(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-12
(45)【発行日】2022-07-21
(54)【発明の名称】歯科用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/54 20200101AFI20220713BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20220713BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20220713BHJP
A61K 6/891 20200101ALI20220713BHJP
C07D 303/28 20060101ALI20220713BHJP
C07D 301/00 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
A61K6/54
A61K6/60
A61K6/71
A61K6/891
C07D303/28 CSP
C07D301/00
(21)【出願番号】P 2021559310
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 EP2020060232
(87)【国際公開番号】W WO2020208175
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-12
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502289695
【氏名又は名称】デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】クレー,ヨアヒム・エー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルム,マティアス
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-520524(JP,A)
【文献】特表2007-515443(JP,A)
【文献】特開平08-003014(JP,A)
【文献】特開2009-215518(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108675970(CN,A)
【文献】Journal of Macromolecular Science, Part A (Pure and Applied Chemistry),1995年,Vol. 32: 8-9,pp. 1641-1648
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00- 6/90
C07D 301/00-301/36
C07D 303/00-303/48
C08G 59/00- 59/72
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種以上のジエポキシド、
(b)1種以上の第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミン、
(c)微粒子充填剤を含み、
ここで、1種以上のジエポキシドは、下記式(I):
【化25】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
L
1及びL
2は、複数のL
1及びL
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、独立して、二価の飽和C
2~10ヒドロカルビル基又はポリシロキサン基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示される化合物又はその塩から選択される、
歯科用根管充填組成物。
【請求項2】
式(I)で示される化合物又はその塩が、下記式(II):
【化26】
[式中、R及びmは、請求項1で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物
と、下記式(III)
【化27】
[式中、L
1及びaは、請求項1で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物と
の反応
生成物である、請求項1記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項3】
ジエポキシドが、下記式(IA):
【化28】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、複数のR
1及びR
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示される化合物又はその塩である、請求項1又は2記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項4】
mが3である、請求項1~3のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項5】
Rが、C
1~6アルコキシ基又はC
1~6アルキル基である、請求項1~4のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項6】
1種以上のジエポキシドが、下記式(IB):
【化29】
[式中、R
a、R
b及びR
cが、独立して、Rと同じ意味を有し、R
1、R
2、a、b及びnが、請求項3で定義されたとおりである]
で示される化合物又はその塩から選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項7】
成分(a)の1種以上のジエポキシドが、10Pa・s未満の23℃における動粘度を有する、請求項1~6のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項8】
20時間未満のゲル化時間を有する、請求項1~7のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項9】
下記構造:
【化30】
[式中、
R
5は、水素、又は置換もしくは非置換のC
1~C
18アルキル基、置換もしくは非置換のC
3~C
18シクロアルキル基、又は置換もしくは非置換のC
7~C
18アラルキル基を表わし、
R
6は
、置換もしくは非置換のC
1~C
18アルキレン基、又は置換もしくは非置換のシクロアルキレン基を表わし、
A’は、アミンとの付加反応が可能な化合物から誘導される部分、例えば、ジエポキシド又はポリエポキシドを表わし、
cは、
1~10の整数である]
の化合物の中から選択される脂肪族ポリアミンをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項10】
微粒子充填剤(c)がCaWO
4を含む、請求項1~9のいずれか一項記載の歯科用根管充填組成物。
【請求項11】
下記式(I):
【化31】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、複数のR
1及びR
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示されるジエポキシド又はその塩。
