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特許7104994アデノウイルスおよび対応するプラスミドの作製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】アデノウイルスおよび対応するプラスミドの作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20220714BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220714BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220714BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220714BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N7/01
A61K35/761
A61K48/00
A61P35/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020197533
(22)【出願日】2020-11-27
(62)【分割の表示】P 2016537434の分割
【原出願日】2014-12-23
(65)【公開番号】P2021040651
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】1322851.5
(32)【優先日】2013-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/072919
(32)【優先日】2014-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515023121
【氏名又は名称】サイオクサス セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,アリス クレアー ノエル
(72)【発明者】
【氏名】ニコールソン,タマラ
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102586327(CN,A)
【文献】特表2008-500051(JP,A)
【文献】特表2010-514418(JP,A)
【文献】特表2009-505680(JP,A)
【文献】国際公開第2006/060314(WO,A2)
【文献】Biotechnol. Lett., published online 2013.04.23, Vol.35, pp.1215-1221
【文献】BMC Biotechnology, 2006, Vol.6, 36 (pp.1-12)
【文献】J. Gene Med., 2013 January (first published 2012.12.05), Vol.15, pp.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号28または30を含む、アデノウイルスプラスミド。
【請求項2】
配列番号28を含む、請求項1に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項3】
配列番号30を含む、請求項1に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項4】
1つまたは複数の導入遺伝子を含む導入遺伝子カセットをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項5】
前記導入遺伝子が、治療用のタンパク質、ペプチドまたはRNAをコードする目的の治療遺伝子;およびレポーター遺伝子または造影物質を含む群から選択される、請求項に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項6】
前記目的の治療遺伝子が、抗体または抗体ドメイン、プロドラッグ変換酵素、免疫調節物質、酵素、siRNA、転写因子、細胞内シグナル伝達タンパク質または表面膜タンパク質、または抗原をコードし、前記レポーター遺伝子または造影物質が、ルシフェラーゼまたはeGFPである、請求項5に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項7】
前記導入遺伝子が、T細胞共刺激受容体またはそのリガンドをコードする、請求項またはに記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項8】
前記T細胞共刺激受容体またはそのリガンドが、OX40、OX40リガンド、CD27、CD28、CD30、CD40、CD40リガンド(CD40L)、CD137、GITR、4-1BB、ICOS、ICOSリガンド、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原-4(CTLA-4)、プログラム細胞死-1(PD-1)、PD-リガンド-1(B7-H1としても知られるPD-L1)、PD-リガンド-2(B7-DCとしても知られるPD-L2)、B7-H3、B7-H4、ヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM)、阻害受容体Ig様転写産物-3(ILT-2)、ILT-3、ILT-4、T細胞免疫グロブリンムチンタンパク質-3(TIM-3)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)、Bリンパ球およびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、LIGHTまたはCD160を含む群から選択される、請求項7に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項9】
前記導入遺伝子が、サイトカインまたはその受容体をコードする、請求項4~8のいずれか1項に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項10】
前記サイトカインまたはその受容体が、インターロイキン-1α(IL-1α)、IL-1β、IL-6、IL-9、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-33、IL-35、インターロイキン-2(IL-2)、IL-4、IL-5、IL-7、IL-10、IL-15、IL-21、IL-25、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)、インターフェロン-α(IFNα)、インターフェロン-β(IFNβ)、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ)、または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含む群から選択される、請求項9に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項11】
前記導入遺伝子が、ケモカインまたはケモカイン受容体をコードする、請求項4~10のいずれか1項に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項12】
前記ケモカインまたはケモカイン受容体が、インターロイキン-8(IL-8)、CCL5(RANTES)、CCL17、CCL22、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CCR2、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CXCR3、CXCR4、CXCR5またはCRTH2を含む群から選択される、請求項11に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項13】
前記導入遺伝子カセットが調節エレメントを含む、請求項4~12のいずれか1項に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項14】
前記調節エレメントが内部リボソーム進入配列である、請求項13に記載のアデノウイルスプラスミド。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のアデノウイルスプラスミドを含む、宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アデノウイルスゲノムの一部または全部と、アデノウイルスゲノムの迅速で柔軟な操作を可能にする1つまたは複数の独自の制限部位とを含むアデノウイルスプラスミドを作製する方法、および例えば導入遺伝子を含むアデノウイルス構築物を調製する方法に関する。本開示はほかにも、当該方法に用いられ、当該方法によって作製される新規な中間体、当該方法のプラスミドおよびシャトルベクターならびに当該プラスミドおよび/または方法から得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターに及ぶ。本開示はさらに、ウイルスまたはベクター、例えば本明細書に開示される方法から得られるウイルスまたはベクターの治療法への使用、例えば癌治療への使用などに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、治療用ウイルスを武装して治療による影響を増大させるため、あるいは複製能を有するウイルスベクターまたは複製能欠損ウイルスベクターを用いて標的細胞に遺伝子を送達するためといった多くの理由で、アデノウイルスに導入遺伝子を挿入するのが望ましい。
【0003】
ウイルスゲノムに導入遺伝子を挿入するには通常、アデノウイルスゲノムを含むプラスミドを作製し、次いで、例えば相同組換えを用いて、このプラスミドに導入遺伝子を挿入した後、プラスミドからウイルスゲノムを切り取る。しかし、本明細書に記載されるいくつかの理由から、特に、E1またはE3領域の外側など通常とは異なる位置に導入遺伝子を挿入しようとする場合、複製能を有するウイルスベクターおよび複製能欠損ウイルスベクターの両方に用いることができ、かつ例えば、既知の予測可能な位置に大型の導入遺伝子を受け入れることが可能な柔軟なプラスミドを入手するのは必ずしも容易なことではない。
【0004】
治療および診断を目的としてアデノウイルスに導入遺伝子を挿入する際に生じる問題点は大きく3種類に分けられる。第一に、アデノウイルスであればすべて治療および診断適用に理想的な候補になるわけではなく、例えば、ヒトの集団はAd5(サブグループCアデノウイルス)に対する免疫の保有率が高く、このため、ウイルスを投与しても短時間で免疫系により除去される。この問題を克服するため、免疫保有率が比較的低いアデノウイルスが用いられている。しかし、現在まで行われてきたゲノム研究の多くがAd5に関するものである。このため、代替アデノウイルスの材料および入手源が利用できないことが多い。
【0005】
第二に、アデノウイルスであればすべて、大型の導入遺伝子を受け入れ、生存ウイルスとしてその安定性を維持することができるわけではない。さらに、アデノウイルスゲノムは大型で、ウイルスの機能に影響を及ぼさずに追加の遺伝物質を挿入する余地はほとんどなく、例えば、ウイルスをウイルスキャプシド内に封入する機能が悪影響を受けることがあり、これが次にはウイルスの感染力に影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
この問題を克服するため、ゲノムに欠失を生じさせる。この戦略は、複製に不可欠な1つまたは複数の遺伝子が除去されるため、特に複製欠損ウイルスベクターに適している。この戦略では、ベクターのin vivoでの複製能が制限されるとともに、ゲノム内にスペースが生まれて大型の導入遺伝子の挿入が可能になる。このような導入遺伝子は、ウイルスベクターに複製能がないにもかかわらず、in vivoで発現することが可能である。欠損させることが最も多いのはE1遺伝子である。ADEASYシステム(Agilent Technologies社)などの先行技術のシステムでは、E1領域に導入遺伝子を挿入することが可能である。いくつかの場合には、E3領域の一部または全部を欠失させ(例えば、国際公開第2011/0123564号を参照されたい)、この欠失させた領域に遺伝子を挿入し得る。
【0007】
このため、導入遺伝子は通常、欠失が生じた位置と同じ位置に挿入される。したがって、導入遺伝子の挿入部位は初期遺伝子の位置にほぼ限定されているが、これによりウイルス遺伝子発現、ウイルス生活環および/または複製速度が影響を受ける可能性が高くなるため、問題となり得る。特に、E1領域の欠失は複製可能なアデノウイルスには適さず、論じられている通り、ウイルス生活環への影響が最小限に抑えられるように、導入遺伝子が初期遺伝子の位置に来ないようこれを挿入するのが有用であるものと考えられる。
【0008】
第三に、アデノウイルスゲノムは密に詰め込まれており、ウイルス生活環および/または転写などの機能に影響を及ぼさずに導入遺伝子を安全に挿入し得る材料が遺伝子間にほとんど存在しないため、操作が容易ではない。さらに、遺伝子間領域に存在する制限部位があるとしても少なく、ゲノム内の1箇所にのみ存在する制限部位となるとさらに少ない。1つの制限部位がウイルスゲノムに2箇所以上存在すると、その制限部位を用いて導入遺伝子を1つの位置に選択的に挿入する能力が著しく阻害されるため、後者のような制限部位は重要である。
【0009】
したがって、複製能を有するウイルスの操作に用いることができ、初期遺伝子から除去された位置に導入遺伝子が挿入され得るプラスミドを提供するのが望ましい。
【0010】
複製能を有するウイルスに利用可能な戦略の1つに、挿入に偏りのないトランスポゾンを用いてゲノムに導入遺伝子を挿入するものがある(Jinら,2004に記載されている)。このトランスポゾンは後期遺伝子に挿入され得るため、この技術はシステムに上記のような不利な点はない。Jinらは、遺伝子挿入位置の部位が挿入する遺伝子の種類の影響を受けるとする仮説を提唱したが、一部の遺伝子は挿入後に置換することが不可能であり、場合によっては、挿入された遺伝子の置換が困難であったり、置換遺伝子が異なる方向に挿入されたりすることがあった。このトランスポゾンがランダムに挿入されるという性質は、挿入可能な部位を多数もたらすものである。したがって、結果として挿入の予測可能性および再現性が損なわれる可能性がある。さらに、トランスポゾンが自ら導入遺伝子とともにゲノム内に挿入され、理論上、のちにウイルスゲノム内の遺伝子を「移動させる」可能性も否定できない。しかし、ランダムに挿入されるトランスポゾンはウイルスゲノム研究の素晴らしいツールである一方で、この方法の最も不利な点は、ウイルス構築物の合理的設計が不可能なことである。
【0011】
したがって、複製能を有するウイルスの操作に用いることができ、初期遺伝子から除去された位置に導入遺伝子を再現可能に挿入することが可能なプラスミドを提供するのが望ましい。
【0012】
本発明者らは、初期遺伝子の部位ではない位置に特異的に導入遺伝子を選択的に挿入するのに用いることが可能な制限部位の組合せを有するプラスミドを作製することにより、上記の1つまたは複数の問題点を解決することを試みた。
【0013】
本発明者らは、L5遺伝子の付近に独自の制限部位を含むアデノウイルスプラスミドを開発した。本開示のプラスミドにより、初期遺伝子部位以外の位置に制限部位/導入遺伝子を有するウイルス、例えば、E1領域がインタクトな複製可能なアデノウイルスあるいは複製能欠損アデノウイルス、例えばE1および/またはE3が欠失した、または妨害された複製能欠損アデノウイルスなどの作製が可能になる。
【発明の概要】
【0014】
一態様では、選択マーカー遺伝子と低コピー細菌複製起点とを含むシャトルベクターを調製する方法であって、前記アデノウイルスゲノムが、5’ITR、3’ITR、L5遺伝子を含む、方法が提供され、前記方法は、
a)アデノウイルスシャトルベクターを調製する段階であって、以下の3つのフラグメント:
i)選択マーカー遺伝子と低コピー細菌複製起点とを含むベクターフラグメントであって、ベクターフラグメントの5’末端が、第一の制限酵素部位から始まり、第二の制限酵素部位内のベクターフラグメントの3’末端で終わる、ベクターフラグメント、
ii)5’ITRを含むアデノウイルスゲノムの5’末端を含む5’アームであって、5’アームの5’末端が、第二の制限酵素部位から始まり、第三の制限酵素部位を有する5’アームの3’末端で終わる、5’アーム、
iii)3’ITRとL5遺伝子とを含むアデノウイルスゲノムの3’末端を含む3’アームであって、3’アームの5’末端が、第三の制限酵素部位から始まり、第一の制限酵素部位を有する3’アームの3’末端で終わる、3’アーム
を等しい割合でライゲートすることと、
第一の制限酵素部位で3’アーム(フラグメントiii)の3’末端とベクターフラグメント(フラグメントi)の5’末端とを連結し、
第二の制限酵素部位でベクターフラグメント(フラグメントi)の3’末端と5’アーム(フラグメントii)の5’末端とを連結し、
第三の制限酵素部位、少なくともL5遺伝子で5’アーム(フラグメントii)の3’末端と3’アーム(フラグメントiii)の5’末端とを連結する、
1段階の3者ライゲーションを実施して、第一の制限酵素部位、次いでベクターフラグメント、次いで第二の制限酵素部位、次いで5’アーム、次いで第三の制限酵素部位、次いで3’アームの順で配置される環状シャトルベクターを形成することと
を含む、段階ならびに
b)シャトルベクターのL5遺伝子と、E3部位、E4部位または前記部位の両方を含む(またはこれらからなる)群より選択される部位との間の位置に少なくとも1つの独自の制限部位および/または導入遺伝子を導入する段階
を含む。
【0015】
一実施形態では、この方法は、段階c):
c)段階a)または段階b)のシャトルベクターとアデノウイルスゲノムとの間で相同組換えを実施して、プラスミドを形成する段階
をさらに含む。
【0016】
一態様では、アデノウイルスゲノムと、選択マーカー遺伝子と、低コピー細菌複製起点とを含むアデノウイルスプラスミドを調製する方法であって、前記アデノウイルスゲノムが、5’ITRと3’ITRとL5遺伝子とE3部位とE4部位とを含む、方法が提供され、前記方法は、
a)アデノウイルスシャトルベクターを調製する段階であって、以下の3つのフラグメント:
i)選択マーカー遺伝子と低コピー細菌複製起点とを含むベクターフラグメントであって、ベクターフラグメントの5’末端が、第一の制限酵素部位から始まり、第二の制限酵素部位内のベクターフラグメントの3’末端で終わる、ベクターフラグメント、
ii)5’ITRを含むアデノウイルスゲノムの5’末端を含む5’アームであって、5’アームの5’末端が、第二の制限酵素部位から始まり、第三の制限酵素部位を有する5’アームの3’末端で終わる、5’アーム、
iii)3’ITRを含むアデノウイルスゲノムの3’末端とL5遺伝子とを含む3’アームであって、3’アームの5’末端が、第三の制限酵素部位から始まり、第一の制限酵素部位を有する3’アームの3’末端で終わる、3’アーム
を等しい割合でライゲートすることと、
第一の制限酵素部位で3’アーム(フラグメントiii)の3’末端とベクターフラグメント(フラグメントi)の5’末端とを連結し、
第二の制限酵素部位でベクターフラグメント(フラグメントi)の3’末端と5’アーム(フラグメントii)の5’末端とを連結し、
第三の制限酵素部位で5’アーム(フラグメントii)の3’末端と3’アーム(フラグメントiii)の5’末端とを連結する、
1段階の3者ライゲーションを実施して、第一の制限酵素部位、次いでベクターフラグメント、次いで第二の制限酵素部位、次いで5’アーム、次いで第三の制限酵素部位、次いで3’アームの順で配列される環状シャトルベクターを形成することと
を含む、段階、
b)シャトルベクターのL5遺伝子と、E3部位、E4部位および前記部位の両方を含む(からなる)群より選択される部位との間の位置に少なくとも1つの独自の制限部位を導入する段階ならびに
c)段階a)または段階b)のシャトルベクターとアデノウイルスゲノムとの間で相同組換えを実施して、プラスミドを形成する段階
を含む。
【0017】
一実施形態では、段階a)の前に段階b)を実施する。
【0018】
一実施形態では、段階a)の後に段階b)を実施する。
【0019】
一実施形態では、5’アームは、アデノウイルスゲノムの約2.4~4.7kbの5’末端を含む。
【0020】
一実施形態では、3’アームは、アデノウイルスゲノムの約3.3~4.8kbの3’末端を含む。
【0021】
一実施形態では、1段階の3者ライゲーションを実施する時間は、少なくとも50分間、例えば1時間以上、例えば2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間または24時間などである。
【0022】
一実施形態では、1段階の3者ライゲーションを約10~40℃の温度範囲、例えば20~25℃、例えば室温/周囲温度前後などで実施する。
【0023】
一実施形態では、アデノウイルスはヒトアデノウイルス、例えばサブグループB型、例えば、EnAd、OvAd1、OvAd2、Ad3、Ad5(C群ウイルス)およびAd11から選択されるウイルスなどである。一実施形態では、アデノウイルスはAd5ではない。一実施形態では、アデノウイルスはA群ウイルスではない。一実施形態では、アデノウイルスはC群ウイルスではない。
【0024】
一実施形態では、アデノウイルスは複製能を有するか、複製可能であり、例えば複製可能などである。一実施形態では、アデノウイルスは条件付きで複製するウイルスではない。一実施形態では、アデノウイルスは複製欠損性である。
【0025】
一実施形態では、独自の制限部位は、FseI、NotI、SbfIおよびSgfI、例えば、NotIまたはSbfIとSgfIまたはFseIとNotIとSbfIとSgfIなどから独立して選択される。
【0026】
一実施形態では、ベクターフラグメント内の第一の制限部位と3’アーム内の第一の制限部位は同じものである。一実施形態では、ベクターフラグメント内の第二の制限部位と5’アーム内の第二の制限部位は同じものである。一実施形態では、5’アーム内の第三の制限部位と3’アーム内の第三の制限部位は同じものである。
【0027】
一実施形態では、第一の制限部位と第二の制限部位は同じものである。
【0028】
一実施形態では、ライゲーションの前にベクターフラグメントを脱リン酸化する。
【0029】
一実施形態では、複製起点はp15Aである。
【0030】
一実施形態では、選択マーカー遺伝子はKanRまたはAmpR、例えばKanRなどである。
【0031】
一実施形態では、段階c)を、例えばエレクトロコンピテントBJ5183細胞で、段階a)またはb)のシャトルベクターとアデノウイルスゲノムの比をそれぞれ3.5部:1.5部にして実施する。
【0032】
一実施形態では、この方法は、例えば初期遺伝子の位置以外の位置に、少なくとも1つの導入遺伝子を例えばファイバーL5などと関連させて挿入する段階をさらに含む。一実施形態では、導入遺伝子は、例えばスプライスアクセプター配列を含む、カセットの形態である。
【0033】
一実施形態では、導入遺伝子は内在性アデノウイルスプロモーター、例えば主要後期プロモーターの制御下にある。一実施形態では、L5の後に位置する1つまたは複数の遺伝子が、主要後期プロモーターまたはE4プロモーターの制御下にある。一実施形態では、L5の前に位置する1つまたは複数の遺伝子が、主要後期プロモーターまたはE3プロモーターの制御下にある。L5開始コドンの直前に位置する遺伝子が主要後期プロモーターの制御下にあってもよく、そのような遺伝子は一般に、L5の発現を可能にする調節エレメントを含んでいる必要がある。
【0034】
一実施形態では、L5の後ろに位置する1つまたは複数の遺伝子が外来性プロモーターの制御下にある。
【0035】
一実施形態では、この方法は、プラスミドからアデノウイルスゲノムを切り取し、ウイルスまたはウイルスベクターを形成する段階をさらに含む。
【0036】
したがって、本開示の方法は、本開示のプラスミドおよびシャトルベクターなどの中間体を提供する。
