(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】回転電機の駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220713BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220713BHJP
H02P 25/18 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/06
H02P25/18
(21)【出願番号】P 2019013608
(22)【出願日】2019-01-29
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金城 博文
(72)【発明者】
【氏名】岡本 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/056045(WO,A1)
【文献】特表2013-529055(JP,A)
【文献】特公平7-99959(JP,B2)
【文献】特開2010-81786(JP,A)
【文献】特開2006-149153(JP,A)
【文献】特表2005-535276(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098585(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0253395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/06
H02P 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の巻線(12,14,16)を含む回転電機(10)の各相に対応して、第1高電位点(H1)と対応する巻線の一端との間、及び、対応する巻線の一端と第1低電位点(L1)との間を各々開閉可能な複数の第1スイッチング素子(24,26,28,30,32,34)を各々備えた第1インバータ部(22)と、
前記回転電機の各相に対応して、第2高電位点(H2)と対応する巻線の他端との間、及び、対応する巻線の他端と第2低電位点(L2)との間を各々開閉可能な複数の第2スイッチング素子(38,40,42,44,46,48)を各々備えた第2インバータ部(36)と、
前記第1高電位点と前記第2高電位点とを接続する第1接続線(50)と、
前記第1低電位点と前記第2低電位点とを接続する第2接続線(52)と、
前記第1接続線の途中及び前記第2接続線の途中の少なくとも一方に設けられた開閉部(54)と、
前記開閉部を開状態とし前記第2インバータ部を前記回転電機の巻線の中性点として前記第1インバータ部の変調率を変化させるスター結線制御から、前記開閉部を閉状態とし前記第1インバータ部の出力相電圧と前記第2インバータ部の出力相電圧との差分の電圧を前記巻線に印加するオープン結線制御に切り替える場合に、前記回転電機の巻線に印加される相電圧ベクトルの変化が所定範囲内になるように、前記第1インバータ部の変調率を低下させかつ前記第2インバータ部の変調率を上昇させる制御部(60)と、
を含む回転電機の駆動装置(20)。
【請求項2】
前記制御部は、前記オープン結線制御から前記スター結線制御に切り替える場合に、前記相電圧ベクトルの変化が前記所定範囲内になるように、前記第1インバータ部の変調率を上昇させかつ前記第2インバータ部の変調率を0にする請求項1記載の回転電機の駆動装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記スター結線制御と前記オープン結線制御との間で制御を切り替える場合に、前記回転電機の巻線に印加される相電圧ベクトルの変化が前記所定範囲内になるように、前記第1インバータ部の変調率及び前記第2インバータ部の変調率を同等に変化させる請求項1又は請求項2記載の回転電機の駆動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記スター結線制御と前記オープン結線制御との間で制御を切り替える場合に、前記第1インバータ部の変調率及び前記第2インバータ部の変調率を不連続的に変化させる請求項1~請求項3の何れか1項記載の回転電機の駆動装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記スター結線制御において、前記第2インバータ部の前記第2高電位点側の前記第2スイッチング素子の群及び前記第2低電位点側の前記第2スイッチング素子の群のうち、前記開閉部が設けられた接続線に対応する少なくとも一方の前記第2スイッチング素子の群を継続して閉状態にする請求項1~請求項4の何れか1項記載の回転電機の駆動装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記オープン結線制御において、前記第1インバータ部及び前記第2インバータ部の同じ相の出力電圧の位相差が120[deg]となるように制御する第1制御を行う請求項1~請求項5の何れか1項記載の回転電機の駆動装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記オープン結線制御において、前記第1インバータ部及び前記第2インバータ部の同じ相の出力電圧の位相差が180[deg]となるように制御する第2制御を行う請求項1~請求項5の何れか1項記載の回転電機の駆動装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記オープン結線制御において、前記第1インバータ部及び前記第2インバータ部の同じ相の出力電圧の位相差が120[deg]となるように制御する第1制御と、前記第1インバータ部及び前記第2インバータ部の同じ相の出力電圧の位相差が180[deg]となるように制御する第2制御と、の間で制御を切り替える場合に、前記回転電機の巻線に印加される相電圧ベクトルの変化が前記所定範囲内になるように、前記第1インバータ部の出力電圧ベクトルの位相及び前記第2インバータ部の出力電圧ベクトルの位相を変化させる請求項1~請求項5の何れか1項記載の記載の回転電機の駆動装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第2制御において、前記回転電機の巻線に接続された一方のインバータ部のスイッチング素子がPWMスイッチングを行っている期間、同一の巻線に接続された他方のインバータ部のスイッチング素子の開閉状態を固定する請求項7又は請求項8記載の回転電機の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、独立巻線型電動機に交流電圧を出力する第1インバータ及び第2インバータを、独立巻線型電動機がY結線等価動作あるいはΔ結線等価動作をするように制御する構成が開示されている。