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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/184 20060101AFI20220714BHJP
   B62D 1/19 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
B62D1/184
B62D1/19
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018090079
(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公開番号】P2019196060
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西峰 有佑
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
(72)【発明者】
【氏名】長谷 篤宗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】大園 直広
(72)【発明者】
【氏名】明法寺 祐
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-014886(JP,A)
【文献】特開2016-060391(JP,A)
【文献】特開2008-230555(JP,A)
【文献】特開2002-274393(JP,A)
【文献】特開2011-057020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットと前記スリットを挟んで配置された一対の被締付部とを有する中空のアウタジャケットと、前記アウタジャケットに軸方向に相対摺動可能に内嵌された筒状のインナジャケットとを含むコラムジャケットであって、前記インナジャケットにおいて前記アウタジャケットに対する嵌合領域に前記軸方向に延びる貫通又は非貫通の長孔が形成されたコラムジャケットと、
車体に固定され前記アウタジャケットの前記一対の被締付部を左右方向に挟む一対の側板を含む支持部材と、
前記一対の側板を介して前記アウタジャケットを前記インナジャケットに締め付けることにより前記アウタジャケットに対する前記インナジャケットの位置を保持する締付機構と、
前記アウタジャケットに固定されて前記長孔に挿入され、前記アウタジャケットと前記インナジャケットとの位置関係を規制するピンと、を備え、
前記長孔が、前記インナジャケットの中心軸を通過する鉛直面に対して左右方向の何れか一方側の位置であって、前記中心軸に対して鉛直方向の上方位置及び下方位置を避けた位置に配置されており、
前記インナジャケットを前記軸方向から見たときに、前記長孔が、前記中心軸に対して斜め上方及び斜め下方の少なくとも一方に配置されている、ステアリング装置。
【請求項2】
請求項に記載のステアリング装置において、前記ピンが、二次衝突時に前記長孔の端部によって破断される樹脂ピンである、ステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステアリング装置において、前記鉛直面に対して左右方向の何れか一方側に配置される側板の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の他方側に配置される側板の左右方向の厚みよりも厚くされること、及び、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置される被締付部の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置される被締付部の左右方向の厚みよりも厚くされることの少なくとも一方が達成されており、
前記長孔が、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置されている、ステアリング装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のステアリング装置において、前記鉛直面に対して左右方向の何れか一方側に配置される側板の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の他方側に配置される側板の左右方向の厚みよりも厚くされること、及び、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置される被締付部の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置される被締付部の左右方向の厚みよりも厚くされることの少なくとも一方が達成されており、
