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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】組織切片選定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/06 20060101AFI20220714BHJP
   G01N 1/36 20060101ALI20220714BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20220714BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220714BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
G01N1/06 L
G01N1/36
G01N1/30
G01N33/48 P
G01N33/53 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019514690
(86)(22)【出願日】2018-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2018017336
(87)【国際公開番号】W WO2018199335
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2017090793
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業/医療情報の高度利用による医療システムの研究開発/がん診断・治療ナビゲーションシステムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505145149
【氏名又は名称】株式会社ニチレイバイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100158241
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 安子
(72)【発明者】
【氏名】増田 しのぶ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良平
(72)【発明者】
【氏名】北野 由里子
【審査官】萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特表昭61-502560(JP,A)
【文献】特表2016-520814(JP,A)
【文献】特開2015-155873(JP,A)
【文献】特開平08-035921(JP,A)
【文献】特許第4758672(JP,B2)
【文献】特許第4013192(JP,B2)
【文献】特表2006-519376(JP,A)
【文献】特開2015-129739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0269985(US,A1)
【文献】米国特許第05610022(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マーカーを特異的に検出して、検査する組織切片を選定する組織切片選定方法であって、
生体組織片と標準物質とを共に同じ包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する包埋ブロック作製工程と、
前記包埋ブロックを薄切して、前記組織切片及び標準物質切片が表面に現れているシート形状の包埋組織切片を作製する包埋組織切片作製工程と、
前記標準物質切片からの光シグナルに基づいて、検査する前記組織切片を選定する組織切片選定工程と
を有 し、
前記標準物質は、前記組織切片の厚さの基準となる厚さ標準物質である
組織切片選定方法。
【請求項2】
前記包埋ブロック作製工程は、
トレイ底面に前記生体組織片を載置する載置工程と、
包埋ブロック作製カセットを用意し、前記包埋ブロック作製カセットの位置決め孔に前記標準物質を挿入し、前記トレイ底面を基準としたときの前記生体組織片の下端から上端までの高さ範囲内に前記標準物質が存在するように前記標準物質を位置決めする位置決め工程と、
液状包埋剤をトレイに流し込む液状包埋剤導入工程と、
前記液状包埋剤を固化させて、前記生体組織片と前記標準物質とが共に同じ包埋剤に包埋した前記包埋ブロックを作製する固化工程と、
を有する請求項1に記載の組織切片選定方法。
【請求項3】
前記包埋ブロックには、他の標準物質が包埋され、 前記他の標準物質は、マーカーの検出結果の適否の基準となるマーカー標準物質である
請求項1又は2に記載の組織切片選定方法。
【請求項4】
記組織切片選定工程は、
前記厚さ標準物質からの光シグナルに基づいて、検査する前記組織切片を選定する組織切片厚判断工程と、
前記組織切片厚判断工程の後に、前記マーカー標準物質からの光シグナルに基づいて、検査する前記組織切片を選定するマーカー適否判断工程と、を備える
請求項に記載の組織切片選定方法。
【請求項5】
前記標準物質が内因性タンパク質を発現する細胞である
請求項1~のいずれか1項に記載の組織切片選定方法。
【請求項6】
前記包埋ブロック作製工程では、前記生体組織片を固定液に所定時間浸漬した後、前記包埋ブロックを作製し、
前記包埋組織切片作製工程以降に、
前記包埋組織切片に対して染色処理を行い、前記組織切片内の細胞で発現されている内因性タンパク質からの光シグナルに基づいて、前記固定液による前記組織切片の固定状態を判断する固定状態判断工程を有する
請求項1~のいずれか1項に記載の組織切片選定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織切片選定方法及び包埋ブロック作製カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
癌組織では特定の遺伝子が増幅されて当該遺伝子の産物であるタンパク質が過剰発現していることが知られている。癌などの検査においては、生体から採取した検体内のタンパク質の過剰発現や遺伝子の増幅を免疫組織化学染色法によって検出し、検体の状態を検査している。
【0003】
例えば、乳癌などの腫瘍細胞中では、癌遺伝子の1つであるHER2/neu遺伝子の遺伝子産物であるHER2/neuタンパクが高頻度に過剰発現している。そのため、免疫組織化学染色法を用いて腫瘍細胞中のHER2/neuタンパクを検出し、HER2/neuタンパクの過剰発現の有無を判定することで、癌に罹患しているか否かの検査をすることができる。
【0004】
この原理を応用した検査キットとして、腫瘍細胞中に発現されたHER2/neuタンパクを標的とした、HER2/neuタンパクの細胞外領域を認識する抗ヒトHER2/neu遺伝子産物モノクローナル抗体(SV2-61γ)(動物種:マウス)を用いた免疫組織化学染色キットが販売されている。
【0005】
このような免疫組織化学染色キットでは、以下の工程を経て検体が免疫組織化学染色される(以下、単に染色されるという。)。まず、例えば人から採取した検査すべき生体組織片がパラフィンなどの包埋剤により包埋された包埋ブロックを用意する用意工程、当該包埋ブロックをミクロトームなどにより所望の厚さに薄切してゆき、組織切片の周辺が包埋剤切片で囲まれたシート形状の包埋組織切片を作製する作製工程、及び、このようにして作製した包埋組織切片をスライドガラス上に載置する載置工程を行い、染色を行える形式とした検体を準備する。
【0006】
続いて、スライドガラス上の包埋組織切片からパラフィンを除去する脱パラフィン処理工程、及び、組織切片を賦活化する抗原賦活化処理工程を行う。
【0007】
最後に、3V/V%過酸化水素水による内因性ペルオキシダーゼ処理などのブロッキング処理工程、組織切片中の特定抗原に一次抗体を結合させる一次抗体反応処理工程、標識酵素が結合した二次抗体を一次抗体に結合させる二次抗体反応処理工程、及び、発色基質を含む基質溶液(例えばDAB:3,3’-ジアミノベンジジン)による発色を利用して組織切片の特定抗原を染色する染色処理工程を行う。このような一連の工程を経て、組織切片は染色される(非特許文献1)。
【0008】
この際、染色の適否を判定するためのコントロールスライドを、包埋組織切片とは別に用意しておき、組織切片と同時にコントロールスライドも染色する。コントロールスライドは、検体標本を有しており、当該検体標本の染色強度から染色の適否を判定し得る。コントロールスライドにより、染色が適切に行われたことが確認されると、所定の判定基準に基づいて組織切片の染色強度のスコア判定を行い、このスコア判定の結果から、組織切片に病変組織があるか否かの判断が行われる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】株式会社ニチレイバイオサイエンス「ヒストファインHER2キット(MONO) 操作手順」、[online]、平成29年4月3日検索、インターネット(URL:http://www.nichirei.co.jp/bio/technical/protocol/her2/mono03.html)
【文献】株式会社ニチレイバイオサイエンス「HER2検査 判定方法」、[online]、平成29年4月3日検索、インターネット(URL:http://www.nichirei.co.jp/bio/technical/protocol/her2/judge.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような免疫組織化学染色を用いる検査用の組織切片は、上述のようにミクロトームなどの機器を用いて包埋ブロックから、通常、数μmの厚さに薄切されて作製される。ミクロトームによる薄切作業では、技術者の熟練度、作製する環境(例えば、室内温度や湿度)や包埋した組織の種類に依存して厚さにばらつきが生じる可能性があり、さらに同じ技術者であっても手技にブレが生じて、厚さにばらつきが生じる可能性がある。
【0011】
免疫組織化学染色を用いる検査においては、組織切片の厚さによって染色強度が変化してしまうことから、組織切片の厚さのばらつきが検査結果に大きな影響を与える。例えば、検査に用いる複数の組織切片の厚さにバラつきがある場合、同一の条件で同時に染色したとしても、各組織切片の染色強度が同程度とはならず、組織切片の厚さに応じて染色強度が異なってしまう。そのため、組織切片の厚さにばらつきがあると、実際の組織切片の状態とは異なったスコア判定をしてしまい、検査結果に誤りが生じる恐れがある。
【0012】
また、免疫組織化学染色を用いる検査では、包埋組織切片とは別に用意したコントロールスライドを用いて染色の適否を判断して検査結果の正確性を高めているが、さらに、この際においても、検査結果に誤りが生じることを抑制して、検査結果の正確性を高めたいという要求がある。
【0013】
さらに、包埋ブロックを作製する前に、例えば、ホルマリン水溶液等の固定液に生体組織片を所定時間浸漬し、生体組織片の組織形態や抗原活性を最適な状態に固定させる固定処理を行っている。しかしながら、このような固定処理時に固定時間が不適切で生体組織片について最適な固定がされていないと、生体組織片内の組織形態や抗原活性が維持されず、その後、組織切片を検査する際、検査結果に誤りが生じる可能性がある。
【0014】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、検査結果に誤りが生じることを抑制できる組織切片選定方法及び包埋ブロック作製カセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の組織切片選定方法は、マーカーを特異的に検出して、検査する組織切片を選定する組織切片選定方法であって、生体組織片と標準物質とを共に同じ包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する包埋ブロック作製工程と、前記包埋ブロックを薄切して、前記組織切片及び標準物質切片が表面に現れているシート形状の包埋組織切片を作製する包埋組織切片作製工程と、前記標準物質切片からの光シグナルに基づいて、検査する前記組織切片を選定する組織切片選定工程とを有する。なお、本願において、光シグナルとは、光学的に検出可能なシグナルであり、例えば、標準物質切片の表面からの反射光である。
【0016】
本発明の包埋ブロック作製カセットは、生体組織片が包埋された包埋ブロックを作製する包埋ブロック作製カセットであって、液状包埋剤を流し込むトレイ上に載置される箱体を備えており、前記箱体は、トレイ底面上の前記生体組織片と対向した領域に上面と下面とが貫通した貫通孔を備える枠部と、前記トレイ底面と向かい合うように設けられ、標準物質が挿入される位置決め孔を有する標準物質位置決め部とを備え、前記標準物質位置決め部は、前記トレイ底面を基準としたときの前記生体組織片の下端から上端までの高さ範囲内に前記標準物質が存在するように、前記標準物質を位置決めする。
【0017】
本発明の組織切片選定方法は、マーカーを特異的に検出して、検査する組織切片を選定する組織切片選定方法であって、生体組織片を固定液に所定時間浸漬した後、前記生体組織片を包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する包埋ブロック作製工程と、前記包埋ブロックを薄切して、前記組織切片が表面に現れているシート形状の包埋組織切片を作製する包埋組織切片作製工程と、前記包埋組織切片に対して染色処理を行い、前記組織切片内の細胞で発現されている内因性タンパク質からの光シグナルに基づいて、前記固定液による前記組織切片の固定状態を判断する固定状態判断工程とを有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の組織切片選定方法では、組織切片及び標準物質切片が同一表面上に現れているシート形状の包埋組織切片を用い、標準物質切片からの光シグナルに基づいて、検査する組織切片を選定するようにした。これにより組織切片選定方法では、検査に最適な組織切片に対してのみ検査を行えるので、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0019】
本発明の包埋ブロック作製カセットでは、生体組織片と標準物質とを共に同じ包埋剤に包埋させた包埋ブロックを作製できるので、当該包埋ブロックを薄切したとき、組織切片と標準物質切片とが同一表面上に現れる包埋組織切片を作製することができる。これにより、包埋ブロック作製カセットでは、標準物質切片からの光シグナルに基づいて、検査する組織切片を選定し得、検査に最適な組織切片に対してのみ検査を行わせることができるので、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0020】
