(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】眼科組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/728 20060101AFI20220713BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220713BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220713BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220713BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220713BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
A61K31/728
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/36
A61P27/02
(21)【出願番号】P 2018094959
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2020-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2018070413
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【氏名又は名称】多田 央子
(72)【発明者】
【氏名】鄭 翔
(72)【発明者】
【氏名】宮野 貴之
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066065(JP,A)
【文献】特開2006-117656(JP,A)
【文献】特開2013-144672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/728
A61K 9/08
A61K 47/02
A61K 47/04
A61K 47/36
A61P 27/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粘度平均分子量50万~220万であるヒアルロン酸及び/又はその塩を点眼剤の全量に対して0.03~
0.35w/v%、並びに(B)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含有する点眼剤。
【請求項2】
さらに、(C)無機塩を含有する、請求項1に記載の点眼剤。
【請求項3】
(C)成分が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、及び四ホウ酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の点眼剤。
【請求項4】
塩化亜鉛を含む組成物が除かれる、請求項1~3の何れかに記載の点眼剤。
【請求項5】
粘度が1.1mPa・s~50mPa・sである、請求項1~4の何れかに記載の点眼剤。
【請求項6】
(A)粘度平均分子量が50万~220万であるヒアルロン酸又はその塩を、点眼剤の全量に対して0.03~
0.35w/v%含む点眼剤に、(B)コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含有させることにより、点眼剤のムチン共存下での粘度の保存による低下を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科組成物、及び眼科組成物の粘度低下抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸又はその塩は、眼科組成物、中でも点眼剤の成分として多用されている。ヒアルロン酸又はその塩は、眼の上皮細胞のフィブロネクチンと結合して上皮細胞の接着や成長を促進し、角膜創傷の治癒を促進する。また、分子内に多数の水分子保持機能があり、涙を保持し安定化させて目の乾燥を防ぐ。このような作用に基づき、ヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物は、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、ドライアイなどの内因性の角結膜上皮障害、術後、薬剤性、外傷、コンタクトレンズ装用などによる外因性の角結膜上皮障害の治療に用いられている。
【0003】
ヒアルロン酸又はその塩は粘度が高いため、ヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物は角結膜上皮との接触時間が長くなり、その薬理作用を十分に発揮することができる。従って、治療効果を維持するためには、眼科組成物の製造、流通、保管などの間に、ヒアルロン酸又はその塩の粘度が低下せず、安定に保たれることが求められる。
しかし、ヒアルロン酸又はその塩は、水溶液中で、光によって分解して分子量が低下し易く、それにより粘度が低下し易い。このため、ヒアルロン酸又はその塩を含有する眼科組成物の保存による粘度低下を抑制することが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ヒアルロン酸又はその塩を含有する眼科組成物であって、保存によるムチン共存下での粘度低下が十分に抑制されたものを提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) ヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物は、ヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量が30万以上の場合に、特に、保存による粘度の低下が著しい。
(ii) 粘度平均分子量が30万以上のヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物の保存による粘度低下の程度は、ムチン存在下で測定した場合と、ムチン非存在下で測定した場合とで異なる。涙液にはムチンが含まれるため、「ムチン存在下」は、この眼科組成物を眼に適用した状態を模したものである。
(iii) 粘度平均分子量が30万以上のヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物を保存した場合の、ムチン存在下で測定した粘度の低下は、この眼科組成物に水溶性高分子化合物を配合することにより抑制される。
【0006】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記の眼科組成物、及び眼科組成物の粘度低下抑制方法を提供する。
項1. (A)粘度平均分子量30万~390万であるヒアルロン酸及び/又はその塩、並びに(B)水溶性高分子化合物を含有する眼科組成物。
項2. (A)成分の濃度が0.001~10w/v%である、項1に記載の眼科組成物。
項3. (B)成分が、コンドロイチン硫酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の眼科組成物。
項4. (B)成分の濃度が0.001~10w/v%である、項1~3のいずれかに記載の眼科組成物。
項5. さらに、(C)無機塩を含有する、項1~4のいずれかに記載の眼科組成物。
項6. (C)成分が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、及び四ホウ酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項5に記載の眼科組成物。
項7. (A)粘度平均分子量が30万~390万であるヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物に、(B)水溶性高分子化合物を含有させることにより、ムチン共存下での眼科組成物の粘度の保存による低下を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
