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  • 特許-植物栽培システム及び植物栽培方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】植物栽培システム及び植物栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/24 20060101AFI20220714BHJP
   A01G 9/00 20180101ALI20220714BHJP
   A01G 9/02 20180101ALI20220714BHJP
【FI】
A01G9/24 G
A01G9/00 C
A01G9/02 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018041677
(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2019154250
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】390027580
【氏名又は名称】東京冷化機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】下山 真人
(72)【発明者】
【氏名】溝田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】豊田 耕造
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-082995(JP,A)
【文献】特開平11-098924(JP,A)
【文献】特開2001-016981(JP,A)
【文献】特開2016-202110(JP,A)
【文献】特開平05-071762(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0311025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 - 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を育成する栽培棚が、上下方向に複数段、配置された育成室と、
前記育成室に、給気口を介して、気圧差により給気する陽圧室と、
前記給気口において、前記陽圧室から前記栽培棚の上方空間への気流を調整する整流部材とを備え
前記整流部材は、前記給気口において、前記陽圧室から、前記栽培棚のそれぞれの上方空間への前記気流を調整することを特徴とする植物栽培システム。
【請求項2】
前記整流部材は、前記気流の速度を可変にする可変機構部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培システム。
【請求項3】
前記可変機構部を制御する制御部を更に設け、
前記制御部は、前記給気口において、上下方向における前記気流が目標速度になるように、前記可変機構部を制御することを特徴とする請求項に記載の植物栽培システム。
【請求項4】
前記育成室において、前記植物の成長に応じて、前記給気口側に、前記植物を移動させる移動機構を更に備えることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の植物栽培システム。
【請求項5】
植物を育成する栽培棚を上下方向に複数段配置した育成室と、
前記育成室に対して、給気口を介して、気圧差により給気する陽圧室と、
前記給気口において、前記陽圧室から前記栽培棚の上方空間への気流を調整する整流部材と、
前記整流部材の前記気流を可変にする可変機構部を制御する制御部とを備えた植物栽培システムにおける植物栽培方法であって、
前記制御部は、前記給気口において、前記栽培棚のそれぞれの上方空間への前記気流が目標速度になるように、前記可変機構部を制御することを特徴とする植物栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培する植物栽培システム及び植物栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、室内において、植物の育成環境を調整して、植物の早期栽培が行なわれている。この場合、植物の育成においては、最適な気流速度があることが知られている。そこで、複数の栽培棚に供給される気体の均一性を向上させる植物栽培装置が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の植物栽培装置は、栽培棚と、空気通路と、ダクトと、給気装置とを備える。栽培棚は、複数の段と、長さ方向の両側に設けられた空気流入口及び空気流出口とを含む。空気通路は、空気流出口と空気流入口との間に設けられる。ダクトは、空気通路内に配置され、上下方向に延び、側面から空気流入口に向けて空気を放出する。給気装置は、空気流出口からの空気を吸引してダクトに供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-202110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載した植物栽培装置では、栽培棚におけるダクトや空気通路の配置が複雑となる。
また、空調機を施設の上部に設置することもある。この場合、積層させた栽培棚においては、上下段の棚の影響で、空気が停留する領域が生じることがある。そこで、空気を循環させるために、上方に大型の撹拌ファンを設置したり、撹拌ファンを栽培棚毎に設置したりしていた。この場合、植物栽培システムの構造が複雑になり、それに応じた設備投資が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための植物栽培システムは、植物を育成する栽培棚が配置された育成室と、前記育成室に、給気口を介して、気圧差により給気する陽圧室と、前記給気口において、前記陽圧室から前記栽培棚の上方空間への気流を調整する整流部材とを備えた。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡単な設備で、気流速度を一定に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態における植物栽培室の説明図であって、(a)は概略上面図、(b)は概略正面図。
