(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】透明不燃シート
(51)【国際特許分類】
B32B 17/04 20060101AFI20220714BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20220714BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220714BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
B32B17/04 Z
B32B27/04 Z
B32B27/30 B
E04B1/94 V
(21)【出願番号】P 2017186050
(22)【出願日】2017-09-27
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】望月 敦史
(72)【発明者】
【氏名】山下 美穂
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-112872(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152389(WO,A1)
【文献】特開2017-172085(JP,A)
【文献】特開2017-209943(JP,A)
【文献】特開2017-100341(JP,A)
【文献】特開2015-077756(JP,A)
【文献】上田伸一、外2名,添加剤の溶解性パラメータに関する考察,塗料の研究,2010年10月,No.152,p.41-46
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29B 11/16
15/08-15/14
C08J 5/04-5/10
5/24
E04B 1/62-1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維布帛にスチレン系熱可塑性エラストマーが含浸されてなる中間層と、
前記中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層させてなり、
前記塩化ビニル樹脂フィルム層中の可塑剤の添加量が当該フィルム100重量%に対して15~40重量%であり、
前記スチレン系熱可塑性エラストマー
は、水素添加されたものであり、かつガラス転移温度が-20℃~20℃であることを特徴とする透明不燃シート。
【請求項2】
前記ガラス繊維布帛と前記スチレン系熱可塑性エラストマーとの屈折率差が0.03以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明不燃シート。
【請求項3】
シートの全光線透過率が80%以上であり、且つヘーズが30%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明不燃シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス繊維布帛と熱可塑性樹脂とを用いた透明不燃シートに関するものであり、特にシート折り曲げや折り畳みによる白化傷の発生抑制と長期の透明性維持に優れる透明不燃シートに関する。
【背景技術】
【0002】
不燃シートとは、建築基準法及び建築基準法施工令で定められた不燃性を有する材料であり、発熱性試験において、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、且つ加熱開始20分間の最高発熱速度が200kW/m2を超えて10秒以上継続せず、燃焼後に貫通穴がないことが要件となっている。
【0003】
このような不燃シートとしては、ガラス繊維材料或いはガラス繊維布帛と樹脂の複合シートなどが知られており、建築材料として使用することができる。
例えば、建物の天井に設置され火災時の煙の流動や拡散を防止する防煙垂壁や工場内で作業エリアを仕切る間仕切りカーテン、さらには光源の光度をそのまま空間内に伝えるための膜天井及び照明膜カバーとして使用されており、いずれも光透過性の高い材料の要求が高まっている。
【0004】
ガラス繊維布帛と複合化する樹脂としては、主に熱硬化性樹脂や塩化ビニル樹脂が用いられている。
例えば、特許文献1には、ガラス繊維織物とビニルエステル樹脂などの硬化樹脂層とからなる透明不燃性シートや、特許文献2には、ガラス繊維基材に軟質塩化ビニル樹脂組成物を含浸被覆させてなる透明性複合シートが提案されている。
【0005】
