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特許7104858工作機械、工作機械の診断システム、及び、工作機械の診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】工作機械、工作機械の診断システム、及び、工作機械の診断方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20220713BHJP
   G05B 19/414 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/18 X
G05B19/414 R
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021554372
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021014008
【審査請求日】2021-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114787
【氏名又は名称】ヤマザキマザック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142871
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 哲昌
(74)【代理人】
【識別番号】100094743
【弁理士】
【氏名又は名称】森 昌康
(74)【代理人】
【識別番号】100175628
【弁理士】
【氏名又は名称】仁野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】堀部 和也
(72)【発明者】
【氏名】青山 督
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 由貴彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 博雅
(72)【発明者】
【氏名】パク ヒョング
(72)【発明者】
【氏名】北山 隼平
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179735(JP,A)
【文献】特開2004-265009(JP,A)
【文献】特開2017-219469(JP,A)
【文献】特開2017-032520(JP,A)
【文献】特許第6805314(JP,B1)
【文献】特開2020-041849(JP,A)
【文献】特開昭63-297813(JP,A)
【文献】特開2018-155675(JP,A)
【文献】特開2004-192326(JP,A)
【文献】特開2019-135467(JP,A)
【文献】特開平06-095723(JP,A)
【文献】特開平10-222220(JP,A)
【文献】特開2004-302675(JP,A)
【文献】特開2003-022108(JP,A)
【文献】特開2016-033705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
B23Q 15/00-15/28
B23Q 17/00-17/24
G01M 13/04-13/045
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械のアクチュエータの動作に従って状態が変化する構成機器と、
前記構成機器の前記状態を検出するように構成されるセンサと、
前記センサの信号を処理するように構成される信号処理装置と、
前記アクチュエータの動作を制御するように構成される制御装置と、
前記アクチュエータの動作を前記制御装置に行わせるための命令を入力し、前記アクチュエータの動作状況を報知するように構成される入出力デバイスと、
前記構成機器の前記状態を解析するための遠隔監視装置と、
前記遠隔監視装置と前記信号処理装置とを接続する通信ネットワークと、
前記通信ネットワーク上で、前記遠隔監視装置と前記信号処理装置との間に介在するゲートウェイと、
を備え、
前記信号処理装置は、
前記構成機器の異常の発生に関する状態記述簡易データを前記信号から生成し、生成した前記状態記述簡易データを前記制御装置へ送信するように構成され、
前記構成機器の異常箇所を特定するための、前記状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データを前記信号から生成し、生成した前記状態記述詳細データを、前記遠隔監視装置へ送信するように構成され、
前記入出力デバイスは、
前記制御装置に送信された前記状態記述簡易データに基づいて前記構成機器において前記異常が発生しているか否かをオペレータに報知するように構成され、
前記遠隔監視装置は、前記状態記述詳細データを前記信号から生成することを指示する第2コマンドを前記信号処理装置へ送信するように構成され、
前記第2コマンドは、前記構成機器の異常に関係する、前記信号から生成可能な少なくとも1つのデータを指定する情報を含み、
前記信号処理装置は、前記第2コマンドによって指定された前記少なくとも1つのデータを前記信号から生成し、生成した前記少なくとも1つのデータを互いに識別可能な態様で含む前記状態記述詳細データを生成し、生成した前記状態記述詳細データを前記遠隔監視装置へ送信するように構成される、
工作機械の診断システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つのデータを指定する情報は、
前記センサの信号をデジタル化したデジタルデータをエンベロープ処理を行って、高速フーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルを指定する情報と、
前記周波数スペクトルから得られる全周波数成分の実効値を指定する情報と、
前記周波数スペクトルから得られる特定周波数を指定する情報と、
を選択的に含む、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記状態記述簡易データを前記信号から生成することを指示する第1コマンドを前記信号処理装置へ送信するように構成され、
前記信号処理装置は、前記第1コマンドに従って前記状態記述簡易データを生成し、生成した前記状態記述簡易データを前記制御装置へ送信するように構成される、
請求項1または2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記制御装置と前記信号処理装置とを接続する通信回線をさらに備え、
前記第1コマンド及び前記状態記述簡易データが前記通信回線を介して送信され、
前記第2コマンド及び前記状態記述詳細データが前記通信ネットワークを介して送信され、
前記通信回線の通信容量は、前記通信ネットワークの通信容量よりも小さい、
請求項3に記載の診断システム。
【請求項5】
前記第1コマンドは、前記状態記述簡易データを前記信号から生成するためのプログラムコードと、前記制御装置から前記信号処理装置に送信され、前記信号処理装置に保存された前記プログラムコードを実行するための実行コマンドとの少なくとも一方を含む、
請求項3または4に記載の診断システム。
【請求項6】
前記プログラムコードは、
前記センサの信号のうち、前記構成機器の異常に関係する複数の周波数成分を特定するための成分特定情報と、
前記複数の周波数成分の少なくとも一部を合成する合成方法を規定する合成情報と、を含み、
前記信号処理装置は、前記プログラムコードの実行によって、前記信号から前記複数の周波数成分を抽出し、前記合成方法に基づいて前記複数の周波数成分の少なくとも一部を合成した合成値を算出する、
請求項5に記載の診断システム。
【請求項7】
前記状態記述簡易データは、前記合成値を含む、
請求項6に記載の診断システム。
【請求項8】
前記プログラムコードは、前記構成機器の異常を判定するための閾値を含み、
前記信号処理装置は、前記プログラムコードの実行によって、前記複数の周波数成分と前記閾値とに基づいて、前記構成機器の異常の有無を判定し、
前記状態記述簡易データは、前記構成機器の異常の有無を表す情報を含む、
請求項6または7に記載の診断システム。
【請求項9】
前記構成機器は複数の部品を含み、
前記複数の部品の損傷と前記複数の部品のはめあいの異常とのうちの複数の異常が、それぞれ、前記複数の周波数成分によって表される、
請求項6から8のいずれかに記載の診断システム。
【請求項10】
前記複数の部品は前記構成機器に設けられるベアリングの内輪、外輪、転動体を含み、
前記センサは、前記ベアリングの振動を検出するように構成される振動センサであって、
前記複数の周波数成分は、
前記内輪の損傷の影響を受けやすい前記振動センサの信号の第1周波数の成分と、
前記外輪の損傷の影響を受けやすい前記振動センサの信号の第2周波数の成分と、
前記転動体の損傷の影響を受けやすい前記振動センサの信号の第3周波数の成分と、
を含み、
前記成分特定情報は、前記第1周波数、前記第2周波数、及び、前記第3周波数を特定する情報を含む、
請求項9に記載の診断システム。
【請求項11】
前記入出力デバイスを介して、前記状態記述詳細データの前記遠隔監視装置への出力を許可するための許可指令が入力され、
前記許可指令によって前記遠隔監視装置に前記状態記述詳細データを送信することが許可されている間に、前記信号処理装置は、前記第2コマンドを受け付け、前記遠隔監視装置に前記状態記述詳細データを送信するように構成される、
請求項1から4のいずれかに記載の診断システム。
【請求項12】
前記遠隔監視装置が前記通信ネットワークを介してアクセス可能な記憶装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記状態記述簡易データを前記記憶装置に送信するように構成され、
前記記憶装置は、前記構成機器毎に時系列順に検索可能な態様で、前記状態記述簡易データを記憶するように構成され、
前記遠隔監視装置は、前記状態記述詳細データを解析する際に、前記状態記述簡易データを前記記憶装置から取得するように構成される、
請求項1から11のいずれかに記載の診断システム。
【請求項13】
工作機械の入出力デバイスからの入力に基づいて、構成機器の状態を変化させるように工作機械のアクチュエータを駆動し、
