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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】眼内インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20220713BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019522811
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017077697
(87)【国際公開番号】W WO2018078144
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2019-06-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】102016221368.7
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513045149
【氏名又は名称】インプランダータ オフタルミック プロドゥクツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】オステルメイアー,マックス
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ディック,ブルクハルト
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-57931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0107459(US,A1)
【文献】米国特許第4704125(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ばね(5、11)を使用して眼(2)内および/または眼(2)上に移植されるインプラント(4、10)であって、前記圧縮ばね(5、11)が、前記眼(2)の光軸(1)を横切る方向でインプラント(4)を毛様溝(68)の溝底(7)に押し付けることが可能な弓状部分(8、15)を有し、前記圧縮ばね(5、11)は光軸(1)に垂直な平面(9)内で弾性変形可能であり、前記圧縮ばね(5、11)は弓状部分(15)に続く傾斜部分(14)を有し、前記傾斜部分(14)は傾斜角度に対応するように平面(9)に対して傾斜し、インプラント(4)は圧縮ばね(11)と一体的に形成されたプレート(12)を備え、前記プレート(12)はセンサテレメトリモジュール(13)に接続され、前記圧縮ばね(11)の前記弓状部分(15)に対して傾斜部分(14)が折り返すように配置され、前記プレート(12)及びセンサテレメトリモジュール(13)が弓状部分(8、15)よりも虹彩から離れている、インプラント。
【請求項2】
前記弾性変形が、刺激により促進可能である、請求項に記載のインプラント(4、10)
【請求項3】
前記刺激が温度変化である、請求項に記載のインプラント(4、10)
【請求項4】
前記圧縮ばね(5、11)がポリマーからなる、請求項1ないしのいずれか一項に記載のインプラント(4、10)
【請求項5】
前記圧縮ばね(5、11)が形状記憶特性を有する材料からなる、請求項1ないしのいずれか一項に記載のインプラント(4、10)
【請求項6】
前記移植された状態において、前記プレート(6、12)が、前記眼(2)の光軸(1)を横切る方向に、該眼(2)の光軸(1)から距離を空けて配置可能である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のインプラント(4、10)
【請求項7】
前記プレート(6、12)が、ポリマーキャスティングとして、前記センサテレメトリモジュール(13)と一体に形成されている、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のインプラント(4、10)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定手段を用いた眼内および/または眼上移植用のインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭に述べた種類のインプラントの従来技術例として、移植後に固定手段、すなわちプレート状のタブによって、主に眼の毛様溝で固定されるディスクリングが知られている。
【0003】
