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特許7105100起泡性水中油型乳化物とそれを用いたホイップドクリーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物とそれを用いたホイップドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220714BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20220714BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018090938
(22)【出願日】2018-05-09
(65)【公開番号】P2019195294
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】岡部 祐二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 史人
(72)【発明者】
【氏名】富田 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】有留 瑛美
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-146787(JP,A)
【文献】特開2010-081930(JP,A)
【文献】Siti Hazirah Mohamad Fauzi et al.,Physicochemical and Microstructural Properties ofRefined Palm Oil-Palm Kernel Oil Blends Following Chemical Interesterification,International Journal of Chemical Engineering and Applications,2016年,Vol. 7, No. 2,pp.81-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン系油脂を原料に含むヨウ素価が12以上34以下であるエステル交換油脂(A1) と、
ラウリン系油脂を原料に含むヨウ素価12未満のエステル交換油脂(A2)と、
を含有し、
トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量が、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して8~55質量%であり、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が、油脂全体の質量に対して68.5~95質量%である起泡性水中油型乳化物。
【請求項2】
前記エステル交換油脂(A1)は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とを原料に含む請求項1に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項3】
前記エステル交換油脂(A1)のヨウ素価が20以上34以下である請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項4】
前記エステル交換油脂(A1)のヨウ素価が20以上30以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項5】
前記エステル交換油脂(A1)の原料であるパーム系油脂は、パーム油またはパーム油およびパーム極度硬化油を含有し、かつパーム分別硬質油を含有しない請求項2~4のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項6】
前記エステル交換油脂(A2)の原料がラウリン系油脂のみからなる請求項1から5に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項7】
前記エステル交換油脂(A1)の含有量が油脂全体の質量に対して2.5~25質量%である請求項1~のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項8】
前記エステル交換油脂(A2)の含有量が油脂全体の質量に対して12~45質量%である請求項1~7のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項9】
乳糖を含有し、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量Xと乳糖の含有量Yとの質量比(X/Y)が2~55である請求項1~のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項10】
前記乳糖の含有量が0.5~7質量%である請求項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物を起泡してなるホイップドクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化物とそれを用いたホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップドクリームは、流通時の温度が変化する条件下でも乳化が安定し、起泡性、二次加工後の保形性、保水性、シマリなどのホイップ物性や、口溶けに優れていることが求められている。
【0003】
一方、部分硬化油(部分水素添加油)に含まれるトランス脂肪酸は、近年では健康への影響が指摘される報告がなされており、その使用を制限する国もある。日本でも低トランス脂肪酸の食品が近年では注目されていることから、部分硬化油を使用しない技術の要請がある。そのような技術として、分別油、未加工の油脂、極度硬化油、エステル交換油脂の使用が挙げられるが、乳化安定性、ホイップ物性、口溶けを高い水準にするためには高い技術が求められる。また、ホイップしたクリームが極端にしまりやすくなることや、食感にヌメリを感じやすくなる等の課題があった。
【0004】
部分硬化油を使用せずに乳化安定性、ホイップ物性、口溶けを改良する技術として、特許文献1、2には、ラウリン系油脂とパーム系油脂を原料とするエステル交換油脂を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-81930号公報
