(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】FMCWレーダ装置、FMCWレーダ装置の多元接続方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20220714BHJP
G01S 13/931 20200101ALI20220714BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2018028025
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2020-11-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、電波有効利用促進型研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅比良 正弘
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 浩司
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-232055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0176266(US,A1)
【文献】特表2017-529525(JP,A)
【文献】特開2007-085999(JP,A)
【文献】特開2009-133875(JP,A)
【文献】特開2017-003347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の掃引周波数幅の範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するFMCWレーダ装置であって、
前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周波数幅内の所定の検出周波数において既送信のレーダ信号の検出を行い、前記レーダ信号の検出結果に基づいて前記送信信号の送信開始タイミングを決定する制御部を備え、
前記レーダ信号は、前記送信信号と同一の掃引周期により、前記掃引周波数幅内で周波数が連続的に時間変化し、
前記制御部は、前記レーダ信号の検出を開始してから所定の検出時間内に前記レーダ信号が検出された場合、前記レーダ信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分を加えたタイミング、または、前記レーダ信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分およびランダムな時間を加えたタイミングを、新たな前記レーダ信号の検出開始タイミングに再設定して、前記レーダ信号の検出を再開するFMCWレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のFMCWレーダ装置において、
前記制御部は、前記レーダ信号の検出を開始してから前記検出時間内に前記レーダ信号が検出されない場合、前記レーダ信号の検出開始タイミングに前記検出時間の約半分および前記掃引周期を加えたタイミングで前記送信信号の周波数が前記検出周波数となるように、前記送信信号の送信開始タイミングを決定するFMCWレーダ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のFMCWレーダ装置において、
前記送信信号を生成する発振器と、
前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、
前記受信信号または前記レーダ信号が入力され、前記送信信号を用いて前記受信信号または前記レーダ信号によるビート信号を生成するミキサと、
前記ビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え、
前記発振器は、前記レーダ信号の検出を行うときには前記検出周波数で前記送信信号を生成し、
前記スイッチは、前記レーダ信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記レーダ信号による前記ビート信号に基づいて前記レーダ信号を検出するFMCWレーダ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のFMCWレーダ装置において、
前記検出時間は、前記通過帯域幅に基づいて設定されるFMCWレーダ装置。
【請求項5】
所定の掃引周波数幅の範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するFMCWレーダ装置であって、
前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周波数幅内の所定の検出周波数において既送信のレーダ信号の検出を行い、前記レーダ信号の検出結果に基づいて前記送信信号の送信開始タイミングを決定する制御部を備え、
前記レーダ信号は、前記送信信号と同一の掃引周期により、前記掃引周波数幅内で周波数が連続的に時間変化し、
前記制御部は、前記レーダ信号の検出を開始してから前記掃引周期内に前記レーダ信号が検出された場合、前記レーダ信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングを中心とする所定の非設定時間を除いて前記掃引周期内で基準タイミングを設定し、前記基準タイミングに前記掃引周期を加えたタイミングで前記送信信号の周波数が前記検出周波数となるように、前記送信信号の送信開始タイミングを決定するFMCWレーダ装置。
【請求項6】
請求項
5に記載のFMCWレーダ装置において、
前記送信信号を生成する発振器と、
前記送信信号の送信を許可または禁止するスイッチと、
前記受信信号または前記レーダ信号が入力され、前記送信信号を用いて前記受信信号または前記レーダ信号によるビート信号を生成するミキサと、
前記ビート信号のうち所定の通過帯域幅の周波数成分を通過させる低域通過フィルタと、を備え、
前記発振器は、前記レーダ信号の検出を行うときには前記検出周波数で前記送信信号を生成し、
前記スイッチは、前記レーダ信号の検出を行うときには前記送信信号の送信を禁止し、
前記制御部は、前記低域通過フィルタを通過した前記レーダ信号による前記ビート信号に基づいて前記レーダ信号を検出するFMCWレーダ装置。
【請求項7】
請求項
6に記載のFMCWレーダ装置において、
前記非設定時間は、前記通過帯域幅に基づいて設定されるFMCWレーダ装置。
【請求項8】
所定の掃引周波数幅の範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号をそれぞれ送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離をそれぞれ測定する複数のFMCWレーダ装置を用いたFMCWレーダ装置の多元接続方法であって、