【請求項12】
歯内疾患の処置に使用するための、請求項11記載のジエポキシド。
【請求項13】
下記式(II):
【化32】
[式中、R及びmは、請求項1で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物を、過剰の下記式(III)
【化33】
[式中、R
1及びaは、請求項
3で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物と反応させることを含む、
請求項11記載のジエポキシドを製造するための方法。
【請求項14】
式(II)で示される化合物が、3,4,5-トリメトキシアニリンである、請求項
13記載の方法。
【請求項15】
第1のペーストと第2のペーストとを含む保存安定な二剤歯科用根管充填組成物であって、
これらのペーストはそれぞれ、20Pa・s未満の差で異なる23℃における動粘度を有し、
歯科用根管充填組成物が、請求項1~9のいずれか一項記載の組成物である、
保存安定な二剤歯科用根管充填組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、特定のジエポキシド化合物を含む歯科用根管充填組成物に関する。さらに、本発明は、特定のジエポキシド及び歯内疾患の処置における特定のジエポキシド化合物の使用に関する。さらに、本発明は、特定のジエポキシド化合物を製造するための方法に関する。最後に、本発明は、保存安定な二剤歯科用根管充填組成物に関し、ここで、2つのパックはそれぞれ、20Pa・s未満の差で異なる23℃における動粘度を有する。
【0002】
本発明の歯科用根管充填物は、エポキシド-アミン付加ポリマーを形成するように適合される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
一般的には、歯科用組成物は、強度及び外観に関して、自然な歯の構造に近づくのが望ましい。したがって、物理的及び機械的特性、生体適合性、美観及び取扱い特性に関して改善された特性を有する歯科用組成物の開発に向けられた多大な努力が、先行技術により書面化されている。
【0004】
根管充填組成物である歯科用組成物には、硬化した製品が高い放射線不透過性を有することが必要であり、組成物が硬化のために外部照射を必要としなくてもよいという、更なる要求がある。さらに、歯根管の密封をさらに改善するために、この組成物は、根管の壁に接着するのが望ましい。咀嚼及び温度変化の結果として、根管の形状が変化する場合があることを考慮すると、硬化した組成物は、根管の密封を損なうことなく、このような変化に耐えなければならない。
【0005】
したがって、このような更なる特性を提供するために、根管充填組成物は、硬化性マトリックス中に分散された放射線不透過性微粒子充填剤を含有する。しかしながら、放射線不透過性微粒子充填剤の分散により、充填剤の高密度及び硬化性マトリックスの低粘度のために、分散体の安定性の問題が生じる。
【0006】
さらに、光の不存在下で根管充填組成物を硬化可能なように、組成物は、エポキシド前駆体化合物を重合させるステップ成長を含む場合がある熱硬化メカニズムにより硬化される。
【0007】
歯科用根管のための先行技術の歯科用充填材料は、比較的長い硬化時間、高い粘度及び変色を有する。さらに、先行技術の二剤歯科用根管充填組成物のエポキシド及びアミンペーストは、異なるコンシステンシーを有する場合があり、分離の問題が生じる場合があり、これらの問題により、さらに、二剤歯科用根管充填組成物の使用中の取扱い問題を生じさせる場合がある。
【0008】
米国特許第5,624,976号には、根管密封歯科用充填組成物を開示されており、ここで、特定のアミン及びエポキシドが使用され、アミン-エポキシド付加ポリマーが、硬化中に形成される。
【0009】
現在、最良の全体特性を提供する歯科用根管充填材料のゴールドスタンダードは、AH Plus(登録商標)(Dentsply DeTrey, Konstanz/Germany)である。AH Plus(登録商標)の良好な全体特性は、特に、物理的及び機械的特性、硬化特性、例えば、ゲル化時間並びに取扱い特性、例えば、流動特性及び粘度特性に関する。良好な全体特性は、充填剤の組成及びAH Plus(登録商標)組成物の硬化プロセス中に形成されるエポキシド-アミン付加ポリマーの構造に大きく依存する。AH Plus(登録商標)歯科用根管充填組成物は、アミンペーストとエポキシドペーストとからなる。AH Plus(登録商標)エポキシドペーストは、主成分としてビスフェノールAジグリシジルエーテル(CAS:25068-38-6)を含む。したがって、AH Plus(登録商標)組成物の硬化プロセス中に形成されるエポキシド-アミン付加ポリマーの大部分は、ビスフェノールA部分に基づいている。この事実により、AH Plus(登録商標)組成物の良好な全体特性は、ビスフェノールA部分に大きく依存する。
【0010】
しかしながら、ビスフェノールAは、エストロゲンを模倣するおそれがあり、健康への負の影響をもたらすおそれがある公知の内分泌撹乱物質である。より具体的には、ビスフェノールAは、天然ホルモンと同じエストロゲンレセプターに結合し、このレセプターを活性化する能力を有するホルモンであるエストラジオールの構造及び機能を模倣する。ビスフェノール-Aの機能的関連性に基づいて、ビスフェノール-Aは、乳ガンの進行に寄与する可能性があると考えられる。したがって、規制当局は、ヒトに対するビスフェノール-Aの安全レベルを決定している場合があり、その結果、歯科用組成物におけるビスフェノールAを含有するビスフェノールAベースの材料の使用を将来にわたって継続することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
本発明の課題は、物理的及び機械的特性、生体適合性、美観及び取扱い特性に関して優れた特性を有する歯科用根管充填組成物を提供することである。
【0012】
本発明の更なる課題は、高い放射線不透過性、高い保存安定性、低い収縮及び可撓性、比較的短い硬化時間を有し、光の不存在下で硬化させることができる、歯科用根管充填組成物を提供することである。
【0013】
さらに、本発明の課題は、調節可能な作業時間及び硬化時間、適切な粘度を有し、着色の問題を示さない、歯科用根管充填組成物を提供することである。
【0014】
本発明の更なる課題は、費用効率が高く、単純であり、工業的に関連する規模で入手可能な、歯科用根管充填組成物を提供することである。
【0015】
さらに、本発明の課題は、アミン及びエポキシドペーストが十分な混和性を示し、したがって、取扱い上の問題を回避することができる、二剤歯科用根管充填組成物を提供することである。
【0016】
本発明の更なる課題は、AH Plus(登録商標)組成物と比較して同等及び/又は改善された全体特性を有し、同時にビスフェノールAを含まない、歯科用根管充填組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の課題は、
(a)1種以上のジエポキシド、
(b)1種以上の第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミン、
(c)微粒子充填剤を含み、
ここで、1種以上のジエポキシドは、下記式(I):
【化1】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