この構成では、Y結線等価動作状態からΔ結線等価動作状態への移行に際し、Y結線等価動作状態から、第1インバータの変調率を維持したまま第2インバータの変調率を徐々に増加させる中間動作状態を経由して、Δ結線等価動作状態に移行するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、Y結線等価動作状態において、第2インバータを等価的に中性点として作用させるために、第2インバータが零ベクトルスイッチングを行うので損失が大きいが、中間動作状態においても、特に第2インバータの変調率が比較的小さくY結線等価動作に近い領域において、第2インバータが零ベクトルスイッチングに近い動作となることで大きな零相電流が流れるので損失が大きい。従って、特許文献1に記載の技術は、回転電機の低~中速回転域におけるインバータの損失が大きい。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、回転電機の低~中速回転域におけるインバータの損失を低減できる回転電機の駆動装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る回転電機の駆動装置は、複数相の巻線を含む回転電機の各相に対応して、第1高電位点と対応する巻線の一端との間、及び、対応する巻線の一端と第1低電位点との間を各々開閉可能な複数の第1スイッチング素子を各々備えた第1インバータ部と、前記回転電機の各相に対応して、第2高電位点と対応する巻線の他端との間、及び、対応する巻線の他端と第2低電位点との間を各々開閉可能な複数の第2スイッチング素子を各々備えた第2インバータ部と、前記第1高電位点と前記第2高電位点とを接続する第1接続線と、前記第1低電位点と前記第2低電位点とを接続する第2接続線と、前記第1接続線の途中及び前記第2接続線の途中の少なくとも一方に設けられた開閉部と、前記開閉部を開状態とし前記第2インバータ部を前記回転電機の巻線の中性点として前記第1インバータ部の変調率を変化させるスター結線制御から、前記開閉部を閉状態として前記第1インバータ部の出力相電圧と前記第2インバータ部の出力相電圧との差分の電圧を前記巻線に印加するオープン結線制御に切り替える場合に、前記回転電機の巻線に印加される相電圧ベクトルの変化が所定範囲内になるように前記第1インバータ部の変調率を低下させかつ前記第2インバータ部の変調率を上昇させる制御部と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、回転電機の低~中速回転域におけるインバータの損失を低減できる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る回転電機の駆動装置の概略構成図である。
【
図2】制御部による制御を示す機能ブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る制御領域をモータジェネレータの出力特性上で示す線図である。
【
図4】スター結線制御における動作の一例を示す概略図である。
【
図5】スター結線制御におけるインバータ部の駆動波形、モータジェネレータのコイルへの印加電圧波形及び相電流波形を示す線図である。
【
図6】スター結線制御における各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図7】オープン結線制御における動作の一例を示す概略図である。
【
図8A】オープン結線制御においてU相コイルに対応する回路の動作を示す概略図である。
【
図8B】オープン結線制御においてU相コイルに対応する回路の動作を示す概略図である。
【
図9】オープン結線制御(デルタ結線制御)におけるインバータ部の駆動波形、モータジェネレータのコイルへの印加電圧波形及び相電流波形を示す線図である。
【
図10】オープン結線制御(デルタ結線制御)における各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図11】スター結線制御とオープン結線制御(Hブリッジ制御)との間で制御を切り替える場合の、各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図12】スター結線制御からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ制御を切り替えた場合の、インバータ部の駆動波形及び相電流波形を示す線図である。
【
図13】第2実施形態に係る制御領域をモータジェネレータの出力特性上で示す線図である。
【
図14】Hブリッジ制御におけるインバータ部の駆動波形、モータジェネレータのコイルへの印加電圧波形及び相電流波形の一例を示す線図である。
【
図15】Hブリッジ制御における各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図16】スター結線制御とオープン結線制御(Hブリッジ制御)との間で制御を切り替える場合の、各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図17】第3実施形態に係る制御領域をモータジェネレータの出力特性上で示す線図である。
【
図18】オープン結線制御(デルタ結線制御)とオープン結線制御(Hブリッジ制御)との間で制御を切り替える場合の、各インバータ部の出力電圧ベクトル及び相電圧ベクトルを示す線図である。
【
図19】制御領域の他の例をモータジェネレータの出力特性上で示す線図である。
【
図20】
図19に示す過変調制御領域で過変調PWM制御を行う場合のインバータ部の駆動波形を示す線図である。
【
図21】
図19に示す過変調制御領域で矩形波制御を行う場合のインバータ部の駆動波形を示す線図である。
【
図22】Hブリッジ制御におけるインバータ部の駆動波形、モータジェネレータのコイルへの印加電圧波形及び相電流波形の他の例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0010】
〔第1実施形態〕
図1には、回転電機の一例としてのモータジェネレータ10、モータジェネレータ10を駆動する駆動装置20、及び、駆動装置20に直流電力を供給する直流電源部70が示されている。なお、駆動装置20は回転電機の駆動装置の一例である。
【0011】