前記構成機器の前記状態をセンサによって検出し、
前記センサによって検出された前記状態を表す信号を信号処理装置へ送信し、
前記信号処理装置によって、構成機器の異常の発生に関する状態記述簡易データを前記信号から生成し、生成された前記状態記述簡易データを前記アクチュエータの動作を制御するための制御装置に送信し、
前記信号処理装置によって、前記構成機器の異常箇所を特定するための、前記状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データを前記信号から生成し、生成された前記状態記述詳細データを、前記構成機器の前記状態を解析するための遠隔監視装置へ送信し、
前記制御装置に送信された前記状態記述簡易データに基づいて前記構成機器において前記異常が発生しているか否かを、前記入出力デバイスを介してオペレータに報知し、
前記遠隔監視装置によって、前記状態記述詳細データを前記信号から生成することを指示し、前記構成機器の異常に関係する、前記信号から生成可能な少なくとも1つのデータを指定する情報を含む第2コマンドを前記信号処理装置へ送信し、
前記信号処理装置によって、前記第2コマンドによって指定された前記少なくとも1つのデータを前記信号から生成し、生成した前記少なくとも1つのデータを互いに識別可能な態様で含む前記状態記述詳細データを生成し、生成した前記状態記述詳細データを前記遠隔監視装置へ送信する、
ことを含む、工作機械の診断方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのデータを指定する情報は、
前記センサの信号をデジタル化したデジタルデータをエンベロープ処理を行って、高速フーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルを指定する情報と、
前記周波数スペクトルから得られる全周波数成分の実効値を指定する情報と、
前記周波数スペクトルから得られる特定周波数を指定する情報と、
を選択的に含む、請求項13に記載の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械、工作機械の診断システム、及び、工作機械の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の異常を外部の遠隔監視装置から監視するシステムが普及してきている(例えば、特許文献1)。特許文献1は、工作機械自体が故障を簡易診断して、簡易診断の結果、異常が発見されたときに、遠隔地の詳細診断手段が異常の詳細診断を行うものである。一方、工作機械に取り付けられた異常診断装置によって工作機械の異常診断を行うシステムも従来から知られている(例えば、特許文献2)。特許文献2は、工作機械のベアリングに取り付けられた振動センサの信号から特定周波数成分値を検出してその成分値に基づいてベアリングの損傷を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-265009号公報
【文献】特開2006-234784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、工作機械と別の異常診断装置によって異常診断されている。異常診断の際には工作機械の動作も必要であるが、工作機械の動作のための入力と異常診断の報知が別々の装置でなされると、オペレータの利便性が低下する。これを解消するために、工作機械の制御装置が上記異常診断装置の構成を全て取り込むことも考えられる。しかし、異常診断には周波数解析など負荷が重い処理も存在するため、このようなシステム構成では制御装置のプロセッサの処理性能を非常に高くしなければならない。
【0005】
本願に開示される技術の目的は、異常診断のためにセンサの信号を処理する処理装置を工作機械の制御装置から分離することによって制御装置の負荷をそれほど高くすることなく、工作機械の簡易異常診断処理と遠隔診断装置による工作機械の詳細異常診断処理との両方を実現できるようにし、さらに、工作機械の動作のための入力と簡易異常診断結果の報知とを工作機械側で一元化することによって簡易異常診断及び詳細異常診断の利便性を向上させる工作機械、工作機械の診断システム、及び、工作機械の診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様に係る工作機械は、構成機器と、センサと、信号処理装置と、制御装置と、入出力デバイスと、を備える。工作機械のアクチュエータの動作に従って構成機器の状態が変化する。センサは、構成機器の状態を検出するように構成される。信号処理装置は、センサの信号を処理するように構成される。制御装置は、アクチュエータの動作を制御するように構成される。アクチュエータの動作を制御装置に行わせるための命令が入出力デバイスを介して入力される。入出力デバイスは、工作機械の動作状況を報知するように構成される。信号処理装置は、構成機器の異常の発生に関する状態記述簡易データを当該信号から生成し、生成した状態記述簡易データを制御装置へ送信するように構成される。信号処理装置は、構成機器の異常箇所を特定するための、状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データを当該信号から生成し、生成した状態記述詳細データを、構成機器の状態を解析するための遠隔監視装置へ送信するように構成される。入出力デバイスは、制御装置に送信された状態記述簡易データに基づいて構成機器において異常が発生しているか否かをオペレータに報知するように構成される。
【0007】
本開示の第2態様によれば、第1態様による工作機械では、制御装置は、状態記述簡易データを当該信号から生成することを指示する第1コマンドを信号処理装置へ送信するように構成される。信号処理装置は、第1コマンドに従って状態記述簡易データを生成し、生成した状態記述簡易データを制御装置へ送信するように構成される。
【0008】
本開示の第3態様によれば、第1態様または第2態様による工作機械では、遠隔監視装置は、状態記述詳細データを信号から生成することを指示する第2コマンドを信号処理装置へ送信するように構成される。信号処理装置は、第2コマンドに応じて状態記述詳細データを生成し、生成した状態記述詳細データを遠隔監視装置へ送信するように構成される。
【0009】
本開示の第4態様によれば、第3態様による工作機械は、制御装置と信号処理装置とを接続する通信回線をさらに備える。遠隔監視装置は、通信ネットワークを介して信号処理装置と接続される。信号処理装置と遠隔監視装置との間にゲートウェイが介在される。第1コマンド及び状態記述簡易データが通信回線を介して送信される。第2コマンド及び状態記述詳細データが通信ネットワークを介して送信される。好ましくは、通信回線の通信容量は、通信ネットワークの通信容量よりも小さいが、通信回線の通信容量は、通信ネットワークの通信容量以上であってもよい。
【0010】
本開示の第5態様によれば、第2態様から第4態様のいずれかによる工作機械では、第1コマンドは、状態記述簡易データを信号から生成するためのプログラムコードと、制御装置から信号処理装置に送信され、信号処理装置に保存されたプログラムコードを実行するための実行コマンドとの少なくとも一方を含む。
【0011】
本開示の第6態様によれば、第5態様による工作機械では、プログラムコードは、センサの信号のうち、構成機器の異常に関係する複数の成分を特定するための成分特定情報と、複数の成分の少なくとも一部を合成する合成方法を規定する合成情報と、を含む。信号処理装置は、プログラムコードの実行によって、信号から複数の成分を抽出し、合成方法に基づいて複数の成分の少なくとも一部を合成した合成値を算出する。
【0012】
本開示の第7態様によれば、第6態様による工作機械では、状態記述簡易データは、合成値を含む。
【0013】
本開示の第8態様によれば、第5態様第7態様のいずれかによる工作機械では、プログラムコードは、構成機器の異常を判定するための閾値を含む。信号処理装置は、プログラムコードの実行によって、複数の成分と閾値とに基づいて、構成機器の異常の有無を判定する。状態記述簡易データは、構成機器の異常の有無を表す情報を含む。
【0014】
本開示の第9態様によれば、第6態様から第8態様のいずれかによる工作機械では、構成機器は複数の部品を含む。複数の部品の損傷と複数の部品のはめあいの異常とのうちの複数の異常が、それぞれ、複数の成分によって表される。
【0015】
本開示の第10態様によれば、第9態様のいずれかによる工作機械では、状態記述詳細データは、複数の成分のそれぞれを識別可能なように複数の成分を含む。
【0016】
本開示の第11態様によれば、第9態様または第10態様による工作機械では、複数の部品は構成機器に設けられるベアリングの内輪、外輪、転動体を含む。センサは、ベアリングの振動を検出するように構成される振動センサである。複数の成分は、内輪の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第1周波数の成分と、外輪の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第2周波数の成分と、転動体の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第3周波数の成分と、を含む。成分特定情報は、第1周波数、第2周波数、及び、第3周波数を特定する情報を含む。
【0017】
本開示の第12態様によれば、第3態様または第4態様による工作機械では、入出力デバイスを介して、状態記述詳細データの遠隔監視装置への出力を許可するための許可指令が入力される。許可指令によって遠隔監視装置に状態記述詳細データを送信することが許可されている間に、信号処理装置は、第2コマンドを受け付け、遠隔監視装置に状態記述詳細データを送信するように構成される。
【0018】
本開示の第13態様に係る工作機械の診断システムは、第1態様から第12態様のいずれかの工作機械と、遠隔監視装置と、遠隔監視装置と信号処理装置とを接続する通信ネットワークと、通信ネットワーク上で、遠隔監視装置と信号処理装置との間に介在するゲートウェイと、を備える。
【0019】
