IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

特許7105150非接触分光測定装置および非接触分光測定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】非接触分光測定装置および非接触分光測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/42 20060101AFI20220714BHJP
【FI】
G01J3/42 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018171633
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2019184560
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2018076888
(32)【優先日】2018-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】與儀 修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】土屋 広司
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-009440(JP,A)
【文献】特開2001-083009(JP,A)
【文献】特開2006-170996(JP,A)
【文献】特開2004-101194(JP,A)
【文献】特開2014-010093(JP,A)
【文献】特開2013-036888(JP,A)
【文献】特開2012-244277(JP,A)
【文献】特開2012-154628(JP,A)
【文献】特開2009-022653(JP,A)
【文献】特開昭63-068127(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0098713(US,A1)
【文献】特開2006-153770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - A61B 1/32
A61B 3/00 - A61B 3/18
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G03B 7/00 - G03B 7/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域の光を出力する光源と、
前記光源から測定対象物へ至る第1光路の途中に設けられ、前記光源から出力された光を入力して、特定偏光の光を前記測定対象物へ出力する第1偏光子と、
到達した光が結像される結像面と前記結像面上に設けられた光入射スリットとを含み、 前記測定対象物で生じた光のうち前記光入射スリットを通過して前記結像面に到達した光のスペクトルを取得する分光器と、
前記測定対象物から前記分光器へ至る第2光路の途中に設けられ、前記測定対象物で生じた光を入力して、前記特定偏光の光を除く光を前記分光器へ出力する第2偏光子と、
前記第2光路の途中であって前記第2偏光子の後段に設けられ、前記第2偏光子を経た光を入力して前記結像面上に結像するレンズと、
前記第2光路の途中であって前記レンズの後段に設けられ、前記光入射スリットへの光の入射の方向を制限する絞りと、
前記光源から出力された光を前記測定対象物に照射している期間に前記分光器が取得した第1スペクトルから、前記光源から出力される光を前記測定対象物に照射していない期間に前記分光器が取得した第2スペクトルを減算して、その減算結果として第3スペクトルを求め、前記第3スペクトルを前記光源の出力光スペクトルで除算した結果として第4スペクトルを求め、前記第4スペクトルまたは前記第4スペクトルを処理して得られた第5スペクトルに基づいて前記測定対象物を評価する演算部と、
を備える非接触分光測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記第4スペクトルを標準化処理して第5スペクトルを求め、この第5スペクトルに基づいて前記測定対象物を評価する、
請求項1に記載の非接触分光測定装置。
【請求項3】
前記第1光路および前記第2光路は、前記測定対象物に対して光が入出射する部分が共通の光路である、
請求項1または2に記載の非接触分光測定装置。
【請求項4】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、直線偏光の光を出力する偏光子である、
請求項1~3の何れか1項に記載の非接触分光測定装置。
【請求項5】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子である、
請求項1~3の何れか1項に記載の非接触分光測定装置。
【請求項6】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であり、前記共通の光路の途中に共通の偏光子として設けられている、
請求項3に記載の非接触分光測定装置。
【請求項7】
前記第2光路の途中に設けられ、前記測定対象物からの光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、前記第1分岐光を前記分光器へ出力するビームスプリッタと、
前記ビームスプリッタから出力された前記第2分岐光を受光して、前記測定対象物を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された前記測定対象物の画像を表示する表示部と、
を更に備える請求項1~6の何れか1項に記載の非接触分光測定装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記測定対象物の画像において、前記分光器が分光測定する範囲を表示する、
請求項7に記載の非接触分光測定装置。
【請求項9】
レーザ光を出力するレーザ光源と、
前記第2光路の途中に設けられ、前記測定対象物からの光を前記分光器へ出力するとともに、前記レーザ光源からのレーザ光を前記第2光路に沿って前記測定対象物へ出力するビームスプリッタと、
を更に備える請求項1~8の何れか1項に記載の非接触分光測定装置。
【請求項10】
前記第1光路を経て前記測定対象物に光が照射される範囲は視認可能なスポット形状である、
請求項1~9の何れか1項に記載の非接触分光測定装置。
【請求項11】
光源から測定対象物へ至る第1光路の途中に設けられた第1偏光子により、前記光源から出力された広帯域の光を特定偏光の光として前記測定対象物に照射し、その照射期間に、前記測定対象物から分光器へ至る第2光路の途中に設けられた第2偏光子、レンズおよび絞りにより、前記測定対象物で生じた光のうち前記特定偏光の光を除いた光を前記分光器に入射させて、その入射した光の第1スペクトルを前記分光器により取得する第1スペクトル取得ステップと、
前記光源から出力される光を前記測定対象物に照射していない期間に、前記分光器に入射した光の第2スペクトルを前記分光器により取得する第2スペクトル取得ステップと、
前記第1スペクトルから前記第2スペクトルを減算した結果として第3スペクトルを求める減算ステップと、
前記第3スペクトルを前記光源の出力光スペクトルで除算した結果として第4スペクトルを求める除算ステップと、
前記第4スペクトルまたは前記第4スペクトルを処理して得られた第5スペクトルに基づいて前記測定対象物を評価する評価ステップと、
を備え
前記分光器が、到達した光が結像される結像面と前記結像面上に設けられた光入射スリットとを含み、前記測定対象物で生じた光のうち前記光入射スリットを通過して前記結像面に到達した光のスペクトルを取得し、
前記レンズが、前記第2光路の途中であって前記第2偏光子の後段に設けられ、前記第2偏光子を経た光を入力して前記結像面上に結像し、
前記絞りが、前記第2光路の途中であって前記レンズの後段に設けられ、前記光入射スリットへの光の入射の方向を制限する
非接触分光測定方法。
【請求項12】
前記第4スペクトルを標準化処理して第5スペクトルを求める標準化ステップを更に備え、
前記評価ステップにおいて、この第5スペクトルに基づいて前記測定対象物を評価する、
請求項11に記載の非接触分光測定方法。
【請求項13】
前記第1光路および前記第2光路は、前記測定対象物に対して光が入出射する部分が共通の光路である、
請求項11または12に記載の非接触分光測定方法。
【請求項14】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、直線偏光の光を出力する偏光子である、
請求項11~13の何れか1項に記載の非接触分光測定方法。
【請求項15】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子である、
請求項11~13の何れか1項に記載の非接触分光測定方法。
【請求項16】
前記第1偏光子および前記第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であり、前記共通の光路の途中に共通の偏光子として設けられている、
