(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】繊維複合体の製造方法、繊維複合体含有高分子材料及び繊維複合体
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20220714BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20220714BHJP
D21B 1/04 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
B27N3/00 A
D02G3/04
D21B1/04
(21)【出願番号】P 2017132613
(22)【出願日】2017-07-06
【審査請求日】2020-03-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】千田 咲良
(72)【発明者】
【氏名】附木 貴行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 憲司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 太佳嗣
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-148629(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0146701(US,A1)
【文献】特開2012-193353(JP,A)
【文献】特開2016-176052(JP,A)
【文献】再生可能バイオマス資源の生産と利用,生存圏研究,2013年,第8号,第25-32頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 3/00
D02G 3/04
D21B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来のリグノセルロースを
セルロースI型結晶構造を維持したまま所定時間解繊し、微細化することで
セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバーと
セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバーを生成する第1ステップと、
前記リグノセルロースマイクロファイバー、前記リグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤を混練する第2ステップとを少なくとも含むことを特徴とする繊維複合体の製造方法。
【請求項2】
前記リグノセルロース中のセルロース成分が10から90重量部であることを特徴とする請求項1に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項3】
前記リグノセルロースマイクロファイバーと前記リグノセルロースナノファイバーを合わせた割合が20から80重量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項4】
前記リグノセルロース100重量部に対して、少なくとも1種の前記相溶化剤を0.1~1000重量部含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項5】
前記相溶化剤が水溶性樹脂又は脂溶性樹脂であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項6】
前記相溶化剤が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂脂であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項7】
前記第1ステップにおいて、水系スラリー又は油脂系スラリーを用いて前記リグノセルロースを解繊して微細化することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の繊維複合体の製造方法。
【請求項8】
セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバー、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤から成る
繊維複合体と、高分子材料から
成ることを特徴とする繊維複合体含有高分子材料。
【請求項9】
セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバー、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバー、
熱可塑性樹脂
及び相溶化剤
