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特許7105004超微細リン酸塩化成結晶質コーティングを適用する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】超微細リン酸塩化成結晶質コーティングを適用する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/78 20060101AFI20220714BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20220714BHJP
   C23C 22/12 20060101ALI20220714BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220714BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C23C22/78
C09D1/00
C23C22/12
B05D1/36 Z
B05D7/24 302A
【請求項の数】 9
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021029084
(22)【出願日】2021-02-25
(62)【分割の表示】P 2017557897の分割
【原出願日】2016-04-21
(65)【公開番号】P2021101042
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】62/157,997
(32)【優先日】2015-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517382921
【氏名又は名称】フォスファン エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】シェインクマン,アブラハム
(72)【発明者】
【氏名】ローゼンタール,イツァク
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-099256(JP,A)
【文献】特開平10-140371(JP,A)
【文献】特開平10-245685(JP,A)
【文献】特開2007-297709(JP,A)
【文献】特開2002-206176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩化成結晶質コーティングを提供する方法であって、該方法は、
板上に0.5から2ミクロンの超微細金属酸化物粉末粒子を堆積させる乾式法で前記基板を前処理し、前記超微細金属酸化物粉末粒子が堆積した場所に結晶化中心を生じさせる工程と、
記基板をリン酸塩コーティング溶液で処理する工程であって、結果としてリン酸塩化成結晶質コーティングを前記基板上に形成する工程と
を含むこと、を特徴とする方法。
【請求項2】
前記超微細金属酸化物粉末粒子は、CaO、ZnO、MnO、NiOおよびそれらの組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超微細金属酸化物粉末粒子は、前記基板上に0.5から100g/mの量で堆積することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記リン酸塩コーティング溶液は、リン酸で希釈された酸化物を含み、前記酸化物は、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マンガンおよびそれらの組み合わせを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リン酸塩コーティング溶液は、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせを含む群から選択されるリン酸塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リン酸塩コーティング溶液は、前記リン酸亜鉛を含み、摂氏35度以下の温度で、前記超微細金属酸化物粉末粒子と化学的に反応することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記リン酸塩コーティング溶液は、前記リン酸マンガンを含み、摂氏70度以下の温度で、前記超微細金属酸化物粉末粒子と化学的に反応することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記リン酸塩コーティング溶液のpHは2.2と2.7の間の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記リン酸塩コーティング溶液のリン酸塩密度は、1.03と1.08kg/lの間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩化成コーティングに関し、さらに詳しくは、超微細リン酸塩化成結晶質コーティングを適用する方法に関する。