IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 電気化学工業株式会社の特許一覧

特許7104620アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品
<>
  • 特許-アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品 図1
  • 特許-アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品 図2
  • 特許-アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品 図3
  • 特許-アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】アルミニウム-ダイヤモンド系複合体及び放熱部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 26/00 20060101AFI20220713BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20220713BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220713BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20220713BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
C22C26/00 Z
H01L23/36 M
H01L23/36 Z
C22C19/03 G
C22C21/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018505271
(86)(22)【出願日】2016-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2016089005
(87)【国際公開番号】W WO2017158993
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2019-12-11
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】P 2016051571
(32)【優先日】2016-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 庸介
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健志
(72)【発明者】
【氏名】塚本 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】小柳 和則
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】境 周一
【審判官】粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/035789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であって、全面が平均膜厚0.01~0.2mmのアルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層で被覆されているアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項2】
体積基準による粒度の頻度分布において、第一ピークが粒径5~25μmにあり、第二ピークが粒径55~195μmにあり、第一ピーク及び第二ピークのうち一方は最も高いピークで他方は二番目に高いピークであり、且つ、粒径1~35μmの面積(A1)と粒径45~205μmの面積(A2)との比率がA1:A2=1:9~4:6であるダイヤモンド粉末50体積%~80体積%を含有する請求項1に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項3】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の各辺厚みの寸法誤差が、基準値である10.000mm×10.000mm×2.000mmtに対して±0.020mm以下である請求項1又は2に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項4】
前記表面層上に当該表面層側から順に膜厚が0.5μm~6.5μmのNi層、膜厚が0.05μm以上のAu層からなる表面金属層を有する請求項1~3の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項5】
表面金属層のピール強度が50N/cm以上である請求項4に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項6】
全面の表面粗さ(Ra)が1μm以下である請求項1~5の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項7】
温度25℃での熱伝導率が400W/mK以上である請求項1~6の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項8】
温度25℃から150℃の線膨張係数が5×10-6~10×10-6/Kである請求項1~7の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項9】
ダイヤモンド粉末を構成する各ダイヤモンド粒子は、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層を有する請求項1~8の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体からなる半導体素子用放熱部品。
【請求項11】
半導体素子が、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子である請求項10に記載の半導体素子用放熱部品。
【請求項12】
ダイヤモンド粉末を用意する工程1と、
アルミニウムを含有するセラミックス及びアルミニウムを含有する金属材料から選択される1種以上のアルミニウム含有材料を用意する工程2と、
上下両面にアルミニウム含有材料を配置した前記ダイヤモンド粉末の層を更に離型板で上下から挟んだ状態で前記ダイヤモンド粉末を多孔質体からなる型材のキャビティに充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を上下両面に有する平板形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の前駆体を作製する工程3と、
前駆体の全側面にはアルミニウム含有材料が配置され、前駆体の上下両面には離型板が配置された状態で、多孔質体からなる型材のキャビティに前駆体を充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を全側面に有する平板形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製する工程4と、
を含む全面が表面層で被覆されているアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項13】
ダイヤモンド粉末は、体積基準による粒度の頻度分布において、第一ピークが粒径5~25μmにあり、第二ピークが粒径55~195μmにあり、且つ、粒径1~35μmの面積(A1)と粒径45~205μmの面積(A2)との比率がA1:A2=1:9~4:6である請求項12に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項14】
工程3では0.02mm以上の厚みの表面層が上下両面に形成されるようにダイヤモンド粉末の層の上下両面にアルミニウム含有材料を配置する請求項12又は13に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項15】
前駆体に対して、目的とする平板形状の平面寸法から0.02~0.2mm小さい寸法となるように当該前駆体を厚み方向に切断加工する工程3’を工程3及び工程4の間に実施し、工程4では0.02mm以上の平均厚みの表面層が全側面に形成されるように前駆体の全側面にアルミニウム含有材料を配置する請求項12~14の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項16】
工程4の後、全面の表面層を研削する工程5を含む請求項12~15の何れか一項に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項17】