【文献】特開2015-23824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2の技術では、エステル交換油脂のヨウ素価などの点から、ホイップしたクリームを食した時のヌメリが強く、食感は満足できるものではなかった。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れた起泡性水中油型乳化物とそれを用いたホイップドクリームを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂のヨウ素価と、トリグリセリドのラウリン酸や飽和脂肪酸に関連する油脂組成を特定範囲とすることで、口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れた起泡性水中油型乳化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の起泡性水中油型乳化物は、ラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂(A1)を含有し、エステル交換油脂(A1)のヨウ素価が12以上34以下であり、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量が、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して8~55質量%であり、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が、油脂全体の質量に対して65~95質量%であることを特徴としている。
【0010】
この起泡性水中油型乳化物は、ラウリン系油脂を原料に含むヨウ素価12未満のエステル交換油脂(A2)をさらに含有することが好ましい。
【0011】
本発明のホイップドクリームは、上記起泡性水中油型乳化物を起泡してなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の起泡性水中油型乳化物によれば、起泡させて得られるホイップドクリームのヌメリが大幅に低減され、口溶けにも優れるため極めて良好な食感となる。さらに乳化安定性およびホイップ物性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明において、ホイップドクリームのヌメリとは、クリームを食して数秒から十数秒後にクリームが舌にまとわりつく感じのことである。
【0015】
起泡性水中油型乳化物の乳化安定性とは、起泡前の状態において、製造時や、あるいは製品温度の上昇や輸送中の振動によっても著しい粘度上昇や固化(ボテとも称される)が生じないことが考慮される。ホイップ物性とは、起泡時には、起泡開始より長時間を要せずに速やかに起泡する起泡性や、起泡後のホイップドクリームが、造花などの二次加工後も形状の変化が少ない保形性、離水が少ない保水性、起泡後に経時的に硬くなる現象、すなわちシマリが少ないことが考慮される。
【0016】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、ラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂(A1)を含有する。
【0017】
エステル交換油脂(A1)の原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の油脂であり、例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0018】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、エステル交換油脂(A1)は、ヨウ素価が12以上34以下であり、好ましくは20以上34以下、より好ましくは20以上30以下である。ヨウ素価がこの範囲内であると、油脂組成であるトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量および2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が特定範囲であることと相俟って、ホイップドクリームの口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れている。
【0019】
エステル交換油脂(A1)の原料としては、エステル交換油脂(A1)のヨウ素価が上記範囲であれば、ラウリン系油脂を単独で使用してもよく、他の油脂と組み合わせてもよいが、エステル交換油脂(A1)の原料としてラウリン系油脂とパーム系油脂を原料に含むことが好ましい。エステル交換油脂(A1)の原料であるパーム系油脂は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。パーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油やこれらの硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。パーム分別油としては、硬質油、軟質油、中融点油などが挙げられる。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0020】
パーム系油脂は、パーム油またはパーム油およびパーム極度硬化油を含有し、かつパーム分別硬質油を含有しないことが好ましい。パーム系油脂がパーム油またはパーム油およびパーム極度硬化油であると、エステル交換油脂(A1)のヨウ素価を本発明の範囲内に調整することが容易であり、さらにエステル交換油脂(A1)は、エステル交換油脂(A1)と共に配合される他の油脂との相溶性が良好になることから、本発明の効果を得るのに適している。またパーム分別硬質油を含有しないことで、エステル交換油脂(A1)と共に配合される他の油脂との相溶性が良好になることから、本発明の効果を得るのに適している。