この場合のインプラントは、眼内圧を測定するためのセンサと、センサにより検出される測定信号を送信するためのテレメトリユニットとを備えることが多い。テレメトリユニットの例としては、ディスクリングの面内に配置される誘導コイルなどが挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のインプラントは、移植された状態において、タブが毛様溝内へと突出することで、眼の光軸、すなわち瞳孔の回転対称軸によって画定される軸に対して固定される。しかしながら、不都合なことに、既知のインプラントを移植する際には、眼の複雑な測定を予め行うことが必要とされる。この測定により、固定に適したインプラントを、そのインプラントに関わるディスクリング径の大きさに基づいて選択することが可能となる。これは、既知のインプラントが、自然に生じる解剖学的状態のばらつき(例えば患者の毛様溝によって定義される直径の範囲など)に対する適応性を実質的に有さないことによる。したがって、具体的に言えば、既知のインプラントは、例えば毛様溝への固定に関わる移植の前にその直径を確認しておかなければ、固定不良になりうるリスクを伴う。
【0005】
さらに、不都合なことに、既知のインプラントは環状であり、タブが一般的には剛性であることから、固定に適した寸法が比較的狭い範囲に限定される。タブは、ディスクリング面内で任意に延在してはならない。任意に延在するようであれば、インプラントの寸法が安定せず、組織を損傷する膨らみが生じかねない。また一方で、確実な固定のために、ディスクリング面内でのタブの長さは最小に抑えなければならない。さもないとインプラントは十分に固定されない。
【0006】
既知のインプラントに関する固定不良の危険性は、患者に致命的な結果をもたらしうる。適切な固定がなされていなければ、移植後に移動および/または回転が起こることがあり、インプラント自体、さらにインプラントに取り付けられたセンサやテレメトリユニットが存在する場合はそれらまでもが、眼の組織および/または虹彩を貫通することとなる。その結果、眼内圧の上昇、虹彩の不具合、または眼の光軸の遮蔽が生じうる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の背景を鑑み、本発明の目的は、冒頭に述べた種類のインプラントであって、先行技術の不都合な点を克服することによって、特に、眼に自然に生じる解剖学的状態のばらつきに関して、固定性が向上したインプラントを提供することである。
【0008】
この目的は、一般的なインプラントにおいて、眼の光軸を横切る方向で組織構造に取り付けることのできる少なくとも1つの支持要素を固定手段に設けることで達成される。このように、好都合なことに、例えば補助力によって非能動的に、かつ/または前記支持要素と組織構造との少なくとも1つの能動的接続によって、眼の光軸を横切る方向でインプラントが固定される。ここでの「組織構造」とは、固定手段を介して本発明のインプラントを眼の光軸に対して固定することができる任意の構造を指し、固定手段は、例えば弓状部分を有する圧弾性ばねであってもよい。組織構造は、具体的には、毛様体と虹彩根部との間の解剖学的溝、すなわち毛様溝によって眼の後房に形成される構造である。したがって、前記支持要素は、例えば圧縮ばねの弓状部分として形成されて、この解剖学的溝の底部に、例えば溝底に接触するよう載置されてもよい。このようにして、好都合なことに、本発明のインプラントは眼の光軸に対して、具体的にはその光軸を横切る方向に固定することができ、その移動および/または回転を防止できる。好都合なことに、本発明のインプラントは、縫合糸の一部などの支持要素を介して固定されるだけでなく、眼の前房内、すなわち好ましくは虹彩角膜角内の組織構造上にも固定することができる。好都合なことに、これによって、上述のような移植において組織および/または虹彩の損傷を最小限に抑えることができるように、本発明のインプラントを確実に固定できる。
【0009】
本発明のインプラントの好ましい一実施形態において、固定手段は、支持要素を歪曲面で歪曲させるための、少なくとも1つの歪曲要素を有し、歪曲面は、移植された状態で眼の光軸と直交するように配置される。好都合なことに、調整要素として、例えば調整ねじまたは弾性ばねの形態に構成されてもよい歪曲要素によって、眼の光軸を横切る方向に支持要素を歪曲させることができる。これにより、例えば、毛様溝の溝底における圧縮ばねの弓状部分の支持などの、支持要素によって提供される本発明のインプラントの固定は、自然に生じる毛様溝の直径の範囲を対象とすることができる。これは、該歪曲要素によって、本発明のインプラントは、例えば毛様溝の比較的小さい患者においても、比較的大きい患者においても、適切に固定できることを意味する。したがって、様々なサイズのインプラントを備えておく必要がなく、実用上好都合であり、物流の労力や、眼科病院および製造業者双方の関連コストが低減される。本発明のインプラントの歪曲面もまた眼の光軸に対して直交するよう配置されるため、本発明のインプラントでは、支持要素の位置決め、すなわち固定に悪影響を及ぼすようなトルクの発生が最小限に抑えられ、好都合である。したがって、本発明のインプラントは主として歪曲面の反力を受けることになり、好都合である。
