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特許7104615繊維の幅調整装置、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】繊維の幅調整装置、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20220713BHJP
   B29C 70/38 20060101ALI20220713BHJP
   B29B 15/12 20060101ALI20220713BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/38
B29B15/12
B29K105:08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018232697
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020093454
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】安河内 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】小祝 京
(72)【発明者】
【氏名】内山 重和
(72)【発明者】
【氏名】川邊 和正
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慶一
(72)【発明者】
【氏名】伊與 寛史
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/116191(WO,A1)
【文献】特開2004-027078(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137525(WO,A1)
【文献】特開2015-063049(JP,A)
【文献】特開2018-001682(JP,A)
【文献】特開平06-210751(JP,A)
【文献】特開2019-155722(JP,A)
【文献】米国特許第3592371(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後における繊維強化樹脂用の繊維からなるテープ材を前記テープ材の長さ方向に送り出す送り機構と、
少なくとも間隔が徐々に減少する一対の壁面と底面によって形成される前記テープ材用の経路を有し、前記テープ材が前記壁面及び前記底面と接触しながら通過する前記経路の部分を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させる幅調整機構であって、凸状の底面を有する前記テープ材用の経路を有し、前記壁面と前記底面に接触させた前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるように構成される幅調整機構と、
を備え
前記幅調整機構は、前記経路を前記テープ材の厚さ方向に相対的に平行移動させることによって前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整するように構成される繊維の幅調整装置。
【請求項2】
前記幅調整機構は、前記テープ材の長さ方向及び厚さ方向に垂直な軸を中心に前記経路を前記テープ材に対して相対的に回転させることによって、前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整するように構成される請求項記載の繊維の幅調整装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の繊維の幅調整装置で幅が調整された前記テープ材を積層することによって繊維の積層体を製作するステップと、
前記繊維の積層体に含浸させた樹脂を加熱硬化することによって複合材を製作するステップと、
を有する複合材成形方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の繊維の幅調整装置を用いて幅が調整された前記テープ材を製作する繊維の幅調整方法
【請求項5】
樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後における繊維強化樹脂用の繊維からなるテープ材を、前記テープ材の長さ方向に送り出すステップと、
少なくとも間隔が徐々に減少する一対の壁面と底面によって形成される前記テープ材用の経路のうち、前記テープ材が前記壁面及び前記底面と接触しながら通過する前記経路の部分を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるステップであって、凸状の底面を有する前記テープ材用の経路を形成する前記壁面と前記底面に接触させた前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるステップと、
を有し、
前記経路を前記テープ材の厚さ方向に相対的に平行移動させることによって前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整する繊維の幅調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、繊維の幅調整装置、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂を繊維で強化した材料としてガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)が知られている。FRPは複合材とも呼ばれ、繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた状態で樹脂を加熱硬化することによって製作される。
【0003】
より具体的には、複合材は、未硬化の熱硬化性樹脂を繊維に含浸させたシート状の素材であるプリプレグを積層して賦形し、賦形したプリプレグの積層体を加熱硬化することによって製作することができる。或いは、熱硬化性樹脂を含浸させる前のシート状の繊維を積層して賦形した後に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱硬化するRTM(Resin Transfer Molding)法も知られている(例えば特許文献1乃至3参照)。RTM法のうち、真空引きを行って繊維に樹脂を含浸させる方法は、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)法と呼ばれ、金型を利用して樹脂を含浸させる方法は、マッチドダイ(matched-die)RTM法と呼ばれる。
【0004】