【0037】
実施形態では、この方法は、ウイルスまたはウイルスベクターの医薬製剤を調製する段階をさらに含む。
【0038】
一実施形態では、この方法は、必要とする患者に本開示によるウイルスもしくはウイルスベクターまたは医薬組成物を投与する段階をさらに含む。
【0039】
一実施形態では、
a)L5遺伝子、E3部位およびE4部位を含む、アデノウイルスゲノムと、
b)L5遺伝子と、E3部位、E4部位およびE3部位とE4部位のそれぞれからなる群より選択される部位との間の位置にある少なくとも1つの独自の制限部位と、
c)低コピー細菌複製起点と、
d)選択マーカー遺伝子と
を含む、アデノウイルスプラスミドが提供される。
【0040】
一実施形態では、プラスミドは、例えば導入遺伝子カセットの形態で、導入遺伝子をさらに含む。
【0041】
一実施形態では、導入遺伝子は、治療用のタンパク質、ペプチドまたはRNA、例えば、抗体または抗体ドメイン、プロドラッグ変換酵素、免疫調節物質、酵素、siRNA、転写因子、細胞内シグナル伝達タンパク質または表面膜タンパク質、抗原などをコードする、目的の治療遺伝子およびレポーター遺伝子または造影物質、例えばルシフェラーゼまたはeGFPなどからなる群より選択される。
【0042】
この方法は、新規なアデノウイルスプラスミドおよび中間体シャトルベクターを作製する柔軟な手段であって、例えば段階b)で独自の制限部位を導入することにより、初期遺伝子発現を調節する領域の外側でアデノウイルスゲノムの操作を可能にする、手段を提供する点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】ColoAd1ゲノムの模式図である。初期遺伝子(E1、E2、E3およびE4)は濃い灰色、後期遺伝子(L1、L2、L3、L4およびL5)は薄い灰色で表されている。
図2】ColoAdプラスミド:ColoAd2.0、ColoAd2.1およびColoAd2.4の模式図である。
図3】ColoAd2.0、ColoAd2.1およびColo2.4プラスミドのColoAd1ゲノム配列における特異的変化を示す図である。黒色で示される塩基対はいずれも、ColoAd1ゲノム配列に追加されたものである。特異的制限酵素の配列および名称が示されている。
図4】ColoAd1ゲノム内でのPspOMI制限部位の位置を示す模式図である。
図5】ColoAdプラスミド構築の概要を示す図である。
図6】ColoAd1シャトルベクターの制限部位マップを示す図である。
図7】ColoAd2.4プラスミドまたはColoAd2.4シャトルベクター内に挿入する一般的な導入遺伝子カセットの設計を示す図である。
図8】p15A複製起点、カナマイシン耐性遺伝子、ColoAd1の、ITR、E1A、E1B遺伝子、E2B遺伝子の一部、E3遺伝子の一部、ファイバー遺伝子およびE4遺伝子を有する12kbのColoAd1シャトルベクターを示す図である。
図9】PspOMI制限部位およびAclI制限部位を詳細に示したColoAd1のマップである。
図10】A:5’アームPCRの増幅産物を示す図である。5’AscI制限部位および3’PspOMI制限部位に隣接するColoAd1の5’ITR、E1A、E1BおよびE2B遺伝子の一部を含む約4.6kbのフラグメントである。 B:3’アームのPCR増幅産物を示す図である。5’PspOMI制限部位および3’AscI制限部位に隣接するColoAd1のE3、ファイバー、E4および3’ITRを含む約4.5kbのフラグメントである。 C:p15A-KanRベクターフラグメントのPCR産物を示す図である。5’ AscI制限部位および3’AscI制限部位を含む約2.9kbのフラグメントである。
図11】A:5’アーム、3’アームおよびp15a KANベクターフラグメントのPCR産物を示す図である。産物はそれぞれ4.6kb、4.5kbおよび3kbであった。 B:5’アームおよび3’アームのPCR産物を示す図である。
図12】AscIおよびAscI/PsPOMIで消化したp15A-Kanベクターフラグメント、5’アームおよび3’アームを示す図である。消化産物が黒線の四角で強調されている。
図13】各PCR増幅で予想されるプライマー結合領域および産物を示す模式図である。
図14】スクリーニングしたクローンの代表的なものから得られたPCR産物を示すゲルである。構築物13、14および16は正しい大きさのPCR産物を示した。これらの構築物は1:1:1(5’アーム:3’アーム:p15aベクターフラグメント)で実施した三者ライゲーション反応の後に得られたものである。1:1:6のライゲーション比、1:1:12のライゲーション比を用いた構築物はいずれも正しい大きさのPCR産物を示さなかった。
図15】選択した構築物のPspOMIまたはAscI/PspOMIによる制限分析を示す図である。1:1:1の比での三者ライゲーションの後に得られた構築物13および16は、正しい大きさの消化産物を示した。試料番号16(maxi)は、構築物16から得られたマキシプレップを消化したものに対応する。
図16】ColoAd1シャトルベクターの作製に2段階のライゲーション法を用いて作製された構築物のPCR産物を示すゲルである。スクリーニングした構築物はいずれも正しいPCR産物を示さなかった。
図17】ColoAd2.4シャトルベクターを示す図である。このシャトルベクターは、ファイバー遺伝子の下流に独自の制限部位SgfIおよびSbfIを含む。
図18】制限部位PsPOMIおよびAclIが隣接するColoAd2.4合成フラグメントの模式図である。
図19】ColoAd2.4シャトルベクターであると推定された構築物の制限分析を示す図である。5つの構築物はいずれも、EcoRVおよびSbfIによる消化の後にColoAd2.4シャトルベクターに対応する正しい大きさのバンド、すなわち3kbのバンドおよび9kbのバンドを示した。
図20】ColoAd2.0シャトルベクターを示す図である。このシャトルベクターは、ファイバー(L5)遺伝子および2つのポリA配列の上流に独自のFseI部位を、ファイバー(L5)遺伝子の下流に独自のSgfI部位、NotI部位、SbfI部位を含む。
図21】制限部位PspOMIおよびAclIが隣接するColoAd2.0合成フラグメントの模式図である。
図22】ColoAd2.0シャトルベクターであると推定された構築物の酵素FseI、AscI、SbfIまたはPspOMIによる制限分析を示す図である。5つの構築物にはいずれも、ColoAd2.0シャトルベクターに対応する正しい大きさのバンドが見られる。
図23】ColoAd2.1シャトルベクターを示す図である。このシャトルベクターは、ファイバー(L5)遺伝子の上流に独自のNotI部位を含む。
図24】ColoAd1シャトルベクターに挿入してColoAd2.1シャトルベクターを作製するためのDNAフラグメント(C)の構築に用いたPCR1(A)およびPCR2(B)産物の模式図である。
図25】ColoAd2.1シャトルベクターであると推定された構築物の制限分析を示す図である。5つの構築物はいずれも、AscIおよびNotIによる消化の後にColoAd2.1シャトルベクターに対応する正しい大きさのバンド、すなわち3kb、4kbおよび5kbのバンドを示した。
図26】組換えColoAd2.4プラスミドを示す図である。この組換え体は、p15A複製起点、カナマイシン耐性およびColoAd1ゲノムを含み、ファイバーの下流に独自の制限部位SgfIおよびSbfIを有する。
図27】A:エレクトロポレーションを実施したBJ5183細胞を散布したLB+カナマイシンプレートを示す図である。左側のプレートはネガティブ対照であり、右側のプレートはColoAd1+直線化したColoAd2.4シャトルベクターの組換え体である。B:制限消化したColoAd2.4組換え体を示す図である。候補の組換え体をEcoRVおよびSbfI(E+S)で消化した。組換え体3、8および10には22kb、5.5kb、4.7kbおよび2.8kbのバンドが見られ、正確に形成された組換え体であることを示していた。ほかにも、組換え体をPspOMI(P)で消化し、16kb、12kbおよび7kbのバンドが得られた。
図28】推定ColoAd2.4組換え体の制限分析を示す図である。組換え体4は、PspOMIによる消化(P)で16kb、12kbおよび7kbの正しい大きさのバンドを示し、SbfIおよびEcoRVによる消化(E+S)で22kb、4.7kb、5.5kbおよび2.8kbのバンドを示した。この消化産物から、番号4にのみ組換えColoAd2.4の存在が確認された。
図29】A:5’アーム-3’アームライゲーション後のPCR増幅産物を示す図である。低体積ライゲーション後のPCRでは、0198(1)プライマーまたは0199(2)プライマーのいずれかを用いて約9.1kbのフラグメントが得られた。高体積ライゲーション後のPCRは有効ではなかった。B:AscIで消化した低体積5’アーム-3’アームライゲーションの産物(約9.1kb、レーン1および2)およびAscIで消化したp15A-Kanベクターフラグメント(約3kb、レーン3)を示す図である。
図30】プラスミドpNG-62のマップを示す図である。これはプラスミドColoAd2.4から作製したものであり、p15A複製起点、カナマイシン耐性カセットおよびColoAd1ゲノムを含み、独自の制限部位SgfIとSbfIとの間にGFPレポーター遺伝子の導入遺伝子カセットが挿入されている。
図31】pNG-62プラスミド内に存在する導入遺伝子カセットの模式図である。このカセットは、分岐スプライスアクセプター配列(bSA)、KOZAK配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)cDNAおよびSV40後期ポリA配列を含む。このカセットには、ColoAd2.4ベクターへ挿入するための制限部位SgfIおよびSbfIが隣接している。
図32】pNG-62導入遺伝子カセットを含む制限消化された構築物を示す図である。5つの構築物はいずれも正しい大きさのカセットを含む。
図33】A:pNG-62プラスミドを酵素NheIおよびEcoRVで消化した予備的制限分析を示す図である。1.5:1のライゲーション比で得られた番号1、2および3の構築物ならびに2:1のライゲーション比で得られた番号1、2および4の構築物は、pNG-62プラスミドに対応する正しいバンドパターンを示した。B:2つのpNG-62構築物およびpNG-62を構築したプラスミドColoAd2.4の酵素BglIIまたは酵素NheI/EcoRVによる診断的制限消化を示す図である。DNAフラグメントのバンドパターンから、pNG-62プラスミドの構築が確認された。
図34】A:NG-62ゲノムDNAをトランスフェクトしたHek293細胞から回収したNG-62ウイルス粒子に24時間(上のパネル)または48時間(下のパネル)感染させたAD293細胞の明視野顕微鏡像である。B:Aの明視野像に対応する蛍光顕微鏡像であり、NG-62ウイルス粒子に24時間(上のパネル)または48時間(下のパネル)感染させたAD293細胞でのGFP発現を示している。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(詳細な説明)
本明細書で使用されるベクターは、遺伝物質を、例えばその複製および/または発現が可能な、別の構築物または細胞内に人為的に運搬する運搬体として用いられるDNA分子を指す。シャトルベクターの調製方法およびシャトルベクターそのものにより、本発明者らは、アデノウイルスゲノムの操作を可能にするのに必要な機能性をすべて含むプラスミドを構築することが可能になった。
【0045】
本明細書で使用されるシャトルベクターは、例えば2種類の宿主細胞、通常、細菌細胞および哺乳動物細胞内で増殖することができる、ベクターを指す。
【0046】
先行技術のシャトルベクターは一般に、3’アームに最小限のアデノウイルスゲノムDNA、例えば約100塩基対の逆方向末端反復(ITR)配列などが含まれるに過ぎない。この3’フラグメントは組換えを可能にするには十分であるが、E4、E3およびL5遺伝子が位置する3’末端でゲノムに操作をすることを可能にするものではない。通常、PCR法および単純な2つのDNAフラグメントのライゲーションを用いて、短い3’アームを有する小型のシャトルベクターを組み立てる。しかし、多数のアデノウイルス遺伝子を操作することが可能なより大型のシャトルベクターをライゲーションで作製するとなると、相当な大きさのDNAフラグメントを3つ用いるため、より難度が高く予測不可能なものとなる。
【0047】
本開示による方法で使用される3’アーム(フラグメントiii)は一般に、必要に応じてE3部位および/またはE4部位を含む。一実施形態では、3’アームは、例えばウイルスゲノムのフラグメントとして、3’ITR、L5およびE3部位を含む、すなわち、遺伝要素が、ウイルス内での本来の位置に対応する位置を有する(かつ、例えば、フラグメントはE4部位を含まない)。一実施形態では、3’アームは、例えばウイルスゲノムのフラグメントとして、3’ITR、L5およびE4部位を含む、すなわち、遺伝要素が、ウイルス内での本来の位置に対応する位置を有する(かつ、例えば、フラグメントはE3部位を含まない)。一実施形態では、3’アームは、例えばウイルスゲノムのフラグメントとして、3’ITR、L5、E3部位およびE4部位を含む、すなわち、遺伝要素が、ウイルス内での本来の位置に対応する位置を有する。
【0048】
先行技術では一般に、3片のDNAをライゲートしてシャトルベクターを形成する場合、第1段階で2片をライゲートし、次いで第2段階で第三のDNA片をライゲートするという、2段階のライゲーションを用いる。これには、大型のDNA片を一緒にライゲートするのは非効率的な工程であるという理由がある。驚くべきことに、通常の方法では、必要な大きさのアデノウイルスのシャトルベクターおよびプラスミドを上手く作製できなかった。このため、PCR法および2段階のライゲーション法による2つのDNAフラグメントのライゲーションを用いて、本発明者らの手で作業を数か月間実施するも、アデノウイルスシャトルベクターは全く作製されなかった。
【0049】
本発明者らは、本発明の1段階の三者ライゲーション法を用いることにより、この問題を克服した。驚くべきことに、様々な条件下で複数の実験を実施したところ、最終的には確実で効率的な1段階の三者ライゲーションが明らかになった。ライゲーションを成功させるには、三者ライゲーションのDNA要素の割合が重要であるように思われる。理論的には、3つのDNAセグメントを同時に組み立てるのは2つのDNAセグメントを同時に組み立てるよりも難しいことから、この1段階の方法は若干直観に反するものではある。しかし、本開示の方法は有効であり、必要な大きさのシャトルベクターおよびプラスミドの調製を可能にすることが本発明者らによって明らかにされている。
【0050】
E3部位、L5遺伝子およびE4部位を含むシャトルベクターが作製されると、本発明者らは、シャトルベクターに独自の制限部位を導入し、次いで、初期遺伝子から除去され導入遺伝子が導入され得る位置に新規な独自の制限部位を有する完全ゲノムを含むプラスミドを作出することができた。この実施形態では、制限部位を導入する段階b)を段階a)の後に実施した。これに代わる方法としては、例えば、既に制限部位および/または導入遺伝子を含む3’アーム(フラグメントii)を調製するものがある。これを達成する1つの方法が、ライゲーション段階を実施する前に、所望の構造および機能をすべて有する3’アームフラグメントを合成することによるものである。後者の実施形態では、段階a)の前に段階b)を実施する。繰り返し使用することが可能なクローニングプラットフォームを必要とする場合、制限部位を用いる。1つの特定のウイルス構築物のみを必要とする場合、単に導入遺伝子とそれが機能するのに必要な機構のみを挿入すればよい。したがって、本開示の代替的な一態様では、制限部位は全く挿入せず、むしろ、必要とされる位置に1つまたは複数の導入遺伝子を直接挿入する。
【0051】
5’アームフラグメントも同様に、必要な要素、配列および/または機能性を用いて調製し得る、例えば合成し得ることは明らかである。
【0052】
合成アデノウイルスフラグメントを用いる場合、それらを組み立てて、完全に機能するウイルスまたはウイルスベクターを作製し得る。
【0053】
本明細書で使用されるDNA構築物は、シャトルベクターまたはプラスミドを指す。
【0054】
本明細書で使用されるウイルス構築物は、本開示による複製可能なウイルスまたは複製欠損ウイルスを指す。
【0055】
アデノウイルス
本開示は、あらゆる種類のアデノウイルスに幅広く適用可能であり、例えば表1に示されるようなヒトアデノウイルス、例えばサブグループBアデノウイルスなど、特にキメラアデノウイルスEnAd(Enadenotucirev)、OvAd1およびOvAd2に特に適している。
【0056】
文脈上別の意味であることが明らかでない限り、本明細書で使用されるアデノウイルスは、ウイルスベクターを含めアデノウイルスまたは任意の起源、血清型を指す総称である。文脈上別の意味であることが明らかでない限り、本明細書で使用されるアデノウイルスゲノムはアデノウイルスの遺伝子DNA全体を意味する。
【0057】
ゲノムDNAとは、アデノウイルスゲノム由来のDNAの一部または全部のことである。
【0058】
アデノウイルスは正二十面体の非エンベロープ型二本鎖DNAウイルスであり、約34~48キロ塩基対(Kb)の直鎖状ゲノムを有する。アデノウイルスはそのゲノムの大きさゆえに、その安定性または感染力に大きな影響を及ぼさずに追加で組み込むことができる外来DNAは、ゲノムの約10%である。このため、これよりも長い配列を組み込むためには一般に、ウイルスの遺伝子の一部を除去する必要がある。
【0059】
一実施形態では、アデノウイルスはヒトアデノウイルスである。本明細書で使用されるヒトアデノウイルスは、現在知られており、赤血球凝集性を含めた様々な特性に基づいてサブグループA~Fに分類される(Shenk,2001を参照されたい)、50を超えるアデノウイルス血清型のいずれかに属する任意のアデノウイルスを指し、さらに、現時点で未同定または未分類の任意のアデノウイルス血清型にも及ぶ。例えば、表1に示すように、Strauss,“Adenovirus infections in humans,” in The Adenoviruses,Ginsberg,Plenum Press,New York,NY,pp.451-596(1984)ならびにShenk,“Adenoviridae:The Viruses and Their Replication,” in Fields Virology,Vol.2,Fourth Edition,Knipe,35ea.,Lippincott Williams & Wilkins,pp.2265-2267(2001)を参照されたい。
【0060】
【表1】
【0061】
これまでに検討されたヒトアデノウイルスゲノムはいずれも、同じ一般的構造を有する、すなわち、特定の機能をコードする遺伝子がウイルスゲノム内の同じ位置に位置している。ウイルスゲノムの各末端には、ウイルス複製に必要な逆方向末端反復(またはITR)として知られる短い配列がある。ウイルスゲノムには5つの初期転写単位(E1A、E1B、E2、E3およびE4)、3つの遅延初期単位(IX、IVa2およびE2後期)のほか、プロセシングを受けて5つのファミリーの後期mRNA(L1~L5)を生じる1つの後期単位(主要後期)が含まれている。初期遺伝子によってコードされるタンパク質は主として複製および感染に対する宿主細胞応答に関与するのに対し、後期遺伝子はウイルス構造タンパク質をコードする。初期遺伝子には前にEの文字が付され、後期遺伝子には前にLの文字が付される。
【0062】
Ad11ゲノム内の遺伝子の位置のまとめを実施例に記載する。
【0063】
ITRは既知の全アデノウイルスに共通してみられるものである。逆方向末端反復(ITR)配列は、その対称性を理由に命名されたものであり、ウイルス染色体の複製起点である。この配列の別の特性としてヘアピン形成能がある。本明細書で使用される5’ITRは、ゲノムの5’末端にあるITRを指す。本明細書で使用される3’ITRは、ゲノムの3’末端にあるITRを指す。
【0064】
本明細書で使用されるL5遺伝子はファイバー遺伝子を意味する。ファイバー遺伝子は、アデノウイルスの主要なキャプシド成分であるファイバータンパク質をコードする。ファイバーは受容体認識において機能し、アデノウイルスが細胞に選択的に結合して感染する能力に寄与する。ファイバー遺伝子は、例えば、986塩基対の領域を含む。一実施形態では、ファイバーはゲノム、例えば、特に参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,459,153号の配列番号1で定義されるか、ウイルス寄託Genbankアクセッション番号AY598970を参照することによる、Ad11ゲノムの30811~31788の位置により定義される。
【0065】
非ヒトアデノウイルスとしては、ヒツジウイルス、ブタウイルス、イヌウイルスおよびチンパンジーウイルスが挙げられる。
【0066】
一実施形態では、アデノウイルスゲノムはサブグループBアデノウイルスゲノムである。本明細書で使用されるサブグループBは血清型Bアデノウイルスを意味する。サブグループBアデノウイルスとしては、Ad3、Ad7、Ad11、Ad14、Ad16、Ad21、Ad34、Ad35、Ad51が挙げられる。アデノウイルスのうち最も広く研究されているAd5は、サブグループCアデノウイルスである。ヒト集団ではAd5に対する免疫がよくみられ、迅速な免疫応答によってウイルスが中和される可能性があるため、Ad5は治療薬の候補としては劣る。
【0067】
一実施形態では、アデノウイルスは、EnAd(ColoAd1としても知られるEnadenotucirev配列番号1、複製能を有する腫瘍溶解性キメラアデノウイルス-国際公開第2005/118825号を参照されたい)、OvAd1(国際公開第2008080003号を参照されたい-そこに記載されている配列番号1であり、参照により本明細書に組み込まれる)、OvAd2(国際公開第2008080003号を参照されたい-そこに記載されている配列番号2であり、参照により本明細書に組み込まれる)、Ad3(Genbankアクセッション番号DQ086466)、Ad11p(Genbankアクセッション番号AY598970)などのAd11およびAd5、例えばEnAd(配列番号1)、OvAd1またはOvAd2、特にEnAdから選択される。
【0068】
一実施形態では、本開示の方法に使用されるアデノウイルスゲノムは、EnAd(配列番号1)と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの配列同一性を有する。一実施形態では、アデノウイルスゲノムは、OvAd1(国際公開第2008080003号の配列番号1)と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの配列同一性を有する。一実施形態では、アデノウイルスゲノムは、OvAd2(国際公開第2008080003号の配列番号2)と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。一実施形態では、アデノウイルスゲノムは、Ad3(Genbankアクセッション番号DQ086466)と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの配列同一性を有する。一実施形態では、アデノウイルスゲノムは、Ad11p(Genbankアクセッション番号AY598970)と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの配列同一性を有する。
【0069】
EnAdは、野生型Ad11pキャプシド、Ad3およびAd11の両方に由来するキメラE2B領域ならびにE3領域およびE4領域における欠失(特に、E3全体の欠失およびE4orf4の欠失)を有する点で有利である。このような構造変化により、ColoAd1ゲノム内に、例えば治療物質または免疫調節物質を発現する導入遺伝子カセットを挿入するための新たな「スペース」が生じる。さらに、EnAdはサブグループBアデノウイルスであるため、Ad5に比べてヒトに既存の免疫がみられる頻度が低い。
【0070】
