(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】動く物体を検知するシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/536 20060101AFI20220713BHJP
G01S 13/58 20060101ALI20220713BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20220713BHJP
G08G 1/16 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
G01S13/536
G01S13/58 210
G01S13/931
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2019571506
(86)(22)【出願日】2018-05-09
(86)【国際出願番号】 EP2018062065
(87)【国際公開番号】W WO2019007569
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2019-12-24
(31)【優先権主張番号】102017211432.0
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147991
【氏名又は名称】鳥居 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【氏名又は名称】藤木 依子
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ブッデンディック・ヘルマン
(72)【発明者】
【氏名】シュロッサー・マルクス
【審査官】九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102011121560(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0152600(US,A1)
【文献】特表2008-532000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 -13/95
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動く物体(200)を検知するためのシステム(100)において、
送信アンテナと少なくとも2つの受信アンテナを有し、送信アンテナから発信された一定の周波数を有する信号が、前記
動く物体(200)により反射された信号を少なくとも2つの受信アンテナにて受信するためのレーダ装置(10)と、
送信アンテナと少なくとも2つの受信アンテナを有し、送信アンテナから発信されたFMCW信号が、前記
動く物体(200)により反射された信号を少なくとも2つの受信アンテナにて受信するための別のレーダ装置(30)と、
処理装置(20)とを有し、
前記処理装置(20)は、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて、前記別のレーダ装置(30)と前記
動く物体(200)との第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)を決定するとともに、受信された信号についての方向情報を判定し、
前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて、前記レーダ装置(10)と前記
動く物体(200)との第2の相対速度v2(t)を決定するとともに、受信された信号についての方向情報を判定し、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて判定された受信された信号についての方向情報と、前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて判定された受信された信号についての方向情報を比較することによって、同一の
動く物体(200)を対象としているとされた、前記
動く物体(200)との第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)と、前記第2の相対速度v2(t)を組み合わせ、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報又は前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報を参照しつつ、前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力をマイクロドップラー分析し、前記第2の相対速度v2と組み合わされた第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)を有する前記
