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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】複合体結晶とこれを備えるケモセンサ
(51)【国際特許分類】
   C07C 255/42 20060101AFI20220713BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20220713BHJP
   G01N 21/31 20060101ALI20220713BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220713BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20220713BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20220713BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
C07C255/42 CSP
C07C211/27
G01N21/31
G01N21/64 Z
G01N27/00 J
G01N27/04 Z
G01N5/02 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019506278
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2018010344
(87)【国際公開番号】W WO2018169023
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2017051795
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構研究成果展開事業センター・オブ・イノベーションプログラム「人間力活性化によるスーパー日本人の育成と産業競争力増進/豊かな社会の構築」「核酸の新たな検出原理の実証」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】細川 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】藤内 謙光
(72)【発明者】
【氏名】西谷 幹彦
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】山本淳志 他,カルボン酸アミン塩の自己組織化による蛍光性多孔質結晶の階層的構築とゲスト応答的な動的発光変調,有機結晶部会ニュースレター,2011年,No.29,p.59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 255/42
C07C 211/27
G01N 21/31
G01N 21/64
G01N 27/00
G01N 27/04
G01N 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の分子から構成される超分子ユニットが配列した構造を有する複合体結晶であって、
前記超分子ユニットが、前記分子としてシアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンを含み、
前記超分子ユニット間に、前記超分子ユニットをホストとするゲスト分子と、前記超分子ユニットをホストとするゲスト分子が配置されていない分子空孔を有する、複合体結晶。
【請求項2】
前記ゲスト分子の含有率が1モル%以下である、請求項1に記載の複合体結晶。
【請求項3】
前記シアノアクリル酸誘導体が以下の式(1)に示す化合物である、請求項1または2に記載の複合体結晶。
【化1】
式(1)において、Yは、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジニレン基、チオフェニレン基またはフラニレン基であって各基は置換基を有していてもよく、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、アルデヒド基、チオール基、ビニル基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシエステル基、N-置換アミド基、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基、またはフラニル基である。式(1)に示す化合物は、式(1)の破線部に結合を有していてもいなくてもよく、結合を有する場合の前記結合は、単結合、-CH2-、-O-、-S-または-NH-である。
【請求項4】
前記3置換メチルアミンが以下の式(2)に示す化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の複合体結晶。
【化2】
式(2)のR3~R5は、互いに独立して、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基またはフラニル基であって各基は置換基を有していてもよい。
【請求項5】
前記ゲスト分子の数および前記分子空孔の数の合計に占める前記分子空孔の数の割合は、70%以上である、請求項1に記載の複合体結晶。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の複合体結晶と、
前記複合体結晶の特性を検出する検出部と、を備え、
前記検出部により検出した前記特性の変化に基づいて、所定の化学物質を検出するケモセンサ。
【請求項7】
前記検出部が、前記複合体結晶に光を照射する光源と、前記複合体結晶から発せられる光を検出する光検出器と、を備え、
前記複合体結晶から発せられる前記光を前記特性として、当該光の変化に基づいて前記所定の化学物質を検出する請求項6に記載のケモセンサ。
【請求項8】
前記光の変化が、第1の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光と、第2の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光との差分である請求項7に記載のケモセンサ。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の複合体結晶の製造方法であって、
前記超分子ユニットと前記ゲスト分子とが配列した構造を有する前駆複合体結晶から前記ゲスト分子を脱離して前記複合体結晶を形成し、
前記前駆複合体結晶からの前記ゲスト分子の脱離を、超臨界二酸化炭素を用いた超臨界乾燥により実施する、複合体結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合体結晶と、複合体結晶を備えるケモセンサとに関する。
【背景技術】
【0002】
複合体結晶は、2種以上の分子から構成される結晶である。複合体結晶は、共有結合ではない相互作用により分子が配列した構造を有する。相互作用の例は、水素結合、イオン結合、およびπ-π相互作用である。これらの相互作用によって分子間に働く力は、共有結合によるものより弱い。
【0003】
複合体結晶の1種は、超分子ユニットと、超分子ユニットをホストとするゲスト分子とが配列した構造を有する。超分子ユニットは、2種以上の分子から構成される。この結晶は、1次構造および2次構造の階層構造を有する。1次構造は、超分子ユニットを構成する当該2種以上の分子の配列である。2次構造は、複合体結晶を構成する超分子ユニットと、ゲスト分子との配列である。いずれの配列も、共有結合ではない相互作用に基づく。「超分子ユニット」の名称は、1次構造および2次構造を反映している。具体的には、2種以上の分子の非共有結合による配列である1次構造を、「超分子」が反映する。この超分子が複合体結晶を構成する2次構造の1単位であることを、「ユニット」が反映する。
【0004】
