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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】枸杞発酵物、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220713BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220713BHJP
   A61K 36/815 20060101ALI20220713BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20220713BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220713BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A61K36/815
A61P1/16
A61K35/744
A61K35/747
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020170102
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061871
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2020-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520390782
【氏名又は名称】陳兆祥
【氏名又は名称原語表記】CHEN, Chao-Hsiang
【住所又は居所原語表記】No.20-1, Gongye 3rd Rd., Pingzhen Dist., Taoyuan City 324, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】陳兆祥
(72)【発明者】
【氏名】簡美英
(72)【発明者】
【氏名】荘正宏
(72)【発明者】
【氏名】楊智閔
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-067248(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104522672(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110679660(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0117034(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0122423(KR,A)
【文献】特表2019-507798(JP,A)
【文献】特開2008-024680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枸杞発酵物の製造方法であって、
枸杞を溶媒に溶解し、枸杞溶液を得るステップ(a)と、
乳酸菌組成物をステップ(a)の枸杞溶液に加えるステップ(b)と、
ステップ(b)の混合物を発酵させ、前記枸杞発酵物を得るステップ(c)と、
を含み、
前記該乳酸菌組成物は、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、及びペディオコッカス・アシディラクティシィ(Pediococcus acidilactici)のうちの少なくとも2種類の菌種から構成される製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌組成物は、各構成菌種を用いて等菌数比で調製してなる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記枸杞は、アフリカン枸杞(Lycium afrum)、寧夏枸杞(Lycium barbarum)、中国枸杞(Lycium chinense)、新疆枸杞(Lycium dasystemum)、ハマアカザ葉枸杞(Lycium halimifolium)、西北枸杞(Lycium potaninii)、黒果枸杞(Lycium ruthenicum)、アラビア枸杞(Lycium shawii)、トルクメニスタン枸杞(Lycium turcomanicum)、又はそれらの組み合わせである。請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記枸杞は、寧夏枸杞又は中国枸杞である請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(a)において、該溶媒は水であり、前記枸杞溶液は5-10%(重量比)の前記枸杞を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(b)において、10-10のコロニー形成単位(colony forming unit,CFU)/mlで前記乳酸菌組成物を上記枸杞溶液に加える請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
ステップ(c)において、前記混合物を35℃で24時間発酵させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の製造方法により製造される枸杞発酵物。
【請求項9】
薬物の製造における請求項8に記載の枸杞発酵物の使用であって、
前記薬物は、被験体の肝疾患(liver disease)を予防及び/又は治療するために使用される使用。
【請求項10】
前記肝疾患は、アルコール性肝疾患(alcoholic liver disease,ALD)、薬物性肝疾患(drug-induced liver disease)、感染性肝疾患(infectious liver disease)、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic liver disease,NALD)、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)、肝線維症(Liver fibrosis,LF)又は肝硬変(Liver cirrhosis)である請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品加工分野に関し、具体的には、枸杞発酵物の製造方法に関し、特に複数種類の乳酸菌の組み合わせを用いる発酵、及び肝疾患(liver disease)の予防及び/又は治療における得られた枸杞発酵物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
枸杞は、台湾衛生福利部中医薬司食品薬物管理署によって発表されている食品用の漢方薬と食品用の原材料の両方を提供できるものである。枸杞は強力で広範なヘルスケア機能を有するため、様々なヘルスケア製品の生産に最適な原材料の1つとなっている。そのため、枸杞に関連する医薬品又は健康食品の開発は、枸杞加工の主な発展方向となっている。
【0003】
伝統医学では、枸杞は、補肝腎、潤肺、明目などの効果を有する漢方薬である。枸杞には豊富なカロテノイド、ゼアキサンチン、ビタミンA1、B1、B2、Cなど、カルシウム、鉄などの栄養成分が含まれるため、目の健康に有益であり、明目の効果を有するので、枸杞は、俗に「明眼子」とも呼ばれる。また、枸杞は、14種類のアミノ酸、ベタイン、クコ多糖類などの機能性成分を含むことで、個体の免疫力を向上させることができ、補気、強精、滋補肝腎、酸化防止、老化防止、抗疲労、抗腫瘍、抗ウイルス、及び神経保護などの作用を有する。さらに、現代の薬理学的研究によっても、枸杞は、フラボンなどの成分を含むことで、血圧、血中脂質、血糖値を下げる作用を有し、アテローム性動脈硬化症を防止でき、肝臓保護の効果を奏することが明らかとなった。
【0004】
乳酸菌は、炭水化物を使用して発酵することで大量の乳酸を生成する細菌の総称であり、米国食品医薬品局によって一般的に認められている安全な食品として定義されている。乳酸菌は、腸管の栄養とコロニーのバランスを改善し、宿主の粘膜とシステムの免疫機能を調節することによって宿主に有益な生理学的効果をもたらすことができる。具体的には、乳酸菌が宿主の胃腸管内に定着することにより、様々な有機酸を生成し、腸管のpHを下げ、有害な細菌の増殖を抑制し、宿主健康に有利であるいくつかの単一又は組成が明確な混合微生物(プロバイオティクス)を腸管内で大量に増殖させ、宿主体内の正常細菌叢(normal flora)の生成を変化させる。科学的研究によると、プロバイオティクスは、腸管内で大量に増殖し、抗生物質の大量使用による偽膜性腸炎、便秘及び慢性下痢を治療し、肝臓を保護し、高血圧と動脈硬化を防止し、老化を防止し、血清コレステロールを減少させ、がんを予防し、腫瘍の成長を抑制することができる。
【0005】
近年、乳酸菌は、特殊な生理活性を有する食品に広く使用されており、本来の食品分野(例えば、発酵乳製品)に加えて、他の機能性食品、栄養補助食品、薬用生物製品、飼料の開発にも徐々に使用されている。乳酸菌を含む食品には、主に乳酸菌を直接添加したものや乳酸菌で発酵させたものが含まれる。食品分野では、最も一般的な用途は、発酵乳、活性乳酸菌飲料、チーズ、ヨーグルトオイル、ヨーグルトワイン、フルーツジュースなどの乳製品の分野に関連する。
【0006】