工程3’は寸法誤差が±0.050mm超かつ±0.100mm以下になるように実施する請求項15に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【請求項18】
工程5は寸法誤差が±0.020mm以下となるように実施する請求項16に記載のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体に関する。また、本発明はアルミニウム-ダイヤモンド系複合体からなる放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光通信等に用いられる半導体レーザー素子や高周波素子等の半導体素子では、同素子から発生する熱を如何に効率的に逃がすかが、動作不良等を防止する為に非常に重要である。近年、半導体素子の技術の進歩に伴い、素子の高出力化、高速化、高集積化が進み、ますます、その放熱に対する要求は厳しくなってきている。この為、一般には、ヒートシンク等の放熱部品に対しても、高い熱伝導率が要求され、熱伝導率が390W/mKと高い銅(Cu)が用いられている。
【0003】
一方、個々の半導体素子は、高出力化に伴いその寸法が大きくなってきており、半導体素子と放熱に用いるヒートシンクとの熱膨張のミスマッチの問題が顕在化してきた。これらの問題を解決する為には、高熱伝導という特性と半導体素子との熱膨張率のマッチングを両立するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、金属とセラミックスの複合体、例えばアルミニウム(Al)と炭化珪素(SiC)の複合体が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、Al-SiC系の複合体においては、如何に条件を適正化しても熱伝導率は300W/mK以下であり、銅の熱伝導率以上の更に高い熱伝導率を有するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、ダイヤモンドの持つ高い熱伝導率と金属の持つ大きな熱膨張率とを組み合わせて、高熱伝導率で且つ熱膨張係数が半導体素子材料に近い、金属-ダイヤモンド複合体が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、特許文献3では、ダイヤモンド粒子の表面にβ型のSiC層を形成することで、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物の生成を抑えると共に、溶融金属との濡れ性を改善して、得られる金属-ダイヤモンド複合体の熱伝導率を改善している。
【0006】
更に、ダイヤモンドは非常に硬い材料である為、金属と複合化して得られる金属-ダイヤモンド複合体も同様に非常に硬く、難加工性材料である。このため、金属-ダイヤモンド複合体は、通常のダイヤモンド工具では、殆ど加工することが出来ず、小型で種々の形状が存在するヒートシンクとして、金属-ダイヤモンド複合体を使用するには、如何に低コストで形状加工を行うかが課題である。この様な課題に対して、レーザー加工、ウォータージェット加工、更には、金属-セラミックス複合体は、通電が可能であり、放電加工による加工方法も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-157773号公報
【文献】特開2000-303126号公報
【文献】特表2007-518875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体素子用の放熱部品では、素子との接合の為、放熱部品表面は、めっき等による金属層を付加する必要がある。本発明のようなヒートシンク用材料の使用形態としては、通常、半導体素子の発熱を効率よく放熱する為に、半導体素子に対してヒートシンクがロウ材等で接合される形で接触配置されている。この為、接合面に金めっきを付加した多層めっき等が用いられている。このようなロウ材等で接合される場合、接合界面の面精度が放熱に対して重要であるが、従来の金属-ダイヤモンド複合体の場合、表面全体にダイヤモンド粒子が露出しているため、めっき密着性が悪く、また接合面にダイヤモンド粒子が露出しているため、接合面の面粗さが粗く、その結果、接触界面の熱抵抗が増大して好ましくない。このため、ヒートシンク用材料に求められる特性として、表面の面粗さを如何に小さくするかといった課題がある。
【0009】
また、半導体素子をヒートシンク材に接合した後のパッケージ化の工程において、ヒートシンク材がフレーム、溝部等に配置されるため、ヒートシンク材の寸法精度が要求される。金属-ダイヤモンド複合体の場合、ダイヤモンド粒子を含むため加工精度が悪く、厚み加工は難しく、特に小型形状ではより困難になる。このため、如何に寸法精度を高くするかが課題となる。
【0010】
また、特にレーザー発振パッケージ用途においてレーザー素子をアレイ状に配置する場合には、レーザー素子間にヒートシンク材料が配置されて溝部等にセットされるため、ヒートシンク材料の寸法誤差および平面度を小さくする必要がある。
【0011】
即ち、本発明の目的の一つは、高い寸法精度で加工可能であり、好ましくは更に半導体素子のヒートシンク等として使用するのに好適な熱伝導率と熱膨張率を兼ね備えたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は一側面において、平板状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体であって、全面が平均膜厚0.01~0.2mmのアルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層で被覆されているアルミニウム-ダイヤモンド系複合体である。
【0013】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一実施形態においては、体積基準による粒度の頻度分布において、第一ピークが粒径5~25μmにあり、第二ピークが粒径55~195μmにあり、第一ピーク及び第二ピークのうち一方は最も高いピークで他方は二番目に高いピークであり、且つ、粒径1~35μmの面積(A1)と粒径45~205μmの面積(A2)との比率がA1:A2=1:9~4:6であるダイヤモンド粉末50体積%~80体積%を含有する。
【0014】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の別の一実施形態においては、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の各辺および厚みの寸法誤差が±0.020mm以下である。
【0015】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、前記表面層上に当該表面層側から順に膜厚が0.5μm~6.5μmのNi層、膜厚が0.05μm以上のAu層からなる表面金属層を有する。
【0016】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、表面金属層のピール強度が50N/cm以上である。
【0017】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、全面の表面粗さ(Ra)が1μm以下である。
【0018】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、温度25℃での熱伝導率が400W/mK以上である。
【0019】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、温度25℃から150℃の線膨張係数が5×10-6~10×10-6/Kである。
【0020】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の更に別の一実施形態においては、ダイヤモンド粉末を構成する各ダイヤモンド粒子は、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層を有する。
【0021】
本発明は別の一側面において、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体からなる半導体素子用放熱部品である。
【0022】
本発明に係る半導体素子用放熱部品の一実施形態においては、半導体素子が、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子である。
【0023】
本発明は更に別の一側面において、
ダイヤモンド粉末を用意する工程1と、
アルミニウムを含有するセラミックス及びアルミニウムを含有する金属材料から選択される1種以上のアルミニウム含有材料を用意する工程2と、