涙液は、外側から、油層、水層、ムチン層の3層構造をとっている。油層は、マイボーム線から分泌される油の層であり、涙液が蒸発するのを防いでいる。水層は、涙腺から分泌される液の層であり、蛋白質などの多様な成分を含み、角膜の乾燥を防ぎ、角膜への栄養補給、感染予防、傷の治癒などの役割を果たす。また、水層には、結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンが水分を保持する形で存在し、眼表面に涙液を均一に分布させることで粘膜バリアとして機能している。ムチン層は、角膜上皮表面に結合した状態で存在する膜結合型ムチンからなる層であり、バリアとしての役割や、上皮表面の水濡れ性を向上させて涙液を眼の表面に安定に留める役割を果たす。
【0008】
ヒアルロン酸又はその塩を含む眼科組成物は、特に、粘度平均分子量が30万以上の場合に、保存により粘度が低下し易い。この眼科組成物の粘度低下の程度を測定するに当たり、保存後に眼科組成物自体の粘度を測定した場合と、保存後にムチン共存下での眼科組成物の粘度を測定した場合とで、粘度低下の程度は大きく異なる。従って、眼に適用した場合を模した、ムチン共存下での眼科組成物の粘度に及ぼす保存の影響を検討することが重要である。また、眼科組成物を眼に適用すると、分泌型ムチンを含む涙液の液層と混合されるため、ムチンの中でも分泌型ムチンの共存下での眼科組成物の粘度に及ぼす保存の影響を検討することが重要である。
本発明の眼科組成物は、粘度平均分子量30万以上のヒアルロン酸又はその塩に加えて、水溶性高分子を含むことにより、ムチン(特に、分泌型ムチン)共存下でのヒアルロン酸又はその塩の粘度の保存による低下が効果的に抑制される。このため、保存後も眼表面において十分な粘度が得られ、眼表面に十分時間滞留することができ、その結果、ヒアルロン酸又はその塩やその他の成分の薬効が十分に奏される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】水溶性高分子化合物の配合による、ヒアルロン酸ナトリウム含有眼科組成物のムチン共存下での粘度低下の抑制率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)眼科組成物
本発明の眼科組成物は、粘度平均分子量30万~390万のヒアルロン酸及び/又はその塩、並びに水溶性高分子化合物を含有する組成物である。
【0011】
ヒアルロン酸・その塩
ヒアルロン酸は、グルクロン酸(GlcUA)とN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合したGlcUA-GlcNAcの繰り返し単位を有するポリマーである。
ヒアルロン酸の塩は、薬学的又は生理学的に許容される塩であればよく、例えば、有機塩基との塩(メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩のような有機アミン塩など)、無機塩基との塩(アンモニウム塩;ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの金属塩など)が挙げられる。これらの塩の中でも、無機塩基との塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩がさらにより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
本発明における眼科組成物がヒアルロン酸塩を含む場合、ヒアルロン酸塩を配合したものであってもよく、或いは、ヒアルロン酸と有機又は無機塩基とを別々に配合した結果、組成物中でヒアルロン酸塩となっているものであってもよい。
ヒアルロン酸及び/又はその塩は、1種、又は2種以上を組み合わせて使用できる。例えば、平均分子量が異なる複数種のヒアルロン酸及び/又はその塩を使用することができる。
【0012】
ヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は30万以上であり、また、40万以上、50万以上、60万以上、70万以上、80万以上、90万以上、100万以上、又は110万以上とすることもできる。このような粘度平均分子量のヒアルロン酸又はその塩は、ムチン共存下で粘度が、保存により顕著に低下する。
また、ヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は390万以下であり、350万以下、300万以下、250万以下、220万以下、200万以下、180万以下、160万以下、140万以下、120万以下、100万以下、80万以下、又は70万以下とすることもできる。このような粘度平均分子量のヒアルロン酸又はその塩は、ムチン共存下で粘度が、保存により顕著に低下する。また、実際に入手できるヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は390万程度以下である。
ヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は、通常、30万~390万であり、40万~300万が好ましく、50万~250万がより好ましく、50万~220万がさらにより好ましい。また、50万~70万、50万~160万、110万~160万、110万~220万、又は180万~220万とすることもできる。
【0013】
本発明において、例えば、「粘度平均分子量30万~390万のヒアルロン酸又はその塩」は、粘度平均分子量の測定値が30万~390万の範囲内にあるヒアルロン酸又はその塩をいう。
【0014】
眼科組成物に配合する前のヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は、第17改正日本薬局方の「精製ヒアルロン酸ナトリウム」の項目に記載の平均分子量の測定方法で測定した値である。また、眼科組成物中のヒアルロン酸又はその塩の粘度平均分子量は、第17改正日本薬局方の「精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液」の項目に記載の平均分子量の測定方法で測定した値である。
【0015】
ヒアルロン酸は、鶏冠から抽出する方法や、ストレプトコッカス属細菌などを用いた発酵法などにより製造することができる。また、天然のヒアルロン酸又はその塩を、酸、アルカリ、又は酵素により分解したものも使用できる。
また、ヒアルロン酸又はその塩は、市販品を購入することもできる。市販品としては、生化学工業株式会社から販売されている「ヒアルロン酸ナトリウム「生化学」」(粘度平均分子量50万~120万)、「化粧用ヒアルロン酸ナトリウム(HC)」(粘度平均分子量53万~133万)、株式会社資生堂から販売されている「バイオヒアルロン酸ナトリウムSZE」(粘度平均分子量110万~160万)、「バイオヒアルロン酸ナトリウムHA9N」(粘度平均分子量80万~177万)、「バイオヒアルロン酸ナトリウムHA12N」(粘度平均分子量110万~160万)、「バイオヒアルロン酸ナトリウムHA20N」(粘度平均分子量190万~270万)、「バイオヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(MP-PE)N」(粘度平均分子量137万~153万)、「バイオヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(PE)N」(粘度平均分子量137万~153万)、キッコーマンバイオケミファ株式会社から販売されている「ヒアルロン酸FCH-60」(粘度平均分子量50万~70万)、「ヒアルロン酸FCH-80」(粘度平均分子量60万~100万)、「ヒアルロン酸FCH-120」(粘度平均分子量100万~140万)、「ヒアルロン酸FCH-150」(粘度平均分子量140万~180万)、「ヒアルロン酸FCH-151C」(粘度平均分子量140万~180万)、「ヒアルロン酸FCH-200」(粘度平均分子量180万~220万)、「ヒアルロン酸FCH-201C」(粘度平均分子量180万~220万)、キューピー株式会社から販売されている「ヒアルロンサンHA-QA」(粘度平均分子量60万~120万)、「ヒアルロンサンHA-AM」(粘度平均分子量60万~120万)、「ヒアルロンサンHA-Q」(粘度平均分子量53万~113万)、「ヒアルロンサンM5070」(粘度平均分子量50万~70万)、「ヒアルロンサンHA-LQ」(粘度平均分子量85万~160万)、「ヒアルロンサンHA-LQH」(粘度平均分子量120万~220万)などを利用できる。