前記複数のFMCWレーダ装置のうちいずれかを対象FMCWレーダ装置として、前記対象FMCWレーダ装置により、前記対象FMCWレーダ装置が送信する第1の送信信号の送信開始前に、前記掃引周波数幅内の所定の検出周波数において、他のFMCWレーダ装置から送信された、前記第1の送信信号と同一の掃引周期により前記掃引周波数幅内で周波数が連速的に時間変化する第2の送信信号の検出を行い、
前記第2の送信信号の検出を開始してから所定の検出時間内に前記第2の送信信号が検出された場合、前記第2の送信信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分を加えたタイミング、または、前記第2の送信信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分およびランダムな時間を加えたタイミングを、新たな前記第2の送信信号の検出開始タイミングに再設定して、前記第2の送信信号の検出を再開し、
前記第2の送信信号の検出結果に基づいて、前記対象FMCWレーダ装置による前記第1の送信信号の送信開始タイミングを決定するFMCWレーダ装置の多元接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FMCWレーダ装置およびFMCWレーダ装置の多元接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の自動運転や運転支援システムにおいて利用するために、車両周囲の障害物等を検出するレーダ装置が知られている。自動運転や運転支援システムの普及に伴ってレーダ装置を搭載した車両が増加すると、他の車両のレーダ装置から送信されたレーダ信号が干渉信号として受信されることで、障害物等を正確に検出できない危険性が高まる。そのため、こうしたレーダ装置では、干渉が生じているときにはこれを検出して適切な対処を行うことが求められる。特許文献1には、送信信号と受信信号を混合することにより得られるビート信号の振幅密度を演算し、この振幅密度に基づいてビート信号の許容上限値および許容下限値を設定することで、突発性ノイズを検出して除去するFMCWレーダの信号処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の信号処理装置では、基準となるビート信号の振幅が変動しないことを前提として、ビート信号の許容上限値および許容下限値を設定し、突発性ノイズを除去している。しかしながら、同一周波数帯のレーダ信号が、ターゲットからの反射信号とほぼ同じタイミングで干渉信号として入力される場合に発生する狭帯域干渉に対しては、これを効果的に抑制するのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるFMCWレーダ装置は、所定の掃引周波数幅の範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離を測定するものであって、前記送信信号の送信開始前に、前記掃引周波数幅内における既送信のレーダ信号の有無と掃引開始タイミングの検出を行い、前記の既送信のレーダ信号の検出結果に基づいて前記送信信号の送信開始タイミングを決定する制御部を備え、前記レーダ信号は、前記送信信号と同一の掃引周期により、前記掃引周波数幅内で周波数が連続的に時間変化し、前記制御部は、前記レーダ信号の検出を開始してから所定の検出時間内に前記レーダ信号が検出された場合、前記レーダ信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分を加えたタイミング、または、前記レーダ信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分およびランダムな時間を加えたタイミングを、新たな前記レーダ信号の検出開始タイミングに再設定して、前記レーダ信号の検出を再開する。
本発明によるFMCWレーダ装置の多元接続方法は、所定の掃引周波数幅の範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号をそれぞれ送信し、前記送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して前記対象物との距離をそれぞれ測定する複数のFMCWレーダ装置を用いたものであって、前記複数のFMCWレーダ装置のうちいずれかを対象FMCWレーダ装置として、前記対象FMCWレーダ装置により、前記対象FMCWレーダ装置が送信する第1の送信信号の送信開始前に、前記掃引周波数幅内の所定の検出周波数において、他のFMCWレーダ装置から送信された、前記第1の送信信号と同一の掃引周期により前記掃引周波数幅内で周波数が連続的に時間変化する第2の送信信号の検出を行い、前記第2の送信信号の検出を開始してから所定の検出時間内に前記第2の送信信号が検出された場合、前記第2の送信信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分を加えたタイミング、または、前記第2の送信信号の周波数が前記検出周波数と一致したタイミングに前記検出時間の約半分およびランダムな時間を加えたタイミングを、新たな前記第2の送信信号の検出開始タイミングに再設定して、前記第2の送信信号の検出を再開し、前記第2の送信信号の検出結果に基づいて、前記対象FMCWレーダ装置による前記第1の送信信号の送信開始タイミングを決定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一般的なFMCWレーダ装置の構成を示す図である。
【
図2】従来のレーダ装置において干渉信号がある場合の動作を説明するための図である。
【
図3】従来のレーダ装置において狭帯域干渉が発生したときのビート信号の周波数スペクトルの例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置における送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置におけるチャネルアイドル時の動作を説明するための図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置におけるチャネルビジー時の動作を説明するための図である。
【
図8】干渉信号が検出されたときの低域通過フィルタの出力信号の測定結果の例を示す図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置における送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置におけるチャネルビジー時の動作を説明するための図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置における送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置において既送信のレーダ信号が検出された場合の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(FMCWレーダ装置)