を含むことを特徴とする繊維複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コスト及び廃棄物が少なく、分散性が高く、高強度且つ高弾性率を実現した繊維複合体の製造方法、繊維複合体含有高分子材料及び繊維複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策としてバイオマス資源への注目が高まっており、特に高乾物生産性の作物の開発が求められている。
例えば、食料生産と競合せずに土地を活用できるエリアンサス(E. arundinaceus)やススキ類はイネ科植物で光合成能力はC4植物である。これらの茎の横断面を観察すると、維管束の周りを取り囲むように維管束鞘細胞が配列され、その周りを葉肉細胞が取り囲んでいる。これが花環のように見えるためクランツ構造(Kranz:ドイツ語で花環の意味)と呼ばれている。C3植物ではこのようなクランツ構造は認められず、C4植物では維管束鞘細胞が弾性率などに影響を及ぼすのが特徴である。
また、バイオマスファイバーを基にした高物性材料の研究開発が行われている。例えば、樹脂と繊維からなる複合材料においては、その機械強度等の特性が、材料中に分散した繊維のアスペクト比により制御され、アスペクト比が高い程、機械強度等の特性が優れることが知られている。特に近年はナノ繊維化や、ナノ繊維と有機高分子との複合化が注目されている。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
セルロースの解繊において化学的処理により微細化を行う方法として、酸加水分解法が知られている。しかし、この方法はセルロース繊維の切断が起こってアスペクト比が低下することが知られており、繊維の形状を保ったままアスペクト比が高い状態で微細化することが困難であった。また、次亜塩素酸系の酸化剤を用いてナノ繊維の反発を制御することで分散性の高い繊維を得られることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
また、特許文献4には、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物(特に、二塩基酸無水物)を140℃以下の温度で半エステル化してカルボキシル基を導入し、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する。そして、この多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化して、ナノ繊維を製造する技術が開示されている。ミクロフィブリル表面に導入された負の電荷を有するカルボキシル基の存在により、ミクロフィブリル間の反発力を誘引し、分散体中で安定して分散することができる。
また、特許文献5には、繊維と樹脂の複合化により成形を行う過程で、水系スラリーとして繊維と樹脂を投入し、水分を除去できる押出機で行なう技術が開示されている。この技術では、まずセルロースをナノファイバー化し、その後表面処理を行うため、工数が多くなり、ナノファイバーの収率の低さやコストがかかる(特許文献5参照)
セルロースの処理を施さず、バイオマスをそのまま利用する方法として、リグノセルロースを活用する方法が知られている。特許文献6には主にバイオエタノールを作製する方法であるが、バイオマス成分を押出機のせん断を利用してそのまま解繊処理することで一旦リグノセルロースを作製し、水系スラリー状で樹脂と複合化することでエマルジョン状態で微細繊維状セルロースを得る。水分主体の状態の生成物であるため、その後の使用目的が限定されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-42283号公報
【文献】特開2008-75214号公報
【文献】特開2008-1728号公報
【文献】特開2009-293167号公報
【文献】特開2013-56958号公報
【文献】特開2012-193353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術によれば、セルロース繊維をナノレベルに解繊し、単離、精製するプロセスは工数が多く製造コストが嵩むという問題や、多量の廃棄物を出すため実用性に欠けるという問題がある。
また、セルロースをナノ繊維化した場合に、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂中に高分散させることが難しいという問題もある。
また、水中に分散させた状態から乾燥させるプロセス中に再凝集しやすいという問題もある。
【0006】
