(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】プラネタリウムの恒星投映筒
(51)【国際特許分類】
G09B 27/00 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
G09B27/00 B
(21)【出願番号】P 2018027807
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000142894
【氏名又は名称】株式会社五藤光学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100081949
【氏名又は名称】神保 欣正
(72)【発明者】
【氏名】笠原 誠
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-013581(JP,A)
【文献】特開2016-186559(JP,A)
【文献】特開2017-053996(JP,A)
【文献】特開2009-070589(JP,A)
【文献】特開昭62-191818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 27/00-27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全天を分割したそれぞれの分割面の投映像を
恒星原板および光源を有する個々の恒星投映筒により投映することにより全天の恒星像を得る光学式プラネタリウムにおいて、投映する恒星のパターンが描かれた個々の恒星投映筒内の恒星原板を複数の投映領域に分割し、それぞれの領域を複数の個別に調光可能な光源で照明することにより、恒星原板内の特定領域のみを投映することを可能としたプラネタリウムの恒星投映筒において、
個々の光源からの光により照明される恒星原板の対応する各投映領域内に隣接する投映領域の照明光束が入らないように、恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った光学的な仕切り手段を設けたことを特徴とするプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項2】
個々の光源からの光を、レンズを用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明する請求項1記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項3】
個々の光源からの光を、光ファイバーまたは光ファイバー束を用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明する請求項2記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項4】
個々の光源からの光を、レンズと光ファイバー、またはレンズと光ファイバー束を用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明する請求項1記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項5】
恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った仕切り板を設けることにより光学的な仕切り手段とした請求項
1から4のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項6】
恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った外周形状を有する透明な固体からなる仕切りブロックを設け、上記の仕切りブロックの外周を不透明または反射面とすることにより光学的な仕切り手段とした請求項
1から4のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項7】
仕切りブロックと恒星原板間に隙間を設けることにより、隣接する各投映領域同士の境界付近に双方の光束が入るようにして境界付近にぼかし効果を与える請求項
6記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項8】
仕切りブロックを導光用のレンズと一体に形成し、恒星原板に密着させることにより隣接する投映領域の照明光束が一切入らないようにした請求項
2記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項9】
任意の星座が投映される領域を分割した投映領域とした請求項1から
8のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項10】
任意のアステリズムが投映される領域を分割した投映領域とした請求項1から
8のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項11】
任意の星座とアステリズムが投映される領域を分割した投映領域とした請求項1から
8のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【請求項12】
単一の星雲星団や恒星が投映される領域を分割した投映領域とした請求項1から1
1のいずれかに記載のプラネタリウムの恒星投映筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、光学式のプラネタリウムで用いられる恒星投映筒に関する。
【背景技術】
【0002】
光学式のプラネタリウムにおいては全天の恒星を投映するのに際し、全天を複数の面に分割し、投映する恒星のパターンが描かれた投映原板および、この投映原板を照明する光源を有する複数の恒星投映筒によりそれぞれの分割面を投映している。すなわち、全天における恒星(星空)は複数の恒星投映筒が分担して投映している(特許文献1)。
【0003】
これまでの恒星投映筒は、単一の光源により恒星原板を照明し星空を映しだしていた。照度の不足する輝星については、別光源をもつ投映筒によって不足する輝度を補うことが一般に行われており、別光源からの光を光ファイバーで恒星原板に導光し星空を投映するという方法(特許文献2)も提案されている。
【0004】
同様に光ファイバーを用いて恒星原板に光束を導く方法については、特許文献3において、一つ以上の光源からの光束を光ファイバーあるいは光ファイバー束によって、全ての恒星や星座絵に対して直接原板へ導光する方法が示されている。
【0005】
しかしながら、何れの場合も、恒星原板は単一の照明対象であり、複数の恒星原板によって映し出される星空全体を正しい明るさで投映することを目的としており、投映される星空全体を均一に調光するにとどまっていた。