レーダ装置の一つに、周波数を掃引したチャープ信号を送信信号として送信するFMCWレーダ装置がある。この送信信号が対象物で反射されると、対象物との距離に応じた時間だけ遅延した信号が受信されるため、送信信号と受信信号を乗算して得られるビート信号の周波数から、対象物との距離を測定することができる。FMCWレーダ装置は、自動車の自動運転において周囲環境を認識する手段の一つとして有望である。
【0009】
図1は、一般的なFMCWレーダ装置の構成例を示す図である。
図1のレーダ装置は、波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備える。
【0010】
波形発生器101は、DSP108の制御により、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形を発生して電圧制御発振器102に出力する。電圧制御発振器102は、波形発生器101から入力した電圧波形に応じて制御された発振周波数の送信信号を生成し、増幅器103およびミキサ105に出力する。増幅器103は、電圧制御発振器102から入力した送信信号を増幅して送信アンテナ109に出力する。送信アンテナ109は、増幅器103から入力した送信信号を空間に放出する。これにより、連続波が周波数変調されたFMCW信号がレーダ装置から送信される。
【0011】
受信アンテナ110は、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信し、低雑音増幅器104に出力する。低雑音増幅器104は、受信アンテナ110から入力した受信信号を増幅してミキサ105に出力する。ミキサ105は、乗算器で構成されており、電圧制御発振器102から入力した送信信号と、低雑音増幅器104から入力した受信信号との乗算を行うことで、これらの信号の周波数差に応じたビート信号を生成し、低域通過フィルタ106に出力する。低域通過フィルタ106は、ミキサ105から入力したビート信号の低周波成分を取り出し、AD変換器107に出力する。AD変換器107は、低域通過フィルタ106から入力したビート信号を所定のサンプリング周期ごとにディジタル信号に変換することで、ビート信号のディジタル値を生成し、DSP108に出力する。DSP108は、AD変換器107で得られたビート信号のディジタル値に対して高速フーリエ変換(FFT)を行うことで、ビート信号を周波数成分に分解した信号波形を求める。そして、この信号波形において予め設定された閾値を上回るピークを検出することで、対象物までの距離に応じたビート信号の周波数を求め、対象物までの距離を算出する。
【0012】
図1のFMCWレーダ装置は、たとえば三角波やのこぎり波の電圧波形を波形発生器101で生成し、これを電圧制御発振器102に出力することで、連続波を周波数変調した送信信号を送信する。この送信信号が対象物で反射された反射波は、対象物との距離dに比例した遅延時間の後、ミキサ105に受信信号として入力される。そのため、遅延時間に比例した周波数のビート信号が得られる。
【0013】
近年、自動運転や運転者支援システムの普及に伴い、車両へのレーダ装置の搭載が進められている。こうした車載レーダ装置は、車両の周囲に存在する人、障害物、他車両等を対象物として、対象物との距離や対象物の位置などを車両の周囲環境として検出するために利用されている。レーダ装置を搭載した車両が増加すると、近距離の他車両から送信されるレーダ信号が干渉信号として受信される場合がある。
【0014】
ここで、同一周波数帯の送信信号を用いるFMCWレーダ装置が近距離内に2つ存在する場合を考える。この場合、一方のFMCWレーダ装置の送信信号は、他方のFMCWレーダ装置に対する干渉信号となって干渉が生じる。なお、干渉信号となるレーダ信号はFMCWレーダ方式に限らず、他のレーダ方式、たとえばパルスレーダ方式やCWレーダ方式のレーダ信号であっても、同一周波数帯であれば干渉信号となり得る。
【0015】
図2は、従来のレーダ装置において干渉信号がある場合の動作を説明するための図である。
図2では、上記のようにFMCWレーダ装置が近距離内に2つある場合の一方のFMCWレーダ装置における狭帯域干渉での干渉動作の例を示している。
図2上段には、一方のFMCWレーダ装置の送信信号および受信信号と、当該FMCWレーダ装置において干渉信号として検出される他方のFMCWレーダ装置の送信信号とについて、それぞれの周波数の時間変化の様子を示している。
図2下段には、受信信号と干渉信号によってそれぞれ得られるビート信号における周波数の時間変化の様子を示している。
【0016】
図2上段において、二重線で示した送信信号は、所定の掃引周波数幅Bの範囲内で周波数が上り方向に連続的に時間変化する期間を繰り返すように、その周波数が鋸歯状に変化している。また、実線で示した受信信号は、送信信号から遅延時間τ
1だけ遅れたタイミングで、送信信号と同様に周波数が変化している。一方、破線で示した干渉信号は、送信信号から遅延時間τ
2だけ遅れたタイミングで、これらと同様に周波数が変化している。ここで、受信信号の遅延時間τ
1および干渉信号の遅延時間τ
2は、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fの範囲内に相当する一定値以下であるものとする。
【0017】
一般に、レーダ装置における目標物との距離dは、送信信号に対する受信信号の遅延時間τ1を用いて次の式(1)で与えられる。式(1)において、cは光速を表している。
d=(τ1/2)・c ・・・(1)
【0018】
図2のような鋸歯状の送信信号を用いるFMCWレーダ装置において、周波数が上昇するアップチャープ区間で得られるビート信号の周波数をf
Bとすると、式(1)の遅延時間τ
1は次の式(2)で与えられる。式(2)において、Bは掃引周波数幅、Tはアップチャープ区間の掃引周期をそれぞれ表している。また、式(2)の右辺の分母B/Tは、チャープ率(Hz/s)と呼ばれる。
τ
1=f
B/(B/T) ・・・(2)
【0019】
鋸歯状に周波数掃引を行うFMCWレーダ装置では、アップチャープ区間毎のビート周波数を計測し、その差を計算することで、目標物の距離と相対速度を算出できる。
【0020】
ここで、上記のようなタイミングで送信信号、受信信号および干渉信号がそれぞれ周波数変調されており、これらの掃引周波数幅および掃引周期がそれぞれ等しい場合、受信信号によるビート周波数と、干渉信号によるビート周波数とは、
図2下段において実線と破線でそれぞれ示すように変化する。すなわち、受信信号によるビート周波数は、送信信号と受信信号の周波数がともに上り方向に変化している期間において、低域通過フィルタ106の通過帯域F内で一定となる。同様に、干渉信号によるビート周波数も、送信信号と干渉信号の周波数がともに上り方向に変化している期間において、低域通過フィルタ106の通過帯域F内で一定となる。これらのビート信号をフーリエ変換すると、たとえば
