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  • 特許-コーティングされた切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20220713BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20220713BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220713BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20220713BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20220713BHJP
   B22F 8/00 20060101ALN20220713BHJP
   B22F 9/04 20060101ALN20220713BHJP
   C22C 1/05 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/36
C23C16/40
C23C16/30
C22C29/08
B22F8/00
B22F9/04 A
B22F9/04 C
C22C1/05 G
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019546897
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2018054800
(87)【国際公開番号】W WO2018158245
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】17158416.2
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーケソン, レイフ
(72)【発明者】
【氏名】ステンバーリ, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】マデルード, カール-ユーアン
(72)【発明者】
【氏名】ノルグレン, スサン
(72)【発明者】
【氏名】フォッスベック ニロット, エリアス
(72)【発明者】
【氏名】エストルンド, オーケ
(72)【発明者】
【氏名】エングクビスト, ヤーン
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137564(JP,A)
【文献】特表2015-503034(JP,A)
【文献】特開2005-126824(JP,A)
【文献】特開2016-041853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 16/36
C23C 16/40
C23C 16/30
C22C 29/08
B22F 8/00
B22F 9/04
C22C 1/05
B23B 51/00
B23P 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金基材とコーティングとを含むコーティングされた切削工具であって、前記超硬合金基材がWC、コバルト結合相及びガンマ相を含み、前記超硬合金基材がガンマ相のない結合相富化表面ゾーンを含み、ここで前記表面ゾーンの厚さが14から26μmの間であり、且つ、前記超硬合金が、
でNが80μm未満であるガンマ相を有し、上式中、X(μm)は、EBSD分析から取得される累積プロットにおける累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)であり、ガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は粒子面積(x軸)に対してプロットされており、Yは補正因子
であり、上式中、面積分率はEBSD分析から取得され、
と定義され、前記aWC av は前記WC粒の平均面積である、異常WC粒のEBSD分析から取得される面積分率は0から0.03の間であり、且つ、コーティングはα-Al層を含み、前記基材と前記α-Al層の間に、コーティングはTiCN層を含み、ここで前記α-Al層は、CuKα線及びθ-2θスキャンを用いるX線回折により測定され、且つ、以下のハリスの式:
[上式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号00-010-0173による標準強度であり、nは計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(024)、(1 1 6)、(2 1 4)、(3 0 0)及び(0 0 12)である]によって定義される集合組織係数TC(hkl)を示す切削工具であり、
TC(0 0 12)≧7.2であることを特徴とし、
I(0 0 12)/I(0 1 14)の比率は≧1である、切削工具。
【請求項2】