【0016】
眼科組成物中のヒアルロン酸又はその塩の濃度は、組成物の全量に対して、0.001w/v%以上、0.005w/v%以上、0.01w/v%以上、0.02w/v%以上、0.03w/v%以上、0.04w/v%以上、0.05w/v%以上、0.06w/v%以上、0.07w/v%以上、0.08w/v%以上、0.09w/v%以上、又は0.1w/v%以上とすることができる。この範囲であれば、十分にその薬理活性を発揮することができる。また、この範囲であれば、眼球と十分時間接触できる粘度の組成物となる。
また、眼科組成物中のヒアルロン酸又はその塩の濃度は、組成物の全量に対して、10w/v%以下、5w/v%以下、1w/v%以下、0.5w/v%以下、0.45w/v%以下、0.4w/v%以下、0.35w/v%以下、0.3w/v%以下、0.25w/v%以下、0.2w/v%以下、0.19w/v%以下、0.18w/v%以下、0.17w/v%以下、0.16w/v%以下、0.15w/v%以下、0.14w/v%以下、0.13w/v%以下、0.12w/v%以下、0.11w/v%以下、又は0.1w/v%以下とすることができる。この範囲であれば、十分にその薬理活性を発揮することができると共に、眼科組成物の使用感を損なわない。
眼科組成物中のヒアルロン酸又はその塩の濃度は、組成物の全量に対して、通常、0.001~10w/v%とすることができ、0.005~5w/v%が好ましく、0.01~1w/v%がより好ましく、0.03~0.5w/v%がさらに好ましく、0.05~0.3w/v%がさらに好ましく、0.1w/v%が最も好ましい。
【0017】
眼科組成物中のヒアルロン酸又はその塩の濃度は、第17改正日本薬局方の「精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液」の項目に記載の定量法で測定した値である。
【0018】
水溶性高分子化合物
水溶性高分子化合物としては、硫酸化されたアミノ糖を含む多糖類、セルロース系化合物、及びビニル系ポリマーが挙げられる。
硫酸化されたアミノ糖を含む多糖類としては、コンドロイチン硫酸又はその塩、デルマタン硫酸又はその塩、ケラタン硫酸又はその塩、ヘパラン硫酸又はその塩、ヘパリンなどが挙げられる。
硫酸化されたアミノ糖を含む多糖類の塩は、薬学的又は生理学的に許容される塩であればよく、例えば、有機塩基との塩(メチルアミン塩、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、モルホリン塩、ピペラジン塩、ピロリジン塩、トリピリジン塩、ピコリン塩のような有機アミン塩など)、無機塩基との塩(アンモニウム塩;ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、アルミニウム塩などの金属塩など)が挙げられる。これらの塩の中でも、無機塩基との塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩がさらにより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0019】
セルロース系化合物としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウムなどが挙げられる。
【0020】
ビニル系ポリマーとしては、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物を含む)、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーなどが挙げられる。
【0021】
水溶性高分子化合物としては、この他、ポリエチレングリコール、デキストラン、アルギン酸、グアーガム、アラビアゴム、カラヤガム、キサンタンガム、寒天、デンプン、キチン及びその誘導体、キトサン及びその誘導体、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ペクチン、エラスチン、マクロゴール、ポリエチレンイミンアルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、アルギン酸エステル(例えば、アルギン酸プロピレングリコールエステル)、トラガント末なども挙げられる。これらの成分は、上記例示した以外にも、塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩)であってもよい。
【0022】
中でも、硫酸化されたアミノ糖を含む多糖類又はその塩、セルロース系化合物が好ましく、コンドロイチン硫酸又はその塩(特にナトリウム塩)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースがより好ましい。また、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物を含む)、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマーも好ましい。
水溶性高分子化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
水溶性高分子化合物は市販品を使用できる。
【0023】
眼科組成物中の水溶性高分子化合物の濃度は、組成物の全量に対して、0.001w/v%以上、0.005w/v%以上、0.01w/v%以上、0.05w/v%以上、0.06w/v%以上、0.07w/v%以上、0.08w/v%以上、0.09w/v%以上、0.1w/v%以上、0.2w/v%以上、0.3w/v%以上、又は0.4w/v%以上とすることができる。この範囲であれば、眼科組成物を保存することによる、ムチン共存下で測定した粘度の低下を十分に抑制できる。
また、眼科組成物中の水溶性高分子化合物の濃度は、組成物の全量に対して、10w/v%以下、8w/v%以下、5w/v%以下、4w/v%以下、3w/v%以下、2w/v%以下、1w/v%以下、0.5w/v%以下、又は0.3w/v%以下とすることができる。この範囲であれば、眼科組成物を保存することによる、ムチン共存下で測定した粘度の低下を十分に抑制できると共に、使用感に優れた眼科組成物となる。
眼科組成物中の水溶性高分子化合物の濃度は、組成物の全量に対して、通常、0.001~10w/v%とすることができ、0.01~5w/v%が好ましく、0.05~4w/v%がより好ましく、0.1~3w/v%がさらに好ましく、0.1~1w/v%がさらにより好ましい。また、0.01~0.5w/v%、0.05~0.3w/v%も好ましく挙げられる。
【0024】
充血除去剤
本発明における眼科組成物は、充血除去剤(血管収縮剤)を含むことができる。充血除去剤としては、エピネフリン又はその塩(例えば、塩酸エピネフリン、酒石酸水素エピネフリン)、エフェドリン又はその塩(例えば、塩酸エフェドリン)、メチルエフェドリン又はその塩(例えば、塩酸メチルエフェドリン、特に、dl-塩酸メチルエフェドリン)、テトラヒドロゾリン又はその塩(例えば、塩酸テトラヒドロゾリン)、ナファゾリン又はその塩(例えば、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン)、フェニレフリン又はその塩(例えば、塩酸フェニレフリン)、オキシメタゾリン又はその塩(例えば、塩酸オキシメタゾリン)などが挙げられる。
充血除去剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
眼筋調節剤
本発明における眼科組成物は、眼筋調節剤を含むことができる。眼筋調節剤としては、それには限定されないが、ネオスチグミン又はその塩(特に、メチル硫酸ネオスチグミン)、フィゾスチグミン又はその塩(例えばサリチル酸フィゾスチグミン、硫酸フィゾスチグミン)、ジスチグミン又はその塩(例えば、臭化ジスチグミン)、トロピカミド、アトロピン又はその塩(特に、ヘレニエン硫酸アトロピン)、ピロカルピン又はその塩(例えば、塩酸ピロカルピン)などが挙げられる。