動く物体(200)の種別を判定する、
動く物体(200)を検知するためのシステム(100)。
【請求項2】
前記レーダ装置(10)と前記別のレーダ装置(30)が1つのレーダ装置として統合されて構成され、前記一定の周波数を有する信号と前記FMCW信号が時間軸上で交互に発信されることを特徴とする、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項3】
前記少なくとも2つの受信アンテナの出力の相関づけによって受信された信号についての方向情報の判定を実行可能であることを特徴とする、請求項1または2に記載のシステム(100)。
【請求項4】
送信アンテナと少なくとも2つの受信アンテナを有し、送信アンテナから発信された一定の周波数を有する信号が
、動く物体(200)により反射された信号を受信アンテナにて受信するためのレーダ装置(10)と、
送信アンテナと少なくとも2つの受信アンテナを有し、送信アンテナから発信されたFMCW信号が、前記
動く物体(200)により反射された信号を受信アンテナにて受信するための別のレーダ装置(30)とを用い、
動く物体(200)を検知する方法において、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて、前記別のレーダ装置(30)と前記
動く物体(200)との第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)を決定するとともに、受信された信号についての方向情報を判定し、
前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて、前記レーダ装置(10)と前記
動く物体(200)との第2の相対速度v2(t)を決定するとともに、受信された信号についての方向情報を判定し、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報と、前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報を比較することによって、同一の
動く物体(200)を対象としているとされた、前記
動く物体(200)との第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)と、前記第2の相対速度v2(t)を組み合わせ、
前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報又は前記レーダ装置(10)の少なくとも2つの受信アンテナの出力を用いて決定された受信された信号についての方向情報を参照しつつ、前記別のレーダ装置(30)の少なくとも2つの受信アンテナの出力をマイクロドップラー分析し、前記第2の相対速度v2と組み合わされた第1の間隔d(t)および第1の相対速度v1(t)を有する前記
動く物体(200)の種別を判定する、
ことを特徴とする動く物体(200)を検知する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法を実行するためのプログラム。
【請求項6】
請求項4に記載の方法を実行するためのプログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動く物体を検知するシステムに関する。さらに本発明は、動く物体を検知する方法に関する。さらに、本発明はコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダシステムは、レーダ信号を発信して、物体に当たって反射されたレーダ信号を、発信されたレーダ信号と比較するためにセットアップされる。その際に物体に関するさまざまな情報を収集することができる数多くの方式が知られている。1つの周知の態様は、発信されるレーダ信号がのこぎり波関数で変調されるFMCW(英語frequency modulated continuous wave)レーダである。その場合、レーダシステムからの物体の距離を良好な精度で決定することができる。レーダセンサからどの方向に物体があるかを表す物体角度は、複数のアンテナを利用することで、または、信号が事前設定された方向へ射出されるように1つのアンテナを制御することで、得ることができる。
【0003】
発信されたレーダ信号に対する反射されたレーダ信号のドップラー偏移は、レーダシステムに対する物体の相対速度を示唆し得る。それ自体で動く物体、たとえば手と脚を往復運動で振っている歩行者は、測定可能なドップラー周波数の特徴的な、しばしば周期的な変動を示す。物体をさらに詳しく分類できるようにするために、このような変動を分析することができる。