【0006】
【文献】特開平9-218641号公報
【文献】特開2007-322843号公報
【文献】特開昭62- 191818号公報
【文献】特開平6-289776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、学習投映等で星空を投映する場合、常に多くの星が投映されているため、周囲の星々によって星座の場所やアステリズムと呼ぶ特徴的な星の並び、あるいは特定の天体などの位置が分かり辛いといった問題を有していた。
【0008】
このため、これらを指し示すために、矢印模様を映し出す手持ちの投映機(ポインタ)によって、星空の中で矢印を動かし、一つ一つの星を辿るなどして、星座やアステリズム等を教えていた(特許文献4)。
【0009】
しかしながら、前記の方法では、矢印模様を追いかけることに意識が集中してしまい、対象となる天体の星空の中での位置関係を把握することが難しくかった。また、投映される矢印が辿って行く星のそばに常に光っているため、星の本来の明るさが分からず、星空の中で、本来どのように見えているのかが把握できないなど、対象を把握あるいは理解をさせるための十分な状況を作り出せないという課題があった。
【0010】
本願発明は、以上の従来技術の問題点に鑑みて創作されたものであり、学習投映などにおいて、星座やアステリズム、あるいは特定の天体等の位置を解りやすく表示することのできる恒星投映筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒は、全天を分割したそれぞれの分割面の投映像を投映原板および光源を有する個々の恒星投映筒により投映することにより全天の恒星像を得る光学式プラネタリウムにおいて、投映する恒星のパターンが描かれた個々の恒星投映筒内の恒星原板を複数の投映領域に分割し、それぞれの領域を複数の個別に調光可能な光源で照明することにより、恒星原板内の特定領域のみを投映することを可能としたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、個々の光源からの光を、レンズを用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明することを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、個々の光源からの光を、光ファイバーまたは光ファイバー束を用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明することを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、個々の光源からの光を、レンズと光ファイバー、またはレンズと光ファイバー束を用いた光学系により導光し、恒星原板の対応する投映領域を照明することを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、個々の光源からの光により照明される恒星原板の対応する各投映領域内に隣接する投映領域の照明光束が入らないように、恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った光学的な仕切り手段を設けたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った仕切り板を設けることにより光学的な仕切り手段としたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った外周形状を有する透明な固体からなる仕切りブロックを設け、上記の仕切りブロックの外周を不透明または反射面とすることにより光学的な仕切り手段としたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、仕切りブロックを導光用のレンズと一体に形成し、恒星原板に密着させることにより隣接する投映領域の照明光束が一切入らないようにしたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項9に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、仕切りブロックと恒星原板間に隙間を設けることにより、隣接する各投映領域同士の境界付近に双方の光束が入るようにして境界付近にぼかし効果を与えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項10に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、任意の星座が投映される領域を分割した投映領域としたことを特徴とする。
【0021】
また、請求項11に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、任意のアステリズムが投映される領域を分割した投映領域としたことを特徴とする。
【0022】
また、請求項12に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、任意の星座とアステリズムが投映される領域を分割した投映領域としたことを特徴とする。
【0023】
また、請求項13に記載の発明は前記のプラネタリウムの恒星投映筒において、単一の星雲星団や恒星が投映される領域を分割した投映領域としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成よりなる本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒によれば、注目させたい領域の星空を明滅させたり、逆に、注目させたくない領域の星空を暗くすることで、注目させたい領域の星の並びを分かりやすく示すことが可能となる。
【0025】
前記の場合、矢印模様などを用いて星を指し示す必要が無いため、個々の星の明るさ、近傍の星の並びや明るさについても把握することが出来るので、注目させたい領域が星空全体の中のどこにあり、その周囲にはどのような星の並びがあるのかも同時に認識することが出来るから、これまでよりも深く理解できる状況を作り出すことが可能である。
【0026】
また、星座などを示す以外の効果として、例えば、理科の学習を目的とした投映において、日周運動で各方位の星々がどのように動いていくのかを示すために、特定の方位にある星座だけを明るいまま示し他を暗くしておけば、特定の方位の星々の動きに注意を向けさせることが出来るから、その方位の星の動きがどのようになるのかを特別な装置を使ったり、その方位の星の動きを説明する画像などを映し出さずとも理解させることが出来る。
【0027】
