(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】でんぷん含有固形状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20220713BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20220713BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20220713BHJP
【FI】
A23L5/00 N
A23L11/00 F
A23L11/00 A
A23L7/109 Z
(21)【出願番号】P 2022506977
(86)(22)【出願日】2021-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2021029429
(87)【国際公開番号】W WO2022030638
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/004828
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020135378
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】日比 徳浩
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05989620(US,A)
【文献】WANG N. et al.,Pasta-Like Product from Pea Flour by Twin-Screw Extrusion.,J. Food. Sci.,1999年,vol.64, no.4,pp.671-678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00-5/49
A23L 11/00-11/70
A23L 7/00-7/25
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆類を含むと共に、
下記(1)から(4)を全て充足するでんぷん含有固形状組成物。
(1)組成物中のでんぷんの含量が乾燥質量換算で20質量%以上である。
(2)下記(a)及び/又は(b)を充足する。
(a)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、300個/mm
2以下である。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満である。
(3)組成物中のでんぷんの糊化度が50質量%以上である。
(4)組成物の下記[値α]が60%以下であり、下記[値β]が35%以上である。
[値α]組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合。
[値β]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合。
[手順a]組成物の2.5%水分散液を粉砕処理し、タンパク質分解酵素処理を行った後、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして得る。
[条件A]1M水酸化ナトリウム水溶液に精製でんぷんを0.10質量%溶解し、37℃で30分静置後、等倍量の水と等倍量の溶離液とを加え、5μmフィルターろ過したろ液5mLをゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定する。
【請求項2】
前記[値α]に対する前記[値β]の比(β/α)が0.5以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記[値γ]が30%以下である、請求項1又は2に記載の組成物。
[値γ]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積割合。
【請求項4】
前記[値γ]に対する前記[値β]の比(β/γ)が10以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]で分析して得られる質量平均分子量対数が6.0以上である、請求項1~4の何れか一項に記載の組成物。
【請求項6】
組成物のでんぷん分解酵素活性が乾燥質量換算で30.0U/g以下である、請求項1~5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における660nmの吸光度が0.80以下である、請求項1~6の何れか一項に記載の組成物。
【請求項8】
組成物のタンパク質含量が乾燥質量換算で3.0質量%以上である、請求項1~7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
組成物のPDI(protein dispersibility index)値が55質量%未満である、請求項1~8の何れか一項に記載の組成物。
【請求項10】
組成物に下記[手順b]によりでんぷん・タンパク質分解処理を加えた後、超音波処理を加えてから粒子径分布を測定した場合におけるd
50及び/又はd
90が450μm未満である、請求項1~9の何れか一項に記載の組成物。
[手順b]
組成物の6質量%の水懸濁液を、0.4容量%のプロテアーゼ及び0.02質量%のα-アミラーゼにより20℃で3日間処理する。
【請求項11】
組成物の不溶性食物繊維含量が乾燥質量換算で2.0質量%以上である、請求項1~10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
組成物の全油脂分含量が乾燥質量換算で17質量%未満である、請求項1~11の何れか一項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物の乾量基準含水率が60質量%以下である、請求項1~12の何れか一項に記載の組成物。
【請求項14】
豆類が、乾量基準含水率15質量%未満の豆類である、請求項
1~13の何れか一項に記載の組成物。
【請求項15】
豆類が、成熟した豆類である、請求項
1~14の何れか一項に記載の組成物。
【請求項16】
豆類が、エンドウ属、インゲンマメ属、キマメ属、ササゲ属、ソラマメ属、ヒヨコマメ属、ダイズ属、及びヒラマメ属から選ばれる1種以上の豆類である、請求項
1~15の何れか一項に記載の組成物。
【請求項17】
豆類が、超音波処理後粒子径d
90が500μm未満の豆類粉末の形態である、請求項
1~16の何れか一項に記載の組成物。
【請求項18】
豆類の含量が、乾燥質量換算で50質量%以上である、請求項
1~17の何れか一項に記載の組成物。
【請求項19】
組成物の総でんぷん含量に対する、豆類に含有された状態で配合されているでんぷんの含量比率が30質量%以上である、請求項
1~18の何れか一項に記載の組成物。
【請求項20】
組成物の総タンパク質含量に対する、豆類に含有された状態で配合されているタンパク質の含量比率が10質量%以上である、請求項
1~19の何れか一項に記載の組成物。
【請求項21】
膨化物ではない、請求項1~
20の何れか一項に記載の組成物。
【請求項22】
請求項1~
21の何れか一項に記載の組成物を粉砕してなる、粉砕組成物。
【請求項23】
請求項
22に記載の粉砕組成物を凝集してなる、粉砕組成物凝集体。
【請求項24】
下記段階(i)及び(ii)を含む、請求項1~
21の何れか1項に記載のでんぷん含有固形状組成物の製造方法。
(i)
豆類を含むと共に、でんぷん含量が湿潤質量基準で10.0質量%以上、乾量基準含水率40質量%超である組成物を調製する段階。
(ii)前記段階(i)の調製後の組成物を、温度100℃以上190℃以下、SME値400kJ/kg以上の条件下で、下記(1)~(4)の全ての条件を充足するまで混練する段階。
(1)組成物が下記(a)及び/又は(b)を満たす。
(a)組成物の前記でんぷん粒構造が300個/mm
2以下となる。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満となる。
(2)組成物の前記糊化度が50質量%以上となる。
(3)組成物の前記[値α]が60%以下となる。
(4)組成物の前記[値β]が35%以上となる。
【請求項25】
(iii)段階(ii)の混練後の組成物を、100℃未満まで降温する段階を更に含む、請求項
24に記載の製造方法。
【請求項26】
(iv)組成物の乾量基準含水率を25質量%未満とする段階を更に含む、請求項
24又は
25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記段階(ii)以降で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間が10分間以上である、請求項
26に記載の製造方法。
【請求項28】
段階(iii)以降の段階で加水処理を行うことにより、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間を調整する、請求項
24~
27の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項29】
段階(ii)以降において、糊化度低下差分が1質量%以上となる段階を含む、請求項
24~
28の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項30】
(v)少なくとも前記段階(ii)の後に、得られた組成物を粉砕し、粉砕組成物とする段階を更に含む、請求項
24~
29の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項31】
(vi)前記段階(v)の後、得られた粉砕組成物を凝集し、粉砕組成物凝集体とする段階を更に含む、請求項
30に記載の製造方法。
【請求項32】
前記段階(ii)をエクストルーダーを用いて実施する、請求項
24~
31の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項33】
段階(i)の組成物の調製が、エクストルーダー投入前の原材料に予め加水することを含む、請求項
32に記載の製造方法。
【請求項34】
段階(i)の組成物の調製が、エクストルーダーに原材料を投入後、エクストルーダー内の原材料に加水することを含む、請求項
32又は
33に記載の製造方法。
【請求項35】
段階(i)において、エクストルーダー内の原材料が乾量基準含水率25質量%未満の状態で90℃以上の高温に曝露されない、請求項
34に記載の製造方法。
【請求項36】
エクストルーダーの内部温度が90℃以上に上昇する前に、製造中に段階(i)及び段階(ii)において配合される総水分量の50質量%以上を他原料と混合する、請求項
32~
35の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項37】
段階(iii)以降の組成物を、載置面の一部又は全部が通風性を有するメッシュ状コンベアに載置する、請求項
32~
36の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項38】
前記メッシュ状コンベアに載置される前後いずれかの段階で組成物に加水を行う工程を有する、請求項
37に記載の製造方法。
【請求項39】
組成物に対してメッシュ状コンベアの上部及び/又は下部から送風することで組成物温度を低下させることを含む、請求項
37又は
38に記載の製造方法。
【請求項40】
送風前後における糊化度低下差分が1質量%となる、請求項
39に記載の製造方法。
【請求項41】
エクストルーダーのスクリュー全長に対するフライトスクリュー長が95%以下である、請求項
32~
40の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項42】
前記段階(ii)において更に(c)又は(d)を充足する、請求項
24~
41の何れか一項に記載の製造方法。
(c)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、段階(ii)の前後で5%以上低下する。
(d)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が、段階(ii)の前後で1℃以上低下する。
【請求項43】
前記段階(i)における組成物に前記[手順b]によりでんぷん・タンパク質分解処理を加えた後、超音波処理を加えてから粒子径分布を測定した場合におけるd
50及び/又はd
90が450μm未満である、請求項
24~
42の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項44】
前記段階(i)における組成物の総でんぷん含量に対する、加熱処理豆類に含有された状態で配合されるでんぷんの含量比率が30質量%以上である、請求項
24~
43の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項45】
前記でんぷん分解酵素活性(U/g)が、段階(ii)の前後で20%以上低下する、請求項
24~
44の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項46】
前記段階(i)における組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における660nmの吸光度が0.80以下である、請求項
24~
45の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項47】
前記段階(i)における組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における吸光度(660nm)に対する、分子量対数6.5以上8.0未満の分離画分を同様の方法で染色した場合における吸光度(660nm)の比率が0.003以上である、請求項
24~
46の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項48】
前記段階(i)における組成物におけるPDI値が90質量%未満である、請求項
24~
47の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項49】
豆類を含むと共に、下記(1)から(4)を全て充足するでんぷん含有固形状組成物。
(1)組成物中のでんぷんの含量が乾燥質量換算で20質量%以上である。
(2)下記(a)及び/又は(b)を充足する。
(a)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、300個/mm
2
以下である。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満である。
(3)組成物中のでんぷんの糊化度が50質量%以上である。
(4)組成物の下記[値α]が60%以下であり、下記[値β]の比(β/α)が0.5以上であり、下記[値γ]が30%以下である。
[値α]組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合。
[値β]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合。
[値γ]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積の割合。
[手順a]組成物の2.5%水分散液を粉砕処理し、タンパク質分解酵素処理を行った後、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして得る。
[条件A]1M水酸化ナトリウム水溶液に精製でんぷんを0.10質量%溶解し、37℃で30分静置後、等倍量の水と等倍量の溶離液とを加え、5μmフィルターろ過したろ液5mLをゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、でんぷん含有固形状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、でんぷんを主成分とする固形状組成物は、含水条件下で加熱すると吸水に伴って組成物の弾性が向上するが、加熱吸水に伴い組成物中の一部でんぷんの粘性が上昇して加工しにくい品質となる。このような課題を解決する方法として、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを単独添加又は既存の麺用改質剤と併用添加することにより麺線同士の付着を抑制し、適度の硬さ、弾力を改善した麺類を製造する方法などが知られている(特許文献1:特開2004-215543号公報)。
【0003】
しかし、従来知られた方法はポリソルベート等の改質剤を添加する方法であり、改質剤の好ましくない風味が付与されたり、昨今の消費者の安全志向から好ましくなかったりと、汎用的に用いることができる方法ではなかった。すなわち、でんぷんを主成分とする固形状組成物について、含水条件下で加熱した場合に、好ましい保水時弾性と保水時低粘性とを兼ね備えたでんぷん含有固形状組成物を提供する方法は従来存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、含水条件下で加熱した場合に、好ましい保水時弾性と保水時低粘性とを兼ね備えた、でんぷん含有固形状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は様々な植物のでんぷん及びその加工条件について鋭意検討した結果、主に豆類由来のでんぷんに加圧条件下で高温強混練加工を施すことで、その構成中の中間分子量の画分が増加し、含水条件下で加熱すると保水時弾性と保水時低粘性とを兼ね備えた好ましい物性の組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の趣旨は、例えば以下に関する。
[項1]下記(1)から(4)を全て充足するでんぷん含有固形状組成物。
(1)組成物中のでんぷんの含量が乾燥質量換算で20質量%以上である。
(2)下記(a)及び/又は(b)を充足する。
(a)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、300個/mm2以下である。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満である。
(3)組成物中のでんぷんの糊化度が50質量%以上である。
(4)組成物の下記[値α]が60%以下であり、下記[値β]が35%以上である。
[値α]組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合。
[値β]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合。
[手順a]組成物の2.5%水分散液を粉砕処理し、タンパク質分解酵素処理を行った後、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして得る。
[条件A]1M水酸化ナトリウム水溶液に精製でんぷんを0.10質量%溶解し、37℃で30分静置後、等倍量の水と等倍量の溶離液とを加え、5μmフィルターろ過したろ液5mLをゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定する。
[項2]前記[値α]に対する前記[値β]の比(β/α)が0.5以上である、項1に記載の組成物。
[項3]下記[値γ]が30%以下である、項1又は2に記載の組成物。
[値γ]前記分子量分布曲線の全曲線下面積に対する、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積割合。
[項4]前記[値γ]に対する前記[値β]の比(β/γ)が10以上である、項1~3の何れか一項に記載の組成物。
[項5]前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]で分析して得られる質量平均分子量対数が6.0以上である、項1~4の何れか一項に記載の組成物。
[項6]組成物のでんぷん分解酵素活性が乾燥質量換算で30.0U/g以下である、項1~5の何れか一項に記載の組成物。
[項7]組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における660nmの吸光度が0.80以下である、項1~6の何れか一項に記載の組成物。
[項8]組成物のタンパク質含量が乾燥質量換算で3.0質量%以上である、項1~7の何れか一項に記載の組成物。
[項9]組成物のPDI(protein dispersibility index)値が55質量%未満である、項1~8の何れか一項に記載の組成物。
[項10]組成物に下記[手順b]によりでんぷん・タンパク質分解処理を加えた後、超音波処理を加えてから粒子径分布を測定した場合におけるd50及び/又はd90が450μm未満である、項1~9の何れか一項に記載の組成物。
[手順b]
組成物の6質量%の水懸濁液を、0.4容量%のプロテアーゼ及び0.02質量%のα-アミラーゼにより20℃で3日間処理する。
[項11]組成物の不溶性食物繊維含量が乾燥質量換算で2.0質量%以上である、項1~10の何れか一項に記載の組成物。
[項12]組成物の全油脂分含量が乾燥質量換算で17質量%未満である、項1~11の何れか一項に記載の組成物。
[項13]組成物の乾量基準含水率が60質量%以下である、項1~12の何れか一項に記載の組成物。
[項14]組成物が豆類を含む、項1~13の何れか一項に記載の組成物。
[項15]豆類が、乾量基準含水率15質量%未満の豆類である、項14に記載の組成物。
[項16]豆類が、成熟した豆類である、項14又は15に記載の組成物。
[項17]豆類が、エンドウ属、インゲンマメ属、キマメ属、ササゲ属、ソラマメ属、ヒヨコマメ属、ダイズ属、及びヒラマメ属から選ばれる1種以上の豆類である、項14~16の何れか一項に記載の組成物。
[項18]豆類が、超音波処理後粒子径d90が500μm未満の豆類粉末の形態である、項14~17の何れか一項に記載の組成物。
[項19]豆類の含量が、乾燥質量換算で50質量%以上である、項14~18の何れか一項に記載の組成物。
[項20]組成物の総でんぷん含量に対する、豆類に含有された状態で配合されているでんぷんの含量比率が30質量%以上である、項14~19の何れか一項に記載の組成物。
[項21]組成物の総タンパク質含量に対する、豆類に含有された状態で配合されているタンパク質の含量比率が10質量%以上である、項14~20の何れか一項に記載の組成物。
[項22]膨化物ではない、項1~21の何れか一項に記載の組成物。
[項23]項1~22の何れか一項に記載の組成物を粉砕してなる、粉砕組成物。
[項24]項23に記載の粉砕組成物を凝集してなる、粉砕組成物凝集体。
[項25]下記段階(i)及び(ii)を含む、項1~22の何れか1項に記載のでんぷん含有固形状組成物の製造方法。
(i)でんぷん含量が湿潤質量基準で10.0質量%以上、乾量基準含水率40質量%超である組成物を調製する段階。
(ii)前記段階(i)の調製後の組成物を、温度100℃以上190℃以下、SME値400kJ/kg以上の条件下で、下記(1)~(4)の全ての条件を充足するまで混練する段階。
(1)組成物が下記(a)及び/又は(b)を満たす。
(a)組成物の前記でんぷん粒構造が300個/mm2以下となる。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満となる。
(2)組成物の前記糊化度が50質量%以上となる。
(3)組成物の前記[値α]が60%以下となる。
(4)組成物の前記[値β]が35%以上となる。
[項26](iii)段階(ii)の混練後の組成物を、100℃未満まで降温する段階を更に含む、項25に記載の製造方法。
[項27](iv)組成物の乾量基準含水率を25質量%未満とする段階を更に含む、項25又は26に記載の製造方法。
[項28]前記段階(ii)以降で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間が10分間以上である、項27に記載の製造方法。
[項29]段階(iii)以降の段階で加水処理を行うことにより、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間を調整する、項25~28の何れか一項に記載の製造方法。
[項30]段階(ii)以降において、糊化度低下差分が1質量%以上となる段階を含む、項25~29の何れか一項に記載の製造方法。
[項31](v)少なくとも前記段階(ii)の後に、得られた組成物を粉砕し、粉砕組成物とする段階を更に含む、項25~30の何れか一項に記載の製造方法。
[項32](vi)前記段階(v)の後、得られた粉砕組成物を凝集し、粉砕組成物凝集体とする段階を更に含む、項31に記載の製造方法。
[項33]前記段階(ii)をエクストルーダーを用いて実施する、項25~32の何れか一項に記載の製造方法。
[項34]段階(i)の組成物の調製が、エクストルーダー投入前の原材料に予め加水することを含む、項33に記載の製造方法。
[項35]段階(i)の組成物の調製が、エクストルーダーに原材料を投入後、エクストルーダー内の原材料に加水することを含む、項33又は34に記載の製造方法。
[項36]段階(i)において、エクストルーダー内の原材料が乾量基準含水率25質量%未満の状態で90℃以上の高温に曝露されない、項35に記載の製造方法。
[項37]エクストルーダーの内部温度が90℃以上に上昇する前に、製造中に段階(i)及び段階(ii)において配合される総水分量の50質量%以上を他原料と混合する、項33~36の何れか一項に記載の製造方法。
[項38]段階(iii)以降の組成物を、載置面の一部又は全部が通風性を有するメッシュ状コンベアに載置する、項33~37の何れか一項に記載の製造方法。
[項39]前記メッシュ状コンベアに載置される前後いずれかの段階で組成物に加水を行う工程を有する、項38に記載の製造方法。
[項40]組成物に対してメッシュ状コンベアの上部及び/又は下部から送風することで組成物温度を低下させることを含む、項38又は39に記載の製造方法。
[項41]送風前後における糊化度低下差分が1質量%となる、項40に記載の製造方法。
[項42]エクストルーダーのスクリュー全長に対するフライトスクリュー長が95%以下である、項33~41の何れか一項に記載の製造方法。
[項43]前記段階(ii)において更に(c)又は(d)を充足する、項25~42の何れか一項に記載の製造方法。
(c)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、段階(ii)の前後で5%以上低下する。
(d)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が、段階(ii)の前後で1℃以上低下する。
[項44]前記段階(i)における組成物に前記[手順b]によりでんぷん・タンパク質分解処理を加えた後、超音波処理を加えてから粒子径分布を測定した場合におけるd50及び/又はd90が450μm未満である、項25~43の何れか一項に記載の製造方法。