枸杞の栄養価を高め、有効成分の含有量を増加させ、天然枸杞を食べることによる不快感を軽減するために、枸杞発酵物を製造するための代替的な方法により、上述の問題を改善することが提案された文献がある。関連する枸杞発酵物の製造方法の主な研究方向は、原材料の使用と発酵方法の変更にあり、これらの方法にはまだ次の欠点が存在する。(1)原料は複合成分であり、成分が複雑である。(2)製造工程が複雑であるため、製造コストが高い。(3)発酵周期が長く、発酵により汚染が発生するリスクが高い。(4)発酵に用いるコロニーは発酵物中の活性成分の含有量を効果的に向上できない。(5)抽出液で発酵を行うことで、原料の栄養成分が減少する。
【0007】
上記の事情に鑑み、当該技術分野では、従来技術の不足を解決し、枸杞発酵物の使用価値を向上させるために、枸杞発酵物を製造する改良方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本明細書は、読者が本開示の内容について基本的な理解を有するように、開示の簡略化された要約を提供することを目的としている。本明細書の内容は、本開示の完全な説明ではなく、本発明の実施例の重要/肝心な要素を指摘し、又は本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0009】
そこで、本発明は、従来技術の不足を解決するために、原料組成が簡単で、製造工程が簡単で、ヘルスケア効果が顕著である機能性枸杞発酵物の製造方法を提供することを目的とする。本発明の枸杞発酵物の製造方法は、
枸杞を溶媒に溶解させ、枸杞溶液を得るステップ(a)と、
乳酸菌組成物をステップ(a)の枸杞溶液に加えるステップ(b)と、
ステップ(b)の混合物を発酵させ、枸杞発酵物を得るステップ(c)と、
を含む。
上記乳酸菌組成物は、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、リゥコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、及びペディオコッカス・アシディラクティシィ(Pediococcus acidilactici)のうちの少なくとも2種の菌種から構成される。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、上記乳酸菌組成物は、各構成菌種を用いて等菌数比で調製してなる。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、上記枸杞は、アフリカン枸杞(Lycium afrum)、寧夏枸杞(Lycium barbarum)、中国枸杞(Lycium chinense)、新疆枸杞(Lycium dasystemum)、ハマアカザ葉枸杞(Lycium halimifolium)、西北枸杞(Lycium potaninii)、黒果枸杞(Lycium ruthenicum)、アラビア枸杞(Lycium shawii)、トルクメニスタン枸杞(Lycium turcomanicum)、又はそれらの組み合わせである。本発明の一実施形態によれば、上記枸杞は寧夏枸杞である。本発明の一実施形態によれば、上記枸杞は中国枸杞である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップ(a)において、上記溶媒は水であり、上記枸杞溶液は5-10%(重量比)の上記枸杞を含む。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップ(b)において、10-10のコロニー形成単位(colony forming unit,CFU)/mlで上記乳酸菌組成物を上記枸杞溶液に加える。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、ステップ(c)において、上記混合物を35℃で24時間発酵させる。
【0015】
したがって、本発明は、枸杞発酵物をさらに提供する。上記枸杞発酵物は本発明の製造方法により製造される。
【0016】
本発明の他の態様では、薬物製造における本発明の枸杞発酵物の使用が提供される。上記薬物は、被験体の肝疾患(liver disease) の予防及び/又は治療に使用される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記肝疾患は、アルコール性肝疾患(alcoholic liver disease,ALD)、薬物性肝疾患(drug-induced liver disease)、感染性肝疾患(infectious liver disease)、非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic liver disease,NALD)、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)、肝線維症(Liver fibrosis,LF)又は肝硬変(Liver cirrhosis)であってもよい。一実施例において、上記肝疾患は薬物性肝疾患である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記被験体はヒトである。
【0019】
本発明の1つ又は複数の具体的な実施例の詳細は、後述する。詳細な説明及び特許出願の範囲に基づいて、本発明の他の特徴及び利点が明らかになるであろう。以下の実施形態を参照することにより、当業者は、本発明の基本的な精神及び他の目的、ならびに本発明の技術的手段及び実施態様を容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の詳細な説明、特許出願の範囲及び添付する図面を参照することにより、本発明の内容及び他の特徴、態様及び利点は、より明白で理解可能であろう。
【0021】
図1】本発明の一実施形態に従って作成された棒グラフであり、特定濃度のアセトアミノフェン(Acetaminophen,化学名:N-アセチル-P-アミノフェノール(N-acetyl-p-aminophenol,APAP))でヒト肝がん細胞株(Hep3B細胞)を24又は48時間処理した後、細胞生存率、AST濃度及びALT濃度の変化を測定した結果を示す。P<0.05は、有意差があることを示す。*はP<0.05比較対照群を示す。
図2A-2C】図2A-2Cは、本発明の一実施形態に従って作成された棒グラフであり、10mmol体積濃度のAPAPと特定の加熱殺菌した乳酸菌(heat-killed lactobacillus)培養液(菌数1×10CFU/ml)とでHep3B細胞を48時間処理した後、細胞生存率(図2A)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(aspartate aminotransferase,AST)濃度(図2B)及びアラニンアミノ基転移酵素(alanine aminotransferase,ALT)濃度(図2C)を測定した結果を示す。Ppはペディオコッカスペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、Lbはラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、Lmはリゥコノストック・メゼンテロイデス、Lgはラクトバチルス・ガセリ、L.sakeiはラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、Lvはラクトバチルス・バギナリス(Lactobacillus vaginalis)、L. salivariusはラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、Ljはラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、Lpはラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、Paはペディオコッカス・アシディラクティシィ、Lfはラクトバチルス・ファーメンタムを示す。実験データは、平均値±標準偏差で表される(n≧3)。P<0.05は有意差があることを示す。*はP<0.05比較対照群(細胞生存率)及びAPAP群(AST及びALT濃度)を示す。
図3A-3O】図3A-3Oは、本発明の一実施形態に従って作成された棒グラフであり、特定菌株の組み合わせを異なる条件下(接種菌数、発酵時間、枸杞培地の濃度等)で発酵させた後、発酵後の菌数を測定した結果を示す。GJは枸杞培地(枸杞液)を示す。
図4】本発明の一実施形態に従って作成された棒グラフであり、枸杞発酵物(菌数は1×10-1×10 CFU/mlに相当する)でHep3B細胞を48時間処理した後、細胞生存率を測定した結果を示す。Lmはリゥコノストック・メゼンテロイデス、Lgはラクトバチルス・ガセリ、Paはペディオコッカス・アシディラクティシィ、Lfはラクトバチルス・ファーメンタムを示す。実験データは、平均値±標準偏差で表される。
図5A-5C】図5A-5Cは、本発明の一実施形態に従って作成された棒グラフであり、10mmol体積濃度のAPAPと、特定菌株の組み合わせで発酵して得られた枸杞発酵物とでHep3B細胞を48時間処理した後、細胞生存率(図5A)、AST濃度(図5B)及びALT濃度(図5C)を測定した結果を示す。実験データは平均値±標準偏差で表される。P<0.05は有意差があることを示す。*はP<0.05比較対照群(細胞生存率)及びAPAP群(AST及びALT濃度)を示す。