L
1及びL
2は、複数のL
1及びL
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、独立して、二価の飽和C
2~10ヒドロカルビル基又はポリシロキサン基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示される化合物又はその塩から選択される、歯科用根管充填組成物により解決することができることが見出された。
【0018】
ビスフェノールA部分を含まない式(I)で示される1種以上のジエポキシドを使用することにより、AH Plus(登録商標)組成物と比較して同等及び/又は改善された全体特性を有する歯科用根管充填組成物を提供することができることが見出された。したがって、該歯科用根管充填組成物は、AH Plus(登録商標)又は他のビスフェノールA含有歯科用根管充填組成物と比較して、改善された生体適合性を有する。
【0019】
さらに、本発明は、成分(a)の1種以上のジエポキシドが10Pa・s未満の23℃における動粘度を有する、歯科用根管充填組成物を提供する。
【0020】
10Pa・s未満の23℃における動粘度を有する成分(a)の1種以上のジエポキシドは、二剤歯科用根管充填組成物に特に有用であることが見出された。このような低粘度を有する1種以上のジエポキシドの使用により、エポキシドペーストと一般的に使用されるアミンペーストとの十分な混和性がもたらされ、したがって、二剤歯科用根管充填組成物の使用中の取扱い上の問題を回避することができることが見出された。
【0021】
さらに、歯科用根管充填組成物における10Pa・s未満の23℃における動粘度を有するジエポキシドの使用により、歯科用根管充填組成物の優れた保存安定性がもたらされることが見出された。
【0022】
さらに、本発明は、下記式(I):
【化2】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、複数のR
1及びR
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示されるジエポキシド又はその塩を提供する。
【0023】
さらに、本発明は、歯内疾患の処置に使用するための、本発明のジエポキシドの使用を提供する。
【0024】
さらに、本発明は、下記式(II):
【化3】
[式中、R及びmは、上記定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物を過剰の下記式(III)
【化4】
[式中、R
1及びaは、上記定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物と反応させることを含む、本発明のジエポキシドを製造するための方法を提供する。
【0025】
最後に、本発明は、第1のペーストと第2のペーストとを含む保存安定な二剤歯科用根管充填組成物であって、これらのペーストがそれぞれ、20Pa・s未満の差で異なる23℃における動粘度を有し、ここで、歯科用根管充填組成物が本明細書で定義された組成物である、保存安定な二剤歯科用根管充填組成物を提供する。
【発明の効果】
【0026】
第1のペーストと第2のペーストとの間の粘度の差が20Pa・s未満と小さいことにより、第1のペーストと第2のペーストとの十分な混和性がもたらされ、したがって、二剤歯科用根管充填組成物の使用中の取扱い上の問題を回避することができることが見出された。さらに、このような二剤歯科用根管充填組成物は、優れた保存安定性を示すことが見出された。
【0027】
本発明は、式(I)で示される1種以上のジエポキシドを含む歯科用根管充填組成物により、AH Plus(登録商標)組成物と比較して同等及び/又は改善された全体特性並びに改善された生体適合性を有するビスフェノールAを含まない歯科用根管充填組成物が提供されるという認識に基づいている。さらに、本発明は、式(I)で示される化合物を含む歯科用根管充填組成物により、物理的及び機械的特性、生体適合性、美観、取扱い特性に関して優れた特性を有し、高い放射線不透過性、高い保存安定性、低い収縮性及び可撓性、比較的短い硬化時間を有し、光の不存在下で硬化させることができる歯科用根管充填組成物が提供されるという認識に基づいている。さらに、本発明の歯科用根管充填組成物は、調節可能な作業時間及び硬化時間、適切な粘度を提供し、着色の問題を示さない。さらに、本発明は、費用効率が高く、単純であり、工業的に関連する規模で入手可能な硬化性歯科用根管充填組成物を提供する。
【0028】
式(I)で示される化合物から選択される1種以上のジエポキシドを、有利に低粘度を有するエポキシドペーストを提供するのに使用することができる。エポキシドペーストの低粘度により、一般的には、より良好な保存安定性を有する歯科用根管充填組成物がもたらされる。さらに、式(I)で示される化合物から選択されるジエポキシドを、保存安定な二剤歯科用根管充填組成物を提供するのに使用することができ、ここで、エポキシドペーストとアミンペーストとの間の動粘度の差を非常に小さく維持することができる。これにより、2つのペーストのより良好な混和性、したがって、二剤組成物のより良好な取扱い特性がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、エポキシド官能性プレポリマー(Pre-TMA-PPO)の合成及び粘度のモニタリングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は、特定のジエポキシド化合物を含む歯科用根管充填組成物に関する。本発明の歯科用根管充填物は、エポキシド-アミン付加ポリマーを形成するように適合される。さらに、本発明は、特定のジエポキシド及び歯内疾患の処置における特定のジエポキシド化合物の使用に関する。さらに、本発明は、特定のジエポキシド化合物を製造するための方法に関する。最後に、本発明は、保存安定な二剤歯科用根管充填組成物に関し、ここで、二剤はそれぞれ、20Pa・s未満の差で異なる23℃における動粘度を有する。
【0031】
「重合」及び「重合可能」という用語は、多数のより小さい分子、例えば、モノマーを共有結合して、より大きい分子、すなわち、高分子又はポリマーを形成することによる結合に関する。モノマーは、線状高分子のみを形成するように結合させることができ、又はそれらは、架橋ポリマーと一般に呼ばれる三次元高分子を形成するように結合させることができる。例えば、二官能性モノマーは、線状ポリマーを形成し、一方、少なくとも3つの官能基を有するモノマーは、ネットワークとしても公知の架橋ポリマーを形成する。重合性モノマーの変換率がより高い場合、多官能性モノマーの量を減少させることができ、又は漏出の問題を軽減することができる。
【0032】
「硬化」という用語は、モノマーのような官能性重合性化合物、オリゴマー、さらにはポリマーを、ポリマーネットワーク、好ましくは、架橋ポリマーネットワークへと重合させることを意味する。
【0033】
「作業時間」とは、ポリマー及び修飾された微粒子反応性充填剤が水の存在下で混合された時の硬化反応の開始時点と、系に対して更なる物理的作業を行うこと、例えば、それを撹拌するか又はそれを再成形することが、その意図された歯科又は医療用途のためにもはや実用的でなくなるまで、硬化反応が進行する時点との間の時間である。
【0034】
