(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20220713BHJP
B60R 21/231 20110101ALI20220713BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20220713BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/231
B60R21/2338
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2018119022
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 浩
(72)【発明者】
【氏名】横田 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】岡田 典久
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸一
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-222072(JP,A)
【文献】特開2008-081002(JP,A)
【文献】特開2007-230395(JP,A)
【文献】仏国特許発明第02133239(FR,A5)
【文献】特開2010-083240(JP,A)
【文献】特開2007-261514(JP,A)
【文献】特開2017-030638(JP,A)
【文献】特開2011-178188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフレータと、
前記インフレータから供給されるガスにより展開するエアバッグと、
座席のシートバックまたはヘッドレストに配置され、前記インフレータによりガスが供給される前の非作動時の前記エアバッグを収容する収容部と、
を備え、
前記エアバッグは、
座席の背面側に展開する後方膨張部と、前記後方膨張部の座席幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部と、前記一対の側方膨張部から中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の前方膨張部と、を有し、
前記収容部より前記座席の前方側、かつ前記座席の幅方向両側に設けられる一対の支持点と、
前記エアバッグと前記一対の支持点とを連結する連結部材と、
を有
し、
前記収容部の前記幅方向両側の方向にそれぞれ配置され、車両前方側に延在する一対のアーム部材を有し、
前記アーム部材は、前記シートバック内のフレームと交差する方向に延在し、前記フレームより前方側に先端部を有し、
前記一対の支持点は、前記一対のアーム部材の前記先端部にそれぞれ設けられ、
前記連結部材は、前記エアバッグと同材料で形成される非膨張のパネルであり、
前記アーム部材は、前記連結部材と異素材で形成され、
前記連結部材の一端は、前記幅方向に沿った中心軸まわりに回転可能に、前記アーム部材の前記先端部に設けられる前記支持点に連結され、
前記アーム部材は、前記エアバッグが前記収容部に収容されている状態、及び、前記エアバッグが前記収容部から展開し膨張されている状態の両方の状態において、前記先端部が前記フレームより車両前方側に配置されるように長手形状の延在方向が保持される、
エアバッグ装置。
【請求項2】
前記連結部材は、前記エアバッグの前記側方膨張部または前記前方膨張部に連結される、
請求項1に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の座席のヘッドレストやシートバックからエアバッグを展開して、このエアバッグにより座席に着座している乗員の頭部の全方位を保護する手法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ヘッドレストやシートバックからエアバッグを展開する構成では、頭部前方にエアバッグを展開するためにヘッドレストや乗員の頭部を越える必要があり、エアバッグがうまく展開できない場合がある。
【0005】
本開示は、エアバッグを安定して展開できるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るエアバッグ装置は、インフレータと、前記インフレータから供給されるガスにより展開するエアバッグと、座席のシートバックまたはヘッドレストに配置され、前記インフレータによりガスが供給される前の非作動時の前記エアバッグを収容する収容部と、を備え、前記エアバッグは、座席の背面側に展開する後方膨張部と、前記後方膨張部の座席幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部と、前記一対の側方膨張部から中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