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特許7104929医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体の製造方法および医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体の製造方法および医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20220714BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220714BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220714BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220714BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220714BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220714BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220714BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
A61K38/02
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/64
A61K39/395 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017142905
(22)【出願日】2017-07-24
(65)【公開番号】P2019023175
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-07-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般社団法人 日本蛋白質科学会発行の第17回日本蛋白質科学会年会 プログラム・要旨集、平成29年5月22日 一般社団法人 日本蛋白質科学会開催の第17回日本蛋白質科学会年会、平成29年6月20日~22日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三村 真大
(72)【発明者】
【氏名】白木 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯渕 るり子
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 直喜
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-506956(JP,A)
【文献】特表2006-523609(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064591(WO,A1)
【文献】特表2010-536786(JP,A)
【文献】特開2009-002709(JP,A)
【文献】特表2006-512416(JP,A)
【文献】J.Biol.Chem.,1992年,Vol.267,p.13327-13334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミノ酸とアルコール(親水性ポリマーを除く)または親水性ポリマー(ポリアミノ酸を除く)の少なくとも一方とを含む溶液Aと、医療用タンパク質(ただし、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、GLP-1(7-37)OH、GLP-1(7-36)NH、エキセンディン3、エキセンディン4ならびにその類縁体およびその誘導体を除く)を含む溶液Bと、を混合して得られる混合液中に複合体を形成することを有
前記ポリアミノ酸がポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジンおよびこれらの水溶性塩からなる群から選択され、
前記アルコールがエタノール、メタノールおよびトリフルオロエタノールからなる群から選択され、
前記親水性ポリマーがポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリコール酸/L-乳酸共重合体、ポリビニルピロリドンおよびヒアルロン酸からなる群から選択され、
前記ポリアミノ酸は、前記医療用タンパク質と反対の電荷を有する、 医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法。
【請求項2】
前記混合液のpHが、4.5超9.0以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミノ酸がポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンおよびこれらの水溶性塩からなる群から選択される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミノ酸が、ポリグルタミン酸であり、前記医療用タンパク質が、抗体である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールの含有量が、前記混合液の総量に対して、2質量%以上25質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記親水性ポリマーの含有量が、前記混合液の総量に対して、2質量%以上15質量%以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記溶液Aが前記アルコールを含み、
粒子径1μm以上5μm未満である前記医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子数に対する粒子径5μm以上10μm以下である前記医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子数の割合が、0.5%超である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体の製造方法および医療用タンパク質とポリアミノ酸とを含む複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術の進歩により、1980年代以降、さまざまなタンパク質医薬品が開発されてきた。特に、分子標的薬として知られている抗体の進歩は目覚ましく、これまでに治療が困難だったがんや関節リウマチなどの難病治療に貢献してきた。
【0003】
タンパク質医薬品の経口投与は、低分子化合物の医薬品とは異なり困難なので、注射によって体内に投与されることが多い。なかでも皮下注射は痛みも少なく、簡便で自己投与(患者の自己注射)も可能なので、新しい投与法として期待されている。しかし、皮下注射は投与量が1.5mL以下に制限されるため、通常、100mg/mL以上の高濃度のタンパク質溶液を調製する必要がある。
【0004】
タンパク質医薬品の高濃度化には、粉末製剤を再溶解する方法が広く用いられている。凍結乾燥されたタンパク質の粉末を少量の溶液で溶かすだけだが、現実には難しい点がいくつかある。まず、タンパク質が不安定であることを考慮しなければならない。粉末状態のタンパク質を溶解させると、せん断応力や表面張力などの物理化学的ストレスがかかり、不可逆に変性することがある。さらに、変性タンパク質の凝集は、調製するタンパク質溶液の濃度が高いほど起こりやすい。凝集体はタンパク質医薬品の有効性を低下させるだけでなく、好ましくない免疫反応を引き起こすなど安全面にも悪影響を及ぼす。このようなタンパク質の不安定性のほかに、溶解に要する時間も現実的な課題になっている。高濃度の塩溶液を調製するような場合には、スターラーやボルテックスで撹拌すれば溶かすことが可能だが、タンパク質は不安定なので、変性させないよう慎重に取り扱う必要がある。実際の製剤では、バイアル中の粉末製剤に生理食塩水などの溶媒を加えたあと、バイアルを泡立てないようゆっくり振ることで溶解させる.そのため、タンパク質のすべての粉末を溶解させるために、数十分間から数時間かかってしまうこともある。
【0005】
ほかのアプローチとして、タンパク質の濃縮がある。すなわち、低濃度のタンパク質溶液から溶媒を選択的に取り除き、溶媒量を減らして高濃度のタンパク質溶液を調製する方法である。代表的な濃縮法には限外ろ過やクロマトグラフィー、エバポレーション法があり、粉末製剤にして再溶解する方法では、凍結乾燥、スプレードライ法などが挙げられる。
