(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】電力伝送装置及び電動車両
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220714BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20220714BHJP
H03H 7/01 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H05K9/00 K
H01F17/06 D
H01F17/06 K
H03H7/01 Z
(21)【出願番号】P 2018160613
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】糸数 大己
(72)【発明者】
【氏名】網倉 亜衣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋也
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-335769(JP,A)
【文献】特開2013-110170(JP,A)
【文献】特開2005-011961(JP,A)
【文献】特開2016-154176(JP,A)
【文献】特開2000-286129(JP,A)
【文献】実開平03-059693(JP,U)
【文献】特開2018-014348(JP,A)
【文献】特表平08-505279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 17/06
H03H 7/01
B60L 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を伝送するバスバーと、前記バスバーに装着されて前記バスバーに伝わるノイズを除去する磁性体クランプ部品と、を備える電力伝送装置であって、
前記磁性体クランプ部品は、
互いが第1方向に対向して組み合されたときに貫通孔が形成される形状の第1磁性体及び第2磁性体と、
前記第1磁性体と前記第2磁性体とを組み合わされた状態に保持する保持器と、
前記バスバーを挟み込む第1面及び第2面を有し、少なくとも一部が前記貫通孔に配置されるゴム部材と、
を備え、
前記貫通孔の貫通方向に直交する断面において、前記貫通孔の内周面のうち互いに前記第1方向に対向する対向面間の長さが、前記バスバーを挟み込んだ前記ゴム部材の前記第1方向の幅よりも長いことを特徴とする電力伝送装置。
【請求項2】
前記保持器は、
前記第1磁性体と前記第2磁性体とを押し付けるバネと、
前記ゴム部材に当接して前記ゴム部材を圧縮する当接部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の電力伝送装置。
【請求項3】
前記ゴム部材は、前記貫通孔の外部に延設される延設部を有し、
前記当接部は、前記ゴム部材の前記延設部に当接されることを特徴とする請求項2記載の電力伝送装置。
【請求項4】
前記ゴム部材は、前記貫通孔の外部に配置される鍔部を有し、
前記保持器は、前記第1磁性体及び前記第2磁性体の前記貫通孔の貫通方向における端面を覆うカバー部を有し、
前記カバー部が、前記第1磁性体及び前記第2磁性体の前記端面と前記鍔部との間に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力伝送装置。
【請求項5】
前記保持器は、開閉可能な第1枠と第2枠とを有し、
前記ゴム部材は、前記第1面を有する第1ゴム部材と、前記第2面を有し前記第1ゴム部材とは別体の第2ゴム部材とを含み、
前記第1枠に前記第1磁性体と前記第1ゴム部材とが保持され、前記第2枠に前記第2磁性体と前記第2ゴム部材とが保持されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力伝送装置。
【請求項6】
走行モータと、
前記走行モータに電力を供給する二次電池と、
前記二次電池と前記走行モータとの間で電力を伝送する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力伝送装置と、
を備えることを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力伝送装置及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、ケーブルに伝わる電磁ノイズを吸収する部品としてフェライトクランプがある。フェライトクランプは、凹溝を有する2つのフェライトを備え、凹溝の部分でケーブルを挟むようにして、ケーブルに装着される。装着後、2つのフェライトはケーブルを囲う環状の形態になる。フェライトクランプによれば、ケーブルに電磁ノイズが伝わった際、環状のフェライトにケーブルの周りを周回する高密度の磁束が発生し、磁束の一部が磁気損失として吸収されることで、ケーブルの電磁ノイズが低減される。