眼筋調節剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
抗炎症剤
本発明の眼科組成物は、抗炎症剤を含むことができる。抗炎症剤としては、イプシロン-アミノカプロン酸、プラノプロフェン、アラントイン、ベルベリン又はその塩(例えば、塩化ベルべリン、硫酸ベルべリン)、アズレンスルホン酸又はその塩(例えば、アズレンスルホン酸ナトリウム、アズレンスルホン酸カリウム、アズレンスルホン酸カルシウム、アズレンスルホン酸マグネシウム)、グリチルリチン酸又はその塩(例えば、グリチルリチン酸二カリウム、グリチリチン酸モノアンモニウム)、亜鉛塩(例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛)、リゾチーム又はその塩(例えば、塩化リゾチーム)、インドメタシン、銀塩(例えば、硝酸銀)、ジクロフェナク酸又はその塩(例えば、ジクロフェナクナトリウム)、ブロムフェナク酸又はその塩(例えば、ブロムフェナクナトリウム)などが挙げられる。
抗炎症剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0027】
抗ヒスタミン剤
本発明の眼科組成物は、抗ヒスタミン剤を含むことができる。抗ヒスタミン剤としては、ジフェンヒドラミン又はその塩(例えば、塩酸ジフェンヒドラミン)、クロルフェニラミン又はその塩(例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸クロルフェニラミン)、ケトチフェン又はその塩(例えば、フマル酸ケトチフェン)、オロパタジン又はその塩(例えば、塩酸オロパタジン)などが挙げられる。
抗ヒスタミン剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
ビタミン類
本発明における眼科組成物は、ビタミン類を含むことができる。ビタミン類としては、フラビンアデニンジヌクレオチド又はその塩(例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム)、コバラミン又はその塩(例えば、シアノコバラミン、メチルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、アデノシルコバラミン)、レチノール又はその塩(例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール)、ピリドキシン又はその塩(例えば、塩酸ピリドキシン)、パンテノール、パントテン酸又はその塩(例えば、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カリウム、パントテン酸カルシウム、パントテン酸マグネシウム)、トコフェロール又はその塩(例えば、酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール)、ピリドキサール又はその塩(例えば、リン酸ピリドキサール)、アスコルビン酸又はその塩(例えばアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム)などが挙げられる。
ビタミン類は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
アミノ酸類
本発明における眼科組成物は、コンドロイチン硫酸又はその塩以外のアミノ酸類を含むことができる。コンドロイチン硫酸又はその塩以外のアミノ酸類としては、L-アスパラギン酸又はその塩(例えば、L-アスパラギン酸カリウム、L-アスパラギン酸ナトリウム、L-アスパラギン酸マグネシウム、L-アスパラギン酸カルシウム、L-アスパラギン酸マグネシウム・カリウム(L-アスパラギン酸マグネシウムとL-アスパラギン酸カリウムとの等量混合物))、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸又はその塩(例えば、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸マグネシウム)、クレアチニン、グリシン、アラニン、アルギニン、リジン、γ-アミノ酪酸、γ-アミノ吉草酸などが挙げられる。
なお、アミノエチルスルホン酸は、含硫アミノ酸から合成されるアミノ酸に類似の化合物であり、眼科組成物の分野、特に一般用医薬品としての眼科組成物の分野では、アミノ酸類に含められている。また、コンドロイチン硫酸ナトリウムも、眼科組成物の分野、特に一般用医薬品としての眼科組成物の分野では、アミノ酸類に含められている。
コンドロイチン硫酸又はその塩以外のアミノ酸類は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
抗菌成分
本発明における眼科組成物は、抗菌成分を含むことができる。抗菌成分としては、スルファメトキサゾール又はその塩(例えば、スルファメトキサゾールナトリウム、スルファメトキサゾールカリウム、スルファメトキサゾールカルシウム、スルファメトキサゾールマグネシウム)、スルフィソキサゾール、スルフィソミジン又はその塩(例えば、スルフィソミジンナトリウム、スルフィソミジンカリウム、スルフィソミジンカルシウム、スルフィソミジンマグネシウム)のようなサルファ系抗菌剤、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロラムフェニコール、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、及びアシクロビルなどが挙げられる。
抗菌成分は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
抗アレルギー薬
本発明における眼科組成物は、抗アレルギー薬を含むことができる。抗アレルギー薬としては、クロモグリク酸又はその塩(例えば、クロモグリク酸ナトリウム、クロモグリク酸カリウム、クロモグリク酸カルシウム、クロモグリク酸マグネシウム)、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、トラニラスト、ペミロラストカリウムなどが挙げられる。
抗アレルギー薬は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
抗酸化剤
本発明の眼科組成物は、抗酸化剤を含有することができる。
脂溶性の抗酸化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)のようなブチル基含有フェノール;ノルジヒドログアヤレチック酸(NDGA);アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、アスコルビン酸リン酸アミノプロピル、アスコルビン酸リン酸トコフェロール、アスコルビン酸トリリン酸、アスコルビン酸リン酸パルミテートのようなアスコルビン酸エステル;α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールのようなトコフェロール;酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールのようなトコフェロール誘導体;没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシルのような没食子酸エステル;プロピルガラート; 3-ブチル-4-ヒドロキシキノリン-2オン;ルテイン、アスタキサンチンのようなカロテノイド類;アントシアニン類、カテキン、タンニン、クルクミンなどのポリフェノール類;レチノール、レチノールエステル(酢酸レチノール、プロピオン酸レチノール、酪酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、ステアリン酸レチノール、ミリスチン酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、リノール酸レチノール、パルミチン酸レチノールなど)、レチナール、レチナールエステル(酢酸レチナール、プロピオン酸レチナール、パルミチン酸レチナールなど)、レチノイン酸、レチノイン酸エステル(レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、レチノイン酸トコフェロールなど)、レチノールデヒドロ体、レチナールデヒドロ体、レチノイン酸デヒドロ体、プロビタミンA(α-カロチン、β-カロチン、γ-カロチン、δ-カロチン、リコピン、ゼアキサンチン、β-クリプトキサンチン、エキネノンなど)、ビタミンAなどのビタミンA類;CoQ10などが挙げられる。