図3の波形例で示すような周波数スペクトルが得られる。
図3の波形例では、ターゲットを示す受信信号によるビート周波数のピークとともに、干渉信号によるビート周波数のピークが含まれているため、これがゴーストターゲットとして誤検出されることとなる。
【0021】
車両に搭載されるFMCWレーダ装置では、以上説明したような狭帯域干渉を低減し、ターゲットの誤検出が発生しないようにすることが求められている。特に、レーダ装置を用いた自動運転等の場面では、ターゲットの誤検出により運転操作を誤り、交通事故につながることになる。また、自動運転の普及が進んでレーダ装置を搭載した車両の数が増加するにつれて、自車両と同一周波数帯の送信信号を用いるレーダ装置を搭載した車両が付近に存在する可能性が高くなるため、狭帯域干渉が発生する確率が増大する。したがって、狭帯域干渉を回避、除去することが極めて重要である。以下では、図面を用いて、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉の発生を回避し、同一周波数帯を利用するFMCWレーダ装置の多元接続を実現するための本発明の実施形態について説明する。
【0022】
(第1の実施形態)
図4は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示す図である。
図4に示すレーダ装置1は、FMCWレーダ装置であり、
図1と同様のハードウェア構成にスイッチ111が追加されている。すなわち、レーダ装置1は、
図1でそれぞれ説明した波形発生器101、電圧制御発振器102、増幅器103、低雑音増幅器104、ミキサ105、低域通過フィルタ106、AD変換器107、DSP108、送信アンテナ109、および受信アンテナ110を備えるとともに、電圧制御発振器102と増幅器103の間にスイッチ111を備える。
【0023】
DSP108は、
図1で説明したように、AD変換器107から入力したビート信号のディジタル値に基づき、対象物までの距離を算出する処理を行う。また、波形発生器101およびスイッチ111の制御を行うと共に、レーダ装置1の動作タイミング等の制御を行う。
【0024】
レーダ装置1は、上記の各機能を、DSP108が実行するソフトウェア処理により実現することができる。なお、DSP108の代わりに、論理回路等を組み合わせたハードウェアにより実現してもよい。
【0025】
波形発生器101は、
図1で説明したように、所定の周期で電圧が連続的に変化する電圧波形を発生し、電圧制御発振器102およびスイッチ111に出力する。電圧制御発振器102は、波形発生器101から入力した電圧波形に基づき、
図2で説明したような鋸波状の送信信号を生成し、スイッチ111およびミキサ105に出力する。
【0026】
スイッチ111は、DSP108の制御に応じて、電圧制御発振器102と増幅器103の間の接続状態をオンからオフに、またはオフからオンに切り替える。これにより、電圧制御発振器102から増幅器103への送信信号の出力を許可または禁止する。増幅器103は、電圧制御発振器102から出力された送信信号がスイッチ111を介して入力されると、入力した送信信号を増幅して送信アンテナ109に出力する。送信アンテナ109は、増幅器103から入力した送信信号を空間に放出する。これにより、スイッチ111がオンである期間にのみ、連続波が周波数変調されたFMCW信号がレーダ装置1から送信され、スイッチ111がオフである期間にはFMCW信号の送信が停止される。すなわち、スイッチ111の動作に応じて、レーダ装置1から対象物への送信信号の送信が許可または禁止される。
【0027】
本実施形態では、送信信号の送信を開始する前に、DSP108において既送信のレーダ信号の有無を判断し、その判断結果を基にスイッチ111の切り替えタイミングおよび電圧制御発振器102による送信信号の送信開始タイミングの制御を行う。具体的には、最初にスイッチ111をオフ状態として、電圧制御発振器102からミキサ105に一定の周波数で送信信号を出力し、このときのAD変換器107からの出力に基づいて既送信のレーダ信号の有無の検出を行う。その結果、レーダ信号が検出されなければ、電圧制御発振器102から周波数変調された送信信号の出力を開始するとともに、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1による送信信号の送信を許可する。
【0028】
図5は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置1における送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1は、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図5のフローチャートに示す処理を実行する。
【0029】
ステップS10において、DSP108は、スイッチ111をオフにする。これにより、ステップS20以降で既送信のレーダ信号の検出を行うときには、レーダ装置1からの送信信号の送信を禁止する。
【0030】
ステップS20において、DSP108は、波形発生器101から出力される電圧波形の出力が一定値となるように波形発生器101を制御することで、電圧制御発振器102から出力される送信信号の周波数を所定の検出周波数f0に設定する。なお、ここで設定される検出周波数f0は、前述の掃引周波数幅Bの範囲内の周波数である。具体的には、掃引周波数幅Bにおける最大周波数をfmax、最小周波数をfminとすると、以下の式(3)の範囲内で検出周波数f0を設定することが好ましい。式(3)において、fLPFは低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに相当する送信信号の周波数を表している。
fmin+fLPF≦f0≦fmax-fLPF ・・・(3)
【0031】
ステップS30において、DSP108は、既送信のレーダ信号の有無の検出を開始する。ここでは、ステップS20で設定した検出周波数f0の送信信号に応じてAD変換器107から出力されるビート信号に基づき、送信信号に対するレーダ信号の有無を判断する。たとえば、ビート信号の振幅を検出し、その振幅が所定値以上であるか否かを判断することで、既送信のレーダ信号の有無を判断することができる。
【0032】
