(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】ロックボルトの施工方法
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20220713BHJP
【FI】
E21D20/00 F
(21)【出願番号】P 2019000905
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】水野 史隆
(72)【発明者】
【氏名】坂井 一雄
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岡部 正
(72)【発明者】
【氏名】井本 厚
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-006842(JP,A)
【文献】特開2016-176284(JP,A)
【文献】特開2009-235865(JP,A)
【文献】特開2014-055404(JP,A)
【文献】特表2007-528456(JP,A)
【文献】特開2002-339357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、軸方向に延びる内部空間を有するとともに、前記内部空間に加圧流体を注入することで、塑性変形して膨張する膨張式管が少なくとも一つ軸方向に連結されたロックボルトを準備するステップと、
トンネルの内壁面に複数の削孔を形成し、当該各削孔に前記ロックボルトを挿入するステップと、
前記各ロックボルトにおいて、所定の注水圧以下で、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記各膨張式管を径方向に膨張させ、前記トンネルの地山に一次定着させるステップと、
前記地山の変位を測定し、当該変位が所定条件を充足したとき、前記各ロックボルトにおいて、前記注水圧より高い圧力で、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記各膨張式管を径方向に膨張させ、前記トンネルの地山に二次定着させるステップと、
を備えている、ロックボルトの施工方法。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記変位が所定の基準値より大きくなったときである、請求項1に記載のロックボルトの施工方法。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記変位の速度が所定の基準値以下になったときである、請求項1に記載のロックボルトの施工方法。
【請求項4】
前記地山の変位は、前記トンネルの断面において、いずれか2点を結ぶ少なくとも一つの基準線の変位である、請求項1から3のいずれかに記載のロックボルトの施工方法。
【請求項5】
前記各膨張式管は、外周面の軸方向に延びる少なくとも一つの凹部を備え、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記凹部が小さくなるように膨張するように構成され、
前記二次定着時に、前記凹部の一部が残存した状態となるように構成されている、請求項1から4のいずれかに記載のロックボルトの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックボルトの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図14に示すように、ロックボルト10が打設される山岳トンネルの施工においては、例えば、トンネル周辺の地山が矢印のようにトンネル500の内部側に押し出され、トンネル500の壁面が変形することがある。このような問題に対しては、例えば、特許文献1、特許文献2のようなロックボルトが提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されたロックボルトは、安定した深部の地山で定着をさせながら、緩みの大きい領域(例えば、トンネルの壁面の近傍)をウレタン系の注入材で地盤改良するように施工される。一方、特許文献2は、地山の変形が予測以上に大きい場合にロックボルトの全長が大きく伸びるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-150263号公報
【文献】特開2017-186902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のロックボルトは、トンネルの壁面が押し出してこないように地山改良をするものであるところ、地山改良しても押し出しが止まらないような大変形が生じる地山の場合には、例えば、
図17に示すように、ロックボルト10が定着する深部とワッシャー5との間で大きな引張力が生じるおそれがあり、これによってロックボルト10が破断し、結果的にロックボルト10が機能しない懸念がある。