【0004】
特許文献1は、マイクロドップラー分析を実行することができるように、自動車の車両にあるレーダシステムを制御することを提案している。
【0005】
たとえば自動車の車両にある、それ自体が可動であるレーダシステムによって物体を分類するために、たとえばチャープシーケンスを用いた複素変調を適用することができる。しかしその場合、処理が非常にコスト高になることがある。たとえば送信信号と受信信号の間の差異信号の二次元フーリエ分析が必要になることがあり、そのため高性能の処理装置が不可欠になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102015109759号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底にある課題は、動く物体を検知するために、レーダをベースとする簡素な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は動く物体を検知するシステムを提供し、このシステムは:
-物体により反射された少なくとも1つの信号を少なくとも1つの角度のもとで受信するためのレーダ装置と;
-レーダ装置と物体の間の少なくとも1つの相対速度および判定された各々の相対速度についての少なくとも1つの角度を判定するための処理装置とを有し;
-物体から受信された信号についてマイクロドップラー分析を処理装置によって実行可能であり;
-マイクロドップラー分析は受信された信号について決定された角度を参照して実行され;
-実行されたマイクロドップラー分析によって物体の種別を判定可能である。
【0009】
提案されるシステムではマイクロドップラー分析が実行され、これに基づいて物体の種別が分類される。動いている歩行者は、レーダ装置に対してさまざまな速さで動くさまざまな身体部位を有しており、それにより、このようにして生成される速度分布は時間を通して歩行者に特徴的であり得る。たとえば自動車のために提案されるシステムにより、結果的に、レーダのみをベースとする歩行者保護ないし自転車運転者保護を提供できるという利点がある。
【0010】
第2の態様では、本発明は動く物体を検知する方法を提供し、この方法は次の各ステップを有し:
-物体により反射された少なくとも1つの信号が少なくとも1つの角度のもとでレーダ装置によって受信され;
-レーダ装置と物体の間の少なくとも1つの相対速度が判定され;
-受信された信号についてマイクロドップラー分析が処理装置によって実行され、マイクロドップラー分析は受信された信号について決定された角度を参照して実行され;
-実行されたマイクロドップラー分析によって物体の種別が判定される。
【0011】
システムの1つの好ましい実施形態では、それぞれ異なる相対速度について受信角度を判定可能であることが意図される。それにより、マイクロドップラー分析をいっそう精密に実行することができる。
【0012】
システムの1つの好ましい実施形態では、受信された信号の相関づけによって角度の判定を実行可能であることが意図される。それにより、さまざまな角度から得られる受信信号の確実な判定が実行される。
【0013】
システムの1つの好ましい実施形態は、判定された角度が、互いに重なり合う相対速度の分布を有する複数の物体の同時のマイクロドップラー分析のために利用されることを意図する。それにより、空間方向に応じて異なる物体を相互に区別可能にすることが可能となる。このとき、たとえば複数の歩行者を互いに区別できるのが好ましい。
【0014】
システムの別の好ましい実施形態は、受信された信号の周波数拡散の幅と周波数拡散の時間的推移とを処理装置によって判定可能であることを特徴とする。このようにして、動く物体の分類がさらにいっそう改善されるという利点がある。
【0015】
システムの別の好ましい実施形態は、ドップラー周波数の拡散の周期性が処理装置によって判定されることを意図する。このようにして、たとえば歩行者の四肢の周期的な動きを検出することができる。
【0016】
システムの別の好ましい実施形態は、定義された狭い周波数領域/速度領域への角度見積りの限定が実行されることを特徴とする。それにより、関心の対象となる領域にシステムの検知能力を集約できるという利点がある。
【0017】
システムの別の好ましい実施形態は、レーダ装置が連続波レーダ装置として構成されることを特徴とする。このような型式のレーダ装置によって、受信された信号の区別を非常に良好に実現することができる。
【0018】
システムの別の好ましい実施形態は、FMCWレーダ装置として構成されるのが好ましい別のレーダ装置をさらに有することを特徴とする。それにより、距離と第1の相対速度の判定のためにFMCWレーダ装置を良好に利用し、物体の高い速度分解能のために連続波レーダを良好に利用することができる。