超分子ユニットの一例は、有機酸であるアニオンと、プロトン化された塩基であるカチオンとの有機塩である。この例では、アニオンとカチオンとの間にイオン結合が作用する。有機酸の例はスルホン酸である。塩基の例はアミンである。
【0005】
有機塩である超分子ユニットと、ゲスト分子との複合体結晶は、例えば、以下の方法により形成できる。1つは、ゲスト分子である溶剤により有機塩を再結晶する方法である。この方法では、再結晶時に、超分子ユニットとしてゲスト分子を包接しながら有機塩が配列する。1つは、ゲスト分子の蒸気に有機塩を曝露する方法である。この方法では、曝露により、超分子ユニットとしてゲスト分子を包接しながら有機塩が配列する。
【0006】
出願人の先願である特許文献1は、芳香族スルホン酸と芳香族アミンとの有機塩である超分子ユニットを有する複合体結晶を開示する。特許文献1は、有機塩の成形体をゲスト分子の蒸気に曝露して複合体結晶を得る方法を開示する。
【0007】
出願人が開示する非特許文献1は、特定の結合比を有する(4-ジフェニルアミノ)フェニルシアノアクリル酸とトリフェニルメチルアミンとの有機塩である超分子ユニットを有する複合体結晶を開示する。非特許文献1は、複合体結晶が示す蛍光スペクトルがゲスト分子の種類によって異なることを開示する。なお、非特許文献1には、「種々の有機溶媒によって再結晶した結果、青からオレンジ色までの蛍光を示す結晶が得られた。熱量分析などの測定の結果、オレンジ色の蛍光を示す結晶を除き、全て、再結晶溶媒をゲストとして包接した結晶であった。」との記載がある。再結晶溶媒をゲストとして包接していないオレンジ色の蛍光を示す結晶は、(4-ジフェニルアミノ)フェニルシアノアクリル酸のみにより構成される結晶であり、複合体結晶ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-193563号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】山本淳志ら、「カルボン酸アミン塩を用いた蛍光性有機多孔質構造の階層的構築とゲスト応答的な動的発光変調」、第7回ホスト・ゲスト化学シンポジウム(2011年)、ポスター発表、セッションID:1P-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、化学物質を内部に取り込む性質を有し、その際に特性の大きな変化を示しうる複合体結晶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、
2種以上の分子から構成される超分子ユニットが配列した構造を有する複合体結晶であって、
前記超分子ユニットが、前記分子としてシアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンを含み、
前記超分子ユニット間に、前記超分子ユニットをホストとするゲスト分子が配置されていない分子空孔を有する、複合体結晶、
を提供する。
【0012】
別の側面から、本開示は、
上記本開示の複合体結晶の製造方法であって、
前記超分子ユニットと前記ゲスト分子とが配列した構造を有する前駆複合体結晶から前記ゲスト分子を脱離して前記複合体結晶を形成し、
前記前駆複合体結晶からの前記ゲスト分子の脱離を、超臨界二酸化炭素を用いた超臨界乾燥により実施する、複合体結晶の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の複合体結晶は、化学物質を内部に取り込む性質を有し、その際に特性の大きな変化を示しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、従来の複合体結晶を説明するための模式図である。
図2図2は、本開示の複合体結晶を説明するための模式図である。
図3図3は、超分子ユニットを説明するための模式図である。
図4図4は、本開示に係る複合体結晶の超分子ユニットを構成するシアノアクリル酸誘導体の例を示す図である。
図5図5は、本開示に係る複合体結晶の超分子ユニットを構成する3置換メチルアミンの例を示す図である。
図6図6は、本開示に係る複合体結晶を製造する方法の一例を示す図である。
図7図7は、本開示に係る複合体結晶を製造する方法の一例を示す図である。
図8図8は、本開示に係るケモセンサの構成の一例を示す模式図である。
図9図9は、実施例1で作製した前駆複合体結晶に対する1H-核磁気共鳴(NMR)プロファイルを示す図である。
図10図10は、実施例1で作製した複合体結晶に対する1H-NMRプロファイルを示す図である。
図11図11は、実施例1で作製した前駆複合体結晶および複合体結晶に対するX線回折(XRD)プロファイルを示す図である。
図12A図12Aは、実施例1に係る複合体結晶で得られた差分強度を示す図である。
図12B図12Bは、比較例1に係る複合体結晶で得られた差分強度を示す図である。
図13図13は、比較例2に係る複合体結晶で得られた差分強度を示す図である。
図14図14は、比較例3に係る複合体結晶で得られた差分強度を示す図である。
図15図15は、実施例2に係る複合体結晶における、アンモニアガスに対する差分強度のガス濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示の一態様に到った経緯)
超分子ユニットおよびゲスト分子の複合体結晶は、化学物質を内部に取り込む性質、およびその際に特性が変化する性質を有しうる。これらの性質を有する複合体結晶について、化学物質を検出するセンサ(以下、単に「ケモセンサ」)への応用が試みられている。特許文献1は、特定の有機塩の複合体結晶を含むケモセンサを開示する。ケモセンサでは、上記特性の変化の程度が化学物質に対する感度に相当する。しかし、従来の複合体結晶が示す感度は十分ではない。従来の複合体結晶は、例えば低濃度の化学物質への感度を有さない。なお、非特許文献1が示す蛍光スペクトルの変化は、複合体結晶への化学物質の取り込みに起因しない。この変化は、結晶を構成するゲスト分子の相違に基づく。
【0016】
本発明者らの検討によれば、特許文献1の複合体結晶は、化学物質を内部に取り込む際の特性の変化が小さい。より具体的に、特許文献1の複合体結晶は、ppmレベルのような低濃度の化学物質への感度を有さない。このため当該結晶は、低濃度の化学物質を検出するケモセンサに適していない。低濃度の化学物質を検出するケモセンサの例は、呼気化学物質および/または皮膚化学物質に対するケモセンサである。
【0017】
本発明者らの検討によれば、非特許文献1の複合体結晶は、化学物質を内部に取り込む性質を有するとともに低濃度の化学物質への感度を有する可能性を持つ。化学物質による(4-ジフェニルアミノ)フェニルシアノアクリル酸の電子構造の乱れによって、大きな発光変調が生じうるためである。しかし、当該結晶を構成するゲスト分子が化学物質への感度を低下させる。ゲスト分子が、化学物質の取り込みを阻害すると推定される。なお、非特許文献1の複合体結晶は、上記分子空孔を有していない。
【0018】
本発明者らは、
(1)2種以上の分子から構成される超分子ユニットが配列した構造を有し、
(2)超分子ユニットが当該ユニットを構成する分子としてシアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンを含み、
(3)超分子ユニットをホストとするゲスト分子が配置されていない分子空孔を、超分子ユニット間に有する、
ことにより、化学物質を内部に取り込む際に特性の大きな変化を示しうる複合体結晶が達成されることを見出した。
【0019】
本開示の複合体結晶は、従来の複合体結晶に比べて化学物質への感度が高い。この結晶は、例えば低濃度の化学物質への感度を有する。本開示の複合体結晶によれば、低濃度の化学物質への感度を有するケモセンサを達成できる。
【0020】
(開示の態様)
本開示の第1態様の複合体結晶は、2種以上の分子から構成される超分子ユニットが配列した構造を有する。前記超分子ユニットが、前記分子としてシアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンを含む。前記複合体結晶は、前記超分子ユニット間に、前記超分子ユニットをホストとするゲスト分子が配置されていない分子空孔を有する。