【0003】
例えば電動車両に搭載される電力伝送装置には、大きな電力を分配するためにバスバーが利用される。バスバーにおいても、電磁ノイズが伝わることがある。
【0004】
特許文献1には、バスバーに装着可能なフェライトクランプが示されている。このフェライトクランプは、フェライトである分割コア(4A、4B)を組み合わせたときにこれらの間にできる穴に、合成樹脂の分割ボビン(3A、3B)が装着される。そして、分割ボビン(3A、3B)の間にバスバーが配置される。特許文献1には、分割ボビン(3A、3B)に設けられたリブが、分割コア(4A、4B)を組み合わせたときにできる穴に押し潰された状態で装着されることが示されている(段落0022)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バスバーにフェライトクランプを固定する構造として、分割されたフェライトを閉じるときの力でバスバーを挟み込む構造を採用した場合、挟んだときの反発力が2つのフェライトを押し開く方に作用する。この力により2つのフェライトが押し開かれて、これらの間に隙間が生じると、フェライトを通って環状に生じる磁束が減少し、電磁ノイズの吸収特性が低下するという課題が生じる。
【0007】
本発明は、電磁ノイズの吸収特性の低下を抑制しつつバスバーへの固定が可能な磁性体クランプ部品を備えた電力伝送装置及び電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
電力を伝送するバスバーと、前記バスバーに装着されて前記バスバーに伝わるノイズを除去する磁性体クランプ部品と、を備える電力伝送装置であって、
前記磁性体クランプ部品は、
互いが第1方向に対向して組み合されたときに貫通孔が形成される形状の第1磁性体及び第2磁性体と、
前記第1磁性体と前記第2磁性体とを組み合わされた状態に保持する保持器と、
前記バスバーを挟み込む第1面及び第2面を有し、少なくとも一部が前記貫通孔に配置されるゴム部材と、
を備え、
前記貫通孔の貫通方向に直交する断面において、前記貫通孔の内周面のうち互いに前記第1方向に対向する対向面間の長さが、前記バスバーを挟み込んだ前記ゴム部材の前記第1方向の幅よりも長いことを特徴とする電力伝送装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電力伝送装置において、
前記保持器は、
前記第1磁性体と前記第2磁性体とを押し付けるバネと、
前記ゴム部材に当接して前記ゴム部材を圧縮する当接部と、
を有することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の電力伝送装置において、
前記ゴム部材は、前記貫通孔の外部に延設される延設部を有し、
前記当接部は、前記ゴム部材の前記延設部に当接されることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力伝送装置において、
前記ゴム部材は、前記貫通孔の外部に配置される鍔部を有し、
前記保持器は、前記第1磁性体及び前記第2磁性体の前記貫通孔の貫通方向における端面を覆うカバー部を有し、
前記カバー部が、前記第1磁性体及び前記第2磁性体の前記端面と前記鍔部との間に配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力伝送装置において、
前記保持器は、開閉可能な第1枠と第2枠とを有し、
前記ゴム部材は、前記第1面を有する第1ゴム部材と、前記第2面を有し前記第1ゴム部材とは別体の第2ゴム部材とを含み、
前記第1枠に前記第1磁性体と前記第1ゴム部材とが保持され、前記第2枠に前記第2磁性体と前記第2ゴム部材とが保持されることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、
走行モータと、
前記走行モータに電力を供給する二次電池と、
前記二次電池と前記走行モータとの間で電力を伝送する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電力伝送装置と、
を備えることを特徴とする電動車両である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バスバーをゴム部材の第1面と第2面とで挟んで磁性体クランプ部品をバスバーに固定できる。さらに、第1磁性体と第2磁性体との間の貫通孔の内周面のうち、第1方向に対向する面とゴム部材との間に、間隙が形成される。この間隙により、ゴム部材でバスバーを挟み込んだときの反発力が、第1磁性体と第2磁性体とにこれらを開く方向の力として伝わらない。これにより、第1磁性体と第2磁性体とが開いてしまうことが抑制される。したがって、電磁ノイズの吸収特性の低下を抑制しつつバスバーへの固定が可能な磁性体クランプ部品を備えた電力伝送装置及び電動車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る電力伝送装置及び電動車両を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る磁性体クランプ部品を示す分解斜視図である。