【0021】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、エステル交換油脂(A1)の含有量は、本発明の効果を得る点から、油脂全体の質量に対して2.5~25質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0022】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、エステル交換油脂(A1)と共に、ラウリン系油脂を原料に含むヨウ素価12未満のエステル交換油脂(A2)をさらに含有することが好ましい。エステル交換油脂(A2)をさらに含有すると、ホイップドクリームの口溶け、ヌメリの少なさ、乳化安定性、ホイップ物性が全体的により良好となる。
【0023】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、エステル交換油脂(A2)は、ヨウ素価が12未満であり、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2以下である。ヨウ素価がこの範囲内であると、ホイップドクリームの口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れている。
【0024】
エステル交換油脂(A2)の原料としては、エステル交換油脂(A2)のヨウ素価が上記範囲であれば、ラウリン系油脂を単独で使用してもよく、他の油脂と組み合わせてもよいが、本発明の効果を得るのに適している点から、エステル交換油脂(A2)は、その原料がラウリン系油脂のみからなることが好ましい。ラウリン系油脂は、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも極度硬化油が好ましく、さらに、口溶けやヌメリの低減に加えて、特に乳化安定性やホイップ物性が良好である点から、パーム核油の極度硬化油がより好ましい。
【0025】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、本発明の効果を得る点から、エステル交換油脂(A2)の含有量は、油脂全体の質量に対して12~45質量%が好ましく、27~40質量%がより好ましく、30~40質量%が最も好ましい。
【0026】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、本発明の効果を得る点から、エステル交換油脂(A1)と(A2)の質量比(A1/A2)は0.05~1が好ましく、0.21~0.9がより好ましい。
【0027】
本発明の起泡性水中油型乳化物はエステル交換油脂(A1)、(A2)と共に、ラウリン系油脂とパーム系油脂を原料に含むヨウ素価34超のエステル交換油脂(A3)を含むことができる。エステル交換油脂(A3)を含む場合には、その含有量は油脂全体の質量に対して15~30質量%であることが好ましい。
【0028】
エステル交換油脂(A1)~(A3)において、ラウリン系油脂等を原料とするエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウム等が用いられ、酵素触媒としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属等のリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、エステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂中における質量比(SUS/SSU)が0.45~0.55の範囲内となる。
【0029】
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05~0.15質量%添加し、減圧下で80~120℃に加熱し、0.5~1.0時間攪拌することでエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A1)~(A3)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01~10質量%添加し、40~80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A1)~(A3)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭等の精製を行うことができる。
【0030】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量は、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して8~55質量%であり、15~42質量%が好ましく、15~31質量%が最も好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドは、ラウリン酸の分子量が小さいことに起因し、分子運動がおこりやすい。そのため固化後に油脂中で、分子同士が離れやすい状態となる。このような特性を持つ2位に結合されたラウリン酸の含有量が上記の範囲内であると、ホイップドクリームの口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れている。ここで、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がラウリン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、ULU型トリグリセリドなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14~24の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸、セラコレイン酸等)であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sと不飽和脂肪酸Uである場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4~24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14~18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。