特許文献1のように熱硬化樹脂を用いる場合、未硬化の状態では粘度が低いため、ガラス繊維織物に含浸しやすく、またガラス繊維と硬化性樹脂との屈折率の差を0.02以下、アッベ数の差30以下とすることで、透明性に優れた不燃性シートが得られる。しかしながら、硬化樹脂層を形成するためには装置、工程が比較的複雑であり、コストが高くなる。
また、当該不燃性シートを折り曲げや折り畳みを行った際、シート内部に白化傷が発生する状態がしばしば観察される。この白化傷とは、熱硬化性樹脂とガラス繊維織物との界面、或いはガラス繊維織物の繊維間に微細な剥離による隙間が生じることで、当該隙間が復元せず屈折乱反射してしまう状態であり、白化した傷のように視認される。特に、熱硬化性樹脂は伸びにくいため、ガラス繊維織物と追従できずに白化傷が生じやすいものであった。そのため熱硬化性樹脂を用いた不燃性シートは、柔軟性を必要とする用途にはあまり適さない。
さらに、このような不燃性シートは、用途によっては広面積のものが必要となり、一般的に縫着や熱溶着などでシートを幅繋ぎすることが行われているが、熱硬化性樹脂では容易な熱溶着によるシートの幅繋ぎができないという課題もあった。
【0006】
また、特許文献2には、塩化ビニル樹脂に屈折率調整剤として可塑剤の一種である芳香族リン酸エステル化合物を多量に含有させることで、屈折率を調整することが開示されている。これにより、塩化ビニル樹脂とガラス繊維との屈折率の差を小さくし、透明性を確保することができる。
しかしながら、このように樹脂に可塑剤を含有したシートは、可塑剤が経時で表面に移行(ブリードアウト)してしまい、表面のベタツキが大きくなり、塵埃等が吸着されて、汚損されやすく、取扱いが困難なものであった。しかも、ガラス繊維からなる基材に当該軟質塩化ビニル樹脂を含浸塗布してなるシートでは、ガラス繊維と軟質塩化ビニル樹脂との接着不足により剥離してしまい、折り曲げや折り畳みを繰り返した際にシート内部に白化傷が発生しやすいものであった。
【0007】
そこで、特許文献3には、ガラスクロス基材に非芳香族トリイソシアネート化合物とバインダー樹脂を含む接着剤成分を含浸被覆させた接着剤含浸ガラスクロスと、その両面に軟質塩化ビニル樹脂透明層を設けた透明不燃シートが提案されている。
当該ガラスクロス基材は、シランカップリング剤で表面処理されたものとし、当該シランカップリング剤と接着剤成分のトリイソシアネート化合物とが反応することで、シートの折曲や折畳によるシート内部の白化傷を容易に発生させることが無いシートが得られることが開示されている。また、両面に軟質塩化ビニル樹脂透明層を設けることで、熱溶着性にも優れるため、シートの幅繋ぎも可能である。
【0008】
しかしながら、当該軟質塩化ビニル樹脂透明層には、可塑剤として芳香族リン酸エステル化合物を含むが、当該リン酸エステル化合物とバインダー樹脂とが時間の経過とともに接着剤含浸ガラスクロスから軟質塩化ビニル樹脂透明層に移行してブリードを生じてしまう。そのためにガラスクロスと接着剤成分との屈折率の差が大きくなり経時で透明性が低下する問題があった。
【0009】
このような含浸層からの可塑剤のブリードアウトを抑制するために、特許文献4では、ガラス繊維布帛に含浸させる塩化ビニル樹脂組成物中に含まれる可塑剤として、分子量が420よりも大きいものを使用するなど対策が検討されたが、完全に経時での透明性低下の問題を改善するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-319746号公報
【文献】特開2010-052370号公報
【文献】特開2014-076563号公報
【文献】特開2015-077756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本願発明は、熱可塑性樹脂と複合化したガラス繊維布帛からなるシートであっても、当該シートを折り曲げや折り畳みを繰り返してもシート内部に白化傷が生じることなく、柔軟性に優れ、かつ透明性を長期維持できる透明不燃シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を行った結果、ガラス繊維布帛に含浸する熱可塑性樹脂としてスチレン系熱可塑性エラストマーを用いると、当該含浸樹脂に可塑剤を含有させることなく、屈折率や柔軟性の調整が可能であり、しかもガラス繊維布帛との含浸性が良好であり、ガラス繊維布帛と複合化したシートを折り曲げや折り畳みを繰り返してもシート内部に白化傷が生じることがないことを見出し、本願発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、本願発明は、ガラス繊維布帛にスチレン系熱可塑性エラストマーが含浸されてなる中間層と、前記中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層させてなり、前記塩化ビニル樹脂フィルム層中の可塑剤の添加量が当該フィルム100重量%に対して15~40重量%であり、前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、水素添加されたものであり、かつガラス転移温度が-20℃~20℃であることを特徴とする。