【
図4】第1ゴム部材と第2ゴム部材との間の間隙の寸法(A)とバスバーの寸法(B)とを示す図である。
【
図5】バスバーに装着された状態の磁性体クランプ部品を示す縦断面図である。
【
図6】バスバーに装着された状態の磁性体クランプ部品を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電力伝送装置及び電動車両を示すブロック図である。
【0017】
本発明の実施形態に係る電動車両1は、EV(Electric Vehicle)又はHEV(Hybrid Electric Vehicle)等である。電動車両1は、駆動輪2と、駆動輪2を駆動する走行モータ11と、走行用の電力を蓄積する二次電池13と、二次電池13の電力を伝送する電力伝送装置20と、電力伝送の制御を行う制御部15とを備える。電力伝送装置20は、インバータ21、車載充電器22、バスバー23、磁性体クランプ部品30、30及び電力経路を開閉するリレー24、25等を備える。
【0018】
二次電池13は、例えばリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などであり、走行用に大きな電力を供給する。インバータ21は、力行時、二次電池13の直流電力を交流電力に変換して走行モータ11に出力し、回生時、走行モータ11の回生電力を直流電力に変換して二次電池13へ戻す。車載充電器22は、電動車両1の外部の電源に接続されて二次電池13へ充電電流を出力する。制御部15は、1個又は複数個のECU(Electronic Control Unit)を含み、ドライバーの運転操作に応じてインバータ21を駆動し、また、車載充電器22を介した二次電池13の充電制御を行う。
【0019】
バスバー23は、剛性を有し、電力の伝送経路に沿った方向に長い、板形状の導電体である。バスバー23は、二次電池13とその他の電力ユニット(インバータ21、車載充電器22など)との間で電力を伝送する。なお、「バスバー」とは、本来、電流を複数の導体に分配する母線の意味を含むが、本明細書において「バスバー」とは、大電流を効率的に流すために板形状に構成された導電体であれば、電流を分配する機能を有さないものも含むものとする。
【0020】
<磁性体クランプ部品>
図2は、実施形態に係る磁性体クランプ部品を示す分解斜視図である。
図3は、
図2の保持器を示す斜視図である。
図2では、保持器36の第1枠36Aと第2枠36Bとを分断して示しているが、第1枠36A及び第2枠36Bは、
図3に示すように一体化される。以下では、磁性体クランプ部品30がバスバー23を挟み込む方向(バスバー23の板面に垂直な方向)をX方向、バスバー23が延設される方向をZ方向、X方向とZ方向とに垂直な方向をY方向と呼ぶ。X方向、Y方向及びZ方向は互いに直交する。また、Z方向を上下方向として説明する場合がある。ただし、実施形態に示された上下方向は、磁性体クランプ部品30が実際に装着された状態における上下方向と異なっていてもよい。X方向は、本発明に係る「第1方向」の一例に相当する。Z方向は、本発明に係る「貫通方向」の一例に相当する。
【0021】
磁性体クランプ部品30は、バスバー23に装着され、バスバー23に伝わる電磁ノイズを除去する。磁性体クランプ部品30は、
図2に示すように、第1磁性体31、第2磁性体32、第1ゴム部材33、第2ゴム部材34及び保持器36を備える。第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34は、本発明に係る「ゴム部材」の一例に相当する。
【0022】
第1磁性体31及び第2磁性体32は、例えばフェライトなどの磁性体であり、それぞれ凹溝31a、32aと、各凹溝31a、32aの両側に位置する端面31b、32bとを有する。第1磁性体31及び第2磁性体32は、両者を組み合わせて、端面31bと端面32bとが対向して接触したときに、凹溝31a、32aが合体して貫通孔が形成される形状を有する。第1磁性体31及び第2磁性体32は、より具体的には、厚みを有する円筒殻を、円筒の中心軸を通る平面で二分割した形状を有する。第1磁性体31及び第2磁性体32は、同一形状である。
【0023】
