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  • -(メタ)アクリロニトリルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】(メタ)アクリロニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/26 20060101AFI20220714BHJP
   C07C 255/08 20060101ALI20220714BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C07C253/26
C07C255/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017209371
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019081725
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 知広
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-301040(JP,A)
【文献】特表2017-518988(JP,A)
【文献】特開2015-098455(JP,A)
【文献】特開平01-314900(JP,A)
【文献】特開2006-008656(JP,A)
【文献】特開昭58-026998(JP,A)
【文献】特開昭60-169098(JP,A)
【文献】国際公開第2015/200022(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第1186002(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
F28G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層反応器と、前記流動層反応器の反応ガス導出配管で前記流動層反応器に接続された熱交換器と、前記熱交換器に接続し、かつ、循環ラインを有する急冷塔と、を備える流動層反応装置を用いた(メタ)アクリロニトリルの製造方法であって、
原料ガスを前記流動層反応器に導入し、触媒の存在下でアンモ酸化反応を行い、反応ガスを得る工程(A)と、
前記反応ガス導出配管中に粉体を導入し、前記熱交換器を洗浄しながら前記粉体及び反応ガスを前記熱交換器から導出する工程(B)と、
前記熱交換器から導出された粉体及び反応ガスを前記急冷塔に導入し、前記反応ガスを冷却及び洗浄し、前記粉体を除去する工程(C)と、
を有し、
前記粉体が水溶性であり、かつ、前記粉体の水溶液のpHが5.5以上であり、
前記粉体が、前記急冷塔及び循環ライン中においては少なくとも一部が溶解した水溶液として存在する、(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記粉体の圧潰強度が12.1MPa超230MPa未満である、請求項1に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【請求項3】
前記粉体が、前記反応ガス導出配管における粉体の導入位置から前記急冷塔に至るまでは粉体として存在する、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【請求項4】
前記粉体を除去する工程において、前記粉体の少なくとも一部を溶解する冷却水を前記急冷塔に導入する、請求項1~3のいずれかに記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【請求項5】
前記冷却水が、(i)その少なくとも一部が前記急冷塔から流出した後に循環して再び前記急冷塔に流入されるものである、及び/又は、(ii)その少なくとも一部が新たに急冷塔に供給されるものである、請求項4に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【請求項6】
前記冷却水が、前記工程(A)、工程(B)及び工程(C)以外の工程において生じた排水、又は、前記急冷塔の出口におけるガスの冷却により生じた凝縮水を含む、請求項4又は5に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリロニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動層反応器を用いたアンモオキシデーションは、古くから工業的に実施されている。α,β-不飽和ニトリルの反応収率の向上を目的として、触媒の開発及び反応器内部装置の改良として、例えば、原料ガス分散管や分散板の改良がなされている。鞭巌・森滋勝・堀尾正靭「流動層の反応工学」(倍風館(1984)発行)や、Fluidization Engineering(流動層工学);DAIZO KUNII・OCTAVE LEVENSPIEL(JOHNWILEY & SONS.INC,(1969)発行)には、ごく一般的な流動層反応技術について述べられている。