「硬化時間」とは、修復物中での硬化反応の開始から、修復物の表面上でその後の臨床的又は外科的処置が行われることを可能にするのに十分な硬化が起こった時間までにかかる時間である。硬化反応では、重合性基の存在により、重合反応が起こる。重合反応に加えて、ガラスアイオノマーセメントにおいては、硬化反応は、酸基、例えば、重合性化合物の、反応性微粒子ガラスの形態にある塩基による中和をさらに含む。
【0035】
本明細書で使用する場合、「保存安定性」という用語は、歯科用組成物が例えば、約2年の長い保存時間の後であっても、その特性、特に、その作業時間及び硬化時間を維持することを意味する。
【0036】
1種以上のジエポキシド
本発明の歯科用根管充填組成物は、1種以上のジエポキシドを含み、ここで、1種以上のジエポキシドは、下記式(I):
【化5】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
L
1及びL
2は、複数のL
1及びL
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、独立して、二価の飽和C
2~10ヒドロカルビル基又はポリシロキサン基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示される化合物又はその塩から選択される。
【0037】
ジエポキシドは、式(I)で示される化合物又はその塩であり、好ましくは、ジエポキシドは、式(I)で示される化合物である。
【0038】
式(I)で示される化合物において、Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C1~6アルコキシ基、C1~6アルキル基、ジ-C1~6アルキルアミノ基もしくはC6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよい。
【0039】
好ましくは、Rは、ヒドロキシル基、C1~6アルコキシ基、C1~6アルキル基、ジ-C1~6アルキルアミノ基又はC6~10アリール基であり、より好ましくは、Rは、ヒドロキシル基、C1~6アルコキシ基、C1~6アルキル基又はジ-C1~6アルキルアミノ基であり、さらにより好ましいRは、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基であり、特に、Rは、C1~6アルコキシ基である。
【0040】
特に好ましい実施形態では、Rは、C1~3アルコキシ基であり、さらにより好ましいRは、メトキシ基である。
【0041】
式(I)で示される化合物において、L1及びL2は、複数のL1及びL2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、独立して、二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基又はポリシロキサン基を表わす。
【0042】
好ましくは、L1及びL2は、独立して、二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基を表わす。
【0043】
L1及びL2の二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基は、O、S及びNの基から選ばれる5個までのヘテロ原子を含有するC2~10ヒドロカルビル基とすることができる。L1及びL2の二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基は、C2~10脂肪族基又はC3~10環状脂肪族基とすることができる。
【0044】
好ましい実施態様では、L1及びL2の二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基は、C2~10脂肪族基、より好ましくは、C2~6脂肪族基、さらにより好ましくは、C2~4脂肪族基、さらにより好ましくは、C2~3脂肪族基、最も好ましくは、C3脂肪族基である。
【0045】
特に好ましい実施態様では、L
1及びL
2の二価の飽和C
2~10ヒドロカルビル基は、下記基:
【化6】
である。
【0046】
好ましい実施態様では、L1及びL2の二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基は、C3~10環状脂肪族基、より好ましくは、C3~6環状脂肪族基、さらにより好ましくは、C4~6環状脂肪族基、特に、C6環状脂肪族基である。
【0047】
好ましい実施態様では、L1及びL2の二価の飽和C2~10ヒドロカルビル基は、ポリシロキサン基である。好ましくは、L1及びL2のポリシロキサン基は、式[-OSiR’2]z-で示される基である。式中、R’は、C1~4アルキル基を表わし、zは、2~20の整数であり、好ましくは、zは、2~10の整数であり、より好ましくは、2~6の整数である。
【0048】
式(I)で示される化合物において、aは、少なくとも1の整数であり、好ましくは、aは、1~20の整数であり、より好ましくは、aは、1~10の整数であり、さらにより好ましくは、aは、5~10の整数であり、特に、aは、9である。
【0049】
式(I)で示される化合物において、bは、少なくとも2の整数であり、好ましくは、bは、2~20の整数であり、より好ましくは、bは、2~10の整数であり、さらにより好ましくは、bは、5~10の整数であり、特に、bは、9である。
【0050】
式(I)で示される化合物において、mは、1~3の整数であり、好ましくは、mは、2~3の整数であり、より好ましくは、mは、3である。
【0051】
式(I)で示される化合物において、nは、1~1000の整数であり、好ましくは、nは、1~500の整数であり、より好ましくは、nは、1~100の整数であり、さらにより好ましくは、nは、1~50の整数であり、特に、nは、1~10の整数である。
【0052】
本発明の実施態様では、1種以上のジエポキシドは、式(I)で示される化合物の塩である。式(I)で示される化合物の塩は、歯科用途に適した任意の塩とすることができる。
【0053】
さらに、本発明は、式(I)で示される化合物又はその塩が下記式(II):
【化7】
[式中、R及びmは、式(I)で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物を過剰の下記式(III)
【化8】
[式中、L
1及びaが、式(I)で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物と反応させることにより得られる、歯科用根管充填組成物を提供する。
【0054】
式(I)で示される化合物の塩が、上記された方法により合成される場合、式(II)で示される化合物と式(III)で示される化合物とを反応させた後、続けて、酸を加えて、式(I)で示される化合物の塩を形成する。
【0055】
さらに、本発明は、ジエポキシドが下記式(IA):
【化9】
[式中、
Rは、複数のRが存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキル基、ジ-C
1~6アルキルアミノ基もしくはC
6~10アリール基を表わし、又は2つのR同士が連結し、それらが結合している炭素原子と共に、酸素原子及び硫黄原子から選択される1つもしくは2つのヘテロ原子を含有してもよい5~7員の環を形成してもよく、