【0010】
本発明のインプラントの、また別の好ましい一実施形態によれば、歪曲要素は、変形した後にその形状の復元が可能であり、歪曲はこの形状復元性に基づくものである。形状復元性、すなわち圧力のかかっていた弾性ばねから負荷が取り除かれた場合などに、非変形状態へ戻ろうとして動的に形状変化する歪曲要素の性質を有することにより、歪曲要素(すなわち、例えば弓状部分を有する弾性圧縮ばね)が、好都合なことに、自動的に広がりうる。自動的にとは、すなわち、移植を行う医師の介入が全くまたはほとんど必要とされないことを意味する。これにより、ばねの湾曲部分のような支持要素は、例えば毛様溝の溝底に向かって、毛様溝の溝底と接触するまで、光軸を横切る方向に移動する。歪曲要素の形状復元性により、本発明のインプラントを、眼内レンズ用の比較的簡易なあるいは標準的な注入器と小規模切開技術を用いて、格別容易かつ確実に移植することもでき、好都合である(角膜除去術(clear corneal technique)のパラメータは、3.5ミリメートル未満、好ましくは3ミリメートル未満、より好ましくは2.8ミリメートルまたは2.5ミリメートル未満である)。本発明のインプラントに関するさらなる利点としては、歪曲要素(すなわち、例えば形状記憶特性を有するポリマーからなる、変形したばねの歪曲)の、ある特定の切り替え温度を超えた際の形状復元性により、支持要素(例えばばねの弓状部分など)が、ほぼどのような眼の解剖学的状態(特に毛様溝の直径)にも適用できることが挙げられる。したがって、本発明のインプラントの固定に関する術前の寸法決めが不要になるという利点が得られる。現代的な設備を備えた病院であっても、毛様溝の直径のような眼の解剖学的状態の正確な測定に必要な測定機器が備えられていることは少ないため、これは重要である。また、生体測定データに基づいて解剖学的状態を推定する方法は、誤差が多く、概して不適切である。したがって、手術の労力、特に術前の労力が抑えられる本発明のインプラントの移植は好都合である。
【0011】
本発明のインプラントにおいて、形状復元性は弾性的であることが好ましい。したがって、歪曲要素は、例えば、機械的ばねであってもよい。本発明のインプラントの固定に関して好都合なことに、これは、例えば毛様溝の溝底のばねによる弾性補助力によって、眼の光軸を横切る方向で支持要素(すなわち、例えば比較的曲率半径の大きい圧縮ばねの一部)が局所的に確実に支持されることを意味する。
【0012】
さらに、本発明のインプラントは、刺激を介して形状復元性が促進されうるように設計されていてもよい。したがって、好都合なことに、本発明のインプラントの移植に関して、形状復元性は切り替え可能となる。ここでの「刺激」は、適切な材料において形状記憶効果を引き起こす任意の外部刺激を指す。したがって、好都合なことに、本発明のインプラントの歪曲要素は変形状態で移植することができ、移植を行う医師が、毛様溝のような本発明のインプラントの固定に適した位置を見つけた後、歪曲要素を紫外光パルスなどの刺激によって生じる形状記憶効果により、固定に有利なように広がりうる。
【0013】
本発明の一発展形態において、前記刺激は温度変化である。これは、実施が特に容易な刺激であり、例えば金属やポリマーに任意選択的に形状記憶効果を生じさせることにより、作業労力を最小限にできるため、特に好都合である。例えば、形状記憶ポリマー製のばねは、本発明のインプラントにおける歪曲要素の役割を果たしうる。形状記憶ポリマーが、組成物に固有のある温度を超えて加熱されると、ばねの形状復元(すなわち例示的歪曲要素の歪曲)が起こり、その支持要素は、毛様溝の溝底に接触する。各種金属で既知の形状記憶効果もまた、本発明のインプラントの歪曲要素がそのような金属からなるという点において、有利に適用可能である。
【0014】
歪曲要素および/または支持要素は、ポリマーからなることが好ましい。これは、本発明のインプラントを可能な限り外傷を生じずに固定するという点で好都合であるが、その理由は、多くのポリマーが、移植された状態に適した剛性、すなわち弾性率を有し、それによってポリマー糸などの歪曲要素および/またはポリマー糸の一部分などの支持要素に、眼の組織を損傷しない弾性降伏と共に寸法安定性が付与されることによる。