なお、第1磁性体31及び第2磁性体32の形状は、互いを組み合わせたときに、これらの間に貫通孔が形成される形状であれば、どのような形状でもよい。例えば、第1磁性体31及び第2磁性体32を組み合わせたときの外周形状は、X-Y平面の断面で矩形、多角形、楕円など、様々な形状であってもよい。また、第1磁性体31及び第2磁性体32を組み合わせたときの内周形状は、X-Y平面の断面で矩形、多角形、楕円など、様々な形状であってもよい。第1磁性体31と第2磁性体32とは、互いに対称な形状であっても、非対称な形状であってもよい。第1磁性体31と第2磁性体32とを対称な形状とすると、これらを同一部品とすることができ、部品コストを低減できる。
【0024】
第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34は、弾性と高い摩擦係数とを有する樹脂(ゴム)であり、バスバー23を挟み込んで、挟み込む力によってバスバー23に固定される。第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34は、第1磁性体31及び第2磁性体32の凹溝31a、32aに収容可能な胴部33D、34Dと、胴部33D、34DよりもX-Y平面方向に広がった鍔部33c、34cとを有する。胴部33D、34Dには、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34が対向する側に、バスバー23の板面に接触する第1面33a及び第2面34aと、第1面33a及び第2面34aのY方向にある縁部を仕切る凸部33b、34bとを有する。第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34は、同一形状としてもよく、これにより形状の異なる部品点数を削減し、部品コストの低減が図られる。
【0025】
胴部33D、34Dは、第1磁性体31と第2磁性体32との間の貫通孔に収容可能な幅を有し、Z方向の寸法がこの貫通孔よりも長い。胴部33D、34Dは、第1磁性体31と第2磁性体32との間の貫通孔に一部が収容され、上端部と下端部とが貫通孔の外に配置される。胴部33D、34Dの上端部及び下端部は、本発明に係る「延設部」の一例に相当する。
【0026】
第1面33a及び第2面34aは、バスバー23の装着箇所の面形状に対応した形状を有し、本実施形態では平面形状である。バスバー23の形状及び大きさは、バスバー23を介して伝送される電力に応じて設計される。第1ゴム部材33の第1面33aは胴部33Dの一方の側に形成され、第2ゴム部材34の第2面34aは胴部34Dの一方の側に形成されるため、その形状の設計自由度が高く、容易にバスバー23の形状に対応させることができる。
【0027】
凸部33b、34bは、第1面33aと第2面34aとでバスバー23を挟んだときに、バスバー23の縁に沿ってバスバー23が相対的にY方向に移動するのを規制するストッパーとして機能する。具体的には、凸部33b、33bは、第1面33aのY方向の両方の縁部で、X方向に突出しかつZ方向に延設される。凸部34b、34bは、第2面34aのY方向の両方の縁部で、X方向に突出しかつZ方向に延設される。
【0028】
鍔部33c、34cは、胴部33D、34Dの上端部と下端部とで、X-Y平面方向に広がる。鍔部33c、34cは、第1磁性体31と第2磁性体32との間の貫通孔に進入不可な大きさを有する。鍔部33c、34cには、保持器36の凸部36hとの干渉を避ける切り欠き33e、34eが設けられている。第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34が上下又はX方向に反転して保持器36に保持されても、凸部36hと鍔部33c、34cが干渉しないよう、切欠き33e、34eは、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の上下及びY方向の両方に設けられている。
【0029】
保持器36は、
図3に示すように、ヒンジ部36fを介して開閉可能な第1枠36Aと第2枠36Bとを有する。保持器36は、第1磁性体31、第2磁性体32、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34を保持する。
【0030】
第1枠36Aは、外周カバー部36a、上カバー部36b、下カバー部36c、バネ36d及び係止部36g1を有する。第2枠36Bは、外周カバー部36i、上カバー部36j、下カバー部36k、バネ36l、被係止部36g2及び回転規制用の凸部36hを有する。
【0031】
第1枠36Aの外周カバー部36a、上カバー部36b及び下カバー部36cは、それぞれ第1磁性体31の外周面、上面及び下面を覆う。第2枠36Bの外周カバー部36i、上カバー部36j及び下カバー部36kは、それぞれ第2磁性体32の外周面、上面及び下面を覆う。ここで、外周面とは、第1磁性体31と第2磁性体32とを組み合わせて環状にしたときの外周面に相当する。
【0032】