図6A-6G】図6A-6Gは、本発明の一実施形態に従って得られた結果であり、APAPによるマウス肝損傷の治療に対する特定の乳酸菌組成物(Lm+Lg+Lf)で発酵して得られた枸杞発酵物の効果を示す。図6A-6Bは、特定の時点でマウス血清中のAST濃度(図6A)及びALT濃度(図6B)をそれぞれ測定した結果を示す。図6Cは、肝組織染色図であり、特定の治療後のマウス肝組織の病理学的変化の結果を示し、矢印は細胞壊死(necrosis)及び炎症(inflammation)の領域(200×拡大倍率)を示す。図6D-6Gは、特定の治療後のマウスグルタチオン(Glutathione,GSH)(図6D)、グルタチオンペルオキシダーゼ(Glutathione peroxidase,GPx)(図6E)、スーパーオキシドジスムターゼ(Superoxide dismutase,SOD)(図6F)、及びカタラーゼ(Catalase,CAT)(図第6G)の結果を示す。FLGJ(fermentation liquid of Goji)-Lは低用量の枸杞発酵液、FLGJ-Mは中用量の枸杞発酵液、FLGJ-Hは高用量の枸杞発酵液、NACはN-アセチルシステイン(N-acetylcysteine)、BTはベタイン(betaine)を示す。P<0.05は有意差があることを示す。*はP<0.05比較対照群を示す。#はP<0.05比較APAP群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明をより詳細かつ完全にするために、以下に、本発明の実施態様及び具体的な実施例について例示的な説明を提供する。しかし、以下の説明は本発明の具体的な実施例を実施又は使用する唯一の形式ではない。実施形態には、複数の具体的な実施例の特徴、並びにこれらの具体的な実施例を構築及び操作するための方法手順及び順序が含まれる。他の具体的な実施例により同じ又は均等の機能及び手順を実現することもできる。
【0023】
I.定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付する特許請求の範囲で使用される特定の用語をここで説明する。本明細書で別段の定義がない限り、本明細書で使用される科学的及び技術的用語は、当業者によって理解及び使用されるのと同じ意味を有する。文脈と矛盾することなく、本明細書で使用される単数名詞には名詞の複数形が含まれ、複数の名詞は名詞の単数形が含まれる。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲において、単数形の「one」(a及びan)には、文脈に基づいて別段の指示がない限り、複数の参照値が含まれる。また、本明細書及び特許請求の範囲において、「少なくとも1つ」(at least one)と「1又は複数」(one or more)は同義であり、いずれにも1、2、3又はそれ以上が含まれる。さらに、本明細書及び特許請求の範囲において、「A、B及びCのうちの少なくとも1つ」、「A、B又はCのうちの少なくとも1つ」及び「A、B及び/又はCのうちの少なくとも1つ」には、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとB、BとC、AとC、及びAとBとCが含まれる。
【0024】
本発明のより広い範囲を定義するために使用される数値範囲及びパラメータはおおよその数値であるが、特定の実施形態における関連数値は、可能な限り正確にここに提示されている。ただし、どの数値にも本質的にテスト方法による標準偏差が必然的に含まれる。ここで、「約」とは、通常、実際の値が特定の値又は範囲の±10%、5%、1%、又は0.5%以内であることを意味する。或いは、「約」との用語は、当業者の考慮に応じて、実際の値が平均値の許容可能な標準誤差内にあることを意味する。実験例を除いて、又は特に明記されていない限り、本明細書で使用されるすべての範囲、量、値、及びパーセンテージ(例えば、材料の量、時間の長さ、温度、動作条件、量比及び他の同様のものを説明するために使用される)は、「約」によって修飾されることを理解されたい。従って、特に断りのない限り、本明細書及び添付する特許請求の範囲に開示された数値パラメータは概算の数値であり、必要に応じて変更することができる。少なくともこれらの数値パラメータは、示された有効桁数と、一般的なキャリーメソッドを適用して取得された数値として理解されるべきである。ここで、数値範囲は、ある端点から別の端点まで、又は2つの端点の間として表される。特に指定のない限り、ここに記載されている数値範囲には端点が含まれる。
【0025】
本明細書において、上記「菌数」(bacterial count)との用語は、総菌数(total bacterial count)又は生菌数(viable bacterial count)を意味する。例えば、総菌数は、「直接顕微鏡カウント法」(direct count)又は「濁度測定法」(turbidity measurement)により測定された単位面積、体積又は重量の総菌数であってもよい。生菌数は、「定量平板法」(quantitative plating)により測定された単位面積、体積又は重量のCFU(例えば、CFU/cm、CFU/ml、CFU/gなど)、或いは「希釈培養カウント法」(dilution culture counting)により測定された単位体積又は重量の最確数(most probable number,MPN)(例えば、MPN/ml、MPN/gなど)であってもよい。直接顕微鏡カウント法とは、染色剤(例えば、クリスタルバイオレット)で染色した後、顕微鏡で直接観察することによりカウントし、総菌数を推算する方法をいう。濁度測定法とは、分光計により490から550nmの波長を読み取り、細菌含有懸濁液の吸収率又は屈折率を測定し、標準曲線と比較して測定される細菌の濃度及び総菌数を推算する方法をいう。定量平板法とは、段階的に希釈した後の菌液を塗布した後、その単一コロニーの数をカウントし、生菌数を推算する方法をいう。希釈培養カウント法とは、希釈された濃度が異なる一連の菌液を3回繰り返して培養し、菌含有試験管の数(陽性反応の数)をカウントし、最確数表(MPN比較表)に基づいて生菌数を推算する方法をいう。本発明のいくつかの実施形態によれば、上記「菌数」は生菌数であり、CFU/mlをこの生菌数を計算する単位とする。
【0026】
上記「被験体」(subject)とは、本発明の枸杞発酵物により治療され得る哺乳動物(mammal)をいう。上記「哺乳動物」とは、哺乳綱(Mammalia)の全てのメンバーをいい、ヒト、霊長類(例えば、サル)、家庭用及び農業用動物(例えば、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ、ニワトリ)、齧歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット、グラウンドホッグ、ハムスター)、及び動物園動物、運動用動物、ペット(例えば、イヌ、ネコ、トリ)を含む。性別のいずれかが指定されていない限り、「被験体」という用語は男性と女性の両方を指す。いくつかの実施形態において、被験体は、本発明の枸杞発酵物により治療され得る肝疾患に罹患しているヒトをいう。
【0027】
上記「予防」(preventing又はprevention)という用語は、ある疾患、又はこの疾患に関連する1若しくは複数種の症状の発展又は発生を排除(preclude)するか、或いはこの疾患の再発を防止することをいう。本明細書において、上記疾患は肝疾患である。
【0028】
上記「治療」(treating又はtreatment)という用語は、所望の薬学的及び/又は生理学的効果を達成するための治癒的又は緩和的治療を指すことができる。例えば、肝疾患、肝疾患に関連する症状、肝疾患の二次疾患(secondary disease)又は病状(disorder)を罹患している被験体に有効量の本発明の枸杞発酵物を使用又は投与することにより、部分的又は完全に軽減し(alleviate)、改善し(ameliorate)、緩和し(relieve)、発症を遅延し(delay onset)、進行を阻害し(inhibit progression)、重症度を軽減し(reduce severity)、及び/又は肝疾患の1種又は複数種の症状若しくは兆候(feature)の発生を減少させる。
【0029】
本明細書において、「投与」(administering、administered又はadministration)という用語は、送達方式をいい、本発明の枸杞発酵物を被験体に提供することをいう。投与方式には、経口、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内などの投与経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において、「有効量」(an effective amount)との用語は、必要な用量及び時間内で、本発明の枸杞発酵物による治療を所望の治療効果(例えば、肝疾患の治療)に達させる用量をいう。治療の目的では、有効量は、本発明の枸杞発酵物の治療利益がその毒性又は有害な影響を超える用量であってもよい。上記有効量は、必ずしも疾患(例えば、肝疾患)を治癒するわけではなく、この疾患の発生を遅延、阻害若しくは防止し、又はこの疾患に関連する症状を軽減することができればよい。当業者は、実験動物モデルにより得られた用量から薬物(例えば、本発明の枸杞発酵物)のヒト等価用量(human equivalent dose,HED)に換算することができる。例えば、当業者は、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration,FDA)に開示の「成人の健康なボランティアの治療薬の最初の臨床試験における最大安全開始用量の推定」(Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers)に従ってヒトに使用可能な最大安全用量を推算することができる。