モータジェネレータ10は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両に搭載され、電動車両の図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生する、所謂「主機モータ」である。モータジェネレータ10は、駆動装置20によって駆動されて電動機として機能する場合(力行)と、電動車両の駆動輪や図示しないエンジンから伝達された駆動力によって駆動されて発電する発電機として機能する場合(回生)と、がある。本実施形態では、モータジェネレータ10が電動機として機能する場合を中心に説明する。
【0012】
モータジェネレータ10は、オープン巻線の三相の回転機であって、U相コイル12、V相コイル14及びW相コイル16を有している。以下、U相コイル12、V相コイル14及びW相コイル16を適宜「コイル12~16」という。また、U相コイル12に流れる電流をU相電流iu、V相コイル14に流れる電流をV相電流iv、W相コイル16に流れる電流をW相電流iwという。コイル12~16に流れる電流について、第1インバータ部22側から第2インバータ部36側に流れる電流を正、第2インバータ部36側から第1インバータ部22側に流れる電流を負とする。
【0013】
モータジェネレータ10の相電流iu,iv,iwは、ホール素子等の電流検出素子を各相毎に備えた電流検出部58によって検出される。また、モータジェネレータ10の出力軸の回転電気角θは、図示しない回転角センサによって検出される。
【0014】
駆動装置20は、第1インバータ部22、第2インバータ部36、高電位側接続線50、低電位側接続線52、高電位側接続線スイッチング素子54、及び、制御部60を含んでいる。
【0015】
第1インバータ部22は、コイル12~16の通電を切り替える3相インバータである。第1インバータ部22は、コイル12に対応して、第1インバータ部22の第1高電位点H1と接続点U1との間に設けられたスイッチング素子24と、接続点U1と第1インバータ部22の第1低電位点L1との間に設けられたスイッチング素子26と、を備えている。また、第1インバータ部22は、コイル14に対応して、第1高電位点H1と接続点V1との間に設けられたスイッチング素子28と、コイル14の一端と接続点V1との間に設けられたスイッチング素子30と、を備えている。更に、第1インバータ部22は、コイル16に対応して、第1高電位点H1と接続点W1との間に設けられたスイッチング素子32と、接続点W1と第1低電位点L1との間に設けられたスイッチング素子34と、を備えている。なお、第1インバータ部22のスイッチング素子24,26,28,30,32,34は第1スイッチング素子の一例である。
【0016】
また、第2インバータ部36も、コイル12~16の通電を切り替える3相インバータである。第2インバータ部36は、コイル12に対応して、第2インバータ部36の第2高電位点H2と接続点U2との間に設けられたスイッチング素子38と、接続点U2と第2インバータ部36の第2低電位点L2との間に設けられたスイッチング素子40と、を備えている。また第2インバータ部36は、コイル14に対応して、第2高電位点H2と接続点V2との間に設けられたスイッチング素子42と、接続点V2と第2低電位点L2との間に設けられたスイッチング素子44と、を備えている。更に第2インバータ部36は、コイル16に対応して、第2高電位点H2と接続点W2との間に設けられたスイッチング素子46と、接続点W2と第2低電位点L2との間に設けられたスイッチング素子48と、を備えている。なお、第2インバータ部36のスイッチング素子38,40,42,44,46,48は第2スイッチング素子の一例である。
【0017】
スイッチング素子24は、トランジスタ24A及びダイオード24Bを有している。スイッチング素子26~34,38~48についても同様に、それぞれ、トランジスタ26A~34A,38A~48A及びダイオード28B~34B,38B~48Bを有している。
【0018】
トランジスタ24A~34A,38A~48Aは、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)であって、制御部60によってオンオフが制御される。トランジスタ24A~34A,38A~48Aは、オンされたときに高電位側から低電位側への通電が許容され、オフされたときに通電が遮断される。トランジスタ24A~34A,38A~48Aは、IGBTに限らず、MOSFET等であってもよい。
【0019】
ダイオード24B~34B,38B~48Bは、トランジスタ24A~34A,38A~48Aのそれぞれと並列に接続され、低電位側から高電位側への通電を許容する還流ダイオードである。例えば、ダイオード24B~34B,38B~48Bは、例えば、MOSFETの寄生ダイオード等のように、トランジスタ24A~34A,38A~48Aに内蔵されていてもよいし、外付けされたものであってもよい。
【0020】
第1インバータ部22において、U相のスイッチング素子24,26の接続点U1にはU相コイル12の一端が接続され、V相のスイッチング素子28,30の接続点V1にはV相コイル14の一端が接続され、W相のスイッチング素子32,34の接続点W1にはW相コイル16の一端が接続されている。
【0021】
また、第2インバータ部36において、U相のスイッチング素子38,40の接続点U2にはU相コイル12の他端が接続され、V相のスイッチング素子42,44の接続点V2にはV相コイル14の他端が接続され、W相のスイッチング素子46,48の接続点W2にはW相コイル16の他端が接続されている。
【0022】
第1インバータ部22の第1高電位点H1は直流電源部70のバッテリ72の正極に接続されており、高電位側接続線50は、第1インバータ部22の第1高電位点H1と、第2インバータ部36の第2高電位点H2と、を接続している。また、第1インバータ部22の第1低電位点L1はバッテリ72の負極に接続されており、低電位側接続線52は、第1インバータ部22の第1低電位点L1と、第2インバータ部36の第2低電位点L2と、を接続している。高電位側接続線50は第1接続線の一例であり、低電位側接続線52は第2接続線の一例である。
【0023】
また、高電位側接続線50の途中には高電位側接続線50を開閉する高電位側接続線スイッチング素子54が設けられている。高電位側接続線スイッチング素子54は開閉部の一例である。高電位側接続線スイッチング素子54は制御部60に接続されており、制御部60によってオンオフが制御される。
【0024】
また、直流電源部70は、第1インバータ部22とバッテリ72との間に接続された平滑用のコンデンサ74を含んでいる。コンデンサ74の両端の直流電圧Vdcは電圧検出部76によって検出される。
【0025】