請求項13に記載の非接触分光測定方法。
【請求項17】
前記第2光路の途中に設けられたビームスプリッタにより、前記測定対象物からの光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、前記第1分岐光を前記分光器へ出力するとともに、前記第2分岐光を撮像部へ出力し、
前記第2分岐光を受光した前記撮像部により前記測定対象物を撮像し、
前記撮像部により撮像された前記測定対象物の画像を表示部により表示する、
請求項11~16の何れか1項に記載の非接触分光測定方法。
【請求項18】
前記表示部により、前記測定対象物の画像において、前記分光器が分光測定する範囲を表示する、
請求項17に記載の非接触分光測定方法。
【請求項19】
前記第2光路の途中に設けられたビームスプリッタにより、前記測定対象物からの光を前記分光器へ出力するとともに、レーザ光源からのレーザ光を前記第2光路に沿って前記測定対象物へ出力する、
請求項11~18の何れか1項に記載の非接触分光測定方法。
【請求項20】
前記第1光路を経て前記測定対象物に光が照射される範囲は視認可能なスポット形状である、
請求項11~19の何れか1項に記載の非接触分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触で分光測定を行う装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に光を照射した際に該測定対象物で生じる光のスペクトルを分光器により取得することで、このスペクトルに基づいて該測定対象物を評価することができる。このような分光測定の対象物としては様々なものがある。非特許文献1には、分光測定により、果実の糖度、米の食味、牛肉の脂肪、魚の脂肪、飼料の栄養成分、建材の含有成分、等を非破壊で評価することができると記載されている。
【0003】
例えば、農産物の含有成分を非破壊の分光測定により評価することができれば、その農産物の品質の管理が容易となり、また、その農産物の適切な収穫時期を明確化することができて、農産物の品質向上および生産効率改善が期待される。食品を測定対象物とする場合等には、非破壊で分光測定することに加えて、測定対象物の汚染を回避するために非接触で分光測定することが重要である。
【0004】
非破壊かつ非接触で分光測定することができる装置の発明が特許文献1に記載されている。この文献に記載された非接触分光測定装置は、複数の特定波長それぞれにおいて、植物により反射された太陽光の強度を測定するとともに、直接入射した太陽光の強度を測定して、前者の強度を後者の強度で補正する。そして、この非接触分光測定装置は、複数の特定波長それぞれにおける補正後の強度に基づいて植物の生育状況を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4243014号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】大倉力、「日常生活に生きる近赤外分光技術」、応用物理、第87巻、第1号、第6頁~第10頁(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明を含む従来の分光測定技術では、取得されるスペクトルは非接触分光測定装置と測定対象物との間の光学系の設定に依存し、測定対象物を適正に評価することは困難である。このことについては、非特許文献1に、「観察されるスペクトルは試料光学系の配置により影響を受ける」と記載され、「屈折・散乱そして表面反射は物質情報を反映していない」と記載され、また、光学系について「鏡面反射を回避する配置を選択する」ことが重要である旨が記載されている。
【0008】
一方、小型で可搬性を有し現場での分光測定が容易な非接触分光測定装置が求められている。しかし、このような非接触分光測定装置と測定対象物との間の光学系を適切に設定することは容易でないので、測定対象物を適正に評価することは更に困難である。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、測定対象物を適正に評価することが容易な非接触分光測定装置および非接触分光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の非接触分光測定装置は、(1) 広帯域の光を出力する光源と、(2) 光源から測定対象物へ至る第1光路の途中に設けられ、光源から出力された光を入力して、特定偏光の光を測定対象物へ出力する第1偏光子と、(3) 測定対象物で生じた光のうち到達した光のスペクトルを取得する分光器と、(4) 測定対象物から分光器へ至る第2光路の途中に設けられ、測定対象物で生じた光を入力して、特定偏光の光を除く光を分光器へ出力する第2偏光子と、(5) 光源から出力された光を測定対象物に照射している期間に分光器が取得した第1スペクトルから、光源から出力される光を測定対象物に照射していない期間に分光器が取得した第2スペクトルを減算して、その減算結果として第3スペクトルを求め、第3スペクトルを光源の出力光スペクトルで除算した結果として第4スペクトルを求め、第4スペクトルまたは第4スペクトルを処理して得られた第5スペクトルに基づいて測定対象物を評価する演算部と、を備える。演算部は、第4スペクトルを標準化処理して第5スペクトルを求め、この第5スペクトルに基づいて測定対象物を評価するのが好適である。
【0011】
本発明の非接触分光測定装置では、第1光路および第2光路は、測定対象物に対して光が入出射する部分が共通の光路であるのが好適である。第1偏光子および第2偏光子は、直線偏光の光を出力する偏光子であってもよい。第1偏光子および第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であってもよい。また、第1偏光子および第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であり、共通の光路の途中に共通の偏光子として設けられていてもよい。
【0012】
本発明の非接触分光測定装置は、(1) 第2光路の途中に設けられ、測定対象物からの光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、第1分岐光を分光器へ出力するビームスプリッタと、(2) ビームスプリッタから出力された第2分岐光を受光して、測定対象物を撮像する撮像部と、(3) 撮像部により撮像された測定対象物の画像を表示する表示部と、を更に備えるのが好適である。表示部は、測定対象物の画像において、分光器が分光測定する範囲を表示するのが好適である。本発明の非接触分光測定装置は、(1) レーザ光を出力するレーザ光源と、(2) 第2光路の途中に設けられ、測定対象物からの光を分光器へ出力するとともに、レーザ光源からのレーザ光を第2光路に沿って測定対象物へ出力するビームスプリッタと、を更に備えるのが好適である。また、第1光路を経て測定対象物に光が照射される範囲は視認可能なスポット形状であるのが好適である。
【0013】
本発明の非接触分光測定方法は、(1) 光源から測定対象物へ至る第1光路の途中に設けられた第1偏光子により、光源から出力された広帯域の光を特定偏光の光として測定対象物に照射し、その照射期間に、測定対象物から分光器へ至る第2光路の途中に設けられた第2偏光子により、測定対象物で生じた光のうち特定偏光の光を除いた光を分光器に入射させて、その入射した光の第1スペクトルを分光器により取得する第1スペクトル取得ステップと、(2) 光源から出力される光を測定対象物に照射していない期間に、分光器に入射した光の第2スペクトルを分光器により取得する第2スペクトル取得ステップと、(3) 第1スペクトルから第2スペクトルを減算した結果として第3スペクトルを求める減算ステップと、(4) 第3スペクトルを光源の出力光スペクトルで除算した結果として第4スペクトルを求める除算ステップと、(5) 第4スペクトルまたは第4スペクトルを処理して得られた第5スペクトルに基づいて測定対象物を評価する評価ステップと、を備える。本発明の非接触分光測定方法は、第4スペクトルを標準化処理して第5スペクトルを求める標準化ステップを更に備え、評価ステップにおいて、この第5スペクトルに基づいて測定対象物を評価するのが好適である。
【0014】
本発明の非接触分光測定方法では、第1光路および第2光路は、測定対象物に対して光が入出射する部分が共通の光路であるのが好適である。第1偏光子および第2偏光子は、直線偏光の光を出力する偏光子であってもよい。第1偏光子および第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であってもよい。また、第1偏光子および第2偏光子は、円偏光の光を出力する偏光子であり、共通の光路の途中に共通の偏光子として設けられていてもよい。
【0015】