RTM法で複合材を製作する場合には、適切な幅と厚さを有するシート状の繊維を素材として製作することが必要となる。そこで、炭素繊維束やガラス繊維束等の強化繊維束を薄く均一に広げる技術が知られている(例えば特許文献4参照)。
【0005】
開繊は、0.007mm程度の太さを有する繊維を12,000本から24,000本程度束ねることによって得られる繊維束を、ローラ等を用いて連続的に幅を広げながら薄くする作業である。近年では開繊によって得られるテープ状の繊維がドライテープ材という名称で販売されている。
【0006】
また、シート状又は粉末状の熱可塑性バインダを付着させたドライテープ材も販売されている。このため、熱可塑性バインダを熱融着させることによってドライテープ材を仮留めしながら積層することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-218133号公報
【文献】特開2009-234065号公報
【文献】特開2010-150685号公報
【文献】国際公開第2010/137525号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後における繊維強化樹脂複合材用の繊維の幅を容易に調節できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る繊維の幅調整装置は、樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後における繊維強化樹脂用の繊維からなるテープ材を前記テープ材の長さ方向に送り出す送り機構と、少なくとも間隔が徐々に減少する一対の壁面と底面によって形成される前記テープ材用の経路を有し、前記テープ材が前記壁面及び前記底面と接触しながら通過する前記経路の部分を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させる幅調整機構であって、凸状の底面を有する前記テープ材用の経路を有し、前記壁面と前記底面に接触させた前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるように構成される幅調整機構とを備え、前記幅調整機構は、前記経路を前記テープ材の厚さ方向に相対的に平行移動させることによって前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整するように構成されるものである。
【0010】
また、本発明の実施形態に係る繊維の幅調整方法は、上述した繊維の幅調整装置を用いて幅が調整された前記テープ材を製作するものである。
【0011】
また、本発明の実施形態に係る繊維の幅調整方法は、樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後における繊維強化樹脂用の繊維からなるテープ材を、前記テープ材の長さ方向に送り出すステップと、少なくとも間隔が徐々に減少する一対の壁面と底面によって形成される前記テープ材用の経路のうち、前記テープ材が前記壁面及び前記底面と接触しながら通過する前記経路の部分を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるステップであって、凸状の底面を有する前記テープ材用の経路を形成する前記壁面と前記底面に接触させた前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整することによって、前記経路を通過した前記テープ材の幅を変化させるステップとを有し、前記経路を前記テープ材の厚さ方向に相対的に平行移動させることによって前記テープ材が前記壁面と前記底面から離れる位置を調整するものである。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る複合材成形方法は、上述した繊維の幅調整装置で幅が調整された前記テープ材を積層することによって繊維の積層体を製作するステップと、前記繊維の積層体に含浸させた樹脂を加熱硬化することによって複合材を製作するステップとを有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る繊維の幅調整装置を設けた自動積層装置の構成を示す正面図。
図2図1に示す幅調整装置に備えられる送り機構と幅調整機構の斜視図。
図3図1に示す幅調整機構の拡大斜視図。
図4図1に示す幅調整機構の経路をテープ材に対して相対的に回転させることによってテープ材の幅を調整する方法を説明する図。
図5図4に示す幅調整機構の拡大斜視図。
図6図1に示すテープ材としてプリプレグのシートを積層して複合材を成形する場合の流れを示すフローチャート。
図7図1に示すテープ材としてドライテープ材を積層して複合材を成形する場合の流れを示すフローチャート。
図8】本発明の第2の実施形態に係る繊維の幅調整装置を設けた自動積層装置の構成を示す正面図。
図9】本発明の第3の実施形態に係る繊維の幅調整装置に備えられる部材の構成を示す拡大正面図。
図10図9に示す部材の左側面図。
図11】本発明の第4の実施形態に係る繊維の幅調整装置に備えられる部材の構成を示す拡大正面図。
図12図11に示す部材の左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る繊維の幅調整装置、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法について添付図面を参照して説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
(繊維の幅調整装置の構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る繊維の幅調整装置1を設けた自動積層装置2の構成を示す正面図である。
【0017】
幅調整装置1は、樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後におけるFRP用の繊維からなるテープ材Tの幅を調整する装置である。樹脂を含浸させる前におけるテープ状の繊維束はドライテープ材と呼ばれる。ドライテープ材は、公知の開繊方法によって製作される。一方、樹脂を含浸させた後におけるFRP用のシート状の繊維は、プリプレグと呼ばれる。ドライテープ材及びプリプレグは、CFRPやGFRP等のFRP複合材の素材として用いられる。
【0018】
市販されているドライテープ材やプリプレグテープ等のテープ材Tの標準的な厚さは240μm程度であるが、特に厚さが20μm以上120μm以下である薄層テープ材を使用すると、テープ材Tの変形が容易となることから、幅調整装置1によるテープ材Tの幅の調整も容易となる。もちろん、厚さが120μmよりも厚いテープ材Tを素材として幅調整装置1で幅の調整を行うようにしても良い。