上カバー部36b、36jの上方には、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34上側の鍔部33c、34cが配置され、下カバー部36c、36kの下方には、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の下側の鍔部33c、34cが配置される。
【0033】
上カバー部36b、36jの内周縁36e、36m、並びに、下カバー部36c、36kの内周縁36e、36mは、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の胴部33D、34Dに当接する位置まで張り出している。内周縁36e、36mには、上カバー部36b、36jの段差部と、下カバー部36c、36kの段差部とにより、高さの異なる内周縁36e1、36m1が含まれる。上カバー部36b、36jにおいて、段差部の内周縁36e1、36m1は、上側の内周縁36e、36mのその他の部分よりも下方に位置する。下カバー部36c、36kにおいて、段差部の内周縁36e1、36m1は、下側の内周縁36e、36mのその他の部分よりも上方に位置する。段差部の内周縁36e1、36m1は、磁性体クランプ部品30がバスバー23に装着されたときに、バスバー23の板面に対向する範囲に設けられている。内周縁36e、36e1、36m、36m1は、本発明に係る「当接部」の一例に相当する。
【0034】
第1枠36Aのバネ36d及び第2枠36Bのバネ36lは、それぞれ第1磁性体31と第2磁性体32とをこれらが対向する方向に付勢する。バネ36d、36lは、外周カバー部36a、36iのうち、バスバー23の板面に対向する位置に設けられている。
【0035】
第1枠36Aの係止部36g1及び第2枠36Bの被係止部36g2は、ヒンジ部36fを回動中心として見たときの回動端に設けられ、互いに係止可能及び係止を解除可能に構成される。
【0036】
凸部36hは、第2枠36Bの上カバー部36jの上部に設けられ、バスバー23の曲り箇所あるいはバスバー23の近傍の部材に係止され、保持器36、第1磁性体31及び第2磁性体32が回転してしまうことを規制する。凸部36hは、第2ゴム部材34のいずれかの切欠き34eに配置され、第2ゴム部材34の鍔部34cと干渉しない。
【0037】
<要部寸法の比較>
続いて、第1枠36Aと第2枠36Bとがこれら単体で閉じた状態における保持器36の要部寸法、第1磁性体31と第2磁性体32とがこれら単体で組み合わされ、これらの間に貫通孔が形成された状態の要部寸法を、比較対象として説明する。さらに、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とがこれら単体でバスバー23を挟み込んだ状態の要部寸法を比較対象として説明する。以下、これらの各状態を「比較用の状態」と呼ぶ。
【0038】
上記の比較用の状態において、保持器36の内周縁36e、36e1、36m、36m1が囲む範囲における任意な方向(X-Y平面方向)の幅寸は、第1ゴム部材33の胴部33D及び第2ゴム部材34の胴部34Dの対応する部位の総幅寸よりも小さい。本実施形態では、一例として、少なくともX方向、X方向に近い範囲、又はこれら両方で、これらの幅寸の関係を満たしている。これらの幅寸の関係は、Z方向においては、内周縁36e、36e1、36m、36m1が位置する高さにおいて成り立っていればよい。
【0039】
この幅寸の関係により、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とが保持器36に保持された状態で、保持器36が閉じられることで、保持器36の内周縁36e、36e1、36m、36m1の当接により、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34を圧縮できる。
【0040】
上記の比較用の状態において、第1磁性体31と第2磁性体32との間の貫通孔の所定方向(X-Y平面内の所定方向)の幅寸は、第1ゴム部材33の胴部33D及び第2ゴム部材34の胴部34Dの対応する部分の総幅寸よりも大きい。貫通孔は、凹溝31a、32aが合体した構成である。本実施形態では、例えば、X-Y平面内の全方向において、これらの幅寸の関係を満たしているが、Y方向及びその近傍では、この関係を満たしていなくてもよい。また、本実施形態では、この幅寸の関係は、Z方向において、第1磁性体31及び第2磁性体32の上端から下端までの全ての高さにおいて成り立っている。しかし、ゴムの反発力が殆ど生じないような短い範囲で、この幅寸の関係が成り立っていなくてもよい。
【0041】
この幅寸の関係により、第1磁性体31と第2磁性体32とで、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34を挟んだときに、第1磁性体31及び第2磁性体32の内周面と、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の外周面との間に間隙を形成することができる。