本発明は、様々な金属、合金及び非金属上に、超微細リン酸亜鉛、リン酸マンガンおよびリン酸カルシウム化成コーティング(PCC)(並びに他の材料)を適用する方法に関する。
【0002】
リン酸塩化成コーティング、そして特に亜鉛、マンガン、鉄、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせの化成結晶質コーティングは、塗料と、ならびに別種の有機の、シリコン有機的(silicon-organic)かつ合成のコーティングと、すなわちゴム成型品など、の接着を改善するための基礎として使用される。さらに、リン酸亜鉛コーティングは金属の腐食保護を高めるために適用され、コーティングは、その上に適用される特定の油およびワックス膜のためのキャリアとして作用する。
【背景技術】
【0003】
PCC、とりわけリン酸亜鉛処理法についての、現在の最先端技術の優れた概観は、ジョン・ドノフリオによる論文に示される。論文は以下を開示する。
【0004】
「リン酸亜鉛は、鉱酸に溶解した金属イオン間の化学反応を利用して金属基板上に形成され、次いで処理溶液を形成するために水で希釈される結晶質化成コーティングである。金属イオンを溶解するために通常使用される鉱酸は、硝酸とリン酸である。亜鉛、ニッケルおよびマンガンなどの金属は、必要な処理に応じて溶解される。反応速度を早め、水素除去を加減し、スラッジ形成を制御するために、促進剤をリン酸塩処理のプロセスに添加してもよい。
【0005】
3つの初期反応が起こる。
【0006】
リン酸亜鉛溶液が金属表面と接触するときに起こる第1の反応は、酸洗い反応(pickling reaction)であり、金属は表面から溶解する。この反応では、表面の化学的洗浄が起こる。この洗浄は、基礎となる金属へのコーティングの接着に影響を及ぼす。金属表面に近い溶液の遊離酸は金属表面の溶解のために消費される。金属イオンは処理溶液へと移される。金属の種類は、処理される基板混合物の種類に依存する。
【0007】
第2の反応はコーティング反応である。液体金属界面での遊離酸の消費により、pHは上昇し、かつ、金属陽イオンは溶液において溶解したまま留まることはできない。それらは、溶液中のリン酸塩と反応し、結晶質リン酸亜鉛として金属表面に堆積する。
【0008】
第3の反応はスラッジ反応である。酸洗い反応から溶解した金属イオン(Fe++)は、促進剤を用いて酸化され、スラッジとして沈殿する。処理中に生成されるスラッジは、通常、ある種の濾材または装置を用いて、溶液から濾過される。
【0009】
リン酸塩処理に先だって金属表面に適用される、特別な予備洗浄は、リン酸塩結晶化のための核の数をかなり増加させる。これは、リン酸塩コーティング形成の活性化と呼ばれる。」(Metal Finishing、v.98、N6、2000、pp 57-73)
【0010】
(金属イオンが処理溶液へと移される時)基礎となる材料の酸洗いの第1の処理がなければ、リン酸塩化成コーティングの生成は極めて困難であり、不可能でさえあることは、当該技術分野において一般に認められている。したがって、これらのタイプのコーティングは、鉄、酸洗いされた合金、および亜鉛に広く適用され、アルミニウムCd、Sn、Ag、Ti、Mnおよびそれらの合金にはあまり適用されない。酸洗いされない材料にリン酸塩化成コーティングを適用することは、非常に困難であり、不可能な処理でさえある。
【0011】
PCC処理を改善する様々な試みがなされたが、それぞれの試みはより多くの問題を引き起こす。これらの問題のいくつかには、材料を高温(例えば98度まで)に加熱する必要性、化学溶液(通常、検査のために検査室に試料を送る)を非常に密接にモニタリングする必要性、および/または、材料の化学的バランスを常に修正する必要性、費用のかかる処理、大量のスラッジ(それ自体環境に危険)の生成、処理槽を洗浄するための生産ラインの停止が定期的に必要になること、処理槽を洗浄するという実際に肉体的にきつい仕事、などが挙げられる。