制御部60は、第1インバータ部22、第2インバータ部36、電流検出部58、電圧検出部76、高電位側接続線スイッチング素子54及び図示しない回転角センサに接続されている。制御部60はCPU(Central Processing Unit)、メモリ及び不揮発性の記憶部を含んでおり、各種の演算処理を行う。制御部60における演算処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理で実現してもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理で実現してもよい。
【0026】
制御部60は、第1インバータ部22及び第2インバータ部36を制御する。具体的には、モータジェネレータ10の駆動指令値(本実施形態では角速度指令値ω*)に基づき、スイッチング素子24~34,38~48のトランジスタ24A~34A、38A~48Aのオンオフを制御する制御信号を生成する。そして、生成した制御信号に応じて、トランジスタ24A~34A,38A~48Aのオンオフを制御するゲート信号を生成して出力する。トランジスタ24A~34A,38A~48Aが制御信号に応じてオンオフされることで、バッテリ72の直流電力が交流電力に変換され、モータジェネレータ10へ供給される。これにより、モータジェネレータ10の駆動は、第1インバータ部22及び第2インバータ部36を介して、制御部60によって制御される。
【0027】
次に第1実施形態の作用を説明する。第1実施形態において、制御部60は、機能的には、
図2に示す微分演算部60A、速度制御部60B、電流指令生成部60C、座標変換部60D、電流制御部60E、座標変換部60F及び駆動信号生成部60G,60Hを含んでいる。
【0028】
具体的には、微分演算部60Aは、回転角センサによって検出されたモータジェネレータ10の出力軸の回転電気角θを時間で微分し、角速度ωを出力する。速度制御部60Bは、微分演算部60Aから出力された角速度ωを、外部から入力されたモータジェネレータ10の駆動指令値である角速度指令値ω*と比較し、比較結果に応じてトルク指令値trq*を生成して出力する。電流指令生成部60Cは、速度制御部60Bより出力されたトルク指令値trq*から、d相及びq相の電流指令値id*,iq*を生成して出力する。
【0029】
また座標変換部60Dは、モータジェネレータ10の回転電気角θに基づいて、電流検出部58によって検出されたモータジェネレータ10の相電流iu、iv、iwを、d相及びq相の電流id,iqへ変換して出力する。電流制御部60Eは、座標変換部60Dから出力されたd相及びq相の電流id,iqを、電流指令生成部60Cから出力されたd相及びq相の電流指令値id*,iq*と比較し、比較結果に応じてd相及びq相の出力電圧指令値vd*,vq*を生成して出力する。座標変換部60Fは、モータジェネレータ10の回転電気角θに基づいて、電流制御部60Eから出力されたd相及びq相の出力電圧指令値vd*,vq*を、u相、v相及びw相の出力電圧指令値vu*,vv*,vw*へ変換して出力する。
【0030】
駆動信号生成部60Gには、現在の結線モードがスター結線モード(スター結線制御領域)であるかオープン結線モード(オープン結線制御領域)であるかを表す結線モード信号が入力される。駆動信号生成部60Gは、座標変換部60Fから出力されたu相、v相及びw相の出力電圧指令値vu*,vv*,vw*及び結線モード信号に基づいて、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34のオンオフを制御する第1駆動信号を生成する。
【0031】
また、上記の結線モード信号は駆動信号生成部60Hにも入力される。駆動信号生成部60Hは、座標変換部60Fから出力されたu相、v相及びw相の出力電圧指令値vu*,vv*,vw*及び結線モード信号に基づいて、第2インバータ部36のスイッチング素子38~48のオンオフを制御する第2駆動信号を生成する。
【0032】
駆動信号生成部60Gによって生成された第1駆動信号は第1インバータ部22のスイッチング素子24~34のトランジスタ24A~34Aのゲートに供給され、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34のオンオフが制御される。また、駆動信号生成部60Gによって生成された第2駆動信号は第2インバータ部36のスイッチング素子38~48のトランジスタ38A~48Aのゲートに供給され、第2インバータ部36のスイッチング素子24~34のオンオフが制御される。これにより、各相のコイル12~16に電圧が印加されることで、モータジェネレータ10が駆動される。
【0033】
第1実施形態では、
図3に示すように、モータジェネレータ10の低~中速回転域がスター結線制御領域とされており、スター結線制御領域よりも高速回転域側がオープン結線制御領域、詳しくはデルタ結線制御領域とされている。
【0034】
スター結線制御領域において、制御部60は、スター結線制御を行う。すなわち、制御部60は高電位側接続線スイッチング素子54を継続してオフさせる。また、制御部60は、第2インバータ部36の高電位側のスイッチング素子38,42,46を継続して各々オンさせ、低電位側のスイッチング素子40,44,48を継続して各々オフさせる(第1のオンオフ状態)ことで、第2インバータ部36をモータジェネレータ10の各コイル12~16の中性点として動作させる(
図4参照)。
【0035】
そして、制御部60は、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34をPWM制御によって各々オンオフさせることで、モータジェネレータ10のコイル12~16へ電圧を印加してモータジェネレータ10を駆動する。また、制御部60は、角速度指令値ω*とモータジェネレータ10の出力軸の角速度ωとの相対変化に伴ってトルク指令値trq*が変化したなどの場合に、トルク指令値trq*の変化などに応じて第1インバータ部22の変調率α1を変化させることで、コイル12~16への印加電圧を変化させる。
【0036】
スター結線制御におけるインバータ部22,36の駆動波形、モータジェネレータ10のコイル(ここではU相コイル12)への印加電圧波形及び相電流波形を
図5に示す。
【0037】
また、スター結線制御において、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12を
図6に示す。なお、相電圧ベクトルU12は、第1インバータ部22の出力電圧ベクトルU1と第2インバータ部36の出力電圧ベクトルU2との差分で表され、相電圧ベクトルV12は、第1インバータ部22の出力電圧ベクトルV1と第2インバータ部36の出力電圧ベクトルV2との差分で表され、相電圧ベクトルW12は、第1インバータ部22の出力電圧ベクトルW1と第2インバータ部36の出力電圧ベクトルW2との差分で表される。
【0038】