図2】実施形態における植物栽培室の要部の構成を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1及び図2を用いて、植物栽培システム及び植物栽培方法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、葉物野菜等の植物P1を栽培する。
図1(a)及び図1(b)は、本実施形態の植物栽培室10の上面図及び正面図である。図2は、図1(b)の植物栽培室10の要部を拡大した模式図である。
【0009】
図1に示すように、植物栽培室10内に、植物栽培システムとして、育成室11、陽圧室20及び陰圧室30が配置されている。陽圧室20及び陰圧室30は、それぞれ、育成室11の両側に、対向して配置される。育成室11、陽圧室20及び陰圧室30は、天井パネル及び隔壁パネルで囲まれている。育成室11と陽圧室20とは、隔壁パネル15を介して接続されており、育成室11と陰圧室30とは、隔壁パネル16を介して接続されている。
【0010】
育成室11には、上下方向に重ねて複数段の栽培棚12が配置されている。複数段の栽培棚12は、複数の支柱(図示せず)により支持される。各栽培棚12には、植物P1が配置される。例えば、栽培棚12としては、薄膜水耕(NFT)や湛液型水耕(DFT)の多段型栽培棚を用いることができる。薄膜水耕は、緩やかな傾斜(例えば斜度1%)をもつ棚上に、植物P1の栄養分となる養液を薄く少量ずつ流す水耕栽培である。また、湛液型水耕は、溜めた培養液のみで栽培を行なう水耕栽培である。
【0011】
各栽培棚12の棚上には、複数の樋(図示せず)が格子状に配置される。樋の上に、複数の栽培トレイが配置される。栽培トレイは、合成樹脂製の平板で構成される。栽培トレイには、一定間隔で複数の孔が形成されている。各孔には、植物P1が植えられたポリウレタン製の培地が嵌め込まれる。栽培トレイに植栽された植物P1は、根が栽培トレイの下方に伸び、樋の内部に収納されて、樋内に流れる培養液に浸漬する。
【0012】
本実施形態では、育成室11の陰圧室30側から植物P1の栽培トレイを育成室11に配置する。そして、育成室11の陽圧室20側から、育成室11で成長させた植物P1の栽培トレイを取り出す。栽培トレイを取り出した場合には、栽培棚12に配置された栽培トレイを、順次、陽圧室20側に移動させる。この結果、成長した(成長の大きい)植物P1の栽培トレイが陽圧室20側に配置される。
【0013】
更に、栽培トレイが載置される棚の1段上の棚の下面及び天井パネルには、照明装置(図示せず)が取り付けられる。照明装置は、植物P1の葉に光を照射する。照明装置としては、例えば、蛍光灯、発光ダイオード(LED)を用いる。
【0014】
育成室11の陽圧室20側の隔壁パネル15には、各栽培棚12の高さに対応させて開口部15hが形成されている。この開口部15hは、陽圧室20から各栽培棚12に気体が供給される給気口として機能する。これにより、開口部15hを介して、各栽培棚12の上方空間(植物P1が位置する空間)が、陽圧室20に開放されている。そして、隔壁パネル15の開口部15hには、整流部材40が設けられる。この整流部材40の詳細は、後述する。
【0015】
陽圧室20の両側壁の上部には、対向するように、給気ファン21,22が設けられている。陽圧室20の上面には、給気ファン23が設けられている。給気ファン21~23は、陽圧室20内の気圧を高くする(加圧する)。本実施形態では、オフィスから排気される気体等、二酸化炭素の濃度が高い空気(気体)を陽圧室20に供給する。
【0016】
陰圧室30の両側壁の上部には、対向するように、排気ファン31,32が設けられている。更に、陰圧室30の上面には、排気ファン33が設けられている。排気ファン31~33は、陰圧室30内の気圧を育成室よりも低くする(負圧にする)。更に、育成室11の陰圧室30側の隔壁パネル16には、各栽培棚12の高さに対応させて開口部(図示せず)が設けられている。この開口部を介して、各栽培棚12の上方空間(植物P1が位置する空間)は、陰圧室30に開放されている。
【0017】
<整流部材>
図2に示すように、隔壁パネル15の開口部15hには、着脱可能な整流部材40が嵌め込まれて取り付けられている。
【0018】
整流部材40は、気流の向きと気流速度(流速)とを調整する。整流部材40は、枠41と、複数のフィン45とを備えている。各フィン45は、水平方向に延在した板状部材であって、上下方向に平行に並んでいる。各フィン45の上端部は、回動可能に枠41に取り付けられる。更に、整流部材40には、可変機構部として機能する回動機構部51が設けられている。この回動機構部51は、制御部50に制御され、フィン45の開放角度(取付角度)を変更することにより、整流部材40を通過する気流の向きが変更され、この結果、整流部材40を通過する気体の量が変更されて、整流部材40から育成室11に流れる水平方向の流速が変更する。
【0019】
制御部50は、育成室11の各栽培棚12の陽圧室20側に配置された流速計M1に接続されている。流速計M1は、水平方向の流速を計測する。制御部50は、各流速計M1から取得した流速の計測値を取得する。そして、制御部50は、取得した計測値に基づいて、流速が目標速度となるように、各回動機構部51を制御する。本実施形態では、目標速度として0.5(m/s)を用いる。
【0020】
<作用>
次に、図1を用いて、上述した植物栽培システムの作用について説明する。