本発明は、上記のような問題を考慮して、製造コスト及び廃棄物が少なく、分散性が高く、高強度且つ高弾性率を実現した繊維複合体の製造方法、繊維複合体含有高分子材料及び繊維複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の繊維複合体の製造方法は、バイオマス由来のリグノセルロースをセルロースI型結晶構造を維持したまま所定時間解繊し、微細化することでセルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバーとセルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバーを生成する第1ステップと、前記リグノセルロースマイクロファイバー、前記リグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤を混練する第2ステップとを少なくとも含むことを特徴とする。
また、前記リグノセルロース中のセルロース成分が10から90重量部であることを特徴とする。
また、前記リグノセルロースマイクロファイバーと前記リグノセルロースナノファイバーを合わせた割合が20から80重量部であることを特徴とする。
また、前記リグノセルロース100重量部に対して、少なくとも1種の前記相溶化剤を0.1~1000重量部含むことを特徴とする。
また、前記相溶化剤が水溶性樹脂又は脂溶性樹脂であることを特徴とする。
また、前記相溶化剤が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂脂であることを特徴とする。
また、前記第1ステップにおいて、水系スラリー又は油脂系スラリーを用いて前記リグノセルロースを解繊して微細化することを特徴とする。
本発明の繊維複合体含有高分子材料は、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバー、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤から成る繊維複合体と、高分子材料から成ることを特徴とする。
本発明の繊維複合体は、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースマイクロファイバー、セルロースI型結晶構造を有するリグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バイオマス由来のリグノセルロースを解繊する際の処理時間を調整することで、一度の解繊処理でリグノセルロースマイクロファイバーとリグノセルロースナノファイバーを生成するだけでなく、両ファイバーの配合割合を調整することができる。したがって、製造コスト及び廃棄物を少なくすることができる。
リグノセルロースマイクロファイバーは引張弾性率を向上し、リグノセルロースナノファイバーは引張強度を向上させることができるので、結果として高強度且つ高弾性率のリグノセルロース繊維複合体を得られる。
また、本発明ではリグノセルロースマイクロファイバーとリグノセルロースナノファイバーが混在しているので再凝集を防ぎ、樹脂中に高分散させることができる。したがって、例えば熱可塑性樹脂と混合させて押出成形設備に適用することが可能となり、これにより汎用熱可塑性樹脂を射出成形、フィルム、シートなどに加工する際の生産効率の向上や生産コストの削減を図ることができる。
また、リグノセルロースナノファイバーは軽くて強度が高く、バイオマス由来であるため生分解性も高い。したがって、家電製品、携帯電話等の筐体、自動車の内装、建築資材、梱包資材、3Dプリンターの樹脂補強材、機能性膜など幅広い分野への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】エリアンサスマイクロファイバー及びエリアンサスナノファイバーの写真(a)及び(b)である。
【
図2】エリアンサスファイバー、エリアンサスマイクロファイバー及びエリアンサスナノファイバーのFE-SEM写真(a)~(c)
【
図3】セルロースナノファイバー、エリアンサス未処理及びエリアンサス解繊処理のXRD結果を示すグラフ
【
図4】解繊処理時間を変えた場合の引張試験における引張強度のグラフ
【
図5】繊維含有量を変えた場合の引張試験における引張強度及び引張弾性率のグラフ(a)及び(b)
【
図6】過熱水蒸気処理(SHS)を行ったエリアンサスファイバーの引張試験における引張強度のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維複合体の製造方法、繊維複合体及び繊維複合体含有高分子材料の実施の形態について説明する。
繊維複合体の製造方法は、バイオマス由来のリグノセルロースを所定時間解繊し、微細化することでリグノセルロースマイクロファイバーとリグノセルロースナノファイバーを生成する第1ステップと、リグノセルロースマイクロファイバー、リグノセルロースナノファイバー、熱可塑性樹脂及び相溶化剤を混練する第2ステップとを少なくとも含む。
バイオマスはセルロースを含むものであれば特に限定しないが、竹、エリアンサス、ヤシ殻、麦わらなどの力学物性に寄与する繊維リッチな構造を有するものが好ましい。
【0011】