【0014】
本願発明であれば、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いているので、ガラス繊維布帛に含浸する樹脂に可塑剤を含有させなくても、屈折率や柔軟性の調整が可能であり、透明性を長期維持できる。さらにスチレン系熱可塑性エラストマーは、ガラス繊維布帛への含浸性、及び塩化ビニル樹脂フィルム層との接着性に優れるため、当該シートを折り曲げや折り畳みを繰り返しても、シート内部に白化傷を生じることのない、柔軟性に優れ、透明性を長期維持できる透明不燃シートを得ることができる。
【0015】
また、ガラス繊維とスチレン系熱可塑性エラストマーとの屈折率差が0.03以下であることが好ましい。屈折率差が0.03以下であれば、ガラス繊維布帛が目立ちにくくなり、透明性の高い透明不燃シートを得ることができる。
【0016】
また、本願発明において、透明性に優れるシートとは、全光線透過率が80%以上であり、且つヘーズが30%以下であることが好ましい。
【0017】
さらに、前記スチレン系熱可塑性エラストマーが水添スチレン系熱可塑性エラストマーであり、かつ水素添加処理されたブタジエン部分のSP値が17.5(J/cm3)1/2以上であることを特徴とする。
【0018】
当該SP値の範囲であれば、ガラス繊維布帛への含浸性が向上するため、透明性も高まり、折り曲げや折り畳みによる白化傷の発生をさらに抑制できる。また、塩化ビニル樹脂フィルム層と中間層との接着性も良好となるため、剥離することがなく、柔軟性を損ねることもない。
【発明の効果】
【0019】
本願発明は、ガラス繊維布帛にスチレン系熱可塑性エラストマーが含浸されてなる中間層と、前記中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層させてなる透明不燃シートであって、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いることで、ガラス繊維布帛に含浸する樹脂に可塑剤を含有させることなく、屈折率や柔軟性の調整が可能であり、透明性を長期維持できる。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーはガラス繊維布帛への含浸性、及び塩化ビニル樹脂フィルム層との接着性に優れるため、本願発明の透明不燃シートは、折り曲げや折り畳みを繰り返しても、シート内部に白化傷を生じることのない、柔軟性に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明は、ガラス繊維布帛に熱可塑性樹脂が含浸されてなる中間層と、前記中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層させてなることを特徴とする透明不燃シートである。
【0021】
本願発明の中間層について説明する。
中間層は、ガラス繊維布帛に熱可塑性樹脂が含浸されたものであるが、透明性を付与するためには、ガラス繊維布帛のガラス繊維と屈折率差の少ない樹脂を使用する必要がある。そこで、本願発明では、屈折率の調整が容易な樹脂として、スチレン系熱可塑性エラストマーを使用している。
【0022】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系モノマーとブタジエンのブロック共重合体(SBS)、スチレン系モノマーとイソプレンのブロック共重合体(SIS)、SBSの二重結合部分を水素添加したスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン系ブロック共重合体(SEBS)、SISの二重結合部分を水素添加したスチレン-エチレン・プロピレン-スチレン系ブロック共重合体(SEPS)などが使用でき、水素添加されたスチレン系熱可塑性エラストマー(以下、水添スチレン系熱可塑性エラストマーとし示す)を使用することが好ましい。また、水添率は90%以上が好ましく、完全水添されていることがより好ましい。
【0023】
前記スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等が挙げられ、コスト面等から、スチレン、又はα-メチルスチレンが好ましい。これらスチレン系モノマーは、単独でも2種以上併用してもよい。
