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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】泡状食品作製装置及び泡状食品作製方法
(51)【国際特許分類】
   A23P 30/40 20160101AFI20220713BHJP
   B01F 27/808 20220101ALI20220713BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20220713BHJP
   B01F 23/235 20220101ALI20220713BHJP
【FI】
A23P30/40
B01F27/808
B01F27/90
B01F23/235
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021069554
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000221742
【氏名又は名称】東邦アセチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100106356
【弁理士】
【氏名又は名称】松枝 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 典子
(72)【発明者】
【氏名】境 直忠
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 ▲祐▼一
(72)【発明者】
【氏名】笈川 直樹
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2008/149848(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0357587(US,A1)
【文献】特開2006-345776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23P 30/00-30/40
B01F 23/00-23/80
B01F 27/00-27/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡状食品を作製する泡状食品作製装置であって、
液状食品を収容し且つアルゴンを主成分とするガス又は窒素を主成分とするガスである充填ガスが大気圧より高い圧力で充填された容器と、
当該容器内の底部に配置される撹拌子と、
前記容器の底部と脱着可能に接続して前記撹拌子を回転させ、前記撹拌子の回転により前記液状食品を前記容器内で撹拌して前記液状食品に前記充填ガスを混合させる駆動部と、
前記容器に装着され、吐出口及び前記充填ガスを前記容器内に注入するためのガス充填口を有するディスペンサとを備え、
前記ディスペンサは、前記充填ガスが混合した前記液状食品を前記容器内の圧力により前記吐出口から吐出させ、前記吐出口からの吐出の際に前記液状食品が発泡して前記泡状食品が作製されることを特徴とする泡状食品作製装置。
【請求項2】
前記撹拌子は、回転羽根を有して構成されることを特徴とする請求項1の泡状食品作製装置。
【請求項3】
前記撹拌子は、前記容器を逆さにした場合に前記容器内の前記液状食品が流れ落ちる程度の流動性を有する範囲で前記液状食品を撹拌することを特徴とする請求項1又は2に記載の泡状食品作製装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の泡状食品作製装置を用いて泡状食品を作製する泡状食品作製方法であって、
前記容器に前記液状食品を投入する工程と、
前記容器に前記ディスペンサを装着する工程と、
前記ディスペンサの前記ガス充填口から前記充填ガスを注入して前記容器内に充填する工程と、
前記容器の底部を前記駆動部に接続して前記撹拌子を回転させ、前記容器内の前記液状食品を撹拌する工程と、
前記ディスペンサの前記吐出口から前記液状食品を吐出させ、前記吐出口からの吐出の際に前記液状食品が発泡して前記泡状食品を作製する工程とを備えることを特徴とする泡状食品作製方法。
【請求項5】
