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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220713BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20220713BHJP
   C22C 29/08 20060101ALI20220713BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20220713BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20220713BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220713BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
B23B27/14 B
B23C5/16
C22C29/08
C22C1/05 G
B22F7/00 G
B22F3/24 102A
B23B27/14 A
B23B51/00 M
B23B51/00 J
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018532755
(86)(22)【出願日】2016-12-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2016081424
(87)【国際公開番号】W WO2017108610
(87)【国際公開日】2017-06-29
【審査請求日】2019-10-23
(31)【優先権主張番号】15201543.4
(32)【優先日】2015-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーケソン, レイフ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア, ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】フィネイド, コーレ
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2009/001929(JP,A1)
【文献】特開2001-001203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00 - 51/14
B23C 5/16 - 5/24
B22F 1/00 - 8/00
C22C 1/04 - 1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
o、Fe、及びNiの一又は複数を含む結合相を含む超硬合金基材を備える切削工具であって、超硬合金は、Me12C炭化物及び/又はMeC炭化物を含むη相も含み、Meは、W、Mo、及び結合相金属から選択される一又は複数の金属であり、超硬合金の対理論値炭素含有量不足値は-0.30重量%から-0.16重量%の間であり、η相が、0.5から3μmの粒径を有する、切削工具。
【請求項2】
超硬合金の対理論値炭素含有量不足値が、-0.28重量%から-0.17重量%の間である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
超硬合金のη相の量が2から10体積%の間である、請求項1又は2に記載の切削工具。
【請求項4】
結合相含有量が2から20重量%である、請求項1からの何れか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
結合相がコバルトである、請求項1からの何れか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
η相分布が、超硬合金基材全体にわたって同じである、請求項1からの何れか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
超硬合金基材に、耐摩耗性CVDコーティングが施されている、請求項1からの何れか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
超硬合金基材に、少なくともTi(C,N)層及びAl層を含むCVDコーティングが施されている、請求項1からの何れか一項に記載の切削工具。
【請求項9】
