(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】スライド装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/08 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
B60N2/08
(21)【出願番号】P 2018149724
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000109738
【氏名又は名称】デルタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝博
(72)【発明者】
【氏名】檀上 裕之
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-51082(JP,A)
【文献】特開2018-94947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを前後方向にスライド自在に支持して当該前後方向における所望の位置にロックするスライド装置であって、
シートが設置される設置面に固定されるロアレールと、
シートに固定される部分を有し、前記ロアレールによって前後方向に移動自在に案内されるアッパーレールと、
前記アッパーレールを前記ロアレールにロックするためのロック機構と
を備え、
前記ロアレールは、その長手方向に沿って並ぶ複数の被係合部を有しており、
前記ロック機構は、
前記アッパーレールに取り付けられ、前記前後方向と直交するシートの幅方向に延びるシャフトと、
前記ロアレールの複数の被係合部のうちの少なくとも1つに係合可能な形状を有する係合部、および前記シャフトが挿入される軸孔を有し、前記シャフトを回転中心として揺動自在に前記シャフトに支持された係合部材と、
前記係合部材を前記シャフトの軸方向に押圧する押圧部材と
を有し、
前記シャフトは、その外周面において、基端部から先端部へ向かうにつれて当該シャフトが細くなる方向に傾斜した外テーパ面を有し、
前記係合部材の軸孔の内周面は、前記外テーパ面と面接触可能な傾斜角度を有する内テーパ面によって形成され、
前記押圧部材は、前記内テーパ面が前記外テーパ面に押し当てられて面接触する方向に、前記係合部材を押圧する、
ことを特徴とするスライド装置。
【請求項2】
前記ロック機構は、前記シャフトと前記アッパーレールとの間に介在して、当該シャフトを当該レールに固定するホルダをさらに有する
請求項1に記載のスライド装置。
【請求項3】
前記ホルダは、前記幅方向に離間した一対の対向壁を有し、
前記シャフトは、前記外テーパ面が前記一対の対向壁の間に位置するように、当該一対の対向壁にそれぞれ固定され、
前記係合部材は、前記一対の対向壁の間で前記外テーパ面と前記内テーパ面とが面接触した状態で、前記シャフトに揺動自在に支持されている、
請求項2に記載のスライド装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記シャフトをその全周に亘って取り囲む環状の部材によって構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項5】
前記ロック機構は、前記係合部材に対して前記係合部が前記被係合部に係合する方向への回転付勢力を与える回転付勢部材をさらに有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のスライド装置。
【請求項6】
前記係合部材は、前記軸孔において係合部が設けられた部分とは反対側において、係合部と被係合部との係合が解除する方向へ揺動させる操作力を受ける受け部を有し、
前記スライド装置は、前記アッパーレールに揺動自在に支持され、外部から前記受け部に操作力を与える操作レバーをさらに備える、
請求項1~5のいずれか1項に記載のスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを前後方向にスライド自在に支持して前後方向における所望の位置にロックするスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用シートなどにおいて、シートを前後方向にスライド自在に支持して前後方向における所望の位置にロックするスライド装置が広く用いられている。
【0003】
このようなスライド装置は、例えば、特許文献1に記載されているような構造を有している。このスライド装置は、
図10に示されるように、シートの前後方向に沿って自動車の床面に固定されるロアレール51と、シート側に固定され、ロアレール51に前後方向に移動自在に案内されるアッパーレール52とを備える。ロアレール51は、その長手方向に沿って並ぶ複数の突歯53を有する。
【0004】
このスライド装置は、アッパーレール52を所望の位置でロックするために、スライドロック機構54を備える。スライドロック機構54は、ロックツース55と、ロックツース55に操作力を与える操作レバー56とを有する。
【0005】
ロックツース55は、アッパーレール52から横方向(
図10の紙面垂直方向)に延びるように設けられた第1支軸57に上下方向に揺動自在に取り付けられている。ロックツース55は、その自由端(
図10の右端)の下端部に横方向(
図10の紙面垂直方向)に張り出す板状の掛止め片58を有する。掛止め片58には、ロアレール51の複数の突歯53に係合可能な3個の受け穴59が形成されている。