【0031】
II.発明の詳細な説明
本発明は、枸杞発酵物の製造方法を提供することを目的とする。この方法の少なくとも一部は、単一の乳酸菌を用いて製造した枸杞発酵物に比べ、多種類の乳酸菌の組成物を用いて製造した枸杞発酵物が疾患(特に、肝疾患)に対して高い治療効果を有する発明者の発見に基づくものである。
【0032】
1.枸杞発酵物の製造方法
本発明の一態樣によれば、枸杞発酵物の製造方法が提供される。
この方法は、
枸杞を溶媒に溶解させ、枸杞溶液を得るステップ(a)と、
乳酸菌組成物をステップ(a)の枸杞溶液に加えるステップ(b)と、
ステップ(b)の混合物を発酵させ、上記枸杞発酵物を得るステップ(c)と、
を含む。
上記乳酸菌組成物は、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ、リゥコノストック・メゼンテロイデス、及びペディオコッカス・アシディラクティシィのうちの少なくとも2種類の菌種からなる。
【0033】
本発明の枸杞発酵物を製造するために、まず、枸杞原料を準備する。枸杞の種類は、特に限定されず、アフリカン枸杞、寧夏枸杞、中国枸杞、新疆枸杞、ハマアカザ葉枸杞、西北枸杞、黒果枸杞、アラビア枸杞、トルクメニスタン枸杞又はそれらの組み合わせであってもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、上記枸杞原料は寧夏枸杞である。本発明の別の好ましい実施形態において、上記枸杞原料は中国枸杞である。
【0034】
次に、ステップ(a)に記載のように、上記枸杞原料を溶媒に溶解させ、枸杞溶液を得る。本発明の一実施形態によれば、上記枸杞原料を溶媒に加えた後、粉砕又はスラリー化などの微細化処理を行い、枸杞スラリーを調製し、上記枸杞溶液を得る。上記溶媒は、水溶性溶媒であってもよく、水、滅菌水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン又はプロピレングリコール)又はその混合物、リンガー液、リン酸緩衝液(phosphate buffered saline,PBS)、トリエタノールアミンを含むリン酸緩衝液、注射用滅菌水、及びブドウ糖注射液などの等張液などを含むが、これらに限定されない。本発明の一実施形態によれば、上記溶媒は水である。後続の乳酸菌発酵の効率を向上させるために、他の添加物を上記溶媒に加えてもよい。上記添加物は、乳酸菌の栄養物、例えば、酵母エキスなどであってもよい。
【0035】
枸杞溶液の製造に用いる枸杞原料と溶媒との配合比率は、1:5-1:30の重量比、例えば、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19、1:20、1:21、1:22、1:23、1:24、1:25、1:26、1:27、1:28、1:29又は1:30の重量比であってもよい。好ましくは、枸杞原料と溶媒との比率は、1:10-1:20の重量比、例えば、1:10、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19又は1:20の重量比である。本発明の一実施形態によれば、枸杞原料と溶媒との比率は1:10(即ち、この枸杞溶液に10%(重量比)の枸杞が含まれる。例えば、約10gの枸杞を取り、90gの蒸留水を加える)。本発明の他の実施例において、枸杞原料と溶媒との比率は1:20である(即ち、この枸杞溶液に5%(重量比)の枸杞が含まれる)。
【0036】
ステップ(b)において、乳酸菌組成物をステップ(a)の枸杞溶液に接種する。この乳酸菌組成物中の乳酸菌含有量は、10-10 CFU/mlである。例えば、乳酸菌含有量は、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10又は9×10 CFU/mlである。一実施例において、乳酸菌組成物中の乳酸菌含有量は10 CFU/mlである。他の実施例において、乳酸菌組成物中の乳酸菌含有量は10 CFU/mlである。別の実施例において、乳酸菌組成物中の乳酸菌含有量は10 CFU/mlである。
【0037】
上記乳酸菌組成物は、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ、リゥコノストック・メゼンテロイデス、及びペディオコッカス・アシディラクティシィのうちの少なくとも2種類の菌種からなる。例えば、上記乳酸菌組成物は、ラクトバチルス・ファーメンタムとラクトバチルス・ガセリを含む組成物、ラクトバチルス・ファーメンタムとリゥコノストック・メゼンテロイデスを含む組成物、ラクトバチルス・ファーメンタムとペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、ラクトバチルス・ガセリとリゥコノストック・メゼンテロイデスを含む組成物、ラクトバチルス・ガセリとペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、リゥコノストック・メゼンテロイデスとペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、ラクトバチルス・ファーメンタムと、ラクトバチルス・ガセリと、リゥコノストック・メゼンテロイデスを含む組成物、ラクトバチルス・ファーメンタムと、ラクトバチルス・ガセリと、ペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、ラクトバチルス・ファーメンタムと、リゥコノストック・メゼンテロイデスと、ペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、ラクトバチルス・ガセリと、リゥコノストック・メゼンテロイデスと、ペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物、又はラクトバチルス・ファーメンタムと、ラクトバチルス・ガセリと、リゥコノストック・メゼンテロイデスと、ペディオコッカス・アシディラクティシィを含む組成物である。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態によれば、乳酸菌組成物は、2種類の乳酸菌からなり、2種類の乳酸菌を用いて1:0.3-1:5の菌数比率で調製されてなる。例えば、1:0.3、1:0.5、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:3.5、1:4、1:4.5又は1:5の菌数比率で調製されてなる。特定の実施例において、2種類の乳酸菌はそれぞれラクトバチルス・ファーメンタムとラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ファーメンタムとリゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ファーメンタムとペディオコッカス・アシディラクティシィ、ラクトバチルス・ガセリとリゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリとペディオコッカス・アシディラクティシィ、リゥコノストック・メゼンテロイデスとペディオコッカス・アシディラクティシィであり、上記乳酸菌組成物は、上記2種類の乳酸菌を用いて1:1の菌数比率(等菌数比)で調製してなる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態によれば、乳酸菌組成物は、3種類の乳酸菌を用いて1:0.3:0.3-1:5:5、例えば、1:0.3:0.3、1:0.3:0.5、1:0.3:1、1:0.3:2、1:0.3:3、1:0.3:4、1:0.3:5、1:0.5:0.5、1:0.5:1、1:0.5:2、1:0.5:3、1:0.5:4、1:0.5:5、1:1:1、1:1:2、1:1:3、1:1:4、1:1:5、1:2:2、1:2:3、1:2:4、1:2:5、1:3:3、1:3:4、1:3:5、1:4:4、1:4:5又は1:5:5の菌数比率で調製してなる。特定の実施例において、3種類の乳酸菌は、それぞれラクトバチルス・ファーメンタムと、ラクトバチルス・ガセリと、リゥコノストック・メゼンテロイデス;ラクトバチルス・ファーメンタムと、ラクトバチルス・ガセリと、ペディオコッカス・アシディラクティシィ;ラクトバチルス・ファーメンタムと、リゥコノストック・メゼンテロイデスと、ペディオコッカス・アシディラクティシィ;ラクトバチルス・ガセリと、リゥコノストック・メゼンテロイデスと、ペディオコッカス・アシディラクティシィである。乳酸菌組成物は、これらの3種類の乳酸菌を用いて1:1:1の菌数比率(等菌数比)で調製してなる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態によれば、乳酸菌組成物は、4種類の乳酸菌を用いて1:0.3:0.3:0.3-1:3:3:3、例えば、1:0.3:0.3:0.3、1:0.3:0.3:0.5、1:0.3:0.3:1、1:0.3:0.3:2、1:0.3:0.3:3、1:0.3:0.5:0.5、1:0.3:0.5:1、1:0.3:0.5:2、1:0.3:0.5:3、1:0.3:1:1、1:0.3:1:2、1:0.3:1:3、1:0.3:2:2、1:0.3:2:3、1:0.3:3:3、1:0.5:0.5:0.5、1:0.5:0.5:1、1:0.5:0.5:2、1:0.5:0.5:3、1:0.5:1:1、1:0.5:1:2、1:0.5:1:3、1:0.5:2:2、1:0.5:2:3、1:0.5:3:3、1:1:1:1、1:1:1:2、1:1:1:3、1:1:2:2、1:1:2:3、1:1:3:3、1:2:2:2、1:2:2:3、1:2:3:3又は1:3:3:3の菌数比率で調製してなる。特定の実施例において、4種類の乳酸菌はそれぞれラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ、リゥコノストック・メゼンテロイデス及びペディオコッカス・アシディラクティシィであり、上記乳酸菌組成物は、上記4種類の乳酸菌を用いて1:1:1:1の菌数比率(等菌数比)で調製してなる。