【0012】
リン酸塩コーティング結晶の寸法を小さくする試みとしては、精製懸濁液またはリン酸塩処理溶液に化学化合物を添加すること、さらなる特別槽を適用することなどが含まれる。これらの技術はすべて、コーティングライン設備、コーティング技術を複雑にし、この処理の環境保護的な側面を悪化させる。
【0013】
略語用語集
Ag - 銀
Ca - カルシウム
Cd - カドミウム
PCC - リン酸塩化成コーティング
Fe - 鉄
Mn - マンガン
MOP - 金属酸化物粒子
Ni - ニッケル
PCCS - リン酸塩化成コーティング溶液
Sn - 錫
Ti - チタン
Zn - 亜鉛
ZnO - 酸化亜鉛
ZPCCC - リン酸亜鉛化成結晶質コーティング
【発明の概要】
【0014】
本発明によれば、コーティングすべき部分の表面は、リン酸コーティング溶液でその部分を処理する湿式法の前に、表面上に粒子が堆積する乾式法において前処理される。
【0015】
結果として生じる処理は、金属および非金属両方の、すべてのタイプの基板をコーティングするための普遍的な手順を提供する。この処理は、当該技術分野で現在知られているコーティング処理と比較すると、大幅に単純化されている。リン酸塩処理溶液も単純化され、種々の促進剤および化学添加物を不要にする。
【0016】
現在の処理に対する本技術革新の主な利点のうちのいくつかには、以下が挙げられる。
a) 顧客に要求される厚さの超微細結晶質化成リン酸塩コーティング構造を形成することができ、コーティングは基板に対する接着率が高いこと。
b) 非金属の基板と同様、任意の金属あるいは合金上で化成リン酸塩コーティングを形成することができること。
c) リン酸塩化成コーティング作業温度を(標準から)下げること。例えば、ZPCCCの作業温度を40度-70度から30度以下に下げること、リン酸マンガンコーティングを約90-98度から70度以下に下げること。
d) 実際に化成リン酸塩コーティング作業をする前に必要な前処理作業の数を減らすこと。
e) 生成される廃水の量を著しく減らすこと。
f) 生成されるスラッジの量を著しく減らすこと。
g) コーティング作業のためにリン酸塩溶液の単純な組成物を使用すること。
【0017】
本発明によれば、単純かつ安定した処理;3つのパラメータすなわち温度、酸性度(pH)および密度(これらのパラメータのそれぞれは、自動的に制御されうる)、しかモニタリングする必要がないリン酸塩溶液;および、液体が廃棄されない閉ループ処理;が提供される。
【0018】
本発明によれば、リン酸塩化成結晶質コーティングを提供する方法が提供され、該方法は:基板に金属酸化物粒子を堆積させることにより基板を前処理する工程と;基板をリン酸塩コーティング溶液で処理する工程であって、結果としてリン酸塩化成結晶質コーティングを基板上に形成(結晶化)する工程とを含む。
【0019】
以下に記載される本発明の好ましい実施形態のさらなる特徴によれば、基板をリン酸塩コーティング溶液で処理するのに先立って、金属酸化物粒子が堆積した場所に結晶化中心が生じる。
【0020】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、金属酸化物粒子は、CaO、ZnO、MnO、NiOおよびそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0021】
なおさらなる特徴によれば、金属酸化物粒子は、0.5から100g/mの量で基板に堆積する。
【0022】
なおさらなる特徴によれば、金属酸化物粒子の最大寸法は2μm未満である。
【0023】
なおさらなる特徴によれば、リン酸塩コーティング溶液は、リン酸で希釈された酸化物を含み、酸化物は、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マンガンおよびそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0024】
なおさらなる特徴によれば、リン酸塩コーティング溶液は、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせを含む群から選択されるリン酸塩を含む。
【0025】
なおさらなる特徴によれば、ン酸塩コーティング溶液は、リン酸亜鉛を含み、最大摂氏35度までの温度のとき、金属酸化物粒子と化学的に反応する。