本発明の組織切片選定方法は、固定液による組織切片の固定状態を判断できるので、検査に最適な固定状態にある組織切片に対してのみ検査を行え、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の包埋ブロック作製カセットの全体構成及び使用態様を示す概略図である。
図2】本発明の包埋ブロック作製カセットの全体構成(1)を示す斜視図である。
図3】本発明の包埋ブロック作製カセットの全体構成(2)を示す斜視図である。
図4】本発明の包埋ブロック作製カセットを用いて作製した包埋ブロックの構成を示す斜視図であり、図4Aは、板枠部除去前の包埋ブロックの構成を示す斜視図であり、図4Bは、板枠部除去後の包埋ブロックの構成を示す斜視図である。
図5】包埋ブロックから薄切された包埋組織切片の構成を示す斜視図である。
図6】変形例の包埋ブロック作製カセットを用いて作製した包埋ブロックの構成を示す斜視図である。
図7】変形例の包埋ブロック作製カセットの上面構成を示す概略図であり、図7Aは、5つの位置決め孔が一列に配置された標準物質位置決め部を有する包埋ブロック作製カセットを示す上面図であり、図7Bは、4つの位置決め孔が一列に配置された標準物質位置決め部を有する包埋ブロック作製カセットを示す上面図である。
図8】変形例の包埋ブロック作製カセットの上面構成を示す概略図であり、図8Aは、貫通孔が円形状をした包埋ブロック作製カセットを示す上面図であり、図8Bは、貫通孔が4分割された包埋ブロック作製カセットを示す上面図である。
図9】組織切片の厚さと、厚さ標準物質の色調との関係を表す検量線を示したグラフである。
図10】組織切片の厚さと、厚さ標準物質の色調との関係を表す検量線を示したグラフである。
図11】組織切片の厚さとマーカー標準物質の染色強度との関係を表す検量線を示したグラフである。
図12】組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法における一連の作業(1)を説明するための概略図である。
図13】組織切片の厚さと、マーカー標準物質切片の染色強度のスコアとを調べ、検量線に対してプロットした結果を示すグラフである。
図14】組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法における一連の作業(2)を説明するための概略図である。
図15】検体固定時間と茶色スコアとの関係を示したグラフである。
図16】抗CD34ウサギポリクローナル抗体の濃度検討を行う際に得られた画像を示す写真である。
図17】ブタ乳腺組織から切り出した直後に固定液に浸漬させた組織ブロックと、濃度1/400の抗体とを用いて検証を行った際に得られた画像を示す写真である。
図18図15に示したグラフを作成する際に用いた画像の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)本発明の包埋ブロック作製カセットの概略
図1に示すように、本発明の実施形態に係る包埋ブロック作製カセット1は、トレイ30上に載置されて用いられ、標準物質21と生体組織片22とを共に同じ包埋剤に包埋して包埋ブロック(後述する)を作製するための治具である。包埋剤(図示せず)は、例えばパラフィンなどのように熱すると液化し、冷却すると再度固化する材料である。包埋ブロック作製カセット1は、包埋ブロックを薄切する際に、ミクロトームなどの薄切器具に装着される。そのため、包埋ブロック作製カセット1の形状及びサイズは、使用する薄切器具に合わせて適宜選択される。
【0023】
以下では、免疫化学組織染色法に用いる包埋ブロックを作製する場合を例として、包埋ブロック作製カセット1について説明する。また、ここでは、生体組織に含まれるマーカーとしてHER2/neuタンパクを用い、当該HER2/neuタンパクを特異的に検出して生体の状態を検査する免疫化学組織染色法を行う場合について説明する。
【0024】
包埋ブロック作製カセット1は、プラスチック、フェノール樹脂、メラミン樹脂やポリスチレン等の合成樹脂材からなり、薄切器具の装着部位に合わせて外形が形成された箱体2を備えている。箱体2には、上面3aから下面へ貫通した開口部4を取り囲むように枠部3が形成されている。この実施形態の場合、枠部3は、直方体の側面の1つが斜面となった錐台形状に形成され、開口部4は四辺形状に形成されている。
【0025】
枠部3で囲まれた開口部4内の領域には、標準物質位置決め部5と貫通孔6とが設けられている。標準物質位置決め部5は、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された際に、トレイ30の底面(以下、単にトレイ底面と呼ぶ)34上に載置された生体組織片22を避けて当該トレイ底面34と向かい合うよう、開口部4の所定領域に設けられている。標準物質位置決め部5には、複数の位置決め孔5aが設けられており、それぞれに標準物質21(後述する)が挿入される。標準物質位置決め部5は、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された際に、トレイ底面34上に載置された生体組織片22を避けて標準物質21を配置させる。これにより、標準物質21は、標準物質位置決め部5により、トレイ底面34上で生体組織片22と並ぶように配置される。
【0026】
貫通孔6は、開口部4内において標準物質位置決め部5が設けられた領域以外の残りの領域に設けられている。貫通孔6は、上面3a及び下面を貫通しており、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された際に、トレイ底面34上に載置された生体組織片22を、上方から見て貫通孔6から露出させ得る。
【0027】
トレイ30は、盆形状に凹んだ収容部31と、収容部31の外周に沿って設けられた肩部32と、肩部32の外周に設けられた一対の第1鍔部35及び第2鍔部36とを備えている。収容部31には、包埋ブロックを作製する際に、収容部31内のトレイ底面34上に生体組織片22が載置される。また、収容部31は、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された後に、トレイ30に流し込まれた液状包埋剤を収容する。液状包埋剤は、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された状態で収容部31内において冷却され、固化される。
【0028】
肩部32は、包埋ブロック作製カセット1と当接し、包埋ブロック作製カセット1を支持する。第1鍔部35と第2鍔部36とは、肩部32の対向する2辺にそれぞれ設けられており、包埋ブロック作製カセット1が肩部32上に載置されるように、包埋ブロック作製カセット1をガイドする。
【0029】
標準物質21は、標準物質位置決め部5における各位置決め孔5aの孔形状(ここでは円柱形状)に合わせて同じ形状(円柱形状)に形成されている。標準物質21は、後述する組織切片の厚さの基準となる厚さ標準物質21aと、マーカーの検出結果の適否の基準となるマーカー標準物質21b,21c,21d,21eとであり、ここでは、これら厚さ標準物質21a及びマーカー標準物質21b,21c,21d,21eをまとめて標準物質21と呼んでいる。本実施形態では、上記のとおり、生体組織内のHER2/neuタンパクを検出する場合を例としている。生体内のHER2/neuタンパクの量は、通常、0(陰性)、1+、2+、3+の4段階で評価される。
【0030】
そのため、マーカーの検出結果の適否の基準となるマーカー標準物質としては、染色結果が陰性を示す細胞株MDA-MB-231で作られたマーカー標準物質21b、染色結果が1+を示す細胞株MDA-MB-175VIIで作られたマーカー標準物質21c、染色結果が2+を示す細胞株MDA-MB-453で作られたマーカー標準物質21d、及び、染色結果が3+を示す細胞株SK-BR-3で作られたマーカー標準物質21eを用いている。
【0031】
マーカー標準物質21b,21c,21d,21eは、上記の細胞株を包埋したコントロール細胞包埋ブロックをそれぞれ作製し、当該コントロール細胞包埋ブロックをBIOPSY PUNCH(カイ インダストリーズ社製)を用いて円柱形状にくり抜いて作製している。
【0032】
厚さ標準物質21aは、厚さによって光シグナルとしての色調が変わる材料で作られている。例えば、青色など所定色の顔料を混ぜて作製された顔料含有発泡ウレタンなどを厚さ標準物質21aとして用いることができる。厚さ標準物質21aは厚さによって色調などの色情報が変化する材料であれば特に限定されない。
【0033】
本実施形態では、厚さ標準物質21aを以下の手順で作製している。まず、所定の大きさ(例えば縦100~110mm、横60~70mm、高さ30~40mm、重量35~45g)の青色顔料含有発泡ウレタンを作製する。裁断面が青色顔料含有発泡ウレタンの横方向と並行となるように、約5mm幅で、高さ方向に青色顔料含有発泡ウレタンを裁断する。続いて、シート形状に裁断された青色顔料含有発泡ウレタンから、青色顔料含有発泡ウレタン中に含まれる気泡の数が少ない部分である中央付近を切り出し、さらに約5mmの厚さのシート形状に裁断して、発泡ウレタン小片を作製する。
【0034】
発泡ウレタン小片を市販のパラフィン包埋ブロック作製カセットEB-W(オリンパス社製)の中に載置し、密閉式自動固定包埋装置ティシュー・テックVIP(サクラファインテックジャパン社製)を用いて固定化処理する。固定化処理した発泡ウレタン小片をティシューマイクロアレイヤー装置KIN-2型(東屋医科器械社製)によって円柱形状にくり抜くことで、厚さ標準物質21aを作製する。
【0035】
(2)包埋ブロック作製カセットの詳細構成
ここで、図1に加えて、図1との対応部分に同一符号を付した図2及び図3を参照して、包埋ブロック作製カセット1についてさらに詳細に説明する。箱体2に設けられた枠部3は、開口部4内を取り囲む内壁3bのうち、対向する一対の内壁3b間に角棒状の横桟部9が橋架されている。横桟部9は、枠部3の下面3fと面一に設けられ、開口部4内を2つの領域に分けており、一方の領域を標準物質位置決め部5の形成領域とし、他方の領域を貫通孔6の形成領域とする。
【0036】
標準物質位置決め部5は、枠部3と同一部材により形成されており、筒形状でなる複数の位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを有する。これら位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jは、所定距離を設けて配置されている。隣接する位置決め孔形成部5f,5g,5h(5h,5i,5j)は、角棒状の連結部5mにより互いに連結され、枠部3の内壁3bに近接する位置決め孔形成部5f,5h,5jは、それぞれ角棒状の連結部5mにより当該内壁3bに連結されている。横桟部9に隣接する位置決め孔形成部5g,5iは、側面が横桟部9にも連結されている。標準物質位置決め部5において、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5j及び連結部5m以外の領域は、上面3a及び下面3fを貫通する開口部5kとなっている。
【0037】
この実施形態の場合、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jは、同一構成を有しており、上面3aから下面3fまで貫通する柱形状の中空領域が位置決め孔5aとなり、それぞれの位置決め孔5aに標準物質21が挿入され得る。本実施形態では、上記のように厚さ標準物質21a、マーカー標準物質21b,21c,21d,21eを用いるため、標準物質位置決め部5には5つの位置決め孔5aが設けられている。
【0038】
標準物質位置決め部5は、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを連結部5mや横桟部9を介在させて枠部3の内壁3bに対して固定しつつ、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5j間に開口部5kを形成し、当該開口部5kからも液状包埋剤をトレイ底面34に流し込むことができる。また、貫通孔6と標準物質位置決め部5との間にある横桟部9は、枠部3の下面3fと面一に設けられていることから、包埋ブロック作製カセット1がトレイ30上に載置された際、トレイ底面34と横桟部9と間に隙間を形成し得、トレイ30に流し込まれた液状包埋剤が貫通孔6の領域及び標準物質位置決め部5の領域間でも流動し得る。
【0039】
ここで、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jは全て同一構成を有することから、例えば、位置決め孔形成部5gに着目して以下説明する。位置決め孔形成部5gは、位置決め孔5aがトレイ底面34と向き合うように、連結部5mや横桟部9を介在させて枠部3の内壁3bに対して固定されている。位置決め孔形成部5gは、所定の高さに形成されており、位置決め孔5aに標準物質21が挿入された際、標準物質21の一端をトレイ底面34に当接させつつ、トレイ底面34に対して標準物質21の長手方向が垂直方向に向くように維持させ得る。これにより、位置決め孔形成部5gは、包埋ブロックを作製する際、トレイ底面34を基準として、生体組織片22の下端から上端までの高さ範囲に標準物質21が存在するように位置決めし得る。
【0040】
本実施形態の場合、箱体2は、トレイ底面34に生体組織片22が置かれたトレイ30上に対し包埋ブロック作製カセット1を載置した際に、生体組織片22の全体が貫通孔6から外部に露出するように形成されている。これにより、トレイ底面34に生体組織片22が置かれたトレイ30上に対し包埋ブロック作製カセット1を載置した状態で、貫通孔6を介して生体組織片22をトレイ底面34上で動かし、生体組織片22の位置調整を行ったり、或いは、液状包埋剤を流し込む際にトレイ底面34から浮き上がった生体組織片22をトレイ底面34に押し付けたりすることができる。
【0041】
なお、本実施形態においては、貫通孔6として、トレイ底面34上に載置された生体組織片22全体が、貫通孔6を通して上方から見えるように、貫通孔6の大きさを生体組織片22よりも大きくした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、他の実施形態による貫通孔としては、生体組織片22の対向する両端部間の全体が、貫通孔6を通して上方から見えるような大きさの貫通孔6や、生体組織片22の1/3以上が貫通孔6を通して上方から見えるような大きさの貫通孔6としてもよい。
【0042】
かかる構成に加えて、箱体2は、図3に示すように、枠部3の下面3fに、四辺形状に配置された板枠部13が立設されている。板枠部13は、内壁面14aが枠部3の開口部4を囲うように設けられている。すなわち、板枠部13は、標準物質位置決め部5の形成領域と貫通孔6の形成領域とを内壁面14aにより取り囲むように設けられている。