【0041】
次に、ステップ(b)の混合物を発酵させ、枸杞発酵物を得る(ステップ(c))。本発明のいくつかの実施形態によれば、発酵温度は、20-42℃、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41又は42℃であり、好ましくは25-37℃であり、より好ましくは30-35℃である。特定の実施例において、発酵温度は35℃である。本発明のいくつかの実施形態によれば、発酵時間は12-72時間、例えば、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、54、60、66又は72時間であり、好ましくは、12-36であり、より好ましくは、16-24時間である。特定の実施例において、発酵時間は24時間未満である。
【0042】
2.枸杞発酵物
本発明は、本発明の製造方法により製造される枸杞発酵物も含む。本発明の枸杞発酵物を保存するために、枸杞発酵物(枸杞残渣を含む)を製造した後、この枸杞発酵物を遠心分離(例えば、回転速度(revolutions per minute,rpm)8,000/分間で10分間遠心分離)することで枸杞残渣を除去し、上記枸杞発酵液を取得し、さらに保存のために乾燥粉末にすることができる。濃縮(例えば、蒸発濃縮(evaporation concentration)、凍結濃縮(freeze concentration)、減圧濃縮(vacuum concentration)若しくは薄膜濃縮(thin-film concentration))、及び/又は乾燥(例えば、自然乾燥(natural drying)(例えば、天日乾燥(sun drying));自然換気乾燥(kiln drying)( オーブン乾燥(oven drying)とも呼ばれる);熱風乾燥(hot air drying)(例えば、箱型棚式乾燥(cabinet drying)、トンネル乾燥(tunnel drying)、ベルト乾燥(belt drying)、回転乾燥(rotary drying)、気流乾燥(pneumatic drying)、流動床乾燥(fluidized bed drying));噴霧乾燥(spray drying);フィルム乾燥(film drying)( ドラム乾燥(drum drying)とも呼ばれる);真空乾燥(vacuum drying);凍結乾燥(freeze drying)(例えば、真空凍結乾燥(freeze-drying with vacuum)、常圧凍結乾燥(freeze-drying without vacuum));又はパフ乾燥(puff drying))などの過程により枸杞発酵物の乾燥粉末を製造する。本発明の一実施形態によれば、枸杞発酵物は、凍結乾燥法により製造された枸杞発酵物の乾燥粉末である。
【0043】
本発明の枸杞発酵物を容易に使用するために、枸杞発酵物と薬学的に許容される担体とを医薬組成物に調製し、被験体に特定の投与方式によりこの医薬組成物を投与することができる。上記薬学的に許容される担体は、緩衝液(例えば、リン酸塩、クエン酸塩を含む緩衝液);酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、リジン);糖類(例えば、グルコース、マンノース、デキストリン);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA));糖アルコール(例えば、マニトール、ソルビトール);塩形成カウンターイオン(例えば、ナトリウム)、及び非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(TWEENTM)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(PLURONICTM))を含むが、これらに限定されない。本発明は、上記医薬組成物を含む。
【0044】
3.枸杞発酵物の使用
本発明の別の態様は、肝疾患に罹患している被験体の予防及び/又は治療における本発明の枸杞発酵物の使用に関する。上記肝疾患は、アルコール性肝疾患、薬物性肝疾患、感染性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、肝線維症又は肝硬変を含むが、これらに限定されない。本発明の特定の実施例によれば、上記肝疾患は、薬物性肝疾患(例えば、APAPに起因する薬物性肝疾患)である。
【0045】
本発明の枸杞発酵物の用量、投与経路及び投与方法は異なる要素、例えば、被験体の状況、体重、性別、年齢、被験体の重症度、注射経路などによって決定される。これらの要素の重要度は当該技術分野で知られており、通常の実験手順により調整することができる。本発明のいくつかの実施形態によれば、本発明の枸杞発酵物の治療対象は、哺乳動物、特にヒトである。ヒトを治療する目的を達成するために、本発明の方法では、枸杞発酵物の有効量は、10mg/kg体重-10g/kg体重(例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、650、700、750、800、850、900又は950mg/kg体重;1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.2、4.4、4.6、4.8、5.0、5.2、5.4、5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、9.6、9.8又は10g/kg体重)であり、好ましくは、250mg/kg体重-2g/kg体重である。特定の実施例において、本発明の枸杞発酵の有効量(例えば、肝疾患の治療)は280mg/kg体重である。他の特定の実施例において、本発明の枸杞発酵物の有効量は560mg/kg体重である。別の特定の実施例において、本発明の枸杞発酵物の有効量は1.7g/kg体重である。
【0046】
本発明の枸杞発酵物の有効量は、単回投与又は複数投与の用量に含まれる。いくつかの実施形態において、被験体に複数回投与する際に、投与頻度は、1日3回、1日2回、1日1回、1日おきに1回、3日ごとに1回、週に1回、2週間ごとに1回、月に1回、2月ごとに1回である。特定の実施形態において、被験体に複数回投与する際の投与頻度は、1日に1回又は複数回である。特定の実施形態において、複数回投与時に、1回目の投与と最後の投与との間の間隔は2ヶ月である。
【0047】
本発明の枸杞発酵物は、薬物成分として投予経路に応じて経口剤形及び非経口剤形に調製することができる。本発明の医薬組成物を経口剤形に調製する場合、当該技術分野で知られている方法により適切な担体を用いて粉末、顆粒剤、錠剤、丸剤、糖衣丸剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁液、ウエハーなどに調製することができる。処方の需要に応じて、フィラー、増量剤、接着剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を含んで調製してもよい。本発明の医薬組成物を非経口剤形に調製する場合、当該技術分野で知られている方法により適切な担体を用いて注射剤に調製することができる。上記適切な担体は、滅菌水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン又はプロピレングリコール)又はそれらの混合物、リンガー液、リン酸緩衝液、トリエタノールアミン含有リン酸緩衝液、注射用滅菌水、5%のブドウ糖注射液の等張液などを含む。
【0048】
さらに、本発明の枸杞発酵物を他の薬物と併用して肝疾患を治療することができる。上記薬物は、アデホビル(adefovir)、ベタイン(betaine,BT)、エンテカビル(entecavir)、α-インターフェロン(α-interferon)、ラミブジン(lamivudine)、メトホルミン(metformin)、N-アセチルシステイン(N-acetylcysteine,NAC)、ω-3脂肪酸(omega-3 fatty acids)、ピオグリタゾン(pioglitazone)、リバビリン(ribavirin)、ロシグリタゾン(rosiglitazone)、スタチン系薬(statin)、テルビブジン(telbivudine)、テノホビル(tenofovir)、ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid,UDCA)、又はビタミンE(vitamin E)であってもよい。一実施形態において、本発明の枸杞発酵物とNACとを併用して肝疾患を治療する。別の実施形態において、本発明の枸杞発酵物とBTとを併用して肝疾患を治療する。別の実施形態において、本発明の枸杞発酵物とNAC及びBTとを併用して肝疾患を治療する。