【0026】
なおさらなる特徴によれば、ン酸塩コーティング溶液は、リン酸マンガンを含み、最大摂氏70度までの温度のとき、金属酸化物粒子と化学的に反応する。
【0027】
なおさらなる特徴によれば、リン酸塩コーティング溶液のpHは2.2と2.7の間の範囲にある。
【0028】
なおさらなる特徴によれば、リン酸塩コーティング溶液のリン酸塩密度は、1.03と1.08kg/lの間である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
様々な実施形態が添付の図面を参照してほんの一例として本明細書に記載されている。
図1図1は、電子顕微鏡から得られた、先行技術のリン酸塩化成コーティングの画像である。
図2図2は、電子顕微鏡から得られた、本方法を用いた重リン酸亜鉛化成コーティングの画像である。
図3図3は、電子顕微鏡から得られた、本方法を用いて形成されたリン酸亜鉛化成コーティングの画像である。
図4図4は、電子顕微鏡から得られた、図2の重リン酸亜鉛化成コーティングの断面図の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施形態の説明
本発明に係るリン酸塩化成コーティング処理の原理および作業は、図面および付随する詳細な説明を参照することで、さらによく理解され得る。
【0031】
リン酸カルシウム、リン酸鉄およびリン酸マンガンをリン酸亜鉛の代わりに、またはそれに追加して使用できることは明らかになっているものの、本発明の方法は、リン酸亜鉛化成結晶質コーティング(ZPCCC)を用いて、典型的に例証されている。代替の、または追加の材料は、当該技術分野において公知であり、本発明の範囲内に含まれる。
【0032】
リン酸塩化成結晶質コーティングのための最先端技術
上述したように、一例として、ZPCCCは、処理された部分の基板表面上でリン酸イオンおよび亜鉛イオンを液相から固相に変換することによって、金属基板上に形成される。リン酸塩化成結晶質コーティングの処理は、水の結晶化、溶融金属結晶化などの他の周知の結晶化処理とは異なる。例えば、水の結晶化は、物理的変化のみに依存する。すなわち、温度が低下すると、水が凍結する。
【0033】
対照的に、希釈されたリン酸亜鉛から希釈されていないリン酸亜鉛(すなわち結晶)を形成するためには、化学処理を行う必要がある。化学処理は、希釈された1-および2-置換リン酸亜鉛化合物を、希釈されていない3-置換Zn(PO化合物に変換する。これらの化学処理には、適切な溶液酸性度(pHレベル)および温度が必要である。適切なpH(pH2より通常高い)レベルは、溶液の組成に左右される。温度は従来の加熱手段によって制御される。溶液のpHおよび温度が所望の臨界値に達すると、希釈されていないZn(POリン酸亜鉛化合物が自然と形成される。この化合物は、微細な結晶質白色粉末沈殿剤として溶液の容積全体に形成される。
【0034】
微細な結晶質沈殿剤が自然に形成される現象は、溶液全体で起こり、これまで透明だった溶液を濁った溶液にする。より重要なことに、そのような場合、リン酸塩コーティング処理は処理された部分の表面にのみには生じない。これは明らかに望ましくない。一方で、溶液の同じ条件が、処理された基板の表面上の溶液の薄い層においてのみ達成される場合、その後、リン酸塩コーティングが基板上に形成される。
【0035】
沈殿剤が、溶液全体ではなく、基板の表面上の薄い層にのみ生成されるようにするためには、溶液が金属表面と接する時、溶液中の金属材料およびリン酸の化学反応は、基板の表面近くの局所的な領域でのみpHを上昇させ、一旦pHが特定のレベル(例えば2.2)に達し、かつ適切な温度が達成されると、可溶性が不溶性に転換され、かつPCC層が表面に形成される(ごく近い例としては、PCCは亜鉛PCCであるが、鉄、マンガン、カルシウムまたはそれらの組み合わせを含む、代替および/または追加のリン酸塩を使用することができる)ような方法で、溶液は操作される。
【0036】
重リン酸亜鉛およびリン酸マンガンコーティングを形成するためのこのような処理の通常の温度は、70度から98度まで変動する。薄いリン酸塩コーティングの場合、追加の成分をリン酸塩処理溶液に加えることによって、ZPCCCについてはこの温度を約40度まで下げることが可能である。
【0037】