【0043】
板枠部13は、包埋ブロック作製カセット1の箱体2がトレイ30の肩部32に載置された際に、トレイ30の底面34に先端14が当接し、トレイ底面34及び内壁面14aで囲まれた空間を形成し得る。これにより、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30に載置して開口部4から液状包埋剤を流し込んで包埋ブロックを作製する際には、トレイ底面34及び板枠部13で囲まれた空間に液状包埋剤が溜まってゆき、当該空間に流し込まれた液状包埋剤が貫通孔6の領域及び標準物質位置決め部5の領域間で流動することから、標準物質21と生体組織片22とが共に同じ包埋剤に包埋された包埋ブロックを作製できる。
【0044】
(3)包埋ブロック作製カセット1の使用方法
続いて包埋ブロック作製カセット1の使用方法について説明する。生体から採取した生体組織片22を、トレイ底面34の所定位置に載置する(載置工程)。次いで、トレイ30の肩部32に、包埋ブロック作製カセット1の枠部3の下面3fが乗るように、当該包埋ブロック作製カセット1をトレイ30上に載置する。これにより、包埋ブロック作製カセット1の箱体2における貫通孔6の領域内に、トレイ底面34上の生体組織片22を配置させる。
【0045】
続いて、標準物質21を、標準物質位置決め部5の各位置決め孔5aにそれぞれ1つずつ挿入する。この際、標準物質21は、一端がトレイ底面34に当接するまで位置決め孔5aに挿入され、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jによりそれぞれ支持される。標準物質21は、生体組織片22の高さに亘って配置される。本実施形態では、厚さ標準物質21aを位置決め孔形成部5fの位置決め孔5aに挿入し、マーカー標準物質21b,21c,21d,21eを、残りの位置決め孔形成部5g,5h,5i,5jの各位置決め孔5aにそれぞれ挿入する(位置決め工程)。なお、トレイ30上に包埋ブロック作製カセット1を載置した後に、貫通孔6からトレイ底面34に生体組織片22を載置してもよく、標準物質21を位置決め孔5aに挿入した後に生体組織片22をトレイ底面34上に載置してもよい。
【0046】
本実施形態では、位置決め孔5aの円柱形状に合わせて、標準物質21の外形を円柱形状とし、さらに、標準物質21の直径が、位置決め孔5aの直径よりも僅かに小さく選定されていることから、位置決め孔5aに標準物質21を確実に挿入し得、また位置決め孔5a内に標準物質21を支持できる。
【0047】
次いで、例えばパラフィンなどの包埋剤を加熱して液化させた液状包埋剤を、開口部4からトレイ30に注ぐ(液状包埋剤導入工程)。液状包埋剤は、トレイ底面34上の生体組織片22や、包埋ブロック作製カセット1の標準物質位置決め部5が覆われるまで注がれる。この際、液状包埋剤は、トレイ底面34上において、包埋ブロック作製カセット1の板枠部13で囲まれた空間に溜まってゆき、包埋ブロック作製カセット1の貫通孔6の領域及び標準物質位置決め部5の領域間で流動する。また、液状包埋剤は、位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jにおいて標準物質21が挿入された各位置決め孔5a内の隙間や、位置決め孔5a内から露出した標準物質21周辺にも溜まり、生体組織片22、標準物質位置決め部5及び標準物質21を全て覆うようにする。
【0048】
液状包埋剤が固化するとき、標準物質21は、位置決め孔に支持されているので、例えば、トレイ底面34を基準としたときの生体組織片22の下端から上端までの高さ範囲全てに存在するように、位置決めさせることができる。ここで、包埋ブロック作製カセット1の開口部4からトレイ30上に液状包埋剤を流し込む際に、トレイ底面34上の生体組織片22が当該トレイ底面34から浮いたり、或いは生体組織片22の位置がズレたりすることもある。その場合には、ピンセットなどを、枠部3の貫通孔6からトレイ30の収容部31内に入れ、トレイ底面34上の生体組織片22をトレイ底面34に押し付けることができる。これにより、標準物質21が存在する高さ範囲に対して、生体組織片22を位置合わせすることができる。
【0049】
その後、液状包埋剤を冷却して固化させることで、図3との対応部分に同一符号を付して示す図4Aのように、生体組織片22と標準物質21とが共に同じ包埋剤23に包埋され、かつ包埋ブロック作製カセット1と一体化した包埋ブロック24を作製できる(固化工程)。最後に、図4Aとの対応部分に同一符号を付して示す図4Bのように、枠部3の下面3fに設けられている板枠部13を取り外し、包埋ブロック24を包埋ブロック作製カセット1から外部に露出させる。このように、包埋ブロック作製カセット1において、四辺形状に配置された板枠部13を取り外すことで、直角に近い形状の4つの角部を有した直方体形状の包埋ブロック24を作製できる。また、包埋ブロック作製カセット1の開口部4内における標準物質位置決め部5も含めて液状包埋剤が固化していることから、包埋剤23が標準物質位置決め部5とも一体的となり、包埋ブロック24が包埋ブロック作製カセット1から抜け落ちてしまうことを防止できる。
【0050】
(4)本発明の組織切片選定方法
次に、本発明による組織切片選定方法の一例について説明する。ここでは、「(1)本発明の包埋ブロック作製カセットの概略」と同様に、免疫化学組織染色法によって生体組織の状態を検査する場合を例として説明する。まず、図4Bに示したように、包埋ブロック作製カセット1を用いて、生体組織片22と標準物質21とを共に同じ包埋剤23に包埋した包埋ブロック24を作製する。
【0051】
次いで、包埋ブロック24と一体化した包埋ブロック作製カセット1をミクロトームにセットする。ミクロトームにおいて、例えば切削刃の位置を、所望する薄切厚さ(例えば4μm)に設定し、当該ミクロトームによって包埋ブロック24を薄切し、生体組織片22と標準物質21との切断面が両面に現れたシート形状の包埋組織切片を作製する。ミクロトームによって、例えば1ストロークで上下移動する切削刃により、1ストローク毎に、包埋ブロック24から包埋組織切片が切り出されてゆく。
【0052】
次いで、図5に示すように、シート状の包埋組織切片44を、例えばスライドガラスなどの基板46上に伸展させて貼り付けることで、組織切片張付基板40を作製する。包埋組織切片44は基板46上で乾燥される。ここで、包埋組織切片44には、直角に近い4つの角を有する長方形状に形成されている。そのため包埋組織切片44の角を目安にすることで、切り出す前の包埋ブロック24において組織切片42がどの位置にあったかを、作業者に把握させることができる。
【0053】
包埋組織切片44は、組織切片42と、標準物質切片としての厚さ標準物質切片41eと、同じく標準物質切片としてのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが、表面に露出しており、組織切片42、厚さ標準物質切片41e、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの各周辺が包埋剤切片43により囲まれた構成を有している。
【0054】
次いで、例えば、包埋組織切片44から包埋剤を除去する脱包埋剤処理や、抗原賦活化液によるプロテアーゼ処理、ブロッキング試液による内因性ペルオキシダーゼ処理、免疫組織化学染色法による染色処理が順次行われる。染色処理では、例えば、組織切片42内のHER2/neuタンパクと結合する一次抗体などを用いて、組織切片42内で抗原抗体反応を起こさせた後、二次抗体標識ポリマーを一次抗体に結合させ、さらに例えば発色試薬などを用いて組織切片42に含まれたHER2/neuタンパクを染色し、当該HER2/neuタンパクを特異的に検出する。
【0055】
次に、デジタルカメラを備えた顕微鏡のステージに組織切片張付基板40を載置し、厚さ標準物質切片41eの表面に焦点を合わせて、厚さ標準物質切片41eの表面を撮影し、当該厚さ標準物質切片41eの画像を取得する。このとき、あらかじめ定められた倍率(本実施形態では対物レンズ倍率2.5倍)で撮影する。なお、画像は、厚さ標準物質切片41eの表面からの反射光に基づいて生成される。画像の色調も当該反射光に基づいて定まる。
【0056】
厚さ標準物質切片41eの画像をもとに、厚さ標準物質切片41eの色調をスコア化する。本実施形態では、計測プログラムを用いて、厚さ標準物質切片41eの画像から所定の色調(本実施形態では、色相範囲:272°‐305°、彩度範囲:0‐51、R値の輝度範囲:0‐71、G値の輝度範囲:0‐77、B値の輝度範囲:0‐77の範囲にある色調)のピクセルを抽出し、以下に示す式(1)を用いて色調をスコア化する。ここでは、厚さ標準物質21aとして青色に染色された発泡ウレタンを用いているので、上記のような色調の範囲を選定している。
【数1】
【0057】
具体的には、抽出したピクセルを彩度値でソートし、所定の彩度範囲毎に、当該彩度範囲に属するピクセルの数と平均輝度とを算出する。平均輝度は、各ピクセルのR値、G値、B値の平均値を、各彩度範囲に属するピクセル全体で平均して算出する。輝度値の上限値255から平均輝度を引いた値を255で割って各彩度範囲の平均輝度を正規化する。彩度範囲毎に正規化した平均輝度に、当該彩度範囲に属するピクセルの数を抽出したピクセル数で割って算出したピクセル割合を乗算し、乗算結果をすべて加算することでスコアを算出する。
【0058】
次いで、あらかじめ作製した厚さ標準物質切片41eのスコアと厚さの関係を表す検量線を用いて、上記式で算出したスコアに対応する厚さを算出し、当該厚さを組織切片42の厚さとする。そして、組織切片42の厚さが所定の範囲内(本実施形態では、4μm±0.4μm)にあるとき、組織切片張付基板40の組織切片42を検査する対象として選定する。一方、組織切片42の厚さが所定の範囲内にないときは、組織切片張付基板40の組織切片42を検査しないと判断する。このように本実施形態では、厚さ標準物質切片41eからの光シグナルとしての色調に基づいて、検査する組織切片42を選定している。
【0059】
続いて、マーカー標準物質切片41aの表面に焦点を合わせてマーカー標準物質切片41aの表面を撮影し、マーカー標準物質切片41aの画像を取得する。このとき、あらかじめ定められた倍率(本実施形態では対物レンズ倍率40倍)で撮影する。
【0060】
マーカー標準物質切片41aの画像をもとに、マーカー標準物質切片41aの染色強度をマーカー標準物質切片41aの色調に基づいてスコア化する。本実施形態では、計測プログラムを用いて、マーカー標準物質切片41aの画像から所定の色調(色相:50°‐180°、彩度範囲:2‐40、R値:10‐180、G値:10‐145、B値:10‐140の範囲にある色調)のピクセルを抽出し、上記の式(1)を用いて厚さ標準物質切片41eと同様に色調をスコア化し、当該スコアを染色強度のスコアとしている。本実施形態では、HER2/neuタンパクが茶色に染色されるので、上記のような色調の範囲を選定している。
【0061】
次いで、縦軸にマーカー標準物質切片41aの染色強度のスコア、横軸に組織切片42の厚さをとり、マーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアと組織切片42の厚さの関係を表す検量線を示したグラフを用意する。上記で算出した組織切片42の厚さとマーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアとに基づいてプロットする。
【0062】
プロットした結果、マーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアが所定の範囲内(本実施形態では、検量線の染色強度スコア±10%の範囲)にあるとき、組織切片42においてHER2/neuタンパクの染色が適切に行われており、マーカーの検出結果が適切であるとする。これにより、この組織切片42については検査が可能であると判断し、組織切片張付基板40の組織切片42を検査する対象として選定する。
【0063】
一方、プロットが所定の範囲内にないときは、組織切片42のHER2/neuタンパクの染色が適切に行われておらず、マーカーの検出結果が適切でない可能性があるため、組織切片42の検査に誤りが生じる恐れがあるとし、組織切片張付基板40の組織切片42を検査しないと判断する。このように本実施形態では、マーカー標準物質切片41aからの光シグナルとしての色調に基づいて、検査する組織切片42を選定している。
【0064】
これにより、検査を行う作業者は、選定された組織切片42の色調を、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの色調と比較して、組織切片42を検査する。
【0065】
なお、マーカー標準物質切片41aのかわりに、マーカー標準物質切片41d,41c,41bのいずれかの染色強度のスコアを算出し、当該染色強度のスコアが所定の範囲内にあるとき、検査が可能であると判断してもよい。マーカー標準物質切片41dは、陰性である細胞株でなり、適切に染色処理が行われた場合、染色されないので、染色されたか否かで、染色が適切に行われたか判断する。
【0066】
マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aから選択された2つ以上のマーカー標準物質についてそれぞれ染色強度のスコアを算出し、2つ以上のマーカー標準物質の染色強度のスコアが所定の範囲内にあるとき、検査可能であると判断してもよい。さらに、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aについてそれぞれ染色強度のスコアを算出し、すべてのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの染色強度のスコアが所定の範囲内にあるとき、検査可能であると判断してもよい。
【0067】
(5)作用及び効果
以上の構成において本発明の実施形態に係る包埋ブロック作製カセット1は、生体組織片22が包埋剤23に包埋された包埋ブロック24を作製する際に、液状包埋剤を流し込むトレイ30上に箱体2を載置させる構成とした。包埋ブロック作製カセット1の箱体2では、トレイ底面34上の生体組織片22と対向した領域に上面3aと下面3fとが貫通した貫通孔6を備えた枠部3と、トレイ底面34と向かい合うように設けられ、かつ標準物質21が挿入される位置決め孔5aを有した標準物質位置決め部5とを備える構成とした。また、標準物質位置決め部5では、位置決め孔5aに標準物質21を挿入させた際に、トレイ底面34を基準としたときの生体組織片22の下端から上端までの高さ範囲内に標準物質21を存在させるようにした。
【0068】