【0021】
本開示の第2態様では、例えば、第1態様の複合体結晶において、前記ゲスト分子を実質的に含まない。第2態様によれば、上述の効果がより確実となる。
【0022】
本開示の第3態様では、例えば、第1または第2態様の複合体結晶において、前記シアノアクリル酸誘導体が以下の式(1)に示す化合物である。
【化1】
式(1)において、Yは、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジニレン基、チオフェニレン基またはフラニレン基であって各基は置換基を有していてもよく、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、アルデヒド基、チオール基、ビニル基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシエステル基、N-置換アミド基、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基、またはフラニル基である。式(1)に示す化合物は、式(1)の破線部に結合を有していてもいなくてもよく、結合を有する場合の前記結合は、単結合、-CH2-、-O-、-S-または-NH-である。
【0023】
本開示の第4態様では、例えば、第1から第3のいずれかの態様の複合体結晶において、前記3置換メチルアミンが以下の式(2)に示す化合物である。
【化2】
式(2)のR3~R5は、互いに独立して、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基またはフラニル基であって各基は置換基を有していてもよい。
【0024】
本開示の第5態様では、例えば、第1から第4のいずれかの態様の複合体結晶が、前記超分子ユニットと前記ゲスト分子とが配列した構造を有する前駆複合体結晶から、超臨界二酸化炭素を用いた超臨界乾燥により前記ゲスト分子を脱離して得た複合体結晶である。
【0025】
本開示の第6態様のケモセンサは、例えば、第1から第5のいずれかの態様の複合体結晶と、前記複合体結晶の特性を検出する検出部と、を備える。当該ケモセンサは、前記検出部により検出した前記特性の変化に基づいて、所定の化学物質を検出する。
【0026】
本開示の第7態様では、例えば、第6態様のケモセンサにおいて、前記検出部が、前記複合体結晶に光を照射する光源と、前記複合体結晶から発せられる光を検出する光検出器と、を備える。当該ケモセンサは、前記複合体結晶から発せられる前記光を前記特性として、当該光の変化に基づいて前記所定の化学物質を検出する。
【0027】
本開示の第8態様では、例えば、第7態様のケモセンサにおいて、前記光の変化が、第1の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光と、第2の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光との差分である。
【0028】
本開示の第9態様の製造方法は、例えば、第1から第4のいずれかの態様の複合体結晶の製造方法であって、前記超分子ユニットと前記ゲスト分子とが配列した構造を有する前駆複合体結晶から前記ゲスト分子を脱離して前記複合体結晶を形成し、前記前駆複合体結晶からの前記ゲスト分子の脱離を、超臨界二酸化炭素を用いた超臨界乾燥により実施する製造方法である。
【0029】
[複合体結晶]
以下、本開示の複合体結晶について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、従来の複合体結晶を説明するための模式図である。従来の複合体結晶の構造100では、超分子ユニット101と、超分子ユニット101をホストとするゲスト分子102とが配列している。超分子ユニット101とゲスト分子102とは、非共有結合である相互作用により配列している。相互作用の例は、水素結合、イオン結合、CH-π相互作用、ハロゲン-π相互作用、ハロゲン-ハロゲン相互作用、ファンデルワールス相互作用、およびπ-π相互作用である。
【0031】
図2は、本開示の複合体結晶を説明するための模式図である。本開示の複合体結晶の構造10では、超分子ユニット1が、非共有結合である相互作用により配列している。構造10は、超分子ユニット1間に、超分子ユニット1をホストとするゲスト分子2が配置されていない分子空孔3を有する。分子空孔3は、超分子ユニット1の内部の空間ではない。
【0032】
構造10では、超分子ユニット1と、ゲスト分子2および/または分子空孔3との配列がさらに成立しうる。
【0033】
構造10は、図1の構造100からゲスト分子102が脱離した構造でありうる。このとき分子空孔3は、ゲスト分子102の脱離により形成された空サイトである。ただし、脱離前の超分子ユニット101の配列と、脱離後の超分子ユニット1の配列とは互いに異なっていてもよい。ゲスト分子102の脱離時に超分子ユニットの配列が変化しうるためである。
【0034】
図2の構造10は、本開示の複合体結晶が有する配列の一例を模式的に表現するに過ぎない。本開示の複合体結晶における超分子ユニット1の具体的な配列は限定されない。
【0035】
分子空孔3は、特定の配列を有しうる。例えば分子空孔3は、結晶内においてチャネル状または層状に配列しうる。
【0036】
本開示の複合体結晶における超分子ユニット1、ゲスト分子2および分子空孔3の構成比は限定されない。
【0037】
分子空孔3を有する限り、本開示の複合体結晶におけるゲスト分子2の含有率は限定されない。本明細書において、複合体結晶におけるゲスト分子2の含有率とは、シアノアクリル酸誘導体分子の数に対するゲスト分子2の数の比を意味する。ゲスト分子2の含有率は、例えば30モル%以下である。ゲスト分子2の含有率は、10モル%以下、さらに5モル%以下でありうる。ゲスト分子2の含有率は、複合体結晶に対する熱重量分析、核磁気共鳴(NMR)測定、質量分析等により評価できる。
【0038】
本開示の複合体結晶は、ゲスト分子2を実質的に含まなくてもよい。本明細書における「実質的に含まない」は、1モル%以下の含有率を意味する。NMRによる含有率の測定限界が1モル%であることから、1モル%未満の含有率を「実質的に含まない」と定めてもよい。
【0039】
本開示の複合体結晶における空孔度(ゲスト分子2の数および分子空孔3の数の合計に占める分子空孔3の数の割合)は、例えば、70%以上であり、90%以上、95%以上、さらには99%以上であってもよい。空孔度は、複合体結晶に対する熱重量分析、NMR測定、質量分析等により評価できる。
【0040】
ゲスト分子2の含有率は、例えば、後述の製造方法におけるゲスト分子2の脱離の方法および条件により制御できる。条件の例は、温度、時間(速度)、圧力、および超臨界流体の種類から選ばれる少なくとも1種である。
【0041】
超分子ユニット1、ゲスト分子2および分子空孔3の配列、すなわち結晶構造は、複合体結晶に対するX線回折(XRD)測定等により評価できる。
【0042】
超分子ユニット1、ゲスト分子2および分子空孔3の配列は、例えば、後述の製造方法における凝析、再結晶または曝露の条件、ならびにゲスト分子2の脱離の方法および条件により制御できる。条件の例は、温度、時間(速度)、圧力、超臨界流体の種類、ならびに再結晶または凝析に使用する溶剤の種類および混合比、から選ばれる少なくとも1種である。
【0043】
超分子ユニット1は、2種以上の分子から構成される。超分子ユニット1は、2種の分子から構成されうる。超分子ユニット1では、非共有結合である相互作用により2種以上の分子が配列している。本開示の複合体結晶は、1次構造および2次構造の階層構造を有する。1次構造は、超分子ユニット1を構成する2種以上の分子の配列である。2次構造は、超分子ユニット1が配列した構造10である。
【0044】