【0003】
流動層反応器を用いて気相接触反応によってモノマーを製造する際、特にアンモニア、酸素(多くの場合、空気が用いられる)、及びオレフィン又は第3級アルコールを反応させて不飽和ニトリルを製造する際、生成する高温の反応ガスを冷却するため、反応器出口に熱交換器が一般に設置されている。しかし、反応によって生成する高沸点副生成物および流動層反応器より飛散する少量の触媒が当該熱交換器に付着し、目詰まりをおこし、反応器圧力が上昇し、運転を長期にわたって安定に継続することが困難になる場合がある。
【0004】
上述した問題を解消するための技術として、特許文献1においては、反応ガスを冷却するために使用する熱交換器を有する反応器において、運転中に該反応器出口と熱交換器間の反応ガス導出管中に粉体を導入するか、または反応器内に堆積している流動層反応触媒を上記反応ガス導出管中に導入することにより、熱交換器内の目詰まり物質を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-301040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術によれば、熱交換器の圧力損失上昇の速度を抑制することができ、実施しない場合に較べ流動層反応器を長期にわたり安定して運転できるとされている。しかしながら、特許文献1の技術に基づいて洗浄を実施しながら不飽和ニトリルの製造を行う場合、洗浄目的で導入した粉体に起因して循環ポンプの内壁に損傷が生じ、運転期間が長くなるにつれて当該損傷の影響が顕在化する結果、運転の継続が困難となることが判明している。このような損傷を防止し、長期にわたり安定して運転するという観点から、特許文献1に記載の技術には、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、流動層反応装置を用いた(メタ)アクリロニトリルの製造において、当該流動層反応装置の損傷を防止し、長期にわたり安定して(メタ)アクリロニトリルを製造できる、方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、水溶性の粉体であって、水溶液とした際に所定のpHを与える粉体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
流動層反応器と、前記流動層反応器の反応ガス導出配管で前記流動層反応器に接続された熱交換器と、前記熱交換器に接続し、かつ、循環ラインを有する急冷塔と、を備える流動層反応装置を用いた(メタ)アクリロニトリルの製造方法であって、
原料ガスを前記流動層反応器に導入し、触媒の存在下でアンモ酸化反応を行い、反応ガスを得る工程と、
前記反応ガス導出配管中に粉体を導入し、前記熱交換器を洗浄しながら前記粉体及び反応ガスを前記熱交換器から導出する工程と、
前記熱交換器から導出された粉体及び反応ガスを前記急冷塔に導入し、前記反応ガスを冷却及び洗浄し、前記粉体を除去する工程と、
を有し、
前記粉体が水溶性であり、かつ、前記粉体の水溶液のpHが5.5以上である、(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
[2]
前記粉体の圧潰強度が12.1MPa超230MPa未満である、[1]に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
[3]
前記粉体が、前記反応ガス導出配管における粉体の導入位置から前記急冷塔に至るまでは粉体として存在し、かつ、前記急冷塔及び循環ライン中においては少なくとも一部が溶解した水溶液として存在する、[1]又は[2]に記載の(メタ)アクリロニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動層反応装置を用いた(メタ)アクリロニトリルの製造において、当該流動層反応装置の損傷を防止し、長期にわたり安定して(メタ)アクリロニトリルを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態の一態様に係る流動層反応装置を例示する概略説明図である。
図2図2は、本実施形態で使用できる流動層反応器を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
本実施形態に係る(メタ)アクリロニトリルの製造方法は、流動層反応器と、前記流動層反応器の反応ガス導出配管で前記流動層反応器に接続された熱交換器と、前記熱交換器に接続し、かつ、循環ラインを有する急冷塔と、を備える流動層反応装置を用いた(メタ)アクリロニトリルの製造方法であって、原料ガスを前記流動層反応器に導入し、触媒の存在下でアンモ酸化反応を行い、反応ガスを得る工程と、前記反応ガス導出配管中に粉体を導入し、前記熱交換器を洗浄しながら前記粉体及び反応ガスを前記熱交換器から導出する工程と、前記熱交換器から導出された粉体及び反応ガスを前記急冷塔に導入し、前記反応ガスを冷却及び洗浄し、前記粉体を除去する工程と、を有し、前記粉体が水溶性であり、かつ、前記粉体の水溶液のpHが5.5以上である。