【0019】
ドライテープ材には、シート状、ネット状、不織布状又は粉末状の熱可塑性バインダを付着させたもの、粉末状又は液状の熱硬化性バインダを付着させたもの並びにバインダが付着されていないものが販売されているが、いずれを使用しても良い。
【0020】
ドライテープ材を用いて複合材を製作する場合には、RTM法によって複合材が製作される。具体的には、ドライテープ材を賦形型に積層して複合材の形状に賦形した後、樹脂を含浸させて加熱硬化することによって複合材が製作される。ドライテープ材にバインダが含まれる場合には、賦形に先だって加熱される場合もある。複合材の形状に賦形された繊維は、ドライプリフォームと呼ばれる。ドライプリフォームの賦形型と、複合材の加熱硬化用の成形型は、共通にしても良いし、異なる型であっても良い。
【0021】
一方、プリプレグを用いて複合材を製作する場合には、プリプレグを型に積層して複合材の形状に賦形した後、プリプレグの積層体を加熱硬化することによって複合材が製作される。複合材の形状に賦形されたプリプレグの積層体は、プリフォームと呼ばれる。尚、広義には、ドライプリフォームもプリフォームの一種である。
【0022】
従って、幅調整装置1によって幅が調節されたドライテープ材又はプリプレグからなるテープ材Tは、複合材製作のために積層される。そこで、図1に例示されるように、テープ材Tの自動積層装置2にテープ材Tの幅調整装置1を設けることができる。換言すれば、テープ材Tの幅調整装置1に、テープ材Tの積層機能を設けることができる。
【0023】
幅調整装置1は、送り機構3、幅調整機構4、加熱装置5、切断装置6及び制御装置7を用いて構成することができる。また、幅調整装置1に、テープ材Tを自動的に積層する自動積層装置2としての機能を設ける場合には、テーブル8及び移動機構9を用いて自動積層装置2を構成することができる。
【0024】
図2図1に示す幅調整装置1に備えられる送り機構3と幅調整機構4の斜視図である。
【0025】
送り機構3は、テープ材Tをテープ材Tの長さ方向に送り出す装置である。図1及び図2に示す例では、コンパクションローラ10と、繊維束支持ローラ11によって、テープ材Tを巻付けたストック用のローラ等から供給されるテープ材Tを長さ方向に送り出す送り機構3が構成されている。すなわち、テープ材Tの長さ方向において互いに異なる位置に配置された円筒状又は円柱状のコンパクションローラ10及び繊維束支持ローラ11とテープ材Tとの間における摩擦力並びにコンパクションローラ10及び繊維束支持ローラ11の回転によって、テープ材Tの張力が保たれた状態で、テープ材Tを長さ方向に送り出すことができるようになっている。
【0026】
テープ材Tの送り出し側に配置されるコンパクションローラ10は、モータ12の動力で自動的に回転させることができる。その場合、コンパクションローラ10の回転シャフトは、モータ12の出力シャフトと、直接又はギアや動力伝達ベルト等を介して間接的に連結される。或いは、幅調整装置1を作業者による手作業用の装置とする場合には、コンパクションローラ10の回転シャフトにハンドルを取付け、作業者がハンドルを操作してコンパクションローラ10を手動で回転できるようにしても良い。
【0027】
また、後述するように、積層済みの他のテープ材Tとコンパクションローラ10との間にテープ材Tを挟み込み、コンパクションローラ10とテープ材Tとの間における摩擦力のみによってコンパクションローラ10を回転させるようにしても良い。その場合においても、コンパクションローラ10を自動回転させるためのモータ12等の動力装置を省略することができる。
【0028】
一方、テープ材Tの張力を維持するためにテープ材Tの送り元側に配置される繊維束支持ローラ11は、テープ材Tとの間における摩擦力によって回転させることができる。或いは、テープ材Tが弛まないように、コンパクションローラ10の回転シャフトに負荷される回転トルク以下の回転トルクが繊維束支持ローラ11の回転シャフトに負荷されるように出力軸の回転トルクが調整されたモータで繊維束支持ローラ11の回転シャフトを回転させるようにしても良い。
【0029】
幅調整機構4は、送り機構3によって送り出されるテープ材Tの幅を変化させる装置である。幅調整機構4は、少なくとも間隔が徐々に減少する一対の壁面と底面によって形成されるテープ材T用の経路13を有する。このため、テープ材Tが壁面及び底面と接触しながら通過する経路13の部分を調整することによって、経路13を通過したテープ材Tの幅を変化させることができる。
【0030】
すなわち、幅が次第に減少する経路13にテープ材Tを導けば、テープ材Tの幅方向における両側の壁面からテープ材Tにテープ材Tの幅方向における圧力が負荷され、テープ材Tの幅は、壁面間における距離と等しくなる。この場合、テープ材Tを構成する繊維の間隔が変化しないと仮定すれば、テープ材Tの横断面における断面積も変化しないため、テープ材Tの幅が小さくなった分、テープ材Tの厚さが厚くなる。つまり、テープ材Tの断面積が一定のまま、幅と厚さが変化する。
【0031】
従って、幅が徐々に減少する経路13の途中でテープ材Tを経路13の外部に導けば、テープ材Tの幅は、テープ材Tが経路13から離脱して壁面から離れた時の壁面間における間隔となる。このため、テープ材Tが経路13から離脱する位置を調節することによってテープ材Tの幅を調節することができる。
【0032】
尚、経路13を形成する壁面間の間隔は連続的に減少させても良いし、断続的に減少させても良い。換言すれば、経路13の幅を部分的に一定にし、少なくとも一部の幅が連続的に減少するようにしても良い。但し、経路13を形成する壁面間の間隔を断続的に減少させる場合には、経路13の内側に段差が生じないようにすることがテープ材Tをスムーズに送り出す観点から適切である。このため、経路13を形成する壁面間の間隔を断続的に減少させる場合には、例えば、互いに異なる一定の幅を有する2つの経路の間を、幅が連続的に減少する経路で連結することによって経路13を形成したり、幅が連続的に減少する2つの経路間を、幅が一定の経路で連結することによって経路13を形成することが適切である。以降では、テープ材T用の経路13の幅が連続的に減少する場合を例に説明する。
【0033】
テープ材Tが経路13の途中で経路13から離脱できるようにするためには、経路13の底面を凸状にすれば良い。すなわち、凸状の底面を有するテープ材T用の経路13を幅調整機構4に設ければ、壁面と底面に接触させたテープ材Tが壁面と底面から離れる位置を調整することによって、経路13を通過したテープ材Tの幅を変化させることができる。
【0034】