【0006】
ロックツース55は、引張コイルばね60の復元力によって、常時上方へ揺動する方向に付勢されている。操作レバー56からの操作力を受けないときには、ロックツース55は、掛止め片58の受け穴59にロアレール51の突歯53が係合したロック位置を維持している。ロックツース55がロック位置にあるときには、アッパーレール52は、突歯53に係合するロックツース55によって、前後方向への移動が禁止される。
【0007】
また、ロックツース55の第1支軸57の上方の上端部において横方向(
図10の紙面垂直方向)に張り出す張出し片61が形成されている。張出し片61は、操作レバー56の一部を上側から覆っている。
【0008】
操作レバー56は、ロックツース55から横方向(
図10の紙面垂直方向)に突設された第2支軸62に揺動自在に支持されている。さらに、操作レバー55は、第2支軸62に取り付けられたねじりコイルばね63からその腕部63aを介して上方へ揺動する方向に付勢されている。
【0009】
上記のように構成された
図10のスライドロック機構54のロックを解除する場合には、操作レバー56の自由端(
図10の紙面左側、すなわち第2支軸62と反対側の端部)を引き上げる操作を行う。これにより、操作レバー56は第2支軸62を回転中心として上方へ揺動する。このとき、操作レバー56は、緩衝パッド64を介してロックツース55の張出し片61を上方へ押し上げる。これにより、ロックツース55は、引張コイルばね60の張力に抗しながら第1支軸57を回転中心として下方へ揺動する。その結果、ロックツース55の自由端にある掛止め片58の受け穴59がロアレール51の突歯53よりも下方へ移動し、ロックツース55とロアレール51との係合が解除される。その結果、アッパーレール52およびそれに連結されたシートを前後方向へ移動することが可能になる。
【0010】
シートを前後方向の所望の位置へ移動した後は、操作レバー56を引き上げる操作を止めれば、ロックツース55は引張コイルばね60の復元力により上方へ揺動して、ロックツース55の掛止め片58の受け穴59がロアレール51の突歯53に係合し、アッパーレール52およびシートはその位置でロックされ、前後方向への移動が再び禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように特許文献1記載のスライド装置では、ロックツース55は、ロアレール51の突歯53との係合離脱の動作を行うために上下方向に揺動する。このロックツース55は、アッパーレール52から横方向に突設された第1支軸57に揺動自在に支持されている。第1支軸57は、円形断面を有しており、丸棒形状を有していると解される。
【0013】
このような構造では、ロックツース55を丸棒形状の第1支軸57に揺動自在に組み付けるためには、ロックツース55に形成された貫通孔(軸孔)と第1支軸57の外周面との間に隙間(遊び)が必要である。この隙間が存在することにより、ロックツース55は、自動車の走行時などにおいて第1支軸57に対してシートの前後方向および第1支軸57の軸方向にがたつき、ひいてはシートのがたつきが発生することにつながる。シートのがたつきが発生すれば、シートの重量およびそのシートに座る人の体重に比例する比較的大きな前後方向の荷重(80N以上)がロックツース55の軸孔と第1支軸57との隙間を有した嵌合部分に作用し、これらロックツース55および第1支軸57の劣化や損傷が生じるとともに異音の発生の原因になる。
【0014】
そのため、従来では、ロックツース55のがたつきを防止するために、係合部をくさび形にとがらせて被係合部に密嵌合させる構造にしたり、またはロックツース55における前後方向および軸方向への両方のがたつきを防止するための特殊なばね機構を設けたりするなどする必要がある。そのため、スライド装置の構造が複雑になり、製造コストがかかるという問題がある。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、簡単な構造でシートのがたつきを防ぐことが可能なスライド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、本発明のスライド装置は、
シートを前後方向にスライド自在に支持して当該前後方向における所望の位置にロックするスライド装置であって、
シートが設置される設置面に固定されるロアレールと、
シートに固定される部分を有し、前記ロアレールによって前後方向に移動自在に案内されるアッパーレールと、
前記アッパーレールを前記ロアレールにロックするためのロック機構と
を備え、
前記ロアレールは、その長手方向に沿って並ぶ複数の被係合部を有しており、
前記ロック機構は、
前記アッパーレールに取り付けられ、前記前後方向と直交するシートの幅方向に延びるシャフトと、
前記ロアレールの複数の被係合部のうちの少なくとも1つに係合可能な形状を有する係合部、および前記シャフトが挿入される軸孔を有し、前記シャフトを回転中心として揺動自在に前記シャフトに支持された係合部材と、
前記係合部材を前記シャフトの軸方向に押圧する押圧部材と
を有し、
前記シャフトは、その外周面において、基端部から先端部へ向かうにつれて当該シャフトが細くなる方向に傾斜した外テーパ面を有し、
前記係合部材の軸孔の内周面は、前記外テーパ面と面接触可能な傾斜角度を有する内テーパ面によって形成され、
前記押圧部材は、前記内テーパ面が前記外テーパ面に押し当てられて面接触する方向に、前記係合部材を押圧する
