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  • 特許-イオン源およびそのクリーニング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】イオン源およびそのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/08 20060101AFI20220714BHJP
   H01J 27/02 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H01J37/08
H01J27/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019037302
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020140920
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌和
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕也
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智哉
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-124215(JP,A)
【文献】特開2002-216700(JP,A)
【文献】特表2016-541086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/08
H01J 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ容器下流に配置された抑制電極にクリーニングガスから生成されたイオンビームを、クリーニングの終了判断がなされるまで継続して照射することで、前記抑制電極をクリーニングするイオン源で、
前記プラズマ容器と前記抑制電極の距離を調整する駆動機構を有し、クリーニングに先立って、前記駆動機構を制御して第1の方向へ前記抑制電極を移動させ、前記プラズマ容器と前記抑制電極との距離を広げる制御装置を備えたイオン源。
【請求項2】
前記制御装置は、前記抑制電極の電位や前記抑制電極を流れる電流に基づいてクリーニングを継続するか否かを決定する請求項1記載のイオン源。
【請求項3】
前記抑制電極のクリーニング中、あるいは、クリーニングに先立って、前記制御装置が、前記駆動機構を制御して前記第1の方向と直交する第2の方向へ前記抑制電極を移動させる請求項1または2記載のイオン源。
【請求項4】
前記抑制電極のクリーニング中、あるいは、クリーニングに先立って、前記制御装置が、前記駆動機構を制御して前記第1の方向と直交する第3の方向周りに前記抑制電極を回転させる請求項1または2記載のイオン源。
【請求項5】
プラズマ容器下流に配置された抑制電極にクリーニングガスから生成されたイオンビームを、クリーニングの終了判断がなされるまで継続して照射することで、前記抑制電極のクリーニングを行うイオン源のクリーニング方法で、
クリーニングに先立って、第1の方向へ前記抑制電極を移動させ、前記プラズマ容器と前記抑制電極との距離を広げるイオン源のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源とそのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置では、イオン源のプラズマ容器内でハロゲン含有のガスや蒸気を原料としてプラズマを生成し、当該プラズマからプラズマ容器下流側に配置された複数枚のイオンビーム引出し用の電極(以下、引出電極)を通してイオンビームの引き出しが行われている。
【0003】
プラズマ生成に係る具体的な原料としてはBF3、PF3、AlI3、AlCl3等があり、原料に含まれるフッ素、ヨウ素、塩素等のハロゲン成分は、プラズマの生成に伴ってイオン化されて、プラズマチャンバの内壁やチャンバ前方に配置される引出電極と反応する。
【0004】
プラズマ容器内は、プラズマが生成されていることもあり、比較的高温である。このことから、上述した反応物がプラズマ容器の壁面に生成された場合、プラズマ容器の壁面から熱によって解離されて、容器内やその下流側に飛散する。
一方、プラズマ容器下流に配置された引出電極は、熱による電極の歪みを防止する目的で冷却されていることが多く、容器温度よりも比較的低温になる。このことから、引出電極表面には反応物が堆積し易い傾向にある。
【0005】
また、プラズマ容器を構成するMoやW等の金属がプラズマによるスパッタリングによってプラズマ内に飛散し、これらがプラズマ内のハロゲン成分と結合して引出電極上に堆積することも起こり得る。
なお、上記結合は、プラズマ容器と引出電極との間で発生することもある。
【0006】
イオン源の運転時間が長くなるのに従って、引出電極上の堆積物の堆積量は増加する。この堆積物は絶縁物であるため、引出電極の絶縁化やプラズマ容器と引出電極との間で異常放電を引き起こす原因となる。堆積量が多過になればイオン源を正常に運転することが不可能となる。
【0007】
そこで、特許文献1のように、希ガスを原料としたイオンビームによるビームスパッタリングを利用して、引出電極上の堆積物を除去している。
同文献では、ビームスパッタリングの強度が最大となるようにイオンビームの径の調整が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-363050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した反応物はイオンビームの引き出しが行われる電極孔の周縁だけでなく、そこから少し離れた場所にも堆積している。