上下両面にアルミニウム含有材料を配置した前記ダイヤモンド粉末の層を更に離型板で上下から挟んだ状態で前記ダイヤモンド粉末を多孔質体からなる型材のキャビティに充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を上下両面に有する平板形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の前駆体を作製する工程3と、
前駆体の全側面にはアルミニウム含有材料が配置され、前駆体の上下両面には離型板が配置された状態で、多孔質体からなる型材のキャビティに前駆体を充填し、溶湯鍛造法によりアルミニウムを含有する金属を含浸させて、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有する表面層を全側面に有する平板形状のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製する工程4と、
を含む全面が表面層で被覆されているアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製造方法である。
【0024】
本発明に係る製造方法の一実施形態においては、ダイヤモンド粉末は、体積基準による粒度の頻度分布において、第一ピークが粒径5~25μmにあり、第二ピークが粒径55~195μmにあり、且つ、粒径1~35μmの面積(A1)と粒径45~205μmの面積(A2)との比率がA1:A2=1:9~4:6である。
【0025】
本発明に係る製造方法の別の一実施形態においては、工程3では0.02mm以上の厚みの表面層が上下両面に形成されるようにダイヤモンド粉末の層の上下両面にアルミニウム含有材料を配置する。
【0026】
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、前駆体に対して、目的とする平板形状の平面寸法から0.02~0.2mm小さい寸法となるように当該前駆体を厚み方向に切断加工する工程3’を工程3及び工程4の間に実施し、工程4では0.02mm以上の厚みの表面層が全側面に形成されるように前駆体の全側面にアルミニウム含有材料を配置する。
【0027】
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、工程4の後、全面の表面層を研削する工程5を含む。
【0028】
本発明に係る製造方法の更に別の一実施形態においては、工程3’は寸法誤差が±0.050mm超かつ±0.100mm以下になるように実施し、工程5は寸法誤差が±0.020mm以下となるように実施する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、寸法誤差の小さなアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることが可能となる。また、本発明の好適な実施形態によれば、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、平面度および平行度が小さく、さらには、高負荷での実使用においても、表面金属層部分に膨れやクラック等の発生を抑制できるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、半導体素子の放熱用ヒートシンク等として好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体からなる放熱部品の概念的な構造図である。
図2】本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体作製における溶湯鍛造のための構造体の概念的な断面図である。
図3図4のA-A’線断面図であり、本発明の一実施形態に関わるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の側面への表面層形成における溶湯鍛造のための構造体の概念的断面図である。
図4】本発明の一実施形態に関わるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の側面への表面層形成における溶湯鍛造のための構造体を上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[用語の説明]
本明細書において、「~」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。例えば、「A~B」というのは、A以上でありB以下であるという意味である。
【0032】
本明細書において、「両面」とは、平板状の部材について、表面および裏面の両方の主面を意味する。また本明細書において、「側面」とは、平板状の部材について、上記両面の周囲をめぐり、両面に対して略垂直の面を意味する。
【0033】
図1には、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体10の一実施形態に係る断面構造が示されている。アルミニウム-ダイヤモンド系複合体10は平板状であり、アルミニウム-ダイヤモンド系複合化部11と該複合化部11の両面及び側面を含む全面を被覆する表面層12を有する。複合化部11はアルミニウム又はアルミニウム合金のマトリクスと、当該マトリクス中に分散したダイヤモンド粉末とで構成される複合材料で構成されており、表面層12はアルミニウムを含有する金属を含む材料からなる。上記ダイヤモンド粒子の含有量は、上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体10全体の50体積%~80体積%である。
【0034】
表面層12上には半導体素子と接続するためのロウ材の働きをする表面金属層13を設けることが好ましい。表面金属層13は例えばNi層13a及びAu層13bで構成することができる。
【0035】
本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の一実施形態においては、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、且つ寸法誤差、平面度および平行度が小さく、高負荷での実使用においても、表面金属層部分の膨れ等の発生を抑制できる。このため、本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、半導体素子の放熱用ヒートシンク等の放熱部品として好ましく用いられる。
【0036】
以下、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の種々の実施形態について、溶湯鍛造法による製造方法と共に詳しく説明する。
【0037】
(第一の含浸工程)
ここで、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の製法は、大別すると含浸法と粉末冶金法の2種がある。このうち、熱伝導率等の特性面から、実際に商品化されているのは、含浸法によるものが多い。含浸法にも種々の製法が有り、常圧で行う方法と、高圧下で行う高圧鍛造法がある。高圧鍛造法には、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。本発明に好適な方法は、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法であり、熱伝導率等の特性に優れた緻密な複合体を得るには溶湯鍛造法が好ましい。溶湯鍛造法とは、一般的に、高圧容器内に、ダイヤモンド等の粉末又は成形体を装填し、これにアルミニウム合金等の溶湯を高温、高圧下で含浸させて複合材料を得る方法である。
【0038】
[ダイヤモンド粉末]
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の原料であるダイヤモンド粉末は、天然ダイヤモンド粉末もしくは人造ダイヤモンド粉末のいずれも使用することができる。また、該ダイヤモンド粉末には、必要に応じて、例えばシリカ等の結合材を添加してもよい。結合材を添加することにより、成形体を形成することができるという効果を得ることができる。
【0039】
ダイヤモンド粉末の粒度に関しては、熱伝導率の点から、体積基準による粒度の頻度分布において、第一ピークの粒径が5μm~25μm、第二ピークの粒径が55μm~195μmにあり、第一ピーク及び第二ピークのうち一方は最も高いピークで他方は二番目に高いピークであり、且つ、体積基準による粒度の頻度分布における第一ピークを含む粒径1μm~35μmの面積(A1)と第二ピークを含む粒径45μm~205μmの面積(A2)との比率がA1:A2=1:9~4:6であることが好ましい。
【0040】
粒度分布に関して更に好ましくは、第一ピークの粒径は10μm~20μm、第二ピークの粒径は100μm~180μmにある。また、ダイヤモンド粉末の充填量を上げるため、A1とA2の比率となることが好ましいが、更に好ましくは、A1:A2=2:8~:3:7である。粒度分布測定は、レーザ回折・散乱法を用いて行う。また、各粒径範囲の面積は、横軸に粒子径、縦軸を体積基準の頻度分布として、各粒径範囲における頻度(体積の比率)の和を面積と定義する。