本発明の非接触分光測定方法は、第2光路の途中に設けられたビームスプリッタにより、測定対象物からの光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、第1分岐光を分光器へ出力するとともに、第2分岐光を撮像部へ出力し、第2分岐光を受光した撮像部により測定対象物を撮像し、撮像部により撮像された測定対象物の画像を表示部により表示するのが好適である。表示部により、測定対象物の画像において、分光器が分光測定する範囲を表示するのが好適である。本発明の非接触分光測定方法は、第2光路の途中に設けられたビームスプリッタにより、測定対象物からの光を分光器へ出力するとともに、レーザ光源からのレーザ光を第2光路に沿って測定対象物へ出力するのが好適である。また、第1光路を経て測定対象物に光が照射される範囲は視認可能なスポット形状であるのが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、測定対象物を適正に評価することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aの構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aの測定ヘッド2Aにおける光源10から分光器20へ至るまでの光学系を説明する図である。
図3図3は、第2実施形態の非接触分光測定装置1Bの構成を示す図である。
図4図4は、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cの構成を示す図である。
図5図5は、第4実施形態の非接触分光測定装置1Dの構成を示す図である。
図6図6は、第5実施形態の非接触分光測定装置1Eの構成を示す図である。
図7図7は、本実施形態の非接触分光測定方法のメインルーチンのフローチャートである。
図8図8は、本実施形態の非接触分光測定方法のサブルーチンのフローチャートである。
図9図9は、光源10の出力光スペクトルSp0を模式的に示す図である。
図10図10は、第1スペクトルSp1を模式的に示す図である。
図11図11は、第2スペクトルSp2を模式的に示す図である。
図12図12は、第3スペクトルSp3を模式的に示す図である。
図13図13は、第4スペクトルSp4を模式的に示す図である。
図14図14は、第5スペクトルSp5を模式的に示す図である。
図15図15は、分光器20における鉛直方向の指向性を示すグラフである。
図16図16は、分光器20における水平方向の指向性を示すグラフである。
図17図17は、第1スペクトル取得ステップSt11で取得された第1スペクトルSp1を示す図である。
図18図18は、第2スペクトル取得ステップSt12で取得された第2スペクトルSp2を示す図である。
図19図19は、第3スペクトル取得ステップSt13で取得された第3スペクトルSp3(を示す図である。
図20図20は、光源10の出力光スペクトルSp0および第3スペクトルSp3を示す図である。
図21図21は、第4スペクトル取得ステップSt14で取得された第4スペクトルSp4を示す図である。
図22図22は、16枚のコマツナの葉それぞれを測定対象物として第4スペクトル取得ステップSt14で取得された第4スペクトルSp4を示す図である。
図23図23は、16枚のコマツナの葉それぞれを測定対象物として第5スペクトル取得ステップSt15で取得された第5スペクトルSp5を示す図である。
図24図24は、第5スペクトルSp5に基づくSPAD推定値とSPAD計によるSPAD実測値との間の相関を示すグラフである。
図25図25は、周囲環境光源として蛍光灯を用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。
図26図26は、周囲環境光源としてキセノンランプを用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。
図27図27は、周囲環境光源として赤色灯を用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。
図28図28は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第3スペクトルSp3を示す図である。
図29図29は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第3スペクトルSp3に対してSNV補正による標準化処理をして得られたスペクトルを示す図である。
図30図30は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第2スペクトルSp2を示す図である。
図31図31は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第2スペクトルSp2に対してSNV補正による標準化処理をして得られたスペクトルを示す図である。
図32図32は、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fの構成を示す図である。
図33図33は、第7実施形態の非接触分光測定装置1Gの構成を示す図である。
図34図34は、第8実施形態の非接触分光測定装置1Hの構成を示す図である。
図35図35は、第9実施形態の非接触分光測定装置1Iの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
先ず、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aについて説明する。図1は、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Aは、測定ヘッド2Aおよび制御装置3を備える。測定ヘッド2Aは、光源10、分光器20、撮像部30、第1偏光子41、第2偏光子42、シャッタ51、ビームスプリッタ52、レンズ54および絞り55を備える。図2は、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aの測定ヘッド2Aにおける光源10から分光器20へ至るまでの光学系を説明する図である。なお、図2では、シャッタ51およびビームスプリッタ52の図示が省略されている。
【0020】
光源10は、広帯域の光を出力する。光源10としては、分光測定の対象である測定対象物Saおよび分光測定による評価項目などに応じた波長帯域の光を出力するものが用いられる。光源10の出力波長帯域は、赤外域または可視域を含んでいてもよく、また、紫外域を含んでいてもよい。光源10は、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ、LED(Light Emitting Diode)、蛍光灯、放電灯などであってもよい。また、光源10は、例えば秒単位で点灯/消灯を繰り返すことができるものであってもよく、短時間に高強度の光を放つストロボ動作をすることができるもの(例えば、キセノンフラッシュ光源、一眼レフカメラ用のフラッシュランプ、コンパクトカメラ用のLEDフラッシュランプ、等)であってもよい。
【0021】
第1偏光子41およびシャッタ51は、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路の途中に設けられている。第1偏光子41は、光源10から出力された光を入力して、特定偏光(特定方向の直線偏光または特定回転方向の円偏光)の光を測定対象物Saへ出力する。シャッタ51は、光源10から出力された光の測定対象物Saへの照射/非照射を制御する。シャッタ51は、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路に対する遮蔽板の挿入/待避により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。また、シャッタ51は、第1光路上に配置された液晶パネルの光の透過/遮断により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。シャッタ51を設けることなく、光源10からの光の出射/非出射により、測定対象物Saへの光の照射/非照射を制御してもよい。また、短い周期(例えば数十ms~数百ms)で測定対象物Saへの光の照射/非照射を複数回繰り返すことで、日照などの周囲環境光の短時間の変化に追随できるようにしてもよく、この場合、照射時間および非照射時間それぞれを例えば100msとしてよい。
【0022】
第2偏光子42、レンズ54および絞り55は、測定対象物Saから分光器20へ至る第2光路の途中に設けられている。第2偏光子42は、測定対象物Saで生じた光を入力して、上記特定偏光の光を除く光を分光器20へ出力する。レンズ54は、測定対象物Saの光照射領域で生じ第2偏光子42を経た光を入力して、その光照射領域の像を結像面22上に結像する。分光器20の光入射スリット21は結像面22上にある。絞り55は、レンズ54の後段に設けられ、分光器20の光入射スリット21への光の入射の方向(指向性)を制限する。
【0023】
レンズ54の焦点距離および絞り55の開口径を適切に選択することにより、レンズ54の過焦点距離の1/2より遠くに測定対象物Sbが位置する場合であっても、その測定対象物Sbの像が結像面22上に結像され得る。このことにより、測定対象物Saと装置との間の距離の設定の自由度を高めることができる。また、分光器20の光入射スリット21のサイズが小さいほど、分光器20による分光測定の範囲が狭まり、測定角θが狭く指向性が高い状態を実現することができる。