また、水溶性の抗酸化剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸-2-硫酸2ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、アスコルビン酸-2-リン酸ナトリウムなど)、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸又はその塩(エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム)などが挙げられる。
抗酸化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
局所麻酔剤又は無痛化剤
本発明における眼科組成物は、局所麻酔剤又は無痛化剤を含有することができる。局所麻酔剤又は無痛化剤としては、クロロブタノール、塩酸オキシブプロカイン、塩酸コカイン、塩酸コルネカイン、塩酸ジブカイン、塩酸テトラカイン、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、塩酸ピペロカイン、塩酸プロカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸ヘキソチオカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
局所麻酔剤又は無痛化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
本発明における眼科組成物は、この他にも、任意の薬理活性又は生理活性成分を含むことができる。
【0035】
本発明における眼科組成物の成分のうち、d体、l体、又はdl体が存在する成分は、d体、l体、又はdl体の何れも使用できる。また、水和物を有する成分は、水和物も使用できる。
【0036】
製剤
本発明における眼科組成物の性状は特に限定されず、例えば、液体状、流動状などの性状とすることができる。また、用時調製により、液体状、流動状などになったものも含まれる。
【0037】
また、眼科組成物は、水性組成物(基剤又は担体として水性ないしは親水性のものを主に含む)であってもよく、油性組成物(基剤又は担体として油性ないしは疎水性のものを主に含む)であっても良いが、ヒアルロン酸及び/又はその塩を安定に溶解させる上で、水性組成物であることが好ましい。
水性組成物の場合の水の含有量は、製剤の全量に対して、50w/v%以上が好ましく、75w/v%以上がより好ましく、90w/v%以上がさらにより好ましい。また、95w/v%以上、又は98w/v%以上であってもよい。また、基剤又は担体が水のみからなっていてもよい。
【0038】
本発明における眼科組成物の剤型は特に限定されず、例えば、点眼剤(点眼液又は点眼薬ともいう。また、点眼剤は、コンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む。また、人工涙液も含む。)、洗眼剤、コンタクトレンズ装着液などが挙げられる。点眼剤、洗眼剤には、コンタクトレンズ装着時に使用するものも含まれる。中でも、点眼剤又はコンタクトレンズ装着液が好ましく、点眼剤がより好ましい。
【0039】
本発明において、「コンタクトレンズ」は、ハードコンタクトレンズ(O2レンズを包含する)、ソフトコンタクトレンズ(イオン性及び非イオン性の双方を包含し、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ及び非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの双方を包含する)を含む。
【0040】
本発明における眼科組成物は、粘度平均分子量が30万~390万のヒアルロン酸及び/又はその塩と水溶性高分子化合物を含む成分を、薬学的に許容される基剤又は担体、必要に応じて、眼科組成物の薬学的に許容される添加剤やその他の有効成分と混合することにより、慣用の方法で調製できる。
【0041】
基剤又は担体
基剤又は担体として、例えば、水;エタノールのような極性溶媒;油性基剤などが挙げられる。基剤又は担体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
本発明における眼科組成物には、眼科組成物の添加剤として使用されるものを、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。添加剤としては、清涼化剤、無機塩類、粘稠化剤、防腐剤、界面活性剤、緩衝剤、pH調節剤、等張化剤、安定化剤、油分、糖類、多価アルコールなどを例示できる。
添加剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、各添加剤について、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
添加剤の具体例を以下に例示する。
【0043】
清涼化剤
清涼化剤としては、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウのようなテルペノイドなどが挙げられる。これらは、d体、l体、又はdl体の何れでもよい。また、ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油などの精油も挙げられる。
【0044】
無機塩類
無機塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化亜鉛、塩化カルシウム、塩化マグネシウムのような塩化物塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム(乾燥炭酸ナトリウムを含む)、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムのような炭酸塩;リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウムのようなリン酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛のような硫酸塩;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムのような亜硫酸塩;チオ硫酸ナトリウムのようなチオ硫酸塩;四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウムのようなホウ酸塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウムのような酢酸塩などが挙げられる。
中でも、塩化物塩、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩が好ましく、塩化物塩がより好ましく、塩化ナトリウムがさらにより好ましい。
【0045】
眼科組成物中の無機塩類の濃度は、0.00001w/v%以上が好ましく、0.0001w/v%以上がより好ましく、0.001w/v%以上がさらにより好ましい。また、3w/v%以下が好ましく、2w/v%以下がより好ましく、1.5w/v%以下がさらにより好ましい。この範囲であれば、眼科組成物の浸透圧が適切になると共に、眼科組成物の粘度低下が抑制される。
眼科組成物中の無機塩類の濃度は、0.00001~3w/v%が好ましく、0.0001~2w/v%がより好ましく、0.001~1.5w/v%がさらにより好ましい。
【0046】
粘稠化剤