一方、ブタジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)等が挙げられ、コスト面等から、1,3-ブタジエンが好ましい。これらブタジエン系モノマーは、単独でも2種以上併用してもよい。
【0024】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、強度を付与するスチレンブロック領域(ハードセグメント)と、ゴム弾性の挙動を付与するエチレン・ブチレン領域(ソフトセグメント)を備えており、その組成等を調整することにより、様々な特性を有する。例えば、耐熱性、耐候性、透明性、他の樹脂へのなじみ性に優れ、さらに、軟質塩化ビニル樹脂と同等の柔軟性を与えることができる。特に、二重結合部分を水素添加した水添スチレン系熱可塑性エラストマーは耐候性に優れるものである。
【0025】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、塩化ビニル樹脂のように可塑剤等の添加剤を添加することなく、ハードセグメントとソフトセグメントの組成等により屈折率の調整が可能である。そのため、ガラス繊維布帛に含浸させた場合、中間層からの可塑剤のブリードアウトによってガラス繊維との屈折率の差が大きくなり、経時で透明性が低下することがなく、透明性を長期維持できる。
本願発明では、屈折率が1.53~1.59の範囲に調整されたものが使用できる。この範囲であれば、汎用ガラス繊維(Eガラス)の屈折率が平均で1.56程度であるので、屈折率の差を軽微にできる。
スチレン系熱可塑性エラストマーとガラス繊維との屈折率差は0.03以下が好ましく、さらに好ましくは0.02以下である。屈折率差が0.03以下であれば、ガラス繊維布帛が目立ちにくくなり、透明性の高い不燃シートが得られる。
【0026】
なお、屈折率は、JIS K 7142に準拠して求めたものであり、屈折率が近い物質であれば、透明性に優れる。
【0027】
また、スチレン系熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントの組成等により柔軟性をも調整でき、ガラス繊維布帛と含浸させてなる中間層は、ガラス繊維布帛の変形に追従できるほど柔軟性に優れたものである。
また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、ガラス繊維布帛への含浸性に優れるため、中間層を折り曲げや折り畳みを繰り返しても、スチレン系熱可塑性エラストマーとガラス繊維布帛との界面、及びガラス繊維間に微細な剥離による隙間が生じることがなく、シート内部の白化傷の発生を抑えることができる。
【0028】
特に、水添スチレン系熱可塑性エラストマーにおいて、水素添加処理されたブタジエン部分におけるSP値が17.5(J/cm3)1/2以上であることが好ましい。この範囲であれば、極性が高い樹脂や無機材料とのなじみ性、ぬれ性に優れるものとなる。
中間層において、当該水添スチレン系熱可塑性エラストマーを用いれば、ガラス繊維布帛への含浸性が向上するため、透明性も高まり(ヘーズ値の低下)、折り曲げや折り畳みによる白化傷の発生をさらに抑制できる。また、後述する塩化ビニル樹脂フィルム層との接着性にも優れる。
【0029】
ここで、溶解度パラメータ(SP値、Solubility Parameter)は、他の物質への溶解性、付着性、或いはぬれ性を評価するのに使用されている。SP値は、(モル凝集エネルギー(J/mol)/モル容積(10-6m3/mol))1/2の式から算出される。
【0030】
本願発明では、スチレン系熱可塑性エラストマーのガラス転移温度(Tg)は-55~30℃の範囲が好ましく、-20~20℃がより好ましい。また、この範囲にあることで塩化ビニル樹脂フィルムとの接着性も高まり、さらに柔軟性が高いシートとなる。
【0031】
本願発明では、スチレン系熱可塑性エラストマーを含浸させるガラス繊維布帛として、ガラス繊維からなる縦糸及び横糸から構成される織布、編布、或いは不織布などの布帛を使用できる。
【0032】
ガラス繊維布帛を構成するガラス繊維としては、公知のガラス繊維を用いることができ、例えば、汎用の無アルカリガラス繊維(Eガラス)、耐酸性の含アルカリガラス繊維(Cガラス)、耐アルカリ性ガラス繊維(ARガラス)、高強度且つ高弾性率のガラス繊維(Sガラス、Tガラス)等が挙げられる。
中でも汎用性やスチレン系熱可塑性エラストマーとの屈折率差の面からEガラスが好ましく、また、柔軟性の観点ではSガラスやTガラス等が好ましい。
【0033】
また、ガラス繊維布帛を構成するガラス繊維は、フィラメントの直径が4~7μmの範囲であることが好ましい。ガラス繊維の直径を前記範囲とすることで、繊維布帛の強度が良好であり、且つ繊維間へのスチレン系熱可塑性エラストマーの含浸が良好である。