【0024】
分光器20は、測定対象物Saから到達した光のうち光入射スリット21を通過した光のスペクトルを取得する。分光器20は、光源10から出力される光の帯域において感度を有する。分光器20の分光可能な波長帯域は、光源10から出力される白色光の波長帯域に含まれるのが好適である。分光器20は、光源10から出力された光が測定対象物Saに照射されている期間に第1スペクトルを取得し、光源10から出力される光が測定対象物Saに照射されていない期間に第2スペクトルを取得する。
【0025】
分光器20として、例えば浜松ホトニクス株式会社製のマイクロ分光器C12666MAまたはC12880MAが好適に用いられる。これらのマイクロ分光器は、光入射スリット、グレーティングおよびCMOSリニアイメージセンサをMOEMS(Micro Opto Electro Mechanical Systems)技術により一体に組み込んだものであり、サイズが W20.1 x D12.5 x H10.1 mm という小型であるので、可搬性を有する非接触分光測定装置1Aを構成する上で好適である。
【0026】
ビームスプリッタ52は、第2偏光子42からレンズ54へ至る光路の途中に設けられている。ビームスプリッタ52は、第2偏光子42から出力された光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、第1分岐光を分光器20へ出力し、第2分岐光を撮像部30へ出力する。撮像部30は、ビームスプリッタ52から出力された第2分岐光を受光して、測定対象物Saを撮像して、その撮像により得られた画像データを出力する。撮像部30は、光源10から出力される光の帯域において感度を有する。撮像部30は、CCDカメラであってもよいし、CMOSカメラであってもよい。
【0027】
制御装置3は、測定ヘッド2Aと電気的に接続されている。制御装置3は、測定ヘッド2Aの動作(例えば、測定対象物Saへの光の照射/非照射、分光器20によるスペクトル取得、撮像部30による撮像)を制御する。制御装置3は、撮像部30から出力される画像データを入力して、撮像部30により撮像された測定対象物Saの画像を表示する表示部3aを含む。また、制御装置3は、分光器20により取得された第1スペクトルおよび第2スペクトルを入力して、それらのスペクトルに基づいて所定の演算(後述)を行う演算部として用いられる。制御装置3としては、パーソナルコンピュータ(PC)が用いられるが、小型で可搬性を有するノートPCまたはタブレットPCなどが用いられるのが好適である。
【0028】
第1偏光子41は、光源10から出力された広帯域の白色光(一般に非偏光の光)のうち特定偏光(特定方向の直線偏光または特定回転方向の円偏光)の光を出力する。これに対して、第2偏光子42は、測定対象物Saで生じた光のうち該特定偏光の光を除く光を出力する。すなわち、第2偏光子42は、光源10から出力され第1偏光子41により特定偏光とされて測定対象物Saに照射された光のうち、測定対象物Saの表面で反射された特定偏光を維持する光を選択的に遮断し、また、測定対象物Saの内部における光吸収を反映した拡散反射光(一般に非偏光の光)のうち特定偏光を維持する光を選択的に遮断し、他の偏光成分の光を選択的に透過させる。第2偏光子42から出力される光は、測定対象物Saの内部における光吸収を反映した拡散反射光のうち特定偏光の光を除く光である。このような拡散反射光が分光器20および撮像部30それぞれにより受光される。
【0029】
第1偏光子41および第2偏光子42は、直線偏光の光を出力する偏光子であってよい。この場合、第1偏光子41および第2偏光子42は、各々が出力する直線偏光の偏光方位が互いに直交するよう配置される。
【0030】
第1偏光子41および第2偏光子42は、円偏光の光を出力する偏光子であってもよい。この場合、第1偏光子41および第2偏光子42は、互いに同じ回転方位の円偏光の光を出力する。一般に、このような偏光子は、直線偏光フィルタ層と1/4波長板層とが積層された構造を有する。第1偏光子41の直線偏光フィルタ層と第2偏光子42の直線偏光フィルタ層とは、各々が出力する直線偏光の偏光方位が互いに同じであってよい。光源10から出力される広帯域の白色光は、第1偏光子41の直線偏光フィルタ層を通過して特定の直線偏光状態となった後、第1偏光子41の1/4波長板層を通過して左回転および右回転の何れかの円偏光状態となる。第1偏光子41から出力された円偏光の光が測定対象物Saに照射されたとき、その測定対象物Saの表面で反射された光は、照射光とは逆方向の回転方位の円偏光状態となるから、第2偏光子42の1/4波長板層により直線偏光となると、第2偏光子42の直線偏光フィルタ層により遮断される。したがって、第2偏光子42から出力される光は、測定対象物Saの内部における光吸収を反映した拡散反射光のうち特定偏光の光を除く光である。
【0031】
光源10から出力された光が測定対象物Saへ照射される方向(測定対象物Saにおける第1光路の方向)と、測定対象物Saで生じた光が測定対象物Saから分光器20および撮像部30へ出射される方向(測定対象物Saにおける第2光路の方向)とがなす角度を、αとする。この角度αは可変であるのが好適である。測定対象物Saまでの距離に応じて角度αを適切に調整することにより、光源10からの光が測定対象物Saにおいて照射される範囲(照射範囲Ra)が、分光器20の受光範囲および撮像部30の撮像範囲と重なるように設定することができる。
【0032】
光源10から第1光路を経て測定対象物Saに光が照射される範囲(照射範囲Ra)は視認可能なスポット形状であるのが好適である。また、照射範囲Raは狭いほど好適である。したがって、光源10として、出力光が可視光を含み、できるかぎり点光源と見做すことができるものを用いて、輪郭が明瞭である照射範囲Raを照射光学系により形成するのが好適である。
【0033】
また、制御装置3の表示部3aは、撮像部30により撮像された測定対象物Saの画像の表示に加えて、その測定対象物Saの画像において、分光器20が分光測定する範囲(分光可能範囲Rb)を表示するのが好適である。このようにすることで、測定対象物Saのうちの所望の範囲を分光測定することが容易となる。
【0034】
次に、第2実施形態の非接触分光測定装置1Bについて説明する。図3は、第2実施形態の非接触分光測定装置1Bの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Bは、測定ヘッド2Bおよび制御装置3を備える。測定ヘッド2Bは、光源10、分光器20、第1偏光子41、第2偏光子42、シャッタ51、ビームスプリッタ52、レンズ54、絞り55およびビームダンパ56を備える。以下では、第1実施形態の非接触分光測定装置1Aの構成と相違する点について主に説明する。
【0035】
第2実施形態における測定ヘッド2Bでは、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路と、測定対象物Saから分光器20へ至る第2光路とは、測定対象物Saに対して光が入出射する部分(測定対象物Saとビームスプリッタ52との間の光路の部分)が共通の光路となっている。
【0036】
第1偏光子41およびシャッタ51は、光源10とビームスプリッタ52との間の光路上に配置されている。第2偏光子42は、ビームスプリッタ52とレンズ54との間の光路上に配置されている。第1偏光子41および第2偏光子42は、直線偏光の光を出力する偏光子であってよいし、円偏光の光を出力する偏光子であってもよい。
【0037】
光源10から出力された広帯域の白色光は、第1偏光子41により特定偏光とされ、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ52に入力される。光源10からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52を透過して、測定対象物Saへ照射される。このとき、光源10からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52で反射されるが、その反射光はビームダンパ56により吸収される。また、測定対象物Saで生じた光は、ビームスプリッタ52で反射されて分光器20へ出力される。
【0038】
第2実施形態の非接触分光測定装置1Bは、第1光路および第2光路において測定対象物Saに対して光が入出射する部分が共通の光路となっていることから、測定対象物Saまでの距離が変化しても、明瞭な輪郭を有するスポット照明で照射範囲Raを形成することができ、その範囲内の一点または一部範囲を確実に分光測定することができる。
【0039】