図1及び図2に示す例では、法線方向が連続的に変化する凸曲面状の底面を有する溝13Aが、テープ材T用の経路13として円柱状の部材14に形成されている。そして、テープ材T用の経路13として溝13Aを設けた円柱状の部材14が、コンパクションローラ10と、繊維束支持ローラ11との間に配置されている。このため、コンパクションローラ10と、繊維束支持ローラ11とによって張力を発生させたテープ材Tを、円柱状の部材14の溝13Aに挿入することができる。尚、部材14の形状は、円柱状に限らず、任意である。従って、部材14の形状を板状としたり、断面が矩形のブロック状としても良い。
【0035】
図3図1に示す幅調整機構4の拡大斜視図、図4図1に示す幅調整機構4の経路13をテープ材Tに対して相対的に回転させることによってテープ材Tの幅を調整する方法を説明する図、図5図4に示す幅調整機構4の拡大斜視図である。尚、図4では、制御装置7の図示が省略されている。
【0036】
図3に示すように溝13Aとして形成されるテープ材T用の経路13の入口における幅は、幅が調整される前のテープ材Tの幅以上に決定される。従って、幅が調整される前のテープ材Tの幅が複数種類ある場合には、最大の幅以上となるように経路13の入口における幅が決定される。
【0037】
このため、図3に示すように経路13の入口付近のみをテープ材Tが通るように経路13を配置すれば、テープ材Tの幅は変化しないか、変化したとしても僅かに幅が狭くなるのみでテープ材Tが経路13から離脱する。
【0038】
これに対して、図4及び図5に例示されるようにテープ材Tの長さ方向及び厚さ方向に垂直な軸を中心として、テープ材T用の経路13をテープ材Tに対して相対的に回転させると、テープ材Tが経路13から離脱する位置を変化させることができる。すなわち、テープ材T用の経路13の回転角度θを調整することによって、テープ材Tが経路13の壁面と底面から離れて経路13から離脱する位置を調整することができる。従って、テープ材T用の経路13の回転角度θを調整することによって、経路13を通過したテープ材Tの幅を調整することができる。
【0039】
経路13を形成した部材14を回転させることによって溝13Aからなる経路13の回転角度θを変化させた場合であっても、幅の調整前におけるテープ材Tの幅以上の幅を有する位置からテープ材Tを経路13に進入させることが、テープ材Tの厚さ方向への折り曲がりや均一性の低下を防止する観点から重要である。そのためには、経路13の回転角度θを変化させた場合であっても、経路13へのテープ材Tの進入位置を変化させないようにすることが適切である。つまり、経路13へのテープ材Tの進入位置を変えずに、離脱位置のみを変化させることによってテープ材Tの品質を低下させることなくテープ材Tの幅を可変調整することができる。
【0040】
そこで、経路13及び経路13を設けた部材14の回転角度θを角度Δθだけ変化させた場合に、経路13へのテープ材Tの進入位置及び経路13へのテープ材Tの進入位置に向かうテープ材Tの送り方向についても角度Δθだけ変化するように繊維束支持ローラ11を移動させることが適切である。具体例として、経路13を設けた部材14と繊維束支持ローラ11を連結シャフト15で連結し、繊維束支持ローラ11を円弧軌道に沿って回転移動させることができる。この場合、例えば、部材14の回転シャフトにモータ16の出力軸を直接又は間接的に連結し、モータ16の駆動によって経路13を設けた部材14とともに繊維束支持ローラ11を所望の角度Δθだけ回転移動させることができる。
【0041】
或いは、繊維束支持ローラ11の回転シャフトにシリンダ機構、ボールねじ又はラックアンドピニオン等の直線的な伸縮機構や移動機構の一端を回転自在に連結し、直線的な伸縮機構や移動機構の他端についても回転自在に他のリンクに連結することによって繊維束支持ローラ11を円弧軌道に沿って回転移動させるためのリンク機構を形成するようにしても良い。
【0042】
別の例として、繊維束支持ローラ11については回転移動させずに、経路13の回転角度θを変化させても経路13へのテープ材Tの進入位置が変化しないように繊維束支持ローラ11の回転軸に垂直な方向に繊維束支持ローラ11を平行移動させるようにしても良い。その場合には、繊維束支持ローラ11と、経路13を設けた部材14との間における距離を変化させることができるように、繊維束支持ローラ11と、経路13を設けた部材14を別々の支持部材で支持すれば良い。
【0043】
このように、繊維束支持ローラ11の移動方向及び移動機構は、テープ材Tの張力を維持しながら、経路13へのテープ材Tの進入位置が変化しないようにテープ材Tの進入位置に向かうテープ材Tの送り方向を変化させることが可能であれば任意である。逆に言えば、繊維束支持ローラ11を経路13の回転と連動して動力を有する移動機構で適切な方向に適切な距離だけ自動的に移動させれば、経路13の回転角度θを変化させてもテープ材Tの張力を維持しながら、経路13へのテープ材Tの進入位置が変化しないようにテープ材Tの進入位置に向かうテープ材Tの送り方向を変化させることができる。
【0044】
尚、幅調整装置1を作業者による手作業用の装置とする場合には、コンパクションローラ10の回転と同様に、操作用のレバー等を設けて、経路13を設けた部材14の回転と、繊維束支持ローラ11の移動を作業者が手動で行えるようにしても良い。
【0045】
また、テープ材Tが必ず通過する経路13の部分については、溝13Aとせずに貫通孔にしても良い。すなわち、テープ材Tが経路13に進入する位置となり得る範囲と、テープ材Tが経路13から離脱する位置となり得る範囲を除いて、溝13Aを閉塞し、経路13に上面を設けても良い。その場合、テープ材Tが意図しない位置において経路13から離脱することを防止することができる。
【0046】
テープ材Tがプリプレグである場合には、繊維束に含浸させた樹脂の粘性を十分に低下させて容易に変形できるようにすることが、テープ材Tの幅を変化させた後におけるテープ材Tの均一性を維持する観点から好ましい。樹脂の組成やプリプレグの変形量にも依るが、プリプレグの変形を容易にするためには、樹脂の温度を上昇させることが効果的である。
【0047】
一方、テープ材Tがドライテープ材である場合においても、熱可塑性バインダが付着している場合であれば、熱可塑性バインダを溶融させた状態でドライテープ材を賦形した後で、熱可塑性バインダを硬化させれば、賦形後におけるドライプリフォームの形状を保持することができる。
【0048】
そこで、幅調整機構4の経路13に入る前及び経路13から出た後の少なくとも一方のテープ材Tを加熱するための加熱装置5を必要に応じて設けることができる。加熱装置5の構成は、熱伝導、熱伝達及び輻射のいずれを利用してテープ材Tを加熱するものであっても良い。すなわち、電気式、流体循環式又は温風式等の所望の構成を有する加熱装置5を設けることができる。
【0049】
