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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】再充電可能電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220713BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220713BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220713BHJP
   H01M 4/70 20060101ALI20220713BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220713BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220713BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0585
H01M10/04 Z
H01M4/66 A
H01M4/70 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M10/0566
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020515960
(86)(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 IB2018056916
(87)【国際公開番号】W WO2019064100
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】15/721,111
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】リー、ユンセオ
(72)【発明者】
【氏名】ベデル、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】デソーザ、ジョエル、ペレイラ
(72)【発明者】
【氏名】サダナ、デヴェンドラ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-082151(JP,A)
【文献】特開2011-192414(JP,A)
【文献】特開2013-080699(JP,A)
【文献】特開2009-295514(JP,A)
【文献】特開2017-073267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-10/0585
H01M 4/66
H01M 4/70
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ストレッサ材料からなる正極集電体と、
前記正極集電体の物理的に露出した表面に位置する単結晶正極材料層と、
前記単結晶正極材料層の物理的に露出した表面に位置する電解質と、
前記電解質の物理的に露出した表面に位置する負極と、
前記負極の物理的に露出した表面に位置する負極集電体と
を備え、
前記正極集電体が、スポーリング障壁材料部分によって分離された手指状部分を有し、前記正極集電体のそれぞれの手指状部分の物理的に露出した表面に、前記単結晶正極材料層の部分が位置する、
再充電可能電池スタック。
【請求項2】
前記電解質が液体状態にあり、セパレータが、前記電解質の第1の領域を前記電解質の第2の領域から分離している、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項3】
前記単結晶正極材料層が、5μmよりも厚く100μmよりも薄い厚さを有する、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項4】
前記単結晶正極材料層がポリマー結合剤材料を含んでいない、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項5】
前記単結晶正極材料層がリチウム化材料である、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項6】
前記リチウム化材料が、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、コバルトマンガン酸リチウム(LiCoMnO)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(LiNiMnCo)、リチウムバナジウムペントキシド(LiV)またはリン酸鉄リチウム(LiFePO)を含む、請求項に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項7】
前記電解質が固体型またはゲル型電解質である、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項8】
前記単結晶正極材料層と前記ストレッサ材料の層との間に位置する、下から上へこの順番で積み重ねられた腐食抑制剤層および接着層の材料スタックをさらに備える、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【請求項9】