本開示の第14態様によれば、第13態様による診断システムは、遠隔監視装置が通信ネットワークを介してアクセス可能な記憶装置をさらに備える。制御装置は、状態記述簡易データを記憶装置に送信するように構成される。記憶装置は、構成機器毎に時系列順に検索可能な態様で、状態記述簡易データを記憶するように構成される。遠隔監視装置は、状態記述詳細データを解析する際に、状態記述簡易データを記憶装置から取得するように構成される。
【0020】
本開示の第15態様に係る工作機械の診断方法は、工作機械の入出力デバイスからの入力に基づいて、構成機器の状態を変化させるように工作機械のアクチュエータを駆動し、構成機器の前記状態をセンサによって検出し、センサによって検出された状態を表す信号を信号処理装置へ送信し、信号処理装置によって、構成機器の異常の発生に関する状態記述簡易データを信号から生成し、生成された状態記述簡易データをアクチュエータの動作を制御するための制御装置に送信し、信号処理装置によって、構成機器の異常箇所を特定するための、状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データを信号から生成し、生成された状態記述詳細データを、構成機器の状態を解析するための遠隔監視装置へ送信し、制御装置に送信された状態記述簡易データに基づいて構成機器において異常が発生しているか否かを、入出力デバイスを介してオペレータに報知する、ことを含む。
【0021】
本開示の第16態様によれば、第15態様による診断方法は、制御装置によって、状態記述簡易データを信号から生成することを指示する第1コマンドを信号処理装置へ送信することをさらに含む。信号処理装置は、第1コマンドに従って状態記述簡易データを生成し、生成した状態記述簡易データを制御装置へ送信する。
【0022】
本開示の第17態様によれば、第15態様または第16態様による診断方法は、遠隔監視装置によって、状態記述詳細データを信号から生成することを指示する第2コマンドを信号処理装置へ送信することをさらに含む。信号処理装置は、第2コマンドに応じて状態記述詳細データを生成し、生成した状態記述詳細データを遠隔監視装置へ送信する。
【0023】
本開示の第18態様によれば、第17態様による診断方法は、第1コマンド及び状態記述簡易データが制御装置と信号処理装置とを接続する通信回線を介して送信される。第2コマンド及び状態記述詳細データが遠隔監視装置と信号処理装置とを接続する通信ネットワークを介して送信される。信号処理装置と遠隔監視装置との間にゲートウェイが介在される。好ましくは、通信回線の通信容量は、通信ネットワークの通信容量よりも小さいが、通信回線の通信容量は、通信ネットワークの通信容量以上であってもよい。
【0024】
本開示の第19態様によれば、第16態様から第18態様のいずれかによる診断方法では、第1コマンドは、状態記述簡易データを信号から生成するためのプログラムコードと、制御装置から信号処理装置に送信され、信号処理装置に保存されたプログラムコードを実行するための実行コマンドとの少なくとも一方を含む。
【0025】
本開示の第20態様によれば、第19態様による診断方法では、プログラムコードは、構成機器の異常に関係する複数の成分を特定するための成分特定情報と、複数の成分の少なくとも一部を合成する合成方法を規定する合成情報と、を含む。信号処理装置は、プログラムコードの実行によって、信号から複数の成分を抽出し、合成方法に基づいて複数の成分の少なくとも一部を合成した合成値を算出する。
【0026】
本開示の第21態様によれば、第20態様による診断方法では、状態記述簡易データは、合成値を含むことを特徴とする。
【0027】
本開示の第22態様によれば、第19態様から第21態様のいずれかによる診断方法では、プログラムコードは、構成機器の異常を判定するための閾値を含む。信号処理装置は、プログラムコードの実行によって、複数の成分と閾値とに基づいて、構成機器の異常の有無を判定する。状態記述簡易データは、構成機器の異常の有無を表す情報を含む。
【0028】
本開示の第23態様によれば、第20態様から第22態様のいずれかによる診断方法では、構成機器は複数の部品を含む。複数の部品の損傷と複数の部品のはめあいの異常とのうちの複数の異常が、それぞれ、複数の成分によって表される。
【0029】
本開示の第24態様によれば、第23態様による診断方法では、状態記述詳細データは、複数の成分のそれぞれを識別可能なように複数の成分を含む。
【0030】
本開示の第25態様によれば、第23態様または第24態様による診断方法では、複数の部品は構成機器に設けられるベアリングの内輪、外輪、転動体を含む。センサは、ベアリングの振動を検出するように構成される振動センサである。複数の成分は、内輪の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第1周波数の成分と、外輪の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第2周波数の成分と、転動体の損傷の影響を受けやすい振動センサの信号の第3周波数の成分と、を含む。成分特定情報は、第1周波数、第2周波数、及び、第3周波数を特定する情報を含む。
【0031】
本開示の第26態様によれば、第17態様または第18態様による診断方法は、入出力デバイスを介して、状態記述詳細データの遠隔監視装置への出力を許可するための許可指令を入力することをさらに含む。許可指令によって遠隔監視装置に状態記述詳細データを送信することが許可されている間に、信号処理装置は、第2コマンドを受け付け、遠隔監視装置に状態記述詳細データを送信する。
【0032】
本開示の第27態様によれば、第15態様から第26態様までのいずれかによる診断方法は、制御装置によって、遠隔監視装置が通信ネットワークを介してアクセス可能な記憶装置に状態記述簡易データを送信し、記憶装置によって、構成機器毎に時系列順に検索可能な態様で、状態記述簡易データを記憶することをさらに含む。遠隔監視装置は、状態記述詳細データを解析する際に、状態記述簡易データを記憶装置から取得する。
【0033】
第1態様に係る工作機械、第1態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第15態様の工作機械の診断方法では、異常診断のためにセンサの信号を処理する信号処理が信号処理装置で行われ、工作機械の制御装置から分離される。したがって、制御装置の負荷をそれほど高くすることなく、工作機械の簡易異常診断処理と遠隔診断装置による工作機械の詳細異常診断処理との両方を実現できる。さらに、工作機械の動作のための入力と簡易異常診断結果の報知とが工作機械側で一元化されるため、簡易異常診断及び詳細異常診断の利便性が向上される。
【0034】
第2態様に係る工作機械、第2態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第16態様の工作機械の診断方法では、外部からのコマンドを処理可能な上市されている信号処理装置を利用して簡易異常診断を実施することが可能となる。その結果、工作機械の製造コストを低減することができる。
【0035】
第3態様に係る工作機械、第3態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第17態様の工作機械の診断方法では、遠隔監視装置がセンサの出力を自由に解析することができる。また、外部からのコマンドを処理可能な上市されている信号処理装置を利用して詳細異常診断を実施することが可能となる。その結果、工作機械の製造コストを低減することができる。
【0036】
第4態様に係る工作機械、第4態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第18態様の工作機械の診断方法では、信号処理装置が制御装置を介さずに第2コマンド及び状態記述詳細データを送信することができるので、制御装置の負荷を減少させることができる。また、状態記述簡易データの情報量が状態記述詳細データの情報量よりも少ないため、通信回線の通信容量は、通信ネットワークの通信容量よりも小さくすることができ、通信回線として多様な回線が利用可能となる。
【0037】
第5態様に係る工作機械、第5態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第19態様の工作機械の診断方法では、制御装置から信号処理装置へ状態記述簡易データを信号から生成するためのプログラムコードを送信して、当該コードを制御装置から実行することが可能である。したがって、簡易異常診断のアルゴリズムを柔軟に変更することができる。
【0038】
第6態様に係る工作機械、第6態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第20態様の工作機械の診断方法では、構成機器の異常に関係する複数の成分を利用して構成機器の異常を判定できるので、高精度に構成機器の異常を判定することができる。さらに、複数の成分を合成した合成値を作成するので、簡易な判定方法で構成機器の異常を判定することができる。
【0039】
第7態様に係る工作機械、第7態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第21態様の工作機械の診断方法では、合成値を入出力デバイスに出力できるので、工作機械のオペレータに異常の度合いを報知することができる。
【0040】
第8態様に係る工作機械、第8態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第22態様の工作機械の診断方法では、構成機器の異常の有無を表す情報を入出力デバイスに出力できるので、工作機械のオペレータに構成機器の異常の有無を報知することができる。
【0041】
第9態様に係る工作機械、第9態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第23態様の工作機械の診断方法では、複数の部品の損傷と複数の部品のはめあいの異常とのうちの複数の異常が表される複数の成分を利用して、構成機器の異常を精度よく判定することができる。
【0042】