上記のように構成されているため、本実施形態に係る(メタ)アクリロニトリルの製造方法によれば、流動層反応装置の損傷を防止し、長期にわたり安定して(メタ)アクリロニトリルを製造できる。
【0014】
本実施形態に係る(メタ)アクリロニトリルの製造方法は、流動層反応器と、当該流動層反応器の反応ガス導出配管で接続された熱交換器と、当該熱交換器に接続し、かつ、循環ラインを有する急冷塔と、を備える流動層反応装置を用いるものであり、原料ガスを前記流動層反応器に導入し、触媒の存在下でアンモ酸化反応を行い、反応ガスを得る工程を含む。
以下、本実施形態において使用できる流動層反応装置の例を説明するが、本実施形態における各工程を実施できる装置であればその構成は特に限定されず、種々の構成を備える流動層反応装置を適用することができる。
【0015】
本実施形態における流動層反応装置は、流動層反応器と、当該流動層反応器の反応ガス導出配管で接続された熱交換器と、を備えるものである。
このような流動層反応装置の一態様として、図1に示す流動層反応装置を挙げることができる。図1における流動層反応装置1は、反応器2と、熱交換器3と、反応器2及び熱交換器3を接続する反応ガス導出配管4と、熱交換器3に接続する急冷塔5と、を備えるものである。急冷塔5は、急冷塔ポンプ5Aと、急冷塔循環ライン5B,5Cとを有する。
図1に示す例においては、反応器2に所定の反応原料が供給され、アンモ酸化反応が行われる。反応器2において得られた反応ガスは、反応ガス導出配管4を経由して、熱交換器3を通過させることによって冷却される。その際、反応ガス導出配管4における粉体導入位置6に粉体を導入することにより、熱交換器3における生成ガス流路の壁面に高沸点副生成物が付着することを防止することができる。次いで、熱交換器3を通過した反応ガス及び粉体は、急冷塔5に導入される。急冷塔5では冷却水により反応ガスが冷却されると共に粉体の少なくとも一部が当該冷却水に溶解する形で反応ガスから分離・除去される。
冷却水に溶解された粉体は、急冷塔ポンプ5Aにより急冷塔循環ライン5B,5Cを循環し、一部は廃水処理に供され、一部は急冷塔5に戻されるように構成されている。
上記した各部材の詳細については、本実施形態における各工程と併せて以下に詳述する。
【0016】
図1の流動層反応装置1における反応器2は、流動層反応の反応系と外部とを分画する気相反応装置の本体部分に相当し、その形状としては特に限定されず種々公知の形状を適用することができる。
反応器2は、図2に例示するように、その内部空間において、例えば、
該反応器2内部空間の下部に設けられ、反応熱を除熱して内部空間の温度(反応温度)を制御する冷却コイル7A、7B及び7Cと、
該反応器2内部空間の上部に配置されたサイクロン8A、8B及び8Cと、
該サイクロン8Aの入り口に相当するサイクロン入口9と、
該サイクロン8A、8B及び8Cに接続されたディプレッグ10A、10B及び10Cと、
を備える構成とすることができる。
また、図1~2では図示していないが、反応器2は、通常、
反応器2の底部に接続され、反応系内に空気(酸素)を導入する空気(酸素)導入管と、
該反応器2内部空間の下部に設けられ、反応原料である空気(酸素)を反応系内で分散させる空気(酸素)分散板と、
後述する原料分散管上部に接続され、空気(酸素)以外の原料を反応系内に導入する原料導入管と、
該反応器2内部空間の下部に設けられ、原料を反応系内で分散させる原料分散管と、
該原料分散管上部に充填された流動層触媒から構成される触媒層と、
を備えている。
【0017】
流動層反応は、具体的には、触媒層を含む流動層反応器に原料ガスを供給し、触媒層を流動させる工程と、原料ガスを触媒層に通過させて反応生成ガスを得る工程と、生成ガスを触媒層から排出してサイクロンに導入したのち、反応生成ガスを流動層反応器から排出する工程と、反応生成ガスがサイクロンに導入される際に同伴される触媒を回収して、当該触媒をディプレッグより触媒層へ戻す工程と、を含むものとすることができる。
【0018】
反応器に供給する酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、例えば、空気、酸素を含有する不活性ガスなどが挙げられ、一般には空気が用いられる。酸素含有ガスの供給量は、炭化水素または第3級アルコールに対して、好ましくは5~15モル比、更に好ましくは、7~14モル比である。アンモニアの供給量は、炭化水素または第3級アルコールに対して、好ましくは0.5~2モル比、更に好ましくは1~1.5モル比の範囲で用いうる。
【0019】
