の位相調整素子3、例えば各位相調整素子3は、荷電粒子波が、位相調整素子に衝突する、例えば、位相調整素子を通して、または少なくともその近くに送信される、ならびに/あるいは位相調整素子によって、またはその近くで反射されるときに、例えば、その場合に、荷電粒子波の位相を局所的に調整するように適合されている。
【0066】
例えば、ビーム軸に沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布は、例えば、局所的な位相シフト波成分の干渉および回折により、例えば、対象となる構成可能な波面を得るように、複数の位相調整素子3によって調整され得る。
【0067】
デバイスはまた、各位相調整素子を個別に制御する、例えば、電力供給および制御するための、例えば、各位相調整素子に制御信号を供給して、その位相調整素子によって荷電粒子波の局所位相調整を制御するための、複数の位相調整素子3に接続された複数の制御線4、例えば、導電体を含む。
【0068】
複数の位相調整素子3は、2次元配列に編成され得る。例えば、2次元配列は、デバイスの動作中、ビーム軸Zに対してある角度で平面に配向され得る。例えば、2次元配列は、標的領域のデカルトグリッドまたは他のタイリングを含み得る。
【0069】
しかしながら、本発明の実施形態は、必ずしもそれに限定されず、例えば、本発明の実施形態によるデバイスでは、位相調整素子は、論理的および/または物理的に単一の行に編成され得、例えば、複数の位相調整素子3は、1次元配列に編成され得る。例えば、かかる1次元配列は、エネルギー分散面で有利に使用され、電子波束の時間的挙動を調整し得る。例えば、エネルギー面内の位相は、この位相を調整することを使用して最高の時間分解能を得られ得るように、波束の時間的形状のために解読し得る。
【0070】
一般に、送信モードで動作しているデバイスの場合、角度は、ビーム軸Zに対して実質的に垂直であり得る。一般に、反射モードで動作しているデバイスの場合、例えば、静電ミラー素子を含むデバイスの場合、角度は、0°~90°の範囲であり得る。
【0071】
例えば、位相調整素子3は、例えば、各位相調整素子が少なくとも列インデックスおよび行インデックスによって特定され得るように、論理行および論理列において論理的に編成され得る、または編成可能であり得る。かかる行および列は、必ずしもデカルト座標に対応する必要はないが、別の座標系、例えば、極座標系に対応し得る。
【0072】
例えば、2次元配列は、例えば
図11に例解するように、位相調整素子3のデカルトグリッドを形成し得る。言い換えれば、位相調整素子3は、物理行および物理列に物理的に編成され得る。例えば、列の数は、少なくとも2個、好ましくは少なくとも4個、例えば、少なくとも6個、少なくとも8個、または少なくとも10個であり得る。例えば、行の数は、少なくとも2個、好ましくは少なくとも4個、例えば、少なくとも6個、少なくとも8個、または少なくとも10個であり得る。行の数および列の数は、大きさが等しいか、または少なくとも類似し得る。本発明の実施形態は、実質的に10を、さらに1桁以上、例えば、1×10
2またはさらに1×10
3超える行および/または列の数を除外しない。本発明の実施形態は、行および/または列の不規則な間隔をあけること、異なるタイリング(例えば、互いに連続する行の列をオフセットすることによる)、および/またはグリッドでカバーされる領域を非長方形の境界(例えば、実質的に円形または六角形の境界)に制限することによるなど、様々な方法で、典型的なデカルトグリッドから逸脱し得ることも理解されるものとする。
【0073】
図12および
図13を参照すると、2次元配列は、位相調整素子3の極グリッドを形成し得る。例えば、各位相調整素子(の中心)は、(任意の基準方向に対する)中心からの径方向距離座標および角度座標に対応し得る。論理行(または同等に、論理列)は、中心からの異なる径方向距離に対応し、論理列(それぞれ論理行)は、異なる角度座標に対応する。例えば、位相調整素子は、グループに配設されてもよく、各グループの位相調整素子は、そのグループに固有の径方向距離に実質的に対応する。かかるグループの数は、少なくとも2個、好ましくは少なくとも4個、例えば少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、または少なくとも12個であり得る。同様に、各径方向グループにおいて、位相調整素子は、複数の角度座標、例えば、少なくとも2個、好ましくは少なくとも4個、例えば、少なくとも6個、少なくとも8個、少なくとも10個、または少なくとも12個の角度座標に対応し得る。例えば、