EnAdの構造変化により、Ad11pよりも約3.5kb小さく、導入遺伝子カセットを挿入するための新たな「スペース」が生じるゲノムが得られる。EnAdは、例えばEnAdの強力な抗癌活性を増強するか、これと協同する多岐にわたる治療用タンパク質を送達するのに適した運搬体となる。このほか、OvAd1およびOvAd2は、同じくゲノム内に新たな「スペース」を有する、ColoAd1と類似したキメラアデノウイルスである(国際公開第2008/080003号を参照されたい)。
【0071】
本明細書で使用される配列同一性は、2つのポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列が比較ウィンドウにわたって、例えばその長さ全体にわたって一致する(すなわち、ヌクレオチド同士または残基同士に基づく)ことを指す。「配列同一性の百分率」という用語は、最適に整列させた2つの配列を比較ウィンドウにわたって比較し、両配列に一致する核酸塩基(例えば、A、T、C、G、UまたはI)または残基がみられる位置の数を決定してマッチする位置の数を求め、それを比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわち、ウィンドウサイズ)で除し、その結果に100を乗じて配列同一性の百分率を求めることにより算出されるものである。
【0072】
本明細書で使用される「実質的同一性」という用語は、ポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の特徴を表し、ここでは、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸は、少なくとも18個のヌクレオチド(6個のアミノ酸)位置の比較ウィンドウにわたって、多くの場合、少なくとも24~48個のヌクレオチド(8~16個のアミノ酸)位置のウィンドウにわたって参照配列と比較したとき、少なくとも85パーセントの配列同一性、例えば少なくとも90~95パーセントの配列同一性、特に少なくとも99パーセントの配列同一性を有する配列を含み、配列同一性の百分率は、参照配列と、合計で参照配列の20パーセント以下の欠失または付加を含み得る配列とを比較ウィンドウにわたって比較することにより算出される。参照配列は、それより大きい配列の一部分であり得る。
【0073】
「類似性」という用語は、ポリペプチドを記載するために使用される場合、あるポリペプチドのアミノ酸配列および保存的アミノ酸置換と、第二のポリペプチドとを比較することにより決定されるものである。
【0074】
「相同」という用語は、ポリヌクレオチドを記載するために使用される場合、2つのポリヌクレオチドまたはその指定された配列を最適に整列させて比較したとき、しかるべきヌクレオチド挿入または欠失を有し、ヌクレオチドの少なくとも70%、通常、ヌクレオチドの約75%~99%、特に少なくとも約98~99%が一致することを表す。一実施形態では、所与の配列の全長にわたって比較を実施する。
【0075】
一実施形態では、アデノウイルスゲノムはキメラE2B領域、例えば、E2B領域を含むゲノムを有する組換えキメラアデノウイルスまたはその変異体もしくは誘導体を有し、前記E2B領域は、第一のアデノウイルス血清型に由来する核酸配列と、第二のアデノウイルス血清型に由来する核酸配列とを含み;前記第一の血清型および前記第二の血清型は、それぞれ独立してアデノウイルスサブグループB、C、D、EまたはFから選択され、かつ互いに異なっており;前記キメラアデノウイルスは、特に参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2005/118825号に開示されるように、腫瘍溶解性であり、腫瘍細胞に対する治療指数の増大を示す。
【0076】
一実施形態では、アデノウイルスゲノムはE3領域の一部または全部が欠失または変異しており、例えば、E3領域が変異している。一実施形態では、アデノウイルスゲノムはE4領域の一部または全部が欠失または変異しており、例えば、E4orf4が欠失している。
【0077】
複製欠損および複製可能
一実施形態では、使用するアデノウイルスゲノムは、複製可能なアデノウイルス、特に複製能を有するアデノウイルス由来のものである。一実施形態では、本開示のウイルスまたはウイルス構築物は複製可能なもの、特に複製能を有するものである。一実施形態では、EnAdは複製可能なものである。
【0078】
本明細書で使用される複製可能は一般に、例えばパッケージング細胞系を必要とせずに、複製することが可能なウイルスを指す。本明細書ではこのようなウイルスは、ウイルス、複製能を有するウイルス(複製可能なウイルスのサブグループである)および条件付きで複製するウイルス(複製可能なウイルスのサブグループでもある)または生存ウイルスとも呼ばれる。したがって、本明細書で使用される複製可能なウイルスは、条件付きで複製するウイルスおよび複製能を有するウイルスを指す。
【0079】
本明細書で使用される条件付きで複製するウイルスは、ある特定の遺伝子を発現、過剰発現または過小発現する癌細胞などの細胞内、例えばp53遺伝子を過小発現する細胞内で複製することが可能なウイルスを指す。
【0080】
複製能を有するウイルスとは、ヘルパーウイルスまたは補完/パッケージング細胞系の補助がなくても、例えばin vivoおよび/またはex vivoで複製するのに必要な機構をすべて有するウイルスのことである。
【0081】
文脈上別の意味であることが明らかでない限り、本明細書で使用される「ウイルス」は(上で定義されるアデノウイルスとは異なり)、複製可能なウイルス、例えば複製能を有するウイルスを指す。したがって、一実施形態では、本明細書で使用されるウイルスは一般に、複製能を有するウイルス、例えば、腫瘍溶解性ウイルスのような治療用ウイルスなどを指す。
【0082】
一実施形態では、本開示による方法に使用するアデノウイルスゲノムは、複製可能でないアデノウイルスベクター由来である。一実施形態では、本開示のウイルスまたはウイルス構築物は非複製型(複製欠損とも呼ばれる)である。非複製型アデノウイルス、例えばウイルスベクター(ワクチン抗原などの導入遺伝子の送達、抗体などの細胞内送達に運搬体として使用されるもの)は一般に、複製に不可欠な1つまたは複数の遺伝子が除去されている。特に明示されない限り、本明細書で使用されるウイルスベクターは複製欠損である。
【0083】
複製欠損アデノウイルスとは、複製するのにヘルパーウイルスまたは補完/パッケージング細胞系を必要とするウイルスのことである。複製するのにパッケージング細胞系を必要とするアデノウイルス(例えば、導入遺伝子を含むアデノウイルス)は一般に、ウイルスベクターと呼ばれる。一実施形態では、例えばE1領域の一部または全部の欠損により、EnAdを複製欠損にする。
【0084】
複製に不可欠な1つまたは複数の遺伝子を除去する理由は2つある。第一に、ベクターはin vivoで複製することができないため、安全性プロファイルが単純化されると考えられる。第二に、遺伝子を欠失させると、ゲノム内にスペースが生じることにより大型の導入遺伝子の挿入が可能になる。これらの導入遺伝子は、ウイルスベクターが複製することができないにもかかわらずin vivoで発現し得る。一実施形態では、ウイルスベクター作製時にウイルスからE1遺伝子を欠失させ、いくつかの場合には、これに代えて、または加えて、E3領域の一部または全部を欠失させる。
【0085】
パッケージング細胞系とは、遺伝子が欠損した問題のウイルスを補助するよう調製された組換え細胞系のことである。本明細書で使用されるパッケージング細胞は、ウイルスが複製に不可欠な要素を欠損している場合にウイルスにその要素を供給することができる細胞を意味する。パッケージング細胞系の例としては、PerC6細胞系が挙げられる。一実施形態では、パッケージング細胞系はHEK細胞である。
【0086】
ウイルス遺伝子
E1はウイルス複製に何らかの役割を果たしている。E1領域を欠失または変異させることにより、ウイルスは特定の「パッケージング」細胞系の補助がないと複製できないようになる。
【0087】
一実施形態では、本開示のウイルスベクターのゲノムのE1領域は全体または一部分が欠失している。一実施形態では、E1部位がE1領域の欠失であるか、5’アームにおいてE1領域のフラグメントが欠失している。
【0088】
本明細書で使用されるE1部位は、E1領域の全体または一部分に欠失または置換があるか、E1領域に欠失も置換もないかに関係なく、E1領域の位置を指す。「E1部位」という用語は、E1が変異している場合、E1の一部分が欠失している場合、E1全体が欠失している場合またはE1全体がインタクトであり変異していない場合を包含する。例えばE1に関連する任意の非コード領域の後ろから始まる場合を含め、フラグメントまたは配列がE1領域の後ろから始まるか、その前で終わる場合、例えば配列がE2領域内で始まるような場合、E1部位は存在しなくてもよい。一実施形態では、E1部位は、E1領域またはその機能的フラグメントもしくは変異からなる。一実施形態では、E1が存在し、完全かつ/または機能的である。
【0089】
E3は、ウイルス感染に対する宿主細胞の応答を調節するのに重要なタンパク質をコードする。
【0090】
本明細書で使用されるE3部位は、アデノウイルスゲノム内でE3遺伝子または領域が存在するか、存在することが予想され得る位置を指す。E3遺伝子は、その全体が存在していても、そのフラグメントとして存在していても、その全体が存在しなくても、その一部分または全体が変異していてもよい。したがって、本明細書で使用されるE3部位は、E3領域の全体または一部分に欠失または置換があるか、E3領域に欠失も置換もないかに関係なく、E3領域の位置を指す。すべての既知のヒトアデノウイルスでアデノウイルスのゲノム構造が一様であることを考えれば(図1を参照されたい)、当業者は、遺伝子が存在するか欠失しているかに関係なく、E3部位を特定することができる。実際、問題のフラグメントまたは配列が、例えばE3に関連する任意の非コード領域を含め、E3領域を超えてから始まる場合、あるいはE3領域の前で終わる場合、例えば配列がL5領域内で始まるような場合、E3部位が存在しないことがある。
【0091】
本明細書で使用されるE4部位は、アデノウイルスゲノム内でE4遺伝子または領域が存在するか、存在することが予想され得る位置を指す。E4遺伝子は、その全体が存在していても、そのフラグメントとして存在していても、その全体が存在しなくても、その一部分または全体が変異していてもよい。したがって、本明細書で使用されるE4部位は、E4領域の全体または一部分に欠失または置換があるか、E4領域に欠失も置換もないかに関係なく、E4領域の位置を指す。すべての既知のヒトアデノウイルスでアデノウイルスのゲノム構造が一様であることを考えれば(図1を参照されたい)、当業者は、遺伝子が存在するか欠失しているかに関係なく、E4部位を特定することができる。実際、問題のフラグメントまたは配列が、例えばE4に関連する任意の非コード領域を含め、E4領域を超えてから始まる場合、あるいはE4領域の前で終わる場合、例えば配列がL5領域内で始まるような場合、E4部位が存在しないことがある。
【0092】
L5遺伝子は後期発現キャプシドタンパク質ファイバーをコードする。
【0093】
一実施形態では、L5領域は完全長配列またはその機能フラグメント、例えば、特にin vitroアッセイで野生型遺伝子の50%以上、例えば60%、70%、80%、90%または100%などの活性を保持するフラグメントである。一実施形態では、L5は、ゲノムDNA L5遺伝子の80%以上、例えば85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%、を含む。
【0094】
一実施形態では、E3、E4またはL5遺伝子の一部または全部が独立して変異している。
【0095】
本明細書で使用される「変異している」は、関連する遺伝子の改変、例えば、点変異、欠失変異、付加変異、正変異、置換変異および/またはフレームシフト変異を指す。1つまたは複数の実施形態では、変異している遺伝物質の量は、関連する配列の10%以下である。必須遺伝子、例えばL5(ファイバー遺伝子)では、変異遺伝子においてその遺伝子の機能が維持され、例えば機能の50、60、70、80、90または100などが保持されているか、機能が増大している、すなわち、機能が未変異遺伝子の100%を上回る。
【0096】
制限部位
本明細書で使用される制限部位とは、制限酵素によって特異的に認識されて切断される短いDNA配列のことである。
【0097】
本明細書で使用される適切な制限部位は、ウイルスのゲノムDNAを所与の位置で、例えば初期遺伝子ではないDNAの領域で特異的に切断するのに(しかるべき制限酵素とともに)用い得る部位を意味する。一実施形態では、DNAを切断して導入遺伝子の挿入を容易にする。一実施形態では、適切な部位は通常、ゲノムの5’末端および/またはウイルスゲノムの3’末端あるいは3’アームフラグメントおよび/または5’アームフラグメントの対応する位置の付近に存在し、これにより、例えば図面に示されるように、DNAを直線化し操作することが可能になる。
【0098】
一実施形態では、適切な制限部位は、シャトルベクターが約4~5Kbの3’アームおよび/または5’アームを有するように、3’ITRSおよび/または5’ITRSの末端から約4~5Kbの位置にある。このことは、シャトルベクターとアデノウイルスゲノムとの間での効率的な相同組換えが可能になる点で有利ある。この設計によりほかにも、シャトルベクターに(例えば5’アーム内に)E1遺伝子ならびに(例えば3’アーム内に)ファイバーおよびE4遺伝子を含ませ、これらの遺伝子を取り囲む任意の領域が導入遺伝子カセット挿入のために操作され得るようにすることが可能になる。
【0099】
一実施形態では、シャトルベクターは、さらに1つ、2つまたは3つの適切な/独自の制限部位を含む。一実施形態では、シャトルベクターの他のどの位置にも適切な制限部位を挿入しない。一実施形態では、例えばE1、E2、E3およびE4から独立して選択される、少なくとも1つの初期遺伝子またはその一部分の周囲に制限部位を組み込んで、当業者がゲノムを操作するためのさらなる選択肢を与える。
【0100】
適切な制限制限は一般に、独自の制限部位である。制限部位と関連する「独自の」、「新規な」、「固有の」は、本明細書では互換的に使用され、特異的に切断され得る制限部位を指すものとする。制限部位またはいくつかの場合には1対の制限部位は、それが切断されるのが望ましい位置にのみ現れる場合に特異的に切断され得る。したがって、ウイルスゲノムまたはゲノムDNA内に制限部位が1回のみ現れるか、1対の制限部位が1回のみ現れる場合、この制限部位(対の場合は複数の制限部位)がしかるべき酵素によって特異的に切断され得る。したがって、一実施形態では、「独自の」、「新規な」または「固有の」は、それまでウイルスゲノムまたは関連するゲノムDNA内のいずれの場所にも存在していなかった制限部位または制限部位の対の導入を指す。したがって、一実施形態では、適切な制限部位はアデノウイルスゲノムに非天然(外来性)のものである。一実施形態では、独自の制限部位または制限部位の対は、ウイルスゲノムまたはゲノムDNA内に1回のみ現れる。一実施形態では、適切な制限部位は付着末端を生じる。一実施形態では、適切な制限部位はしかるべき市販の制限酵素によって切断される。
【0101】
したがって、制限部位とは、制限酵素によって、通常、配列に特異的な酵素によって切断され得るDNA配列の位置のことである。一実施形態では、制限部位は3~22対の塩基対、例えば、4~22対、例えば5対、6対、7対、8対、9対、10対、11対、12対、13対、14対、15対、16対、17対、18対、19対、20対、2対または22対の塩基対を含む。
【0102】
本明細書で使用される「導入された」または「導入すること」は一般に、天然、野生型または開始時のアデノウイルスゲノムには存在しない制限部位を挿入することを指す。
【0103】
一実施形態では、本明細書で使用される独自の制限部位は、プラスミド内またはウイルス構築物内に1回だけ現れる制限部位を意味する。これにより、所与の制限酵素がプラスミドを1つの既知の位置でのみ切断するのを確実にすることが可能になる。本開示の文脈においては、独自の制限部位は通常、ゲノム内に導入されたものであって、天然に存在していたものではない酵素のことである。
【0104】
一実施形態では、本明細書で使用される独自の制限部位は、特に、導入される制限部位がウイルスに天然に存在するものではなく、それにより、所与の制限酵素を用いたときにウイルスのゲノムが切断される位置に特異性を付与する場合に、組換え技術によってアデノウイルスゲノム内に導入される制限部位を指す。
【0105】
したがって、別の実施形態では、本明細書で使用される独自の制限部位は、プラスミド、ウイルスまたはシャトルベクター内に1回のみ現れる制限部位を意味する。これにより、所与の制限酵素がプラスミドを1つの既知の位置でのみ切断するのを確実にすることが可能になる。
【0106】
独自の制限部位は特に、導入遺伝子カセットを、例えば初期遺伝子から除去された位置で、ゲノム内に挿入することを可能にする。
【0107】
この方法はアデノウイルスに幅広く適用可能であり、ColoAd1、OvAd1、OvAd2、Ad3、Ad11およびAd5では、シャトルベクターを構築するためのしかるべき5’アームおよび3’アームをもたらし得る適切な制限部位が特定されている。
【0108】
したがって、本開示の方法は、例えば導入遺伝子の導入によって活性の増強がもたらされた治療用ウイルスの作製の出発点として用いられ得る。
【0109】
一実施形態では、独自の制限部位は、FseI、NotI、SbfIおよびSgfI、例えば、NotIまたはSbfIとSgfIまたはFseIとNotIとSbfIとSgfIから独立して選択される。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0110】
本明細書で使用されるFseIは、以下の配列-GGCCGG/CC-において制限酵素により切断される制限部位を指す。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0111】
本明細書で使用されるNotIは、以下の配列-GC/GGCCGC-において制限酵素により切断される制限部位を指す。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0112】
本明細書で使用されるSbfIは、以下の配列-CCTGCA/GG-において制限酵素により切断される制限部位を指す。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0113】
本明細書で使用されるSgfIは、以下の配列-GCGAT/CGC-において制限酵素により切断される制限部位を指す。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0114】
一実施形態では、ゲノムの所与の位置に2つ以上の独自の制限部位を挿入する。
【0115】
一実施形態では、独自の制限部位は、L5遺伝子とE3部位との間の位置にある単一の独自の制限部位である。例えば、L5遺伝子とE3部位との間の位置に導入された、NotIなどの単一の独自の制限部位など。一実施形態では、この単一の独自の制限部位は、プラスミドまたはウイルス構築物内に導入された唯一の独自の制限部位である。
【0116】
一実施形態では、独自の制限部位は、L5遺伝子とE4部位との間の位置にある1つまたは2つ(2つなど)の独自の制限部位、例えば、L5遺伝子とE4部位との間の位置に導入された2つの独自の制限部位、例えば1つのSbfI部位と1つのSgfI部位である。一実施形態では、これらはシャトルベクター、プラスミドまたはウイルス構築物内に導入された、ただ2つの独自の制限部位である。
【0117】
一実施形態では、独自の制限部位は、L5遺伝子とE3部位との間の位置にある単一の独自の制限部位およびL5遺伝子とE4部位との間の位置にある3つの独自の制限部位、例えば、L5遺伝子とE3部位との間の位置に導入された単一の独自の制限部位、例えば1つのFseI部位などおよびL5遺伝子とE4部位との間の位置に導入された3つの独自の制限部位、例えば1つのNotI部位と、1つのSlbfI部位と、1つのSgfI部位などである。一実施形態では、これらはシャトルベクター、プラスミドまたはウイルス構築物内に導入された、ただ4つの独自の制限部位である。
【0118】
一実施形態では、FseIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。RigIは、FseIと同じ配列において切断する既知の制限酵素であり、したがって、FseI制限部位はRigI制限部位としても知られる。
【0119】
一実施形態では、NotIは、グループColoAd1およびAd11から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。CciNIは、NotIと同じ配列において切断する既知の制限酵素であり、したがって、NotI制限部位はCciNI制限部位としても知られる。
【0120】
一実施形態では、SbfIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。SdaIおよびSse83871は、SbfIと同じ配列において切断する既知の制限酵素であり、したがって、SbfI制限部位はSdaI制限部位またはSse83871制限部位としても知られる。
【0121】
一実施形態では、SgfIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。AsiSI、RgaIおよびSfaAIは、SgfIと同じ配列において切断する既知の制限酵素であり、したがって、SgfI制限部位はAsiSI制限部位、RgaI制限部位またはSfaAI制限部位としても知られる。
【0122】
一実施形態では、ClaIは、Ad5アデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるClaIは、以下の配列-AT/CGAT-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。BspDI、ZhoI、BspDI、BanIII、Bsa29I、BseCI、BshVI、BsiXI、Bsp106I、BspXI、Bsu15IおよびBsuTUIは、ClaIと同じ配列において切断する既知の制限酵素であり、したがって、ClaI制限部位は、BspDI制限部位、ZhoI制限部位、BspDI制限部位、BanIII制限部位、Bsa29I制限部位、BseCI制限部位、BshVI制限部位、BsiXI制限部位、Bsp106I制限部位、BspXI制限部位、Bsu15I制限部位またはBsuTUI制限部位としても知られる。
【0123】
一実施形態では、PacIは、Ad5アデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるPacIは、以下の配列-TTAAT/TAA-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0124】
一実施形態では、MluIは、グループAd3およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるMluIは、以下の配列-A/CGCGT-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0125】
一実施形態では、BstBIは、Ad5アデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるBstBIは、以下の配列-TT/CGAA-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。SfuI、AsuII、Bpu14I、BsiCI、Bsp119I、BspT104I、Csp45IおよびNspVは、BstBIと同じ配列において切断する既知の制限部位であり、したがって、BstBI制限部位は、SfuI制限部位、AsuII制限部位、Bpu14I制限部位、BsiCI制限部位、Bsp119I制限部位、BspT104I制限部位、Csp45I制限部位またはNspV制限部位としても知られる。