この種のコーティング処理は、リン酸塩結晶を精製するための追加作業を行ってさえ、依然として非常に粗い、平らな結晶構造を有するコーティングを形成する。典型的には、主結晶は数十ミクロンの寸法に達しうる。ここで図面を参照すると、図1は、電子顕微鏡から得られた、従来技術のリン酸塩化成コーティングの画像である。(ソース:Pragochem spol. s r.o., http://www.pragochema.cz/?start=1&lan=en.)画像は、普通の重リン酸亜鉛化成コーティングの構造を示す。画像から明らかなように、主結晶は、数十ミクロンの規模の寸法である。
【0038】
粗い結晶構造を有するリン酸塩コーティングは、操作性があまり効果的でない。液体は、粗い構造間でより容易にコーティングに浸透し、基板表面に達し、腐食させ始める。したがって、これらのコーティング構造を精製し、より密に詰め込まれたより微細な構造を有するコーティングを収受することは、新しいリン酸塩コーティング技術の開発における従来の目標である。
【0039】
リン酸塩コーティングの結晶の寸法(サイズ)は、結晶化中心の初期濃度、ひいては結晶が同時に形成/成長を開始する領域の数に依存する。隣接する結晶と衝突する前に成長する余地が少ないため、結晶がより密集して凝集するほど、それらは小さくなる。より高密度に凝集された結晶を達成する1つの方法は、結晶が成長し始めるための多数の結晶化中心を散布することによるものである。
【0040】
新たな結晶化フェーズが始まるとき、既に溶液容積中に固体表面が存在する場合、固体表面上に結晶化中心を形成する処理は、固体表面からより離れた溶液容積中に同じ結晶化中心を生成するために必要とされるエネルギーと比べて、あまりエネルギーを必要としない。したがって、新たな結晶フェーズが固体表面上にのみ(または、ほぼ独占的に固体表面上に)形成され、溶液容積の他のどこにも形成されない状況を作り出すことが可能である。
【0041】
さらに、結晶が形成されるためには、溶液は結晶化フェーズを引き起こすものと反応しなければならない。したがって、金属表面は反応(希釈から非希釈への変換)を生じさせる働きをし、かつ結晶が形成されうる最良の場所でもある。
【0042】
要約すると、必要な特性を有するリン酸塩コーティングの形成は、2つの主な化学処理を必要とする。
(1) リン酸塩処理溶液中での基板金属の酸洗い。
(2) 基板表面上での多数の結晶化中心の同時形成。
【0043】
実際には、これらの処理の各々は個別に最適化される。
(1) 例えば、温度を上昇させることによって、またはリン酸塩溶液の活性を増大させることによって(例えば、追加の化学物質を添加することによって)、またはより薄く希釈された基板金属をより酸洗いしたものに置換することによって、基板金属酸洗いを促進することができる。
(2) 処理された部分を非常に微細な固体粒子を含む懸濁水中に浸漬することによって、または、リン酸処理溶液の槽に直接そのような粒子を追加することによって、結晶化中心の生成が刺激されうる。
【0044】
以下に詳細に説明する、本革新的方法は、表面に酸化亜鉛(ZnO)を堆積させることによって基板表面を前処理することを含む。酸化亜鉛に加えて、またはその代わりに、他の金属酸化物を使用してもよい。したがって、ZnOの使用は単なる例示であり、限定することを意図するものではないことが明らかにされる。
【0045】
第1の工程では、任意の乾式法を用いて、標的基板の表面上に超微細ZnO結晶を堆積、付着および/または吸着させる。革新的なことに、処理される標的基板は、金属のみならず、本質的に任意の材料であってもよい。
【0046】
次の工程では、前述の標的部分をリン酸塩処理用溶液でもって湿式法で処理する。湿式法は、例えば、浸漬浴または溶液スプレーなどであり得る。この溶液は、(現在の方法で必要とされる高温とは対照的に、)室温でさえあってもよい。活発な化学反応が直ちに開始する。
【0047】
重要なことに、ZnOが基板の表面上の薄い吸着層内で遊離リン酸と反応して、化学反応が材料の一部の表面上で生じる。すなわち、一および二置換リン酸塩組成物の化学的安定性は、低下し/反応し、不溶性三置換リン酸塩に変換する。三置換リン酸塩の初期の粒子は、不安定な一置換および二置換リン酸塩複合体のための結晶化中心として存在し、その上でこれらの不安定な複合体は不溶性三置換リン酸塩に変換され、リン酸塩結晶が成長する。そのような結晶化中心の数は、処理された表面上でのZnO粒子の濃度に左右される。リン酸塩結晶は、結晶化中心の数を増やすことによって過度に大きく成長することが防止される。したがって、表面上のZnO粒子の濃度が高ければ高いほど、結晶はより密集して凝集するであろうし、ゆえに結晶はより微細になるであろう。