ガンマ相の量が3から25体積%の間である、請求項1に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項3】
異常WC粒の前記面積分率が0から0.025の間である、請求項1又は2に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項4】
ガンマ相分布である前記Nが15から75μmの間である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項5】
前記TiCN層の厚さが4-20μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項6】
前記α-Al層の厚さが2-20μmである、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項7】
前記TC(0 0 12)≧7.4であり、I(0 0 12)/I(0 1 14)の前記比率は≧1.5である、請求項1又は2に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項8】
前記コーティングが、TiCNとTiCNOを含む結合層であって、前記TiCN層の最も外側に位置し、且つ、前記α-Al層に隣接する結合層をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項9】
前記結合層の厚さが0.5-2μmである、請求項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項10】
前記α-Al層と前記基材の間に位置する前記TiCN層が、CuKα線及びθ-2スキャンを用いるX線回折により測定され、且つ、ハリスの式[式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号42-1489による標準強度であり、nは反射の数であり、計算で使用される反射は(1 1 1)、(2 0 0)、(2 2 0)、(3 1 1)、(3 3 1)、(4 2 0)、(4 2 2)及び(5 1 1)である]によって定義される集合組織係数TC(hkl)を示す切削工具であって、TC(2 2 0)が≦0.5であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項11】
前記TiCN層がTC(4 2 2)≧3を示す、請求項10に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項12】
前記TiCN層のTC(3 1 1)+TC(4 2 2)が≧4である、請求項10又は11に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項13】
前記TC(2 2 0)が≦0.3である、請求項10に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項14】
前記TC(4 2 2)が≧3.5である、請求項11に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項15】
前記TiCN層の前記TC(3 1 1)+TC(4 2 2)が≧5である、請求項12に記載のコーティングされた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材とコーティングとを含む、金属のチップ成形加工のためのコーティングされた切削工具であって、コーティングされた旋削インサートが特に鋼材に適している切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
CVDコーティングが施され、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを有する超硬合金基材を用いた切削工具は、旋削加工技術の分野でよく知られている。
【0003】
しかし今なお、インサートなどの切削工具の性能を向上させるためのたゆまぬ努力がなされている。より長い工具寿命は、生産コストなどの削減につながる。
【0004】
塑性変形は、切削作業における摩耗メカニズムの1つである。通常、塑性変形に対する耐性を向上させようとすると、基材の靭性が低下する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的の1つは、同じ靭性を維持しながら、塑性変形に対する向上した耐性を得ることである。
【0006】
本発明のもう1つの目的は、塑性変形に対する向上した耐性を得ると同時に、靭性も向上させることである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】累積相対面積(y軸)が粒子面積(x軸)に対してプロットされた累積プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、超硬合金基材とコーティングとを含むコーティングされた切削工具に関する。超硬合金基材はWC、コバルト結合相及びガンマ相を含み、超硬合金基材はガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを含み、該表面ゾーンの厚さは14から26μmであり、超硬合金は、