次に、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cについて説明する。図4は、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Cは、測定ヘッド2Cおよび制御装置3を備える。図4に示される第3実施形態における測定ヘッド2Cは、図3に示された第2実施形態における測定ヘッド2Bの構成に加えて、ビームスプリッタ53、ビームダンパ57および撮像部30を更に備える。以下では、第2実施形態の非接触分光測定装置1Bの構成と相違する点について主に説明する。
【0040】
第3実施形態における測定ヘッド2Cでは、ビームスプリッタ52に加えてビームスプリッタ53も設けられている。ビームスプリッタ53は、第1偏光子41およびシャッタ51とビームスプリッタ52との間の光路上に配置されている。
【0041】
第1偏光子41およびシャッタ51は、光源10とビームスプリッタ53との間の光路上に配置されている。第2偏光子42は、ビームスプリッタ52とレンズ54との間の光路上に配置されている。第1偏光子41および第2偏光子42は、直線偏光の光を出力する偏光子であってよいし、円偏光の光を出力する偏光子であってもよい。
【0042】
光源10から出力された広帯域の白色光は、第1偏光子41により特定偏光とされ、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ53に入力される。光源10からビームスプリッタ53に入力された光は、ビームスプリッタ53を透過して、ビームスプリッタ52へ出力される。このとき、光源10からビームスプリッタ53に入力された光の一部がビームスプリッタ53で反射されるが、その反射光はビームダンパ57により吸収される。
【0043】
ビームスプリッタ53からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52を透過して、測定対象物Saへ照射される。ビームスプリッタ53からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52で反射されるが、その反射光はビームダンパ56により吸収される。
【0044】
測定対象物Saで生じた光の一部はビームスプリッタ52で反射されて分光器20へ出力され、残部はビームスプリッタ52を透過してビームスプリッタ53へ出力される。ビームスプリッタ52からビームスプリッタ53に入力された光は、ビームスプリッタ53で反射されて撮像部30へ出力される。
【0045】
第3実施形態の非接触分光測定装置1Cも、第1光路および第2光路において測定対象物Saに対して光が入出射する部分が共通の光路となっていることから、測定対象物Saまでの距離が変化しても、明瞭な輪郭を有するスポット照明で照射範囲Raを形成することができ、その範囲内の一点または一部範囲を確実に分光測定することができる。また、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cは、撮像部30および表示部3aを備えていることにより、測定対象物Saの画像を表示することができ、その画像において分光可能範囲Rbを表示することができる。
【0046】
次に、第4実施形態の非接触分光測定装置1Dについて説明する。図5は、第4実施形態の非接触分光測定装置1Dの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Dは、測定ヘッド2Dおよび制御装置3を備える。図5に示される第4実施形態における測定ヘッド2Dは、図3に示された第2実施形態における測定ヘッド2Bの構成と比較すると、第1偏光子41および第2偏光子42に替えて偏光子40を備える点で相違する。以下では、第2実施形態の非接触分光測定装置1Bの構成と相違する点について主に説明する。
【0047】
第4実施形態における測定ヘッド2Dでは、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路と、測定対象物Saから分光器20へ至る第2光路とは、測定対象物Saに対して光が入出射する部分(測定対象物Saとビームスプリッタ52との間の光路の部分)が共通の光路となっている。偏光子40は、円偏光の光を出力する偏光子である。偏光子40は、第1偏光子41および第2偏光子42の双方を兼ねるものとして、その共通の光路に配置されている。
【0048】
光源10から出力された広帯域の白色光は、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ52に入力される。光源10からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52を透過し、偏光子40により特定の円偏光とされて、測定対象物Saへ照射される。このとき、光源10からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52で反射されるが、その反射光はビームダンパ56により吸収される。また、測定対象物Saで生じた光は、偏光子40により特定の円偏光が除去された後に、ビームスプリッタ52で反射されて分光器20へ出力される。
【0049】
次に、第5実施形態の非接触分光測定装置1Eについて説明する。図6は、第5実施形態の非接触分光測定装置1Eの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Eは、測定ヘッド2Eおよび制御装置3を備える。図6に示される第5実施形態における測定ヘッド2Eは、図4に示された第3実施形態における測定ヘッド2Cの構成と比較すると、第1偏光子41および第2偏光子42に替えて偏光子40を備える点で相違する。以下では、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cの構成と相違する点について主に説明する。
【0050】
第5実施形態における測定ヘッド2Eでは、光源10から測定対象物Saへ至る第1光路と、測定対象物Saから分光器20へ至る第2光路とは、測定対象物Saに対して光が入出射する部分(測定対象物Saとビームスプリッタ52との間の光路の部分)が共通の光路となっている。偏光子40は、円偏光の光を出力する偏光子である。偏光子40は、第1偏光子41および第2偏光子42の双方を兼ねるものとして、その共通の光路に配置されている。
【0051】
光源10から出力された広帯域の白色光は、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ53に入力される。光源10からビームスプリッタ53に入力された光は、ビームスプリッタ53を透過して、ビームスプリッタ52へ出力される。このとき、光源10からビームスプリッタ53に入力された光の一部がビームスプリッタ53で反射されるが、その反射光はビームダンパ57により吸収される。
【0052】
ビームスプリッタ53からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52を透過し、偏光子40により特定の円偏光とされて、測定対象物Saへ照射される。ビームスプリッタ53からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52で反射されるが、その反射光はビームダンパ56により吸収される。
【0053】
測定対象物Saで生じた光は、偏光子40により特定の円偏光が除去された後に、その一部はビームスプリッタ52で反射されて分光器20へ出力され、残部はビームスプリッタ52を透過してビームスプリッタ53へ出力される。ビームスプリッタ52からビームスプリッタ53に入力された光は、ビームスプリッタ53で反射されて撮像部30へ出力される。
【0054】
次に、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fについて説明する。図32は、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Fは、測定ヘッド2Fおよび制御装置3を備える。図32に示される第6実施形態における測定ヘッド2Fは、図4に示された第3実施形態における測定ヘッド2Cの構成と比較すると、光源10、分光器20および撮像部30の間の光学的配置関係の点で相違する。以下では、第3実施形態の非接触分光測定装置1Cの構成と相違する点について主に説明する。
【0055】
第6実施形態における測定ヘッド2Fでは、撮像部30と測定対象物Saとの間の光路にビームスプリッタ52,53が設けられている。ビームスプリッタ52,53のうち測定対象物Saに近い位置に設けられているビームスプリッタ52は、光源10から出力されて第1偏光子41を透過した光を測定対象物Saへ向けて反射させ、また、測定対象物Saから到達した光を第2偏光子42へ向けて透過させる。ビームスプリッタ52,53のうち撮像部30に近い位置に設けられているビームスプリッタ53は、ビームスプリッタ52から第2偏光子42を経て到達した光を2分岐して、一方の分岐光を分光器20へ出力し、他方の分岐光を撮像部30へ出力する。
【0056】