【0006】
しかし、操作工程が増えるので、設備や時間のコストが課題として残される。近年では、液-液相分離やゲル化、結晶化など、装置が不要な新しい濃縮法の開発も進んでいるが、処理に伴うタンパク質の不可逆な変性などの課題は残されてしまう。このように、高濃度のタンパク質溶液を得るために、1)タンパク質を変性させずに、2)簡便で迅速な工程で、3)装置などの投資が不要な方法の開発が期待されている。さらに、今後もタンパク質医薬品の種類が増えることを考えると、抗体や酵素やホルモンなどによらず、4)多様なタンパク質に利用できる汎用的な方法であることが望ましい。
【0007】
例えば、特許文献1には、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体含有水性懸濁剤が開示されている。医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体含有水性懸濁剤は、溶媒を除去して濃縮することが可能であり、低濃度の電解質を添加して当該タンパク質を解離して医薬品として利用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/064591号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確かに、特許文献1では、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体含有水性懸濁剤は、溶媒を除去して濃縮することが可能であり、低濃度の電解質を添加して当該タンパク質を解離して医薬品として利用することができることが示されている。
【0010】
しかし、pHや緩衝液の種類などの条件によっては、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成が困難である場合もある。よって、より安定して医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成率(収率)を向上させたいという要求がある。
【0011】
そこで、本発明は、より安定して形成率(収率)を向上することができる医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、ポリアミノ酸とアルコールまたは親水性ポリマーの少なくとも一方とを含む溶液Aと、医療用タンパク質を含む溶液Bと、を混合して得られる混合液中に複合体を形成することを有する、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法によって上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より安定して形成率(収率)を向上することができる医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1-1】図1-1は、試験例1で作製した溶液A1~A5および溶液A’1のpolyEの遠紫外CDスペクトルの結果を示す。
図1-2】図1-2は、実施例1-1~1-15および比較例1におけるIgG/polyE複合体の形成率を示す。
図2-1】図2-1は、試験例2で形成したIgG/polyE複合体の1mLあたりの粒子数を示す。
図2-2】図2-2は、比較例2-1で形成したIgG/polyE複合体の各粒子径に対する、実施例2-1~2-4で形成したIgG/polyE複合体の各粒子径における粒子数の割合を示す。
図2-3】図2-3は、実施例2-4および比較例2-1で形成したIgG/polyE複合体粒子の画像、ならびに複合体形成後の混合液の外観を示す。
図3図3は、IgG/polyE複合体沈殿物を150~900mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)で再溶解させた場合のIgG濃度(左軸;■および●)と再溶解後のIgG収率(右軸;□および■)とを示す;■および□は、エタノール存在下での結果、ならびに●および○は、エタノール非存在下での結果を示す。
図4図4は、試験例4におけるIgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトルの結果を示す。
図5図5は、試験例5における洗浄操作の回数と再溶解させたIgG/polyE複合体からのIgGの回収率との関係を示す。
図6-1】図6-1は、試験例6で作製した溶液A17~A21および溶液A’1のpolyEの遠紫外CDスペクトルの結果を示す。
図6-2】図6-2は、実施例6-1~6-5および比較例6におけるIgG/polyE複合体の形成率を示す。
図7図7は、試験例7におけるIgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトルの結果を示す。
図8図8は、試験例8における再溶解させたIgG/polyE/PEG複合体からのIgGの回収率を示す。
図9図9は、試験例9におけるIgG/polyE/PEGまたはIgG/polyE複合体の形成率を示す。
図10図10は、試験例10におけるIgG/polyE/PEGまたはIgG/polyE複合体の形成率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0016】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0017】
本明細書中、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体とは、後述の医療用タンパク質とポリアミノ酸とが複合体を形成したものであり、医療用タンパク質およびポリアミノ酸以外の成分、例えば親水性ポリマーなどが複合体に含まれていてもよい。
【0018】
≪医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法≫
本発明の一形態は、ポリアミノ酸とアルコール(親水性ポリマーを除く)または親水性ポリマー(ポリアミノ酸を除く)の少なくとも一方とを含む溶液Aと、医療用タンパク質を含む溶液Bと、を混合して得られる混合液中に複合体を形成することを有する、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法である。このような構成により、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体をより安定して形成することができ、よって当該複合体の形成率(収率)を向上することができる。
【0019】
本形態の好ましい一実施形態は、ポリアミノ酸とアルコールとを含む溶液Aと、医療用タンパク質を含む溶液Bと、を混合して得られる混合液中に複合体を形成することを有する、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法である。溶液Aがアルコールを含む、つまり混合液がアルコールを含むことにより、上記本発明の効果に加え、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子径(円相当直径)を大きくすることができる。また医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体では、患者などへの投与時に医療用タンパク質の速やかな放出が期待できる。さらに、混合液中のアルコール濃度を調整することにより、徐放期間をコントロールできる。よって、本実施形態で製造された医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、速やかに血中濃度を上げたい薬剤(抗ウイルス抗体など)に好適である。
【0020】
本形態の好ましい一実施形態は、ポリアミノ酸と親水性ポリマー(ポリアミノ酸を除く)とを含む溶液Aと、医療用タンパク質を含む溶液Bと、を混合して得られる混合液中に複合体を形成することを有する、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法である。溶液Aが親水性ポリマーを含む、つまり混合液が親水性ポリマーを含むことにより、上記本発明の効果に加え、患者などへの投与時に医療用タンパク質の徐放効果が期待でき、混合液中の親水性ポリマーの濃度を調整することにより、徐放期間をコントロールできる。よって、本実施形態で製造された医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、投与回数を減らしたい場合(ホルモン製剤など頻回投与のもの)、局所的に作用させたい場合(抗がん剤用抗体など)などに好適である。
【0021】
<溶液A>
本形態の製造方法において、溶液Aは、ポリアミノ酸とアルコールまたは親水性ポリマーの少なくとも一方とを含む。