触媒層中の温度は、好ましくは300~600℃、更に好ましくは400~500℃、圧力は、好ましくは3Kg/cm2-G以下、更に好ましくは0.2~1.5Kg/cm2-Gの条件で行われる。流動層触媒に関しては、清宮豊他「アクリロニトリル」(化学工学,vol.48,11号,873-881頁(1984))や、特開昭51-40391号公報等、多くの文献や特許に述べられているモリブデンを含有する担持触媒を使用することができ、例えば、モリブデン-ビスマス-鉄系触媒が挙げられる。
【0020】
本実施形態において流動層反応を行う間、反応器下部には触媒濃厚層が存在し、反応器上部には触媒希薄層が存在する。すなわち、反応器内で流動層触媒が流動状態となったとき、上方ほど触媒の空間密度は小さくなる傾向にある。国井大蔵「流動化法」(日刊工業新聞社(1962)発行)に述べられているように、ガス系においては、流動層高さは必ずしも液面のように確然と定められるものではなく、大小のあわだちによる突出があるので、あくまで近似的・平均的に特定されるものである。
【0021】
本実施形態において、触媒濃厚層の上下限範囲は、反応器に取り付けた圧力ノズルから測定できる差圧を用いて、下式から計算される触媒層高さを上限とし、下限は酸素含有ガス分散管または分散板の設置位置として特定できる。
触媒層高さLr=(b-h間差圧)/((b-c間差圧)/(b-c間距離))+(a-b間距離)
ここで、aは酸素含有ガス分散管または分散板の設置高さ、bは酸素含有ガス分散板と原料ガス分散管の中間点の高さ、cはbの上方1mの高さ、hはサイクロン入口高さである。
【0022】
該触媒濃厚層の上部域は、流体中の触媒密度が比較的小さく、触媒希薄層と呼ぶ。反応器内において、触媒希薄層域は、触媒濃厚層域より広い領域を有しているのが一般的である。反応生成ガスに同伴する触媒は、反応器上部に設置されているサイクロンに流入する。同伴された触媒のほとんどがそこで反応生成ガスから分離され、該サイクロンに取り付けられているディプレッグにより、反応器下部に戻される。なお、触媒から分離された反応生成ガスは、図2において示していないが、導出管より反応器外に導出することができる。また、図2では、サイクロンは1系列(3つ)しか描かれていないが、サイクロンの数は、反応器の大きさ、触媒粒径及び反応生成ガス量によって決められ、通常、複数個設置される。また、サイクロンは2つ以上直列に設置されると、触媒の捕集効率が高まる傾向にある。
【0023】
触媒濃厚層中では、大部分の供給原料ガスのアンモオキシデーション反応が進行し、反応熱が発生する。該触媒濃厚層は、触媒が高密度で存在しているため熱交換効率が良い。反応温度を制御する設備の負担を軽減するため、効率的に反応熱を除去して温度制御を行える触媒濃厚層中に、少なくとも伝熱面積の40%以上がある冷却コイルが内装される。反応温度の局部的な不均衡を低減させるため、冷却コイルは、大小さまざまな伝熱面積を有する複数のそれぞれ独立な系列群で構成することができる。
【0024】
本実施形態における冷却コイルは、流動層反応器内に設置される種々公知の形式の間接熱交換器を適用することができ、その種類、大きさ及び形状は限定されない。冷却コイルに流通させる低温流体は、アンモオキシデーション反応温度以下、好ましくは100~300℃の流体であり、例えば、温水、高圧温水、スチーム、前記の混合物または溶融塩が用いられる。
【0025】
本実施形態における、原料ガスを前記流動層反応器に導入し、触媒の存在下でアンモ酸化反応を行い、反応ガスを得る工程としては、特に限定されないが、例えば、触媒を充填した反応器に、例えばプロパン又はプロピレンと、アンモニアと酸素とを原料として供給し、気相アンモ酸化反応によりアクリロニトリルを反応ガスとして得る工程であってもよく、イソブテン、第3級ブタノール又はイソブタンとアンモニアと酸素とを原料として供給し、気相アンモ酸化反応によりメタアクリロニトリルを反応ガスとして得る工程であってもよい。
流動層反応では、触媒粒子が流動状態を保持されていることが必要である。触媒としては、従来、上記原料ガスからアンモ酸化反応により不飽和ニトリルを製造する際に用いられる触媒として知られているものであってもよい。例えば、オレフィンのアンモ酸化反応では、モリブデン及び/又はアンチモンを主成分とする複合酸化物であってもよい。また、パラフィンのアンモ酸化反応に用いられる触媒としては、例えば、モリブデン又はバナジウムを主成分とする複合酸化物が挙げられる。流動層反応器での反応圧力は、特に限定されず、例えば1.5kg/cm2G以下であってもよい。反応温度としては、原料が気相状態で反応する限り特に限定されず、400~500℃であってもよい。
【0026】
本実施形態において、反応ガス導出配管中に粉体を導入し、前記熱交換器を洗浄しながら前記粉体及び反応ガスを前記熱交換器から導出する工程は、反応ガスの冷却及び当該冷却に伴う熱交換器内部への反応ガス由来成分の付着防止の観点から行われるものである。すなわち、かかる工程により、アンモ酸化反応により生成した反応生成ガスが熱交換器に導入され、冷媒により冷却される。熱交換器は、適当な冷却能力を有するものであれば、その方式や構造は特に限定されない。ただし、熱交換器での冷却効率の観点から、好ましくはシェル/チューブ式の熱交換器である。この熱交換器の伝熱部材であるチューブ側(チューブ内)には、反応器からの生成ガスが導入され、シェル側(チューブ外部)には冷媒が導入されて、それらの間の熱交換により、生成ガスが持つ熱が回収される。