図12は、12個の径方向座標および4個の角度座標が極グリッド構造によってカバーされる構成を例解する。
図13は、4個の径方向座標および12個の角度座標が極グリッド構造によってカバーされる構成を例解する。本発明の実施形態は、実質的に10を、さらに1桁以上、例えば1×10
2またはさらに1×10
3超える径方向に配設された行および/または角度的に配設された列の数を除外しない。また、本発明の実施形態は、行および/または列の不規則な間隔をあけること、異なる径方向の「列」に対して「行」に配設された異なる(または等しい)数の角のある弧または弓型、および/または異なるタイリング(例えば、互いに連続する行の列を角度的にオフセットすることによる)など様々な方法で、典型的な極グリッドから逸脱し得ることも理解されるものとする。
【0074】
様々な例示的な例において、位相調整素子は、円形素子として図面に描かれているが、これは限定的ではなく、位相調整素子の形状および構造は、本発明の基礎となる原理からそれることなく実施形態によって異なり得ることは当業者に明らかであるものとする。例えば、位相調整素子は、円形素子、長方形素子、正方形素子、三角形素子、六角形素子だけでなく、弧(例えば、円の)、扇形(例えば、円の)、または弓形(例えば、円の)として成形され得る。例えば、弧、弓形、および/または扇形として成形された位相調整素子は、
図12および
図13に例解するような極グリッド配置に特に適し得る。
【0075】
本発明の実施形態では、各位相調整素子3は、位相調整素子をコントローラ5に直接接続するための対応する制御線4に直接接続され得る。例えば、
図4を参照すると、各位相調整素子3が、対応する導電体4に電気的に接続されているデバイス1が示されている。
【0076】
本発明の他の実施形態では、各位相調整素子3は、位相調整素子をコントローラ5に接続するための一対の制御線4に直接接続され得る。かかる対の導電体は、列信号線および行信号線を含み得、各々は、複数の位相調整素子の(異なる)サブセットに、例えば、それぞれ、論理列を形成する位相調整素子、および論理行を形成する位相調整素子に接続されている。
【0077】
例えば、
図3を参照すると、位相調整素子3は、第1の導電体4、例えば、行信号線14に接続された第1の端子、例えば、ゲート端子と、第2の導電体4、例えば、列信号線15に接続された第2の端子、例えば、ソースまたはドレイン端子と、蓄電装置、例えば、キャパシタに接続された第3の端子、例えば、ドレインまたはソース端子と、を含む少なくとも1つのトランジスタを含み得る。キャパシタは、以下でさらに説明するように、電極11および/またはさらなる電極(複数可)12に接続されるか、またはそれらによって形成され得る。
【0078】
別の例では、少なくとも1つのトランジスタは、第1の導電体4、例えば、行信号線に接続された第1の端子、例えば、第1のゲート端子と、第2の導電体4、例えば、列信号線に接続された第2の端子、例えば、第2のゲート端子と、を有するダブルゲートトランジスタを含み得る。第3の端子、例えば、ソース端子またはドレイン端子は、蓄電装置、例えば、キャパシタに接続され得る。キャパシタは、以下でさらに説明するように、電極11および/またはさらなる電極(複数可)12に接続されるか、またはそれらによって形成され得る。第4の端子、例えば、ドレイン端子またはソース端子は、第3の導電体4、例えば、電源線に接続され得る。
【0079】
しかしながら、本発明の実施形態は、例えば、アドレス指定可能な電子配列の技術分野で知られているようなアドレス指定手段に限定されず、各位相調整素子は、例えば、配列を、所定の基準状態、例えば接地電位にリセットするための、および/または動作中に位相調整素子の選択された位相状態を維持するために供給電圧を供給するためのリセット手段を実装するための、追加のトランジスタおよび/または追加の導電体へのさらなる接続部を含み得る。例えば、位相調整素子が、選択された位相調整を行うために動作中に電流を必要とする場合、電流は供給線を介して供給され得、この電流の流れは、蓄電装置に蓄積された電荷に従って、例えば、さらなるトランジスタを介して制御され得る。