員の前方を覆う一対の前方膨張部と、を有し、前記収容部より前記座席の前方側、かつ前記座席の幅方向両側に設けられる一対の支持点と、前記エアバッグと前記一対の支持点とを連結する連結部材と、を有し、前記収容部の前記幅方向両側の方向にそれぞれ配置され、車両前方側に延在する一対のアーム部材を有し、前記アーム部材は、前記シートバック内のフレームと交差する方向に延在し、前記フレームより前方側に先端部を有し、前記一対の支持点は、前記一対のアーム部材の前記先端部にそれぞれ設けられ、前記連結部材は、前記エアバッグと同材料で形成される非膨張のパネルであり、前記アーム部材は、前記連結部材と異素材で形成され、前記連結部材の一端は、前記幅方向に沿った中心軸まわりに回転可能に、前記アーム部材の前記先端部に設けられる前記支持点に連結され、前記アーム部材は、前記エアバッグが前記収容部に収容されている状態、及び、前記エアバッグが前記収容部から展開し膨張されている状態の両方の状態において、前記先端部が前記フレームより車両前方側に配置されるように長手形状の延在方向が保持される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、エアバッグを安定して展開できるエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグ展開時の斜視図である。
【
図4】
図1~3中のエアバッグの平面視の概略構成を示す模式図である。
【
図5】実施形態に係るエアバッグ装置のエアバッグ収納時の側面図である。
【
図7】シートバック内部のフレームへの収容部の設置構造を示す斜視図である。
【
図8】
図7に示すフレーム及び収容部の分解斜視図である。
【
図9】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第1段階を示す図である。
【
図10】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第2段階を示す図である。
【
図11】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第3段階を示す図である。
【
図12】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第4段階を示す図である。
【
図13】実施形態に係るエアバッグ装置によるエアバッグの展開手順の第5段階を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
なお、以下の説明において、各図面で示すx方向、y方向、z方向は互いに垂直な方向である。x方向は車両の前後方向であり、x正方向側が車両前方、x負方向側が車両後方である。y方向は車両の幅方向であり、y正方向側が車両右側、y負方向側が車両左側である。z方向は上下方向であり、z正方向側が上方、z負方向側が下方である。
【0011】
図1~
図4を参照して、実施形態に係るエアバッグ装置10の構成を説明する。
図1は、実施形態に係るエアバッグ装置10のエアバッグ展開時の斜視図である。
図2は、
図1に示すエアバッグ装置10の側面図である。
図3は、
図1に示すエアバッグ装置10の正面図である。
図4は、
図1~3中のエアバッグ20の平面視の概略構成を示す模式図である。
【0012】
図1~
図3に示すように、エアバッグ装置10は車両の座席60に搭載される。座席60は、乗員Dが着座する座部61と、座部61の後端に下端が連結されたシートバック62と、シートバック62の上端に設けられたヘッドレスト63とを含んで構成される。シートバック62の内部にはフレーム64が配置されている。なお、
図1~
図3には図示を省略しているが、座席60にはシートベルト、タング、バックル、リトラクタなど、車両用シートに搭載される一般的な要素も設置されている。
【0013】
エアバッグ装置10は、座席60に乗員Dが着座した状態で、展開したエアバッグ20によって乗員Dを前後左右の全方向の衝突から保護する。エアバッグ20は、座席60のヘッドレスト63と、座席60に着座している乗員Dの頭部Hの周囲を覆い、上方と下方が開口する筒状に形成されている。
【0014】
図1~
図4では、保護すべき乗員Dのモデルとして衝突試験用のダミー人形が座席60の座部61に着座した状態を示している。ダミー人形は、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミー人形は、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢(正規の状態)で着座しており、座席60は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。ダミー人形の頭部Hは、顔面を車両前方(シート前方)へ向けている。
【0015】
エアバッグ装置10は、エアバッグ20と、インフレータ30と、収容部40とを備える。インフレータ30及び収容部40については