前記長孔が、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置されている、ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に提案されるステアリングコラム装置では、アウタコラム(アウタジャケット)においてインナコラム(インナジャケット)を嵌合保持する部分における下面に、単一のスリットが設けられ、アウタコラムは、前記スリットを幅方向両側から挟む一対の被挟持部を有している。
特許文献1では、アウタコラムでは、前記スリットが形成されている部分の幅方向片半部において前記スリットが形成されている範囲が、幅方向他半部における前記スリットが形成されている範囲よりも広くされている。これにより、アウタコラムの幅方向片半部を変形し易くしてインナコラムに対する保持力が高められる。
【0003】
また、アウタコラムにおいて、インナコラムを嵌合保持する部分から軸方向に離隔した部分であって且つ前記スリットから外れた剛性の高い部分に、ステアリングロック装置のためのロック用透孔が設けられている。ロック用透孔の周縁部は、ステアリングホイールから過大な力が負荷されたときにも変形しないようには頑強とされている。このため、ロック用透孔は、ステアリングコラムの左右方向の剛性に、あまり影響を与えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-164851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アウタコラムにおいてインナコラムを嵌合保持する部分に設けられる単一のスリットのみを用いて、インナコラムに対する保持力を所望に調整するという課題と、インナコラムとアウタコラムとで構成されるステアリングコラムとしての左右方向の剛性に関して、左半部における剛性と右半部における剛性との関係を所望に調整するという課題とを一挙に解決することは実際上、困難である。
【0006】
本発明の目的は、インナジャケットに対する保持力を所望に調整しつつコラムジャケットの左右方向の剛性に関して左半部の剛性と右半部の剛性との関係を所望に調整するステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、スリット(40)と前記スリットを挟んで配置された一対の被締付部(41)とを有する中空のアウタジャケット(13)と、前記アウタジャケットに軸方向(X)に相対摺動可能に内嵌された筒状のインナジャケット(14)とを含むコラムジャケット(4)であって、前記インナジャケットにおいて前記アウタジャケットに対する嵌合領域に前記軸方向に延びる貫通又は非貫通の長孔(50)が形成されたコラムジャケットと、車体(15)に固定され前記アウタジャケットの前記一対の被締付部を左右方向(W)に挟む一対の側板(122,22)を含む支持部材(19)と、前記一対の側板を介して前記アウタジャケットを前記インナジャケットに締め付けることにより前記アウタジャケットに対する前記インナジャケットの位置を保持する締付機構(20)と、前記アウタジャケットに固定されて前記長孔に挿入され、前記アウタジャケットと前記インナジャケットとの位置関係を規制するピン(52)と、を備え、前記長孔が、前記インナジャケットの中心軸(C2)を通過する鉛直面(VP)に対して左右方向の何れか一方側の位置であって、前記中心軸に対して鉛直方向の上方位置及び下方位置を避けた位置に配置されており、前記インナジャケットを前記軸方向から見たときに、前記長孔が、前記中心軸に対して斜め上方及び斜め下方の少なくとも一方に配置されている、ステアリング装置(1)を提供する。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ
【0009】
請求項に記載の発明のように、請求項において、前記ピンが、二次衝突時に前記長孔の端部によって破断される樹脂ピンであってもよい。
請求項に記載の発明のように、請求項1または2において、前記鉛直面に対して左右方向の何れか一方側に配置される側板の左右方向の厚み(t1)が、前記鉛直面に対して左右方向の他方側に配置される側板の左右方向の厚み(t2)よりも厚くされること、及び、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置される被締付部の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置される被締付部の左右方向の厚みよりも厚くされることの少なくとも一方が達成されており、前記長孔が、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置されていてもよい。