【0080】
各位相調整素子3は、アインツェルレンズなど静電位相調整素子を含み得る。例えば、
図4および
図5を参照すると、各位相調整素子は、電極11を含む得、導電体4の少なくとも1つは、例えば、電位を直接供給するための電極11の電位を制御するように、または、電位の供給を間接的に制御するように適合され得る。したがって、電極11の近傍の制御可能な静電電位は、荷電粒子波の局所的位相シフトを制御し得る。電極11は、円筒形状、トロイダル形状、またはリング形状であり得、例えば、かかる形状によって画定される開口部を通って移動しながら、また有利には電極上の荷電粒子の吸収、反射または散乱を低減する荷電粒子の位相に影響を与え得る。しかしながら、本発明の実施形態は、必ずしも上記の形状に限定されない。例えば、電極11は、六角形、正方形、パイ状、円弧状、弓状、または別の形状を有し得る。
【0081】
さらに、各位相調整素子は、それぞれが導電体4を介して個別に制御されるように適合されている複数の電極11を含み得る。したがって、複数の電極は、単一の位相調整素子に接続して、素子ごとに、制御可能な平坦な位相面だけでなく、傾斜した位相面も提供し得る。
【0082】
デバイスは、第1の基準電極12および/または第2の基準電極13を含み得る。
【0083】
第1の基準電極12および第2の基準電極13は、ビーム軸Zの方向に対して、複数の位相調整素子3の電極11の上方の平面および下方の平面をそれぞれ形成し得る。例えば、第1の基準電極12および/または第2の基準電極13には、基準電位、ならびに/あるいはそれぞれ第1の基準電位および第2の基準電位が供給され得る。例えば、第1の基準電極12および/または第2の基準電極13は、電気的に接地され得る。第1の基準電極および/または第2の基準電極は、平面であり得るが、他の形状も本開示によって企図される。
図6を参照すると、第1の基準電極および/または第2の基準電極は、例えば、基準電極に入射する荷電粒子の吸収、散乱、および/または反射を低減しながら、電極によって定義される表面上の電位の良好な均一性を維持するために、穿孔され得る。
【0084】
代替的に、デバイスは、1つの基準電極12または複数の基準電極12を含み得、この第1の基準電極(複数可)は、複数の電極11と同一平面上に配設される。例えば、各位相調整素子は、電極11および基準電極12を含み得る。例えば、基準電極は、電気的に接地され得、または別の所定の基準電位に維持され得る。
【0085】
例えば、基準電極(複数可)12は、電極11から分離され得、例えば、電極11の周りで少なくとも270°の角度にわたって各電極11を取り囲み得る。例えば、基準電極は、リングを形成してもよく、または類似の構造は、電極11の周りにトポロジカルホールを有し得る。
【0086】
代替的に、デバイスは、例えば、入射荷電粒子波に対して良好な透明性を達成するために十分に薄い、電気絶縁薄膜を含み得る。複数の位相調整素子3は、例えば、電気絶縁膜上に、制御可能な、典型的には不均一な表面電荷を生成するために、電気絶縁膜上の表面電荷を空間的に変調するように適合され得る。
【0087】
したがって、デバイスは、アインツェルレンズの配列を含み得る。しかしながら、各位相調整素子3はまた、例えば、
図8および
図9に示すように、静電ミラーなど異なる静電位相調整素子を含み得、各位相調整素子3は、例えば、電極のパターン化された配列を形成する電極31を含み得る。かかる実施形態では、デバイスはまた、プリズム32、およびさらなる基準電極12、例えば、電気的に接地された電極12を含み得る。例えば、さらなる基準電極12は、電極11とプリズム32との間に配設され得、プリズムは、入射荷電粒子波をさらなる基準電極12および電極11に向けるように構成され得る。同様に、プリズムは、静電ミラーによって反射された反射波を、方向転換される前に入射荷電粒子波のビーム方向に沿って実質的に伝播し続けるように方向付け得る。電極11の配列は、(仮想)変形可能な鏡面を形成し得る。