図5~
図8を参照して後述する。
【0016】
エアバッグ20は、乗員Dの頭部Hを前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される筒状の一体の袋体として構成されている。より詳細には、エアバッグ20は、後方膨張部21、一対の側方膨張部22A,22B、一対の前方膨張部23A,23Bを有する。
【0017】
後方膨張部21は、
図1,2、4に示すように、ヘッドレスト63より後方の位置で、ヘッドレスト63やシートバック62と対向するよう展開する。後方膨張部21は、
図4に示すように、y方向両側の端部にて、後方屈曲部74A、74Bを介して一対の側方膨張部22A,22Bの後方側端部に接続されている。後方屈曲部74A、74Bはx正方向側に略直角に屈曲して、
図1,2,4に示すように、一対の側方膨張部22A,22Bを後方膨張部21から前方へ延在させる。
【0018】
一対の側方膨張部22A,22Bは、乗員Dの頭部Hの左右にそれぞれ配置される。一対の側方膨張部22A,22Bは、後方側に対して前方側のほうが上下方向の寸法が長く、かつ、下方側により長く形成される。前方側の長さは、前方膨張部23A、23Bの上下方向寸法と略同一である。
【0019】
一対の側方膨張部22A,22Bは、前方側端部にて前方屈曲部75A、75Bを介して一対の前方膨張部23A、23Bに接続されている。前方屈曲部75A、75Bはy方向かつ中心側に略直角に屈曲して、
図1、3、4に示すように、一対の前方膨張部23A,23Bを乗員Dの頭部Hの前方を覆うように中央側へ延在させる。一対の前方膨張部23A,23Bは、y方向の略中央位置にて中央接合部76によってz方向に沿って相互に接合され、これにより乗員Dの頭部Hの前方に並んで配置され、頭部Hの前方を完全に塞ぐことができる。また、一対の前方膨張部23A、23Bは、x方向から視たときに略矩形状に形成され、乗員Dの頭部Hの正面全体をカバーできる程度の幅方向及び上下方向の寸法がとられている。
【0020】
このようにエアバッグ20は、中央接合部76によって、一体的な袋体の両端が接合縫いで接合されることで、乗員Dの頭部Hの前後方向、左右方向の全方位を囲んだドーナツ状に形成されている。
【0021】
また、前方膨張部23A,23Bは、中央接合部76を幅方向中央に配置することにより、乗員D側から視たときに前方膨張部23A,23Bのy方向の略中央部に前方に窪んだ前方凹部27が形成されている。前方凹部27は、中央接合部76の範囲に亘りz方向に延在する。前方膨張部23A,23Bの内表面に前方凹部27があることによって、頭部Hに対する前方膨張部23A,23Bの内表面の接触面が広くなり、また、対向角度も多様となるので、車両前方側でエアバッグ20が衝撃吸収可能な方位を増やすことができ、乗員Dをより幅広い方向の衝突から保護できる。
【0022】
前方膨張部23A、23Bの上端位置は、乗員Dの頭部Hの頭頂部より上方となればよい。また、その下端位置は、本実施形態では乗員Dの胸部を覆う位置となるように設けられているが、少なくとも乗員Dの頭部Hをカバーできる程度の位置でもよく、
図1~
図3に示す本実施形態の寸法より短くてもよい。
【0023】
図1~
図4に示すように、一対の前方膨張部23A,23Bは、拘束部24A,24B及びエネルギ吸収(Energy Absorption:EA)部25A,25Bを有する。拘束部24A,24Bは、それぞれ一対の側方膨張部22A,22Bから中央側に屈曲して延在する。EA部25A,25Bは、拘束部24A,24Bの中央側端部に接続され、中央部からy方向両側の前方屈曲部75A、75B側へと延在して、これにより拘束部24A,24Bの前方側に重ねて配置される。また、EA部25A、25Bの外側端部は、一対の側方膨張部22A,22Bの前方側端部に設けられる先端接合部77A、77Bによって、一対の側方膨張部22A,22Bと接合される。これにより、一対のEA部25A,25Bが拘束部24A、24Bの前方にてy方向に並んで配置され、かつ、拘束部24A,24Bと平行に配置されて、拘束部24A,24BとEA部25A、25Bとが乗員Dの頭部Hの前方に二重に配置される。
【0024】
前方膨張部23A,23Bの拘束部24A,24Bは、乗員Dの頭部Hの正面に配置されて、衝突時に頭部Hの正面側を保護するよう機能する。EA部25A、25Bは、座席前方のハンドル等にエアバッグ20が衝突するなどの二次衝突が発生した場合に、エアバッグ20の拘束部24A、24B側にかかる荷重を制限して乗員にかかるエネルギを吸収緩和するよう機能する。
【0025】
エアバッグ20は、後方膨張部21のインフレータ挿入口26にインフレータ30が取り付けられて、インフレータ30からのガスが供給される。エアバッグ20は、後方膨張部21から一方の側方膨張部22A、一方の拘束部24A、一方のEA部25Aの順でガス流路が形成され、また、後方膨張部21から他方の側方膨張部22B、他方の拘束部24B、他方のEA部25Bの順でガス流路が形成される。