【0041】
アルミニウム-ダイヤモンド系複合体中のダイヤモンド粉末の含有量は、50体積%以上80体積%以下が好ましい。ダイヤモンド粉末の含有量が50体積%以上、好ましくは55体積%以上、より好ましくは60体積%以上であれば、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の熱伝導率を十分に確保できる。また、充填性の面より、ダイヤモンド粉末の含有量が80体積%以下であることが好ましく、75体積%以下であることがより好ましい。80体積%以下であれば、ダイヤモンド粉末の形状を球形等に加工する必要がなく、安定したコストでアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0042】
溶湯鍛造法によって得られる複合体は、適切な条件であれば溶湯が粉末同士の空隙間に行き渡るので、充填体積に対する粉末の体積の割合が、得られる複合体全体の体積に対する粉末材料の体積(粒子の含有量)とほぼ等しくなる。
【0043】
更に、上記ダイヤモンド粉末として、表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用することにより、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物(Al43)の生成を抑えることができ、且つ、溶湯アルミニウムとの濡れ性を改善することができる。その結果、得られるアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の熱伝導率が向上するという効果を得ることができる。
【0044】
[多孔質体からなる型材]
溶湯鍛造の準備として、アルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材21、少なくともダイヤモンド粉末23を配置する側の面に離型剤を塗布した緻密な離型板22及び上記ダイヤモンド粉末23を図2に示すように配置することにより、型材21、離型板22及び充填されたダイヤモンド粉末23からなる溶湯鍛造のための構造体を形成することができる。
【0045】
ここで、図2は溶湯鍛造のための構造体の断面図であり、上記ダイヤモンド粉末23が充填された部分についての断面図である。なお、溶湯鍛造法でアルミニウム又はアルミニウム合金とダイヤモンド粉末23を複合化する際には、アルミニウム又はアルミニウム合金は、上記多孔質体からなる型材21を通ってダイヤモンド粉末23が充填される部分に到達する。
【0046】
ここで、溶湯鍛造法にてアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材21の材料としては、溶湯鍛造法にてアルミニウム又はアルミニウム合金が含浸できる多孔質体であれば特に制約はない。しかし、該多孔質体としては、耐熱性に優れ、安定した溶湯の供給が行える、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ繊維等の多孔質体等が好ましく用いられる。
【0047】
[両面の表面層形成]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体では、複合化部の全面がアルミニウムを含有する金属(アルミニウム又はアルミニウム合金)を含む材料からなる表面層で被覆されていることを特徴とするが、表裏両主面については上述の構造体のダイヤモンド粉末の充填時に、ダイヤモンド粉末と離型板との間にアルミナ繊維等のセラミックス繊維を配置して、含浸させたアルミニウム又はアルミニウム合金と複合化することにより形成することが可能であり、また、セラミックス繊維の代わりにアルミニウム箔やアルミニウム合金箔を用いることも可能である。形成する表面層の厚みについてはこの際挿入するセラミックス繊維やアルミニウム箔の厚みを調整することによって調整できる。アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の融点は含浸させるアルミニウム又はアルミニウム合金よりも高い融点とする必要がある。アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の融点が含浸させるアルミニウム又はアルミニウム合金と同じ又はそれより低い場合には箔が溶融してしまい、表面層厚みを制御することが困難となる。
【0048】
[離型板]
更に、緻密な離型板22としては、ステンレス板やセラミックス板を使用することができ、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸されない緻密体であれば特に制限はない。また、離型板に塗布する離型剤については、耐熱性に優れる、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ等の離型剤が好ましく使用できる。さらには、離型板の表面をアルミナゾル等によりコーティングした後、上記離型剤を塗布することにより、より安定した離型が行える離型板を得ることができる。
【0049】
[アルミニウム合金]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体中のアルミニウムを含有する金属は、含浸時にダイヤモンド粉末の空隙中(ダイヤモンド粒子間)に十分に浸透させるために、なるべく融点が低いことが好ましいことから、アルミニウム合金を使用することが望ましい。例えば540℃~750℃であり、好ましくは576~650℃の融点を有するアルミニウム合金を使用することが好ましい。このようなアルミニウム合金として、例えばシリコンを5~25質量%含有したアルミニウム合金が挙げられる。シリコンを5~25質量%含有したアルミニウム合金を用いることにより、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の緻密化が促進されるという効果を得ることができる。
【0050】
更に、上記アルミニウム合金にマグネシウムを含有させることにより、ダイヤモンド粒子及びセラミックス粒子と金属部分との結合がより強固になるので好ましい。アルミニウム合金中のマグネシウムの含有量は例えば5質量%以下とすることができ、好ましくは0.5~2質量%とすることができる。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、アルミニウム合金の特性が極端に変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、銅等が含まれていても良い。アルミニウム合金の例示的な組成としては、シリコンを5~25質量%、マグネシウムを0.5~2質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成が挙げられる。
【0051】
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、複合化時のダイヤモンド粉末の充填量により厚みを調整することができ、その厚みは0.4~6mmが好ましい。該厚みが0.4mm未満の場合、ヒートシンク等として用いるのに十分な強度が得られにくい。該厚みが6mmを超える場合、材料自体が高価となると共に、高熱伝導という効果が十分に得られにくい。また、第一含浸工程を経て作製したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の厚み誤差は最終的な表面加工により、本発明の全面被覆された複合体を得るのに好適な±0.100mm以下とすることが可能となる。
【0052】
本発明の一実施形態においては、複合化後に、両面に配置した離型板22を剥がすことを特徴とする。このような特有の構成により、非常に平滑な表面を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0053】
図2に示すように、上記構造体の両面に金属板24を配置してもよい。また、複数枚の構造体を積層してブロックとする場合には、各構造体の間に該金属板24を介して積層してもよい。このような金属板24を配置することにより、溶湯を均一に含浸させることができ、また、含浸処理後のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の取り出し等の操作が容易に行えるようになる。
【0054】
得られた構造体は、複数枚を更に積層してブロックとし、このブロックを600~750℃程度で加熱することができる。そして、該ブロックを高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐために出来るだけ速やかに、融点以上に加熱したアルミニウム合金の溶湯を給湯して20MPa以上の圧力で加圧することで、ダイヤモンドとアルミニウム合金の複合化及び成形を行うことができる。