R
1及びR
2は、複数のR
1及びR
2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
aは、少なくとも1の整数であり、
bは、少なくとも2の整数であり、
mは、1~3の整数であり、
nは、1~1000の整数である]
で示される化合物又はその塩である、歯科用根管充填組成物を提供する。
【0056】
本発明の一実施態様では、ジエポキシドは、式(IA)で示される化合物又はその塩であり、好ましくは、ジエポキシドは、式(IA)で示される化合物である。
【0057】
式(IA)で示される化合物において、Rは、式(I)におけるRの定義に従って定義される。
【0058】
式(IA)で示される化合物において、R1及びR2は、複数のR1及びR2が存在する場合、同じであっても異なっていてもよく、水素原子又はC1~6アルキル基を表わす。好ましくは、R1及びR2は、水素原子又はC1~3アルキル基を表わし、より好ましくは、R1及びR2は、水素原子又はC1アルキル基を表わし、特に、R1及びR2は、メチル基を表わす。
【0059】
式(IA)で示される化合物において、aは、式(I)におけるaの定義に従って定義される。
【0060】
式(IA)で示される化合物において、bは、式(I)におけるbの定義に従って定義される。
【0061】
式(IA)で示される化合物において、mは、式(I)におけるmの定義に従って定義される。
【0062】
式(IA)で示される化合物において、nは、式(I)におけるnの定義に従って定義される。
【0063】
本発明の実施態様では、1種以上のジエポキシドは、式(IA)で示される化合物の塩である。式(IA)で示される化合物の塩は、歯科用途に適した任意の塩とすることができる。
【0064】
さらに、本発明は、1種以上のジエポキシドが下記式(IB):
【化10】
[式中、R
a、R
b及びR
cは、独立して、式(I)におけるRと同じ意味を有し、R
1、R
2、a、b及びnは、式(IA)で定義されたとおりである]
で示される化合物又はその塩から選択される、歯科用根管充填組成物を提供する。
【0065】
本発明の一実施態様では、ジエポキシドは、式(IB)で示される化合物又はその塩であり、好ましくは、ジエポキシドは、式(IB)で示される化合物である。
【0066】
本発明の実施態様では、1種以上のジエポキシドは、式(IB)で示される化合物の塩である。式(IB)で示される化合物の塩は、歯科用途に適した任意の塩とすることができる。
【0067】
特に好ましい実施態様では、1種以上のジエポキシドは、下記式(IC):
【化11】
[式中、R
a、R
b及びR
cは、独立して、式(I)におけるRと同じ意味を有し、nは、式(I)におけるnと同じ意味を有する]
で示される化合物又はその塩から選択される。
【0068】
本発明の一実施態様では、ジエポキシドは、式(IC)で示される化合物又はその塩であり、好ましくは、ジエポキシドは、式(IC)で示される化合物である。
【0069】
好ましくは、式(IC)で示される化合物において、Ra、Rb及びRcは、独立して、ヒドロキシル基、C1~6アルコキシ基、C1~6アルキル基、ジ-C1~6アルキルアミノ基を表わし、より好ましいRa、Rb及びRcは、独立して、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基を表わし、特に、Rは、C1~6アルコキシ基である。
【0070】
特に好ましい実施態様では、式(IC)で示される化合物において、Ra、Rb及びRcは、独立して、C1~3アルコキシ基を表わし、さらにより好ましいRa、Rb及びRcは、メトキシ基である。
【0071】
本発明の実施態様では、1種以上のジエポキシドは、式(IC)で示される化合物の塩である。式(IC)で示される化合物の塩は、歯科用途に適した任意の塩とすることができる。
【0072】
別の特に好ましい実施態様では、式(I)で示される1種以上のジエポキシドは、下記式:
【化12】
[式中、nは、式(I)で定義されたとおりである]
で示される化合物である。
【0073】
さらに、本発明は、成分(a)の1種以上のジエポキシドが10Pa・s未満の23℃における動粘度を有する、歯科用根管充填組成物を提供する。好ましくは、成分(a)の1種以上のジエポキシドは、9Pa・s未満の23℃における動粘度を有し、より好ましくは、成分(a)の1種以上のジエポキシドは、8Pa・s未満の23℃における動粘度を有する。
【0074】
さらに、本発明は、式(I)で示されるジエポキシド又はその塩を提供する。好ましくは、本発明は、式(IA)で示されるジエポキシド又はその塩を提供し、より好ましくは、本発明は、式(IB)で示されるジエポキシド又はその塩を提供し、さらにより好ましくは、本発明は、式(IC)で示されるジエポキシド又はその塩を提供し、特に、本発明は、下記式
【化13】
[式中、nは、式(I)で定義されたとおりである]
で示されるジエポキシド又はその塩を提供する。
【0075】
好ましい実施態様では、本発明は、式(I)で示されるジエポキシド、好ましくは、式(IA)で示されるジエポキシド、さらにより好ましくは、式(IB)で示されるジエポキシド、さらにより好ましくは、式(IC)で示されるジエポキシドを提供し、特に、本発明は、下記式
【化14】
[式中、nは、式(I)で定義されたとおりである]
で示されるジエポキシドを提供する。
【0076】
さらに、本発明は、歯内疾患の処置に使用するための、式(I)で示されるジエポキシド又はその塩を提供する。好ましくは、本発明は、歯内疾患の処置に使用するための、式(I)で示されるジエポキシドを提供する。
【0077】
特に好ましい実施態様では、本発明は、歯内疾患の処置に使用するための、下記式:
【化15】
[式中、nは、式(I)で定義されたとおりである]
で示されるジエポキシド化合物又はその塩を提供する。
【0078】
特に好ましい実施態様では、本発明は、歯内疾患の処置に使用するための、下記式:
【化16】
[式中、nは、式(I)で定義されたとおりである]
で示されるジエポキシド化合物を提供する。
【0079】
さらに、本発明は、下記式(II):
【化17】
[式中、R及びmは、式(I)で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物を、過剰の下記式(III)
【化18】
[式中、R
1及びaは、式(I)で定義されたとおりである]
で示される1種以上の化合物と反応させることを含む、式(I)で示されるジエポキシド又はその塩を製造するための方法を提供する。
【0080】
式(I)で示される化合物の塩が、該方法により合成される場合、式(II)で示される化合物と式(III)で示される化合物とを反応させた後、続けて、酸を加えて、式(I)で示される化合物の塩を形成する。
【0081】
好ましい実施態様では、本発明によれば、式(I)で示されるジエポキシドを製造するための方法において、式(II)で示される化合物は、3,4,5-トリメトキシアニリン(CAS:24313-88-0)である。
【0082】
1種以上の第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミン
本発明の歯科用根管充填組成物は、第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミンを含む。第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミンは、歯科用途に適しかつ/又は当技術分野において公知の任意の第一級モノアミン及び/又は第二級ジアミンとすることができる。
【0083】
好ましい実施態様では、本発明の歯科用根管充填組成物は、ベンジルアミン、1-アミノアダマンタン、α-フェニルエチルアミン、ジメチル(アミノメチル)ホスフィンオキシド及びエタノールアミンからなる群より選択される第一級モノアミンを含む。
【0084】
好ましい実施態様では、本発明の歯科用根管充填組成物は、下記式:
Q-NH2
[式中、Qは、O、S、N及びSiからなる群より選択される10個までのヘテロ原子を含有してもよいC2~20ヒドロカルビル基である]
で示される第一級モノアミンを含む。C2~20ヒドロカルビル基は、C2~20アルキル基、C3~10シクロアルキル基、又はC6~20アリールアルキル基とすることができる。C2~20ヒドロカルビル基は、置換されていてもよく、非置換でもよい。C2~20ヒドロカルビル基は、ヒドロキシル基、第三級アミン基、ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C3~10シクロアルキル基、C5~10アリール基、C6~11アリールアルキル基、C1~6アルコキシ基により置換されていてもよい。
【0085】
好ましい実施態様では、本発明の歯科用根管充填組成物は、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N,N’-ジベンジル-3,6-ジオキサオクタンジアミン-1,8,N,N’-ジベンジル-5-オキサノナンジアミン-1,9(CAS:113506-22-2)、N,N’-ジベンジル-(2,2,4)トリメチルヘキサメチルジアミン、N,N’-ジベンジル-(2,4,4)トリメチルヘキサメチレンジアミンからなる群より選択される第二級ジアミンを含む。
【0086】
好ましい実施態様では、本発明の歯科用根管充填組成物は、下記式(IV):
【化19】
[式中、
Aは、二価で置換又は非置換のC
2~30ヒドロカルビル基であり、
R
3及びR
4は、同じであっても異なっていてもよく、独立して、C
1~10アルキル基、C
3~10シクロアルキル基、又はC
6~11アリールアルキル基を表わす]
で示される第二級ジアミンを含む。
【0087】
式(IV)で示される化合物において、Aは、N、O、S、Siからなる群より選択される10個までのヘテロ原子を含有してもよい二価で置換又は非置換のC2~30ヒドロカルビル基である。好ましくは、Aは、二価で非置換のC2~30ヒドロカルビル基である。
【0088】
本発明の一実施態様では、式(IV)で示される化合物において、Aは、二価で置換のC2~30ヒドロカルビル基であり、ここで、置換基は、ヒドロキシル基、第三級アミン基、ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C3~10シクロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C5~10アリール基、C6~11アリールアルキル基からなる群より選択される。
【0089】
式(IV)で示される化合物において、Aは、二価で置換又は非置換のC2~30ヒドロカルビル基を表わし、ここで、C2~30ヒドロカルビル基は、C2~30アルキリデン基、C3~10シクロアルキリデン基、C7~30アリールアルキリデン基である。
【0090】
式(IV)で示される化合物において、R3及びR4は、同じであっても異なっていてもよく、独立して、C1~10アルキル基、C3~10シクロアルキル基、又はC6~11アリールアルキル基を表わす。C1~10アルキル基、C3~10シクロアルキル基、又はC6~11アリールアルキル基は、置換されていてもよく、非置換でもよい。好ましくは、C1~10アルキル基、C3~10シクロアルキル基、又はC6~11アリールアルキル基は非置換である。C1~10アルキル基、C3~10シクロアルキル基、又はC6~11アリールアルキル基が置換されている場合、置換基は、ヒドロキシル基、第三級アミン基、ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C3~10シクロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C5~10アリール基又はC6~11アリールアルキル基からなる群より選択される。
【0091】
微粒子充填剤
本発明による歯科用根管充填組成物は、微粒子充填剤をさらに含む。本発明の歯科用根管充填組成物中の充填剤は、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意の充填剤とすることができる。
【0092】
特定の実施態様では、本発明の充填剤は、放射線不透過性微粒子充填剤である。本発明の放射線不透過性充填剤は、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意の放射線不透過性充填剤とすることができる。
【0093】
放射線不透過性微粒子充填剤は、通常、例えば、電子顕微鏡を使用することにより、又はMALVERN Mastersizer SもしくはMALVERN Mastersizer 2000装置により具体化された従来のレーザー回折粒子サイズ測定法を使用することにより測定されたとき、0.005~100μm、好ましくは、0.01~40μmの平均粒径を有する。放射線不透過性微粒子充填剤は、異なる平均粒径を有する複数の放射線不透過性微粒子画分の混合物を表わすマルチモーダル放射線不透過性微粒子充填剤とすることができる。また、放射線不透過性粒子充填剤は、異なる化学組成の粒子の混合物であってもよい。
【0094】
放射線不透過性充填剤は、亜鉛、イッテルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ジルコニウム、ストロンチウム、タングステン、タンタル、トリウム、ニオブ、バリウム、ビスマス、モリブデン及びランタン金属、それらの合金、それらの有機金属錯体、酸化物、サルファート、カーボナート、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、亜硝酸塩、タングステン酸塩及びその炭化物、ヨウ素及び無機ヨウ化物のいずれかから、単独で又は組み合わせてのいずれかで選択することができる。好ましい実施態様では、放射線不透過性充填剤は、三酸化ビスマス、炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、亜硝酸ビスマス、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムのいずれかから、単独で又は組み合わせてのいずれかで選択される。さらにより好ましい実施態様では、放射線不透過性充填剤は、タングステン酸バリウム及びタングステン酸カルシウムのいずれかから、単独で又は組み合わせてのいずれかで選択される。好ましくは、放射線不透過性充填剤は、CaWO4である。
【0095】
本発明の歯科用根管充填組成物は、組成物全体の重量に基づいて、好ましくは、1~85重量%、より好ましくは、40~85重量%、さらにより好ましくは、40~70重量%の放射線不透過性微粒子充填剤を含む。