よって包埋ブロック作製カセット1では、包埋ブロック24を作製する際、標準物質位置決め部5により、標準物質21を生体組織片22の下端から上端までの高さ範囲内に存在させた状態のまま、包埋ブロック作製カセット1の開口部4内に液状包埋剤が流し込まれることで、生体組織片22と標準物質21とが同じ包埋剤23に包埋された包埋ブロック24を作製できる。包埋ブロック作製カセット1では、このような包埋ブロック24を薄切させることで、組織切片42と、厚さ標準物質切片41eと、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが同一表面上に現れる包埋組織切片44を作製できる。これにより、包埋ブロック作製カセット1では、厚さ標準物質切片41eや、例えばマーカー標準物質切片41aの色調に基づいて、検査する組織切片を選定し得、検査に最適な組織切片に対してのみ検査を行わせることができるので、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0069】
さらに包埋ブロック作製カセット1では、開口部4内において標準物質位置決め部5の形成領域以外の領域を貫通孔6とし、上方から見て、生体組織片22全体が貫通孔6の形成領域内に収まるようにした。これにより、包埋ブロック作製カセット1では、包埋ブロック24の作製時に、貫通孔6から生体組織片22をトレイ底面34に押し付けることができる。これにより、包埋ブロック作製カセット1では、生体組織片22の浮き上がり等を防止でき、厚さ標準物質21a、マーカー標準物質21b,21c,21d,21eの高さ範囲に合わせて組織切片42を位置調整できる。よって、包埋ブロック作製カセット1により作製した包埋ブロック24を薄切したときに、組織切片42と、厚さ標準物質切片41eと、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aと、が全て同一表面上に現れた包埋組織切片44を確実に作製できる。
【0070】
さらに包埋ブロック作製カセット1では、枠部3の下面3fの板枠部13により、直角に近い形状の4つの角部を有した直方体形状の包埋ブロック24を作製できるようにした。これにより、当該包埋ブロック24を薄切して作製する複数の包埋組織切片44の外周形状を直角形状の角部を4つ有した四辺形状にすることができ、スライドガラスに包埋組織切片44を貼付して検査する組織切片42を選定する際、包埋組織切片44の4つの角部を基準とすることで異なるスライド間であっても確認すべき組織切片42の位置をより正確に捉えることができる。
【0071】
本発明の組織切片選定方法では、生体組織片22と厚さ標準物質21aとマーカー標準物質21b,21c,21d,21eとを共に同じ包埋剤23に包埋して包埋ブロック24を作製し(包埋ブロック作製工程)、当該包埋ブロック24を薄切して、組織切片42と、厚さ標準物質切片41eと、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが全て同一表面上に現れるシート形状の包埋組織切片44を作製するようにした(包埋組織切片作製工程)。また、組織切片選定方法では、厚さ標準物質切片41eの色調(光シグナル)に基づいて組織切片42の厚さを算出し、検査する組織切片を選定し(組織切片選定工程、組織切片厚判断工程)と、組織切片厚判断工程の後に、例えばマーカー標準物質切片41aの色調(光シグナル)に基づいて、検査する組織切片42を選定するようにした(組織切片選定工程、マーカー適否判断工程)。
【0072】
よって組織切片選定方法は、組織切片42と厚さ標準物質切片41eとが同一表面上に現れているシート状の包埋組織切片44を用い、厚さ標準物質切片41eの色調から組織切片42の厚さを算出できる。これにより、組織切片選定方法では、検査に最適な厚さを有した組織切片42のみを選択し、選択した組織切片42に対してのみ検査を行えるので、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0073】
また、組織切片選定方法では、組織切片42とマーカー標準物質切片41aとが同一表面上に現れている包埋組織切片44を用い、マーカー標準物質切片41aの色調から染色強度のスコアを算出できる。この場合、組織切片選定方法では、マーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアに基づいて、検査する組織切片42を選定するようにした。これにより、組織切片選定方法では、マーカーの検出結果の適否をより確実に判断できるので、検査に最適な組織切片42に対してのみ検査を行え、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0074】
特に、この組織切片選定方法では、厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて組織切片42の厚さを算出し、検査する組織切片42を選定した後、さらにマーカー標準物質切片41aの色調に基づいて染色強度のスコアを算出し、検査する組織切片42を選定するようにした。これにより、この組織切片選定方法では、所望する厚さの組織切片42のみを選択し、当該組織切片42に対してもマーカーの検出結果の適否を判断できるので、検査結果に誤りが生じることを一段と抑制できる。
【0075】
組織切片選定方法では、包埋ブロック24を薄切することで、組織切片42とマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが同一表面上に現れる包埋組織切片44を作製できることから、同じ条件で作製し、かつ染色した、組織切片42とマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとを、検査時に比較できる。かくして、製造条件の違いや、染色条件の違いによる影響を防止でき、組織切片42について、より正確に検査できる。
【0076】
(6)変形例
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能であり、例えば、トレイ30の形状、サイズなどは、特に限定されず、包埋ブロック作製カセット1に合わせて適宜選択できる。例えば、包埋皿などの名称で従来から販売されているものをトレイ30として利用でき、また、包埋ブロック作製カセットの形状、サイズなどに合わせて作製してもよい。また、位置決め孔5aの数は標準物質21の数と同数であってもよく、標準物質21の数以上であってもよい。
【0077】
上記の実施形態では、枠部3の下面3fに板枠部13を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限られず、枠部3の下面3fに板枠部13を設けない構成としてもよい。図4Bとの対応部分に同一符号を付して示す図6は、枠部3の下面3fに板枠部13を設けていない包埋ブロック作製カセット1により、包埋ブロック24を作製したときの構成を示す概略図である。図6に示すように、包埋ブロック24は、包埋剤23の外形がトレイ30の収容部31と同様の形状となり得る。このため、例えば板枠部13がない分、直方体形状における4つの各角部が丸まった包埋剤23となるものの、図4A及び図4Bに示したような板枠部13を除去する作業が不要となりその分、作業負担を軽減できる。
【0078】
上記の実施形態では、厚さ標準物質21a、マーカー標準物質21b,21c,21d,21eを用いるため、5つの位置決め孔5aを設けた標準物質位置決め部5について説明してきたが、本発明はこれに限られず、1つの位置決め孔や、2つの位置決め孔等、少なくとも1つ以上の位置決め孔を設けた標準物質位置決め部であればよい。特に、厚さ標準物質21aとマーカー標準物質21eとをそれぞれ1つずつ包埋ブロック24に包埋できるように、少なくとも2つ以上の位置決め孔を有することが望ましい。
【0079】
また、上記の実施形態では、直列に並んだ3つの位置決め孔形成部5f,5h,5jと、直列に並んだ2つの位置決め孔形成部5g,5iとを2列に並べた標準物質位置決め部5について説明したが、本発明はこれに限らず、標準物質位置決め部において位置決め孔形成部を1列や3列など種々の位置に配置してもよい。例えば、図7A及び図7Bは、他の実施形態による包埋ブロック作製カセット51,61の上面構成を示す概略図である。図7Aに示すように、箱体52における開口部4に、複数の位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを一列に並べた標準物質位置決め部55を設けてもよい。また、図7Bに示すように、箱体62における開口部4に、4つの位置決め孔形成部5g,5h,5i,5jを一列に並べ、かつ残り1つの位置決め孔形成部5fを、位置決め孔形成部5g,5h,5i,5jの列とは異なる位置に配置した標準物質位置決め部65を設けてもよい。
【0080】
標準物質21の高さは、標準物質21の一端がトレイ底面34に当接した状態で、当該標準物質21を位置決め孔形成部により支持できる程度の長さが望ましいが、本発明はこれに限らない。例えば、上記の実施形態では、生体組織片22の高さ範囲以上の標準物質21を用い、生体組織片22の全高さ範囲に亘って標準物質21を配置させるようにしたが、本発明はこれに限らず、例えば生体組織片22の高さ範囲よりも短い標準物質を用い、生体組織片22の高さ範囲の一部領域にのみ標準物質を配置させるようにしてもよい。
【0081】
上記の実施形態では、標準物質位置決め部5における各位置決め孔5aの孔形状を円柱形状とし、それに合わせて標準物質21を円柱形状とした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、標準物質位置決め部5における各位置決め孔5aの孔形状を四角柱形状、多角柱形状など、その他種々の支柱状に形成し、それに合わせて標準物質21も四角柱形状、多角柱形状など、その他種々の支柱状に形成してもよい。また、位置決め孔5aに挿入することで標準物質21を支持できれば、位置決め孔形成部の形状や、位置決め孔の形状、標準物質の形状は特に限定されず、例えば、位置決め孔と標準物質の形状が異なる形状であってもよい。
【0082】
上記の実施形態では、開口部4内の領域に標準物質位置決め部5と貫通孔6との両方が設けられている場合について説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、貫通孔6が形成された開口部4とは別に、上面と下面とが貫通する開口部を枠部3に設け、当該開口部に標準物質位置決め部5を設けてもよい。
【0083】
上記の実施形態では、横桟部9によって2つに分けられた開口部4内の領域の一方に、四辺形状の貫通孔6が設けられた場合について説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、円形状、三角形状、楕円形状、多角形状などの貫通孔が設けられていてもよい。例えば、図8Aは、他の実施形態による包埋ブロック作製カセット71の上面構成を示す概略図である。図8Aに示すように、箱体72における開口部4に、円形状の貫通孔76を有する板状の貫通孔形成部77を設けるようにしてもよい。また、上記の実施形態では、1つの貫通孔6を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、図8Bは、他の実施形態による包埋ブロック作製カセット81の上面構成を示す概略図である。図8Bに示すように、箱体82の開口部4の一部領域に、2つの角柱形状の部材が互いに直交する十字形状をした十字横桟部87を設け、4分割にされた貫通孔86を設けるようにしてもよい。
【0084】
上述した実施形態では、枠部3の内壁3bに設けた横桟部9や、連結部5mにより位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを枠部3の内壁3bに固定した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、横桟部9のみ、或いは連結部5mのみによって、枠部3の内壁3bに位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを固定してもよい。横桟部9や連結部5mを用いずに、枠部3の内壁3bに直接位置決め孔形成部5f,5g,5h,5i,5jを固定してもよい。
【0085】
上記の実施形態では、免疫組織化学染色法による染色処理を行った後に、厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて、検査する組織切片42を選定していたが、本発明はこれに限られず、厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて、検査する組織切片42を選定した後に、選定した組織切片42を有する組織切片張付基板40にのみ免疫組織化学染色法による処理を行うようにしてもよい。
【0086】
また、上記の実施形態では、各スライド間の組織切片42の観察位置をより正確に捉えるために、包埋組織切片44の角部を利用したが、観察位置をより高精度に管理するために、例えば、位置管理の為の基準を有するスライドガラスや、スライドガラスを載置した際、載置されたスライドガラスの回転誤差を補正する手段を有する高精度なXYステージなどの位置同期機能を搭載した顕微鏡システムを用いても良い。
【0087】
上記の実施形態では、デジタルカメラで撮影した画像と上述した式(1)とを用いて、厚さ標準物質切片41eの色調とマーカー標準物質切片41aの染色強度とをスコア化したが、本発明はこれに限られず、厚さ標準物質切片41eの色調とマーカー標準物質切片41aの色調とを顕微鏡を用いて目視して、色見本や組織切片の判定例などをもとにしてスコアを決定するようにしてもよい。
【0088】
上記の実施形態では、免疫化学組織染色法によって生体組織に含まれるHER2/neuタンパクを特異的に検出して生体の状態を検査する検査方法に用いる組織切片を選定する場合を例として説明したが、本発明はこれに限られず、免疫組織染色法によって、マーカーとして、ALK融合タンパク、PD-L1、エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター、EGFレセプター、ソマトスタチンやS-100などを検出する場合に本発明を適用してもよい。
【0089】
さらに、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)法や発色インサイチューハイブリダイゼーション(CISH)法によって組織切片に含まれるHER2/neu、ALK、PD-L1、エストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプターなどの特定遺伝子(マーカー)を特異的に検出して生体の状態を検査する検査方法に用いる組織切片を選定する場合に本発明を適用してもよい。
