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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】ガラス材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/00 20060101AFI20220713BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20220713BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20220713BHJP
   C03C 3/19 20060101ALI20220713BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20220713BHJP
   G02F 1/09 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C03B11/00 A
C03C3/068
C03C3/15
C03C3/19
G02B3/00 Z
G02F1/09 501
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016231941
(22)【出願日】2016-11-30
(65)【公開番号】P2018087112
(43)【公開日】2018-06-07
【審査請求日】2019-06-04
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】関根 崇
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-155740(JP,A)
【文献】特開2010-105830(JP,A)
【文献】特開2013-203569(JP,A)
【文献】特開2002-274866(JP,A)
【文献】特開2005-298262(JP,A)
【文献】SAVINKOV,V.I.,et al.,J.Non-Cryst.Solids,2010年7月30日,Vol.356,pp.1655-1659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B1/00-17/06
C03B19/00-21/06
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料塊を浮遊させて保持した状態で加熱溶融した後に冷却してガラス塊を得るガ
ラス塊作製工程と、
前記ガラス塊をプレスすることにより、前記ガラス塊の形状を変形させるプレス工程と
を備える、ガラス材の製造方法であって、
前記ガラス塊が希土類酸化物を、モル%で、25%以上含有し、
前記プレス工程が、前記ガラス塊をプレスする第1のプレス工程と、前記第1のプレス
工程においてプレスした方向と略直交する方向に、前記第1のプレス工程後の前記ガラス
塊をプレスする第2のプレス工程とを有し、
前記プレス工程において、前記ガラス塊のガラス転移温度をT℃としたときに、前記ガ
ラス塊をT+5℃以上、T+200℃以下に加熱しながらプレスすることを特徴とする、
ガラス材の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス塊作製工程により得た前記ガラス塊が長径方向を有し、前記プレス工程が、
前記長径方向に前記ガラス塊をプレスする工程を含む、請求項1に記載のガラス材の製造
方法。
【請求項3】
前記プレス工程において、前記ガラス材が最終的に柱状の形状になるように、前記ガラ
ス塊を変形させる、請求項1または2に記載のガラス材の製造方法。
【請求項4】
前記希土類酸化物がTbである、請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス材
の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス塊のガラス転移点が1000℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に
記載のガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材の製造方法、ガラス材及び磁気光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス材の製造方法として、無容器浮遊法に関する研究がなされている。例えば、特許文献1には、ガス浮遊炉で浮遊させたバリウムチタン系強誘電体の試料にレーザービームを照射して加熱溶融した後に、冷却することにより、バリウムチタン系強誘電体の試料をガラス化させる方法が記載されている。このように、無容器浮遊法では、容器の壁面との接触に起因する結晶化の進行を抑制できるため、従来の容器を用いた製造方法ではガラス化させることができなかった材料であってもガラス化し得る場合がある。従って、無容器浮遊法は、新規な組成を有するガラス材を製造し得る方法として注目に値すべき方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-248801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、磁気光学素子等を作製する場合、光軸方向の長さが大きいほど特性の向上を図りやすいため、長手方向を有する形状のガラス材を用いることが好ましい。しかしながら、無容器浮遊法では、ガラス材を浮かせた状態で冷却するため、ガラス材の形状は、球状や略楕円体状になる傾向があり、磁気光学素子等を作製したときに光軸方向を十分に長くすることができない。