【0088】
静電ミラーは、例えば、
図9に例解するように、従来の静電荷電粒子光学ミラーを動作させるために必要とされる高い電位を有利に低減するための斜入射ミラーであり得る。
【0089】
代替的に、または加えて、複数の位相調整素子3は、制御可能な磁気素子を含み得る。各制御可能な磁気素子は、磁場を局所的に制御して、Aharanov‐Bohm効果による荷電粒子波の位相を局所的に調整するように適合され得る。例えば、かかる位相調整素子は、ソレノイド、例えば、トロイダルソレノイドを含み得る。かかる位相調整素子は、例えば、スキルミオン格子を形成するように、磁気スキルミオンを記憶するための磁性材料を含み得る。例えば、複数の制御線4は、位相調整素子におけるスキルミオン状態を局所的に生成および/または変更するための導電体を含み得、または制御可能に、例えば、磁気バスに接続されたスキルミオン生成器において生成されたスキルミオンを、位相調整素子に伝播させるようにするための複数の磁気バスを含み得、それは、デバイスの動作中に記憶され得る。位相調整素子は、例えば
図10に示すような強磁性リング35など、磁気渦状態を記憶するための磁化可能な素子を含み得る。
【0090】
デバイス1はまた、各位相調整素子によって引き起こされる荷電粒子ビームの局所位相調整を個別に制御するための複数の制御線に接続されたコントローラを含み得る。
【0091】
例えば、コントローラ5は、複数の導電体を介して各位相調整素子のアドレス指定を制御するためのアドレス指定装置を含み得る。例えば、かかるアドレス指定装置は、例えばDRAMアドレッシングで知られているように、マルチプレクサおよび/またはデマルチプレクサを含み得る。
【0092】
コントローラ5は、空間位相分布の空間パターンをプログラムし、複数の導電体を介して複数の位相調整素子を制御して、それに応じてデバイスをプログラムするためのプロセッサを含み得る。
【0093】
コントローラは、ユーザからの入力を受信して、空間パターンを選択および/または定義するように適合され得る。
【0094】
コントローラ5は、複数の位相調整素子と相互作用した後の荷電粒子波の空間位相分布をシミュレートするためのシミュレータを含み得る。
【0095】
コントローラ5は、複数の位相調整素子に対する複数の設定を数値的に最適化および/または計算して、ユーザからの入力として受信された空間位相分布を取得または近似するように適合され得る。
【0096】
さらに、コントローラ5は、整合フィルタを計算するように、例えば、波-サンプル相互作用をシミュレートするように適合され得る。例えば、量子力学の(一組の)方程式、例えば、高速電子およびサンプルシステムに対するシュレーディンガー方程式は、相互作用をモデル化して解き得る。整合フィルタのこの計算は、位相調整素子の構成によって実装される位相フィルタの反復最適化を含み得る。例えば、整合フィルタは、対象となる所定の分子など、サンプル中の対象となる特徴に結合され得る。
【0097】
第2の態様では、本発明は、標的領域がビーム軸Zに沿って伝播する電子波に配置されているときに、電子顕微鏡装置のビーム軸Zに沿って伝播する電子波の空間位相分布を局所的に操作するための、本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスを含む電子顕微鏡装置に関する。
【0098】
例えば、電子顕微鏡装置は、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、および/または低エネルギー電子顕微鏡を含み得る。
【0099】
本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスは、装置の対物レンズの後部焦点面、および/または装置の前部焦点面、例えば装置のコンデンサ面に配置され得る。
【0100】