光源10から出力された広帯域の白色光は、第1偏光子41により特定偏光とされ、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ52に入力される。光源10からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52で反射されて、測定対象物Saに照射される。このとき、光源10からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52を透過するが、その透過光はビームダンパ56により吸収される。
【0057】
測定対象物Saで生じてビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52および第2偏光子42を経て、ビームスプリッタ53に入力される。測定対象物Saからビームスプリッタ53に入力された光の一部はビームスプリッタ53で反射されて分光器20へ出力され、残部はビームスプリッタ53を透過して撮像部30へ出力される。
【0058】
第6実施形態では、光源10から出力された光が測定対象物Saへ照射されるまでに通過するビームスプリッタが1つのみであるので、測定対象物Saへ照射されるまでの光の減衰を小さくすることができる。したがって、低光量の光源10を用いることができ、装置の消費電力低減、小型化および可搬性向上が可能となる。
【0059】
次に、第7実施形態の非接触分光測定装置1Gについて説明する。図33は、第7実施形態の非接触分光測定装置1Gの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Gは、測定ヘッド2Gおよび制御装置3を備える。図33に示される第7実施形態における測定ヘッド2Gは、図32に示された第6実施形態における測定ヘッド2Fの構成と比較すると、第1偏光子41および第2偏光子42に替えて偏光子40を備える点で相違する。以下では、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fの構成と相違する点について主に説明する。
【0060】
第7実施形態における測定ヘッド2Gでは、ビームスプリッタ52と測定対象物Saとの間の光路上に偏光子40が配置されている。偏光子40は、円偏光の光を出力する偏光子であり、第1偏光子41および第2偏光子42の双方を兼ねる。
【0061】
光源10から出力された広帯域の白色光は、シャッタ51を通過して、ビームスプリッタ52に入力される。光源10からビームスプリッタ52に入力された光は、ビームスプリッタ52で反射され、偏光子40により特定の円偏光とされて、測定対象物Saに照射される。光源10からビームスプリッタ52に入力された光の一部がビームスプリッタ52を透過するが、その透過光はビームダンパ56により吸収される。
【0062】
測定対象物Saで生じた光は、偏光子40により特定の円偏光が除去された後に、ビームスプリッタ52を経てビームスプリッタ53に入力される。測定対象物Saからビームスプリッタ53に入力された光の一部はビームスプリッタ53で反射されて分光器20へ出力され、残部はビームスプリッタ53を透過して撮像部30へ出力される。
【0063】
第7実施形態でも、光源10から出力された光が測定対象物Saへ照射されるまでに通過するビームスプリッタが1つのみであるので、測定対象物Saへ照射されるまでの光の減衰を小さくすることができる。したがって、低光量の光源10を用いることができ、装置の消費電力低減、小型化および可搬性向上が可能となる。
【0064】
次に、第8実施形態の非接触分光測定装置1Hについて説明する。図34は、第8実施形態の非接触分光測定装置1Hの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Hは、測定ヘッド2Hおよび制御装置3を備える。図34に示される第8実施形態における測定ヘッド2Hは、図32に示された第6実施形態における測定ヘッド2Fの構成と比較すると、ビームスプリッタ53に対する分光器20および撮像部30の配置の点で相違する。以下では、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fの構成と相違する点について主に説明する。
【0065】
第6実施形態における測定ヘッド2Fでは、測定対象物Saからビームスプリッタ53に入力された光の一部はビームスプリッタ53で反射されて分光器20へ出力され、残部はビームスプリッタ53を透過して撮像部30へ出力される。これに対して、第8実施形態における測定ヘッド2Hでは、測定対象物Saからビームスプリッタ53に入力された光の一部はビームスプリッタ53で反射されて撮像部30へ出力され、残部はビームスプリッタ53を透過して分光器20へ出力される。レンズ54および絞り55は、ビームスプリッタ53と分光器20との間に設けられている。
【0066】
このように構成される第8実施形態の非接触分光測定装置1Hも、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fと同様の効果を奏する。なお、第1実施形態(図1)および第7実施形態(図33)の構成においても、ビームスプリッタに対する分光器20および撮像部30の配置の変更が可能である。
【0067】
次に、第9実施形態の非接触分光測定装置1Iについて説明する。図35は、第9実施形態の非接触分光測定装置1Iの構成を示す図である。非接触分光測定装置1Iは、測定ヘッド2Iおよび制御装置3を備える。図35に示される第9実施形態における測定ヘッド2Iは、図32に示された第6実施形態における測定ヘッド2Fの構成と比較すると、撮像部30に替えてレーザ光源60を備える点で相違し、ビームダンパ57を更に備える点で相違する。以下では、第6実施形態の非接触分光測定装置1Fの構成と相違する点について主に説明する。
【0068】
レーザ光源60はレーザ光を出力する。小型化および可搬性向上の点で、レーザ光源60はレーザダイオードであるのが好適である。レーザ光の波長は、可視域であり、測定対象物Saの色に応じて適切に選択される。例えば、測定対象物Saが緑色であれば、レーザ光の波長は赤色(例えば635nm)であるのが好適である。
【0069】
測定対象物Saから第2光路に沿ってビームスプリッタ53に入力された光の一部はビームスプリッタ53で反射されて分光器20へ出力される。レーザ光源60からビームスプリッタ53に入力されたレーザ光の一部は、ビームスプリッタ53を透過して第2光路に沿って測定対象物Saへ出力され、残部はビームスプリッタ53で反射されてビームダンパ57により吸収される。
【0070】
測定対象物Saにおけるレーザ光の照射位置は、分光測定可能な位置または範囲を示している。すなわち、レーザ光源60は、分光測定可能な位置または範囲を示すレーザポインタとして用いられる。これにより、測定対象物Saにおける照射範囲または分光可能範囲の確認が容易となる。
【0071】
なお、第1実施形態(図1)、第3実施形態(図4)、第5実施形態(図6)、第7実施形態(図33)および第8実施形態(図34)の構成においても、撮像部30に替えてレーザ光源60を用いることができる。また、ビームスプリッタに対する分光器20およびレーザ光源60の配置の変更も可能である。
【0072】
次に、本実施形態の非接触分光測定装置の動作について説明するとともに、本実施形態の非接触分光測定方法について、図7図14を用いて説明する。以下の動作説明は、第1~第9の実施形態の非接触分光測定装置の何れを用いた場合にも適用できる。
【0073】
図7および図8は、本実施形態の非接触分光測定方法を説明するフローチャートである。図7は、メインルーチンのフローチャートである。図8は、サブルーチンのフローチャートである。図9図14は、各種のスペクトルを模式的に示す図である。図9は、光源10の出力光スペクトルSp0を模式的に示す図である。図10は、第1スペクトルSp1を模式的に示す図である。図11は、第2スペクトルSp2を模式的に示す図である。図12は、第3スペクトルSp3を模式的に示す図である。図13は、第4スペクトルSp4を模式的に示す図である。図14は、第5スペクトルSp5を模式的に示す図である。
【0074】
図7に示されるように、先ず、光源10の出力光スペクトルSp0が未だ取得されていない場合(ステップSt1でNoの場合)、光源10の出力光スペクトルSp0(図9)を取得する(ステップSt2)。また、評価用計算式が未だ取得されていない場合(ステップSt3でNoの場合)、評価用計算式を取得する(ステップSt4)。評価用計算式は、相対反射スペクトルSp5(後述)と評価値との間の相関を表すものであり、相対反射スペクトルSp5に基づいて測定対象物を評価する際に用いられる。
【0075】
光源10の出力光スペクトルSp0および評価用計算式が準備できれば、個々の測定対象物について、相対反射スペクトルSp5を取得し(ステップSt5)、その取得した相対反射スペクトルSp5および評価用計算式に基づいて測定対象物を評価する(評価ステップSt6)。なお、測定対象物および評価項目は、例えば、植物の葉緑素濃度、果実の糖度、米の食味、牛肉の脂肪、魚の脂肪、飼料の栄養成分、建材の含有成分、等である。相対反射スペクトルSp5の取得(ステップSt5)の詳細な手順は図8に示されている。
【0076】