第10態様に係る工作機械、第10態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第24態様の工作機械の診断方法では、複数の部品の損傷と複数の部品のはめあいの夫々の異常を遠隔監視装置が判定することができる。
【0043】
第11態様に係る工作機械、第11態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第25態様の工作機械の診断方法では、ベアリングの内輪、外輪、転動体の夫々の異常を別々に遠隔監視装置が判定することができる。
【0044】
第12態様に係る工作機械、第12態様の工作機械を備える第13態様の診断システム、及び、第26態様の工作機械の診断方法では、工作機械のオペレータが、遠隔監視装置からの信号処理装置へのアクセスを制御することができる。
【0045】
第14態様の診断システム、及び、第27態様の工作機械の診断方法では、遠隔監視装置は、状態記述詳細データを解析する際に、時系列の状態記述簡易データを参照できるので、詳細に構成機器の状態を解析することができる。
【発明の効果】
【0046】
本願に開示される技術によれば、異常診断のためにセンサの信号を処理する信号処理装置が工作機械の制御装置から分離されることによって制御装置の負荷をそれほど高くすることなく、工作機械の簡易異常診断処理と遠隔診断装置による工作機械の詳細異常診断処理との両方を実現することができる。さらに、本願に開示される技術によれば、工作機械の動作のための入力と簡易異常診断結果の報知とを工作機械側で一元化することによって簡易異常診断及び詳細異常診断の利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、実施形態に係る工作機械の診断システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る簡易診断処理のフローチャートである。
図3図3は、実施形態に係る簡易診断処理のシーケンス図である。
図4図4は、簡易診断スクリプトの実装例を示す。
図5図5は、実施形態に係る詳細診断処理のフローチャートである。
図6図6は、実施形態に係る詳細診断処理のシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、この発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。なお、図中において同じ符号は、対応するまたは実質的に同一の構成を示している。
<実施形態>
<工作機械1の構成>
図1は、本発明の実施形態に係る工作機械の診断システム100の構成を示すブロック図である。診断システム100は、工作機械1と、信号処理装置3と、ネットワーク5と、記憶装置7と、遠隔監視装置9とを備える。工作機械1は、主軸11と、主軸ケース12と、ベアリング13と、センサ14と、モータ15と、エンコーダ16と、入出力デバイス17と、制御装置20とを備える。主軸11は、ベアリング13を介して主軸ケース12に対して回転可能に取り付けられている。より詳細には、ベアリング13は、内輪13A、転動体13B、外輪13Cを含む。主軸11は、内輪13Aと接続する。内輪13Aは主軸11と一体に回動可能である。転動体13Bは、内輪13Aの回転に従って外輪13Cの内側を回転移動するように構成されている。外輪13Cは、主軸ケース12に固定されているが、転動体13Bの移動に伴い振動する。主軸11には、加工をおこなうための回転体RBが取付可能である。回転体RBは、工具であってもワークであってもよい。ベアリング13もしくはベアリング13の近傍にはセンサ14が取り付けられており、センサ14は、主軸11が回転することによって生じるベアリング13の振動を検出するように構成されている。つまり、センサ14は、ベアリング13の振動を検出するように構成される振動センサである。なお、センサ14の他に、ベアリング13以外の検出対象の近傍にもセンサが取り付けられていてもよい。すなわち、センサは複数個あってもよい。
【0049】
モータ15は、工作機械1のアクチュエータACTであり、主軸11を回転させる。このように、主軸11が回転されることで、ベアリング13の内輪13A及び転動体13Bが回転し、ベアリング13の内輪13A、転動体13B、及び、外輪13Cが振動する。このように、アクチュエータACTの動作に従って状態が変化する工作機械1のパーツを、本実施形態では構成機器(component)COMと呼ぶ。したがって、ベアリング13のことを構成機器COMと呼称してもよい。なお、ベアリング13は、構成機器COMの一例であって、工作機械1の他のアクチュエータACTによって状態が変化する他のパーツが構成機器COMであってもよい。この場合、状態とは、振動、音、温度、光、静電容量、油膜厚さ、煙などの化学成分種の放出を含む物理現象の状態を意味し、センサ14は、その構成機器COMの状態を検出するセンサであってもよい。ベアリング13が構成機器COMであるとき、構成機器COMは複数の部品を含む。
【0050】
モータ15にはエンコーダ16が設けられて、測定されたモータ15の回転数(rotation speed)が制御装置20に入力される。なお、他の回転数検出器によってモータ15の回転数を検出できるときは、エンコーダ16は、その回転数検出器によって代替されてもよい。制御装置20は、アクチュエータACTの動作を制御するように構成される。具体的には、制御装置20は、エンコーダ16によって測定されたモータ15の回転数に基づいて、制御装置20に入力された指令回転数に保つようにモータ15へ供給する電流の制御を行う。入出力デバイス17は、指令回転数を入力するための入力インタフェースと、エンコーダ16で測定されたモータ15の現在の回転数を有する出力インタフェースとを有している。つまり、入出力デバイス17は、アクチュエータACTの動作を制御装置20に行わせるための命令を入力し、アクチュエータACTの動作状況を報知するように構成される。
【0051】
入出力デバイス17は、工作機械1の入出力装置として通常用いられている操作盤(control panel)である。このような入出力デバイス17の例として、例えば、入出力インタフェースが一体となったタッチパネルや、スイッチ、押しボタン、及び、モニターを含む操作盤がある。なお、入出力デバイス17は、入力インタフェースと出力インタフェースが同一のパネルになくてもよく、1名のオペレータが出力インタフェースによってモータ15の現在の回転数を確認しながら入力インタフェースによって入力が可能である程度に入力インタフェースと出力インタフェースとが分離されてもよい。
【0052】
制御装置20は、プロセッサ21と、メモリ22と、通信インタフェース23とを備える。制御装置20は、少なくともコンピュータ数値制御装置(computerized numerical control device)とプログラマブルロジックコントローラ(programmable logic controller)を含む。プロセッサ21は、メモリ22に記憶されたプログラムを実行することによって工作機械1の各種動作を制御する。メモリ22は、当該プログラムやそのプログラムによって利用される各種パラメータを記憶する不揮発性メモリを少なくとも有している。メモリ22は、制御プログラム24と、簡易診断プログラム25と、成分特定情報26と、合成情報27と、閾値情報28と、セキュリティプログラム29とを記憶するように構成されている。制御プログラム24は、入出力デバイス17を介して入力される指令回転数に従ってモータ15を回転させるように、フィードバック制御を行うプログラムである。具体的には、制御プログラム24は、エンコーダ16の信号をもとに、モータ15の回転数が指令回転数に近づくようにモータ15へ供給する電流を制御する処理を実行する。
【0053】
簡易診断プログラム25は、ベアリング13の異常を簡易に診断するにあたり、モータ15の動作と信号処理装置3から簡易診断結果を受信するプログラムである。簡易診断結果は、あらかじめ信号処理装置3にインストールされた簡易診断スクリプト36の実行により生成される。簡易診断スクリプト36は、成分特定情報26と、合成情報27と、閾値情報28とに基づいて、あらかじめ制御装置20において生成され、信号処理装置3に送信されている。ただし、簡易診断プログラム25が、簡易診断スクリプト36を生成して、簡易診断結果を受信するために簡易診断スクリプト36を信号処理装置3に送信してもよい。簡易診断スクリプト36は、成分特定情報26と、合成情報27と、閾値情報28とのうちの少なくとも1つを利用して、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成するためのプログラムコードである。成分特定情報26と、合成情報27と、閾値情報28とは、簡易診断スクリプト36において使用されるパラメータを表す。制御装置20は、簡易診断スクリプト36を実行するための実行コマンドを含む第1コマンドを生成し、生成した第1コマンドを信号処理装置3へ送信する処理を実行する。つまり、第1コマンドは、状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成するためのプログラムコードと、制御装置30から信号処理装置3に送信され、信号処理装置3に保存されたプログラムコードを実行するための実行コマンドとの少なくとも一方を含む。簡易診断スクリプト36が実行された後、信号処理装置3において生成された状態記述簡易データが制御装置20に送信され、簡易診断プログラム25は、制御装置20が受信した状態記述簡易データに基づいて、入出力デバイス17を介して、構成機器COMに異常が発生しているか否かをオペレータに報知する処理を実行する。このように、制御装置20は、状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成することを指示する第1コマンドを信号処理装置3へ送信するように構成される。また、入出力デバイス17は、制御装置20に送信された状態記述簡易データに基づいて、構成機器COMにおいて異常が発生しているか否かをオペレータに報知するように構成される。セキュリティプログラム29は、遠隔監視装置9から信号処理装置3へのアクセスを制御する処理を実行する。簡易診断プログラム25と、セキュリティプログラム29との処理の詳細については後述する。
【0054】