スター結線制御では、第2インバータ部36をモータジェネレータ10の各コイル12~16の中性点として動作させるので、第2インバータ部36の出力電圧ベクトルU2,V2,W2は零ベクトルである。そして、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34をPWM制御によって各々オンオフさせるので、第1インバータ部22の出力電圧ベクトルU1,V1,W1が、相電圧ベクトルU12,V12,W12に一致する。
【0039】
なお、第1インバータ部22の変調率α1は、第1インバータ部22の出力電圧ベクトルU1,V1,W1の長さに対応しており、第2インバータ部36の変調率α2は、第2インバータ部36の出力電圧ベクトルU2,V2,W2の長さに対応している。
【0040】
一方、オープン結線制御領域において、制御部60は、オープン結線制御を行う。すなわち、制御部60は高電位側接続線スイッチング素子54をオンさせる(
図7参照)。
図8A,8Bは、コイル12に対応する回路(スイッチング素子24,26,38,40を含む回路)に対してオープン結線制御を行った場合の動作を示す。なお、オープン結線は、オープン巻線(open-end winding)等と呼称されることもある。
【0041】
図8Aに示すように、コイル12を挟んで対角に位置するスイッチング素子24,40(のトランジスタ24A,40A)をオンさせると、コイル12の両端には正の向きにバッテリ72の電圧が印加される。また、
図8Bに示すように、コイル12を挟んで対角に位置するスイッチング素子38,26(のトランジスタ38A,26A)をオンさせると、コイル12の両端には負の向きにバッテリ72の電圧が印加される。これらの状態を繰り返すことで、コイル12には交流電圧が印加され、同様にコイル14,16にも交流電圧が印加される。
【0042】
また、第1実施形態において、制御部60は、オープン結線制御として、より詳しくはデルタ結線制御を行う。すなわち、制御部60は、デルタ結線制御において、第1インバータ部22と第2インバータ部36とで、同じ相の出力電圧ベクトルの大きさを等しく、かつ位相差を120[deg]とする。例えば、
図10に示すように、第1インバータ部22のU相の出力電圧ベクトルU1と第2インバータ部36のU相の出力電圧ベクトルU2とは、大きさが等しく、かつ位相差が120[deg]とされる。本実施形態ではモータジェネレータ10が3相であるので、第1インバータ部22と第2インバータ部36とで異なる相のスイッチングが同期したデルタ結線制御となる。デルタ結線制御におけるインバータ部22,36の駆動波形、モータジェネレータ10のコイル(ここではU相コイル12)への印加電圧波形及び相電流波形を
図9に示す。
【0043】
また、デルタ結線制御において、制御部60は角速度指令値ω*とモータジェネレータ10の出力軸の角速度ωとの相対変化に伴ってトルク指令値trq*が変化したなどの場合に、トルク指令値trq*の変化などに応じて第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2を同等に変化させることで、コイル12~16への印加電圧を変化させる。なお、デルタ結線制御は第1制御の一例である。
【0044】
なお、本明細書において、第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2を同等に変化させることには、実際に制御したときに、製造誤差などに起因する程度の変調率の差が生じている場合も含まれる。
【0045】
次に、第1実施形態において、スター結線制御とオープン結線制御(デルタ結線制御)との間で制御を切り替える場合について説明する。
図3に示すように、第1実施形態では、スター結線制御領域とオープン結線制御領域(デルタ結線制御領域)とが隣接しており、両者の領域の間に中間的な制御を行う領域が設けられていない。そして、制御部60は、スター結線制御を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた第1インバータ部22の変調率α
1が所定値を超えた(一例としてα
1>1)などの場合に、スター結線制御からオープン結線制御(デルタ結線制御)への切り替えを行う。
【0046】
すなわち、制御部60は、スター結線制御からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、
図11に矢印Aとして示すように、第1インバータ部22の変調率α
1を不連続的に(瞬間的に)低下させ、かつ第2インバータ部36の変調率α
2を不連続的に(瞬間的に)上昇させる(変調率の変化幅を変調率α
1と同等に変化させる)。より詳しくは、制御を切り替えた後の第1インバータ部22の出力電圧ベクトルと第2インバータ部36の出力電圧ベクトルとの大きさが等しく、かつ位相差が120[deg]となるように制御する。
【0047】
なお、本明細書において、相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることは、トルク指令値trq*などの変化に伴って制御を切り替える場合に、相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を、トルク指令値trq*などの変化に対応する相電圧ベクトルの変化分ΔU12,ΔV12,ΔW12以内に抑えることを意味する。
【0048】
このように、制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、例として
図12に示すように、スター結線制御からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0049】
また制御部60は、オープン結線制御(デルタ結線制御)を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた変調率α
1,α
2が所定値未満になったなどの場合に、オープン結線制御(デルタ結線制御)からスター結線制御への切り替えを行う。すなわち、制御部60は、オープン結線制御(デルタ結線制御)からスター結線制御へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、
図11に矢印Bとして示すように、第1インバータ部22の変調率α
1を不連続的に(瞬間的に)上昇させ、かつ第2インバータ部36の変調率α
2を不連続的に(瞬間的に)0に低下させる(変調率の変化幅を変調率α
1と同等に変化させる)。
【0050】