ことを特徴とする。
【0017】
なお、本発明でいう「ロック」とは、シートまたはアッパーレールを動けないように固定することを意味する。
【0018】
かかる構成によれば、アッパーレールをロアレールにロックするためのロック機構は、シャフト、係合部材、および押圧部材を有している。シャフトの外周面には、基端部から先端部へ向かうにつれて当該シャフトが細くなる方向に傾斜した外テーパ面が形成されている。また、係合部材の軸孔の内周面は、外テーパ面と面接触可能な傾斜角度を有する内テーパ面によって形成されている。押圧部材は、係合部材をシャフトの軸方向に押圧するものであり、さらに具体的には、内テーパ面が外テーパ面に押し当てられて面接触する方向に、係合部材を押圧する。この構造では、アッパーレールがロック機構によってロアレールに対して相対的な移動が規制されたロック状態では、押圧部材が係合部材へ与える押圧力によって、係合部材の軸孔の内テーパ面とシャフトの外テーパ面との面接触が維持されるので、係合部材は、シャフトの軸方向およびシートの前後方向にがたつきを無くすることが可能である。その結果、スライド装置は簡単な構造でシートのがたつきを防ぐことを達成することが可能である。
【0019】
前記ロック機構は、前記シャフトと前記アッパーレールとの間に介在して、当該シャフトを当該レールに固定するホルダをさらに有するのが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、シャフトはホルダを介してアッパーレールに固定されるので、シャフトをアッパーレールの任意の位置に固定しやすくなり、シャフトの取付け作業性が向上する。
【0021】
前記ホルダは、前記幅方向に離間した一対の対向壁を有し、前記シャフトは、前記外テーパ面が前記一対の対向壁の間に位置するように、当該一対の対向壁にそれぞれ固定され、前記係合部材は、前記一対の対向壁の間で前記外テーパ面と前記内テーパ面とが面接触した状態で、前記シャフトに揺動自在に支持されているのが好ましい。
【0022】
かかる構成によれば、シャフトがホルダの一対の対向壁にそれぞれ固定されているので、シャフトをホルダに安定して固定することが可能である。しかも、係合部材は、ホルダの一対の対向壁の間でシャフトに揺動自在に支持されているので、外テーパ面と内テーパ面とが面接触した状態であっても、係合部材がシャフトから脱落するおそれを確実に回避することが可能である。また、この構成では、外テーパ面と内テーパ面の接触部分をホルダの一対の対向壁によって異物の付着や接触から確実に保護することも可能であり、これらのテーパ面の劣化を抑えることが可能である。
【0023】
前記押圧部材は、前記シャフトをその全周に亘って取り囲む環状の部材によって構成されているのが好ましい。
【0024】
かかる構成によれば、押圧部材は、ウェーブワッシャなどのような、シャフトをその全周に亘って取り囲む環状の部材によって構成されているので、シャフトが挿入された状態ではシャフトから脱落するおそれがない。しかも、押圧部材は、係合部材をシャフトの外周全周から軸方向に偏りなく押圧することが可能である。
【0025】
とくに、上記のような係合部材がホルダの一対の対向壁の間でシャフトに揺動自在に支持されている構造の場合には、環状の部材からなる押圧部材を一対の対向壁の間においてシャフト先端側部分が固定された対向壁と係合部材との間で挟んだ状態で配置することにより、押圧部材はシャフトから脱落することなく係合部材を軸方向に押圧することをより確実に達成することが可能になる。
【0026】
前記ロック機構は、前記係合部材に対して前記係合部が前記被係合部に係合する方向への回転付勢力を与える回転付勢部材をさらに有するのが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、回転付勢部材が係合部材に対して係合部が被係合部に係合する方向への回転付勢力を与えることにより、設置面からスライド装置へ伝わる振動などによって係合部材の係合部がロアレールの被係合部から使用者が意図しないタイミングで外れることを防ぐことが可能である。
【0028】
前記係合部材は、前記軸孔において係合部が設けられた部分とは反対側において、係合部と被係合部との係合が解除する方向へ揺動させる操作力を受ける受け部を有し、前記スライド装置は、前記アッパーレールに揺動自在に支持され、外部から前記受け部に操作力を与える操作レバーをさらに備えるのが好ましい。
【0029】
かかる構成によれば、操作レバーを介して係合部材の受け部に操作力を与えることが可能であり、係合部材を係合部と被係合部との係合が解除する方向へ揺動させる操作を容易かつ確実に行うことが可能である。
【発明の効果】
【0030】
本発明のスライド装置によれば、簡単な構造でシートのがたつきを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係るスライド装置の全体斜視図である。
【
図2】
図1のアッパーレールおよびロアレールの分解斜視図である。
【
図3】
図1のアッパーレール内側に設けられたロック機構の拡大斜視図である。
【
図5】
図1のアッパーレールおよびロアレールで囲まれた部分の内部構造を横断面で示す断面説明図である。
【
図6】
図1のスライド装置におけるロック状態を垂直断面で示す断面説明図である。
【
図7】