【0027】
熱交換器に導入される冷媒の温度は110℃以上であり、予めその温度に加熱されたものを用いればよい。110℃以上に加熱された冷媒を用いることにより、生成ガス中の高沸点副生成物の温度より高く維持し、反応器出口ラインの熱交換器における高沸点副生成物の凝縮による閉塞を防止することができる。
【0028】
反応工程で用いられる触媒は、例えば平均粒径が50μm前後の微小な粒子であり、生成ガス中にはその触媒粒子が含まれている。そのような触媒粒子が熱交換器内に堆積することをより有効に防止する観点から、シェル/チューブ式の熱交換器を用いる場合、管(チューブ)は直管であることが好ましく、その管内を生成ガスが1パスで通過する構造が好ましい。
【0029】
熱交換器の生成ガス流路の壁面に高沸点副生成物が付着することを有効かつ確実に防止する観点から、熱交換器に導入する冷媒の温度をモニタリングして温度制御することが好ましい。生成ガス流路のガス温度は下流ほど低くなり高沸点副生成物が付着しやすくなる。そこで、冷媒を、生成ガス流路の下流側から導入する方式、すなわち、対向流式にして、冷媒の熱交換器への入口温度(供給温度)を制御すると、生成ガスの下流側の温度も管理しやすくなるので好ましい。また、同様の観点から、生成ガスの熱交換器出口の温度をモニタリングして、その温度が一定温度以上になるように、熱交換器に導入する冷媒の温度及び/又は流量を制御することも好ましい。ただし、必ずしも生成ガスの熱交換器出口の温度を正確に計測する必要はなく、生成ガスの熱交換器出口の温度と熱交換器に導入する冷媒の温度との間に一定の関係があることが把握されていれば、熱交換器に導入する冷媒の温度をモニタリングして、その冷媒の温度及び/又は流量を制御してもよい。
【0030】
熱交換器に導入する冷媒は液体であっても気体であってもよい。冷媒として用いられる液体としては水が好ましく、例えば、純水、工業用水、海水及びそれらのうち2種以上の混合物が挙げられる。このような冷媒は、ボイラーで加圧・加温し、110℃以上の温度に調整すればよい。冷媒として用いられる気体としては、例えば、水蒸気、空気、窒素、二酸化炭素、又はそれらのうち2種以上の混合物が挙げられる。このような冷媒を、ボイラーなどで加温して、110℃以上に調整すればよい。生成ガスに含まれる高沸点副生成物が熱交換器の内壁(例えば伝熱部材の表面)に付着するのをより有効かつ確実に抑制する観点から、熱交換器に導入する冷媒の温度は、好ましくは140~260℃であり、より好ましくは170~240℃である。冷媒の温度を所望の温度に制御するためには、熱交換器へ供給される予熱された冷媒の量及び温度を調整すればよい。なお、反応器から流出する生成ガスの温度は、反応温度とほぼ同等の温度であるので、一般に400~500℃である。よって、冷媒の温度が上述の範囲であっても、生成ガスの冷却は何ら問題なく行うことができる。
【0031】
さらに、熱交換器の生成ガス流路の壁面に高沸点副生成物が付着することをより有効かつ確実に防止する観点から、本実施形態では、反応ガスを熱交換器に導出するに際して、反応ガス導出配管中に粉体を導入することにより、熱交換器の洗浄を並行して行う。
本実施形態において用いられる粉体は、水溶性であり、かつ、当該粉体の水溶液のpHが5.5以上である。
本実施形態において、5g/100gH2O以上の溶解度を与える粉体を「水溶性」の粉体とする。本実施形態において、粉体が水溶性であることにより、急冷塔循環ラインと粉体との接触の機会を低減し、結果として急冷塔循環ライン内壁の物理的な損傷を防止することができる。かかる観点から、粉体の溶解度は、好ましくは10g/100gH2O以上であり、より好ましくは15g/100gH2O以上であり、さらに好ましくは20g/100gH2O以上である。
また、本実施形態における粉体のpHは、急冷塔循環ライン内壁への化学的な損傷を防止する観点から、粉体を水に溶解させたときのpHとして5.5以上であり、好ましくは6.0以上であり、より好ましくは6.0以上9.0以下である。具体的なpHの測定方法については、後述する実施例で説明する。
上記のとおり、水溶性であり、かつ、水溶液のpHが5.5以上である粉体を用いることで急冷塔循環ライン内壁の物理化学的な損傷を効果的に防止することができる。このような粉体としては、上述の物性を有する限り特に限定されないが、例えば、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
なお、本実施形態における粉体は、典型的には平均粒径10mm以下の固体であり、当該平均粒径は好ましくは1mm以下である。上記平均粒径は常法により定量できる。
【0032】
本実施形態において、急冷塔循環ライン内壁の物理的な損傷をより効果的に防止する観点から、粉体の圧潰強度が12.1MPa超230MPa未満であることが好ましく、より好ましくは16MPa超230MPa未満である。圧潰強度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