【0022】
[ポリアミノ酸]
本形態の製造方法において、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、主として静電相互作用を介して形成することができる。そのため、使用する医療用タンパク質と反対の電荷を有するポリアミノ酸を適宜選択することが好ましい。
【0023】
アニオン性のポリアミノ酸の例としては、ポリグルタミン酸(質量:750~5000Da、pI:2.81~3.46)、ポリグルタミン酸(質量:3000~15000Da、pI:2.36~3.00)、ポリグルタミン酸(質量:15000~50000Da、pI:1.85~2.36)、ポリグルタミン酸(質量:50000~100000Da、pI:1.56~1.85)、ポリアスパラギン酸(質量:2000~11000Da、pI:2.06~2.75)、ポリアスパラギン酸(質量:5000~15000Da、pI:1.93~2.39)およびこれらの水溶性塩などが挙げられる。
【0024】
カチオン性のポリアミノ酸の例としては、ポリリジン(質量:1000~5000Da、pI:10.85~11.58)、ポリリジン(質量:4000~15000Da、pI:11.49~12.06)、ポリリジン(質量:15000~30000Da、pI:12.06~12.37)、ポリリジン(質量:30000Da~、pI:12.37~)、ポリアルギニン(質量:5000~15000Da、pI:13.49~13.97)、ポリアルギニン(質量:15000~70000Da、pI:13.98~14.00)、ポリアルギニン(質量:70000Da~、pI:14.00)、ポリヒスチジン(質量:5000~25000Da、pI:7.74~8.30)およびこれらの水溶性塩などが挙げられる。
【0025】
これらのうち、ポリアミノ酸は、生体適合性および医療用タンパク質と複合体を形成しやすいpIを有することなどの観点から、好ましくはポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンおよびこれらの水溶性塩からなる群から選択される。
【0026】
ポリアミノ酸は、使用する医療用タンパク質に合わせて、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書中、アルコールは、後述の親水性ポリマーを除く。
【0027】
[アルコール]
本形態の製造方法において、溶液Aに含まれるアルコールとしては、特に制限されず、例えばエタノール、メタノール、トリフルオロエタノール(TFE)などを用いることができる。アルコールは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
アルコールは、エタノール、メタノールおよびTFEからなる群から選択されることが好ましく、エタノールであることがより好ましい。
【0029】
本形態の製造方法において、アルコールを用いることにより、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の収率(形成率)が向上するメカニズムは、以下のように推定される。
【0030】
溶液中にポリアミノ酸とアルコールとが存在することにより、アルコールにより、ポリアミノ酸の構造が変化すると考えられる。具体的には、アルコールが溶液の誘電率を下げる効果を持つことに起因して、ポリアミノ酸の立体構造を担う水素結合を強め、ポリアミノ酸の二次構造がαへリックス豊富な構造へと変化すると考えられる(図1-1参照)。この構造変化によって、ポリアミノ酸の荷電部位の露出が増加したため、混合液中において、ポリアミノ酸と医療用タンパク質との静電相互作用が強まり、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成が促進されたと考えられる。
【0031】
また、アルコールが溶液の誘電率を下げることで、医療用タンパク質およびポリアミノ酸の間の静電相互作用が強まり、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体同士の架橋が促進されたと考えられる。
【0032】
さらに、アルコールを用いることにより形成された医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、主に静電相互作用を駆動力に形成されるため、その複合体を解離するために塩を加えると、塩の静電遮蔽効果により速やかに解離する(医療用タンパク質が放出される)と考えられる。
【0033】
当該メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤によって本発明の技術的範囲が影響を受けることはない。
【0034】
上記のとおり、溶液Aがアルコールを含む、つまり混合液中にアルコールが含まれることにより、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子径(円相当直径:ECD)を大きくすることができる。具体的には、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体において、粒子径1μm以上5μm未満の粒子数に対する粒子径5μm以上10μm以下の粒子数の割合を増加できる。よって、本形態の好ましい実施形態は、溶液Aがアルコールを含み、粒子径1μm以上5μm未満である前記医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子数に対する粒子径5μm以上10μm以下である前記医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子数の割合が、0.5%超である、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法が提供される。なお、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の粒子径は、実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0035】
[親水性ポリマー]
本形態の製造方法における溶液Aに含まれる親水性ポリマーとしては、特に制限されず、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリコール酸/L-乳酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸などが挙げられる。親水性ポリマーとしては、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリコール酸/L-乳酸共重合体、ポリビニルピロリドンおよびヒアルロン酸からなる群から選択され、より好ましくはポリエチレングリコールおよびポリビニルピロリドンから選択され、さらに好ましくはポリエチレングリコールである。なお、本明細書中、親水性ポリマーは、ポリアミノ酸を除く。また、親水性ポリマーとは、生理食塩水に浸漬した際の吸水率が1%以上の高分子化合物をいう。
【0036】
親水性ポリマーは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本形態の製造方法において、親水性ポリマーを用いることにより、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の収率(形成率)が向上するメカニズムは、以下のように推定される。
【0038】
溶液A中にポリアミノ酸と親水性ポリマーとが存在することにより、親水性ポリマー(例えばポリエチレングリコール)の排除体積効果でポリアミノ酸(例えばポリグルタミン酸)を選択的に水和させると考えられる。すなわち、ポリアミノ酸の周辺が極性環境になるため、ポリアミノ酸は、表面に荷電部位を露出した状態が安定になると考えられる。そのため、荷電部位を露出し疎水性部位を内部にしまおうとすることによりポリアミノ酸の二次構造がαへリックス豊富な構造へと変化すると考えられる(図6-1参照)。この構造変化によって、ポリアミノ酸の荷電部位の露出が増加したため、ポリアミノ酸と医療用タンパク質との静電相互作用が強まり、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成が促進されたと考えられる。また、質量が大きい親水性ポリマーを使用することで、親水性ポリマーが混合液中に占める体積の割合が大きくなり、医療用タンパク質やポリアミノ酸が存在できる体積が減少して、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成が促進されたと考えられる。
【0039】