信号処理装置3は、センサ14の信号を処理するように構成される。センサ14が複数個の場合には、信号処理装置3は、それぞれのセンサの信号を並列処理するように構成されてもよい。信号処理装置3は、アナログデジタルコンバータ(A/Dコンバータ)31と、メモリ32と、演算器33と、通信インタフェース34とを備える。A/Dコンバータ31は、センサ14からのアナログ信号をデジタル信号に変換するように構成される。メモリ32は、デジタル信号に変換されたセンサ14のデジタル信号データ35や上述する簡易診断スクリプト36等を記憶するように構成される。さらに、メモリ32は、簡易診断スクリプト36などのスクリプトを実行するためのスクリプトエンジン37や、演算器33によって抽出されたデジタル信号の成分を記憶するように構成される。通信インタフェース34は、制御装置20の通信インタフェース23と信号処理装置3との間の通信、及び、遠隔監視装置9と信号処理装置3との間の通信を制御する。
【0055】
具体的には、上記第1コマンドを制御装置20から受信すると、通信インタフェース34は、第1コマンドに基づいた情報を演算器33に送信し、演算器33は、スクリプトエンジン37を実行して簡易診断スクリプト36に記述された処理を実行する。これによって、演算器33は、センサ14のデジタル信号から状態記述簡易データを生成し、生成した状態記述簡易データを通信インタフェース34に送信する。通信インタフェース34は、第1コマンドへの返信として状態記述簡易データを制御装置20に送信する。
【0056】
このように、信号処理装置3は、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成し、生成した状態記述簡易データを制御装置20へ送信するように構成される。第1コマンドや状態記述簡易データの詳細は後述する。なお、演算器33は、高速フーリエ変換(FFT)などのデジタル信号処理を高速に行える特定用途向け集積回路(ASIC)を含んでもよく、通常のプロセッサとデジタル信号処理を行うプログラムによって構成されてもよい。通信インタフェース34及び制御装置20の通信インタフェース23は、イーサネット、シリアル・パラレル回線などの通信インタフェースとそれを制御するためのソフトウエアで実現されてもよく、専用ハードウェアによって実現されてもよい。
【0057】
ネットワーク5は、通信回線51と通信ネットワーク53とを含む。通信回線51は、制御装置20と信号処理装置3とを接続する。具体的には、通信回線51は、制御装置20の通信インタフェース23と信号処理装置3の通信インタフェース34とを接続する。上述する第1コマンド及び状態記述簡易データが通信回線51を介して送信される。通信回線51は、好ましくはイーサネットであるが、RS-232CやUSBなどのシリアル回線、SCSIなどもパラレル回線であってもよい。さらには、通信回線51は、有線通信に限らず、無線通信であってもよい。通信回線51の通信容量は、通信ネットワーク53の通信容量よりも小さくてもよい。
【0058】
通信ネットワーク53は、信号処理装置3と遠隔監視装置9とを接続する。通信ネットワーク53は、イーサネット55とインターネット59とを含む。イーサネット55は、工作機械1が配置される工場内のネットワークである。通信回線51は、イーサネット55と同一のイーサネットであってもよい。なお、通信回線51がイーサネット55と別の通信回線である場合、制御装置20の通信インタフェース23は、イーサネット55とも接続していることが好ましい。イーサネット55とインターネット59との間にはゲートウェイ57が介在される。つまり、信号処理装置3と遠隔監視装置9との間にゲートウェイ57が介在される。ゲートウェイ57は、アクセスコントロールリスト(ACL)などによって、イーサネット55へのアクセスを、遠隔監視装置9を含むあらかじめ定められた端末からのアクセスに限定するように構成される。
【0059】
遠隔監視装置9は、構成機器COMの状態を解析するように構成される。これを実現するために、遠隔監視装置9は、状態記述詳細データをセンサ14の信号から生成することを指示する第2コマンドを信号処理装置3へ送信するように構成される。状態記述詳細データとは、構成機器COMの異常箇所を特定するための、状態記述簡易データよりも情報量の多いデータである。信号処理装置3は、第2コマンドに応じて状態記述詳細データを生成し、生成した状態記述詳細データを遠隔監視装置9へ送信するように構成される。上述する第2コマンド及び状態記述詳細データは、通信ネットワーク53を介して送信される。第2コマンド及び状態記述詳細データの詳細については後述する。
【0060】
記憶装置7は、インターネット59上に設けられたストレージデバイスである。好ましくは、記憶装置7はインターネット59上に設けられたクラウドシステムにおけるストレージであって、制御装置20と遠隔監視装置9のいずれも記憶装置7へアクセス可能である。つまり、遠隔監視装置9が通信ネットワーク53を介して記憶装置7へアクセス可能であるとともに、制御装置20が通信ネットワーク53を介して記憶装置7へアクセス可能である。ただし、記憶装置7は、遠隔監視装置9が配置される事業場の構内に設置され、遠隔監視装置9からイーサネットでアクセス可能であってもよい。制御装置20は、信号処理装置3から送信された状態記述簡易データを記憶装置7に送信するように構成される。具体的には、制御装置20は、信号処理装置3から状態記述簡易データを受信すると、すぐに、受信した状態記述簡易データを記憶装置7に送信するように構成される。記憶装置7は、制御装置20から状態記述簡易データを受信し、受信した状態記述簡易データを記憶するように構成される。具体的には、記憶装置7は、状態記述簡易データを構成機器COM毎に時系列順に検索可能な態様で、状態記述簡易データを記憶するように構成される。センサが複数個の場合には、構成機器COM毎ではなく、構成機器COMに接続されたセンサ毎に検索可能な態様で、状態記述簡易データを記憶するように構成されてもよい。時系列順に検索可能な態様であれば、データに含まれる数値の大きさ順など時系列とは異なる順序で状態記述簡易データが記憶装置7に格納されていてもよい。遠隔監視装置9は、状態記述詳細データを解析する際に、状態記述簡易データを記憶装置7から取得するように構成される。
<簡易診断方法>
つぎに、本実施形態における簡易診断プログラム25による構成機器COMの簡易診断方法について説明する。簡易診断プログラム25から呼び出される簡易診断スクリプト36の実行にあたり、成分特定情報26と、合成情報27と、閾値情報28とを予め設定しておく必要があるが、その設定方法について説明する。成分特定情報26とは、センサ14の信号のうち、構成機器COMの異常に関係する複数の成分を特定するための情報である。以下、構成機器COMがベアリング13であって、ベアリング13の内輪13A、転動体13B、及び、外輪13Cのそれぞれに損傷がある場合を例に挙げて説明する。このとき、内輪13A、転動体13B、及び、外輪13Cのそれぞれに対応する特定周波数に振動が生じることが知られている。(例えば、特開昭63-297813号公報参照。)
ここで、モータ15の回転数をNo(min-1)、ベアリング13の転動体13Bの直径をd(mm)、転動体13Bのピッチサークル径をD(mm)、転動体13Bの数をZ、転動体13Bの接触角をα(radian)とする。このとき、内輪13Aのレース面に傷や剥離がある場合に振動が発生する周波数f(Hz)、転動体13Bに傷や剥離がある場合に振動が発生する周波数f(Hz)、外輪13Cのレース面に傷や剥離がある場合に振動が発生する周波数f(Hz)は以下の式(1)~(3)により表される。
=(ZNo/120)・(1+d・cosα/D) (1)
=(NoD/120d)・{1-(d/D)・cosα} (2)
=(ZNo/120)・(1-d・cosα/D) (3)
上述するパラメータのうち、転動体13Bの直径、転動体13Bのピッチサークル径、転動体13Bの数、及び、転動体13Bの接触角は、ベアリング13の仕様から定まる。また、モータ15の回転数については最適値を経験的に定めることができる。成分特定情報26は、上述のように定められた第1周波数f、第2周波数f、及び、第3周波数fを特定する情報を含む。つまり、構成機器COMの異常に関係する複数の成分は、内輪13Aの損傷の影響を受けやすい振動センサ(センサ14)の信号の第1周波数fの成分と、外輪13Cの損傷の影響を受けやすい振動センサ(センサ14)の信号の第2周波数fの成分と、転動体13Bの損傷の影響を受けやすい振動センサ(センサ14)の信号の第3周波数fの成分と、を含む。別の言い方をすれば、構成機器COMの複数の部品の損傷と複数の部品のはめあいの異常とのうちの複数の異常が、それぞれ、上述の複数の成分によって表される。さらに、成分特定情報26は、ベアリング13の全体的な損傷具合を特定するパラメータとして周波数成分全体を表す情報を含んでもよい。なお、より詳細には、モータ15の回転数Noが変更されても対応しやすいように、成分特定情報26は、f/No、f/No、f/Noを含む。また、以降の説明において、簡易診断のために経験的に定められたモータ15の回転数を簡易診断回転数と呼ぶ。簡易診断プログラム25は、制御プログラム24を呼び出してモータ15を簡易診断回転数で回転させる処理を実行することができる。
【0061】
合成情報27は、上述する複数の成分の少なくとも一部を合成する合成方法を規定する情報である。合成情報27を利用して、上述する複数の周波数成分値を統合した合成値が生成され、合成値によって構成機器COMの異常が判定される。合成値は構成機器COMの異常に関係する複数の成分が識別不可能であるように統合された値であるため、合成値を解析しても構成機器COMの異常箇所を特定することはできない。例えば、合成情報27は、f、f、fそれぞれの周波数成分の総和または平均値を算出することを定義する情報を格納する。また、合成情報27は、全周波数成分の積分値、もしくは、全周波数成分の実効値(root mean square value: RMS値)を算出することを定義する情報を格納する。簡易診断回転数、成分特定情報26、及び、合成情報27は、簡易診断スクリプト36が制御装置20において生成される際に、メモリ22に記憶される。ただし、簡易診断回転数、成分特定情報26、及び、合成情報27は、入出力デバイス17からの入力によって値が変更されてもよい。