なお、第9実施形態(図35)の構成のようにレーザポインタとしてのレーザ光源60が設けられている場合には、光源10およびレーザ光源60の双方がオフである状態から、光源10およびレーザ光源60の双方をオン状態として、測定対象物Saにおける照射範囲または分光可能範囲を確認して所望範囲に設定する。その後にレーザ光源60をオフ状態として、図8に示される処理を行う。
【0077】
図8に示されるように、第1スペクトルSp1の取得(ステップSt11)および第2スペクトルSp2の取得(ステップSt12)を行う。これら2つのステップSt11,St12の実行順序は任意である。ステップSt11とステップSt12とを交互に繰り返して行い、複数のステップSt11それぞれで得られたスペクトルの平均を第1スペクトルSp1としてもよいし、複数のステップSt12それぞれで得られたスペクトルの平均を第2スペクトルSp2としてもよい。ステップSt11およびステップSt12では分光測定条件(露出時間、感度等)を互いに同一として、第1スペクトルSp1および第2スペクトルSp2が含む周囲環境光およびダーク信号の検出量を互いに等しくする。
【0078】
第1スペクトル取得ステップSt11において、光源10から測定対象物へ至る第1光路の途中に設けられた第1偏光子41により、光源10から出力された広帯域の光を特定偏光の光として測定対象物に照射する。その照射期間に、測定対象物から分光器20へ至る第2光路の途中に設けられた第2偏光子42により、測定対象物で生じた光のうち特定偏光の光を除いた光を分光器20に入射させて、その入射した光のスペクトル(第1スペクトルSp1)を分光器20により取得する。この第1スペクトルSp1(図10)は、光源10からの光が測定対象物に照射されて測定対象物の内部における光吸収を反映した拡散反射光のスペクトル、周囲環境光が測定対象物に照射されたことにより測定対象物で生じた反射光のスペクトル、および、分光器20のダーク信号のスペクトルを含む。周囲環境光は、屋外であれば例えば太陽光であり、屋内であれば例えば屋内照明の光である。
【0079】
第2スペクトル取得ステップSt12において、光源10から出力される光を測定対象物に照射していない期間に、分光器20に入射した光のスペクトル(第2スペクトルSp2)を分光器20により取得する。この第2スペクトルSp2(図11)は、周囲環境光が測定対象物に照射されたことにより測定対象物で生じた反射光のスペクトル、および、分光器20のダーク信号のスペクトルを含む。なお、図11において破線は分光器20のダーク信号のスペクトルを示す。
【0080】
制御装置3は、以上のような第1スペクトルSp1および第2スペクトルSp2を分光器20から入力して、演算部として以降の演算処理(ステップSt13~St15、St6)を行う。
【0081】
第3スペクトル取得ステップ(減算ステップ)St13において、第1スペクトルSp1から第2スペクトルSp2を減算し、その減算結果として第3スペクトルSp3(=Sp1-Sp2)を求める。この減算により得られる第3スペクトルSp3(図12)は、周囲環境光の影響および分光器20のダーク信号が除去されたものであって、光源10からの光が測定対象物に照射されて測定対象物の内部における光吸収を反映した拡散反射光のスペクトルを表している。このような減算を行って第3スペクトルSp3を求めることにより、測定の度に異なる周囲環境光の影響を除去することができ、また、一般に温度によって異なる分光器20のダーク信号の影響を除去することができる。
【0082】
第4スペクトル取得ステップ(除算ステップ)St14において、第3スペクトルSp3を光源10の出力光スペクトルSp0で除算し、その除算結果として第4スペクトルSp4(=Sp3/Sp0)を求める。この除算により得られる第4スペクトルSp4(図13)は、反射率のスペクトルを表している。
【0083】
通常、測定対象物の反射率のスペクトルを求める際は、測定対象物からの反射光のスペクトルの取得の前後に、周囲環境光を含めて同一の照明条件の下で測定対象物の位置に置いた標準白色板等からの反射光のスペクトルを取得し、これを照明光スペクトルとして利用する。しかし、例えば屋外の圃場では日照状況および光源からの距離等により照明条件が大きく異なることから、標準白色板を用いる場合には、測定毎に照明光スペクトルを取得する必要がある。圃場でこの作業を繰り返すことは、煩雑であり大きな労力負担となる。そこで、本実施形態では、光源10の出力光スペクトルSp0を予め取得しておき、圃場等の現場では反射光スペクトルのみを取得して反射スペクトルを計算することが便利である。
【0084】
前述の評価ステップSt6においては、第4スペクトルSp4および評価用計算式に基づいて測定対象物を評価してもよい。しかし、この場合、測定の度に、測定対象物までの距離が異なる可能性が高く、測定対象物における照射強度が異なることが考えられる。それ故、測定の度に得られる第4スペクトルSp4が異なり、第4スペクトルSp4に基づく測定対象物の評価が適正な結果とならない場合がある。そこで、評価ステップSt6においては、次に説明する第5スペクトル取得ステップSt15で求められた相対反射スペクトル(第5スペクトル)Sp5に基づいて測定対象物の評価を行うのが好ましい。
【0085】
第5スペクトル取得ステップ(標準化ステップ)St15において、第4スペクトルSp4を標準化処理して第5スペクトルSp5(図14)を求める。標準化処理の手法は様々あるが、そのうちSNV補正(Standard Normal Variate Correction)による標準化処理は次のとおりである。第4スペクトルSp4を波長λの関数としてI(λ)と表し、或る波長範囲におけるI(λ)の平均値をIaveとするとともに標準偏差をIstddevとする。第5スペクトルSp5を波長λの関数としてI'(λ)と表すと、I'(λ)={I(λ)-Iave}/Istddev なる式で表される。このI'(λ)は無次元量である。
【0086】
以上のとおり、本実施形態では、光源10から測定対象物へ至る第1光路の途中に第1偏光子41が設けられ、測定対象物から分光器20へ至る第2光路の途中に第2偏光子42が設けられる。そして、これら第1偏光子41および第2偏光子42により、測定対象物の内部における光吸収を反映した拡散反射光が選択的に分光器20により受光されて、この拡散反射光のスペクトルが分光器20により取得される。したがって、非接触分光測定装置と測定対象物との間の光学系の設定の自由度が高く、測定対象物を適正に評価することが容易となる。
【0087】
また、本実施形態では、測定対象物において輪郭が明瞭である照射範囲Raが照射光学系により形成される。或いは、撮像部および表示部により測定対象物の画像において分光可能範囲Rbが表示される。これにより、測定対象物における照射範囲Raまたは分光可能範囲Rbの確認が容易であるので、光軸を安定させることが困難である圃場のような場であっても、測定対象物の目標箇所からの拡散反射光のスペクトルを安定して取得することが容易となる。
【0088】
また、本実施形態では、非破壊かつ非接触で測定対象物からの反射光スペクトルを取得することが可能である。この取得された反射光スペクトルを解析することで、破壊および病原菌感染が生じること無く、測定対象物を評価をすることができる。例えば、葉緑素濃度を表すSPAD値等の様々な植物生育指標を求めることができ、生育管理および収穫基準の明確化等に寄与することができる。
【実施例
【0089】
以下に説明する実施例では、図1に示された第1実施形態の非接触分光測定装置1Aを用いて、測定対象物としてのコマツナのSPAD値を評価し、その評価結果を市販のSPAD計(コニカミノルタ株式会社製SPAD-502)による測定結果と比較した。なお、このSPAD計は、光源部と検出部との間に測定対象物を挟んで複数波長の吸収率を測定することで、測定対象物の葉緑素濃度を測定することができる。このSPAD計は、測定の際に測定対象物に接触するので、測定対象物の汚染(病原菌等の媒介)の虞がある。
【0090】
実験室内の作業台上に測定対象物(コマツナ)を置き、非接触分光測定装置を作業台の上方に配置した。周囲環境光は主に室内照明の光であった。光源10から測定対象物へ至る第1光路は測定対象物の上方から鉛直下方とした。測定対象物から分光器20へ至る第2光路は水平方向から上方45°とした。光源10としてハロゲンランプを用いた。SPAD値を求めるには700nm以上の照射光帯域が必要であることから、赤外線カットフィルタを取り外したハロゲンランプを用いた。分光器20として浜松ホトニクス株式会社製のマイクロ分光器C12666MAを用いた。この分光器の光入射スリットのサイズは鉛直方向50μm×水平方向750μmである。撮像部30として小型のCMOSカメラモジュールを用いた。第1偏光子41および第2偏光子42として、円偏光を出力する偏光子を用いた。
【0091】
光源10から出力された白色光は、ライトガイドにより導かれ、アパーチャを通って、測定対象物において明瞭な輪郭を持つスポット形状に照射された。また、測定対象物においてスポット状に照明された領域は、撮像部30により撮像され、表示部3aにより表示された。また、表示部3aにより、測定対象物の画像において分光器20が分光測定する範囲(分光可能範囲Rb)として、画面中央の十字線の交点の周りの円が表示された。図15は、分光器20における鉛直方向の指向性を示すグラフである。図16は、分光器20における水平方向の指向性を示すグラフである。両図において、横軸は分光器の光軸からの角度であり、縦軸は相対感度である。鉛直方向の半値角は約0.5°であり、水平方向の半値角は約1.2°であった。そこで、大きく見積もって分光器の光軸を挟み2°の角度範囲を分光可能範囲Rbとして円で表示した。