図3は、超分子ユニット1における分子の配列の一例を説明するための模式図である。図3の超分子ユニット1では、2種の分子4および分子5が配列している。図3の超分子ユニット1における分子4および分子5の結合比は4:4である。換言すれば、4つの分子4と4つの分子5との配列が1つの超分子ユニット1を構成する。
【0045】
本開示の複合体結晶の超分子ユニット1は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンを含む。超分子ユニット1では、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンが所定の結合比で配列している。超分子ユニット1は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩である。双方の分子はイオン結合により配列している。
【0046】
超分子ユニット1におけるシアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの結合比x:yは、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンが有機塩を形成しうる限り、限定されない。xおよびyは、例えば、1以上の整数であり、その上限は、例えば10であり、6であってもよい。結合比は、例えば、1から6の範囲の整数:1から6の範囲の整数である。結合比は、1:1、2:2、3:3、4:4、5:5または6:6でありうる。
【0047】
超分子ユニット1における分子の結合比は、複合体結晶に対するXRD測定等により評価できる。
【0048】
超分子ユニット1における分子の結合比は、後述の製造方法における凝析、再結晶または曝露の条件により制御できる。条件の例は、温度、時間(速度)、圧力、ならびに再結晶または凝析に使用する溶剤の種類および混合比、から選ばれる少なくとも1種である。
【0049】
超分子ユニット1は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミン以外の第3の分子を含みうる。第3の分子は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンとともに超分子ユニット1の配列を形成しうる。
【0050】
本開示の複合体結晶は、2種以上の超分子ユニット1を含みうる。
【0051】
複合体結晶および超分子ユニット1の組成、ならびに超分子ユニット1を構成する分子の結合比は、例えば、NMR測定および/またはXRD測定により評価できる。
【0052】
<シアノアクリル酸誘導体>
シアノアクリル酸誘導体は、シアノアクリル酸のビニル基におけるβ位の炭素原子に置換基が結合した構造を有する。この置換基は、シアノアクリル酸誘導体が蛍光性を示す分子構造であって、化学物質の取り込みによる蛍光の変化を複合体結晶が示す分子構造を有しうる。化学物質の取り込みによる当該蛍光の変化は、ケモセンサにおける化学物質の検出に利用できる。蛍光性は、例えば、紫外線による励起によって波長400~700nmの帯域にある蛍光を発する特性である。
【0053】
シアノアクリル酸誘導体は、以下の式(1)に示す化合物でありうる。式(1)のYは、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジニレン基、チオフェニレン基またはフラニレン基であって、各基は置換基を有していてもよい。R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミノ基、シアノ基、アルデヒド基、チオール基、ビニル基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシエステル基(-COOR6)、N-置換アミド基(-CONHR7)、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基、またはフラニル基である。式(1)に示す化合物は、式(1)の破線部に結合を有していてもいなくてもよい。この化合物が破線部に結合を有する場合の当該結合は、単結合、-CH2-(メチレン基)、-O-(エーテル結合)、-S-(スルフィド結合)または-NH-(イミノ基)である。
【化3】
【0054】
式(1)に示す化合物は、破線部に結合を有さなくてもよいし、破線部に単結合を有してもよい。Yは、フェニレン基、ナフチレン基、ピリジニレン基であってもよい。R1およびR2は、互いに独立して、水素原子、メトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であってもよい。
【0055】
Yが有しうる置換基は、例えばR1およびR2として例示した基である。置換基は、水素原子、メトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基であってもよい。R6は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基である。R7は、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基である。
【0056】
図4は、本開示に係る複合体結晶の超分子ユニットを構成するシアノアクリル酸誘導体の例を示す図である。図4の例は、(a)から(m)の順に、(E)-2-シアノ-3-(4-(ジフェニルアミノ)フェニル)アクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)アクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(5-(ジフェニルアミノ)チオフェン-2-イル)アクリル酸、(E)-3-(4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)-2-シアノアクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(4-(フェニル(パラ-トリル)アミノ)フェニル)アクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(5-(ジフェニルアミノ)ピリジン-2-イル)アクリル酸、(E)-3-(4-(10H-フェノチアジン-10-イル)フェニル)-2-シアノアクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(4-((4-ヒドロキシフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)アクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(4-(フェナジン-5(10H)-イル)フェニル)アクリル酸、(E)-3-(4-(10H-フェノキサジン-10-イル)フェニル)-2-シアノアクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(6-(ジフェニルアミノ)ナフタレン-2-イル)アクリル酸、(E)-2-シアノ-3-(4-(ジフェニルアミノ)チオフェン-2-イル)アクリル酸、(E)-3-(4-((4-アミノフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)-2-シアノアクリル酸である。
【0057】
<3置換メチルアミン>
3置換メチルアミンは、メチルアミンのメチル基に結合した3つの水素原子が置換基により置換された構造を有する。3つの置換基は全て同一でも、2つが同一でも、全て異なっていてもよい。
【0058】
3置換メチルアミンは、以下の式(2)に示す化合物でありうる。式(2)のR3~R5は、互いに独立して、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基またはフラニル基であって、各基は置換基を有していてもよい。R3~R5は、互いに独立してフェニル基、ピリジル基、チオフェニル基であってもよい。R3~R5が有しうる置換基は、例えばR1およびR2として例示した基である。置換基は、水素原子、メトキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ハロゲン原子であってもよい。