【0090】
FISH法では、組織切片中のマーカーに、蛍光標識が結合されたプローブをハイブリダイゼーションにより結合し、蛍光顕微鏡によって組織切片の蛍光を検出することで、組織切片中のマーカーを検出する。この場合、標準物質切片からの光シグナルとしての蛍光の強度をスコア化し、組織切片42の厚さと蛍光の強度のスコアとに基づいて検査する組織切片42を選定する。
【0091】
CISH法では、組織切片中のマーカーに、アルカリフォスファターゼ標識抗ジゴキシゲニン(DIG)抗体などが結合されたプローブをハイブリダイゼーションにより結合し、アルカリフォスファターゼ基質の発色を検出することで、組織切片中のマーカーを検出する。この場合、標準物質切片からの光シグナルとしての発色の強度をスコア化し、組織切片42の厚さと発色の強度のスコアとに基づいて検査する組織切片42を選定する。
【0092】
上述したFISH法やCISH法の場合には、それぞれの方法に用いるマーカーを含んだマーカー標準物質を用意し、包埋ブロックの作製時に、当該マーカー標準物質を包埋ブロック作製カセット1の位置決め孔5aに挿入させればよい。
【0093】
上記の実施形態では、厚さ標準物質21aとして顔料含有発泡ウレタンを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限られず、厚さ標準物質21aとして、内因性タンパク質を発現する種々の細胞を用いることもできる。この場合、様々な細胞において一定の発現量を示す内因性のタンパク質を免疫組織化学染色により染色し、当該細胞の染色強度の色調を光シグナルとして検出する。細胞としては、例えば、β-アクチンや、COX-4、GAPDH、ラミンB1、PCNA、チューブリン、CD34などの内因性タンパク質を発現する細胞を用いることができる。より具体的には、例えば、HER2陽性を示す細胞株SK-BR-3、細胞株MDA-MB-453やヒト子宮頸癌由来のHela細胞などを用いることができる。内因性タンパク質の発現量が各細胞においてほぼ一定であるので、厚さ標準物質21aの厚さに応じて、細胞の量が変化し、内因性タンパク質の発現量も変化する。そして、細胞の厚さに応じて免疫組織化学染色による染色強度の色調が変化する。そのため、細胞を厚さ標準物質21aとして用い、厚さ標準物質21aの色調に基づいて、組織切片42の厚さを算出し、検査に用いる組織切片42を選定することができる。
【0094】
また、厚さ標準物質21aとして、内因性タンパク質に加えて、例えば、HER2/neuタンパクなどのマーカーも発現している細胞を用いた場合、厚さ標準物質21aをマーカー標準物質としても用いることができる。この場合、まず、当該厚さ標準物質21aを用いて包埋組織切片44を作製し、厚さ標準物質切片41e内で発現している内因性タンパク質及びマーカーをそれぞれ免疫組織化学染色により染色する。次いで、厚さ標準物質切片41eの表面を撮影する。続いて、厚さ標準物質切片41eの画像から内因性タンパク質の染色強度のスコアとマーカーの染色強度のスコアを上記の(1)式を用いてそれぞれ算出し、内因性タンパク質のスコアとマーカーのスコアとの比を算出する。このスコアの比が所定の値の範囲内にあるとき、染色処理が適切であったと判断し、組織切片42を検査する組織切片として選定する。内因性タンパク質とマーカーとを異なる色に染色するようにしているので、1枚の厚さ標準物質切片41eの画像から内因性タンパク質のスコアとマーカーのスコアとを算出することができる。
【0095】
(7)検証実験
(7-1)検証実験1
検証実験1では、厚さ標準物質として青色顔料含有発泡ウレタンを用い、当該青色顔料含有発泡ウレタンの色調と組織切片の厚さとの関係について検証した。なお、図5に示すように、包埋組織切片44は包埋剤切片43と組織切片42とが面一に形成されているので、包埋剤切片43の厚さを組織切片42の厚さとした。また、包埋組織切片は、組織切片を有している場合と有していない場合とで、作製する検量線の傾きに大きな変化がないと考えられるので、以下では、検証用包埋組織切片として、組織切片42が包埋されていないものを用いた。
【0096】
(7-1-1)厚さ標準物質の作製
軟質発泡ウレタンの材料であるポリオール、発泡剤、整泡剤、触媒に、全質量の4.5%の青色顔料(レジノカラー工業社製)を加えて撹拌混合した。混合した材料を、成型後発泡させて、大きさが縦100~110mm、横60~70mm、高さ30~40mm、重量35~45gの青色顔料含有発泡ウレタンを作製した。
【0097】
裁断面が青色顔料含有発泡ウレタンの横方向と並行となるように、約5mm幅で、高さ方向に青色顔料含有発泡ウレタンをシート形状に裁断した。続いて、シート形状の青色顔料含有発泡ウレタンから、青色顔料含有発泡ウレタン中に含まれる気泡の数が少ない部分である中央付近を切り出し、約5mmの厚さのシート形状をした発泡ウレタン小片を作製した。
【0098】
発泡ウレタン小片を市販のパラフィン包埋ブロック作製カセットEB-W(オリンパス社製)の中に載置し、密閉式自動固定包埋装置ティシュー・テックVIP(サクラファインテックジャパン社製)を用いて固定化処理した。固定化処理した発泡ウレタン小片をティシューマイクロアレイヤー装置KIN-2型(東屋医科器械社製)によって円柱形状にくり抜き、厚さ標準物質を作製した。
【0099】
(7-1-2)厚さ標準物質を含む包埋ブロックの作製
組織切片42が包埋されていない検証用包埋組織切片を作製するため、ここでは、トレイ底面34に生体組織片を載置せずに、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30上に載置した。包埋ブロック作製カセット1の位置決め孔5aに厚さ標準物質21aを差し込み、次いで、包埋ブロック作製カセット1の開口部4から液状化させたパラフィンを流し込んだ。パラフィンを冷却して固化させた後、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30から取り外し、板枠部13を除去して厚さ標準物質21aのみが包埋された包埋ブロックを得た。
【0100】
(7-1-3)検証用包埋組織切片の作製
厚さ標準物質21aのみが包埋された包埋ブロックをミクロトーム(大和光機工業社製)にセットした。ミクロトームの薄切厚さを2μmに設定し、ミクロトームにより包埋ブロックを薄切してゆき、名目上の厚さ(以下、名目厚さという。)が2μmの検証用包埋組織切片を10枚作製した。検証用包埋組織切片の両面には厚さ標準物質切片41eが露出していた。
【0101】
同様にして、名目厚さが3μm、4μm、5μm、6μmである検証用包埋組織切片を各厚さ10枚ずつ作製した。検証用包埋組織切片を1枚ずつスライドガラス(武藤硝子工業社製)に貼付した後、37℃で一晩乾燥させた。なお、検証用包埋組織切片は、組織切片とマーカー標準物質切片とが含まれていない点以外、図5に示した包埋組織切片と同様の構成であり、厚さ標準物質切片41eの周辺がシート形状の包埋剤切片で囲まれている。
【0102】
(7-1-4)組織切片の厚さ算出用の検量線の作製
検証用包埋組織切片を張り付けたスライドガラスを水平に維持した顕微鏡システム(ニコン社製)の試料台に載置し、Vert Scan(登録商標、株式会社菱化システム製、Ver.1.0.3)により光干渉法を用いて包埋剤切片の基板からの高さを4か所測定した。そして、4か所で測定した高さの平均値を組織切片の厚さとした。Vert Scanの測定条件は、波長フィルター530Whiteとし、二光束干渉対物レンズを10倍とし、測定モードをWaveモードとした。
【0103】
包埋剤切片の厚さの測定方法を具体的に説明する。顕微鏡システムに付属するモニターの測定画面に包埋剤切片の4辺のうちの1辺が映し出されるように、顕微鏡の試料台のXYステージ、Zステージ及び傾斜ステージを調整し、顕微鏡の試料台を移動させた。上下動ハンドルを操作してモニターに表示された画像中の干渉縞に最も強いコントラストが得られるよう調整した。試料台の傾きを調整し、モニター画像中の干渉縞が2~7本程度となるよう調整した。測定を実行し、モニターの測定画面中のスライドガラス領域の色調が一定であることを指標とし、スライドガラスが水平に載置されているか否かをさらに確認した。
【0104】
続いて、包埋剤切片の厚さの基準とするスライドガラス表面の一部領域を指定し、当該指定領域の表面の粗さやうねりの影響を除去するための補正処理を行った。包埋剤切片表面の一部領域を指定し、補正処理後のスライドガラス表面の指定領域を基準として包埋剤切片の1辺における高さを測定した。この操作を包埋剤切片の他の3辺でも行い、測定した4辺の高さの平均値を組織切片の厚さとした。
【0105】
同様にして、組織切片の厚さを、用意したすべての検証用包埋組織切片で算出した。包埋剤切片の4辺のいずれか1辺で名目厚さとの厚さの差が2.0μmを超えた検証用包埋組織切片と、厚さのばらつきを正規分布とみなしたとき存在確率が0.3%未満となる組織切片の厚さが算出された検証用包埋組織切片を除外した。その結果、名目厚さ2μmで7個、名目厚さ3μmで7個、名目厚さ4μmで9個、名目厚さ5μmで10個、名目厚さ6μmで9個の合計42個の検証用包埋組織切片を得た。
【0106】
これら42個の検証用包埋組織切片について、すでに確立されている一般的な手法にて脱パラフィン処理を行うことにより、包埋剤切片を除去してスライドガラス上には厚さ標準物質切片41eのみが存在するようにした。厚さ標準物質切片41eの継時的な乾燥を防ぐため封入剤をスライドガラス上に滴下してカバーガラスにて厚さ標準物質切片41eを覆った。
【0107】
次に、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製)のステージに厚さ標準物質切片41eを封入したスライドガラスを載置し、厚さ標準物質切片41eの表面に焦点を合わせて、厚さ標準物質切片41eの表面を撮影した。これにより、厚さ標準物質切片41eの画像を取得した(撮影条件:対物レンズ:2.5倍、シャッタースピード:1/250、ISO:800、LED:19.9%、WB補正A9/G9)。
【0108】
厚さ標準物質切片41eの画像をもとに、計測プログラム(キヤノン社製)を利用して、厚さ標準物質切片41eの色調をスコア化した。具体的には、計測プログラムを用いて、厚さ標準物質切片41eの画像から色相範囲:272°‐305°、彩度範囲:0‐51、R値の輝度範囲:0‐71、G値の輝度範囲:0‐77、B値の輝度範囲:0‐77にある色調のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて色調をスコア化した。
【0109】
そして、図9に示すように、横軸を組織切片の厚さ(包埋剤切片の高さ平均値)とし、縦軸を厚さ標準物質切片41eの色調のスコアとして、結果をプロットしてゆき、当該プロットに基づいて最小二乗法により一次近似式を算出し、これを検量線とした。最小二乗法により算出した一次近似式において、相関係数の高い検量線を作製することができた。
【0110】
このように、組織切片の厚さと厚さ標準物質切片41eの色調のスコアとが比例関係にあることから、本検量線を用いることで、厚さ標準物質切片41eの色調から、当該厚さ標準物質切片41eと同じ包埋組織切片に包埋される組織切片の厚さを算出できる。
【0111】
そして、例えば、ミクロトームにて薄切厚さを4μmに設定して作製した包埋組織切片について、スライドガラスに貼付し、脱パラフィン処理、染色処理を経た後、スライドガラス上の青色顔料含有発泡ウレタン(厚さ標準物質切片41e)の色調から、組織切片の厚さを算出することができる。組織切片の厚さが4μmを中心に予め定めた厚さ範囲内にある組織切片を、検査する組織切片として選定できる。このように、組織切片の厚さと厚さ標準物質の色調の関係を表す検量線は、検査をする組織切片を選定する指標となり得ることが確認できた。
【0112】
(7-2)検証実験2
検証実験2では、厚さ標準物質21aとして、β-アクチンを発現する細胞を用い、細胞の色調と組織切片42の厚さとの関係について検証した。なお、図5に示すように、包埋組織切片44は包埋剤切片43と組織切片42とが面一に形成されているので、包埋剤切片43の厚さを組織切片42の厚さとした。また、包埋組織切片44は、組織切片42を有している場合と有していない場合とで、作製する検量線の傾きに大きな変化がないと考えられるので、以下では、検証用包埋組織切片として、組織切片42が包埋されていないものを用いた。
【0113】
(7-2-1)抗β-アクチンウサギポリクローナル抗体の作製について
β-アクチン合成ペプチドを免疫したウサギから抗血清を採取し、抗体精製により、抗β-アクチンウサギポリクローナル抗体を作製した。この抗体を一次抗体として免疫組織化学染色によりコントロールサンプルのマーカーを染色し、染色結果を評価したところ、既存の抗β-アクチンモノクローナル抗体(c4 SC-47778、サンタクルーズ社製)を用いるより少量の抗体量でマーカーを染色できることを確認できた。検証実験2では、このようにして作製した抗β-アクチンウサギポリクローナル抗体を使用した。
【0114】
(7-2-2)厚さ標準物質の作製
検証実験2では、細胞として、HER2陽性を示す細胞株SK-BR-3(HER2 IHCスコア3+相当)を用いた。まず、SK-BR-3細胞株のみをパラフィンに包埋したパラフィン包埋ブロック作製し、当該パラフィン包埋ブロックを、ティッシュ・アレイヤー装置KIN-2型(東屋医科器械社製)を用いて円柱形状にくり抜き、厚さ標準物質21aを作製した。
【0115】
(7-2-3)厚さ標準物質を含む包埋ブロックの作製
組織切片42が包埋されていない検証用包埋組織切片を作製するため、ここでは、トレイ底面34に生体組織片22を載置せずに、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30上に載置した。包埋ブロック作製カセット1の位置決め孔5aに厚さ標準物質21aを差し込み、次いで、包埋ブロック作製カセット1の開口部4から液状化させたパラフィンを流し込んだ。パラフィンを冷却して固化させた後、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30から取り外し、板枠部13を除去して厚さ標準物質21aのみが包埋された包埋ブロックを得た。
【0116】
(7-2-4)検証用包埋組織切片の作製
厚さ標準物質21aのみが包埋された包埋ブロックをミクロトーム(大和光機工業社製)にセットした。ミクロトームの薄切厚さを2μmに設定し、ミクロトームにより包埋ブロックを薄切してゆき、名目上の厚さ(以下、名目厚さという。)が2μmの検証用包埋組織切片を10枚作製した。検証用包埋組織切片の両面には厚さ標準物質切片41eが露出していた。
【0117】