図1のスライド装置におけるロック解除状態を垂直断面で示す断面説明図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るスライド装置におけるテーパ角度とテーパ押しつけ荷重とから導き出されるロック操作のための最適領域を説明するためのグラフである。
【
図9】(a)本発明の実施形態に係るスライド装置のロック状態におけるガタによる変位と荷重を示すグラフ、(b)本発明の比較例としてテーパ面を有しないシャフトとロックツースとの組合せの場合のロック状態におけるガタによる変位と荷重を示すグラフである。
【
図10】従来のスライド装置の内部構造を示す断面図である。
【
図11】
図10のスライド装置の第2支軸とロックツースの軸孔との嵌合部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら本発明のスライド装置の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0033】
本実施形態に係るスライド装置1は、
図1~5に示されるように、例えば、自動車用シートとして用いられるシートSを当該シートSの前後方向Xにスライド自在に支持して当該前後方向Xにおける所望の位置にロックする構成を有する。
【0034】
具体的には、スライド装置1は、一対のロアレール2と、一対のアッパーレール3と、アッパーレール3の内側に設けられ、アッパーレール3のスライドをロックするためのロック機構4と、ロック機構4のロックを解除する操作レバー5とを備えている。
【0035】
一対のロアレール2は、前後方向Xに沿ってシートSが設置される設置面である自動車の床面Fに互いに離間して固定されている。
【0036】
各ロアレール2の底面には、
図6~7に示される複数の係合孔2a(被係合部)が形成されている。複数の係合孔2aは、ロアレール2の長手方向(すなわち前後方向X)に沿って等間隔に並ぶように多数配置されている。また、ロアレール2の側壁には、アッパーレール3の移動範囲を規定するために、前後方向Xに離れて2個の切り起こし部2bが形成されている。
【0037】
アッパーレール3は、シートSに固定される部分(例えば上側に突出するスタッドボルトなど)を有する。アッパーレール3は、ロアレール2によって前後方向Xに移動自在に案内される。本実施形態では、
図2および
図5に示されるように、アッパーレール3の両側の縁部は、複数のボール11によって、ロアレール2の縁部に対して前後方向Xにスライド可能に支持されている。なお、アッパーレール3は、前後方向Xに移動できるようにロアレール2に支持されていればよく、上記のボール11以外にもころなどの転動手段を用いたり、または他の支持手段を用いてもよい。
【0038】
アッパーレール3の側壁には、後述する取付孔3aおよび開口3bが前後方向Xに並んで形成されている。
【0039】
ロック機構4は、
図3~5に示されるように、アッパーレール3をロアレール2にロックする機能を有するように構成されている。具体的には、ロック機構4は、シャフト6と、シャフト6に揺動自在に支持されたロックツース7(係合部材)と、シャフト6に取り付けられたウェーブワッシャ8(押圧部材)と、シャフト6を保持するホルダ9と、ロックスプリング10(回転付勢部材)とを有する。
【0040】
シャフト6は、前後方向Xと直交するシートSの幅方向Yに延びるように、アッパーレール3に取り付けられている。本実施形態では、シャフト6は、ホルダ9を介してアッパーレール3に取り付けられている。
【0041】
ホルダ9は、シャフト6とアッパーレール3との間に介在して、当該シャフト6を当該アッパーレール3に固定するように構成されている。
【0042】
具体的には、ホルダ9は、前後方向Xに直交する方向(幅方向Y)に離間した一対の対向壁9aと、これら対向壁9aの下端の間を連結する底壁9b(
図3参照)とを有する。
【0043】
シャフト6は、後述の外テーパ面6bが一対の対向壁9aの間に位置するように、当該一対の対向壁9aにそれぞれ溶接などによって固定されている。一対の対向壁9aのうちの一方は、アッパーレール3の内壁にねじ止めなどによって固定されている。
【0044】
ロックツース7は、細長い板状の部材である。ロックツース7の一方の端部の下端には、複数の歯7aが下方に突設されている。複数の歯7aは、ロアレール2の複数の係合孔2aのうちの少なくとも1つに係合可能な形状を有する係合部を構成している。なお、歯7aは、少なくとも1本あればロアレール2の係合孔2aに係合する係合部としての機能を奏することが可能である。
【0045】
ロックツース7には、シャフト6が挿入される軸孔7bを有する。ロックツース7は、ホルダ9の一対の対向壁9aの間の空間に配置され、当該軸孔7bに挿入されたシャフト6を回転中心として揺動自在にシャフト6に支持されている。
【0046】
ロックツース7の歯7aは、ホルダ9の底壁9bに形成された貫通孔9cを介してホルダ9の下方に突出することが可能である。
【0047】
ロックツース7は、軸孔7bにおいて歯7aが設けられた部分とは反対側において、歯7aと係合孔2aとの係合が解除する方向へ揺動させる操作力を受ける受け部7dを有する。
【0048】
シャフト6は、両側に先端部6aおよび基端部6dを有し、さらに、その外周面において、基端部6dから先端部6aへ向かうにつれて当該シャフト6が細くなる方向に傾斜した外テーパ面6bを有する。
【0049】
一方、外テーパ面6bに対応して、ロックツース7の軸孔7bの内周面は、外テーパ面6bと面接触可能な傾斜角度を有する内テーパ面7cによって形成されている。