50mAh/gm以上の容量を有する、請求項1に記載の再充電可能電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は再充電可能電池(rechargeable battery)に関する。より詳細には、本出願は、正極(cathode)材料層とストレッサ(stressor)材料とを含むスポーリングされた(spalled)材料構造体を含む、大容量および高性能の再充電可能電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能電池は、充電すること、負荷へ放電させることおよび何度も再充電することが可能なタイプの電池であり、一方、非再充電可能電池(いわゆる1次電池)は、十分に充電された状態で供給され、放電後は廃棄される。再充電可能電池は、ボタン電池から、配電網を安定させるために接続されたメガワット・システムまで、多くの異なる形状およびサイズのものが生産されている。
【0003】
再充電可能電池は、使い捨て電池よりも初期費用は高いが、交換が必要となるまでに何度も安価に再充電することができるため、全体の所有費用および環境影響ははるかに小さい。いくつかのタイプの再充電可能電池は、使い捨てタイプの電池と同じサイズおよび同じ電圧で使用可能であり、それらのタイプの再充電可能電池は、使い捨てタイプの電池と相互に交換可能に使用することができる。多数の再充電可能電池が存在するにもかかわらず、大きな容量(すなわち50mAh/gm以上の容量)を有し、高い性能を示す再充電可能電池を提供することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大容量および高性能の再充電可能電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
再充電可能電池スタックを含み、この再充電可能電池スタックが、ストレッサ材料に付着した正極材料層を含むスポーリングされた材料構造体を含む、大容量(すなわち50mAh/gm以上の容量)および高性能の再充電可能電池が提供される。スポーリングされた材料構造体の正極材料層は、ポリマー結合剤(polymeric binder)を含んでいない単結晶正極材料を含む。ストレッサ材料は、再充電可能電池スタックの正極集電体の役目を果たす。
【0006】
一実施形態では、金属ストレッサ材料からなる正極集電体(cathode current collector)を含む再充電可能電池スタックが提供される。正極集電体の物理的に露出した表面に、単結晶正極材料層が位置する。単結晶正極材料層の物理的に露出した表面に、電解質(固体、液体またはゲル)が位置する。電解質の物理的に露出した表面に、負極(anode)が位置し、負極の物理的に露出した表面に、負極集電体が位置する。
【0007】
別の実施形態では、金属ストレッサ材料からなる正極集電体を含む再充電可能電池スタックであって、この正極集電体が、スポーリング障壁材料部分によって分離された手指状部分(finger portion)を有する、再充電可能電池スタックが提供される。正極集電体のそれぞれの手指状部分およびそれぞれのスポーリング障壁材料部分の物理的に露出した表面に、単結晶正極材料層部分が位置する。単結晶正極材料層部分の物理的に露出した表面に、電解質(固体、液体またはゲル)が位置する。電解質の物理的に露出した表面に、負極が位置し、負極の物理的に露出した表面に、負極集電体が位置する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本出願の一実施形態に従って使用することができる正極材料基板の例示的構造の断面図である。
図2】正極材料基板の物理的に露出した表面にストレッサ層を形成した後の図1の例示的構造の断面図である。
図3】正極材料基板の物理的に露出した表面に、下から上へこの順番で積み重ねられた腐食抑制剤層(corrosion inhibitor layer)、接着(adhesion)層、ストレッサ層およびハンドル基板(handle substrate)の材料スタックを形成した後の図1の例示的構造の断面図である。
図4】スポーリング・プロセスを実行した後の図2の例示的構造の断面図である。
図5図4に示された例示的構造の正極材料層およびストレッサ層を含む再充電可能電池スタックの断面図である。
図6図4に示された例示的構造の正極材料層およびストレッサ層を含む別の再充電可能電池スタックの断面図である。
図7】正極材料基板の物理的に露出した表面に位置するパターン形成された複数のスポーリング障壁層部分を含む、本出願の別の実施形態で使用することができる別の例示的構造の断面図である。
図8】ストレッサ層を形成した後の図7の例示的構造の断面図である。
図9】スポーリング・プロセスを実行した後の図8の例示的構造の断面図である。
図10図9に示された例示的構造の正極材料層部分およびストレッサ層を含む再充電可能電池スタックの断面図である。
図11】正極材料基板の物理的に露出した表面に位置するパターン形成された複数のストレッサ層部分を含む、本出願の別の実施形態で使用することができる別の例示的構造の断面図である。
図12】ハンドル基板を形成した後の図11の例示的構造の断面図である。
図13】スポーリング・プロセスを実行した後の図12の例示的構造の断面図である。
図14図13に示された例示的構造の正極材料層部分およびパターン形成されたストレッサ層部分をそれぞれが含む、複数の再充電可能電池スタックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、以下の議論および本出願に添付された図面を参照することにより、本出願をより詳細に説明する。本出願の図面は例示だけを目的に提供されたものであり、そのため、図面は一定の倍率では描かれていないことに留意されたい。同様の要素および対応する要素は、同様の参照符号によって参照されることにも留意されたい。
【0010】