ステップS40において、DSP108は、ステップS30でレーダ信号の検出を開始してから所定の検出時間TWが経過したか否かを判断する。その結果、検出時間TWが経過するまではステップS40に留まってレーダ信号の検出を継続し、検出時間TWが経過したらステップS50でレーダ信号の検出を終了した後に、ステップS60に進む。なお、検出時間TWは前述の掃引周期T以下の時間であり、DSP108において、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに基づいて予め設定されている。具体的には、送信信号と同一の掃引周波数幅Bおよび掃引周期Tで周波数が連続的に変化するレーダ信号について、検出時間TW内で変化するレーダ信号の周波数幅が少なくとも前述の式(3)における周波数fLPFの2倍以上となるように、検出時間TWが設定される。
【0033】
ステップS60において、DSP108は、ステップS30でレーダ信号の検出を開始してから検出時間TW内にレーダ信号を検出したか否かを判定する。その結果、検出時間TW内にレーダ信号を少なくとも1回以上検出した場合はステップS90に進み、一度も検出しなかった場合はステップS70に進む。
【0034】
ステップS70において、DSP108は、送信信号の送信を開始する送信開始タイミングTtを決定する。ここではたとえば、送信開始タイミングTtにおいて最小周波数fminからチャープ率B/Tで掃引を開始した送信信号の周波数が、以下の式(4)で表されるタイミングTKにおいて検出周波数f0となるように、送信開始タイミングTtを決定する。なお、式(4)において、TSはステップS30でレーダ信号の検出を開始したときの検出開始タイミングを表し、nは任意の自然数である。
TK=TS+TW/2+nT ・・・(4)
【0035】
ステップS80において、DSP108は、スイッチ111をオフからオンに切り替えて、レーダ装置1からの送信信号の送信を許可する。その後、ステップS70で設定した送信開始タイミングT
tに従って、送信信号の送信を開始する。ステップS80を実行したら、
図5のフローチャートに示す処理を終了する。
【0036】
一方、ステップS60からステップS90に進んだ場合、ステップS90においてDSP108は、レーダ信号の検出開始タイミングTSを再設定する。ここでは、レーダ信号の周波数が検出周波数f0と一致したタイミングをT0とすると、たとえば以下の式(5)に従って検出開始タイミングTSを再設定する。
TS=T0+TW/2 ・・・(5)
【0037】
ステップS90で検出開始タイミングTSを再設定したら、ステップS30に戻り、再設定後の検出開始タイミングTSにおいてレーダ信号の検出を再開する。
【0038】
上記のようにして送信開始タイミングTtを決定することで、TK±TW/2の時間範囲内において、検出周波数f0と一致する周波数の干渉信号が存在しないことが保証される。したがって、レーダ装置1において狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0039】
図6は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置1においてレーダ信号が検出されないチャネルアイドル時の動作を説明するための図である。
図6では、本実施形態のレーダ装置1が送信する送信信号と掃引周波数幅Bおよび掃引周期Tがそれぞれ等しい信号を送信するレーダ装置が近距離内に存在しており、検出時間T
W内ではそのレーダ信号の周波数が検出周波数f
0からずれていた場合での、レーダ装置1における動作の例を示している。前述の
図2と同様に、
図6上段には、レーダ装置1の送信信号と受信信号における周波数の時間変化の様子を、二重線と実線でそれぞれ示している。また、当該レーダ装置1に対して干渉信号として作用する他のレーダ装置の送信信号における周波数の時間変化の様子を、破線で示している。また、
図6下段には、送信信号を送信する前の検出時間T
Wにおける低域通過フィルタ106の出力信号の振幅、すなわち、レーダ信号により得られたビート信号が通過帯域幅F内にある場合の振幅を示している。
【0040】
図6の場合、検出時間T
W内では、上段に示すようにレーダ信号の周波数がf
0±f
LPFの範囲外であるため、下段に示すように、低域通過フィルタ106の出力信号の振幅が0となる。そのため、レーダ装置1においてレーダ信号は検出されず、チャネルアイドルと判断されて
図4のステップ60が否定判定され、ステップS70に進む。これにより、ステップS70において前述の式(4)から送信信号の送信開始タイミングT
tが決定され、この送信開始タイミングT
tに従って、レーダ装置1による送信信号の送信が開始される。すなわち、T
K=T
S+T
W/2+nTのタイミングにおける送信信号の周波数が検出周波数f
0となるようにすることで、既送信のレーダ信号による狭帯域干渉が発生しないタイミングで、鋸歯状の送信信号がレーダ装置1から送信される。
【0041】
図7は、本発明の第1の実施形態に係るレーダ装置1において既送信のレーダ信号が検出された、チャネルビジー時の動作を説明するための図である。
図7では、本実施形態のレーダ装置1が送信する送信信号と掃引周波数幅Bおよび掃引周期Tがそれぞれ等しいレーダ信号を送信するレーダ装置が近距離内に存在しており、検出時間T
W内でそのレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致する場合での、レーダ装置1における動作の例を示している。
図6と同様に、
図7上段には、レーダ装置1の送信信号と受信信号における周波数の時間変化の様子を、二重線と実線でそれぞれ示している。また、当該レーダ装置1に対して干渉信号として作用する他のレーダ装置の送信信号における周波数の時間変化の様子を、破線で示している。また、
図7下段には、送信信号を送信する前の検出時間T
Wにおける低域通過フィルタ106の出力信号の振幅、すなわち、干渉信号として作用するレーダ信号により得られたビート信号が通過帯域幅F内にある場合の振幅を示している。
【0042】
図7の場合、検出時間T
W内の時刻T
0において、上段に示すように既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0に一致するため、下段に示すように、時刻T
0の前後で低域通過フィルタ106の出力信号の振幅が所定値以上となる。そのため、レーダ装置1においてレーダ信号が検出され、チャネルビジーと判断されて
図4のステップ60が肯定判定され、ステップS90に進む。そしてステップS90において、レーダ信号の検出開始タイミングT
Sが前述の式(5)に従って再設定された後に、検出時間T
W内でレーダ信号の有無の検出が再度行われる。これをレーダ信号が検出されなくなるまで繰り返すことで、最終的に送信開始タイミングT
tが決定される。
図7の例では、2回目の検出でレーダ信号が検出されずにチャネルアイドルと判断されたため、下段に示すように、再設定後の検出開始タイミングT
S=T
0+T
W/2を基準に、ステップS70において送信信号の送信開始タイミングT
tが決定される。そして、この送信開始タイミングT
tに従って、レーダ装置1による送信信号の送信が開始される。すなわち、T
K=T
0+T
W+nTにおける送信信号の周波数が検出周波数f