【0010】
請求項に記載の発明のように、請求項1または2において、前記鉛直面に対して左右方向の何れか一方側に配置される側板の左右方向の厚み(t1)が、前記鉛直面に対して左右方向の他方側に配置される側板の左右方向の厚み(t2)よりも厚くされること、及び、前記鉛直面に対して左右方向の前記一方側に配置される被締付部の左右方向の厚みが、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置される被締付部の左右方向の厚みよりも厚くされることの少なくとも一方が達成されており、前記長孔が、前記鉛直面に対して左右方向の前記他方側に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明では、アウタジャケットにおいて一対の被締付部間のスリットを用いて、アウタジャケットの縮径し易さを調整することで、インナジャケットに対する保持力を調整することができる。また、インナジャケットにおいてアウタジャケットに対する嵌合領域であってインナジャケットの中心軸を通過する鉛直面に対して左右方向の何れか一方側の位置に、長孔を設けているため、インナジャケットにおいて長孔が設けられた側の半部の剛性を低減して、コラムジャケットの左右方向の剛性に関して左半部の剛性と右半部の剛性との関係(例えば左右差)を所望に調整することができる。
【0012】
すなわち、前記保持力の調整は、主にアウタジャケットのスリットの仕様変更で行い、前記左右方向の剛性の関係の調整は、主にインナジャケットの長孔の仕様変更で行うため、所望の保持力の調整と所望の左右方向の剛性の関係の調整とを容易に両立することができる。なお、長孔が中心軸に対して鉛直方向の上方位置や下方位置に配置される場合には、前記左半部の左右方向の剛性と前記右半部の左右方向の剛性との関係を調整する機能がないため、長孔の配置位置として、前記上方位置や下方位置を除外している。
【0013】
また、アウタジャケットに固定されたピンがインナジャケットの長孔に挿入されて、アウタジャケットとインナジャケットとの位置関係が規制される。仮に、長孔が、中心軸に対して左右方向に配置される場合を想定すると、アウタジャケットに固定されるピンと、支持部材の側板等とが干渉するおそれがあるのに対して、請求項に記載の発明では、長孔が、中心軸に対して斜め上方及び斜め下方の少なくとも一方に配置される場合には、このような干渉のおそれがない。
【0014】
請求項に記載の発明では、二次衝突時に長孔の端部によって樹脂ピンが破断されることで、衝撃吸収荷重を得ることができる。
請求項に記載の発明では、鉛直面に対して左右方向の一方側の例えば側板の厚みよりも他方側の側板の厚みを薄くして、インナジャケットに対する保持力を増加させることができ、ひいては振動剛性を向上することができる。また、前記厚みの相違に起因する左右方向の剛性の左右差を、インナジャケットにおいて左右方向の前記一方側(厚みの厚い側の側板ないし被締付部が配置される側)に長孔を設けることで低減することができる。
【0015】
請求項に記載の発明では、鉛直面に対して左右方向の一方側の例えば側板の厚みよりも他方側の側板の厚みを薄くして、インナジャケットに対する保持力を増加させることができ、ひいては振動剛性を向上することができる。また、インナジャケットにおいて左右方向の前記他方側(厚みの薄い側の側板ないし被締付部が配置される側)に長孔を設けることで、左右方向の剛性の左右差をさらに増大する要請に対処することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の第1実施形態に係るステアリングシャフトの一部破断模式的側面図である。
図2】第1実施形態に係るステアリング装置の概略斜視図である。
図3】第1実施形態に係るステアリング装置の概略断面図であり、図1のIII-III線に沿って切断された断面図に相当する。
図4】第1実施形態に係るステアリング装置の要部の底面図である。
図5】第1実施形態において、アッパ側のインナジャケットの概略斜視図である。
図6】第2実施形態に係るステアリング装置の概略断面図である。
図7】第3実施形態に係るステアリング装置の概略断面図である。
図8】第4実施形態に係るステアリング装置の概略断面図である。
図9】第5実施形態に係るステアリング装置の概略断面図である。