[項45]前記段階(i)における組成物の総でんぷん含量に対する、加熱処理豆類に含有された状態で配合されるでんぷんの含量比率が30質量%以上である、項25~44の何れか一項に記載の製造方法。
[項46]前記でんぷん分解酵素活性(U/g)が、段階(ii)の前後で20%以上低下する、項25~45の何れか一項に記載の製造方法。
[項47]前記段階(i)における組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における660nmの吸光度が0.80以下である、項25~46の何れか一項に記載の製造方法。
[項48]前記段階(i)における組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整した試料1質量部を、9質量部のよう素溶液(0.25mM)で染色した場合における吸光度(660nm)に対する、分子量対数6.5以上8.0未満の分離画分を同様の方法で染色した場合における吸光度(660nm)の比率が0.003以上である、項25~47の何れか一項に記載の製造方法。
[項49]前記段階(i)における組成物におけるPDI値が90質量%未満である、項25~48の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のでんぷん含有固形状組成物は、含水条件下で加熱した場合に、好ましい保水時弾性と保水時低粘性とを兼ね備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、試験例の組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0011】
[I.でんぷん含有固形状組成物]
本発明の一態様は、以下に説明する特定の特性を備えたでんぷん含有固形状組成物(以下適宜「本発明のでんぷん含有固形状組成物」又は単に「本発明の組成物」と称する。)に関する。
【0012】
・組成物の態様:
本発明のでんぷん含有固形状組成物は、含水条件下で加熱した場合に、好ましい保水時弾性と保水時低粘性とを兼ね備えていることから、食品に用いることが好ましい。その態様としては、そのまま食品として喫食に用いる組成物(食品組成物)であってもよいが、食品の原料として用いられる組成物(食品原料組成物)であってもよい。食品原料組成物の場合、後述するように、粉砕された状態の組成物(粉砕組成物)であってもよく、斯かる粉砕組成物をさらに凝集した状態の組成物(粉砕組成物凝集体)であってもよい。何れの場合でも、本発明の組成物は、特に成分が溶出しやすい調理環境である液中(特に水中)での加熱調理に供される加熱調理用でんぷん含有組成物であることが好ましい。例えば加熱調理用でんぷん含有組成物が麺やパスタ等の麺線又は麺帯状組成物であった場合、喫食のために水中における加熱調理(例えば90℃以上の水中で5分以上)された後においても、喫食が可能な形状が保持されるような性質を有するため、麺やパスタ等の麺線又は麺帯状組成物であることが好ましい。
【0013】
本発明の組成物の例としては、これらに限定されるものではないが、パスタ、中華麺、うどん、稲庭うどん、きしめん、ほうとう、すいとん、ひやむぎ、素麺、蕎麦、蕎麦がき、ビーフン、フォー、冷麺の麺、春雨、オートミール、クスクス、きりたんぽ、トック、ぎょうざの皮等が挙げられる。
【0014】
パスタの例としては、ロングパスタとショートパスタとが挙げられる。
【0015】
ロングパスタとは、通常細長いパスタの総称であるが、本発明においては、うどんやそば等も包含する概念である。具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、スパゲッティ(直径:1.6mm~1.7mm)、スパゲッティーニ(直径:1.4mm~1.5mm)、ヴァーミセリ(直径:2.0mm~2.2mm)、カッペリーニ(直径:0.8mm~1.0mm)、リングイネ(短径1mmほど、長径3mmほど)、タリアテッレ又はフェットチーネ(幅7mm~8mmほどの平麺)、パッパルデッレ(幅10mm~30mmほどの平麺)等が挙げられる。ロングパスタは加熱料理時に形状崩壊しやすい商品特性を有しやすいため、本発明の組成物とすることが有用であり好ましい。
【0016】
ショートパスタとは、通常短いパスタの総称であるが、本発明においては、フレーゴラ(粒状のパスタ)やクスクス等の成型後更に小サイズに加工されたものも包含する概念である。具体例としては、これらに限定されるものではないが、マカロニ(直径が3mm~5mm前後の円筒状)、ペンネ(円筒状の両端をペン先のように斜めにカットしたもの)、ファルファーレ(蝶のような形状)、コンキリエ(貝殻のような形状)、オレッキエッテ(耳のような形状のドーム型)等が挙げられる。
【0017】
・乾燥状態の組成物:
本発明の組成物は、水分を比較的多く含む(具体的に乾量基準含水率25質量%以上)組成物であってもよく、水分を比較的少なく含む(具体的に乾量基準含水率25質量%未満)乾燥組成物であってもよいが、保管上の便宜から乾燥状態の乾燥組成物とすることができる。特に、後述する保水処理を行いつつ乾燥状態の組成物とすることで、組成物同士が結着しにくい組成物となるため有用である。
【0018】
なお、本発明において「乾燥」状態とは、乾量基準含水率25質量%未満であり、且つ、水分活性値が0.85以下である状態を指す。なお、組成物中の含水率は、乾燥粉末を後述の減圧加熱乾燥法に供して測定することが可能であり、また、水分活性値は、一般的な水分活性測定装置(例えば電気抵抗式(電解質式)湿度センサを用いたノバシーナ社製「LabMaster-aw NEO」)を用い、定法に従って測定することが可能である。
【0019】
・細長く成型された組成物:
本発明の組成物は、従来のでんぷん含有固形状組成物が有する任意の形状とすることが可能であるが、特にロングパスタ等の細長く成型された組成物とすることができる。
【0020】
斯かる細長く成型された態様における本発明の組成物は、特に限定されるものではないが、通常20mm以下、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは3mm以下、より更に好ましくは2mm以下の直径を有することが好ましい。なお、組成物の「直径」とは、組成物の長手方向に対して垂直に切断した際の切断面の長径(断面中の任意の2点を結ぶ線分の最大長)のことを意味する。ここで、当該切断面が円形であればその直径、楕円形であればその長軸、長方形(例えば板状に成型された組成物等の場合)であればその対角線が、それぞれ組成物の「直径」に該当する。
【0021】
(でんぷん及びその含有量)
本発明の組成物は、でんぷんを含有する。特に、本発明の組成物は、でんぷんを所定割合以上含有することで、加熱調理後の吸水に伴って弾性が感じられるという効果が得られやすくなる。その原因は定かではないが、高温高圧高混練処理により、組成物中のでんぷんのうち、比較的分子量の大きい画分がネットワーク構造を形成することで、その結果として前記効果を奏している可能性がある。本発明において「加熱調理」とは、一般的に、火やマイクロ波を用いて直接的に、又は、水や空気等の媒体を通じて間接的に、食品に熱を加えることで、食品の温度を上げる調理方法をいう。一般的には、約70℃以上、典型的には80℃~180℃程度の加熱温度で、例えば1分以上60分以内の時間に亘って調理することを表す。斯かる加熱調理の方法として、例えば、焼く、煮る、炒める、蒸す等を挙げることができるが、本発明における組成物は液中で加熱調理を行った場合に形状が崩れにくいという特性を有する。本発明においては、加熱調理が特に水を主体(過半含有)とする液中で加熱調理する組成物であることが好ましく、ひいては本発明の組成物が液中加熱調理後に喫食する液中加熱調理用組成物であることが特に好ましい。
【0022】
具体的に、本発明の組成物中のでんぷん含有量の下限は、乾燥質量換算で通常20質量%以上である。中でも25質量%以上、とりわけ30質量%以上、又は35質量%以上、又は40質量%以上、又は45質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましい。一方、本発明の組成物中のでんぷん含有量の上限は、特に制限されるものではないが、例えば乾燥質量換算で85質量%以下、中でも80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下とすることができる。
【0023】
本発明の組成物中のでんぷんの由来は特に制限されない。例としては、植物由来のものや動物由来のものが挙げられるが、豆類由来でんぷんが好ましい。具体的には、組成物全体の総でんぷん含有量に対する、豆類由来でんぷん含有量の比率が、通常30質量%以上、中でも40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。その上限は特に制限されず、通常100質量%以下である。豆類由来でんぷんとしては、特にエンドウ由来のものが好ましく、黄色エンドウ由来のものが最も好ましい。豆類については後述する。
【0024】
本発明の組成物中のでんぷんは、単離された純品として組成物に配合されたものであってもよいが、豆類に含有された状態で組成物に配合されていることが好ましい。具体的には、組成物全体の総でんぷん含有量に対する、豆類に含有された状態で配合されているでんぷん含有量の比率が、通常30質量%以上、中でも40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。その上限は特に制限されず、通常100質量%以下である。
【0025】
なお、本発明において、組成物中のでんぷん含有量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、AOAC996.11の方法に従い、80%エタノール抽出処理により、測定値に影響する可溶性炭水化物(ぶどう糖、麦芽糖、マルトデキストリン等)を除去した方法で測定する。
【0026】
(でんぷん粒構造)
本発明の組成物は、でんぷん粒構造の数が所定値以下であることが好ましい。その原理は不明であるが、でんぷん粒構造が破壊された状態で、後述する高温高圧強混練条件下で組成物を加工することで、でんぷんがマトリクス状に組成物全体に拡散し、でんぷん中のアミロペクチンが保水時弾性を発現しやすい構造となると考えられる。具体的には、本発明の組成物は、下記(a)及び/又は(b)を充足することが好ましく、(a)と(b)を共に充足することがさらに好ましい。
(a)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、300個/mm2以下である。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満である。
【0027】
上記(a)におけるでんぷん粒構造とは、平面画像中で直径1~50μm程度の円状の形状を有する、よう素染色性を有する構造であり、例えば、組成物の粉砕物を水に懸濁してなる6%の水懸濁液を調製し、拡大視野の下で観察することができる。具体的には、組成物の粉砕物を目開き150μmの篩で分級し、150μmパスの組成物粉末3mgを水50μLに懸濁することにより、組成物粉末の6%懸濁液を調製する。本懸濁液を載置したプレパラートを作製し、位相差顕微鏡にて偏光観察するか、又はよう素染色したものを光学顕微鏡にて観察すればよい。拡大率は制限されないが、例えば拡大倍率100倍又は200倍とすることができる。プレパラートにおけるでんぷん粒構造の分布が一様である場合は、代表視野を観察することでプレパラート全体のでんぷん粒構造の割合を推定することができるが、その分布に偏りが認められる場合は、有限の(例えば2箇所以上、例えば5箇所又は10箇所の)視野を観察し、観察結果を合算することで、プレパラート全体の測定値とすることができる。その理由は定かではないが、でんぷん含有素材及び/又は生地に高温強混練処理などを施すことででんぷん粒が破壊され、当該数値は減少すると考えられる。
【0028】
具体的に、本発明の組成物は、前記条件下で観察されたでんぷん粒構造の数が、通常300個/mm2以下、中でも250個/mm2以下、更には200個/mm2以下、とりわけ150個/mm2以下、又は100個/mm2以下、又は50個/mm2以下、又は30個/mm2以下、又は10個/mm2以下、特に0個/mm2であることが好ましい。
【0029】
上記(b)におけるラピッドビスコアナライザ(RVA)としては、測定対象物を140℃まで昇温可能な装置であればどのような装置であっても用いることができるが、例えば、Perten社製のRVA4800を用いることができる。RVAにて昇温速度12.5℃/分で測定したときの糊化ピーク温度は、具体的には以下の手順で測定する。即ち、乾燥質量3.5gの組成物試料を粉砕(例えば100メッシュパス(目開き150μm)120メッシュオン(目開き125μm)となるまで粉砕)した後、RVA測定用アルミカップに量りとり、蒸留水を加えて全量が28.5gとなるように調製した14質量%の試料水スラリー(単に「組成物粉砕物水スラリー」又は「試料水スラリー」と称する場合がある)を、上記[手順a]でのRVA粘度測定に供する。14質量%の組成物粉砕物水スラリーについて、50℃で測定を開始し、測定開始時~測定開始10秒後までの回転数を960rpm、測定開始10秒後~測定終了までの回転数を160rpmとし、50℃で1分間保持後、50℃~140℃までの昇温速度12.5℃/分で昇温工程を開始し、糊化ピーク温度(℃)を測定する。
【0030】
本発明では、でんぷん粒構造が少ない組成物においてはでんぷん粒構造の加水膨潤に伴う粘度上昇が起こらないか、起こってもわずかであるため、糊化ピーク温度も比較的低温になる傾向がある。従って、このように測定した糊化ピーク温度が所定温度より低くなり、好ましい効果が奏される。具体的にはその温度は120℃未満、中でも115℃未満であることが好ましい。その理由は定かではないが、でんぷん含有素材及び/又は生地に高温強混練処理などを施すことででんぷん粒が破壊され、当該数値は減少すると考えられる。でんぷん粒が破壊された組成物においても、構成成分が加水膨潤して疑似的に糊化ピーク温度を示す場合もあるため、その下限は特に制限されないが、通常80℃超、又は85℃超、又は90℃超、又は95℃超とすることができる。
【0031】
本発明における糊化ピーク温度とは、RVA昇温工程において所定温度範囲内での最高粘度(cP)を示した後に粘度が減少傾向に転じた際の温度(℃)を表し、でんぷん粒の耐熱性を反映した指標である。例えば、測定開始直後の50℃保持段階における粘度が最高であり、その後は粘度低下する組成物については、糊化ピーク温度は50℃となり、50℃~140℃までの昇温段階の任意の温度T℃(50≦T≦140)における粘度が最高であり、T℃以降の昇温段階においては粘度低下する組成物については、糊化ピーク温度はT℃となり、140℃保持段階における粘度が最高粘度である組成物については、糊化ピーク温度は140℃となる。
【0032】
なお、本発明において「組成物の粉砕物」、「組成物粉砕物」又は「粉砕組成物」とは、特に断りがない限り、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて超音波処理後の粒子径d50及び/又はd90(好ましくは粒子径d50及びd90の双方)が1000μm以下程度となるように粉砕した組成物を意味する。なお、超音波処理後の粒子径d50及び/又はd90(好ましくは粒子径d50及びd90の双方)の下限は特に限定されないが、通常1μm以上であることが好ましい。
【0033】
(でんぷんの糊化度)
本発明の組成物は、そのでんぷん糊化度が所定値以上であることを特徴の一つとする。具体的に、本発明の組成物中のでんぷん糊化度は、通常50質量%以上である。中でも60質量%以上、特に70質量%以上であることが好ましい。糊化度の上限は特に制限されず、100質量%以下であればよいが、糊化度があまりに高すぎるとでんぷんが分解し、組成物がべたべたした好ましくない品質となる場合がある。よって、糊化度の上限は99質量%以下、中でも95質量%以下、更には90質量%以下であることが好ましい。
【0034】
なお、本発明において組成物の糊化度は、関税中央分析所報を一部改変したグルコアミラーゼ第二法(Japan Food Research Laboratories社メソッドに従う:https://web.archive.org/web/20200611054551/https://www.jfrl.or.jp/storage/file/221.pdf又はhttps://www.jfrl.or.jp/storage/file/221.pdf)を用いて測定する。
【0035】
(でんぷんの分子量分布に関する特徴)
本発明の組成物は、組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを、下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布曲線から求められる、質量平均分子量(「重量平均分子量」と称される場合もある。)の対数、並びに、分子量分布曲線の全曲線下面積(分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布曲線の曲線下面積)に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合(これを適宜「[値α]」と称する。)、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合(これを適宜「[値β]」と称する。)、及び、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積の割合(これを適宜「[値γ]」と称する。)が、所定の条件を満たすことを好ましい特徴とする。
【0036】
なお、本発明において「分子量分布」又は「分子量分布曲線」とは、横軸(X軸)に分子量対数をプロットし、縦軸(Y軸)に測定範囲全体におけるRIディテクター測定値合計に対する、各分子量対数における測定値の百分率(%)をプロットして得られる分布図を表す。また、組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを、下記[条件A]の下で分析して得られる分子量分布曲線からの曲線下面積の算出に際しては、測定範囲内の最低値が0となるように曲線全体を数値補正した上で、分子量対数を横軸(X軸)に均等間隔にプロットして曲線下面積を算出することで、品質影響が大きいものの分子量換算では過小評価される低分子量画分([値α]付近の画分)について適切に評価することができる。
【0037】
・[手順a]:
前記[手順a]は、組成物の2.5%水分散液を液中の組成物ごと粉砕処理し、タンパク質分解酵素処理を行った後、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして得る手順である。斯かる[手順a]の技術的意義は、分子サイズが比較的近いタンパク質などの不純物を取り除くとともに、でんぷんのエタノール不溶性、ジメチルスルホキシド可溶性の性質を利用して精製したでんぷんを得ることで、ゲルろ過クロマトグラフィー実施中のカラム閉塞を防ぎ、分析の精度及び再現性を高めることにある。
【0038】
なお、本[手順a]における恒温処理後の粉砕処理は、組成物を十分に均質化できる方法であればよいが、例えばホモジナイザーNS52(マイクロテックニチオン社製)を用いて、例えば25000rpmで30秒破砕処理することにより行えばよい。
【0039】
また、本[手順a]におけるタンパク質分解酵素処理は、組成物中のタンパク質を十分に酵素分解できる処理であればよいが、粉砕処理を施した組成物に対して、例えば0.5質量%のタンパク質分解酵素(タカラバイオ社製Proteinase K、製品コード9034)を添加して、例えば20℃で16時間反応させることにより行えばよい。
【0040】
また、本[手順a]におけるエタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分の抽出は、限定されるものではないが、例えば以下のように行えばよい。即ち、(i)粉砕処理及びタンパク質分解酵素処理を施した組成物に対して、当初使用した組成物を基準として240倍量の99.5%エタノール(富士フイルム和光純薬社製)を添加し、混合した後、遠心分離(例えば10000rpmで5分)してエタノール不溶性画分を取得する。次に、(ii)得られたエタノール不溶画分に対して、当初使用した組成物を基準として80倍量のジメチルスルホキシド(CAS67-68-5、富士フイルム和光純薬社製)を添加し、攪拌しながら90℃で10分間処理することで溶解させ、溶解液を遠心分離(10000rpm5分)して上清を回収し、ジメチルスルホキシドに溶解した状態のジメチルスルホキシド可溶性画分を取得する。続いて、(iii)得られたジメチルスルホキシドに溶解した状態のジメチルスルホキシド可溶性画分に対して、当初使用した組成物を基準として240倍量の99.5%エタノールを添加し、混合した後、遠心分離(10000rpm、5分)によって沈殿画分を回収する。その後、(iv)前記(iii)を3回繰り返し、最終的に得られた沈殿物を減圧乾燥することで、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして取得すればよい。
【0041】
・[条件A]:
前記[条件A]は、1M水酸化ナトリウム水溶液に精製でんぷんを0.10質量%溶解し、37℃で30分静置後、等倍量の水と等倍量の溶離液(例えば0.05M NaOH/0.2% NaClを用いる)とを加え、5μmフィルターろ過したろ液5mLをゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定するという条件である。
【0042】
斯かる[条件A]の技術的意義は、アルカリ条件下で水に溶解させたでんぷんからフィルターろ過で不溶性の粗い異物を取り除くことで、ゲルろ過クロマトグラフィー実施中のカラム閉塞を防ぎ、分析の精度及び再現性を高めることである。
【0043】
・ゲルろ過クロマトグラフィー:
本発明では、組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを、前記[条件A]の下で得られた前記のろ液についてゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定する。こうして得られた分子量分布曲線を最低値が0となるようにデータ補正を行った上で分析することにより、質量平均分子量対数と、[値α](分子量分布曲線から求められる全曲線下面積全体に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合)、[値β](分子量分布曲線から求められる全曲線下面積全体に対する、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合)、及び[値γ](分子量分布曲線から求められる全曲線下面積全体に対する、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積の割合)を取得する。よって、ゲルろ過クロマトグラフィーは、これらの値を得られるように適切に設定することが望ましい。
【0044】
このため、本発明では、ゲルろ過クロマトグラフィーのゲルろ過カラムとしては、測定対象となる5.0以上9.5未満の分子量対数の中でも、特に中間の分子量対数範囲内(6.5以上8.0未満)及びそれ以下(6.5未満)の排除限界分子量(Da)の常用対数値を有するゲルろ過カラムを用いる。しかも、前記範囲内の異なる排除限界分子量を有する複数のゲルろ過カラムを使用し、これらを分析上流側から順に、排除限界分子量の大きいものから小さいものへと直列(タンデム状)に連結する。こうした構成とすることで、中間の[値β]に相当する分子量対数(6.5以上8.0未満)を有するでんぷんを、より小さな[値α]に相当する分子量対数(5.0以上6.5未満)を有するでんぷん、及び/又は、より大きな[値γ]に相当する分子量対数(8.0以上9.5未満)を有するでんぷんから分離し、各パラメーターを適切に測定することが可能となる。
【0045】
このようなゲルろ過カラムの組合せの具体例としては、例えば以下の4本のカラムを直列に連結する組合せが挙げられる。
・TOYOPEARL HW-75S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):7.7Da、平均細孔径100nm以上、Φ2cm×30cm):2本。
・TOYOPEARL HW-65S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):6.6Da、平均細孔径100nm、Φ2cm×30cm);1本。
・TOYOPEARL HW-55S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):5.8Da、平均細孔径50nm、Φ2cm×30cm):1本。
【0046】
ゲルろ過クロマトグラフィーの溶離液としては、限定されるものではないが、例えば0.05M NaOH/0.2% NaCl等を用いることが出来る。
【0047】
ゲルろ過クロマトグラフィーの条件としては、限定されるものではないが、例えばオーブン温度40℃、流速1mL/分で、単位時間0.5秒毎に分析を行うことができる。
【0048】
ゲルろ過クロマトグラフィーの検出機器としては、限定されるものではないが、例えばRIディテクター(東ソー社製RI-8021)等が挙げられる。
【0049】
ゲルろ過クロマトグラフィーのデータ解析法としては、限定されるものではないが、具体例としては以下が挙げられる。即ち、検出機器から得られた測定値のうち、測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の値について、最低値が0となるようにデータ補正を行った上で、ピークトップ分子量1660000とピークトップ分子量380000のサイズ排除クロマトグラフィー用直鎖型標準プルランマーカー2点(例えば、昭和電工社製のP400(DP2200、MW380000)及びP1600(DP9650、MW1660000)等)のピークトップ溶出時間から較正曲線を用いて、各溶出時間を分子量の常用対数値(分子量対数)に換算する。このように溶出時間を分子量対数値に換算することで、分子量対数値が均等な間隔で分布する測定データを得ることができる。また、測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の各溶出時間における検出機器の測定値(より具体的には、オーブン温度40℃、流速1mL/分で、単位時間0.5秒毎に取得した測定値)の合計を100とした場合の、各溶出時間(分子量対数)における測定値を百分率で表すことで、測定サンプルの分子量分布(X軸:分子量対数、Y軸:測定範囲全体におけるRIディテクター測定値合計に対する、各分子量対数における測定値の百分率(%))を算出し、分子量分布曲線を作成することができる。
【0050】
・質量平均分子量対数の値:
本発明の組成物は、前記手順で得られる分子量分布から求められる質量平均分子量対数が所定値以上であることで、弾性に優れた組成物となる場合があるため好ましい。具体的に、本発明の組成物の質量平均分子量対数(質量平均分子量の常用対数値)は6.0以上であることが好ましい。中でも6.1以上、更には6.2以上、とりわけ6.3以上、特には6.4以上であることが望ましい。一方、斯かる値の上限は、特に制限されるものではないが、通常9.0以下、中でも8.5以下、特には8.0以下であることが好ましい。