同様にして、名目厚さが3μm、4μm、5μm、6μmである検証用包埋組織切片を各厚さ10枚ずつ作製し、計50個の検証用包埋組織切片を作製した。検証用包埋組織切片を1枚ずつスライドガラス(武藤硝子工業社製)に貼付した後、37℃で一晩乾燥させた。なお、検証用包埋組織切片は、組織切片とマーカー標準物質切片とが含まれていない点以外、図5に示した包埋組織切片44と同様の構成であり、厚さ標準物質切片41eの周辺がシート形状の包埋剤切片43で囲まれている。
【0118】
(7-2-5)組織切片の厚さ算出用の検量線の作製
検証実験1と同様の方法で、検証用包埋組織切片の包埋剤切片の高さを測定し、包埋剤切片の厚さを算出した。各検証用包埋組織切片について包埋剤切片の厚さを算出後、スライドガラスに貼付した検証用包埋組織切片について、すでに確立されている一般的な手法にて脱パラフィン処理及び抗原賦活化処理(100℃、40分、pH6)を行った。内因性ペルオキシダーゼを除去した後PBSで厚さ標準物質切片41eを洗浄し、「(7-2-1)抗β-アクチンウサギポリクローナル抗体の作製について」で作製した抗アクチンウサギポリクローナル抗体による一次抗体反応を厚さ標準物質切片41e内のHER2陽性細胞に発現しているβ-アクチンに対して行った。厚さ標準物質切片41eを再度洗浄し、シンプルステインMAX-PO(MULTI)(ニチレイバイオサイエンス社製)を4μg/mlの濃度で厚さ標準物質切片41eに滴下し、室温で30分間、二次抗体反応を行った。再度洗浄した厚さ標準物質切片41eに、一般的な手法にてDAB染色を行った後再度洗浄し、メイヤーヘマトキシリン溶液により核染色を行った。厚さ標準物質切片41eを洗浄した後、脱水、透徹及び封入を行い、カバーガラスにて覆った。
【0119】
上述のβ-アクチン染色処理を行った厚さ標準物質切片41eが載置されたスライドガラスを顕微鏡(カールツァイス社製)の試料台に載置し、対物レンズ倍率40倍にてDABの染色が確認される細胞の細胞膜に焦点を合わせ、顕微鏡に搭載されたカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)にて厚さ標準物質切片41eを撮影した(シャッタースピード:1/250、ISO:800、LED:19.9%、WB補正A9/G9)。撮影した画像から計測プログラム(キヤノン社製)を利用して、特定の色調(色相:272‐305°、彩度範囲:0‐51、R:0‐71、G:0‐77、B:0‐77)のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて厚さ標準物質切片41eの染色強度の色調をスコア化した。
【0120】
そして、図10に示すように、横軸を組織切片の厚さ(包埋剤切片の高さ平均値)とし、縦軸を厚さ標準物質切片41eの色調のスコアとして、結果をプロットしてゆき、当該プロットに基づいて最小二乗法により一次近似式を算出し、これを検量線とした。最小二乗法により算出した一次近似式において、相関係数の高い検量線を作製することができた。
【0121】
このように、組織切片の厚さと厚さ標準物質切片41eの染色強度の色調のスコアとが比例関係にあることから、本検量線を用いることで、厚さ標準物質切片41eの色調から、当該厚さ標準物質切片41eと同じ包埋組織切片に包埋される組織切片の厚さを算出できる。
【0122】
そして、例えば、ミクロトームにて薄切厚さを4μmに設定して作製した包埋組織切片について、スライドガラスに貼付し、脱パラフィン処理、染色処理を経た後、スライドガラス上の染色したβ-アクチンを発現する細胞(厚さ標準物質切片41e)の色調から、組織切片の厚さを算出することができる。組織切片の厚さが4μmを中心に予め定めた厚さ範囲内にある組織切片を、検査する組織切片として選定できる。このように、厚さ標準物質に内因性タンパク質を発現する細胞を使用した場合でも、組織切片の厚さと厚さ標準物質の色調の関係を表す検量線は、検査をする組織切片を選定する指標となり得ることが確認できた。
【0123】
(7-3)検証実験3
検証実験3では、染色されたマーカー標準物質の色調に基づく染色強度のスコアと、組織切片の厚さとの関係について検証した。組織切片の厚さについては、検証実験1と同じ方法を用いて算出している。また、検証実験1に習い、包埋組織切片として組織切片と厚さ標準物質とを含まない検証用包埋組織切片を用いた。
【0124】
(7-3-1)マーカー標準物質の作製
検証実験3では、上記実施形態と同様に、マーカーの検出結果の適否の基準となるマーカー標準物質として、染色結果が陰性を示す細胞株MDA-MB-231で作られたマーカー標準物質21b、染色結果が1+を示す細胞株MDA-MB-175VIIで作られたマーカー標準物質21c、染色結果が2+を示す細胞株MDA-MB-453で作られたマーカー標準物質21d、及び、染色結果が3+を示す細胞株SK-BR-3で作られたマーカー標準物質21eを用意した。
【0125】
具体的には、上記の各細胞株をパラフィンでなる包埋剤に包埋してそれぞれコントロール細胞包埋ブロックを作製し、各コントロール細胞包埋ブロックをBIOPSY PUNCH(カイ インダストリーズ社製)を用いて円柱形状にくり抜き、4種類のマーカー標準物質を得た。
【0126】
(7-3-2)マーカー標準物質を含む包埋ブロックの作製
組織切片42が包埋されていない検証用包埋組織切片を作製するため、ここでは、トレイ底面34に生体組織片を載置せずに、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30上に載置した。包埋ブロック作製カセット1の各位置決め孔5aに、マーカー標準物質21b,21c,21d,21eをそれぞれ差し込み、次いで、包埋ブロック作製カセット1の開口部4から液状化させたパラフィンを流し込んだ。パラフィンを冷却して固化させた後、包埋ブロック作製カセット1をトレイ30から取り外し、4種類のマーカー標準物質21b,21c,21d,21eが共に同じ包埋剤に包埋された包埋ブロックを得た。
【0127】
(7-3-3)検証用包埋組織切片の作製
4種類のマーカー標準物質21b,21c,21d,21eのみが包埋された包埋ブロックをミクロトーム(大和光機工業社製)にセットし、薄切厚さを2μm、3μm、4μm、5μmとして包埋ブロックを薄切してゆき、厚さ毎にそれぞれ5枚ずつの検証用包埋組織切片を作製した。検証用包埋組織切片の両面にはマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aが露出していた。そして、検証用包埋組織切片をスライドガラス(松浪硝子工業社製)1枚につき1枚ずつに貼付した。
【0128】
(7-3-4)検出が適当か否かを判断するための検量線の作製について
検証実験1と同様の方法で、包埋組織切片の包埋剤切片の高さを測定した。各包埋組織切片について包埋剤切片の厚さを算出後、ヒストファインHER2キット(POLY)(ニチレイバイオサイエンス社製)を用いて脱パラフィン処理、抗原賦活化処理、免疫組織化学染色処理を実施した。マーカー標準物質切片の継時的な乾燥を防ぐため封入剤をスライドガラス上に滴下してカバーガラスにてマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aを覆った。
【0129】
デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製、Axio Imager.Z2)を使用して各スライドのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの静止画をそれぞれ3枚撮影した(撮影条件:対物レンズ:40倍、Aperture:0.90、シャッタースピード:1/125、ISO:800、LED:19.9%、WB補正A9/G9)。
【0130】
撮影した静止画をもとに、4種類のマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの染色強度を、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの色調に基づいてそれぞれスコア化した。具体的には、計測プログラム(キヤノン社製)を用いて、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの静止画から所定の色調(色相:50°‐180°、彩度範囲:2‐40、R値:10‐180、G値:10‐145、B値:10‐140の範囲にある色調)のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて色調をスコア化した。スコア化はすべてのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aについて行った。
【0131】
図11に示すように、横軸を組織切片の厚さ(包埋剤切片の高さ平均値)とし、縦軸を染色強度のスコアとして、結果をプロットしていった。そして、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41a毎に、プロットに基づいて最小二乗法により一次近似式を算出し、これを検量線とした。なお、陰性を示すマーカー標準物質切片41dについては、染色されなかったため、図11には示していない。図中のScore1がマーカー標準物質切片41cに、Score2がマーカー標準物質切片41bに、Score3がマーカー標準物質切片41aにそれぞれ対応する。図11に示すように、最小二乗法により算出した一次近似式において、相関係数の高い検量線を作製することができた。
【0132】
図11に示した各検量線は、組織切片に対して適切に染色が行われたときのマーカー標準物質切片41c,41b,41aの色調に基づく染色強度のスコアを表している。したがって、本検量線を示すグラフに、組織切片の厚さとマーカー標準物質切片41c,41b,41aの染色強度のスコアをプロットして、当該プロットと検量線との差が適正範囲内か否かを見ることができる。よって、本検量線により組織切片が適切に染色されているかを確認することが可能となり、検査する組織切片を選定できる。このように、組織切片の厚さとマーカー標準物質切片41c,41b,41aの染色強度のスコアとの関係を表す検量線は、検査をする組織切片を選定する指標となり得ることが確認できた。
【0133】
(8)組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法について
(8-1)本発明の組織切片選定方法を利用した一連の作業について
次に、上述した組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法について、一連の作業の流れを、図12を用いて簡単に説明する。図12に示すように、免疫組織化学染色法では、始めに、図1に示した包埋ブロック作製カセット1を用いて、図4Bに示すように、生体組織片22と標準物質21とを共に同じ包埋剤23に包埋した包埋ブロック24を作製する。
【0134】
そして、包埋ブロック24と一体化した包埋ブロック作製カセット1をミクロトームにセットし、所望する薄切厚さ(例えば4μm)に設定したミクロトームにより包埋ブロック24を薄切してゆき、シート状の包埋組織切片44を得る。その後、図12の左側に示すように、例えばスライドガラスなどの基板46上に包埋組織切片44を伸展させて貼り付けた組織切片張付基板40を作製する。
【0135】
なお、このようにして作製された組織切片張付基板40では、組織切片42と、標準物質切片としての厚さ標準物質切片41eと、同じく標準物質切片としてのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが、包埋剤切片43の表面に露出している。
【0136】
次いで、例えば、上述した脱包埋剤処理やプロテアーゼ処理、内因性ペルオキシダーゼ処理が順に行われる。その後、免疫組織化学染色法による染色処理として、例えば、組織切片42内のHER2/neuタンパクと結合する一次抗体などを用い、組織切片42内で抗原抗体反応を起こさせた後、二次抗体標識ポリマーを一次抗体に結合させ、さらに発色試薬などを用いて組織切片42に含まれたHER2/neuタンパクを染色し、当該HER2/neuタンパクを特異的に検出する。
【0137】
次に、図12に示すステップS10に移行し、厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて、組織切片42の厚さについて適否を判断する。なお、ステップS10の組織切片厚の適否判断は、例えば、デジタルカメラを備えた顕微鏡により、厚さ標準物質切片41eの表面を撮影した画像を取得し、計測プログラムを用いて、厚さ標準物質切片41eの画像から所定の色調のピクセルを抽出し、上述した式(1)を用いて色調をスコア化する。
【0138】
そして、厚さ標準物質切片41eのスコアと、厚さとの関係を表す検量線から、上記式(1)で算出したスコアに対応する厚さを特定し、これを組織切片42の厚さとする。その結果、組織切片42の厚さが所定の範囲内(例えば、3~5μm)にあるとき、組織切片42の厚さは検査に適切な厚さであると判断し、次のステップS11に移る。
【0139】
一方、組織切片42の厚さが所定の範囲から外れたとき(スコアに対応する厚さ<3μm、スコアに対応する厚さ>5μm)は、組織切片42の厚さは検査に不適切な厚さであると判断し、組織切片42を検査せずに、他の組織切片張付基板40に対して、上述した免疫組織化学染色を行い、以降、上述と同様の処理を行う。このフローは、所定の厚さとなる組織切片42が得るまで繰り返される。
【0140】
厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて、検査に適切な厚さの組織切片42であると判断すると、ステップS11において、例えば、マーカー標準物質切片41aの色調に基づいて、組織切片42でHER2/neuタンパクの染色が適切に行われているか否かを判断する。
【0141】
なお、染色が適切に行われているか否かの適否判断は、例えば、デジタルカメラを備えた顕微鏡により、マーカー標準物質切片41aの表面を撮影した画像を取得し、計測プログラムを用いて、マーカー標準物質切片41aの画像から所定の色調のピクセルを抽出し、上述した式(1)を用いて色調をスコア化する。
【0142】
そして、マーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアと、組織切片42の厚さと、の関係を表す検量線から、上記で算出した組織切片42の厚さとマーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアとに基づいて、マーカー標準物質切片41aの染色強度のスコアが、検量線を基準に所定の範囲内にあるか否かを判断する。
【0143】