図10】第6実施形態に係るステアリング装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るステアリング装置の概略構成を示す一部破断模式的側面図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と連結されるコラムシャフト3と、コラムジャケット4と、インターミディエイトシャフト5と、転舵輪(図示せず)と連結される転舵機構6と、ロア側支持機構7と、アッパ側支持機構8とを備える。
【0018】
コラムシャフト3は、インターミディエイトシャフト5を介して転舵機構6に連結されている。ステアリング装置1は、操舵部材2の操舵に連動して、転舵機構6を介して転舵輪を転舵する。
コラムシャフト3は、一端に操舵部材2が連結されるアッパシャフト9と、アッパシャフト9と軸方向Xに相対摺動可能に嵌合されたロアシャフト10とを含む。コラムシャフト3は、コラムジャケット4内に挿通されている。コラムジャケット4は、複数の軸受11,12を介してコラムシャフト3を回転可能に支持する。
【0019】
コラムジャケット4は、車体に取り付けられる中空のロア側のアウタジャケット13と、アウタジャケット13に嵌合されたチューブ状のアッパ側のインナジャケット14とを含む。アウタジャケット13に対してインナジャケット14が軸方向Xに移動することにより、コラムジャケット4は、軸方向Xに伸縮可能である。
アッパ側のインナジャケット14は、軸受11を介して軸方向Xに一体移動可能にアッパシャフト9に連結されている。ロア側のアウタジャケット13は、軸受12を介してロアシャフト10を回転可能に支持している。
【0020】
ロア側支持機構7は、ロア側のアウタジャケット13を回転可能に支持する。ロア側支持機構7は、車体15に固定される固定ブラケット16と、アウタジャケット13に固定されたコラムブラケット17と、固定ブラケット16とコラムブラケット17とを連結するチルト支軸18とを含む。
チルト支軸18の中心軸であるチルト中心CCの回りにコラムシャフト3及びコラムジャケット4を回動(チルト)させることで、操舵部材2の位置を上下方向(チルト方向Y)に調整できるようになっている(いわゆるチルト調整)。また、コラムシャフト3及びコラムジャケット4を軸方向Xに伸縮させることで、操舵部材2の位置を車両の前後方向に調整できるようになっている(いわゆるテレスコ調整)。
【0021】
図2はステアリング装置1の概略斜視図である。図3図1のIII-III断面図である。図1図2及び図3に示すように、アッパ側支持機構8は、車体15に固定される支持部材としての固定ブラケット19と、締付機構20とを含む。
固定ブラケット19(支持部材)は、車体15に取り付けられる取付板21Aと、取付板21Aに固定された天板21と、天板21の両端から下方に延びる一対の側板122,22とを含む。図3に示すように、一方の側板122の厚みt1が、他方の側板22の厚みt2よりも厚くされている(t1>t2)。厚みが厚くされる側の側板122は、鉛直面VPに対して左右方向Wのどちら側に配置されていてもよい。
【0022】
締付機構20は、固定ブラケット19の一対の側板122,22を介して、アウタジャケット13に一体に設けられた一対の側板状の被締付部41を両側から締め付けることにより、チルトロック及びテレスコロックを達成する。締付機構20は、操作レバー23と、締付軸24と、回転カム25及び非回転カムである一方の締付部材26を含む力変換機構27と、ナット28と、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とを備えている。
【0023】
操作レバー23は、運転者が回転操作する操作部材として機能する。締付軸24は、操作レバー23と一体回転可能である。締付軸24の中心軸C1が、操作レバー23の回転中心に相当する。
図3及びステアリング装置1の要部の概略底面図である図4に示すように、アウタジャケット13には、軸方向Xに延びるスリット40が形成されている。これにより、アウタジャケット13は、弾性的に縮径可能である。アウタジャケット13は、スリット40を挟んだ位置に配置される一対の板状の被締付部41を含む。
【0024】
図3に示すように、スリット40は、アウタジャケット13の鉛直方向Eの下端部である鉛直方向下端部13ELに配置されている。図4に示すように、スリット40は、アウタジャケット13の軸方向Xの上側XUのジャケット端13aに形成される開口端40aからアウタジャケット13の軸方向Xの所定位置に配置される閉塞端40bまで達している。
【0025】
アウタジャケット13に設けられた一対の被締付部41は、左右方向W(締付軸24の軸方向である締付軸方向Jに一致)に対向している。アウタジャケット13の軸方向Xに延びるスリット40は、アウタジャケット13の周方向Zに関して一対の被締付部41の間に配置されている。