超硬合金基材を備える切削工具を製造する方法であって、
- 0.4から9μmの粒径を有するWC粉末を含む硬質成分を形成する粉末を用意すること、
- Co、Fe、及びNiから選択される結合相を形成する粉末を用意すること、
- フライス切削液を用意すること、
- 粉末を、粉砕し、乾燥させ、加圧し、焼結して、超硬合金にすること、
とを含み、
W、WC、Mo、又はMoCの一又は複数が、焼結超硬合金の炭素含有量対理論値不足値で-0.30重量%から-0.16重量%の間であるような量で添加される、方法。
【請求項10】
超硬合金の対理論値炭素含有量不足値が-0.28重量%から-0.17重量%の間である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
W又はWCが添加される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
超硬合金基材に、耐摩耗性CVDコーティングが施される、請求項から11の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された量の微細分散したη相を含む、超硬合金の基材を備える切削工具に関連する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金製の切削工具は、当分野で公知である。
【0003】
超硬合金構造体に対する炭素含有量の影響は周知である。炭素が不足すると、η相、例えば、WCoC、WCoCが形成されるが、炭素が過剰になると、遊離グラファイトが析出する。炭素含有量は、通常、η相もグラファイトも形成されないように調整する。η相及びグラファイトは共に、避けるべきものとして考えられる。η相を含む超硬合金は脆いことが知られており、その理由のためにη相は、一般的に望ましくない。
【0004】
しかし、当分野において、η相が意図的に形成されるいくつかの超硬合金等級がある。US4843039において、コーティングされた超硬合金インサートは、低炭素含有量で製造されて、焼結後、超硬合金がη相を含む。その後、超硬合金に浸炭処理が施されて、勾配表面領域が形成される。その表面領域はη相を含まず、超硬合金の内部よりも少ないCo含有量を有する。しかし、これらの種類の材料は、切削操作で十分に作用しなかった。代わりに、これらの種類の材料は、一般に、EP0182759でのように鉱業用途において用いられる。
【0005】
EP2691198に、η相のナノ粒子によって強化された、鉱業用途に好適な超硬合金が記載されている。ナノ粒子の粒径は、10nm未満であり、超硬合金は、少なくとも0.70201.9μTm/kg=141μTm/kgの磁気飽和を有する。
【0006】
くし状割れ(comb crack)は、いくつかのフライス切削用途において長い間問題であり、くし状割れ耐性が改良されて、より長い工具寿命をもつ切削工具材料を見つけようと努めてきた。
【0007】
制御され、十分に分布したη相を有する超硬合金基材を提供することによって、くし状割れ耐性を大幅に改良することができると明らかになった。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、WCと、Co、Fe、及びNiの一又は複数を含む結合相とを含む超硬合金基材を備える切削工具に関連する。超硬合金基材は、Me12C炭化物及び/又はMeC炭化物を含むη相をさらに含み(式中、Meは、W、Mo、及び結合相金属の一又は複数から選択される)、超硬合金の対理論値炭素含有量不足値(substoichiometric carbon content)は-0.30重量%から-0.16重量%の間である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】焼結体の対理論値炭素含有量不足値-0.17重量%を有する、本発明による超硬合金のLOM画像を示す図である。
図2】特許請求の範囲よりも少ない炭素含有量、対理論値炭素含有量不足値-0.35重量%を有する粉末から製造された超硬合金のLOM画像を示す図である。
図3】焼結体の対理論値炭素含有量不足値-0.15重量%、すなわち特許請求の範囲よりも多い炭素含有量を有する超硬合金のLOM画像を示す図である。
図4】対理論値炭素含有量不足値-0.13重量%を有する粉末から製造された、結合剤としてNiを有する、本発明による超硬合金のLOM画像を示す図である。
図5】焼結体の対理論値炭素含有量不足値が-0.14重量%の勾配を形成する浸炭熱処理を施した超硬合金のLOM画像を示す図である。