【0051】
なお、質量平均分子量の算出は、前記手順で得られる分子量分布曲線から、以下の手順で求めることが出来る。即ち、前記手順で得られる測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の値について、溶出時間から換算された各分子量に、前述の分子量分布におけるY軸の値(測定範囲全体のRIディテクター測定値合計に対する、各分子量における測定値の百分率%)の100分の1を乗じた値を積算することで、質量平均分子量を得ることができ、更にその常用対数値を算出することで質量平均分子量対数を得ることができる。例えば、分子量対数5.0における測定範囲全体のRIディテクター測定値合計に対する、各分子量における測定値の百分率%が10%である場合、まず分子量対数5.0から算出される分子量100000に、10%の100分の1の値(0.10)を乗じた値を算出し、同様の計算を測定対象範囲(分子量対数5.0以上9.5未満)全体について実施して、それらの値を合計することで質量平均分子量を得ることができ、更にその常用対数値を算出することで質量平均分子量対数を得ることができる。
【0052】
・分子量対数が所定範囲内の曲線下面積の割合:
本発明の組成物は、組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを、前記手順(条件A)の下で分析して得られる分子量分布曲線から求められる全曲線下面積(分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布曲線の曲線下面積)に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合[値α]、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合[値β]、及び、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積の割合[値γ]、並びに、[値α]に対する[値β]の割合(β/α)、及び、[値γ]に対する[値β]の割合(β/γ)が、それぞれ後述の条件を満たすことが好ましい。なお、これら[値α]、[値β]、及び[値γ]の値は、分子量分布曲線の測定範囲全体(分子量対数5.0以上9.5未満)における曲線下面積(全曲線下面積)に対する、対応する分子量対数範囲(例えば[値α]の場合、分子量対数5.0以上6.5未満の範囲)における曲線下面積の割合を算出することで求められる。
【0053】
・[値α]:
本発明の組成物は、前記の分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合[値α]が、所定値以下であることを特徴の一つとする。ここで、[値α]は、組成物中のでんぷんを前記手順で分解して得られるでんぷん分解物のうち、アミロース及びより高分子量のでんぷんに由来するでんぷん分解物の割合を示す値であると考えられる。具体的に、[値α]は、60%以下である。中でも55%以下、更には50%以下、とりわけ45%以下、又は40%以下、特には35%以下であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から、通常10%以上、更には20%以上であることが望ましい。
【0054】
なお、本発明の組成物は、当該分子量分布曲線において、前記[値α]に相当する分子量対数5.0以上6.5未満の範囲内に、1つ以上のピークが認められることが好ましく、ピークが1つのみ認められることがより好ましい。本発明の組成物は、こうした比較的分子量が小さいでんぷん画分の含有率が相対的に少ないことで、加水加熱時に保水時粘性が抑制された組成物となる場合があるため好ましい。その原理は不明であるが、比較的分子量が小さいこれらのでんぷんは加熱時に組成物外に流出しやすく、保水時に粘性が生じる原因となっている可能性がある。
【0055】
・アミロース含量:
なお、前述のように、分子量対数5.0以上6.5未満の曲線下面積の割合[値α]は、組成物中のでんぷんを前記手順で分解して得られるでんぷん分解物のうち、アミロース及びより高分子量のでんぷんに由来するでんぷん分解物の割合を示す値であると考えられる。これに対応して、本発明の組成物に含有されるでんぷん全体に対するアミロース含量割合は、通常60質量%以下、中でも55質量%以下、更には50質量%以下、とりわけ45質量%以下、又は40質量%以下、特には35質量%以下であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から通常10質量%以上、更には20質量%以上であることが望ましい。なお、本発明における「保水時」とは、組成物における乾量基準含水率が50質量%以上の状態を表す。
【0056】
・[値β]:
本発明の組成物は、前記の分子量対数が6.5以上8.0未満の曲線下面積の割合[値β]が、所定値以上であることを特徴の一つとする。ここで、[値β]は、組成物中のでんぷんを前記手順で分解して得られるでんぷん分解物のうち、アミロペクチンの中でも比較的分子量の小さい特殊なアミロペクチンとより高分子量のでんぷんに由来するでんぷん分解物とを合計した割合を主に示す値であると考えられる。具体的に、[値β]は、通常35%以上である。中でも40%以上、更には45%以上、とりわけ50%以上、又は55%以上、特には60%以上であることが望ましい。一方、斯かる割合の上限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から、通常90%以下、更には80%以下であることが望ましい。
【0057】
なお、本発明の組成物は、当該分子量分布曲線において、分子量対数6.5以上8.0未満の範囲内に、1つ以上のピークが認められることが好ましく、ピークが1つのみ認められることがより好ましい。こうした分子量が中間程度のでんぷん画分が相対的に多く含まれることで、本発明の組成物は加水加熱時に粘性が抑制された組成物となる場合があるため好ましい。その原理は不明であるが、比較的分子量が中間程度のこれらのでんぷんは比較的高分子量のでんぷんが有する何らかの粘性の原因となる構造を有さず、抱水性は有するが粘性は抑制された物性を有している可能性がある。
【0058】
・アミロペクチン含量:
なお、分子量対数6.5以上8.0未満の曲線下面積の割合[値β]は、組成物中のでんぷんを前記手順で分解して得られるでんぷん分解物のうち、アミロペクチンの中でも比較的分子量の小さい特殊なアミロペクチンの割合を主に示す値であると考えられる。これに対応して、本発明の組成物に含有されるでんぷん全体に対するアミロペクチン含量は、通常35質量%以上、中でも40質量%以上、更には45質量%以上、とりわけ50質量%以上、又は55質量%以上、特には60質量%以上であることが望ましい。一方、斯かる割合の上限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から、通常90質量%以下、更には80質量%以下であることが望ましい。
【0059】
・[値α]に対する[値β]の割合(β/α):
本発明の組成物は、前記の[値α]に対する[値β]の割合(β/α)が、所定値以上であることで、[値β]の特性が更に際立ち、より食味に優れた組成物となり好ましい。具体的に、前記の[値α]に対する[値β]の割合(β/α)は、通常0.5以上、中でも0.6以上、更には0.7以上、とりわけ0.8以上、又は0.9以上、特には1.0以上であることが望ましい。一方、斯かる割合の上限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から値αが0質量%であって値β/値αが算出できない場合であってもよく、更には5.0以下、更には4.0以下、中でも3.0以下であってもよい。
【0060】
・[値γ]:
本発明の組成物は、前記の分子量対数が8.0以上9.5未満の曲線下面積の割合[値γ]が、所定値以下であることが好ましい。ここで、[値γ]は、組成物中のでんぷんを前記手順で分解して得られるでんぷん分解物のうち、米でんぷんなどに特徴的に認められる高分子アミロペクチンの割合を主に示す値であると考えられる。具体的に、[値γ]は30%以下であることが好ましい。中でも25%以下、更には20%以下、とりわけ15%以下、又は10%以下、特には5%以下であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から、通常0%以上である。
【0061】
また、本発明の組成物は、前記の分子量対数が8.0以上9.5未満の範囲に、米でんぷんなどに特徴的に認められる高分子アミロペクチンに由来すると考えられるピークが認められないことが好ましい。こうした比較的分子量が高いでんぷん画分が相対的に少なく含まれることで、本発明の組成物は加水加熱時に粘性が抑制された組成物となる場合があるため好ましい。その原理は不明であるが、比較的分子量が高いこれらのでんぷんは何らかの粘性の原因となる構造を有しており、この割合が高いことで粘性の高い組成物になる可能性がある。
【0062】
・[値γ]に対する[値β]の割合(β/γ):
本発明の組成物は、前記の[値γ]に対する[値β]の割合(β/γ)が、所定値以上であることで、粘性がより抑制され、より食味に優れた組成物となり更に好ましい。具体的には、前記の[値γ]に対する[値β]の割合(β/γ)が、通常10以上、15以上、中でも20以上、更には25以上、とりわけ30以上、又は40以上、特には50以上であることが望ましい。一方、斯かる割合の上限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産性の観点から値γが0質量%であって値β/値γが算出できない場合であってもよく、更には1000以下、更には900以下、中でも800以下、中でも700以下、中でも650以下であってもよい。
【0063】
(よう素染色性)
本発明の組成物は、特定の分子量対数画分のよう素染色性が規定値以下であることで、本発明の組成物の保管中の弾性低下が抑制されるので好ましい。具体的には、組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分をpH7.0に調整し、その試料1質量部を、9質量部の0.25mMよう素溶液に投入して染色した場合の660nmにおける吸光度を測定し、これをブランクである(測定試料を含まない)0.25mMよう素溶液の660nmの吸光度から差し引いて校正した値(これを適宜「ABS5.0-6.5」と称する。)を求めた場合に、当該ABS5.0-6.5の値が規定値以下であることが好ましい。
【0064】
本発明の組成物は、斯かる手順で得られたABS5.0-6.5の値が、通常0.80以下、中でも0.75以下、更には0.70以下、とりわけ0.65以下、又は0.60以下、又は0.55以下、又は0.50以下、又は0.45以下、又は0.40以下、又は0.35以下、特には0.30以下であることが望ましい。一方、斯かる値の下限は、特に制限されるものではないが、通常-0.20以上、更には-0.10以上、中でも0.00以上、又は0.10以上、又は0.20以上である。その原理は不明であるが、当該ABS5.0-6.5の値が高い組成物は、更に分子量が大きいでんぷん画分に由来するでんぷん分解物(主に分子量対数6.5以上8.0未満の画分に含有されるアミロペクチンが、過加熱に伴う熱分解によって分子量対数5.0以上6.5未満の分解物となったと考えられる)を多く含む可能性があり、そのようなでんぷん分解物は加水時に弾性が低下しやすい特性を有する場合があるからであると推測される。
【0065】
なお、前記ABS5.0-6.5の値の詳細な測定方法は、以下の通りである。まず、組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに(即ち、90℃15分間の恒温処理を行うことなく)前記[手順a]により処理して、精製でんぷんを取得する。次に、この精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して、分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分を回収する。前記[手順a]及び前記[条件A]の詳細については、先に詳述したとおりである。続いて、得られた分離画分をpH7.0に調整した後、その試料1質量部を、9質量部の0.25mMよう素溶液に投入し、常温(20℃)で3分間静置後、吸光度測定に供する。吸光度測定に際しては、試料添加前のよう素溶液(対照)と組成物添加後のよう素溶液の各々について、通常の分光光度計(例えば島津製作所社製UV-1800)によって光路長10mmの角セルを用いて吸光度(660nm)を測定し、両者の吸光度差分(試料添加後のよう素溶液の吸光度-試料添加前のよう素溶液の吸光度)を算出し、これをABS5.0-6.5として求めればよい。
【0066】
また、本発明の組成物は、前述の分子量対数5.0以上6.5未満の分離画分と比較して、比較的分子量が大きい分子量対数6.5以上8.0未満の分離画分が、高いよう素染色性を有することが好ましい。具体的には、組成物を40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]により処理して得られた精製でんぷんを前記[条件A]の下で分離して回収される、分子量対数6.5以上8.0未満の分離画分をpH7.0に調整し、その試料1質量部を、9質量部の0.25mMよう素溶液に投入して染色した場合の660nmにおける吸光度を測定し、これをブランクである(測定試料を含まない)0.25mMよう素溶液の660nmの吸光度から差し引いて校正した値(これを適宜「ABS6.5-8.0」と称する。)を求めた場合に、当該ABS6.5-8.0の前記ABS5.0-6.5に対する比の値(ABS6.5-8.0/ABS5.0-6.5)が規定値以上であることが好ましい。
【0067】
本発明の組成物は、斯かる手順で得られたABS6.5-8.0/ABS5.0-6.5の値が、通常0.003以上、中でも0.005以上、更には0.007以上、とりわけ0.009以上、又は0.010以上、又は0.020以上、又は0.030以上、又は0.040以上、又は0.050以上、又は0.060以上、特には0.070以上であることが望ましい。一方、斯かる値の上限は、特に制限されるものではないが、通常1.000以下、更には0.9000以下である。その原理は不明であるが、その加工の過程において熱分解されたでんぷんの割合が、分解前のでんぷんに対して相対的に少なくなることで、当該割合が増加し、最終的に良好な品質の組成物になるためであると推測される。
【0068】
なお、ABS6.5-8.0の測定方法の詳細は、分子量対数6.5以上8.0未満の分離画分を用いることを除けば、前述したABS5.0-6.5の測定方法の詳細と同一である。
【0069】
(でんぷん分解酵素活性)
本発明の組成物は、含有されるでんぷん分解酵素活性が一定以下であることで、組成物の抱水力が保持されるため、好ましい。その原理は不明であるが、含水条件下で組成物中のでんぷんに当該分解酵素が作用することで、抱水力の高い高分子量のでんぷんが分解され減少するためと考えられる。具体的には、組成物のでんぷん分解酵素活性が乾燥質量換算で通常30.0U/g以下、中でも25.0U/g以下、又は22.0U/g以下、又は20.0U/g以下、更には18.0U/g以下、とりわけ16.0U/g以下、又は14.0U/g以下、又は12.0U/g以下、又は10.0U/g以下、又は8.0U/g以下、又は6.0U/g以下、特には4.0U/g以下であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、通常0.0U/g以上である。
【0070】
なお、でんぷん分解酵素活性は、限定されるものではないが、例えば以下の方法で測定することができる。
【0071】
・酵素液の調製:
粉砕された測定サンプル1gに、0.5%NaCl/10mM酢酸バッファー(pH5)10mLを加え、4℃で16時間静置した後、ホモジナイザーNS52(マイクロテックニチオン社製)を用いて25000rpmで30秒処理することでペースト状に破砕し、更に4℃で16時間静置した後、ろ紙(ADVANTEC社製、定性濾紙No.2)でろ過したものを酵素液とする。
【0072】
・活性測定:
試験管に0.05%可溶性澱粉(富士フイルム和光純薬社製、でんぷん(溶性)CAS9005-25-8、製品コード195-03961)2mLを入れ、37℃で10分間静置した後、前記酵素液を0.25mL加え、混合する。混合物を37℃で30分間静置した後、1M HCl 0.25mLを加え混合する。その後、よう素を0.05mol/L含有するよう素よう化カリウム溶液(0.05mol/Lよう素溶液:富士フイルム和光純薬社製(製品コード091-00475))0.25mLを加え混合し、水11.5mLを加え希釈し、分光光度計で波長660nmにおける吸光度を測定する(吸光度A)。また、対照として、試験管に0.05%可溶性澱粉2mLを入れ、37℃で40分間静置した後、1M HCl 0.25mLを加え混合した後、酵素液0.25mL、0.05mol/Lよう素溶液0.25mLの順に加え混合し、水11.5mLを加え希釈した後、分光光度計で波長660nmにおける吸光度を測定する(吸光度B)。本発明におけるよう素溶液とは、よう素を0.05mol/L含有するよう素よう化カリウム溶液(本発明において単に「0.05mol/Lよう素溶液」又は「0.05mol/Lよう素液」と称する場合がある。)の希釈液を指し、特に指定が無い場合、水93.7質量%、よう化カリウム0.24mol/L(4.0質量%)、よう素0.05mol/L(1.3質量%)混合よう素よう化カリウム溶液(富士フイルム和光純薬社製「0.05mol/Lよう素溶液(製品コード091-00475)」)を希釈して用いる。また、当該「0.05mol/Lよう素溶液」を水で200倍に希釈することで、「0.25mMよう素溶液」を得ることができる。
【0073】
・酵素活性単位(U/g):
測定サンプルを30分間酵素反応した前後の分光光度計で測定した波長660nmにおける吸光度減少率C(%)を、比較対象区(吸光度B)に対する酵素反応区(吸光度A)の吸光度減少率({(吸光度B-吸光度A)/吸光度B}×100(%)」により求める。吸光度を10分間当たり10%減少させる酵素活性を1単位(U)とし、0.25mL酵素液(サンプル含量0.025g)によって30分間酵素反応を行った場合における吸光度減少率C(%)から、測定サンプル1g当たりの酵素活性を次式によって求める。
【数1】
【0074】
(タンパク質)
本発明の組成物は、タンパク質を含有することが好ましい。本発明の組成物におけるタンパク質含有量の下限は、乾燥質量換算で通常3.0質量%以上、中でも3.5質量%以上、更には4.0質量%以上、とりわけ4.5質量%以上、又は5質量%以上、中でも6質量%以上、更には7質量%以上、とりわけ8質量%以上、又は9質量%以上、又は10質量%以上、又は11質量%以上、又は12質量%以上、又は13質量%以上、又は14質量%以上、又は15質量%以上、又は16質量%以上、又は17質量%以上、又は18質量%以上、又は19質量%以上、又は20質量%以上、又は21質量%以上、特に22質量%以上であることが好ましい。一方、本発明の組成物におけるタンパク質含有量の上限は、特に制限されるものではないが、乾燥質量換算で通常85質量%以下、好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0075】
本発明の組成物中のタンパク質の由来は特に制限されない。例としては、植物由来のものや動物由来のものが挙げられるが、豆類由来のタンパク質が好ましい。具体的には、組成物全体の総タンパク質含有量に対する、豆類由来のタンパク質含有量の比率が、通常10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、とりわけ40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。豆類由来タンパク質としては、特にエンドウ由来のものが好ましく、黄色エンドウ由来のものが最も好ましい。
【0076】
本発明の組成物中のタンパク質は、単離された純品として組成物に配合されたものであってもよいが、豆類に含有された状態で組成物に配合されていることが好ましい。具体的には、組成物全体の総タンパク質含有量に対する、豆類に含有された状態で配合されているタンパク質含有量の比率が、通常10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、とりわけ40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。
【0077】
なお、本発明において、組成物中のタンパク質含有量は、食品表示法(「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食表第139号))に規定された燃焼法(改良デュマ法)を用いて測定された全窒素割合に、「窒素-タンパク質換算係数」を乗じて算出する方法で測定する。
【0078】
(タンパク質のPDI)
本発明の組成物に含まれるタンパク質は、その溶解性が低くなっていることで、組成物に噛み応えがありつつも噛み切りやすい食感を付与することができるため、より好ましい。その原理は不明であるが、不溶化したタンパク質が、でんぷんの食感に影響を与えていると考えられる。具体的には、本発明の組成物におけるPDI(protein dispersibility index)値が55質量%未満であることが好ましい。中でも50質量%未満、更には45質量%未満、とりわけ40質量%未満、又は35質量%未満、又は30質量%未満、又は25質量%未満、又20質量%未満、又15質量%未満、特には10質量%未満であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、通常0質量%以上、更には2質量%以上、中でも4質量%以上である。
【0079】
なお、PDI(protein dispersibility index)値とは、タンパク質の溶解性を表す指標であり、定法に従い組成物全体の全窒素割合に対する水溶性窒素割合の百分率(水溶性窒素割合/組成物全体の全窒素割合×100(%))として求めることができる。具体的には、測定試料に20倍量の水を加え、粉砕処理(マイクロテックニチオン社製ホモジナイザーNS-310E3を用いて8500rpmで10分間破砕処理する)し、得られた破砕処理液の全窒素割合に20を乗じた値を組成物全体の全窒素割合として測定する。次に破砕処理液を遠心分離(3000Gで10分間)し、得られた上清の全窒素割合に20を乗じた値を水溶性窒素割合として測定することで、組成物におけるPDI値を算出することができる。全窒素割合の測定方法は、食品表示法(「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食表第139号))に規定された燃焼法(改良デュマ法)を用いて測定する。
【0080】
(不溶性食物繊維含量)
本発明の組成物は、不溶性食物繊維を含有する。本発明において「不溶性食物繊維」とは、人の消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分のうち、水に不溶のものを指す。その定量には、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、プロスキー変法を用いて測定する。本発明の組成物は、不溶性食物繊維の含量が多い場合でも、ボソボソとした食感の組成物とならないため有用である。その原因は定かではないが、高温高圧高混練処理により、組成物中の食物繊維が、でんぷん、タンパク質と相互作用してネットワーク構造を形成することで、不溶性食物繊維の食感が改善されている可能性がある。
【0081】
本発明の組成物における不溶性食物繊維の含有量の下限は、乾燥質量換算で通常2.0質量%以上であることが好ましい。中でも3質量%以上、更には4質量%以上、とりわけ5質量%以上、又は6質量%以上、又は7質量%以上、又は8質量%以上、又は9質量%以上、特に10質量%以上であることが好ましい。不溶性食物繊維の含有量を前記下限以上とすることで、本発明の組成物は、マトリクス状に広がったでんぷん中で不溶性食物繊維が適当なサイズで均質に分散し、でんぷんがマトリクス状に分布した構造を有しやすくなり、惹いてはゴムのような食感が改善されやすくなる。ここで、本発明において「乾燥質量」とは、下記の「水分含量(乾量基準含水率)」から算出される水分含有量を組成物等全体の質量から除いた残分の質量を表し、「乾燥質量換算」とは組成物の乾燥質量を分母、各成分の含有量を分子として算出される、各成分の含有割合を表す。
【0082】
本発明の組成物における不溶性食物繊維の含有量の上限は、特に制限されるものではないが、工業上の生産効率という観点からは、乾燥質量換算で、通常50質量%以下、中でも40質量%以下、更には30質量%以下であることが好ましい。
【0083】
本発明の組成物に含まれる不溶性食物繊維の由来は、特に制限されるものではなく、不溶性食物繊維を含有する各種天然材料に由来するものでもよく、合成されたものでもよい。天然材料に由来する場合、各種材料に含有される不溶性食物繊維を単離、精製して用いてもよいが、斯かる不溶性食物繊維を含有する材料をそのまま用いてもよい。例えば穀類由来のもの、豆類由来のもの、芋類由来のもの、野菜類由来のもの、種実類由来のもの、果実類由来のものなどを用いることができるが、穀類由来のもの、豆類由来のものが組成物のテクスチャの観点からより好ましく、豆類由来のものが更に好ましく、特にエンドウ由来のものが好ましく、黄色エンドウ由来のものが最も好ましい。また、豆類由来である場合、種皮ありの状態で使用しても、皮なしの状態で使用してもよいが、種皮付きの豆類を用いる方が食物繊維を多く含有できるため好ましい。
【0084】
また、本発明の組成物中の不溶性食物繊維は、単離された純品として組成物に配合されたものであってもよいが、豆類に含有された状態で組成物に配合されていることが好ましい。具体的には、組成物全体の総不溶性食物繊維含有量に対する、豆類に含有された状態で配合されている不溶性食物繊維含有量の比率が、通常10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、とりわけ40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。
【0085】
本発明の組成物に含まれる不溶性食物繊維の組成は、特に制限されるものではない。但し、不溶性食物繊維全体に占めるリグニン(中でも酸可溶性リグニン)の比率が一定値以上であると、食感改善効果がより顕著に得られやすくなる。具体的には、不溶性食物繊維全体に占めるリグニン(中でも酸可溶性リグニン)の比率は、乾燥質量換算で、通常5質量%以上、中でも10質量%以上、更には30質量%以上であることが好ましい。
【0086】
(不溶性食物繊維の粒子径分布)
