(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20220713BHJP
G05B 19/414 20060101ALI20220713BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20220713BHJP
B23Q 5/04 20060101ALN20220713BHJP
B23Q 5/22 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
G05B19/18 X
G05B19/414 N
B23Q17/00 A
B23Q5/04 530G
B23Q5/22 530G
(21)【出願番号】P 2018227848
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】由良 元澄
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-154566(JP,A)
【文献】特開2011-209936(JP,A)
【文献】特開2017-200264(JP,A)
【文献】特開2017-034858(JP,A)
【文献】特開2016-025828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/00-19/46,
B23Q 5/00-5/58,17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源電圧を直流電圧に変換して直流バスに出力するコンバータと、
前記コンバータから供給された直流電圧を交流に変換して複数の送り軸モータおよび主軸モータを駆動する複数のインバータと、
前記コンバータに入力された交流電源の電圧値を検出する交流電圧検出回路と、
前記コンバータの出力する直流電圧を検出する第1直流電圧検出回路と、
前記複数のインバータの各個に設けられ、入力された直流電圧を検出する第2直流電圧検出回路と、
前記複数のインバータの各個に設けられ、前記第2直流電圧検出回路の検出値がしきい値V
AL2を下回った場合にアラームを検出する低電圧アラーム判定部と、
前記交流電圧検出回路が検出した電源電圧値が所定の値を下回った場合に、停電準備モードと判定する、停電準備判定部と、
前記停電準備判定部が前記停電準備モードを判定中に前記第1直流電圧検出回路の検出値が所定のしきい値V
AL1を下回った場合、または前記停電準備モードと判定されている状態が所定時間を超えて継続した場合に、停電と判定するとともに前記複数のインバータに対して送り軸の停止もしくは退避動作を指令する停電判定部とを備え、
前記停電準備判定部が前記停電準備モードと判定している間、前記低電圧アラーム判定部におけるしきい値V
AL2を、正常時の値から前記第1直流電圧検出回路におけるしきい値V
AL1よりも小さな値に切り換えることを特徴とする工作機械の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、
前記停電準備判定部が停電準備モードの判定中に、
前記複数のインバータでは前記第2直流電圧検出回路の検出値V
DCと、V
PL>V
AL1の関係を満たす出力制限電圧V
PLとの差に応じてモータ出力を次式(1)による出力低減率P
Limに制限することを特徴とする制御装置。
【数1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の送り軸や主軸を駆動する制御装置の改良に関するもので、特に停電時の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、ワークや工具を制御することによって、ワークを所定の形状に加工する。例えば、マシニングセンタ等では、工具を取り付けた主軸をスピンドルモータで回転駆動するとともに、ワークや工具(主軸)を移動させる送り軸をサーボモータでボールネジまたはギア等を介して直線駆動または回転駆動する。
【0003】
図5は、特許文献1に示される従来の制御装置の構成を示すブロック図である。交流電源1は、コンバータ2に入力される。コンバータ2は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、送り軸用インバータ3および4、主軸用インバータ5に供給する。数値制御装置6は、ワークを所定の形状に加工するよう、送り軸用インバータ3および4、主軸用インバータ5に位置指令値または速度指令値を入力する。送り軸用インバータ3および4、主軸用インバータ5は、数値制御装置6からの指令値に従って、サーボモータ7および8、スピンドルモータ9を駆動する。