【0005】
本発明の目的は、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成のガラス材であっても、光軸方向の長さを大きくすることができる、ガラス材の製造方法を提供することにある。
【0006】
また、本発明の目的は、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成を有し、かつ光軸方向の長さが大きい、ガラス材及び磁気光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス材の製造方法は、ガラス原料塊を浮遊させて保持した状態で加熱溶融した後に冷却してガラス塊を得るガラス塊作製工程と、ガラス塊をプレスすることにより、ガラス塊の形状を変形させるプレス工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明において、ガラス塊作製工程により得たガラス塊が長径方向を有し、プレス工程が、長径方向にガラス塊をプレスする工程を含むことが好ましい。
【0009】
本発明において、プレス工程は、ガラス塊をプレスする第1のプレス工程と、第1のプレス工程においてプレスした方向と略直交する方向に、第1のプレス工程後のガラス塊をプレスする第2のプレス工程とを有することが好ましい。
【0010】
本発明において、プレス工程においてガラス材が最終的に柱状の形状になるように、ガラス塊を変形させることが好ましい。
【0011】
本発明において、ガラス塊が希土類酸化物を、モル%で、25%以上含有することが好ましい。希土類酸化物はTbであることが好ましい。
【0012】
本発明において、プレス工程においてガラス塊を、ガラス塊のガラス転移点以上の温度に加熱しながらプレスすることが好ましい。
【0013】
本発明において、ガラス塊のガラス転移点が1000℃以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るガラス材は、柱状の形状を有し、表面に未研磨面を有し、希土類酸化物を、モル%で、25%以上含有することを特徴としている。
【0015】
希土類酸化物はTbであることが好ましい。
【0016】
長さが3mm以上であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る磁気光学素子は、上記のガラス材を用いてなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成のガラス材であっても、光軸方向の長さを大きくすることができる。
【0019】
また、本発明によれば、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成を有し、かつ光軸方向の長さが大きい、ガラス材及び磁気光学素子とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るガラス材を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法におけるガラス塊作製工程を説明するための正面断面図である。
図3】本発明の実施形態におけるガラス塊作製工程において得られるガラス塊の正面断面図である。
図4】本発明の実施形態におけるガラス塊作製工程において得られるガラス塊の平面図である。
図5】(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第1のプレス工程を説明するための正面断面図である。
図6】(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第1のプレス工程を説明するための平面図である。
図7】(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第2のプレス工程を説明するための正面断面図である。
図8】(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第2のプレス工程を説明するための平面図である。
図9】第2のプレス工程で得られるガラス材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0022】
(ガラス材)
図1は、本発明の実施形態に係るガラス材を示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態に係るガラス材1は、四角柱状の形状を有する。なお、ガラス材1の形状はこれに限定されない。例えば、ガラス材1は、四角柱以外の角柱状や円柱状の形状であってもよい。
【0023】
本実施形態に係るガラス材1は未研磨面1aを有する。未研磨面1aは、プレス工程により成形された面であり、研磨されていない面である。本実施形態では、ガラス材1の長さ方向に延びる4つの側面が未研磨面1aであり、ガラス材1の端面は、研磨された面1bである。4つの側面の内のいずれかを研磨された面1bとしてもよい。それによって、ガラス材1の配置に際し、ガラス材1の側面を区別することができる。なお、ガラス材1を構成する全ての面が未研磨面であってもよい。
【0024】