本発明の組成物は、そこに含まれる不溶性食物繊維の粒子径が、一定以下の大きさであることが好ましい。不溶性食物繊維の粒子径が大きすぎると、組成物がボソボソとした好ましくない食感となる場合がある。この理由は定かではないが、粗大な不溶性食物繊維がでんぷん等のマトリクス構造形成を阻害し、本発明の効果が奏されにくくなるためと考えられる。ここで、通常漫然と破砕された豆類粉末における不溶性食物繊維サイズは450μm超となる蓋然性が高い(豆類に含有される不溶性食物繊維の形状は通常棒状であり、本発明のレーザー回折式粒度分布測定では大きめの値が得られるため。)。特に原料に種皮付きの豆類など、硬質組織を含有する食材を用いる場合、その種皮部分の不溶性食物繊維は粗大であり、さらに可食部に比べて破砕されにくいため、このような食材を本発明に用いる場合、斯かる食材に含まれる不溶性食物繊維は、あらかじめ特定の破砕処理を行い、そのサイズが特定範囲となっているものを用いることが好ましい。
【0087】
本発明において、組成物中の不溶性食物繊維の粒子径を評価するためには、組成物の水懸濁液をプロテアーゼ及びアミラーゼ処理し、でんぷんとタンパク質を酵素によって分解したでんぷん・タンパク質分解処理後組成物について、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて超音波処理を加えた後の粒子径分布を測定する方法を用いる。具体的には、組成物の6質量%の水懸濁液を、0.4容量%のプロテアーゼ及び0.02質量%のα-アミラーゼにより20℃で3日間処理する(これを適宜「[手順b]」とする。)ことによりでんぷん・タンパク質分解処理を実施した後、処理後の組成物に超音波処理を加えてから粒子径分布を測定すればよい。
【0088】
具体的に、本発明の組成物は、上記手順により測定される不溶性食物繊維の粒子径分布における粒子径d90が、450μm未満であることが好ましく、400μm以下であることが更に好ましく、350μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。一方、斯かる不溶性食物繊維の粒子径d90の下限は、特に制限されるものではないが、通常1μm以上、より好ましくは3μm以上であることが好ましい。
【0089】
同様に、本発明の組成物は、上記手順により測定される不溶性食物繊維の粒子径分布における粒子径d50が、450μm未満であることが好ましく、400μm以下であることが更に好ましく、350μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。一方、斯かる不溶性食物繊維の粒子径d50の下限は、特に制限されるものではないが、通常1μm以上、より好ましくは3μm以上であることが好ましい。
【0090】
組成物中の不溶性食物繊維の粒子径分布を測定するためのより具体的な手順としては、例えば以下のとおりである。組成物300mgを5mLの水と共にプラスチックチューブに入れ、20℃で1時間程度膨潤させた後、小型ヒスコトロン(マイクロテックニチオン社製ホモジナイザーNS-310E3)を用いて粥状の物性となるまで処理する(10000rpmで15秒程度)。その後、処理後サンプル2.5mLを分取し、プロテアーゼ(タカラバイオ社製、Proteinase K)10μL、αアミラーゼ(Sigma社製、α-Amylase from Bacillus subtilis)0.5mgを加え、20℃にて3日間反応させる。反応終了後、得られたプロテアーゼ、アミラーゼ処理組成物に対して、超音波処理を加えてから、その粒子径分布を測定すればよい。
【0091】
プロテアーゼ、アミラーゼ処理組成物、豆類粉末、生地組成物懸濁液などの超音波処理後の粒子径分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、以下の条件に従って行うものとする。まず、測定時の溶媒は、組成物中の構造に影響を与え難いエタノールを用いる。測定に使用されるレーザー回折式粒度分布測定装置としては、特に制限されるものではないが、例えばマイクロトラック・ベル株式会社のMicrotrac MT3300 EXIIシステムを使用することができる。測定アプリケーションソフトウェアとしては、特に制限されるものではないが、例えばDMS2(Data Management System version2、マイクロトラック・ベル株式会社)を使用することができる。前記の測定装置及びソフトウェアを使用する場合、測定に際しては、同ソフトウェアの洗浄ボタンを押下して洗浄を実施したのち、同ソフトウェアのSet zeroボタンを押下してゼロ合わせを実施し、サンプルローディングでサンプルの濃度が適正範囲内に入るまでサンプルを直接投入すればよい。測定試料は、予め超音波処理を行ったサンプルを投入してもよく、サンプル投入後に前記の測定装置を用いて超音波処理を行い、続いて測定を行ってもよい。後者の場合、超音波処理を行っていないサンプルを投入し、サンプルローディングにて濃度を適正範囲内に調整した後、同ソフトの超音波処理ボタンを押下して超音波処理を行う。その後、3回の脱泡処理を行った上で、再度サンプルローディング処理を行い、濃度が依然として適正範囲であることを確認した後、速やかに流速60%で10秒の測定時間でレーザー回折した結果を測定値とする。測定時のパラメーターとしては、例えば分布表示:体積、粒子屈折率:1.60、溶媒屈折率:1.36、測定上限(μm)=2000.00μm、測定下限(μm)=0.021μmとする。
【0092】
なお、本発明において「粒子径d90」(あるいは「粒子径d50」)とは、測定対象の粒子径分布を体積基準で測定し、ある粒子径から2つに分けたとき、大きい側の粒子頻度%の累積値の割合と、小さい側の粒子頻度%の累積値の割合との比が、10:90(あるいは50:50)となる粒子径として定義される。また、本発明において「超音波処理」とは、特に断りがない限り、周波数40kHzの超音波を出力40Wにて3分間の処理をすることを意味する。
【0093】
(全油脂分含量)
本発明の組成物中の全油脂分含量は、制限されるものではないが、乾燥質量換算で、通常17質量%未満、中でも15質量%未満、更には13質量%未満、とりわけ10質量%未満、又は8質量%未満、又は7質量%未満、又は6質量%未満、又は5質量%未満、又は4質量%未満、又は3質量%未満、又は2質量%未満、又は1質量%未満、特に0.8質量%未満とすることが好ましい。一方、斯かる全油脂分含量の下限は、特に制限されるものではないが、乾燥質量換算で、通常0.01質量%以上であることが好ましい。なお、本発明において、組成物中の全油脂分含量は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、ジエチルエーテルによるソックスレー抽出法で測定する。
【0094】
本発明の組成物中の油脂分の由来は特に制限されない。例としては、植物由来のものや動物由来のものが挙げられるが、植物由来の油脂分が好ましい。具体的には、組成物全体の総油脂分含有量に対する、植物由来(特に豆類)油脂分含有量の比率が、通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、とりわけ80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。植物由来油脂分の例としては、穀類由来のもの、豆類由来のもの、芋類由来のもの、野菜類由来のもの、種実類由来のもの、果実類由来のもの等が挙げられるが、前述した好適なでんぷんの分子量分布を達成する観点からは、豆類由来のものを用いることがより好ましく、特にエンドウ由来のものが好ましく、黄色エンドウ由来のものが最も好ましい。
【0095】
本発明の組成物中の油脂分は、組成物の各種食品原料に由来するものであってもよく、更に単離された純品としての状態で添加してもよいが、食用植物(特に豆類)に含有された状態で組成物に配合されていることが好ましい。具体的には、組成物全体の総油脂分含有量に対する、食用植物に含有された状態で配合されている油脂分含有量の比率が、通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、とりわけ80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。
【0096】
なお、本発明の組成物中の油脂分の、通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、とりわけ80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%が、何れも豆類に由来することが好ましく、同一種の豆類に由来することが更に好ましく、同一個体の豆類に由来することが更に好ましい。また、本発明の組成物中の油脂分の、通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、とりわけ80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%が、何れも食用植物に含有された状態で配合されることが好ましい。
【0097】
(乾量基準含水率)
本発明の組成物は、乾量基準含水率が所定値以下であることが好ましい。具体的に、本発明の組成物中の乾量基準含水率は、制限されるものではないが、例えば60質量%以下、又は55質量%以下、中でも50質量%以下、又は45質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下、又は30質量%以下、又は25質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。一方、本発明の組成物中の乾量基準含水率の下限は、制限されるものではないが、工業上の生産効率という観点から、例えば0.5質量%以上、或いは1質量%以上、或いは2質量%以上とすることができる。なお、本発明の組成物中の乾量基準含水率は、組成物の各種成分に由来するものであってもよいが、更に添加された水に由来するものであってもよい。また、加工前の生地組成物中に含有される乾量基準含水率が高い場合に、乾燥処理などを採用することで前述の数値に調整する工程を採用することができる。
【0098】
本発明において「乾量基準含水率」とは、本発明の組成物の原料に由来する水分量と別途添加した水分量の合計量の、固形分の合計量に対する割合を意味する。その数値は、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、減圧加熱乾燥法で90℃に加温することで測定する。具体的には、あらかじめ恒量になったはかり容器(W0)に適量の試料を採取して秤量し(W1)、常圧において、所定の温度(より詳しくは90℃)に調節した減圧電気定温乾燥器中に、はかり容器の蓋をとるか、口を開けた状態で入れ、扉を閉じ、真空ポンプを作動させて、所定の減圧度において一定時間乾燥し、真空ポンプを止め、乾燥空気を送って常圧に戻し、はかり容器を取り出し、蓋をしてデシケーター中で放冷後、質量をはかる。そのようにして恒量になるまで乾燥、放冷、秤量する(W2)ことを繰り返し、次の計算式で水分含量(乾量基準含水率)(質量%)を求める。
【0099】
【0100】
(原料)
本発明の組成物の原料は、本発明において規定する各種の成分組成及び物性を達成しうる限り、特に制限されるものではない。しかし、原料としては、1種又は2種以上の食用植物を用いることが好ましく、食用植物として少なくとも豆類を含有することが好ましい。
【0101】
・豆類:
本発明の組成物に豆類を用いる場合、使用する豆類の種類は、限定されるものではないが、例としては、エンドウ属、インゲンマメ属、キマメ属、ササゲ属、ソラマメ属、ヒヨコマメ属、ダイズ属、及びヒラマメ属から選ばれる1種以上の豆類であることが好ましい。具体例としては、これらに限定されるものではないが、エンドウ(特に黄色エンドウ、白エンドウ等。)、インゲン(隠元)、キドニー・ビーン、赤インゲン、白インゲン、ブラック・ビーン、うずら豆、とら豆、ライマメ、ベニバナインゲン、キマメ、緑豆、ササゲ、アズキ、ソラマメ、ダイズ、ヒヨコマメ、レンズマメ、ヒラ豆、ブルーピー、紫花豆、レンティル、ラッカセイ、ルピナス豆、グラスピー、イナゴマメ(キャロブ)、ネジレフサマメノキ、ヒロハフサマメノキ、コーヒー豆、カカオ豆、メキシコトビマメ等が挙げられる。その他例示されていない食材の分類は、その食材や食材の加工品を取り扱う当業者であれば、当然に理解することが可能である。具体的には、一般家庭における日常生活面においても広く利用されている日本食品標準成分表2015年版(七訂)に記載の食品群分類(249頁、表1)を参照することで明確に理解することができる。なお、これらの豆類は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組合せで用いてもよい。
【0102】
なお、本発明の組成物に豆類を用いる場合、組成物に含有されるでんぷんのうち中間分子量画分(分子量対数6.5以上8.0未満)の割合が増加するという理由から、未熟種子(例えばエンドウ未熟種子であるグリーンピースや、大豆の未熟種子であるエダマメ)ではなく成熟した豆類を用いることが好ましい。また、同様の理由により、成熟に伴って乾量基準含水率が所定値以下となっている状態の豆類であることが好ましい。具体的に、本発明の組成物に使用する豆類の乾量基準含水率は、通常15質量%未満、中でも13質量%未満、更には11質量%未満、又は10質量%未満であることが好ましい。一方、斯かる豆類の乾量基準含水率の下限は、特に制限されるものではないが、通常0.01質量%以上であることが好ましい。
【0103】
本発明の組成物に豆類を用いる場合、本発明の組成物における豆類の含有率は、制限されるものではないが、乾燥質量換算で通常50質量%以上、中でも55質量%以上、更には60質量%以上、又は65質量%以上、又は70質量%以上、又は75質量%以上、又は80質量%以上、又は85質量%以上、又は90質量%以上、特に95質量%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、通常100質量%以下である。
【0104】
本発明の組成物に豆類を用いる場合、粉末状の豆類を用いることが好ましく、具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて超音波処理後の粒子径d90及び/又はd50がそれぞれ所定値以下の豆類粉末を用いることが好ましい。即ち、豆類粉末の超音波処理後の粒子径d90は、500μm未満が好ましく、450μm以下が更に好ましく、中でも400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下、又は200μm以下、又は150μm以下、又は100μm以下、又は90μm以下、又は80μm以下、又は70μm以下、又は60μm以下、又は50μm以下がより好ましい。また、同様に、豆類粉末の超音波処理後の粒子径d50は、500μm未満が好ましく、450μm以下が更に好ましく、中でも400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下、又は200μm以下、又は150μm以下、又は100μm以下、又は90μm以下、又は80μm以下、又は70μm以下、又は60μm以下、又は50μm以下がより好ましい。超音波処理後の粒子径d90及びd50の下限は特に制限されないが、通常0.3μm以上、又は1μm以上、又は5μm以上、又は10μm以上である。特に押出成形時に組成物が一定以上の大きさであると、成型に際して組成物が脈動しやすくなり生産性が悪化するとともに、組成物表面が不均一になる場合があるため、一定以下の大きさの粉末状の豆類を使用することが好ましい。
【0105】
・その他の食材:
本発明の組成物は、任意の1又は2以上のその他の食材を含んでいてもよい。斯かる食材の例としては、植物性食材(野菜類、芋類、きのこ類、果実類、藻類、穀類、種実類等)、動物性食材(魚介類、肉類、卵類、乳類等)、微生物性食品等が挙げられる。これら食材の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0106】
・調味料、食品添加物等:
本発明の組成物は、任意の1又は2以上の調味料、食品添加物等を含んでいてもよい。調味料、食品添加物等の例としては、醤油、味噌、アルコール類、糖類(例えばブドウ糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖等)、糖アルコール(例えばキシリトール、エリスリトール、マルチトール等)、人工甘味料(例えばスクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムK等)、ミネラル(例えばカルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの塩類等)、香料、pH調整剤(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び酢酸等)、シクロデキストリン、酸化防止剤(例えばビタミンE、ビタミンC、茶抽出物、生コーヒー豆抽出物、クロロゲン酸、香辛料抽出物、カフェ酸、ローズマリー抽出物、ビタミンCパルミテート、ルチン、ケルセチン、ヤマモモ抽出物、ゴマ抽出物等)、乳化剤(例としてはグリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステル、キラヤ抽出物、ダイズサポニン、チャ種子サポニン、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等)、着色料、増粘安定剤等が挙げられる。
【0107】
但し、昨今の自然志向の高まりからは、本発明の組成物は、いわゆる乳化剤、着色料、増粘安定剤(例えば、食品添加物表示ポケットブック(平成23年版)の「表示のための食品添加物物質名表」に「着色料」、「増粘安定剤」、「乳化剤」として記載されているもの)から選ばれる何れか1つを含有しないことが好ましく、何れか2つを含有しないことがより好ましく、3つ全てを含有しないことが更に好ましい。
【0108】
・非膨化物:
本発明の組成物は、膨化食品であっても非膨化食品であってもよいが、膨化食品(特に膨化により密度比重が1.0未満となる膨化食品)ではなく、非膨化食品であることが好ましい。後述するように、本発明の組成物の好ましい製法に使用されるエクストルーダー(押出機)は、従来はパフをはじめとする膨化物を製造するために用いられることが多かったが、それらの製造条件は、通常は段階(iii)の降温条件が組成物膨化温度を超える条件として設定されるため、本発明のような膨化を伴わない組成物の製造方法に適用することはできなかった。なぜなら、エクストルーダーの内部温度推移は連続的に起こるため、例えば混練時の昇温条件のみ採用して出口温度設定は適宜低温に調整しようとすると、出口温度設定を下げた影響で混練時の温度を始めとして内部温度全体が下がり、全く別の条件になってしまい、当業者が適宜なしうる調整ではなかったためである。また、パフをはじめとする膨化物の製造時には、減圧時に速やかに膨化をさせるためにその総質量流量中に占める水分の割合を低くすることが当業者の技術常識であり、本発明のような膨化を伴わない組成物のように総質量流量中に占める水分含量を高める動機は存在しなかった。なお、本発明の組成物の製造に際しては、高温高圧化で混練後、通常は圧力を印加したまま膨化を防止しつつ降温してから、圧力を大気圧程度まで減圧することにより、本発明の組成物を得ることができる。
【0109】
[II.でんぷん含有固形状組成物の製造方法]
本発明の別の態様は、本発明の組成物を製造する方法(以下、「本発明の製造方法」と称する場合もある。)に関する。
【0110】
(1)概要:
本発明の組成物を調製する方法は、特に制限されるものではなく、前記の各種要件を充足する組成物が得られる限りにおいて、任意の手法を用いることができる。具体的には、本発明の組成物の原料となる食材、例えば豆類と、任意により用いられるその他の食材、調味料、及びその他の成分とを混合すればよい。必要に応じて加熱や成型等の処理を加えてもよい。中でも、前記の材料を前記の組成を満たすように混合した生地組成物を、所定の高温加圧条件下で混練した後、膨化しないように降温させる特定の方法(以下適宜「本発明の製造方法」と称する。)を用いることで、本発明の組成物を効率的に製造することが可能である。
【0111】
具体的には、本発明の製造方法は、下記段階(i)及び(ii)を含むことを特徴とする。更に、下記段階(iii)及び/又は(iv)を含むことが好ましい。
(i)でんぷん含量が湿潤質量基準で10.0質量%以上、乾量基準含水率40質量%超である組成物を調製する段階。
(ii)前記組成物を、温度100℃以上190℃以下、SME値400kJ/kg以上の条件下で、下記(1)~(4)の全ての条件を充足するまで混練する段階。
(1)組成物が下記(a)及び/又は(b)を満たす。
(a)組成物の前記でんぷん粒構造が300個/mm2以下となる。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満となる。
(2)組成物の前記糊化度が50%以上となる。
(3)組成物の前記[値α]が60%以下となる。
(4)組成物の前記[値β]が35%以上となる。
(iii)段階(ii)の混練後の組成物を、100℃未満まで降温する段階。
(iv)組成物の乾量基準含水率を25質量%未満とする段階。好ましくは、前記段階(ii)以降で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間を5分以上に調整する段階。
以下、斯かる本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0112】
(2)段階(i):生地組成物の調製
本段階(i)では、本発明の組成物の原料となる食材、例えば豆類と、任意により用いられるその他の食材とを混合することにより、本発明の組成物の元となる組成物(これを適宜「生地組成物」と称する。)を調製する。なお、生地組成物(単に「生地」又は「ペースト生地組成物」と称する場合がある)の性状は食材が水によって一部又は全部が一体化した性状であれば良く、液体状であってもよく、ゾル状であってもよく、ゲル状であってもよく、固体状であってもよい。また、例えばパン生地のような可塑性を有する性状であってもよく、そぼろ状のような可塑性を有さない性状であってもよい。斯かる生地組成物の調製法は特に制限されないが、前述した本発明の組成物の原料、例えば1種又は2種以上の食用植物(好ましくは少なくとも1種又は2種以上の豆類と、任意によりその他の1種又は2種以上の食用植物)と、任意により1種又は2種以上のその他の原料とを混合し、これを生地組成物として用いることができる。
【0113】
また、後述のように押出機(エクストルーダー)を用いて混練を行う態様を採用する場合、生地組成物の調製は、押出機投入前にあらかじめ原材料に加水する方法で段階(i)の組成物が調製される方法(すなわち、あらかじめ段階(i)の生地組成物を調製した後にフィーダに投入する態様)であってもよく、押出機内で原材料に加水する方法で段階(i)の組成物が調製される方法(すなわち、フィーダに原材料(豆類など)を乾量基準含水率が25質量%以下の状態(例えば粉末状態)で投入し、第1フライト部において搬送しながら水分を投入することで段階(i)の生地組成物を調製する態様)であってもよく、これらを組み合わせた方法であってもよい。また、後述のように押出機(エクストルーダー)を用いて混練を行う態様を採用し、且つ、押出機内で原材料に加水する方法で段階(i)の組成物を調製する方法において、押出機内の原材料が乾量基準含水率が25質量%未満(又は30質量%未満、又は35質量%未満、又は40質量%未満)の状態で90℃以上(又は95℃、又は100℃)の高温に曝露されていないことで、でんぷんが熱分解しにくくなるため好ましい。
【0114】
・生地組成物の成分組成:
ここで、生地組成物は、以下に説明する種々の成分組成を満たすように調製することが好ましい。
【0115】
生地組成物のでんぷん含有量は、湿潤質量基準で、通常10.0質量%以上、中でも15質量%以上、更には20質量%以上、とりわけ25質量%以上、又は30質量%以上、又は35質量%以上、又は40質量%以上、又は45質量%以上、特に50質量%以上とすることが好ましい。ここで、本発明において「湿潤質量」とは、水分含有量を含む組成物等全体の質量を表し、「湿潤質量基準割合」とは組成物の湿潤質量を分母、各成分の含有量を分子として算出される、各成分の含有割合を表す。上限は特に制限されないが、例えば通常80質量%以下、又は75質量%以下、又は70質量%以下とすることができる。
【0116】
生地組成物の乾量基準含水率は、通常40質量%超、中でも45質量%超、更には50質量%超、とりわけ55質量%超、又は60質量%超、又は65質量%超、又は70質量%超、又は75質量%超、特に80質量%超とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常200質量%以下、又は175質量%以下、又は150質量%以下とすることができる。
【0117】
生地組成物の不溶性食物繊維の湿潤質量基準割合は、通常1.5質量%以上、中でも2.0質量%以上、更には3質量%以上、とりわけ4質量%以上、又は5質量%以上、又は6質量%以上、又は7質量%以上、又は8質量%以上、又は9質量%以上、特に10質量%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常40質量%以下、又は30質量%以下とすることができる。
【0118】
生地組成物のタンパク質の湿潤質量基準割合は、通常3.0質量%以上、中でも4.0質量%以上、更には5.0質量%以上、とりわけ6.0質量%以上、又は7.0質量%以上、又は8.0質量%以上、又は9.0質量%以上、又は10質量%以上、又は11質量%以上、又は12質量%以上、又は13質量%以上、又は14質量%以上、又は15質量%以上、又は16質量%以上、又は17質量%以上、又は18質量%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常40質量%以下、又は30質量%以下とすることができる。
【0119】
ここで、生地組成物における不溶性食物繊維、でんぷん、及びタンパク質の含有量とは、水を含んだ状態の生地組成物全体の質量を分母、各成分の含有量を分子として算出される湿潤質量基準割合であり、原料となる食用植物(例えば豆類)等に由来する各成分が規定の値以上となるように調整することができる。
【0120】
また、生地組成物の原料として、食用植物(例えば豆類)を用いる場合、斯かる食用植物(例えば豆類)の湿潤質量基準割合は、30質量%以上、中でも40質量%以上、更には50質量%以上、とりわけ60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、又は100質量%とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、通常100質量%以下とすることができる。
【0121】