【化4】
【0059】
図5は、本開示に係る複合体結晶の超分子ユニットを構成する3置換メチルアミンの例を示す図である。図5の例は、(a)から(g)の順に、トリフェニルメチルアミン、ジフェニル(チオフェン-3-イル)メチルアミン、ジフェニル(ピリジン-3-イル)メチルアミン、(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチルアミン、トリス(4-フルオロフェニル)メチルアミン、ナフタレン-1-イルジフェニルメチルアミン、フラン-3-イルジフェニルメチルアミンである。
【0060】
<ゲスト分子>
本開示の複合体結晶がゲスト分子2を含む場合、ゲスト分子2は限定されない。ゲスト分子2は、例えば、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩との組み合わせにより、後述する前駆複合体結晶を形成可能な化合物である。
【0061】
ゲスト分子2は、本開示の複合体結晶を構築する際の鋳型分子として分子空孔3の大きさ、および/または形状を規定する化合物でありうる。
【0062】
ゲスト分子2は、後述する製造方法における再結晶の溶剤、または有機塩の曝露に使用可能な化合物でありうる。
【0063】
ゲスト分子2は、例えば、水、n-ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、メチルシクロヘキサン、メタノール、エタノール、イソプロパノール(「1-メチルエタノール」ともいう)、1-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール(「2-メチルプロパノール」ともいう)、t-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン(「2-ブタノン」ともいう)、メチルプロピルケトン(「2-ペンタノン」ともいう)、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトン(「メチル-n-ペンチルケトン」ともいう)、メチル-t-ブチルケトン(「ピナコリン」ともいう)、ベンズアルデヒド、ブチルアルデヒド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、ケイ皮酸エチル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、クロロベンゼン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、アニソール、エチルベンゼン、1,2-ジエチルベンゼン、1,4-ジエチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン(「メシチレン」ともいう)、1,3-ジイソプロピルベンゼン、n-オクチルベンゼン、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノフルオロベンゼン、1,2-ジフルオロベンゼン、1,3-ジフルオロベンゼン、1,4-ジフルオロベンゼン、1,3,5-トリフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、アクリロニトリル、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアミン、N,N-ジエチルアミン、N,N-ジ-n-プロピルアミン、N,N-ジイソプロピルアミン、N,N-ジブチルアミン、N,N-ジメチル-o-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-o-トルイジン、N,N-ジエチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、ピリジン、ピペリジン、1-メチルピペリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、ピペラジン、α-ピコリン、β-ピコリン、γ-ピコリン、アニリン、N,N-ジメチルアニリン、ジメチルスルホキシド、およびスルホランである。
【0064】
本開示の複合体結晶は2種以上のゲスト分子2を含みうる。
【0065】
本開示の複合体結晶の形状は限定されない。本開示の複合体結晶は、粒子、フィルム、シート、バルク、薄膜およびモノリス等の種々の形状を有しうる。これら種々の形状を有する複合体結晶において、分子空孔3の分布は均一であっても不均一であってもよい。
【0066】
本開示の複合体結晶のサイズは限定されない。サイズは、バルクおよびモノリスのようなマクロな領域から、回路基板上の素子を構成する薄膜に代表されるミクロな領域まで、幅広い範囲をとりうる。
【0067】
本開示の複合体結晶の用途は限定されない。用途の一例は、化学物質を検出するケモセンサである。ケモセンサは、化学物質の取り込みによる結晶特性の変化を利用する。特性は、例えば、吸収スペクトル、反射スペクトル、蛍光スペクトル、電気的特性および質量である。取り込んだ化学物質の種類により、特性の変化の状態は異なりうる。これを利用して、化学物質の種類をさらに検出するケモセンサとすることも可能である。
【0068】
[複合体結晶の製法]
本開示の複合体結晶は、例えば、超分子ユニット1とゲスト分子2とが配列した構造を有する前駆複合体結晶からゲスト分子2を脱離して形成できる。前駆複合体結晶は、図1の構造100を有しうる。前駆複合体結晶は、分子空孔3を含まない結晶でありうる。
【0069】
ゲスト分子2の脱離方法は限定されない。脱離方法の例は、加熱および/または減圧である。ゲスト分子2を他の化合物に置換し、置換した他の化合物を脱離する方法も採用できる。他の化合物は、ゲスト分子2よりも脱離が容易な化合物でありうる。
【0070】
ゲスト分子2の脱離方法の別の例は、超臨界乾燥である。超臨界乾燥による脱離では、単なる加熱および/または減圧による脱離に比べて、ゲスト分子2の脱離時における複合体結晶の構造破壊およびこれに伴う変形を抑制できる。超臨界乾燥による脱離では、ゲスト分子2の脱離の前後において、超分子ユニット1の配列をより確実に保持できる。超臨界乾燥による脱離では、ゲスト分子2の脱離の前後において、複合体結晶の形状をより確実に保持できる。これらの効果は、超臨界流体の高い拡散性および溶解性、ならびにゼロである表面張力に基づく。
【0071】
超臨界乾燥に使用する流体の例は、超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)である。
【0072】
前駆複合体結晶は、例えば、以下の方法により形成できる。
【0073】
<第1の方法>
第1の方法は、ゲスト分子2である溶剤により、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩を再結晶する方法である。この方法では、再結晶により、超分子ユニット1としてゲスト分子2を包接しながら有機塩が配列する。この配列により、前駆複合体結晶が形成される。
【0074】
再結晶する有機塩は、例えば、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの混合物を溶剤により凝析して形成できる。溶剤は、有機塩を凝析できる化合物である。溶剤は、ゲスト分子2でなくてもよい。
【0075】
第1の方法は、有機塩の再結晶により複合体結晶を形成する公知の方法に従って実施できる。ただし、第1の方法では、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩を再結晶する。
【0076】
第1の方法およびゲスト分子2の脱離は連続的に実施できる。
【0077】
<第2の方法>
第2の方法は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩をゲスト分子2の蒸気に曝露する方法である。この方法では、曝露により、超分子ユニット1としてゲスト分子2を包接しながら有機塩が配列する。この配列により、前駆複合体結晶が形成される。