本発明の眼科組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性高分子化合物以外の粘稠化剤を含むことができる。このような粘稠化剤として、α-シクロデキストリン、デキストリン、ブドウ糖、ソルビトール、流動パラフィン、グリセリンなどが挙げられる。
【0047】
防腐剤
防腐剤としては、アルキルポリアミノエチルグリシン、ホウ酸、アルキルジアミノエチルグリシン及び/又はその塩(例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン)、安息香酸及び/又はその塩(例えば、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム)、エタノール、第4級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム)、クロルヘキシジン及び/又はその塩(例えば、グルコン酸クロルヘキシジン)、クロロブタノール、ソルビン酸及び/又はその塩(例えば、ソルビン酸カリウム)、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル)、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ポリヘキサメチレンビグアニドのようなビグアミド類、グローキル(商品名、ローディア社)、塩化ポリドロニウムなどが挙げられる。
【0048】
界面活性剤
界面活性剤の中で好ましいのは、非イオン界面活性剤である。
非イオン界面活性剤としては、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE硬化ヒマシ油40、POE硬化ヒマシ油50、POE硬化ヒマシ油60、POE硬化ヒマシ油80等のPOE硬化ヒマシ油;POEヒマシ油3、POEヒマシ油4、POEヒマシ油6、POEヒマシ油7、POEヒマシ油10、POEヒマシ油13.5、POEヒマシ油17、POEヒマシ油20、POEヒマシ油25、POEヒマシ油30、POEヒマシ油35、POEヒマシ油50等のPOEヒマシ油;モノステアリン酸ポリエチレングリコール(2E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(4E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(9E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(10E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(23E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(25E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(32E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40E.O.、ステアリン酸ポリオキシル40)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(45E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(55E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(75E.O.)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール(140E.O.)等のモノステアリン酸ポリエチレングリコール;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記例示した化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0049】
その他にも、グリシン型両性界面活性剤(例えば、アルキルジアミノエチルグリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン)、及びベタイン型両性界面活性剤(例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタイン)のような両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム)のような陽イオン界面活性剤なども使用できる。
【0050】
緩衝剤
本発明の眼科組成物は、緩衝剤を含有することができる。
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸緩衝剤、アスパラギン酸緩衝剤等が挙げられる。ホウ酸緩衝剤の成分としては、ホウ酸、ホウ酸塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)などが挙げられる。ホウ酸塩は水和物であっても良い。リン酸緩衝剤の成分としては、リン酸、リン酸塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなど)などが挙げられる。リン酸塩は水和物であっても良い。炭酸緩衝剤の成分としては、炭酸、炭酸塩(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸マグネシウムなど)などが挙げられる。クエン酸緩衝剤の成分としては、クエン酸、クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなど)などが挙げられる。酢酸緩衝剤の成分としては、酢酸、酢酸塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウムなど)などが挙げられる。アスパラギン酸緩衝剤の成分としては、アスパラギン酸、アスパラギン酸の塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウムなど)などが挙げられる。
中でも、本発明の効果が一層良好になる点で、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤が好ましく、ホウ酸緩衝剤がより好ましい。
【0051】
pH調節剤
pH調節剤としては、塩酸、硫酸、ポリリン酸、有機酸(プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸など)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどが挙げられる。
【0052】
等張化剤
等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールなどが挙げられる。等張化剤の中には、無機塩類として配合されるものもある。
【0053】
安定化剤
安定化剤としては、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、及びモノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。
【0054】
油分
油分としては、スクワランのような動物油、流動パラフィン、ワセリンのような鉱物油、ヒマシ油、ゴマ油のような植物油などが挙げられる。
【0055】
糖類
糖類としては、単糖類、二糖類、具体的にはグルコース、マルトース、トレハロース、スクロース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどが挙げられる。糖類の中には、粘稠化剤として配合されるものもある。
【0056】
多価アルコール
多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、キシリトール、ジエチレングリコール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。多価アルコールの中には、粘稠化剤として配合されるものもある。
【0057】
粘度