図6の間隙g1を参照。
【0042】
続いて、バスバー23を挟み込んでないときの第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の間に形成される間隙の寸法と、バスバー23の寸法について説明する。
図4(A)は、第1ゴム部材と第2ゴム部材との間の間隙の寸法を説明する図であり、
図4(B)はバスバーの寸法を説明する図である。
【0043】
図4(A)に示すように、バスバー23を挟んでいない状態で、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とを合わせると、第1面33a、凸部33b、33b、第2面34a及び凸部34b、34bに囲まれる間隙が形成される。この間隙のX方向における幅L3は、バスバー23の厚みL13よりも小さい。また、この間隙のY方向における幅L4は、バスバー23の幅L14と同寸である。
【0044】
このような関係により、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とでバスバー23を挟み込んだときに、第1面33aと第2面34aとからバスバー23に加えられる面圧を大きくできる。
【0045】
<磁性体クランプ部品の装着>
バスバー23への装着前、保持器36の第1枠36Aには、第1磁性体31と第1ゴム部材33とが保持され、第2枠36Bには、第2磁性体32と第2ゴム部材34とが保持される。このとき、第1磁性体31は、凹溝31aが開放側を向いた姿勢で第1枠36Aに収容される。また、第1ゴム部材33は、第1面33aが開放側を向いた姿勢で第1枠36Aに保持される。ここで、開放側とは、第1枠36Aと第2枠36とが開いたときに開放される側、すなわち、第1枠36Aにおいては閉じたときに第2枠36Bがある側を意味し、第2枠36Bにおいては閉じたときに第1枠36Aがある側を意味する。第1ゴム部材33の上下の鍔部33cは、それぞれ上カバー部36bの上方と下カバー部36cの下方に配置され、鍔部33cと上カバー部36bとの摩擦又は鍔部33cと下カバー部36cとの摩擦によって、第1ゴム部材33は容易に滑り落ちない。保持器36の第2枠36B、第2磁性体32及び第2ゴム部材34との関係も同様である。
【0046】
なお、第1磁性体31と第1枠36Aとに、それぞれ互いに係り合う凹部と凸部とを設け、第1磁性体31と第1枠36Aとの相対的な回動を抑制し、かつ、第1磁性体31が第1枠36Aから容易に外れないように構成してもよい。第2磁性体32と第2枠36Bとにも、同様の構成を設けてもよい。
【0047】
上記の保持状態により、保持器36は、第1磁性体31、第2磁性体32、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34を、これらが容易に滑り落ちず、かつ、各配置がずれないように規制された状態で、第1枠36Aと第2枠36Bとを開閉できる。
【0048】
バスバー23への装着時、磁性体クランプ部品30は、バスバー23の板面に沿うように第1ゴム部材33の第1面33aと第2ゴム部材34の第2面34aとを対向させ、保持器36の第1枠36Aと第2枠36Bとが閉じられる。第1枠36Aと第2枠36Bとを閉じると、係止部36g1と被係止部36g2とが係止されて、閉じた状態が維持される。
【0049】
図5は、バスバーに装着された状態の磁性体クランプ部品を示す縦断面図である。
図6は、バスバーに装着された状態の磁性体クランプ部品を示す横断面図である。
【0050】
図5に示すように、保持器36が閉じて、磁性体クランプ部品30がバスバー23に装着されると、保持器36のバネ36d、36lから、第1磁性体31と第2磁性体32とに、これらが対向する向きの付勢力が加えられる。これにより、第1磁性体31の端面31bと第2磁性体32の端面32bとが対向した状態で接触する。
【0051】
また、保持器36が閉じて、磁性体クランプ部品30がバスバー23に装着されると、保持器36の内周縁36e、36e1、36m、36m1が、第1ゴム部材33の胴部33Dと第2ゴム部材34の胴部34Dとに接触し、圧力を加える。特に、内周縁36e、36e1、36m、36m1のうちX方向に対向する範囲からバスバー23へ向けた圧力が加えられる。これにより、第1ゴム部材33の第1面33aと第2ゴム部材34の第2面34aとがバスバー23の両板面に押し付けられ、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とがバスバー23に強固に固定される。さらに、段差部の内周縁36e1、36m1からは、高さが異なる位置から圧力が加えられるため、第1面33aと第2面34aとの広い範囲で面圧が生じる。また、
図4(A)の幅L3が
図4(B)の厚みL13よりも小さいことで、第1面33a、第2面34aのバスバー23の挟み込みが凸部33b、34bによって制限されない。したがって、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34のより強固な固定が実現される。