【0006】
一方、特許文献2のロックボルトは、地山の押し出しに対し、ロックボルトの全長が伸びることで、ロックボルトの破断が防止されるが、ロックボルトの構造が極めて複雑であるため、コストが高いという問題がある。また、ロックボルトの構造が複雑なため、例えば、初期のボルトの伸長については、ボルト材に設けられたネジ山とモルタルの付着耐力に依存し、変形に追従する過程ではモルタルをボルト材のスリーブ部で押しつぶしながら滑るという構造となっており、地山支保能力のコントロールが難しいという問題もある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、大変形が生じ得る地山に対しても低コストでロックボルトの機能を最大限に発揮し得る施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るロックボルトの施工方法は、筒状に形成され、軸方向に延びる内部空間を有するとともに、前記内部空間に加圧流体を注入することで、塑性変形して膨張する膨張式管が少なくとも一つ軸方向に連結されたロックボルトを準備するステップと、トンネルの内壁面に複数の削孔を形成し、当該各削孔に前記ロックボルトを挿入するステップと、前記各ロックボルトにおいて、所定の注水圧以下で、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記各膨張式管を径方向に膨張させ、前記トンネルの地山に一次定着させるステップと、前記地山の変位を測定し、当該変位が所定条件を充足したとき、前記各ロックボルトにおいて、前記注水圧より高い圧力で、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記各膨張式管を径方向に膨張させ、前記トンネルの地山に二次定着させるステップと、を備えている。
【0009】
この構成によれば、次の効果を得ることができる。例えば、ロックボルトを地山に対して強固に定着させると、地山が大変形したときには、ロックボルトに過大な引張力が生じたりねじ山が潰れてナットが脱落する等で損傷するおそれがある。これに対して、本願発明では、膨張式管を有するロックボルトを二段階で膨張させることで、地山に定着させるようにしている。すなわち、一次定着では、ロックボルトの膨張状態を抑えることで、ロックボルトと地山との摩擦力を小さくし、これによって、地山の変形をある程度抑えつつ、地山に大変形が生じたときには、ロックボルトをその大変形に追従させるようにして、地山の変形を少しづつ許容する。したがって、地山の大きな変形によって、ロックボルトが損傷するのを防止することができる。そして、地山の変位が所定条件を充足したと判断したときには(例えば、地山の変位が基準値よりも大きくなったとき、或いは変位が収束したとき)、ロックボルトをさらに膨張させることで、ロックボルトと地山との摩擦力が大きくなるように二次定着を行うようにしている。
【0010】
このように本発明においては、汎用的な膨張式管を有するロックボルトを用い、二段階で定着を行うことで、一次定着状態では地山をある程度押さえながら少しづつ地山変形を許容し、変位が収束したところで二次定着させたり、或いは基準値を超えるような変位に対して二次定着で地山を押さえたり、という地山支保のコントロールが可能な為、大変形の可能性の高い地山に対し、ロックボルトを効率的に作用させることができる。したがって、大変形が生じ得る地山に対しても低コストでロックボルトの機能を最大限に発揮させることが可能となる。
【0011】
上記ロックボルトの施工方法において、前記所定の条件は、地山やトンネルの状態に基づいて、適宜決定すればよいが、例えば、トンネルの前記変位が所定の基準値より大きくなったときとすることができる。
【0012】
あるいは、前記所定の条件は、前記変位の速度が所定の基準値以下になったときとすることもできる。
【0013】
上記ロックボルトの施工方法において、前記地山の変位は、特には限定されないが、前記トンネルの断面において、いずれか2点を結ぶ少なくとも一つの基準線の変位とすることができる。
【0014】
上記ロックボルトの施工方法において、前記各膨張式管は、外周面の軸方向に延びる少なくとも一つの凹部を備え、前記内部空間に加圧流体を注入することで、前記凹部が小さくなるように膨張するように構成され、前記二次定着時に、前記凹部の一部が残存した状態となるように構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大変形が生じ得る地山に対しても低コストでロックボルトの機能を最大限に発揮することを提供することができる他、初期のボルトの伸長の量を加圧流体による一次定着の圧力で容易にコントロールできる。地山の変形に追従してボルト材が一定の荷重を保ったまま滑動した後、滑りを止めて再度地山を支保する際には、加圧流体による二次定着を行うのみでよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るロックボルトの施工方法に用いるロックボルトの分解斜視図である。