締付機構20は、締付軸24を介して固定ブラケット19をアウタジャケット13の一対の被締付部41に締め付けることによりチルトロックを達成する。また、締付機構20は、アウタジャケット13の一対の被締付部41を締め付けることにより、縮径させたアウタジャケット13によってインナジャケット14を軸方向Xに移動不能に保持させてテレスコロックを達成する。これにより、操舵部材2の位置が、車体15(図1参照)に対して固定される。
【0026】
締付軸24は、固定ブラケット19の一対の側板122,22にそれぞれ設けられチルト方向Yに延びるチルト用長孔33を挿通している。
アウタジャケット13の一対の被締付部41は、一対の側板122,22の内側面122b,22b間に配置され、対応する側板122,22の内側面122b,22bにそれぞれ沿う板状をなしている。各側板122,22の内側面122b,22bが、それぞれ対応する被締付部41の外側面41aに対向している。
【0027】
アウタジャケット13の各被締付部41には、締付軸24が挿通される円孔からなる締付軸挿通孔34が形成されている。締付軸24と、アウタジャケット13と、インナジャケット14と、コラムシャフト3とは、チルト調整時に、チルト方向Yに一体に移動する。
締付軸24は、固定ブラケット19の一対の側板122,22のチルト用長孔33及びアウタジャケット13の一対の被締付部41の締付軸挿通孔34を挿通するボルトからなる。締付軸24の一端に設けられた大径の頭部24aは、操作レバー23と一体回転可能に固定されている。
【0028】
締付機構20の力変換機構27は、締付軸24の頭部24aと一方の側板122の外側面122aとの間に介在し、操作レバー23の操作トルクを締付軸24の軸力(一対の側板122,22を締め付けるための締付力)に変換する。
力変換機構27の回転カム25は、操作レバー23と一体回転に連結され締付軸24に対して締付軸方向Jの移動が規制されている。力変換機構27の非回転カムである一方の締付部材26は、回転カム25に対してカム係合し、一方の側板122の外側面122aを押圧して締め付ける。
【0029】
締付機構20のナット28は、締付軸24の他端のねじ部24bに、ねじ嵌合している。ナット28と固定ブラケット19の他方の側板22との間に、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とが介在している。他方の締付部材29は、他方の側板22の外側面22aを押圧して締め付ける。
ワッシャ30及び針状ころ軸受31は、他方の締付部材29とナット28との間に介在する。ワッシャ36は、ナット28と他方の締付部材29との間に介在する。針状ころ軸受31は、ワッシャ30と他方の締付部材29との間に介在する。
【0030】
回転カム25と、一方の締付部材26(非回転カム)と、他方の締付部材29と、ワッシャ30と、針状ころ軸受31とは、締付軸24の外周によって支持されている。
一方の締付部材26(非回転カム)及び他方の締付部材29は、それぞれ対応する側板122,22の外側面122a,22aを押圧して締め付ける締付板部26a,29aと、それぞれ対応するチルト用長孔33に嵌合されたボス部26b,29bとを有している。各ボス部26b,29bと対応するチルト用長孔33との嵌合によって、各締付部材26,29の回転が規制されている。
【0031】
また、一方の締付部材26及び他方の締付部材29は、締付軸24によって締付軸方向Jに移動可能に支持されている。
操作レバー23のロック方向への回転に伴って、回転カム25が一方の締付部材26(非回転カム)に対して回転することにより、一方の締付部材26(非回転カム)が締付軸方向Jに移動されて、締付部材26,29(の締付板部26a,29a)によって、固定ブラケット19の一対の側板122,22の外側面122a,22aが押圧されて締め付けられる。
【0032】
これにより、固定ブラケット19の各側板122,22の内側面122b,22bが、アウタジャケット13の対応する被締付部41の外側面41aを締め付ける。その結果、アウタジャケット13のチルト方向Yの移動が規制されて、チルトロックが達成される。また、両被締付部41が締め付られることで、アウタジャケット13が、弾性的に縮径してインナジャケット14を締め付ける。これにより、インナジャケット14の軸方向Xの移動が規制されて、テレスコロックが達成される。
【0033】
一方の側板122の厚みt1よりも他方の側板22の厚みt2が薄くされている(t1>t2)。このため、締付機構20による締付時において、このため他方の側板22が撓み易くなり、したがって、他方の側板22及びこの他方の側板22に隣接する被締付部41が、全体として、撓み易くなる。このため、アウタジャケット13がインナジャケット14を抱え込む保持力を増大させることができる。