【0015】
本発明のインプラントにおいて、歪曲要素および/または支持要素が少なくとも部分的に形状記憶特性を有する材料から構成されていれば、歪曲要素の広がりに特に好都合である。これは、本発明のインプラントが、例えば、本発明のインプラントを移植するためのチューブ状注入器に導入可能であるという利点による。形状記憶ポリマー製の糸などの歪曲要素は、例えば毛様溝などの、所望の移植象位置で注入器から排出された後に、インプラントの固定を目的とした形状(湾曲形状など)に応じた形状記憶効果に基づいて広がり、その結果、支持要素は、例えば毛様溝の溝底に支持される。
【0016】
「形状記憶特性」または「記憶効果」という用語は、相転移またはポリマー鎖の化学的架橋の改変により、歪曲要素の形状が、変形状態からマクロな規模で、具体的にはミリメートル単位またはセンチメートル単位で変化できるような、金属またはポリマーの材料特性を指す。
【0017】
本発明の変形例によれば、歪曲要素は、歪曲面と直交する方向において、へこみに対し強く形成される。これは、本発明のインプラントの、できる限り外傷を生じさせない固定に関して、例えば、歪曲面内に存在する弾性部分を有する歪曲要素(すなわち圧縮ばね)が、移植された状態で眼の光軸に沿って突出しないことを保証する。このような突出が生じると、虹彩や、その他周辺組織に損傷および長期的な外傷を与えうる。
【0018】
本発明のインプラントのさらに有利な一実施形態では、歪曲要素および/または支持要素は少なくとも部分的に弓状になるように設計される。このような設計は、本発明のインプラントを移植する上で好ましい歪曲要素の形状復元性あるいは傷を生じない移植に必要な支持要素の弾性的可撓性に良い効果をもたらす。該支持要素の例としては、形状記憶ポリマー性圧縮ばねの弓状部分が挙げられる。この場合、歪曲面内に位置し、C字形部分および/またはZ字形部分を有する歪曲要素および/または支持要素が特に好ましい。
【0019】
本発明のインプラントの好ましい発展形態において、支持要素は、組織構造と接触する表面(圧縮ばねの弓状部分の表面など)に、分割された表面を有する。したがって、好都合なことに、本発明のインプラントの固定において、支持要素は少なくとも部分的に、一般的には分割されている組織構造(毛様溝など)の表面上にぴったりと嵌まるよう確実に載置される。したがって、支持要素の表面構造は、例えば、段差を有してもよい。この段差の表面が毛様溝の段差面に当接することとなるが、毛様溝の段差面は、毛様溝により画定される略円形の外周の接線方向に沿って分割された膜状部位によって形成される。これによってもまた、本発明のインプラントの、眼の光軸を中心とした回転が防止される。
【0020】
本発明のインプラントが有する前記表面構造が鋸歯状および/または波状である場合、該表面構造は、毛様溝とぴったりと嵌まり合う特に有利なものである。
【0021】
本発明のインプラントの好ましい一実施形態において、該インプラントは保持手段を有し、該保持手段は少なくとも1つのセンサおよび/またはテレメトリユニットを保持面に保持するよう設計され、歪曲要素に接続されている。保持手段は、例えば多孔プレートであってよく、これに対して、例えば眼内圧を測定するための圧力センサおよび/または血糖値を測定するためのセンサおよび/または温度測定のための温度センサが、例えば接着接続部によって固定されていてもよい。このセンサによって測定されるデータは、テレメトリユニットの誘導コイルを介して、眼外に配置される外部受信機へと送信することができる。好都合なことに、本発明のインプラントは、例えば眼内圧などの、眼の臨床パラメータのモニタリングを行うために、保持手段を用いつつ使用することができる。
【0022】
本発明のインプラントにおいて、保持手段と、支持要素とは、歪曲面の法線に関して互いに離間して配置できることが好ましい。移植によって外傷が生じることのないように、圧力センサおよび誘導コイルを保持するために設けられるプレートなどの保持手段は、レールフレームを用いて、眼の光軸に関して、好ましい移植部位(通常は虹彩近傍)からできるだけ離れるように位置決めすることができ、これは好都合である。したがって、本発明のインプラントを用いれば、例えば、保持手段の圧力センサと虹彩との衝突リスクを抑えることができる。これは、本発明のインプラントの固定部位(例えば毛様溝)が、本発明のインプラントの保持面内にある保持手段から空間的に離れていることによる。移植された状態において、眼の光軸に関し、保持面は、眼の光軸に沿って、支持要素よりも虹彩から離れて配置される。したがって、本発明のインプラントは、移植による虹彩への外傷の防止に関して、眼の後房(すなわち毛様溝内)、眼の前房(すなわち虹彩角膜角内)のいずれにも有利に固定することができる。