【0048】
他の酸化物、金属、合金または他の化学化合物は、同じかまたは類似の方法で反応する。一般に、このような材料の微粒子は、処理された材料の表面に固着しなければならない。これらの粒子は、亜鉛、マンガンおよび/またはカルシウムの三置換リン酸塩の結晶化中心として機能しうる。
【0049】
革新的処理
本革新的方法は、リン酸塩化成コーティング処理を開始する前(例えば、金属部分をコーティング槽に挿入する前、または標的部分上にコーティング溶液を噴霧する前)に、処理すべき表面に、酸化物、金属、合金または他の化学化合物の固体粒子を堆積させることを想定している。述べたように、粒子は、亜鉛、マンガンおよび/またはカルシウムの三置換リン酸塩の結晶化中心として機能する。
【0050】
上述したように、この方法は、(任意の堆積方法を用いて)標的部分の表面上に超微細ZnO結晶を堆積させることによって標的部分を前処理する工程を含む。一旦前処理されると、標的部分は、リン酸塩化成コーティング溶液にさらされる(通常は溶液中に標的部分を浸漬することによって行われるが、本発明では浸漬に限定されない)。その溶液は、室温であってもよい。活発な化学反応が直ちに開始するであろう。
【0051】
前述の処理が機能するためには、固体粒子は以下の条件を満たす必要がある。(1)粒子は十分に小さくなければならない(例えば、本明細書では超微細粒子と呼ばれる、サイズが1ミクロンの端数から、好ましくは最大2ミクロンまで)、および、(2)粒子が十分に強い方法で基板の表面に付着または接着することが可能でなければならない。
【0052】
第1の条件は、好ましいサイズの範囲内の粒子を単に得ることによって実現されうる。例えば、前処理粒子は、0.5から2ミクロンの超微細ZnO粒子であってもよい。粒子を堆積させる、または粒子を標的部分に吸着させる最も単純で安価な方法の1つは、空気または他の気体中の微細な固体粒子のコロイドであるエアロゾルからの粒子堆積を使用することである。その標的部分は、そのようなコロイド中にいれられて、エアロゾル粒子を吸着する。表面上の粒子の濃度は、エアロゾル中の粒子の濃度および処理期間(滞留時間)に左右される。材料の一部がエアロゾル内に留まる時間が長いほど、表面上に多くの粒子が沈降する。
【0053】
このようなエアロゾルを製造するための1つの典型的な装置は、米国ミネソタ州セントポールのTSI Inc.によって製造されたFluidized Bed Aerosol Generator 3400aなどの流動床エアロゾル発生器である。発生器は、流動床チャンバおよび粉末リザーバを含む。流動床は、清潔で乾燥した空気を通過させるが、粉体の通過は防ぐ多孔質スクリーンによって支持された100μm青銅ビーズからなる。空気または他の気体は、チャンバの底部から粉末層を通って圧送される。粉末粒子は、気体によって分散され、粉末層の上の空洞内にエアロゾルを生成する。前述の典型的なエアロゾル発生器の最も良い利点は、安定した出力および濃度である。
【0054】
第2の条件も容易に実現される。小さな粒子が集まって表面に付着するために、処理された部分の各々の表面は通常粗く、金属結合やファンデルワールス力などの化学結合で十分に活性化される。粒子付着量が不十分であれば、処理された表面を機械的に活性化することができる。さらに、小さな固体粒子の表面も、その小さな寸法のために、活性を有する。これらの2つの要因は、任意の、吸着され/堆積された粒子の十分に高い接着性を提供する。
【0055】
リン酸塩処理溶液-最先端技術
当該技術分野で知られている普通のリン酸塩化成コーティング液は、通常、(PO-3 陰イオンおよびZn+2(または類似の)陽イオンの他に、いくつかの追加の成分を含む。このような溶液の、当該技術分野においてかなり典型的である、1つの代表的な既知の化学組成は、以下の組成を有する。
【0056】
【表1】
【0057】
深刻な汚染物質や重金属は明らかにはっきりと表れている。当該技術分野で知られている他の方法は、さらに、または、あるいは、異なる有機化合物を含む。当該技術分野で知られている複雑な化学組成物は、望ましくない化合物も含んでおり、実社会での製造において多くの不利益を被る。これらの問題のいくつかとして以下が挙げられる。
a) リン酸塩溶液化学組成物を頻繁に臨床検査する必要性。
b) 頻繁にリン酸塩溶液の化学組成を修正する必要性。
c) 溶液が、Ni+2、Co+2、(NO等のイオン、ならびに、汚染防止および廃棄物処理のための追加の高価な装置およびスタッフの安全規定を必要とする、毒性がありかつ/または有害な有機成分を含む。