前記撹拌子の回転により、前記容器を逆さにした場合に前記容器内の前記液状食品が流れ落ちる程度の流動性を有する範囲で前記液状食品を撹拌することを特徴とする請求項4に記載の泡状食品作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルゴンガスや窒素ガスなど液状食品に対する溶解度が比較的低い発泡用ガスを用いて、ホイップクリームなどの泡状食品を作製するための泡状食品作製装置及び泡状食品作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームなどの泡状食品を作製する装置として、いわゆるエスプーマと呼ばれる、ディスペンサが容器(ボトル)に装着された泡状食品作製装置が従来より用いられている(例えば、特許文献1-3)。容器内に加圧された状態で収容された液状食品(例えば生クリーム)がディスペンサの吐出口から吐出される際に液状食品に溶解したガスが減圧により膨張・発泡して泡状食品(例えばホイップクリーム)が作製される。
【0003】
図11は、エスプーマを用いた従来のホイップクリーム作成方法を説明する図である。図11において、まず、エスプーマ1の容器2に生クリームなどのホイップクリーム原料を投入し(図11(a))、容器2にディスペンサ4を装着し、亜酸化窒素ガスを大気圧より高い圧力(例えば0.8MPa程度)で充填して容器2を密封する(図11(b))。その後、エスプーマ1を手動にて複数回振って亜酸化窒素ガスを生クリームに溶解させてから(図11(c))、ディスペンサ4の吐出口から容器2内のガス圧力により生クリームを吐出、噴射させ、吐出口において大気圧に戻すことで、生クリームに溶解した亜酸化窒素ガスが膨張し、泡状のホイップクリームが作製される(図11(d))。
【0004】
なお、一般的な泡立て手法(ホイップクリーム作製方法)は、生クリームを撹拌して、その成分である脂肪球を破壊し、破壊された脂肪球同士の接着作用でガスの気泡を抱き込ませることにより泡立てられたホイップクリームを作製するものであるが、エスプーマは、この一般的な泡立て手法と異なり、上述の通り、液状の生クリームに溶解したガスを減圧させることで発泡させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-345776号公報
【文献】特開2007-028939号公報
【文献】国際公開第2008/149848号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エスプーマの容器に充填される亜酸化窒素(N2O)ガスは、食品添加物として認められているガスの中で比較的溶解度の高いガス(水への溶解度:130.5cc/100cc-H20(大気圧,0℃))であり、エスプーマを複数回振る動作により、亜酸化窒素ガスを容易に生クリームに溶解させることができるため、短時間で効率よくホイップクリームを作製することができる。
【0007】
その一方で、亜酸化窒素ガスは、その温暖化係数(GWP)が298と高い温室効果ガスであることが知られており、近年の地球温暖化対策の観点から、亜酸化窒素ガスを用いずに泡状食品を作製する方法が求められている。このような状況のもと、食品添加物として認められているガスのうち、亜酸化窒素ガスに代わるガスとして、温暖化係数が0(ゼロ)のアルゴン(Ar)ガス又は窒素(N2)ガスが着目されている。なお、アルゴンガスの水への溶解度は、5.6cc/100cc-H20(大気圧,0℃)であり、窒素ガスの水への溶解度は、2.35cc/100cc-H20(大気圧,0℃)である。
【0008】
しかしながら、アルゴンガス又は窒素ガスは、温室効果ガスではないが、亜酸化窒素ガスと比較して、その溶解度は著しく低いため、従来のように、エスプーマを手作業にて振る動作では、十分に泡立ったホイップクリームを作製することができない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、亜酸化窒素ガスに代わって、アルゴンガス又は窒素ガスを用いて、容器に収容された生クリームなどの液状食品を吐出させて泡状食品を作製する泡状食品作製装置及び泡状食品作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の泡状食品作製装置は、液状食品を収容し且つアルゴンを主成分とするガス(アルゴンガス)又は窒素を主成分とするガス(窒素ガス)である充填ガスが大気圧より高い圧力で充填された容器と、当該容器内の底部に配置される撹拌子と、前記容器の底部と脱着可能に接続して前記撹拌子を回転させ、前記撹拌子の回転により前記液状食品を前記容器内で撹拌して前記液状食品に前記充填ガスを混合させる駆動部と、前記容器に装着され、吐出口及び前記充填ガスを前記容器内に注入するためのガス充填口を有するディスペンサとを備え、前記ディスペンサは、前記充填ガスが混合した前記液状食品を前記容器内の圧力により前記吐出口から吐出させ、前記吐出口からの吐出の際に前記液状食品が発泡して前記