【0031】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量は、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して10~60質量%が好ましく、14~50質量%がより好ましく20~42質量%が最も好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドは、分子構造上歪を形成しており、回転運動する際に、分子構造の障害となりやすい状態となる。これにより油脂中の各トリグリセリドの分子同士が近付きにくくなることから、固化しにくい状態となる。このような特性を持つ2位に結合されたオレイン酸の含有量を上記範囲とすることが、本発明の効果を得る点から好適である。ここで、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がオレイン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UOU型トリグリセリドなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、「O」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4~24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14~24の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エルカ酸、セラコレイン酸等)であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sと不飽和脂肪酸Uである場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4~24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14~24の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0032】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量は、油脂全体の質量に対して65~95質量%であり、70~86質量%が好ましい。トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量と、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が上記の範囲内であると、ホイップドクリームの口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れている。ここで、2飽和トリグリセリドは、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合したトリグリセリドであり、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)、1位と2位、または2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位または1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU、USS)が挙げられる。3飽和トリグリセリド(SSS)は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合したトリグリセリドである。その他、本発明の起泡性水中油型乳化物における油脂は、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SUU、UUS、USU))を含んでいてもよく、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでいてもよい。
【0033】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、飽和脂肪酸の含有量は、本発明の効果を得る点から、全油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して60~90質量%が好ましく、65~82質量%がより好ましい。本発明において、飽和脂肪酸は、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸の括弧内の数値表記は、脂肪酸の炭素数を意味する。本発明において、不飽和脂肪酸(以下、Uとも表記する。)は、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0034】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、P2Oの含有量は、本発明の効果を得る点から、油脂のトリグリセリド全体の質量に対して4~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、9~20質量%が最も好ましい。ここでP2Oは、PPOおよびPOPを示す。PPOは、1位と2位または2位と3位にパルミチン酸、3位または1位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを示し、POPは、1位と3位にパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを示し、Pはパルミチン酸、Oはオレイン酸を示す。
【0035】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、油脂の構成脂肪酸としてベヘン酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、ベヘン酸が多くなると、その脂肪酸鎖長の長さが影響し、ホイップドクリームの口溶け、ヌメリに悪影響を与える。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸のベヘン酸の含有量は4.5質量%未満であることが好ましく、2質量%未満であることが最も好ましい。
【0036】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。油脂におけるトランス脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3-2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」で測定することができる。なお、トランス脂肪酸の含有量は、添加量既知の内部標準物質(ヘプタデカン酸)との面積比により算出できる。本発明の起泡性水中油型乳化物は、トランス脂肪酸の含有量を上記の範囲とするために、部分硬化油を含有しないことが好ましい。