【0004】
停電時に何の対策もしないと、送り軸用インバータ3および4、主軸用インバータ5が直流電力を消費するため、直流バス電圧が低下し、モータの制御が維持できなくなる。その結果、工具軌跡を指定通りに制御することが困難となる。そこで特許文献1の装置では、停電時には工具をワーク(加工対象)から退避させるように停止させて、ワークまたは工具の破損を防止している。
【0005】
また、
図6に、特許文献2に示される従来技術による制御装置のブロック図を示す。停電の多くは時間的に短い瞬時電圧低下であり、かつ、工作機械の動作状態は軽負荷である場合が多いので、瞬時電圧低下では直流バス電圧が低下しない場合が多い。そこで、この従来装置では、直流電圧検出値が低下していない場合には、保護動作開始判定部17が停止や退避などの保護動作を開始せず、モータ7を駆動するインバータ3は運転を継続している。
【0006】
さらに、特許文献3には、
図6に示したような瞬時電圧低下時に保護動作を行わないことを目的とした制御装置において、停電耐量が異なる複数の機器を組合せた場合に対応して、複数の停電検出条件を用いた複数の停電検出信号を生成し、機器ごとに適切な保護動作の開始を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-209936号公報
【文献】特開2016-063705号公報
【文献】特開2017-200264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5に示した特許文献1の従来技術によって、停電時に工具やワークの破損を防止して安全に停止することが可能となった。しかしながら、停電の多くを占める瞬時電圧低下においても、退避動作によって加工を中断するため、生産性の低下が課題である。
【0009】
図6に示した特許文献2の従来技術、および特許文献3の従来技術では、直流バス電圧が低下しない程度の軽負荷運転時の瞬時電圧低下においては、加工を中断せずに運転を継続することが可能となった。しかしながら、加工負荷が大きく直流バス電圧が低下する場合には運転を継続しないため、生産性の低下が課題である。また、これらの従来技術において、停電を判定するための直流バス電圧アラームレベルを予め低く設定すれば、その設定レベルまで直流バス電圧が低下しても運転を継続できる可能性がある。しかしながら、直流バス電圧アラームレベルを低くした場合は、複数のインバータユニットを接続する直流バス配線の不良等による電圧低下が各個のインバータにおいて検出できず、過熱による事故や故障が発生する課題がある。
【0010】
本発明の目的は、複数のインバータにより送り軸モータおよび主軸モータを駆動する工作機械の制御装置において、瞬時電圧低下の発生時に加工を継続でき、かつ正常時は各個のインバータにおいて適正な制御状態であることを確実に監視して電圧低下による過熱を防止することができるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る工作機械の制御装置は、
交流電源電圧を直流電圧に変換して直流バスに出力するコンバータと、
前記コンバータから供給された直流電圧を交流に変換して複数の送り軸モータおよび主軸モータを駆動する複数のインバータと、
前記コンバータに入力された交流電源の電圧値を検出する交流電圧検出回路と、
前記コンバータの出力する直流電圧を検出する第1直流電圧検出回路と、
前記複数のインバータの各個に設けられ、入力された直流電圧を検出する第2直流電圧検出回路と、
前記複数のインバータの各個に設けられ、前記第2直流電圧検出回路の検出値がしきい値VAL2を下回った場合にアラームを検出する低電圧アラーム判定部と、
前記交流電圧検出回路が検出した電源電圧値が所定の値を下回った場合に、停電準備モードと判定する、停電準備判定部と、
前記停電準備判定部が前記停電準備モードを判定中に前記第1直流電圧検出回路の検出値が所定のしきい値VAL1を下回った場合、または前記停電準備モードと判定されている状態が所定時間を超えて継続した場合に、停電と判定するとともに前記複数のインバータに対して送り軸の停止もしくは退避動作を指令する停電判定部とを備え、
前記停電準備判定部が前記停電準備モードと判定している間、前記低電圧アラーム判定部におけるしきい値VAL2を、正常時の値から前記第1直流電圧検出回路におけるしきい値VAL1よりも小さな値に切り換えることを特徴とする。
【0012】
本発明の別の態様では、前記停電準備判定部が停電準備モードの判定中に、
前記複数のインバータでは前記第2直流電圧検出回路の検出値V