特許文献1の手法ではスパッタリングの強度が最大となるようにイオンビームの径が調整されているため、効率的に局所的なスパッタリングを行う場合には適しているが、広範囲にわたって電極表面にイオンビームを照射して、電極全体の堆積物を除去するのには向いていない。
【0010】
本発明では、広範囲にわたって電極表面にイオンビームを照射して、電極上の堆積物を除去することを期所の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
イオン源は、
プラズマ容器下流に配置された抑制電極にクリーニングガスから生成されたイオンビームを照射して、抑制電極をクリーニングするイオン源で、
前記プラズマ容器と前記抑制電極の距離を調整する駆動機構を有し、
クリーニングに先立って、前記駆動機構を制御して第1の方向へ前記抑制電極を移動させ、前記プラズマ容器と前記抑制電極との距離を広げる制御装置を備えている。
【0012】
イオン源のクリーニングに先立って、プラズマ容器と前記抑制電極との距離を広げているため、プラズマ容器から引出されたイオンビームの照射される範囲を広範囲にすることができる。その結果、広範囲にわたって堆積物の除去が可能となる。
【0013】
クリーニング時間に応じて、クリーニングの継続、終了を判断してもいいが、抑制電極が正常にクリーニングされていることを確認する上では、
前記制御装置は、前記抑制電極の電位や前記抑制電極を流れる電流に基づいてクリーニングを継続するか否かを決定することが望ましい。
【0014】
抑制電極に照射されるイオンビームの照射範囲を更に広げるには、
前記抑制電極のクリーニング中、あるいは、クリーニングに先立って、
前記制御装置が、前記駆動機構を制御して前記第1の方向と直交する第2の方向へ前記抑制電極を移動させる構成であることが望まれる。
【0015】
一方、前記抑制電極のクリーニング中、あるいは、クリーニングに先立って、
前記制御装置が、前記駆動機構を制御して前記第1の方向と直交する第3の方向周りに前記抑制電極を回転させる構成であってもよい。
【0016】
イオン源のクリーニング方法は、
プラズマ容器下流に配置された抑制電極にクリーニングガスから生成されたイオンビームを照射して、抑制電極のクリーニングを行うイオン源のクリーニング方法で、
クリーニングに先立って、第1の方向へ前記抑制電極を移動させ、前記プラズマ容器と前記抑制電極との距離を広げるものであればよい。
【発明の効果】
【0017】
イオン源のクリーニングに先立って、プラズマ容器と前記抑制電極との距離を通常運転時のものから広げているため、プラズマ容器から引出されたイオンビームの照射される範囲が広範囲となる。その結果、広範囲にわたって堆積物の除去が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】イオン源の構成例に係る模式的平面図
図2】クリーニングに係るフローチャート
図3】電極位置の変更に係る説明図
図4】イオン源の別の構成例に係る模式的平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明に係るイオン源の模式的平面図である。図示されるZ方向はイオンビームの引き出し方向であり、Y方向は外形直方体状のプラズマ容器2の長手方向である。X方向はY方向とZ方向の両方向に直交している。
【0020】
イオン源1は、一端面に多孔あるいは単孔のイオン引出孔Hが形成されたプラズマ容器2と、プラズマ容器2にBF3やPH3、AsF3等のドーパントガス11とアルゴン、キセノン等のクリーニングガス12を供給する2つのガスボトルと、プラズマ容器2の内部でアーク放電や高周波放電により生成されたプラズマからイオンビームIBの引き出しを行う引出電極Eを備えている。
【0021】
引出電極Eは、2次電子のプラズマ容器2側への流入を防止する抑制電極3と接地電位の接地電極4で構成されている。
イオンビームIBの引き出しにあたっては、図示されない引出電源を用いてプラズマ容器2の電位を引出電極Eの電位に比べて高くしておくことで、プラズマ容器2のプラズマから正の電荷を有するイオンビームの引き出しが行われる。
プラズマ容器2と同様に、抑制電極3と接地電極4にはイオンビームIBが通過するイオン引出孔Hが形成されている。
【0022】
抑制電極3と接地電極4は絶縁部材を介して連結されている。両電極は一組の構造物として、駆動機構5によってU方向(第1の方向)、V方向(第2の方向)へ移動し、Y軸方向(第3の方向)周りに矢印Wの向きに回転するように構成されている。
駆動機構5については、引出電極の位置や傾き調整を行うためのマニピュレータとして従来から知られている機構が使用される。
【0023】
本発明では、イオン源については如何なるタイプのものを使用してもよい。例えば、バケット型、バーナス型、フリーマン型、傍熱型、高周波型のいずれの構成を採用してもよい。
【0024】
図1(A)はドーパントガス11を用いてイオン源の運転を行っているときのもので、本発明ではこのときのイオン源の運転を通常運転と呼んでいる。一方、図1(B)はクリーニングガス12を用いてイオン源の運転を行っているときのもので、本発明ではこのときのイオン源の運転をクリーニング運転と呼んでいる。
【0025】
両図を見比べればわかるように、クリーニング運転時、引出電極Eの位置が通常運転時の引出電極Eの位置に比べてZ方向側に移動している。換言すれば、プラズマ容器2と引出電極Eの距離が広がっている。
【0026】
本発明において、プラズマ容器2から引出されたイオンビームIBは意図的にもしくは空間電荷効果の影響で発散している。