【0037】
本発明の起泡性水中油型乳化物の製造に用いられる、エステル交換油脂(A1)~(A3)以外の油脂としては、特に限定されるものではないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油またはそれらの脱臭油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量や、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量などを適宜調整するために、これらの油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、エステル交換油脂(A1)~(A3)以外の油脂として、パーム系油脂(パーム油、パーム分別油(硬質油、軟質油、中融点油など)やこれらの硬化油、エステル交換油脂など)、ラウリン系油脂(パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油など)などが好ましく使用できる。パーム系油脂としては、パーム分別中融点油、パーム分別軟質油、エステル交換パーム分別軟質油が好ましい。パーム系油脂の含有量は油脂全体の質量に対して10~75質量%が好ましく、12~60質量%がより好ましい。
【0039】
ラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、ヤシ極度硬化油が好ましい。ラウリン系油脂の含有量は油脂全体の質量に対して50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、12質量%以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、乳糖を含有し、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量Xと乳糖の含有量Yとの質量比(X/Y)が起泡性水中油型乳化物基準で2~55であることが好ましく、5~24がより好ましく、10~15が最も好ましい。また乳糖の含有量は、起泡性水中油型乳化物基準で0.5~7質量%であることが好ましく、1.5~5質量%がより好ましい。ここで乳糖は、乳糖単独で配合してもよく、脱脂粉乳やバターミルクパウダーなどの乳製品などとして配合してもよい。乳製品などとして配合する場合は、上記乳糖量は純分としての値である。このような範囲で乳糖を含有することで、起泡性が向上する。質量比(X/Y)が大きく乳糖が少な過ぎると、起泡しにくく、起泡時間が長くなり、起泡性が低下する。質量比(X/Y)が小さく乳糖が多過ぎると、すぐ起泡してしまい乳化安定性が悪くなる。
【0041】
なお、本発明の起泡性水中油型乳化物を用いた製品中の乳糖量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定することができる。
【0042】
本発明の起泡性水中油型乳化物において、油脂の含有量は20~50質量%が好ましく、25~45質量%がより好ましく、30~37質量%がさらに好ましい。油脂の含有量がこの範囲であると、乳糖との配合調整により、起泡性や乳化安定性が向上するとともに、その他のホイップ物性も良好で、ホイップドクリームは口溶けが良くヌメリが低減された良好な食感を有する。
【0043】
本発明の起泡性水中油型乳化物には、必要に応じて、起泡性水中油型乳化物に通常使用される各種の食品素材や食品添加物などを添加することができる。具体的には、例えば、乳、乳製品、乳製品を発酵処理した呈味剤、乳化剤、pH調整剤、糖質、増粘多糖類、フレーバー、着色成分、酸化防止剤などが挙げられる。
【0044】
乳としては、牛乳などが挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
乳化剤としては、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。乳化剤は、特に限定されないが、起泡前の水中油型乳化物の乳化安定性と、起泡時には迅速にクリーム中の脂肪を凝集させて部分的に乳化状態を破壊させ、かつ解乳化させた状態を長時間維持する点を考慮すると、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンなどのリン脂質が主成分であるレシチンに、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどを組み合わせて使用することができる。
【0046】
pH調整剤としては、例えば、リン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩などの無機塩類、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩類などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
糖質としては、例えば、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖類(ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース、トレハロースなど)、オリゴ糖、糖アルコール、ステビア、アスパルテームなどの甘味料、デンプン、デンプン分解物、イヌリン、多糖類、難消化性糖質(難消化性デンプン、難消化性デキストリン等)などが挙げられる。
【0048】
増粘多糖類としては、例えば、寒天、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、グルコマンナン、ジェランガム、大豆多糖類、タラガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、タマリンドシードガム、ペクチン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)などが挙げられる。
【0049】
フレーバーとしては、例えば、ミルクフレーバー、バターフレーバーなどが挙げられる。
【0050】