【0055】
ここで、ブロックの加熱温度は、600℃以上であれば、アルミニウム合金とダイヤモンド粉末の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得ることができる。また、加熱温度が750℃以下であれば、アルミニウム合金との複合化時に、ダイヤモンド粉末表面のアルミニウムカーバイド(Al43)の生成を抑制でき、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得ることができる。
【0056】
また、含浸時の圧力に関しては、20MPa以上であればアルミニウム合金の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得ることができる。さらに好ましくは、含浸圧力は、50MPa以上である。50MPa以上であれば、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得ることができる。
【0057】
[アニール処理]
なお、上記操作により得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)には、アニール処理を行ってもよい。アニール処理を行うことにより、上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体内の歪みが除去され、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0058】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の表面に影響を与えずに、成形体中の歪みのみを除去するには、上記アニール処理は、温度400℃~550℃の条件で10分間以上行うことが好ましい。
【0059】
[加工方法]
次に、本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の加工方法の例を説明する。上記アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)は、非常に硬い難加工性材料である。このため、通常の機械加工やダイヤモンド工具を用いた研削加工が難しく、ウォータージェット加工、レーザー加工、放電加工によって加工する。本発明の複合体を得るためには当該加工によって各辺の寸法誤差を±0.100mm以下とすることが好ましい。
【0060】
なお、本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)は、通常のダイヤモンド工具等を用いた加工も可能ではあるが、非常に硬い難加工性材料であるため、工具の耐久性や加工コストの面から、ウォータージェット加工、レーザー加工又は放電加工による加工が好ましい。これら加工により形状を加工することで寸法誤差を±0.100mm以下とすることが出来る。加工条件により寸法誤差を±0.050mm以下とすることも可能であるが、加工時間が長くなり、コストおよび生産性の面から好ましくない。このため、この段階における寸法誤差は±0.050mmより大きくて構わない。
【0061】
(第二の含浸工程)
[側面の表面層形成]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の側面部の表面層は、溶湯鍛造法、蒸着法、溶射法等によって形成することが可能であるが、加工に必要な十分な厚みの表面層を得るには溶湯鍛造法を用いるのが好適である。目的形状の外形寸法から0.02~0.20mm小さく且つ寸法誤差を±0.100mm以下に加工したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の側面部に厚み0.02mm以上のセラミックス繊維またはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を配置した後、離型剤を塗布した離型板を交互に配置し、図3に示すような構造体を作製し、第一の含浸工程において上述した溶湯鍛造法にて再度アルミニウム合金を含浸することで形成することが可能となる。
【0062】
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の両主面及び側面を含む全面に形成された表面層12は、アルミニウムを含有する金属を80体積%以上含有していることが好ましい。アルミニウムを含有する金属の含有量が80体積%以上であれば、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、表面層12の研磨を行える。更には、アルミニウムを含有する金属の含有量が90体積%以上であることが好ましい。アルミニウムを含有する金属の含有量が90体積%以上であれば、表面の研磨時に、内部の不純物等が脱離して研磨傷をつけることがない。アルミニウムを含有する金属中におけるアルミニウムの含有量は、表面層の形成を容易にするという理由から75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更により好ましい。純アルミニウムを使用して実質的に100質量%とすることも可能である。なお、ここでの「アルミニウムを含有する金属」には純アルミニウム及びアルミニウム合金が含まれるが、アルミニウム酸化物などのアルミニウム化合物は含まれない。従って、例えばアルミナは「アルミニウムを含有する金属」には包含されない。
【0063】
また、上記表面層12の最終加工前厚みは、平均厚みで0.02mm以上が好ましく更に好ましくは0.03mm以上0.50mm以下である。上記最終加工前の表面層の平均厚みが0.02mm以上であれば、その後の処理において、ダイヤモンド粒子が露出してしまうことがなく、目標とする面精度及びめっき性を得ることが容易となり、0.03mm以上であれば更に面精度の向上が容易となる。また、最終加工前の表面層の平均厚みが0.5mmを超えると加工の時間がかかり大幅なコストアップとなってしまう。最終加工前の表面層の平均厚みはより好ましくは0.3mm以下であり、更により好ましくは0.1mm以下である。
【0064】
[表面層の加工]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、全面がアルミニウムを含有する金属を含む材料からなる表面層12で被覆された構造を有しているため、この表面層12を加工(研磨)することにより、表面精度(表面粗さ:Ra)、寸法精度(外形、厚み、平面度、平行度)を高度に制御することができる。この表面層12の加工は、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、例えば平面研削盤等により全面を加工することで表面粗さRa(JIS B0601:2001)が1μm以下、好ましくは0.7μm以下、より好ましくは0.5μm以下、例えば、0.1~0.4μmとすることができ、各辺および厚みの寸法誤差が±0.020mm以下、好ましくは±0.016mm以下、より好ましくは±0.014mm以下、例えば±0.012mm以上、±0.020mm以下とすることができ、10mm×10mmのサイズにおける平面度および平行度を0.010mm以下とすることができ、好ましくは0.005mm以下の平面度を有することができ、好ましくは0.007μm以下の平行度を有することができる。このような範囲の平面度及び/又は平行度を有することにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0065】
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、ヒートシンク等の放熱部品として使用する場合、接合面の熱抵抗を考慮すると、表面粗さが小さい平滑な面であることが好ましく、その表面粗さ(Ra)は1μm以下が好ましく、更に好ましくは、0.5μm以下である。表面粗さが1μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0066】
また、両面の表面層12の平均厚みの合計が、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体1の厚みの20%以下であることが好ましく、更に好ましくは10%以下である。両面の表面の表面層12の平均厚みの合計が、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体10の厚みの20%以下であれば、面精度及びめっき性に加え、十分な熱伝導率を得ることができる。但し、両面の表面層12の平均厚みが小さすぎるとダイヤモンドが露出しやすくなり、粗さを大きくする要因となることから、両面の表面層12の平均厚みは0.01mm以上であることが好ましく、0.02mm以上であることがより好ましく、0.03mm以上であることがより好ましい。同様に、対向する二側面の表面層12の平均厚みの合計が、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体10の対向する二側面間の距離の20%以下であることが好ましく、更に好ましくは10%以下である。