以下の説明には、本出願のさまざまな実施形態の理解を提供するために、具体的な構造、構成要素、材料、寸法、処理ステップおよび技法など、数多くの特有の詳細が示されている。しかしながら、本出願のさまざまな実施形態は、それらの特有の詳細なしでも実施されることがあることを当業者は理解するであろう。また、本出願を不明瞭にすることを避けるため、よく知られている構造または処理ステップを詳細に説明することはしなかった。
【0011】
層、領域または基板などの1つの要素が、別の要素「上にある」または別の要素「の上にある」と書かれているとき、その要素は、その別の要素上に直接にあり、または介在する要素が存在することもあることが理解される。逆に、1つの要素が、別の要素「上に直接にある」または別の要素「の上に直接にある」と書かれているときには、介在する要素は存在しない。1つの要素が別の要素「の下方にある」または別の要素「の下にある」と書かれているとき、その要素は、その別の要素の下方またはその別の要素の下に直接あり、または介在する要素が存在することもあることも理解される。逆に、1つの要素が、別の要素「の下方に直接にある」または別の要素「の下に直接にある」と書かれているときには、介在する要素は存在しない。
【0012】
従来の薄膜固体再充電可能電池では、正極材料層が、スパッタリングまたは蒸着などの堆積プロセスを利用して形成される。このような堆積プロセスは低速プロセスであり、堆積させる正極層の厚さは通常、5μm未満に限定される。このような厚さにおいて、従来の再充電可能電池は、50mAh/gm以上の容量を達成するのに通常、数百平方センチメートルの面積を必要とする。さらに、先行技術の堆積正極層は通常、ポリマー結合剤材料を含み、ポリマー結合剤材料は、使用中の正極の体積変化による容量の低下を引き起こす可能性がある。さらに、先行技術の正極層中のリチウム化粒子(lithiated particle)は通常、正極層の結晶化度を向上させるために、金属シートに張り付ける前にアニールされる。本出願では、先行技術のこれらの問題が、後述するスポーリング・プロセスを利用することによって回避/緩和される。本出願のスポーリング・プロセスは、正極材料層内における可能な最も高いリチウム輸送を可能にする構造体であって、ストレッサ層の厚さもしくはストレッサ層の残留応力またはその両方によってその厚さを制御することができる構造体を得るために、既にアニール済みのスポーリングされた正極材料層を提供する。さらに、このスポーリング・プロセスは、堆積させた正極材料層に比べて向上した均一性を有するスポーリングされた正極材料層を提供する。さらに、このスポーリング・プロセスは、厚い正極材料層を提供する費用効果の高い手段を提供し、厚い正極材料層は、それを含む再充電可能電池の容量を向上させることができる。
【0013】
最初に図1を参照すると、本出願の一実施形態に従って使用することができる正極材料基板10の例示的構造が示されている。示されているように、正極材料基板10は、正極材料基板10の全長にわたって均一な厚さを有する。さらに、使用することができる正極材料基板10の上面と下面はともに、正極材料基板10の全長にわたって平らである。別の言い方をすれば、本出願で最初に使用される正極材料基板10は、テクスチャが付けられていない(non-textured)(すなわち平らなまたは平坦な)表面を有する。用語「テクスチャが付けられていない表面」は、滑らかな表面であって、プロフィロメトリ(profilometry)によって測定された表面粗さが、2乗平均平方根(root mean square)で100nm未満程度である表面を表す。
【0014】
使用することができる正極材料基板10は、この後に説明するストレッサ材料の破壊靭性(fracture toughness)よりも小さい破壊靭性を有する、再充電可能電池の正極材料を含むものであってよい。破壊靭性は、亀裂を含む材料が破壊(fracture)に耐える能力を表す特性である。破壊靭性はKIcで表される。下付き添字Icは、亀裂に対して直角な垂直引張応力下でのモードI亀裂開口であることを表し、cは、その値が臨界値であることを意味する。スポーリング・モード破壊は普通、基板内のモードII応力(剪断)がゼロである位置で起こり、モードIII応力(引裂き(tearing))は一般に荷重条件では存在しないため、通常はモードI破壊靭性が最も重要な値である。破壊靭性は、亀裂が存在するときに材料が脆性破壊に耐える抵抗性を表現する定量的手段である。
【0015】
本出願の一実施形態では、正極材料基板10を提供する正極材料が、例えばリチウム・ベースの混合酸化物などのリチウム化材料である。正極材料基板10として使用されてよいリチウム・ベースの混合酸化物の例は、限定はされないが、コバルト酸リチウム(lithium cobalt oxide)(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(lithium nickel oxide)(LiNiO)、マンガン酸リチウム(lithium manganese oxide)(LiMn)、コバルトマンガン酸リチウム(lithium cobalt manganese oxide)(LiCoMnO)、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム(lithium nickel manganese cobalt oxide)(LiNiMnCo)、リチウムバナジウムペントキシド(lithium vanadium pentoxide)(LiV)またはリン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)(LiFePO)を含む。
【0016】