本発明の起泡性水中油型乳化物は、例えば、次の手順で製造することができる。
【0051】
油脂、乳化剤、水などの各成分を混合して乳化する。乳化にはホモミキサーなどを用いることができる。通常は、親油性の乳化剤は油相、親水性の乳化剤は水相に添加する。また、無脂乳固形分や塩類などを用いる場合、これらは予め水に溶解して用いる。乳化は、油相については配合油脂が完全に溶解する温度に加温し、水相については混合後の油相が温度低下を起こさない温度に加温し、水相に油相を混合し、例えば60~70℃で行うことができる。
【0052】
乳化した後、均質化を行う。均質化は、高圧ホモジナイザーを用いて、従来より起泡性水中油型乳化物の製造に用いられている圧力などの条件を適宜に設定して行うことができる。この均質化の工程において油滴のメディアン径を調整することができる。また均質化の前後の工程として、殺菌または滅菌処理をすることができる。均質化後のメディアン径は0.8~1.6μmであることが好ましく、1.0~1.3μmであることがより好ましい。
【0053】
そして、均質化後の乳化物を冷却することにより、本発明の起泡性水中油型乳化物が得られる。冷却は、短時間で目的の温度まで冷却できる設備を用いて行うことが好ましく、このような設備としては、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器などを挙げることができ、このような設備を用いて短時間で1~7℃の温度範囲まで冷却することが好ましい。冷却後、冷蔵下で攪拌し、タンク中で冷却温度にて例えば1~2日程度放置し安定化させる(エージング)。その後、充填され、製品となる。
【0054】
本発明の起泡性水中油型乳化物を、泡立器具、または専用のミキサー(開放式縦型ミキサー、密閉式連続ミキサーなど)を用いて空気を抱き込ませるように攪拌することによって、起泡状態を呈するホイップドクリームを製造することができる。なお、起泡する際に、グラニュー糖、砂糖、液糖などの糖質や、アルコール類、フレーバー、増粘安定剤、生クリームなどを添加してもよい。
【0055】
このようにして得られたホイップドクリームは、必要に応じて冷蔵保存した後、二次加工に供される。ここで二次加工には、起泡後にナッペマシーンや、デポジッターなどを通過させる機械を用いた成形手法や、スパテラを用いたナッペやしぼり袋を用いた注入など、手作業による成形手法が含まれる。
【0056】
このようにして得られたホイップドクリームは、食品の各種用途に使用することができ、例えば、ケーキなどのナッペ用や、パン、パイ、シュー、デニッシュ、クッキー、ビスケットやケーキなどのサンド用、デザートやコーヒーなどのトッピング用などに好適に用いることができる。
【実施例
【0057】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)測定方法
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」で測定した。
【0058】
全油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の2位構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。表1~表3において、「2位ラウリン酸含有量」、「2位オレイン酸含有量」と質量%で表記している。
【0059】
全油脂における飽和脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおりガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。表1~表3において、「飽和脂肪酸含有量」と質量%で表記している。
【0060】
全油脂におけるP2Oの含有量(PPOおよびPOPの合計量)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、脂肪酸量を用いて計算にて求めた。表1~表3において、「P2O(POP+PPO)」と質量%で表記している。
【0061】
2飽和トリグリセリドおよび3飽和トリグリセリドの合計量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2-2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。表1~表3において、油脂を基準として「2・3飽和トリグリセリド合計量(油脂中)」、起泡性水中油型乳化物を基準として「2・3飽和トリグリセリド合計量」と質量%で表記している。
【0062】
(2)起泡性水中油型乳化物とホイップドクリームの作製
表1~表3のエステル交換油脂1~9は次の方法で作製した。
(エステル交換油脂1:A1)
パーム核極度硬化油25質量%、パーム油50質量%、パーム極度硬化油25質量%を原料として110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂1を得た。このエステル交換油脂1のヨウ素価は28であった。
(エステル交換油脂2:A1)
パーム核極度硬化油30質量%、パーム油30質量%、パーム極度硬化油40質量%を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応を行い、エステル交換油脂2を得た。このエステル交換油脂2のヨウ素価は17.3であった。
(エステル交換油脂3:A2)
パーム核極度硬化油を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応を行い、エステル交換油脂3を得た。このエステル交換油脂3のヨウ素価は1であった。
(エステル交換油脂4:A2)
ヤシ油を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応を行い、エステル交換油脂4を得た。このエステル交換油脂4のヨウ素価は11であった。
(エステル交換油脂5:A2)
ヤシ極度硬化油80質量%、パーム油20質量%を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂5を得た。このエステル交換油脂5のヨウ素価は11.4であった。
(エステル交換油脂6:A3)
ヤシ油40質量%、パーム油60質量%を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂6を得た。このエステル交換油脂6のヨウ素価は35.8であった。