プラズマ容器2と引出電極Eとの距離が広がると、プラズマ容器2から引出されたイオンビームIBが抑制電極3に照射される照射面積が拡大する。
照射面積の拡大により、広範囲にわたって抑制電極3の堆積物を除去することが可能となる。
【0027】
また、イオン源1は制御装置Cを備えている。この制御装置Cで通常運転からクリーニング運転への変更が自動的に行えるように構成されている。
例えば、両運転の切換えについては、プラズマ容器2と抑制電極3の間で発生するグリッチの回数をカウントし、この回数が基準回数を上回る場合に通常運転からクリーニング運転への切り換えが行われる。
また、イオン源の通常運転時の運転時間に応じてイオンビームを使った基板処理の前後のタイミングで運転の切換えを行うようにしてもよい。
【0028】
反対に、クリーニング運転から通常運転への切換えにあたっては、抑制電極3の電位をモニターし、抑制電極3に印加されるべき設定電位となっているかどうかを確認して判断される。
抑制電極3には、二次電子を下流側へ追い返すために所定の負電圧が印加されている。抑制電極3に反応物が堆積している段階では堆積物による電気絶縁の影響で、正確な印加電圧を測定することができない。逆に言えば、堆積物が正常にスパッタリングされていれば、この実測値が設定値となる、あるいは、設定値に近い値となるので、抑制電極の電位をモニターして、運転状態を切換えている。
【0029】
上述した実施形態では、抑制電極3の電位をモニターして、クリーニング運転から通常運転への切換える旨を述べたが、モニターする対象は電位に代えて電流であってもよい。
抑制電極3が堆積物で覆われている間は堆積物が障害物となり、抑制電極3の表面にイオンビームが照射されないことから、抑制電極3に接続された抑制電源に流れる抑制電流は堆積物がない場合に比べて低くなる。クリーニングが進み、堆積物が正常に除去されると、抑制電源に流れる抑制電流が安定し、最終的には一定値となる。
これより、電流をモニターする場合には、電流値が一定値となる、あるいは、電流値が安定した段階で抑制電極上の堆積物が正常にスパッタリングされたと判断して、運転状態の切換えを行うようにしてもよい。
【0030】
さらには、クリーニング運転に要した時間に基づいて運転状態を切換えるようにしてもよい。ただし、クリーニング運転に要した時間では、正常にクリーニングが出来たかどうかが不確かなため、上述した抑制電極3の電圧値や電流値を実測し、実測値に応じて運転状態の切換えを行う方がよい。
【0031】
図2は、本発明のクリーニングに係る処理を示す簡易的なフローチャートである。
クリーニング運転の開始にあたって、ドーパントガスからクリーニングガスへガス種の切換えが行われる(S1)。ガス種の切換えにあたっては、各ガスのボンベに接続されたバルブの開閉操作が行われる。
次に、引出電極Eの電極位置が変更される(S2)。この電極位置の変更によって、プラズマ容器2と抑制電極3の距離が広げられ、図1(B)に示す状態になる。
【0032】
クリーニング運転の準備が整えば、イオンビームが抑制電極に照射される(S3)。その後、抑制電極3の電位が基準値(設定値)から所定範囲(α)内にあるかどうかの判別が行われ(S4)、電位が基準値近傍の値となった段階でクリーニングを終了する。
【0033】
図3には、クリーニング運転時に抑制電極3にイオンビームが照射される様子が描かれている。図3(A)は、図1(B)のごとく、プラズマ容器2と抑制電極3との間の距離を広げたときの抑制電極3に照射されるイオンビームに対応している。
図3(B)は、図3(A)の構成に加えて、駆動機構5にて図1のV方向へ引出電極Eの位置を変更したときに抑制電極3に照射されるイオンビームに対応している。
図3(C)は、図3(A)の構成に加えて、駆動機構5にて図1の矢印Wの向きに引出電極Eを回転させたときに抑制電極3に照射されるイオンビームに対応している。
【0034】
図3(B)、図3(C)では、図3(A)に比べて抑制電極3に照射されるイオンビームの照射領域が広くなる。抑制電極3の堆積物をより広い範囲で除去するには、プラズマ容器2と抑制電極3の距離を広げることに加えて、イオンビームの引出方向と垂直な方向で抑制電極3の位置や傾きを変更することを併用するようにしてもよい。
【0035】
なお、図3(B)、図3(C)に示す両構成を図3(A)の構成と組み合わせるようにしてもよい。また、クリー二ングに先立ち、図3(B)、図3(C)に示すように抑制電極3の位置や傾きを設定してもいいが、抑制電極3の位置や傾きを連続的に変化させながら抑制電極3のクリーニングを行うようにしてもよい。
【0036】
上記実施形態では、制御装置Cを用いて自動的に運転状態を切換える構成について説明したが、手動にて装置のオペレーターが切換えを行うようにしてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、図2のフローチャートでガス種の切換えと電極位置の変更が順番に行われていたが、これらを同時に行うようにしてもよい。さらには、電極位置を変更してから、ガス種を切換えるようにフローチャートに記載のものから順序を逆にしてもよい。
【0038】
上記実施形態では、引出電極Eを駆動機構5で移動させることで、プラズマ容器2と引出電極Eとの距離を変更していたが、距離の変更にあたってはプラズマ容器2側を移動させるようにしてもいい。
具体的には、図4に描かれているように、プラズマ容器2を駆動機構5で移動させ、引出電極Eを固定しておく。このような構成でも、上述した本発明の効果を奏することができる。
【0039】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 イオン源
2 プラズマ容器
3 抑制電極
4 接地電極
5 駆動機構
E 引出電極
C 制御装置
図1
図2
図3
図4