泡状食品が作製されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の泡状食品作製方法は、上記泡状食品作製装置を用いて、前記容器に前記液状食品を投入する工程と、前記容器に前記ディスペンサを装着する工程と、前記ディスペンサの前記ガス充填口から前記充填ガスを注入して前記容器内に充填する工程と、前記容器の底部を前記駆動部に接続して前記撹拌子を回転させ、前記容器内の前記液状食品を撹拌する工程と、前記ディスペンサの前記吐出口から前記液状食品を吐出させ、前記吐出口からの吐出の際に前記液状食品が発泡して前記泡状食品を作製する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の泡状食品作製装置及び泡状食品作製方法によれば、アルゴンガス又は窒素ガスを用いて、容器に収容された液状食品を吐出させて泡状食品を作製することができる。特に、従来の亜酸化窒素ガスに代わって、アルゴンガス又は窒素ガスを用いた場合にあっても、容器内に配置された撹拌子により生クリームを撹拌することで、効率よく短時間にてホイップクリームを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態における泡状食品作製装置の全体構成例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における泡状食品作製装置の内部構成を示す断面図である。
図3】撹拌子16の形状例を示す図である。
図4】撹拌子16の別の形状例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における泡状食品作製装置を用いた泡状食品作製方法を模式的に説明する図である。
図6】本発明の実施の形態における泡状食品作製方法のフローチャートである。
図7】アルゴンガスを用いた場合のホイップクリーム作製実験の結果を示す表である。
図8】窒素ガスを用いた場合のホイップクリーム作製実験の結果を示す表である。
図9】吐出された生クリームが泡立っていない状態例を示す写真である。
図10】吐出された生クリームが十分に泡立ってホイップクリームとなっている状態例を示す写真である。
図11】エスプーマを用いた従来のホイップクリーム作製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態における泡状食品作製装置の全体構成例を示す図であり、図2は、本発明の実施の形態における泡状食品作製装置の内部構成を示す断面図である。本実施の形態の泡状食品作製装置10は、液状食品を収容し且つアルゴンを主成分とするガス又は窒素を主成分とするガスが注入される容器であって当該容器内に当該ガスが大気圧より高い圧力で充填される容器12と、容器12の頂部開口に装着されるディスペンサ14と、容器12内の底部に配置される撹拌子16と、容器12の底部と脱着可能に連結又は接触などの形態で接続して撹拌子16を回転させる駆動部18とを有して構成される。本実施の形態の泡状食品作製装置10は、ディスペンサ14から液状食品を吐出する際の減圧作用により、液状食品に混合されたガスを膨張させて発泡させるエスプーマである。
【0016】
アルゴンを主成分とするガスは、アルゴンのみ(アルゴン100%)のガス、又はアルゴンと10容量%未満(さらに好ましくは5容量%未満)の他の成分ガス(例えば、空気又は食品添加物として認められている別のガス等)が混合されたガスを含み、これらを総称して、以下アルゴンガスと称する。同様に、窒素を主成分とするガスは、窒素のみ(窒素100%)のガス、又は窒素と10容量%未満(さらに好ましくは5容量%未満)の他の成分ガス(例えば、空気又は食品添加物として認められているガス別のガス等)が混合されたガスを含み、これらを総称して、以下窒素ガスと称する。
【0017】
容器12は、例えば生クリームなどの液状食品を収容する。容器12は、耐圧性を有する例えばステンレス製などの金属製又は樹脂製のボトルであり、上下に分割可能な構成で円筒形状に形成される。分割可能に形成される容器12の上側部分と下側部分は、例えば螺合により連結され、連結部分は、例えばOリング(図示せず)などの防水部品を用いて水密性を保持する。容器12の頂部は上側に開口しており、ディスペンサ14は、容器12の頂部を覆って容器12内を密封とするように、容器12に脱着可能に水密性を保持して例えば螺合により装着される。容器12を上下に分割可能とすることで、容器12内の底部に配置される後述する撹拌子16を容器12内に取り付け及び取り外しが可能となる。
【0018】