でNが80μm未満であるほどうまく分布されたガンマ相を有し、
上式中、X(μm)は、EBSD分析から取得される累積プロットにおける累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)であり、ガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は粒子面積(x軸)に対してプロットされている。
【0009】
Yは補正因子
であり、上式中、面積分率はEBSD分析から取得される。
【0010】
さらに、
と定義される、EBSD分析から取得される異常WC粒の面積分率は0から0.03の間である。
【0011】
コーティングはα-Al層を含み、前記基材と前記α-Al層の間に、コーティングはTiCN層を含み、ここで前記α-Al層は、CuKα線及びθ-2θスキャンを用いるX線回折により測定され、且つ、以下のハリスの式:
[上式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号00-010-0173による標準強度であり、nは計算で使用される反射数であり、使用される(hkl)反射は、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(024)、(1 1 6)、(2 1 4)、(3 0 0)及び(0 0 12)である]によって定義される集合組織係数TC(hkl)を示し、
TC(0 0 12)≧7.2であることを特徴とし、I(0 0 12)/I(0 1 14)の比率は≧1である。
【0012】
本発明による超硬合金の特性評価は、電子線後方散乱回折(EBSD)を使用して実施される。EBSDは、ビームを指定した距離(ステップ幅)ずつ試料表面上で移動させ、試料が水平に対して70°傾いたときに生成される回折パターンから、各ステップにおける試料の位相及び結晶方位を測定するSEM法である。この情報は、試料の微細構造マップ(粒界、相及び粒の大きさ及び相対位置を測定するための結晶学的情報を使って試料を簡便に評価することができるもの)を作成するために使用することができる。
【0013】
超硬合金には、異常WC粒は可能な限り少ししか含まれていないようにするべきである。異常WC粒とは、通常、平均的なWC粒径より数倍大きなWC粒を意味する。本明細書における異常WC粒の量は、超硬合金材料のEBSD分析から測定される。
【0014】
異常WC粒の面積分率は、WC粒の総面積に対する、WC粒の平均面積aWCavの10倍よりも大きいWC粒の面積分率として定義される。
【0015】
本発明によれば、異常粒の面積分率は、0から0.03、好ましくは0から0.025、より好ましくは0から0.02である。
【0016】
立方晶炭化物及び/又は炭窒化物の固溶体であるガンマ相は、立方晶炭化物及び/又は炭窒化物とWCから焼結中に形成され、(W,M)C又は(W,M)(C,N)(ここで、Mは、Ti、Ta、Nb、Hf、Zr、Cr及びVのうちの1つ以上である)と表すことができる。
【0017】
本発明の一実施態様において、超硬合金は、0.5から2.5重量%、好ましくは1から1.5重量%の量でNbCを含む。さらに超硬合金は、2.5から4.5重量%、好ましくは3から4重量%の量でTaCを含む。さらに超硬合金は、1.8から3.3重量%、好ましくは2から3重量%の量でTiCを含む。
【0018】
ガンマ相の量は、適切には3から25体積%、好ましくは5から17体積%である。これはさまざまな方法、例えば、基材の断面の光学顕微鏡(Light Optical Microscope)(LOM)画像又は走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真のいずれかの画像解析を行い、ガンマ相の平均分率を計算することによって測定可能である。超硬合金が表面ゾーンに勾配を伴う場合、本明細書で与えられるガンマ相の量はバルクで測定される。また、ガンマ相の量は、EBSD分析からも取得できる。
【0019】
ガンマ相の分布は、可能な限り均一でなければならない。ガンマ相のEBSD分析は、ガンマ相粒子で実施されており、すなわちガンマ相粒では実施されていない。EBSDデータを処理することにより、粒子又は粒を測定するかどうか選択できる。粒とは、本明細書では単結晶を意味するのに対し、粒子は、互いに直接接触する2つ以上の粒を含有する。
【0020】
本発明によれば、ガンマ相は、制御された粒子径でうまく分布している。
【0021】
ガンマ相の分布はEBSD分析によって測定され、下記式の値Nによって与えられる。
【0022】
EBSD分析からのガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は、粒子面積(x軸)に対してプロットされる。図1を参照されたい。累積プロット(0-1)から、該累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)、すなわち値X(μm)が得られる。0.90に正確に一致する値がない場合、0.90の上下2つの値の平均がXとして使われる。