【0050】
内テーパ面7cの傾斜角度は、外テーパ面6bと面接触可能な傾斜角度(実質的に同じ傾斜角度)であればよい。
【0051】
ここで、
図8を参照しながら、本発明の実施形態(
図1~7の実施形態)に係るスライド装置におけるテーパ角度とテーパ押しつけ荷重とから導き出されるロック操作のための最適領域について考察する。
【0052】
ここで、テーパ角度とは、外テーパ面6bおよび内テーパ面7cの傾斜角度を言い、テーパ押しつけ荷重とは、内テーパ面7cが外テーパ面6bを押しつける荷重をいう。
図8では、前後方向の押しつけ荷重について示されている。
【0053】
図8に示されるように、テーパ押しつけ荷重が小さすぎる(弱すぎる)と、内テーパ面7cが外テーパ面6bを十分に押しつけることができず、テーパ角度の大小にかかわらず、ロックツース7とシャフト6との間にガタが発生する(
図8のガタ発生領域α参照)。
【0054】
一方、テーパ押しつけ荷重が大きすぎる(強すぎる)と、テーパ面圧が高くなり、ロックツース7を揺動させる操作性が悪くなり、スムーズな操作ができない(
図8の作動性影響(しぶり)領域β参照)。
【0055】
また、テーパ角度が大きすぎると、テーパ面間の保持力が弱くなるためロックツース7が動きやすくなりすぎてガタが発生する(
図8のガタ発生領域α参照)。
【0056】
一方、テーパ角度が小さすぎると、面圧が高くなり、スムーズな操作ができない(
図8の作動性影響(しぶり)領域β参照)。
【0057】
よって、上記のようなガタ発生領域αおよび作動性影響(しぶり)領域βに入らないように、テーパ角度およびテーパ押しつけ荷重を設定すればよく、具体的には、上記の領域αおよび領域βに囲まれた台形の領域の範囲で設定すればよい。より好ましくは、最適領域(管理域)γの範囲内に設定すれば、これらテーパ角度およびテーパ押しつけ荷重の制御(管理)が容易になる。
【0058】
以上のようにしてテーパ角度が設定されるが、テーパ角度、すなわち、外テーパ面6bおよび内テーパ面7cの傾斜角度は、例えば、シャフト6の軸中心に対して10~15度程度に設定されるのが好ましい。
【0059】
これら外テーパ面6bおよび内テーパ面7cの傾斜角度が10~15度であれば、ロックツース7の揺動時の回転抵抗の増大を抑えることができるとともにロックツース7のがたつきを防止することが可能である。これらテーパ面6b、7cの傾斜角度は、10度よりも小さければ、シャフト6がロックツース7に食いこんで揺動時の回転抵抗が増大する問題があり、一方、15度よりも大きければロックツース7がシャフト6から抜ける方向へ動きやすくなりぐらつき感が生じる問題があるので、上記のように、10~15度程度が好ましい。
【0060】
ロックツース7は、一対の対向壁9aの間で外テーパ面6bと内テーパ面7cとが面接触した状態で、シャフト6に揺動自在に支持されている。
【0061】
ウェーブワッシャ8は、シャフト6をその全周に亘って取り囲む環状の部材によって構成されている。具体的には、ステンレスなどの金属薄板のリングが板厚方向に波打つように湾曲したものである。ロックツース7をシャフト6の軸方向(
図5の幅方向Y)に押圧する機能を有する。
【0062】
ウェーブワッシャ8は、ホルダ9の一対の対向壁9aの間においてシャフト6の先端部6a側の部分が固定された対向壁9aとロックツース7との間で挟まれた状態で配置されている。これにより、ウェーブワッシャ8は、ロックツース7の内テーパ面7cがシャフト6の外テーパ面6bに押し当てられて面接触する方向に、ロックツース7を押圧する。
【0063】
ロックスプリング10は、ロックツース7に対して歯7aが係合孔2aに係合する方向への回転付勢力を与えるねじりコイルばねである。ロックスプリング10のコイル部分は、シャフト6の基端部6dに係止され、フランジ6cによってシャフト6の軸方向への移動が規制されている。ロックスプリング10の一方の端部は、ホルダ9に下側から当接して回転が規制され、他方の端部はロックツース7の受け部7dに下側から当接して、受け部7dを押し上げる方向へ回転付勢力を与える。このロックスプリング10によって、ロックツース7に対して歯7aが係合孔2aに係合する方向(
図6ではシャフト6を回転中心として時計回り方向)への回転付勢力を与えることが可能である。
【0064】
操作レバー5は、シートSの前方側端部の下方に位置するように幅方向Yに延びるように配置されている。操作レバー5は、その両端部5aにおいて一対のアッパーレール3に揺動自在に支持されている。それぞれの端部5aは、アッパーレール3の側壁の取付孔3a(
図1~4参照)に回転自在に支持されている。
【0065】
操作レバー5は、
図1に示されるように、当該操作レバー5に上方へ押し上げる操作力が入力される取っ手5bと、当該操作力をロックツース7の受け部7dへ伝達して当該受け部7dを上側から下方へ押圧する押圧部5cとを有する。
【0066】
上記のように構成されたスライド装置1では、
図6に示されるアッパーレール3の位置をロック機構4によってロックした状態では、ロックツース7は、ロックスプリング10(
図3~5参照)から受け部7dが押し上げられる方向、すなわち、ロックツース7の歯7aがロアレール2の係合孔2aに係合する方向(
図6における時計回りの方向)へ回転付勢力を受けている。これにより、ロックツース7の歯7aがロアレール2の係合孔2aに係合した状態が維持され、アッパーレール3およびそれに固定されたシートSの前後方向Xへの移動が禁止される。