【0067】
[表面金属層]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、半導体素子のヒートシンクとして用いる場合、半導体素子とロウ付けにより接合して用いられることが多い。よって、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の半導体素子との接合表面には、表面金属層13を設けることが好ましい。表面金属層13は例えばNi層13a及びAu層13bを積層することにより形成することができる。表面金属層13の形成方法としては、めっき法、蒸着法、スパッタリング法等の方法を採用することができる。処理費用の面からは、めっき処理が好ましい。表面金属層13はアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面全体に設けることもでき、表面の一部に設けることもできる。
以下、めっき処理の好適な例について説明する。
【0068】
まずアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面層12を構成するアルミニウムを含有する金属に膜厚が0.5~6.5μmのNiめっきを施す。めっき法は、結晶質なNiめっき膜が得られる電気めっき処理法が好ましいが、無電解めっき処理法を適用することもできる。この場合のNiめっきは、リン(P)を5~15重量%含有するNi合金めっきとするのが一般的である。Niめっきの膜厚が0.5μm未満では、めっき膜のピンホール(めっき未着部分)が発生するおそれがある。6.5μmを超えると、めっき膜中に発生する残留応力が増加し、本発明のような用途では、実使用時の温度負荷により、めっき膜の膨れ、剥離やクラック発生の問題が生じやすくなる。また、無電解めっき処理を適用する場合、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、アモルファスのNiめっきが結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった問題があり、Niめっき層は極力薄い方が好ましい。必要に応じて電気めっき処理による結晶質なNiめっき膜と無電解Niめっき膜の複合層としても良い。
【0069】
さらに、アルミニウムを含有する金属にNiめっきを施す際には、亜鉛置換等の前処理が必要であり、めっき密着性に優れる亜鉛置換を施すことが好ましい。Niめっきの密着性に関しては、ピール強度が50N/cm以上であることが好ましく、さらに好ましくは78N/cm以上である。ピール強度が50N/cm未満では、半導体素子の放熱部品として用いる場合、実使用時の温度負荷により、めっき層が剥離する問題が発生することがある。
【0070】
高温でのロウ材接合を行う場合、最表面に電気めっき処理法又は無電解めっき処理法で、膜厚が0.05~4μmのAuめっきを施すことが好ましい。めっき膜厚が0.05μm未満では、接合が不十分となり得る。上限に関しては、特性上の制約はないが、Auめっきは非常に高価であり、4μm以下であることが好ましい。
【0071】
また、本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の温度が25℃のときの熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃における線膨張係数が5.0×10-6/K~10.0×10-6/Kであることが好ましい。
【0072】
25℃での熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃の線膨張係数が5.0×10-6/K~10.0×10-6/Kであれば、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低膨張率となる。そのため、ヒートシンク等の放熱部品として用いた場合、放熱特性に優れ、また、温度変化を受けても半導体素子と放熱部品との熱膨張率の差が小さいため、半導体素子の破壊を抑制できる。その結果、高信頼性の放熱部品として好ましく用いられる。
【0073】
[半導体素子]
本発明の一実施形態に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体放熱部品は、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低熱膨張率であり、GaN、GaAs、SiC等の高出力が要求される半導体レーザー素子又は高周波素子の放熱部品として好適である。特に、高周波素子であるGaN-HEMT素子、GaAs-HEMT素子の放熱部品として好適である。
【0074】
以上、本発明に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体及びこれを用いた放熱部品、並びにこれらの製造方法について、実施形態を挙げて説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【実施例
【0075】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1~13、比較例1~4]
表1に示す平均粒径(体積基準のメジアン径D50のことを指す。)を持つ市販されている高純度ダイヤモンド粉末A(ダイヤモンドイノベーション社製)と高純度ダイヤモンド粉末B(ダイヤモンドイノベーション社製)をA:B=7:3の質量比で混合した。ダイヤモンド粉末Aとダイヤモンド粉末Bの混合粉末の体積基準による粒度分布測定を行って粒度の頻度分布を求めた結果、各粉末の平均粒径に対応する位置に一番目に高いピークと二番目に高いピークが見られる双峰性の分布であった。また、粒度の頻度分布における粒径1~35μmの面積と粒径45~205μmの面積の比率が3:7であった。粒度分布測定は、純水に各ダイヤモンド粉末を加えスラリーを作製して測定溶液とし、水の屈折率を1.33、ダイヤモンドの屈折率を2.42として、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製:コールターLS230)により測定した。
【0077】
【表1】
【0078】
次に、図2に示すような構造体を作製した。具体的な手順は以下である。40mm×40mm×2mmtのステンレス板(SUS430材)に、アルミナゾルをコーティングして350℃で30分間焼き付け処理を行った後、黒鉛系離型剤を表面に塗布して離型板22を作製した。そして、60mm×60mm×8mmtの外形で、中央部に40mm×40mm×8mmtの穴を有する気孔率20%の等方性黒鉛型材21を用意し、表1の各ダイヤモンド粉末23で構成される層の上下に0.05mm厚の純アルミニウム箔25を配置し、更に離型板22で厚み1.94mmのダイヤモンド粉末23の上下両面を挟むようにして、ダイヤモンド粉末23を当該型材21の上記穴に充填することで構造体を作製した。
【0079】
上記構造体を、黒鉛系離型剤を塗布した60×60×1mmtのステンレス板24を挟んで複数個積層し、上下両側に厚さ12mmの鉄板(図示せず)を配置して、M10のボルト6本で鉄板同士を連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0080】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度650℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを1質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成を有する温度800℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにてステンレス板24の形状に沿ってその少し内側を切断し、ステンレス板24及び離型板22をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得た。
【0081】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)は、上下両面を#600の研磨紙で研磨した後、バフ研磨を行った。
【0082】
続いて、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して、基準値として9.940mm×9.940mm×2.040mmtを設定して切断加工し、16枚に分割されたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を得た。加工後のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)の寸法を、ノギスを用いて測定した結果を表1に示す。寸法は縦方向、横方向及び厚み方向の各方向について4辺に加えて任意の1ヶ所ずつを測定し、平均値を各方向の測定値として求め、得られた寸法の基準値からの誤差を求めた。実施例1~13及び比較例1~4においては、いずれの方向も基準値からの寸法誤差は±0.050mm超、±0.100mm以下であった。