【0023】
値Yは、超硬合金中の様々な量のガンマ相に相関する補正因子である。Yは、立方晶炭化物と立方晶炭窒化物(ガンマ相)を炭化物と炭窒化物の合計量、すなわちWC(六方晶)とガンマ相(立方晶)の両方で割った面積分率の比率である。面積分率は、EBSDデータから取得される。
【0024】
本発明によれば、ガンマ相分布Nは、好適には80μm未満、好ましくは15から75μm、より好ましくは35から70μmである。
【0025】
表面ゾーンの厚さは、好適には10から35μmの間、好ましくは14から26μmの間である。この厚さは、ガンマ相を含有するバルクとガンマ相がない表面ゾーンの境界と、基材の表面との間で測定される。SEM又はLOM画像では、この境界は非常に明確であるため、簡単に識別できる。表面ゾーンの厚さの測定は、刃先に近すぎないように、平らな表面、好ましくは逃げ面で行われる必要がある。それは、本明細書では、測定が刃先から少なくとも0.3mmのところで実施される必要があることを意味する。
【0026】
結合相富化(binder enriched)とは、本明細書では、表面ゾーンの結合相含有量がバルクの結合相含有量の少なくとも1.3倍であることを意味する。表面ゾーンの結合相含有量は、好適には表面ゾーンの総厚さ/全深さの半分で測定される。バルクとは、本明細書では、表面ゾーンではない領域と定義される。バルクに対して実施されるすべての測定は、表面ゾーンに近すぎない領域で実施される必要がある。それは、本明細書では、バルクの微細構造に対して実施されるあらゆる測定が表面から少なくとも100μmの深さで実施される必要があることを意味する。
【0027】
ガンマ相がないというのは、本明細書では、表面ゾーンがガンマ相粒子を全く含有しないか、又は非常に少量しか含有しないことを意味する。
【0028】
コバルトの量は、焼結体の5から17重量%の間、好ましくは8から12重量%の間である。
【0029】
本発明の一実施態様では、Crが超硬合金中に存在する場合、Crの一部は結合相に溶解している。
【0030】
該超硬合金は、超硬合金の分野で一般的な他の構成成分も含むことができる。リサイクル材(PRZ)を使用する場合、そのZr、V、Zn、Fe、Ni及びAlも少量存在し得る。
【0031】
本発明によるコーティングはα-Al層を含み、前記基材と前記α-Al層の間に、コーティングはTiCN層をさらに含む。α-Alは、CuKα線及びθ-2スキャンを用いるX線回折により測定され、且つ、以下のハリスの式:
[上式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、
(hkl)はICDDのPDFカード番号00-010-0173による標準強度であり、nは計算で使用される反射の数であり、使用される(hkl)反射は(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(0 2 4)、(1 1 6)、(2 1 4)、(3 0 0)及び(0 0 12)である]によって定義される集合組織係数TC(hkl)を示し、ここで、
【0032】
TC(0 0 12)≧7.2、好ましくは≧7.4、より好ましくは≧7.5、より好ましくは≧7.6、最も好ましくは≧7.7、且つ、好ましくは≦8であり;I(0 0 12)/I(0 1 14)の比率は≧1、好ましくは≧1.5、より好ましくは≧1.7、最も好ましくは≧2であり、I(0 0 12)は、0 0 12反射の測定強度(積分面積)であり、I(0 1 14)は、0 1 14反射の測定強度(積分面積)である。I(0 1 14)以上のI(0 0 12)と組み合わされたこのように高いTC(0 0 12)を有するα-Al層は、クレータ摩耗及び逃げ面摩耗に対するその予期せぬ高い耐性から、切削工具の層として有利であることが示されている。
【0033】
α-Al層は通常、熱CVDにより堆積される。本明細書において、HTCVDは950-1050℃、MTCVDは800-950℃の範囲内の温度でのCVD法と定義される。
【0034】
α-Al層は、切削作業において少なくとも切削に関わる場所、少なくともクレータ摩耗及び/又は逃げ面摩耗にさらされる場所を覆っている。或いは、切削工具全体をα-Al層及び/又は任意のさらなるコーティングの層で覆うこともできる。
【0035】