【
図3】
図1のロックボルトの施工方法を示す側面図である。
【
図4】
図1のロックボルトの施工方法を示す側面図である。
【
図5】
図1のロックボルトの施工方法を示す側面図である。
【
図7】
図1のロックボルトの施工方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図1のロックボルトの施工の過程を示す異形管の断面図である。
【
図9】
図1のロックボルトの施工方法を示す断面図である。
【
図10】
図1のロックボルトの施工方法を示す断面図である。
【
図11】
図1のロックボルトの施工方法を示す断面図である。
【
図12】
図1のロックボルトの施工方法を示す断面図である。
【
図13】トンネルの基準線の例を示す断面図である。
【
図14】ロックボルトを用いたトンネルの施工方法を示す断面図である。
【
図15】本発明で用いられるロックボルトの他の例を示す斜視図である。
【
図16】
図15のロックボルトを用いた施工方法を示す断面図である。
【
図17】従来のロックボルトを用いたトンネルの施工方法における地山の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るロックボルトの施工方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態の施工方法に用いるロックボルトの分解斜視図、
図2は
図1の側面図である。なお、以下では、説明の便宜のため、ロックボルトが挿入される削孔の奥端部側を「先端側」または「先頭側」、その反対側を「後端側」と称することがある。また、削孔の延びる方向及びそれに対応するロックボルトの延びる方向を軸方向と称することがある。
【0018】
<1.ロックボルトの構造>
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るロックボルト10は、鋼管によって長尺状に形成された異形管(膨張式管)1を備えている。そして、この異形管1の先端には、先端スリーブ2が取り付けられており、異形管1の先端部を閉じている。一方、異形管1の後端には、円筒状の後端スリーブ3が取り付けられている。さらに後端スリーブ3の後部には、液体を注入するための注水アダプタ4が着脱自在に取り付けられるようになっている。その他、このロックボルト10を地山に打設するために、板状のワッシャー5、ナット6、全ネジボルト7が準備される。以下、各部材について詳細に説明する。
【0019】
異形管1は、次のように形成される。
図1に示すように、まず、内部空間101を有する中空の円筒状の鋼管を押圧して板状にした後、長手方向を軸方向として筒状に曲げ、軸方向に延びる凹部102を有するように断面C字状に形成される。なお、鋼管は、後述するように内部空間101に供給される水の圧力によって変形するように、肉厚が2~4mm程度のものを用いる。また、鋼管の内部空間101に流体が流入できるように、鋼管を完全に押しつぶさない程度に板状にすることが好ましい。
【0020】
先端スリーブ2は、円筒状に形成された固定部21と、この固定部21の先端を閉じるように一体的に取り付けられた円錐状の先端部22と、で構成されている。そしで、固定部21に、上述した異形管1の先端部を挿入し、溶接などで固定する。こうして、先端スリーブ2は、異形管1の先端の凹部102及び内部空間101を液密に閉じるようになっている。
【0021】
後端スリーブ3は、円筒状に形成された固定部31と、この固定部31の後端に一体的に連結された円筒状の連結部32とを有し、これらの内部空間が軸方向に連通するように、全体として円筒状に形成されている。固定部31には、異形管1の後端部が挿入され、溶接などで固定されるようになっている。連結部32の内壁面には、雌ねじ33が形成されており、この雌ねじ33に、次に説明する注水アダプタ4が取り付けられる。
【0022】
注水アダプタ4は、円柱状の本体部41と、この本体部41の先端側に固定された雄ねじ部42と、を有している。雄ねじ部42は、中空に形成されるとともに、後端スリーブ3の雌ねじに螺合するようになっている。本体部41の側面には注水孔43が形成されており、この注水孔43は、雄ねじ部42の内部空間に連通している。したがって、注水孔43から注入された液体は、雄ねじ部42を通り、後端スリーブ3を介して異形管1の内部空間101に注入されるようになっている。また、本体部41の外周面には、工具を把持するための凹部44が形成されている。
【0023】
以下、ロックボルト10の施工の手順の概要のみ説明し、詳細に施工方法は後述する。