【0083】
以上のようにして得られた9.94mm×9.94mm×2.040mmtに切断加工した16枚のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)33の外周(側面部)に0.05mm厚みの純アルミニウム箔35をそれぞれ1周巻き付けた。また、50mm×50mm×2mmt及び10mm×2mm×2mmtの上述と同様の処理(アルミナゾルコーティング+焼き付け処理)を行った離型用のステンレス板32a、32bを準備した。ステンレス板32aはアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を上下から挟むためものであり、ステンレス板32bは横方向に配列された各アルミニウム-ダイヤモンド系複合体を含浸工程後に分離するためのものである。ステンレス板32a及び32bを使用することにより表面層をムラ無く形成することが可能となる。そして、純アルミニウム35を巻き付けたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)33と当該ステンレス板32bを、60mm×60mm×8mmtの外形で、中央部に50×50×8mmtの穴を有する気孔率20%の等方性黒鉛型材の当該穴に図4に示すように整列配置し、さらにステンレス板32aで上下両面を挟み込むことで図3の構造体とした。
【0084】
上記構造体を、60×60×1mmtの黒鉛系離型剤を塗布したステンレス板34を挟んで複数個積層し、両側に厚さ12mmの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0085】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度650℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを1質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる組成を有する温度800℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだステンレス板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、全面に表面層が形成されたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を得た。
【0086】
得られた研削前のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体に対して破断によって断面を露出させ、当該断面を工業顕微鏡で観察し各面の表面層12の中心点と両端を含む5ヶ所の厚みを等間隔に測定し、6面の合計30ヶ所の表面層の平均厚みとした結果、実施例1~13及び比較例1~4のいずれのサンプルも0.05mmであった。
【0087】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の6面全面を平面研削盤(装置名:岡本機械製作所製 PSG63DX 研削方式:トラバース研削)で各面を0.02mm研削した。基準値を10.000mm×10.000mm×2.000mmtとし、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の各辺、厚みの寸法をノギスで測定し、基準値からの差を表2の「寸法誤差」の欄に示す。寸法は縦方向、横方向及び厚み方向の各方向について4辺に加えて任意の1ヶ所ずつを測定し、全15ヶ所における寸法誤差の平均値を測定値とした。実施例1~13及び比較例1~4においては、いずれの結果も±0.020mm以下であった。
【0088】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を用いて25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM-8510B)で測定するとともに、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体をウォータージェット加工により線膨張係数測定用試験体(3×2×10mm)を作製し、温度25℃~150℃の線膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で測定した。その結果を表2に示す。比較例1~4では、熱伝導率が400W/mK以下、線膨張係数が10.0×10-6/K以上であった。
【0089】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の室温25℃での密度をアルキメデス法により測定し、Vf(ダイヤモンド粒子の含有量)を複合則を用いて算出した。その結果を表1に示す。(ダイヤモンド密度:3.52g/cm3、アルミニウム合金密度:2.7g/cm3
【0090】
また、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体に対して破断によって断面を露出させ、当該断面を、工業顕微鏡で観察し6面の表面層12の中心点と両端を含む5ヶ所の厚みを等間隔に測定し表面層の平均厚みとした結果、いずれのサンプルも0.03mmであった。また、断面をSEM観察したが表面層にダイヤモンド粒子等の無機物は観察できず、表面層がアルミニウムを含有する金属で実質的に100体積%で構成されていることを確認した。これは表面層の形成に純アルミニウム箔を使用したためである。また、接触式表面粗さ計(ミツトヨ社製SJ210)による表面粗さ(Ra)(JIS B0601:2001)を測定し、接触式三次元形状測定機(東京精密社製;ACCURA-II)による平面度及び平行度を測定した。その結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
また、上記の研削後のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを順に行い、実施例1~13に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に4.5μm厚(Ni:2.5μm+Au:2.0μm)のめっき層を形成した。得られためっき品についてピール強度を測定した結果、全てのめっき品で98N/cm以上であった。ピール強度測定は、めっき層を形成したアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に、耐熱テープで5mm幅の測定部以外をマスキングし、測定部に厚み0.25mm、幅5mmの銅板を半田付けし、デジタルフォースゲージにより銅板を真上に引っ張ることで引張り強度を測定しピール強度を算出した。更に、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、得られためっき品のいずれも膨れ等の異常は認められなかった。また、得られためっき品のいずれも、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【0093】
表2に示されるように、実施例1~13に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、表面粗さが1μm以下と非常に平滑であり、高熱伝導率及び半導体素子に近い線膨張係数を有し、各辺および厚みの基準値からの差が±0.020mm以下でありヒートシンク材として適している。なお、半導体素子の線膨張係数は5×10-6~6×10-6/K程度である。
【0094】
[実施例14~19、比較例5~7]
側面の表面層を形成する工程において外周に表3に示した厚みの純アルミニウム箔を1周巻き付けることにより純アルミニウム層を形成させ、表3に示す「各面の加工厚み」を平面研削盤で全面に対して研削加工したこと以外は実施例1と同様の方法でアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した。研削加工後の両主面及び側面の純アルミニウム箔の厚み(≒表面層の厚み)、加工厚み、および実施例1と同様の方法で求めた寸法誤差、平面度及び平行度を表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
比較例5および6では加工厚みが不十分であり、寸法誤差は0.08mmであった。比較例7ではダイヤモンド露出が生じたことで十分に加工が行えなかった。それに対し、実施例14~19では、寸法誤差が±0.02mm以下であった。
【0097】
[実施例20~23、比較例8、9]