ガラス材1は、希土類酸化物を、モル%で、25%以上含有することが好ましい。より具体的には、ガラス材1は、Tbを、モル%で、25%以上含有することが好ましい。これにより、ガラス材1のベルデ定数の絶対値を大きくすることができ、大きいファラデー効果を得ることができる。よって、ガラス材1は、例えば、光アイソレータのファラデー素子等に好適に用いることができる。
【0025】
ガラス材1は、本実施形態のように、柱状の形状を有することが好ましい。柱状形状の長さ方向を光軸方向に設定することにより、ファラデー効果を特に大きくすることができる。よって、ファラデー素子等の磁気光学素子に好適に用いることができる。
【0026】
ガラス材1の長さは、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、8mm以上、10mm以上、12mm以上、14mm以上、特に15mm以上であることが好ましい。
【0027】
なお、1100nm以上の波長に使用されるファラデー素子は、Feを含む膜状の素子が一般的に用いられている。しかしながら、1064nm以下の波長においては、Feの吸光度が大きくなる。一方、本実施形態に係るガラス材1は、1064nm以下の波長においてFeの吸光度が小さいため、1064nm以下の短波長用のファラデー素子に、特に好適に用いることができる。
【0028】
ガラス材1は、Tbを、モル%で、30%以上、40%以上、45%以上、49%以上、特に50%以上含有することがより好ましい。それによって、より一層ベルデ定数の絶対値を大きくすることができ、より一層大きいファラデー効果を得ることができる。一方、Tbの含有量が多すぎると、ガラス化が困難になる傾向があるため、Tbの含有量は、モル%で、80%以下、75%以下、特に70%以下であることが好ましい。
【0029】
本実施形態のガラス材1のガラス転移点は、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、850℃以下、840℃以下、830℃以下、特に810℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が高すぎると、プレス温度が高くなり、プレス型材が破損し易くなる。
【0030】
なお、Tbはガラス中で3価や4価の状態で存在するが、本発明ではこれら全てをTbとして表す。
【0031】
Tbについてベルデ定数の起源となる磁気モーメントはTb4+よりもTb3+の方が大きい。よって、ガラス材におけるTb3+の割合が大きいほど、ファラデー効果が大きくなるため好ましい。具体的には、全Tb3+の割合は、モル%で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、特に90%以上であることが好ましい。
【0032】
ガラス材1には、Tb以外にも、以下に示す種々の成分を含有させることができる。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0033】
SiO、B及びPはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、これらの成分はベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られ難くなる。従って、SiO、B及びPの含有量は各々0%~75%、1%~60%、1.5%~50%、特に2%~40%であることが好ましい。また、SiOとBの合計含有量は0%~75%、15%~70%、特に20%~50%であることが好ましい。BとPの合計含有量は0%~75%、15%~70%、特に20%~50%であることが好ましい。SiO、B及びPの合計含有量は0%~75%、15%~70%、特に20%~50%であることが好ましい。
【0034】
Alは中間酸化物としてガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alはベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られ難くなる。従って、Alの含有量は0%~75%、0%~50%、0%~30%、0%~20%、特に0%~10%であることが好ましい。
【0035】
La、Gd、Yb及びYはガラスを安定化する効果があるが、その含有量が多すぎると却ってガラス化し難くなる。よって、La、Gd、Yb及びYの含有量は10%以下、特に5%以下であることが好ましい。
【0036】
Dy、Eu及びCeはガラスを安定化するとともに、ベルデ定数の向上にも寄与する。ただし、その含有量が多すぎると却ってガラス化し難くなる。よって、Dy、Eu及びCeの含有量は各々15%以下、特に10%以下であることが好ましい。なお、ガラス中に存在するDy、Eu、Ceは3価や4価の状態で存在するが、本発明ではこれら全てをそれぞれDy、Eu、Ceとして表す。
【0037】
MgO、CaO、SrO及びBaOはガラスの安定性と化学的耐久性を高める効果がある。ただし、ベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られ難くなる。従って、これらの成分の含有量は各々0%~10%、特に0%~5%であることが好ましい。
【0038】
Gaはガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると失透し易くなる。また、Gaはベルデ定数の向上に寄与しないため、その含有量が多すぎると十分なファラデー効果が得られ難くなる。従って、Gaの含有量は0%~6%、特に0%~5%であることが好ましい。