【0023】
本発明の一発展形態において、歪曲要素は、少なくとも一部分が傾斜面内に配置され、傾斜面と歪曲面とは互いに角度のついた関係にある。傾斜面と歪曲面とが傾斜して角度を成していることで、歪曲要素の一部(ワイヤ形状の圧縮ばねの中央部など)は、本発明のインプラントの歪曲面から突出している。このようにして、本発明のインプラントでは、歪曲要素(圧縮ばねなど)と相互作用する保持手段(例えば、圧縮ばねの一端に接着されるプレートなど)と、歪曲面(毛様溝の溝底に沿った面など)との間で、特に有利な空間的離間が容易に実現され、本発明のインプラントの保持手段に締結されるセンサユニットと、虹彩との衝突リスクが最小限に抑えられる。
【0024】
移植された状態にある本発明のインプラントにおいて、保持手段は、眼の光軸を横切る方向に該光軸から距離を空けて配置されることが好ましい。本発明のインプラントにおいて、例えば、プレートを備えた保持手段が眼の光軸の外側に配置されることは、眼の光軸の遮蔽により患者の視力が損なわれることを防止する上で好都合である。
【0025】
本発明のインプラントの好ましい一実施形態において、固定手段は、解放可能な締結手段によって締結されていてもよい。本発明における「解放可能な締結手段」は、例えば係止要素であり、この場合、例えば可撓性ワイヤなどによって形成される固定手段が、例えばフレーム要素などによって形成される保持手段内にワイヤの一端で係止される。このように、本発明のインプラントは、可撓性ワイヤなどの固定手段とフレームなどの保持手段とからモジュール式に構成されてもよい。低侵襲性インプラントに関して、このモジュール(すなわち固定手段および保持手段)は、互いに独立して移植され、係止要素によって眼内で互いに接続されてもよい。これは、例えば、既知のインプラントと比較して、眼の前房への経路を確保するための外科的切開が小さくて済むという点で好都合である。
【0026】
最後に、本発明のインプラントのさらに有利な一実施形態において、保持手段は、ポリマーキャスティングにより、センサおよび/またはテレメトリユニットと一体に形成されている。このようにして、本発明のインプラントは、例えばシリコンゴム母材中などに埋め込むことができ、低侵襲移植を実現できる点で好都合である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下、図面を参照しつつ、好ましい実施形態における本発明を例示によって説明する。図面から、さらなる有利な詳細が明らかになるであろう。
【0028】
同一の機能を有する部品には、同一に参照番号が付される。
【0029】
詳細には、図面は以下のとおりである。
【0030】
図1】本発明の好ましい実施形態による、眼に移植されるインプラントの、眼の光軸に沿った方向から見た平面図である。
図2図1に示すインプラントの、図1の線IIに沿った断面図である。
図3】本発明のさらに好ましい実施形態によるインプラントの斜視図である。
図4図3のインプラントを上方から見た平面図である。
図5図3および図4のインプラントを下方から見た平面図である。
図6図4の矢印VIの方向から見た、図3図5のインプラントの側面図である。
図7】本発明のさらに好ましい実施形態における、3つのインプラントの概略図である。
図8】本発明のさらに好ましい実施形態によるインプラントの概略平面図である。
図9図8に示すインプラントの、図8の線IXに沿った断面図である。
図10】本発明のさらに好ましい実施形態のインプラントの概略平面図である。
図11図10のインプラントの、図10の線XIに沿った断面図である。
図12】本発明のさらに好ましい実施形態のインプラントを上方から見た概略図である。
図13図12のインプラントの、図12の線XIIIに沿った断面図である。
図14】本発明のさらに好ましい実施形態のインプラントの断面図である。
図15】本発明のさらに好ましい実施形態のインプラントの断面図である。
図16】本発明のさらに好ましい実施形態のインプラントの概略平面図である。
図17】本発明のさらに好ましい実施形態によるインプラントの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、人工レンズ3が設けられ、本発明の好ましい実施形態によるインプラント4が移植された眼2を、眼2の光軸1に沿った視線方向から見た平面図である。インプラント4は、2つの屈曲した圧縮ばね5と、圧縮ばね5と一体的に形成されたプレート6とからなり、このプレートは、センサテレメトリモジュール(いずれも図示せず)と、接着接続部を介して接続されている。センサテレメトリモジュールは、眼内圧を測定し、当該眼内圧についてのデータを外部受信機に送信するためのものである。