【0052】
第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34がバスバー23に固定されると、上下の鍔部33c、34cに挟まれた保持器36、並びに、保持器36の内側に収容された第1磁性体31及び第2磁性体32が、併せてバスバー23に固定される。
【0053】
要部寸法の比較の項目で説明したように、Z方向に垂直な断面(
図6)において、凹溝31a、32a(貫通孔)の内周面のうち、互いにX方向に対向する対向面間の長さL1が、バスバー23を挟み込んだ第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34のX方向の幅L2よりも長い。これにより、保持器36が閉じた状態で、第1磁性体31と第2磁性体32との間の貫通孔の内周面と、第1ゴム部材33の胴部33D及び第2ゴム部材34の胴部34Dの外周面との間には、間隙g1が設けられる。この間隙g1により、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34から、第1磁性体31及び第2磁性体32に、第1磁性体31及び第2磁性体32を引き離す方向に反発力が伝わることが抑制される。
【0054】
第1磁性体31と第2磁性体32とは、互いに対向する方向に、保持器36のバネ36d、36lから付勢力が加えられ、かつ、間隙g1があることで、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34から、引き離す方向の反発力が伝わらない。これらによって、第1磁性体31と第2磁性体32とはバスバー23を囲んで強く接触する。したがって、バスバー23を取り囲む環状の磁性体が構成され、第1磁性体31及び第2磁性体32の磁気特性、大きさ及び形状から決定される電磁ノイズの吸収特性が、低下することなく得られる。
【0055】
<実施形態効果>
以上のように、本実施形態の磁性体クランプ部品30によれば、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の少なくとも一部が、第1磁性体31及び第2磁性体32との間の貫通孔に配置される。そして、第1ゴム部材33の第1面33aと第2ゴム部材34の第2面34aとがバスバー23を挟み込み、磁性体クランプ部品30をバスバー23に固定することができる。第1磁性体31及び第2磁性体32との挟み込み方向と、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の挟み込み方向とがほぼ同一なので、これらの挟み込みを一緒に行うことができ、磁性体クランプ部品30の装着の作業性が向上する。
【0056】
一方、
図6に示すように、Z方向に垂直な断面において、第1磁性体31及び第2磁性体32の間の貫通孔の内周面のうち、互いにX方向に対向する対向面間の長さL1が、バスバー23を挟んだ第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34のX方向の幅L2よりも長い。これにより、これらの間に間隙g1が形成され、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の反発力が第1磁性体31及び第2磁性体32に作用して、第1磁性体31及び第2磁性体32が離間してしまうことが抑制される。したがって、電磁ノイズを吸収する特性の低下を抑制しつつ、磁性体クランプ部品30をバスバー23に装着することができる。
【0057】
さらに、本実施形態の磁性体クランプ部品30によれば、保持器36が、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とに当接してこれらを圧縮する内周縁36e、36e1、36m、36m1を備える。この圧縮により、磁性体クランプ部品30をバスバー23に強固に固定することができる。加えて、保持器36は、第1磁性体31と第2磁性体32とを押し付ける方向に付勢するバネ36d、36lを備える。これにより、第1磁性体31と第2磁性体32とを強く押し付け、これらが離間することをより抑制することができる。
【0058】
さらに、本実施形態の磁性体クランプ部品30によれば、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34は、胴部33D、34Dの一部が第1磁性体31及び第2磁性体32の凹溝31a、32aの外まで延設される。さらに、保持器36の内周縁36e、36e1、36m、36m1は、胴部33D、34Dの凹溝31a、32aから外に出た部分に当接される。したがって、単純な構造で、保持器36から第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34に圧縮力を加えることができ、保持器36、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の製造コストを低減できる。