本発明の眼科組成物の粘度は、1.1mPa・s以上が好ましく、2mPa・s以上がより好ましく、3mPa・s以上がさらにより好ましい。また、100mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、20mPa・s以下がさらにより好ましい。この範囲であれば、眼球やコンタクトレンズとの接触時間が十分に長くなり、眼科組成物の効能を発揮することができる。
【0058】
本発明の眼科組成物の粘度は、第17改正日本薬局方に記載の一般試験法の、「粘度測定法」の中の「第2法回転粘度計法」の「単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)」の項目に記載の方法で、B型回転粘度計(RB-80L;東機産業社)を用いて25℃で測定した値である。使用するローターや回転数などの条件は、本機の取扱説明書に従い選定する。本発明の眼科組成物の粘度は、具体的には実施例の項目に記載の方法で測定した値である。
【0059】
pH
本発明の眼科組成物のpHは、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらにより好ましく、5.5以上がさらにより好ましい。また、6以上とすることもできる。また、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8.5以下がさらにより好ましく、8以下がさらにより好ましい。上記範囲であれば、眼への刺激が抑えられると共に、本願発明の上記効果が得られる。
【0060】
浸透圧
本発明の眼科組成物の浸透圧比は、0.4以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.85以上がさらにより好ましい。また、5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらにより好ましく、1.55以下がさらにより好ましい。上記範囲であれば、眼への刺激が抑えられると共に、本願発明の上記効果が得られる。 浸透圧比は、第17改正日本薬局方に基づき、286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とする。浸透圧は第17改正日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)に従い測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0061】
用途
本発明における眼科組成物を点眼剤又は洗眼剤として用いる場合、眼の疲れ、結膜充血、紫外線その他の光線による眼炎(雪目など)、眼瞼炎(まぶたのたたれ)、ハードコンタクトレンズ又はソフトコンタクトレンズを装着しているときの不快感、目のかゆみ、目のかすみ(目やにの多いときなど)などの予防、改善、又は治療のために用いることができる。また、眼病予防(水泳のあと、ほこりや汗が目に入ったときなど)、涙液の補助(目のかわき)のために用いることもできる。また、目の洗浄のために用いることもできる。
【0062】
使用方法
本発明における眼科組成物が点眼剤又は洗眼剤である場合、その用法は、対象とする症状によって異なるが、例えば、1日1回以上、2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、又は6回以上とすることができる。また、1日9回以下、8回以下、7回以下、6回以下、5回以下、又は4回以下とすることができる。
【0063】
また、症状が現れると同時又はその後に使用開始してもよいが、症状が現れる1日以上前、特に3日以上前、中でも7日以上前から使用開始しても良い。また、症状が現れる10日以上前から使用開始することもできる。また、症状が現れる前30日以内、特に20日以内、中でも14日以内から使用開始してもよい。症状が現れる前から使用することにより、症状を効果的に予防できる。
【0064】
本発明における眼科組成物が点眼剤である場合、上記濃度で各成分を含む点眼剤を、例えば、1回当たり、1~3滴点眼すればよく、好ましくは1~2滴点眼すればよい。1滴とすることもできる。点眼剤の1滴の容量は、通常、5~100μl程度であり、10~80μl程度が好ましく、20~60μl程度がより好ましく、30~50μl程度がさらに好ましい。
本発明における眼科組成物が洗眼剤である場合、上記濃度で各成分を含む洗眼剤を、例えば、1回当たり、1~30mL用いて洗眼すればよく、好ましくは1~20mL、さらに好ましくは4~6mL用いて洗眼すればよい。
【0065】
本発明における眼科組成物がコンタクトレンズ装着液である場合は、コンタクトレンズの装着時、脱着時に、例えば、1回当たり、1~3滴、好ましくは1~2滴を、コンタクトレンズの片面及び/又は両面に滴下して濡らした後に装用すればよく、好ましくはコンタクトレンズの両面を濡らした後に装用することが好ましい。
【0066】
容器
本発明の眼科組成物は、通常、眼科容器に収容ないしは充填される。容器の材質は特に限定されず、例えば、プラスチック製容器、金属製容器、ガラス製容器などが挙げられる。具体的には、例えば、ポリオレフィン、アクリル酸樹脂、テレフタル酸エステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸エステル、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリイミド、セルロースアセテートのようなプラスチック、アルミニウムのような金属、ガラスなどが挙げられる。容器は、1種の材料で構成されていてもよく、2種以上の材料で構成されていてもよい。プラスチックの場合は、混合物や共重合体であってもよい。
中でも、プラスチック製容器が好ましく、ポリオレフィン製容器、テレフタル酸エステル製容器がより好ましい。
注出口又はノズルを有する容器では、注出口又はノズルを含む全部分が上記材料で成型されていてもよく、注出口又はノズル以外の本体部分だけが上記材料で成型されていてもよい。
【0067】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどを含む)、ポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンなどを含む)、及びエチレン・プロピレンコポリマーなどが挙げられる。
アクリル酸樹脂としては、アクリル酸メチルのようなアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシルのようなメタクリル酸エステルなどが挙げられる。
テレフタル酸エステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。
2,6-ナフタレンジカルボン酸エステルとしては、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられる。
フッ素樹脂としては、フッ素置換ポリエチレン(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンなど)、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレンコポリマー、エチレン・四フッ化エチレンコポリマー、エチレン・クロロトリフルオロエチレンコポリマーなどが挙げられる。
ポリアミドとしては、ナイロンなどが挙げられる。
ポリアセタールとしては、オキシメチレン単位のみからなるものの他、一部にオキシエチレン単位を含むものが挙げられる。
変性ポリフェニレンエーテルとしては、ポリスチレン変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
ポリアリレートとしては、非晶質ポリアリレートなどが挙げられる。
ポリイミドとしては、芳香族ポリイミド、例えばピロメリット酸二無水物と4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを重合させたものが挙げられる。
セルロースアセテートとしては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどが挙げられる。
【0068】
また、眼科組成物の容器は、マルチユニット型容器でも良く、或いは、1回使い切りのユニットドーズ型容器でもよい。
【0069】