【0034】
また、アウタジャケット13のスリット40の溝幅等の調整により、アウタジャケット13の撓み易さ(縮径し易さ)を調整することにより、アウタジャケット13がインナジャケット14を抱え込む保持力を容易に調整することができる。
図5は、インナジャケット14の概略斜視図である。図5に示すように、インナジャケット14は、軸方向Xに延びる長孔50を備える。図3に示すように、長孔50は、インナジャケット14の中心軸C2を通過する鉛直面VPに対して、厚みの厚い側の一方の側板122側に配置されている。
【0035】
長孔50は、中心軸C2に対して鉛直方向Eの上方位置及び下方位置を避けた位置に配置されている。具体的には、インナジャケット14を軸方向Xから見たときに、長孔50は、中心軸C2に対して斜め上方に配置されている。
図3及び図4に示すように、アウタジャケット13に形成された径方向の貫通孔からなる固定孔51に圧入固定された樹脂ピン52が、長孔50に挿入されている。長孔50と樹脂ピン52との係合により、アウタジャケット13に対するインナジャケット14の周方向Zの回転が規制されている。
【0036】
インナジャケット14は、長孔50に係合する樹脂ピン52により案内されて、軸方向Xに移動する。長孔50の軸方向Xの上側XU及び下側XLの各端部が樹脂ピン52と当接することにより、インナジャケット14の軸方向Xの移動範囲の終端が規制される。すなわち、樹脂ピン52は、テレスコ調整時のインナジャケット14の移動範囲を規制する機能を有する。また、二次衝突時に、樹脂ピン52は、長孔50の軸方向Xの上側XUの端部と当接することで破断され、衝撃吸収荷重を発生させる。
【0037】
本実施形態では、アウタジャケット13において一対の被締付部41間のスリット40を用いて、アウタジャケット13の縮径し易さを調整することで、インナジャケット14に対する保持力を調整することができる。また、インナジャケット14においてアウタジャケット13に対する嵌合領域であってインナジャケット14の中心軸C2を通過する鉛直面VPに対して左右方向Wの一方側の位置に、長孔50を設けているため、インナジャケット14において長孔50が設けられた側の半部の剛性を低減して、コラムジャケット4の左右方向の剛性に関して左半部の剛性と右半部の剛性との関係(例えば左右差)を所望に調整することができる。
【0038】
すなわち、前記保持力の調整は、主にアウタジャケット13のスリット40の仕様変更(スリット幅の変更等)で行い、左右方向Wの剛性の左右差の調整は、主にインナジャケット14の長孔50の仕様変更(長孔の幅の変更等)で行うため、前記保持力を所望に調整することと、左右方向Wの剛性の例えば左右差を所望に調整することとを容易に両立することができる。なお、長孔50が中心軸C2に対して鉛直方向Eの上方位置や下方位置に配置される場合には、左右方向Wの剛性の左右差を調整する機能を果たせないため、長孔50の配置位置として、中心軸C2に対する上方位置や下方位置を除外している。
【0039】
また、アウタジャケット13に固定された樹脂ピン52がインナジャケット14の長孔50に挿入されて、アウタジャケット13とインナジャケット14との位置関係が規制される。仮に、長孔50が、中心軸C2に対して左右方向Wに配置される場合を想定すると、アウタジャケット13に固定される樹脂ピン52と、固定ブラケット19(支持部材)の側板122等とが干渉するおそれがあるのに対して、本実施形態では、長孔50が、中心軸C2に対して斜め上方に配置されるため、このような干渉のおそれがない。
【0040】
また、二次衝突時に長孔50の軸方向Xの上側XUの端部によって樹脂ピン52が破断されることで、衝撃吸収荷重を得ることができる。
また、鉛直面VPに対して左右方向Wの一方側に配置される一方の側板122の厚みt1よりも他方側に配置される他方の側板22の厚みt2を薄くして、アウタジャケット13において他方の側板22側を撓み易くすることで、インナジャケット14に対する保持力を増加させることができ、ひいては振動剛性を向上することができる。また、インナジャケット14において、鉛直面VPに対して厚みの厚い側の一方の側板122側に長孔50を設けることにより、一対の側板122,22の厚みの相違に起因する、左右方向Wの剛性の左右差を低減することができる。
【0041】
換言すると、インナジャケット14に対する保持力を高めて振動剛性を向上するために、鉛直面VPに対して左右方向Wの一方側に配置される一方の側板122の厚みt1よりも、鉛直面VPに対して左右方向Wの他方側に配置される他方の側板22の厚みt2を薄くする構成を採用した場合に、左右方向Wの剛性が左右で不均衡になって左右差を生ずるという不具合が生ずる。これに対して、インナジャケット14において、鉛直面VPに対して左右方向Wの前記一方側(厚みの厚い一方の側板122が配置される側)にオフセットして、長孔50を設けることにより、左右方向Wの剛性の左右差を低減することができる。ひいては、左右方向Wの剛性の左右差が低減され且つ振動剛性が向上されたステアリング装置1を実現することができる。