図6】ピークの番号付けが1=WC、2=MC、3=M12C、4=Coである、CVDコーティング前(A)及びCVDコーティング後(B)のXRD回折を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
技術的な効果、すなわち、改良されたくし状割れ耐性は、本明細書で開示されるように、結合相の高いW含有量、及び十分に分布したη相の存在の2つのことの結果である可能性が高い。結合相におけるWの溶解度は、炭素含有量に直接関連する。η相形成の限界に達するまで、結合剤のWの量は炭素含有量の減少と共に増加する。炭素含有量がさらにより少なくまで減少しても、結合剤のWの溶解度はこれ以上増大しないであろう。結合剤に溶解した大量のWを得るのに有益ないくつかの超硬合金等級において、炭素含有量は、低く保たれているが、η相形成の限界を超えている。
【0011】
本発明の超硬合金は、さらにより少ない炭素含有量を有し、その結果η相が形成される。これにより、結合剤及びη相の両方の高いW含有量を有する超硬合金をもたらすことになる。
【0012】
本明細書において、η相は、Me12C及びMeCから選択される炭化物を意味し、式中、MeはW、Mo、及び結合相金属の一又は複数から選択される。一般的な炭化物は、WCoC、WCoC、WNiC、WNiC、WFeC、WFeCである。
【0013】
本発明の一実施態様において、η相はMe12C及びMeCの両方を含む。
【0014】
本発明の一実施態様において、η相は、XRD測定より見積もられた、90体積%より多いMe12Cを含む。
【0015】
本発明の一実施態様において、η相はMoを含まない。
【0016】
本発明のさらに別の実施態様において、η相はMoを含有する。Moが超硬合金に存在する場合、Moはη相のタングステンの一部と置き換わることになる。
【0017】
η相の平均粒径は、好適には0.1から10μmであり、好ましくは0.5から3μmである。平均粒径は、様々な方法、例えば、SEM/LOM画像の平均切片(mean linear intercept)によって、又はEBSDによって測定することができる。
【0018】
η相の分布は、可能な限り均一であるべきである。
【0019】
本発明の一実施態様において、η相の体積分率は、好適には2から10体積%の間、好ましくは4から8体積%の間、より好ましくは4から6体積%の間である。
【0020】
本発明の一実施態様において、η相分布は、超硬合金基材全体にわたって同じである。それによって、本明細書において、例えば、US4843039のように、超硬合金が、η相の何れの勾配、又はη相を有しないゾーンを含まないことを意味する。
【0021】
本発明の超硬合金は、所定の範囲内の対理論値炭素含有量不足値を有する。対理論値炭素不足値は、化学量論値の炭素に比した炭素含有量の目安である。対理論値不足値は、結合相含有量、他の炭化物などの他のパラメータに依存しないので、用いるのに良好な目安である。
【0022】
炭素バランス(carbon balance)は、η相形成を制御するために重要である。好適には、炭素含有量は、対理論値炭素不足値-0.30重量%から-0.16重量%の間であり、好ましくは対理論値炭素不足値-0.28重量%から-0.17重量%の間である。
【0023】
一方で、理論炭素含有量は、結合相含有量などの他のパラメータによって決まる。粉末について、焼結する前に、化学量論値は、WCが完全に化学量論的である、すなわち原子比W:Cが1:1であると仮定することによって計算される。他の炭化物が存在する場合、やはりそれらは、化学量論的であると仮定される。
【0024】
理論炭素含有量を、例えばCo及びWCから構成された、焼結超硬合金で見積もる場合、原子比W:Cが1:1であると仮定して、添加されるWC原料の量に基づいて行われるか、又は焼結材料の測定から、次いで測定されたタングステン含有量から、原子比W:Cが1:1であると仮定して、理論炭素含有量を計算することができる。
【0025】
これにより、本明細書で用いられる、用語対理論値炭素不足値は、化学分析によって決定された全炭素含有量から、超硬合金に存在するWC及び可能な他の炭化物に基づいて計算された理論炭素含有量を差し引いたものを意味する。
【0026】
一例として、特定の超硬合金の理論炭素含有量が5.60重量%であり、同じ超硬合金であるが、炭素含有量5.30重量%で製造される場合、対理論値炭素不足値は-0.30重量%であることになる。
【0027】