【0096】
更なる成分
脂肪族ポリアミン
本発明の歯科用根管充填組成物は、脂肪族ポリアミンをさらに含むことができる。脂肪族ポリアミンは、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意の脂肪族ポリアミンとすることができる。
【0097】
特定の実施態様では、脂肪族ポリアミンは、下記構造:
【化20】
[式中、
R
5は、水素又は置換もしくは非置換のC
1~18アルキル基、置換もしくは非置換のC
3~18シクロアルキル基、又は置換もしくは非置換のC
7~18アリールアルキル基であり、
R
6は、二官能性置換もしくは非置換のC
1~C
18アルキレン基、又は置換もしくは非置換のシクロアルキレン基であり、
A’ は、アミンとの付加反応が可能な化合物から誘導される部分、例えば、ジエポキシド又はポリエポキシドであり、
cは、整数である]
で示される化合物の中から選択される。
【0098】
上記構造の脂肪族ポリアミンにおいて、好ましくは、R5は、水素、置換もしくは非置換のC3~18シクロアルキル基、又はC7~18アリールアルキル基である。より好ましくは、R5は、置換もしくは非置換のC3~18シクロアルキル基、又は置換もしくは非置換のC7~18アリールアルキル基である。さらにより好ましくは、R5は、置換又は非置換のC7~18アリールアルキル基である。特に好ましい実施態様では、R5は、非置換のC7~18アリールアルキル基である。
【0099】
上記構造の脂肪族ポリアミンにおいて、好ましくは、R6は、二官能性置換又は非置換のC1~C18アルキレン基であり、より好ましくは、R6は、二官能性非置換のC1~C18アルキレン基である。
【0100】
上記構造の脂肪族ポリアミンにおいて、A’は、アミンとの付加反応が可能な化合物から誘導される部分、例えば、ジエポキシド又はポリエポキシドである。ジエポキシド又はポリエポキシドは、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意のジエポキシド又はポリエポキシドとすることができる。好ましくは、A’は、ジエポキシドとアミンとの付加反応から誘導される部分である。
【0101】
好ましい実施態様では、A’は、ジエポキシドとアミンとの付加反応から誘導される部分であり、ここで、A’は、下記部分:
【化21】
のうちの1つを含有する部分である。
【0102】
上記構造の脂肪族ポリアミンにおいて、cは、整数である。好ましくは、cは、1~10の整数であり、より好ましくは、cは、2~8の整数であり、さらにより好ましくは、cは、4~6の整数である。
【0103】
脂肪族ジアミン
特に好ましい実施態様では、本発明の歯科用根管充填組成物は、1種以上の第一級脂肪族ジアミンを含む。好ましくは、該歯科用根管組成物は、1種の第一級脂肪族ジアミンを含む。
【0104】
好ましくは、第一級脂肪族ジアミンは、下記式(V):
【化22】
[式中、Q’は、置換もしくは非置換のC
3~20アルキレン基、又は置換もしくは非置換のC
3~20シクロアルキレン基を表わし、ここで、置換C
3~20アルキレン基及び置換C
3~20シクロアルキレン基は、1つ以上のフッ素原子、ヒドロキシ基、C
1~6アルキル基、C
3~12シクロアルキ基、C
1~6アルコキシ基、C
1~6アルキルチオ基、C
6~10アリール基、C
6~10アリールオキシ基、C
7~14アリールアルキル基又はC
7~14アリールアルコキシ基により置換されていてもよい]
で示される化合物である。
【0105】
式(V)で示される化合物において、好ましくは、Q’は、置換又は非置換のC3~20シクロアルキレン基を表わし、より好ましくは、Q’は、置換シクロアルキレン基を表わし、さらにより好ましくは、Q’は、置換シクロアルキレン基を表わし、ここで、置換基は、1つ以上のC1~6アルキル基、C3~12シクロアルキル基とすることができる。
【0106】
特に好ましい実施態様では、本発明の歯科用組成物は、オクタヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンジメチルアミン(CAS:68889-71-4)及びイソホロンジアミン(CAS:2855-13-2)からなる群より選択される第一級脂肪族ジアミンを含む。
【0107】
1種以上のジエポキシド又はポリエポキシド
本発明の歯科用根管充填組成物は、1種以上のジエポキシド又はポリエポキシドを含むことができる。1種以上のジエポキシド又はポリエポキシドは、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意のジエポキシド又はポリエポキシドとすることができる。
【0108】
特定の実施態様では、1種以上のジエポキシド又はポリエポキシドは、下記式(VI):
【化23】
[式中、
Q’’ は、(m+1)価の有機基であり、
R
7、R
8及びR
9は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
R
10、R
11及びR
12は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子又はC
1~6アルキル基を表わし、
dは、1~3の整数である]
で示される化合物である。
【0109】
式(VI)で示される化合物において、Q’’は、(m+1)価の有機基を表わす。好ましくは、Q’’は、二価の有機基又は三価の有機基を表わし、より好ましくは、Q’’は、二価の有機基を表わす。
【0110】
(m+1)価の有機基は、1~40個の炭素原子、好ましくは、2~20個の炭素原子の総数を有する基とすることができる。有機基は、脂肪族、脂環式もしくは芳香族部分又は複数のこのような部分の組み合わせを含むことができる。有機基は、1つ以上の官能基、例えば、アミド基、エステル基、ウレタン基、尿素基、ケト基、エーテル基、チオエーテル基、カーボナート基又は第三級アミノ基をさらに含むことができ、これらにより、複数の脂肪族、脂環式又は芳香族部分が連結される。さらに、有機基は、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C1~6アルキルチオ基、C6~10アリール基、C6~10アリールオキシ基、C7~14アリールアルキル基、又はC7~14アリールアルコキシ基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0111】
好ましくは、(m+1)価の有機基は、脂環式又は芳香族部分を含むことができ、より好ましくは、(m+1)価の有機基は、芳香族部分を含む。
【0112】
一実施態様では、Q’’は、下記基:
【化24】
を表わす。
【0113】
式(VI)で示される化合物において、mは、1~3の整数である。好ましくは、mは、1~2の整数であり、より好ましくは、mは、1である。
【0114】
式(VI)で示される化合物において、R7、R8及びR9は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、又はC1~6アルキル基を表わす。好ましくは、R7、R8及びR9は、水素原子を表わす。特定の好ましい実施態様では、R7、R8及びR9の3つ全てが、水素原子を表わす。
【0115】