【0039】
フッ素はガラス形成能を高め、ガラス化範囲を広げる効果を有する。ただし、その含有量が多すぎると溶融中に揮発して組成変動したり、ガラスの安定性に影響を及ぼすおそれがある。従って、フッ素の含有量(F換算)は好ましくは0%~10%、より好ましくは10%~7%、さらに好ましくは0%~5%である。
【0040】
還元剤としてSbを添加することができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境への負荷を考慮して、Sbの含有量は0.1%以下であることが好ましい。
【0041】
ガラス材1の光透過率は、波長633nmにおいて、50%以上、60%以上、特に70%以上であることが好ましい。それによって、上記ファラデー素子に用いる場合等に、光透過損失を小さくすることができる。
【0042】
(ガラス塊作製工程)
図2は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法におけるガラス塊作製工程を説明するための正面断面図である。図3は、ガラス塊作製工程において得られるガラス塊の正面断面図である。図4は、ガラス塊作製工程において得られるガラス塊の平面図である。
【0043】
本実施形態に係るガラス材の製造方法は、無容器浮遊法によりガラス塊を作製するガラス塊作製工程を有する。図2に示すように、ガラス原料塊10は、成形部材2のガス噴出部2aのガス噴出面2bの上方に浮遊した状態で配置されている。ガス噴出部2aには、ガス噴出面2bからガス3を噴出するガス噴出孔4が形成されている。ガス噴出孔4からガス3が噴出することにより、ガラス原料塊10が略垂直方向に浮遊している。ガス噴出孔4から噴出するガス3は、ガスボンベなどのガス供給手段5から供給される。なお、ガラス原料塊10は、ガラス塊を作製するための原料塊(ガラス化していない原料塊)である。ガラス原料塊10は、例えば、原料粉末を調合し、混合して得られた混合粉末をプレス成型等により一体化したものである。混合粉末をプレス成型した後に、焼成やレーザー光照射等の熱処理工程を行うことにより、焼結体からなるガラス原料塊10を得てもよい。また、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶体をガラス原料塊10として用いてもよい。
【0044】
ガス3の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよいし、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素を含有した還元性ガスであってもよい。
【0045】
成形部材2は、例えば、炭化ケイ素、超鋼、ステンレス、ジュラルミン、カーボン等により構成することができる。なお、ガス噴出部2aがこれらの材料から構成され、ガス噴出部2a以外の部分は他の材料から構成されていてもよい。
【0046】
上記のように、ガラス原料塊10を浮遊させた状態で、加熱手段であるレーザー照射装置6からレーザー光をガラス原料塊10に照射することにより加熱溶融してガラス化させ、その後、冷却することにより、ガラス塊を得る。ガラス原料塊10を加熱溶融する工程と、ガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガス3の噴出を継続し、ガラス原料塊10またはガラス塊がガス噴出面2bに接触しないようにすることが好ましい。なお、ガラス原料塊10の加熱方法は、レーザー光を照射する方法に特に限定されない。例えば、ガラス原料塊10を輻射加熱してもよい。
【0047】
上記ガラス塊作製工程により、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成を有するガラス塊を作製することができる。なお、本発明の製造方法により製造されるガラス材の組成は、上記本発明のガラス材の組成に限定されるものではない。すなわち、無容器浮遊法により製造することができるガラス組成であればよく、希土類酸化物を、モル%で、25%以上含有するガラス組成に限定されるものではない。容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成のガラス材としては、例えば、チタン酸バリウム系ガラス材、ランタン-ニオブ複合酸化物系ガラス材、ランタン-ニオブ-アルミニウム複合酸化物系ガラス材、ランタン-ニオブ-タンタル複合酸化物系ガラス材、ランタン-タングステン複合酸化物系ガラス材等が挙げられる。
【0048】
本実施形態では、略回転楕円体状のガラス塊を作製する。より具体的には、図3に示すように、ガラス塊11の断面形状は、短軸Sを有する略楕円形である。ガラス塊11は、この略楕円形を、短軸Sを回転軸として回転させた略回転楕円体状の形状を有する。図3に示すように、本実施形態のガラス塊11は、下半分の体積が上半分よりも大きい形状を有している。これは、無容器浮遊法でガラスを溶解する際に重力の影響で下半分の体積が上半分よりも大きくなるためであると考えられる。
【0049】
図4に示すように、ガラス塊11の平面形状は略円形状であり、長径方向Rを有する。長径方向Rは、回転軸である短軸Sと略直交する方向である。
【0050】
(プレス工程)
次に、ガラス塊11をプレス工程においてプレスする。本実施形態では、プレス工程において、ガラス材が最終的に柱状の形状になるように、ガラス塊11を変形させる。プレス工程は、第1のプレス工程及び第2のプレス工程を有する。