改良されたくし状割れ耐性を得るのに必要な、十分に分布したη相を成し得るために、正確な炭素含有量を得ることが必須である。したがって、くし状割れ耐性の改良をもたらすことになる、η相の単なる存在だけではなく、η相が、好適な量で十分に分布している必要がある。これは、製造中に炭素バランスを注意深く制御することによって成し遂げられる。
【0028】
焼結超硬合金の炭素含有量が少なすぎる場合、すなわち、対理論値不足値で-0.30重量%より低い場合、η相の量は多くなりすぎ、超硬合金が脆くなることになる。一方、炭素含有量が、特許請求の範囲に記載の範囲よりもより多い場合、すなわち、-0.16重量%より高いが、依然としてη相形成領域にある場合、形成されたη相は、超硬合金の靭性低下をもたらす、大きなクラスターなどで不均一に分布していることになる。対理論値炭素含有量不足値の範囲の限界は、実施例に記載の方法によって行われる分析に基づく。不要な、η相の大きなクラスターを得ること、例えば図3参照と、目標とする、微細に分布したη相を得ること、図1参照との炭素含有量の差は、非常に小さい可能性がある。その限界に近づくことは、微小構造を観測して、不要な大きなクラスターが含まれないことを確かめることを必要とする。
【0029】
本発明による超硬合金は、均一に分布したη相を有するべきであり、それによって、本明細書において、超硬合金が大きなクラスターを含まないことを意味する。
【0030】
結合相は、好適には、焼結体の2から20重量%、好ましくは、焼結体の5から12重量%の間の量で、Fe、Co、及びNiの一又は複数から、好ましくはCoから選択される。
【0031】
本発明の一実施態様において、Crが超硬合金に存在する場合、Crの一部は結合相に溶解している。
【0032】
超硬合金のWCの量は、好適には80から98重量%である。焼結前の、原料粉末中のWCの粒径(FSSS)は、好適には0.1から12μmの間、好ましくは0.4から9μmの間である。
【0033】
本発明の一実施態様において、超硬合金はまた、0.5から20重量%、好ましくは0.8から5重量%の量でMoも含む。
【0034】
超硬合金は、超硬合金の分野で一般的な他の成分、例えばTi、Ta、Nb、Cr、若しくはVの一又は複数の炭化物、炭窒化物、或いは窒化物を含むこともできる。
【0035】
本発明の一実施態様において、超硬合金インサートに、耐摩耗性CVD(化学蒸着法)が施されている。本発明のさらに別の実施態様において、超硬合金インサートに、複数の層、好適には少なくとも、例えばTiの炭窒化物層、及びAl層、好ましくは、少なくとも1種のTi(C,N)層、α-Al層、及び外部のTiN層を含む、耐摩耗性CVDコーティングが施されている。
【0036】
コーティングはまた、ブラッシング、ブラストなどの、当分野で公知の追加の処理を施されることもある。
【0037】
本明細書において、切削工具は、インサート、エンドミル、又はドリルを意味する。
【0038】
本発明の一実施態様において、切削工具は、インサート、好ましくはフライス切削インサートである。
【0039】
本発明の一実施態様において、超硬合金基材は、フライス切削用に、鋳鉄、鋼鉄、又はTi合金で用いられる。
【0040】
本発明は、上記に記載の超硬合金基材を備える切削工具を製造する方法にも関連する。本方法は、以下の工程:
- 硬質成分を形成する粉末を用意する工程
- Co、Fe、及びNiから選択される結合相を形成する粉末を用意する工程
- フライス切削液(milling liquid)を用意する工程
- 粉末を、フライス切削し、乾燥させ、加圧し、焼結して超硬合金にする工程
を含み、W、WC、Mo、又はMoCの一又は複数が、焼結超硬合金の炭素含有量が対理論値不足値で-0.30重量%から-0.16重量%の間であるような量で添加される。
【0041】
最終的な焼結超硬合金の製造において正確な炭素含有量を達成するために、W、WC、Mo、又はMoCの一又は複数が添加される。
【0042】
本発明の一実施態様において、W及びWCの一又は複数が添加される。
【0043】
本発明の一実施態様において、W、WC、Mo、又はMoCの粉末の一又は複数は、他の原料に添加する前に、予め粉砕される。
【0044】
W、WC、Mo、又はMoCの正確な量は、他の原料の組成によって決まる。
【0045】
通常、一部の炭素は、酸素の存在のために、焼結中に失われる。酸素は、炭素と反応し、焼結の間にCO又はCOとして残り、そのため炭素バランスを変え、その結果W、WC、Mo、若しくはMoCの一又は複数の添加量を調整しなければならない。正確に、焼結の間に失われる炭素がどの程度であるかは、原料、及び用いられる製造技術によって変わり、且つ焼結材料の、目標とする対理論値炭素含有量不足値を得るために、W、WC、Mo、又はMoCの添加を調整する当分野の技術者によって変わる。