本実施形態において、熱交換器から導出された粉体及び反応ガスを急冷塔に導入し、前記反応ガスを冷却・洗浄し、前記粉体を除去する工程は、反応ガスのさらなる冷却及び当該反応ガスに同伴する粉体の分離の観点から行われるものである。
急冷塔においては、目的生成物に加え、アンモ酸化反応で副次的に生成した高沸点副生成物、未反応アンモニア、及び反応器から飛散した触媒等を含む生成ガスが、冷却水により冷却されると共に洗浄される。冷却水は、例えば、75~95℃とすることができる。
【0034】
本実施形態において、冷却水は、急冷塔循環ラインにより、急冷塔において少なくとも一部が循環される。すなわち、冷却水は、生成ガスを冷却して急冷塔から流出した後に、再び急冷塔に流入する。このとき、冷却水は、急冷塔から流出した後に少なくとも一部が冷却されて、再び急冷塔に流入することが好ましい。例えば、急冷塔循環ラインに急冷塔から流出した冷却水を冷却するための熱交換器が設置されてもよい。これにより、冷却水を循環する場合であっても、冷却水の温度を容易に制御することができる。急冷塔での冷却水の循環は、循環ラインに設けられたポンプを用いて行われる。その循環量は、特に限定されないが、例えば、生成ガスに含まれる不飽和ニトリル1t当たり40~60tとすることができる。
【0035】
なお、冷却水は、上述のとおりその少なくとも一部が循環して再利用されるものであるが、少なくとも一部は新たに急冷塔に供給されるもの(補給水)であってもよい。補給水についての詳細は後述する。
【0036】
生成ガスを冷却するに際しては、急冷塔に導入される生成ガスを冷却すると同時に、生成ガスと冷却水が直接接触するため、反応によって生じた生成ガス中の水分を凝縮させることができる。また、生成ガスは急冷塔に導入されると、冷却水の蒸発によって増湿冷却される。
【0037】
冷却水は、急冷塔内部に設置されたスプレーノズルより噴霧されることが好ましい。これにより、生成ガスと冷却水との接触が更に促進される。
【0038】
また、急冷塔での冷却水による冷却を目的として、急冷塔内部には生成ガスと冷却水とを効率よく接触させるための充填物が充填されてもよい。ただし、反応器出口ラインに設置された熱交換器を通過した生成ガスに含まれる高沸点副生成物は、急冷塔において汚れや詰まり(閉塞)の原因となるが、この汚れや詰まりは、急冷塔が充填物を備えるとより顕著になる。そこで、詰まりを引き起こす原因となる充填物を減らすことにより、急冷塔の塔内部の詰まりをより有効かつ確実に抑制することができる。具体的には、充填層の空隙率を90%以上とすること、又は、充填層の高さを1.5m以下とすることである。ここで「充填層」とは、充填物が存在する空間のことであり、充填物間の隙間や充填物の孔部などは充填層の一部とみなす。
【0039】
充填層の空隙率を指標とする場合、充填層の空隙率は90%以上であり、92%以上であることが好ましい。充填層の空隙率が90%以上であることにより、汚れによる閉塞をより抑制することができる。なお、明細書中、充填層の「空隙率」とは、充填層全体の体積(容積)に対して充填物間の隙間や充填物の孔部が占める割合とする。充填層の空隙率は、充填層に充填される充填物の形状に依存するので、空隙率を調整するには、空隙率が上記の範囲になるような形状を有する充填物を用いればよい。そのような範囲に空隙率を調整できる充填物としては、例えば、ポールリングタイプ及びラシヒ(登録商標)リングタイプの充填物が挙げられる。充填層の空隙率の測定方法は、下記のとおりである。すなわち、充填物を容積既知の容器に充填し、容器の縁の高さまで水を張り、その水の容積を測定する。容器に水を張る際、気泡があると正確な値が算出できないため、気泡は除去しておく。容器の容積をA、水の容積をBとしたとき、B/A×100で算出される値を充填層の空隙率(%)とする。
【0040】
充填層の高さを指標とする場合、充填層の高さは1.5m以下であり、1.0m以下であることがより好ましい。生成ガスは、急冷塔内の充填層を少なくとも高さ方向に移動するため、充填層の高さが1.5m以下であることにより、生成ガスの移動方向の距離が短くなり、急冷塔の詰まりは発生し難くなる。
【0041】
さらに急冷塔の詰まりを一層抑制する観点から、上述した充填層の空隙率及び充填層の高さの条件を同時に満たすことが好ましい。具体的には、充填層の空隙率が90%以上であり、かつ、充填層の高さが1.5m以下であることが好ましく、充填層の空隙率が92%以上であり、かつ、充填層の高さが1.0m以下であることがより好ましく、空塔であることが特に好ましい。なお、ここでいう空塔とは、急冷塔が充填層を有しないことを意味する。
【0042】
なお、不飽和ニトリルの工業的生産において、生産能力によらず、急冷塔の高さは通常10~20mである。一方、急冷塔の直径は、不飽和二トリルの生産能力に合わせて異なるのが一般的である。
【0043】