【0062】
閾値情報28は、構成機器COMの異常を判定するための閾値を含む。具体的には、閾値情報28は、合成情報27をもとに合成された合成値(例えば、f、f、fそれぞれの周波数成分の総和や全周波数成分の積分値など)が異常であるか否かを判定するための情報である。閾値情報28に含まれる閾値は、必ずしも1つであるとは限らず、異常状態(以下、warningと呼ぶ)を判定する閾値、異常状態ではないが注意を有する注意状態(以下、cautionと呼ぶ)を表す閾値など複数段階の閾値が閾値情報28に含まれてもよい。閾値情報28は、簡易診断スクリプト36が制御装置20において生成される際に、メモリ22に記憶される。ただし、閾値情報28は、入出力デバイス17からの入力によって値が変更されてもよい。
【0063】
簡易診断プログラム25は、定期的に実行される。具体的には、簡易診断プログラム25は、1日の稼動開始時に実行される。図2は、簡易診断プログラム25により実行される簡易診断処理のフローチャートである。図3は、当該簡易診断処理のシーケンス図である。図2及び図3を参照すると、ステップS11では、工作機械1の入出力デバイス17からの入力に基づいて、制御装置20は、構成機器COMの状態を変化させるように工作機械1のアクチュエータACTを駆動する。具体的には、オペレータが1日の稼動開始時に入出力デバイス17を介して簡易診断プログラムを起動し、制御装置20は、簡易診断プログラム25から制御プログラム24を呼び出して、モータ15を簡易診断回転数で回転させる指令をモータ15に送る(図3のステップS111)。なお、簡易診断プログラム25が1日の稼動開始時に自動的に起動される場合、工作機械1の入出力デバイス17からの入力とは、工作機械1を起動するための入力に対応する。
【0064】
制御装置20は、制御プログラム24の実行によって、エンコーダ16からモータ15の現在の回転数を取得する。制御装置20は、モータ15の現在の回転数が簡易診断回転数となるまでモータ15の現在の回転数を監視する。そして、制御装置20は、モータ15の現在の回転数が簡易診断回転数となることを確認すると(ステップS112)、第1コマンドを信号処理装置3に送信する(ステップS12)。
【0065】
第1コマンドは、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成することを指示するコマンドである。具体的には、第1コマンドは、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データをセンサ14の信号から生成する処理内容が記述された簡易診断スクリプト36を実行するための実行コマンドを含んでいる。簡易診断スクリプト36は、好ましくは、成分特定情報26、合成情報27、及び、閾値情報28に含まれる閾値を含む。簡易診断スクリプト36は、状態記述簡易データの生成方法をスクリプト言語で記述されたものである。例えば、(i)センサ14の信号を5秒間取得してA/D変換してエンベロープ処理をしてFFTをかけて特定周波数f、f、fの周波数成分を抽出し、(ii)その周波数成分の和を求め、(iii)その和が閾値TH1を超えたとき、状態記述簡易データのうちのcaution値をTRUEとし、(iv)その和が閾値TH2(TH1<TH2)を超えたとき、状態記述簡易データのうちのwarning値をTRUEとし、(v)全周波数成分の実効値を求め、(vi)caution値、warning値、実行値を返信する処理を要求するスクリプトを図4のように記述することができる。
【0066】
図4は、代表的なスクリプト言語であるJavaScriptを利用した簡易診断スクリプト36の例である。図4はあくまでも一例であって、他のスクリプト言語やXMLなどのマークアップ言語が使用されてもよい。図4の関数RoughDiagnosisは引数No(モータ15の回転数)を受け取ることができる。図4の"const var"で始まる最初の二行は、プログラムで必要となる定数の宣言である。"th1, th2"は、閾値情報28から読み込まれた上述するTH1、TH2の値が代入される。"fa, fb, fc"は、成分特定情報26から読み込まれたf/No、f/No、f/Noの値に、引数Noを乗じて、f、f、fに対応する周波数値が代入される。"data"は、センサ14からの出力をA/D変換した値が格納される配列である。この配列の各要素は、例えば、時間毎のセンサ出力値を表す。"envelopdata"は、"data"にエンベロープ処理をした値が格納される配列である。この配列の各要素は、例えば、時間毎のエンベロープ値を表す。"fftdata"は、"envelopdata"を高速フーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルが格納される配列である。この配列の各要素は、例えば、周波数ごとの成分値である。"sum"には、f、f、fの周波数成分の和が格納される。"rsmvalue"には、周波数成分の実効値が格納される。"level"は、それぞれ、異常なし(no problem)、caution、warningを表す判定値が格納される。
【0067】
"getData"は、関数呼出から引数に記載された時間の間、信号処理装置3にセンサ14の信号をA/D変換させて、得られたデジタル値を変数"data"に出力する関数である。"data"は物理的にはメモリ32に記憶される。なお、"getData"は1つの関数名の例であって、関数名が他の名称であってもよく、引数が省略されてもよい。引数が省略される場合、デフォルトで定められた時間の間、信号処理装置3はセンサ14の信号を取得する。また、信号処理装置3にセンサ14と接続可能な接続ポートが複数存在する場合、"getData"の引数としてポート番号が含まれてもよい。
【0068】
"getEnvelope"は、引数である"data"をエンベロープ処理して、得られるエンベロープデータを変数"envelopedata"に出力する関数である。エンベロープ処理とは、振動波形の絶対値をとって包絡線を検出する処理をいう。"envelopedata"は物理的にはメモリ32に記憶される。なお、"getEnvelope"は1つの関数名の例であって、関数名が他の名称であってもよい。"getFFT"は、引数である"envelopedata"を高速フーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルを変数"fftdata"に出力する関数である。"fftdata"は物理的にはメモリ32に記憶される。なお、"getFFT"は1つの関数名の例であって、関数名が他の名称であってもよい。また、特定の周波数範囲に限定して周波数成分を出力する場合、"getFFT"の引数として周波数範囲の最小値及び最大値の少なくとも1つが指定されていてもよい。
【0069】
"getFrequencyData (A, B)"は、引数Aである周波数スペクトルから、引数Bである周波数値に相当する周波数成分を出力する。"fa, fb, fc"それぞれについて"getFrequencyData"を呼び出して戻り値を足し算することによってsumにf、f、fの周波数成分の和が代入される。なお、"getFrequencyData"は1つの関数名の例であって、関数名が他の名称であってもよい。また、引数の順序が逆であっても、引数のデータ形式は他の形式であってもよい。例えば、引数Bは配列fftdata[]の何番目のデータかを指定するものであってもよい。また、fftdata[]のサンプリング周波数が分かっている場合、"getFrequencyData"のような関数を使用しなくてもf、f、fの周波数値に対応する周波数成分がfftdata[]の何番目の配列の値に相当するか算出し、fftdata[]から直接算出してもよい。
【0070】
"getRMSValue (A, B, C)"は、引数Aである周波数スペクトルから引数B及びCにて規定される周波数範囲[B,C]における実効値を算出する。図4の例では、周波数0から信号処理装置3が算出しうる最大周波数MAXまでの実効値を算出するものである。なお、最大周波数MAXは、検出する必要のある周波数の2倍以上の任意の値に指定されていてもよい。"level"には、"sum"がTH1以上TH2未満であるときcautionを表す判定値が代入される。"level"には、"sum"がTH2以上であるときwarningを表す判定値が代入される。"sendData"は引数として記述された文字列を状態記述簡易データとして送信する関数である。"'"と"'"との間に記述される文字列は、制御装置20が後に続くデータの種類を識別するための文字列(例えば、'level=')とデリミタ';'とを含む。なお、データの種類を識別するための文字列は省略されてもよく、デリミタは他のコードであってもよい。
【0071】
合成情報27は、一例として、図4のスクリプトにおいて定数の宣言を除く他のコードを含む情報であってもよい。そして、制御装置20は、簡易診断プログラム25の実行において、成分特定情報26、合成情報27、及び、閾値情報28を読み込んで、合成情報27として記憶されているコードに、成分特定情報26、及び、閾値情報28に格納された値をもとに定数の宣言を加えて、第1コマンドを生成してもよい。なお、第1コマンドは、スクリプトでなく、バイナリコードであってもよい。この場合、制御装置20は、上述するスクリプトの処理内容を含むバイナリコードを生成するとよい。信号処理装置3の通信インタフェース34は、第1コマンドのバイナリコードを解析するためのパーサを有するとよい。なお、図4において、第1コマンドは、定格値を出力する関数("getRMSValue (A, B, C)")に変えて全周波数成分の積分値を出力する関数を使用してもよい。
【0072】