【0046】
硬質成分を形成する粉末は、WC、及び超硬合金の分野で一般的な他の成分、例えば、Ti、Ta、Nb、Cr、若しくはVの一又は複数の炭化物、炭窒化物、又は窒化物から選択される。
【0047】
本発明の一実施態様において、添加されるWCの量は、乾燥粉末重量に対して80から98重量%の間である。WC粉末の粒径(FSSS)は、好適には0.1から12μmの間、好ましくは0.4から9μmの間である。
【0048】
本発明の一実施態様において、硬質成分を形成する粉末はWCである。
【0049】
本発明の一実施態様において、硬質成分を形成する粉末の少なくとも一部は、元素W、C、及びCoを主に含む、回収された超硬合金屑から製造される粉末フラクションとして添加される。
【0050】
結合相を形成する粉末は、Co、Ni、若しくはFeの一又は複数、或いはその合金である。結合相を形成する粉末は、乾燥粉末重量に対して、2から20重量%、好ましくは5から12重量%の間の量で添加される。
【0051】
従来の超硬合金製造において、フライス切削液として一般に用いられる任意の液体を用いることができる。フライス切削液は、好ましくは、水、アルコール、又は有機溶媒であり、より好ましくは、水、及び水とアルコールとの混合物であり、最も好ましくは、水とエタノールとの混合物である。スラリーの特性は、添加されるフライス切削液の量に依存する。スラリーを乾燥するにはエネルギーを要するので、液体の量は、費用を低く保つために最小限でなければならない。しかし、揚水性スラリーを得て、システムの目詰まりを防ぐために、十分な液体を添加する必要がある。また、当分野で一般的に公知の、他の化合物、例えば、分散剤、pH調節剤などをスラリーに添加することもできる。
【0052】
有機結合剤はまた、後続の噴霧乾燥操作中の粒状化を容易にするために、また、任意の、後続の加圧操作及び焼結操作のための加圧剤として作用するためにも、任意選択的にスラリーに添加される。有機結合剤は、当分野で一般的に用いられる任意の結合剤であってもよい。有機結合剤は、例えば、パラフィン、ポリエチレングリコール(PEG)、長鎖脂肪酸などであってもよい。有機結合剤の量は、好適には、全体の乾燥粉末体積に対して15から25体積%の間であり、有機結合剤の量は、全体の乾燥粉末体積に含まれない。
【0053】
硬質成分を形成する粉末、及び結合相を形成する粉末、及び場合により有機結合剤を含むスラリーは、好適には、ボールミル又はアトライターミルの何れかにおけるフライス切削操作によって混合される。次いで、スラリーは、好適には、ボールミル又はアトライターミルで粉砕されて、均一なスラリーブレンドが得られる。
【0054】
有機液体と混ぜた粉末材、及び場合により有機結合剤を含有するスラリーは、乾燥塔の適切なノズルによって噴霧され、小液滴が、高温ガス流、例えば窒素流で即座に乾燥されて、凝集細粒を形成する。小規模の実験について、他の乾燥方法、例えば蒸発皿乾燥(pan drying)も用いることができる。
【0055】
素地は、その後、一軸加圧、多軸加圧などの加圧操作によって、乾燥された粉末/顆粒から形成される。
【0056】
本発明によって製造された、粉末/顆粒から形成された素地は、その後、例えば、真空焼結、焼結HIP、放電プラズマ焼結、ガス圧焼結(GPS)などの、任意の従来の焼結法によって焼結される。
【0057】
焼結温度は、典型的には1300から1580℃の間、好ましくは1360から1450℃の間である。
【0058】
本発明の一実施態様において、超硬合金インサートに熱処理を施す。好適には、温度は、850から1150℃の間、好ましくは900から1050℃の間である。昇温での時間は、好適には、20から2000分の間、好ましくは60から1600分の間である。この熱処理によって、η相の組成は、MeC+Me12Cの混合物から、η相が主にMe12Cであるものに変わることになる。
【0059】
相変態を成し遂げるための、熱処理の温度及び時間の調整は当分野の技術者によって変わり、より低い温度では、昇温でより長い時間を要することになるが、高い温度が用いられる場合、より短い時間で十分であろう。
【0060】
本発明の一実施態様において、熱処理は、CVD技術を用いた耐摩耗性コーティングの蒸着法において本質的に開示されている。すなわち、蒸着に昇温が用いられるので、超硬合金が熱処理されることになる。