【0019】
システムの別の好ましい実施形態は、レーダ装置がそれぞれ少なくとも1つの送信アンテナとそれぞれ少なくとも2つの受信アンテナとを有し、受信アンテナによって受信信号を異なる受信方向から受信可能であることを特徴とする。このようにして、信号が受信される角度の確実な判定を実行することができる。
【0020】
開示されている装置構成要件は、開示されている方法構成要件からもこれに準じて明らかとなり、その逆も成り立つ。このことは特に、自動車の周囲にある物体を位置特定するシステムに関わる構成要件、技術的な利点、および実施形態が、自動車の周囲にある物体を位置特定する方法に関わる相応する構成要件、技術的な利点、および実施形態からもこれに準ずる仕方で明らかとなり、その逆も成り立つことを意味する。
【0021】
次に、複数の図面を参照しながら、本発明についてさらに別の構成要件と利点を含めて詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】提案されるシステムの実施形態を示す図である。
【
図2】提案されるシステムの別の実施形態を示す図である。
【
図3】提案される方法の原理的なフローチャートである。
【
図4】提案されるシステムの好ましい発展例の機能形態を説明するための例示としてのグラフである。
【
図7】物体の方向ないし角度を判定するための時間・周波数・ラスター化がなされた
図6の部分図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の根底にある思想は、1つまたは複数の物体について相対速度のスペクトルをレーダ装置によってマイクロドップラー分析により分析するというものである。このようにして、距離や速度が類似しているが方向が相違している複雑なシナリオでも、単一および/または複数の物体の正確な分析ないし分類を実現することができる。
【0024】
このシステムは、物体の動きの種類に関する正確な情報だけでなく、物体の場所および場所の変化に関する正確な情報も分析するために、異なるレーダ装置の利点の組み合わせを可能にすることができる。特に、レーダ装置を有する自動車が周囲に対して動いている場合にも、物体の正確な速度情報の分析を成功させることができる。
【0025】
物体の分類が、このようにして明らかに改善され得る。特に、歩行者/自転車走行者としての物体の分類を改善して実行することができ、それにより、たとえば自動車の車両にある走行アシストシステム、および/または能動的および/または受動的な事故防止装置を改善して制御することができる。たとえば、歩行者が自動車との衝突コースにいると断定されたとき、運転者または歩行者に警告をするための信号を出力することができる。1つの好ましい態様では、自動車の自動的な減速をシステムによって開始することができる。
【0026】
処理装置は、レーダ装置により受信された信号のマイクロドップラー分析を実行するために意図される。マイクロドップラー分析により、物体の運動パターンが歩行者の既知の運動パターンと一致するか否かを断定することができる。実行されるマイクロドップラー分析の詳細度によっては、歩行者がどのような活動に従事しているかということさえ断定できるという利点がある。
【0027】
連続波レーダ装置として構成されたレーダ装置は、たとえば約15から約25msの周期で、別の態様では約10から約15msまたは約25から約30msの周期で、連続波動作により作動させることができる。ドップラー周波数の評価による速度決定の精度が、それによって有意に向上され得る。
【0028】
このようにして、このシステムは歩行者の検知の必要性に合わせて良好に適合化することができ、たとえば約20msの連続波信号の送信時間で約0.1m/sの物体の速度分解能を具体化可能であり、このことは、歩行者の典型的な速度をいっそう正確に分析するのに十分である。歩行者の典型的な速度は胴体について約1m/sであり、前方への脚の振りについて最大で約4m/sであり、これから約10から40の周波数ビンがもたらされる。それに対して前を横切る歩行者については、相対速度の明らかな低減が生じる。
【0029】
マイクロドップラー分析では、動く物体についてドップラースペクトルの拡散が評価され、ドップラースペクトルに拡散を有していない止まっている物体や動いている剛体は無視される。
【0030】
マイクロドップラー分析により、発信された連続波レーダ信号と、物体で反射された連続波レーダ信号との間の差異信号を、その周波数分布に関して分析することができる。このとき分析はフーリエ変換によって実行されるのが好ましい。このとき、事前設定された周波数領域で信号エネルギーを算出することができる。周波数分布をその時間的推移に関して分析することもでき、それにより、たとえば歩いている歩行者と走っている歩行者の運動パターンを互いに区別することができる。