市販されている高純度のダイヤモンド粉末A(ダイヤモンドイノベーション社製/平均粒径:130μm)と高純度のダイヤモンド粉末B(ダイヤモンドイノベーション社製/平均粒子径:15μm)を表4に示す質量比で混合した。ダイヤモンド粉末Aとダイヤモンド粉末Bの混合粉末の体積基準による粒度分布測定を行った結果、粒度の頻度分布において15μmに第一ピーク、130μmに第二ピークをもち、表4に示す粒径1~35μmの面積と粒径45~205μmの面積の比率をもつ双峰性の分布であった。粒度分布の測定は、純水に各ダイヤモンド粉末を加えスラリーを作製して測定溶液とし、水の屈折率を1.33、ダイヤモンドの屈折率を2.42として、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製:コールターLS230)により測定した。
【0098】
【表4】
【0099】
得られた混合粉末50g、シリカ粉末(平均粒子径:5μm)16g、珪素粉末(平均粒子径:10μm):16gを混合した後、炭化珪素製のるつぼに充填し、アルゴン雰囲気下、温度1450℃で3時間加熱処理を行い、ダイヤモンド粉末表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を作製した。β型炭化珪素が形成されていることはX線回折により確認した。
【0100】
ダイヤモンド粉末として、表面にβ型炭化珪素の層を形成した上記のダイヤモンド粉末を使用し、ダイヤモンド粉末で構成される層の上下に、実施例1の0.05mm厚の純アルミニウム箔に代えて、0.045mm厚の純アルミニウム箔を配置した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を作製した。
【0101】
得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)に実施例1と同様の方法で外周に純アルミニウム層を形成させ、平面研削盤により全面を0.020mm研削した。研削加工後の表面粗さ(Ra)、熱伝導率、線膨張係数、Vf、寸法誤差、平面度及び平行度を実施例1と同様の方法で測定した結果を表5に示す。得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の寸法誤差は±0.02mm以下であった。
【0102】
該アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の断面を破断によって露出させ、工業顕微鏡で観察し両面の表面層12の平均厚みを実施例1と同様の手順で測定した結果、0.030mmであった。
【0103】
更に、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体に対して、実施例1と同様の特性評価を実施した。結果を表5に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
比較例8、9では、熱伝導率が400W/mK以下、線膨張係数が10×10-6/K以上であった。
【0106】
また、上記のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを順に行い、実施例20~23に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に4.5μm厚(Ni:2.0μm+Au:2.5μm)のめっき層を形成した。得られためっき品について、実施例1と同様の方法でピール強度を測定した結果、全てのめっき品で80N/cm以上であった。更に、得られためっき品に対して大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、何れも膨れ等の異常は認められなかった。また、得られためっき品の何れも、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【0107】
[実施例24~30、比較例10~12]
ダイヤモンド粉末で構成される層の上下に、実施例1の0.05mm厚の純アルミニウム箔に代えて、表6に示す厚みの各種挿入材を配置した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を作製した。実施例29~30はアルミナ繊維(デンカ社製デンカアルセンボード/品種:BD-1600(実施例29)およびBD-1700LN(実施例30))を、比較例12ではアルミナ繊維(電気化学工業社製/デンカアルセンボード/品種:BD1700)をプレス機で押しつぶし嵩密度を1.1g/cm3にしたものを挿入材として配置した。アルミナ繊維の気孔率はミルシートに記載されている密度から計算した。得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の両主面に形成されたアルミニウムを含有する金属の体積割合を表6に示す。実施例29、30、比較例12の場合はアルミナ繊維の気孔部にアルミニウム合金が浸入するため、気孔率がそのまま表面層中におけるアルミニウムを含有する金属の割合となる。純アルミニウム箔の場合は実施例1等と同様に実質的100体積%が表面層中におけるアルミニウムを含有する金属の割合となる。
【0108】
上記で得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)に実施例1と同様の方法で外周に純アルミニウム層を形成させ、平面研削盤により全面を0.01mm研削した。得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の寸法誤差を実施例1と同様の方法で測定したところ何れも±0.02mm以下であった。比較例12では表面層がアルミニウムを含有する金属を70%程度しか含有しておらず、研磨処理後の表面粗さが高く、また、セラミックス繊維の脱離により研磨傷が生じた。
【0109】
研磨後の該アルミニウム-ダイヤモンド系複合体の断面を破断によって露出させ、工業顕微鏡で観察し6面の表面層12の平均厚みを実施例1と同様の手順で測定した結果を表6に示す。
【0110】
更に、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の特性評価を実施した。結果を表6に示す。なお、アルミナ繊維を挿入して作製した実施例29、30、比較例12については、得られたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の室温25℃での密度をアルキメデス法により測定し、Vf(ダイヤモンド粒子の含有量)を複合則から算出した。(ダイヤモンド密度:3.52g/cm3、アルミナ密度:3.95g/cm3、アルミニウム合金密度:2.7g/cm3
【0111】
【表6】
【0112】
比較例11では表面層が厚すぎたことでダイヤモンド粒子の含有量が50体積%以下、熱伝導率が400W/mK以下、線膨張係数が10.0×10-6/K以上であった。
【0113】
また、上記のアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、電気Ni、電気Auめっきを順に行い、実施例24~30、比較例10に係るアルミニウム-ダイヤモンド系複合体の表面に4.0μm厚(Ni:2.0μm+Au:2.0μm)のめっき層を形成した。比較例10ではめっき未着が見られその後の評価は実施しなかった。得られためっき品について、実施例1と同様の方法でピール強度を測定した結果、全てのめっき品で80N/cm以上であった。更に、得られためっき品に対して大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、めっき表面を観察した結果、何れも膨れ等の異常は認められなかった。また、得られためっき品の何れも、-65℃~175℃のヒートサイクル(気槽、各温度で30分保持)1000サイクル後にめっき表面のクラックの発生は認められなかった。
【0114】
[比較例13]
実施例1と同様の方法で上下両面に表面層が形成されたアルミニウム-ダイヤモンド系複合体(前駆体)を作製した後、外周にアルミニウム層を形成せずに10.00mm×10.00mm×2.00mmtにウォータージェット加工することによりアルミニウム-ダイヤモンド系複合体を作製した(全面の研削加工無し)。実施例1と同様の方法により求めた「寸法誤差」は±0.07mmでありレーザー発振パッケージ用途のような厳しい寸法誤差が求められるヒートシンク材としては適していないものであった。
【符号の説明】
【0115】
10 アルミニウム-ダイヤモンド系複合体
11 複合化部
12 表面層
13 表面金属層
21 多孔質型材
22 離型板
23 ダイヤモンド粉末
24 金属板
25 表面層形成用挿入材
31 多孔質型材
32 離型板
33 アルミニウム-ダイヤモンド複合体(前駆体)
34 金属板
35 側面に巻き付けたアルミニウム箔
36 前駆体作製時に形成された表面層
図1
図2
図3
図4