本明細書において、<0 0 1>の強い集合組織とは、<0 0 1>結晶方位に沿った統計的に優先的な成長、すなわちα‐Al粒が、基材表面と平行なその(0 0 1)結晶面で、基材表面と平行なその他の結晶面でよりも、より高い頻度で成長することを意味する。<h k l>結晶方位に沿った優先的な成長を表す手段は、それぞれの試料上で測定された定義済みのXRD反射セットに基づいて、ハリスの式(前述の式(1))を用いて計算される集合組織係数TC(h k l)である。XRD反射の強度は、同じ材料(例えばα‐Al)であるがランダムな方位を有するもの(例えばその材料の粉末)のXRD反射の強度を示すJCPDFカードを用いて標準化される。結晶性材料の層の、1より大きい集合組織係数TC(h k l)は、結晶性材料の粒が、ランダム分布の場合よりも(少なくとも、集合組織係数TCを決定するハリスの式で使用されるXRD反射と比べて)、より高い頻度でその(h k l)結晶面が基材表面と平行に配向していることを示す。集合組織係数TC(0 0 12)は、本明細書では、<0 0 1>結晶方位に沿った優先的な結晶成長を示すのに使用される。(0 0 1)結晶面は、α‐Al結晶系内の(0 0 6)及び(0 0 12)結晶面と平行である。
【0036】
本発明の一実施態様では、α-Al層の厚さは、2-20μm、好ましくは2-10μm、最も好ましくは3-7μmである。
【0037】
コーティングは、基材とα-Al層の間に位置する、好ましくはMTCVDでコーティングされたTiCN層をさらに含む。TiCN層の粒は、円柱状である。本発明の一実施態様では、前記TiCN層の厚さは、4-20μm、好ましくは4-15μm、最も好ましくは5-12μmである。TiCNとは、本明細書において、0.2≦x≦8、好ましくは0.3≦x≦0.7、より好ましくは0.4≦x≦0.6であるTi(C,N1-x)を意味する。TiCNのC/(C+N)比率は、例えば電子マイクロプローブ分析によって測定することができる。
【0038】
コーティングは、TiN、TiCN、TiCNO及び/若しくはTiCO又はこれらの組み合わせ、好ましくはTiCNとTiCNOを含む結合層であって、TiCN層の最も外側に位置し、且つ、α-Al層に隣接する結合層をさらに含む。好ましくは、結合層は、HTCVD堆積される。結合層は、TiCN層とα-Al層の間の接着性を高めるためのものである。結合層は、α-Al層堆積に先立って、好ましくは酸化される。前記結合層の厚さは、好ましくは0.5-2μm、最も好ましくは1-2μmである。
【0039】
本発明の一実施態様では、α-Al層と基材の間に位置するTiCN層は、CuKα線及びθ-2スキャンを用いるX線回折により測定され、且つ、ハリスの式(1)[式中、I(hkl)は(hkl)反射の測定強度(積分面積)であり、I(hkl)はICDDのPDFカード番号42-1489による標準強度であり、nは反射の数であり、計算で使用される反射は(1 1 1)、(2 0 0)、(2 2 0)、(3 1 1)、(3 3 1)、(4 2 0)、(4 2 2)及び(5 1 1)である]によって定義される集合組織係数TC(hkl)を示し、ここで、TC(2 2 0)は≦0.5、好ましくは≦0.3、より好ましくは≦0.2、最も好ましくは≦0.1である。(2 2 0)の低強度は、その後のα-Al層の強い<0 0 1>集合組織を促進するようである点で有利であることが示されている。低TC(220)を達成する方法の1つは、MTCVD TiCN堆積の初期部分、好ましくは開始時のTiCl/CHCNの体積比率を比較的高レベルに調整することである。
【0040】
本発明の一実施態様では、TiCN層は、TC(4 2 2)≧3、好ましくは≧3.5を示す。本発明の一実施態様では、TiCN層は、TC(3 1 1)+TC(4 2 2)≧4、好ましくは≧5、より好ましくは≧6、最も好ましくは≧7を示す。これらのTC値は、ハリスの式(1)、ICDDのPDFカード番号42-1489、及び反射(1 1 1)、(2 0 0)、(2 2 0)、(3 1 1)、(3 3 1)、(4 2 0)、(4 2 2)及び(5 1 1)を用いて計算される。
【0041】
本発明の一実施態様では、コーティングされた切削工具は、コーティングされた切削工具の技術分野で一般的な後処理、例えばブラストやブラッシングなどを施される。
【0042】
切削工具とは、本明細書では、インサート、好ましくは旋削インサートを意味する。
【0043】
コーティングされた切削工具インサートは、鋼、鋳鉄又はステンレス鋼の旋削に適した旋削インサートである。
【実施例
【0044】
実施例1
超硬合金基材は、エタノールと水(9重量%水)から成る粉砕液中で、(Ta,Nb)C、(Ti,W)C、及びTi(C,N)と共にリサイクル超硬合金材料(PRZ)を最初に予備粉砕することにより製造された。スラリーが粉砕チャンバーと保持タンクとの間を循環する水平撹拌ミルである、NetzschのLMZ10と呼ばれる攪拌ミル内での粉体と粉砕液の比率は、232kg粉体/80L粉砕液であった。650rpmで、蓄積エネルギー30kWhまでスラリーを粉砕した。
【0045】
PRZ、すなわちリサイクルされた材料の量は、総粉体重量の20重量%である。表2に、使用したPRZ(バッチno.828)の組成を重量%で示す。残りの原料は、表1の組成が得られるような量で加えられる。
【0046】
予備粉砕工程の後、WC、Co粉体及びPEG(ポリエチレングリコール)をスラリーに加え、800kg粉体/160L粉砕液になるようにスラリーに粉砕液を加え、その後650rpmで蓄積エネルギー90kWhまで全ての粉体を一緒に粉砕した。
【0047】