図3は、後端スリーブ3に注水アダプタ4が取り付けられ、さらに後述するポンプ83のホース831に取り付けられたカップリング9を、注水アダプタ4に取り付けた状態を示す側面図である。この状態で、ロックボルト10は、削孔502に挿入されている。そして、ポンプ83から圧送される液体(水など)が、ホース831、カップリング9、注水アダプタ4を介して、後端スリーブ3から異形管1の内部空間101に注入される。詳細は後述するが、これにより、異形管が注入された液体によって膨張し、異形管1の外周面が削孔内壁面に密着する。
【0024】
図4及び
図5は、注水が完了した後、ロックボルト10を地山に固定するときの作業図である。まず、
図4に示すように、異形管1の内部空間101から液体を排出した後、注水アダプタ4を後端スリーブ3から取り外し、後端スリーブ3の雌ねじ33に全ネジボルト7を螺合する。続いて、全ネジボルト7のワッシャー5の貫通孔を挿通した後、ワッシャー5を削孔の開口周縁の地山表面に当接しつつ、ナット6を全ネジボルト7に螺合し、ワッシャー5を締め付ける。こうして、ロックボルト10が地山に固定される。
【0025】
なお、上記のようなロックボルト10は、セメントモルタル等の定着材の注入やその硬化を待つことなく直ちに摩擦定着可能なロックボルトとして公知であり、汎用品を用いることができる。
【0026】
<2.注水システムの概要>
次に、上記ロックボルト10に液体を注入するためのシステム8について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は、注水システムのブロック図である。
【0027】
図6に示すように、この注水システム8は、筐体81と、その内部に配置されたモータ82及びポンプ83と、これらモータ82及びポンプ83を制御する制御部84を備えている。また、筐体81には、モータ82及びポンプ83を操作するための操作盤85が設けられている。
【0028】
ポンプ83は、モータ82によって駆動され、ポンプ83に接続されたホース831から液体を圧送するようになっている。制御部84は、駆動制御部841、圧力検知部842、タイムカウンタ843、及びインバータ異常検知部(INV異常制御部)844を備えている。駆動制御部841は、モータ82の回転数などの出力を制御する。圧力検知部843は、ポンプ83から圧送される液体の圧力を検知するものであり、駆動制御部841は、圧力検知部843が検知した圧力に応じてモータ82の回転数を制御できるようになっている。また、インバータ異常検知部844は、モータ82の動作異常を検知するものである。
【0029】
操作盤85には、状態表示ランプ851、ポンプ運転スイッチ852、ポンプ停止スイッチ853、圧力表示部854、運転時間表示部855、及び注水圧切替スイッチ856が設けられ、作業者が操作を行ったり、ポンプ83の状態を視認できるようになっている。例えば、ポンプ運転スイッチ852を押下すると、制御部84によってモータ82が駆動し、ポンプ83から液体が圧送される。そして、ポンプ停止スイッチ853を押下すると、モータ82の駆動が停止し、ポンプ83による液体の圧送が停止する。状態表示ランプ851は、ポンプ83の運転及び停止を表示するランプである。圧力表示部854は、圧力検知部843によって検知された液体の圧力を表示する。運転時間表示部855は、制御部84のタイムカウンタ842で計測された運転時間を表示する。また、注水圧切替スイッチ856は、圧送する液体の注水圧を「低」及び「高」の2段階に切り替えることができるようになっている。この圧力は、特には限定されないが、例えば、「低」では注水圧を27MPa、「高」では注水圧を32MPaに設定することができる。
【0030】
<3.ロックボルトの施工方法>
次に、ロックボルトの施工方法について、
図7~
図12を参照しつつ説明する。
図7はロックボルトの施工方法を示すフローチャート、
図8は施工中における異形管の断面形状の変化を示す断面図、
図9~
図12はロックボルトの施工を示す断面図である。
【0031】
まず、
図9に示すように、トンネルの内壁面501に複数の削孔502を形成し(ステップS1)、各削孔502に上述したロックボルト10を挿入する(ステップS2)。このとき、後端スーブ3には、注水アダプタ4を取り付けておき、削孔502の開口から注水アダプタ4が突出するようにする。このときの異形管1の断面は、
図8(a)に示すとおりであり、異形管1の外周面は削孔502の内壁面には密着していない。次に、
図10に示すように、注水システム8のホース831を注水アダプタ4の注水孔43に連結する。
【0032】
続いて、注水システム8の注水圧切替スイッチ856を「低」にした後(ステップS3)、ポンプ運転スイッチ852を押下する(ステップS4)。これにより、ポンプ83から低圧の液体が圧送され、異形管1の内部空間101に液体が注入される。これを一次注水加圧と称することとする(ステップS5)。これにより、