【0092】
表示部3a上の分光可能範囲Rbを利用すれば、測定対象物上の異物あるいは対象外の部位(葉脈等)を避けて分光測定することが可能となり、測定精度向上に寄与することができる。表示部がない実施形態(図3図5)の照射範囲Raも同様の寄与があると期待される。一方、測定対象物の葉を挟んで使用する市販のSPAD計では、測定部位が隠れるので、位置の確認が難しいという問題がある。
【0093】
レンズ54の焦点距離および絞り55の開口径を適切に選択することにより、過焦点距離を250mmとし、レンズ54から125mm以上離れた位置にある全ての測定対象物がレンズ54の後焦点位置に結像するようにした。したがって、本実施例では、第1スペクトルSp1および第2スペクトルSp2の取得は、測定対象物がレンズ54から125mm以上離れていれば、焦点合わせ無しで可能であった。
【0094】
図17は、第1スペクトル取得ステップSt11で取得された第1スペクトルSp1を示す図である。図18は、第2スペクトル取得ステップSt12で取得された第2スペクトルSp2を示す図である。図19は、第3スペクトル取得ステップSt13で取得された第3スペクトルSp3を示す図である。第3スペクトルSp3(=Sp1-Sp2)は、周囲環境光の影響および分光器20のダーク信号が除去されたものであって、光源10からの光が測定対象物に照射されて測定対象物の内部における光吸収を反映した拡散反射光のスペクトルを表している。なお、これらのスペクトルSp1,Sp2,Sp3は、分光器20からの生データであって波長感度補正をしていないが、後に、同様に生データのままである出力光スペクトルSp0で第3スペクトルSp3を除算するので問題ない。
【0095】
図20は、光源10の出力光スペクトルSp0および第3スペクトルSp3を示す図である。図21は、第4スペクトル取得ステップSt14で取得された第4スペクトルSp4を示す図である。第4スペクトルSp4(=Sp3/Sp0)は、反射率のスペクトルを表している。なお、おおよそ波長400nm以下の波長帯域では、出力光スペクトルSp0の強度が小さいことから、第4スペクトルSp4のノイズが大きい。また、おおよそ波長500nm以下の波長帯域では、第3スペクトルSp3の強度は小さく、第4スペクトルSp4の強度も小さい。したがって、以降では、波長500nm以上の帯域を扱うことにする。
【0096】
図22は、16枚のコマツナの葉それぞれを測定対象物として第4スペクトル取得ステップSt14で取得された第4スペクトルSp4を示す図である。図23は、16枚のコマツナの葉それぞれを測定対象物として第5スペクトル取得ステップSt15で取得された第5スペクトルSp5を示す図である。目視によると、これら16枚のコマツナの葉の緑色の濃度は様々であった。また、これら16枚のコマツナの葉のSPAD値を市販のSPAD計により測定した。
【0097】
図22に示されるように、16枚のコマツナの葉それぞれについて取得された第4スペクトルSp4は、大きなバラツキが存在するように見え、扱いが困難である。しかし、図23に示されるように、第4スペクトルSp4に対してSNV補正処理をして得られた相対反射スペクトル(第5スペクトル)Sp5は、16枚のコマツナの葉の間でバラツキが低減されている。
【0098】
16枚のコマツナの葉それぞれの第5スペクトルSp5と市販のSPAD計による測定結果との間の相関を評価した。その結果、第5スペクトルSp5における波長547nmおよび718nmそれぞれの強度が、SPAD計による測定結果に対して相関が高いことが分かった。そこで、第5スペクトルSp5における波長547nm付近および718nm付近それぞれの強度の値を利用して多重回帰分析を行い、SPAD値を推定した。
【0099】
図24は、第5スペクトルSp5に基づくSPAD推定値とSPAD計によるSPAD実測値との間の相関を示すグラフである。この図は、16枚のコマツナの葉それぞれについてSPAD推定値およびSPAD実測値を表す位置を示している。クロスバリデーションの予測誤差は2.18であり、良好な結果であった。
【0100】
また、この多重回帰分析の結果から、相対反射スペクトル(第5スペクトル)Sp5において波長547nmでの相対反射率をR1とし、波長718nmでの相対反射率をR2とすると、本実験例におけるSPAD推定値の計算式は下記の通りである。
SPAD推定値 =6.8139 x R1 + 13.6028 x R2 + 20.8201
圃場で個別の植物サンプルの反射スペクトルを取得すれば、この計算式を評価ステップSt6で用いることにより、対応するSPAD値を逐次取得することができるようになる。なお、相関評価および多重回帰分析は、多変量解析ソフトウェア「The Unscrambler X」を用いて実施された。
【0101】
以上のとおり、本実施形態により従来のSPAD計と同等の結果を非接触で得ることができる。
【0102】
次に、周囲環境光を様々に設定した場合で各スペクトルを取得した。周囲環境光の光源として、蛍光灯、キセノンランプまたは赤色灯を用いた。何れの場合においても、共通の光源10を用い、共通の測定対象物(コマツナ)を用いた。図25は、周囲環境光源として蛍光灯を用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。図26は、周囲環境光源としてキセノンランプを用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。図27は、周囲環境光源として赤色灯を用いた場合のスペクトルSp1~Sp3を示す図である。第1スペクトルSp1は、光源10および周囲環境光源の双方により測定対象物を照射したときに分光器20により取得されたスペクトルである。第2スペクトルSp2は、周囲環境光源のみにより測定対象物を照射したときに分光器20により取得されたスペクトルである。第3スペクトルSp3は、第1スペクトルSp1から第2スペクトルSp2を減算して得られたスペクトルである。
【0103】
図28は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第3スペクトルSp3を示す図である。図29は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第3スペクトルSp3に対してSNV補正による標準化処理をして得られたスペクトルを示す図である。図28に示されるように、測定機会によって周囲環境光が異なると、標準化処理前の第3スペクトルSp3が異なることが分かる。これに対して、図29に示されるように、周囲環境光が異なっていても、第3スペクトルSp3に対して標準化処理をして得られたスペクトルは略同一の形状であることが分かる。すなわち、標準化処理をして得られる各スペクトルは、相似しており、相対強度で比較する場合には同一のものとして扱ってよいことが分かる。
【0104】
図30は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第2スペクトルSp2を示す図である。図31は、周囲環境光源として蛍光灯、キセノンランプおよび赤色灯それぞれを用いた場合の第2スペクトルSp2に対してSNV補正による標準化処理をして得られたスペクトルを示す図である。これらの図に示されるように、測定機会によって周囲環境光が異なると、標準化処理前の第2スペクトルSp2が異なるだけでなく、第2スペクトルSp2に対して標準化処理をして得られたスペクトルも異なることが分かる。
【0105】
したがって、測定対象物からの反射光のスペクトルを得るには、測定対象物の近傍に配置された白色散乱板等からの反射光を分光測定して、周囲環境光のスペクトルを取得する必要がある。また、この周囲環境光のスペクトルの取得は、測定機会毎に実施する必要がある。圃場でこの作業を煩雑に繰り返すことは労力の負担が大きい。しかし、本実施例では、装置が白色光源を備え、第1スペクトルSp1から第2スペクトルSp2を減算することで反射光スペクトル(第3スペクトル)Sp3を取得し、この第3スペクトルSp3を白色光源の出力光スペクトルSp0で除算することで反射率スペクトル(第4スペクトル)Sp4を取得するので、測定対象物を容易に評価することができる。
【符号の説明】
【0106】
1A~1I…非接触分光測定装置、2A~2I…測定ヘッド、3…制御装置(演算部)、3a…表示部、10…光源、20…分光器、30…撮像部、40…偏光子、41…第1偏光子、42…第2偏光子、51…シャッタ、52,53…ビームスプリッタ、54…レンズ、55…絞り、56,57…ビームダンパ、60…レーザ光源、Ra…照射範囲、Rb…分光可能範囲、Sa,Sb…測定対象物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35