充填層の空隙率が90%以上である場合、又は充填層の高さが1.5m以下である場合、生成ガスと冷却水との接触効率が低下する傾向にある。そこで、急冷塔内部にスプレーノズルを設けることによって、生成ガスと冷却水との接触の増大を図ることが望ましい。この場合、急冷塔の内部にスプレーノズルが設置される場合、急冷塔に導入された生成ガスの冷却のために、そのスプレーノズルから冷却水が均一に噴霧される。生成ガスに対し冷却水がより均一に噴霧されるよう、スプレーノズルの数、設置密度、及び型式などが適宜調整される。より十分に生成ガスを冷却するため、スプレーノズルは、急冷塔の高さ方向に多段に設置されることが望ましい。使用するスプレーノズルの型式は例えばホローコーン(空円錐)タイプ及びフルコーン(充円錐)タイプが挙げられ、好ましくはホローコーンタイプである。スプレーノズルの設置密度は、好ましくは急冷塔の断面積(高さに対して垂直に切断した場合の断面積)に対し、2~5個/m2である。
【0044】
なお、従来の一般的なアクリロニトリルの製造プロセスの場合、急冷塔における気液接触の効率を向上させる観点から、充填層の空隙率は概ね80%以下であり、充填層の高さは2m以上である。
【0045】
急冷塔の塔底部には、高沸点副生成物及び粉体などが滞留して濃縮するため、塔底部に存在する液(以下、「塔底液」という。)を連続式又はバッチ式で急冷塔から抜き出すことが好ましい。塔底液の量は、塔底液中の高沸点副生成物や硫安が過度に濃縮されないような量、例えば、不飽和ニトリル1tに対して0.1~0.3tであってもよい。塔底液の抜き出し量は、後述するように、塔底液の比重(濃縮度)を確認しながら調整することが好ましい。
【0046】
塔底液の過濃縮を防止するため、塔底液の抜き出し量は、その比重に基づいて管理することが好ましい。塔底液の比重の目安としては、好ましくは1.10~1.20である。ただし、塔底液の比重はこの数値範囲に限定されるものではなく、配管の詰まりを抑制し、ポンプによる塔底液の送液が可能な程度の濃縮度であれば問題はない。塔底液の比重は、急冷塔に新たに供給する補給水の量によっても調整することができる。なお、塔底液の抜き出し配管の詰まりを更に抑制する観点から、塔底液の温度は75~98℃であることが好ましく、80~95℃であることがより好ましい。
【0047】
また、急冷塔には、水バランスを調整する、すなわち系内の水の量を一定範囲に維持するために、補給水を供給することが好ましい。反応や触媒の種類によっても異なるが、例えば、オレフィンのアンモ酸化の場合、反応器出口ラインに設置した熱交換器で冷却された生成ガスは、200~300℃の乾きガスであり、飽和湿度には達していない。急冷塔から流出する生成ガスに同伴される水分も存在するため、補給水量の目安としては不飽和ニトリル1t当たり0.1~0.5tであると好ましい。なお、この水バランスを調整するのに好ましい冷却水の温度、及び急冷塔(好ましくは急冷塔の塔頂)から流出するガス(以下、「急冷塔出口ガス」ともいう。)の温度は、65~95℃であり、より好ましくは75~95℃である。好ましい急冷塔出口ガスの温度は、反応器からの反応生成物の組成及び反応圧力によって多少変化し得るものの、その影響は限定的である。ただし、急冷塔出口ガス温度は、冷却水の温度より高くなってもよく、冷却水の温度より10℃以下の範囲で高くなってもよい。
【0048】
循環する冷却水の温度、塔底液の温度、及び急冷塔出口ガスの温度は、冷却水の循環ラインに冷却器を設置し、その冷却器により制御することができる。冷却器は、熱交換器であってもよい。また、循環ラインが閉塞した場合に備えて、バイパスラインを設置してもよい。なお、急冷塔の循環ラインに、循環する冷却水の冷却用に熱交換器を設置しなければ、上段冷却水温度、塔底液温度、及び急冷塔出口ガスの温度は、ほぼ同じ温度になる。
【0049】
補給水としては、不飽和ニトリルの製造方法の他工程において生じた排水、又は急冷塔出口ガスの冷却により生じた凝縮水などを利用できる。通常、排水はその中に含まれる水以外の成分を濃縮されるものであり、そのために加熱される場合もある。排水を急冷塔の補給水として利用することで、生成ガスの持つ熱を効率的に利用し、濃縮に必要な熱量を削減することができる。濃縮を効率的に進める観点から、急冷塔出口ガスの湿度又は水蒸気圧は高い方が好ましく、湿度が100%すなわち飽和水蒸気圧であることが最も好ましい。急冷塔出口ガスの湿度を高めるため、生成ガスの滞留時間を十分に取ることが望ましい。
【0050】
急冷塔内での生成ガスの平均滞留時間は、未反応アンモニアの中和、高沸点副生成物、重合物、及び飛散触媒等の分離除去の観点から、2秒以上であると好ましく、より好ましくは3秒以上である。急冷塔内での生成ガスの平均滞留時間は、急冷塔に流入する生成ガスの標準状態(0℃、1気圧)での容量を、急冷塔入口での生成ガスの実際の温度、圧力(運転条件によって異なるが、例示すれば300℃、0.7kg/cm2G)で換算した実際のガスの容量、及び急冷塔の容積から求めることができる。
【0051】
(その他の工程及び装置)