【0126】
一実施形態では、BclIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、Ad5、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるBclIは、以下の配列-T/GATCA-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。BsiQI、FbaIおよびKsp221は、BclIと同じ配列において切断する既知の制限部位であり、したがって、BclI制限部位は、BsiQI制限部位、FbaI制限部位またはKsp221制限部位としても知られる。これらの制限部位は一般に好ましくない。
【0127】
一実施形態では、平滑末端切断制限酵素部位、例えばPmeI、SrfIおよびSwaIを独自の制限部位として用いる。
【0128】
一実施形態では、PmeIは、グループColoAd1、Ad11、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるPmeIは、以下の配列-GTTT/AAAC-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0129】
一実施形態では、SrfIIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、Ad5、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるSrfIIは、以下の配列-GCCC/GGGC-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0130】
一実施形態では、SwaIは、グループColoAd1、Ad11、Ad3、Ad5、OvAd1およびOvAd2から選択されるアデノウイルスゲノムに導入するのに適した独自の制限部位である。本明細書で使用されるSwaIは、以下の配列-ATTT/AAAT-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0131】
一実施形態では、NotI以外の独自の制限部位がL5遺伝子とE3部位との間の位置にある。一実施形態では、L5遺伝子とE4部位との間の位置に2つの独自の制限部位、例えば1つのSbfIと1つのSgfIなどが存在する。
【0132】
一実施形態では、4つの独自の制限部位が存在し、そのうち1つの独自の制限部位はL5遺伝子とE3部位との間の位置にあり、3つの独自の制限部位はL5遺伝子とE4部位との間の位置にある。例えば、1つの独自の制限部位がFseIであり、3つの独自の制限部位がSbfI、SgfIおよびNotIのそれぞれ1つずつである場合など。
【0133】
一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスゲノムは、配列番号32の配列を有する。一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスゲノムは、配列番号33の配列を有する。一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスゲノムは、配列番号34の配列を有する。
【0134】
一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスは、配列番号32と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの同一性を有する。一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスは、配列番号33を少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの同一性を有する。一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位を含むアデノウイルスは、配列番号34と少なくとも95%の配列同一性、例えば96%、97%、98%、99%または100%などの同一性を有する。
【0135】
調製されたプラスミドおよびシャトルベクターは、アデノウイルスのゲノムの周囲に新規な独自の制限部位の組合せを有する。次いで、アデノウイルスゲノムの操作される部分をコントロールするためにこれらを選択して用いることができる。
【0136】
独自の制限部位を戦略的に導入して、例えば、所望に応じて、導入遺伝子が1つの制限部位の位置に挿入されるように、あるいは選択した2つの制限部位の間にあるゲノムのセクションが欠失するようにする。
【0137】
一実施形態では、プラスミドは、少なくとも1つのE1の独自の制限部位をさらに含む。本明細書で使用されるE1の独自の制限部位は、アデノウイルスゲノムのE1領域内に導入された制限部位を指す。いくつかの実施形態では、E1遺伝子は存在するが、導入されたE1の独自の制限部位によって分断されており、他の実施形態では、E1遺伝子は欠失しており、導入されたE1の独自の制限部位に置き換わっており、また別の実施形態では、E1遺伝子は存在するが、その機能は導入されたE1の独自の制限部位による変化を受けていない。
【0138】
一実施形態では、1つまたは複数の制限部位は:
・NotIおよびCciNIによって切断され5’-GGCCオーバーハングが残る配列GCGGCCGC
・FseIおよびRigIによって切断され3’-CCGGオーバーハングが残る配列GGCCGGCC
・AsiSI、RgaI、SgfIおよびSfaAIによって切断され3’-ATオーバーハングが残る配列GCGATCGC
・SbfI、SdaIおよびSse83871によって切断され3’-TGCAオーバーハングが残る配列CCTGCAGG
・BclI、FbaI、Ksp221およびBsiQ1によって切断され5’-GATCオーバーハングが残る配列TGATCA
・I-Cre1によって切断され3’-GTGAオーバーハングが残る配列CAAAACGTCGTGAGACAGTTTG[配列番号41]
・I-CeuIによって切断され3’CTAAオーバーハングが残る配列TAACTATAACGGTCCTAAGGTAGCGAA[配列番号42]
・I-Sce1によって切断され3’ATAAオーバーハングが残る配列TAGGGATAACAGGGTAAT[配列番号43]
・SrfIによって切断され平滑末端が残る配列GCCCGGGC
・MssI、PmeIによって切断され平滑末端が残る配列GTTTAAAC
・SwaI、SmiIによって切断され平滑末端が残る配列ATTTAAAT
・AscI、PalA1およびSgsIによって切断され5’CGCGオーバーハングが残る配列GGCGCGCC
から独立して選択される。
【0139】
同じ認識部位を切断する他の制限酵素も適し得る。
【0140】
一実施形態では、3’アームとベクターフラグメントに存在する第一の制限部位は同じ制限部位(すなわち、同じ制限酵素によって切断される部位)である。これにより、ベクターフラグメント5’末端と3’アームの3’末端との連結が容易になる。
【0141】
一実施形態では、5’アームとベクターフラグメントに存在する第二の制限部位は同じ制限部位(すなわち、同じ制限酵素によって切断される部位)である。これにより、ベクターフラグメントの3’末端と5’アームの5’末端との連結が容易になる。
【0142】
一実施形態では、第一の制限酵素部位および第二の制限酵素部位は、グループFseI、RigI、NotI、CciNI、SbfI、SdaI、Sse83871、SgfI、AsiSI、RgaI、SfaAI、ClaI、BspDI、ZhoI、BspDI、BanIII、Bsa29I、BseCI、BshVI、BsiXI、Bsp106I、BspXI、Bsu15I、BsuTUI、PacI、MluI、BstBI、SfuI、AsuII、Bpu14I、BsiCI、Bsp119I、BspT104I、Csp45I、NspV、BclI、BsiQI、fbaI、Ksp221、PmeI、SrfIおよびSwaIから独立して選択される。
【0143】
一実施形態では、第一の制限部位はAscIである。一実施形態では、第二の制限酵素部位はAscIである。本明細書で使用されるAscIは、以下の配列-GG/CGCGCC-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。一実施形態では、第一の制限部位と第二の制限部位は同じものである。一実施形態では、第一の制限酵素部位および第二の制限酵素部位はそれぞれAscIである。
【0144】
1つの制限酵素部位を第一および/または第二の制限酵素部位あるいは第三の制限酵素部位として用いる一実施形態では、ゲノムDNAが2つ以上の位置で切断される。
【0145】
一実施形態では、アデノウイルスのゲノムまたはゲノムDNA(5’アームなど)内の制限部位は制限部位PspOMIを含み、この制限部位は例えば、ゲノムの4628、20891および27840の位置またはこれに対応する位置に位置する。一実施形態では、アデノウイルスがEnAdであるか、ゲノムDNAがEnAdに由来するものである。
【0146】
一実施形態では、第三の制限部位は1種類の制限部位、例えばPspOMIを指す。したがって、一実施形態では、3’アーム内および5’アーム内の第三の制限部位は同じものである。3’アーム内および5’アーム内の第三の制限部位の配列が同じであれば、シャトルプラスミドを調製する際に5’アームの3’末端と3’アームの5’末端との連結が容易になる。さらに、のちにこの部位でシャトルベクターを切断して配列を直線化し、アデノウイルスゲノムを含むプラスミドとの相同組換えを容易にすることができる(例えば、図5を参照されたい)。
【0147】
一実施形態では、例えば図面に示されるように、シャトルベクターの作製に第一の部位と最後の部位を用いる。
【0148】
一実施形態では、図4に示される通り、シャトルベクターが約4~5kbの3’アームおよび5’アームを有するように、制限部位がウイルスゲノム(例えば、EnAdゲノム)の5’末端およびウイルスゲノムの3’末端の付近、特に3’ITRSおよび5’ITRSの末端から約4~5kbに来るよう設計する。したがって、一実施形態では、PspOMIは5’アームおよび/または3’アーム内の「第三の制限部位」となる。この制限部位の対により、ゲノム配列に望ましくない変化を全く導入せずに、ゲノムDNAを直線化し、ウイルスゲノム(例えば、EnAdゲノム)と組み換えてプラスミドを形成することが可能になる。
【0149】
この量のDNAにより、シャトルベクターとウイルスゲノム、例えばEnAdゲノムとの間の効率的な相同組換えが可能になる。このような設計基準によりほかにも、シャトルベクターにE1遺伝子ならびにファイバーおよびE4遺伝子を含ませ、所望に応じて、これらの遺伝子およびこれらの遺伝子を取り囲む任意の領域が導入遺伝子カセット挿入のために操作され得るようにすることが可能になる。
【0150】
一実施形態では、第一の制限部位と第二の制限部位は同じ制限酵素の基質であり、第三の制限部位は異なる制限酵素の基質である。
【0151】
一実施形態では、第一の制限部位は第二の制限部位とは異なる制限酵素の基質であり、第三の制限部位は第一の制限部位および第二の制限部位それぞれと異なる制限酵素の基質である。
【0152】
本発明者らはさらに、他のアデノウイルスゲノムに適した制限部位を特定した。
【0153】
Ad5には酵素SphI(-GCATG/C-)を用い得る。制限部位はAd5ゲノムの3661および31220の位置に位置する。これらの部位はE1B遺伝子の終点およびファイバー遺伝子の始点にあり、3.6kbおよび4.7kbのシャトルベクター構築のためのPCRフラグメントを生じる。したがって、これらの部位は、導入遺伝子がE1領域内またはファイバー遺伝子の近傍に挿入され得るシャトルベクターの構築を可能にする。
【0154】
Ad3、OvAd1およびOvAd2には部位AseI(-AT/TAAT-)を用い得る。制限部位は、Ad3ゲノムでは2469および31940の位置、OvAd1ゲノムでは2488および31724の位置、OvAd2ゲノムでは2483および31949の位置に位置する。いずれのゲノムも、上記の部位がE1Bおよびファイバー遺伝子内に位置し、2.5kbおよび3.4kbのシャトルベクター構築のためのPCRフラグメントを生じる。したがって、これらの部位は、導入遺伝子がE1領域内またはファイバー遺伝子の近傍に挿入され得るシャトルベクターの構築を可能にする。
【0155】
Ad11にはPsiI(-TTA/TAA-)を用い得る。この酵素は、PspOMI、SphIおよびAseIとは異なり、平滑末端切断酵素である。PsiI制限部位はAd11ゲノムの2648および30890の位置に位置する。これらの部位はE1B遺伝子内およびファイバー遺伝子の始点にあり、2.6kbおよび4kbのシャトルベクター構築のためのPCRフラグメントを生じる。したがって、これらの部位は上記のように、独自の制限部位がE1領域内またはファイバー遺伝子の近傍に挿入され得るシャトルベクターの構築を可能にする。
【0156】
ゲノムの5’末端および3’末端を増幅して3’アームおよび5’アームを生じさせる工程では通常、PCR実施時に適切なプライマーを用いて連結用の制限部位を付加する。増幅時に、細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメント内に同じ連結用の制限部位が挿入される。この連結用の制限部位は、アデノウイルスゲノムと、細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメントとが連結されるよう設計されている。第一の制限酵素部位、第二の制限酵素部位および第三の制限酵素部位はいずれも、連結用の制限部位の例である。
【0157】
一実施形態では、3’アームおよび5’アーム内の第三の制限部位は、アデノウイルスDNAを含むプラスミド内の対応する位置にある。一実施形態では、5’アームは、5’ITRの上流に導入された連結用の制限部位を有し、3’アームは、3’ITRの下流に導入された連結用の制限部位を有する。これらの制限部位は、細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメントの切取りを可能にする。あるいは、これらの制限部位は第一の制限酵素部位および第二の制限酵素部位としても知られ、プラスミドからのアデノウイルスゲノムの切取りを可能にする。
【0158】
一実施形態では、連結用の制限部位はAscIである。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0159】
フラグメント
シャトルベクターを作製する方法と関連するベクターフラグメントは、複製起点と選択マーカーとを含むDNAフラグメントを指す。一実施形態では、ベクターフラグメントは長さ2~4Kbの領域内にある。ベクターフラグメントは、3’アームの3’末端とのライゲーションを可能にするよう配置された第一の制限酵素部位を有するベクターフラグメントの5’末端から始まる。ベクターフラグメントはさらに、低コピー細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含み、5’アームの5’末端とのライゲーションを可能にするよう配置された第二の制限酵素部位を有するベクターフラグメントの3’末端で終わる。一実施形態では、ベクターフラグメントは3Kb以下である。この長さは複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むのに十分なものである。
【0160】
本明細書で使用される5’アームは、例えば5’ITR(逆方向末端反復)を含むアデノウイルスゲノムの5’末端から数千塩基対の、DNAフラグメントを指す。アームの正確な長さは適切な制限部位の位置によって決まる。一実施形態では、5’アームは、長さが約2~5Kb、例えば、長さが約2.1kb、2.2kb、2.3kb、2.4kb、2.5kb、2.6kb、2.7kb、2.8kb、2.9kb、3.0kb、3.1kb、3.2kb、3.3kb、3.4kb、3.5kb、3.6kb、3.7kb、3.8kb、3.9kb、4.0kb、4.1kb、4.2kb、4.3kb、4.4kb、4.5kb、4.6kb、4.7kb、4.8kbまたは4.9kbなどの領域内にあり、E1部位、例えば、E1遺伝子全体またはE1遺伝子が欠失もしくは一部欠失した部位を含む。一実施形態では、5’アームは、例えばEnAdゲノムの5’末端から、4627塩基対の長さである。
【0161】
5’アームは、第二の制限部位(上述のようにベクターフラグメントの3’末端とのライゲーションを可能にするよう配置されている)を有する5’末端から始まり、5’ITRを含み、第三の制限部位(3’アームの5’末端とのライゲーションを可能にするよう配置されている)を有する5’アームの3’末端で終わる。
【0162】
一実施形態では、5’アームは非変異E1領域を含み、このため、複製能を有するウイルスの調製に用いることができる。
【0163】
一実施形態では、5’アーム内のアデノウイルスゲノムDNAの量は最小限のものであり、例えばITRなどである。一実施形態では、5’アーム内のアデノウイルスゲノムDNAの量は100bp~5kbの範囲内にある。
【0164】
本明細書で使用される3’アームは、例えば3’ITR(逆方向末端反復)を含むアデノウイルスゲノムの3’末端から数千塩基対の、DNAフラグメントを指す。アームの正確な長さは適切な制限部位の位置によって決まる。一実施形態では、3’アームは、長さが約3~5kb、例えば、長さが約3.1kb、3.2kb、3.3kb、3.4kb、3.5kb、3.6kb、3.7kb、3.8kb、3.9kb、4.0kb、4.1kb、4.2kb、4.3kb、4.4kb、4.5kb、4.6kb、4.7kb、4.8kbまたは4.9kbなどの領域内にあり、ファイバー(L5)遺伝子全体を含む。一実施形態では、3’アームは、例えばEnAdの3’末端から、4482塩基対の長さである。
【0165】
3’アームは、第三の制限部位(例えば、5’アームの3’末端とのライゲーションを可能にするよう配置されている)を有する3’アームの5’末端から始まり、L5遺伝子と3’ITRとを含み、第一の制限酵素部位(例えば、ベクターフラグメントの5’末端とのライゲーションを可能にするよう配置されている)を有する3’末端で終わる。
【0166】
一実施形態では、3’アームは、L5としても知られるファイバー遺伝子を含む。ファイバー遺伝子を3’アーム内に含ませると、後期遺伝子の操作が可能になり、ウイルスを設計するうえで柔軟性が増す点で有利である。
【0167】
本明細書で使用される「~の間の位置」は、特定の領域によって境界が定められている、または挟まれていること、例えば、ある特定領域、例えばE3部位などの最後の核酸と、第二の特定領域、例えばL5遺伝子などの最初の核酸との間の位置を指す。この文脈での最初の核酸は、関連する遺伝子/領域のフラグメントの最初の核酸を含む(すなわち、逐語的に完全長遺伝子の最初の核酸に限定されるのではなく、所与の構築物内の遺伝子に割り当てられた最初に出現する核酸を指す)。一実施形態では、この位置は、5’から3’の方向に向かって、L5遺伝子の最後の核酸とE4部位の最初の核酸との間にある。
【0168】
本明細書で使用されるL5遺伝子の近傍は、E3部位とL5遺伝子との間の位置および/またはL5遺伝子とE4部位との間の位置を指す。一実施形態では、1つまたは複数の制限部位は、独立して非コード領域に位置するか、挿入されている。一実施形態では、挿入される遺伝物質はL5遺伝子の機能を変化させることも、妨害することもない。
【0169】
導入遺伝子がアデノウイルスゲノムのL5遺伝子の近傍にあると、ウイルスの安定性および複製に干渉する可能性が低くなるため、この位置に1つまたは複数の導入遺伝子を挿入するのが特に有利である。一実施形態では、L5の後に位置する遺伝子が主要後期プロモーターの制御下またはE4プロモーターの制御下にあり得る。一実施形態では、L5の後に位置する遺伝子が外来性プロモーターの制御下にあり得る。一実施形態では、L5の前に位置する遺伝子が主要後期プロモーターまたはE3プロモーターの制御下にあり得る。一実施形態では、L5開始コドンの直前に位置する遺伝子が主要後期プロモーターの制御下にあり得、一般に、L5の発現を可能にする調節エレメントを含んでいる必要がある。
【0170】
いくつかの状況では、ファイバー遺伝子に隣接させて導入遺伝子を挿入する、例えば、導入遺伝子がL5遺伝子に直接隣接するか、その数塩基以内にあるのが有利であり得る。一実施形態では、ゲノムのE3側でL5遺伝子に隣接させ、例えば、ファイバー部位の後の場合とは異なるレベルの導入遺伝子発現を可能にする。
【0171】
一実施形態では、導入遺伝子遺伝子をL5遺伝子に隣接して位置させることによってほかにも、ファイバータンパク質の発現の調節が可能になり、さらにはウイルス活性の調節が可能になる。
【0172】
したがって、一実施形態では、導入遺伝子を例えばゲノムのE3側、ゲノムのE4側またはその両方で、ファイバー遺伝子と隣接する位置に挿入する。
【0173】
一実施形態では、1つまたは複数の導入遺伝子を独立してゲノムDNAと同じ方向に挿入する。一実施形態では、1つまたは複数の導入遺伝子を独立してゲノムDNAと反対方向に挿入する。
【0174】
一実施形態では、3’アームは5’から3’の方向に、ファイバー遺伝子、次いでE4部位、例えばE4領域またはそのフラグメント、次いでITR(逆方向反復領域)を含む。
【0175】
一実施形態では、3’アームは5’から3’の方向に、E3部位、例えばE3領域またはそのフラグメントあるいはE3領域が欠失している場合はE3部位、次いでファイバー遺伝子、次いでE4領域またはE4部位としても知られるそのフラグメント、次いでITRを含む。一実施形態では、3’アームは2Kb~5Kbの範囲内にある。一実施形態では、ファイバー遺伝子には制限部位、例えばFseIが、特にファイバーのE3側で隣接している。一実施形態では、ファイバー遺伝子には制限部位、例えばSgfIおよび/またはSbf1が、例えばファイバー遺伝子のE4側で隣接している。一実施形態では、ファイバー遺伝子が2つの制限部位、例えばFseIによって、特にファイバーのE3側で挟まれており、SgfIおよび/またはSbf1が、例えばファイバー遺伝子のE4側に位置している。
【0176】
一実施形態では、E4部位は、例えば本明細書の図面、実施例および/または配列に開示される位置に、AcII部位をさらに含む。
【0177】
一実施形態では、5’アームおよび3’アームはそれぞれ、効率的な相同組換えを促進するのに十分な長さ、例えば約2Kb~5Kbなどの長さである。
【0178】
5’アームおよび/または3’アームは合成されたものであり得る。合成5’アームおよび/または3’アームを用いると、ライゲーションの前に独自の制限部位をアームに導入してシャトルベクターを形成することが可能になる点で有利である。
【0179】
一実施形態では、本開示によるシャトルベクター(例えば、EnAdシャトルベクター)において、PspOMIが第三の制限酵素部位である。本明細書で使用されるPspOMIは、以下の配列-G/GGCCC-において制限酵素により切断される制限部位を指す。同じ配列を切断するApaIおよびBsp120Iなどの他の制限酵素に置き換えることも可能である。
【0180】
一実施形態では、1つまたは複数の独自の制限部位をアデノウイルスシャトルベクター内に導入する方法が提供され、この方法は:
a)シャトルベクター内の2つの切取り制限部位およびその部位の間のDNA配列を特定する段階と、
b)段階a)で特定された切取り制限部位でシャトルベクターを消化してDNAのセクションを切り取る段階と、
c)段階b)のシャトルベクターから切り取られたセクションと実質的に同一であり、さらに1つまたは複数の独自の制限部位を含む、DNAフラグメントを合成する段階と、
d)消化された段階b)のシャトルベクターおよび段階c)のDNAフラグメントを精製する段階と、
e)段階d)のDNAフラグメントと段階d)のシャトルベクターとをライゲートする段階と、
f)ライゲートしたシャトルベクターで細胞を形質転換し、選択培地で増殖させ、コロニーをスクリーニングすることにより、正確に組み立てられたシャトルベクターを特定する段階と
を含む。
【0181】