【0026】
図5~
図8を参照して、エアバッグ20の収納状態を説明する。
図5は、実施形態に係るエアバッグ装置10のエアバッグ収納時の側面図である。
図6は、
図5中の収容部40近傍の拡大図である。
図7は、シートバック62内部のフレーム64への収容部40の設置構造を示す斜視図である。
図8は、
図7に示すフレーム64及び収容部40の分解斜視図である。エアバッグ20は、折り畳まれた状態で収容部40に収容される。収容部40は、例えばシートバック62内部のフレーム64に取り付けられてシートバック62内に格納される。
【0027】
収容部40は、シートバック62の延在方向に沿って上方に開口して配置される。収容部40の下方にインフレータ30が配置され、収容部の下方からエアバッグ20のインフレータ挿入口26に挿入される。インフレータ挿入口26は、例えば収容部40の底壁を貫通して下方に進出されて、インフレータ30が挿入される。
【0028】
インフレータ30は、例えば燃焼式またはコールドガス式であり、車両のECUなどの制御装置によって動作を制御される。インフレータ30は、作動することによって発生したガスを、インフレータ挿入口26を介してエアバッグ20内に供給する。本実施形態では、インフレータ30は、例えばシリンダ型のインフレータであり、シートの高さ方向を長手方向として配置されている。
【0029】
インフレータ30は、例えば
図6に示すように、フレーム64に固設されたブラケット31にバンド32を用いて固定される。本実施形態では、
図4に示すとおり後方膨張部21に2つのインフレータ挿入口26が設けられ、2本のインフレータ30が設置されるが、インフレータ30の数は1本でもよいし、2本より多い数でもよい。
【0030】
収容部40は、例えば樹脂製で箱状に形成されており、上方側が開口されている。この収容部40の箱状の内部空間に、折り畳まれた状態のエアバッグ20が収容される。収容部40は、エアバッグ装置10の非作動時にはシートバック62の上部に格納されている。エアバッグ装置10の作動時には、エアバッグ20の膨張圧によってシートバック62の表面が破断され、エアバッグ20が外部に膨張展開できるようになっている。
【0031】
図6に示すように、収容部40に収容される状態のエアバッグ20は、ロール状に折り畳まれたロール折り部71と、蛇腹状に折り畳まれた蛇腹折り部72とを含んで構成される。ロール折り部71は、エアバッグ20の展開状態における前方膨張部23A、23B側から側方膨張部22A、22Bの上方面側へ上向き回りに巻くようにロール状に折り畳まれた状態で収容部40に収容されており、膨張展開時にシート前方側へ展開しやすい折り畳み方とされている。蛇腹折り部72は、エアバッグ20の展開状態における後方膨張部21を蛇腹状に折り畳まれた状態で、収容部40のロール折り部71より上方の位置に収容されており、膨張展開時にロール折り部71より先に展開しやすくされている。
【0032】
エアバッグ20のインフレータ挿入口26は、ロール折り部71及び蛇腹折り部72に含まれず、ロール折り部71より下方に配置されて、インフレータ30が挿入されている。なお、
図6では、ロール折り部71及び蛇腹折り部72の収納状態を模式的に表す便宜上、インフレータ挿入口26からロール折り部71及び蛇腹折り部72の両方に分岐しているように図示されているが、上述のとおりインフレータ挿入口26は後方膨張部21に設けられるので、実際には蛇腹折り部72のみに接続する。このため、ロール折り部71と、蛇腹折り部72とは、先にガスが上方の蛇腹折り部72に供給可能となっている。
【0033】
また、ロール折り部71は、側方膨張部22A、22B、前方膨張部23A、23Bの順でガスを供給することで、側方膨張部22A、22Bが乗員Dの頭部Hより上方の位置で膨張展開し、前方膨張部23A、23Bが乗員Dの頭部Hより前方の位置で膨張展開するよう構成される。
【0034】
また、本実施形態では、収容部40の幅方向両側から車両前方側に延在する一対のアーム部材43を有する。アーム部材43は、例えば
図7、
図8に示すように収容部40のy方向両端にて収容部40と一体的に設けられ、フレーム64の幅方向外側を通って車両前方側へ延在している。なお、アーム部材43は、収容部40と別部材として設け、フレーム64など他部材に連結される構成でもよい。アーム部材43の延在方向は、例えばフレーム64の延在方向と直交し、斜め上方である。
【0035】
一対のアーム部材43の先端部には、それぞれ一対の支持点41が設けられる。つまり、一対の支持点41は、収容部40より座席60の前方側、かつ座席60の幅方向両側に設けられる。また、本実施形態では、支持点41はフレーム64より車両前方側に配置される。
【0036】
そして特に本実施形態では、エアバッグ20は、収納時にロール折り部71と支持点41とを連結する一対のタブ部材42(連結部材)を有する。タブ部材42は、エアバッグ20と同材料で形成される非膨張のパネルである。タブ部材42の一端は、支持点41にy軸まわりに回転可能に連結され、他端はロール折り部71に連結される。この他端は、