(エステル交換油脂7:A3)
パーム核油40質量%、パーム油60質量%を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂7を得た。このエステル交換油脂7のヨウ素価は39であった。
(エステル交換油脂8:A3)
パーム核油50質量%、パーム油50質量%を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂8を得た。このエステル交換油脂8のヨウ素価は35.5であった。
(エステル交換油脂9)
パーム分別軟質油を原料に使用し、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応を行い、エステル交換油脂9を得た。このエステル交換油脂9のヨウ素価は56であった。
【0063】
<起泡性水中油型乳化物の作製>
表1~表3に示す配合で、油脂にグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、油性フレーバーを添加し油相とした。一方、水にカゼインナトリウム、デキストリン、乳化剤のショ糖脂肪酸エステル、表1~表3の乳糖含有成分(脱脂粉乳、バターミルクパウダー、乳糖)、リン酸ナトリウム、増粘多糖類を添加し水相とした。
水相と油相を65℃に加温し、水相に油相を添加し攪拌して乳化した後、高圧ホモジナイザーで均質化した。その後、1~5℃まで急冷し、さらに、攪拌しながら冷蔵下で10時間エージングし、起泡性水中油型乳化物を得た。
起泡性水中油型乳化物における配合量は次のとおりである。なお、残部を水とし、全体を100質量部とした。
〈起泡性水中油型乳化物の配合〉
油脂 表1~3記載
乳糖原料 表1~3記載
カゼインナトリウム 0.2質量%
デキストリン 2.5質量%
乳化剤 0.7質量%
グリセリン脂肪酸エステル 0.1質量%
レシチン 0.4質量%
ショ糖脂肪酸エステル 0.2質量%
リン酸ナトリウム 0.2質量%
増粘多糖類 0.02質量%
フレーバー 0.04質量%
【0064】
<ホイップドクリームの作製>
上記のようにして得られた起泡性水中油型乳化物20kgに2kgのグラニュー糖を加え、90コートボウル内で5℃に調温後、縦型ミキサー(関東混合機工業(株)製)を使用し、起泡させ、ホイップドクリームを得た。
【0065】
(3)評価
得られた起泡性水中油型乳化物と、これを起泡して得たホイップドクリームについて次の評価を行った。
[安定性]
100ml容量ビーカーに60gの起泡性水中油型乳化物を計量し、20℃に調温したものをスリーワンモーター BL300(HEIDON社製)にてファン(3枚羽根プロペラ)を使用し、180rpmの回転数で攪拌した。ボテの発生を目視で観察し、ボテが発生するまでの時間を以下の基準で評価した。なお、ここでいうボテとは、攪拌中にビーカー内にておこる増粘または固化を意味する。
評価基準
◎:4時間以上ボテが発生しなかった。
○:ボテが発生するまで30分以上4時間未満であった。
△:10分以上30分未満で増粘または固化した。
×:10分未満で増粘または固化した。
【0066】
[起泡性]
ホイップ開始からホイップ終点に至るまでの時間を測定、以下の基準により評価した。
評価基準
◎:15分以上25分未満
〇:13分以上15分未満または25分以上27分未満
△:10分以上13分未満または27分以上30分未満
×:10分未満または30分以上
【0067】
[保形性]
起泡直後、花形状に造形したものを17.5℃のクールニクスで1日静置し、形状の変化を目視により以下の基準で判定した。
評価基準
◎:造花直後と比較して形状の変化なし。
○:やや形状の変化がある。または若干「しわ」のようなものが見える。
△:かなり形が崩れている。または「しわ」のようなものが見える。
×:完全に形が崩れている。または「ひび」が入っている。
【0068】
[保水性]
起泡直後、花形状に造形したものを17.5℃のクールニクスで1日静置し、離水の有無を目視により以下の基準で判定した。
評価基準
◎:造花直後と比較して離水が認められない。
○:やや離水が認められる。
△:かなりの離水が認められる。
×:離水が激しい。
【0069】
[シマリ]
起泡後、15℃にて30分静置したクリームの硬さをレオメーター(サン科学、CR-500DX)により測定し、以下の基準により評価した。
評価基準
◎:起泡直後とその30分後の硬さの差が-5gf/cm以上5gf/cm未満
○:起泡直後とその30分後の硬さの差が5gf/cm以上10gf/cm未満
△:起泡直後とその30分後の硬さの差が10gf/cm以上20gf/cm未満
×:起泡直後とその30分後の硬さの差が20gf/cm以上
【0070】
起泡後、10℃にて1日静置したホイップドクリームをパネル10名で試食し、口溶け、ヌメリを以下の基準で評価した。
パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~40代の男性4名、女性6名を選抜した。
[口溶け]
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、口溶けが良好であると評価した。
○:パネル10名中5~7名が、口溶けが良好であると評価した。
△:パネル10名中3~4名が、口溶けが良好であると評価した。
×:口溶けが良好であると評価したのはパネル10名中2名以下であった。
【0071】
[ヌメリ]
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が、ヌメリが無いと評価した。
○:パネル10名中5~7名が、ヌメリが無いと評価した。
△:パネル10名中3~4名が、ヌメリが無いと評価した。
×:ヌメリが無いと評価したのはパネル10名中2名以下であった。
【0072】
上記の評価結果を表1~表3に示す。なお、表1~表3において油脂と乳糖原料の配合は、水を含む起泡性水中油型乳化物の全量を基準として質量%で示している。各評価においては、△以上は課題解決の最低限は満たしていると判断したが、その中でも〇以上を特に良好と判断した。各評価の総合評価として、×が1つ以上のものは不可とした。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