0となるようにすることで、既送信のレーダ信号による狭帯域干渉が発生しないタイミングで、鋸歯状の送信信号がレーダ装置1から送信される。
【0043】
図8は、検出時間T
W内で既送信のレーダ信号が検出されたときの低域通過フィルタ106の出力信号の測定結果の例を示す図である。
図7に示す1回目のレーダ信号の検出では、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに対して、以下の式(6)で表される時間tにおいて周波数が-Fから+Fまで変化するビート信号が出力される。このビート信号の振幅を測定して時間軸上に示すと、たとえば
図8に示すような測定結果が得られる。
-F/(B/T)<(t-T
0)<F/(B/T) ・・・(6)
【0044】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0045】
(1)FMCWレーダ装置であるレーダ装置1は、所定の掃引周波数幅Bの範囲内で周波数が連続的に時間変化するように周波数変調された送信信号を送信し、送信信号が対象物で反射された受信信号を受信して対象物との距離を測定する。このレーダ装置1は、制御部としてのDSP108を備えており、DSP108は、送信信号の開始前に、掃引周波数幅B内の所定の検出周波数f
0において既送信のレーダ信号の有無の検出を行い(
図5のステップS30)、このレーダ信号の検出結果に基づいて送信信号の送信開始タイミングを決定する(
図5のステップ70)。このようにしたので、FMCWレーダ装置における狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0046】
(2)レーダ信号は、送信信号と同一の掃引周期Tにより、掃引周波数幅B内で周波数が連続的に時間変化する。DSP108は、ステップS30でレーダ信号の検出を開始してから所定の検出時間T
W内にレーダ信号が検出されない場合(
図5のステップS60:No)、
図5のステップS70において、レーダ信号の検出開始タイミングT
Sに検出時間T
Wの約半分および掃引周期Tを加えたタイミング、すなわち式(4)で表されるタイミングT
Kで、送信信号の周波数が検出周波数f
0となるように、送信信号の送信開始タイミングT
tを決定する。このようにしたので、T
K±T
W/2の時間範囲内において、検出周波数f
0と一致する周波数のレーダ信号が存在しないことが保証されるため、狭帯域干渉の発生を確実に回避することができる。
【0047】
(3)DSP108は、検出時間T
W内に既送信のレーダ信号が検出された場合(
図5のステップS60:Yes)、式(5)に従い、既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致したタイミングT
0に検出時間T
Wの約半分を加えたタイミングを新たなレーダ信号の検出開始タイミングT
Sに再設定して、レーダ信号の検出を再開する(
図5のステップS90、S30)。このようにしたので、レーダ信号が検出された場合でも、レーダ信号が検出されなくなるまでレーダ信号の検出を繰り返して行い、最終的に狭帯域干渉の発生を回避できる送信開始タイミングを決定することができる。
【0048】
(4)レーダ装置1は、送信信号を生成する電圧制御発振器102と、送信信号の送信を許可または禁止するスイッチ111と、低雑音増幅器104を介して受信信号が入力され、送信信号を用いて受信信号または既送信のレーダ信号によるビート信号を生成するミキサ105と、ビート信号のうち所定の通過帯域幅Fの周波数成分を通過させる低域通過フィルタ106とを備える。電圧制御発振器102は、既送信のレーダ信号の検出を行うときには、検出周波数f
0で送信信号を生成する(
図5のステップS20)。スイッチ111は、レーダ信号の検出を行うときには送信信号の送信を禁止する(
図5のステップS10)。DSP108は、ステップS30において、低域通過フィルタ106を通過したレーダ信号によるビート信号に基づいて、既送信のレーダ信号の有無を検出する。このようにしたので、受信信号を検出するための構成を流用して、簡易な構成で送信信号の送信前に既送信のレーダ信号の有無の検出を行うことができる。
【0049】
(5)既送信のレーダ信号の検出を行う検出時間TWは、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに基づいて設定される。このようにしたので、レーダ信号による狭帯域干渉の発生を確実に回避するように検出時間TWを設定することができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置について説明する。本実施形態のレーダ装置は、FMCWレーダ装置であり、
図4に示した第1の実施形態に係るレーダ装置1と同一の構成を有している。本実施形態のレーダ装置は、既送信のレーダ信号が検出された場合にレーダ信号の検出開始タイミングT
Sを再設定する方法が第1の実施形態とは異なる。それ以外の点は、第1の実施形態に係るレーダ装置1と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態のレーダ装置を「レーダ装置1A」と称する。
【0051】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置1Aにおける送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1Aは、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図9のフローチャートに示す処理を実行する。
【0052】
図9のフローチャートにおいて、ステップS10~S80の処理は、
図5で説明した第1の実施形態によるフローチャートと同一である。そのため以下では、第1の実施形態とは異なるステップS90Aの処理内容についてのみ説明し、それ以外の処理内容の説明は省略する。
【0053】
ステップS60が肯定判定された場合に実行されるステップS90Aにおいて、DSP108は、レーダ信号の検出開始タイミングTSを再設定する。ここでは、レーダ信号の周波数が検出周波数f0と一致したタイミングをT0とすると、たとえば以下の式(7)に従って検出開始タイミングTSを再設定する。式(7)において、ΔTはランダムな遅延時間であり、所定の時間範囲内、たとえば掃引周期T以下の範囲内で設定される。
TS=T0+TW/2+ΔT ・・・(7)
【0054】
ステップS90Aで検出開始タイミングTSを再設定したら、ステップS30に戻り、再設定後の検出開始タイミングTSにおいてレーダ信号の検出を再開する。
【0055】