また、混合液中に親水性ポリマー(例えば両親媒性のポリエチレングリコール)が存在すると、親水性である一方で疎水性相互作用を介しても、医療用タンパク質とポリアミノ酸と親水性ポリマーとが複合体を形成すると考えられる。さらに、前記複合体と複合体を形成していないポリアミノ酸とが混在した状態であるため、これらの沈殿物のネットワークに静電相互作用と疎水性相互作用との両方が寄与しており、複合体からの医療用タンパク質の放出(複合体の解離)に時間がかかると考えられる。
【0040】
当該メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤によって本発明の技術的範囲が影響を受けることはない。
【0041】
親水性ポリマーの質量は、使用する医療用タンパク質やポリアミノ酸によって適宜調整することができる。親水性ポリマーの質量は、好ましくは2000~100000Daであり、より好ましくは2500~50000Daであり、さらに好ましくは、3000~20000Daである。
【0042】
[溶媒]
本形態の製造方法において、溶液Aに用いられる溶媒としては、特に制限されず、例えば一般的に注射剤に使用でき、塩を含まず、pHを4.5超9.0以下に調整できる緩衝液を用いることができる。
【0043】
緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、ヒスチジン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン-NaOH緩衝液などが挙げられる。
【0044】
[溶液Aの調製方法]
本形態の製造方法において、溶液Aの調製方法は、特に制限されず、例えば、(i)緩衝液中において、所望のポリアミノ酸を所定の濃度となるように調製すること;(ii)緩衝液中において、アルコールまたは親水性ポリマーの少なくとも一方を所定の濃度となるように調製すること;および(iii)(i)の溶液と(ii)の溶液を混合することにより、溶液Aを調製することができる。
【0045】
本形態の好ましい実施形態では、ポリアミノ酸とアルコールまたは親水性ポリマーの少なくとも一方とを混合して、溶液Aを調製することをさらに有する。
【0046】
なお、溶液A中のポリアミノ酸、アルコールおよび親水性ポリマーの濃度は、後述の混合液中の濃度となるように、適宜調整することができる。
【0047】
<溶液B>
本形態の製造方法において、溶液Bは、医療用タンパク質を含む。
【0048】
[医療用タンパク質]
本形態の製造方法において、溶液Bに含まれる医療用タンパク質としては、特に制限されず、例えば抗体およびそのフラグメント、融合タンパク質、酵素、ホルモン、サイトカイン類などが挙げられる。
【0049】
抗体としては、例えばムロモナブ-CD3、卜ラスツズマブ、リツキシマブ、パリビズマブ、インフリキシマブ、バシリキシマブ、卜シリズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ベパシズマブ、イブリツモマブチウキセタン、アダリムマブ、セツキシマブ、ラニビズマブ、オマリズマブ、エクリズマブ、パニツムマブ、ウステキヌマブ、ゴリムマブ、カナキヌマブ、デノスマブ、モガムリズマブ、セル卜リズマブペゴル、オファツムマブ、ペルツズマブ、卜ラスツズマブエムタンシン、ブレンツキシマブベドチン、ナタリズマブ、ニポルマブ、アレムツズマブ、ヨウ素131修飾卜シツモマブ、カツマキソマブ、アデカツムマブ、エドレコロマブ、アブシキシマブ、シルツキシマブ、ダクリズマブ、エファリズマブ、オビヌツズマブ、ベドリズマブ、ペムブロリズマブ、イクセキズマブ、ジリダブマブ、イピリムマブ、ベリムマブ、ラキシバクマブ、ラムシルマフなどが挙げられる。
【0050】
融合タンパク質としては、例えばエタネルセプ卜、アバタセプ卜、ロミプロスチム、アフリベルセプ卜などが挙げられる。
【0051】
酵素としては、例えばアルテプラーゼ、モンテプラーゼ、イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼアルファ、アガルシダーゼアルファ、アガルシダーゼベータ、ラロニダーゼ、アルグルコシダーゼアルファ、イデュルスルファーゼ、ガルスルファーゼ、ラスブリカーゼ、ドルナーゼアルファ、アスパラギナーゼ、ペグアスパラギナーゼ、コンドリアーゼなどが挙げられる。
【0052】
ホルモンとしては、例えばヒトインスリン、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリングルリジン、インスリンデグルデク、リラグリチド、ソマトロピン、ペグビソマント、メカセルミン、カルペリチド、グルカゴン、ホリトロピンアルファ、ホリトロピンベータ、テリパラチド、メトレレプチンなどが挙げられる。
【0053】
サイトカインとしては、例えばフィルグラスチム、ペグフィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、セルモロイキン、テセロイキン、トラフェルミンなどが挙げられる。
【0054】
上記医療用タンパク質以外にも、医療用タンパク質としては、血液凝固線溶系因子、血清タンパク質、ワクチン、インターフェロン類、エリスロポエチン類などを用いることができる。
【0055】
溶液Bに用いられる溶媒としては、上記溶液Aで用いられる溶媒と同じものを使用することができる。
【0056】
[溶液Bの調製方法]
本形態の製造方法において、溶液Bの調製方法は、特に制限されず、例えば、緩衝液中において、所望の医療用タンパク質を所定の濃度となるように混合して、溶液Bを調製することができる。緩衝液は、溶液Aの調製方法で使用した緩衝液を使用できる。
【0057】
<混合液>
本形態の製造方法では、溶液Aと溶液Bとを混合して、混合液を得ることを有する。
【0058】
溶液Aと溶液Bとを混合する方法は、特に制限されない。溶液Aに溶液Bを添加してもよいし、溶液Bに溶液Aを添加してもよい。また、別の容器などに溶液Aと溶液Bとを同時に添加してもよい。
【0059】
混合液中のポリアミノ酸の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.04~2.00mg/mLである。また、混合液中のポリアミノ酸の含有量は、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成率をより向上させるとの観点から、医療用タンパク質2質量部に対して、0.25~1.00質量部であることが好ましい。
【0060】
混合液中のアルコールの含有量は、本発明の効果をより効率的に発現させるとの観点から、混合液の総量に対して、好ましくは2~25質量%であり、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~15質量%である。混合液中のアルコールの含有量により、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を再溶解した場合の医療用タンパク質の解離を調整できる。前記含有量が9質量%以下であると、より速やかな放出が期待でき、前記含有量が9質量%超、好ましくは12質量%以上であると、徐放効果が期待できる。
【0061】
混合液中の親水性ポリマーの含有量は、本発明の効果をより効率的に発現させるとの観点から、混合液の総量に対して、好ましくは2~15質量%であり、より好ましくは3~15質量%である。混合液中の親水性ポリマーの含有量により、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を再溶解した場合の医療用タンパク質の解離を調整できる。前記含有量を増加させることで、徐放効果を得ることができる。
【0062】
混合液中の医療用タンパク質の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.5~200mg/mLであり、より好ましくは1~100mg/mL、さらに好ましくは1~10mg/mLである。
【0063】
混合液の温度、すなわち溶液Aと溶液Bとを混合した直後の温度は、医療用タンパク質に悪影響を与えない限り、特に制限されないが、好ましくは2~55℃、さらに好ましくは4~25℃である。
【0064】
混合液のpHは、特に制限されないが、一般的に注射剤に使用可能である4.5超9.0以下であることが好ましい。特許文献1では、タンパク質/ポリアミノ酸複合体の最大の形成率は、タンパク質のpIから2.0離れたpHで得られるとされており、pIが中性付近にあるタンパク質(例えばヒトIgG(pI=7.3))を用いる場合、高い複合体形成率を得ることが困難であった。一方、本形態の製造方法では、混合液のpHが生体のpHに近い値であっても、高い医療用タンパク質/ポリアミノ複合体の形成率を達成でき、かつ使用する際において、当該複合体を十分に解離させることができる。