【0051】
図5(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第1のプレス工程を説明するための正面断面図である。図6(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第1のプレス工程を説明するための平面図である。図6(a)及び(b)は、上方から見た平面図である。
【0052】
本実施形態では、図5(b)に示す第1の型材12及び第2の型材15を用いて第1のプレス工程を行う。第1の型材12は、底部13及び壁部14を有する。より具体的には、底部13は、中央部に設けられた突出部13aを有する。壁部14は中央部に設けられた貫通孔14aを有する。突出部13aの平面形状と貫通孔14aの平面形状とは略同一である。底部13の突出部13aが壁部14の貫通孔14a内に嵌め込まれるように、底部13上に壁部14が配置されている。これにより、貫通孔14aの内壁及び突出部13aの上面により囲まれた凹部12aが形成されている。凹部12aは、底部13側とは反対側に開口している開口部12bを有する。
【0053】
図5(a)に示すように、ガラス塊11を第1の型材12の凹部12a内に配置する。このとき、ガラス塊11の長径方向Rが略垂直方向(z方向)となるように、ガラス塊11を凹部12a内に配置する。
【0054】
図6(a)に示すように、ガラス塊11の短軸Sが略水平方向(y方向)となる状態でガラス塊11が凹部12a内で保持されるように、凹部12a内の寸法形状が設定されている。これにより、上記のように、ガラス塊11の長径方向Rが略垂直方向(z方向)となるように、ガラス塊11が凹部12a内で保持される。
【0055】
次に、図5(b)に示すように、第2の型材15を用いてガラス塊11をプレスする。第2の型材15は、中央部に設けられた突出部15aを有する。第2の型材15の突出部15aの平面形状は、貫通孔14aの平面形状と略同一である。第2の型材15の突出部15aを、第1の型材12の凹部12a内に挿入し、第2の型材15を下方に押圧することにより、ガラス塊11の長径方向R(z方向)に、ガラス塊11をプレスする。このとき、ガラス塊11を加熱しながらプレスする。これにより、ガラス塊11を変形させる。
【0056】
図5(b)は、第1のプレス工程後のガラス塊11の断面形状を示している。図6(b)は、第1のプレス工程後のガラス塊11の上方から見た平面形状を示している。図6(b)に示すように、第1のプレス工程後のガラス塊11は、第1のプレス工程前の短軸Sの方向と同じ方向である、方向S1を有している。また、第1のプレス工程後のガラス塊11は、方向S1と略直交する長手方向L1を有している。第1のプレス工程後のガラス塊11は、長手方向L1に沿う長さが長くなっており、また方向S1に沿う長さも長くなっている。
【0057】
図5(b)及び図6(b)に示すように、第1のプレス工程後のガラス塊11は、x方向(長手方向L1)及びy方向(方向S1)に沿った扁平な形状を有している。
【0058】
上記のように、ガラス塊11を長径方向Rにプレスして変形させるため、ガラス塊11の変形量を大きくすることができる。よって、ガラス塊11を効率的に変形させることができる。
【0059】
第1の型材12及び第2の型材15の材質は特に限定されないが、カーボン、タングステンカーバイド、炭化ケイ素、グラッシーカーボン、窒化ケイ素または炭化チタンからなることが好ましい。それによって、第1の型材12及び第2の型材15の耐熱性を高めることができ、かつ高温においても離型性が低下し難い。また、離型性を高めるため、窒化ホウ素、炭化チタン、ダイヤモンドライクカーボン等をコーティングしてもよい。なお、上記第1,第2の型材12,15はプレス用の治具の一例であって、第1のプレス工程において用いられる治具の形状や構造は特に限定されない。
【0060】
ガラス塊11を、ガラス塊11のガラス転移点以上の温度に加熱しながらプレスすることが好ましい。より具体的には、ガラス塊11のガラス転移点をT℃としたときに、T+5℃以上、T+10℃以上、T+15℃以上、T+20℃以上、T+25℃以上、特にT+30℃以上の温度に加熱することが好ましい。それによって、ガラス塊11をより一層容易に変形させることができる。ガラス塊11を加熱する温度が高すぎる場合には、ガラス塊11が失透する、または、プレス型材が破損するおそれがあるため、T+200℃以下、T+150℃以下、特にT+100℃以下の温度に加熱することが好ましい。
【0061】
なお、上述したように、第1の型材12及び第2の型材15は高温においても離型性が低下し難いため、ガラス塊11をガラス転移点より高い温度に加熱した場合であっても、第1のプレス工程後にガラス塊11を好適に脱離することができる。
【0062】
第1のプレス工程は、窒素、アルゴン、ヘリウム等の還元雰囲気下において行うことが好ましい。安価である点から、特に窒素雰囲気下であることが好ましい。それによって、ガラス塊11を加熱しながらプレスしても、ガラス塊11中のTb3+などの酸化されやすい成分が酸化され難くなる。よって、ファラデー効果などの特性の劣化が生じ難い。また、プレス型材が酸化され難いため、破損し難くなる。
【0063】
ガラス塊11をプレスするに際し、荷重が大きいほどガラス塊11を容易に変形させることができる。一方で、荷重が大きすぎると、ガラス塊11、第1の型材12または第2の型材15が破損するおそれがある。従って、ガラス塊11をプレスする際の荷重は、0.01N~20kN、0.2N~10kN、特に0.3N~8kNであることが好ましい。