その結果、染色強度のスコアが検量線に対し所定範囲内にあるとき、組織切片42でのHER2/neuタンパクの染色が適切であると判断し、次のステップS13に移る。一方、染色強度のスコアが検量線に対し所定範囲から外れたとき、組織切片42でのHER2/neuタンパクの染色が不適切であると判断し、組織切片42を検査せずに、他の組織切片張付基板40に対して、上述した免疫組織化学染色を行い、以降、上述と同様の処理を行う。このようにして、免疫組織化学染色、ステップS10、ステップS11のフローは、所定の染色強度となる組織切片42が得るまで繰り返される。
【0144】
ステップS13(ヒト検体判定)では、HER2/neuタンパクの染色が適切であると判断された組織切片42について、作業者により、当該組織切片42の色調と、マーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aの色調とが比較され、組織切片42が検査される。
【0145】
(8-2)検証実験4
ここで、実際に、図12に示した一連の作業を連続的に行い、組織切片の厚さと、マーカー標準物質切片の染色強度のスコアとを調べ、図11に示した「Score3」の検量線と比較する検証実験を行った。ここでは検証実験1と同様に厚さ標準物質として、青色顔料含有発泡ウレタンを用い、また、マーカーの検出結果の適否の基準となるマーカー標準物質として、染色結果が3+を示す細胞株SK-BR-3で作られたマーカー標準物質21eを用いた。
【0146】
厚さ標準物質21a及びマーカー標準物質21eが包埋された包埋ブロックをミクロトーム(大和光機工業社製)にセットし、薄切厚さを4μmとして包埋ブロックを薄切してゆき、5枚の検証用包埋組織切片を作製した。検証用包埋組織切片の両面には、厚さ標準物質切片41e及びマーカー標準物質切片41aが露出していた。そして、検証用包埋組織切片をスライドガラス(松浪硝子工業社製)1枚につき1枚ずつに貼付した。
【0147】
次に、ヒストファインHER2キット(POLY)(ニチレイバイオサイエンス社製)を用いて脱パラフィン処理、抗原賦活化処理、免疫組織化学染色処理を実施した。マーカー標準物質切片41aの継時的な乾燥を防ぐため封入剤をスライドガラス上に滴下してカバーガラスにてマーカー標準物質切片41aを覆った。
【0148】
次に、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製)のステージに上記のスライドガラスを載置し、厚さ標準物質切片41eの表面に焦点を合わせて、厚さ標準物質切片41eの表面を撮影した。これにより、厚さ標準物質切片41eの画像を取得した(撮影条件:対物レンズ:2.5倍、シャッタースピード:1/250、ISO:800、LED:19.9%、WB補正A9/G9)。
【0149】
厚さ標準物質切片41eの画像をもとに、計測プログラム(キヤノン社製)を利用して、厚さ標準物質切片41eの色調をスコア化した。具体的には、計測プログラムを用いて、厚さ標準物質切片41eの画像から色相範囲:272°‐305°、彩度範囲:0‐51、R値の輝度範囲:0‐71、G値の輝度範囲:0‐77、B値の輝度範囲:0‐77にある色調のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて色調をスコア化した。そして、求めたスコアを基に、厚さ標準物質切片41eの高さを、図9に示した検量線から測定した。
【0150】
また、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製、Axio Imager.Z2)を使用してスライドのマーカー標準物質切片41aの静止画をそれぞれ撮影した(撮影条件:対物レンズ:40倍、Aperture:0.90、シャッタースピード:1/125、ISO:800、LED:19.9%、WB補正A9/G9)。
【0151】
撮影した静止画をもとに、マーカー標準物質切片41aの染色強度を、マーカー標準物質切片41aの色調に基づいてスコア化した。具体的には、計測プログラム(キヤノン社製)を用いて、マーカー標準物質切片41aの静止画から所定の色調(色相:50°‐180°、彩度範囲:2‐40、R値:10‐180、G値:10‐145、B値:10‐140の範囲にある色調)のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて色調をスコア化した。
【0152】
そして、図13に示すように、横軸を厚さ標準物質切片41eの厚さとし、縦軸を染色強度のスコアとして、各検証用包理組織片の測定結果をプロットし、図11に示した「Score3」の検量線と比較した。なお、図13の「線形(HS standard Score3)」は図11の「Score3」の検量線を示す。比較した結果、プロットと検量線との差が適正範囲内となり、本検量線により、いずれの検証用包理組織切片でも組織切片が適切に染色されているかを確認することができた。これにより、本発明の組織切片選定方法によって、検査する組織切片を選定できることが確認できた。
【0153】
(9)組織切片の固定状態を判断する組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法について
(9-1)組織切片張付基板の作製
ここでは、上述した実施形態とは異なり、組織切片の固定状態を判断する組織切片選定方法について以下説明する。包埋ブロックを作製する包埋ブロック作製工程では、通常、生体から採取した生体組織片を、例えばホルマリン水溶液等の固定液に所定時間以上浸漬している(浸漬工程)。代表的な固定液としては、ホルマリン原液を蒸留水又は緩衝液で希釈して10%ホルマリン水溶液(4%ホルムアルデヒド溶液)が知られている。
【0154】
ここで、生体組織片を固定液に浸漬させる適切な時間は、固定液や生体組織片の大きさ等によって左右される。例えば、HER2/neuタンパクを染色する場合、上記の10%ホルマリン水溶液を固定液として用いて、6時~72時間生体組織片を固定液に浸漬させることが推奨されている(生体組織片を固定液に浸漬させる時間を固定時間と称する)。推奨された固定時間で生体組織片を固定液に浸漬させることで、固定液によって、生体組織片の組織形態や抗原活性を最適に固定させることができる。
【0155】
このようにして、生体組織片を固定液に所定時間浸漬させた後、この生体組織片を、トレイの所定位置に載置する(載置工程)。そして、包埋ブロック作製カセットをトレイ上に載置し、例えばパラフィンなどの包埋剤を加熱して液化させた液状包埋剤を、包埋ブロック作製カセットからトレイに注ぐ(液状包埋剤導入工程)。
【0156】
液状包埋剤がトレイ上の生体組織片が覆われるまで注がれ(液状包埋剤導入工程)、液状包埋剤を冷却して固化させることで、生体組織片が包埋剤に包埋され、かつ包埋ブロック作製カセットと一体化した包埋ブロックを作製できる(固化工程)。
【0157】
そして、包埋ブロックと一体化した包埋ブロック作製カセットをミクロトームにセットし、所望する薄切厚さ(例えば4μm)に設定したミクロトームにより包埋ブロックを薄切してゆき、シート状の包埋組織切片を得る。
【0158】
その後、図14の左側に示すように、例えばスライドガラスなどの基板46上に包埋組織切片91を伸展させて貼り付けて、組織切片張付基板90を作製する。なお、本実施形態の包埋組織切片91は、組織切片42が表面に露出しており、組織切片42の周辺が包埋剤切片43により囲まれた構成を有している。
【0159】
(9-2)組織切片における固定状態の判断手法
ここで、包埋ブロックを作製する際、生体から採取した生体組織片の組織形態や抗原活性を最適な状態に固定させる固定処理を行っているが、固定処理を行う際に、例えば、生体組織片を固定液に浸漬する時間が十分でない場合、生体組織片が最適に固定され難い。生体組織片について最適に固定がされていないと、生体組織片内の組織形態や抗原活性が維持されず、その後、生体組織片から作製された組織切片を、免疫組織化学染色により検査する際、組織切片が染色され難く、検査結果に誤りが生じる可能性もある。
【0160】
そこで、本実施形態では、組織切片張付基板90について、固定液による組織切片42の固定状態が最適であるか否かを判断する。この場合、免疫組織化学染色により包埋組織切片91に対して染色処理を行い、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質からの光シグナルに基づいて、固定液による組織切片42の固定状態が最適であるか否かを判断する。以下、この組織切片42における固定状態の判断手法について説明する。
【0161】
本実施形態においては、例えば、組織切片42のHER2/neuタンパクの染色を行う免疫組織化学染色法による染色処理とは別に、組織切片張付基板90に対して免疫組織化学染色法による別の染色処理を行い、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質を染色する。ここで、免疫組織化学染色法による染色処理を行う内因性タンパク質は、包埋ブロックを作製する際に行われた、固定液による生体組織片の固定状態に応じて、染色時の色調が変化するものである。作業者は、組織切片42に含まれる内因性タンパク質の色調に基づいて、組織切片42に対する固定処理が適切に行われていたか否かを判断する。
【0162】
ここで、この判断手法で利用する、組織切片に含まれる内因性タンパク質としては、細胞により発現量がほぼ変わらない内因性タンパク質や、評価部位に安定的に発現している内因性タンパク質であることが望ましい。例えば、この種の内因性タンパク質としては、毛細血管内皮細胞に検出されるCD34が望ましい。
【0163】
乳癌などの腫瘍細胞の有無を検査する生体組織片には、一般的に毛細血管も存在しているため、毛細血管内皮細胞に検出されるCD34も安定的に発現している。また、腫瘍周囲では一般的に血管新生が亢進されることが知られているため、生体組織片に腫瘍細胞がある場合、毛細血管内皮細胞に検出されるCD34が安定的に発現していると言える。
【0164】
組織切片内の細胞で発現されている内因性タンパク質としてCD34を適用した場合には、内因性タンパク質を染色する抗内因性タンパク質抗体としては、抗CD34抗体を適用することができる。抗CD34抗体としては、例えば、抗CD34ウサギポリクローナル抗体を適用できる。
【0165】
上記の処理工程について、より具体的に説明すると、本実施形態では、組織切片張付基板90を得た後、例えば、上述した脱包埋剤処理やプロテアーゼ処理、内因性ペルオキシダーゼ処理が順に行われる。その後、免疫組織化学染色法による染色処理として、例えば、組織切片42内のHER2/neuタンパクと結合する一次抗体などを用い、組織切片42内で抗原抗体反応を起こさせた後、二次抗体標識ポリマーを一次抗体に結合させ、さらに発色試薬などを用いて組織切片42に含まれたHER2/neuタンパクを染色し、当該HER2/neuタンパクを特異的に検出する。
【0166】
また、この際、免疫組織化学染色法による別の染色処理として、さらに、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質と結合する一次抗体などを用い、組織切片42内で抗原抗体反応を起こさせた後、二次抗体標識ポリマーを一次抗体に結合させ、さらに発色試薬などを用いて組織切片42内に含まれた内因性タンパク質を染色し、当該内因性タンパク質を特異的に検出する。
【0167】
この場合、組織切片42に含まれたHER2/neuタンパクを染色した際の色調と、組織切片42に含まれた内因性タンパク質を染色した際の色調と、を変えることで、HER2/neuタンパクと、内因性タンパク質との染色状態を判別することができる。
【0168】
また、組織切片42に含まれたHER2/neuタンパクを染色する場合、組織切片42における固定状態の判断に用いる内因性タンパク質としては、例えばCD34を適用できることが、検証実験によって確認できている。固定状態の判断にCD34を適用した場合、染色されたHER2/neuタンパクの色調と、染色されたCD34の色調とが重なることを回避できることが確認されている。かくして、作業者は、組織切片42に含まれるCD34の色調に基づいて、組織切片42に対する固定処理が適切に行われていたか否かを判断することができる。
【0169】
ここで、本実施形態における組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法について、一連の作業の流れを、図14を用いて簡単に説明する。図14に示すように、ここでの免疫組織化学染色法では、組織切片42に含まれるHER2/neuタンパクを染色する染色処理と、組織切片42に含まれる内因性タンパク質を染色する染色処理と、を組織切片張付基板90に対してそれぞれ行い、ステップS21に移る。
【0170】
ステップS21では、染色処理により変化した組織切片42に含まれる内因性タンパク質の染色強度に基づいて、組織切片42の固定状態を判断する。なお、組織切片42の固定状態の判断は、例えば、デジタルカメラを備えた顕微鏡により、組織切片42の表面を撮影した画像を取得し、計測プログラムを用いて、組織切片42の画像から所定の色調のピクセルを抽出し、上述した式(1)を用いて色調をスコア化する。
【0171】
ここで、図15に示すように、内因性タンパク質の色調から求めたスコアと、固定時間との関係を表すグラフ(後述する)を予め用意しておく。これにより、このグラフから、上記式(1)で算出したスコアに対応する固定時間を算出し、これを組織切片42における固定時間として推定できる。その結果、組織切片42の固定時間が所定時間以上(例えば、24時間以上)にあるとき、組織切片42に対して行われた固定処理時の固定時間が最適であり、組織切片42が検査に適切な固定状態にあると判断し、次のステップS22に移る。
【0172】
一方、このグラフから求めた組織切片42の固定時間が、所定時間未満のとき(スコアに対応する固定時間が、例えば24時間未満のとき)は、組織切片42に対する固定時間が不足し、検査に不適切な固定状態にあると判断し、組織切片42を検査せずに判断処理を終了する。
【0173】
ステップS21において、組織切片42に含まれる内因性タンパク質の色調に基づき検査対象となる組織切片42を選定すると、ステップS22(ヒト検体判定)において、作業者により、当該組織切片42におけるHER2/neuタンパクの色調と、予め用意したコントロールスライドとを比較し、組織切片42にHER2/neuタンパクが存在しているか否かが検査される。
【0174】
(9-3)作用及び効果
以上の構成において、本実施形態に係る組織切片選定方法は、生体組織片を固定液に所定時間浸漬した後、生体組織片を包埋剤に包埋して包埋ブロックを作製する(包埋ブロック作製工程)。また、包埋ブロックを薄切して、組織切片42が表面に現れているシート形状の包埋組織切片91を作製する(包埋組織切片作製工程)。
【0175】