【0065】
混合液は、溶液Aおよび溶液B以外にも、本発明の効果を阻害しない限り、添加剤をさらに加えることができる。添加剤は、生体適合性があり、生体に投与しても悪影響がない物質を含む。添加剤の例としては、糖、アミノ酸、ポリソルベートなどの界面活性剤、塩化ベンザルコニウムなどの保存剤、グリセリンなどの等張化剤などが挙げられる。
【0066】
<医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の形成>
本形態の製造方法は、上記で得られた混合液中に複合体を形成することを有する。
【0067】
得られた混合液中では、上述のとおり、主にポリアミノ酸と医療用タンパク質との静電相互作用により、複合体が形成されると考えられる。よって、得られた混合液を、静置または撹拌することにより、ポリアミノ酸/医療用タンパク質複合体を形成することができる。静置または撹拌する時間は、混合液の量、混合液に含まれる各成分の量などによるが、例えば10~30分間である。好ましい実施形態では、上記得られた混合液を静置することにより、ポリアミノ酸/医療用タンパク質複合体を形成する。また、ポリアミノ酸/医療用タンパク質複合体の形成する際の温度は、上記混合液の温度と同じであればよい。
【0068】
形成した医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、例えば遠心分離を行って回収することができる。回収した医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、必要に応じて、洗浄することができる。
【0069】
例えば、溶液Aがアルコールを含む場合、回収した医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を洗浄することで、アルコールを除去することができる。洗浄は、従来公知の方法で行うことができる。後述のとおり、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、電解質を用いて解離することができるため、洗浄は、電解質を含まない溶液を使用する。電解質を含まない溶液としては、上記緩衝液を用いることができる。
【0070】
本形態の製造方法により得られた医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、強い静電相互作用によって複合体を形成しているため、緩衝液で撹拌しても解離しない不可逆な複合体であると考えられる。よって、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を洗浄しても、当該複合体を解離して得られる医療用タンパク質の収率を維持することができる。
【0071】
<医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の解離(再溶解)>
本形態に係る医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、電解質を用いて複合体を解離(再溶解)させて、医療用タンパク質を得ることができる。そのため、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、下記の用途に用いることができる。
【0072】
医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を再溶解する方法としては、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を含む液(例えば上記混合液)に電解質を添加することにより、複合体を解離させることができる。
【0073】
電解質としては、NaCl、KCl、CaCl、MgClなどが例示できる。電解質は、生体適合性の観点から、好ましくはNaClである。
【0074】
電解質の濃度は、特に制限されないが、150~300mMであることが好ましい。
【0075】
<医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の用途>
本形態に係る医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を含む混合液のまま用いることができる。また混合液から医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を回収して用いることもできる。特に、本形態の製造方法では、医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の収率を安定して向上させることができるため、遠心分離などにより医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を沈殿させて、電解質を含む溶液を用いて、高濃度の医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体を含む溶液として用いることができる。
【0076】
本形態に係る医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体およびこれを含む溶液は、タンパク質医薬品として、経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内を含む任意の投与の経路用として用いることができ、必要に応じて、局部治療や病変内投与用として用いることができる。また、本形態に係る医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体は、注射剤の形態として、所望の部位の近くに置かれたカテーテル用の薬剤の形態として、製剤化してもよい。また、投与形態や投与の経路に応じて、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤を含んでもよい。
【0077】
≪医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体≫
本発明の一形態は、医療用タンパク質と、ポリアミノ酸と、の複合体である。医療用タンパク質とポリアミノ酸とが複合体を形成することによって、医療用タンパク質の簡便な濃縮やストレス耐性の獲得が可能である。
【0078】
本形態における「医療用タンパク質」、「ポリアミノ酸」、「親水性ポリマー」および「医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の用途」の説明については、上記医療用タンパク質/ポリアミノ酸複合体の製造方法と同様であるため、説明を省略する。
【0079】
本形態の好ましい実施形態は、医療用タンパク質と、ポリアミノ酸と、親水性ポリマーと、の複合体である。医療用タンパク質とポリアミノ酸と親水性ポリマーとが複合体を形成することで、複合体に含まれる親水性ポリマーの量を調節することにより、患者などへの投与時に医療用タンパク質の徐放期間をコントロールできる。複合体に含まれる親水性ポリマーの量は、混合液中の親水性ポリマーの含有量により調節することができる。
【0080】
本形態において、ポリアミノ酸は、生体適合性および医療用タンパク質と複合体を形成しやすいpIを有することなどの観点から、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアルギニンおよびこれらの水溶性塩からなる群から選択されることが好ましい。
【0081】
本形態において、親水性ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、グリコール酸/L-乳酸共重合体、ポリビニルピロリドンおよびヒアルロン酸からなる群から選択されることが好ましい。
【実施例
【0082】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0083】
≪試験例1≫
<実施例1-1>
(ポリアミノ酸を含む溶液e1の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、ポリ-L-グルタミン酸(polyE、質量:3kDa~15kDa)を1.5mg/mLの濃度となるように調製して、溶液e1を作製した。
【0084】
(アルコールを含む溶液a1の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、エタノールを9%(v/v)の濃度となるように調製して、溶液a1を作製した。
【0085】
(溶液A1の作製)
溶液e1と溶液a1とを50μLずつ混合して、100μLの溶液A1を作製した。
【0086】
(polyEの遠紫外CDスペクトルの測定)