d) 最大約97度でさえある、リン酸化成コーティング液槽の比較的高い作業温度。
そのような高い作業温度を維持するためには多大なエネルギーが必要であり、その結果、諸費用および安全規定のための追加費用が増大し、始終温室効果などを助長する。
e) 特有のよく知られた問題の1つは、膨大な量のスラッジである。
【0058】
リン酸塩処理溶液-本技術革新
対照的に、金属酸化物粒子(MOP)で表面を前処理するための本革新的処理は、リン酸塩化成コーティングの形成に必要な作業温度を著しく低下させ、PCCSの化学組成を単純化する。
【0059】
前述の粒子は、化成リン酸塩コーティングの形成に必要な基本の成分である。リン酸塩化成コーティング溶液(PCCS)の材料粒子の高い化学活性のために、基板自体が溶液と化学的に反応する必要はなく(すなわち、基板の酸洗いの必要はなく)、リン酸塩化成コーティングの形成を実現するための高温も必要としない。例えば、ZnOと溶液の(PO-3イオンとの化学反応は室温であっても起こる。
【0060】
リン酸塩処理溶液が堆積したエアロゾル粒子と反応すると、PCCSのpHは界面層で上昇する。溶液のpHの上昇は、不溶性リン酸塩化成コーティング化合物の生成、結晶化中心の成長、および、処理された基板上でのリン酸塩化成コーティングの形成、には十分である。
【0061】
全処理は必ずしも基板材料を酸洗いすることなく遂行される。このように、コーティング形成促進化合物を溶液中に添加する必要はない。したがって、リン酸塩処理溶液は、不必要な、かつ/または危険な化学物質を必要とせずに、大幅に単純化される。
【0062】
さらに、本革新的処理によれば、PCCSと反応しない材料、例えばステンレス鋼、チタン合金、プラスチック、ガラスなどの表面上にリン酸塩化成コーティングを形成することが可能である。
【0063】
その結果として生じる、PCCSの簡単な化学組成物は非常に容易に制御される。温度のほか、2つの溶液パラメータ、すなわち1.溶液濃度および2.溶液pHのみを制御し、修正しなければならない。これらのパラメータを変えることによって、形成されるコーティングの特性を変えることができる。亜鉛PCCS濃度を1.03から1.08kg/lの間で変化させることによって、pHは約2.55で一定である、3から60g/mの範囲の厚さ(重量で測定)のリン酸亜鉛化成コーティングを形成することが可能であることを、実験は示した。あるいは、密度を1.06kg/lで一定に保ち、溶液のpHを2.2から2.7の間で変化させながらも、溶液の温度が30度の時、コーティングの厚さは4から40g/mの間で変化する。
【0064】
好ましい実施形態では、リン酸塩コーティング溶液のpHは、2.2から2.7の範囲である。好ましい実施形態では、リン酸塩コーティング溶液のリン酸塩密度は、1.03から1.08kg/lの間である。
【0065】
好ましい実施形態では、基板の前処理に用いられる金属酸化物粒子は、CaO、ZnO、MnO、NiOおよびそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0066】
好ましい実施形態では、金属酸化物粒子は、0.5から100g/mの量で基板上に堆積する。堆積される金属酸化物粒子の量が多いほど、基板上に形成される結晶化中心の数が多くなる。より多くの結晶化中心が存在するほど、より多くの結晶が形成され、その結果、結晶サイズ/寸法が小さくなる。好ましい実施形態では、金属酸化物粒子の最大寸法は2μm未満である。
【0067】
好ましい実施形態では、リン酸塩コーティング溶液は、リン酸で希釈された酸化物を含む。好ましくは、酸化物は、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マンガンおよびそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0068】
好ましくは、リン酸塩コーティング溶液はリン酸塩を含む。これらのリン酸塩は、好ましくはリン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カルシウムおよびそれらの組み合わせの群から選択される。一実施形態では、リン酸塩コーティング溶液がリン酸亜鉛を含む場合、溶液は、35度までの温度で、前処理された基板上の金属酸化物粒子と化学的に反応する。別の実施形態では、リン酸塩コーティング溶液がリン酸マンガンを含む場合、溶液は、70度までの温度で、金属酸化物粒子と化学的に反応する。