【0067】
一方、ロック機構4のロックを解除する場合には、
図7に示されるように、シートSの前方側(
図7の左側)に位置する操作レバー5の取っ手5bを手で引き上げる操作をする。これにより、操作レバー5は、
図1および
図7に示されるように、一対のアッパーレール3の取付孔3aにそれぞれ支持された両端部5aを回転中心として上方へ揺動する。それとともに、操作レバー5の押圧部5cがアッパーレール3の開口3b(
図1~4参照)を通して、アッパーレール3の内部のロックツース7の受け部7dを押し下げる。これにより、ロックツース7は、ロックスプリング10の回転付勢力に抗しながら、ロックツース7の歯7aがロアレール2の係合孔2aとの係合を解除する方向(
図7における反時計回りの方向)へ揺動する。その結果、ロックツース7の歯7aとロアレール2の係合孔2aとの係合が解除され、アッパーレール3およびそれに固定されたシートSの前後方向Xへの移動が可能になる。
【0068】
なお、アッパーレール3の移動範囲は、ホルダ9の側方突起9d(
図3参照)がロアレール2の2個の切り起こし部2b(
図2参照)の間で移動可能な範囲として規定される。
【0069】
シートSを前後方向Xへ移動して所望の位置への移動が完了した後、操作レバー5の引上げ操作を止めれば、ロックツース7は、再び、ロックスプリング10からの回転付勢力を受けて時計回りの方向へ揺動し、ロックツース7の歯7aがロアレール2の係合孔2aに係合した状態(
図6の状態)に戻され、アッパーレール3およびそれに固定されたシートSが所望の位置でロックされる。
【0070】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態のスライド装置1では、アッパーレール3をロアレール2にロックするためのロック機構4は、シャフト6、ロックツース7、および押圧部材としてウェーブワッシャ8を有している。そして、シャフト6の外周面には、基端部6dから先端部6aへ向かうにつれて当該シャフト6が細くなる方向に傾斜した外テーパ面6bが形成されている。また、ロックツース7の軸孔7bの内周面は、外テーパ面6bと面接触可能な傾斜角度を有する内テーパ面7cによって形成されている。ウェーブワッシャ8は、ロックツース7をシャフト6の軸方向に押圧するものであり、さらに具体的には、内テーパ面7cが外テーパ面6bに押し当てられて面接触する方向に、ロックツース7を押圧する。
【0071】
この構造では、
図6に示されるアッパーレール3がロック機構4によってロアレール2に対して相対的な移動が規制されたロック状態では、
図5に示されるようにウェーブワッシャ8がロックツース7へ与える押圧力によって、ロックツース7の軸孔7bの内テーパ面7cとシャフト6の外テーパ面6bとの面接触が維持される。これにより、ロックツース7は、シャフト6の軸方向およびシートSの前後方向Xにがたつきを無くすることが可能である。その結果、スライド装置1は簡単な構造でシートSのがたつきを防ぐことを達成することが可能である。
【0072】
また、ロックツース7の内テーパ面7cとシャフト6の外テーパ面6bとが面接触することにより、摩耗しにくくなる。それにより、ロックツース7およびシャフト6の耐久性が向上し、操作荷重の経時変化を低減することが可能である。なお、ロックツース7を熱処理などの処理により硬度を上げることによって、ロックツース7の耐久性をさらに向上することが可能である。
【0073】
以上のようにスライド装置1のシートSのがたつきを防ぐための構造の簡素化によって、部品点数の削減および組立て作業工数の低減が可能になり、製造コストの低減も達成することが可能である。さらに、簡単な構造でシートSのがたつきを防ぐことができるので、ユーザー機能性(例えば操作性やメンテナンス性など)を向上することが可能である。
【0074】
なお、
図7に示されるようにロックを解除するために操作レバー5から付与される操作力によってロックツース7を回転操作するときには、
図5に示されるロックツース7の内テーパ面7cがシャフト6の外テーパ面6bを押す力が発生する。そのとき、ロックツース7は、内テーパ面7cが外テーパ面6bから受ける反力によってシャフト6の先端部6aに向かう方向へシフトし、ロックツース7の軸孔7bとシャフト6との隙間が大きくなる。その結果、ロックツース7の回転操作時におけるロックツース7とシャフト6との間で発生する摩擦抵抗を軽減することができる。一方、操作レバー5からロックツース7への操作力の付与を止めれば、
図5に示されるウェーブワッシャ8の付勢力によってロックツース7はシャフト6の先端部6aから奥の方(基端部6dの方向)へシフトし、内テーパ面7cと外テーパ面6bとは密に嵌合し、これら内テーパ面7cと外テーパ面6bとの間の前後方向Xおよび軸方向(幅方向Y)のガタを無くすことが可能である。
【0075】
また、上記のように、内テーパ面7cと外テーパ面6bとの密嵌合によってロックツース7とシャフト6との間のガタを無くすことによって、アッパーレール3とロアレール2との間の前後方向Xのガタがなくなる。その結果、アッパーレール3をスライドさせるためのボール11にばね性(弾性)を持たせてガタを解消する必要がなくなり、スライド装置1全体の剛性が向上する。
【0076】
ここで、
図9のグラフを用いて、本実施形態のスライド装置1(すなわち、内テーパ面7cと外テーパ面6bを有する構造)と従来のスライド装置との前後方向のガタについて比較する。
【0077】