使用される正極材料基板10は、単結晶正極材料(すなわち試料全体の結晶格子が連続しており、試料の縁まで中断がなく、結晶粒界がない正極材料)であり、単結晶正極材料は、再充電可能電池スタック内でのイオン(例えばLiイオン)および電子の高速輸送を提供しうる。正極材料基板10は通常、ポリマー結合剤材料を含んでいない。ポリマー結合剤材料を含んでいない正極材料は、正極の体積変化による容量低下が起こらないロバストな動作を提供する。
【0017】
正極材料基板10は、100μm(ミクロン)よりも厚い厚さを有するものであってよい。正極材料基板10の厚さとして別の厚さを使用することもできる。
【0018】
本出願のいくつかの実施形態では、さらなる処理の前に、表面酸化物もしくは他の汚染物またはその両方を正極材料基板10から除去するため、少なくとも正極材料基板10の上面を洗浄することができる。本出願の一実施形態では、正極材料基板10の上面から汚染物もしくは表面酸化物またはその両方を除去する能力を有する例えばアセトンおよびイソプロパノールなどの溶媒を用いることによって、正極材料基板10が洗浄される。
【0019】
本出願のいくつかの実施形態では、使用前に、正極材料基板10の上面をフッ化水素酸に浸すことにより酸化物を除去することによって、正極材料基板10の上面を疎水性にすることができる。疎水性の表面または酸化物のない表面は、洗浄後の表面と堆積させるある種のストレッサ材料との間の接着を改善する。
【0020】
次に図2を参照すると、正極材料基板10の物理的に露出した表面にストレッサ層12を形成した後の図1の例示的構造が示されている。ストレッサ層12は、正極材料基板10の輪郭に従っており、したがって平らな上面および平らな下面を有する。
【0021】
本出願で使用することができるストレッサ層12は、スポーリング温度において正極材料基板10上で引張応力下にある正極側電極材料を含む。そのため、本明細書では、ストレッサ層12を応力誘起層と呼ぶこともでき、スポーリングの後、正極材料基板のスポーリングされた部分に付着したストレッサ層12は、再充電可能電池スタックの正極集電体(すなわち正極側電極)の役目を果たす。本出願によれば、ストレッサ層12は、正極材料基板10内でスポーリング・モード破壊が起こる臨界厚さおよび応力値を有する。「スポーリング・モード破壊」は、正極材料基板10内で亀裂が形成され、荷重力の組合せが、亀裂軌道を、ストレッサ/基板界面下の1つの深さに維持することを意味する。臨界条件は、ストレッサ材料とベース基板材料の所与の組合せについて、スポーリング・モード破壊を可能にする(基板のKICよりも大きなK値を生み出すことができる)ストレッサ層の厚さ値および応力値が選択されていることを意味する。
【0022】
ストレッサ層12の厚さは、正極材料基板10内の所望の深さのところで破壊が起こるように選択される。例えば、ニッケル(Ni)であるストレッサ層12が選択された場合、破壊は、ストレッサ層12の下方のNiの厚さのだいたい2から3倍の深さのところで起こる。次いで、ストレッサ層12の応力値が、スポーリング・モード破壊に対する臨界条件を満たすように選択される。この応力値は、t=[(2.5×10)(KIC 3/2)]/σによって与えられる経験式を反転させることによって推定することができる。この式で、tは、ストレッサ層の臨界厚さ(単位はミクロン)、KICは、正極材料基板10の破壊靭性(単位はMPa・m1/2)、σは、ストレッサ層の応力値(単位はMPaすなわちメガパスカル)である。上記の式は指針であり、実際には、上記の式によって予測される応力値または厚さ値よりも最大20%小さい応力値または厚さ値でスポーリングは起こりうる。
【0023】
正極材料基板10に付着させたときに引張応力下にあり、したがってストレッサ層12として使用することができる正極電極材料の実例は、限定はされないが、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)または窒化チタン(TiN)を含む。一例では、ストレッサ層12が、下から上へこの順番で積み重ねられたチタン(Ti)、白金(Pt)およびチタン(Ti)のスタックを含む。一実施形態では、ストレッサ層12がNiからなる。
【0024】
一実施形態では、本開示で使用されるストレッサ層12を、室温(15℃~40℃)である第1の温度で形成することができる。ストレッサ層12は、例えば物理気相堆積プロセス(例えばスパッタリングもしくは蒸着)または電気化学的堆積プロセス(例えば電気めっきもしくは無電解めっき)を含む当業者によく知られている堆積プロセスを利用して形成することができる。
【0025】
本出願のいくつかの実施形態では、ストレッサ層12が2μmから300μmの厚さを有する。本出願では、ストレッサ層12に対して、上述の厚さ範囲よりも薄い別の厚さもしくは上述の厚さ範囲よりも厚い別の厚さまたはその両方を使用することもできる。
【0026】
(この実施形態には示されていない)本出願のいくつかの実施形態では、ストレッサ層12を形成する前に、正極材料基板10上に接着層を直接に形成することができる。この接着層は、この後に形成されるストレッサ層が、正極材料基板10を提供する正極材料に対して不十分な接着力を有する実施形態で使用される。(この実施形態には示されていない)いくつかの実施形態では、ストレッサ層12を形成する前に、(テクスチャが付けられたまたはテクスチャが付けられていない)正極材料基板上に腐食抑制剤層を直接に形成することができる。(この実施形態には示されておらず、図3に示されている)別の実施形態では、ストレッサ層12を形成する前に、下から上へこの順番で積み重ねられた腐食抑制剤層および接着層の材料スタックが、正極材料基板10上に直接に形成される。
【0027】
接着層および腐食抑制剤層はそれぞれ、その下の正極材料の輪郭に従う。例えば、接着層と腐食抑制剤層はともに平らな表面を有する。