PEGの量は、乾燥粉体の総重量の2重量%であった(PEGは、乾燥粉体の総重量に含まれない)。
【0048】
WC粉体は、Wolfram Bergbau und Hutten社から購入したHTWC040と呼ばれる高温浸炭WCであった。ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)は、3.9μmであった。
【0049】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0050】
その後、最初にH中で450℃まで脱脂し、1350℃以下で減圧加熱することにより、このグリーン体を焼結した。その後、20mbar Arと20mbar COを流す保護雰囲気を導入し、その後1450℃の温度で1時間維持する。
【0051】
得られた超硬合金を、以下、本発明1とする。
【0052】
比較のために、基材を、全ての原材料粉体を一般的なボールミルで11時間粉砕することによって(すなわち予備粉砕を行わずに)まず超硬合金基材を製造することによって、製造した。
【0053】
原料は本発明3と同じだが、PRZの別のバッチの総粉体重量の15重量%を使用したこと(バッチ757、表2参照)と、ASTM粉砕後の平均粒径(FSSS)7.0μmを有する従来の(高温浸炭されたものではない)WCを使用したことが相違点である。他の原料の量は、表1の組成が達成されるようにした。
【0054】
得られた超硬合金を、以下、比較例1とする。
【0055】
PRZ-粉体(最大100%)の残りは、微量のFe、Ni及びAlである。
【0056】
その後、スラリーを噴霧乾燥させて凝集体にし、その後Fetteの液圧プレスで圧縮工程に供し、グリーン体を形成した。
【0057】
得られた材料である本発明1及び比較例1はいずれも、それぞれ厚さが22μmと22.3μmの、ガンマ相がない結合相富化表面ゾーンを有する。
【0058】
その後、超硬合金基材にコーティングが施された。この基材を、885℃でTiCl、CHCN、N、HCl及びHを使用する周知のMTCVD法を用いて、最初に約0.4μmの薄いTiN層でコーティングし、その後約7μmのTiCN層でコーティングした。TiCN層のMTCVD堆積の初期部分におけるTiCl/CHCNの体積比率は6.6であった。その後、使用するTiCl/CHCN.の比率が3.7である期間が続いた。TiN及びTiCN堆積の詳細を表3に示した。
【0059】
MTCVD TiCN層の上部には、4つの別々の反応工程から成る方法によって1000℃で堆積した厚さ1-2μmの結合層があった。最初は400mbarでTiCl、CH、N、HCl及びHを使用するHTCVD TiCN工程、その後70mbarでTiCl、CHCNCO、N及びHを使用する第2の工程(TiCNO-1)、その後70mbarでTiCl、CHCN、CO、N及びHを使用する第3の工程(TiCNO-2)、並びに最後に70mbarでTiCl、CO、N及びHを使用する第4の工程(TiCNO-3)。第3及び第4の堆積工程中、表4に示す最初の開始レベルと第2の停止レベルで示されるように、一部のガスが連続的に変化した。その後のAl核形成の開始前に、CO、CO、N及びHの混合物中で結合層を4分間酸化した。結合層体積の詳細を表4に示す。
【0060】
結合層の上部に、α-Al層が堆積された。全てのα-Al層は、1000℃、55mbarで2工程で堆積された。1.2体積%のAlCl、4.7体積%のCO、1.8体積%のHCl及び残部Hを使用した第1の工程が約0.1μmのα-Alを生じ、第2の工程のα-Al層は1.2%のAlCl、4.7%のCO、2.9%のHCl、0.58%のHS及び残部Hを使用して堆積された。
【0061】
実施例2(集合組織分析)
上記の方法に従って、XRDを使用してα-Al及びTiCNのTC値を分析した。各コーティングの断面を1000倍の倍率で調べることにより、光学顕微鏡で層の厚さを分析した。結合層と初期TiN層の両方が表5に示すTiCN層の厚さに含まれている。表5には、基準品である比較例1(商用グレードのGC4235)も含まれている。発明1と比較例1の2つの試料をそれぞれ分析した。結果を表5に示す。
【0062】
本発明によるインサートは、水系アルミナスラリーを使用するウェットブラスト装置ですくい面にブラストされ、切削インサートのすくい面と噴射スラリーの方向との間の角度は約90°であった。アルミナ砥粒はF220、ガンへのスラリーの圧力は1.8bar、ガンへの空気の圧力は2.2bar、面積単位あたりのブラストの平均時間は4.4秒、ガンのノズルからインサートの表面までの距離は約145mm.であった。ブラストの目的は、コーティングの残留応力と表面粗さに影響を与え、それにより後続の旋削試験でインサートの特性を改善することである。
【0063】
実施例3(微細構造)
基材の微細構造もEBSDで分析した。60100μmの4つの画像を使用した。
【0064】
バルク材料の断面を、ダイヤモンドスラリーを使用してダイヤモンドサイズ1μmまで機械研磨し、次に日立製E3500でイオン研磨ステップを行うことにより、電子後方散乱回折(EBSD)特性評価用にインサートを作製した。