【0069】
図2は、電子顕微鏡から得られた、本方法を用いた重リン酸塩化成コーティングの画像である。先行技術のコーティングの結晶とは対照的に、本発明を用いて形成された結晶は、はるかに小さい寸法である。図2では、本発明のリン酸亜鉛化成コーティングの構造は、15g/mの厚さ(重量で測定)がある。結晶の寸法は、5ミクロンの目盛りで測定される。画像から明らかなように、主結晶はサイズにして最大でも数ミクロンしかない。典型的な測定値は、図2に示すように、約2から9ミクロンの結晶を示す。上述したように、これらの寸法は単なる例示であり、(その範囲の両端で)限定することを意図するものではない。最も大きなリン酸塩結晶でさえ、当該技術分野で知られている処理を用いて形成されたコーティングにおける結晶よりも約10倍微細である(例えば、図1参照)。
【0070】
コーティングの厚さが増大するにつれて、リン酸塩結晶が成長する。従って、より薄いコーティングにおける結晶はより寸法が小さいであろう。図3は、電子顕微鏡から得られた、本方法を用いて形成されたリン酸亜鉛化成コーティングの画像である。表示されたリン酸亜鉛化成コーティングは、図2のコーティングよりも薄く、厚さは6g/mである。図3では、結晶の寸法は1ミクロンの目盛りで測定される。主結晶がサイズにして1ミクロン未満であることは明らかである。典型的な画像では、測定値は約0.2から3ミクロンである。上述したように、これらの寸法は単なる例示であり、(その範囲の両端で)限定することを意図するものではない。
【0071】
図4は、電子顕微鏡から得られた、図2の重リン酸亜鉛化成コーティングの断面図の画像である。コーティングの厚さは、重量で測定して、15g/mである。コーティング結晶と基板表面との良好な接着は、(例えば、図4に示されるように)コーティングされない基板の表面の領域を最小限にする、非常に密で固く均一なコーティング構造という結果をもたらす。本発明のコーティングは、塗料、トップコート、ゴム及びプラスチック成形による標的部分のその後のコーティングのための前処理として使用されている。コーティングと基板との間の良好な接着はまた、基板に対するトップコーティング、塗料、保護コーティング、ゴム、プラスチックなどのための良好な接着を提供する。
【0072】
本発明は、当技術分野で知られているリン酸塩化成コーティング処理の全ての欠点および欠陥に対処することに成功する。本発明に係るPCCSは、当該技術分野で知られている類似の溶液よりも高い安定性を有し、作業者と環境の両方にとって危険性は最小限である。溶液の操作パラメータも容易に修正される。例えば、化成コーティングの種類に応じて、(PO-3およびZn+2、Mn+2またはCa+2イオンを含むPCCS濃縮物の必要量を加えることによって、溶液のパラメータを修正することができる。
【0073】
実験では、次の機器が使用された。
1. 流動床エアロゾル発生器が使用された。発生器の値は0.3mまでで、操作値は0.25mまでである。エアロゾル濃度を変化させるために、改質材料の量は0.1から3kgの範囲で変化した。処理されたサンプルの表面改質用の最適期は、3分であることが分かった。
2. 堆積されたエアロゾル粒子の濃度は、堆積の前後に処理されたサンプルの重さを量ることにより測定された。0.001gの精度を有するポーランドのRagway Companyによる準分析目盛りをサンプルの秤量に使用した。
3. 溶液の密度は0.01kg/lの精度を有する適切な湿度計で測定した。
4. 溶液の酸性度は、米国ノースカロライナ州 Rocky MountのMilwaukee Instruments,Inc.の、ガラス電極を備える、0.01の精度を有するMilwaukee pH-meter P-600を用いて測定した。
5. 処理されたサンプル上のリン酸塩コーティングの厚さは、コーティング後およびMIL-DTL-16232G仕様によるコーティング剥離後に、コーティングされたサンプルの重さを量ることによって、測定された。
6. 試験サンプルは、1020鋼、101銅、316ステンレス鋼、2014アルミニウム合金、ポリプロピレン、アニールガラスから製造した。
【0074】
本発明は限られた数の実施形態に関して記載されているが、多くの改良、修正、および本発明の他の適用がなされてもよいことが理解されるであろう。したがって、以下の特許請求の範囲に詳述されているような請求項に係る発明は、本明細書に記載の実施形態に限定されない。
図1
図2
図3
図4