第1コマンドは、以上のようなRoughDiagnosisの簡易診断スクリプト36を実行するための実行コマンドである。また、第1コマンドは、RoughDiagnosisの引数として簡易診断回転数を含む。ただし、あらかじめ信号処理装置3にRoughDiagnosisの引数として簡易診断回転数が送信されている場合であれば、第1コマンドに簡易診断回転数が含まれなくてもよい。信号処理装置3は、第1コマンドを受信すると、スクリプトエンジン37によって簡易診断スクリプト36に記述された処理を実行する。そして、信号処理装置3は、"getData"に記述されたコマンドに従って、センサ14にセンサ起動コマンドを送信する(ステップS129)。センサ14は、センサ起動コマンドを受信すると、構成機器COMの状態を検出する(ステップS13)。センサ14は、センサ14によって検出された状態を表す信号(センサ信号)を信号処理装置3へ送信する(ステップS14)。なお、センサ14はセンサ起動コマンドの有無に関わらず常時センサ信号を信号処理装置3に出力している場合、ステップS129は省略されてもよい。センサ信号を受信すると、信号処理装置3は、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データを信号から生成する(ステップS15)。具体的には、信号処理装置3はセンサ信号をデジタル値に変換する(ステップS151)。
【0073】
そして、信号処理装置3は、信号から状態記述簡易データを生成する(ステップS152)。具体的には、図4の"getFFT"と"getFrequencyData"によって定義されるコマンドに従って、信号処理装置3は、信号から構成機器COMの異常に関係する複数の成分を抽出する。つまり、信号処理装置3は、当該信号から当該複数の成分を抽出するように構成される。信号処理装置3は、状態記述簡易データを生成するときに、図4の"sum=..."で表される数式(複数の成分の少なくとも一部を合成する合成方法)に基づいて、複数の成分の少なくとも一部を合成した合成値(sum)を算出する。つまり、信号処理装置3は、複数の成分の少なくとも一部を合成した合成値を算出するように構成される。図4の"if(sum <th1) ... else if(sum <th2) ... else ..."の論理式に基づいて、信号処理装置3は、構成機器COMの異常の有無(caution, warning)を判定する。つまり、信号処理装置3は、上述する複数の成分と閾値とに基づいて、構成機器COMの異常の有無を判定する。信号処理装置3は、上述する複数の成分と閾値とに基づいて、構成機器COMの異常の有無を判定するように構成される。さらに、信号処理装置3は、"sendData"の引数によって記述された演算に従って、信号処理装置3は、信号から状態記述簡易データを生成する。当該引数は、"sum"、即ち、f、f、fの周波数成分の和を含む。すなわち、状態記述簡易データは、構成機器COMの異常に関係する複数の成分の少なくとも一部を構成した合成値を含む。状態記述簡易データは、"level"、即ち、構成機器COMの異常の有無を表す情報を含む。
【0074】
ステップS16において、信号処理装置3は、生成された状態記述簡易データをアクチュエータACTの動作を制御するための制御装置20に送信する。制御装置20は、受信した状態記述簡易データを受信時刻に関連付けて記憶してもよい。状態記述簡易データを信号処理装置3から受信すると、ステップS17において、制御装置20は、構成機器COMにおいて異常が発生しているか否かの情報、及び合成値を入出力デバイス17に表示させる。つまり、制御装置20は、制御装置20に送信された状態記述簡易データに基づいて構成機器COMの異常が発生しているか否かの情報を、入出力デバイス17を介してオペレータに報知する。この報知においては、制御装置20は、現在の状態記述簡易データのみをオペレータに報知するばかりでなく、過去の状態記述簡易データも利用して、構成機器COMの異常の度合いの時系列的変化、合成値の時系列的変化を入出力デバイス17に表示してもよい。
【0075】
ステップS17において、異常(warning)が報知されない場合、制御装置20による加工プログラムの実行が許可される。そして、工作機械1による加工処理が実行可能となる。事後の加工処理は、オペレータによる入出力デバイス17の操作によって実行されるため、簡易診断の結果を入出力デバイス17に出力するのは、事後の加工処理をスムーズに行うために有利である。ステップS17において、異常(warning)が報知される場合、制御装置20は、異常とともにオペレータがとるべき今後の処置方法を、入出力デバイス17を介して報知する。例えば、詳細診断の実行がオペレータに推奨される。なお、オプションの処理として、ステップS18において、制御装置20は、受信した状態記述簡易データを、遠隔監視装置9が通信ネットワーク53を介してアクセス可能な記憶装置7へ送信する。ステップS19において、記憶装置7は、構成機器COM毎に時系列順に検索可能な態様で、状態記述簡易データを記憶する。工作機械1に対して構成機器COMが1つしか存在しない場合、記憶装置7は、構成機器COM毎に状態記述簡易データを検索できるように、送信されてきた制御装置20のアドレスから状態記述簡易データを管理してもよい。あるいは、状態記述簡易データは構成機器COMの情報を含み、その情報をもとに、記憶装置7は、構成機器COM毎に状態記述簡易データを管理してもよい。ステップS18とS19はオプションの処理であるため、省略されてもよい。
<詳細診断方法>
つぎに、本実施形態における遠隔監視装置9による構成機器COMの詳細診断方法について説明する。詳細診断とは以下の(1)~(3)の3つの場合において主に行われる。
(1)簡易診断において異常(warning)が報知されてオペレータの対処方法として詳細診断が推奨される場合
(2)簡易診断において注意情報(caution)が報知されてオペレータが自主的に詳細診断を希望する場合
(3)工作機械1に事故が発生した場合
(1)(2)の場合においては、図4のステップS17の後の状態として、入出力デバイス17の前に居るオペレータが遠隔監視装置9を操作するメーカ担当者に電話等で連絡する。このため、簡易診断の結果を入出力デバイス17に出力するのは、事後の対応をスムーズに行うために有利である。(3)の場合の事故も加工作業中に発生することが予想されるため、オペレータが入出力デバイス17の前に居ることが想定される。このとき、事故に気付いたオペレータが遠隔監視装置9を操作するメーカ担当者に電話等で連絡する。以降における詳細診断処理のフローチャートを図5に示す。また、以降における詳細診断処理のシーケンス図を図6に示す。図5及び図6において、簡易診断方法と同じ処理は簡易診断方法と同じ符号が付されており、詳細な説明が省略される。
【0076】
まず、ステップS20において、入出力デバイス17を介して、状態記述詳細データの遠隔監視装置9への出力を許可するための許可指令が入力される。通常、ゲートウェイ57は、遠隔監視装置9からのアクセスを禁止する制御を行っている。しかし、セキュリティプログラム29の実行によって、制御装置20からゲートウェイ57へ許可指令が入力されると、ゲートウェイ57は、以下の(1)~(4)のいずれかのイベントが発生するまで遠隔監視装置9からのアクセスを許可する。
(1)セキュリティプログラム29の実行中のオペレータが、信号処理装置3と遠隔監視装置9との間の通信を不許可とする不許可指令を、入出力デバイス17を介して入力し、信号処理装置3が不許可指令を受信する。
(2)信号処理装置3と遠隔監視装置9との間の通信がタイムアウトとなる。
(3)信号処理装置3が遠隔監視装置9からの詳細診断の終了指令を受信する。
(4)信号処理装置3がセンサ14の信号をA/Dコンバータ31によってデジタル化のみ行ったデジタルデータを遠隔監視装置9に送信する場合、当該デジタルデータを全て送信し終わる。
【0077】
ステップS20においてより詳細には、図6のステップS201において、オペレータは、入出力デバイス17を介してセキュリティプログラム29を起動し、許可指令の出力を入力する。ステップS202において、セキュリティプログラム29は、上記許可指令をゲートウェイ57に送信する処理を実行する。つまり、制御装置20は、上記許可指令をゲートウェイ57に送信する。ゲートウェイ57は、許可指令を受信後、上記(1)~(4)のイベントのいずれかが発生する(ステップS204)までの間、遠隔監視装置9からのアクセスを許可する(ステップS203)。
【0078】
ステップS21では、工作機械1の入出力デバイス17からの入力に基づいて、制御装置20は、構成機器COMの状態を変化させるように工作機械1のアクチュエータACTを駆動する。具体的には、オペレータは、制御プログラム24を呼び出して、メーカ担当者から連絡された回転数、もしくは、図3及び図4のステップS17の報知によって通知された回転数で、モータ15を回転させる指令をモータ15に送る(ステップS211)。以降の説明において、この回転数を、遠隔診断回転数と呼ぶ。制御装置20は、そのときにエンコーダ16から取得するモータ回転数を遠隔監視装置9に送信する(ステップS212)。遠隔監視装置9は、制御装置20から送信されたモータ回転数を参照して、モータ15が遠隔回転数で回転していることを確認する(ステップS213)。
【0079】
ステップS213の後、遠隔監視装置9は、構成機器COMの異常箇所を特定するための、状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データを信号から生成することを指示する第2コマンドを信号処理装置3へ送信する(ステップS22)。上述する許可指令によって遠隔監視装置9に状態記述詳細データを送信することが許可されている間であれば、信号処理装置3は、第2コマンドを受け付ける。上述する許可指令によって遠隔監視装置9に状態記述詳細データを送信することが許可されている間であれば、信号処理装置3は、第2コマンドを受け付けるように構成される。第2コマンドの例として、以下の(i)~(iv)のような内容がある。
(i)センサ14の信号をデジタル化したデジタル信号データ35の送信を要求
(ii)(i)のデジタルデータをエンベロープ処理を行って、高速フーリエ変換することによって得られる周波数スペクトルの送信を要求
(iii)(ii)の周波数スペクトルから得られる全周波数成分の実効値(RMS値)の送信を要求
(iv)(ii)の周波数スペクトルから得られる特定周波数f、f、fのいずれかの周波数成分の送信を要求