ディスペンサ14には、吐出口14a及びガス充填口14bが形成される。吐出口14aは容器12内の液状食品が吐出される開口部であり、レバー14cの操作により開閉動作する弁又は蓋構造を有し、その開動作に応じて、容器12内の大気圧より高い圧力により、容器12内の液状食品が吐出口14aから吐出される。吐出口14aには、脱着可能なノズル(図示せず)が取り付けられてもよい。
【0019】
ガス充填口14bは、ガスボンベ(図示せず)からアルゴンガス又は窒素ガスを容器12内に注入するための開口部であり、ガスボンベから延びるガス供給管(図示せず)が連結されると開く弁又は蓋構造を有し、その開動作に応じて、ガスボンベに貯蔵されたアルゴンガス又は窒素ガスがガス供給管を介してガス充填口14bから注入され容器12内に充填される。容器内12に充填されるガス圧力は、大気圧より高い例えば0.3~1MPa程度に設定される。
【0020】
撹拌子16が、容器12の底部に回転可能に配置される。容器12の底部には、撹拌子16を回転可能に支持する軸受部が設けられ、撹拌子16は、駆動部18に設けられた後述のモータにより回転可能に構成される。
【0021】
図3は、撹拌子16の形状例を示す図であり、図3(a)は撹拌子16の平面図、図3(b)は撹拌子16の側面図を示す。撹拌子16は、ブレード状の回転羽根16aを有し、図示されるように、4枚の回転羽根16aが回転中心から90度間隔で配置されて構成される。撹拌効果を高めるため、各回転羽根16aは、折れ曲がり部分を有する形状であってもよい。撹拌子16の回転により、容器12内の液状食品を撹拌し、容器12内の液状食品とアルゴンガス又は窒素ガスとを混合する。
【0022】
図4は、撹拌子16の別の形状例を示す図であり、図4(a)は撹拌子16の平面図、図4(b)は撹拌子16の側面図を示す。撹拌子16は、図3の構成と同様にブレード状の回転羽根16bを有し、図示されるように、2枚の回転羽根16bが回転中心から互いに反対方向に延びるように配置される。また、回転羽根16bは、折れ曲がり部分を有さない平板状に形成され、撹拌子16を取り外して洗浄する際、洗浄が容易な形状であり、メンテナンス性能を高めることができる。
【0023】
駆動部18は、撹拌子16を回転させる駆動源181及び容器12の底部と接続して容器12を支持するベース台182を有する。ベース台182の側面には、電源スイッチ、駆動源181の回転数を制御するための操作部(例えば、ボタンやつまみ)及び表示部(例えば、液晶パネル)などを含む操作パネル185が設けられる。駆動部18の駆動源181は例えば電気モータであり、電気モータ181の回転軸183は、上方に延びてベース台182の天面上で突出するように配置され、容器12の底部に設けられる軸受部と回転軸183を嵌め合させて機械的に連結し、容器12は、既知のメカニカルシール構造を有して支持台182上に載置される。電気モータ181は、ベース台182上に載置された容器12内に取り付けられた撹拌子16を回転させる。撹拌子16の回転により液状食品を容器12内で撹拌することにより、容器12内に充填されたアルゴンガス又は窒素ガスが液状食品と混ぜ合わされる。
【0024】
本装置により液状食品である生クリームを撹拌して泡状食品であるホイップクリームを作製する場合、撹拌子16の回転により生クリームが撹拌されると、生クリームの中に分散して含まれている脂肪球の一部が破壊される。破壊された脂肪球から流れ出る脂肪が脂肪球同士を接着する役割を果たし、脂肪球同士が接着するようになり、その過程で容器内12のガスを抱き込むようにして(ガスの気泡を囲むようにして)脂肪球同士がくっつきあい、生クリーム内にガスが保持され、吐出の際の発泡に十分な量のアルゴンガス又は窒素ガスが生クリームと混合される。
【0025】
このように、ガスが混合した生クリームを容器12内の圧力によりディスペンサ14の吐出口14aから吐出させ、吐出口14aからの吐出の際に生クリームに混合したガスが発泡してホイップクリームが作製される。溶解度が比較的低いアルゴンガス又は窒素ガスを用いる場合に、容器12内で生クリームとアルゴンガス又は窒素ガスを撹拌子16の回転により撹拌することで、生クリームとアルゴンガス又は窒素ガスを生クリームに効率的に混合することが可能となり、アルゴンガス又は窒素ガスを用いてホイップクリームを作製することができる。
【0026】