本実施形態の不飽和ニトリルの製造方法及びそれに用いられる装置において、急冷塔のガス出口に、ミストセパレーター、液体サイクロン等の装置を設けて、ガスに含まれるミスト(水分)を除去するための装置が設置されてもよい。
【0052】
本実施形態における粉体は、反応ガス導出配管における粉体の導入位置から前記急冷塔に至るまでは粉体として存在し、かつ、前記急冷塔及び循環ライン中においては少なくとも一部が溶解した水溶液として存在することができる。このような存在状態を維持することで、急冷塔の損傷(特に急冷塔循環ラインの物理化学的損傷)を効果的に防止し、長期にわたり安定して(メタ)アクリロニトリルを製造できる。
【実施例
【0053】
次に、本実施形態を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。ただし、本実施形態はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(圧潰強度測定)
島津微小圧縮試験機(島津製作所(株)製「MCT-510」)を用いて粉体の圧潰強度を測定した。
(pH測定)
pH7.0に調整された純水300gに対して、粉体を10g加え、3分間撹拌した。撹拌後、5分間静置し、粉体を含む水溶液のpHを常法により測定した。
【0055】
(実施例1)
実施例1では、図1に示す流動層反応装置を用いてアクリロニトリルの製造を行った。
反応器2としては、図2に示す構成のものを用いた。すなわち、反応器2の下部には、反応原料であるガスの分散管及び分散板を有し(図示せず)、また、流動層反応器の下部には冷却コイル7A~7Cを配置し、流動層反応器の上部には反応器から流出する生成ガスに混入した触媒を捕集するサイクロン8A~8Cを配置し、ディプレッグ10A~10Cで触媒を下部に返送するように構成した。
なお、サイクロンは、図2に示すように直列に3段連なったものを1系列とし、同様のものを計8系列配置した。計器、付属設備は通常使用されるものであった。
【0056】
平均粒径50μmの触媒を充填した直径7.8mの反応器2に、プロピレン、アンモニア及び空気を供給し、アンモ酸化反応を行った。反応器2にて発生した反応ガスは、反応ガス導出配管4を経由して、熱交換器3を通過させることによって冷却した。熱交換器3は、直径1.8m、長さ8.0mの管側1パスの多管円筒式熱交換器とし、冷媒には水を用いた。次いで、熱交換器3を通過した反応ガス及び粉体を材質SUS304にて試作された直径(下部)5.0m・(上部)3.5m、高さ16.5mの急冷塔6に導入することで、反応ガスをさらに冷却・洗浄し、当該反応ガスから粉体を分離・除去した。冷却水に溶解された粉体は、急冷塔ポンプ5Aにより急冷塔循環ライン5B,5Cを循環し、一部は廃水処理に供され、一部は急冷塔6に戻した。
洗浄用の粉体としては、硫酸ナトリウムを使用した。この硫酸ナトリウムは、25℃の水に対する溶解度が21.9gであり(化学便覧基礎編II改訂版より)、圧潰強度27.4MPaであり、水溶液とした際のpHは6.1であった。
反応開始から72時間後、反応ガス導出配管4における位置6に、平均粒径が0.1mmの硫酸ナトリウム(粉体)80kgを一度に導入した。その後、72時間おきに同量の粉体を同様に導入した。このようにして、反応開始から144日間反応を継続した。反応終了後、急冷塔循環ポンプのバックプレートを確認したところ、内壁の減少は、約1mm(8.2μm/day)以下であり、殆ど減肉はみられなかった。
【0057】
(比較例1)
比較例1では、砂を粉体として用いたことを除き、実施例1と同様にアクリロニトリルの製造を開始した。用いた砂は、水に溶けず、pHも測定できなかった。また、砂の圧潰強度は230MPaであった。反応開始から72時間経過後、反応ガス導出配管4における位置6に、平均粒径が0.1mmの粉体80kgを一度に導入した。当該粉体の導入から72時間経過後、さらに同量の粉体を同様に導入した。このようにして、反応開始から9日間反応を継続した。反応終了後、急冷塔循環ポンプのバックプレートを確認したところ、内壁の減少は、約3.7mm(410μm/day)であり、著しい減肉がみられた。
【0058】
以上の結果から、本実施形態の方法によれば、流動層反応装置の損傷を防止し、長期にわたり安定して(メタ)アクリロニトリルを製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、流動層反応装置を用いて流動層反応を実施する際に、有効に利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 流動層反応装置
2 反応器
3 熱交換器
4 反応ガス導出配管
5 急冷塔
5A 急冷塔ポンプ
5B 急冷塔循環ライン
5C 急冷塔循環ライン
6 粉体導入位置
7A 冷却コイル
7B 冷却コイル
7C 冷却コイル
8A サイクロン
8B サイクロン
8C サイクロン
9 サイクロン入口
10A ディプレッグ
10B ディプレッグ
10C ディプレッグ
図1
図2