育成室11に植物トレイを配置して育成を行なう場合、陽圧室20の給気ファン21~23を稼働し、陰圧室の排気ファン31~33を稼働する。これにより、陽圧室20内の圧力が高くなり、陰圧室30内の圧力が低くなり、育成室11内の各栽培棚12の上方空間において、陽圧室20から陰圧室30へ気流が生じる。この場合、制御部50は、流速計M1からの流速(計測値)に基づいて、回動機構部51を介して、整流部材40のフィン45の開放角度を制御する。
【0021】
給気ファン21~23の近傍では、遠隔領域よりも流速が速くなる。本実施形態では、給気ファン21~23が設けられた陽圧室20の上方の流速が速くなる。そこで、上段の整流部材40のフィン45の開放角度を、下段の整流部材40のフィン45の開放角度を小さくして、水平方向の流速が遅くなるように調整される。結果として、上下方向の栽培棚12の隔壁パネル15付近の流速がほぼ一定になる。
【0022】
そして、整流部材40によって調整された流速で、育成室11内を、陰圧室30に向かって気流が生じる。そして、陰圧室30に流れた気体は、排気ファン31~33により、陰圧室30から排出される。
【0023】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の植物栽培システムは、栽培棚12を上下方向に複数段配置した育成室11に対して、開口部15hを介して気圧差により給気する陽圧室20を設けた。更に、陽圧室20から各栽培棚12の上方空間への気流を調整する整流部材40を開口部15hに設けた。これにより、整流部材40により、気流を目標の流速(一定)に制御することができる。
【0024】
(2)本実施形態では、整流部材40によって、フィン45の開放角度を変更することにより、気流を一定に制御することができる。
(3)本実施形態では、制御部50は、流速計M1が計測した流速に基づいて、整流部材40の回動機構部51を制御する。これにより、陽圧室20及び陰圧室30内の気流や圧力が変化した場合においても、育成室11内の流速を一定に調整することができる。
【0025】
(4)本実施形態では、整流部材40の各フィン45の上端部は、回動可能に枠41に取り付けられる。このため、整流部材40は、開口部15hの下側から、各栽培棚12に気流を供給することができるので、植物P1の葉裏の近傍に気体を供給することができる。
【0026】
(5)本実施形態では、育成室11の陽圧室20側に、より成長した植物P1の栽培トレイが位置するように、栽培トレイを配置する。これにより、十分に成長した植物P1を気流の上流側に配置するので、成長途中の植物P1を気流から保護することもできる。
【0027】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態の植物栽培システムでは、陽圧室20を、育成室11と水平に設けた。陽圧室20の配置は水平方向に限定されない。例えば、陽圧室20を、育成室11の下側に設け、植物P1の下方から上方に向かう気流を生成し、この気流の流速を調節してもよい。この場合、植物P1の葉裏に、気流を効率的に供給することができる。
【0028】
・上記実施形態においては、陽圧室20の上方に、陽圧室20を加圧するための給気ファン21~23を配置した。給気ファンの配置は、陽圧室20の上方に限られない。例えば、陽圧室20において、育成室11に対向する隔壁パネルに給気ファンを設けてもよい。更に、この場合、陰圧室30においても、育成室11に対向する側壁に排気ファンを設けてもよい。
【0029】
・上記実施形態では、制御部50は、育成室11に設けた流速計M1が計測した流速に基づいて、整流部材40の回動機構部51を制御する。制御部50は、陽圧室20内の流速や陰圧室30の流速に基づいて制御してもよい。この場合、陽圧室20や陰圧室30に流速計を設け、これら流速計が計測した計測値を制御部50に供給する。
【0030】
また、育成室11内に配置した流速計M1で流速を計測し、この計測値に応じて整流部材40のフィン45の開放角度を調整して、固定してもよい。具体的には、植物栽培システムを構築した際に、給気ファン21~23や排気ファン31~33の位置に応じて、陽圧室20や育成室11における通常時の気流速度(流速)を計測する。そして、この通常時の流速に応じて、育成室11の各栽培棚12における気流が一定となるように整流部材40の流速を調整する。
【0031】
・上記実施形態においては、整流部材40は、水平方向に延在した複数の板状部材を上下方向に平行に並べた。整流部材40の構成は、これに限定されない。例えば、複数の孔が設けられた複数の板部材を重ねるように立設させ、板状部材の孔のずれ量を調整することにより、整流部材40を通過する気体の量を変更させて、水平方向の流速を変更させる構成としてもよい。
【0032】
・上記実施形態においては、育成室11の陽圧室20側の隔壁パネル15の開口部(給気口)に、整流部材40を設けた。整流部材40の設置は、陽圧室20側の隔壁パネル15の開口部15hだけに限らない。例えば、整流部材を、育成室11の陰圧室30側の隔壁パネル16に設けてもよい。この場合には、育成室11の陰圧室30側の気流も調整することができる。
【0033】
・上記実施形態においては、栽培トレイが取り出された場合には、順次、栽培トレイを陽圧室20側に移動させた。ここで、栽培トレイが育成室から取り出された場合には、後続の栽培トレイを、順次に陽圧室20側に移動させる移動機構を設けてもよい。具体的には、ベルトコンベヤ等の上に、栽培トレイを配置する。そして、栽培トレイを取り出す度に、後続の栽培トレイを陽圧室20側に移動させるようにベルトコンベヤを稼働する。
【符号の説明】
【0034】
M1…流速計、P1…植物、10…植物栽培室、11…育成室、12…栽培棚、15…隔壁パネル、20…陽圧室、21,22,23…給気ファン、30…陰圧室、31,32,33…排気ファン、40…整流部材、41…枠、45…フィン、50…制御部、51…回動機構部。
図1
図2