【0078】
第2の方法は、ゲスト分子2の蒸気への有機塩の曝露により複合体結晶を形成する公知の方法に従って実施できる。ただし、第2の方法では、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩を曝露する。
【0079】
曝露する有機塩は、例えば、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの混合物を溶剤により凝析して形成できる。溶剤は、有機塩を凝析できる化合物である。溶剤は、ゲスト分子2でなくてもよい。この方法では、凝析時または凝析後に有機塩の成形が可能である。例えば、凝析した有機塩を溶液または分散液とし、これをスピンコート、ディスペンサー、インクジェット、3Dプリント等の手法により基板に塗布して、有機塩の成形体を成形できる。また、曝露方法の選択により、成形した有機塩の形状を曝露の前後で維持できる。
【0080】
第2の方法およびゲスト分子2の脱離は連続的に実施できる。
【0081】
最終的に得る複合体結晶の形状は、例えば、以下の手法により制御できる。
・複合体結晶を容器に充填する。容器は、複合体結晶を所定の用途に使用する際の容器でありうる。容器の例は、ガラス等の細管である。細管に充填された複合体結晶は、例えば、ケモセンサの一種であるガス検知管に使用できる。
・複合体結晶を溶液または分散液とし、これをスピンコート、ディスペンサー、インクジェット、3Dプリント等の手法により基板に塗布する。
・複合体結晶、分散剤およびバインダを含むスラリーを基板に配置し、乾燥固化させる。
【0082】
図6は、本開示の複合体結晶を製造する方法の一例を示す図である。図6の方法は、以下の工程S1、S2およびS3を含む。工程S1は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩を形成する工程である。工程S2は、工程S1で形成した有機塩をゲスト分子2である溶剤により再結晶して前駆複合体結晶を形成する工程である。工程S3は、工程S2で形成した前駆複合体結晶からゲスト分子2を脱離して本開示の複合体結晶を形成する工程である。
【0083】
図7は、本開示の複合体結晶を製造する方法の一例を示す図である。図7の方法は、以下の工程S4、S5およびS6を含む。工程S4は、シアノアクリル酸誘導体および3置換メチルアミンの有機塩を形成する工程である。工程S5は、工程S1で形成した有機塩をゲスト分子2の蒸気に曝露して前駆複合体結晶を形成する工程である。工程S6は、工程S5で形成した前駆複合体結晶からゲスト分子2を脱離して本開示の複合体結晶を形成する工程である。
【0084】
[ケモセンサ]
本開示のケモセンサは、上述した本開示の複合体結晶と、前記複合体結晶の特性を検出する検出部とを備える。本開示のケモセンサは、前記検出部により検出した前記特性の変化に基づいて、所定の化学物質を検出する。
【0085】
前記検出部は、前記複合体結晶に光を照射する光源と、前記複合体結晶から発せられる光を検出する光検出器と、を備えうる。このとき本開示のケモセンサは、前記複合体結晶から発せられる前記光を前記特性として、当該光の変化に基づいて前記所定の化学物質を検出しうる。前記光の変化は、例えば、第1の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光と、第2の環境条件において前記複合体結晶から発せられる光との差分である。第1の環境条件と第2の環境条件との間で、上記所定の化学物質の濃度および/または種類が相違する。第1の環境条件および第2の環境条件から選ばれる一方は、上記所定の化学物質を含まない環境条件でありうる。
【0086】
図8は、本開示のケモセンサの構成の一例を示す模式図である。図8のケモセンサ21は、化学物質13を検出するセンサである。ケモセンサ21は、本開示の複合体結晶12と、複合体結晶12の特性を検出する検出部17とを備える。複合体結晶12は、基板11上に配置されている。検出部17は、処理部16に接続されている。処理部16は、検出部17を制御する。また、処理部16は、検出部17により検出した複合体結晶12の特性を評価し、当該特性の変化に基づいて化学物質13を検出する。処理部16は、さらに化学物質13の情報を決定しうる。情報は、例えば、種類および/または濃度である。
【0087】
検出部17は、光源14および光検出器15を備える。光源14は、複合体結晶12に光を照射する。光は、例えば、複合体結晶12が蛍光を発する光である。光は、例えば、紫外光(UV)である。光検出器15は、複合体結晶12から発せられる光を受光する。受光する光は、例えば、複合体結晶12から発せられる蛍光である。処理部16は、光検出器15で受光した光を、複合体結晶12の特性として評価する。処理部16は、当該光の変化に基づいて化学物質13を検出する。処理部16は、化学物質13の情報をさらに決定しうる。
【0088】
ケモセンサ21は、化学物質13の取り込みによる複合体結晶12の特性の変化を利用して所定の化学物質を検出する。ケモセンサ21は、例えば、複合体結晶12から発せられる蛍光の変化を利用して所定の化学物質を検出する。処理部16による評価には、蛍光スペクトルの変化ではなく、より単純化された変化、例えば蛍光の波長、強度、輝度、色度、明度および彩度から選ばれる少なくとも1種の変化、を利用できる。複合体結晶12の特性の変化の状態は、取り込む化学物質13の種類および/または濃度により異なりうる。検出部17により検出した当該状態を、化学物質13の情報の決定に利用できる。そのために処理部16は、化学物質13の情報に対応するデータを予め蓄えうる。この場合、検出部17で検出した当該状態をデータと対比して、化学物質13の情報を決定しうる。特性の変化は、差分および/または変化率により評価しうる。
【0089】
図8の例では、光源14および光検出器15が複合体結晶12の同じ面の側に配置されている。光源14および光検出器15は、複合体結晶12を挟持するように配置されうる。このとき、基板11は、複合体結晶12から発せられる光を透過する材料から構成されうる。
【0090】
基板11上の複合体結晶12の形状は、例えば、フィルムまたはシートである。このとき、複合体結晶12の厚さは、例えば、0.1μm~3000μmである。
【0091】
基板11は、例えば、ガラス、石英、ケイ素またはその酸化物、金属またはその酸化物、化合物半導体、ポリテトラフルオロエチレンおよびアクリル樹脂等の樹脂により構成される。
【0092】
光源14、光検出器15および処理部16には、公知の部材を使用できる。
【0093】
検出部17および複合体結晶12は、同一の基板11上に形成されていてもよい。半導体素子から構成される光源14および光検出器15の採用により、回路基板上に検出部17および複合体結晶12を一体的に形成しうる。
【0094】
化学物質13の検出が可能である限り、ケモセンサ21は任意の部材をさらに備えうる。当該部材は、例えば、化学物質13を複合体結晶12に導入する部材である。化学物質13が空気中に含まれる場合、当該部材は、例えば空気を複合体結晶12に送るファンである。
【0095】
本開示のケモセンサは、蛍光の変化以外の複合体結晶12の特性の変化を利用できる。特性は、例えば、吸収スペクトル、反射スペクトル、電気抵抗および質量から選ばれる少なくとも1種である。本開示のケモセンサは、変化を検出する特性に応じた検出部17を備えうる。
【0096】
吸収スペクトルの変化を利用するケモセンサは、図8のケモセンサ21と同様の構造を有しうる。光源14は、例えば、可視から紫外領域の光を照射する。
【0097】
反射スペクトルの変化を利用するケモセンサは、図8のケモセンサ21と同様の構造を有しうる。光源14は、例えば、可視から紫外領域の光を照射する。
【0098】
電気抵抗の変化を利用するケモセンサでは、例えば、複合体結晶12の電気抵抗を測定する抵抗測定部を検出部17が備える。抵抗測定部は、4端子抵抗法を実施する部材でありうる。
【0099】