【0059】
さらに、本実施形態の磁性体クランプ部品30によれば、第1ゴム部材33の鍔部33c及び第2ゴム部材34の鍔部34cが、保持器36の上カバー部36b、36jの上方と下カバー部36c、36kの下方にそれぞれ配置される。これにより、磁性体クランプ部品30をバスバー23に装着する際などに、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34が保持器36から容易に滑り落ちることを抑制でき、装着の作業性が向上する。
【0060】
さらに、本実施形態の磁性体クランプ部品30によれば、保持器36がヒンジ部36fを介して開閉可能に接続された第1枠36Aと第2枠36Bとを有し、第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とが別体に構成される。そして、第1枠36Aに第1磁性体31と第1ゴム部材33とが保持され、第2枠36Bに第2磁性体32と第2ゴム部材34とが保持される。このような構成により、保持器36の開閉の操作によって、磁性体クランプ部品30をバスバー23に装着することができ、装着の作業性が向上する。なお、本実施形態では、第1枠36Aと第2枠36Bとがヒンジ部36fを介して開閉可能な構成を示したが、例えば、ヒンジ部36fの代わりに、この部分にも係止部と被係止部とを設け、第1枠36Aと第2枠36Bとが分離可能に開閉可能な構成としてもよい。
【0061】
本実施形態の電力伝送装置20及び電動車両1によれば、第1磁性体31及び第2磁性体32との離間を抑制しつつバスバー23への固定が可能な磁性体クランプ部品30によって、バスバー23に伝わる電磁ノイズを所定の特性で吸収することができる。さらに、磁性体クランプ部品30をバスバー23へ強固に固定できる構成により、電力伝送装置20及び電動車両1に振動が生じても、磁性体クランプ部品30が変位することを抑制できる。変位が生じると、変位時の擦れ等により部品が劣化するが、変位が抑制されることで、磁性体クランプ部品30の耐久性及びその周囲の部品の耐久性を向上できる。また、変位が生じると、異音が発生する場合があるが、変位が抑制されることで、異音の発生を抑制できる。さらに、変位が抑制されるので、磁性体クランプ部品30を固定するための追加部品を削減でき、装着の作業性が向上し、電力伝送装置20及び電動車両1の製造工程において、磁性体クランプ部品30の装着工程の時間の短縮化を図れる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の上下に鍔部33c、34cを設けた例を示したが、鍔部33c、34cは上下の片方のみに設けてもよいし、いずれにも設けなくてもよい。また、本実施形態では、本発明に係るゴム部材として、別体に構成された第1ゴム部材33と第2ゴム部材34とを示したが、本発明に係るゴム部材は、バスバーを挟むことができるように開閉可能に一体化された構成であってもよい。また、上記実施形態では、保持器36が第1磁性体31及び第2磁性体32を覆う形態を示したが、保持器は、第1磁性体31及び第2磁性体32の保持及び付勢と、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の圧縮とができれば、様々な形態であってもよい。
【0063】
また、上記の実施形態では、第1磁性体31と第2磁性体32とが円筒殻を二分割した形状を有し、これに対応して、保持器36の外周形状、第1ゴム部材33及び第2ゴム部材34の外周形状を横断面で円形とした例を示した。しかし、本発明に係る第1磁性体と第2磁性体とは、例えば矩形状にバスバーを囲う形状としてもよいし、これに合わせて、保持器の外周形状及び第1ゴム部材と第2ゴム部材との外周形状を、横断面で矩形状としてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、電力伝送装置が電動車両に搭載された例を示したが、これに限定されず、電力伝送装置は様々な電力装置に搭載されてもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 電動車両
20 電力伝送装置
23 バスバー
30 磁性体クランプ部品
31 第1磁性体
32 第2磁性体
31a、32a 凹溝
33 第1ゴム部材
33a 第1面
34 第2ゴム部材
34a 第2面
33b、34b 凸部
33c、34c 鍔部
33D、34D 胴部
33e、34e 切欠き
36 保持器
36A 第1枠
36B 第2枠
36d、36l バネ
36e、36m、36e1、36m1 内周縁
36g1 係止部
36g2 被係止部
g1 間隙
L1 対向面間の長さ
L2 幅