このように、オープン結線制御(デルタ結線制御)からスター結線制御へ制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、オープン結線制御(デルタ結線制御)からスター結線制御へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0051】
上述したように、第1実施形態では、第1インバータ部22が、複数相のコイル12,14,16を含むモータジェネレータ10の各相に対応して、第1高電位点H1と対応するコイルの一端との間、及び、対応するコイルの一端と第1低電位点L1との間を各々開閉可能な複数のスイッチング素子24~34を各々備えている。また、第2インバータ部36は、モータジェネレータ10の各相に対応して、第2高電位点H2と対応するコイルの他端との間、及び、対応するコイルの他端と第2低電位点L2との間を各々開閉可能な複数のスイッチング素子38~48を各々備えている。また、高電位側接続線50は第1高電位点H1と第2高電位点H2とを接続し、低電位側接続線52は第1低電位点L1と第2低電位点L2とを接続し、高電位側接続線スイッチング素子54は高電位側接続線50の途中に設けられている。そして、制御部60は、高電位側接続線スイッチング素子54をオフ状態とし第2インバータ部36をモータジェネレータ10のコイル12~16の中性点として第1インバータ部22の変調率α1を変化させるスター結線制御から、高電位側接続線スイッチング素子54をオン状態とし第1インバータ部22の出力相電圧と第2インバータ部36の出力相電圧との差分の電圧をコイル12~16に印加するオープン結線制御に切り替える場合に、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、第1インバータ部22の変調率α1を低下させかつ第2インバータ部36の変調率α2を上昇させる。
【0052】
これにより、スター結線制御からオープン結線制御へ切り替える際に、第2インバータ部36が零ベクトルスイッチングを行ったり、第2インバータ部36が零ベクトルスイッチングに近い動作となることがなくなるので、大きな零相電流が流れることを抑制することができ、モータジェネレータ10の低~中速回転域におけるインバータ部22,36の損失を低減することができる。従って、モータジェネレータ10を電動車両の駆動源として用いた態様において、電動車両の常用域における電費を向上させることができる。
【0053】
また、第1実施形態では、制御部60は、オープン結線制御からスター結線制御に切り替える場合に、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、第1インバータ部22の変調率α1を上昇させかつ第2インバータ部36の変調率α2を0にする。これにより、オープン結線制御からスター結線制御へ切り替える際にも、第2インバータ部36が零ベクトルスイッチングを行ったり、零ベクトルスイッチングに近い動作となることがなくなるので、大きな零相電流が流れることを抑制することができ、モータジェネレータ10の低~中速回転域におけるインバータ部22,36の損失を低減することができる。従って、モータジェネレータ10を電動車両の駆動源として用いた態様において、電動車両の常用域における電費を向上させることができる。
【0054】
また、第1実施形態では、制御部60は、スター結線制御とオープン結線制御との間で制御を切り替える場合に、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2の変化幅を同等に変化させる。これにより、第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2に差を生じさせつつ変調率α1,α2を変化させる態様と比較して零相電流を抑制することができ、零相電流による損失を低減することができる。
【0055】
更に、第1実施形態では、制御部60は、スター結線制御とオープン結線制御との間で制御を切り替える場合に、第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2を不連続的に変化させる。これにより、モータジェネレータ10の出力軸の回転速度やトルクを意図的に大きく変化させるような条件においても、スター結線制御とオープン結線制御との間で制御を切り替えるための特別な移行期間を設けることなく瞬時に制御を切り替えることができる。従って、制御を切り替える前後の電流の連続性が担保され、制御の切り替えに伴ってモータジェネレータ10のトルクが意図を超えて急激に変動することを抑制することができる。
【0056】
また、第1実施形態では、制御部60は、スター結線制御において、第2インバータ部36の第2高電位点H2側のスイッチング素子38,42,46及び第2低電位点L2側のスイッチング素40,44,48のうち、高電位側接続線スイッチング素子54が設けられた高電位側接続線50に対応するスイッチング素子38,42,46を継続して閉状態にする。これにより、第2インバータ部36が等価的に中性点として作用するように第2インバータ部36のスイッチング素子38~48をオンオフさせる態様と比較して、スター結線制御における第2インバータ部36のスイッチング損失を低減することができる。
【0057】
また、第1実施形態では、制御部60は、オープン結線制御において、第1インバータ部22及び第2インバータ部36の同じ相の出力電圧の位相差が120[deg]となるように制御する第1制御(デルタ結線制御)を行う。デルタ結線制御は、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加可能な最大実効電圧がスター結線制御に対して√3倍になるため、オープン結線制御としてデルタ結線制御を行うことで、モータジェネレータ10を高速回転で駆動できる範囲を拡大することができる。また、デルタ結線制御は、Hブリッジ制御と比較して、第1インバータ部22と第2インバータ36で電気周期の3次の中性点電圧に差分が生じないため、インバータ部22,36の中性点電圧の変動に起因した高調波電流を抑制することができ、それに伴う損失増加を回避することができる。
【0058】
〔第2実施形態〕
次に本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0059】
第2実施形態では、
図13に示すように、モータジェネレータ10の低~中速回転域がスター結線制御領域とされており、スター結線制御領域よりも高速回転域側がオープン結線制御領域、詳しくはHブリッジ制御領域とされている。スター結線制御領域において、制御部60が行うスター結線制御は第1実施形態で説明した通りである。
【0060】
一方、第2実施形態において、制御部60は、オープン結線制御として、より詳しくはHブリッジ制御を行う。すなわち、制御部60は、Hブリッジ制御において、第1インバータ部22と第2インバータ部36とで、同じ相の出力電圧ベクトルの大きさを等しく、かつ位相差を180[deg]とする。例えば、