電気抵抗の変化を利用するケモセンサは、例えば、複合体結晶12から構成される領域を有する電界効果トランジスタ(FET)を備える。具体的な例は、ゲート電極とゲート絶縁膜との間に上記領域が形成されたFETを備える。化学物質の取り込みにより変化した上記領域の電気抵抗を、このFETは検出する。
【0100】
質量の変化を利用するケモセンサは、例えば、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance)センサ(以下、QCMセンサ)を備える。QCMセンサは、水晶振動子を備えた、極めて微小な質量変化を測定できるセンサである。QCMセンサは、例えば、特開2009-236607号公報に開示されている。より具体的な例は、水晶振動子の表面に複合体結晶12から構成される領域が形成されたQCMセンサを備える。化学物質の取り込みにより変化した上記領域の質量変化を、このQCMセンサは検出する。
【0101】
質量の変化を利用するケモセンサは、例えば、膜型表面センサ(Membrance-type Surface Stress Sensor);(以下、MSSセンサ)を備える。MSSセンサは、ピエゾ抵抗を有する連結部により支持された微小な板状部材と、板状部材の表面に設けられた受容体層とを有する。MSSセンサは、極めて微小な質量変化を測定できる。MSSセンサは、例えば、国際公開第2011/148774号に開示されている。より具体的な例は、板状部材の表面に複合体結晶12から構成される領域が形成されたMSSセンサを備える。化学物質の取り込みにより変化した上記領域の質量変化を、このMSSセンサは検出する。
【実施例
【0102】
以下、実施例に基づき、本開示の複合体結晶およびケモセンサをより具体的に説明する。なお、本開示の複合体結晶およびケモセンサは、以下の実施例に限定されない。
【0103】
(実施例1および比較例1)
内容積300mLの三つ口フラスコに、4-メトキシ-N-フェニルアニリン5.00g(21.5mmol)、4-ブロモベンズアルデヒド5.57g(30.1mmol)、およびトルエン150mLを仕込んだ。次に、撹拌下、0.225g(1.00mmol)のPd(OAc)2、0.406g(2.01mmol)のt-Bu3P、および炭酸カリウム5.20g(37.6mmol)を添加して加熱し、20時間の加熱還流を実施した。次に、室温まで冷却し、セライト濾過にて不溶物を除去した後、濾液を減圧濃縮した。次に、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)ベンズアルデヒド5.74gを得た。
【0104】
次に、内容積200mLのナス型フラスコに、得られた4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)ベンズアルデヒド5.73g(18.89mmol)と、シアノ酢酸2.41g(28.33mmol)およびアセトニトリル50mLとを仕込み、撹拌下、ピペリジン3.74mLを注ぎ加えた後、加熱して、1時間の加熱還流を実施した。次に、室温まで冷却し、析出した結晶を濾取して、濾取した結晶を水150mLに懸濁させた。次に、撹拌下、炭酸ナトリウム水溶液を加えてpHを10以上とした後、希塩酸を加えてpHを4に調整し、結晶を濾取および減圧乾燥して、(E)-2-シアノ-3-(4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)アクリル酸6.12gを得た。
【0105】
次に、室温下、(E)-2-シアノ-3-(4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)アクリル酸とトリフェニルメチルアミンとを1:1のモル比でメタノール中で混合した。その後、減圧下でメタノールを除去して有機塩を形成した。
【0106】
次に、形成した有機塩を、クロロホルムおよびジエチルケトンを4:1の体積比で混合した溶剤に溶解し、室温で48時間静置し再結晶して、粒子状の前駆複合体結晶を得た。熱重量分析、XRD測定および1H-NMR測定(基準物質:テトラメチルシラン(TMS);以下、同じ)により、形成した前駆複合体結晶について以下の項目(1)~(3)が確認された。
(1)有機塩は、(E)-2-シアノ-3-(4-((4-メトキシフェニル)(フェニル)アミノ)フェニル)アクリル酸とトリフェニルメチルアミンとの有機塩である。
(2)前駆複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットと、ゲスト分子であるクロロホルムおよびジエチルケトンとが配列した構造を有する。
(3)前駆複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、上記確認された配列から導かれる理論上の最大値にほぼ等しい。
【0107】
図9は、実施例1の前駆複合体結晶の1H-NMRプロファイルを示す図である。当該プロファイルにおいて、化学シフト0.89ppmのピークがジエチルケトンのピークであり、8.32ppmのピークがクロロホルムのピークである。
【0108】
次に、超臨界二酸化炭素により前駆複合体結晶を処理して、当該結晶からゲスト分子を脱離させた。このようにして、実施例1の複合体結晶を得た。得られた複合体結晶は、前駆複合体結晶の形状を維持していた。XRD測定および1H-NMR測定により、形成した複合体結晶について以下の項目(1)~(5)が確認された。
(1)複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットが配列した構造を有する。
(2)超分子ユニットの配列は、前駆複合体結晶における超分子ユニットの配列を維持している。
(3)超分子ユニットの間に、分子空孔が形成されている。
(4)分子空孔の配列は、前駆複合体結晶におけるゲスト分子の配列に一致する。
(5)複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、NMRの測定限界以下、すなわち1モル%未満、であり、複合体結晶の空孔度は99%以上であった。
【0109】
図10は、実施例1の複合体結晶の1H-NMRプロファイルを示す図である。当該プロファイルには、ジエチルケトンおよびクロロホルムのピークが存在しない。図11は、実施例1の複合体結晶および前駆複合体結晶のXRDプロファイルを示す図である。当該プロファイルから、両者が同じ回折角2θにピークを有することが確認された。すなわち、ゲスト分子の有無を除き、両者が同じ結晶構造を有することが確認された。
【0110】
次に、実施例1の複合体結晶を濃度10ppm(体積基準;以下同じ)のアンモニアガスに曝露して、複合体結晶が示す二次元の蛍光強度の変化(曝露の前後における変化)を評価した。評価は以下の手順で実施した。
1.複合体結晶の粒子を試料台に配置した。次に、ガスフローセル中に試料台を格納した。ガスフローセルは、窓、ガス導入口およびガス排出口を備えていた。窓は、試料台上の粒子に光を照射可能、かつ粒子の発する蛍光を検出可能なサイズおよび位置を有していた。
2.ガスフローセルにアンモニアガスを導入する前に、複合体結晶の蛍光強度Aを測定した。具体的には、波長365nmの紫外光を複合体結晶に照射し、その際に当該結晶が発する蛍光をカメラ(レイマー製FLOYD)により撮影して蛍光強度Aを得た。
3.窒素により濃度10ppmに希釈したアンモニアガスをガスフローセルに導入し、複合体結晶を当該ガスに曝露した。曝露開始から10分経過後、複合体結晶の蛍光強度Bを測定した。蛍光強度Bの測定は、蛍光強度Aの測定と同様に実施した。
4.画像処理により蛍光強度Aと蛍光強度Bとの差分強度を得た。差分は、蛍光強度Aおよび蛍光強度Bから選ばれる相対的に大きな強度から相対的に小さい強度を差し引いた値とした。
【0111】
次に、同様の手順により、前駆複合体結晶を濃度10ppmのアンモニアガスに曝露したときの二次元の蛍光強度の変化を評価した(比較例1)。
【0112】