【0031】
提案されるシステムの好ましい発展例では、任意の測定原理に基づいて、好ましくは、通常は連続するレーダ信号の周波数ランプを適用するFMCW原理に基づいて構成されていてよい、別のレーダ装置が設けられていてよい。これ以外の実施形態も同じく可能であり、たとえば物体角度を決定するために個々の空間角が相前後して機械式または電子式に走査されるレーダ装置を利用することができる。
【0032】
別のレーダ装置の個々のFMCWランプの信号は、互いに別々に処理されるのが好ましい。そのためにFMCWランプが周知の一次元フーリエ変換によって分析されるのが好ましい。このことは、チャープシーケンスでの二次元フーリエ分析よりも明らかに低い計算コストであり得る。さまざまな物体を分別するために、フーリエ分析の後に、検知された周波数ピークをそれぞれ異なるランプにわたって相互に組み合わせることができる。その結果、両方のレーダ装置を交互に作動させることができ、それにより、同じ周波数領域で走査をいっそう容易に実行することができる。
【0033】
両方のレーダ装置は、別案として、ただ1つのレーダ装置に統合されていてもよく、この統合型のレーダ装置が相前後して異なる信号で作動する。たとえば1つの時点で、FMCW信号または連続波信号のいずれかで作動することができる。特に、これらの動作方式を交互に作動化させることができる。レーダ装置が節減されることで、コストを節約することができる。公知のレーダ装置を想定内のコストで上述したシステムへと拡充することができる。
【0034】
事前設定された限界周波数よりも下方の周波数だけに着目されるのが好ましく、この限界周波数は、周囲に対するレーダ装置の速度を基礎として決定される。それにより、周囲に対してレーダ装置が動いているよりも高速でレーダ装置に近づいている物体、すなわち周囲に対してそれ自体が動いている物体に割り当てられる信号成分だけに着目されるのが好ましい。それに応じてこのような物体のドップラー周波数は、負の固有速度に相当するドップラー周波数よりも低い(ないしは数値的に大きい)。
【0035】
提案されるシステムの基本態様を
図1が示している。処理装置20と機能的に接続されたレーダ装置10を見ることができる。レーダ装置10によって送信信号が発信され、これが物体200(たとえば歩行者)に当たって少なくとも部分的に反射されて、さまざまに異なる非常に類似した角度のもとで受信信号として受信される。処理装置20により、受信された信号を用いてマイクロドップラー分析が実行され、そこから物体200の種別が分類される。
【0036】
提案される自動車のシステムは、レーダをベースとする歩行者保護として利用できるという利点がある。あるいは、たとえば軍事分野における定置の監視システムでのレーダをベースとする用途も考えられる。
【0037】
図2は、レーダ装置10と、別のレーダ装置30と、処理装置20とを含む、自動車50のための提案されるシステム100の上に挙げた好ましい発展例の一例としての有用な適用事例を示している。各々レーダ装置10,30は、少なくとも1つの送信アンテナと、それぞれ少なくとも2つの、好ましくは4つの受信アンテナ(図示せず)とを有しており、それにより、少なくとも2つの受信アンテナによって空間的にさまざまに異なる方向から受信信号を受信することができ、これらの受信信号が引き続き相関づけられ、それにより、受信された信号について方向情報を導き出すことができる。両方のレーダ装置10,30は1つのレーダ装置として統合されて構成されていてもよく、そのようなケースでは、第1のレーダ装置10および別のレーダ装置としての交互の動作が好ましい。自動車50の周囲210には、
図1の事例では歩行者によって表される動く物体200がある。
【0038】
システム100により、物体200をレーダ信号で走査して、物体200の位置情報、運動情報、および分類情報を決定することが意図される。決定された情報は、自動車50の車内にある警告装置および/または制御装置(図示せず)として構成されていてよいインターフェース40によって二次利用のために提供することができる。
【0039】
可動の物体200は周囲210に対して動くことがあり得る。さらには物体200がそれ自体として動き、ないしはマイクロ運動を行うことがあり得る。このとき可動の物体200の各部分(歩行者のケースでは腕や脚)が周囲210に対して、物体200とは異なる速度で動くことがあり得る。そのようなケースでは、レーダ装置10,30によって1つのドップラー周波数だけでなく、ドップラー周波数のスパン全体を測定することができる。
【0040】