上記のようにして検出開始タイミングTSを再設定することで、複数のレーダ装置1Aがほぼ同時のタイミングで送信を開始しようとして既送信のレーダ信号を検出した場合でも、各レーダ装置でランダムに設定された遅延時間ΔTに応じて、レーダ装置ごとに別々の検出開始タイミングTSが設定される。そのため、複数のレーダ装置1Aがレーダ信号の検出を再開したときに、同時にチャネルアイドルを検出し、その結果、複数のレーダ装置1A同士の間で送信信号の送信開始タイミングTtが同一のタイミングで設定されてしまうのを回避できる。したがって、複数のレーダ装置1Aを用いた場合に、各レーダ装置において狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0056】
図10は、本発明の第2の実施形態に係るレーダ装置1Aにおいて既送信のレーダ信号が検出された、チャネルビジー時の動作を説明するための図である。
図10では、第1の実施形態で説明した
図7と同様に、本実施形態のレーダ装置1Aが送信する送信信号と掃引周波数幅Bおよび掃引周期Tがそれぞれ等しいレーダ信号を送信するレーダ装置が近距離内に存在しており、検出時間T
W内でそのレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致する場合での、レーダ装置1Aにおける動作の例を示している。
図7と同様に、
図10上段には、レーダ装置1Aの送信信号と受信信号における周波数の時間変化の様子を、二重線と実線でそれぞれ示している。また、当該レーダ装置1Aに対して干渉信号として作用する他のレーダ装置の送信信号における周波数の時間変化の様子を、破線で示している。また、
図10下段には、送信信号を送信する前の検出時間T
Wにおける低域通過フィルタ106の出力信号の振幅、すなわち、干渉信号として作用するレーダ信号により得られたビート信号が通過帯域幅F内にある場合の振幅を示している。
【0057】
図10の場合、検出時間T
W内の時刻T
0において、上段に示すように既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0に一致するため、下段に示すように、時刻T
0の前後で低域通過フィルタ106の出力信号の振幅が所定値以上となる。そのため、レーダ装置1Aにおいてレーダ信号が検出され、チャネルビジーと判断されて
図9のステップ60が肯定判定され、ステップS90Aに進む。そしてステップS90Aにおいて、ランダムな遅延時間ΔTを発生し、この遅延時間ΔTを用いてレーダ信号の検出開始タイミングT
Sが前述の式(7)に従って再設定された後に、検出時間T
W内でレーダ信号の有無の検出が再度行われる。これをレーダ信号が検出されなくなるまで繰り返すことで、最終的に送信開始タイミングT
tが決定される。
図10の例では、2回目の検出でレーダ信号が検出されずにチャネルアイドルと判断されたため、下段に示すように、再設定後の検出開始タイミングT
S=T
0+T
W/2+ΔTを基準に、ステップS70において送信信号の送信開始タイミングT
tが決定される。そして、この送信開始タイミングT
tに従って、レーダ装置1Aによる送信信号の送信が開始される。すなわち、T
K=T
0+T
W+ΔT+nTにおける送信信号の周波数が検出周波数f
0となるようにすることで、既送信のレーダ信号による狭帯域干渉が発生しないタイミングで、鋸歯状の送信信号がレーダ装置1Aから送信される。
【0058】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)、(2)、(4)および(5)の各作用効果に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0059】
(6)DSP108は、検出時間T
W内に既送信のレーダ信号が検出された場合(
図9のステップS60:Yes)、式(7)に従い、既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致したタイミングT
0に検出時間T
Wの約半分およびランダムな遅延時間ΔTを加えたタイミングを新たなレーダ信号の検出開始タイミングT
Sに再設定して、レーダ信号の検出を再開する(
図9のステップS90A、S30)。このようにしたので、複数のレーダ装置を用いた場合に、各レーダ装置において狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置について説明する。本実施形態のレーダ装置は、FMCWレーダ装置であり、
図4に示した第1の実施形態に係るレーダ装置1と同一の構成を有している。本実施形態のレーダ装置は、既送信のレーダ信号が検出された場合の送信開始タイミングT
tの設定方法が第1の実施形態とは異なる。それ以外の点は、第1の実施形態に係るレーダ装置1と同様である。なお、以下の説明では、本実施形態のレーダ装置を「レーダ装置1B」と称する。
【0061】
図11は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置1Bにおける送信信号の送信開始タイミングの決定処理を示すフローチャートである。本実施形態のレーダ装置1Bは、送信信号の送信を開始する際に、DSP108において
図11のフローチャートに示す処理を実行する。
【0062】
図11のフローチャートにおいて、ステップS10~S30、S50、S80の処理は、
図5で説明した第1の実施形態によるフローチャートと同一である。そのため以下では、第1の実施形態とは異なるステップS40B、S60B、S70BおよびS90Bの処理内容についてのみ説明し、それ以外の処理内容の説明は省略する。
【0063】
ステップS40Bにおいて、DSP108は、ステップS30で既送信のレーダ信号の有無の検出を開始してから送信信号の掃引周期(チャープ周期)Tが経過したか否かを判断する。その結果、掃引周期Tが経過するまではステップS40Bに留まってレーダ信号の検出を継続し、掃引周期Tが経過したらステップS50でレーダ信号の検出を終了した後に、ステップS60Bに進む。
【0064】
ステップS60Bにおいて、DSP108は、ステップS30でレーダ信号の検出を開始してから掃引周期T内にレーダ信号を少なくとも1回以上検出したか否かを判定する。その結果、掃引周期T内にレーダ信号を1回または複数回検出した場合は、検出したレーダ信号の周波数が検出周波数f0とそれぞれ一致したタイミングを検出タイミングT0(m)として一時的に記憶し、ステップS90Bに進む。なお、mは1~Mの自然数であり、Mはレーダ信号の検出回数を表す。一方、掃引周期T内にレーダ信号を一度も検出しなかった場合は、ステップS70Bに進む。
【0065】
ステップS60Bが肯定判定されると実行されるステップS90Bにおいて、DSP108は、送信開始タイミングTtを決定する際の基準として用いる基準タイミングT0’を設定する。ここでは、ステップS60Bで記憶された各検出タイミングT0(m)を中心に所定の時間幅を非設定時間としてそれぞれ定め、この非設定時間を除いて、掃引周期T内でランダムに基準タイミングT0’を設定する。なお、上記の非設定時間は、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに基づき、レーダ信号によるビート信号が低域通過フィルタ106を確実に通過できないような時間幅として設定されることが好ましい。たとえば、第1、第2の実施形態でレーダ信号の検出が行われる検出時間TWと同じ時間幅を、本実施形態の非設定時間として用いることができる。ステップS90Bで基準タイミングT0’を設定したら、ステップS70Bに進む。