また、本発明の組成物中の総でんぷん含量及び/又は総タンパク質含量の由来は特に制限されず、組成物の各種食品原料に由来するものであってもよく、更に単離された純品に由来するものであってもよいが、特に生地組成物の原料として食用植物(例えば豆類)を用いる場合、生地組成物の総でんぷん含量及び/又は総タンパク質含量に対する、食用植物(例えば豆類、特に後述の加熱処理豆類)に由来するでんぷん含量及び/又はタンパク質含量の比率が、所定値以上であることが好ましい。具体的には、生地組成物の総でんぷん含量に対する、食用植物(例えば豆類、特に後述の加熱処理豆類)に由来するでんぷん含量の比率が、30質量%以上、中でも40質量%以上、更には50質量%以上、とりわけ60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、又は100質量%とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、通常100質量%以下とすることができる。また、生地組成物の総タンパク質含量に対する、食用植物(例えば豆類、特に後述の加熱処理豆類)に由来するタンパク質含量の比率が、通常10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、とりわけ40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%であることが好ましい。豆類由来タンパク質としては、特にエンドウ由来のものが好ましく、黄色エンドウ由来のものが最も好ましい。
【0122】
・でんぷんの糊化度:
生地組成物の原料となるでんぷんとしては、あらかじめ糊化されたでんぷんを使用することで、糊化工程(後述する段階(ii))が容易になるため好ましい。具体的には、糊化工程前の段階(段階(i))における組成物中のでんぷん糊化度が一定以上であることが好ましい。具体的には10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、又は30質量%以上、又は40質量%以上、又は50質量%以上、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上であることが好ましい。上限は特に制限されないが通常100質量%以下である。
【0123】
また、同様の理由で、糊化工程前の段階(段階(i))における組成物中のでんぷんが、予め一定以上の温度で加熱されたでんぷんであることが好ましい。具体的には80℃以上、中でも90℃以上、更には100℃以上、又は110℃以上、又は120℃以上であることが好ましい。上限は特に制限されないが、通常200℃以下、更には180℃以下である。また、当該加熱に際して乾量基準含水率が一定未満の状態で高温加熱されたでんぷんは熱分解によって加工性の低い特性を有するため、一定以上の乾量基準含水率下で加熱されたでんぷんであることが更に好ましい。具体的には乾量基準含水率25質量%超、中でも30質量%超、更には35質量%超、とりわけ40質量%超、又は45質量%超、又は50質量%超、又は55質量%超、又は60質量%超、又は65質量%超、又は70質量%超、又は75質量%超、特に80質量%超において所定温度以上(具体的には、例えば80℃以上、中でも90℃以上、更には100℃以上、又は110℃以上、又は120℃以上。上限は特に制限されないが、例えば200℃以下、更には180℃以下。)で加熱処理された加熱処理でんぷんであることが好ましい。加熱処理時の乾量基準含水率の上限は特に制限されないが、通常200質量%以下、又は175質量%以下又は150質量%以下とすることができる。
【0124】
・原料のでんぷん分解酵素活性:
また、本発明の組成物として、前述したでんぷん分解酵素活性が所定値以下の組成物を得るためには、本段階(i)における生地組成物の原料として、でんぷん分解酵素活性が所定値より低くなるように加工されたでんぷん又はこれを含む食用植物(例えば豆類)を用いることが好ましい。具体的には、でんぷん又はこれを含む食用植物(例えば豆類)を含有する生地組成物のでんぷん分解酵素活性が、乾燥質量換算で100U/g以下となるようにそれら原料を使用することができる。中でも90.0U/g以下、又は80.0U/g以下、又は70.0U/g以下、又は60.0U/g以下、又は50.0U/g以下、又は40.0U/g以下、又は30.0U/g以下を使用することができる。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、通常0.0U/g以上、又は5.0U/g以上、又は10.0U/g以上、又は20.0U/g以上、又は30.0U/g以上、又は35.0U/g以上である。食用植物(例えば豆類)におけるでんぷん分解酵素は耐熱性が非常に強いため、でんぷん分解酵素活性が低い食用植物を得るための加工方法としては、乾燥基準含水率50質量%以上の環境下において所定の温度以上で加熱処理を行うことが好ましい。具体的には、100℃以上であることが好ましい。中でも110℃以上、特に120℃以上であることが望ましい。一方、斯かる温度の上限は、特に制限されるものではないが、通常200℃未満である。加熱時間については、でんぷん分解酵素活性が所定値に調整されるまで任意で設定できるが、通常0.1分以上である。
【0125】
また、本発明において、前述したでんぷん分解酵素活性(U/g)が、段階(ii)の前後で20%以上低下する(すなわち、「{(段階(ii)前の組成物におけるでんぷん分解酵素活性(U/g))-(段階(ii)後のでんぷん分解酵素活性(U/g))}/(段階(ii)前の組成物におけるでんぷん分解酵素活性(U/g))」で規定される低下割合が一定以上の数値となる)ことで本発明の効果が好ましく奏されるため好ましい。中でも25%以上、更には30%以上、とりわけ35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上、又は55%以上、又は60%以上、特に65%以上とすることが好ましい。当該割合が一定以上であるとの用語には、段階(ii)前の組成物におけるでんぷん分解酵素活性(U/g)が0.0U/gであり、当該割合が無限大に発散する場合が含まれてもよい。また、段階(ii)前の組成物におけるでんぷん分解酵素活性(U/g)が0.0超の値の場合において、当該割合の上限は特に制限されず、例えば通常100%以下、又は95%以下とすることができる。
【0126】
・原料のPDI:
また、本発明の組成物として、前述したPDI値が所定値未満の組成物を得るためには、本段階(i)における生地組成物の原料として、PDI値が所定値より低くなるように加工されたタンパク質又はこれを含む食用植物(例えば豆類)を用いることが好ましい。具体的には、生地組成物の原料として用いられるタンパク質又はこれを含む食用植物(例えば豆類)のPDI値が、90質量%未満であることが好ましい。中でも85質量%未満、更には80質量%未満、とりわけ75質量%未満、又は70質量%未満、又は65質量%未満、又は60質量%未満、又は55質量%未満、又は50質量%未満、又は45質量%未満、又は40質量%未満、又は35質量%未満、又は30質量%未満、又は25質量%未満、又20質量%未満、又15質量%未満、特には10質量%未満であることが望ましい。一方、斯かる割合の下限は、特に制限されるものではないが、通常0質量%以上、更には2質量%以上、中でも4質量%以上である。また、前述された組成物中の総タンパク質含量に対する、食用植物(例えば豆類)に含有された状態で配合されたタンパク質含量の比率が所定値以上であり、かつPDI値が所定値以下であることで、組成物の食感改善効果が更に顕著に奏されるため、より好ましい。PDI値が低いタンパク質、食用植物(例えば豆類)に含有された状態のタンパク質を得るための加工方法としては、乾燥基準含水率30質量%以上の環境下において所定の温度以上で加熱処理を行うことが好ましい。具体的には、80℃以上であることが好ましい。中でも90℃以上、更には100℃以上、特に110℃以上であることが望ましい。一方、斯かる温度の上限は、特に制限されるものではないが、通常200℃未満である。加熱時間についてはPDI値が所定値に調整されるまで任意で設定できるが、通常0.1分以上である。
【0127】
・原料の不溶性食物繊維の粒子径:
また、生地組成物の原料として食用植物(例えば豆類)を用いる場合、混練処理では不溶性食物繊維の形状は大きく変化しないため、斯かる食用植物(例えば豆類)に由来する不溶性食物繊維は、所定のサイズを有することが好ましい。ここで、通常漫然と破砕された豆類粉末における不溶性食物繊維サイズは450μm超となる蓋然性が高い(豆類に含有される不溶性食物繊維の形状は通常棒状であり、本発明のレーザー回折式粒度分布測定では大きめの値が得られるため。)。従って、本発明に用いる食材(特に種皮付きの豆類など、硬質組織を含有する食材)に含まれる不溶性食物繊維は、予め特定の破砕処理を行い、そのサイズが特定範囲となっているものを用いることが好ましい。具体的には、組成物に含まれる不溶性食物繊維について前述したのと同様、食用植物(例えば豆類)の水懸濁液をプロテアーゼ及びアミラーゼ処理し、でんぷんとタンパク質を酵素によって分解したでんぷん・タンパク質分解処理後組成物について、超音波処理を加えた後の粒子径分布を測定する方法を用いる。具体的には、食用植物の粉末の6質量%の水懸濁液を、0.4容量%のプロテアーゼ及び0.02質量%のα-アミラーゼにより20℃で3日間処理する(前記[手順b])ことによりでんぷん・タンパク質分解処理を実施した後、得られた処理物に超音波処理を加えてから粒子径分布を測定し、粒子径(d90及び/又はd50)すればよい。こうした処理によって、食用植物の構成成分のうちでんぷん及びタンパク質が分解され、得られる分解物の粒子径分布は、不溶性食物繊維を主体とする構造の粒子径分布を反映しているものと考えられる。
【0128】
具体的に、前記手順で得られた食用植物(例えば豆類)中の不溶性食物繊維の粒子径d90は、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることが更に好ましく、350μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。また同様に、前記手順で得られた食用植物(例えば豆類)中の不溶性食物繊維の粒子径d50は、450μm以下であることが好ましく、400μm以下であることが更に好ましく、350μm以下であることが更に好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、250μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。食用植物に含まれる不溶性食物繊維の粒子径d90及び/又は粒子径d50が前記範囲を超えると、本発明の効果が奏されにくくなる場合がある。この理由は定かではないが、粗大な不溶性食物繊維がでんぷん等のマトリクス構造形成を阻害し、本発明の効果が奏されにくくなるためと考えられる。一方、食用植物に含まれる不溶性食物繊維の斯かる粒子径d90及び/又は粒子径d50の下限は、特に制限されるものではないが、通常1μm以上、より好ましくは3μm以上であることが好ましい。
【0129】
・原料のCFW被染色部位:
また、生地組成物の原料として食用植物(例えば豆類)を用いる場合、混練処理では食物繊維形状は大きく変化しないため、斯かる食用植物(例えば豆類)に含まれる不溶性食物繊維は、所定の形状を有することが好ましい。具体的には、組成物に含まれる不溶性食物繊維について前述したのと同様、食用植物(例えば豆類)の水懸濁液をプロテアーゼ及びアミラーゼ処理し、でんぷん及びタンパク質を酵素分解したでんぷん・タンパク質分解処理物(具体的には、前記[手順b]によりでんぷん・タンパク質分解処理を施した処理物)をCFW(Calcofluor White)染色し、蛍光顕微鏡観察した場合に、CFW被染色部位の最長径平均値及び/又はアスペクト比平均値が、それぞれ所定値以下であることが好ましい。こうして得られたCFW被染色部位は、不溶性食物繊維主体の構造を有しているものと考えられる。具体的に、上記手順で測定された食用植物(例えば豆類)中のCFW被染色部位の最長径の算術平均値は、通常450μm以下、中でも400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下、又は200μm以下、又は150μm以下、又は100μm以下、又は80μm以下、更には60μm以下、特に50μm以下であることが好ましい。斯かるCFW被染色部位の最長径の平均値が前記範囲を超えると、本発明の効果が奏されにくくなる場合がある。その理由は定かではないが、大きな最長径を有する不溶性食物繊維がでんぷん等のマトリクス構造形成を阻害し、本発明の効果が奏されにくくなるためと考えられる。一方、斯かるCFW被染色部位最長径の算術平均値の下限は、特に制限されるものではないが、通常2μm以上、より好ましくは3μm以上であることが好ましい。なお、本発明における平均値(単に平均又は算術平均値と称する場合もある。)とは、特に指定が無い限り相加平均値を指す。
【0130】
また、後の段階(ii)の混練処理では食物繊維の形状は大きく変化しないため、不溶性食物繊維を含む食用植物(例えば豆類)としては、そこに含まれる不溶性食物繊維が一定以下のアスペクト比となるように加工された、粉末状のものを用いることが好ましい。ここで、通常漫然と破砕された食用植物(例えば豆類)粉末における不溶性食物繊維の前記CFW被染色部位のアスペクト比は5.0超の数値になる蓋然性が高い(特に、豆類に含有される不溶性食物繊維の形状は通常棒状であるため。)。また、食用植物(例えば豆類)粉末の風力選別などを行うと、特定形状の食用植物粉末が除去され、不溶性食物繊維のCFW被染色部位のアスペクト比が高すぎるか低すぎる蓋然性が高い。従って、食用植物(例えば豆類)粉末としては、予め特定の破砕処理を行い、不溶性食物繊維を表すCFW被染色部位のアスペクト比の算術平均値が特定範囲となっているものを用いることが好ましい。具体的には、上記手順で測定された食用植物(例えば豆類)粉末中のCFW被染色部位のアスペクト比の算術平均値が、通常5.0以下、中でも4.5以下、又は4.0以下、又は3.5以下、又は3.0以下、又は2.5以下、特に2.0以下であることが好ましい。斯かるCFW被染色部位のアスペクト比の平均値が前記範囲を超えると、本発明の効果が奏されにくくなる場合がある。その理由は定かではないが、大きなアスペクト比を有する不溶性食物繊維がでんぷん等のマトリクス構造形成を阻害し、本発明の効果が奏されにくくなるためと考えられる。一方、斯かるCFW被染色部位アスペクト比の算術平均値の下限は、特に制限されるものではないが、通常1.1以上であることが好ましく、1.3以上であることが更に好ましい。
【0131】
なお、生地組成物の原料となる食用植物(例えば豆類)中の不溶性食物繊維に関する各種パラメーターの測定方法、即ち、アミラーゼ及びプロテアーゼ処理、超音波処理、粒子径分布(粒子径d90及びd50)測定、CFW染色、蛍光顕微鏡観察等の具体的な条件及び手順については、前述した組成物中の不溶性食物繊維に関する各種パラメーターの測定方法に準じて測定するものとする。
【0132】
・原料の微細化・粉末化:
本発明において、生地組成物の原料として食用植物(例えば豆類)を用いる場合、斯かる食用植物は微細化・粉末化したものを用いることが好ましい。微細化・粉末化処理の手段や条件は特に限定されない。具体的に、微細化・粉末化処理時の温度は特に制限されないが、粉末が高温に曝されると、本発明の組成物の弾性が低下しやすくなるため、例えば200℃以下の温度で乾燥されることが好ましい。但し、食用植物として豆類を用いる場合、豆類の状態で加温した後に粉砕を行う方法であれば、熱負荷が軽減されるため、その温度は特に制限されない。また、微細化・粉末化処理時の圧力も制限されず、高圧粉砕、常圧粉砕、低圧粉砕の何れであってもよい。斯かる微細化処理のための装置の例としては、ブレンダー、ミキサー、ミル機、混練機、粉砕機、解砕機、磨砕機等の機器類が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、乾式ビーズミル、ボールミル(転動式、振動式等)等の媒体攪拌ミル、ジェットミル、高速回転型衝撃式ミル(ピンミル等)、ロールミル、ハンマーミル等を用いることができる。
【0133】
・原料の加熱加水処理:
本発明において、生地組成物の原料として、でんぷん及び/又はタンパク質を含む食用植物(例えば豆類)を用いる場合、斯かる食用植物は、前処理として予め、水を含む条件で加熱されたものを用いてもよい。特に、乾量基準含水率が一定値以上の環境下で加熱(湿潤加熱)されたものを用いると、最終的な加熱調理用ペースト組成物中の構造が形成されやすくなる場合があるため好ましい。
【0134】
具体的には、食用植物の加熱時の乾量基準含水率は、制限されるものではないが、通常25質量%以上、中でも30質量%以上、又は40質量%以上、特に50質量%以上とすることが好ましい。乾量基準含水率の上限は特に制限されないが、例えば通常は200質量%以下、中でも175質量%以下とすることができる。食用植物の加熱温度は、制限されるものではないが、通常80℃以上、中でも90℃以上、更には100℃以上とすることが好ましく、また、通常200℃以下、中でも190℃以下とすることが好ましい。
【0135】
なお、本願発明では、でんぷんを含む食用植物及びタンパク質を含む食用植物を共に予め加水加熱してから用いることがより好ましく、でんぷん及びタンパク質を共に含む食用植物を加水加熱してから用いることが更に好ましい。なお、食用植物の加水加熱は、例えばスチーム加熱などによって加熱することができる)。
【0136】
一方、特に粉末化(例えばd90及び/又はd50<1000μm)されたでんぷん含有食用植物(例えば豆類)を予め加熱して用いる場合、乾量基準含水率が25質量%未満の乾燥環境下で加熱(例えば90℃以上)されたものを用いると、でんぷんが局所的に加熱されることで過加熱となり、その構造中のアミロペクチンの熱分解が促進され、組成物がべたべたした品質となり、好ましくない場合がある。
【0137】
・生地組成物のよう素染色性
本段階(i)で調製される生地組成物は、前記の本発明の組成物と同様の手法で測定したABS5.0-6.5の値が規定値以下であることが好ましい。具体的には、生地組成物について前記手順で得られたABS5.0-6.5の値が、通常0.80以下、中でも0.75以下、更には0.70以下、とりわけ0.65以下、又は0.60以下、又は0.55以下、又は0.50以下、又は0.45以下、又は0.40以下、又は0.35以下、特には0.30以下であることが望ましい。一方、斯かる値の下限は、特に制限されるものではないが、通常0.00以上、更には0.10以上、中でも0.20以上である。その原理は不明であるが、当該分離画分の染色性が高い組成物は、更に分子量が大きいでんぷん画分に由来するでんぷん分解物(主に分子量対数6.5以上8.0未満の画分に含有されるアミロペクチンが、過加熱に伴う熱分解によって分子量対数5.0以上6.5未満の分解物となったと考えられる。)を多く含む可能性があり、そのようなでんぷん分解物は加水時に弾性が低下しやすい特性を有する場合があるからであると推測される。
【0138】
また、本段階(i)で調製される生地組成物は、前記の本発明の組成物と同様の手法で測定したABS6.5-8.0/ABS5.0-6.5の値が、規定値以上であることが好ましい。具体的には、生地組成物について前記手順で得られたABS6.5-8.0/ABS5.0-6.5の値が、通常0.003以上、中でも0.005以上、更には0.007以上、とりわけ0.009以上、又は0.010以上、又は0.020以上、又は0.030以上、又は0.040以上、又は0.050以上、又は0.060以上、特には0.070以上であることが望ましい。一方、斯かる値の上限は、特に制限されるものではないが、通常1.000以下、更には0.9000以下である。その原理は不明であるが、熱分解されたでんぷんの割合が、分解元のでんぷんに対して相対的に少なく、良好な品質になるため可能性がある。特に乾量基準含水率が少ない状態で粉末化され高温下混練された原料中のでんぷんは、粉末化されずに高温下に曝露された原料中のでんぷんと比較して熱分解が顕著に促進され、当該比率が0.003未満の値となる蓋然性が高い(試験例43)。具体的には、試験例21のように粉末の状態で80℃に加温されつつ混練された過加熱状態の生地組成物について、「バレル部位ごとの温度条件」(2)においてエクストルーダー中で80℃の混練工程が終了した段階における生地組成物の当該比率を測定したところ、0.001であった。
【0139】
なお、本発明の製造方法においては、本段階(i)の生地組成物、及び、最終的に製造される本発明の組成物のみならず、その製造工程全般を通して、製造途中の組成物について前記手順で得られたABS5.0-6.5の値及びABS6.5-8.0/ABS5.0-6.5の値が、それぞれ前記の規定を充足するようにでんぷんの熱履歴を管理しながら(すなわち本発明の組成物構成中の中間分子量の画分が増加するために必要な熱量を与えつつ、でんぷんが分解する程度の過加熱を避けながら)、その製造工程を進行させることが好ましい。
【0140】
・生地組成物の粒子径
生地組成物全体の粒子径は、原料として好ましく用いられる前述の食用植物(例えば豆類)粉末と同様の大きさであることが好ましい。具体的には、生地組成物全体の粒子径を測定する場合には、組成物試料1cm四方程度の塊を80℃の粒子径分布時測定溶媒(例えばエタノール)50mlに浸漬し、5分程度静置し、その後、スパーテルで押しつぶしながらよく攪拌し、液中に懸濁させ、目開き2.36mm、線径(Wire Dia.)1.0mm8メッシュの篩を通過した溶液(単に懸濁液と称する場合がある)を測定に用い、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて超音波処理後の粒子径を測定する。超音波処理後の粒子径d90は、通常500μm以下が好ましく、中でも450μm以下、又は400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下、又は200μm以下、又は150μm以下、又は100μm以下、又は90μm以下、又は80μm以下、又は70μm以下、又は60μm以下、又は50μm以下がより好ましい。また、超音波処理後の粒子径d50は、通常500μm以下が好ましく、中でも450μm以下、又は400μm以下、又は350μm以下、又は300μm以下、又は250μm以下、又は200μm以下、又は150μm以下、又は100μm以下、又は90μm以下、又は80μm以下、又は70μm以下、又は60μm以下、又は50μm以下がより好ましい。d90及びd50の下限は特に制限されないが、何れも通常0.3μm以上、又は1μm以上である。
【0141】
なお、本発明における「メッシュ」とは金網・篩・フィルター等の目の密度を表す単位であり、1インチあたりの網目の数を表す。すなわち、例えば「8メッシュパス」とは、目開き2.36ミリメートルの篩を通過する画分を意味する。具体的には、メッシュオンの針金の太さと目の間隔は、特に指定がない限りU.S.A. Standard Testing Sieves ASTM Specifications E 11-04 にて規定されている数値(例えば8メッシュは、同文献中のNominal Dimensions, Permissible Variation for Wire Cloth of Standard Testing Sieves (U.S.A.) Standard Seriesにおける「Alternative」に規定された「No.8」と対応する)又はそれに準じた数値を採用することができる。
【0142】
(3)段階(ii):高温条件での混練処理
前記段階(i)で得られた生地組成物を、所定の高温条件下で一定以上の強さで混練する。このように高温条件で強混練することで、前述した好適なでんぷんの分子量分布が形成され、本発明の効果が奏されるものと考えられる。特に、一定の高温加圧条件下で混練を行うことで、斯かる不溶性成分が流出防止される効果が高められるため、より好ましい。その理由は定かではないが、一定の高温条件下、好ましくは高温加圧条件下での処理によって、生地中のタンパク質、でんぷん、及び不溶性食物繊維が、組成物の表面に複合構造を形成し、特に不溶性成分の流出を抑えている可能性がある。一方、精製でんぷんを原料として使用した通常の冷麺等は、特に食物繊維をごく僅かしか含有しないため、本発明の組成物のような構造が適切に発達せず、本発明の効果を奏さないと考えられる。
【0143】
混練時の具体的な条件は、以下式Iで求められるSME(specific mechanical energy)値が所定値以上であることで、でんぷん粒が十分に破壊され、マトリクスとしての性質を発現する場合があるため好ましい。具体的には、当該SME値が通常400kJ/kg以上となるような条件下で混練することが好ましく、中でも450kJ/kg以上、更には500kJ/kg以上、又は550kJ/kg以上、又は600kJ/kg以上、又は700kJ/kg以上、特に800kJ/kg以上となる条件下で混練することが好ましい。また、エクストルーダーを用いる場合、スクリューの回転数を通常150rpm超、中でも200rpm超、更には250rpm超とすることが好ましい。
【0144】
【数3】
N:混練時スクリュー回転数(rpm)
N
max:最大スクリュー回転数(rpm)
τ:混練時トルク/最大トルク(%)
τ
empty:空回し時トルク/最大トルク(%)
Q:総質量流量(kg/時間)
P
max:撹拌機(例えばエクストルーダー)最大パワー(kW)
【0145】
更に、前述の混練を例えば通常100℃以上、中でも110℃以上、更には120℃以上の高温下で行うことで、でんぷん粒構造が破壊されやすくなるため、更に好ましい。また、例えば混練にエクストルーダーを用いる場合には、前記した高温かつ高SME値における処理が、バレル全長の通常3%以上、中でも5%以上、更には8%以上、又は10%以上、又は15%以上、特に20%以上の領域で行われることが好ましい。特に、豆類に由来するでんぷん粒構造は、その構造がより強固であるため、前記した高温かつ高SME値における処理はより有用である。一方、処理温度の上限は、通常200℃以下である。中でも190℃以下、更には180℃以下、又は170℃以下、特に160℃以下が好ましい。本段階における温度が前記上限を超えると、例えば混練にエクストルーダーを用いる場合、エクストルーダーのダイ部からの組成物の押出時の温度が十分に低下しない虞がある。
【0146】
更に、上記混練を大気圧に対する加圧条件下で行う場合、混練を通常よりも高い圧力を印加する条件で行うことがより好ましい。混練時圧力は、エクストルーダーを用いる場合、その出口圧力を測定することで測定することができる。混練を大気圧に対する加圧条件下で行う場合、大気圧に加えて更に印加すべき圧力の下限は、通常0.01MPa以上、中でも0.03MPa以上、更には0.05MPa以上、又は0.1MPa以上、又は0.2MPa以上、特に0.3MPa以上、0.5MPa以上、更に好ましくは1.0MPa以上、更に好ましくは2.0MPa以上、更に好ましくは3.0MPa以上とすることが好ましい。一方、大気圧に加えて更に印加すべき圧力の上限は、特に制限はないが、例えば50MPa以下、又は40MPa以下、とすることができる。また、混練部先端側終点付近(好ましくは混練部先端側終点直後)にフロー遅滞構造を設置することで、混練部における圧力を高めることができるため好ましい。
【0147】
混練の時間は、混練の温度及び圧力、混練容器の大きさ等から適宜定めればよい。特に、組成物に印加される熱量は、主に用いられる装置の特性によって大きく異なることから、処理前後の組成物の物性が所定の範囲に調整されるように加工することが好ましい。