図9(b)には、従来のスライド装置のロック状態において前後方向に往復荷重をかけたときの前後方向のガタを変位と荷重のグラフで示す。従来のスライド装置は、シャフトとロックツースとの嵌合面にテーパ面が無い構造、すなわち、シャフトが丸棒であり、ロックツースの軸孔が直穴(丸孔)である構造)であり、シャフトとロックツースの軸孔との間には嵌合のための隙間が必要であるため、前後方向のガタを吸収できない。そのため、
図9(b)のグラフの挙動を見れば、荷重に対する変位量が大きいことがわかる。しかも、往復荷重をかけているときに変位と荷重のばらつきが大きく、変曲点(カーブの急な部分)が生じる。このような変曲点があると、シートに座る者にはガタ感として感じられる。
【0078】
一方、
図9(a)には、本実施形態のスライド装置1のロック状態において前後方向に往復荷重をかけたときの前後方向のガタを変位と荷重のグラフで示す。本実施形態のスライド装置は、シャフト6の外テーパ面6bとロックツース7の内テーパ面7cとが密接に嵌合することにより、シャフト6とロックツース7の軸孔7bとの間には隙間が無くなるので、前後方向のガタを効果的に吸収できる。そのため、
図9(a)のグラフの挙動を見れば、荷重に対する変位量が小さくなっているのがわかる。しかも、往復荷重をかけているときの変位と荷重のばらつきが小さく、変曲点が生じない。その結果、本実施の形態のスライド装置1では、シートに座る者にはガタ感として感じられず、乗り心地の良さを提供できる。
【0079】
(2)
また、本実施形態のスライド装置1では、ロック機構4は、シャフト6とアッパーレール3との間に介在して、当該シャフト6を当該レールに固定するホルダ9を有している。この構成では、シャフト6はホルダ9を介してアッパーレール3に固定されるので、シャフト6をアッパーレール3の任意の位置に固定しやすくなり、シャフト6の取付け作業性が向上する。
【0080】
(3)
また、本実施形態のスライド装置1では、ホルダ9は、前後方向Xに直交する方向(幅方向Y)に離間した一対の対向壁9aを有している。シャフト6は、外テーパ面6bが一対の対向壁9aの間に位置するように、当該一対の対向壁9aにそれぞれ固定されている。ロックツース7は、一対の対向壁9aの間で外テーパ面6bと内テーパ面7cとが面接触した状態で、シャフト6に揺動自在に支持されている。
【0081】
この構成では、シャフト6がホルダ9の一対の対向壁9aにそれぞれ固定されているので、シャフト6をホルダ9に安定して固定することが可能である。しかも、ロックツース7は、ホルダ9の一対の対向壁9aの間でシャフト6に揺動自在に支持されているので、外テーパ面6bと内テーパ面7cとが面接触した状態であっても、ロックツース7がシャフト6から脱落するおそれを確実に回避することが可能である。また、この構成では、外テーパ面6bと内テーパ面7cの接触部分をホルダ9の一対の対向壁9aによって異物の付着や接触から確実に保護することも可能であり、これらのテーパ面6b、7cの劣化を抑えることが可能である。
【0082】
(4)
また、本実施形態のスライド装置1では、ロックツース7を軸方向に押圧する押圧部材として、ウェーブワッシャ8が採用されている。ウェーブワッシャ8は、シャフト6をその全周に亘って取り囲む環状の部材であるので、シャフト6が挿入された状態ではシャフト6から脱落するおそれがない。しかも、ウェーブワッシャ8は、ロックツース7をシャフト6の外周全周から軸方向に偏りなく押圧することが可能である。
【0083】
とくに、
図5に示されるように上記のようなロックツース7がホルダ9の一対の対向壁9aの間でシャフト6に揺動自在に支持されている構造の場合には、環状の部材からなるウェーブワッシャ8を一対の対向壁9aの間においてシャフト6先端部6a側部分が固定された対向壁9aとロックツース7との間で挟んだ状態で配置する。これにより、ウェーブワッシャ8はシャフト6から脱落することなくロックツース7を軸方向(幅方向Y)に押圧することをより確実に達成することが可能になる。
【0084】
(5)
また、本実施形態のスライド装置1では、ロック機構4は、ロックツース7に対して歯7aが係合孔2aに係合する方向への回転付勢力を与えるロックスプリング10を有する。
【0085】
この構成では、ロックスプリング10がロックツース7に対して歯7aが係合孔2aに係合する方向への回転付勢力を与えることにより、床面F(設置面)からスライド装置1へ伝わる振動などによってロックツース7の歯7aがロアレール2の係合孔2aから使用者が意図しないタイミングで外れることを防ぐことが可能である。
【0086】
(6)
また、本実施形態のスライド装置1では、ロックツース7は、軸孔7bにおいて歯7aが設けられた部分とは反対側において、歯7aと係合孔2aとの係合が解除する方向へ揺動させる操作力を受ける受け部7dを有する。スライド装置1は、アッパーレール3に揺動自在に支持され、外部から受け部7dに操作力を与える操作レバー5を備えている。
【0087】
このような構成では、操作レバー5を介してロックツース7の受け部7dに操作力を与えることが可能であり、ロックツース7を歯7aと係合孔2aとの係合が解除する方向へ揺動させる操作を容易かつ確実に行うことが可能である。
【0088】
(本実施形態と特許文献1記載のスライド装置との対比説明)
特許文献1には、
図10~11に示されるように、ロックツース55と操作レバー56の連結のためのテーパ状の第2支軸62および貫通孔56aが開示されているが、この構造をロックツース55の回転軸と孔の嵌合部分に適用することは以下の点で不可能であると考えられる。以下、本実施形態のスライド装置1と特許文献1記載のスライド装置とを対比して説明する。