【0028】
本出願のいくつかの実施形態で使用することができる接着層は、限定はされないが、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)またはこれらの任意の組合せなどの金属接着材料を含む。この接着層は、単一の層を含むものであってもよく、または異なる金属接着材料の少なくとも2つの層を含む多層構造体を含むものであってもよい。
【0029】
本出願で使用することができる接着層は、室温(15℃~40℃、すなわち288Kから313K)または室温よりも高い温度で形成することができる。一実施形態では、20℃(293K)から180℃(353K)である温度で接着層を形成することができる。別の実施形態では、20℃(293K)から60℃(333K)である温度で接着層を形成することができる。任意選択で使用される接着層は、例えばスパッタリングまたはめっきなどの堆積技法を利用して形成することができる。スパッタ堆積が使用されるとき、スパッタ堆積プロセスは、堆積前のその場(in-situ)スパッタ洗浄プロセスをさらに含んでもよい。
【0030】
接着層が使用されるとき、接着層は典型的には5nmから200nmの厚さを有し、より典型的には100nmから150nmの厚さを有する。本出願では、接着層に対して、上述の厚さ範囲よりも薄い別の厚さもしくは上述の厚さ範囲よりも厚い別の厚さまたはその両方を使用することもできる。
【0031】
腐食抑制剤層は、正極集電体(すなわちストレッサ層)電位で電気化学的に安定な金属または金属合金を含む。例えば、正極集電体(すなわちストレッサ)材料としてNiが使用されるとき、腐食抑制剤層はアルミニウム(Al)からなるものであってよい。この腐食抑制剤層は、単一の層を含むものであってもよく、または腐食抑制剤材料の少なくとも2つの層を含む多層構造体を含むものであってもよい。
【0032】
腐食抑制剤層は、2nmから400nmの厚さを有するものであってよいが、上述の厚さ範囲よりも薄い別の厚さまたは上述の厚さ範囲よりも厚い別の厚さが使用されてもよい。腐食抑制剤層は、例えば化学気相堆積(CVD)、プラズマ加速化学気相堆積(PECVD)、原子層堆積(ALD)または物理気相堆積(PVD)技法を含む堆積プロセスによって形成することができ、PVD技法は、蒸着もしくはスパッタリングまたはその両方を含んでもよい。腐食抑制剤層は、接着層に関して上で述べた温度範囲内で形成されたものであってよい。
【0033】
本出願によれば、接着層もしくは腐食抑制剤層またはその両方は、(テクスチャが付けられたまたはテクスチャが付けられていない)正極材料基板内で自発的スポーリング(spontaneous spallng)が起こらない温度で形成される。「自発的」は、薄い材料層をベース基板から剥離するための亀裂の形成および伝播を開始させるマニュアル(manual)手段を使用する必要なしに、基板からの薄い材料層の除去が起こることを意味する。「マニュアル」は、薄い材料層をベース基板から剥離するための亀裂の形成および伝播が明示的(explicit)であることを意味する。
【0034】
(この実施形態には示されておらず、図3に示されている)いくつかの実施形態では、スポーリングの前に、ストレッサ層12の物理的に露出した表面にハンドル基板を付着させることができる。ハンドル基板は、典型的には30cmよりも小さい最小曲率半径を有する可撓性の材料を含むものであってよい。ハンドル基板として使用することができる可撓性材料の実例は、ポリマー・テープ、金属箔またはポリイミド箔を含む。このハンドル基板を使用して、より良好な破壊制御、および正極材料基板のスポーリングされた部分を取り扱う際のより大きな融通性(versatility)を提供することができる。さらに、このハンドル基板を使用して、スポーリング中に亀裂の伝播を誘導することもできる。必ずというわけではないが、ハンドル基板は通常、室温(15℃~40℃)である第1の温度で形成される。
【0035】
ハンドル基板は典型的には1μmから数mmの厚さを有し、より典型的には70μmから120μmの厚さを有する。本出願では、ハンドル基板に対して、上述の厚さ範囲よりも薄い別の厚さもしくは上述の厚さ範囲よりも厚い別の厚さまたはその両方を使用することもできる。いくつかの実施形態では、ハンドル基板を、接着材料を利用して、ストレッサ層の物理的に露出した表面に付着させることができる。
【0036】
次に図3を参照すると、正極材料基板10の物理的に露出した表面に、下から上へこの順番で積み重ねられた腐食抑制剤層14、接着層16、ストレッサ層12およびハンドル基板18の材料スタックを形成した後の図1の例示的構造が示されている。腐食抑制剤層14、接着層16、ストレッサ層12およびハンドル基板18はそれぞれ上で定義されている。
【0037】
次に図4を参照すると、自発的スポーリング・プロセス(本明細書では以後「スポーリング」という)を実行した後の図2の例示的構造が示されている。図2に示された例示的構造に対するスポーリングが示されているが、スポーリングは、図3に示された例示的構造、または少なくとも正極材料基板10およびストレッサ層12を含む他の構造に対して実行されてもよい。スポーリングは、エッチング・プロセスまたは機械的手段を利用することなくベース基板から材料の薄い層が除去される、スケーリング可能な(scalable)制御された表面層除去プロセスである。薄いは、除去される層の厚さが通常200μmよりも薄いことを意味する。いくつかの実施形態では、スポーリングによって除去することができる正極材料層10Lが、5μmよりも厚く50μmよりも薄い厚さを有することができる。他の実施形態では、スポーリングによって除去することができる正極材料層10Lが、5μmよりも厚く100μmよりも薄い厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、スポーリングによって除去することができる正極材料層10Lが、5μmよりも薄い厚さを有することができる。いくつかの用途では、大容量を有する電池スタックが提供される。このことは特に、正極材料層10Lが5μmよりも厚い厚さ、好ましくは10μmよりも厚い厚さを有するときに認められる。「大容量」は、容量が50mAh/gm以上であることを意味する。いくつかの実施形態では、正極材料基板10およびストレッサ層12を含む構造体からハンドル基板18から引き離しまたは剥ぐことによって、スポーリングが促進される。