たとえば歩行者として構成される可動の物体200は、約5km/hの速度で周囲210に対して相対的に動くことがあり得る。歩行者の両脚(および多くの場合に両腕)の周期的な運動に基づき、そのドップラー周波数拡散もそれによって周期的な仕方で変動する。両方の脚が地面についているとき、最大の速度は胴体によって与えられる。この速度は脚に沿って低下していき、足のところでゼロになる。したがって、ゼロと胴体の速度との間の速度に対応するどのようなドップラー周波数でも潜在的に測定可能である。これは、最小のドップラー周波数拡散の時点でもある。それに対して足は、前方に向かって振り出されるとき胴体速度の約3倍から4倍に達する。
【0041】
このようにして判定されるドップラー周波数ないし周波数ビンの領域を用いて、すべての受信アンテナの受信信号の相関づけを行うことができる。このようにして、いわゆる「多目的推定」を具体化することができ、それぞれ異なる角度のもとで配置された複数の物体が、単一の周波数ビンで判定される。
レーダ信号の複素変調や複素評価を必要とすることなく、物体200の速度のスペクトルを十分に正確に決定するために、物体200の距離および/または大まかな運動を、それ自体として公知のFMCW信号を利用する第1のレーダ装置20によって決定することが提案される。物体200の高い速度分解能を得るために、好ましくはマイクロドップラー分析を用いて、物体200のマイクロ運動がレーダ装置10により追加的に決定されて分析される。このときレーダ装置10は連続波信号(「CWランプ」)を利用し、すなわち、発信されるレーダ信号を時間を通して変調するのではないのが好ましい。連続波信号の決定は、物体200について十分な速度分解能を実現するために、FMCW法の通常のランプよりも、定義されたとおり長く実行することができ、たとえば約20msのあいだ続く。
【0042】
各々の周波数ビンについて、その中で受信された出力に依存して、またはこれに依存することなく、受信信号の相関づけを実行することができる。このようにして出力上昇の検知を行うことができ、または、個々の受信信号の間の相関づけを行うことができるが、後者のケースでは計算コストが高くなる。
【0043】
連続波信号についてはドップラー効果だけが受信信号に影響を及ぼす。それに対して、物体200の距離は何ら役割を演じない。差周波数およびこれに伴ってドップラー周波数は、自動車50との関係における物体200の物理的な速度に直接に対応する。連続波信号については距離を決定することができないので、さらに旧来式のFMCW法によって、各シーンを個々の物体200ごとに分けなければならない。しかし両方のレーダ装置10,30は、レーダ装置10,30に対する物体200の速度と角度を決定することができるので、多くの場合、検知された物体200にマイクロドップラー効果を一義的に割り当てることが可能である。
【0044】
最終的に、提案されるシステムの基本形態では、連続波信号を旧来式のFMCWランプからほぼ完全に分けて分析することができる。
【0045】
図3は、可動の物体200に関する情報を決定するために別のレーダ装置30も利用する方法のフローチャート300を示しており、この情報は特に物体200の場所または運動、およびマイクロ運動の周波数の分布である。
【0046】
ステップ305で、別のレーダ装置30により好ましくはFMCW信号をベースとして物体200が走査される。これ以外のレーダ法も代替的に可能である。発信されて反射される信号が、ステップ305の上に時間グラフで定性的に示唆されている。この決定はレーダ工学で周知であり、任意の周知の方式により実行することができる。走査の結果として、別のレーダ装置30との第1の間隔d(t)と、物体200と別のレーダ装置30の間の第1の相対速度v1(t)とが決定されるのが好ましい。
【0047】
ステップ305と交互に実施することができるステップ310で、レーダ装置10により、同じままの周波数を有するレーダ信号(連続波信号)をベースとして物体200が走査される。ステップ310の上に示唆されているグラフは、発信されて反射された信号を略示している。この走査の結果として、物体200とレーダ装置10の間の第2の相対速度v2(t)が決定されるのが好ましい。このとき第2の相対速度は非常に高い分解能であるのが好ましく、それによってマイクロドップラー分析の効率的な実行を可能にする。
【0048】
ステップ315で、ステップ305および310で決定された情報が互いに割り当てられる。それぞれ同じ角度を含む、およびさらに好ましくはそれぞれの角度の同じ時間的動向を含む第1の情報と第2の情報は同一の物体200を対象としており、互いに割り当てることができる。ステップ315は、第1および第2の情報の組み合わせとして、距離d(t)、速度v(t)、および角度φ(t)を提供するのが好ましい。
【0049】
ステップ320で、得られたパターンが歩行者を示唆しているか否かを決定するために、第2の相対速度の周波数分布を分析することができる。
【0050】