【0061】
本発明のさらに別の実施態様において、超硬合金インサートに、耐摩耗性CVDコーティングが施されている。慣例的な蒸着温度により、上記の熱処理工程と同様な変化をη相にもたらすことになる。
【0062】
本発明の一実施態様において、CVDコーティングが蒸着される。好適には、CVDコーティングは、複数の層、好適には、少なくとも、MTCVDによって蒸着される炭窒化物層、及びCVDによって蒸着されるAl層、より好ましくはTi(C,N)層及びAl層を含む。場合により、摩耗検出のための、最外部の着色層、例えばTiN層を蒸着することもできる。
【0063】
図面の詳細な説明
図1は、焼結体の対理論値炭素含有量不足値-0.17重量%を有する、本発明による超硬合金のLOM画像を示す図である。
図2は、特許請求の範囲よりも少ない炭素含有量、対理論値炭素含有量不足値-0.35重量%を有する粉末から製造された超硬合金のLOM画像を示す図である。
図3は、焼結体の対理論値炭素含有量不足値-0.15重量%、すなわち特許請求の範囲よりも多い炭素含有量を有する超硬合金のLOM画像を示す図である。
図4は、対理論値炭素含有量不足値-0.13重量%を有する粉末から製造された、結合剤としてNiを有する、本発明による超硬合金のLOM画像を示す図である。
図5は、焼結体の対理論値炭素含有量不足値が-0.14重量%の勾配を形成する浸炭熱処理を施した超硬合金のLOM画像を示す図である。
図6は、ピークの番号付けが1=WC、2=MC、3=M12C、4=Coである、CVDコーティング前(A)及びCVDコーティング後(B)のXRD回折を示す図である。
【実施例
【0064】
実施例1
超硬合金インサートを、表1に記載の原料から製造する。
表1
【0065】
粉末を、フライス切削液(比率9/91の水/エタノール)及び有機結合剤、PEG2重量%と一緒に(PEGの量は乾燥粉末重量には含まれない)、ボールミルで8時間粉砕した。次いでスラリーを蒸発皿乾燥させた。次いで、集塊を加圧して素地にし、Ar+CO 40mbar、1410℃で焼結した。
【0066】
次いで、焼結された部分を、炭素含有量、及び硬度、η相の量などのパラメータについて分析した。η相の量は、ソフトウェアImage Jを用いて、セットアップ「Automatic」を用いた画像解析によって決定した。解析に用いた画像は、1000×及び2000×の倍率のLOM画像であり、2つの測定をそれぞれの倍率で行った。表2の値はこれらの平均である。表の値は、2つの画像、各画像につき2測定で実施された全部で4つの画像解析からの平均である。磁性%Coは、規格DIN IEC60404-7を用いた、Foerster Instruments Inc.製のFoerster Koerzimat CS 1.096で解析することによって決定した。結果を表2に示す。
【0067】
超硬合金の磁性特性は、Co結合相の強磁性特性によって決定されるが、硬質相(WCなど)は非強磁性である。結合相におけるCoの測定磁性モーメントへの寄与は、常に100%純粋Coの(理論的)磁性モーメントのパーセンテージのみである。これは、例えば、超硬合金組成の一部の金属、例えばW及びCrが、焼結中にCo結合相に溶解することができ、純粋Coに比べてCo結合相の強磁性特性を低減させる可能性があるために起こり得る。したがって、用語磁性%Coは、純粋Coの磁性モーメントに対して測定された磁性モーメントを意味する。
【0068】
焼結材料の理論炭素含有量は、初めにLECO WC-600装置を用いて全炭素含有量を測定することによって計算され、この分析について、分析前に試料を破砕した。値の正確性は、±0.01重量%である。Co含有量は、Panalytical Axios Max Advanced instrumentを用いて、XRF(X線蛍光)で測定する。試料の全重量からコバルト及び炭素の量を差し引くことによって、WCが1:1比であると仮定して、理論炭素含有量を計算するのに用いられる、W含有量が得られる。
【0069】
LECO WC-600装置によって測定された全炭素含有量から理論炭素含有量を差し引くことによって、対理論値炭素含有量不足値が得られる。表2に示すように、焼結材料の対理論値炭素含有量不足値は、粉末の対理論値炭素含有量不足値とは異なる。それは、炭素の一部が原料の不純物である酸素と反応し、それによって焼結中にCO又はCOとしてガス放出し、合金の最終的な全体のC含量を低減するためである。
表2
【0070】