【0065】
作製した試料を試料ホルダーに取り付け、走査型電子顕微鏡(SEM)に挿入した。試料を、EBSD検出器に向かって水平面に対し70°傾斜させた。特性評価に使用したSEMは、Zeiss Supra 55 VPで、240μmの対物絞りを使用し、「高電流」モードを適用し、高真空(HV)モードで動作させた。使用したEBSD検出器は、Oxford Instruments社製Nordlys Detectorであり、Oxford Instruments社の「AZtec」ソフトウェア バージョン3.1を使用して動作させた。EBSDデータの取得は、研磨された表面に集束電子ビームを当て、1000x600μmの測定ポイントに対して0.1μmのステップサイズを使用してEBSDデータを連続的に取得することによって行われた。この目的でEBSD分析を行う場合、EBSDデータの取得元の総面積が少なくとも12000μmになるように画像の数を選択する必要がある。
【0066】
基準相は、
WC(六方晶),59の反射体,Acta Crystallogr.,[ACCRA9],(1961),vol.14,p200-201
Co(立方晶),68の反射体,Z.Angew.Phys.,[ZAPHAX],(1967),vol.23,p245-249
Co(六方晶),50の反射体,Fiz.Met.Metalloved,[FMMTAK],(1968),vol.26,p140-143
立方晶炭化物相,TiC,77の反射体,J. Matter. Chem.[JMACEP],(2001),vol.11,p2335-2339の反射体であった。
【0067】
これらの超硬合金は、Co結合相とガンマ相の2つの立方晶相を含むため、相が正しく識別されるように、つまりインデックス化が正確であるように注意する必要がある。それにはいくつか方法があるが、その一つは、同じ試料上で、EDS又は後方散乱画像化を行うことであって、これは、相の化学組成に依存し、それによって結合相とガンマ相の違いが比較のために示される。
【0068】
EBSDデータは、AZtecで収集され、Oxford instruments社のHKLチャネル5(HKL Tango バージョン5.11.20201.0)で分析された。ノイズの低減は、大きなスパイクを除去し、ゼロ解外挿レベル5を実施することにより行われた。WC粒は、5度の臨界誤配向角で測定された。ガンマ相粒間の粒界が除去され、ガンマ相粒子のみが分析された。これは、チャネル5で、臨界誤配向を90度に設定することで行われた。4ピクセル(0.04μm)未満の粒子は、全てノイズとして除去された。
【0069】
ガンマ相の分布はEBSD分析によって測定され、下記式の値N(μm)によって与えられる。
【0070】
EBSD分析からのガンマ相粒子の累積相対粒子面積(y軸)は、粒子面積(x軸)に対してプロットされる。累積プロットから、該累積相対面積0.90(y軸)での粒子面積(x軸)、すなわち値X(μm)が得られる。0.90に正確に一致する値がない場合、0.90の上下2つの値の平均がXとして使われる。
【0071】
値Yは、超硬合金中の様々な量のガンマ相に相関する補正因子である。Yは、立方晶炭化物と立方晶炭窒化物(ガンマ相)を炭化物と炭窒化物の合計量、すなわちWC(六方晶)とガンマ相(立方晶)の両方で割った面積分率の比率である。面積分率は、EBSDデータから取得される。
【0072】
異常WC粒の面積分率は、WC粒の総面積に対する、WC粒の平均面積aWCavの10倍よりも大きいWC粒の面積分率として定義される。
【0073】
比較のため、鋼の旋削に適した商用グレードのGC4235も同じ方法で分析した。GC4235は、本明細書において比較例1と称される。
【0074】
測定結果は以下の表6で見ることができる。
【0075】
表6には、保磁力(Hc)及び重量比磁気飽和磁性(weight specific magnetic saturation)も記載している。
【0076】
保磁力と重量比磁気飽和磁性は、Foerster社製Koerzimat CS1.096を使用して測定された。
【0077】
実施例4(実動例)
実施例1、本発明1に従って作製されたインサートを、乾燥条件下での対面作業で比較例1と一緒に試験した。被削材は鋼(SS2541)で、条件は以下の通りであった。
【0078】
工具寿命の判断基準:メイン刃先でVb≧0.5mm
【0079】
結果を表7に示す。
表7に見られるように、本発明によるインサートは、基準品と比較して、刃先の塑性変形に対する改善された耐性を示す。
【0080】
実施例5(実際に動作する例)
実施例1、発明1に記載のインサートを、湿潤条件下での旋削作業で比較例1と一緒に試験した。被削材は、1回転につき2回の間欠回転が起こるように作製されている。被削材は炭素鋼(SS1312)で、条件は以下の通りであった。
【0081】
工具寿命の判断基準:他に目立った摩耗のない破損
【0082】
結果を以下の表8に示す。表中、工具寿命は8回の試験の平均である。
表8に見られるように、本発明によるインサートは、基準品と比較して、改善された靭性挙動を示す。
図1