この目的のために、相対速度の拡散ないし相対速度を表すドップラー周波数が判定されて分析される。幅広い拡散がある場合、物体200が時間的な分析によって歩行者として分類され、その際には、相応のパターンまたはそのようなパターンの特性が事前決定されていてよく、比較のために援用することができる。
【0051】
受信された出力の分析にあたっては、すべての受信アンテナのそれぞれ個々の受信出力を単純に合算することができ(「非コヒーレント積分」)、またはその代替として、相応の角度のもとで1つの周波数ビンにおいて1つまたは複数の物体を十分に高い品質でどれだけ決定できるかを試みることもできる。各々の周波数ビンで、それぞれ出力強度の高い物体の角度を決定することができるだけで十分であり(受信信号の強い出力差に基づく)、または、単に多目的推定のための高い計算コストを節減するために、1つの角度だけを決定することが意図される。
【0052】
レーダ装置10の連続波信号の処理は、たとえば別のレーダ装置30のFMCWランプの処理と基本的に同じである。すべての受信チャネルにわたる非コヒーレント積分に続いて、好ましくは高速フーリエ変換によってスペクトル分析が行われる。このとき信号が、それが組み合わされてなるそれぞれの周波数に分解される。次いで、各周波数成分の出力が各々の周波数ビンで決定され、このとき周波数ビンは、全体スペクトルのそれぞれ定義された周波数インターバルに相当する。
【0053】
ただしここではFMCWランプと異なり、周波数ピークは検知されない(および互いに割り当てられない)。雑音閾値を超える出力を有する各々の周波数ビンは、相応の速度を(半径方向に)有する物理的な物体200の存在を直接的に示唆する。このことは当然ながら、マイクロドップラー効果を有する物体200については周波数スペクトル全体について生じる。角度見積りもFMCWランプの場合と事実上同じである。同じく個々の周波数ピークの検知が不要となるにすぎない。これに加えて単一の連続波信号だけが存在し、これについて角度を決定することができ、それによりランプごとの角度の計算も不要となる。ただし、マイクロドップラーが存在する場合には、個々の周波数ビンがそれぞれ異なるランプの代わりとなる。
【0054】
自動車分野ではレーダ装置10の自己運動が、歩行者を検知するためのマイクロドップラー分析の実行を難しくすることがある。すなわち動いているレーダ装置10にとっては、あたかも止まっている物体200がすぐ前方から自身の速度で近づいてくるように見える。横にずれている場合、このような見かけの速度は観察角のコサインだけ減少する。そばを(すなわち90°で)通過する瞬間、物体200は一時的に止まっているように見えてから、後方に向かってレーダ装置10から離れていく。したがって、止まっている物体200の反射される出力はスペクトルに関して、ゼロと負の自己速度との間の速度に相当する周波数だけに限定される。自己速度とは、周囲210に対する自動車50の速度を指す。
【0055】
このような関係性が
図4にグラフ400で示されている。水平方向には時間tがプロットされ、垂直方向には速度vがドップラー周波数f
doppler(t)に依存してプロットされている。基本信号405は、レーダ装置10に対して相対的に負の自己速度よりも低い速度で動き、したがって定置であるとみなされる物体を表す。個々のピーク(英語peaks)410が歩行者の形態の物体200に対応する。このとき個々のピーク410は、歩行者の歩みによって第2のレーダ装置30に対して相対的に生起される最大の相対速度を表す。
【0056】
推移420は、自動車50の停止している対向交通を表す。領域405の境界線は、自動車50の負の自己速度-vegoを表す。
【0057】
この領域の外にある他のすべての周波数は、定置の物体によって乱されることがない。それとは対照的に他のFMCWランプでは、背景クラッタが明らかに広い周波数領域にわたって分布する。
【0058】
運転者アシストの分野での歩行者保護ないし自転車保護にとっては、横切っていく歩行者が特別に重要となる。正面から向かってくる歩行者と比較して、その運動の半径方向成分はレーダ装置10の方向で明らかに低いがゼロではない。自動車50が動いている道路を歩行者が垂直に横切っているときでさえ、その歩行者はレーダ装置10に対して垂直に動くのではない。それにもかかわらず、横切っている歩行者について典型的には、前方に向かって振られる脚の相対速度だけが、走行方向ですぐ前方に止まっている物体よりも高い。
【0059】
したがって、相応の周波数成分だけが支障なくスペクトル分析される。レーダ装置10の方向での歩行者のゆっくりしてはいるが能動的な運動により、分析されるべきマイクロドップラー効果は、負の自己速度に相当するドップラー周波数のすぐ下にある周波数領域に該当する。自己速度については、通常、自動車50の車内に高い品質の見積りが存在する。したがって、歩行者に関連する周波数スペクトルの領域を直接選択することができる。