図示された例では、幅調整機構4によって幅が変化する前におけるテープ材Tを加熱するための第1の加熱装置5Aと、幅調整機構4によって幅が変化した後におけるテープ材Tを加熱するための第2の加熱装置5Bが備えられている。
【0050】
第1の加熱装置5Aは、例えば、図示されるようにテープ材Tの両面側から挟み込むガイド機能付の加熱装置とすることができる。別の例として、繊維束支持ローラ11に第1の加熱装置5Aを内蔵し、幅を変化させる前におけるプリプレグのテープ材Tを繊維束支持ローラ11で加熱するようにしても良い。
【0051】
幅を変化させる前におけるプリプレグのテープ材Tを第1の加熱装置5Aで加熱すれば、テープ材Tの変形を容易にすることができる。その結果、繊維の均一性等の品質をできるだけ低下させずに、テープ材Tの幅を変化させることが可能となる。
【0052】
一方、第2の加熱装置5Bは、例えば、図示されるように幅を変化させた後のテープ材Tの積層体を加熱できるように、テープ材Tを積層して賦形するための賦形型や成形型等の型17に内蔵することができる。もちろん、テープ材Tの両面側から挟み込むガイド機能付の加熱装置を、第2の加熱装置5Bとして設けても良い。或いは、積層済みのテープ材Tを表面側からスポット状に加熱する端子を第2の加熱装置5Bとして設けても良い。
【0053】
幅を変化させた後のテープ材T、特に、型17に積層されたテープ材Tの積層体を第2の加熱装置5Bで加熱すれば、プリフォームの賦形や賦形後におけるプリフォームの形状の保持を容易にすることが可能となる。すなわち、テープ材Tがプリプレグであればテープ材Tの変形が容易になるため、できるだけ型17にフィットさせた状態でテープ材Tを積層することができる。
【0054】
一方、テープ材Tが熱可塑性バインダを含むドライテープ材であれば、ドライテープ材の積層体に含まれる熱可塑性バインダを溶融させ、ドライプリフォームの賦形後に熱可塑性バインダを硬化することによってドライプリフォームの形状を保持することができる。また、スポット状に加熱する端子を設ければ、幅が調整されたドライテープ材を熱可塑性バインダで仮留めしながら積層することも可能となる。
【0055】
テープ材Tの連続的又は断続的な積層が完了すると、テープ材Tを切断することが必要となる。そこで、幅調整機構4の出口側にテープ材Tの切断装置6を設けることができる。切断装置6は、例えば、幅調整機構4の経路13を通過したテープ材Tを切断するカッター6Aと、カッター6Aで切断された後のテープ材Tの端部をガイドするガイド機構6Bで構成することができる。ガイド機構6Bはテープ材Tを両面側から挟み込む一対のローラや押付部材等で構成することができる。
【0056】
テーブル8は、プリプレグやドライテープ材等のテープ材Tを積層するために使用される積層型、賦形型或いは成形型等の型17を載置するための台座である。或いは、テーブル8に型17としての機能を設け、テーブル8に直接テープ材Tを積層するようにしても良い。換言すれば、テーブル8と型17を一体化しても良い。そして、幅調整機構4で幅が調整された後のテープ材Tをテーブル8上の型17に積層することによって繊維の積層体を製作することができる。
【0057】
型17が積層型であり、別の賦形型で繊維の積層体の賦形を行う場合には、型17に積層された繊維が賦形型に乗せ替えられる。逆に、型17が賦形型であれば、必要な加熱及び加圧を伴ってテープ材Tの積層と、賦形が型17を用いて実行される。そして、賦形後のプリフォームが成形型に乗せ替えられる。また、型17が複合材の成形型であれば、型17に載置された繊維の積層体に含まれる樹脂の加熱硬化によって複合材が成形される。このため、テープ材Tがドライテープ材であれば、真空引きを行って樹脂の注入が実行される。そして、樹脂を加熱硬化する際には、加熱の他、上型の押付や真空引きによって必要な加圧が実行される。このため、型17が賦形型又は成形型である場合には、繊維の積層体が載置された型17ごとオーブンやオートクレーブ装置等の加熱装置内に移動させるようにしても良い。
【0058】
移動機構9は、テーブル8と、経路13を通過したテープ材Tとの相対位置を変える装置である。図示された例では、移動機構9がテーブル8を互いに直交する3軸方向に移動させる装置となっているが、幅が調整されたテープ材Tの供給位置をテーブル8に対して移動させるようにしても良い。すなわち、図示された例であれば、コンパクションローラ10を含むテープ材Tの供給機構全体をテーブル8に対して移動させるようにしても良い。もちろん、移動機構9でテーブル8と、幅が調整されたテープ材Tの供給位置の双方を移動できるようにしても良いし、任意の軸を中心に回転移動できるようにしても良い。
【0059】
移動機構9は、レールや軌道上を走行する車輪を備えた走行機構、スプロケットの回転によって回転するチェーンやローラで移動するベルト等のクローラ(無限軌道)、ラック・アンド・ピニオン、シリンダ機構並びにボールネジ等の公知の所望の機構を用いて構成することができる。
【0060】
移動機構9でテーブル8を相対移動させることによっても、積層後におけるテープ材Tの張力やコンパクションローラ10と積層体の厚さ方向に隣接する別のテープ材Tとの間におけるテープ材Tの摩擦力によってテープ材Tを送り出すことができる。このため、コンパクションローラ10をモータ12等の動力源で回転させずに、テーブル8の相対移動とテープ材Tとの間における摩擦力によって受動的に回転させるようにしても良い。
【0061】
制御装置7は、幅調整装置1を設けた自動積層装置2を統括制御する装置である。すなわち、制御装置7は、送り機構3、幅調整機構4、加熱装置5、切断装置6及び移動機構9等の各構成要素に制御信号を出力することによって各構成要素が自動的又は部分的に必要な手動操作を伴って半自動的に動作するように制御する機能を有している。制御信号は、電気信号に限らず、油圧信号や空気圧信号としても良い。従って、制御装置7は、電気信号、油圧信号又は空気圧信号等の制御信号を生成して出力する信号処理回路で構成することができる。
【0062】
制御装置7には、幅調整装置1を設けた自動積層装置2を制御するために必要な情報を入力するための入力装置7Aと、幅調整装置1を設けた自動積層装置2を制御するために必要な情報を表示させるための表示装置7Bを設けることができる。
【0063】
具体例として、製作対象となるテープ材Tの幅を入力装置7Aの操作によって制御装置7に指示することができる。そのために、製作対象となるテープ材Tの幅と、テープ材T用の経路13の回転角度θとの関係を示すテーブルや関数等の参照情報を、制御装置7に備えられる記憶装置7Cに保存しておくことができる。すなわち、幅調整機構4の経路13から離脱するテープ材Tの幅を、経路13の回転角度θに変換するための変換情報を参照情報として記憶装置7Cに保存しておくことができる。参照情報は、幾何学的な計算、シミュレーションによる計算或いは試験によって予め取得しておくことができる。