図8(b)に示すように、異形管1の凹部102が小さくなるとともに、内部空間101が膨張する。こうして、異形管1の外周面が削孔502の内壁面に密着し、これを押圧する。そして、注水圧が所定値を超えるまで、液体の圧送を続け(ステップS6のNO)、設定値を超えると(ステップS6のYES)、駆動制御部841はモータ82の回転を停止させ、ポンプ83からの注水が停止する。そこで作業者は、ポンプ停止スイッチ853を押下し、ロックボルト10の膨張作業を中止する。以下では、この状態を一次膨張と称することとする。一次膨張では、異形管1は完全には膨張しておらず、後述する二次膨張によってさらに膨張する。
【0033】
次に、注水アダプタ4を後端スリーブ3から取り外し、異形管1内の液体を排出する。続いて、
図4及び
図5で示したとおり、ナット6を全ネジボルト7に螺合し、ワッシャー5を締め付ける。こうして、ロックボルト10が地山に固定され、一次定着が完了する(ステップS7)。一次定着では、ロックボルト10の膨張状態を抑えることで、ロックボルト10と地山との摩擦力を小さくし、これによって、地山の変形をある程度押さえながら、ロックボルト10を地山の大変形に追従して移動させ、少しづつ地山変形を許容することができる。
【0034】
ところで、トンネル掘進作業においては、常時トンネル500内の計測作業が行われており、本発明においてはロックボルト50の一次定着及び二次定着のタイミングに断面計測結果を使用する。例えば、
図13(a)に示すように、トンネル500の底壁503付近とその上方とで水平に延びる平行な基準線A,Bを規定し、これら基準線A,Bの長さを測定する。基準線A,Bの両端は、トンネル500の内壁面501と接する位置である。すなわち、基準線A,Bの長さは、トンネル500の幅方向の長さである。あるいは、
図13(b)に示すように、基準線Bの両端と、トンネル内壁面501の最上部とをそれぞれ結ぶ斜めの基準線C,Dを規定し、その長さを測定する。
【0035】
このようにして、ロックボルト10を打設した直後のトンネル500の内部空間の形状の一部を測定し、これを初期値とする。但し、上述した基準線A~Dは一例であり、トンネル500の変位の測定のために適した箇所の長さであれば、他の寸法を測定することもできる。また、基準線A~Dを測定する時期は、ロックボルト10の施工前であってもよい。
【0036】
続いて、ロックボルト10が一次定着された後、上記基準線A~Dを経時的に測定し、初期値からの変位が基準値を超えたときには(ステップS8のYES)、地山の変位が大きくなったとして、ロックボルト10の二次膨張を行う。
【0037】
このときの変位の判断は、特には限定されないが、例えば、
図13(a)を採用する場合には、基準線A,Bのいずれが基準値を超えたときに、
図13(b)を採用する場合には、基準線A~Dのいずれかが基準値を超えたときに二次膨張を行うようにすることができる。基準値は、トンネル500や地山の状態により適宜決定できるが、例えば90mm(初期値に対して90mmの変位が生じた時点)とすることができる。
【0038】
このようにトンネル500に基準値を超える変位が生じたときには、例えば、
図11に示すように、地山がワッシャー5を押圧し、このときロックボルト10は定着材で定着されていない摩擦定着タイプの為、ロックボルト10が地山を拘束せずに変位に追従してその分地山変形が許容され、トンネル500の内部空間が狭まったと考えられる。したがって、二次注水を行い、ロックボルト10を二次膨張させる。
【0039】
二次膨張を行うには、ワッシャー5、ナット6、全ネジボルト7をロックボルト10から取り外し、その後、注水アダプタ4を後端スリーブ3に取り付ける。そして、
図12に示すとおり、ポンプ83のホース831をカップリング9を介して注水アダプタ4に連結し、注水を行う(ステップS10)。このとき、注水システム8の注水圧切替スイッチ856を「高」にした後(ステップS11)、ポンプ運転スイッチ852を押下する(ステップS12)。これにより、ポンプ83から高圧の液体が圧送され、異形管1の内部空間101に液体が注入される。これを二次注水加圧と称することとする(ステップS13)。これにより、異形管1の内部空間101がさらに膨張し、
図8(c)に示すように、凹部102がさらに小さくなり、異形管1の外周面が削孔502の内壁面をさらに押圧する。こうして、ロックボルト10が削孔内壁面に強固に固定される。
【0040】
そして、注水圧が設定値を超えるまで、液体の圧送を続け(ステップS14のNO)、設定値を超えると(ステップS14のYES)、駆動制御部841はモータ82の回転を停止させ、ポンプ83からの注水を停止する。その後、上述したのと同様に、注水アダプタ4を取り外し、後端スリーブ3に全ネジボルト7を取り付ける。そして、全ネジボルト7をワッシャー5に挿通させた後、ナット6でワッシャー5を締め付けると、ロックボルト10が地山に固定され、二次定着が完了する(ステップS15)。
【0041】