【0060】
曲がり角では、回転運動に基づいて自動車50の個々の点がそれぞれ異なる速度を有する。自動車50の自己速度は、通常、車両リヤアクスルに関して決定される。通常は同じく既知である自動車50のヨーレートによって、前側に組み付けられているレーダ装置10の相応の速度をそこから容易に導き出すことができる。
【0061】
歩行者は横から車道に近づいてくるので、レーダ装置10,30の運動方向に対する側方のオフセットによっても、測定可能な速度が低下していく。歩行者は、同じ観察角のもとで止まっている物体200と同じ見かけの速度の低下を受ける。その一方で、歩行者の運動方向が同じであれば、観察角の増大によって本来の歩行者運動の半径方向成分が増えていく。
【0062】
マイクロドップラーの本来の分析には、一定の送信周波数を有する定置のレーダシステムについて原理的に類似する方法が適している。ただし、マイクロドップラー拡散の大部分のマスキングに基づき、マイクロドップラー出力の強度、マスキングされていない拡散の幅、時間を通じてのこのような幅の変動の振幅、ならびに2つの最大の拡散の時間的な間隔/周期(およびこれに伴って歩行者の測定された歩数頻度)が主として基準となる。
【0063】
図5は、
図4のグラフを時点t=τでの断面に沿って示している。左側のピーク410の領域に、歩行者のピーク410の周波数の幅広い拡散を見ることができる。ピーク410は、歩行者の前方に振られる脚およびそれによって生起されるレーダ装置に対する高い相対速度によって生成される。停止していることによって歩行者と類似する低い相対速度を有する、停止している車両50によって生起されるピーク430も認められる。ここではシャーシについての受信出力が、それが金属でできているために強く上昇している。このようにして歩行者を良好に識別することができ、歩行者としての物体200の分類、ならびにこれに続く当該情報の処理を行うことができる。
【0064】
図6は、時間・周波数・ラスター化が実行された
図5の一部分Bを示している。
【0065】
図7は、図の領域Bをラスター化なしで図a)に示すとともに、領域Bの時間・周波数・ラスター化を図b)に示しており、水平方向にはすべての測定周期についての周波数が表示され、垂直方向には単一の測定周期についてのすべての周波数ビンが表示されている。ここで時間・周波数・ラスター化の正方形のフィールドB1,B2,B3,B4は、離散ドメインにおける、ないしはアナログドメインの定義された周波数インターバルにおける周波数ビンに相当する。
【0066】
周波数ビンB1では分析が実行されない。そこではレーダ装置10,30との関連で、基本的に止まっている物体しか予想されない(ないしは、止まっている物体の受信出力が支配的であることが予想される)からである。
【0067】
周波数ビンB2では、受信されたそれぞれの出力が、そこから物体が1つの角度のもとで得られるように相関づけられ、ここでは物体は歩行者の形態でレーダ装置10,30に対して相対的に配置されている。
【0068】
周波数ビンB3では、受信されたそれぞれの出力が、そこから物体が1つの角度のもとで得られるように相関づけられ、ここでは物体200は車両の形態でレーダ装置10,30に対して相対的に配置されている。
【0069】
周波数ビンB4では、それぞれの受信信号の相関づけに基づいて物体200を検知することができない。
【0070】
追加的にこの分析で留意すべきは、歩行者は定義からして定置の部分(止まっている脚)を有しており、出力最大値は胴体によって与えられることである。それに応じて、負の自己速度に属するドップラー周波数と、歩行者のマイクロドップラー拡散との間に(信号出力のない)欠落は存在しない。それに応じて、このような負の自己速度に属するドップラー周波数からスペクトル最大値が有意に外れている場合にも、歩行者としての物体の分類が否定される。
【0071】
本方法は、レーダ装置10,30と処理装置20で進行するソフトウェアとしてインプリメントできるという利点があり、それにより本方法の容易な改変可能性がサポートされる。
【0072】
提案されるシステムについては、雨滴で反射される出力が歩行者のマイクロドップラー効果としばしば重なり合うという理由で雨滴の影響を考慮に入れなくてよいという利点がある。これは空間的に分散した事象であるため、部分的に十分に有意な出力にもかかわらず、入射角をしばしば決定できないことが示されている。したがって雨は実質的に信号対雑音比を引き下げるにすぎず、特に、歩行者の出力拡散の全体幅を支障なく決定可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 レーダ装置
20 処理装置
30 レーダ装置
100 システム
200 物体