【0064】
図7(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第2のプレス工程を説明するための正面断面図である。図8(a)及び(b)は、本発明の実施形態に係るガラス材の製造方法における第2のプレス工程を説明するための平面図である。図8(a)及び(b)は、上方から見た平面図である。
【0065】
本実施形態では、図7(b)に示す第3の型材22及び第4の型材25を用いて第2のプレス工程を行う。第3の型材22は、底部23及び壁部24を有する。より具体的には、底部23は、中央部に設けられた突出部23aを有する。壁部24は中央部に設けられた貫通孔24aを有する。突出部23aの平面形状と貫通孔24aの平面形状とは略同一である。底部23の突出部23aが壁部24の貫通孔24a内に嵌め込まれるように、底部23上に壁部24が配置されている。これにより、貫通孔24aの内壁及び突出部23aの上面により囲まれた凹部22aが形成されている。凹部22aは、底部23側とは反対側に開口している開口部22bを有する。
【0066】
図7(a)に示すように、第1のプレス工程後のガラス塊11を第3の型材22の凹部22a内に配置する。このとき、ガラス塊11の方向S1が略垂直方向(z方向)となるように、ガラス塊11を凹部22a内に配置する。
【0067】
図8(a)に示すように、ガラス塊11の長手方向L1が略水平方向(x方向)となる状態でガラス塊11が凹部22a内で保持されるように、凹部22aの寸法形状が設定されている。これにより、上記のように、ガラス塊11の方向S1が略垂直方向(z方向)となるように、ガラス塊11が凹部22a内で保持される。
【0068】
次に、図7(b)に示すように、第4の型材25を用いてガラス塊11をプレスする。第4の型材25は、中央部に設けられた突出部25aを有する。第4の型材25の突出部25aの平面形状は、貫通孔24aの平面形状と略同一である。第4の型材25の突出部25aを、第3の型材22の凹部22a内に挿入し、第4の型材25を下方に押圧することにより、ガラス塊11の方向S1(z方向)に、ガラス塊11をプレスする。従って、ガラス塊11を、第1のプレス工程においてプレスした方向と略直交する方向にプレスする。このとき、ガラス塊11を加熱しながらプレスする。これにより、ガラス塊11を変形させる。
【0069】
第2のプレス工程では、第1のプレス工程後のガラス塊11において、yz平面における長径方向である方向S1にガラス塊11をプレスするため、長手方向L1に沿いガラス塊11がより一層長くなるように、効率的に変形させることができる。
【0070】
第2のプレス工程におけるプレス温度、プレス雰囲気、プレス荷重、及び、プレス型材の材料については、第1のプレス工程と同様である。なお、第3の型材22の突出部23aの上面(ガラス塊11との接触面)は、例えば断面が半円等の凹状であってもよい。同様に第4の型材25の突出部25aの下面(ガラス塊11との接触面)は、例えば、断面が半円等の凹状であってもよい。このようにすれば、プレスにより略円柱状のガラス材を容易に得ることができる。
【0071】
図9は、第2のプレス工程で得られるガラス材を示す斜視図である。図9に示すように、第2のプレス工程後のガラス材21は、四角柱の形状を有している。また、ガラス材21の長さ方向に延びる4つの側面は未研磨面1aであり、ガラス材21の端面11cも未研磨の状態である。端面11cを研磨することにより、図1に示すガラス材1を製造することができる。
【0072】
未研磨面1aは、上述のように、プレス工程で形成される面であるので、未研磨の状態で使用することができる。しかしながら、本発明の製造方法で製造されるガラス材は、未研磨面を有することに限定されるものではない。必要に応じて、全ての面を研磨してもよい。
【0073】
本実施形態の製造方法によれば、無容器浮遊法によるガラス塊作製工程及びプレス工程を有することにより、容器を用いた製造方法ではガラス化し難い組成であっても、柱状等の形状にすることができる。
【0074】
無容器浮遊法を用いることにより、ガラス化し難い組成であるガラス原料塊をガラス化することはできるが、ガラス材のサイズを大きくすることは、一般に困難である。本実施形態では、無容器浮遊法により得られるガラス材における最大の長さより長い部分を有する、柱状等のガラス材を作製することができる。よって、本実施形態により作製したガラス材をファラデー素子等に用いた場合、無容器浮遊法により得られるガラス材と同じ組成であり、同じ質量であっても、より一層大きいファラデー効果等を得ることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…ガラス材
1a…未研磨面
1b…研磨された面
2…成形部材
2a…ガス噴出部
2b…ガス噴出面
3…ガス
4…ガス噴出孔
5…ガス供給手段
6…レーザー照射装置
10…ガラス原料塊
11…ガラス塊
11c…端面
12…第1の型材
12a…凹部
12b…開口部
13…底部
13a…突出部
14…壁部
14a…貫通孔
15…第2の型材
15a…突出部
21…ガラス材
22…第3の型材
22a…凹部
22b…開口部
23…底部
23a…突出部
24…壁部
24a…貫通孔
25…第4の型材
25a…突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9