【0038】
本出願では、このスポーリング・プロセスが、正極材料基板10から正極材料の一部分を除去する。本明細書では、その後もストレッサ層12に付着している正極材料の除去された部分を、正極材料層10L(例えばスポーリングされた正極材料層)と呼ぶ。最初の正極材料基板から除去された正極材料層10Lは単結晶である。本明細書では、ストレッサ層にもはや付着していない正極材料基板10の残りの部分を正極材料基板部分10Pと呼ぶ。正極材料基板部分10Pは別の用途で再使用することができる。本明細書では、正極材料層10Lおよび付着したストレッサ層12(ならびに任意選択で接着層もしくは任意選択の腐食抑制剤層またはその両方)を、スポーリングされた材料層構造体と呼ぶことがある。
【0039】
スポーリングは、室温で、または室温よりも低い温度で開始させることができる。一実施形態では、スポーリングが室温(すなわち20℃から40℃)で実行される。別の実施形態では、スポーリングが20℃よりも低い温度で実行される。別の実施形態では、スポーリングが77K以下の温度で実行される。別の実施形態では、スポーリングが206Kよりも低い温度で実行される。別の実施形態では、スポーリングが175Kから130Kの温度で実行される。室温よりも低い温度が使用されるとき、その室温よりも低い温度でのスポーリング・プロセスは、冷却手段を利用して構造体を室温よりも低い温度に冷却することによって達成することができる。冷却は例えば、液体窒素浴、液体ヘリウム浴、氷浴(ice bath)、ドライアイス浴(dry ice bath)、超臨界流体浴または極低温環境液体もしくは気体中に構造体を置くことによって達成することができる。
【0040】
室温よりも低い温度でスポーリングが実行されたとき、スポーリングされた構造体は、スポーリングされた構造体を室温のところに放置することにより、スポーリングされた構造体がゆっくりと室温まで温まるようにすることによって、室温に戻される。あるいは、加熱手段を利用して、スポーリングされた構造体を室温まで加熱することもできる。スポーリング後、スポーリングされた材料層構造体からハンドル基板を除去することができる。ハンドル基板18は、当業者によく知られた従来の技法を利用して、スポーリングされた材料層構造体から除去することができる。例えば、UVまたは熱処理を使用してハンドル基板を除去することができる。
【0041】
次に図5および6を参照すると、図4に示されたスポーリングされた材料構造体(10L/12)を含むさまざまな再充電可能電池スタックが示されている。特に、図5に示された再充電可能電池スタックは、正極集電体(すなわち正極側電極)としてのストレッサ層12、正極材料層10L、電解質の第1の領域20A、セパレータ22、電解質の第2の領域20B、負極24および負極集電体26(すなわち負極側電極)を含む。図6に示された再充電可能電池スタックは、電解質の単一の領域20が存在することを除き、図5に示された再充電可能電池スタックと同様である。図6に示された再充電可能電池ではセパレータが使用されていない。
【0042】
図5~6に示された再充電可能電池スタックを提供する際には、図4に示されたスポーリングされた材料構造体(10L/12)を裏返して、ストレッサ層12が正極材料層10Lの下に位置するようにする。次いで、正極材料層10Lの上に、再充電可能電池スタックの残りの構成要素を順番に形成する。
【0043】
本出願で使用することができる電解質は、再充電可能電池で使用することができる従来の電解質を含むものであってよい。この電解質は、液体電解質、固体電解質またはゲル型電解質であってよい。いくつかの実施形態では、固体電解質が、ポリマー・ベースの材料または無機材料である。他の実施形態では、電解質が、リチウム・イオンの導通を可能にする材料を含む固体電解質である。このような材料は、電気絶縁性またはイオン電導性であってよい。固体電解質として使用することができる材料の例は、限定はされないが、窒化リン酸リチウム(lithium phosphorus oxynitride)(LiPON)または窒化リンケイ酸リチウム(lithium phosphosilicate oxynitride)(LiSiPON)を含む。
【0044】
固体電解質層が使用される実施形態では、固体電解質が、スパッタリング、溶液堆積(solution deposition)またはめっきなどの堆積プロセスを利用して形成されたものであってよい。一実施形態では、従来の前駆体原料物質を利用したスパッタリングによって固体電解質が形成される。スパッタリングは、少なくとも窒素を含む雰囲気(ambient)の存在下で実行されてよい。使用することができる窒素を含む雰囲気の例は、限定はされないが、N、NH、NH、NOまたはNHを含む。ここでxは0から1の間である。上述の窒素を含む雰囲気の混合物を使用することもできる。いくつかの実施形態では、窒素を含む雰囲気が、純粋な状態で(neat)使用される。すなわち希釈されずに使用される。他の実施形態では、例えばヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)およびこれらの混合物などの不活性ガスを用いて、窒素を含む雰囲気を希釈することができる。使用される窒素を含む雰囲気の窒素(N)の含有量は典型的には10%から100%であり、より典型的には、雰囲気の窒素含有量が50%から100%である。