【0049】
また、本発明の枸杞発酵物は、食品の製造に適用でき、肝臓保護機能を有し、保健機能食品、栄養補助食品、健康食品又は食品添加剤として食品に使用される。本発明の枸杞発酵物は、茶、果汁、炭酸飲料、イオン飲料などの飲み物;ミルク、ヨーグルトなどの加工乳類;チューインガム、おもち、キャンディー、パン、ビスケット、麺などの食品類などのいかなる形態でも生産することができ、カプセル、丸状、顆粒、液状、粉末、錠状、ペースト状、シロップ、ゲル、ゼリーなどの保健機能食品製剤類などに調製することができる。
【0050】
本発明が属する技術分野の当業者が本発明を実施するのを容易にするために、以下、いくつかの実施例により本発明の特定の態様を説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【0051】
実施例
材料及び方法
1.細胞培養
Hep3B細胞(ATCC(登録商標) HB-8064TM)をダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Minimal Essential Medium,DMEM)中で培養した。当該培地には、1%の100ミリ体積モル濃度のピルビン酸ナトリウム、1%の100単位/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、及び10%のウシ胎児血清が補充された。培養は、37℃、5%COのインキュベータ中で行った。
【0052】
2.乳酸菌培養
本実験において、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・ ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・ペントーサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・バギナリス(Lactobacillus vaginalis)、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ペディオコッカス・アシディラクティシィ、ペディオコッカスペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)などの乳酸菌を使用した。
【0053】
これらの乳酸菌をストック原液(stock)凍結チューブ(20%(重量比)のグリセリン溶液(不凍液)を含む)に調製し、-80℃で保存した。使用時に、-80℃の保存ボックスから菌株を取り出して解凍し、35℃の嫌気性環境下で16から18時間を培養して菌株を活性化した。菌株を活性化した後、菌株を再度35℃の嫌気性環境下で16から18時間培養した。乳酸菌を培養する際に、乳酸菌を乳酸菌専用培養液(MRS培養液;De Man,Rogosa and Sharpe broth;MRS broth)又は培養寒天(MRS培養寒天;MRS agar)中で培養した。
【0054】
加熱殺菌した乳酸菌は、菌体懸濁液を菌数10CFU/mlに調整した後、121℃下で20分間加熱することにより製造した。
【0055】
3.発酵実験
本実験に用いた培地を製造した。本実験に用いた培地には、対照群培地及び枸杞培地が含まれる。100g培地の製造を例とすると、各組成成分の比率を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
特定の乳酸菌含有量の各菌株の組み合わせ(表2)を上記培地に接種する前に、これらの菌株の組み合わせを乳酸菌含有量が10CFU/mlであるストック原液に調製し、さらに、これらのストック原液を上記培地に加え、各培地中の乳酸菌含有量の最終濃度をそれぞれ10、10又は10CFU/mlにし、次に、これらの培地を35℃下で24、48又は72時間培養した。
【0058】
【表2】
【0059】
発酵が完了した後、発酵後の菌数を算出し、各群から1mlの発酵後の培地を取り、10、10、10倍まで10倍段階希釈し、これらの希釈倍数(即ち、10、10、10)の希釈菌液を1ml取り、約25mlの液体のMRS培養寒天に加え(2回繰り返し)、固まった後、35℃で48時間培養した。肉眼でコロニー数をカウントし、コロニー数が250に最も近いものを計算基準として上記発酵後の菌数を逆算した。
【0060】
4.枸杞発酵液の凍結乾燥粉末の調製
10%(重量比)を含む枸杞培地を調製した後、この培地を10CFU/mlの各菌株の組み合わせに接種し、35℃で24時間培養した。次に、発酵後の枸杞発酵液を5000rpmで10分間遠心分離し、上清を収集し、さらに、真空濃縮により余分な水分を取り除き、-80℃で一晩凍結した後、凍結乾燥した。
【0061】
5.細胞生存率の分析
細胞技術法により細胞生存率を分析した。1×10個のHep3B細胞を培養皿に接種し、加熱殺菌した乳酸菌及び10ミリ体積モル濃度のAPAP(Sigma-Aldrich)を加え、48時間共培養した後、細胞を収集し、トリパンブルー(trypan blue)で細胞を染色し、次に、血液細胞カウンターを用いて顕微鏡下で生存細胞の数をカウントした。
【0062】
MTT試験により細胞生存率を分析した。Hep3Bを24ウェルプレート中で培養した。各ウェルに2×10個の細胞を接種し、特定濃度の枸杞発酵液を加え、或いは10ミリ体積モル濃度のAPAP(Sigma-Aldrich)をさらに加え、48時間培養した後、培地を取り除き、MTT試験分析を行った。具体的には、0.2mg/mlのMTT試薬(Sigma-Aldrich)を加え、2時間培養した後に取り除き、さらに1mlのDMSOを加えて紫色の粒状結晶を溶解し、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD595nmの吸光度を読み取った。
【0063】
6.肝機能生化学的指標の検出
特定の処理がなされた後のHep3B細胞を収集し、超音波破砕機(20キロヘルツ)により細胞を破砕した。破砕は、5秒間超音波破砕、5秒間停止を2分間繰り返した。次に、破砕された細胞を30,000×gの回転速度で、4℃で30分間遠心分離し、上清を収集し、酵素免疫測定法(ELISA)キットによりAST(Abcam)及びALT(Abcam)測定を行い、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD570nmの吸光度を読み取った。
【0064】
7.マウス薬物性肝損傷モデル
本実験では、6週齢の雄性C57BL/6マウスを用いて実験を行った。56匹のマウスを表3の通りに8匹/群でランダムに7つの実験群に分けた。全てのマウスを温度25±1℃、湿度55±5%の動物室内で飼育し、飼料と水を自由に摂取させた。本実験では、枸杞発酵液凍結乾燥粉末を低、中、高の用量比率(それぞれFLGJ-L、FLGJ-M、FLGJ-H;表4)でそれぞれ飼料に混ぜ込んで毎日マウスに給餌した。マウス体重を30gとして、給餌量はマウス体重の15%であり、1日あたりの飼料量は4.5gであった。NAC及びBT処理群では、毎日チューブ給餌でNAC(0.6g/kg体重;Sigma-Aldrich)及びBT(0.02g/kg体重;ACROS organics)を給餌した。対照群以外の他の群では、1週目から、9週間かけてAPAP(400mg/kg体重)を週に2回腹腔内注射し、マウスの薬物性肝損傷を誘導した。9週目に実験終了後にマウスを安楽死させ、その血液及び臓器を取って各項目の分析を行った。実験期間の1、3、5、7、9週目に、眼窩からマウスの血液(300μl)を採取し、血清を分離し、100μl血清を取り、肝機能生化学的指標(AST、ALT)の分析を行った。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
8.酸化防止酵素の測定
グルタチオン(GSH)の測定:0.1gの肝臓組織を取り、組織を粉砕した後、遠心分離(11,000×g、10分間、4℃)し、上清を取り、グルタチオン検出キット(Invitrogen)により肝臓組織中のGSH濃度を測定した。反応後、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD405nmの吸光度を読み取った。
【0068】
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の測定:0.1gの肝臓組織を取り、組織を粉砕した後、遠心分離(10,000×g、15分間、4℃)し、上清を取り、グルタチオンペルオキシダーゼ検出キット(Cayman Ann Arbor)により肝臓組織中のGPx濃度を測定し、反応後、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD340nmの吸光度を読み取った。
【0069】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の測定:0.1gの肝臓組織を取り、組織を粉砕した後、遠心分離(1,500×g、5分間、4℃)し、上清を取り、スーパーオキシドジスムターゼ検出キット(Cayman Ann Arbor)により肝臓組織中のSOD濃度を測定し、反応後、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD450nmの吸光度を読み取った。
【0070】