一実施形態では、切取り制限部位はAclIである。同じ配列において切断する他の制限酵素に置き換えることも可能である。本明細書で使用されるAclIは、以下の配列-AA/CGTT-において制限酵素により切断される制限部位を意味する。
【0182】
AclIとPspOMIはファイバー遺伝子に隣接し、この領域の切取りおよび切り取られる領域と実質的に同一のDNAフラグメントの挿入を可能にするため、AclIをPspOMIと一緒に用いてColoAd1シャトルベクター内に独自の制限部位を導入する。
【0183】
ライゲーション
本明細書で使用される1段階の三者ライゲーションは、3つのDNA配列を単一の段階で一緒にライゲートして環状DNAを形成することを指す。一実施形態では、スクリーニングを実施して、DNAシャトルベクターが、しかるべき方向を向いた3つすべての配列から構成されていることを確認する。
【0184】
本明細書で使用されるしかるべき方向は、本開示によるアデノウイルスの組立て/構築に用いるのに適した方向を指すものとする。
【0185】
本明細書で使用される等しい割合は、全体の体積または濃度が変化しても、使用されるDNAフラグメント(配列)の比がほぼ同じであることを指す。一実施形態では、等しい割合は、ベクターフラグメントと5’アームと3’アームの比が1:1:1であることを指す。本明細書で使用されるライゲーション比は、ライゲートするDNAのフラグメントを準備する比または割合を意味する。
【0186】
一実施形態では、各フラグメントに使用する第一の制限酵素と第二の制限酵素は同じものであり、1段階の三者ライゲーションの前にベクターフラグメントを脱リン酸化する。
【0187】
本明細書で使用される脱リン酸化は、加水分解によりリン酸(PO 3-)基がDNAから除去されることを指す。脱リン酸化すると、DNAフラグメントの5’末端と3’末端が互いにライゲートするのではなく、異なるDNAフラグメント(通常、脱リン酸化されていないDNAフラグメント)と自由にライゲートする状態を維持する可能性が高くなる点で有利である。一実施形態では、脱リン酸化により、のちのライゲーション段階の成功率が高くなる。
【0188】
本明細書で使用される「ライゲーション」または「ライゲートすること」は、例えばリガーゼ酵素を用いて、DNA分子の2つの末端を共有結合させることを指す。
【0189】
一実施形態では、1段階の3者ライゲーションにDNAリガーゼを2部、リガーゼ緩衝液を4部、5’アーム、3’アームおよびベクターフラグメントをそれぞれ2部用いる。
【0190】
本明細書で使用される部は、体積などの量を指し、混合物中の全体の割合が同じである限り、その絶対量は変化してもよく、単なる具体例を挙げれば、1部が10mlであるとき、DNAリガーゼを20ml、リガーゼ緩衝剤を40ml、5’アームを20ml、3’アームを20ml用いる。
【0191】
一実施形態では、溶出したDNA約2μlにDNAが約40ng含まれている。一実施形態では、DNAを約120ngライゲートする。一実施形態では、ライゲートしたDNA 120ngは、5’アーム、3’アームおよびベクターフラグメントそれぞれ約40ngからなる。
【0192】
本明細書で使用されるDNAリガーゼは、ホスホジエステル結合の形成を触媒することによってDNA分子をライゲートする(DNA分子の連活を容易にする)酵素を指す。一実施形態では、DNAリガーゼはT4 DNAリガーゼである。T4 DNAリガーゼはバクテリオファージT4に由来する酵素である。
【0193】
本明細書で使用されるリガーゼ緩衝液は、例えば塩化マグネシウムとATP、例えば50mMトリス-HCl、10mM MgClおよび1mM ATPなどを含有する、緩衝溶液を指す。
【0194】
本明細書で使用される環状化または環状は、直鎖状DNAの末端同士が連結されて環またはループを形成することを指す。
【0195】
一実施形態では、1段階の3者ライゲーションを少なくとも30分間、例えば、少なくとも50分間、例えば約1時間など、より具体的には51分間、52分間、53分間、54分間、55分間、56分間、57分間、58分間、59分間、60分間、61分間、62分間、63分間、64分間、65分間、66分間、67分間、68分間、69分間または70分間実施する。
【0196】
一実施形態では、1段階の3者ライゲーションを室温前後、例えば約15~25℃など、例えば16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃または24℃などで実施する。16~24℃が好ましい。
【0197】
一実施形態では、アデノウイルスシャトルベクターを作製する方法は:
a)アデノウイルスゲノム内の適切な制限部位を特定する段階と、
b)例えばゲノムの5’末端および3’末端を増幅し、その中にあるITR上流の各末端に連結用の制限部位を挿入することによって、5’PCRアームおよび3’PCRアームを作製する段階と、
c)低コピー細菌複製起点と、選択マーカー遺伝子と、末端の連結用の制限部位とを有し、5’アームと3’アームとのライゲーションを可能にする連結用の制限部位で終わっているベクターフラグメントを選択して増幅する段階と、
d)段階b)の5’PCRアームおよび3’PCRアームを約37℃で約2時間、二重消化する段階であって、緩衝剤、制限酵素およびヌクレアーゼフリー水で二重消化を実施した後、約65℃で約20分間、熱不活性化して、5’アームおよび3’アームを得る段階と、
e)段階b)のベクターフラグメントを約37℃で約2時間、単一消化する段階であって、緩衝剤、制限酵素およびヌクレアーゼフリー水で単一消化を実施した後、約37℃で約1時間、アルカリ仔ウシホスファターゼで処理する段階と、
f)段階d)およびe)の消化産物の全量を約0.8%のアガロースゲルで分離し、ゲル精製し、溶出緩衝液で溶離する段階と、
g)段階f)の消化された3’アーム、5’アームおよびベクターフラグメントを、DNAリガーゼおよびリガーゼ緩衝液を用いる1段階の3者ライゲーションにより、室温で約1時間、5’アームと3’アームとベクターフラグメントの1:1:1のライゲーション比でライゲートする段階と、
h)ライゲートしたシャトルベクターで細胞を形質転換し、選択培地で増殖させ、コロニーをスクリーニングすることにより、正確に組み立てられたシャトルベクターを特定する段階と
を含む。
【0198】
一実施形態では、上記の方法の段階a)は任意選択であり、必要な制限部位および/または導入遺伝子を用いて3’アームおよび/5’アームを合成する。
【0199】
一実施形態では、EnAdシャトルベクターを作製する方法は:
a)アデノウイルスゲノム内の適切な制限部位を特定する段階と、
b)ゲノムの5’末端および3’末端を増幅し、ITR上流の各末端に連結用の制限部位を挿入することによって、5’PCRアームおよび3’PCRアームを作製する段階と、
c)低コピー細菌複製起点と、選択マーカー遺伝子と、末端の連結用の制限部位とを有し、5’アームと3’アームとのライゲーションを可能にする連結用の制限部位で終わっているベクターフラグメントを選択して増幅する段階と、
d)段階b)のDNA 20μl、緩衝液4 4μl、AscI 2μl、PspOM1 2μlおよびヌクレアーゼフリー水8μlまたはこれに相当するものを用いて、5’PCRアームおよび3’PCRアームを37℃で2時間、二重消化した後、65℃で20分間、熱不活性化させて、5’アームおよび3’アームを得る段階と、
e)段階b)のDNA 20μl、緩衝液4 4μl、AscI 2μlおよびヌクレアーゼフリー水8μlまたはこれに相当する濃度でベクターフラグメントを2時間、37℃で単一消化した後、37℃で1時間、アルカリ仔ウシホスファターゼ1μlで処理する段階と、
f)段階d)およびe)の消化産物の全量を0.8%アガロースゲルで分離し、ゲル精製し、溶出緩衝液40μlまたはこれに相当するもので溶離する段階と、
g)段階f)の消化された3’アーム、5’アームおよびベクターフラグメントを、T4 DNAリガーゼ2μlおよびリガーゼ緩衝液4μlを用いる1段階の3者ライゲーションにより、室温で1時間、5’アーム、3’アームおよびベクターをそれぞれ2μlとする1:1:1のライゲーション比でライゲートする段階と、
h)ライゲートしたシャトルベクターで細胞を形質転換し、選択培地で増殖させ、コロニーをスクリーニングすることにより、正確に組み立てられたシャトルベクターを特定する段階と
を含む。
【0200】
一実施形態では、上記の方法の段階a)は任意選択であり、必要な制限部位および/または導入遺伝子を用いて3’アームおよび/5’アームを合成する。
【0201】
当業者には、上記のものに代わる緩衝液、リガーゼおよび体積を用いてもよく、絶対体積よりも割合の方が重要であることが理解されよう。
【0202】
本明細書で使用される増幅は、通常はPCRを用いて、単一または数コピーのDNAを例えば数桁以上増加させて、特定のDNA配列を数千~数百万コピー生成する工程を意味する。
【0203】
本明細書で使用される単一消化は、DNA配列内の所与の部位を標的とすることが知られている単一の制限酵素でDNAを消化することを意味する。
【0204】
本明細書で使用される二重消化は、DNA配列内の異なる部位を標的とすることが知られている2つの異なる制限酵素でDNAを消化することを意味する。
【0205】
本明細書で使用される「正確に組み立てられた」は、複数のDNAが意図した通りの方向および位置に正確にライゲートされて、所望のシャトルベクターが得られたことを意味する。
【0206】
本明細書で使用される形質転換は、細胞がその周囲の環境から外来遺伝物質(外来性DNA)を直接取り込んで組み込み、発現することによって、遺伝的に変化すること意味する。
【0207】
本明細書で使用される「増殖させること」は、当業者により一般に理解されている通りに培養することを意味する。
【0208】
本明細書で使用されるスクリーニングは、所望の特性を有する細胞および/またはDNA構築物を特定することを意味する。用いられる典型的な方法としては、特に限定されないが、制限部位にまたがるプライマーを用いるPCR、制限消化、DNAシーケンシングが挙げられる。
【0209】
本明細書で使用される上流は、読取り(すなわち、5’から3’)の方向に向かって前の位置を意味する。本明細書で使用される下流は、読取り(すなわち、5’から3’)の方向に向かって後を意味する。
【0210】
本明細書で使用される切取りは、除去を意味する。
【0211】
一実施形態では、プラスミドまたはシャトルベクターは、DNA構築物に導入された1つまたは複数のポリアデニル化配列をさらに含む。
【0212】
本明細書で使用される「合成(された)」は、例えば、DNAフラグメントが自動合成などで合成化学技術によって作製されたことを指す。
【0213】
本明細書で使用されるDNAフラグメントは、DNA、特に、本明細書に開示される方法によって操作された後に得られるアデノウイルスゲノムDNAまたはDNA配列を指す。一実施形態では、サイレントな塩基変化が許容される。
【0214】
本明細書で使用されるサイレントな塩基変化は、遺伝暗号の冗長性により、コードされるアミノ酸配列に影響を及ぼさないヌクレオチド変化を指す。
【0215】
本明細書で使用される「実質的に同一である」は、DNAフラグメントが、1つまたは複数の新規な制限部位が付加されていること除いて、あるシャトルベクターと同一であることを意味する。
【0216】
本明細書で使用される精製は、例えば目的外のDNAを除去することにより、目的のDNAの不純物を取り除くことを意味する。
【0217】
一実施形態では、この方法は、例えば本開示のシャトルベクターをより多く得るために、それを増殖させるさらなる段階を含む。
【0218】
一実施形態では、ライゲートしたDNAを細菌細胞(1つまたは複数)に形質転換し、例えば、ライゲートしたDNAを約120ng形質転換する。一実施形態では、細菌細胞は、Agilent社から入手可能なXL-10などのウルトラコンピテント細菌細胞である。あるいは、シャトルベクターとの相同組換えによって調製したプラスミドを例えば大腸菌(E.coli)内で複製してもよく、これにより、シャトルベクターの組み立てを繰り返す必要性が回避される。
【0219】
シャトルベクター内でのDNAフラグメントの複製
一実施形態では、この方法は、特に制限部位および/または導入遺伝子を導入するために、例えばDNAフラグメントのセクションを切り取った後に、それをシャトルベクター内にライゲートする段階を含む。一実施形態では、用いる割当ては、DNAフラグメントとシャトルベクターがそれぞれ3:1のライゲーションである。本明細書で使用される3:1のフラグメントとシャトルベクターのライゲーション比は、DNAフラグメント3部に対してシャトルベクターが1部であることを意味する。
【0220】
一実施形態では、DNAフラグメントは合成されたものであるか、PCR産物である。本明細書で使用されるPCR産物は、DNAフラグメントがPCRを用いて作製されたものであることを意味する。
【0221】
シャトルベクターの改変に関するさらなる詳細については実施例および図面に記載する。
【0222】
このように本開示は、本質的に組み立てユニットによるものであり、当業者がアデノウイルスゲノムを随意に操作することを可能にするアデノウイルスシャトルベクターおよびプラスミドを初めて提供するものである。
【0223】
プラスミドの調製
本明細書で使用されるプラスミドは、細胞内の染色体DNAから物理的に分離しており、同DNAから独立して複製することができる小型のDNA分子を指す。本開示の目的には、プラスミドは、一般に細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメントに連結されたアデノウイルスゲノムを実質的にすべて含む、環状DNAベクターである(図2を参照されたい)。
【0224】
本開示によるプラスミドは一般に、直線化したシャトルベクターとアデノウイルスゲノムとの相同組換えによって調製される。この文脈でのアデノウイルスゲノムは、すべてまたはほぼすべてのアデノウイルスゲノムを指す。当業者には、この段階がアデノウイルス再組み立ての一部であり、一般に本開示のアデノウイルス構築物を実現する前の段階であることがわかるであろう。したがって、組換え段階に用いるアデノウイルスゲノムは一般に、可能性としては最終的なアデノウイルス内に存在することになる導入遺伝子を除いて、機能的要素をすべて含む。
【0225】
一実施形態では、相同組換えを実施する方法は:
a)シャトルベクターを第三の制限酵素部位で消化することによって直線化する段階と、
b)エレクトロコンピテント細胞内で、直線化したシャトルベクターとアデノウイルスとの相同組換えを実施する段階と、
c)細胞を選択培地で増殖させ、コロニーをスクリーニングすることにより、正確に組み換えられたプラスミドを特定する段階と
を含む。
【0226】
本明細書で使用される直線化は、通常、DNA構築物を単一の制限酵素で消化することによって、環状DNAを直鎖状DNAにする工程を指す。
【0227】
一実施形態では、3.5:1.5のシャトルベクターとゲノムの比で相同組換えを実施する。
【0228】
本明細書で使用されるエレクトロコンピテントは、エレクトロポレーションによって形質転換される細胞を意味する。適切なエレクトロコンピテント細胞としては、特に限定されないが、BJ5183細胞が挙げられる。
【0229】
本明細書で使用される「正確に組み換えられた」は、相同組換えを実施したプラスミドが所望のDNA配列を獲得したことを意味する。
【0230】
一実施形態では、この方法は、プラスミドの目的の制限部位に導入遺伝子カセットを導入するさらなる段階を含む。目的の制限部位は、ゲノムの導入遺伝子カセットの挿入が可能な位置に存在することが確認される部位を指す。目的の制限部位は通常、本明細書に開示される方法によりシャトルベクターおよび/またはプラスミド内に導入された独自の制限部位である。
【0231】
一実施形態では、プラスミド内に導入遺伝子カセットを導入する段階は、直線化したプラスミドと導入遺伝子カセットとの間でライゲーションを実施することを含む。
【0232】
一実施形態では、プラスミド内に導入遺伝子カセットを導入する段階は:
-プラスミドおよび導入遺伝子カセットを直線化することと、
-直線化したDNAを分離することと、
-分離した直線化したDNAを生成することと、
-プラスミドと導入遺伝子カセットとをライゲートすることと、
-ライゲートしたDNAを例えば大腸菌(E.coli)形質転換することと、
-正確に形質転換されたコロニーを選択することと
を含む。
【0233】
本明細書で使用される導入遺伝子カセットは、例えば、導入遺伝子が活性化される場所および時期を決定する制御配列であるプロモーターまたはmRNA分子がスプライスソームによって切断される時期を決定する制御配列であるスプライス部位、通常目的のタンパク質のcDNAに由来し、任意選択でポリA配列および停止配列を含むタンパク質コード配列(すなわち、導入遺伝子)を任意選択で含むDNAのセグメントを指す。図7に一般的な導入遺伝子カセットを示す。
【0234】
一実施形態では、導入遺伝子カセットは外来性プロモーター、例えば哺乳動物プロモーターを含む。
【0235】
一実施形態では、導入遺伝子カセットは、内部リボソーム進入配列などの調節エレメントを含む。
【0236】
一実施形態では、導入遺伝子カセットはポリA配列を含む。
【0237】
一実施形態では、制限酵素を用いてゲノムを配列の3’末端および5’末端で切断して、複製起点と選択マーカー遺伝子を含むベクターフラグメントDNAを切り取ることにより、プラスミドからウイルスまたはウイルスベクターを回収することができる。一実施形態では、同じ制限酵素が両部位を切断する。次いで、直線化したDNAをHEK293細胞などの適切な宿主細胞内に挿入して、最終的なウイルスまたはウイルスベクターを作製することができる。
【0238】
導入遺伝子
一実施形態では、導入遺伝子カセット内の1つまたは複数の導入遺伝子は、治療用のタンパク質、ペプチドまたはRNA、例えば抗体または抗体ドメイン、プロドラッグ変換酵素、免疫調節物質、酵素、siRNA、転写因子、細胞内シグナル伝達タンパク質または表面膜タンパク質または抗原などをコードする、目的の治療遺伝子から選択される。
【0239】
本明細書で使用される抗体は、免疫系が細菌およびウイルスなどの外来病原体を識別し中和するのに用いるB細胞によって産生される大型のY字状タンパク質を意味する。抗体は外来抗原に固有の部分を認識する。モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ダイアボディ、キメラ抗体、ヒト化抗体、二特異性抗体、三特異性抗体、ラクダ抗体、Fabフラグメント、Fcフラグメントおよび一本鎖Fv(ScFv)抗体を含めたFv分子を含めた、多岐にわたる様々な形態の抗体を使用し得る。
【0240】
本明細書で使用されるプロドラッグは、不活性な(または完全には活性化されていない)誘導体として投与され、のちに多くの場合、通常の代謝過程により、またはしかるべき酵素の使用により、体内で活性な薬理作用物質に変換される分子を指す。したがって、プロドラッグは、意図する薬物の一種の前駆物質としての役割を果たす。プロドラッグ変換酵素は、プロドラッグをその薬理学的に活性な形態に変換する酵素としての役割を果たす。一実施形態では、本開示によるウイルス構築物は、プロドラッグおよびしかるべき変換酵素をコードしin vivoで発現する。
【0241】
本明細書で使用される免疫調節物質は、免疫応答の調節物質を意味する。免疫調節物質は、免疫応答の質および量を免疫強化、免疫抑制または免疫寛容の誘導の形で所望の方向で、または所望のレベルに調節するよう機能する。一実施形態では、免疫調節物質は免疫刺激剤、例えば、CpGに富むDNA配列などのアジュバントである。
【0242】
本明細書で使用される酵素は、特異的化学反応を触媒し、例えば、反応の過程でそれ自体は変化することなく化学反応の進行速度を調節するのに適したタンパク質を指す。一実施形態では、酵素は生体内での反応を触媒することができる。
【0243】
本明細書で使用されるレポーター遺伝子は、真核細胞内に容易に検出される産物を産生し、目的遺伝子の存在または活性を判定するマーカーとして使用され得る遺伝子を指す。一実施形態では、レポーター遺伝子DNAは、目的のDNA配列に近接して連結しているか、これと結合している。一実施形態では、レポーター遺伝子は、例えばルシフェラーゼおよびGFPなどの蛍光タンパク質である。
【0244】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、in vitroの撮像および位置特定のためのレポーター遺伝子、特に限定されないが、例えばヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS)、細胞内金属タンパク質(例えば、フェリチン、チロシナーゼ)、単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-tk)、GFPをはじめとするフルオロフォア、ルシフェラーゼ、エストロゲン受容体およびその他の誘導性レポーター遺伝子などをコードする。
【0245】
一実施形態では、導入遺伝子は、ルシフェラーゼまたはeGFPなどのレポーター遺伝子でも造影物質でもない。
【0246】
本明細書で使用される外来性哺乳動物プロモーターは、通常、目的遺伝子の上流に位置し、遺伝子の転写を調節するDNAエレメントを指す。
【0247】
本明細書で使用される調節エレメントは、主要後期プロモーターなどの内在性プロモーターまたは発現、例えば多数の遺伝子の発現を調節するその他のDNA配列、例えばポリシストロニック配列などのいずれかの使用を可能にするDNA配列を指す。
【0248】
本明細書で使用される内部リボソーム進入配列(IRES)は、メッセンジャーRNA(mRNA)配列の中央での翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列を指す。
【0249】
本明細書で使用されるポリA配列は、通常、AATAAA部位を含み、転写された後、新生mRNA分子を切断しポリアデニル化する多タンパク質複合体によって認識され得るDNA配列を指す。
【0250】
本明細書で使用される目的(治療)遺伝子は、例えば発現後に薬理効果(一般に有益な薬理効果)を生じさせるのに適した遺伝子を意味し、特に、その腫瘍溶解性ウイルス活性などの活性は、本開示のDNA構築物またはアデノウイルスの有用性または治療効果を増大させ得る。
【0251】
そのものが腫瘍もしくは免疫応答を調節するよう作用して治療的に作用する分子または治療用分子の活性を直接的もしくは間接的に阻害、活性化もしくは増強する薬剤である分子をコードする様々な異なるタイプの導入遺伝子(およびその組合せ)が考えられる。
【0252】
コードされ得る分子としては、タンパク質リガンドまたはリガンドの結合フラグメント、抗体(例えば、完全長またはフラグメント、例えばFv、ScFv、Fab、F(ab)’2またはこれより小さい特異的結合フラグメントなど)をはじめとする標的特異的結合タンパク質またはペプチド(例えば、ファージディスプレイなどの技術によって選択され得るもの)、天然または合成の結合受容体、リガンドまたはフラグメント、siRNAまたはshRNA分子などの標的をコードする遺伝子の転写または翻訳を調節する特異的分子、転写因子などが挙げられる。分子は、例えばその活性、安定性、特異性などを増大させる他のペプチド配列との融合タンパク質の形態であり得る。一実施形態では、リガンドと免疫グロブリンFc領域とを融合して二量体を形成し、安定性を増大させ得る、またはエフェクター機能をもたらし得る。一実施形態では、導入遺伝子は融合タンパク質、例えば樹状細胞などの抗原提示細胞に対する特異性を有する抗体または抗体フラグメントと融合したもの、例えば抗DEC-205、抗マンノース受容体、抗デクチンなどをコードし得る。
【0253】
一実施形態では、インサートはほかにも、例えば、本発明によるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを感染させた細胞を検出して腫瘍の撮像またはリンパ管およびリンパ節の排液などを実施するために用いることができる、レポーター遺伝子をコードし得る。
【0254】
一実施形態では、コードされるタンパク質はヒトタンパク質、例えば、以下に挙げる分子に対するヒト抗体もしくは天然のリガンドまたは以下に挙げる分子を標的とするsiRNA分子あるいは腫瘍抗原である。