(2)眼科組成物の粘度低下抑制方法
本発明は、ヒアルロン酸及び/又はその塩を含む眼科組成物に水溶性高分子化合物を含有させることにより、この眼科組成物のムチン(好ましくは、分泌型ムチン)存在下での粘度の低下を抑制する方法を包含する。実施例に記載の方法で測定した、ムチンと混合した場合の眼科組成物の粘度の保存による低下が少しでも抑制されていれば、本発明の範囲に含まれる。
眼科組成物とそれに含まれる成分、及び粘度測定方法などについては、本発明の眼科組成物について説明した通りである。
【実施例】
【0070】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
試験例1(ヒアルロン酸又はその塩のムチン存在下での粘度の保存による低下)
表1に示す組成の参考例1~4の眼科組成物を常法に従って調製した。各眼科組成物を60℃で3週間保存し、保存前及び保存後の眼科組成物について、それ自体の粘度、及びムチンを混合した場合の粘度を測定した。
ムチンは、コア蛋白質に、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、フコース、シアル酸などで構成される多様な糖鎖が結合した糖蛋白質の混合物である。前述した通り、ムチンには、上皮細胞などが産生する分泌型ムチンと、疎水性の膜貫通部位を有し細胞膜に結合した状態で存在する膜結合型ムチンがある。涙液の液層中は膜結合型ムチンを含むため、眼に適用した眼科組成物は膜結合型ムチンと混合される。従って、ここでは、分泌型ムチンの1種であるブタ胃由来ムチンを用いた。
【0071】
試験は、Pharmaceutical Research,491-495,Vol.7、No.5、1990に記載された方法により行った。
具体的に説明すると、60℃で3週間保存する前及び保存した後の各眼科組成物について、粘度を測定した。また、ブタ胃由来ムチン(M1778-10G、SIGMA社)を水に溶解し、4w/v%ムチン溶液を調製した後、60℃で3週間保存する前及び保存した後の各眼科組成物2mLと4w/v%ムチン溶液6mLとの混合液について、粘度を測定した。
【0072】
<粘度測定条件>
試験に用いた眼科組成物の粘度は、第17改正日本薬局方に記載の一般試験法の、「粘度測定法」の中の「第2法回転粘度計法」の「単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールド型粘度計)」の項目に記載の方法で、粘度計としてB型回転粘度計(RB-80L;東機産業社)を使用して測定した。
粘度の測定条件は、以下の通りである。
測定温度:20℃
測定値:3回測定の平均値
回転数:
粘度6mPa・s未満の場合:回転数100rpm
粘度6mPa・s以上12mPa・s未満の場合:回転数50rpm
粘度12mPa・s以上30mPa・s未満の場合:回転数20rpm
粘度30mPa・s以上60mPa・s未満の場合:回転数10rpm
粘度60mPa・s以上120mPa・s未満の場合:回転数5rpm
粘度120mPa・s以上240mPa・s未満の場合:回転数2.5rpm
粘度240mPa・s以上600mPa・s未満の場合:回転数1.0rpm
ローターNo.:上記全ての粘度でローターNo.01
【0073】
単一円筒形回転粘度計は、液体中の円筒を一定角速度で回転させたときのトルクを測定する粘度計である。予め、粘度計校正標準液を用いて実験的に装置定数KBを定めることにより、液体の粘度ηを次式によって算出する。
η=KB × T/ω
η:液体の粘度(mPa・s)
KB:装置定数(rad/cm3)
ω:角速度(rad/s)
T:円筒面に作用するトルク(10-7N・m)
【0074】
以下の式に基づき、眼科組成物の粘度の保存による低下率を求めた。
粘度の保存による低下率(%)
=[1-(保存後の粘度/保存前の粘度)]×100
結果を表1に併記する。
【0075】
【0076】
表1に示すとおり、何れのヒアルロン酸ナトリウムを用いた場合も、保存により、ムチン存在下で測定した粘度、及びムチン非存在下で測定した粘度は低下した。しかし、ムチン存在下及びムチン非存在下の何れの粘度についても、粘度平均分子量が5万~11万のヒアルロン酸ナトリウムを用いた参考例4の眼科組成物に比べて、粘度平均分子量が50万~70万、110万~160万、及び180万~220万のヒアルロン酸ナトリウムをそれぞれ用いた参考例1、2、及び3の眼科組成物は、保存による粘度低下率が格段に大きかった。従って、粘度平均分子量が30万~390万のヒアルロン酸又はその塩は、保存により顕著に粘度が低下することが分かる。
また、粘度を、ムチン存在下で測定した場合と、ムチン非存在下で測定した場合(即ち、眼科組成物自体の粘度を測定した場合)とで、粘度低下率は異なっていた。眼科組成物を眼に適用した場合の粘度を把握するためには、ムチン存在下での粘度を測定する必要があることが分かる。
【0077】
試験例2(水溶性高分子の配合による影響)
粘度平均分子量50万~70万、110万~160万、及び180万~220万の各ヒアルロン酸ナトリウムについて、ムチン共存下での粘度の保存による低下を水溶性高分子化合物が抑制するか否かを試験した。
表2に示す組成の眼科組成物を常法に従って調製し、60℃で3週間保存した。試験例1と同様の方法で、保存前及び保存後の各眼科組成物について、ムチン共存下での粘度を測定し、ムチン共存下での粘度の保存による低下率を求めた。
さらに、以下の式により、水溶性高分子化合物の添加によるムチン共存下での粘度の低下の抑制率を求めた。結果を表2及び
図1に示す。
保存による粘度の低下の水溶性高分子化合物による抑制率(%)
=[1-(水溶性高分子化合物を添加した場合の粘度低下率/水溶性高分子化合物を添加しない場合の粘度低下率)]×100
【0078】
【0079】
表2及び
図1に示すとおり、粘度平均分子量が50万~70万、110万~160万、及び180万~220万の各ヒアルロン酸ナトリウムに、コンドロイチン硫酸ナトリウム又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを添加することにより、ムチン共存下での粘度の保存による低下が抑制された。
ムチン共存下での粘度低下の水溶性高分子化合物による抑制率は、粘度平均分子量50万~70万のヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物では約11%以上であり、粘度平均分子量110万~160万のヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物では約13%以上であり、粘度平均分子量が180万~220万のヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物では約10%以上であった。
特に、粘度平均分子量110万~160万のヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物にコンドロイチン硫酸ナトリウム0.5w/v%を添加した実施例2では、ムチン共存下での粘度は保存しても全く低下せず、粘度低下がコンドロイチン硫酸ナトリウムにより完全に抑制された。また、粘度平均分子量110万~160万のヒアルロン酸ナトリウムを含む組成物にコンドロイチン硫酸ナトリウム3.0w/v%を添加した実施例3も、ムチン共存下での粘度の保存による低下が著しく抑制され、ムチン共存下での粘度低下のコンドロイチン硫酸ナトリウムによる抑制率は40%以上であった。
上記結果から、粘度平均分子量が30万~390万のヒアルロン酸ナトリウムに水溶性高分子化合物を添加することにより、ヒアルロン酸ナトリウムのムチン共存下での粘度の保存による低下が効果的に抑制されることが分かる。
【0080】
本発明の眼科組成物の製剤例を、表3~30に示す。表3~30中の成分濃度は「w/v%」である。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の眼科組成物は、保存しても、眼に適用したときの粘度が低下し難く、眼との接触時間が十分になるため、ヒアルロン酸又はその塩やその他の成分の薬効が十分に発揮される。即ち、製造、流通、保管による薬効低下が抑制されており、商品価値が高いものである。