図2に示すように、エアバッグ20の展開時には、エアバッグ20の側方膨張部22A、22Bの下部に連結される。
【0037】
タブ部材42は、エアバッグ20と支持点41とを連結できる連結部材であればよく、エアバッグ20とは異なる材料で形成してもよいし、エアバッグ20の膨張に併せて膨張するものでもよい。また、タブ部材42は、支持点41と連結される一端と、エアバッグ20に連結される他端との間を延在方向とする細長い帯形状であればよく、タブ部材42の代わりに、紐、帯、ベルト、ストラップなどの他の帯形状の要素に置き換えてもよい。
【0038】
次に、
図9~
図13を参照して、エアバッグ装置10によるエアバッグ20の展開手順を説明する。
図9~
図13は、実施形態に係るエアバッグ装置10によるエアバッグ20の展開手順の第1~第5段階をそれぞれ示す図である。
【0039】
まず
図5、
図6に示したように平常時(エアバッグ装置10非作動時)には、エアバッグ20は折り畳まれてシードバック内の収容部40に格納されている。そして、車両の衝突等により所定の閾値以上の衝撃を受けると、ECUによりインフレータ30が作動され、インフレータ30からエアバッグ20にガスが供給され始める。
【0040】
図9に示す第1段階では、インフレータ30からガスが供給され始めると、まず上方の蛇腹折り部72にガスが供給されて膨張しはじめる。蛇腹折り部72は、蛇腹形状を展開しながらシートバック62の表面を破断してシート後方側に進出し、上方側かつシート後方側に展開しはじめる。
【0041】
図10に示す第2段階では、蛇腹折り部72の展開が完了すると後方膨張部21が形成される。その後ロール折り部71にガスが供給され始めると、ロール折り部71がロール状に折り畳まれた状態から展開すべく膨張しはじめる。このとき、膨張に伴い生じる膨張力によって、ロール折り部71は、シート背面側に展開した後方膨張部21から車両前方側かつ上方側へ反力を受ける。この反力によって、ロール折り部71は、斜め上方にヘッドレスト63を乗り越えるように展開する。つまり、先に展開して後方膨張部21が、ロール折り部71の展開方向を前方に促進させるための土台として機能する。また、ロール折り部71は上述のように上向き回りで巻かれているため、下向き回りに回転して展開する。
【0042】
図11に示す第3段階では、ロール折り部71の膨張が進み、まずは側方膨張部22A、22Bが展開しはじめる。側方膨張部22A、22Bは車両前方側かつ上方側に膨張する。このとき、側方膨張部22A、22Bの下部に取り付けられているタブ部材42は、側方膨張部22A、22Bの膨張が進むと、やがてエアバッグ20と支持点41との間で伸張して張力を発生させる。この張力によって、エアバッグ20に支持点41側(この状態では下方向)への引張力が新たに付与されるので、エアバッグ20の展開方向は「車両前方側かつ上方側」から車両前方側に切り替わる。これにより、ロール折り部71の残り部分は、収容部40や後方膨張部21より車両前方側にある支持点41を中心に車両前方側へ回動して、車両前方側への展開が促進される。
【0043】
なお、上述のとおり、支持点41は、座席60のシートバック62よりも車両前方側に配置されている。このため、エアバッグ20の展開方向が「車両前方側かつ上方側」から車両前方側に切り替わるタイミングを遅らせることができ、側方膨張部22A、22Bが充分に展開した後に展開方向を変えることが可能となるので、エアバッグ20が乗員Dの頭部Hを越えて展開するのを容易にできる。すなわち、支持点41の位置は、できるだけ車両前方側に配置されるのが好ましい。
【0044】
図12に示す第4段階では、ロール折り部71からまず側方膨張部22A、22Bが形成されて乗員Dの頭部Hの側方を覆う。このときロール折り部71の残り部分は、頭部Hより前方に進出しており、また、側方膨張部22A、22Bの頭頂部29A、29Bが天井に突き当たり、天井からの反力により上向きの展開方向が下向きに切り替えられ、車両天井から下方に展開しはじめる。
【0045】
そして
図13に示す第5段階では、ロール折り部71から前方膨張部23A、23Bが形成されて、乗員Dの頭部Hの前方部分も覆い、これにより乗員Dの前後左右方向の全方位を覆うエアバッグ20が形成される。なお、このとき、タブ部材42とエアバッグ20との接続位置は支持点41より前方にあるため、タブ部材42は、例えば座席60のシートバック62の上端や上部前面の表面に前後方向に沿って設けられるスリット等を通ってシートバック62から外部に進出しており、エアバッグ20の展開に伴って進出位置が前方側に推移している。
【0046】
本実施形態に係るエアバッグ装置10の効果を説明する。
【0047】