リグノセルロース繊維としてはアスペクト比が1~10程度のものが好ましく、繊維長は100nm~250μm以下が好ましい。
リグノセルロースマイクロファイバー及びリグノセルロースナノファイバーとは、繊維の微細構造をマイクロサイズ及びナノサイズで制御したものを指す。両繊維はその形態や寸法がある一定値に絞り込まれたものではなく、セルロースミクロフィブリルの束を解繊し、数十から数百μm及び数十から数百nmの束となってネットワークを形成しているマイクロフィブリルおよびミクロフィブリル化セルロースやリグニン成分の構造体など、様々な形態の繊維を含む総称である。
【0012】
解繊は周知のブレンダーを用いればよい。ブレンダーによる解繊処理時間をコントロールすることによって、リグノセルロースマイクロファイバーとリグノセルロースナノファイバーの配合割合を調整できる。具体的には、解繊処理時間を短くすることでリグノセルロースマイクロファイバーの配合割合を多くでき、解繊処理時間を長くすることでリグノセルロースナノファイバーの配合割合を多くできる。
リグノセルロースマイクロファイバーは繊維複合体の引張弾性率に影響を与え、リグノセルロースナノファイバーは繊維複合体の引張強度に影響を与える。
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばポリプロピレン樹脂が挙げられる。
相溶化剤としては特に限定されないが、ポリオレフィンのグラフト共重合体やブロック共重合体があげられる。
【実施例1】
【0013】
本発明の繊維複合体の製造方法の実施例について説明する。
バイオマスとしてエリアンサスを用い、水分を除去するために70℃のインキュベーター内で真空乾燥を行った。
次に、エリアンサスの解繊処理を行った。具体的には、上記処理で得られたエリアンサスを粉砕機で粒径5,000μmに分級し、さらに粉砕することで、繊維径125~250 μm (Erianthus micro fiber:EMF )に分級した。
次に、エリアンサスマイクロファイバー10gを水990mlに48 h浸水させ、その後高速ブレンダー (Vita-mix社製 VM0111)を用いて60 min粉砕処理を行った。
そして、遠心分離によって上澄み液を取り除き、沈殿部分を凍結乾燥したものをエリアンサスマイクロファイバー(
図1(a)及び
図2(b)参照、本発明のリグノセルロースマイクロファイバー)とエリアンサスナノファイバー(ENF
図1(b)及び
図2(c)参照、本発明のリグノセルロースナノファイバー)とした。
図2(a)~(c)はエリアンサスの解繊処理前後の繊維状態を走査型電子顕微鏡(SEM、日立製、S-4500)で撮影した写真である。
次に、蒸留水700mlを加え高速ブレンダーを用いてHighモードで粉砕処理を行った。粉砕時間は30、60、120、240分とした。
【0014】
[引張試験]
解繊処理したエリアンサスマイクロファイバー、エリアンサスナノファイバー、熱可塑性樹脂としてPP(ポリプロピレン)、相溶化剤としてMAPP(無水マレイン酸変性 PP)を小型混練機 (Xplore Instruments製 MC5, DSM)で混練し、得られたペレットを井元製作所製の射出成形機で溶解温度160℃、金型温度60℃にてダンベル試験片を作製した。
比較例として、解繊処理前のエリアンサスとCNF(セルロースナノファイバー)についても同様の手順で試験片を作製した。
引張試験機(SHIMADZU製:オートグラフAG-Xplus)を用いて、測定速度5 mm/minで引張試験を実施することにより機械的強度の測定をした。サンプル数は5本とし、応力ひずみ曲線(Stress-Strain Curve)を作製し、引張強度および引張弾性率を算出した。
[結晶性の変化]
図3に示すように、X線回折パターンを、粉末X線回折装置(XRD リガク製 MiniFlex600)を用いて、X線源としてCuKα(λ= 0.1541838 nm)、走査速度10° min-1、走査範囲2θ= 5-50°の条件で測定した。2θの範囲を0から40とするX線回折パターンが、Iβ型結晶特有のパターンである14≦θ≦18に1つまたは2つのピークと、20≦θ≦24に1つまたは2つのピークが確認される。エリアンサスマイクロ/ナノ繊維(EMF/ENF)のピークからも判断できるようにセルロース結晶型のII型への変化がない条件で行った。
【実施例2】
【0015】
解繊処理時間を変えて作成したエリアンサスマイクロファイバー及びエリアンサスナノファイバーを用いて繊維複合体を作製し、解繊処理時間によって機械的特性が変化することについて比較した。
1)高速ブレンダー (Vita-mix社製 VM0111)を用いて解繊処理時間を30、60、120、240分として解繊処理を行った。
2)小型混練機を用いて、未処理エリアンサス繊維又は解繊処理エリアンサス繊維とPPと、MAPPを重量比率87 : 10 : 3の割合で、混練温度170℃、速度60 rpm、混練時間3 minで混練させ、ペレット状に加工した。