【0064】
そうすると、製作対象となるテープ材Tの幅の指示情報を入力装置7Aから制御装置7の演算装置7Dに入力すると、演算装置7Dでは、記憶装置7Cに保存された参照情報を参照することによって、経路13の回転角度θの制御値を求めることができる。そして、経路13の回転角度θが制御値となるように演算装置7Dにおいて制御信号を生成し、生成した制御信号をモータ16等の経路13の回転角度θを変化させるための装置に出力することができる。
【0065】
製作対象となるテープ材Tの幅は、一定に限らず、変化させることもできる。すなわち、送り機構3によってテープ材Tを送り出しながら、経路13の回転角度θを変化させれば、幅が一定でないテープ材T、すなわち横断面の位置によって幅が異なるテープ材Tを製作することが可能となる。幅が一定でないテープ材Tを製作する場合には、送り機構3によるテープ材Tの送り出しと、テープ材Tに対する経路13の相対的な回転移動とを連動させる統括制御を制御装置7が行うようにすれば良い。
【0066】
より具体的には、テープ材Tの単位長さ当たりの幅の変化量や変化率の指示情報を入力装置7Aから制御装置7の演算装置7Dに入力し、指示された変化量や変化率でテープ材Tの幅が変化するように、演算装置7Dにおいてテープ材Tの送り出し速度と、経路13の回転角度θの角速度を算出することができる。そして、算出した速度でテープ材Tが送り出される一方、算出した角速度で経路13の回転角度θが変化するように、送り機構3を動作させるためのモータ12等の駆動装置と、幅調整機構4に形成される経路13の回転角度θを変化させるためのモータ16等の駆動装置とを、演算装置7Dが同期制御することができる。これにより、幅が徐々に減少又は増加する放射状のテープ材Tや幅が部分的に狭くなっているテープ材T等を製作することが可能となる。
【0067】
同様に、テーブル8の移動機構9についてもテーブル8がテープ材Tの送り出し速度に対応する適切な速度で相対移動するように、制御装置7で同期制御を行うことができる。すなわち、テーブル8が送り機構3の作動に連動して移動するように、制御装置7の演算装置7Dにおいて生成した制御信号を移動機構9の制御装置9Aに出力することができる。
【0068】
また、上述したように送り機構3を構成するコンパクションローラ10を自由回転とする場合には、テーブル8の相対速度が、テープ材Tの送り出し速度となる。従って、送り機構3を動作させるためのモータ12等の駆動装置に代えて、移動機構9の制御装置9Aがテープ材Tの送り出し速度を決定するための制御の対象となる。
【0069】
幅の変化量が僅かなテープ材Tや複雑な形状を有するテープ材Tを製作する場合であれば、送り機構3、幅調整機構4及び移動機構9を同期制御するための制御プログラムを予め作成して制御装置7の記憶装置7Cに保存しておき、幅調整装置1を備えた自動積層装置2全体を制御プログラムで自動運転させることもできる。逆に、幅が一定である単純な形状を有するテープ材Tを製作する場合には、テープ材Tの送り出し中に経路13の回転角度θが固定されるため、幅調整機構4については自動制御せずに手動で調整する構成にすることもできる。
【0070】
(繊維の幅調整方法及び複合材成形方法)
次に幅調整装置1を用いて幅が調整されたテープ材Tを製作し、幅が調整されたテープ材Tを素材として複合材を成形する方法について説明する。
【0071】
図6図1に示すテープ材Tとしてプリプレグのシートを積層して複合材を成形する場合の流れを示すフローチャートである。
【0072】
まずステップS1において、プリプレグテープからなるテープ材Tの幅が幅調整装置1で調整される。例えば、ユーザが入力装置7Aの操作によってテープ材Tの幅を指示する情報を制御装置7の演算装置7Dに入力すると、演算装置7Dは、記憶装置7Cに保存された参照情報を参照することによって、幅調整機構4の部材14に幅が徐々に減少するように形成されたテープ材T用の経路13の回転角度θの制御値を求める。すなわち、テープ材Tが調整後のテープ材Tの幅と略等しい幅を有する経路13の位置から離脱するように、テープ材Tの送り出し方向に対する経路13の相対的な傾斜角度が、調整後のテープ材Tの幅と、経路13の回転角度θとの関係を示す情報に基づいて求められる。
【0073】
経路13の回転角度θの制御値は、制御装置7の演算装置7Dから部材14を回転させるための制御信号としてモータ16に出力される。そうすると、モータ16が駆動し、部材14に形成されたテープ材T用の経路13の回転角度θが目的とする角度となる。すなわち、部材14に形成されたテープ材T用の経路13に、テープ材Tを送り込んだ場合に、テープ材Tが調整後のテープ材Tの幅と略等しい幅を有する経路13の位置から離脱するように、テープ材T用の経路13を設けた部材14の位置決めが行われる。
【0074】
他方、制御装置7の演算装置7Dから送り機構3に備えられるコンパクションローラ10を回転させるためのモータ12と、型17が載置されたテーブル8を移動させる移動機構9の制御装置9Aに制御信号が出力される。このため、モータ12の回転駆動によってコンパクションローラ10が回転する一方、制御装置9Aによる制御下における移動機構9の駆動によってテーブル8がテープ材Tの送り出し方向に移動する。
【0075】
その結果、ストック用のローラ等から供給されるテープ材Tが繊維束支持ローラ11でガイドされながら幅調整機構4の経路13に向かってテープ材Tの長さ方向に送り出される。テープ材Tが幅調整機構4の経路13に進入すると、経路13の回転角度θが調整後のテープ材Tの幅に合わせて調整されているため、調整後のテープ材Tの幅と略等しい幅を有する経路13の位置からテープ材Tが離脱する。このため、幅調整機構4の経路13を通過したテープ材Tの幅は、目的とする幅となる。
【0076】
従って、テープ材Tをテープ材Tの長さ方向に送り出しながら幅調整機構4の経路13をテープ材Tに対して相対的に回転移動させれば、幅が一定でないテープ材Tを製作することも可能である。すなわち、幅調整機構4に形成されたテープ材T用の経路13のうち、テープ材Tが壁面及び底面と接触しながら通過する経路13の部分を調整することによって、経路13を通過したテープ材Tの幅を変化させることができる。
【0077】
尚、幅調整機構4の経路13にテープ材Tを第1の加熱装置5Aで加熱すれば、樹脂の流動性が増加するため、テープ材Tの幅と厚さを変化させるための変形が容易となる。幅調整機構4の経路13を通過したテープ材Tはコンパクションローラ10に到達し、テーブル8に載置された型17に向かって送り出される。
【0078】