発明1から4の微小構造を見ると、W又はWCの添加の種類は、微小構造にとってあまり重要ではないことが示される。十分に分布したη相は、全ての試料において示される。図1に、実施例4に従って製造された、発明1のLOM画像を示す。
【0071】
特許請求の範囲に記載の範囲より少ない対理論値炭素不足値を有する、参照1は、超硬合金を脆くすることになるので望ましくないη相の量の増加を示す。図2に、参照1のLOM画像を示す。
【0072】
特許請求の範囲に記載の範囲より多い対理論値炭素不足値を有する、参照2は、クラスターで不均一に分布した無制御に形成されるη相を示す。図3に、参照2のLOM画像を示す。
【0073】
実施例2
超硬合金は、コバルトがNi 6重量%で置き換えられ、且つ焼結前の粉末の対理論値炭素含有量不足値が-0.13重量%であったことを除いて、実施例1に記載されたのと同様に製造された。
【0074】
焼結材料のLOM画像(図4)は、CoがNiで置き換えられたとしても、η相について同じ微小構造を得ることができることを示す。
【0075】
実施例3
超硬合金インサートは、実施例1と同様に製造され、発明1と同じ組成を有する。
【0076】
次いで、超硬合金インサートに、1350℃での浸炭環境の熱処理を15-20分間施した。次いで、η相を含まず、インサートの内部よりもより少ないCo含有量を有する、平均して厚さ約200μmの表面ゾーンを形成した。焼結体の対理論値炭素含有量不足値は、-0.14重量%であった。
【0077】
この試料1のLOM画像を図5に示す。
【0078】
実施例4
超硬合金インサートは、表1の発明1と同じ原料で製造されたが、粉末の対理論値炭素不足値は-0.11重量%であった。インサートは、粉末を、蒸発皿乾燥ではなく噴霧乾燥させたことを除いて、実施例1と同様に製造された。次いで、インサートの一つに、第1の薄いTiN層を含むCVDコーティングでコーティングし、次いでTi(C,N)層2.7μmを885℃で蒸着し、次いでα-Al層2.7μm及び最外部のTiN層1.2μmを両方1000℃で蒸着した。4時間+4時間(全体で約8.5時間)。
表3
【0079】
超硬合金基材にCVD蒸着法が施されるとき、相変態が生じることが観察された。蒸着前に、亜炭化物は、(CoW)C+(CoW)12Cの混合物であるが、蒸着後、亜炭化物は主に(CoW)12Cである。高温(1250℃より高い)平衡で、亜炭化物相は(CoW)Cであり、1250℃より低いと、CoとWCとの平衡の、最も安定な亜炭化物は、(CoW)12Cであることが知られている。CVD法は、1050℃で比較的長い時間実施されたので、(CoW)Cの(CoW)12Cへの相変態が生じた。これは、XRD回折図を示した図6に明示されている。
【0080】
実施例4
(実施例)
この試験、正面フライス試験において、本発明によるコーティングされた超硬合金を、全て同じ寸法の、先行技術による3種のインサートと比較した。試験は、ねずみ鋳鉄において、以下の切削パラメータで、湿潤条件の下実施された。
Vc:220
Fz:0.35
Ap:3
Ae:60+60mm
【0081】
工具寿命基準は、深さ0.35mmまでの剥落/ひび割れであった。以下の合格数は、それぞれ3つの試験の平均である。
【0082】
比較1は、この種の用途で従来用いられてきたインサートである。比較1のガンマ相の体積分率は、約2体積%である。
【0083】
比較2は、η相を含まないが、発明1と同様の超硬合金であることを目的とする。コバルト含有量が発明1と比較2との間で異なる理由は、η相が形成されるとき、Coがη相の一部であるので費やされるからである。それは、過剰のコバルトを添加して補填しない限り、金属性コバルトの量、すなわち超硬合金で結合剤として作用するコバルトの量が、添加された量よりもより少なくなることを意味する。発明1について、Co 7.4重量%は、添加されたCoの全量であるが、発明1の金属性コバルトの量は、約6重量%であると見積もられる。比較3は、特許請求の範囲に記載の範囲を超える対理論値炭素含有量不足値を提示する比較2と同様の超硬合金であることを目的とする。比較4は、焼結超硬合金に浸炭処理を施した実施例3からの試料である。
【0084】
全てのインサートに、同じコーティング、すなわち実施例4に記載のCVDコーティングが施されていた。
表4
【0085】
表4から明らかであるように、本発明によるインサートは、比較の切削工具、比較1-4と比較して、より長い工具寿命をもつ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6