【0148】
混練時間は限定されないが、一般的には例えば以下のとおりである。即ち、混練時間の下限は、例えば通常0.1分間以上、中でも0.2分間以上、更には0.3分間以上、又は0.4分間以上、又は0.5分間以上、又は0.8分以上、又は1分間以上、特に2分間以上とすることが好ましい。混練時間の上限は制限されないが、例えば通常60分間以内、中でも30分間以内、更には15分間以内とすることができる。
【0149】
生地組成物をこのような過酷な高温高圧条件下で混練処理することにより、タンパク質、でんぷん、不溶性食物繊維等が複合構造を形成することや、組成物の食感が改善されること、更には組成物の不溶性成分や可溶性成分の流出が抑えられることは、従来は全く知られていなかった驚くべき知見である。
【0150】
段階(ii)の混練処理は、組成物中のでんぷん粒構造の数が所定値以下となるまで実施することが好ましい。その原理は不明であるが、でんぷん粒構造が破壊された状態で、後述する高温高圧強混練条件下で組成物を加工することで、でんぷんがマトリクス状に組成物全体に拡散し、でんぷん中のアミロペクチンが保水時弾性を発現しやすい構造となると考えられる。具体的には、組成物は下記(a)及び/又は(b)を充足するまで混練処理を実施することが好ましく、(a)と(b)を共に充足するまで混練処理を実施することがさらに好ましい。
(a)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、300個/mm2以下となる。
(b)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が120℃未満となる。
【0151】
前記(a)については、段階(ii)の混練処理により、前記条件下で観察された組成物中のでんぷん粒構造の数が、通常300個/mm2以下、中でも250個/mm2以下、更には200個/mm2以下、とりわけ150個/mm2以下、又は100個/mm2以下、又は50個/mm2以下、又は30個/mm2以下、又は10個/mm2以下、特に0個/mm2となることが好ましい。なお、当該でんぷん粒構造の詳細は、本発明の組成物との関連で先に詳述したとおりである。
【0152】
前記(b)については、段階(ii)の混練処理により、前記条件下で測定された組成物の糊化ピーク温度が、通常120℃未満、中でも115℃未満となることが好ましい。なお、当該糊化ピーク温度の詳細は、本発明の組成物との関連で先に詳述したとおりである。
【0153】
段階(ii)の混練後の組成物中のでんぷん糊化度は、所定値以上であることが、加熱調理時の形状崩壊を抑制する観点から好ましい。具体的に、段階(ii)の混練後の組成物中のでんぷん糊化度は、通常50質量%以上、中でも55質量%以上、更には60質量%以上、とりわけ65質量%以上、又は70質量%以上、又は75質量%以上、特に80質量%以上であることが好ましい。糊化度の上限は特に制限されないが、あまりに高すぎるとでんぷんが分解し、組成物がべたべたした好ましくない品質となる場合がある。よって、糊化度の上限は100質量%以下、99質量%以下、中でも95質量%以下、更には90質量%以下であることが好ましい。
【0154】
段階(ii)の混練処理は、前記の分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合[値α]が、通常60%以下、中でも55%以下、又は50%以下、又は45%以下、又は40%以下、又は35%以下となるまで実施することが好ましい。なお、当該[値α]の詳細は、本発明の組成物との関連で先に詳述したとおりである。
【0155】
本発明の組成物は、前記の分子量対数が6.5以上8.0未満の曲線下面積の割合[値β]が、通常35%以上、中でも40%以上、又は45%以上、又は50%以上、又は55%以上、又は60%以上となるまで実施することが好ましい。なお、当該[値β]の詳細は、本発明の組成物との関連で先に詳述したとおりである。
【0156】
本発明において、段階(ii)の前後ででんぷん粒構造の数が減少するように処理されることが好ましい。その原理は不明であるが、でんぷん粒構造が破壊された状態で、後述する高温高圧強混練条件下で組成物を加工することで、でんぷんがマトリクス状に組成物全体に拡散し、でんぷん中のアミロペクチンが保水時弾性を発現しやすい構造となると考えられる。具体的には、本発明の組成物は、下記(c)及び/又は(d)を充足することが好ましく、(c)と(d)を共に充足することがさらに好ましい。
(c)組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、段階(ii)の前後で5%以上低下する。
(d)ラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が、段階(ii)の前後で1℃以上低下する。
【0157】
本発明において、(c)に規定するように組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が、段階(ii)の前後で5%以上低下する(すなわち、「{(段階(ii)前の組成物におけるでんぷん粒構造数)-(段階(ii)後の組成物におけるでんぷん粒構造数)}/段階(ii)前の組成物におけるでんぷん粒構造数」で規定される低下割合が一定以上の数値となる)ことが好ましい。中でも10%以上、更には15%以上、とりわけ20%以上、又は25%以上、又は30%以上、又は35%以上、又は40%以上、又は45%以上、特に50%以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常100%以下、又は95%以下とすることができる。特に段階(i)における生地組成物の粉砕物の6%懸濁液を観察した場合に認められるでんぷん粒構造が100個超、又は200個超、又は300個超の場合に、段階(ii)の前後で上記でんぷん粒構造低下率となるように段階(ii)の処理を行うことが好ましい。
【0158】
本発明において、(d)に規定するようにラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が、段階(ii)の前後で1℃以上低下する(すなわち、「(段階(ii)前の組成物における糊化ピーク温度)-(段階(ii)後の組成物における糊化ピーク温度)」で規定される温度低下差分が一定以上の数値となる)ことが好ましい。中でも2℃以上、更には3℃以上、とりわけ4℃以上、又は5℃以上、又は6℃以上、又は7℃以上、又は8℃以上、又は9℃以上、特に10℃以上とすることが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常70℃以下、又は65℃以下、又は60℃以下、又は55℃以下、又は40℃以下、又は35℃以下とすることができる。特に段階(i)におけるラピッドビスコアナライザを用いて14質量%の組成物粉砕物水スラリーを50℃から140℃まで昇温速度12.5℃/分で昇温して測定した場合の糊化ピーク温度が100℃超、又は110℃超、又は120℃超の場合に、段階(ii)の前後で上記温度低下差分となるように段階(ii)の処理を行うことが好ましい。
【0159】
(4)段階(iii):降温混練処理
前記段階(ii)後、降温せずに組成物を減圧すると、組成物中の水分が急激に蒸発して組成物が膨化し、好ましくない。従って、高温条件での混練処理後、組成物が膨化しないように、組成物温度を通常100℃未満、中でも97℃未満、更には95℃未満、特に92℃未満まで降温させることが好ましい。特に、降温処理を一定の加圧条件下で行うことが好ましい。この場合、降温時の加圧条件は、組成物の膨化を防止できれば特に制限されないが、混練処理時の圧力と同様であることが好ましい。具体的には、降温時に大気圧に加えて更に印加すべき圧力の下限は、通常0.01MPa以上、中でも0.03MPa以上、更には0.05MPa以上、又は0.1MPa以上、又は0.2MPa以上、特に0.3MPa以上とすることが好ましい。一方、降温時に大気圧に加えて更に印加すべき圧力の上限は、限定されるものではないが、例えば5MPa以下とすることができる。
【0160】
また、総質量流量を一定以上に保ちつつエクストルーダーの出口温度設定を更に下げることで、(ii)の混練時圧力が高まり、組成物中の構造形成が促進されるためより好ましい。それらの条件は、例えばエクストルーダーを用いる場合、その出口圧力が一定以上となるように適宜調整すればよいが、一般的には以下の通りである。即ち、エクストルーダーの出口温度の上限は、通常95℃未満、中でも90℃未満、更には85℃未満、又は80℃未満、又は75℃未満、又は70℃未満、又は65℃未満、又は60℃未満、又は55℃未満、又は50℃未満、又は45℃未満、特に40℃未満に設定することが好ましい。一方、当該温度の下限は特に制限されないが、例えば通常0℃超、又は4℃超とすることができる。また、総質量流量も制限されないが、例えば通常0.5kg/時間以上、中でも0.7kg/時間以上、更には1.0kg/時間以上とすることができる。
【0161】
また、段階(ii)における混練時の最高加熱温度と、段階(iii)における降温温度との温度差が、所定値以上であることが好ましい。具体的には、段階(ii)における混練時の最高加熱温度(エクストルーダーを用いる場合にはその最高加熱部位の温度)と、段階(iii)における降温温度(エクストルーダーを用いる場合にはその出口温度)との温度差が、通常15℃以上、中でも20℃以上、更には25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。前記温度差を前記下限値以上とすることで、得られる組成物からの不溶性成分及び可溶性成分の流出が抑制され、惹いては組成物の結着性が抑制され、弾性が保持されたより優れた特性を有する組成物が得られるので好ましい。
【0162】
なお、本発明のでんぷん含有固形状組成物は、前述のように、膨化を伴う組成物(膨化組成物)であってもよく、膨化を伴わない組成物(非膨化組成物)であってもよいが、非膨化組成物であることが好ましい。従来エクストルーダーは、パフをはじめとする膨化物を製造するために用いられることが多く、それらの製造条件は、通常は段階(iii)の降温条件が組成物膨化温度を超える条件として設定されるため、特に膨化を伴わない組成物の製造方法に適用することは困難であった。なぜなら、エクストルーダーの内部温度推移は連続的に起こるため、例えば混練時の昇温条件のみ採用して出口温度設定は適宜低温に調整しようとすると、出口温度設定を下げた影響で混練時の温度を始めとして内部温度全体が下がり、全く別の条件になってしまい、当業者が適宜なしうる調整ではなかったためである。また、パフをはじめとする膨化物の製造時には、減圧時に速やかに膨化をさせるためにその総質量流量中に占める水分の割合を低くすることが当業者の技術常識であり、膨化を伴わない組成物のように総質量流量中に占める水分含量を高める動機は存在しなかった。
【0163】
また、段階(iii)以降の組成物を、コンベアに載置して搬送してもよい。この場合、コンベアの種類としては制限されないが、載置面の一部又は全部が通風性(好ましくは通風性及び通水・通液性)を有するメッシュ状のコンベアであることが好ましい。斯かるメッシュ状のコンベアを採用することにより、搬送中の組成物に対して、後述の保水処理、水分量調整処理、乾燥処理等の種々の処理を施すことが容易になる。なお、メッシュ状コンベアを使用する場合のこれらの処理の詳細については後述する。
【0164】
(5)段階(iv):保水処理
前記段階(i)~(ii)又は(i)~(iii)を経て得られた組成物を、そのまま本発明の組成物として用いてもよいが、更に(iv)組成物の乾量基準含水率を25質量%未満とする段階を設けてもよい。なお、斯かる段階(iv)は、その一部又は全部が、前記段階(i)~(iii)のうち1又は2以上の段階において達成されてもよく、或いは前記段階(i)~(iii)の後に個別の段階を設けてもよい。中でも、本発明の製造方法では、段階(ii)以降の段階で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間が、所定値以上となるような構成を採用することが、組成物同士が結着しにくい好ましい品質となることから好ましい。具体的には、段階(ii)以降の段階で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、乾量基準含水率25質量%以上の状態で、通常10分間以上、中でも15分間以上、更には20分間以上、又は30分間以上、又は40分間以上、又は50分間以上、特に60分間以上保持することが好ましい。その原因は不明であるが、(ii)の工程で糊化した組成物中のでんぷんが老化することで、組成物同士が結着しにくい組成物特性が生じるものと考えられる。当該時間の上限は特に制限されないが、例えば通常2400分間以下、又は1800分間以下とすることができる。
【0165】
段階(iv)における組成物の温度は、制限されるものではないが、通常90℃以下、中でも80℃以下、更には70℃以下、特に60℃以下とすることが好ましい。組成物の温度の下限は特に限定されないが、例えば通常0℃超、又は4℃超とすることができる。段階(iv)における圧力条件は、制限されるものではないが、例えば常圧下とすることができる。また、組成物の水分含量を低下させる段階(乾燥処理など)を有する場合、水分含量の低下前に保水処理を行ってもよく、水分含量の低下とともに保水処理を行ってもよく、水分含量の低下後に湿潤処理を行ってもよい。なお、水分含量低下前に保水処理を行う方が本発明の効果がより顕著に奏されるため好ましい。
【0166】
段階(iv)の保水処理後における組成物中のでんぷん糊化度は、特に規定されないが、通常10質量%以上、中でも20質量%以上、更には30質量%以上、とりわけ40質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましく、また、通常98質量%以下、中でも95質量%以下、更には90質量%以下、とりわけ85質量%以下、特に80質量%以下であることが好ましい。また、保水処理前後において、糊化度が所定割合以上低下する(すなわち、「(保水処理前の組成物糊化度)-(保水処理後の組成物糊化度)」によって算出される糊化度低下差分が一定以上である)ことが好ましい。具体的には、段階(ii)以降に設けられる段階(iv)の保水処理により、組成物の糊化度低下差分が1質量%以上、中でも2質量%以上、更には3質量%以上、とりわけ4質量%以上、特に5質量%以上低下するまで保水処理を行うことが好ましい。上限は特に制限されないが、例えば通常50質量%以下とすることができる。
【0167】
(6)組成物の水分量の調整について
なお、前記の老化を促進するための手段の一例として、前記(i)~(iii)の何れかの段階において組成物に水分を添加し、生地組成物の乾量基準含水率を所定値超に調整することが好ましいが、段階(i)において組成物に水分を添加し生地組成物の乾量基準含水率を所定値超に調整することが好ましい。具体的には、組成物の乾量基準含水率を、通常40質量%超、中でも45質量%超、更には50質量%超、とりわけ55質量%超、又は60質量%超、又は65質量%超、又は70質量%超、又は75質量%超、特に80質量%超とすることが好ましい。組成物の乾量基準含水率の上限は、特に制限されないが、例えば通常200質量%以下、又は175質量%以下、又は150質量%以下とすることができる。
【0168】
このように組成物の水分量を調整するための具体的な手段としては、制限されるものではないが、段階(i)、段階(ii)、段階(iii) 及び段階(iv)の1以上の段階でその製造中に配合する水分の一部又は全部を加水する態様が含まれる。中でも、段階(i)において、組成物を一定超の乾量基準含水率に調整した上で、段階(i)以降、より具体的には段階(ii)、段階(iii) 及び段階(iv)の1以上の段階で、その製造中に配合する水分の残部を加水する態様が好ましい。具体的には、段階(i)において、組成物の乾量基準含水率を、通常25質量%超、中でも30質量%超、更には35質量%超、とりわけ40質量%超、又は45質量%超、又は50質量%超、又は55質量%超、又は60質量%超、又は65質量%超、又は70質量%超、又は75質量%超、特に80質量%超とすることが好ましい。段階(i)における組成物の乾量基準含水率の上限は、特に制限されないが、例えば通常200質量%以下、又は175質量%以下、又は150質量%以下とすることができる。また、前記段階(i)の生地組成物の調製時に、その製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)の所定割合以上について加水を行う方法が好ましい。具体的に、製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)のうち通常50%以上、中でも55%以上、更には60%以上、又は75%以上、又は80%以上、又は85%以上、又は90%以上、特に100%を段階(i)の生地組成物の調製時に他原料と混合することが好ましい。
【0169】
加水は水の状態でもスチームの状態でも行うことができるが、水の状態で添加することが好ましい。更に、エクストルーダーを用いる場合は、エクストルーダー投入前の原材料に予め加水してもよく、エクストルーダーに原材料を投入後、エクストルーダー内の原材料に加水してもよい。なお、エクストルーダーを用いて原材料を混練する場合は、フィーダから投入された原材料に加水を行うことで段階(i)の組成物をエクストルーダー内で調製し、その後連続的に段階(ii)を行う態様も含まれるが、前記段階(i)の生地組成物の調製時にその製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)の所定割合以上(通常50%以上、中でも55%以上、更には60%以上、又は75%以上、又は80%以上、又は85%以上、又は90%以上、特に100%)について予め加水を行う方法が好ましい。さらに、フィーダから投入される原材料が乾量基準含水率40質量%未満となる程度に任意で加水を行い、その後エクストルーダーバレルに設けられた注水機構からその製造中に配合する水分の残部(又は全部)を注水することで段階(i)の組成物をエクストルーダー内で調製し、その後連続的に段階(ii)を行う態様を採用することもできるが、そのような態様を採用する場合組成物が気泡を含有しやすくなる場合があるため、ダイ部以前のいずれかの段階で脱気を行うことが好ましく、具体的にはフィーダ部の脱気機構において脱気を行う及び/又は後述する押出機のバレルに設けられたベント部において脱気を行うことが好ましい。また、エクストルーダーのバレルに設けられた注水機構からその製造中に配合する水分を注水する機構を採用する場合、二軸エクストルーダーを使用することが好ましい。
【0170】
さらに、その製造中に配合する水分の所定割合以上を、エクストルーダー内温度が所定温度以上となる前に他原料と混合することで、でんぷんが過加熱によってその特性が変化することを抑制できる場合があるため好ましい。具体的には、所定割合以上の水分を他原料と混合する際のエクストルーダー内温度が通常90℃以上、又は85℃以上、又は80℃以上となる前であることがより好ましい。エクストルーダー内が所定温度以上となる前に他原料と混合する水分の割合は、製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)のうち通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%を他原料と混合することが好ましい。水分を他原料と混合する場合、原料をエクストルーダーに投入する前に、予め前記割合の水分を混合しておくことが好ましい。特に、エクストルーダー内が80℃以上となる前に、製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)の60質量%以上を他原料と混合することが好ましい。さらに、エクストルーダー内が外気温から20℃以上加温される前に、製造中に配合する水分(特に段階(i)及び段階(ii)において配合される水分)の60質量%以上を他原料と混合することが好ましい。
【0171】
一般に、単にでんぷんの糊化を行う目的のみであれば、生地組成物における乾量基準含水率は、40質量%以下程度で十分である。その後の乾燥工程を考慮すると、それ以上の加水を行うことは、動機が存在しないどころか、むしろ阻害的な要因が存在すると言える。よって本段階(iv)のように、いったん糊化させたでんぷんを老化させるという思想を有さなければ、生地組成物における乾量基準含水率を高めるという着想は困難である。更に、単に生地組成物における乾量基準含水率を高めた場合であっても、その後に組成物中の水分を乾燥させるという思想とは逆の、本段階(iv)のような水分を保持するという思想が無ければ、前述したような、特に段階(iii)以降で、組成物の温度が80℃未満に低下してから、組成物の乾量基準含水率が25質量%未満となるまでに要する時間を所定値以上確保するという構成を採用することはできないと考えられる。
【0172】
また、段階(iii)以降の段階で(特にエクストルーダーを採用する場合は、押出後の組成物に対して)加水を行い、組成物が乾量基準含水率25質量%に到達するまでの時間を、所定時間より長くする方法も用いることができる。加水は、水の状態でもスチームの状態でも行うことができるが、水の状態で添加することが好ましく、例えばミスト状態の水分を噴霧する方法で添加することで、製造工程における水分使用量を低減しつつ品質の良い組成物とできるため好ましい。また、組成物を直接水中に投入することで、組成物の吸水によって加水する方法でも行うことができる。
【0173】
更に、段階(iii)以降の段階で(特にエクストルーダーを採用する場合は、押出後の組成物に対して)加水を行った組成物に対して、当該水分を加水後速やかに揮発させる方法を採用することで、気化熱によって組成物温度を速やかに低下させることができるため好ましい。特に揮発後の組成物における乾量基準含水率が25質量%を下回らないように調製しながら当該処理を行うことが好ましい。より具体的には、例えば前述のように、載置面の一部又は全部が通風性(好ましくは通風性及び通水・通液性)を有するメッシュ状のコンベアを用いて段階(iii)以降の組成物を搬送すると共に、コンベア上に載置される前後(すなわち搬送前又は搬送中)の組成物に対して加水を行う工程を有することによって、保水処理を施す態様が挙げられる。これにより、組成物の搬送と前記処理を同時に行うことができるため好ましい。またコンベア搬送後の組成物に対してミスト上の水分を噴霧するなどの方法で保水処理を行う態様であってもよい。
【0174】
斯かる保水処理の一態様としては、エクストルーダーによる押出後の組成物をコンベア上に載置し、コンベアごと組成物を水に浸漬させ(即ち、コンベアの搬送過程において一時的に水槽に浸入する工程を設ける)、その後は任意でコンベア搬送しながら組成物に送風する態様が挙げられる。また、保水処理の別態様としては、コンベア上に載置される前後いずれかの段階でエクストルーダーによる押出後の組成物に対してミスト状態の水分を噴霧し、コンベア上に組成物を載置し、任意でコンベア搬送しながら組成物に送風する態様が挙げられる。いずれの場合であっても、当該コンベア載置面の一部又は全部を通風性(例えばメッシュに垂直方向から送風した場合に、送風量の1%以上、又は3%以上が透過する)を有するメッシュ状構造とすることにより、加水された水分が搬送中に揮発しやすくなり、気化熱によって効率的に組成物温度を低下させることができ、乾量基準含水率25質量%に到達するまでの時間を調整できるため好ましく、特にコンベア搬送しながら組成物に送風する態様においては、メッシュ状コンベアの上部及び/又は下部から送風することが好ましい。メッシュ状構造の目開きは特に限定されないが、具体的には、例えば平均目開き面積が1mm2以上(具体的には1mm×1mm以上)、又は3mm2以上(具体的には3mm×1mm以上)、又は10mm2以上(具体的には5mm×2mm以上)であることが好ましい。一方、平均目開き面積の上限は特に制限されないが、例えば2500mm2以下(具体的には50mm×50mm以下)、又は1500mm2以下(具体的には50mm×30mm以下)、又は500mm2以下(具体的には20mm×25mm以下)とすることができる。
【0175】
また、メッシュ状コンベアの上部及び/又は下部から送風する送風処理前後において、糊化度が所定割合以上低下する(すなわち、「処理前の組成物糊化度-処理後の組成物糊化度」によって算出される糊化度低下差分が一定以上である)ことが好ましい。具体的にはその糊化度低下差分が1質量%以上、中でも2質量%以上、更には3質量%以上、とりわけ4質量%以上、特に5質量%以上低下するまで保水処理を行うことが好ましい。上限は特に制限されないが通常50質量%以下である。
【0176】
また、一旦組成物の乾量基準含水率25質量%以下となった場合であっても、乾燥組成物に再加水して乾量基準含水率を高めることで、保水処理を行うことができる。乾燥組成物に再加水する場合には、その後の保持時間の過半を、例えば通常60℃以下、中でも50℃以下、更には40℃以下とすることが好ましい。
【0177】
また、段階(iii)以降の段階で(特にエクストルーダーを採用する場合は、押出後の組成物に対して)、周辺湿度を高め、乾量基準含水率25質量%に到達するまでの時間を所定時間より長くする方法も用いることで、特に通常すみやかに水分が失われ組成物内部と比較して老化しにくい組成物表面付近のでんぷんが局所的に老化し、麺をはじめとする複数の組成物をまとめて喫食する組成物とした場合に、組成物同士が結着しにくく食べやすい組成物となる場合があるため好ましい。
【0178】
また、段階(iv)において(特にエクストルーダーを採用する場合は、押出後の組成物に対して)、組成物温度を一定温度以下に速やかに低下させることで、それ以降の段階で乾量基準含水率25質量%に到達するまでの時間を所定時間より長くする方法も用いることができる。より具体的には、乾量基準含水率25質量%に到達するまでの時間の過半において、組成物温度を通常80℃以下まで低下させることが好ましく、中でも70℃以下、又は60℃以下、又は50℃以下、又は40℃以下まで低下させることがより好ましい。更に、エクストルーダーを用いて製造する組成物においては、出口から押し出される段階において組成物温度が通常80℃以下となっていることが好ましく、中でも70℃以下、又は60℃以下、又は50℃以下、又は40℃以下となっていることが好ましく、出口温度が当該温度に設定された状態で製造されることがより好ましい。当該温度下限は特に限定されないが、例えば通常0℃超、又は4℃超とすることができる。
【0179】
例えば、バレルの第2フライト部及び/又はダイ部に、ダイ部の流路出口における組成物の温度を所定温度まで低下させる能力を有するクーラーを設けることで、特に組成物表面のでんぷんがより効果的に老化してその後の組成物同士の結着しやすさなどが改善されるため好ましい。また、ダイ部として長尺上の構造を採用することで、より温度組成物温度が低下しやすくなるため好ましい。また、段階(iii)以降の段階(特にエクストルーダーを採用する場合は、押出後の組成物に対して)で加水を行った組成物に対して、当該水分を加水後速やかに揮発させる方法を採用することで、気化熱によって組成物温度を速やかに低下させることで前記条件を達成することが好ましく、揮発後の組成物における乾量基準含水率が25質量%を下回らないように調整しながら当該処理を行うことがより好ましい。