【0032】
図1に示すように、インプラント4は、圧縮ばね5によって毛様溝68の溝底7に押し付けられる。すなわち、インプラント4は、圧縮ばね5の補助力によって、光軸1を横切る方向で、弓状部分8を介して溝底7に固定される。プレート6は、光軸1を横切る方向において人工レンズ3の外側に配置されるが、これは人工レンズ3の遮蔽が視力に悪影響を及ぼすことを避けるためである。図2は、図1のインプラント4の断面図である。図2を参照すると明らかであるが、圧縮ばね5が光軸1に垂直な平面9内で弾性変形すると、圧縮ばね5の弓状部分8が毛様溝68の溝底7に押し付けられ、圧縮ばね5は元の形状に戻る。これにより、インプラント4は、光軸1を横切る方向で固定される。
【0033】
図3図6は、本発明のさらなるインプラント10を、異なる形で示したものである。図1および図2のインプラント4と同様に、図3図6のインプラント10は、2つの圧縮ばね11と、圧縮ばね11と一体的に形成されているプレート12とを備える。プレート12は、接着接続部(図示せず)を介してセンサテレメトリモジュール13に接続されている。図5に示すプレート13の穴に液体接着剤を流し込むと、穴の中で接着剤が硬化し、センサテレメトリモジュール13は、より強固にプレート13に固定される。
【0034】
図3および図6のインプラント10の図から明らかなように、圧縮ばね11は傾斜した中央部14を有する。これにより、毛様溝の溝底(図3図6には示さず)に載置される圧縮ばね11の弓状部分15は、プレート12、すなわちセンサテレメトリモジュール13から、図6に示す方向16に沿って空間的に離間される。圧縮ばね11の傾斜部分14によるこの空間的離間の結果、移植された状態のインプラント10において、プレート12および/またはセンサテレメトリモジュール13が眼の虹彩と衝突するリスクは確実に最小限に抑えられる。
【0035】
これは、圧縮ばね11の弾性形状復元性により、インプラント10が弓状部分15を介して固定可能であって、眼の光軸方向(図2参照)において、弓状部分15が、インプラント10のプレート12またはセンサテレメトリモジュール13よりも虹彩の近くに配置されることによる。同様に、インプラント10は、眼の前房内の虹彩角膜角内に固定してもよく、このような移植においても、傾斜部分14があることにより、プレート12またはセンサテレメトリモジュール13は弓状部分15よりも虹彩から離れているため、虹彩との衝突のリスクは最小限に抑えられる。
【0036】
図7は、それぞれが本発明のさらに好ましい一実施形態である3つのインプラント17、18および19の概略図である。インプラント17は、プレート27に加えて、圧縮ばね20および26を有し、図1および図2および図3図6のインプラントと同様、当該ばねの弾性形状復元により、毛様溝の溝底でのインプラント17の固定が実現される。圧縮ばね26の平均曲率半径は、圧縮ばね20の平均曲率半径よりも大きい。これによって、移植された状態で、センサテレメトリモジュール用に設けられたプレート27を、光軸の外側の可能な限り遠くに配置できる。同様に、インプラント18は、プレート28に加えて、圧縮ばね21と圧縮ばね22とを備え、圧縮ばね21の平均曲率半径は、圧縮ばね22の平均曲率半径よりも大きい。ただし、インプラント17の圧縮ばね20および26と比較して、圧縮ばね21および22と間の曲率半径の差は小さい。これによって、インプラント18においても、移植された状態で、センサテレメトリモジュール用に設けられたプレート28を、光軸の外側の可能な限り遠くに配置できる。一方、インプラント19は、プレート29に加えて、3つの圧縮ばね23、24および25を備える。圧縮ばね24および25は、圧縮ばね23と対向して配置される。圧縮ばね23の曲率半径は、圧縮ばね24および25の曲率半径よりも大きい。したがって、インプラント19においても、移植された状態で、センサテレメトリモジュール用に設けられたプレート28を、光軸の外側の可能な限り遠くに配置できる。
【0037】
図8に、本発明のインプラント30の、さらに好ましい一実施形態を示す。インプラント30は、多孔プレート31と、圧縮ばね32とからなり、圧縮ばね32は、弓状部分33を有する。弓状部分33は、毛様溝の溝底に載置され、圧縮ばね32の弾性形状復元によって毛様溝の方向に歪曲することができる。
【0038】