表1~表3より、実施例1~30は、ラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂(A1)を含有し、エステル交換油脂(A1)のヨウ素価が12以上34以下であり、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量が、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して8~55質量%であり、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が、油脂全体の質量に対して65~95質量%である起泡性水中油型乳化物を用いた。これらは全体的に、ホイップドクリームの口溶けが良好であると共に、特に食した時のヌメリが低減されて良好な食感を有し、乳化安定性とホイップ物性にも優れている。実施例3、8、15~17、19は、全ての評価項目において最も評価が良い。
【0077】
実施例4は実施例3の配合を基準として、ヨウ素価が低いエステル交換油脂(A1)を用いたが、ヨウ素価が低いエステル交換油脂(A1)を用いると、口溶けが低下する傾向が見られた。実施例8に対する実施例9にしても同様である。
【0078】
ラウリン系油脂を原料に含むヨウ素価12未満のエステル交換油脂(A2)、特に原料がラウリン系油脂のみからなるエステル交換油脂(A2)を更に配合した実施例1~19等は、特にホイップドクリームの口溶けとヌメリの少なさにおいて全体的に良好である。実施例26は、実施例3の配合を基準として、エステル交換油脂(A2)としてヨウ素価が比較的高いヤシ油を原料に用いたが、保形性、保水性等の物性面において低下する傾向であるものの、口溶けとヌメリの少なさにおいて良好である。実施例28は、実施例3の配合を基準として、エステル交換油脂(A2)の配合量を少なくしたが、食感面ではヌメリの評価が“〇”となり低下する傾向が見られ、更に実施例29ではエステル交換油脂(A2)を配合しなかったが、保水性、シマリでは評価が“△”となるなど物性面においても全体的に低下する傾向が見られた。実施例27から配合量を若干変更した実施例30も同様である。
【0079】
実施例20~23は、実施例3を基準として、エステル交換油脂(A1)、(A2)の質量比(A1)/(A2)を変更した。実施例20は、エステル交換油脂(A1)の配合量が少なく、口溶けとヌメリが“〇”となり低下する傾向が見られた。比較的硬い油脂であるエステル交換油脂(A1)の配合量を増やした水準である実施例21~23は、口溶けが低下する傾向が見られ、このことがヌメリの評価が“〇”となり実施例3に比べると低下したことに影響したと考えられる。
【0080】
トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量と、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量に関しては、実施例1~19等と、実施例24、27等や比較例5~7との対比より、これらが多くなり、あるいは少なくなると、実施例24、27のように物性面において“△”の評価を含んだり、口溶けが“〇”の評価となったりする傾向があり、更には比較例5~7のように上記の範囲外となると“×”の評価を含むようになる。実施例24は、エステル交換油脂(A1)の配合量を実施例1~19等の水準として、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が多い配合であるが、飽和脂肪酸であるラウリン酸の含有量が多くなり、更に飽和脂肪酸を主体とする2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が多くなると保水性、シマリの物性面において評価がいずれも“△”となる。実施例27は、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が少ない配合であるが、ホイップ時間が長く起泡性が低下する傾向が見られ、ラウリン酸が少ないと口溶けが低下する傾向が見られる。
【0081】
トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量に関しては、実施例11、18は、実施例3を基準としてトリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が多く、ヌメリの評価が“〇”になり低下する傾向が見られる。実施例25は、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が少なく、トリグリセリドP2Oが少ない配合であり、物性面においてシマリが“△”となり低下する傾向が見られる。
【0082】
乳糖の配合に関しては、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量Xと乳糖の含有量Yとの質量比(X/Y)や乳糖の含有量において、実施例1、2、5、6は、実施例3を基準として、X/Yや乳糖の含有量を変更し、実施例7、8、10は、実施例1、2、5、6よりエステル交換油脂(A1)、(A2)以外の油脂配合を変更し、この油脂配合においてX/Yや乳糖の含有量を変更した。これらは口溶けとヌメリの少なさの食感面では全体的に良好であったが、物性面のうち特に起泡性において、X/Yが大きい実施例1や乳糖を配合しない実施例7は、ホイップ時間が長く、X/Yが次第に小さくなると実施例6、10のようにホイップ時間が短くなる傾向が見られた。ホイップ時間が短く乳化安定性が低下したと考えられる実施例6や、乳糖を配合せず安定性が低下した実施例7は、これらの物性面が口溶けにも影響したと考えられる。
【0083】
比較例1~4は、実施例1~30と同様にラウリン系油脂を原料に含むエステル交換油脂を配合し、比較例3、4は実施例3を基準としてエステル交換油脂を同一量で置き換えた以外は同一配合で対比している。比較例1~3は、置き換えたエステル交換油脂のヨウ素価が高く、比較例4は置き換えたエステル交換油脂のヨウ素価が低く、口溶けとヌメリの少なさの食感面と、乳化安定性とホイップ物性のいずれも満足し得るものではなかった。比較例5~7は、エステル交換油脂(A1)を配合したが、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量や2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が上記の範囲外であり、口溶けとヌメリの少なさの食感面と、乳化安定性とホイップ物性のいずれも満足し得るものではなかった。