【0255】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、T細胞共刺激受容体またはそのリガンド、例えば、特に限定されないが、OX40、OX40リガンド、CD27、CD28、CD30、CD40、CD40リガンド(CD40L)、CD137、GITR、4-1BB、ICOS、ICOSリガンドなどをコードする。
【0256】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、T細胞共抑制分子またはそのリガンド(チェックポイント阻害受容体およびリガンド)、例えば、特に限定されないが、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原-4(CTLA-4)、プログラム細胞死-1(PD-1)、PD-リガンド-1(B7-H1としても知られるPD-L1)、PD-リガンド-2(B7-DCとしても知られるPD-L2)、B7-H3、B7-H4などのその他のB7受容体スーパーファミリーメンバー、ヘルペスウイルス侵入メディエーター(HVEM)、阻害受容体Ig様転写産物-3(ILT-2)、ILT-3、ILT-4、T細胞免疫グロブリンムチンタンパク質-3(TIM-3)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)、Bリンパ球およびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、LIGHT(リンホトキシンと相同であり、誘導性発現を示し、ヘルペスウイルス侵入メディエーターに対してHSV糖タンパク質Dと競合し、Tリンパ球によって発現される受容体)、CD160などをコードする。
【0257】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、調節性T細胞(天然のTregおよび誘導されたTreg、Tr1など)、骨髄由来抑制細胞(MDSC)をはじめとする免疫抑制性免疫細胞によって発現される分子、例えば、特に限定されないが、CD16、CD25、CD33、CD332、CD127、CD31、CD43、CD44、CD162、CD301a、CD301bおよびガレクチン-3などをコードする。
【0258】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、樹状細胞(およびその他の抗原提示細胞)受容体またはそのリガンド、例えば、特に限定されないが、Fms関連チロシンキナーゼ3(FLT-3)、FLT-3リガンド、Toll様受容体(TLR)およびそのリガンド(例えば、TLR-9、TLR-5のリガンドであるフラジェリン)、CCR7(CD197)、CD1a、CD1c(BDCA-1)、CD11b、CD11c、CD80(B7-1)、CD83、CD86(B7-2)、CD123(IL-3Rα)、CD172a(SIRPα)、CD205(DEC205)、CD207(ランゲリン)、CD209(DC-SIGN)、CD273(B7-DC)、CD281(TLR1)、CD283(TLR3)、CD286(TLR6)、CD289(TLR9)、CD287(TLR7)、CXCR4(CD184)、GITRリガンド、IFN-α2、IL-12、IL-23、ILT1(CD85h)、ILT2(CD85j)、ILT3(CD85k)、ILT4(CD85d)、27D6 5148、42D1 5149、ILT5(CD85a)、ILT7(CD85g)、TSLP受容体、CD141(BDCA-3)、CD303(CLEC4c、BDCA-2)、CADM1(NECL2)、CLEC9a、XCR1、CD304(ニューロピリン-1、BDCA-4)などをコードする。
【0259】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、抗原処理メディエーターおよび抗原提示メディエーター、例えば、特に限定されないが、MHCクラスIIトランスアクチベーター(CTIIA)、ガンマ-IFN誘導性リソソームチオール還元酵素(GILT)などをコードする。
【0260】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、サイトカインまたはその受容体、例えば、特に限定されないが、インターロイキン-1α(IL-1α)、IL-1β、IL-6、IL-9、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-33、IL-35、インターロイキン-2(IL-2)、IL-4、IL-5、IL-7、IL-10、IL-15、IL-21、IL-25、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)、インターフェロン-α(IFNα)、インターフェロン-β(IFNβ)、インターフェロンγ(IFNγ)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ-様々なサブタイプ)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などをコードする。
【0261】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、ケモカインまたはケモカイン受容体、例えば、特に限定されないが、インターロイキン-8(IL-8)、CCL5(RANTES)、CCL17、CCL22、CCL20、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL13、CCR2、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CRTH2などをコードする。
【0262】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、転写因子をはじめとする転写調節因子、例えば、特に限定されないが、STAT3、STAT1、STAT4、STAT6、CTIIA、MyD88、NFκBファミリーメンバーなどをコードする。
【0263】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、プロドラッグ変換酵素をはじめとする酵素、例えば、特に限定されないが、シトシンデアミナーゼおよびチロシンキナーゼなどをコードする。
【0264】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、細胞内輸送分子または細胞機能調節因子、例えば、特に限定されないが、熱ショックタンパク質-70(HSp70)、細胞の生死の調節因子(例えば、サバイビン)などをコードする。
【0265】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、腫瘍細胞または腫瘍微小環境受容体および産物、例えば、特に限定されないが、EGFリガンドおよび受容体:アンフィレギュリン、ベータセルイン(betacelluin)(BTC)、ニューロレグリン-1a(NRG1a)、NRG1b、NRG3、トランスフォーミング増殖因子-a(TGFa)、LRIG1(ロイシンリッチリピートおよびIg様ドメイン含有-1)、LRIG3、EGF、EGF-L6、エピジェン、HB-EGF、EGFR(ErbB1)、Her2(ErbB2)、Her3(ErbB3)、Her4(ErbB4)などをコードする。
【0266】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、特に限定されないが、ヘッジホッグ、FGF、IGF、Wnt、VEGF、TNF、TGFb、PDGF、Notchなどの分子のファミリーに対するリガンドおよび受容体である。
【0267】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は細胞内腫瘍細胞酵素、例えば、特に限定されないが、インドールアミン2,3ジオキシゲナーゼ(IDO)などをコードする。
【0268】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、免疫細胞による認識のための抗原、例えば、特に限定されないが、抗原(例えば、サイトメガロウイルス抗原、インフルエンザ抗原、B型肝炎表面およびコア抗原、ジフテリアトキソイド、Crm197、破傷風トキソイド)となる感染性生物の外来免疫原性タンパク質、既知のT細胞もしくは抗体エピトープである上記抗原由来のペプチドまたは遺伝子操作された上記抗原の複合体もしくは多量体などをコードする。
【0269】
一実施形態では、導入遺伝子(1つまたは複数)は、抗原となる腫瘍由来タンパク質、既知のT細胞または抗体エピトープである上記抗原由来のペプチドまたは遺伝子操作された上記抗原の複合体もしくは多量体などをコードする。このような抗原としては、例えば、WT1、MUC1、LMP2、イディオタイプ、HPV E6およびE7、EGFRvIII、HER-2/neu、MAGE A3、p53非変異体、p53変異体、NY-ESO-1、GD2、PSMA、PCSA、PSA、gp100、CEA、MelanA/MART1、Ras変異体、プロテイナーゼ3(PR1)、bcr-abl、チロシナーゼ、サバイビン、PSA、hTERT、肉腫転座切断点、EphA2 PAP ML-IAP AFP EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲン受容体、サイクリンB1、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、TRP-2、GD3、フコシルGM1、メソテリン、PSCA、MAGE A1、sLe(a)、CYP1B1、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GloboH、ETV6-AML、NY-BR-1、RGS5、SART3、STn、炭酸脱水酵素IX、PAX5、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE 1、B7H3、レグマイン、Tie 2、Page4、VEGFR2、MAD-CT-1、FAP、PDGFR-β、MAD-CT-2、Fos関連抗原1(Cheeverら,2009)を挙げ得る。
【0270】
本明細書で使用されるpNG-62は、ColoAd2.4ゲノムと、GFPをコードする遺伝子を含む導入遺伝子カセットとを含むプラスミドを意味する(配列番号35、図30を参照されたい)。
【0271】
アデノウイルスの調製
本開示はほかにも、初期遺伝子、例えばウイルス複製に不可欠な遺伝子、特にE1および/またはE3がインタクトで維持され得る組換えアデノウイルスあるいは意図する目的に従ってウイルス複製に不可欠な遺伝子を欠失させたアデノウイルスベクターを作製する方法を提供する。したがって、本開示は、生存腫瘍溶解性ウイルスの遺伝子操作を容易にし、例えば、同ウイルスのこれまで不可能であった領域に治療用タンパク質を装備させることを可能にする。
【0272】
本開示による最終的なアデノウイルスは、しかるべき制限酵素を用いてプラスミドからゲノムDNAを切り取った後、例えば完了させるライゲーション段階を実施して、ゲノムを直線化することにより提供され得る。このように、制限酵素を用いてゲノムを配列の3’末端および5’末端で切断して、複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメントDNAを切り取ることにより、プラスミドからウイルスまたはウイルスベクターを回収し得る。一実施形態では、同じ制限酵素が両部位を切断する。次いで、直線化したDNAをHEK293細胞などの適切な内に挿入して、最終的なウイルスまたはウイルスベクターを作製することができる。
【0273】
シャトルベクター、プラスミドおよびアデノウイルス
一実施形態では、例えば本開示の方法で中間体として得られる、アデノウイルスシャトルベクターが提供される。
【0274】
本開示のシャトルベクターは、ウイルスファイバー遺伝子を含む3’アームを含む。この方法に関連して上に記載したシャトルベクターの詳細は、シャトルベクター自体の実施形態にも関連する。本開示のシャトルベクターは、例えば約9Kb~約11.9Kbの範囲内にある、比較的多量のアデノウイルスゲノムDNAを含む。一実施形態では、シャトルベクターの50%以上、例えば60%、70%、75%または80%がアデノウイルスゲノムDNAである。一実施形態では、シャトルベクターは全体で約15Kb以下、例えば14Kb、13Kbまたは12Kbである。これに対して、先行技術のベクターの主要部分は導入遺伝子および調節エレメントである。
【0275】
一態様では、
a)複製起点、選択マーカーを含むベクターフラグメントと、
b)少なくともファイバー遺伝子(L5)と、任意選択でさらにE3部位、E4または前記部位の両方とを含む、3’アームと
を含む、ベクターが提供される。
【0276】
一実施形態では、シャトルベクターは導入遺伝子および/または導入遺伝子に関連する任意の調節エレメントを含まず、例えば、プロモーター、IRES配列も同様である。これには、本開示で使用されるシャトルベクターが、単にウイルスに1つの導入遺伝子を導入するのではなく、ウイルスの柔軟な遺伝子操作が容易になるようウイルスゲノムに諸機序を導入するために開発されたという理由がある。
【0277】
一実施形態では、シャトルベクターは、アデノウイルスゲノムの「中央の配列」が存在しないように適切な制限部位(第三の制限酵素部位として上に記載したもの)によりアデノウイルスゲノムの3’アームと直接連結したアデノウイルスゲノムの5’アームを含む、環状DNAシャトルベクターである。3’アームと5’アームはともに、本明細書ではシャトルベクターの主要フラグメントと呼ばれる。主要フラグメントの3’末端および5’末端はさらに、連結用の制限部位により、低コピー細菌複製起点と選択マーカー遺伝子とを含むベクターフラグメントと連結される(図6および8を参照されたい)。
【0278】
あるいは上記のように、シャトルベクターは、例えばシャトルベクターの3’アーム内に、1つまたは複数の導入遺伝子を含み得る。
【0279】
一実施形態では、シャトルベクターは5’アームをさらに含む。シャトルベクターに使用する5’アームは、例えば、本発明の方法と関連して記載されている、他の箇所で定義される関連する構成要素と同じものである。
【0280】
一実施形態では、シャトルベクターは、例えば、当業者が精通する標準的な技術を用いてゲノムに導入された、少なくとも1つの独自の制限部位を含む。
【0281】
一実施形態では、シャトルベクターは配列番号2の配列を有する。一実施形態では、シャトルベクターは配列番号15の配列を有する。一実施形態では、シャトルベクターは配列番号17の配列を有する。一実施形態では、シャトルベクターは配列番号26の配列を有する。
【0282】
一実施形態では、本発明の方法によって得られるアデノウイルスプラスミドが提供される。
【0283】
さらなる態様では、
a)L5遺伝子とE3部位とE4部位とを含む、アデノウイルスゲノムと、
b)L5遺伝子と、E3部位、E4部位およびE3部位とE4部位のそれぞれからなる群より選択される部位との間の位置にある少なくとも1つの独自の制限部位と、
c)低コピー細菌複製起点と、
d)選択マーカー遺伝子と
を含む、プラスミドが提供される。
【0284】
新規なプラスミドは、後期発現L5ファイバー遺伝子の近傍にある新規な独自の制限部位をもたらす点で有利である。導入遺伝子をこの位置に挿入すると、ウイルスの安定性および複製に干渉する可能性が低くなる。一実施形態では、プラスミドは、当業者が精通する標準的な技術を用いてゲノムに導入された少なくとも1つの独自の制限部位を含む。一実施形態では、プラスミドは導入遺伝子カセットをさらに含む。一実施形態では、プラスミドは配列番号28の配列を有する。一実施形態では、プラスミドは配列番号30の配列を有する。一実施形態では、プラスミドは配列番号31の配列を有する。
【0285】
さらなる態様では、本発明によるプラスミドから得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが提供される。
【0286】
一実施形態では、アデノウイルスまたはウイルスベクターは、例えばゲノムを全く欠失させずに挿入することが可能な、小型の導入遺伝子を含む。一実施形態では、アデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、ゲノムを全く欠失させずに挿入することが可能な小型の導入遺伝子、例えば合計4.5kb以下の1つまたは複数の遺伝子を含み得る。
【0287】
一実施形態では、本開示による方法により、または本開示のプラスミドから得られるアデノウイルスまたはウイルスベクターは、大型の導入遺伝子を含み得る。一実施形態では、複製能を有するアデノウイルスは、例えば、複製に不可欠ではない遺伝子が除去されている、例えばE3および/またはE4orf4領域の一部または全部が欠失しているため、ゲノム内に追加のスペース(EnAdなど)を有する。一実施形態では、ゲノム内のスペースが、例えばE3および/またはE4orf4領域の一部または全部を欠失させることにより生じたものである、条件付きで複製するアデノウイルスが提供される。
【0288】
一実施形態では、非複製型アデノウイルス(すなわち、複製するのにパッケージング細胞系を必要とするアデノウイルス)は、1つまたは複数の遺伝子、例えば欠失させる初期遺伝子、例えばE1、E2、E3およびE4(E4orf4など)から独立して選択される1つまたは複数の遺伝子の一部または全部を有する。
【0289】
一実施形態では、設計されるウイルスは複製能を有する生存ウイルスである。
【0290】
一実施形態では、設計されるウイルスは複製欠損ウイルスベクターである。一実施形態では、本開示のウイルスベクターのE1遺伝子が欠失している。一実施形態では、本明細書で使用されるウイルスベクターは、遺伝物質、例えば導入遺伝子を、その複製および/または発現が可能な哺乳動物細胞などの別の細胞内に人為的に運搬する運搬体として用いられるDNA分子を指す。
【0291】
一実施形態では、設計される本開示のアデノウイルス構築物は、1つまたは複数の導入遺伝子を含む。
【0292】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたはウイルスベクターのE4遺伝子が一部または全部欠失しており、例えば遺伝子のE4orf4セクションなどが欠失している。
【0293】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたはウイルスベクターのE3遺伝子が一部または全部欠失している。
【0294】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたはウイルスベクターのE3遺伝子およびE4遺伝子の一部または全部が欠失している。
【0295】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたはウイルスベクターのL5遺伝子が一部または全部欠失している。本開示のウイルスでは、L5機能がウイルス複製に不可欠であるため、この機能が保持される限り、L5を一部欠失させることが可能である。
【0296】
一実施形態では、本開示によるウイルスまたはウイルスベクターのE2領域が一部または全部欠失している。
【0297】
一実施形態では、例えば本開示のアデノウイルスプラスミドから得られる、本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターが提供される。
【0298】
一実施形態では、例えば本発明によるプラスミドから得られる本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの治療への使用が提供される。別の態様では、本発明によるプラスミドから得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの治療への使用が提供される。
【0299】
当業者には、本発明のプラスミドから作製されるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターを治療剤、例えば腫瘍溶解剤としても、またはワクチンとしても、またはパッケージング細胞の補助がなければウイルスが複製することができない遺伝子送達ベクターとしても使用し得ることが理解されよう。
【0300】
さらなる態様では、例えば本発明によるプラスミドから得られる本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの癌治療への使用が提供される。
【0301】
別の態様では、例えば本発明によるプラスミドから得られる本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターのワクチン療法への使用が提供される。
【0302】
本明細書で使用される「によって得られる」は、本開示の方法を用いて作製される実体の特徴を有する任意のプラスミドまたはアデノウイルスを意味する。実施形態では、本明細書で使用される「から得られる」は、本発明のプラスミドから切り取ったアデノウイルスゲノムから作製することができる任意のアデノウイルスを意味する。
【0303】
一実施形態では、本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターは、ゲノムを全く欠失させずに挿入することが可能な小型の導入遺伝子、例えば合計4.5kb以下の1つまたは複数の遺伝子を含み得る。
【0304】
一実施形態では、例えば本発明によるプラスミドから得られる本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの治療への使用が提供される。
【0305】
製剤および治療法
さらなる態様では、例えば本発明によるプラスミドから得られる本開示のアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターと、薬学的に許容される添加剤とを含む、組成物が提供される。
【0306】
当業者には、本発明のプラスミドから作製されるアデノウイルスを治療剤、例えば腫瘍溶解剤として、またはワクチンとして、またはパッケージング細胞の補助がなければウイルスが複製することができない遺伝子送達ベクター、すなわちウイルスベクターとして使用し得ることが理解されよう。
【0307】
一実施形態では、本発明によるプラスミドから得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターの、癌治療のための薬剤製造への使用が提供される。
【0308】
本明細書で使用されるワクチン主体の治療法は、治療利益が得られるよう抗原に対する免疫応答を誘導するか、確立された免疫応答を量的/または質的に修正するための、1つまたは複数の抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明のアデノウイルスベクターの送達(例えば、筋肉内、皮下、真皮内、局所、舌下、鼻腔内、経口、経膣または経直腸)または一連のこのような送達を意味する。この場合、当業者に理解されるように、各送達は、免疫調節剤、例えばアジュバント、免疫調節ペプチド、タンパク質または小分子を用いて製剤化されたものであっても、これらの送達とともに実施するものであってもよい。
【0309】
一実施形態では、有効量の本開示によるプラスミドから得られるアデノウイルスまたはアデノウイルスベクターおよび薬学的に許容される添加剤が提供される。
【0310】
薬学的に許容される添加剤または担体は、それ自体が組成物を投与する個体に有害な抗体の産生を誘導するものであってはならず、また有毒であってはならない。適切な担体は、大型で代謝される速度の遅い高分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、リポソーム、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマーおよび不活性ウイルス粒子などであり得る。
【0311】
薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩および硫酸塩などの鉱酸塩または酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩および安息香酸塩などの有機酸の塩を使用することができる。
【0312】
治療用組成物中の薬学的に許容される担体はさらに、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体を含有し得る。さらに、このような組成物中に湿潤剤、乳化剤またはpH緩衝物質などの補助物質が存在してもよい。このような担体により、患者に摂取させる錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液体、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤および懸濁剤として医薬組成物を製剤化することが可能にある。
【0313】
投与に適した形態としては、例えば注射または注入による非経口投与、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与に適した形態が挙げられる。製品が注射用または注入用である場合、それは、油性または水性を溶媒とする懸濁液、溶液または乳濁液の形態をとり得るほか、懸濁化剤、保存剤、安定剤および/または分散剤などの製剤用剤を含有し得る。あるいは、ウイルスは、使用前にしかるべき無菌液体で再構成する乾燥形態であり得る。
【0314】
製剤化されれば、本発明の組成物を対象に直接投与することができる。治療する対象は動物であり得る。しかし、1つまたは複数の実施形態では、組成物はヒト対象への投与に適合させたものである。
【0315】
本開示による製剤では、最終製剤のpHがウイルスの等電点の値と同じではないのが適切であり、例えば、製剤のpHが7である場合、8~9またはそれ以上のpHが適切であり得る。理論に束縛されることを望むものではないが、これにより、最終的には最終製剤に安定性の改善がもたらされる可能性があり、例えば、ウイルスが溶解した状態で保たれるものと考えられる。
【0316】
本発明の医薬組成物は、特に限定されないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、脳室内、経皮、経皮(例えば、国際公開第98/20734号を参照されたい)、皮下、腹腔内、鼻腔内、経腸、局所、舌下、膣内または経直腸の各経路を含めた様々な経路で投与し得る。このほか、ハイポスプレーを用いて本発明の医薬組成物を投与してもよい。通常、治療用組成物は液体の溶剤または懸濁剤のいずれかとして注射用に調製され得る。このほか、注射前に液体溶媒に溶解または懸濁させるのに適した固体形態を調製してもよい。
【0317】
組成物の直接送達は一般に、皮下、腹腔内、静脈内または筋肉内への注射によって達成され得るか、組織の間質腔に送達され得る。このほか、組成物を病巣に投与することができる。投薬治療は、単回投与計画であっても複数回投与計画であってもよい。
【0318】
組成物中の有効成分はウイルスであることが理解されよう。このため、消化管内での分解を受けやすい。したがって、消化管を利用する経路によって組成物を投与する場合、組成物は、ウイルスを分解から保護するが、消化管から吸収されてからウイルスを放出する薬剤を含有する必要がある。
【0319】
Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company,N.J.1991)では、薬学的に許容される担体に関して徹底的に論じられている。
【0320】
一実施形態では、製剤が局所投与のための製剤として提供される。
【0321】
適切な吸入製剤としては、吸入粉末剤、噴射ガスを含有する定量噴霧剤または噴射剤ガスを含まない吸入液剤が挙げられる。活性物質を含有する本開示による吸入粉末剤は、上記の活性物質のみからなるものであっても、上記の活性物質と生理的に許容される添加剤の混合物からなるものであってもよい。
【0322】
このような吸入粉末剤は、単糖(例えば、グルコースまたはアラビノース)、二糖(例えば、ラクトース、サッカロース、マルトース)、オリゴ糖および多糖(例えば、デキストラン)、ポリアルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、塩(例えば、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム)またはこれらを互いに混合したものを含み得る。単糖または二糖を使用するのが適切であり、特に水和物形態のラクトースまたはグルコースの使用が適切であるが、これに限定されない。
【0323】
肺に沈着させる粒子は、粒子径を10ミクロン未満、例えば1~9ミクロンなど、例えば0.1~5μm、特に1~5μmにする必要がある。有効成分(ウイルスなど)の粒子径は最も重要である。
【0324】
吸入噴霧剤の調製に使用し得る噴射ガスは当該技術分野で公知である。適切な噴射ガスは、n-プロパン、n-ブタンまたはイソブタンなどの炭化水素およびハロゲン化炭化水素、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、シクロプロパンまたはシクロブタンの塩素化および/またはフッ素化誘導体などから選択される。上記の噴射ガスは、それ単独で用いても、その混合物として用いてもよい。
【0325】
特に適切な噴射ガスは、TG11,TG12,TG134aおよびTG227から選択されるハロゲン化アルカン誘導体である。上記のハロゲン化炭化水素のうち、TG134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)およびTG227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン)ならびにその混合物が特に適切である。
【0326】
噴射ガス含有吸入噴霧剤はほかにも、共溶媒、安定剤、界面活性剤、抗酸化剤、滑沢剤およびpH調整手段などの他の成分を含有し得る。これらの成分はいずれも当該技術分野で公知である。
【0327】
本発明による噴射剤ガス含有吸入噴霧剤は、活性物質を最大5重量%含有し得る。本発明による噴霧剤は、有効成分を例えば、0.002~5重量%、0.01~3重量%、0.015~2重量%、0.1~2重量%、0.5~2重量%または0.5~1重量%含有する。
【0328】
あるいは、肺への局所の投与はほかにも、例えば噴霧器、例えばコンプレッサと接続された噴霧器(例えば、Pari Respiratory Equipment社(リッチモンド、バージニア州V)製のPari Master(商標)コンプレッサと接続されたPari LC-Jet Plus(商標)噴霧器)などの装置を用いる、液体の液体製剤または懸濁液製剤の投与であり得る。
【0329】
本発明のウイルスは、溶媒に分散させて、例えば溶液または懸濁液の形態で送達することができる。ウイルスは、しかるべき生理溶液、例えば、生理食塩水をはじめとする薬理学的に許容される溶媒または緩衝液に懸濁させることができる。当該技術分野で公知の緩衝液は、pHが約4.0~5.0になるように、水1ml当たりエデト酸二ナトリウムを0.05mg~0.15mg、NaClを8.0mg~9.0mg、ポリソルベートを0.15mg~0.25mg、無水クエン酸を0.25mg~0.30mgおよびクエン酸ナトリウムを0.45mg~0.55mg含有し得る。懸濁液には、例えば、現場で無菌等張担体で希釈する凍結乾燥ウイルスを用い得る。
【0330】
治療用の懸濁剤または液体製剤はほかにも、1つまたは複数の添加剤を含有し得る。添加剤は当該技術分野で周知であり、緩衝剤(例えば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤および炭酸水素緩衝剤)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトールおよびグリセロールがこれに含まれる。液剤または懸濁剤をリポソームまたは生分解性マイクロスフェアに封入することができる。製剤は一般に、実質的に無菌の形態で提供される。
【0331】
無菌製造工程は、当業者が精通する方法による、ウイルスの作製および製剤に使用する緩衝溶媒/溶液のろ過による滅菌、無菌溶媒/溶液へのウイルスの無菌懸濁および無菌容器への製剤の分配を含み得る。
【0332】
噴霧、非経口、局所および経口のための用量を含む本開示による製剤は、例えば、単回投与単位として(例えば密閉したプラスチック容器またはバイアルの形態などで)提供され得る。一実施形態では、各バイアルは、ある体積、例えば2mLの体積の緩衝溶媒/溶液中に単位用量を含む。
【0333】
本明細書では、溶媒、溶液、担体などは、文脈からそうでないことが明らかでない限り、互換的に使用される。
【0334】
一実施形態では、単位用量を含む本開示による製剤をホイルの包みに包装する。
【0335】
一実施形態では、治療に使用する本開示によるウイルス構築物、製剤を非経口投与する。一実施形態では、本開示によるウイルス構築物、製剤を局所的に、例えば、鼻腔内、結腸、肺、眼球などに投与する。一実施形態では、本開示によるウイルス構築物、製剤を経口投与する。
【0336】
一実施形態では、本明細書に開示されるウイルスは、噴霧による送達に適し得る。
【0337】
したがって、治療、例えば癌治療に使用するための本開示のアデノウイルスまたはこれを含む組成物の、特に、必要とする患者に治療有効量を投与することによる使用が提供される。このほか、本開示のアデノウイルスの薬剤製造への使用が提供される。
【0338】
本明細書の文脈において、「comprising(含む)」は「including(含む)」であると解釈される。
【0339】
このほか、特定の要素を含む本発明の諸態様は、関連する要素から「なる」または関連する要素から「実質的になる」代替の実施形態に及ぶものとする。
【0340】
技術的に適切である場合、本発明の実施形態を組み合わせてもよい。
【0341】
特許および特許出願などの技術参考文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0342】
本明細書に具体的かつ明確に記載される実施形態は、単独で、または1つもしくは複数のさらなる実施形態と組み合わせて、権利放棄の基礎となり得る。
【0343】
補正の基礎となり得る配列および図面には本開示の諸態様が記載される。図面および配列の開示は本開示全般に適用されるものであって、単なる極めて具体的な特徴の組合せとして解釈されることを意図するものではない。優先出願である英国特許第1322851.5号が参照により本明細書に組み込まれ、同じく国際出願PCT/EP2014/072919号の内容が、その配列表を含め参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0344】
【表2】
【0345】
実施例1.ColoAd1シャトルベクターの構築
p15A細菌複製起点と、カナマイシン耐性カセットと、第三の制限酵素部位PspOMIによって連結されたColoAd1の5’アームおよび3’アームとを含む、「ColoAd1シャトルベクター」と称する11978bpのシャトルベクターを構築した(図6を参照されたい)。
【0346】
PCRにより3つのDNAフラグメント:
1)ColoAd1の5’4627bpに対応し、5’AscI制限部位と3’PspOMI制限部位とを有する、「ColoAd1の5’アーム」、
2)ColoAd1ゲノムの3’4482bpに対応し、5’PspOMI制限部位と3’AscI制限部位とを有する、「ColoAd1の3’アーム」および
3)AscI制限部位(複数)と隣接する、低コピーp15A複製起点とカナマイシン耐性カセットとを含むベクターフラグメント
を合成した。
【0347】
ゲノム配列に望ましくない変化を導入せずにシャトルベクターを直線化し、ColoAd1ゲノムと組み換えてプラスミドを形成させるのに適した制限部位として、5’アームおよび3’アーム内の第三の制限部位PspOMIを選択した。
【0348】
この制限部位は、図4に示される通り、シャトルベクターが約4~5kbの3’アームおよび5’アームを有するように、ColoAd1ゲノムの5’末端のほかにもゲノムの3’末端、特に3’ITRSおよび5’ITRSの末端から約4~5kbの付近に来るよう設計されたものである。
【0349】
PCRによるフラグメント合成の詳細
PCR増幅に使用したプライマーを表1に記載する。
【0350】
【表3】
【0351】
1)5’アームの作製
E1A、E1BおよびE2B領域ならびにColoAd1の5’末端を増幅するため、天然のColoAd1に対してプライマー0198(配列番号5)および0200(配列番号7)を用いてPCRを実施した。PCR反応には、表2に従って反応体積50μlを用い、PCR産物の模式図を図10Aに示す。
【0352】
【表4】
【0353】
2)3’アームの作製
E3、ファイバーおよびE4領域ならびにColoAd1の3’末端を作製するため、天然のColoAd1に対してプライマー0198(配列番号5)および0201(配列番号8)を用いてPCRを実施した。PCR反応には、下の表3に詳述するように、反応体積50μlを用い、PCR産物の模式図を図10Bに示す。
【0354】
【表5】
【0355】
3)ベクターフラグメントの作製
ベクターフラグメントに対してプライマー0196(配列番号3)および0197(配列番号4)を用いて第三のPCRを実施して、p15A起点と、カナマイシン耐性遺伝子とを含み、5’および3’AscI制限部位を有する、約3kbのフラグメントを作製した(図10C)。PCR反応には、表4に詳述するように、反応体積50μlを用いた。
【0356】
【表6】
【0357】
PCR増幅にはいずれも表5のプロトコルを用いた
【0358】
【表7】
【0359】
以下のように増幅を30サイクルの実施した:[段階1]×1,[段階2、段階3、段階4]×30、[段階5]×1。
【0360】
次いで、各PCR産物1μlを1%アガロースゲルで1時間、150Vで泳動した(図11A)。各PCR産物の全量をスピンカラム法により製造業者のプロトコル通りに精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0361】
増幅率を高めるため、5’アームおよび3’アームのPCRを繰り返し実施した。既に詳述したものと同じプログラムおよび混合物を使用し、産物1μlを0.8%ゲルで1時間、150Vで泳動した(図11B)。各PCR産物の全量を0.8%アガロースからのゲル抽出により精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0362】
PCR増幅を実施した後、3つのPCRフラグメントを「くっつけ」てColoAd1シャトルベクターを形成するべく、多数の方法を試みた。1つの方法では、2段階の反応を用いてPCR産物をライゲートするべく試みた。この方法は、最初に5’アームと3’アームとをライゲートした後、2回目のライゲーション反応によりベクターをライゲートするものであったが、成功しなかった(詳細については以下を参照されたい)。
【0363】
2つ目の方法では、1段階の3者ライゲーションで3つのPCR産物をライゲートするべく試みた。この方法を用いてライゲーションを成功させる条件を決定するため、総DNA量、DNAフラグメントの比、ライゲーションの時間と温度およびベクターのリン酸化状態を様々に変化させた。いくつかの組合せを試みて不成功に終わったのち、機能的な方法論を打ち立てた。
【0364】
1段階の3者ライゲーションによるColoAd1シャトルベクターの形成
下の表に従って、PspOMIおよびAscIを用いた5’アームおよび3’アームのPCR産物(約4.6kbおよび約4.5kb)の二重消化(表6を参照されたい)ならびにAscIのみによるp15a-KANベクターのPCR産物(約3kb)の消化(表7を参照されたい)を37℃で2時間実施した。
【0365】
【表8】
【0366】
【表9】
【0367】
5’アームおよび3’アームの消化物を65℃で20分間、熱失活させた。p15A-Kanベクターフラグメントを37℃で1時間、1μlアルカリ仔ウシホスファターゼ(CIP)で処理した。
【0368】
処理した各制限消化物1μlを0.8%アガロースゲルで泳動した(図12)。消化産物の全量を0.8%アガロースゲルで分離し、ゲル精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0369】
精製した消化産物にT4 DNAリガーゼ2μlおよびリガーゼ緩衝液4μlを用いて、表8のように様々な比のフラグメントで、1段階の3者ライゲーションを室温で1時間実施した。
【0370】
【表10】
【0371】
ライゲーション混合物全体をXL-10 Goldウルトラコンピテント細胞と氷上で30分間インキュベーションした後、42℃で30秒間、熱ショックを加えることにより、細菌に形質転換した。LB+Kanプレートに各形質転換培養物500μlを散布し、37℃で一晩インキュベートした。T4 DNAリガーゼ2μlを加えた脱リン酸化p15A-kanベクター6μlを用いた対照をLB+Kanプレートに散布した。一晩インキュベートした後、対照プレート以外のプレートにはいずれもコロニーが認められた。
【0372】
コロニーの診断的PCRスクリーニングおよび制限消化
各プレートから4コロニーを選択して取り出し、LBブロス4ml中において、250rpm、37℃で一晩培養した。
【0373】
ミニプレップによりDNAを精製した。ミニプレップでは、製造業者のミニプレッププロトコル通りに、アルカリ溶菌により細菌からDNAを回収し、DNA結合カラムでDNAを精製した。DNAは緩衝液40μlに溶出させた。
【0374】
12個の精製DNA試料に診断的PCRを実施して、約12kbのColoAd1シャトルベクター産物が存在し、5’アームおよび3’アームがともに正確な方向で含まれているかどうかを判定した(図13)。各構築物には、ライゲーションが起こったと思われる連結点にまたがるプライマーを用いた3つのPCRを個別に用いた。反応に用いたプライマーの配列を下の表9に示す。
【0375】
【表11】
【0376】
下の表10~12に詳細に記載する混合物に従ってPCR反応物を設定した。
【0377】
【表12】
【0378】
【表13】
【0379】
【表14】
【0380】
TAQポリメラーゼPCRミックス(Qiagen社、番号201443)の製造業者の使用説明書に従ってPCRプログラムを設定した。
【0381】
PCR産物1μlを1%アガロースゲルで1時間、150Vで泳動した(図14)。
【0382】
大きさおよび方向が正しい構築物では、図13の模式図に詳細に記載される1.3kb、1.4kbおよび1.1kbの3つのPCR産物が予想された。正しい大きさの産物を示したのは試料13、14および16のみであった(図14)。これらの構築物はいずれも1:1:1のライゲーション比を用いて得られたものである。1:1:6および1:1:12の比を用いた構築物では正しい大きさのフラグメントは得られなかった(図14の番号17~24)。1:1:1のライゲーションの試料に12kbのColoAd1シャトルベクターが存在することを確認するため、選択した構築物にPspOMIによる制限消化およびPspOMIとAscIによる二重消化を37℃で1時間実施した。用いた消化反応物を表13および表14に詳細に記載する。
【0383】
【表15】
【0384】
【表16】
【0385】
各消化物1μlを0.8%ゲルで1時間、150Vで泳動した(図15)。
【0386】
大きさおよび方向が正しい構築物では、PspOMI消化により約12kbの単一バンドが得られることが予想され、PspOMI/AscI消化により約3kbのバンドおよび約4.7kbのバンドが得られることが予想された。二重消化では、約4.7kbのバンドは、この大きさの5’アームおよび3’アームが両方存在するため、強度が約3kbのバンドの約2倍になると予想された。構築物13および16は、ColoAd1シャトルベクターに対応する正しい消化バンドパターンを示した(図8)。
【0387】
次いで番号16の構築物の配列を決定したところ、配列番号2のColoAd1シャトルベクターの構築に成功したことが確認された。
【0388】
実施例2.ColoAd2.4シャトルベクターの構築
実施例1で作製したColoAd1シャトルベクターには、ゲノム内に1回のみ現れ、シャトルベクターに存在するColoAd1ゲノム内の任意の領域の改変(例えば、E1領域の改変)を可能にする、11個の固有(天然)の制限部位が含まれていた。シャトルベクターに存在する各部位およびColoAd1遺伝子の位置を示す制限酵素地図を図6に示す。
【0389】
ColoAd1シャトルベクターでは、2つの固有(天然)の制限部位(PspOMIおよびAclI)がそれぞれ4634および6851の位置でファイバー(L5)遺伝子に隣接している。これらは、ColoAd1ゲノム内で27839および30065の位置でファイバー(L5)遺伝子に隣接する元のPspOMIおよびAclIに対応している(図9)。ColoAd1シャトルベクターでは、これらの部位により、この領域のDNA配列を切り取って、改変された配列または異なる配列に置き換える、あるいはこの領域に単なる付加によりDNA配列を挿入することが可能になる。
【0390】
PspOMIとAclI制限部位との間のDNA配列を合成DNAフラグメントに置き換えることによって、ColoAd1シャトルベクターからColoAd2.4シャトルベクターを作製した。合成DNAフラグメントの配列は、ファイバー遺伝子下流に追加の19bp(GCGATCGCTACCCTGCAGG-配列番号29、図3)を含むことを除いて、ColoAd1シャトルベクター内の置き換わる配列と同じであった。この追加の塩基は、新規な独自のSgfI制限部位およびSbfI制限部位を含むものであった(図17)。
【0391】
PspOMI部位およびAclI部位に隣接する合成DNAフラグメントはMWG Eurofins社に注文したものである(図18、配列番号27))。この合成フラグメントは5.17kbのAmpR pBluescript II SKプラスミドの形で供給された。
【0392】
ColoAd1シャトルベクターおよび合成フラグメントを含むpBluescriptプラスミドを表15に詳細に記載する反応物中において、37℃で1時間消化した。
【0393】
【表17】
【0394】
消化したシャトルベクターおよび合成フラグメントをともに0.8%アガロースゲルで分離し、しかるべき大きさのフラグメントをゲル精製し、ヌクレアーゼフリー水40μlに溶出させた。
【0395】
インサートとシャトルベクターが3:1のライゲーション比を用いて、反応物10μl中、3μl:1μlの体積で1時間、1×リガーゼ緩衝液およびT4 DNAリガーゼ1μlにより室温にて合成フラグメントをColoAd1シャトルベクター内にライゲートした。
【0396】
ライゲーション混合物2μlを製造業者のプロトコルに従って、42℃の熱ショックによりXL-1 Blue細胞に形質転換した。形質転換後、LBカナマイシンプレートから5つのコロニーを選択して取り出し、カナマイシンを含有するLBブロス3ml中において、250rpm、37℃で一晩培養した。各培養物にミニプレップを製造業者のプロトコル通りに実施し、精製されたDNAを緩衝液40μlに溶出させた。
【0397】
独自の制限部位SbfIおよびSgfIを含むColoAd2.4シャトルベクターの構築を確認するため、5例の試料それぞれに制限酵素分析を実施した。下の表16に詳細に記載する通りにEcoRVおよびSbfIによる制限消化を設定した。
【0398】
【表18】
【0399】
5例いずれの消化物からも、正しい大きさのフラグメント、すなわち3kbのバンドおよび9kbのバンドが得られた(図19)。
【0400】
ColoAd2.4シャトルベクターであると推定された番号5をグリセロールストックからの細菌中で増幅させ、DNAを回収し、マキシプレップにより精製した。この番号5の構築物の配列を決定し、ColoAd2.4シャトルベクター(配列番号26)の構築が成功したことを確認した。
【0401】
実施例3.ColoAd2.0シャトルベクターの構築