【0045】
液体電解質が使用される場合に使用されるセパレータ22は、セルロース、セロハン、ポリ酢酸ビニル(PVA)、PVA/セルロース・ブレンド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)またはPEとPPとの混合物からなる可撓性多孔質材料、ゲルまたはシートのうちの1つまたは複数を含むものであってよい。セパレータ22は、無機絶縁ナノ/マイクロ粒子からなるものであってよい。
【0046】
負極24は、再充電可能電池に見られる従来の負極材料を含むものであってよい。いくつかの実施形態では、負極24が、リチウム金属、リチウム・ベースの合金、例えばLiSi、またはリチウム・ベースの混合酸化物、例えばチタン酸リチウム(lithium titanium oxide)(LiTiO)からなる。負極24は、Si、黒鉛または無定形炭素(amorphous carbon)からなるものであってよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、負極24が、充電/再充電プロセスを実行する前に形成される。このような実施形態では、例えば化学気相堆積(CVD)、プラズマ加速化学気相堆積(PECVD)、蒸着、スパッタリングまたはめっきなどの堆積プロセスを利用して、負極24を形成することができる。いくつかの実施形態では、負極24が、充電/再充電プロセス中に形成されたリチウム蓄積(accumulation)領域である。負極24は、20nmから200μmの厚さを有するものであってよい。
【0048】
負極集電体26(すなわち負極側電極)は、例えばチタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)または窒化チタン(TiN)などの金属電極材料を含むものであってよい。一例では、負極集電体26が、下から上へこの順番で積み重ねられたニッケル(Ni)および銅(Cu)のスタックを含む。一実施形態では、負極集電体26を提供する金属電極材料が、正極集電体(すなわちストレッサ層12)を提供する金属電極材料と同じ金属電極材料である。別の実施形態では、負極集電体26を提供する金属電極材料が、正極集電体を提供する金属電極材料とは異なる金属電極材料である。負極集電体26は、例えば化学気相堆積、スパッタリングまたはめっきなどの堆積プロセスを利用して形成されたものであってよい。負極集電体26は、100nmから200μmの厚さを有するものであってよい。
【0049】
次に図7を参照すると、正極材料基板10の物理的に露出した表面に位置するパターン形成された複数のスポーリング障壁層部分30を含む、本出願の別の実施形態で使用することができる別の例示的構造が示されている。示されているように、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30は、パターン形成された他のスポーリング障壁層部分30から隙間Gだけ離して配置されている。パターン形成されたスポーリング障壁層部分30は、パターン形成されたスポーリング障壁層部分30の下に直接に位置する正極材料基板10のエリアでのスポーリングを防ぐ。スポーリングは、パターン形成されたスポーリング障壁層部分30がない正極材料基板10のエリアで起こる(すなわちスポーリングはそれぞれの隙間Gの下で起こる)。
【0050】
パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30は、例えば誘電体材料またはポリマー材料などのスポーリング障壁材料を含む。一実施形態では、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30が、二酸化ケイ素または窒化ケイ素を含む。パターン形成されたスポーリング障壁層部分30は、最初に、スポーリング障壁材料の層を堆積させ、その後に、そのスポーリング障壁材料の層にパターンを形成することによって形成される。このパターン形成は、リソグラフィおよびエッチングよって実行されてよい。このスポーリング障壁材料の層は100nmから500μmの厚さを有するものであってよい。
【0051】
次に図8を参照すると、ストレッサ層12を形成した後の図7の例示的構造が示されている。この実施形態のストレッサ層12は、本出願の上記の実施形態で定義したストレッサ層12と同じものである。本出願のこの実施形態では、ストレッサ層12が、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30の物理的に露出した側壁表面および上面に形成される。ストレッサ層12の部分が、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30間の隙間を、図8に示されているように埋め、それらの部分は、パターン形成されたスポーリング障壁層部分30によって保護されていない正極材料基板10の物理的に露出した部分と直接に接触しうる。いくつかの実施形態では、図7に示された例示的構造上に、下から上へこの順番で積み重ねられた腐食抑制剤層、接着層、ストレッサ層およびハンドル基板の材料スタックを形成することができる。腐食抑制剤層、接着層、ストレッサ層およびハンドル基板はそれぞれ上で定義されている。
【0052】