カタラーゼ(CAT)の測定:0.1gの肝臓組織を取り、組織を粉砕した後、遠心分離(10,000×g、15分間、4℃)し、上清を取り、カタラーゼ検出キット(Cayman Ann Arbor)により肝臓組織中のCAT濃度を測定し、反応後、マイクロプレートリーダーによりデータ結果を測定し、OD540nmの吸光度を読み取った。
【0071】
9.組織化学的染色
最大の左葉の肝組織を用いてパラフィン標本を作製した。パラフィン標本を作成した後、スライサーにより5μmの連続したパラフィン切片に切り出し、スライドガラスサンプルを作製した。次に、ヘマトキシリン・エオジン(haematoxylin-eosin,H&E)組織化学的染色を行った。具体的には、上記肝臓組織切片サンプルをキシレンで脱ろうし、さらに99.5%、95%、70%、50%及び30%のエタノールで順に再水和処理した。最後に、蒸留水中で10分間浸漬した。さらに、サンプルをヘマトキシリンで30秒染色し、洗浄した後、エオシンで2から5分間染色し、再度洗浄した。最後に、サンプルを封入した後、光学顕微鏡下で組織の形態を観察した。
【0072】
10.統計分析
実験データは、平均値±標準偏差で示される(n≧3)。SPSSコンピュータ統計ソフトウェアにより1元及び2元配置分散分析(1-way and 2-way ANOVA)を行い、F値が有意である場合、シェッフェの方法(Scheffe's test)により群間の差異の有意性を測定した(図1)。SPSSコンピュータ統計ソフトウェアによりスチューデントのt検定を行った(図2Aから図2C図5Aから図5C)。マウス実験結果は、3回の独立実験で得られた結果に対してSPSSコンピュータ統計ソフトウェアにより配置分散分析(ANOVA)を行い、さらにダンカンの新多重範囲検定(Duncan's multiple range test)により群間の平均値の差異を比較したものである(図6Aから図6B図6Dから図6G)。P<0.05は、有意差があることを示す。
【0073】
実施例1: APAP誘導肝細胞損傷に対する加熱殺菌した乳酸菌培養液の保護効果
薬物性肝細胞損傷に対する加熱殺菌した乳酸菌培養液の保護効果を研究するために、本実施例において、まず薬物性肝細胞損傷モデルを構築した。このモデルについては、化合物APAPでヒト肝細胞株Hep3B細胞の傷害を誘導することを例として説明する。特定の濃度(5、10及び30ミリ体積モル濃度)のAPAPでHep3B細胞を24及び48時間処理し、対照群と共に細胞生存率、AST及びALTの発現量を測定した。実験結果を図1に示す。APAPで処理されていない対照群に比べ、特定の濃度のAPAPで24又は48時間処理した後の細胞は、いずれもの細胞生存率が顕著に低下し、かつ用量依存的効果を示した。また、24時間処理した細胞に比べ、48時間処理した細胞はより顕著な成長阻害現象を示したことが観察された。これに対し、これらの細胞中のAST及びALTの発現量は顕著に増加し、同様に用量依存的効果を示した。以上のことから、本実験において10ミリ体積モル濃度のAPAPで細胞を48時間処理することにより、肝細胞の傷害を効果的に誘導できることが分かった。この結果を利用して研究を行い、肝臓を保護する可能性がある乳酸菌株をスクリーニングした。
【0074】
次に、上記薬物性肝細胞損傷モデルにより肝臓を保護する可能性がある乳酸菌株をスクリーニングした。10ミリ体積モル濃度のAPAPと、各乳酸菌株で作成された加熱殺菌した乳酸菌培養液(1×10CFU/ml;合計11株)とを用いてHep3B細胞を48時間処理し、次いで、細胞生存率及び細胞中のAST及びALTの発現量に対するこれらの培養液の影響を評価した。実験結果から分かるように、ラクトバチルス・ブレビス、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・ペントーサス、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムなどの加熱殺菌した乳酸菌培養液は、APAPで阻害された細胞生存率を効果的に回復させることができる。その中でも、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリ、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムなどの加熱殺菌した乳酸菌培養液の改善効果は最もよい。これらの培養液は、細胞生存率を対照群のレベルまで改善することもできる(図2A)。
【0075】
AST及びALTの発現量については、ラクトバチルス・ブレビス、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス・サケイ、ラクトバチルス・バギナリス、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバチルス・ペントーサス、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムなどの加熱殺菌した乳酸菌培養液は、APAPで誘導されたAST及びALTの発現量を顕著に減少できる。その中でも、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリ、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムなどの加熱殺菌した乳酸菌培養液の改善効果は最も高い。これらの培養液は、AST及びALTの発現量を対照群のレベルまで改善することもできる(図2Bから図2C)。従って、本実験から分かるように、リゥコノストック・メゼンテロイデス、ラクトバチルス・ガセリ、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムなどの加熱殺菌した乳酸菌培養液は、優れた肝臓保護効果を有し、これらの乳酸菌株を枸杞発酵に使用し、関連実験を行うことができる。
【0076】
実施例2:APAPで誘導された肝細胞損傷に対する枸杞発酵液の保護効果
適切な枸杞発酵液を調製するために、本実験では、特定菌株の組み合わせ(表2)を比較し、35℃、異なる枸杞添加量(5%、10%;重量比)、乳酸菌の接種量(10、10、10CFU/ml)及び発酵日数(1、2、3日)などの条件下で発酵を行った後、乳酸菌の増殖数を測定し、得られた実験結果に基づいて最適な発酵条件を確定した。各菌株の組み合わせを上記発酵条件で発酵させた後の菌数を図3Aから図3Oに示す。実験結果から分かるように、濃度が5%又は10%の対照群培地に対して、10、10、10CFU/mlの特定菌株の組み合わせを接種して1日間発酵することにより、5%の枸杞培地で得られた発酵後の菌数は2から3.5倍まで増加し、10%の枸杞培地で得られた発酵後の菌数は2から8倍もまで増加し、かつ両者の枸杞培地で得られた発酵後の菌数はいずれも10CFU/ml以上に達した。以上の結果から分かるように、枸杞添加量10%(重量比)の培地を用い、10CFU/mlの乳酸菌を接種し、35℃下で1日間発酵した後、発酵後の菌数は最大10CFU/mlのレベルまで達することができる。従って、この発酵条件は最適な発酵条件である。
【0077】
さらに、肝細胞成長に対する特定菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液の影響を評価した。これらの特定菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液は、最適な発酵条件で発酵して得られたものである。乳酸菌含有量(10、10、10、10CFU/ml)を調整した後の各菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液でHep3B細胞を24時間処理し、実験結果を図4に示す。実験結果から分かるように、対照群に比べ、乳酸菌含有量が10、10CFU/mlの枸杞発酵液を使用する場合、全ての群の枸杞発酵液はいずれもHep3B細胞の成長を阻害することができる。乳酸菌含有量が10CFU/mlの枸杞発酵液を使用する場合、一部の群の枸杞発酵液はHep3B細胞の成長を阻害することができ、この一部の群は、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ+ペディオコッカス・アシディラクティシィ、ペディオコッカス・アシディラクティシィ+ラクトバチルス・ファーメンタム、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ+ペディオコッカス・アシディラクティシィ、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ+ラクトバチルス・ファーメンタム、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ペディオコッカス・アシディラクティシィ+ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・ガセリ+ペディオコッカス・アシディラクティシィ+ラクトバチルス・ファーメンタムの菌株の組み合わせである。乳酸菌含有量が10CFU/mlの枸杞発酵液を使用する場合、全ての群の枸杞発酵液はいずれもHep3B細胞の成長を阻害しない。上記結果に基づいて、肝細胞の成長に対する枸杞発酵液それ自体の影響を排除するために、乳酸菌の含有量が10CFU/mlの枸杞発酵液を用いて後の実験を行った。
【0078】