上記とは別に、溶液e1と溶液a1と10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)とを50μLずつ混合して、150μLの溶液A1を作製した。当該溶液A1について、polyEの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。結果を図1-1に示す。
【0087】
(溶液Bの作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、ヒト免疫グロブリン(IgG)を6.0mg/mLの濃度となるように調製して、溶液Bを作製した。
【0088】
(複合体の形成)
上記で作製した100μLの溶液A1に溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、ヒト免疫グロブリン/ポリ-L-グルタミン酸(IgG/polyE)複合体を形成した。
【0089】
(複合体の形成率の算出)
IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、UV測定器(株式会社エル・エム・エス社製ND-1000)により上清中のIgG濃度を測定して、IgG/polyE複合体の形成率を算出した。例えば、IgG/polyE複合体の形成率は、上清中のIgG濃度が0%であれば、すべてのIgGが複合体を形成しているとして、形成率100%とする。結果を図1-2に示す。
【0090】
<実施例1-2~1-15>
下記変更以外は、実施例1-1と同様にして、IgG/polyE複合体を形成して、その形成率を算出した:
・アルコールを含む溶液a1の作製において、エタノール、メタノールまたはトリフルオロエタノール(TFE)を下記表1に示される濃度となるように調製して、溶液a2~a15を作製した;
・溶液A1の作製において、溶液a1の代わりに溶液a2~a15を用いて、溶液A2~A15を作製した。また、溶液A2~A5について、実施例1-1と同様にして、polyEの遠紫外CDスペクトルを測定した。結果を図1-1に示す;
・IgG/polyE複合体の形成において、溶液A1の代わりに溶液A2~A15を用いて、混合液を調製した。
【0091】
複合体の形成率を算出した結果を図1-2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
溶液A1の作製において、溶液a1の代わりに10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を用いて、溶液A’1を作製したこと以外は、上記実施例1-1と同様にして、IgG/polyE複合体を形成し、その形成率を算出した。結果を図1-2に示す。
【0094】
また、実施例1-1と同様にして、溶液A’1について、polyEの遠紫外CDスペクトルを測定した。結果を図1-1に示す。
【0095】
試験例1で作製した混合液を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
(考察)
図1-1に示すように、混合液中のアルコールの含有量が増加するにしたがって、ポリグルタミン酸がαへリックス豊富な構造を形成していることが分かる。
【0098】
また、図1-2に示すように、溶液Aがアルコールを含む、つまり混合液中にアルコールが存在することによって、IgG/polyE複合体の形成率を向上できることが分かる。
【0099】
≪試験例2≫
<実施例2-1~2-4>
(アルコールを含む溶液a16の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、エタノールを60%(v/v)の濃度となるように調製して、溶液a16を作製した。
【0100】
(溶液A16の作製)
溶液e1と溶液a16とを50μLずつ混合して、100μLの溶液A1を作製した。
【0101】
(複合体の形成)
上記で作製した100μLの溶液A1、A3、A5およびA16それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。
【0102】
(粒子径および粒子形状)
IgG/polyE複合体の形成後、10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)で約300倍希釈し、MicroFlow Imaging(Brightwell社製)を用いて粒子径(円相当直径:ECD)の分布および粒子形状データを取得した。結果を図2-1~2-2に示す。
【0103】
<比較例2-1>
上記で作製した100μLのA’1に溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。その後、10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)で約300倍希釈し、MicroFlow Imaging(Brightwell社製)を用いて粒子径の分布および粒子形状データを取得した。結果を図2-1~2-2に示す。
【0104】
<比較例2-2>
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、エタノールを60%(v/v)の濃度となるように調製して、溶液a16を作製した。50μLの溶液a16と50μLの10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)とを混合して、100μLの溶液A’2を作製した。前記100μLの溶液A’2に溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置した。その後、測定に適した濃度に10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)で希釈し、MicroFlow Imaging(Brightwell社製)を用いて粒子径(円相当直径:ECD)の分布および粒子形状データを取得した。結果を図2-1~2-2に示す。
【0105】
<比較例2-3>
50μLの溶液Bに10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を100μL混合し、25℃で30分間静置した。その後、10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)で約300倍希釈し、MicroFlow Imaging(Brightwell社製)を用いて粒子径の分布および粒子形状データを取得した。結果を図2-1~2-2に示す。
【0106】
試験例2で作製した混合液を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
(考察)
図2-1に示すように、比較例2-2および2-3では、複合体を形成しておらず、よって粒子がほぼ認められなかったことが分かる。
【0109】
また、図2-1に示すように、実施例2-1~2-4および比較例2-1では、IgG/polyE複合体が形成され、そのECDが1~5μm程度の粒子が多く認められたことがわかる。
【0110】
図2-2に示すように、比較例2-1とは異なり、実施例2-1~2-4では、混合液がアルコールを含むことにより、6μm以上のECDを有する粒子の割合が多くなることが分かる。
【0111】
ECD1μm以上5μm未満の粒子数に対するECD5μm以上10μm以下の粒子数の割合を表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4に示すように、アルコールを添加することにより、ECD1μm以上5μm未満の粒子数に対するECD5μm以上10μm以下の粒子数の割合が0.5%超になることが分かる。また、アルコールの濃度を上げることにより、より大きな構造体を有する粒子の割合を増加できることが分かる。
【0114】
≪試験例3≫
<実施例3>
溶液e1と溶液a5とを300μLずつ混合して、600μLの溶液A5を作製した。600μLの溶液A5に溶液Bを300μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させた。上清885μLを採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定し、IgG/polyE複合体の形成率を求めて、IgG/polyE複合体として沈殿したIgG量を算出した。
【0115】
上清を除いたIgG/polyE複合体を含む液に、NaCl濃度が150mMとなるよう、150~900mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を加えて、25℃で1時間静置して、IgG/polyE複合体を再溶解させた。9000×gで5分間遠心分離を行い、未解離のIgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定し、IgGの収率を求めて、再溶解時に回収されたIgG量を算出した。