【0034】
さらに、ガラス繊維布帛は、ガラス繊維布帛を構成するガラス繊維が、シランカップリング剤等で表面処理されていることが好ましい。具体的にはビニルシラン、フェニルシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、芳香族アミノシラン、脂肪族アミノシランが挙げられ、好ましくは芳香族アミノシランが使用できる。
ガラス繊維が前記表面処理されていることで、スチレン系熱可塑性エラストマーとの含浸性が高まり、良好な透明性を維持することができるとともに、屈曲時等において、ガラス繊維とスチレン系熱可塑性エラストマーとの剥離によるシート内部の白化傷の発生が抑制できる。
【0035】
また、ガラス繊維布帛は、目付け量が20~60g/m2であることが好ましい。
ガラス繊維布帛の目付け量が20g/m2未満の場合、スチレン系熱可塑性エラストマーの含浸は良好に行われるが、シートの強度が低かったり、加工時に変形が生じるおそれがある。一方、目付け量が60g/m2を超える場合、ガラス繊維間への当該樹脂の含浸が困難となり、透明不燃シートの透明性が低下するおそれがある。
【0036】
さらに、ガラス繊維布帛は、該ガラス繊維布帛を構成している隣接する縦糸の繊維束間の隙間及び隣接する横糸の繊維束間の隙間が0.5mm以下であることが好ましい。前記範囲以上の隙間が存在する場合、不燃性が得られ難くなるおそれがある。
この場合、打ち込み密度で示すと、縦糸密度及び横糸密度が60本/2.54cm以上が好ましく、繊維束間の隙間が0.5mm以下を達成可能であり、優れた不燃性が保持できる。
【0037】
本願発明の中間層において、ガラス繊維布帛へのスチレン系熱可塑性エラストマーの付着量は特に指定されるものではないが、乾燥状態で10~90g/m2が好ましく、30~90g/m2がより好ましい。付着量が少なすぎると、良好な透明性が得られ難く、また付着量が多すぎると、不燃性が得られない。
【0038】
本願発明では、含浸性について、デジタルマイクロスコープを用いて、樹脂が含浸せずにガラス繊維が見えている箇所の面積比率を輝度抽出領域の面積計算にて算出した値で評価している。当該面積比率が20%未満であることが好ましい。
なお、樹脂が含浸せずにガラス繊維が見えている箇所は、ガラス繊維の白色が視認され、含浸した箇所(透明)との輝度差を生じることとなり、この輝度差から、画像処理によって面積比率を求めることができる。
【0039】
なお、中間層には、ブリード性を有するものを除き、必要に応じて他の添加剤を含有してもよい。例えば、着色用顔料や無機フィラー、難燃剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光拡散剤、他の樹脂等が挙げられる。
【0040】
次いで、本願発明の塩化ビニル樹脂フィルム層について説明する。
本願発明は、中間層の両面に、塩化ビニル樹脂フィルム層が積層されてなる。当該塩化ビニル樹脂フィルム層を設けることで、不燃性を高めるとともに、熱溶着性によるシートの幅繋ぎが可能となる。
また、透明な不燃シートを得るためには、塩化ビニル樹脂フィルム層は透明であることが好ましい。具体的には、全光線透過率が90%以上、ヘーズ値が5%以下である。
【0041】
本願発明では、塩化ビニル樹脂として、特に限定されないが、例えば、可塑剤を含む軟質塩化ビニル樹脂が使用できる。
また、可塑剤の添加量は、フィルムの重量%に対し、15~40重量%が望ましく、柔軟性を保持しつつ、ブリードアウトによるシート表面のべた付きを抑えることができる。なお、塩化ビニル樹脂フィルム層に可塑剤を含有していても、不燃シートとしての透明性が低下することはなく、経時でも確認されていない。
さらに、本願発明の効果を損なわない範囲で、難燃剤、紫外線吸収剤、充填剤、帯電防止剤、着色剤などの添加物が含まれていてもよい。
【0042】
塩化ビニル樹脂フィルム層の表面には、ブロッキング防止や帯電防止等の目的に応じた表面処理が施されていてもよい。
また、塩化ビニル樹脂フィルムと中間層に含浸されたスチレン系熱可塑性エラストマーとは接着性に優れるが、より接着性を向上させるために、塩化ビニル樹脂フィルムの中間層と接触する面にも表面処理を施してもよい。
【0043】
塩化ビニル樹脂フィルム層の厚みは特に制限されないが、各層で0.05~0.2mmが好ましく、さらに好ましくは0.08~0.15mmである。0.2mmより厚いと不燃性が低下する。0.05mm未満ではガラス繊維布帛の凹凸が塩化ビニルフィルムの表面に影響し、視認性が低下してしまう。
【0044】
本願発明は、中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層してなり、折り曲げや折り畳みを繰り返しても、シート内部の白化傷を生じることない、柔軟性に優れる透明不燃シートである。