【0089】
特許文献1記載のスライド装置は、
図10~11に示されるように、ロックツース55と操作レバー56の連結のために、ロックツース55側からテーパ状の第2支軸62が設けられている。このテーパ状の第2支軸62が操作レバー56先端の部分の円形断面で真っ直ぐ延びる貫通孔(直穴)56aに嵌合することにより、操作レバー56のがたつきを抑えている。しかし、このような直穴56aとテーパ状の第2支軸62の嵌合では、直穴56aの開口縁と第2支軸62とは線接触しているにすぎず、本実施形態のスライド装置1で採用されるロックツース7の内テーパ面7cとシャフト6の外テーパ面6bとの面接触と大きく異なる。また、本実施形態のように面接触を維持するための押圧部材(ウェーブワッシャ8)も有していない。
【0090】
そのため、
図10~11に示される特許文献1記載のスライド装置では、本実施形態の面接触構造と比較して、第2支軸62と操作レバー56との接触面積が非常に小さいため、上記の本実施形態のスライド装置1のようなシートおよび人の重量に比例する大きな前後方向荷重(80N以上)が作用するシートのがたつきを防ぐことは実際上不可能である。つまり、テーパ状の第2支軸62および貫通孔56aの嵌合部分をロックツース55の回転軸(第1支軸57)と孔の嵌合部分に適用することは、がたつき解消の目的を達成し得ないので、このような適用は実際上不可能であると考えられる。
【0091】
また、特許文献1記載のスライド装置は、
図10に示されるように、操作レバー56の回転中心である第2支軸62と力点である操作レバー56の自由端(
図10の操作レバー56の左端に相当するが図示せず)の距離は通常長く設定されている(例えば200mm以上)。この構成では、小さい操作力で操作レバー56を揺動させることができるので、回転中心の作動抵抗(摩擦抵抗)は問題にならない。そのため、上記のような直穴56aとテーパ状の第2支軸62の嵌合でも操作上問題が生じない。
【0092】
しかし、本実施形態のスライド装置1のように、
図6に示されるように、ロックツース7の回転中心であるシャフト6と力点である受け部7dの先端との距離が上記の操作レバー56における回転中心―力点間の距離と比較して非常に短いので、大きい操作力を受け部7dに与えてロックツース7を揺動させなければならない。大きい操作力を受け部7dに与えるときに、回転中心であるシャフト6回りの作動抵抗(摩擦抵抗)が大きいとロックツース7を揺動させる際の操作性に問題が生じる。
【0093】
このような問題を回避するために、本実施形態のスライド装置1では、上記のようにロックツース7の内テーパ面7cとシャフト6の外テーパ面6bとの面接触する構造を採用している。
【0094】
(変形例)
(A)
上記実施形態では、ロアレール2の被係合部として複数の係合孔2aが採用され、当該被係合部に係合する係合部材の係合部としてロックツース7の歯7aが採用されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明では、被係合部および係合部は係合可能な構造であれば他の構造を採用してもよい。例えば、ロアレール2の被係合部として複数の突起が採用され、係合部としてロックツース7に当該突起に嵌合可能な受け穴を有する板(例えば
図10に示されるような受け穴59を有する掛止め片58)や上記突起にかみ合うことが可能な複数の歯や突起などを採用してもよい。
【0095】
(B)
上記の実施形態では、シャフト6は、ホルダ9を介してアッパーレール3に取り付けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、アッパーレール3に直接取り付けられてもよい。
【0096】
(C)
上記の実施形態では、押圧部材の一例としてウェーブワッシャ8を例に挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ロックツース7をシャフト6の先端部6aから奥(基端部6d側)へ向けてシャフト6の軸方向(
図5の幅方向Y)に押圧する機能を有するものであれば、本発明の押圧部材として採用されうる。したがって、スプリングワッシャ、圧縮コイルスプリング、またはゴムや樹脂製の弾性材料のリングなども本発明の押圧部材として採用され得る。
【0097】
(D)
上記の実施形態では、スライド装置1が自動車用のシートSをスライド自在で、かつ、所望の位置にロックする例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の利用分野のシートのロックのためにも本発明のスライド装置を使用可能である。例えば、自動車以外の他の乗り物、例えば船舶や飛行機などのシート、またはゲームセンターなどの施設に設置されるシート位置のロックのためにも、本発明のスライド装置を用いることが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 スライド装置
2 ロアレール
2a 係合孔(被係合部)
3 アッパーレール
4 ロック機構
5 操作レバー
6 シャフト
6a 先端
6b 外テーパ面
7 ロックツース(係合部材)
7a 歯(係合部)
7b 軸孔
7c 内テーパ面
7d 受け部
8 ウェーブワッシャ(押圧部材)
9 ホルダ
9a 対向壁
10 ロックスプリング(回転付勢部材)