また、季節によって見える星座が異なることについても、同様の方法によって分かりやすく見せることができる。
【0028】
さらに、上記のような特定の明るいままの領域を順次移動させていけば、観客の視線を目的の方向に自然に誘導することができる。すなわち、観客の視線を誘導しながら、目的の星座やアステリズムなどを示し、さらに、その星座にある有名な恒星や変光星あるいは星雲星団について、対象以外を暗く投映したり、あるいは対象を明滅させることによってその位置を示せば、見えている星空の中での対象の位置、あるいは明るさを含む見え方を容易に理解することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒の正面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒の具体的実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒の正面図であり、内部の機構を概念的に図示している。図中符号Aは投映する恒星のパターンが描かれた投映原板であり、ここでは3つの分割領域1~3に分割している。図中符号J1およびJ 2は隣接する各分割領域の境界を示す仮想線である。また、図中符号H1~H4は各分割領域1~3内の恒星または星雲星団の位置であり、ここでは区別しやすいように星型で概念的に示している。
【0031】
図中符号B1~B4は個々の分割領域を照明する光源であり、ここでは分割領域1を2つの光源B1とB2で、同じく2を光源B3で、同じく3を光源B4で照明する構成としている。なお、前記の光源は
図1においては仮想的に図示したものであり、実際は恒星原板Aの奥にある光源ベース板上に配置される。
【0032】
図2は本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒の左側断面図である。図中符号Gは光源ベース板であり、投映原板Aの分割領域1を照明するための光源B1、B2、同じく2を照明するための光源B3、同じく3を照明するための光源B4が設けられる。
【0033】
前記の各光源からの光束は導光用のレンズDを介して投映原板Aの各分割領域に達するが、ここでは個々の光源からの光により照明される恒星原板の対応する各投映領域内に隣接する投映領域の照明光束が入らないように、恒星投映筒内に各投映領域同士の境界に沿った光学的な仕切り手段が設けられれている。ここでは前記の仕切り手段として投映領域2と3の境界には分割線J 2と同じ曲線を有する仕切り板Eを設けている。
【0034】
また、投映領域1に対する2と3の境界には外周形状の一側が分割線J 1と同じ曲線を有する仕切りブロックFを設けている。この仕切りブロックFは光源B1からの光束が透過する透明な固体からなり、端面(図において太線で示す)を不透明または反射面としている。この仕切りブロックFは透明な個体であるから、これを導光用のレンズDを一体として形成してもよい。また、仕切りブロックFは、恒星原板Aと密着させることで、分割領域をはっきりと分けるが出来るが、必要に応じて、恒星原板Aと間隔をあけるなどして、分割線J1、J 2付近に双方の光束が入るようにすることで、分割領域にぼかし効果を与えてもよい。
【0035】
なお、ここでは光源B2からの光束は光ファイバーCによって直接恒星原板A上の恒星または星雲星団H2に導くことで、特定の恒星や星雲星団を分割領域としている。この場合、光ファイバーCは、恒星原板A上の特定の位置に正確に配置される必要があるが、ここでは仕切りブロックF及びレンズDに穴を開け、その中に光ファイバーCを通し光ファイバーCの保持する例を示した。光ファイバーCは、必要に応じて、セパレータブロックFやレンズD、あるいは恒星原板Aと接着してもよい。
【0036】
図3は本願発明のプラネタリウムの恒星投映筒の電気回路のブロック図であり、光源ベース板Gにある光源B1~B4の制御方法を示す図である。光源B1~B4は、それぞれ異なる調光装置L1~L4に接続され、調光装置は、その恒星投映筒の調光装置を制御する恒星投映筒制御装置Kに接続されている。恒星投映筒制御装置Kは、プラネタリウムのより上位の制御装置からの指令により動作する。
【0037】
一般的な運用において光源B1~B4は、常に同一の指示値が恒星投映筒制御装置Kより調光制御装置L1~L4に送られ、これまでの恒星投映筒と同じ機能を果たす。
【0038】
次に、本願発明が企図する作用・効果を得るための光源B1~B4の制御方法の具体例を下記する。
【0039】
(1) 光源ベースG上の光源B3を含む分割領域2を注目させたい場合、恒星投映筒制御装置Kから調光装置L3に対して明るさを50%とする指令と明るさと100%とする指令を交互に一定の間隔を持って与えれば、対象を明滅させることができる。調光装置L3に対して明るさ100%とする指令を出し、光源B3を100%の明るさで発光させ、調光装置L1、2、4および他の恒星投映筒に対して明るさ10%となる指示を出し、光源B1、2、4および他の恒星投映筒の光源を10%の明るさで発光させることで、光源B3を含む分割領域へ注意を向けさせることができる。
【0040】
(2)
図1において恒星や星雲星団として示した分割領域1内の光源B2を含む分割領域は、光源B1によって囲まれており、分割領域1に内包された階層的な分割領域である。初めに(1) に示した場合と同様に、光源B1を含む分割領域に注意を向けるため、調光装置L1、L2に100%の明るさの指令値を恒星筒制御装置Kより出し、暗く表現する光源B3、B4を含む分割領域は調光装置L3、L4に対して10‰の明るさとなるように指令値を出す。他の恒星投映筒についてはすべての光源を10%の明るさとなるように指令値を出す。
【0041】
さらに、光源B1を含む領域で囲まれた光源B2の分割領域の恒星あるいは星雲星団の位置を示すため、調光装置L2に対して一定間隔で明滅する様な指令値を繰り返し出せば、光源B1を含む分割領域の中の恒星あるいは星雲星団H2の位置を明確に示すことができる。必要に応じて、全ての恒星投映筒の光源を100%の明るさとなるように戻してやれば、天空上での位置だけでなく、他の星座との位置関係、あるいは、他の星との明るさの関係を容易に見て取ることができる。
【符号の説明】
【0042】
A 恒星原板
1 分割領域
2 分割領域
3 分割領域
B1 光源
B2 光源
B3 光源
B4 光源
C 光ファイバー
D レンズ
E 仕切り板
F 仕切りブロック
J 1 分割線
J 2 分割線
H1 各分割領域内の恒星または星雲星団の位置
H2 各分割領域内の恒星または星雲星団の位置
H3 各分割領域内の恒星または星雲星団の位置
H4 各分割領域内の恒星または星雲星団の位置
H1 各分割領域内の恒星または星雲星団の位置
L1 調光装置
L2 調光装置
L3 調光装置
L4 調光装置
K 恒星投映筒制御装置