式(VI)で示される化合物において、R10、R11及びR12は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、水素原子、又はC1~6アルキル基を表わす。さらに、式(VI)で示される化合物において、複数のR10が存在する場合、複数のR10は異なっていてもよい。式(VI)で示される化合物において、複数のR11が存在する場合、複数のR11は異なっていてもよい。式(VI)で示される化合物において、複数のR12が存在する場合、複数のR12は異なっていてもよい。好ましくは、R10、R11及びR12は、水素原子を表わす。特に好ましい実施態様では、存在するR10、R11及びR12部分の全てが、水素原子である。
【0116】
特に好ましい実施態様では、式(VI)で示される化合物は、ビス-[4-(-2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-メタン(CAS:9003-36-5)である。
【0117】
更なる任意の成分
本発明の歯科用根管充填組成物は、上記された成分に加えて、追加の任意成分を含むことができる。本発明の歯科用根管充填組成物は、場合により、歯科用途に適しておりかつ/又は当技術分野において公知の任意の添加剤を含有することができる。
【0118】
例えば、本発明の歯科用根管充填組成物は、水又は当技術分野において公知の任意の溶媒を含むことができる。本発明の歯科用根管充填組成物は、好ましくは、組成物の総重量に基づいて、5~20重量%の水又は当技術分野において公知の任意の溶媒を含むことができる。
【0119】
場合により、該歯科用根管充填組成物は、安定剤及び/又は色素をさらに含むことができる。
【0120】
本発明の歯科用根管充填組成物は、最長20時間のゲル化時間を有する。好ましくは、本発明の歯科用根管充填組成物は、最長18時間のゲル化時間を有し、より好ましくは、本発明の歯科用根管充填組成物は、最長15時間のゲル化時間を有する。
【0121】
最後に、本発明は、第1のペーストと第2のペーストとを含む保存安定な二剤歯科用根管充填組成物であって、これらのペーストがそれぞれ20Pa・s未満の差で異なる23℃における動粘度を有し、ここで、歯科用根管充填組成物が本発明で定義された組成物である、保存安定な二剤歯科用根管充填組成物を提供する。
【0122】
ここから、本発明を下記の例によりさらに説明する。
【実施例】
【0123】
例
下記セクションにおいて、体温での16時間未満の硬化時間、AH Plus(登録商標)と同等の流動挙動(19~25mm)、アミン樹脂の高い樹脂粘度及びエポキシド樹脂のわずかに減少した樹脂を伴う特許請求された特性を満たすとの、芳香族アミンを有するエポキシドプレポリマーの調製及び各ペースト配合物の特徴決定を提示する。
【0124】
動粘度を、Bohlin CS50レオメーターを使用することにより、23℃で測定することができる。
【0125】
材料
ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPO-DGE、Mn 約640g/mol)及び3,4,5-トリメトキシアニリン(TMA)をSigma Aldrichから購入した。4,4’-イソプロピリデンジシクロヘキサノールジグリシジルエーテル(DENACOL EX-252、CAS30583-72-3、η=2.2Pa・s)をNagase Chemistryにより提供した。Priamine1071及びPriamine1075(η=0.2Pa・s)をCrodaから提供し、そのまま使用した。ビスフェノールAジグリシジルエーテル(Araldite GY 250、CAS25068-38-6)及びビスフェノールFジグリシジルエーテル(Araldite GY 285、CAS9003-36-5)、N,N’-ジベンジル-5-オキサノナンジアミン-1,9(OPC-91)をA.M.B. LIFE & SIENCE ApSから得た。CaWO4(1□m及び6□mグレードB)粒子をStarck H.C. GmbHから購入し、ZrO2粒子(CAS1314-23-4)をS. Goldmann GmbH & Co. KGから購入した。Aerosil200をCSC Jaekle Chemieにより提供した。SICOVIT(登録商標)(Yellow 10 E 172)をSimon und Werner GmbHから購入した。全ての他の化学物質を一般的な化学物質供給者から購入した。
【0126】
プレポリマー合成
Pre-TMA-PPO(1:2,5)(ASO4-50-02)の合成
3,4,5-トリメトキシアニリン(TMA)(2,634g、14.375mmol)及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPO-DGE、Mn=640g/mol)(23.013g、35.938mmol)を丸底フラスコ(100mL)中において100℃で撹拌した。最終生成物を187時間後に定量的収率で得た。この生成物は、η=1.47Pa・sの粘度を示した。
【0127】
【0128】
Pre-PPO-OPC91(ASO4-89-02)の合成
N,N’-ジベンジル-5-オキサノナンジアミン-1,9(OPC-91)(10.642g、31.250mmol)及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPO-DGE、Mn=640g/mol)(9.993g、15.625mmol)を丸底フラスコ(100mL)中において40℃で撹拌した。最終生成物を71時間後に定量的収率で得た。この生成物は、η=3.8Pa・sの粘度を示した。
【0129】
ペースト製剤
ペーストA.1
エポキシドペーストA1(ASO4-92-01)の調製
Pre-TMA-PPO(1:2,5)(1.6016g)及び4,4’-イソプロピリデンジシクロヘキサノールジグリシジルエーテル(1.6031g)をスピードミキサー容器に移し、減圧(p=1000mbar)下において、2150rpmで1分間混合した。CaWO4 1μm(8.1395g)、Aerosil(登録商標)200(0.1156g)及びSICOVIT(登録商標)(Yellow 10 E172)(0.0120g)を加え、スピード混合を適用した(1分、2150rpm、100mbar)。ペーストをスパチュラで手作業で混合し、続けて、別のスピードミキサー運転(1分、2150rpm、100mbar)を行って、均質な淡黄色のペーストを与えた。流量(ISO6876):20.83mm。
【0130】
アミンペーストA1(ASO3-90-02)の調製
Pre-PPO-OPC91(1:2)(2.151g)、Priamine1075(0.922g)、CaWO4 1μm(7.340g)及びAerosil(登録商標)200(0.114g)をスピードミキサー容器に移し、減圧(p=1000mbar)下において、2150rpmで1分間混合した。ペーストをスパチュラで手作業で混合し、続けて、別のスピードミキサー運転(1分、2150rpm、1000mbar)を行って、均質な白色のペーストを与えた。流量(ISO6876):26.8mm。
【0131】
ペーストA1の混合物(SAR2-147-01+SAR2-155-01)
アミンペーストA1とエポキシドペーストA1とをmエポキシド/mアミン=1.09795の比率で混合した。混合されたペーストは、16時間未満の硬化時間、19.8mmの流量、9μmの薄膜厚さ(全てISO 6876による)を示す。