本実験では、APAPで誘導された肝細胞損傷に対する特定菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液の保護効果を評価した。これらの特定菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液は、最適な発酵條件で発酵して得られたものである。実験では、10ミリ体積モル濃度のAPAPと特定菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液(10CFU/ml;合計15群)とを用いてHep3B細胞を48時間処理し、細胞生存率と細胞中のAST及びALTの発現量に対するこれらの枸杞発酵液の影響を評価した。図5Aに示される実験結果から分かるように、ラクトバチルス・ファーメンタムの枸杞発酵液以外、他の各菌株の組み合わせの枸杞発酵液はいずれもAPAPによって阻害された細胞生存率を回復することができる。
【0079】
ASTの発現量については、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びラクトバチルス・ファーメンタムの枸杞発酵液以外、他の菌株の組み合わせの枸杞発酵液はいずれもAPAPで誘導されたASTの発現量を顕著に減少できる(図5B)。ALTの発現量については、ラクトバチルス・ファーメンタムの枸杞発酵液以外、他の菌株の組み合わせの枸杞発酵液はいずれもAPAPで誘導されたALTの発現量を顕著に減少できる(図5C)。ここで、各菌株の組み合わせの枸杞発酵液によりAPAPで誘導された肝細胞損傷(細胞生存率を低下させること、及び細胞中のALT及びASTの発現量を増加させることを含む)を改善する目的では、順にラクトバチルス・ガセリ+ラクトバチルス・ファーメンタム、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ+ラクトバチルス・ファーメンタムの菌株の組み合わせの枸杞発酵液の改善効果は最も高い。従って、後は、リゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ+ラクトバチルス・ファーメンタムの菌株の組み合わせの枸杞発酵液を肝臓保護機能が最も良い枸杞発酵液として関連実験を行った。
【0080】
実施例3:マウスの薬物性肝損傷に対する枸杞発酵液の保護効果
本実施例では、マウス薬物性肝損傷(例えば、APAPに起因した肝損傷)に対するリゥコノストック・メゼンテロイデス+ラクトバチルス・ガセリ+ラクトバチルス・ファーメンタムの菌株の組み合わせを含む枸杞発酵液(FLGJ)の保護効果をさらに研究した。
【0081】
本実験は、「材料及び方法」に記載のマウス薬物性肝損傷モデルに従って行った。まず、実験前後のマウス体重、肝臓重量(以下、肝重と略す)、及び肝重/体重比を測定した。実験結果を表5に示す。結果から分かるように、各群のマウスは実験開始時に、体重に有意差がなかったが、実験終了時に、APAP群のマウスの体重は対照群よりも顕著に軽く(P<0.05)、他の群の体重はAPAP群に比べ有意差がなかった。肝重、肝重/体重比については、APAP群の肝重、肝重/体重比は対照群よりも顕著に低く(P<0.05)、異なる用量のFLGJ群はAPAP群に比べ、肝重、肝重/体重比に有意差がなかったが、改善の傾向があり、かつこの改善の傾向は用量依存的効果を示した。さらに、NAC群は、APAP群に比べ、肝重、肝重/体重比が顕著に増加し(P<0.05)、その肝重/体重比が対照群のレベルまで回復できた。しかし、BT群はAPAP群に比べ、肝重、肝重/体重比に有意差がなかった。
【0082】
【表5】
P<0.05は有意差があることを示す。*はP<0.05比較対照群を示す。#はP<0.05比較APAP群を示す。
【0083】
さらに、マウス肝臟に対する枸杞発酵液の保護効果を研究するために、血清中のAST及びALT濃度を測定した。1、3、5、7、9週目にマウスの眼窩血液を採取し、血清中のAST及びALT濃度を測定した(図6Aから図6B)。実験結果から分かるように、実験開始時(1週目)に,各群の血清AST濃度は対照群に比べていずれも有意差がなかった。3、5、7、9週目に、APAP群の血清AST濃度は顕著に増加し(P<0.05)、この増加は釣鐘曲線を呈し、5週目に血清AST濃度は最大値に達した。異なる用量のFLGJ群では、3、5、7、9週目に、いずれかの用量の枸杞発酵液もAPAPで誘導された血清AST濃度を顕著に減少でき(P<0.05)、用量依存的効果を示した。NAC群(陽性対照群)は、3、5、7、9週目のいずれもに血清中のAST濃度が顕著に低下したことが観察された(P<0.05)。BT群は、5、7、9週目後に血清中のAST濃度が顕著に低下したことが観察された(P<0.05)(図6A)。
【0084】
血清中のALT濃度については、その実験結果は上記ASTの測定結果と類似した。つまり、実験開始時(1週目)に、各群の血清ALT濃度は対照群に比べいずれも有意差がなかった。3、5、7、9週目に、APAP群の血清ALT濃度は顕著に増加し(P<0.05)、この増加は釣鐘曲線を呈し、5週目に血清ALT濃度は最大値に達した。異なる用量のFLGJ群では、3、5、7、9週目に、いずれかの用量の枸杞発酵液もAPAPで誘導された血清ALT濃度を顕著に減少でき(P<0.05)、用量依存的効果を示した。NAC群は、3、5、7、9週目のいずれにも、APAPで誘導された血清中のALT濃度が顕著に低下したことが観察された(P<0.05)。BT群は、3、5週目に、血清中のALT濃度が顕著に低下することが観察されず、7、9週目から血清中のALT濃度が顕著に低下し始めたことが観察された(P<0.05)(図6B)。
【0085】
本実施例では、H&E組織染色によりマウスの肝損傷状況を観察した(図6C)。実験結果から分かるように、対照群に比べ、APAPで処理した肝組織は、細胞壊死(necrosis)及び炎症(inflammation)の現象を顕著に示した(矢印が示すところ)。しかし、異なる用量のFLGJを投与した後、いずれかの用量の枸杞発酵液も肝細胞壊死及び炎症現象を改善した。また、陽性対照群であるNAC及びBT群も肝細胞壊死及び炎症現象を改善できた。
【0086】
本実施例では、さらに肝臓組織酸化防止酵素(グルタチオン(GSH)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)及びカタラーゼ(CAT)などを含む)の発現量により肝臓機能を評価した。まず、グルタチオン(GSH)については、対照群に比べ、APAP群の肝臓組織GSHの発現量は顕著に低下し、約34%低下した(P<0.05)。異なる用量のFLGJ群では、いずれかの用量の枸杞発酵液も肝臓組織中のGSHの発現量を顕著に向上させ、用量依存的効果を示した(P<0.05)。NAC及びBT群も肝臓組織中のGSHの発現量を顕著に向上させた(P<0.05)(図6D)。
【0087】
また、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)については、得られた実験結果は上記と類似した。つまり、対照群に比べ、APAP群の肝臓組織中のGPxの発現量は顕著に低下した(P<0.05)。異なる用量のFLGJ群では、いずれかの用量の枸杞発酵液も肝臓組織中のGPxの発現量を顕著に向上させ、用量依存的効果を示した(P<0.05)。NAC及びBT群も肝臓組織中のGPx発現量を顕著に向上させた(P<0.05)(図6E)。
【0088】
さらに、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)については、得られた実験結果は上記と類似した。つまり、対照群に比べ、APAP群の肝臓組織中のSODの発現量は顕著に低下した(P<0.05)。異なる用量のFLGJ群では、いずれかの用量の枸杞発酵液も肝臓組織中のSODの発現量を顕著に向上させ、用量依存的効果を示した(P<0.05)。NAC及びBT群も肝臓組織中のSODの発現量を顕著に向上させた(P<0.05)(図6F)。
【0089】
最後に、カタラーゼ(CAT)については、得られた実験結果は上記と類似した。つまり、対照群に比べ、APAP群の肝臓組織中のCATの発現量は顕著に低下した(P<0.05)。異なる用量のFLGJ群では、いずれかの用量の枸杞発酵液も肝臓組織中のCATの発現量を顕著に向上させ、用量依存的効果を示した(P<0.05)。NAC及びBT処理群も肝臓組織中のCATの発現量を顕著に向上させた(P<0.05)(図6G)。
【0090】
本実施例に係る動物実験では、マウス体重、肝重、肝重/体重比、血清AST及びALT濃度、組織染色、肝臓組織酸化防止酵素などの指標を検出することにより、本発明の枸杞発酵液が明らかな肝臓保護効果を有し、特に、薬物(例えば、APAP)で誘導された薬物性肝損傷に対して良好な治療効果を有することが証明された。
【0091】
以上より、本発明の枸杞発酵液は明らかな肝臓保護効果を有するため、本発明の枸杞発酵液は、肝疾患を予防及び/又は治療するための新規薬物に適用できる。
【0092】
以上の実施形態には本発明の具体的な実施例を説明したが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の原理と趣旨から逸脱しない限り、本発明に対して様々な変更及び修正を加えることができる。従って、本発明の保護範囲は、添付する特許請求の範囲に準ずるべきである。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図3J
図3K
図3L
図3M
図3N
図3O
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G