【0180】
また、段階(iii)において、エクストルーダー(より具体的には混練部以降)の内部温度を所定値未満まで降温するように調整することにより、エクストルーダー内部から押出後の組成物が乾量基準含水率25質量%未満となるまでの時間を調節する手法を用いることもできる。具体的には、エクストルーダー(より具体的には混練部以降)の内部温度を、通常95℃未満、中でも90℃未満、更には85℃未満、又は80℃未満、又は75℃未満、又は70℃未満、又は65℃未満、又は60℃未満、又は55℃未満、又は50℃未満、又は45℃未満、特に40℃未満に調整することが好ましい。下限は特に限定されないが、通常0℃超、又は4℃超とすることができる。これにより、エクストルーダー内部から押し出した後の組成物が乾量基準含水率25質量%未満となるまでの時間を、好ましくは通常10分間以上、中でも15分間以上、更には20分間以上、又は30分間以上、又は40分間以上、又は50分間以上、特に60分間以上に調節することができる。斯かる時間の上限は特に限定されないが、例えば通常2400分間以下、更には1800分間以下とすることができる。
【0181】
(7)乾燥処理
更に、段階(iii)又は(iv)、或いは、前述する保水処理や表面老化処理などの、乾量基準含水率25質量%未満となるまでの時間を調節する処理の後に、組成物の乾量基準含水率を一定以下とする段階(いわゆる乾燥処理)を更に設けると、組成物中のでんぷん老化の進行が遅くなるか、或いは進行しなくなり、品質が良い組成物となる場合がある。こうした段階を設ける場合には、最終的な組成物中の乾量基準含水率を、通常60質量%未満、中でも55質量%未満、更には50質量%未満、又は45質量%未満、又は40質量%未満、又は35質量%未満、又は30質量%未満、又は25質量%未満、又は20質量%未満、又は15質量%未満に調整する。一方、組成物中の乾量基準含水率の下限は、制限されるものではないが、工業上の生産効率という観点から、例えば0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上とすることができる。斯かる乾燥処理中の組成物の温度は、限定されるものではないが、常圧下で処理を行う場合は通常50℃超、中でも60℃超、又は70℃超、特に80℃超とすることが好ましい。上限は特に限定されないが100℃未満、又は98℃未満である。
【0182】
また、乾燥処理中における組成物温度を調整しながら緩慢に乾燥処理を行うことで、比較的短時間で組成物の乾量基準含水率を10質量%以下まで低下させつつ、処理後組成物(組成物の乾量基準含水率が10質量%以下)にひび割れが起こりにくい品質の良い組成物となるため好ましい。具体的には、当該処理中における組成物温度から「任意の時点における組成物温度から求められる雰囲気相対湿度」を算出し、当該処理時間全体における平均相対湿度が一定割合以上となるように組成物温度を調整することが好ましい。すなわち、組成物の乾量基準含水率が10質量%以下となるまでの当該処理中において組成物中の水分が比較的多い(例えば乾量基準含水率25質量%以上)場合において、飽和水蒸気量が上がりすぎない範囲で組成物温度を比較的高い温度に調整することで組成物水分の蒸発によって雰囲気中の絶対湿度を上げ、平均相対湿度を一定割合以上に調整することができる。また、組成物中の水分が比較的少ない(例えば乾量基準含水率25質量%未満)場合は、組成物温度を比較的低い温度に調整することで雰囲気の飽和水蒸気量を下げ、平均相対湿度を一定割合以上に調整することができる。より具体的には、組成物の乾量基準含水率が10質量%以下となるまでの当該処理中における平均相対湿度が通常50RH%以上、中でも55RH%以上、更には60RH%以上、又は65RH%以上、又は70RH%以上、又は75RH%以上、又は80RH%以上となるように当該処理を行うことが好ましい。また、組成物の乾量基準含水率25質量%以上の状態における平均相対湿度及び/又は組成物の乾量基準含水率25質量%未満10質量%以上における平均相対湿度のいずれか一方が一定割合以上(50RH%以上、中でも55RH%以上、更には60RH%以上、又は65RH%以上、又は70RH%以上、又は75RH%以上、又は80RH%以上)であることが好ましく、少なくとも組成物の乾量基準含水率25質量%以上の状態における平均相対湿度が一定割合以上であることが好ましく、ともに一定割合以上であることが特に好ましい。
【0183】
さらに、乾燥処理開始から組成物の乾量基準含水率が10質量%に到達するまでの所要時間の前半40%の時間帯(比較的組成物水分が高い時間帯。より好ましくは当該時間帯において例えば乾量基準含水率25質量%以上の時間帯)における平均相対湿度及び/又は乾燥処理開始から組成物の乾量基準含水率が10質量%に到達するまでの所要時間の後半60%の時間帯(比較的組成物水分が低い時間帯。より好ましくは当該時間帯において例えば乾量基準含水率25質量%未満の時間帯)における平均相対湿度を一定割合以上に調整することで、乾燥処理後の組成物(組成物の乾量基準含水率が10質量%以下)にひび割れが起こりにくい品質の良い組成物となるため好ましく、どちらの時間帯においても平均相対湿度が一定割合以上であることが特に好ましい。具体的には乾燥処理開始前半40%の時間における平均相対湿度及び/又は乾燥処理開始後半60%の時間帯における平均相対湿度が50RH%以上、中でも55RH%以上、更には60RH%以上、又は65RH%以上、又は70RH%以上、又は75RH%以上、又は80RH%以上となるように当該処理を行うことが好ましい。
【0184】
また、当該条件で乾燥処理を行う際に組成物温度を調整するためには食品の乾燥に用いられる任意の方法を用いることができるが、例えばエアドライを用いて組成物温度及び/又は雰囲気温度を調整することが好ましい。
【0185】
また、乾燥処理段階における圧力も特に限定されないが、例えば常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。減圧下(例えば0.1MPa未満)で処理を行う場合、組成物の温度は80℃以下、中でも70℃以下、又は60℃以下、特に50℃以下とすることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常0℃超、又は4℃超である。
【0186】
乾燥方法としては、一般的に食品の乾燥に用いられる任意の方法を用いることができる。例としては、フリーズドライ、エアドライ(例えば通風乾燥(熱風乾燥)、流動層乾燥法、噴霧乾燥、ドラム乾燥、低温乾燥、天日乾燥、陰干し等)、加圧乾燥、減圧乾燥、マイクロウェーブドライ、油熱乾燥等が挙げられる。中でも、食材が本来有する色調や風味の変化の程度が小さく、食品以外の香り(こげ臭等)を制御できるという点から、マイクロウェーブドライが好ましく、減圧下におけるマイクロウェーブドライがさらに好ましい。また、大量の組成物を処理する観点からはエアドライ(例えば熱風乾燥、流動層乾燥法、噴霧乾燥、ドラム乾燥、低温乾燥、天日乾燥、陰干し等)が好ましく、特に通風乾燥(特に雰囲気温度が一定範囲内の熱風乾燥)が好ましい。
【0187】
また乾燥処理段階において、雰囲気温度が一定超の環境下において組成物を一定時間以上処理することで、乾量基準含水率が所定割合以上低下するまでの時間が短くなるため好ましい。具体的には雰囲気温度の下限は通常50℃超、中でも60℃超、更には70℃超、又は80℃超の環境下で処理することが好ましい。その上限は特に制限されないが、通常100℃以下である。雰囲気温度が一定超の環境下とするために、ダイ部から押し出された後の組成物を高温環境に保管したり、高温で押し出された組成物温度を保持することによって雰囲気温度を高めたり、高温の空気によって通風乾燥したりするなどの処理を施して、所定の雰囲気温度を達成する方法を採用することができる。
【0188】
また、当該雰囲気温度における処理時間は一定時間以上であれば良いが、通常0.1時間以上、中でも0.2時間以上、又は0.3時間以上、又は0.4時間以上、又は0.5時間以上、又は0.6時間以上、又は0.7時間以上、又は0.8時間以上、又は0.9時間以上、特に1.0時間以上に調節することができる。斯かる時間の上限は特に限定されないが、例えば通常20時間以下、又は15時間以下とすることができる。
【0189】
なお、本発明の組成物中の乾量基準含水率は、組成物の各種成分に由来するものであってもよいが、更に添加された水に由来するものであってもよい。特に、(iv)の段階の後に乾量基準含水率を25質量%未満とする段階を更に含むことで、(ii)で糊化したでんぷんのうち、表面付近のでんぷんが局所的に老化した組成物となり、麺をはじめとする複数の組成物をまとめて喫食する組成物とした場合に、組成物同士が結着しにくく食べやすい組成物となる場合があるため好ましい。
【0190】
(8)エクストルーダー
本発明においてエクストルーダー(押出機と言う場合もある。)を用いる場合は、モーターによって回転するスクリューと、前記スクリューの外周を包囲するバレルと、前記バレルの基部側に取付けられた、食品素材を投入するためのフィーダと、前記バレルの先端側に取付けられたダイ部とを備える押出機を用いることが好ましい。中でも、本発明では、押出機のスクリューとして、基部側から先端側にかけて(即ち、押し出し方向に向かって)、第1フライト部及び混練部を有し、バレルが、スクリューの混練部の先端側に対応する位置にベント部を有する構成を有するスクリューを用いることが好ましい。一態様によれば、バレルとして、ベント部と前記ダイ部が一体的に設けられた構成のバレルを用いることができる。また、別の態様によれば、スクリューとして、第1フライト部及び混練部に加えて、更に混練部の先端側に第2フライト部を有する構成のスクリューを用い、バレルとして、スクリューの第2フライト部の基部側起点に対応する位置にベント部を有する構成(すなわち混練部の直後にダイ部を配置する構成)のバレルを有することができる。更にバレルが、第1フライト部及び混練部に対応する領域にヒーターを有すると共に、任意で第2フライト部を有する場合には、その対応する領域にはクーラーを有することが好ましい。
【0191】
本発明で使用されるスクリューにおいて、第1フライト部とは、大部分の混練部(望ましくは全部の混練部)及び全部の第2フライト部に対して基部側(モーター側)に存在する、周表面にスクリューフライトが形成された領域を指し、任意で設けられる第2フライト部とは、全部の第1フライト部及び大部分の混練部(望ましくは全部の混練部)に対して先端側(押出側)に存在する、周表面にスクリューフライトが形成された領域を指す。
【0192】
本発明において、第1フライト部は、スクリューの回転に伴って組成物を先端側に搬送しつつ、ヒーターを用いて組成物を加温することにより、組成物中のでんぷん粒を加温によって加水膨潤させる機能を有し、任意で設けられる第2フライト部は、混練部から搬送される組成物を、圧力低下した状態で、スクリューの回転に伴って先端側のダイ部に向かって搬送しながら、でんぷん粒構造が崩壊した組成物を発熱しにくいように均質化してでんぷんのマトリクス構造を形成させつつ、急速な冷却を行うことで組成物表面付近のでんぷんを局所的に老化させる機能を有する。
【0193】
なお、本発明において、このようなスクリュー回転に伴い組成物が先端側に搬送されるフライト構造を「フォワードフライト」と称し、逆に組成物が基部側に搬送されるフライト構造を「リバースフライト」と称する場合がある。また、第1フライト部及び第2フライト部の各々において、フォワードフライトが設けられた領域を「フォワードフライト部」、リバースフライトが設けられた領域を「リバースフライト部」と称する場合がある。
【0194】
本発明で使用される第2フライト部を有するスクリュー及びバレルを用いる押出機のスクリューにおいて、混練部は、その大部分(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは100%)が第1フライト部と第2フライト部との中間に存在する、公知の混練用の構造(具体例としては、マドック混合部、イーガン混合部、ブリスターリング混合部、ピン混合部、ダルメージ混合部、サクソン混合部、パイナップル形混合部、溝穴付きスクリュー混合部(後述)、キャビティ移動型混合部、又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。)を指す。また、第2フライト部を有さないスクリュー及びバレルを用いる押出機のスクリューにおいて、混練部は、その大部分(好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは100%)が第1フライト部に対して先端側に存在する、公知の混練用の構造を指す。本発明で使用されるスクリューにおいて、混練部は、与圧下における高温強混練によってでんぷん粒を損傷できるように、組成物流を分断して混練する機能を有する。
【0195】
混練部の長さは、限定されるものではないが、スクリュー全長に対して一定以上の長さであることで、与圧下における高温強混練によってでんぷん粒を損傷することが容易となるので好ましい。具体的には、スクリュー全長に対する混練部の長さの比率が、通常20%以上、中でも25%以上、又は30%以上、又は35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上であることが好ましい。一方、スクリュー全長に対する混練部の長さの比率の上限は、制限されるものではないが、他の部位との兼ね合いから、通常80%以下、又は70%以下、又は60%以下とすることが好ましい。
【0196】
また、混練部において、スクリュー上に生地の流れを遮るような1以上の狭隘状構造を設けることででんぷん粒が損傷しやすくなるため好ましい。本発明における「狭隘状構造」とは、スクリューとバレル内壁との間の空間を当該構造によって基部側と先端側における空間に略画分し、画分された基部側空間内部に生地が充満することで生地内圧が所定割合以上増加することで、狭隘状構造を通過する生地に伸張流を生じさせる構造である。本発明における「伸張流」とは、伸長流れとも称される材料を引き伸ばすような流れであり、典型的には入側が広く出側が狭い流路、言い換えれば流れ方向に開口断面積が急激に小さくなるような流路に材料を導くことで生じる。狭隘状構造の例としては、スクリュー表面に相対的に盛り上がった構造(凸状構造と称する場合がある)を設けることでもよく、任意の流路における基部側から先端側にかけての流路断面積が相対的に減少する構造を設けることでもよく、これらを組み合わせた構造であってもよい。凸状構造としては、例えば混練部におけるスクリュー表面にバレル内壁付近(具体的にはスクリュー中心からバレル内壁までの距離の80%以上)まで隆起した凸状構造を設け、スクリューとバレル内壁との間の空間を当該凸状構造によって基部側と先端側における空間に略画分する構造であることが好ましい。また、2以上の狭隘状構造が略直列的に配置されることで、複雑な伸張流が生じ、本発明の効果が高まるため好ましい。具体的には略直列的に配置される狭隘状構造の数は通常2以上、又は3以上、又は4以上であることが好ましい。その上限は特に制限されないが通常50以下である。さらに、2以上の狭隘状構造が略直列的に配置される場合において、1以上の凸状構造が含まれることが好ましい。
【0197】
また、本発明においてベント部を採用する場合、ベント部は、前述のように、バレルの混練部先端側に対応する位置に取り付けられ、バレルとスクリューとの間の空間に存在する気体を排気してその圧力を調整できるように構成される。
【0198】
具体的に、第2フライト部を有するスクリュー及びバレルを用いる態様の場合には、ベント部はバレルの第2フライト部基部側起点に対応する位置(すなわち混練部との境界付近)に設けることが好ましい。このように混練部から第2フライト部に移動する部位で、ベント部により急激に圧力を低下させることにより、でんぷん粒構造が崩壊した状態の組成物を発熱しにくいように均質化することででんぷんのマトリクス構造を形成させつつ、その直後に第2フライト部で急速な冷却を行うことで、組成物表面付近のでんぷんを局所的に老化させることが可能となる。
【0199】
また、第2フライト部を有しないスクリュー及びバレルを用いる態様の場合は、ベント部はダイ部と一体的に設け、ダイ部において組成物を大気圧下に開放することでベント部としての役割を兼ね備える構造を採用することが好ましい。このように、ベント部の役割を有するダイ部において組成物を大気圧下に開放することで急激に圧力を低下させることにより、でんぷん粒構造が崩壊した状態の組成物とすることができ、その後に押し出し後の組成物に対して急速な冷却(例えばミスト状の水分噴霧によって少量の水分を添加してから揮発させることで、その気化熱によって急速に組成物温度を低下させる方法など)を行うことで、組成物表面付近のでんぷんを局所的に老化させることが可能となる。
【0200】
ベント部の具体的な位置は制限されるものではないが、例えば、第2フライト部を有するスクリュー及びバレルを用いる態様の場合、ベント部は、バレル内にスクリューを配置した稼動状態において、スクリューの第2フライト部の前半部、即ち、第2フライト部の基部側起点から第2フライト部全長の50%以内に相当するバレル上の位置に設置されることが好ましく、第2フライト部の起点から第2フライト部全長の20%以内に相当するバレル上の位置に設置されることが更に好ましく、基部側端部(すなわち、第2フライト部と混練部との境界付近)に相当するバレル上の位置に設置されることが最も好ましい。その理由は定かではないが、当該ベント部において急激な圧力低下が起こることで、組成物中のでんぷん粒構造が崩壊し、内部のでんぷんが流出することで均質なマトリクス構造が形成されることによるものと推測される。
【0201】
一方、第2フライト部を有しないスクリュー及びバレルを用いる態様の場合、すなわちダイ部において組成物を大気圧下に開放することでベント部としての役割を兼ね備える構造を採用する態様の場合は、ベント部(兼ダイ部)はスクリューの最も先端側に配置された混練部終点からスクリュー全長の30%以内に相当するバレル上の位置に設置されることが好ましく、20%以内に相当するバレル上の位置に設置されることが好ましく、10%以内に相当するバレル上の位置に設置されることが好ましく、最も先端側に配置された混練部終点の直後に設置されること(すなわち当該混練部の直後にベント部としての機能を有するダイ部が設置されること)が好ましい。また、スクリューの最も先端側に配置された混練部終点とダイ部との間にフロー遅滞構造を設置することが好ましい。また、スクリューに第2フライト部を設けず、ダイ部及び/又は押し出し後の組成物に対して冷却を行うことで、組成物表面付近のでんぷんを局所的に老化させる態様であってもよい。
【0202】
また、本発明においては、第2フライト部を有するスクリュー及びバレルを用いる押出機の場合(第1の態様と称する場合がある)第2フライト部先端側終点とダイ部との間の位置、又は第2フライト部を有しないスクリュー及びバレルを用いる押出機の場合(第2の態様と称する場合がある)は混練部先端側終点とダイ部との間の位置に、フロー遅滞構造を設けることが好ましい。特に第2フライト部を有する押出機では、フロー遅滞構造を設けることで、第2フライト部において老化して粘性が向上した組成物を安定的に排出することができ、好ましい。また、第2フライト部を有さない押出機でも、フロー遅滞構造を設けることで、押し出しが安定するという効果が得られる場合があるため、好ましい。また、第1の態様、第2の態様のいずれにおいても、混練部先端側終点付近(好ましくは混練部先端側終点直後)にフロー遅滞構造を設けることで、混練部における圧力が高まり、混練効率が向上するため好ましい。本発明において「フロー遅滞構造」とは、当該構造より前のフライト部における内容物の平均フロー速度に対して、内容物のフロー速度を低くする構造である。例えば第1の態様においては第2フライト部における内容物のフロー速度に対して、内容物のフロー速度を低くする構造であり、第2の態様においては第1フライト部における内容物のフロー速度に対して、内容物のフロー速度を低くする構造である。例えば、第2フライト部先端側終点付近のスクリュー溝深やピッチ幅を相対的に大きくすることでフロー速度を低くする構造や、第2フライト部先端側終点付近のバレル内径をそれ以前より相対的に大きくすることでフロー速度を低くする構造や、第2フライト部とは独立した構造として、第1の態様における第2フライト部先端側終点又は第2の態様における混練部先端側終点とダイ部との間の位置に、フロー遅滞構造を配置しフライト構造形成部位のうちフォワードフライト部の一部に穴を開けたり、フォワードフライト部の一部を欠損又は変形させたりする構造(溝穴付きスクリュー構造と称する場合もある)や、フォワードフライト構造と比して相対的にフロー速度が低減されるリバースフライト構造や、成形材料に送りを与えるねじれ角を持たないリング構造(例えばスクリュー表面に、スクリューの回転中心とバレル内壁との間の距離の80%以上の半径を有するリング状突起が1以上設けられた構造であり、当該リング状突起が2以上のスクリューの回転軸に沿ってタンデムに設けられた多重リング構造も含まれる)を採用することで、フォワードフライト構造と比してスクリュー回転によって生じるフロー流量を低減させフロー速度を低くする構造を採用することができるが、第1の態様における第2フライト部先端側終点又は第2の態様における混練部先端側終点とダイ部との間の位置にフロー遅滞構造として溝穴付きスクリュー構造又はリバースフライト構造又は多重リング構造を配置することが好ましい。また、スクリュー表面に形成された、スクリューの回転中心とバレル内壁との間の距離の80%以上の半径を有するリング状突起構造である多重リング構造を採用する場合、2以上の突起構造を連続して配置することでフロー遅滞構造におけるフロー速度を簡単に調整することができるため好ましい。
【0203】
フロー遅滞構造におけるフロー遅滞割合(すなわち、当該構造より前のフライト部におけるフロー流量に対する、フロー遅滞構造におけるフロー流量の割合)は100%未満であれば良いが、通常97%以下が好ましく、中でも95%以下、さらには93%以下、又は90%以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常10%以上、又は20%以上である。
【0204】
さらに、フロー遅滞構造を採用する場合、そのサイズが大きすぎると混練部や第2フライト部構造等の大きさが相対的に小さくなるため、フロー遅滞構造のサイズが一定以下であることが本発明の効果奏功の観点から好ましい。具体的には、スクリュー全長に対するフロー遅滞構造の長さ比率が、通常20%以下が好ましく、中でも15%以下、更には10%以下、又は8%以下、又は5%以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、通常0%以上、又は1%以上である。
【0205】
また、ベント部は、大気圧下に開放されることでバレル内部を大気圧まで減圧する構造であってもよいが、当該ベント部に強制排気機構を有することで、組成物における水分の一部を強制的に揮発させ、組成物を速やかに降温させつつ、マトリクス構造中の気泡を除去することでより強固なマトリクス構造を形成することができるためより好ましく、特にその機構上組成物内部に気泡を取り込みやすい一軸エクストルーダーを押出機として採用した場合には、マトリクス構造中に気泡が取り込まれやすいため、当該機構はより有用である。強制排気に際しては公知の真空ポンプなどを採用することができるが、例えば液封式ポンプ(水封式ポンプ)を採用することができる。
【0206】
強制排気のための機構(例えば真空ポンプ等)は、ベント部における組成物温度が一定程度低下する程度に組成物中の一部水分を強制的に揮発させられる程度の能力があれるものであれば、任意の機構を採用することができる。混練部先端側端部にベント部を配置する場合、ダイ部において組成物を大気圧下に開放するベント部としての機能を兼ね備えた構成(すなわち混練部の直後にダイ部を配置する構成)とすることもできる。また、一態様によれば、ベント部において、温度が例えば通常1℃以上、中でも2℃以上低下する冷却能力を有することが好ましい。また、一態様によれば、ベント部における吸込圧力が通常0.04MPa以上、中でも0.06MPa以上、更には0.08MPa以上で強制排気する機構を採用することが好ましい。ベント部における吸込圧力の上限は特に限定されないが、強力すぎるポンプを採用すると生地を吸引することがあるため、通常0.1MPa以下、又は0.09MPa以下であることが好ましい。なお、膨化物を製造する押出機においては、原理的にその内圧を少なくとも大気圧以上に高めつつ組成物温度を100℃以上に保持した状態で押し出す必要があるため、本発明のような構成は採用することは困難である。
【0207】
本発明の製造方法にエクストルーダーを使用する場合、その製造中に組成物に配合する水分のうち所定割合以上を、エクストルーダー内が20℃以上加温される前に他原料と混合することで、でんぷんが過加熱によってその特性が変化することを抑制できる場合があるため好ましい。具体的には、エクストルーダー内が20℃以上加温される前に、組成物に配合する水分のうち通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%を、予め他原料と混合しておく及び/又はエクストルーダー内が20℃以上加温される前に、乾量基準含水率を25質量%超、又は30質量%超、又は35質量%超、又は40質量%超とすることが好ましい。なお、水分を他原料と混合する場合、原料をエクストルーダーに投入する前に、予め前記割合の水分を混合しておくことが好ましい。
【0208】
また、エクストルーダー内部が所定温度以上に加温された状態で注水を行うと、水分が突沸して組成物構造が損なわれる可能性があるため、エクストルーダー内部の温度が所定温度未満の状態で、前記割合(段階(i)において組成物に配合する水分のうち通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%及び/又は生地組成物が乾量基準含水率を25質量%超、又は30質量%超、又は35質量%超、又は40質量%超、又は200質量%以下、又は175質量%以下、又は150質量%以下となるまで加水を行う)の水分を他原料と混合しておくことが好ましい。具体的に、エクストルーダー内部の温度が通常100℃未満、中でも90℃未満、更には80℃未満、又は70℃未満、又は60℃未満、又は50℃未満、特に40℃未満の状態で、前記割合の水分を他原料と混合しておくことが好ましい。更に、上記の条件に従って(例えばエクストルーダーを用いて)加工した生地組成物を、(i)の工程に用いて本発明の組成物を製造することで、組成物加工時に必要とされる高温強混練の一部を生地組成物製造工程で施すこともできる。
【0209】
特に、本発明のようにエクストルーダーを用いて強混練を行う組成物については、生地の加水を増加させると生地の粘性が増加し、それに伴い混練時の抵抗が増加したり、内圧が高まったりし、同じ能力の撹拌機を用いると混練強度(SME値)が低下する傾向がある。更には同じ能力のヒーターを用いた場合には加水に伴って比熱が高まった生地組成物の昇温工程、更にその後の降温工程が十分に行えなくなるなどの状況が生じるため、本発明におけるでんぷん加工に多大な影響を及ぼす。よって、従来技術では一般的には生地組成物への事前加水を多く行う方法は採用されず、事前加水を行う場合であっても加水全体に占めるその割合は限定的である。