次に図9を参照すると、自発的スポーリング・プロセスを実行した後の図8の例示的構造が示されている。本出願の上記の実施形態で定義したスポーリング(例えば図4参照)が実行されている。この実施形態では、スポーリングされた材料構造体が、互いに間隔を置いて配置された複数の正極材料層部分10X(例えばスポーリングされた正極材料層部分)を含む。正極材料層部分10Xも単結晶である。それぞれの正極材料層部分10Xのサイズおよび形状は、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30間に位置する隙間のサイズおよび形状によって決定される。
【0053】
ハンドル基板が存在する場合には、上述の技法を利用したスポーリングの後に、スポーリングされた材料構造体からハンドル基板を除去することができる。
【0054】
次に図10を参照すると、図9に示された例示的構造の正極材料層部分10Xおよびストレッサ層12を含む再充電可能電池スタックを含む構造体が示されている。この実施形態では、(正極集電体の役目を果たす)ストレッサ層12が、パターン形成されたそれぞれのスポーリング障壁層部分30間に延びる手指に似た部分を含む。その上、図10の再充電可能電池スタックは、それぞれの正極材料層部分10Xの周囲および上方に存在する電解質のエリア20をさらに含み、電解質上に負極24が位置し、負極24上に負極集電体26が位置する。いくつかの実施形態ではエリア20内にセパレータが含まれる。この実施形態の電解質、セパレータ、負極および負極集電体はそれぞれ、本出願の上記の実施形態で説明したものと同じものである。
【0055】
図10に示された再充電可能電池スタックを提供する際には、図9に示されたスポーリングされた材料構造体(10X、12、30)を裏返して、ストレッサ層12が正極材料層部分10Xの下に位置するようにする。次いで、再充電可能電池スタックの残りの構成要素を順番に形成する。
【0056】
いくつかの実施形態では、例えば図14に示されているものなどの微小サイズの多数の再充電可能電池スタックを提供するために、図10に示された構造体が、例えばダイシングなどのシンギュレーション(singulation)プロセスにかけられる。「微小サイズ」は、1mmよりも小さい横方向寸法を有する電池スタックを意味する。
【0057】
次に図11を参照すると、正極材料基板10の物理的に露出した表面に位置するパターン形成された複数のストレッサ層部分12Pを含む、本出願の別の実施形態で使用することができる別の例示的構造が示されている。示されているように、パターン形成されたそれぞれのストレッサ層部分12Pは隙間によって分離されている。パターン形成されたそれぞれのストレッサ層部分12Pは、最初に図2に示された構造体を形成し、その後、そのような構造体を、例えばリソグラフィおよびエッチングなどのパターン形成プロセスにかけることによって形成することができる。いくつかの実施形態では、ストレッサ層部分12Pを含むパターン形成された材料スタックを提供するために、最初に、図3に示されているような腐食抑制剤層、接着層およびストレッサ層の材料スタックが形成され、その後に、そのような材料スタックに、リソグラフィおよびエッチングによってパターンが形成される。この実施形態では、それぞれのストレッサ層部分12Pのサイズおよび形状が、スポーリングによって除去される正極材料層部分のサイズおよび形状を決定する。
【0058】
次に図12を参照すると、ハンドル基板18を形成した後の図11の例示的構造が示されている。ハンドル基板18は、本出願の中で以前に述べた材料のうちの1つの材料を含む。示されているように、ハンドル基板18の下面の部分が、それぞれのストレッサ層部分12Pの上面と直接に接触しており、ハンドル基板18の残りの部分は、ストレッサ層部分12Pの上方に浮いている。
【0059】
次に図13を参照すると、自発的スポーリング・プロセスを実行した後の図12の例示的構造が示されている。このスポーリング・プロセスは、上で定義したとおりのプロセスである。この実施形態では、それぞれの正極材料層部分10Xが、1つのストレッサ層部分12Pの側壁表面と垂直に整列した側壁表面を有する。
【0060】
次に図14を参照すると、図13に示された例示的構造の正極材料層部分10Xおよびパターン形成されたストレッサ層部分12Pをそれぞれが含む、複数の再充電可能電池スタックが示されている。この構造体は、最初に、スポーリングされた個々の材料スタック(10X/12P)からハンドル基板18を除去し、次いで、正極材料層部分12Pの物理的に露出した表面が支持基板の表面と接触するような形で、スポーリングされた個々の材料スタック(10X/12P)を支持基板(図示せず)に移すことによって形成することができる。次に、電池スタックの残りの構成要素(すなわち電解質、負極および負極集電体)が形成される。その後に、図14に示されているものなどの微小サイズの多数の再充電可能電池スタックを提供するために、例えばダイシングなどのシンギュレーション・プロセスが実行されてもよい。微小サイズのそれぞれの再充電可能電池スタックの下に、支持基板(図示せず)の一部分が存在してもよい。
【0061】
本出願の好ましい実施形態に関して本出願を具体的に示し、説明したが、本出願の思想および範囲から逸脱することなく、形態および詳細の上記の変更およびその他の変更がなされることがあることを当業者は理解するであろう。したがって、本出願は、記載および図示された正確な形態および詳細に限定されるものではなく、添付の特許請求項の範囲に属するものであることが意図されている。
図1
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図5
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