(第2~第3実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係るステアリング装置1の概略断面図である。図6に示す第2実施形態では、長孔50が、鉛直面VPに対して一方の側板122(厚みの厚い側板)側であって、インナジャケット14の中心軸C2に対して斜め下方に配置されている。
【0042】
図7は、本発明の第3実施形態に係るステアリング装置1の概略断面図である。図7に示す第3実施形態では、長孔50が、鉛直面VPに対して一方の側板122(厚みの厚い側板)側であって、インナジャケット14の中心軸C2に対して斜め上方及び斜め下方の双方に配置されている。図7のように各長孔50に樹脂ピン52が挿入されていてもよいし、また、図示していないが、一方の長孔50のみに樹脂ピン52が挿入されていてもよい。すなわち、樹脂ピン52の数によって衝撃吸収荷重を調整することができる。
【0043】
第2実施形態及び第3実施形態においても、第1実施形態と同じ作用効果を奏することができる。
(第4~第6実施形態)
図8は、本発明の第4実施形態に係るステアリング装置1の概略断面図である。図8に示す第4実施形態では、長孔50が、鉛直面VPに対して他方の側板22(厚みの薄い側板)側であって、インナジャケット14の中心軸C2に対して斜め上方に配置されている。
【0044】
図9は、本発明の第5実施形態に係るステアリング装置1の概略断面図である。図9に示す第5実施形態では、長孔50が、鉛直面VPに対して他方の側板22(厚みの薄い側板)側であって、インナジャケット14の中心軸C2に対して斜め下方に配置されている。
図10は、本発明の第6実施形態に係るステアリング装置1の概略断面図である。図10に示す第6実施形態では、長孔50が、鉛直面VPに対して他方の側板22(厚みの薄い側板)側であって、インナジャケット14の中心軸C2に対して斜め上方及び斜め下方の双方に配置されている。図10のように各長孔50に樹脂ピン52が挿入されていてもよいし、また、図示していないが、一方の長孔50のみに樹脂ピン52が挿入されていてもよい。すなわち、樹脂ピン52の数によって衝撃吸収荷重を調整することができる。
【0045】
第4~第6実施形態では、鉛直面VPに対して左右方向の一方の側板122の厚みよりも他方の側板22の厚みを薄くしてインナジャケット14に対する保持力を増加させることで振動剛性を向上することができる。また、インナジャケット14において中心軸C2を通過する鉛直面VPに対して厚みの薄い側である他方の側板22側に長孔50を設けることで、左右方向Wの剛性に関して左右の不均衡を増大する(左右差を増大する)要請に対処することができる。
【0046】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、各前記実施形態において、長孔50に挿入される樹脂ピン52が無くてもよい。
また、各前記実施形態では、一対の側板122,22どうしで厚みを相違させる構成を採用しているが、この構成に代えて、鉛直面VP対して左右方向Wの何れか一方側に配置される、アウタジャケット13の被締付部41の左右方向Wの厚みを、鉛直面VP対して左右方向Wの他方側に配置される被締付部41の左右方向Wの厚みと相違させる構成(図示せず)を採用してもよい。また、鉛直面VPに対して左右方向Wの何れか一方側に配置される側板の厚みを、他方側に配置される側板の厚みよりも厚くし、且つ、鉛直面VPに対して左右方向Wの前記一方側に配置される被締付部41の厚みを、鉛直面VPに対して左右方向Wの前記他方側に配置される被締付部41の厚みよりも厚くしてもよい。
【0047】
その他、本発明は、特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0048】
1…ステアリング装置、3…コラムシャフト、4…コラムジャケット、13…アウタジャケット、14…インナジャケット、15…車体、19…固定ブラケット(支持部材)、20…締付機構、22…側板、40…スリット、41…被締付部、50…長孔、51…固定孔、52…樹脂ピン、122…側板、C2…(インナジャケットの)中心軸、E…鉛直方向、t1,t2…厚み、VP…鉛直面、W…左右方向、X…軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10