DCと、V
PL>V
AL1の関係を満たす出力制限電圧V
PLとの差に応じてモータ出力を次式(1)による出力低減率P
Limに制限することを特徴とする。
【数1】
【発明の効果】
【0013】
本発明による工作機械の制御装置は、瞬時電圧低下が発生している期間において送り軸や主軸を駆動するインバータが直流バス電圧の低下によって各々で停止することがなく、停電判定部による停電の判定によって協調した停止処理を行うことができる。また交流電圧検出回路がコンバータに入力される交流電源の電圧を監視し、瞬時電圧低下が解消した場合には停電と判定しないまま正常運転に復帰するため、加工を中断することなく継続できる。
【0014】
また、電源電圧が正常な期間において、インバータ各個に入力される直流バス電圧を第2直流電圧検出回路及び低電圧アラーム判定部により監視しているので、直流バス配線の不良等に起因する電圧低下による過熱等を未然に防止することができる。
【0015】
さらに、瞬時電圧低下が発生している期間において、直流バス電圧がしきい値AL1に近くなるまで低下するとモータ出力を制限するため、直流バス電圧の低下が抑制できるので、交流電源電圧の復帰を待って正常運転に復帰することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例の動作を示す第1のタイムチャートである。
【
図3】本発明の実施例の動作を示す第2のタイムチャートである。
【
図4】本発明の実施例の動作を示す第3のタイムチャートである。
【
図5】従来技術による工作機械の制御装置を示すブロック図である。
【
図6】従来技術による別の工作機械制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係る装置の一実施例を示すブロック図である。なお、
図5および
図6に示した従来技術例と同一要素には同一番号を付してあり、その説明は省略する。また、簡単化のため2つの送り軸モータと1つの主軸モータを含む構成で説明するが、この構成に限定するものではない。
【0018】
交流電圧検出回路13はコンバータに入力される交流電源電圧を検出し、停電準備判定部18に出力している。停電準備判定部18では電源電圧が所定値以下に低下すると、装置の現在の動作モードを停電準備モードと判定し、停電判定部19に対して停電準備モード信号を出力すると同時に、送り軸用インバータ3および4、主軸用インバータ5に設けられた低電圧アラーム判定部20a、20b、20cに対してアラームしきい値の変更を指令する。
【0019】
ここで、低電圧アラーム判定部20a、20b、20c、およびアラームしきい値V
AL2について説明する。交流電源を全波整流回路で直流に変換するとき、交流電源電圧の実効値V
rmsに対して直流電圧は
【数2】
であり、例えば200V系の電源であれば約283Vとなる。一般的なインバータは直流電圧283Vを前提に設計され、直流電圧が低下するとモータを適正に制御できないため、例えば-20~-30%程度にしきい値V
AL2を設定することが通常である。
【0020】
また、工作機械のように複数のモータを使用する用途では、複数のインバータ間を直流バスで接続することが一般的である。この直流バス配線が接続不良となると、その不良部分が発熱し、焼損事故が発生する可能性がある。そのため、低電圧アラーム判定部はインバータの各個に設ける。
【0021】
停電準備判定部18が停電準備モードと判定している期間は、電源電圧が低下しているので通常の低電圧アラームレベルよりも直流バス電圧が低下する可能性がある。しかしながら、統計により瞬時電圧低下の大多数は数ms~100ms程度であることが知られており、このような短時間であれば送り軸の位置制御や主軸モータの速度制御に殆ど影響を与えない。そこで、停電準備モード中は直流バス電圧の低下を許容するよう、低電圧アラームしきい値VAL2をVAL1>VAL2を満たす低い値に変更する。なお、VAL1については後述する。
【0022】
停電判定部19は、停電準備モードが所定時間(例えば100ms)継続するか、もしくは直流電圧検出回路16の検出値が所定の値VAL1を下回った場合に停電と判定し、送り軸インバータ3および4に退避動作または停止を指令する。
【0023】