【0116】
なお、150mMは、生体のNaCl濃度に等しく、この実施例は、生体内にIgG/polyE複合体を注入した際の放出を模倣したものである。
【0117】
<比較例3>
600μLの溶液A’1に溶液Bを300μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させた。上清885μLを採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定し、IgG/polyE複合体の形成率を求めて、IgG/polyE複合体として沈殿したIgG量を算出した。
【0118】
上清を除いたIgG/polyE複合体を含む液に、NaCl濃度が150mMとなるよう、150~900mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を加えて、25℃で1時間静置して、IgG/polyE複合体を再溶解(解離)させた。9000×gで5分間遠心分離を行い、未解離のIgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定して、IgGの収率を求めて、再溶解時に回収されたIgG量を算出した。
【0119】
(再溶解後の収率)
再溶解後のIgG回収率を下記式(1)を用いて算出した。
【0120】
【数1】
【0121】
結果を図3に示す。なお、図3において、濃縮倍率は、以下の式で算出した。
【0122】
【数2】
【0123】
(考察)
図3に示すように、実施例3では、エタノールが混合液に含まれるため、IgG/polyE複合体は、1時間の静置で95%以上解離したことが分かる。
【0124】
また、実施例3では、50倍濃縮時(約100mg/mL)においても、80%のIgGを回収できることが分かる。比較例3と比較すると、IgGの回収率が1.6倍であった。
【0125】
≪試験例4≫
<実施例4-1~4-5>
溶液e1と溶液a1~a5それぞれとを300μLずつ混合して、600μLの溶液A1~A5を作製した。600μLの溶液A1~A5それぞれに溶液Bを300μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させて、上清885μLを除去した。
【0126】
上清を除いたIgG/polyE複合体を含む液に、150~900mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を3~885μL加えて、25℃で1時間静置して、IgG/polyE複合体を再溶解させた。9000×gで5分間遠心分離を行い、未解離のIgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定した。150mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、当該上清に含まれるIgGの濃度を0.1mg/mLに調整した。調整した上清について、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。測定は、積算回数15回行った。結果を図4に示す。
【0127】
なお、図4では、溶液Bについて、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定し、スタンダードとした。
【0128】
<参考例4>
溶液A1~A5の代わりに溶液A’1を用いたこと以外は、実施例4-1~4-5と同様にして、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。結果を図4に示す。
【0129】
(考察)
図4に示すように、エタノールを用いてIgG/polyE複合体の形成および解離を行った後も、IgGの構造に変化が認められないことが分かる。
【0130】
≪試験例5≫
溶液e1と溶液a5とを50μLずつ混合して、100μLの溶液A5を作製した。100μLの溶液A5に溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。前記混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させた。
【0131】
得られたIgG/polyE複合体を、10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)で0~3回洗浄した(0回洗浄では、下記(ii)の手順を行わなかった)。洗浄操作は、下記の手順で行った。
【0132】
(i)上清135μLを取り除いた後、10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を135μL加える;
(ii)15~30回ピペッティングする;
(iii)9000×gで5分間遠心分離する;
(iv)上清135μLを取り除く。
【0133】
(i)~(iv)の操作を1~3回繰り返した後、150mM NaCl-10mM クエン酸緩衝液(pH7.0)で再溶解し、280nmのUVスペクトルでIgGの濃度を測定して、IgGの収率を求めた。なお、3回の洗浄により、理論上エタノール濃度は、0.015%(=15%×10-3)まで低下する。結果を図5に示す。
【0134】
(考察)
図5に示すように、IgG/polyE複合体沈殿後の洗浄操作は、IgGの収率に影響を与えなかった。よって、洗浄操作を繰り返すことにより、アルコールを除去できることが分かる。
【0135】
≪試験例6≫
<実施例6-1~6-5>
(ポリエチレングリコールを含む溶液p1~p5の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH5.0)中において、ポリエチレングリコール(PEG)(4000Da)を下記表5に示される濃度となるように調製して、溶液p1~p5を作製した。
【0136】
【表5】
【0137】
(溶液A17~A21の作製)
溶液e1と溶液p1~p5それぞれとを50μLずつ混合して、100μLの溶液A16~A20を作製した。
【0138】
(polyEの遠紫外CDスペクトルの測定)
上記とは別に、溶液e1と溶液p1~p5それぞれと10mMクエン酸緩衝液(pH5.)とを50μLずつ混合して、150μLの溶液A16~A20を作製した。当該溶液A17~A21について、polyEの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。結果を図6-1に示す。
【0139】
(複合体の形成)
前記100μLの溶液A17~A21それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を形成した。
【0140】
(複合体の形成率の算出)
IgG/polyE/PEG複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、複合体を沈殿させた。上清を採取して、株式会社エル・エム・エス社製ND-1000を用いて上清中のIgG濃度を測定し、複合体の形成率を算出した。結果を図6-2に示す。なお、複合体の形成率は、以下の式により算出した。
【0141】
【数3】
【0142】
<比較例6>
溶液A17~A21の代わりに溶液A’1を用いたこと以外は、実施例6-1~6-5と同様にして、複合体の形成率を算出した。結果を図6-2に示す。
【0143】
また、溶液A’1について、polyEの遠紫外CDスペクトルを測定した。結果を図6-1に示す。
【0144】
試験例6で作製した混合液を表6に示す。
【0145】
【表6】
【0146】
(考察)
図6-1に示すように、混合液中のPEG濃度が増加するにしたがって、ポリグルタミン酸がαへリックス豊富な構造を形成していることが分かる。
【0147】
また、図6-2に示すように、混合液がPEGを含むことによって、IgG/polyE/PEG複合体の形成率を向上できることが分かる。
【0148】
≪試験例7≫
<実施例7-1~7-5>
溶液e1と溶液p1~p5それぞれとを50μLずつ混合して、100μLの溶液A17~A21を作製した。100μLの溶液A17~A21それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を形成した。IgG/polyE/PEG複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE/PEG複合体を沈殿させて、上清135μLを除去した。
【0149】