本実施形態のエアバッグ装置10は、インフレータ30と、インフレータ30から供給されるガスにより展開するエアバッグ20と、座席60のシートバック62に配置され、インフレータ30によりガスが供給される前の非作動時のエアバッグ20を収容する収容部40と、を備える。エアバッグ20は、座席60の背面側に展開する後方膨張部21と、後方膨張部21の座席幅方向両側から前方に延びる一対の側方膨張部22A、22Bと、一対の側方膨張部22A、22Bから中央側へ延び中央で相互に連結されて乗員Dの前方を覆う一対の前方膨張部23A、23Bと、を有し、収容部40より座席60の前方側、かつ座席60の幅方向両側に設けられる一対の支持点41と、エアバッグ20と一対の支持点41とを連結するタブ部材42と、を有する。
【0048】
この構成により、エアバッグ装置10の作動時にエアバッグ20が膨張展開する際には、エアバッグ20と支持点41とを連結するタブ部材42によって、エアバッグ20に支持点41へ向かう方向への力、すなわち支持点41を中心としてエアバッグ20を前方へ回動させるための力をエアバッグ20に付与できる。また、一対の支持点41は収容部40やシートバック62よりも座席60の前方側に配置されているので、エアバッグ20の回動中心をより前方側にでき、エアバッグ20を前方側により一層展開させやすくできる。これにより、本実施形態のエアバッグ装置10は、ヘッドレスト63や乗員Dの頭部Hを確実に超えるようにエアバッグ20を展開可能となり、エアバッグ20を安定して展開できる。
【0049】
側方膨張部22A、22Bは、
図11、
図12を参照して説明したように、その展開時には乗員Dの頭部Hの後方側から前方側へ跨いでエアバッグ20の展開が行われるので、側方膨張部22A、22Bの展開中には先端の未展開部分ができるだけ早く乗員Dの頭部Hを越えて前方側に移動できるのが好ましい。本実施形態では、タブ部材42はエアバッグ20の側方膨張部22A、22Bに連結されるので、側方膨張部22A、22Bの展開中にタブ部材42によるエアバッグ20の前方側への回動を促進でき、エアバッグ20の未展開部分をヘッドレスト63や乗員Dの頭部Hを越えて前方側へ移動さえるのを容易にできる。これにより、エアバッグ20の展開のより一層の安定化が可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、タブ部材42は、エアバッグ20と同材料で形成される非膨張のパネルであるので、タブ部材42をエアバッグ20と一体的に成形でき、タブ部材42とエアバッグ20との接続位置の精度向上を図れる。また、タブ部材42がエアバッグ20と同材料であるので、タブ部材42の耐久性をエアバッグ20と同等に向上できる。
【0051】
また、本実施形態では、収容部40の幅方向両側から車両前方側に延在する一対のアーム部材43を有し、アーム部材43は、シートバック62内のフレーム64より前方側に先端部を有し、一対の支持点41は、一対のアーム部材43の先端部にそれぞれ設けられる。これにより、支持点41を確実に車両前方側に配置でき、また、支持点41の位置調整も容易にできるので、エアバッグ20の展開のより一層の安定化が可能となる。
【0052】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0053】
上記実施形態では、エアバッグ装置10の収容部40がシートバック62内に格納される構成を例示したが、収容部40をヘッドレスト63の内部に格納する構成でもよい。
【0054】
上記実施形態では、エアバッグ20として複数のパネルを縫製して一体的に形成する構造のものを例示したが、いわゆる一体製織(one piece woven:OPW)型のものでもよい。
【0055】
上記実施形態では、支持点41は、シートバック62に内蔵されるアーム部材43に設けられる、すなわち支持点41の位置をシートバック62内とする構成を例示したが、上述のとおり支持点41の位置はできるだけ車両前方側に配置されるのが好ましいので、支持点41の位置をシートバック62より車両前方側に配置する構成でもよい。例えば、エアバッグ20の膨張に伴って、アーム部材43の先端部がシートバック62内部から車両前方側に突き出る構造として、これにより支持点41をシートバック62より車両前方側に配置できる。また、支持点41の位置を、エアバッグ20の展開の段階に応じて段階的に移動させる構成とし、各段階における最適な位置に配置することもできる。
【0056】
上記実施形態では、タブ部材42がエアバッグ20の側方膨張部22A、22Bに連結される構成を例示したが、タブ部材42がエアバッグ20の前方膨張部23A、23Bに連結される構成でもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 エアバッグ装置
20 エアバッグ
21 後方膨張部
22A、22B 側方膨張部
23A、23B 前方膨張部
24A、24B 拘束部
25A、25B EA部
30 インフレータ
40 収容部
41 支持点
42 タブ部材(連結部材)
43 アーム部材
60 座席
61 座部
62 シートバック
63 ヘッドレスト
64 フレーム
D 乗員
H 頭部