【0066】
ステップS70Bにおいて、DSP108は、ステップS60Bの判定結果に応じて、送信信号の送信を開始する送信開始タイミングT
tを決定する。具体的には、ステップS60Bが否定判定された場合、すなわち掃引周期T内にレーダ信号を一度も検出しなかった場合は、第1の実施形態で説明した
図5のステップS70と同様の方法により、送信開始タイミングT
tを決定する。一方、ステップS60Bが肯定判定された場合、すなわち掃引周期T内にレーダ信号が検出され、ステップS90Bにおいて基準タイミングT
0’が設定された場合は、基準タイミングT
0’に基づいて送信開始タイミングT
tを決定する。たとえば、送信開始タイミングT
tにおいて最小周波数f
minからチャープ率B/Tで掃引を開始した送信信号の周波数が、以下の式(8)で表されるタイミングT
K’において検出周波数f
0となるように、送信開始タイミングT
tを決定する。なお、式(8)においても前述の式(4)と同様に、nは任意の自然数である。
T
K’=T
0’+nT ・・・(8)
【0067】
上記のようにして送信開始タイミングTtを決定することで、レーダ信号の検出を繰り返し行うことなく、一度の検出で狭帯域干渉の発生を回避可能な送信開始タイミングTtを決定することができる。また、複数のレーダ装置1Bがほぼ同時のタイミングで送信を開始しようとした場合でも、各レーダ装置でランダムに設定された基準タイミングT0’に応じて、レーダ装置ごとに別々の送信開始タイミングTtが設定される。そのため、複数のレーダ装置1B同士の間で送信信号の送信開始タイミングTtが同一のタイミングで設定されてしまうのを回避できる。したがって、複数のレーダ装置1Bを用いた場合に、各レーダ装置において狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0068】
図12は、本発明の第3の実施形態に係るレーダ装置1Bにおいて既送信のレーダ信号が検出された場合の動作を説明するための図である。
図12では、本実施形態のレーダ装置1Bが送信する送信信号と掃引周波数幅Bおよび掃引周期Tがそれぞれ等しいレーダ信号を送信するレーダ装置が近距離内に存在しており、掃引周期T内でそのレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致する場合での、レーダ装置1Bにおける動作の例を示している。第1、第2の実施形態でそれぞれ説明した
図7や
図10と同様に、
図12上段には、レーダ装置1Bの送信信号と受信信号における周波数の時間変化の様子を、二重線と実線でそれぞれ示している。また、当該レーダ装置1Bに対して干渉信号としてそれぞれ作用する他の2つのレーダ装置の送信信号における周波数の時間変化の様子を、破線でそれぞれ示している。また、
図12下段には、送信信号を送信する前の掃引周期Tにおける低域通過フィルタ106の出力信号の振幅、すなわち、干渉信号として作用するレーダ信号により得られたビート信号が通過帯域幅F内にある場合の振幅を示している。
【0069】
図12の場合、掃引周期T内の時刻T
0(1)およびT
0(2)において、上段に示すように既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0にそれぞれ一致するため、下段に示すように、これらの時刻T
0(1)、T
0(2)の前後で低域通過フィルタ106の出力信号の振幅が所定値以上となる。そのため、レーダ装置1Bにおいてレーダ信号が検出され、チャネルビジーと判断されて
図11のステップ60Bが肯定判定され、ステップS90Bに進む。そしてステップS90Bにおいてランダムに基準タイミングT
0’を設定し、続くステップS70Bにおいて、基準タイミングT
0’に応じた送信開始タイミングT
tが前述の式(8)に従って決定される。そして、この送信開始タイミングT
tに従って、レーダ装置1Bによる送信信号の送信が開始される。すなわち、T
K’=T
0’+nTにおける送信信号の周波数が検出周波数f
0となるようにすることで、既送信のレーダ信号による狭帯域干渉が発生しないタイミングで、鋸歯状の送信信号がレーダ装置1から送信される。
【0070】
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)、(4)の作用効果に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
【0071】
(7)レーダ信号は、送信信号と同一の掃引周期Tにより、掃引周波数幅B内で周波数が連続的に時間変化する。DSP108は、ステップS30でレーダ信号の検出を開始してから掃引周期T内にレーダ信号が検出された場合(
図11のステップS60B:Yes)、既送信のレーダ信号の周波数が検出周波数f
0と一致したタイミングT
0(m)を中心とする所定の非設定時間を除いて掃引周期T内で基準タイミングT
0’を設定し(
図11のステップS90B)、この基準タイミングT
0’に掃引周期Tを加えたタイミングで送信信号の周波数が検出周波数f
0となるように、送信信号の送信開始タイミングT
tを決定する(
図5のステップS70B)。このようにしたので、複数のレーダ装置を用いた場合に、各レーダ装置において狭帯域干渉の発生を回避することができる。
【0072】
(8)基準タイミングT0’を検出する際の非設定時間は、低域通過フィルタ106の通過帯域幅Fに基づいて設定される。このようにしたので、既送信のレーダ信号による狭帯域干渉の発生を確実に回避するように非設定時間を設定することができる。
【0073】
なお、以上説明した実施形態では、送信期間において送信信号の周波数が上り方向に連続的に時間変化し、戻り期間において送信信号の周波数が下り方向に連続的に時間変化する例を説明したが、上り方向と下り方向を互いに入れ替えても本発明を適用可能である。すなわち、送信期間においては、送信信号の周波数が所定の送信開始周波数から所定の送信終了周波数まで下り方向に連続的に時間変化し、戻り期間においては、送信信号の周波数が送信終了周波数から送信開始周波数まで上り方向に時間変化することで周波数を戻すような場合についても、本発明の適用範囲に含まれる。
【0074】
以上説明した実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 レーダ装置
101 波形発生器
102 電圧制御発振器
103 増幅器
104 低雑音増幅器
105 ミキサ
106 低域通過フィルタ
107 AD変換器
108 ディジタルシグナルプロセッサ(DSP)
109 送信アンテナ
110 受信アンテナ
111 スイッチ