なお、二次定着を行うための判断としては、上記のように、地山の変位が基準値を超えた場合ではなく(ステップS8のNO)、地山の変位が収束したと判断したとき(ステップS9のYES)にも二次定着を行う。例えば、基準線A~Dの変位の速度が、1~3mm/月以内になった場合には、地山の変位が収束したとして、二次定着を行う。但し、地山の変位の収束の判断はこれに限定されない。
【0042】
<3.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、ロックボルト10を二段階で膨張させることで、地山に定着させるようにしている。すなわち、一次膨張では、ロックボルト10の膨張状態を抑えることで、ロックボルト10と地山との摩擦力を小さくしている。これによって、地山の変形をある程度押さえながら少しづつ地山変形を許容する。したがって、例えば、
図11に示すように、地山が大きく変形したとしても、ロックボルト10に過大な引張力が生じたりねじ山が潰れてナットが脱落する等で損傷するのを防止することができる。そして、地山の変位が所定条件を充足したと判断したときには、ロックボルト10を二次膨張させることで、ロックボルト10と地山との摩擦力が最大限になるようにしている。そのため、一次定着状態では地山の変形をある程度許容し、変位が収束したところで二次定着させたり、或いは基準値を超えるような大きな変位に対して二次定着で地山を押さええたり、という地山支保のコントロールが可能な為、大変形が生じる地山でも、ロックボルト10を破断させることがない。
【0043】
以上のような施工方法では、特殊なロックボルトを用いるのではなく、汎用的な膨張式のロックボルトを用いることができる。したがって、大変形が生じ得る地山に対しても低コストでロックボルト10の機能を最大限に発揮させることが可能となる。
【0044】
<4.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0045】
上記実施形態で示したロックボルトは一例であり、本発明に係る膨張式管はこれに限定されず、種々の態様が可能である。すなわち、液体の注入により、少なくとも二段階で膨張し、削孔内壁面に密着させることができるような膨張式管であれば、特には限定されない。例えば、上記実施形態では、異形管1には軸方向に延びる凹部102が1つだけ形成されているが、異形管1の構造は特には限定されない。例えば、2箇所以上に凹部を形成した異形管であってもよい。また、先端スリーブ2、後端スリーブ3、注水アダプタ4等の構成は特には限定されない。
【0046】
上記実施形態では、ロックボルト10を1本の異形管1で構成しているが、複数の異形管1を連結スリーブを介して軸方向に連結したものであってもよい。この場合、連結スリーブは、中空であり、隣接する異形管1において液体が流通できるようになっていれば、末端の異形管1から液体を圧送したときに、連結された全ての異形管1を膨張させることができる。
【0047】
さらに、ロックボルト10は、
図15に示すように、雌ねじ33を備えた後端スリーブ3に替えて、中空雄ねじ付スリーブ3’を備えたものでも良い。中空雄ねじ付スリーブ3’は、全ネジボルト7と同等のねじ径の雄ねじ部35を備え、雄ねじ部35の内部は中空部36となって、中空部36は異形管1の内部空間101と連通している。
【0048】
中空雄ねじ付スリーブ3’には、雌ねじタイプの注水アダプタ4’をねじ込むことが出来、注水アダプタ4’の注水孔44は、中空部36と連通し、カップリング9を接続して異形管1の内部空間101に注水を行うことが出来る。
【0049】
中空雄ねじ付スリーブ3’を備えたロックボルト10は、ワッシャー5、ナット6を嵌めた状態のまま、注水膨張作業を行うことができる。
【0050】
即ち、ロックボルトの一次定着後に大変形が生じている地山では、
図16に示すように、地山からの押し出し力をナット6で押さえられたワッシャー5が支えているため、この状態で二次膨張の作業の為にナット6、ワッシャー5をはずすのは、施工性がよくない。そこで、中空雄ねじ付スリーブ3’を備えたロックボルトであれば、ナット6、ワッシャー5を嵌めた状態のまま二次膨張作業のために注水アダプタ4’を嵌めて、異形管1を二次膨張させることが可能となる為、安全で且つ施工性が良い。
【0051】
また、上述した注水システム8は、一例であり、ロックボルト10を少なくとも二段階で膨張できるように液体を圧送できるものであれば特には限定されない。
【0052】
上記実施形態では、地山の変位が基準値以上になったとき、あるいは地山の変位が収束したと判断したときに、二次定着を開始しているが、このような二次定着を開始するための要件が、本発明に係る「所定の条件を充足したとき」となる。但し、この所定の条件は、トンネルやロックボルトの態様に応じ、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 :異形管
10 :ロックボルト
101 :内部空間
500 :トンネル
502 :削孔