上記(i)~(iv)のコマンドは、図4を利用して述べられたスクリプトを利用することによっても実現可能である。例えば、(i)においては、図4の"getData"関数の出力値を"sendData"関数に読み込むスクリプトによって第2コマンドを実現可能である。(ii)においては、図4の"getFFT"の出力値を"sendData"関数に読み込むスクリプトによって第2コマンドを実現可能である。(iii)においては、図4の"getRMScalue"関数の出力値を"sendData"関数に読み込むスクリプトによって第2コマンドを実現可能である。(iv)においては、図4の"getFrequencyData(fft, fa)"、"getFrequencyData(fft, fb)"、及び、"getFrequencyData(fft, fc)"のいずれかの関数の出力値を"sendData"関数に読み込むスクリプトによって第2コマンドを実現可能である。なお、これらのスクリプトは第2コマンドの一例であって、バイナリコードなど別の方法によって第2コマンドが実現されてもよい。また、第2コマンドは、上記(i)~(iv)以外のコマンドを含むものであってもよい。
【0080】
信号処理装置3が第2コマンドを受信すると、信号処理装置3は、スクリプトエンジン37によって第2コマンドに記述された処理を実行する。そして、信号処理装置3は、簡易診断方法と同様の方法で、センサ14にセンサ起動コマンドを送信する(ステップS229)。なお、センサ14はセンサ起動コマンドの有無に関わらず常時センサ信号を信号処理装置3に出力している場合、ステップS229は省略されてもよい。ステップS14の終了後、信号処理装置3は、構成機器COMの異常の発生に関する状態記述簡易データをセンサ信号から生成する(ステップS25)。具体的には、信号処理装置3は、A/D変換する(ステップS151)とともに、信号から状態記述詳細データを生成する(ステップS252)。詳細には、信号処理装置3は、第2コマンドに応じて、構成機器COMの異常箇所を特定するための、状態記述簡易データよりも情報量の多い状態記述詳細データをセンサ14の信号から生成する。
【0081】
具体的には、第2コマンドが上記(i)のようなコマンドである場合、信号処理装置3は、センサ14の信号をデジタル化したデジタルデータを、状態記述詳細データとして、生成する。第2コマンドが上記(ii)のようなコマンドである場合、信号処理装置3は、周波数スペクトルを、状態記述詳細データとして、生成する。第2コマンドが上記(iii)のようなコマンドである場合、信号処理装置3は、実効値を、状態記述詳細データとして、生成する。第2コマンドが上記(iv)のようなコマンドである場合、信号処理装置3は、特定周波数f、f、fのいずれかの周波数成分を、状態記述詳細データとして生成する。なお、第2コマンドが上記(i)、(ii)、または、(iv)のいずれかのようなコマンドである場合、状態記述詳細データは、構成機器COMの異常に関係する複数の成分(例えば、特定周波数f、f、fのいずれかの周波数成分)を識別可能なように含んでいる。
【0082】
ステップS26において、信号処理装置3は、生成された状態記述詳細データを遠隔監視装置9に送信する。より詳細には、信号処理装置3は、上述する許可指令によって遠隔監視装置9に状態記述詳細データを送信することが許可されている間に、生成された状態記述詳細データを遠隔監視装置9に送信する。信号処理装置3は、上述する許可指令によって遠隔監視装置9に状態記述詳細データを送信することが許可されている間に、生成された状態記述詳細データを遠隔監視装置9に送信するように構成される。ステップS27において、遠隔監視装置9は、状態記述詳細データを解析する際に、状態記述簡易データを記憶装置7から取得する。具体的には、ステップS271において、遠隔監視装置9は、状態記述簡易データのリクエストメッセージを送信する。このリクエストメッセージは、構成機器COMを特定するための情報(IDなど)と、送信対象となる状態記述簡易データの期間を指定する情報とを少なくとも含む。ステップS272において、記憶装置7は、当該リクエストメッセージにて指定される状態記述簡易データを遠隔監視装置9に送信する。なお、ステップS27(ステップS271、S272)は省略可能である。ステップS28において、遠隔監視装置9は、受信した状態記述詳細データ、及び、状態記述簡易データを利用して、構成機器COMの状態を解析する。
<本実施形態の効果>
本実施形態に係る工作機械1、診断システム100、工作機械1の診断方法は、異常診断のためのセンサ信号処理を制御装置20とは別の信号処理装置3に分離して行わせることによって制御装置20の負荷をそれほど高くすることなく、工作機械1の簡易異常診断処理と遠隔診断装置による工作機械の詳細異常診断処理との両方を実現できる。さらに、工作機械1の動作のための入力と簡易異常診断結果の報知とを工作機械1の側で一元化することによって簡易異常診断の利便性を向上させることができる。
<変形例>
簡易診断回転数、成分特定情報26、閾値情報28、及び、簡易診断スクリプト36は、遠隔監視装置9から別のデータに差し替え可能であってもよい。合成情報27についても、別な合成情報27を記述するスクリプトのテンプレート(図4のスクリプトにおいて成分特定情報26及び閾値情報28を除く他のコードを含む情報)に遠隔監視装置9から差し替え可能であってもよい。成分特定情報26、合成情報27、及び、閾値情報28は1つの情報にまとめられてもよい。このような1つの情報の例として簡易診断スクリプト36そのものをメモリ22に格納することも考えられる。さらに、簡易診断プログラム25、簡易診断回転数、成分特定情報26、合成情報27、及び、閾値情報28は1つの簡易診断プログラム25としてメモリ22に記憶されていてもよい。簡易診断スクリプト36は、制御装置20以外から信号処理装置3に送信され、インストールされてもよい。
【0083】
上述の実施形態では、構成機器COMは主軸11を支持するベアリング13であったが他の部品であってもよい。また、構成機器COMはより大きな構成単位であってもよい。例えば、構成機器COMを主軸11であってもよい。ネットワーク5は必ずしも有線ネットワークでなくてもよく、無線ネットワークであってもよい。通信ネットワーク53はメーカとの専用回線や電話回線に代替されてもよい。上述の実施形態では、簡易診断回転数として予め定められた値が使用されているが、オペレータが入出力デバイス17から入力し、簡易診断プログラム25が第1コマンドを生成する処理を実行してもよい。
【0084】
上述の実施形態における特定周波数f、f、fの成分は、複数の部品のはめあいの異常の影響を受けやすい成分ではないが、複数の部品のはめあいの異常の影響を受けやすい成分も含んでもよい。例えば、ベアリング13の転動体13Bが保持器に保持されているときに保持器に欠陥がある場合(転動体13Bが本来あるべき場所からずれてモータ15の回転軸周りを公転している場合)、以下の周波数fの成分が欠陥の影響を受けやすいが、構成機器COMの異常に関係する複数の成分は、複数の部品のはめあいの異常の影響を受けやすい成分として、周波数fの成分を含んでもよい。
=(No/120)・(1-d・cosα/D) (4)
上述の制御プログラム24、簡易診断プログラム25、及び、セキュリティプログラム29の一部または全ての機能が専用のプロセッサや集積回路によって実現されてもよい。制御プログラム24、簡易診断プログラム25、及び、セキュリティプログラム29は、制御装置20に内蔵されたメモリ22にとどまらず、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROMおよび磁気ディスク等のディスク、SDカード、USBメモリ、外付けハードディスクなど制御装置20から取り外し可能で、制御装置20に読出可能な記憶媒体に記録されたものであってもよい。なお、制御装置20は、コンピュータの一例である。
【0085】
本願においては、「備える」およびその派生語は、構成要素の存在を説明する非制限用語であり、記載されていない他の構成要素の存在を排除しない。これは、「有する」、「含む」およびそれらの派生語にも適用される。
【0086】
「~部材」、「~部」、「~要素」、「~体」、および「~構造」という文言は、単一の部分や複数の部分といった複数の意味を有し得る。
【0087】
「第1」や「第2」などの序数は、単に構成を識別するための用語であって、他の意味(例えば特定の順序など)は有していない。例えば、「第1要素」があるからといって「第2要素」が存在することを暗に意味するわけではなく、また「第2要素」があるからといって「第1要素」が存在することを暗に意味するわけではない。
【0088】
程度を表す「実質的に」、「約」、および「およそ」などの文言は、実施形態に特段の説明がない限りにおいて、最終結果が大きく変わらないような合理的なずれ量を意味し得る。本願に記載される全ての数値は、「実質的に」、「約」、および「およそ」などの文言を含むように解釈され得る。
【0089】
本願において「A及びBの少なくとも一方」という文言は、Aだけ、Bだけ、及びAとBの両方を含むように解釈されるべきである。
【0090】
上記の開示内容から考えて、本発明の種々の変更や修正が可能であることは明らかである。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、本願の具体的な開示内容とは別の方法で本発明が実施されてもよい。
【要約】
工作機械は、工作機械のアクチュエータの動作に従って状態が変化する構成機器と、構成機器の状態を検出するように構成されるセンサと、センサの信号を処理するように構成される信号処理装置と、アクチュエータの動作を制御するように構成される制御装置と、アクチュエータの動作を制御装置に行わせるための命令を入力し、アクチュエータの動作状況を報知するように構成される入出力デバイスと、を備える。信号処理装置は、構成機器の異常の発生に関する状態記述簡易データを制御装置へ送信するように構成される。信号処理装置は、構成機器の異常箇所を特定するための状態記述詳細データを構成機器の状態を解析するための遠隔監視装置へ送信するように構成される。入出力デバイスは、制御装置に送信された状態記述簡易データに基づいて構成機器において異常が発生しているか否かをオペレータに報知するように構成される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6