容器12内での生クリームの撹拌が所定程度を超えると、一般的な泡立て手法のように、生クリームの脂肪球の大部分が破壊され、脂肪球同士がガスの気泡を抱き込みながら接着して、容器内にてホイップクリームとなってしまうと考えられる。この場合、容器12内にて液状が保たれずに粘性が高まるため、吐出口14aからの噴射により吐出しづらくなり、また、吐出の操作のために容器12を逆さにしても容器内で生クリームが流れ落ちず、吐出口14aから吐出されない状態となる。そのため、本発明の泡状食品作製装置による撹拌動作においては、容器12内での液状物質が液状を保つ範囲、具体的には、容器12を逆さにしても容器内の液状物質が流れ落ちる流動性を有する範囲で撹拌される。
【0027】
なお、撹拌子16と駆動部18の駆動源181は、例示した電気モータ181のような機械的なカップリング機構に限らず、例えば、マグネティックスターラーのような磁気的なカップリング機構を用いて、磁気的手段により撹拌子16を回転させる構成でもよい。この場合、容器12は、駆動部18のベース台182の上に載置され、駆動部18は、容器12の底部と接触する形態で接続する。
【0028】
図5は、上述した本発明の実施の形態における泡状食品作製装置(エスプーマ)10を用いた泡状食品作製方法を模式的に説明する図であり、図6は、図5に沿った本発明の実施の形態における泡状食品作製方法のフローチャートである。泡状食品作製方法は、まず、図5(a)に示すように、撹拌子16を内部に配置した容器12を用意し、その容器12に液状食品を投入する(図5(b)、図6のS100)する。
【0029】
液状食品を投入後、容器12にディスペンサ14を装着し(図6のS102)、ガスボンベをディスペンサに接続して、ディスペンサ14のガス充填口14bからアルゴンガス又は窒素ガスを容器12内に充填する(図5(c)、図6のS104)。
【0030】
容器12の底部を駆動部18に接続して撹拌子16を回転させ、容器12内の液状食品を撹拌する(図5(d)、図6のS106)。
【0031】
ディスペンサ14のレバー14cを操作して、撹拌された液状食品を吐出口14aから吐出させ、吐出口14aからの吐出の際に減圧により液状食品が発泡して泡状食品が作製される(図5(e)、図6のS108)。
【0032】
撹拌子16が内部に配置された容器12を駆動部18に接続してから、液状食品を容器12に投入する処理や、アルゴンガス又は窒素ガスをガス充填口14bから充填する処理が行われてもよい。
【0033】
以下、図1乃至図4に示した泡状食品作製装置を用いて、図5及び図6に示す泡状食品作製方法により、生クリームにアルゴンガスを混合させてホイップクリームを作製する実施例について説明する。
【0034】
<実験方法>
以下の作製条件にてホイップクリームを作製し、その状態を観察、評価した。
なお、容器は、本実験のために透明な樹脂材料により製作し、容器内部での液状食品の状態を観察可能とし、後述するように液状食品の流動性を評価した。
(a)液状食品
生クリーム250ml
無脂乳固形分:4.0%
乳脂肪分:13.0%
植物性脂肪分:26.0%
原材料:乳製品、植物油脂、乳糖、乳化剤、安定剤
(b)ガス種
アルゴンガス(アルゴン100%)
窒素ガス(窒素100%)
(c)撹拌子(撹拌子)
図4に示す2枚羽根ブレード
回転数:800回/min
撹拌時間:1~20分
(d)充填圧力
0.5~0.9MPaの充填圧力範囲で実験を行った。
【0035】
<実験結果>
図7はガス種としてアルゴンガスを用いた場合のホイップクリーム作製実験の結果を示す図である。また、図8はガス種として窒素ガスを用いたホイップクリーム作製実験の結果を示す図である。
【0036】
図7及び図8は、容器内のクリームの流動性と容器内の液状食品(生クリーム)を噴射して吐出口から吐出された泡状食品(ホイップクリーム)の発泡性の評価を行った図である。
【0037】
流動性に対する評価は目視により行い、発泡性に対する評価は目視及び泡状食品(ホイップクリーム)の耐荷重圧力により行った。
【0038】
・流動性評価の基準
エスプーマによるホイップクリーム作製では、容器内の液状食品(生クリーム)を噴射して吐出口から吐出する際に、容器を逆さにした状態でディスペンサのレバーを操作して吐出口から吐出させる動作を行うため、容器を逆さにする動作に追随して液状食品が容器内で吐出口まで流れ落ちる程度の流動性が必要となる。
【0039】
容器を逆さにすると容器内で滑らかに生クリームが流れ落ちてくる状態を「適当」と判定し、容器を逆さにすると容器内で多少は生クリームが流れ落ちてくるが、大半が固まって底や側面に付いてしまっている状態や容器を逆さにしても容器内で生クリームが流れずに固まっている状態を「不適当」と判定した。図7及び図8の実験結果データでは、流動性「適当」の状態を「○」、流動性「不適当」の状態を「×」にて表記している。流動性が「不適当」である場合は、発泡動作は行えないので発泡性評価は行っていない。