テープ材Tの先端がコンパクションローラ10や切断装置6のガイド機構6B等に到達するまでは、テープ材Tの張力が不十分となる場合がある。その場合、テープ材Tが経路13内の意図した部分を経由せず、幅が適切に調整されない恐れがある。このため、幅が適切に調整されないテープ材Tの先端部分については切断装置6のカッター6Aで切断することができる。或いは、予めテープ材Tに張力が生じるようにテープ材Tを切断装置6のガイド機構6B、コンパクションローラ10或いはその他の支持部品と繊維束支持ローラ11との間にセットした状態で、テープ材Tの送り出しを開始するようにしても良い。
【0079】
次にステップS2において、繊維の幅調整装置1で幅が調整されたテープ材T、すなわち所定の幅と厚さを有するプリプレグテープがテーブル8に載置された型17に積層される。すなわち、テーブル8に載置された型17がプリプレグテープの送り出し方向に相対移動するため、プリプレグテープは型17の上に敷かれる。型17が凹凸を有する場合や曲面を有する場合であれば、コンパクションローラ10でプリプレグテープをテーブル8上の型17に十分な圧力で押しつけながら敷くことができるように、必要に応じて移動機構9でテーブル8をプリプレグテープの厚さ方向に移動させるようにしても良い。
【0080】
テーブル8が移動してプリプレグテープが型17の縁まで敷かれた場合には、プリプレグテープがカッター6Aで切断される。その後、型17の上に敷かれた後のプリプレグテープの上にプリプレグテープが敷かれる。このような、プリプレグテープの積層を繰返すと、プリプレグの積層体が完成する。プリプレグに含まれる樹脂は粘着性を有し、容易に変形するため、型17の上に積層するのみでも、型17の形状に賦形できる場合が多い。但し、必要に応じて、第2の加熱装置5Bで積層中のプリプレグを加熱し、プリプレグが型17にフィットし易くなるようにしても良い。
【0081】
次にステップS3において、プリプレグの積層体が加圧される。プリプレグの積層体の代表的な加圧方法としては、上型を押し付ける方法と、バギングを行って大気圧を負荷する方法が挙げられる。いずれの場合においても、プリプレグの積層体を型17とともにテーブル8から下ろしてから加圧するようにしても良い。また、プリプレグの積層体を型17から取外して他の部品と組合わせてから加圧しても良い。
【0082】
次にステップS4において、プリプレグの積層体が加熱硬化される。すなわち、プリプレグの積層体がオートクレーブ装置やオーブン等の加熱装置で加熱される。プリプレグの積層体が加熱されると、樹脂が硬化し、FRP複合材を製作することができる。
【0083】
図7図1に示すテープ材Tとしてドライテープ材を積層して複合材を成形する場合の流れを示すフローチャートである。
【0084】
まずステップS10において、テープ材Tがプリプレグテープである場合と同様な流れで、ドライテープ材からなるテープ材Tの幅が幅調整装置1で調整される。次にステップS11において、繊維の幅調整装置1で幅が調整されたテープ材T、すなわち所定の幅と厚さを有するドライテープ材がテーブル8に載置された型17に積層される。ドライテープ材の積層についても、プリプレグテープの積層と同様である。
【0085】
次にステップS12において、ドライテープ材の積層体の賦形が行われる。代表的なドライテープ材の賦形方法としては、型を押し付けて形状を付与する方法と、バギングを行って大気圧を負荷する方法が挙げられる。ドライテープ材の積層体の賦形は、型17を用いて行っても良いし、別の賦形型を用いて行っても良い。
【0086】
また、熱可塑性バインダや熱硬化性バインダ等のバインダを含むドライテープ材の賦形を行う場合には、ドライテープ材をスポット状に加熱してバインダで仮留めしながらドライテープ材を積層したり、賦形時にドライテープ材の積層体全体を加熱してバインダを溶融又は硬化させることが、賦形後におけるドライプリフォームの形状を保持するために効果的である。そこで、第1の加熱装置5A及び第2の加熱装置5Bの一方又は双方でドライテープ材を加熱しながらドライテープ材の積層と賦形を行うようにしても良い。
【0087】
ドライテープ材の積層体の賦形が完了すると、複合材の形状に対応する形状を有する繊維の積層体として、ドライプリフォームを得ることができる。得られたドライプリフォームは、別の成形型に乗せ替えても良いし、同じ賦形型を用いて次工程の作業を行うようにしても良い。
【0088】
次にステップS13において、ドライプリフォームを構成する繊維に樹脂が含浸される。具体的には、ドライプリフォームがバギングされている場合であれば、バギングフィルムで密閉されている空間に液状の樹脂が注入される。一方、ドライプリフォームが型で挟み込まれた空間に設置されている場合であれば、型で挟み込まれた空間を真空状態として液状の樹脂が注入される。これにより、繊維に樹脂を含浸させることができる。
【0089】
次にステップS14において、ドライプリフォームを構成する繊維に含浸させた樹脂の加熱硬化が行われる。すなわち、プリプレグの積層体の加熱硬化と同様に、加熱装置で樹脂が加熱される。これにより、樹脂が硬化し、FRP複合材を製作することができる。
【0090】
(効果)
以上のような繊維の幅調整装置1、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法は、幅が次第に変化するテープ材T用の経路13を準備し、テープ材Tが経路13から離脱する位置を調節することによってテープ材Tの幅を変えるようにしたものである。
【0091】
このため、繊維の幅調整装置1、繊維の幅調整方法及び複合材成形方法によれば、プリプレグテープやドライテープ材等のテープ材Tの幅を容易に可変調整することができる。特に、幅が連続的に変化するテープ材Tを製作することも可能である。その結果、繊維の積層についての自由度が向上し、曲率を有する湾曲した複合材部品のように幅の変化を有する複雑な形状を有する複合材であっても、テープ材Tを隙間なく積層して成形することが可能となる。
【0092】
(第2の実施形態)
図8は本発明の第2の実施形態に係る繊維の幅調整装置1Aを設けた自動積層装置2の構成を示す正面図である。
【0093】
図8に示された第2の実施形態における幅調整装置1Aは、テープ材T用の経路13を設けた部材14を回転移動させる代わりに平行移動させるようにした点が第1の実施形態における幅調整装置1と相違する。第2の実施形態における他の構成及び作用については第1の実施形態と実質的に異ならないため同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0094】