プログラム可能および/または動的な電子ビーム成形を達成し得ること、例えば、電子ビームの波状態を調整するための多用途かつ高速な方法を提供することは、実施形態の利点である。例えば、静的なホログラフィック位相板の面倒な製造は、回避され得る。さらに、例えば、TEM装置における、実施形態によるデバイスと交換され得る位相板または他の素子の挿入は、通常、大幅なダウンタイムを引き起こし得、それは、実施形態によるプログラム可能なデバイスによって回避され得る。さらに、かかる従来のホログラフィックマスクまたは他の静的位相調整手段は、通常、成形された電子ビームのいかなる反復最適化をも除外し得、したがって、研究および用途をヒーロー実験および独自の実現に制限する。
【0101】
本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスは、例えば、かかる走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡の能力を拡張するために、例えば、装置の組み込みにおいて、従来の位相板の多用途の代替品として使用され得る。
【0102】
例えば、
図14は、半波長位相板を実装するように、電子ビーム(
図14の下部に示すビームプロファイルを参照)を成形するための、
図13に示すように配設された静電位相調整素子を含む、本発明の実施形態によるデバイスの2つの構成、例えば動的に構成可能な構成を示す。同様に、
図15は、1/4波長位相板を実装するための構成および対応するビームプロファイルを示す。
図16は、渦波位相板を実装するための構成および対応するビームプロファイルを示す。
図17は、描かれてもいるように、非自明なビームプロファイルを生成するためのかかるデバイスの動的に構成可能な設定の2つのさらなる例を示す。
【0103】
本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスは、電子顕微鏡内に収差補正器(またはその一部)を形成し得る。
【0104】
透過型電子顕微鏡法では、より少ない電子でより多くの情報を取得し得、高速かつ効率的な調整、例えば、ビーム損失を減らし、コントラストおよび/または解像度を改善し、スループットを改善し、ならびに再現性を改善することが実現され得る。さらに、安価かつ小型な装置が、実現され得る。
【0105】
走査型電子顕微鏡法では、例えば、回折限界に近いビームを低コストで取得することにより、高い空間分解能が実現され得る。
【0106】
第3の態様では、本発明は、例えば、電子顕微鏡装置など荷電粒子ビーム装置において、ビーム軸Zに沿って伝播する荷電粒子波の空間位相分布を局所的に操作するための方法に関する。本方法は、例えば粒子加速器、例えば電子銃を使用して、ビーム軸Zに沿って伝播する荷電粒子波を提供することを含む。本方法は、空間位相分布の空間パターンに従って、各位相調整素子に対する位相を個別に構成するように、例えば、2次元配列に編成された複数の位相調整素子3を制御することを含む。本方法はまた、複数の位相調整素子3に荷電粒子波を衝突させることにより、荷電粒子波の位相を局所的に調整することを含む。
【0107】
本方法は、本発明の第1の態様の実施形態によるデバイスを動作させる、例えば使用することを含み得る。
【0108】
本方法は、本発明の第2の態様の実施形態による装置において実行され得る。
【0109】
本発明による方法のさらなる特徴は、上述の実施形態によるデバイスおよび/または装置の説明から明らかであろう。
【0110】
図7は、本発明の実施形態によって達成可能な例示的な空間位相分布を例解する。この例は、例えば
図4の写真に示すように、アインツェルレンズの2x2配列に関する。例示的なデバイスは、例えば、2×2素子グリッドを形成するために、イオンビームミリングによってパターン化されたチップ上に製造された。製造の方法は、それに限定されず、例えば、他のリソグラフィ技術、ならびに/あるいは他のCMOSおよび/またはMEMS処理技術を使用して、かかるデバイスを製造し得る。
【0111】
本例では、位相は、調整可能な4スリット構成で双極子場、四極子場、および渦場を生成することにより、プログラムされ得ることが示されている。
【0112】
例えば、建設的干渉21および相殺的干渉22は、位相調整素子のプログラムされた構成(挿入位相基準0,0,0,0、0,π,0,π、0,0,π,π、0,π,π,0、および0,1/2.π,3/4.π,πにより示すように)に従って観測される。また、渦特異点は、位相調整素子の単純な2x2グリッドによっても、作成され得ることが示されている。