3)作製した各複合体ペレットを用いて、射出成形機を用いて溶融温度160 ℃、金型温度60 ℃にてJIS規格7161に基づいたダンベル型試験片を作製した。
4)比較対象として、単体のPP、解繊処理前のエリアンサス繊維複合材料の試験片を同様の手順で作製した。
【0016】
図4の引張強度の結果から、解繊処理を30分間行ったものは60分間に比べ低い強度だった。これは解繊がまだ十分にされていないことが原因だと考えられる。また、一般的に粒子が細かければ細かいほどPPへの分散性が高まり、強度が大きくなると考えられるが、120、240分間解繊処理した場合は強度が低下することが判明した。これは解繊処理時間が長く、たて方向のみならず垂直方向にも解繊が進んだためアスペクト比が矮小化したことが原因である。また、ナノファイバーの割合が増え、分散性が低下したことも原因である。
【実施例3】
【0017】
エリアンサス繊維の解繊処理時間を60分とし、エリアンサス繊維の含有量が異なる複合材料を作製し、含有量の違いによって機械的特性が変化することについて比較した。
1)高速ブレンダー (Vita-mix社製 VM0111)を用いて60分間解繊処理を行った。
2)小型混練機を用いて、未処理エリアンサス繊維又は解繊処理エリアンサス繊維、PP、MAPPの重量比率を表1に示す割合で、混練温度170 ℃、速度60 rpm、混練時間3 minで混練させ、ペレット状に加工した。
3)作製した各複合体ペレットを用いて、射出成形機を用いて溶融温度160 ℃、金型温度60 ℃にてJIS規格7161に基づいたダンベル型試験片を作製した。
4)比較対象として、単体のPP、解繊処理前のエリアンサス繊維複合材料の試験片を同様の手順で作製した。
【表1】
【0018】
図5に引張強度及び引張弾性率の結果を示す。いずれの複合比率においてもPP/EMF/ENF/MAPP複合材料が最も高い強度となっている。10 wt%の時と同様に、複合比率を増大させても常にPP/EMF/ENF/MAPP複合材料は最も高い引張強度及び引張弾性率を示している。
ここでPP/EMF/ENF/MAPP複合材料がPP/CNF/MAPP複合材料よりも高い引張強度を示したことについて考察する。CNFは親水性、PPは疎水性のため、双方はうまく混ざり合うことができずに凝集してしまう。このように凝集体があると、引っ張った際に応力が集中してしまい、複合材の強度も低下してしまう。一方で、EMF/ENFはセルロースがリグニンに覆われた構造をしている。リグニンは疎水性であるため、EMF/ENFは疎水性のPP中で効率よく分散し、複合材料の物性が向上したと考えられる。また、PP/CNF/MAPP複合材は複合比率を上げると物性が低下してしまっているが、PP/ EMF/ENF /MAPP複合材は複合比率の増加に伴い高い引張強度及び引張弾性率となっている。これは、PP/CNF/MAPP複合材料は複合比率を上げると、さらなる凝集から物性が低下してしまうが、PP/ EMF/ENF/MAPP複合材料はバランスよく分散しているため、物性の低下が起こりづらかったと考えられる。これらの結果からEMF/ENFはCNFよりもプラスチック複合材料に適していると結論付けられる。
【実施例4】
【0019】
ヘミセルロースにより強靭な構造を保持したバイオマスのヘミセルロース部位を取り除く方法として、直本工業株式会社製の過熱水蒸気処理装置NHL-1型を用いて、210℃で90分処理し、更に一次破砕機(株式会社フジテックス製木材粉砕機)を用いて1次粉砕した繊維(幅1~3mm、長さ1~5cm)を用い、エリアンサス繊維のヘミセルロース量が異なる複合材料を作製し、含有量の違いによって機械的特性が変化することについて比較した。
1)高速ブレンダー (Vita-mix社製 VM0111)を用いて60分間解繊処理を行った。
2)小型混練機を用いて、未処理エリアンサス繊維または解繊処理エリアンサス繊維、PP、MAPPを重量比率47:50:3の割合で、混練温度170℃、速度60 rpm、混練時間3 minで混練させ、ペレット状に加工した。
3)作製した各複合体ペレットを用いて、射出成形機を用いて溶融温度160 ℃、金型温度60 ℃にてJIS規格7161に基づいたダンベル型試験片を作製した。
4)比較対象として、単体のPP、解繊処理前のエリアンサス繊維複合材料の試験片を同様の手順で作製した。
図6にSHS処理(過熱水蒸気処理)を施したエリアンサスを用いた引張強度の結果を示す。SHS処理を行うことによって解繊処理が効率よくなったが、ナノ繊維の割合が多くなり、熱可塑性樹脂との混練時に再凝集してしまい、物性に反映することが難しかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、製造コスト及び廃棄物が少なく、分散性が高く、高強度且つ高弾性率を実現した繊維複合体の製造方法、繊維複合体含有高分子材料及び繊維複合体であり、産業上の利用可能性を有する。