上清を除いたIgG/polyE/PEG複合体を含む液に、150mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を135μL加えて、25℃で1時間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を再溶解させた。9000×gで5分間遠心分離を行い、未解離のIgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定した。150mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を用いて、当該上清に含まれるIgGの濃度を0.1mg/mLに調整した。調整した上清について、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。測定は、積算回数15回行った。結果を図7に示す。
【0150】
なお、図7では、溶液Bについて、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定し、スタンダードとした。
【0151】
<参考例7>
溶液A17~A21の代わりに溶液A’1を用いたこと以外は、実施例7-1~7-5と同様にして、IgGの波長200~250nmの遠紫外CDスペクトル(測定機器:JASCO J-720、日本分光株式会社製)を測定した。結果を図7に示す。
【0152】
(考察)
図7に示すように、PEGを添加してIgG/polyE/PEG複合体を形成し、その複合体を解離させた後であっても、IgGの構造が変化しなかったことが分かる。
【0153】
≪試験例8≫
<実施例8-1~8-5>
溶液e1と溶液p1~p5それぞれとを50μLずつ混合して、100μLの溶液A17~A21を作製した。100μLの溶液A17~A21それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を形成した。IgG/polyE/PEG複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE/PEG複合体を沈殿させて、上清135μLを除去した。
【0154】
上清を除いたIgG/polyE/PEG複合体を含む液に、150mM NaCl-10mMクエン酸緩衝液(pH7.0)を135μL加えて、25℃で1時間(0日)および1~5日間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を再溶解(解離)させた。9000×gで5分間遠心分離を行い、未解離の複合体を沈殿させた。上清を採取し、280nmのUVスペクトルで上清のIgG濃度を測定して、IgGの回収率を算出した。結果を図8に示す。
【0155】
<参考例8>
溶液A17~A21の代わりに溶液A’1を用いたこと以外は、実施例8-1~8-5と同様にして、IgG濃度を測定して、IgGの回収率を算出した。結果を図8に示す。
【0156】
(考察)
図8に示すように、混合液に含まれるPEGの濃度が3または6%であると、95%のIgGが速やかに放出された(回収率:95%)。また、混合液に含まれるPEGの濃度が9~15%であると、徐放効果が観察された。実施例8-1~8-5のいずれのサンプルにおいても、複合体に含まれるIgGは、再溶解開始後4日までに、回収率をほぼ100%にすることが可能であった。
【0157】
≪試験例9≫
<実施例9-1~9-3>
(ポリアミノ酸を含む溶液e2の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中において、ポリ-L-グルタミン酸(polyE、質量:50kDa~100kDa)を1.5mg/mLの濃度となるように調製して、溶液e2を作製した。
【0158】
(ポリエチレングリコールを含む溶液p6~p8の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中において、ポリエチレングリコール(PEG)(4000Da)を下記表7に示される混合液中の濃度となるように調製して、溶液p6~p8を作製した。
【0159】
(溶液A22~A24の作製)
溶液e2と溶液p6~p8それぞれとを50μLずつ混合して、100μLの溶液A22~A24を作製した。
【0160】
(複合体の形成)
100μLの溶液A22~A24それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を形成した。
【0161】
(複合体の形成率の算出)
IgG/polyE/PEG複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE/PEG複合体を沈殿させた。上清を採取して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(使用カラム:TSK-GEL G3000SWXL、粒子径5μm、東ソー、測定機器:高速液体クロマトグラフィー LC20A、株式会社島津製作所)により上清中のIgG濃度を測定して、IgG/polyE/PEG複合体の形成率を算出した。結果を図9および表7に示す。
【0162】
(比較例9)
(溶液A’3の作製)
溶液e2と10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)とを50μLずつ混合して、100μLの溶液A’3を作製した。
【0163】
(複合体の形成)
100μLの溶液A’3に溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE複合体を形成した。
【0164】
(複合体の形成率の算出)
IgG/polyE複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、IgG/polyE複合体を沈殿させた。上清を採取して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(使用カラム:TSK-GEL G3000SWXL、粒子径5μm、東ソー、測定機器:高速液体クロマトグラフィー LC20A、島津製作所)により上清中のIgG濃度を測定して、IgG/polyE複合体の形成率を算出した。結果を図9および表7に示す。
【0165】
試験例9で作製した混合液を表7に示す。
【0166】
【表7】
【0167】
(考察)
図9および表7に示すように、混合液のpHが6.0であり、長鎖(50kDa~100kDa)のポリ-L-グルタミン酸を用いた場合、PEGを添加しないと複合体の形成率は、10%以下であることが分かる。
【0168】
一方、PEG(4kDa)を添加することにより、複合体の形成率が70%以上まで回復したことが分かる。
【0169】
≪試験例10≫
<実施例10-1~10-3>
(ポリエチレングリコールを含む溶液p9~p11の作製)
10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)中において、ポリエチレングリコール(PEG)(20000Da)を下記表8に示される混合液中の濃度となるように調製して、溶液p9~p11を作製した。
【0170】
(溶液A25~A27の作製)
溶液e2と溶液p9~p11それぞれとを50μLずつ混合して、100μLの溶液A25~A27を作製した。
【0171】
(複合体の形成)
100μLの溶液A25~A27それぞれに溶液Bを50μL混合して、混合液を調製した。各混合液を25℃で30分間静置して、IgG/polyE/PEG複合体を形成した。
【0172】
(複合体の形成率の算出)
IgG/polyE/PEG複合体の形成後、9000×gで5分間遠心分離を行い、複合体を沈殿させた。上清を採取して、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(使用カラム:TSK-GEL G3000SWXL、粒子径5μm、東ソー、測定機器:高速液体クロマトグラフィー LC20A、株式会社島津製作所)により上清中のIgG濃度を測定して、IgG/polyE/PEG複合体の形成率を算出した。結果を図10および表8に示す。
【0173】
<比較例10>
比較例9と同様にして、IgG/polyE複合体を形成し、その形成率を算出した。結果を図10および表8に示す。
【0174】
【表8】
【0175】
(考察)
図10および表8に示すように、混合液のpHが6.0であり、長鎖(50kDa~100kDa)のポリ-L-グルタミン酸を用いた場合、PEGを添加しないと複合体の形成率は、10%以下であることが分かる。
【0176】
一方、PEG(20kDa)を添加することにより、複合体の形成率が80%以上まで回復したことが分かる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10