組織切片選定方法では、マーカーを特異的に検出して、検査対象とする組織切片42を選定する際、包埋組織切片91に対して、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質を染色する染色処理を行うようにした。これにより、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質からの光シグナルに基づいて、固定液による組織切片42の固定状態を判断する(固定状態判断工程)。
【0176】
すなわち、本実施形態に係る組織切片選定方法では、組織切片42に含まれる内因性タンパク質の色調から組織切片42の固定時間を推定するようにした。これにより、組織切片選定方法では、検査に最適な固定状態を有した組織切片42のみを選択し得、選択した組織切片42に対してのみ検査を行えるので、検査結果に誤りが生じることを抑制できる。
【0177】
(9-4)変形例
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。上述した実施形態においては、免疫組織化学染色法によって、組織切片42のHER2/neuタンパクを染色する染色処理と、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質を染色する染色処理とについて、両方行うようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らない。例えば、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質を染色する染色処理のみを行うようにしてもよい。また、組織切片42の固定状態を判断する固定状態判断工程後に、例えば、組織切片42のHER2/neuタンパクの染色を行う免疫組織化学染色法による染色処理を行ってもよい。
【0178】
さらに、例えば、本実施形態による、組織切片42の固定状態を判断する固定状態判断工程を、上述した「(8)組織切片選定方法を利用した免疫組織化学染色法について」に取り入れてもよい。
【0179】
この場合、シート形状の包埋組織切片を作製する包埋組織切片作製工程以降であって、図12に示したフローチャート内のステップS10(組織切片厚判断工程)の前、ステップS10(組織切片厚判断工程)の後、又は、ステップS11(マーカー適否判断工程)の後に、図14のステップS21に示した固定状態判断工程を設けることで、実現することができる。
【0180】
より具体的には、例えば、免疫組織化学染色法によって、組織切片42のHER2/neuタンパクを染色する染色処理と、組織切片42内の細胞で発現されている内因性タンパク質を染色する染色処理とを行った後、図12に示したステップS10の前、ステップS10の後、又は、ステップS11の後に、図14のステップS21を設けることで、組織切片42の固定状態を判断することができる。
【0181】
また、(i)図12のステップS10に示すように、厚さ標準物質切片41eの色調に基づいて、組織切片42の厚さを判断する組織切片厚判断工程と、(ii)図14のステップS21に示すように、他の染色処理により変化した組織切片内における内因性タンパク質の色調に基づいて、固定液による組織切片42の固定状態を判断する固定状態判断工程と、を組み合わせた組織切片選定方法であってもよい。
【0182】
この場合、組織切片42と、標準物質切片としての厚さ標準物質切片41eとが、包埋剤切片43の表面に露出している組織切片張付基板を用いて、上述したステップS10及びステップS21が行われる。
【0183】
また、(i)図12のステップS11に示すように、マーカー標準物質切片41aの色調に基づいて、組織切片42内のHER2/neuタンパクの染色が適切に行われているか否かを判断するマーカー適否判断工程と、(ii)図14のステップS21に示すように、他の染色処理により変化した組織切片内における内因性タンパク質の色調に基づいて、固定液による組織切片42の固定状態を判断する固定状態判断工程と、を組み合わせた組織切片選定方法であってもよい。
【0184】
この場合、組織切片42と、標準物質切片としてのマーカー標準物質切片41d,41c,41b,41aとが、包埋剤切片43の表面に露出している組織切片張付基板を用いて、上述したステップS11及びステップS21が行われる。
【0185】
(9-5)検証実験5
(9-5-1)抗CD34ウサギポリクローナル抗体の濃度検討
検証実験5では、ブタ乳腺組織を用意し、当該ブタ乳腺組織をミクロトーム(大和光機工業社製)にセットした。ミクロトームの薄切厚さを4μmに設定して、ブタ乳腺組織を薄切してゆき、検証用組織切片を複数枚作製した。検証用組織切片をスライドガラス(武藤硝子工業社製)に貼付した後、濃度が異なる抗CD34ウサギポリクローナル抗体(Abcam社)で検証用組織切片のCD34について染色を行った。
【0186】
濃度が異なる抗CD34ウサギポリクローナル抗体として、抗CD34ウサギポリクローナル抗体をPBSで希釈して、濃度を1/100とした抗体と、濃度を1/200とした抗体と、濃度を1/400とした抗体と、濃度を1/800とした抗体と、濃度を1/1600とした抗体と、を用意した。そして、これら濃度が異なる5種類の抗体を用いて、ブタ乳腺組織を染色する染色処理を行った。
【0187】
次に、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製)のステージに、染色処理後の検証用組織切片が封入されたスライドガラスを載置し、検証用組織切片の表面に焦点を合わせて、検証用組織切片の表面を撮影した。これにより、図16に示すような画像93a、93b、93c、93d、93eをそれぞれ取得した(撮影条件:シャッタースピード:1/250、ISO:800、WB補正A9/G9、LED:19.9%、アパーチャー:0.50、対物レンズ:40倍)。
【0188】
画像93aは濃度を1/100とした抗体を用いて染色した検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像93bは濃度を1/200とした抗体を用いて染色した検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像93cは濃度を1/400とした抗体を用いて染色した検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像93dは濃度を1/800とした抗体を用いて染色した検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像93eは濃度を1/1600とした抗体を用いて染色した検証用組織切片の表面を撮影した画像である。
【0189】
また、ネガティブコントロールとして、上記と同じブタ乳腺組織を検証用組織切片として用意し、同様にして、検証用組織切片について撮影して画像93fを取得した
【0190】
図16の結果から、濃度を1/100とした抗体と、濃度を1/200とした抗体とを用いて染色を行った検証用組織切片では、画像93a、93bに示すように、色調が濃くなることが確認できた。このように、色調が濃くなった場合、例えば、さらに、HER2/neuタンパク等を染色した場合、当該染色にも影響を及ぼす恐れがある。このため、濃度が1/200よりも薄い抗体を用いることが望ましい。
【0191】
一方、濃度を1/1600とした抗体を用いて染色を行った検証用組織切片では、画像93eに示すように、ネガティブコントロールの画像93fとほぼ同様に、色調が薄くなり、染色が不十分であることが確認できた。以上より、濃度を1/200超、1/1600未満とした抗CD34ウサギポリクローナル抗体、より好ましくは、濃度を1/400以上、1/800以下とした抗体を用いて検証用組織切片を染色することが望ましいことが確認できた。
【0192】
(9-5-2)ブタ乳腺組織を固定液に浸漬させた際の固定時間について、抗CD34ウサギポリクローナル抗体を用いた染色評価
次に、上述した、濃度を1/400とした抗体を用いて検証用組織切片を染色した際に、ブタ乳腺組織を固定液に浸漬させた際の固定時間の違いにより色調が違ってくるか否かについて確認する検証実験を行った。
【0193】
ここでは、ブタ乳腺組織の一部を切り出して複数の組織ブロックを得、切り出した直後の各組織ブロックをそれぞれ固定液に浸漬させた。固定液としては、10%ホルマリン水溶液を用いた。そして、組織ブロックを固定液に浸漬させる時間(固定時間)を、組織ブロック毎に変えた。
【0194】
組織ブロックの固定時間は、3時間、24時間、48時間、72時間、1週間とした。各時間経過後に、薄切厚さを4μmに設定したミクロトーム(大和光機工業社製)を用いて、各組織ブロックを薄切してゆき、検証用組織切片を作製した。
【0195】
検証用組織切片をスライドガラス(武藤硝子工業社製)に貼付した後、濃度を1/400とした、上記の抗CD34ウサギポリクローナル抗体(Abcam社)で検証用組織切片のCD34の染色をそれぞれ行った。
【0196】
次に、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製)のステージに、染色処理後の検証用組織切片が封入されたスライドガラスを載置し、検証用組織切片の表面に焦点を合わせて、検証用組織切片の表面を撮影した。これにより、図17に示すような画像94a、94b、94c、94d、94eを取得した。
【0197】
画像94aは固定時間を3時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像94bは固定時間を24時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像94cは固定時間を48時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像94dは固定時間を72時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像94eは固定時間を1週間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像である。
【0198】
画像94aから、固定時間を3時間とした検証用組織切片については十分な染色が得られないことが確認できた。一方、画像94bから、固定時間を24時間とした検証用組織切片は染色されていることが確認できた。また、画像94b、94c、94d、94eから、固定時間を24時間とした場合から1週間とした場合まで、染色に大きな差が見られないことが確認できた。
【0199】
以上より、固定時間を3時間とした場合と、24時間とした場合とで染色に大きな差が生じることが確認できた。よって、濃度を1/400とした抗CD34ウサギポリクローナル抗体を用いて組織切片を染色することで、色調の違いにより組織切片について固定時間を判断できることが確認できた。
【0200】
(9-5-3)組織切片の固定状態の適否を判断するためのグラフの作製について
次に、組織切片の固定状態の適否を判断するためのグラフ(図15)の作製について説明する。ブタ乳腺組織から複数の組織ブロックを切り出した直後に各組織ブロックを固定液に浸漬させた。組織ブロックの固定時間を、3時間、24時間、48時間、72時間、1週間とした。各時間経過後に、薄切厚さを4μmに設定したミクロトーム(大和光機工業社製)を用いて、各組織ブロックを薄切してゆき、検証用組織切片を作製した。
【0201】
検証用組織切片をスライドガラス(武藤硝子工業社製)に貼付した。このようなスライドガラスを、固定時間毎にそれぞれ2枚ずつ作製した。抗CD34ウサギポリクローナル抗体(Abcam社)をPBSで希釈して濃度を1/400とした抗体を作製し、この抗体を用い各検証用組織切片のCD34について染色をそれぞれ行った。
【0202】
次に、デジタルカメラ(キヤノン社製、EOS-1D)を備えた顕微鏡(カールツァイス社製)のステージに、染色処理後の検証用組織切片が封入されたスライドガラスを載置し、検証用組織切片の表面に焦点を合わせて、検証用組織切片の表面を撮影した。撮影条件は、シャッタースピード:1/250、ISO:800、WB補正A9/G9、LED:19.9%、アパーチャー:0.50、対物レンズ:40倍とし、例えば、図21に示すような画像98a、98b、98c、98d、98eを取得した。
【0203】
なお、画像98aは固定時間を3時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像98bは固定時間を24時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像98cは固定時間を48時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像98dは固定時間を72時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像であり、画像98eは固定時間を1週間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像である。画像98fは、固定時間を48時間とした検証用組織切片の表面を撮影した画像98cの一部を拡大した画像である。
【0204】
得られた画像98a、98b、98c、98d、98eをもとに、茶色に染色された染色箇所についてスコア化した。具体的には、計測プログラム(キヤノン社製)を用いて、例えば、各画像98a、98b、98c、98d、98eから所定の色調(画像内の画素の間引き:1/64、彩度範囲:12-25、色相範囲:90°-120°、RGB範囲:R値:85-130、G値:65-120、B値:65-120の範囲にある色調)のピクセルを抽出し、上述の式(1)を用いて色調をスコア化した。
【0205】
図15に示すように、横軸を組織切片の固定時間(検体固定時間)とし、縦軸を染色強度のスコア(茶色スコア)として、結果をプロットし、図15に示すようなグラフを作製することができた。
【0206】
その結果、図15に示すように、組織切片に対して適切に固定処理が行われたときの組織切片の色調に基づく染色強度のスコアを、グラフとして表すことができた。したがって、本グラフに、組織切片を基に得られた染色強度のスコアをプロットすることで、固定時間を推測することができる。よって、本グラフにより組織切片に対して適切に固定処理が行われているかを確認することが可能となり、検査する組織切片を選定できる。このように、組織切片の染色強度のスコアと固定時間との関係を表すグラフは、検査をする組織切片を選定する指標となり得ることが確認できた。
【符号の説明】
【0207】
1 包埋ブロック作製カセット
2 箱体
3 枠部
4 開口部
5 標準物質位置決め部
6 貫通孔
21 標準物質
42 組織切片
43 包埋剤切片
44 包埋組織切片
図1
図2
図3
図4
図5
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