停電準備モード中において、送り軸インバータ3または4について低電圧アラーム判定部20aまたは20bが個々に低電圧アラームを検出すると、その検出するタイミングの差によって工具の動作軌跡が指令軌跡から逸脱し、ワークや工具を破損する可能性がある。すなわち、ある送り軸インバータに入力される電圧について低電圧アラームが検出されると、数値制御装置6はその送り軸インバータを停止させるので、そのインバータにより駆動される送り軸モータが停止する。この例の2つの送り軸インバータ3及び4についての低電圧アラームの検出に時間差があると、送り軸モータ7及び8の一方がまず停止し、しばらくしてからもう一方が停止することになる。このように送り軸モータ7及び8の停止に時間差が生じると、工具の動作軌跡が指令軌跡から逸脱してしまう事態が起こり得る。
【0024】
そこで、停電準備モード中は低電圧アラームしきい値VAL2を、停電判定部19が停電と判定するしきい値VAL1よりも低い値に設定する。これにより、退避動作もしくは停止動作を行うタイミングは、停電判定部19の停電出力によって一括で制御されるので、複数の送り軸が同期して動作でき、指令軌跡から逸脱しない。
【0025】
図2は、
図1の実施例の動作を示すタイムチャートであり、瞬時電圧低下が所定時間(例として100ms)を超えて継続した場合の動作を示す。
【0026】
時刻t1において、瞬時電圧低下によって電源電圧が停電準備モードしきい値を下回ったことが検出され、停電準備モード信号がオンになり、直流バス電圧の低電圧アラームのしきい値VAL2が通常時の値から低い値に変更される。
【0027】
瞬時電圧低下が発生している期間は、主軸モータや送り軸モータの負荷によって直流バス電圧が低下する。
図2はこれら負荷が小さい場合を示しており、時刻t1から徐々に直流バス電圧が低下する。しかし、上述のように低電圧アラームのしきい値V
AL2を低い値に変更しているので低電圧アラームは発生しない。
【0028】
時刻t1から100msが経過すると、停電判定部は停電であると判定し、停電信号を出力する。なお、この100msを決定する要因は、制御回路電源や油圧系統の保持時間である。100msを超えると、主軸や送り軸が動作を継続しても、その他の工作機械構成要素が不適切な挙動を起こす可能性があるため、安全のため加工を停止するのである。従って、この時間は100msに限定されず、制御電源や油圧系統の保持時間に合わせて適宜、設定する。
【0029】
停電信号がオンになると、送り軸の退避動作を行う。退避する軸はワークと工具の位置関係によって決められるが、一般的には上下方向に動作する軸を上方向に退避する。
【0030】
図3は、
図2に比べて主軸、送り軸の負荷が大きい場合であって、後述するモータの出力制限処理を行わない場合の動作を示すタイムチャートである。この例では、時刻t1において瞬時電圧低下が発生した後、直流バス電圧が主軸、送り軸の負荷によって減少し、時刻t3において停電判定部におけるしきい値V
AL1を下回る。この時、停電判定部は停電と判定し、停電信号をオンする。その後は
図2と同様に送り軸の退避動作を行う。
【0031】
図4は、直流バス電圧に応じて主軸、送り軸モータの出力制限を行う場合の動作タイムチャートである。時刻t1において瞬時電圧低下が発生した後、直流バス電圧が主軸、送り軸の負荷によって低下していくが、この例では、インバータ3,4,5では、直流バス電圧に応じて次のようにモータ出力の制限処理を行う。すなわち、正規のモータ出力を1.0とするとき、出力低減率P
Limを例えば、
【数3】
のように演算する。ただし、V
PLは出力制限電圧であり、停電判定部のしきい値V
AL1よりも大きな値に設定される。
【0032】
このように出力制限を行うことによって、
図4において直流バス電圧が低下するにつれてモータ出力が制限され、時刻t2において直流バス電圧がV
PLに到達するとモータ出力は0となる。この結果、直流バスからの電力消費はモータの巻線発熱やインバータの損失の、最低限のレベルとなり、電圧が殆ど低下しなくなる。V
PLは停電判定部のしきい値V
AL1より高く設定しているので、停電と判定することなく運転が継続される。そして、時刻t4で瞬時電圧低下が解消すると正常な運転に復帰できる。
【0033】
なお、上述の制限は、モータ出力について制限を与えるため、速度が停止している場合のトルク指令には制限を与えない。よって、例えば重力負荷が印加される上下軸においては制限中も保持トルクを維持できるため、重力による落下は発生しない。
【符号の説明】
【0034】
1 交流電源、2 コンバータ、3,4 送り軸用インバータ、5 主軸用インバータ、6 数値制御装置、7,8 送り軸モータ、9 主軸モータ、10 停電検出部、11 アラームしきい値変更部、12 退避動作指令部、13 交流電圧検出回路、14 電圧振幅演算部、15 停電検出部、16 直流電圧検出回路、17 保護動作開始判定部、18 停電準備判定部、19 停電判定部、20 低電圧アラーム判定部、21 直流電圧検出回路。