図15に示すように、第1インバータ部22のU相の出力電圧ベクトルU1と第2インバータ部36のU相の出力電圧ベクトルU2とは、大きさが等しく、かつ位相差が180[deg]とされる。Hブリッジ制御におけるインバータ部22,36の駆動波形、モータジェネレータ10のコイル(ここではU相コイル12)への印加電圧波形及び相電流波形の一例を
図14に示す。
【0061】
また、Hブリッジ制御において、制御部60は角速度指令値ω*とモータジェネレータ10の出力軸の角速度ωとの相対変化に伴ってトルク指令値trq*が変化したなどの場合に、トルク指令値trq*の変化などに応じて第1インバータ部22の変調率α1及び第2インバータ部36の変調率α2を同等に変化させることで、コイル12~16への印加電圧を変化させる。なお、Hブリッジ制御は第2制御の一例である。
【0062】
次に、第2実施形態において、スター結線制御とオープン結線制御(Hブリッジ制御)との間で制御を切り替える場合について説明する。
図13に示すように、第2実施形態では、スター結線制御領域とオープン結線制御領域(Hブリッジ制御領域)とが隣接しており、両者の領域の間に中間的な制御を行う領域が設けられていない。そして、制御部60は、スター結線制御を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた第1インバータ部22の変調率α
1が所定値を超えた(一例としてα
1>1)などの場合に、スター結線制御からオープン結線制御(Hブリッジ制御)への切り替えを行う。
【0063】
すなわち、制御部60は、スター結線制御からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、
図16に矢印Cとして示すように、第1インバータ部22の変調率α
1を不連続的に(瞬間的に)低下させ、かつ第2インバータ部36の変調率α
2を不連続的に(瞬間的に)上昇させる(変調率の変化幅を変調率α
1と同等に変化させる)。より詳しくは、スター結線制御からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ制御を切り替えた後の第1インバータ部22の出力電圧ベクトルと第2インバータ部36の出力電圧ベクトルとの大きさが等しく、かつ位相差が180[deg]となるように制御する。
【0064】
このように、スター結線制御からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、スター結線制御からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0065】
また制御部60は、オープン結線制御(Hブリッジ制御)を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた変調率α
1,α
2が所定値未満になったなどの場合に、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からスター結線制御への切り替えを行う。すなわち、制御部60は、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からスター結線制御へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になるように、
図16に矢印Dとして示すように、第1インバータ部22の変調率α
1を不連続的に(瞬間的に)上昇させ、かつ第2インバータ部36の変調率α
2を不連続的に(瞬間的に)低下させて0にする(変調率の変化幅を変調率α
1と同等に変化させる)。
【0066】
このように、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からスター結線制御へ制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からスター結線制御へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0067】
上記のように、第2実施形態では、制御部60は、オープン結線制御において、第1インバータ部22及び第2インバータ部36の同じ相の出力電圧の位相差が180[deg]となるように制御する第2制御(Hブリッジ制御)を行う。Hブリッジ制御は、モータジェネレータ10のコイル12~16に印加可能な最大実効電圧がスター結線制御に対して2倍になるため、オープン結線制御としてHブリッジ制御を行うことで、モータジェネレータ10を高速回転で駆動できる範囲を拡大することができる。また、各相の電流を独立して制御できるため、駆動装置20の冗長性(耐障害性)を向上させることができる。
【0068】
〔第3実施形態〕
次に本発明の第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第3実施形態では、
図17に示すように、モータジェネレータ10の低~中速回転域がスター結線制御領域とされ、スター結線制御領域よりも高速回転域側がオープン結線制御領域、詳しくはデルタ結線制御領域とされ、デルタ結線制御領域よりも高速回転域側がオープン結線制御領域、詳しくはHブリッジ制御領域とされている。スター結線制御領域におけるスター結線制御及びオープン結線制御領域(デルタ結線制御領域)におけるデルタ結線制御は第1実施形態で説明した通りであり、オープン結線制御領域(Hブリッジ制御領域)におけるHブリッジ制御は第2実施形態で説明した通りである。
【0070】
次に、第3実施形態において、オープン結線制御(デルタ結線制御)とオープン結線制御(Hブリッジ制御)との間で制御を切り替える場合について説明する。なお、スター結線制御とオープン結線制御(デルタ結線制御)との間で制御を切り替える場合については、第1実施形態で説明した通りである。
【0071】
図13に示すように、本第3実施形態では、オープン結線制御領域(デルタ結線制御領域)とオープン結線制御領域(Hブリッジ制御領域)とが隣接しており、両者の領域の間に中間的な制御を行う領域が設けられていない。そして、制御部60は、オープン結線制御(デルタ結線制御)を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた変調率α
1,α
2が所定値を超えたなどの場合に、オープン結線制御(デルタ結線制御)からオープン結線制御(Hブリッジ制御)への切り替えを行う。
【0072】
すなわち、制御部60は、