図9は、図8のインプラント30の断面図である。図9の断面図に示すように、インプラント30において、圧力センサ34は、当該圧力センサによって取得される測定データをテレメトリによって受信機に送信する誘導コイル35と共に、ポリマー母材36に囲まれている。したがって、圧力センサ34、誘導コイル35、およびプレート31は、一体部品としてインプラント30内に設けられている。液体状態のポリマー母材36がプレート31の穴に流れ込むと、圧力センサ34および誘導コイル35は、プレート31の穴の中で、ポリマー母材36を介してプレート31に固定される。この場合、ポリマー母材36はシリコンゴムからなる。
【0039】
図10は、本発明のさらなるインプラント37の概略平面図である。図10によれば、インプラント37は、図1図9のインプラントと同様の形状の圧縮ばね39と、片側が開いたフレーム38とからなる。図11の断面図に示すように、フレーム38の内部で、圧力センサ41は、誘導コイル42を包含しているシリコンゴム製ポリマー母材40に埋め込まれた状態で支持されている。すなわち、ポリマー母材40は、フレーム38の開放側からフレーム38内に導入されている。このように、インプラント37はモジュールとなっており、圧縮ばね39とフレーム38とからなるモジュールであり、かつ圧力センサ41と誘導コイルとを包含するシリコンゴム製ポリマー母材40から構成された、フレーム38から取り外すことの可能なモジュールである。
【0040】
図12は、本発明のさらなるインプラント43の概略平面図であり、このインプラントは、図10および図11のインプラント37のフレーム38とは対照的に外周が閉鎖されたフレーム44を有する、る。図10および図11に示すインプラント37と同様に、インプラント43のフレーム44内には、圧力センサ46および誘導コイル47が埋め込まれたポリマー母材45が設けられている。図13のインプラント43の断面図に、ポリマー母材45が、溝によってインプラント43のフレーム44内にぴったりと嵌まるように取り付けられている様子(図13、上段)、フレーム44がポリマー母材42内に完全に埋め込まれている様子(図13、中段)、およびフレームのレール47をポリマー母材の外に配置することで(図13、下段)フレーム44が部分的にポリマー母材45内に埋め込まれている様子(図13、下段)を示す。
【0041】
図14は、圧力センサ49と、テレメトリユニットとしての役割を果たす平面コイル50とが、保持フレーム51と共にポリマー母材52内に埋め込まれたインプラント48の断面図である。
【0042】
図15は、図14のインプラント48と同様に設計されたインプラント54の断面図であるが、ここでは、コイル53がポリマー母材55に埋め込まれている。
【0043】
図16は、本発明のインプラント56を概略的に示す平面図である。ここでは、紐状の一体型圧縮ばね57の一部分58が、コイル60および圧力センサ61と共にポリマー母材59内に埋め込まれている。これにより、インプラント56は特にコンパクトな構成を有し、移植に有利である。
【0044】
図17の平面図に、プレート67と2つのばね63および64とからなるインプラント62を概略的に示す。ばね63は、弓状部分65に波形構造を有することで、分割された膜状部位を有する毛様溝上に良好に載置される。一方、インプラント62のばね64は、弓状部分66に鋸歯状構造を有し、該構造は、インプラント62を固定して、眼の光軸(図示せず)を中心とした回転を防止する上で特に適している。
【符号の説明】
【0045】
1 光軸
2 眼
3 レンズ
4 インプラント
5 圧縮ばね
6 プレート
7 溝底
8 弓状部分
9 平面
10 インプラント
11 圧縮ばね
12 プレート
13 センサテレメトリモジュール
14 中央部
15 弓状部分
16 方向
17 インプラント
18 インプラント
19 インプラント
20 圧縮ばね
21 圧縮ばね
22 圧縮ばね
23 圧縮ばね
24 圧縮ばね
25 圧縮ばね
26 圧縮ばね
27 プレート
28 プレート
29 プレート
30 インプラント
31 プレート
32 圧縮ばね
33 弓状部分
34 圧力センサ
35 誘導コイル
36 ポリマー母材
37 インプラント
38 フレーム
39 圧縮ばね
40 ポリマー母材
41 圧力センサ
42 誘導コイル
43 インプラント
44 フレーム
45 ポリマー母材
46 圧力センサ
47 レール
48 インプラント
49 圧力センサ
50 平面コイル
51 保持フレーム
52 ポリマー母材
53 コイル
54 インプラント
55 ポリマー母材
56 インプラント
57 圧縮ばね
58 部分
59 ポリマー母材
60 コイル
61 圧力センサ
62 インプラント
63 ばね
64 ばね
65 弓状部分
66 弓状部分
67 プレート
68 毛様溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17