【0040】
・発泡性評価の基準
液状食品を容器内圧力により吐出口から噴射して吐出する際に、液状食品に混合されたガスが減圧により膨張して十分に泡立った泡状食品(ホイップクリーム)を作製するための発泡性が必要となる。
【0041】
泡状食品(ホイップクリーム)が十分に泡立って発泡し、耐荷重圧力を0.1kPa以上有しかつ生クリームが滑らかに吐出される(ガスが抜けていない)状態を「適当」と判定し、ぎりぎり発泡はする(角が立っている)ものの耐荷重圧力が0.1kPa未満の状態や全く泡立たず、液体状態のものや生クリームが固化してガスのみが吐出される状態を「不適当」と判定した。図7及び図8の実験結果データでは、発泡性「適当」の状態を「○」、発泡性「不適当」の状態を「×」にて表記している。
【0042】
図9は、発泡性評価「不適当」の場合であって、吐出された生クリームが泡立っていない(発泡しない)状態例を示し、図10は、発泡性評価「適当」の場合であって、吐出された生クリームが十分に発泡してホイップクリームとなっている状態例を示す。
【0043】
ここで、耐荷重圧力は、吐出したホイップクリームに荷重をかけて、荷重物が吐出されたホイップクリームに沈み始めた時点の荷重の大きさと、荷重物の面積から算出した。
【0044】
発泡性評価及び流動性評価がともに「適当」(すなわち「○」)の範囲内において、アルゴンガス又は窒素ガスを用いた吐出口からの噴射によるホイップクリームの作製を確認することができた。
【0045】
具体的には、図7の実験結果に示すとおり、アルゴンガスを使用した場合において、上記(d)充填圧力範囲において撹拌時間が比較的短い場合、吐出されるホイップクリームは十分に発泡しないサンプルとなったが、撹拌時間を比較的長くした場合、十分に発泡したホイップクリームを作製することができる結果が得られた。このとき、充填圧力が高いほど、十分に発泡したホイップクリームを得るための撹拌時間は短くなる傾向にあることが観察された。
【0046】
また、充填圧力が比較的高い範囲において撹拌時間をより長くした場合に、容器内での液状食品の流動性が低下するサンプルが現れる現象も観察された。この場合は、吐出口から吐出しにくい状態であり、吐出口から液状食品を噴射により吐出してホイップクリームを作製する手法において不適当の状態である。
【0047】
また、図8の実験結果に示すとおり、窒素ガスを使用した場合においては、アルゴンガスを使用した場合と比較して、撹拌時間がより長くなる傾向にあるが、この場合においても、十分に発泡したホイップクリームを作製することができる結果が得られた。このとき、アルゴンガスを使用した場合と同様に、充填圧力が高いほど、十分に発泡したホイップクリームを得るための撹拌時間は短くなる傾向にあることが観察された。
【0048】
このように、本発明の泡状食品作製装置において、容器内に配置された撹拌子を回転させて生クリームを撹拌する構成及び処理工程を備えることにより、アルゴンガス又は窒素ガスを用いた場合において、生クリームとこれらのガスを適度に混合させ、容器内では流動性を保ち、生クリームを容器内から噴射させて吐出する際に、生クリームに混合したガスの膨張により発泡させてホイップクリームを作製することができる。
【0049】
本発明は、上記の実施の形態例に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10:泡状食品作製装置、12:容器、14:ディスペンサ、14a:吐出口、14b:ガス充填口、14c:レバー、16:撹拌子、18:駆動部、181:電気モータ、182:ベース台、183:回転軸、185:操作パネル
【要約】
【課題】アルゴンガス又は窒素ガスを用いて、容器に収容された生クリームなどの液状食品を吐出させて泡状食品を作製する泡状食品作製装置を提供する。
【解決手段】泡状食品作製装置は、液状食品を収容し且つアルゴンを主成分とするガス又は窒素を主成分とするガスである充填ガスが大気圧より高い圧力で充填された容器と、当該容器内の底部に配置される撹拌子と、容器の底部と脱着可能に接続して撹拌子を回転させ、撹拌子の回転により液状食品を容器内で撹拌して液状食品に充填ガスを混合させる駆動部と、容器に装着され、吐出口及び前記充填ガスを前記容器内に注入するためのガス充填口を有するディスペンサとを備え、ディスペンサは、充填ガスが混合した液状食品を容器内の圧力により吐出口から吐出させ、吐出口からの吐出の際に液状食品が発泡して泡状食品が作製される。
【選択図】図2
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