図18に矢印Eとして示すように、オープン結線制御(デルタ結線制御)からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になり、制御切り替え後の第1インバータ部22の出力電圧ベクトルと第2インバータ部36の出力電圧ベクトルとの位相差が180[deg]となるように、第1インバータ部22の出力電圧ベクトル及び第2インバータ部36の出力電圧ベクトルの位相を制御する。
【0073】
このように、オープン結線制御(デルタ結線制御)からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、オープン結線制御(デルタ結線制御)からオープン結線制御(Hブリッジ制御)へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0074】
また制御部60は、オープン結線制御(Hブリッジ制御)を行っている状態で、例えば、トルク指令値trq*の変化に応じた変調率α
1,α
2が所定値未満になったなどの場合に、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からオープン結線制御(デルタ結線制御)への切り替えを行う。すなわち、制御部60は、
図18に矢印Fとして示すように、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ制御を切り替える前後でモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化が所定範囲内になり、制御切り替え後の第1インバータ部22の出力電圧ベクトルと第2インバータ部36の出力電圧ベクトルとの位相差が120[deg]となるように、第1インバータ部22の出力電圧ベクトル及び第2インバータ部36の出力電圧ベクトルの位相を制御する。
【0075】
このように、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ制御を切り替える前後でのモータジェネレータ10のコイル12~16に印加される相電圧ベクトルU12,V12,W12の変化を所定範囲内にすることで、モータジェネレータ10の巻線に印加される実効電圧の変化が所定範囲内となる。これにより、モータジェネレータ10のトルクの意図しない急激な変動などを生じさせることなく、オープン結線制御(Hブリッジ制御)からオープン結線制御(デルタ結線制御)へ瞬時かつ円滑に切り替えることができる。
【0076】
なお、上記ではスター結線制御領域において、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34をPWM制御によってオンオフさせる態様を説明したが、これに限定されるものではない。例えば
図19に示すように、スター結線制御領域を変調率が1よりも大きい高速回転側へ拡大すると共に、拡大したスター結線制御領域内を正弦波PWM制御領域と変調率が1よりも大きい過変調制御領域とに区分し、過変調制御領域では過変調PWM制御又は矩形波制御によって第1インバータ部22のスイッチング素子24~34をオンオフさせてもよい。
【0077】
過変調制御領域で過変調PWM制御を行う場合のインバータ部22,36の駆動波形を
図20に示し、過変調制御領域で矩形波制御を行う場合のインバータ部22,36の駆動波形を
図21に示す。スター結線制御領域内の過変調制御領域では、第1インバータ部22のスイッチング素子24~34のスイッチング回数が減少するので、モータジェネレータ10の中速回転域における第1インバータ部22のスイッチング損失を低減することができる。
【0078】
また、
図14にはHブリッジ制御の一例として、インバータ部22,36で均等にスイッチングを行う態様を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、インバータ部22,36の一方でPWMスイッチングを行っている期間、同一の巻線に接続された他方のインバータ部のスイッチング素子の開閉状態を固定するようにしてもよい。一例として、
図22には、Hブリッジ制御として、第1インバータ部22でPWMスイッチングを行い、第2インバータ部36でスイッチング素子の開閉状態を固定する態様における、インバータ部22,36の駆動波形、モータジェネレータ10のコイル(ここではU相コイル12)への印加電圧波形及び相電流波形の一例を示す。これにより、インバータ部におけるスイッチング回数を減らせるため、インバータ部のスイッチング損失を低減することができ、また、Hブリッジ制御における発熱量をインバータ部22,36の一方へ意図的に偏らせることも可能となる。
【0079】
また、上記では高電位側接続線50及び低電位側接続線52のうち、高電位側接続線50にのみ高電位側接続線スイッチング素子54を設けた態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図示は省略するが、高電位側接続線スイッチング素子54を省略し、低電位側接続線52にのみ低電位側接続線スイッチング素子を設けてもよい。この場合、第2インバータ部36をモータジェネレータ10の各コイル12~16の中性点として動作させることは、第2インバータ部36の高電位側のスイッチング素子38,42,46を継続して各々オフさせ、低電位側のスイッチング素子40,44,48を継続して各々オンさせる(第2のオンオフ状態)ことで実現できる。低電位側接続線スイッチング素子も開閉部の一例である。
【0080】
また、接続線スイッチング素子は接続線50,52の両方に設けてもよく、この場合、第2インバータ部36をモータジェネレータ10の各コイル12~16の中性点として動作させることは、第1のオンオフ状態でも第2のオンオフ状態でも実現できる。また、例えばスイッチング素子38,42,46とスイッチング素子40,44,48の熱的状況に応じて、第1のオンオフ状態と第2のオンオフ状態を適宜入れ替えるようにしてもよいし、第2インバータ部36の全てのスイッチング素子38~48を継続して各々オンさせるようにしてもよい。
【0081】
また、回転電機の相数は、三相以外の相数でもよい。一般にデルタ結線は三相の回転電機に限定される呼称であるが、本発明は三相に限定されるものではなく、例えば五相や六相の回転電機にも適用可能である。また、力行に限らず回生にも適用可能である。また、回転電機の種類は同期機であっても誘導機であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 回転電機、12,14,16 巻線、20 駆動装置、22 第1インバータ部、24,26,28,30,32,34 スイッチング素子、 第2インバータ部、38,40,42,44,46,48 スイッチング素子、50 第1接続線、52 第2接続線、54 高電位側接続線スイッチング素子、60 制御部、70 直流電源部