【0045】
本願発明において、透明性は、ヘーズメーターを用いて測定した全光線透過率及びヘーズ値によって評価される。
本願発明の不燃シートは、全光線透過率が80%以上であり、より好ましくは90%以上である。透過率が80%以上であることによって高い透明性を有し、例えば、防災用のカーテンとして使用した際はシートの反対側が視認でき、また、防炎垂壁等で天井に吊った際は、照明等の輝度を過度に低下させることがない。
また、ヘーズ値は、30%以下であることが好ましく、20%以下とするとより好ましい。ヘーズ値が前記範囲内であることによって、得られるシートの反対側の視認性が向上する。
さらに、本願発明では、40℃で8週間の促進試験後のヘーズ値を測定したところ、促進試験前からの変化率は10%未満であり、透明性の経時変化は見られない。
【0046】
また、本願発明は、建築基準法第2条第9号および建築基準法施行令第108条の2に基づきコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験を行い、加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下の要件を満たすものであり、不燃性を有する。
【0047】
本願発明では、柔軟性は、MIT耐折度試験機を使用し、繰り返し折り曲げ時のシート内部で白化傷が発生するまでの回数で評価している。
本願発明のシートは、荷重9.8N、角度135°、速度175回/minの条件で折り曲げを50回以上繰り返してもシート内部に白化傷が発生しなかったことで、高い柔軟性が示された。また、災害時等で設置箇所から透明不燃シートが落下しても、決して割れたりせず、破片等による怪我につながる可能性が低いため、防煙垂壁への適用が可能である。
【0048】
本願製造方法について、説明する。
本願発明の不燃シートは、(1)中間層を製造する工程、(2)中間層に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層する工程により製造される。
【0049】
(1)中間層を製造する工程
中間層は、ガラス繊維布帛にスチレン系熱可塑性エラストマーを含浸させて製造される。
当該含浸方法としては、溶液含浸法を用いることができる。
まず、所定の溶媒で所定濃度に溶解・希釈し、スチレン系熱可塑性エラストマー溶液(含浸液)を調整し、ガラス繊維布帛を浸漬させる。このとき、含浸液には必要に応じて添加剤を加えてもよい。
次いで、ガラス繊維布帛に前記含浸液が充分含浸した後に、該ガラス繊維布帛を取り出し、ロール圧搾して余分な溶液を絞った後、又はロール圧搾せず自重にて余分な溶液を排除させながら、所定温度で加熱・乾燥させ、中間層を得る。
【0050】
スチレン系熱可塑性エラストマーを溶解させる際に用いる溶媒としては、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム等が使用でき、中でも作業効率の観点からトルエンが好ましい。
【0051】
また、含浸液の濃度としては、10~30重量%とすることが好ましい。前記濃度が10重量%未満の場合、ガラス繊維布帛へ溶液の含浸が容易ではあるが、樹脂付着量が少なくなり易く、所定の透明性を得られ難くなるおそれがある。一方、30重量%を超える場合、溶液の粘度が高くなり、ガラス繊維織布へ溶液が含浸し難くなり、透明性や製造効率が低下するおそれがある。
この際、前記含浸液の粘度としては50~2500cpsとすると含浸及び樹脂付着量の面で好ましい。
【0052】
他の含浸方法としては、所定の溶媒で所定濃度に溶解・希釈し、ペースト状にしたスチレン系熱可塑性エラストマー溶液が塗布されたフィルムを、ガラス繊維布帛の両面に積層し、熱圧着して樹脂を含浸させ、所定温度で加熱・乾燥させたあと、当該フィルムを剥離することにより、中間層を得ることができる。
【0053】
さらに、前記溶液含浸法で得られた透明不燃シートに、熱プレス等の処理を加え、表面平滑性を向上させることもできる。
【0054】
(2)中間層に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層する工程
予め用意した塩化ビニル樹脂フィルムを中間層の両面に積層して一体化する。一体化する方法としては、特に限定されないが、接着剤を用いずに熱圧着によって接着する方法が好ましい。
【0055】