【0210】
本発明の製造方法にエクストルーダーを使用する場合、製造中に組成物に配合する水分のうち所定割合(段階(i)において組成物に配合する水分のうち通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%及び/又は生地組成物が乾量基準含水率を25質量%超、又は30質量%超、又は35質量%超、又は40質量%超、又は200質量%以下、又は175質量%以下、又は150質量%以下となるまで加水を行う)を、エクストルーダー内が加圧(与圧)される前に他原料と混合することで、でんぷんが過加熱によってその特性が変化することを抑制できる場合があるため好ましい。具体的には、エクストルーダー内が加圧(与圧)される前に、製造中に配合する水分のうち通常50%以上、中でも60%以上、更には70%以上、又は80%以上、又は90%以上、特に100%を、他原料と混合することが好ましい。なお、これらの割合の水分を、エクストルーダー内部が100℃以上に加温及び加圧される前に、他原料と混合することがより好ましい。
【0211】
本発明の製造方法にエクストルーダーを使用する場合、その種類は制限されないが、加水、強混練(最低でもSME値400kJ/kg以上)、加熱、冷却、押出し成形までの各処理をひとつのユニットで実施できるものが好ましい。特に加温加圧前の原料に加水できる構造を有するエクストルーダーが好ましい。具体的に、1軸エクストルーダー又は2軸エクストルーダーの何れであっても使用できるが、一般的な1軸エクストルーダーよりも、後述する特殊なバレルを採用し混練強度を高めた1軸エクストルーダー又は2軸エクストルーダーを用いることが好ましい。特に、経済的な観点からは1軸エクストルーダーの方が好ましく、より高い混練力を得る観点からは2軸エクストルーダーの方が好ましい。一方、通常のバレルを用いたエクストルーダーや、通常のスクリュー(駆動ねじ)を用いたスクリュー押し出し機や通常の螺旋推進式の装置は、内容物を速やかに送り出すことが主目的の装置であって、混練力が不十分であるため、本発明の製造方法には適しない場合がある。
【0212】
一般的に、1軸エクストルーダー又は2軸エクストルーダーと呼ばれる装置(特に海外でextruder、twin screw extruderと称される装置)においては、単なるミキサー、ニーダー機能を有するに過ぎない押出装置も含まれるが、そのような装置は本発明の組成物構造を形成するための強混練を得られないため、好ましくない。更に、でんぷん粒構造を有する組成物原料を用いる場合は、その構造が強固であり、でんぷん粒構造が完全に破壊されるためには通常のフライトスクリューのみを用いたエクストルーダーは混練力が不十分であり、ニーディング効果を有するバレル部位を通常より顕著に多く使用することが更に好ましい。具体的には、エクストルーダーにおけるバレル全長に対するフライトスクリュー部割合が95%以下であることで、組成物が強く混練され、本発明の組成物の特徴的な構造の形成が促進されるため、好ましい。フライトスクリュー部とは、輸送エレメントとも呼ばれる最も一般的な形状のバレル部であり、バレル全長に対するその割合が高まると、生地組成物をダイに向けて押し出す能力が高まるものの、生地組成物を混練しその反応を促す能力が低下する。
【0213】
本発明の製造方法の一態様によれば、エクストルーダーのバレル全長に対するフライトスクリュー部の割合は、通常95%未満、中でも90%以下、更には85%以下であることが好ましい。一般的に、パフなどの膨化物をエクストルーダーを用いて製造する際は、高圧で勢いよく組成物を押し出す必要があるため、バレル全長に対するフライトスクリュー部位割合を高める動機が存在し、(高SME値で混練する場合であっても)、バレル全長に対するフライトスクリュー部位割合は、95%~100%となることが通常である。
【0214】
本発明の製造方法の一態様によれば、バレル長全体の通常5%以上、中でも7%以上、更には10%以上、特に12%以上を、ニーディング効果を有するバレル部位とすることが好ましい。一般的に、通常のバレルを用いたエクストルーダーや、通常のスクリュー(駆動ねじ)を用いたスクリュー押し出し機や通常の螺旋推進式の装置は、内容物を速やかに送り出すことが主目的の装置であって、強混練を得ることを想定していないため、バレル全長に対するフライトスクリュー部割合が上記範囲を満たさない場合が多い。
【0215】
(9)後処理
以上の段階(i)~(iii)、必要により段階(vi)を経ることにより、本発明の組成物を得ることができるが、更に後処理を加えてもよい。後処理としては、例えば成型処理、乾燥処理等が挙げられる。
【0216】
成型処理としては、例えば本発明の組成物(例えば固形状ペースト組成物)を所望の形態(例えば前述のパスタ、中華麺、うどん、稲庭うどん、きしめん、ほうとう、すいとん、ひやむぎ、素麺、蕎麦、蕎麦がき、ビーフン、フォー、冷麺の麺、春雨、オートミール、クスクス、きりたんぽ、トック、ぎょうざの皮等)に成型する処理等が挙げられる。斯かる成型処理は、当該技術分野において通常知られている方法を適宜採用することができる。例えば、パスタや中華麺等の麺のような細長状組成物とする場合、前述のエクストルーダー等の装置を用いて、組成物を細長形状に押し出し成形すればよい。一方、平板状の組成物とする場合、組成物を平板形状に成形すればよい。更には、組成物をプレス成型したり、平板形状に成形した組成物を切断又は型抜きしたりすることで、細長状、粒状、薄片状等の任意の形状の組成物を得ることもできる。本発明において「ペースト組成物」とは、食用植物由来の食材を混練して製造した食品組成物を表し、練り物やパスタ(小麦を原料としないものも含まれる)が含まれる概念である。また、乾燥処理方法としては、一般的に食品の乾燥に用いられる任意の方法を用いることができる。
【0217】
[III:組成物の粉砕物及びその凝集体]
なお、本発明の組成物は、これを粉砕して用いてもよい。即ち、前述の本発明の製造方法において、前記段階(iii)の降温後、更に(v)前記組成物を粉砕し、粉砕組成物とする段階を設けてもよい。こうして得られる本発明の組成物の粉砕物(これを適宜「本発明の粉砕組成物」という。)も、本発明の対象となる。本発明の組成物を粉砕して本発明の粉砕組成物とする場合、その粉砕条件は特に制限されず任意であるが、例えば粒子径d50及び/又はd90が50μm以上1000μm以下程度となるように粉砕することが好ましい。
【0218】
なお、本発明の粉砕組成物を製造する場合、保水性が高い本発明の組成物を粉砕することで、乾燥基準含水率が高い状態でも保形性を有する凝集体を製造することができる場合があるため好ましい。具体的に、本発明の好ましい態様によれば、乾燥基準含水率が例えば通常50質量%以上、中でも60質量%以上、更には70質量%以上、又は80質量%以上、又は90質量%以上、特に100質量%以上等の乾燥基準含水率が高い粉砕組成物凝集体であっても、保形性を有する凝集体とすることができる。上限は特に限定されないが500質量%以下、400質量%以下とすることができる。加水した凝集組成物を焼成したり、混練したりすることで、保水性に優れた凝集組成物とすることができる。
【0219】
また、本発明の粉砕組成物を原料として、前記の本発明の製造方法による高温強混練処理を再度実施したり、適当量の水を加えて混練したりすることで、凝集体を形成してもよい。また、水分を15質量%超含有する本発明の粉砕組成物(特に段階(iii)以降における乾量基準含水率の低下差分が10質量%以下の粉砕組成物を用いることが好ましい)を原料としてパスタプレスすることで凝集体を形成してもよく、より好ましくは70℃以上(又は80℃以上)に加熱しながらパスタプレスすることが好ましい。即ち、前述の本発明の製造方法において、前記段階(v)の粉砕後、更に(vi)前記粉砕組成物を凝集させて、粉砕組成物凝集体とする段階を設けてもよい。こうして得られる本発明の粉砕組成物の凝集体(これを適宜「本発明の粉砕組成物凝集体」という。)は、本発明の組成物として利用したり、本発明の段階(i)における原料として好適に利用できる。斯かる本発明の粉砕組成物凝集体も、本発明の対象となる。本発明の組成物を粉砕して本発明の粉砕組成物とする場合、その製造条件については、前述したとおりである。
【0220】
さらに、粉砕組成物及び/又は粉砕組成物凝集体を一定割合原料として本発明の段階(i)における原料として使用することで、あらかじめ熱処理された原料として用いることができ、組成物同士の結着性が改善するため好ましい。即ち、前記段階(v)で得られた粉砕組成物及び/又は段階(vi)で得られた粉砕組成物凝集体を、乾燥質量換算で一定割合含むように段階(i)の組成物に配合してもよい。その下限は特に制限されないが、乾燥質量換算で通常5質量%以上、中でも10質量%以上、更には15質量%以上、特に20質量%以上である。その上限は特に制限されないが、通常100質量%以下、又は90質量%以下である。
【実施例】
【0221】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0222】
[でんぷん含有固形状組成物の調製]
後記表1「乾燥豆類粉末」に記載の前処理(粉末化・加熱処理)済み乾燥豆類粉末を用いて、更に適宜水を添加し、各試験区及び比較区の生地組成物を調製した。得られた各試験区及び比較区の生地組成物を用いて、後記表3「加工条件」に記載の条件に従い、各試験区及び比較区のでんぷん含有固形状組成物を製造した。具体的には、「使用機材」に記載された「機材種類」の機材を使用し、混練時の使用バレルとして「フライトスクリュー部位割合」のものを用い、バレル部位(後記表3中(1)~(9))のうち、「混練部位」に記載された部位を混練能力が強い形状に変更したものを用い、「温度条件」に該当する部位の温度を後記表中に記載された数値に設定した(表中(1)が原料投入部、表中(9)が出口温度に該当する)。
【0223】
なお、2軸エクストルーダーとしては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、HAAKE Process11(スクリュー径11mm×2、スクリュー長41cm、セグメント式、同方向回転スクリュー)を使用し、一軸エクストルーダーとしてはNP食品社製一軸エクストルーダー(スクリュー径70mm×スクリュー長140cm)を使用した。また、「注水方法」に記載された方法で加水を行い、「バレル回転速度」「混練強度(SME値)」「内部圧力(出口付近圧力)」で加工を行い、押出後にメッシュ状コンベアに載置し、適宜表3に記載の後処理を加えて組成物温度を調整し、ミスト状の水分を噴霧するなどして生地温度が80℃未満に低下してから連続的に乾量基準含水率25%未満となるまでの時間を調整することにより、でんぷん含有固形状組成物を得た。
【0224】
なお、表3の「注水方式」中、「A」は、(1)で原料粉末と水(表2-2「生地組成物の測定値」における「乾量基準含水率」となる分量)とを全量混合し、生地の状態で投入したことを示し、「B」は、(1)では粉末の状態で原料投入し、(3)で水(表2-2「生地組成物の測定値」における「乾量基準含水率」となる分量)を全量注水したことを示す。また、表3の「バレル部位ごとの温度条件」中、「-」は、加熱無しであることを示す。
【0225】
[生地組成物及びでんぷん含有固形状組成物の各種組成及び物性値の測定]
各試験区及び比較区の生地組成物及びでんぷん含有固形状組成物について、後述の手段により各種の組成値及び物性値を測定した。その結果を後記表2「生地組成物測定値」並びに後記表4及び表5の「でんぷん含有固形状組成物測定値」に示す。
【0226】
[でんぷん、タンパク質、不溶性食物繊維、乾量基準含水率の測定]
「でんぷん」については、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、AOAC996.11の方法に従い、80%エタノール抽出処理により、測定値に影響する可溶性炭水化物(ぶどう糖、麦芽糖、マルトデキストリン等)を除去した方法で測定し、「タンパク質」については、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、改良ケルダール法によって定量した窒素量に、「窒素-タンパク質換算係数」を乗じて算出する方法で測定し、「不溶性食物繊維」については、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、プロスキー変法で測定し、「乾量基準含水率」については、日本食品標準成分表2015年版(七訂)に準じ、減圧加熱乾燥法で90℃に加温することで測定した。
【0227】
[でんぷんの分子量分布の測定]
各試験区及び比較区の組成物の分子量分布の測定、及び、各関連パラメータ(質量平均分子量対数、[値α]、[値β]、及び[値γ])の分析は、以下の手順で行った。
【0228】
まず、各試験区及び比較区の組成物を40倍量の水中で90℃15分間恒温処理後、下記[手順a]として、各試験区及び比較区の組成物の2.5%水分散液を調製し、これを液中の組成物ごと粉砕処理し、タンパク質分解酵素処理を行った後、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして取得した。恒温処理後の粉砕処理は、ホモジナイザーNS52(マイクロテックニチオン社製)を用いて、25000rpmで30秒破砕処理することにより行った。タンパク質分解酵素処理は、粉砕処理を施した組成物に対して、例えば0.5質量%のタンパク質分解酵素(タカラバイオ社製Proteinase K、製品コード9034)を添加して、20℃で16時間反応させることにより行った。
【0229】
エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分の抽出は、以下手順で行った。即ち、(i)粉砕処理及びタンパク質分解酵素処理を施した組成物に対して、当初使用した組成物を基準として240倍量の99.5%エタノール(富士フイルム和光純薬社製)を添加し、混合した後、遠心分離(10000rpmで5分)してエタノール不溶性画分を取得した。次に、(ii)得られたエタノール不溶画分に対して、当初使用した組成物を基準として80倍量のジメチルスルホキシド(CAS67-68-5、富士フイルム和光純薬社製)を添加し、攪拌しながら90℃で10分間処理することで溶解させ、溶解液を遠心分離(10000rpmで5分)して上清を回収し、ジメチルスルホキシド可溶性画分を取得した。次に、(iii)得られたジメチルスルホキシド可溶性画分に対して、当初使用した組成物を基準として240倍量の99.5%エタノールを添加し、混合した後、遠心分離(10000rpm5分)によって沈殿画分を回収した。その後(iii)の作業を3回繰り返し、最終的に得られた沈殿物を減圧乾燥することで、エタノール不溶性かつジメチルスルホキシド可溶性の成分を精製でんぷんとして取得した。
【0230】
次に、[条件A]として、1M水酸化ナトリウム水溶液に対して、前記手順により得られた各試験区及び比較区の精製でんぷんを0.10質量%溶解し、37℃で30分静置後、等倍量の水と等倍量の溶離液(0.05M NaOH/0.2% NaCl)とを加え、5μmフィルターろ過することによりろ液を得た。得られた各試験区及び比較区のろ液5mLをゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数が5.0以上9.5未満の範囲における分子量分布を測定した。
【0231】
ゲルろ過クロマトグラフィーのゲルろ過カラムとしては、以下の4本のカラムを選択し、分析上流側から順に、排除限界分子量の大きいものから小さいものへと直列に連結して用いた。こうした構成とすることで、中間の[値β]に相当する分子量対数(6.5以上8.0未満)を有するでんぷんを、より小さな[値α]に相当する分子量対数(5.0以上6.5未満)を有するでんぷん、及び/又は、より大きな[値γ]に相当する分子量対数(8.0以上9.5未満)を有するでんぷんから分離し、各パラメーターを適切に測定することが可能となる。
【0232】
・TOYOPEARL HW-75S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):7.7Da、平均細孔径100nm以上、Φ2cm×30cm):2本。
・TOYOPEARL HW-65S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):6.6Da、平均細孔径100nm、Φ2cm×30cm);1本。
・TOYOPEARL HW-55S(東ソー社製、排除限界分子量(対数):5.8Da、平均細孔径50nm、Φ2cm×30cm):1本。
【0233】
その他のゲルろ過クロマトグラフィーの条件は以下のとおりとした。溶離液として0.05M NaOH/0.2% NaClを用い、オーブン温度40℃、流速1mL/分で分離を行い、単位時間0.5秒毎に溶出液中の成分の検出を行った。検出機器としては、RIディテクター(東ソー社製RI-8021)を用いた。
【0234】
ゲルろ過クロマトグラフィーのデータ解析は、以下の手順で行った。即ち、検出機器から得られた測定値のうち、測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の値について、最低値が0となるようにデータ補正を行った上で、ピークトップ分子量1660000とピークトップ分子量380000のサイズ排除クロマトグラフィー用直鎖型標準プルランマーカー2点(例えば、昭和電工社製のP400(DP2200、MW380000)及びP1600(DP9650、MW1660000)等)のピークトップ溶出時間から較正曲線を用いて、各溶出時間を分子量の常用対数値(分子量対数)に換算した。また、測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の各溶出時間における検出機器の測定値の合計を100とした場合の、各溶出時間(分子量対数)における測定値を百分率で表すことで、測定サンプルの分子量分布(X軸:分子量対数、Y軸:測定範囲全体のRIディテクター測定値合計に対する、各分子量における測定値の百分率(%))を算出し、分子量分布曲線を作成した。
【0235】
以上の手順で得られた分子量分布曲線から、以下の手順で質量平均分子量を算出した。即ち、測定対象の分子量対数範囲(5.0以上9.5未満)内の値について、溶出時間から換算された各分子量に、前述の分子量分布におけるY軸の値(測定範囲全体のRIディテクター測定値合計に対する、各分子量における測定値の百分率%)の100分の1を乗じた値を積算することで、質量平均分子量を得ることができ、更にその常用対数値を算出することで質量平均分子量対数を得た。
【0236】
また、前述の分子量分布曲線から、以下の分子量対数範囲の曲線下面積の割合を求め、それぞれ[値α]、[値β]、及び[値γ]とした。
[値α]分子量分布曲線全体(分子量対数範囲5.0以上9.5未満)から求められる曲線下面積に対する、分子量対数が5.0以上6.5未満の区間における曲線下面積の割合。
[値β]分子量分布曲線全体(分子量対数範囲5.0以上9.5未満)から求められる曲線下面積に対する、分子量対数が6.5以上8.0未満の区間における曲線下面積の割合。
[値γ]分子量分布曲線全体(分子量対数範囲5.0以上9.5未満)から求められる曲線下面積に対する、分子量対数が8.0以上9.5未満の区間における曲線下面積の割合。
【0237】
(視野中のでんぷん粒構造の数の測定)
各試験区及び比較区の組成物をミルで粉砕した目開き150μmパスの組成物粉末3mgを、水50μLに懸濁した組成物粉末6%水懸濁液を作製した。その後、スライドグラスに懸濁液を滴下後、カバーガラスをかけ軽く押しつぶしてプレパラートを作製した。位相差顕微鏡(ECLIPSE80i、Nikon社製)にて、拡大倍率200倍でプレパラート中の代表的部位を偏光観察し、視野中のでんぷん粒構造の数を把握した。
【0238】
(糊化ピーク温度の測定)
各試験区及び比較区の乾燥質量3.5gの組成物試料を粉砕(100メッシュパス(目開き150μm)120メッシュオン(目開き125μm)となるまで粉砕)した後、RVA測定用アルミカップに量りとり、蒸留水を加えて全量が28.5gとなるように調製した14質量%の試料水スラリーを、上記[手順a]でのRVA粘度測定に供して糊化ピーク温度の測定を行った。ラピッドビスコアナライザ(RVA)としては、測定対象物を140℃まで昇温可能なPerten社製のRVA4800を用い、50℃で測定を開始し、測定開始時~測定開始10秒後までの回転数を960rpm、測定開始10秒後~測定終了までの回転数を160rpmとし、50℃~140℃までの昇温速度12.5℃/分で昇温したときの糊化ピーク温度(℃)を測定した。
【0239】
(でんぷんの糊化度)
各試験区及び比較区の組成物の糊化度は、関税中央分析所報を一部改変したグルコアミラーゼ第二法(Japan Food Research Laboratories社メソッドに従う:https://www.jfrl.or.jp/storage/file/221.pdf)を用いて測定した。
【0240】
(でんぷん分解酵素活性)
各試験区及び比較区の組成物のでんぷん分解酵素活性は、以下の手順で測定した。まず、各試験区及び比較区の組成物を粉砕した測定サンプル1gに、0.5%NaCl/10mM酢酸バッファー(pH5)10mLを加え、4℃で16時間静置した後、ホモジナイザーNS52(マイクロテックニチオン社製)を用いて25000rpmで30秒処理することでペースト状に破砕し、更に4℃で16時間静置した後、ろ紙(ADVANTEC社製、定性濾紙No.2)でろ過したものを酵素液とした。
【0241】
試験管に0.05%可溶性澱粉(富士フイルム和光純薬社製、でんぷん(溶性)CAS9005-25-8、製品コード195-03961)2mLを入れ、37℃で10分間静置した後、酵素液を0.25mL加え、混合した。混合物を37℃で30分間静置した。その後、1M HCl 0.25mLを加え混合し、0.05mol/Lよう素溶液0.25mLを加え混合し、水11.5mLを加え希釈し、分光光度計で波長660nmにおける吸光度を測定した(吸光度A)。また、対照として、試験管に0.05%可溶性澱粉2mLを入れ、37℃で40分間静置した後、1M HCl 0.25mLを加え混合した後、酵素液0.25mL、0.05mol/Lよう素溶液0.25mLの順に加え混合し、水11.5mLを加え希釈した後、分光光度計で波長660nmにおける吸光度を測定した(吸光度B)。
【0242】
各測定サンプルの30分間の酵素反応時における吸光度減少率C(%)を、比較対象区(吸光度B)に対する酵素反応区(吸光度A)の吸光度減少率({(吸光度B-吸光度A)/吸光度B}×100(%)」により求めた。吸光度を10分間当たり10%減少させる酵素活性を1単位(U)とし、0.25mL酵素液(サンプル含量0.025g)によって30分間酵素反応を行った場合における吸光度減少率C(%)から、測定サンプルの乾燥質量1g当たりの酵素活性(U/g)を次式によって求めた。
【0243】
【0244】
(よう素染色性の測定)
各試験区及び比較区の組成物の加工前後サンプルについて40倍量の水中に投入後、速やかに前記[手順a]と同様の手順により処理して、精製でんぷんを取得した。得られた精製でんぷんを、前記[条件A]と同様の条件の下でろ過後ゲルろ過クロマトグラフィーに供し、分子量対数5.0以上6.5未満及び6.5以上8.0未満の画分をそれぞれ分離した。得られた各分離画分を塩酸(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級塩酸)でpH7.0に調整し、0.05mol/Lよう素溶液(富士フイルム和光純薬社製、製品コード091-00475)を200倍希釈したよう素溶液(0.25mM)で染色し、分光光度計で660nmの吸光度を測定した。
【0245】
(PDI値の測定)
各試験区及び比較区の組成物に20倍量の水を加え、粉砕処理(マイクロテックニチオン社製ホモジナイザーNS-310E3を用いて8500rpmで10分間破砕処理する)し、得られた破砕処理液の全窒素割合に20を乗じた値を組成物全体の全窒素割合として測定した。次に破砕処理液を遠心分離(3000Gで10分間)し、得られた上清の全窒素割合に20を乗じた値を水溶性窒素割合として測定することで、組成物におけるPDI値を算出した。なお、全窒素割合は、食品表示法(「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食表第139号))に規定された燃焼法(改良デュマ法)を用いて測定した。
【0246】
[でんぷん含有固形状組成物の官能評価]
上記のように調製した各試験区及び比較区の組成物1質量部を、9質量部の水中で90℃、5分間加熱調理したものについて、官能評価を行った。具体的には、加熱調理後の組成物を紙皿に静置し、訓練された官能検査員10名が料理を観察及び試食し、その物性及び喫食時の食味について、「保水時弾性」、「保水時粘性」、及び「総合評価」の各観点から、下記の基準で評価を行った。そして、官能検査員10名の評点の平均値を算出し、小数第1位を四捨五入して最終評点とした。尚、各官能試験を行う官能検査員として、予め食品の味、食感や外観などの識別訓練を実施した上で、特に成績が優秀で、商品開発経験があり、食品の味、食感や外観などの品質についての知識が豊富で、各官能検査項目に関して絶対評価を行うことが可能な検査員を選抜した。また、前記の何れの評価項目でも、事前に検査員全員で標準サンプルの評価を行い、評価基準の各スコアについて標準化を行った上で、客観性のある官能検査を行った。
【0247】
・「保水時弾性」の評価基準:
組成物の弾性を下記の5段階で評価した。
5:弾力が非常に強く感じられ、好ましい。
4:弾力が強く感じられ、好ましい。
3:弾力がやや強く感じられ、好ましい。
2:弾力がやや弱く、好ましくない。
1:弾力が弱く、好ましくない。
【0248】
・「保水時粘性」の評価基準:
組成物の粘性を下記の5段階で評価した。
5:組成物表面の粘性が認められず、好ましい。
4:組成物表面の粘性がほとんど認められず、好ましい。
3:組成物表面の粘性がわずかに認められるが、好ましい。
2:組成物表面の粘性がやや目立ち、好ましくない。
1:組成物表面の粘性が目立ち、好ましくない。
【0249】
・「総合評価」の評価基準:
組成物の弾力と粘性とのバランスを下記の5段階で評価した。
5:組成物の弾力と粘性のバランスが非常に良く、好ましい。
4:組成物の弾力と粘性のバランスが良く、好ましい。
3:組成物の弾力と粘性のバランスがやや良く、好ましい。
2:組成物の弾力と粘性のバランスがやや悪く、好ましくない。
1:組成物の弾力と粘性のバランスが悪く、好ましくない。
【0250】
[結果]
各試験区及び比較区の組成物の製造条件、組成、物性、及び評価結果を、以下の表1~5に示す。
【0251】
【0252】
【表2A-1】
【表2A-2】
【表2B-1】
【表2B-2】
【0253】
【0254】
【0255】
【産業上の利用可能性】
【0256】
本発明は、でんぷんを主成分とする固形状組成物を用いた食品等の分野に広く適用でき、その利用価値は極めて大きい。