実施例1で構築したColoAd1シャトルベクターからColoAd2.0シャトルベクター(配列番号15、図20)を作製した。ColoAd2.0シャトルベクターの作製に用いた方法は、ColoAd2.4シャトルベクターの作製に用いた方法、すなわち、実施例2で詳述したPspOMI制限部位とAclI制限部位との間への合成DNAフラグメントのライゲーションを用いた方法と同じであった。
【0402】
ColoAd2.0シャトルベクターの構築に用いた合成DNAフラグメントの配列は、Fibre(L5)遺伝子上流に独自の制限部位FseIを含む追加の9bpのほか、ファイバー遺伝子下流に2つのポリアデニル化配列と独自の制限部位SgfI、NotIおよびSbfIとを含む追加の123bpを含むことを除いて、ColoAd1シャトルベクター内の置き換わる配列とほぼ同じものであった(配列番号16、図21)。
【0403】
表17の混合物に詳細に記載するように酵素FseI、AscI、NotI、SbfIまたはPspOMIを用いて1時間、37℃で実施した制限消化のパネルにより、ColoAd2.0シャトルベクターの構築を確認した。
【0404】
【表19】
【0405】
各消化物2μlを1%アガロースゲルで分離した。いずれの構築物も各消化物について正しいバンドパターンを示した(図22)。番号4のColoAd2.0シャトルベクター構築物を選択して配列を決定したところ、ColoAd2.0シャトルベクター(配列番号15)の構築に成功したことが確認された。
【0406】
実施例4.ColoAd2.1シャトルベクターの構築
PspOMI制限部位とAclI制限部位との間のDNA配列を、2回のPCR反応によって作製したDNAフラグメント(配列番号18)に置き換えることにより、ColoAd1シャトルベクター(実施例1で得られたもの)からColoAd2.1シャトルベクター(配列番号17、図23)を作製した。得られたDNAフラグメントは、ファイバー遺伝子上流に追加の9bp(AGCGGCCGC-配列番号19、図3)を含むことを除いて、ColoAd1シャトルベクター内の置き換わる配列と同じであった。この追加の塩基は独自のNotI制限部位を含むものであった(図24C)。
【0407】
NotI制限部位をPCRによりPspOMI-AclI隣接配列内に導入するのに、2回のPCR反応が必要であった。1番目のPCR(PCR1)では5’PspOMI制限部位と導入された3’NotI部位とを含むフラグメントが生じ(図24A)、2番目のPCR(PCR2)では導入された5’NotI部位と3’AclI部位とを含むフラグメントが生じた(図24B)。これらのPCR産物をNotI部位でライゲートすることにより、ColoAd2.0シャトルベクター構築に用いるColoAd2.0のDNAフラグメントを作製した(図24C)。
【0408】
2回のPCR反応に使用したプライマーを表18に示す。
【0409】
【表20】
【0410】
ColoAd1ゲノム鋳型DNAにプライマー0274(配列番号20)および0275(配列番号21)を用いてPCR1を実施した。PCR1の反応には、下の表19に従って反応体積50μlを用い、PCR1産物の模式図を図24Aに示す(配列番号24)。
【0411】
【表21】
【0412】
ColoAd1ゲノム鋳型DNAにプライマー0276(配列番号22)および0277(配列番号23)を用いてPCR2を実施した。PCR2の反応には、下の表20に従って反応体積50μlを用い、PCR2産物の模式図を図24Bに示す(配列番号25)。
【0413】
【表22】
【0414】
PCR反応はいずれも、表21に詳細に記載するプログラムに従って実施した。
【0415】
【表23】
【0416】
以下のように増幅を30サイクル実施した:[段階1]×1、[段階2、段階3、段階4]×30、[段階5]×1。
【0417】
PCR産物の全量をスピンカラム法により製造業者のプロトコル通りに精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0418】
次いで、BamHIおよびNotIによるPCR1産物の消化(表22)のほか、BglIIおよびNotIを用いたクローニングベクターの消化(表23を参照されたい)を37℃で1時間実施した。
【0419】
【表24】
【0420】
【表25】
【0421】
消化したベクターおよびPCR1の産物を0.8%アガロースゲルで分離し、しかるべき大きさのフラグメントをゲル精製し、ヌクレアーゼフリー水40μlに溶出させた。
【0422】
インサートとベクターが3:1のライゲーション比を用いて、反応物20μl中、10μl:1μlの体積で1時間、1×リガーゼ緩衝液およびT4 DNAリガーゼ1μlにより室温にてPCR1の産物をベクター内にライゲートした。
【0423】
ライゲーション混合物6μlを製造業者のプロトコルに従って、42℃の熱ショックによりXL-1 Blue細胞に形質転換した。形質転換後、LBカナマイシンプレートから5つのコロニーを選択して取り出し、カナマイシンを含有するLBブロス3ml中において、250rpm、37℃で一晩培養した。各培養物にミニプレップを製造業者のプロトコル通りに実施し、精製されたDNAを緩衝液40μlに溶出させた。
【0424】
ベクターがPCR1の産物を含むことを確認するため、5例の試料それぞれに制限酵素分析を実施した。SpeIおよびAscIによる制限消化を37℃で1時間、表24に詳細に記載する通りに設定した。
【0425】
【表26】
【0426】
5例いずれの消化物からも、正しい大きさのフラグメント、すなわち1.5kbのバンドおよび4kbのバンドが得られた。
【0427】
PCR2の産物および新たに作製したPCR1の産物を含むベクターを37℃で1時間、表25に詳細に記載する通りにNotIおよびEcoRIで消化した。
【0428】
【表27】
【0429】
消化したPCR1のフラグメントを含むベクターおよびPCR2の産物を0.8%アガロースゲルで分離し、しかるべき大きさのフラグメントをゲル精製し、ヌクレアーゼフリー水40μlに溶出させた。
【0430】
インサートとベクターが3:1のライゲーション比を用いて、反応物20μl中、10μl:1μlの体積で1時間、1×リガーゼ緩衝液およびT4 DNAリガーゼ1μlにより室温にてPCR2の産物をベクター内にライゲートした。
【0431】
ライゲーション混合物6μlを製造業者のプロトコルに従って、42℃の熱ショックによりXL-1 Blue細胞に形質転換した。形質転換後、LBカナマイシンプレートから5つのコロニーを選択して取り出し、カナマイシンを含有するLBブロス3ml中において、250rpm、37℃で一晩培養した。各培養物にミニプレップを製造業者のプロトコル通りに実施し、精製されたDNAを緩衝液40μlに溶出させた。
【0432】
ベクターがPCR1の産物およびPCR2の産物の両方からなるDNAフラグメントを含むことを確認するため、5例の試料それぞれに制限酵素分析を実施した。表26に詳細に記載する通り、PspOMIおよびAclIによる制限消化を37℃で1時間、表26に詳細に記載する通りに設定した。
【0433】
【表28】
【0434】
5例いずれの消化物からも、正しい大きさのフラグメント、すなわち2.3kbのバンドおよび3.15kbのバンドが得られた。ベクター内のPspOMI部位とAclI部位との間のDNAフラグメントの配列が正確であることを確認するため、番号5の試料の配列を決定した(配列番号18)。
【0435】
次いで、実施例1で構築したColoAd1シャトルベクターからColoAd2.1シャトルベクターを作製した。2回のPCR反応によって作製されたDNAフラグメントをColoAd1シャトルベクター内にライゲートするのに用いた方法は、実施例2で合成DNAフラグメントをライゲートしてColoAd2.4シャトルベクターを作製した方法と同じであった。
【0436】
表27の混合物に詳細に記載する通りに酵素NotIおよびAscIを用いた制限消化を37℃で1時間実施することにより、ColoAd2.1シャトルベクターの構築を確認した。
【0437】
【表29】
【0438】
各消化物2μlを1%アガロースゲルで分離したところ、いずれの構築物もColoAd2.1シャトルベクターに対応する正しいバンドパターンを示した(図25)。番号4のColoAd2.1シャトルベクター試料を選択して配列を決定し、ColoAd2.1シャトルベクター(配列番号17)の構築に成功したことを確認した。
【0439】
実施例5.相同組換えによるColoAd2.4、ColoAd2.0またはColoAd2.1プラスミドの構築
相同組換えによりColoAd2.0、ColoAd2.4およびColoAd2.1シャトルベクターからColoAd2.0(配列番号30)、ColoAd2.4(配列番号28)およびColoAd2.1(配列番号31)プラスミドを作製した。この方法の模式図による概要を図5に示す。
【0440】
ColoAd2.0、ColoAd2.4およびColoAd2.1シャトルベクター内のPspOMI部位により、エレクトロコンピテント大腸菌(E.coli)内でのColoAd1ゲノムとの相同組換えのためにシャトルベクターを直線化することが可能であった。
【0441】
以下の反応物を用いて、ColoAd2.4シャトルベクター(配列番号26)(68.6ng/μl)を37℃で1時間、PspOMIにより消化した。
【0442】
【表30】
【0443】
消化物50μlをCIP(仔ウシアルカリホスファターゼ)1μl で1時間、37℃にて処理した。
【0444】
消化物をプールし、Sigma Genelute MiniprepカラムでNFW 40μlにより溶出させて精製した。
【0445】
エレクトロコンピテントBJ5183細胞(Agilent社)40μl中、ColoAd2.4シャトルベクター3.5μl(23.4ng/μl)とColoAd1 1.5μl(36ng/μl)との組換えを実施した。このほか、BJ5183細胞40μl中、直線化したベクター(ColoAd2.4ベクター)3.5μlでネガティブ対照を実施した。エレクトロポレーションにより製造業者のプロトコル(Agilent社、番号200154)通りに組換えを実施した。
【0446】
培養物5μlを希釈し、LB寒天+カナマイシン上に散布し、37℃で一晩インキュベートした。
【0447】
ネガティブ対照では、LB+Kanプレートに通常の大きさのコロニーはほとんど見られなかったのに対して、組換えのプレートには多数の小さいコロニーと少数の大型ないし中型のコロニーが見られた(図27A)。実験プレートから48個のコロニーを選択して取り出し、LBブロス+Kan 3mlに、37℃、250rpmで一晩播種した。
【0448】
ミニプレップにより製造業者のプロトコル通りに細菌からDNAを精製し、ヌクレアーゼフリー水40μlに溶出させた。
【0449】
DNA試料中に組換えが存在するかどうかを判定するため、下の表29の反応物を用いて、候補試料をEcoRVおよびSbfIで消化した。
【0450】
【表31】
【0451】
消化物を0.8%アガロースゲルで1時間、150Vで泳動した(図27B)。
【0452】
EcoRV/SbfIによる消化の後、番号3、8および10の組換えが正しいバンドを示し、それぞれ2μlを製造業者のプロトコルに従ってXL-1 Blue細胞50μlに形質転換した。細胞50μlをLB/カナマイシンプレートに播き、37℃で一晩インキュベートした。
【0453】
番号8のプレートから7つのコロニーを取り出し、カナマイシンを添加したLBブロス3ml中において、37℃、220rpmで一晩インキュベートした。組換えコロニーにミニプレップを製造業者のプロトコル通りに実施し、DNAをNFW 40μlに溶出させた。下の表30の消化反応物を用いて、37℃で1時間、診断的制限酵素消化を設定した。
【0454】
【表32】
【0455】
【表33】
【0456】
消化物を0.8%アガロースゲルで泳動した(図28)。
【0457】
構築物のうち、消化した番号4の組換えColoAd2.4プラスミドに正しい制限パターンが認められた。そこで、このプラスミドをグリセロールストックから増幅し、マキシプレップによりDNAを精製し、配列を決定した(配列番号28)。これにより、ColoAd2.4プラスミドの作製に成功したことが確認された(図26)。
【0458】
図2に示されるColoAd2.0(配列番号30)、ColoAd2.4(配列番号28)およびColoAd2.1(配列番号31)プラスミドはいずれも、上記の方法を用いて構築に成功した。
【0459】
全てのプラスミドに配列決定を実施し、ColoAd1ゲノム配列内に不必要な変化が起こっていないことを確認した。
【0460】
実施例6.成功しなかったシャトルベクターの2段階ライゲーション
実施例1に記載したColoAd1の5’アームおよび3’アームのPCR産物20μlを37℃で2時間、下の表32に詳細に記載する通りにPspOMIにより消化した。
【0461】
【表34】
【0462】
消化物を0.8%アガロースゲルで分離し、ゲル精製し、溶出緩衝液30μlに溶出させた。溶出させた産物の全量をライゲーション反応に用いた。
【0463】
5’アームおよび3’アーム(約4.6kbおよび約4.5kb)のフラグメントを、体積10μl(低)または25μl(高)を用いた1:1の比で2.5時間、室温でライゲートした。
【0464】
【表35】
【0465】
ライゲーション反応物を70℃で5分間、熱失活させ、ライゲーションの各組にプライマー0199(配列番号6)またはプライマー0198(配列番号5)を用いてPCRを2回実施し、約9.1kbのフラグメントを増幅した。
【0466】
各PCR産物1μlを0.8%アガロースゲルで泳動した(図29A)。
【0467】
低体積ライゲーション後のPCR産物を全量、0.8%アガロースゲルで分離し、ゲル精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0468】
ライゲートされた9kbのPCR産物および前もってPCRで増幅した約3kbのp15A-Kanベクターに以下の混合物を用いて、37℃で2時間、酵素AscIで制限消化した。
【0469】
【表36】
【0470】
AscIで消化した約9kbのフラグメントを65℃で20分間、熱失活させ、AscIで消化したp15a KANベクターを37℃で1時間、CIP 1μlで処理した。
【0471】
消化産物1μlを1%アガロースゲルで泳動して、相対DNA濃度を評価した(図29B)。
【0472】
次いで、各産物の全量をスピンカラム法により精製し、溶出緩衝液40μlに溶出させた。
【0473】
T4 DNAリガーゼ2μlおよびリガーゼ緩衝液4μlを用いて、約9kbのフラグメント(5’アーム-3’アーム)とp15A-Kanベクターとの間のライゲーションを室温で1.5時間、以下の比、1:1(5μl)、1:2(2μl:4μl)、1:3(2μl:6μl)、1:3(4μl:12μl)、および1:3(3μl:9μl)で実施した。
【0474】
各ライゲーション混合物の全量をXL-10 Goldウルトラコンピテント細胞50μlに製造業者のプロトコル通りに(Stratagene社、番号200314)熱ショックにより形質転換した。
【0475】
各培養物500μlをLB+カナマイシンプレートに散布し、37℃で一晩インキュベートした。プレート上にコロニーが認められ、これをLBブロス中において、37℃、250rpmで増幅した。ミニプレップにより製造業者のプロトコル通りに細菌からDNAを精製した。
【0476】
精製したDNAについて、実施例1に詳述したものと同じ診断的PCRおよび制限消化法によりColoAd1シャトルベクターの有無を分析した。
【0477】
大きさおよび方向が正確な正しい構築物では、診断的PCRにより1.3kb、1.4kbおよび1.1kbのバンドが得られることが予想され、制限消化により、PspOMIでは単一の約12kbのバンドが得られ、PspOMI/AscIでは約3kbのバンドおよび約4.7kbのバンドが得られることが予想された。いずれの診断的方法でも正しいバンドを示した試料はみられなかった(図16)。
【0478】
実施例7.レポーター遺伝子カセットを含むColoAd2.4プラスミド(pNG-62)の構築
実施例5で作製したColoAd2.4プラスミドを用いて、ColoAd2.4プラスミドの固有の制限部位SgfIとSbfIとの間にレポーター遺伝子の導入遺伝子カセットを含む、pNG-62と称するプラスミド(配列番号35、図30)を構築した。導入遺伝子カセットは、分岐スプライスアクセプター配列(bSA)、蛍光レポーター遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびSV40後期ポリA配列(PA)からなるものであった。
【0479】
1)導入遺伝子カセットの構築
導入遺伝子カセットの構築には、3’SV40後期ポリA配列を有するGFP配列を含むクローニングベクター(mpSF-CMV-GFP-PA)をPCR鋳型として用いた。
【0480】
PCRにより、GFP遺伝子の5’末端に分岐スプライスアクセプター(bSA)およびKOZAK配列5’-TGCTAATCTTCCTTTCTCTCTTCAGGCCGCC-3’(配列番号36)を付加した。このほかPCRプライマーにより、bSA配列の開始位置の前に5’SgfI部位、SV40ポリA配列の後に3’SbfI部位をそれぞれ導入して、導入遺伝子カセットPCR産物を得た(図31、配列番号37)。PCR産物の増幅に用いたPCRプライマーを表35に詳細に記載する。
【0481】
【表37】
【0482】
表36に詳細に記載するPCR反応のために体積50μlの反応物を用いた。
【0483】
【表38】
【0484】
表37のプログラムに従ってPCR増幅を実施した。
【0485】
【表39】
【0486】
PCR産物をスピンカラムにより精製し、NFW 40μlに溶出させた。PCR産物およびSgfI制限部位とSbfI制限部位とを含むサブクローニングベクターを37℃で1時間、酵素SgfIおよびSbfI(表38)で消化した。
【0487】
【表40】
【0488】
消化産物を1%アガロースゲルで分離し、しかるべき大きさのフラグメントをゲル精製し、ヌクレアーゼフリー水40μlに溶出させた。
【0489】
消化し精製したPCR産物を、インサートとベクターが3:1のライゲーション比を用いて、反応物10μl中、3μl:1μlの体積で1時間、1×リガーゼ緩衝液およびT4 DNAリガーゼ1μlにより室温にて直線化したベクター内にライゲートした。
【0490】
ライゲーション反応物1μlをXL Gold細胞50μlに形質転換し、100μlをLB+アンピシリン(100μg/ml)プレートに散布した。一晩増殖させた後、プレート上に50超のコロニーが認められた。5つのコロニーを取り出し、アンピシリンを含有するLBブロス 3ml中で一晩培養した。ミニプレップによりDNAを精製し、緩衝液40μlに溶出させた。
【0491】
ベクター内に導入遺伝子カセットが存在することを確認するため、構築物を表39の制限酵素SgfIおよびSbfIで診断的に消化した。
【0492】
【表41】
【0493】
5つの構築物ではいずれも、消化により正しい大きさのフラグメント、すなわち1.1kbのバンドおよび4.7kbのバンドが得られた(図32)。そこで、番号1の構築物の配列を決定し、GFP導入遺伝子カセットの構築に成功したことを確認した(図31、配列番号37)。
【0494】
2)プラスミドNG-62の構築
表40に示す反応物を用いて、GFP導入遺伝子カセットを含む番号1の構築物(576ng/μl)およびColoAd2.4プラスミド(583ng/μl)を37℃で2時間、SgfIおよびSbfIで消化した。
【0495】
【表42】
【0496】
消化物を0.8%アガロースゲルで分離し、しかるべき大きさのフラグメントをゲルから切り取った。次いで、QIAEX IIキット(QIAGEN社)を用いてColoAd2.4プラスミドを精製し、quick gel extractionキット(QIAGEN社)を用いてGFP導入遺伝子カセットを精製した。
【0497】
インサートとベクターが1.5:1のライゲーション比(2.25μl:3.7μl)または2:1のライゲーション比(3μl:4μl)のいずれかを用いて、ColoAd2.4プラスミド(18ng/μl)内に導入遺伝子カセット(40ng/μl)をライゲートした。10μlの反応の体積にて1×リガーゼ緩衝液およびT4 DNAリガーゼ1μlを用いて反応を実施した。ライゲーションは16℃で16時間実施した。
【0498】
ライゲーション混合物4μlをXL-Blue細胞50μlに製造業者のプロトコル通りに(Agilent社)に形質転換し、カナマイシンを含有するLB寒天プレートに形質転換物の全量を散布した。一晩増殖させた後、全コロニーをプレートから取り出し、カナマイシンを含有するLBブロス3ml中において、250rpm、37℃で一晩培養した。
【0499】
ミニプレップによりDNAを精製し、緩衝液40μlに溶出させた。
【0500】
pNG-62プラスミドが作製されたかどうかを判定するため、表41に詳細に記載する酵素NheIおよびEcoRVを用いた制限消化により、構築物をスクリーニングした。
【0501】
【表43】
【0502】
消化産物を0.8%アガロースゲルで分離した。スクリーニングした構築物のうち、1.5:1の比のライゲーションで得られた番号1、2および3の構築物ならびに2:1の比のライゲーションで得られた番号1、2および4の構築物が、プラスミドpNG-62で予測されるパターン、12.3kb、9.7kb、5.5kbおよび3.1kbに対応するバンドサイズを示した(図33A)。
【0503】
pNG-62であると推定された番号2(1.5:1)および番号1(2:1)の構築物についてはさらに、酵素BglIIまたは酵素NheIとEcoRVで診断的に制限消化した(図33B)後、配列決定を実施した。これにより、プラスミドpNG-62(配列番号35、図30)の構築に成功したことが確認された。
【0504】
実施例8.NG-62ウイルスの産生および導入遺伝子の発現
実施例7で作製したプラスミドpNG-62を直線化し、これを用いて、導入された制限部位SgfIとSbfIとの間にあり、ファイバー(L5)遺伝子の下流に挿入されたレポーター遺伝子(GFP)の導入遺伝子カセットを有するColoAd1ゲノムを含む生存ColoAd1ウイルス粒子を作製した。
【0505】
酵素AscIによる制限消化により、プラスミドpNG-62(685ng/μl)を直線化してNG-62ウイルスゲノム(配列番号38)を作製した。制限消化反応を表42に従って設定し、37℃で2時間実施した。
【0506】
【表44】
【0507】
消化したpNG-62 DNAをヌクレアーゼフリー水50μlで希釈し、次いでフェノール/クロロホルム抽出により精製した。次いで、抽出したNG-62 DNAを分子生物学グレードの95%超エタノール300μl/3M酢酸ナトリウム10μl中において、-20℃で16時間、沈殿させた。
【0508】
沈殿したDNAを14000rpmで5分間遠心分離することによりペレット化し、70%エタノール500μlで洗浄した後、再び14000rpmで5分間遠心分離した。洗浄されたDNAペレットを空気乾燥させ、リポフェクタミントランスフェクション試薬15μlを含有するOptiMEM 500μlに再懸濁させ、室温で30分間、インキュベートした。次いで、集密度70%まで増殖させたHek293細胞を含むT-25フラスコにトランスフェクション混合物を滴加した。細胞をトランスフェクション混合物とともに37℃、5%COで2時間インキュベートした後、細胞に細胞培地(2%FBSを添加したグルタミン含有高グルコースDMEM)4mlを加え、フラスコを37℃、5%COでインキュベートした。
【0509】
トランスフェクトしたHek293細胞を24時間毎にモニターし、48~72時間毎に追加の培地を添加した。細胞単層における有意な細胞変性効果(CPE)を観察することにより、ウイルスの産生をモニターした。CPEが観察されたら、凍結融解を3サイクル実施することにより、Hek293細胞からウイルスを回収した。回収したNG-62ウイルスを用いてAD293細胞に感染させ、感染から24時間および48時間後、細胞単層における有意なCPEが観察されたことにより生存ウイルスの産生が確認された(図34A)。このほか免疫蛍光撮像により、感染AD293細胞内でウイルスからGFP導入遺伝子が高い生産性で発現しているのが確認された(図34B)。
【0510】
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