これらの評価により、ゲスト分子が脱離していない比較例1の前駆複合体結晶に比べて、ゲスト分子が脱離した実施例1の複合体結晶では、より大きな蛍光強度の変化が確認された。すなわち、比較例1の前駆複合体結晶に比べて、実施例1の複合体結晶は化学物質に対するより大きな蛍光応答性を示すことが確認された。
【0113】
実施例1および比較例1で得られた差分強度が図12Aおよび図12Bに示される。図12Aは、実施例1の差分強度である。図12Bは、比較例1の差分強度である。
【0114】
(比較例2)
室温下、アントラセンジビニルスルホン酸とトリフェニルメチルアミンとを1:2のモル比でメタノール中で混合した。その後、減圧下でメタノールを除去して有機塩を形成した。アントラセンジビニルスルホン酸を以下の式(3)に示す。
【化5】
【0115】
次に、形成した有機塩を、メタノールおよび1,2-ジクロロエタンを3:4の体積比で混合した溶剤に溶解し、室温で48時間静置し再結晶して、粒子状の前駆複合体結晶を得た。熱重量分析、XRD測定および1H-NMR測定により、形成した前駆複合体結晶について以下の項目(1)~(3)が確認された。
(1)有機塩は、アントラセンジビニルスルホン酸とトリフェニルメチルアミンとの有機塩である。
(2)前駆複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットと、混合溶剤に由来するゲスト分子である1,2-ジクロロエタンとが配列した構造を有する。
(3)前駆複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、上記確認された配列から導かれる理論上の最大値にほぼ等しい。
【0116】
次に、超臨界二酸化炭素により前駆複合体結晶を処理して、当該結晶からゲスト分子を脱離させた。このようにして、比較例2の複合体結晶を得た。得られた複合体結晶は、前駆複合体結晶の形状を維持していた。XRD測定および1H-NMR測定により、形成した複合体結晶について以下の項目(1)~(5)が確認された。
(1)複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットが配列した構造を有する。
(2)超分子ユニットの配列は、前駆複合体結晶における超分子ユニットの配列を維持している。
(3)超分子ユニットの間に、分子空孔が形成されている。
(4)分子空孔の配列は、前駆複合体結晶におけるゲスト分子の配列に一致する。
(5)複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、NMRの測定限界以下、すなわち1モル%未満、である。
【0117】
次に、比較例2の複合体結晶を濃度10ppmのアンモニアガスに曝露したときの二次元の蛍光強度の変化を、実施例1と同様に評価した。
【0118】
この評価により、比較例2の複合体結晶では、上記アンモニアガスへの曝露による蛍光強度の変化がほとんど生じないことが確認された。すなわち、比較例2の複合体結晶に比べて、化学物質に対する著しく大きな蛍光応答性を実施例1の複合体結晶が示すことが確認された。比較例2で得られた差分強度が図13に示される。
【0119】
(比較例3)
室温下、スチルベン-4,4’-ジスルホン酸とトリフェニルメチルアミンとを1:2のモル比でメタノール中で混合した。その後、減圧下でメタノールを除去して有機塩を形成した。スチルベン-4,4’-ジスルホン酸を以下の式(4)に示す。
【化6】
【0120】
次に、形成した有機塩を、メタノールおよびo-クロロトルエンを1:2の体積比で混合した溶剤に溶解し、室温で48時間静置し再結晶して、粒子状の前駆複合体結晶を得た。熱重量分析、XRD測定および1H-NMR測定により、形成した前駆複合体結晶について以下の項目(1)~(3)が確認された。
(1)有機塩は、スチルベン-4,4’-ジスルホン酸とトリフェニルメチルアミンとの有機塩である。
(2)前駆複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットと、混合溶剤に由来するゲスト分子であるo-クロロトルエンとが配列した構造を有する。
(3)前駆複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、上記確認された配列から導かれる理論上の最大値にほぼ等しい。
【0121】
次に、超臨界二酸化炭素により前駆複合体結晶を処理して、当該結晶からゲスト分子を脱離させた。このようにして、比較例3の複合体結晶を得た。得られた複合体結晶は、前駆複合体結晶の形状を維持していた。XRD測定および1H-NMR測定により、形成した複合体結晶について以下の項目(1)~(5)が確認された。
(1)複合体結晶は、有機塩である超分子ユニットが配列した構造を有する。
(2)超分子ユニットの配列は、前駆複合体結晶における超分子ユニットの配列を維持している。
(3)超分子ユニットの間に、分子空孔が形成されている。
(4)分子空孔の配列は、前駆複合体結晶におけるゲスト分子の配列に一致する。
(5)複合体結晶におけるゲスト分子の含有率は、NMRの測定限界以下、すなわち1モル%未満、である。
【0122】
次に、比較例3の複合体結晶を濃度10ppmのアンモニアガスに曝露したときの二次元の蛍光強度の変化を、実施例1と同様に評価した。
【0123】
この評価により、比較例3の複合体結晶では、上記アンモニアガスへの曝露による蛍光強度の変化が生じないことが確認された。すなわち、比較例3の複合体結晶に比べて、化学物質に対する著しく大きな蛍光応答性を実施例1の複合体結晶が示すことが確認された。比較例3で得られた差分強度が図14に示される。
【0124】
(実施例2)
実施例1の複合体結晶を所定の評価濃度のアンモニアガスに曝露したときの蛍光強度の変化を、実施例1と同様に評価した。ただし、実施例1の説明において述べた「手順3」では、各評価濃度となるように窒素で希釈したガスをガスフローセルに導入し、当該ガスに複合体結晶を曝露した。評価濃度は、0.05ppm、0.1ppm、0.25ppmおよび0.5ppmとした。評価は、各評価濃度について、サンプル数n=3で実施した。
【0125】
実施例2で得られた差分強度の評価結果が図15に示される。図15に示される規格化された差分強度は、実施例1と同様に得た二次元の差分強度を示す画像に対して、画像編集ソフト(アドビシステムズ製、Photoshop CS2)を用いた以下の画像処理を実施して求めた。
・最初に、複合体結晶粒子に対応する領域を画像から選択する。選択する領域には、画像内に視認できる複合体結晶粒子のうち、少なくとも60%、好ましくは80%程度の数の粒子が含まれるようにする。選択する領域には、粒子に対応しない領域(試料台が写し出された領域)ができるだけ含まれないようにし、選択した領域に占める、粒子に対応しない領域の割合が面積基準で3%を超えないようにする。なお、二次元の差分強度を示す画像がカラーである場合は、予め、グレースケールに変換しておく。
・次に、選択した範囲についてピクセル毎の明るさ値を抽出し、抽出した明るさ値の平均値を上記規格化された差分強度とする。明るさ値は、黒を0とし、白を255とする256階調による値とする。
【0126】
図15に示すように、実施例2の複合体結晶では、濃度0.5ppm以下のアンモニアガスに対して蛍光強度の大きな変化が確認された。また、アンモニアガスの濃度に依存して差分強度が変化する蛍光応答性を示すことが確認された。
【0127】
本開示の複合体結晶およびケモセンサは、上述した各実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形、変更が可能である。例えば、発明を実施するための形態に記載した実施形態に示された技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するため、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本開示の複合体結晶は、例えば、化学物質を検出するケモセンサに応用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15