本願発明の不燃シートは、ガラス繊維布帛にスチレン系熱可塑性エラストマーが含浸されてなる中間層と、前記中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を積層させてなり、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いることで、ガラス繊維布帛に含浸する樹脂に可塑剤を含有させることなく、屈折率や柔軟性の調整が可能であり、経時による透明性の低下が発生せず、透明性を長期維持できる。さらに、スチレン系熱可塑性エラストマーはガラス繊維布帛への含浸性、及び塩化ビニル樹脂フィルム層との接着性に優れるため、当該シートを折り曲げや折り畳みを繰り返しても、シート内部に白化傷を生じることのない、柔軟性に優れるものである。
特に、水素添加処理されたブタジエン部分のSP値が17.5(J/cm3)1/2以上の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを使用することで、ガラス繊維布帛への含浸性が向上し、透明性も高まり(ヘーズ値の低下)、折り曲げや折り畳みによる白化傷の発生がさらに抑制できる。また、塩化ビニル樹脂フィルム層との接着性にも優れ、剥離することなく、柔軟性を損ねることもない。
そして、中間層の両面に塩化ビニル樹脂フィルム層を設けているので、熱溶着加工が可能となり、シートの幅繋ぎが容易である。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を用いて本願発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0057】
〔実施例1〕
スチレン系熱可塑性エラストマーAをトルエン溶媒に固形分20重量%になるように溶解させた溶液を作製し、その溶液に芳香族アミノシランで表面処理した厚み29μm、目付け量31.5g/m2のガラス繊維織布(Eガラス繊維、屈折率1.558)を浸漬した。このとき、樹脂の付着量をウェット状態で150g/m2とした。
次に、溶媒を揮発させるためにオーブンにて130℃×5分間乾燥させ、樹脂含浸ガラス繊維織布(中間層)を得た。得られた中間層の樹脂付着量は乾燥状態で30g/m2、厚みは0.05mmであった。
さらに、中間層の両面を厚み120μmの塩化ビニル樹脂フィルム(アキレス社製、商品名「アキレスフラーレ」)2枚で挟み、プレス機にて温度120℃、圧力10kg/cm2、時間5分の条件でプレスし、厚み0.29mmの透明不燃シートを得た。
なお、塩化ビニル樹脂フィルムには、可塑剤が29.5重量%含有したものを使用した。
【0058】
〔実施例2〕
ガラス繊維布帛に含浸させる樹脂をスチレン系熱可塑性エラストマーBに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、透明不燃シートを得た。
【0059】
〔実施例3〕
ガラス繊維布帛に含浸させる樹脂をスチレン系熱可塑性エラストマーCに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、透明不燃シートを得た。
【0060】
〔参考例4〕
ガラス繊維布帛に含浸させる樹脂をスチレン系熱可塑性エラストマーD に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、透明不燃シートを得た。
【0061】
〔参考例5〕
ガラス繊維布帛に含浸させる樹脂をスチレン系熱可塑性エラストマーE に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、透明不燃シートを得た。
【0062】
〔比較例1〕
ビニルエステル樹脂(日本ユピカ社製、商品名「ネオポール8125」)100重量部に対して、硬化剤(ベンゾイルパーオキサイド)4重量部とスチレンモノマー25重量部を添加し、30分間攪拌して樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物に、アクリルシランで表面処理した厚み29μm、目付け量31.5g/m2のガラス繊維織布(Eガラス繊維、屈折率1.558)を30分間浸漬した。
次いで、樹脂溶液を含浸させたガラス繊維織布の両面を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム2枚で挟み、ローラーにて気泡を除去し、オーブンにて100℃で10分間保持して樹脂を硬化させた。樹脂硬化後、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、樹脂含浸ガラス繊維織布(中間層)を得た。得られた中間層の樹脂付着量は乾燥状態で31g/m2、厚みは0.05mmであった。
そして、得られた中間層の両面にウレタン系接着剤を用いて厚み120μm塩化ビニル樹脂フィルム2枚を貼り合せ、厚み0.29mm透明不燃シートを得た。
【0063】
〔比較例2〕
ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、リン酸トルクレジン200重量部、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル50部、ステアリン酸亜鉛2部、ステアリン酸バリウム2部を添加し、30分間攪拌して、樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物に、芳香族アミノシランで表面処理した厚み29μm、目付け量31.5g/m2のガラス繊維織布(Eガラス繊維、屈折率1.558)を浸漬した。
次いで、180℃で1分間熱処理してゲル化を行い、樹脂含浸ガラス繊維織布(中間層)を得た。得られた中間層の樹脂付着量は乾燥状態で30g/m2、厚みは0.05mmであった。
そして、得られた中間層の両面を塩化ビニル樹脂フィルム2枚で挟み、プレス機にて温度120℃、圧力10kg/cm2、時間5分の条件でプレスし、厚み0.29mmの透明不燃シートを得た。
【0064】
実施例1~3、参考例4,5、及び比較例1,2で得られたシートに関し、以下の評価を行った。結果は、表1に示す。
【0065】
〔透明性〕
ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、商品名「HZ-V3」)を使用し、全光線透過率及びヘーズ値を測定し、シートの透明性を評価した。
なお、本願発明の透明不燃シートは、全光線透過率80%以上、ヘーズ値30%以下である。
【0066】
〔含浸性〕
デジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社製、商品名「VHX-5000」)を用いて、200倍の倍率でサンプルを観察し、全面積2.4mm2に対する樹脂が含浸せずにガラス繊維が見えている箇所の面積比率を輝度抽出領域の面積計算にて算出し、以下の基準で評価した。
◎:10%未満
○:10%以上15%未満
△:15%以上20%未満
×:20%以上
【0067】
〔透明性の維持〕
透明性の経時変化を検証する目的として作製直後の透明不燃シートを乾燥機に入れ、40℃で8週間の促進試験を実施した。促進試験後のシートのヘーズ値を測定した。
促進試験前と後のヘーズ値の変化率が10%以上のものは、経時での透明性が維持できず×とし、10%未満のものを○とした。
【0068】
〔柔軟性〕
MIT耐折度試験機(テスター産業株式会社、商品名「BE-202S」)を使用し、15mm×110mmにカットしたサンプルを使用して、荷重9.8N、角度135°、速度175回/minの条件で繰り返し折り曲げた後に折り曲げ箇所を観察して、白化傷が発生するまでの回数を以下の基準で評価した。
○:100回以上
△:50回以上100回未満
×:50回未満
【0069】
〔不燃性〕
各シートを用い、建築基準法第2条第9号および建築基準法施行令第108条の2に基づきコーンカロリーメーター試験機による発熱性試験を行った。加熱開始後の最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、総発熱量が8MJ/m2以下であるものを合格とし、それ以外を不合格とした。
【0070】
実施例で使用したスチレン系熱可塑性エラストマー:
A:SEBS(旭化成ケミカルズ社製、商品名「S.O.E.S1605」)
水素添加処理されたブタジエン部分のSP値(以下、SP値と示す)
17.5(J/cm3)1/2以上、屈折率 1.559、Tg 18℃
B:SEBS(旭化成ケミカルズ社製、商品名「S.O.E.S1606」)
SP値17.5(J/cm3)1/2以上、屈折率1.536、Tg -13℃
C:SEBS(旭化成ケミカルズ社製、商品名「S.O.E.S1611」)
SP値17.5(J/cm3)1/2以上、屈折率1.530、Tg 9℃
D:SEBS(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテック H1043」)
SP値17.5(J/cm3)1/2未満、屈折率1.549、Tg -55℃
E:SEBS(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックH1051」)
SP値17.5(J/cm3)1/2未満、屈折率1.525、Tg -44℃
【0071】
【0072】
実施例1~5によれば、本願発明は、折り曲げや折り畳みを繰り返しても、シート内部に白化傷を生じることのない、柔軟性に優れ、透明性を長期維持できる透明不燃シートである。特に、実施例1~3は、水素添加処理されたブタジエン部分のSP値が17.5(J/cm3)1/2以上のスチレン系熱可塑性エラストマーを使用したものであり、ガラス繊維布帛への含浸性がより優れるものであり、柔軟性も良好な結果であった。