図8に示すように移動機構20で幅調整機構4の経路13をテープ材Tの厚さ方向に相対的に平行移動させることによっても、テープ材Tが経路13の壁面と底面から離れて離脱する位置を調整することができる。すなわち、経路13の底面をテープ材Tに押し付ける方向に経路13を設けた部材14を平行移動させると、テープ材Tが経路13の底面に接触する長さが長くなる。従って、テープ材Tが経路13から離脱する位置における経路13の幅は狭くなる。逆に、経路13の底面がテープ材Tから引離される方向に経路13を設けた部材14を平行移動させると、テープ材Tが経路13の底面に接触する長さが短くなる。従って、テープ材Tが経路13から離脱する位置における経路13の幅は広くなる。
【0095】
このため、経路13を設けた部材14の平行移動量を調節することによって、テープ材Tの幅を調整することができる。経路13を設けた部材14を平行移動させるための移動機構20の具体例としては、レールや軌道上を走行する車輪を備えた走行機構、スプロケットの回転によって回転するチェーンやローラで移動するベルト等のクローラ、ラック・アンド・ピニオン、シリンダ機構並びにボールネジ等が挙げられる。
【0096】
尚、経路13を設けた部材14を直線的に平行移動させずに、曲線状の軌跡を描くように移動させても良い。具体例として、振り子の先端に経路13を設けた部材14を固定し、経路13を円弧上の軌道に沿ってテープ材Tに経路13の底面を押し付ける方向と引き離す方向に移動させることができる。その場合には、移動機構20をモータで回転するシャフトで構成することもできる。
【0097】
移動機構20の平行移動量や回転角度の変化量は、制御装置7で自動制御することができる。すなわち、テープ材Tが経路13から離脱する位置が、目的とする位置となるように、制御装置7から移動機構20の制御量を指示する制御信号が移動機構20に出力される。逆に、移動機構20を作業者が手動で操作できるようにしても良い。
【0098】
以上の第2の実施形態によれば、テープ材T用の経路13を設けた部材14を移動させるための移動機構20の構成を簡易にすることができる。加えて、繊維束支持ローラ11の移動を不要にすることができる。
【0099】
但し、テープ材Tの幅をより細かく調整できるように、テープ材T用の経路13を設けた部材14の回転移動と平行移動の双方を行えるようにしても良い。すなわち、第1の実施形態と第2の実施形態とを互いに組合わせても良い。
【0100】
(第3の実施形態)
図9は本発明の第3の実施形態に係る繊維の幅調整装置1Bに備えられる部材14Aの構成を示す拡大正面図であり、図10図9に示す部材14Aの左側面図である。
【0101】
図9及び図10に示された第3の実施形態における幅調整装置1Bは、テープ材T用の経路13を設けた部材14Aの構造が第1及び第2の実施形態における幅調整装置1、1Aと相違する。第3の実施形態における他の構成及び作用については第1及び第2の実施形態と実質的に異ならないためテープ材T用の経路13を設けた部材14Aの構造のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0102】
幅が徐々に狭くなるテープ材T用の経路13は、溝13Aを形成する代わりに、図9及び図10に例示されるように部材14Aの凸曲面状の表面に、間隔が連続的に狭くなる2つのフランジ30を形成することによっても、形成することができる。実用的な例として、全体又は一部が円筒状又は円柱状となっている部材14Aの湾曲した凸面に、2本のフランジ30を長さ方向が平行とならないように形成することによって、テープ材T用の経路13を設けた部材14Aを製作することができる。
【0103】
尚、溝13Aを形成する場合と同様に、テープ材Tの経路13への進入位置及びテープ材Tの経路13からの離脱位置とならない範囲については、フランジ30の上面同士を板材等で連結し、経路13に上面を形成するようにしても良い。
【0104】
以上の第3の実施形態によれば、テープ材T用の経路13を設けた部材14Aの構造が単純化されるため、設計及び製作が容易となる。
【0105】
(第4の実施形態)
図11は本発明の第4の実施形態に係る繊維の幅調整装置に備えられる部材14Bの構成を示す拡大正面図であり、図12図11に示す部材14Bの左側面図である。
【0106】
図11及び図12に示された第4の実施形態における幅調整装置1Cは、テープ材T用の経路13を設けた部材14Bの構造が他の実施形態における幅調整装置1、1A、1Bと相違する。第4の実施形態における他の構成及び作用については他の実施形態と実質的に異ならないためテープ材T用の経路13を設けた部材14Bの構造のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0107】
幅が徐々に狭くなるテープ材T用の経路13は、図11及び図12に例示されるように法線方向が異なる複数の平面を連結して形成される底面を有する経路13として部材14Bに形成しても良い。経路13は、第1及び第2の実施形態のように溝13Aによって形成しても良いし、第3の実施形態のように2本のフランジ30間における空隙として形成しても良い。図11及び図12に示す例では、2本のフランジ30間における空隙としてテープ材T用の経路13が形成されている。
【0108】
経路13の底面が凸状の曲面ではなく、複数の平面を凸状となるように連結した面である場合には、テープ材Tの経路13への進入位置とテープ材Tの経路13からの離脱位置が、隣接する平面間における境界部分となる。すなわち、テープ材Tの経路13への進入方向と、テープ材Tの経路13からの離脱方向が、それぞれ経路13の底面を形成する複数の平面のうちのいずれかと平行となる。
【0109】
このため、経路13を設けた部材14Bの回転移動や平行移動等の移動を連続的に行わずに段階的に行う制御を行うことが適切である。すなわち、テープ材Tの経路13への進入方向と、テープ材Tの経路13からの離脱方向が、それぞれ経路13の底面を形成する複数の平面のうちのいずれかと平行となるように部材14Bをテープ材Tに対して相対移動させることが適切である。
【0110】
以上の第4の実施形態によれば、テープ材T用の経路13を設けた部材14Bの構造が一層単純化されるため、設計及び製作が一層容易となる。
【0111】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0112】
1、1A、1B、1C 幅調整装置
2 自動積層装置
3 送り機構
4 幅調整機構
5 加熱装置
5A 第1の加熱装置
5B 第2の加熱装置
6 切断装置
6A カッター
6B ガイド機構
7 制御装置
7A 入力装置
7B表示装置
7C記憶装置
7D演算装置
8 テーブル
9 移動機構
9A 制御装置
10 コンパクションローラ
11 繊維束支持ローラ
12 モータ
13 経路
13A 溝
14、14A、14B 部材
15 連結シャフト
16 モータ
17 型
20 移動機構
30 フランジ
T テープ材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12