(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】シール材及びそれに用いるコーティング剤
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20220714BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20220714BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20220714BHJP
C09D 171/00 20060101ALI20220714BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220714BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220714BHJP
【FI】
C09K3/10 M
C09K3/10 G
H01L21/02 Z
H01L21/302 101G
C09D171/00
C09D7/61
C09D7/65
(21)【出願番号】P 2018204013
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】浜村 武広
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-036884(JP,A)
【文献】特開2009-286985(JP,A)
【文献】特開平05-295350(JP,A)
【文献】特開平05-179231(JP,A)
【文献】特開2008-266364(JP,A)
【文献】特表2014-514371(JP,A)
【文献】特開平04-213384(JP,A)
【文献】特開2014-156257(JP,A)
【文献】特表2018-505288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール材本体と、前記シール材本体の表面を被覆するように設けられたコーティング層と、を備えたシール材であって、
前記コーティング層は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、
パーフルオロ基変性された縮合反応架橋型の第2ポリマーを含む粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されているシール材。
【請求項2】
請求項
1に記載されたシール材において、
前記第2ポリマーの含有量の前記第1ポリマーの含有量に対する比が1/10以上1/2以下であるシール材。
【請求項3】
シール材本体と、前記シール材本体の表面を被覆するように設けられたコーティング層と、を備えたシール材であって、
前記コーティング層は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、フッ素樹脂粉、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、及び二硫化タングステンのうちの1種又は2種以上の固体摺動材を含む粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されているシール材。
【請求項4】
請求項
3に記載されたシール材において、
前記固体摺動材の含有量が、前記第1ポリマー100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であるシール材。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載されたシール材において、
前記シール材本体がシリコーンゴムで形成されているシール材。
【請求項6】
パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、
パーフルオロ基変性された縮合反応架橋型の第2ポリマーを含む粘着抑制材とを含有するコーティング剤。
【請求項7】
パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、フッ素樹脂粉、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、及び二硫化タングステンのうちの1種又は2種以上の固体摺動材を含む粘着抑制材とを含有するコーティング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材及びそれに用いるコーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シール材本体の表面がコーティング層で被覆されたシール材が知られている。例えば、特許文献1には、パーフルオロポリエーテル骨格を備えるとともに、自己架橋性官能基を有し、且つシロキサン結合を有さないポリマーのコーティング層でシール材本体の表面が被覆されたシール材が開示されている。また、実施例としては、白金触媒を用いて反応する付加反応型のパーフルオロポリエーテルのコーティング層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された実施例のシール材では、シール材本体の形成材料が白金触媒の触媒毒となる虞がある。例えば、シール材本体の形成材料が一般的にゴムの架橋に使用される硫黄やトリアリルイソシアヌレートを含む場合、これらが白金触媒の触媒毒となるので、白金触媒を用いて反応する付加反応型のパーフルオロポリエーテルの硬化が阻害され、そのためにコーティング層のシール材本体への十分な密着性が得られないという問題がある。
【0005】
また、特許文献1に開示された実施例のシール材の低粘着性とは、シール材を圧縮して加熱した際の相手材への固着力が低いということであるので、取扱い性等を考慮すると、コーティング層の表面粘着性には改善が必要である。
【0006】
本発明の課題は、コーティング層のシール材本体の表面への密着性が高いとともに、表面粘着性が低く、低いシール材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シール材本体と、前記シール材本体の表面を被覆するように設けられたコーティング層とを備えたシール材であって、前記コーティング層は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されている。
【0008】
本発明は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、粘着抑制材とを含有するコーティング剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コーティング層が、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されていることにより、コーティング層のシール材本体の表面への高い密着性とともに、低い表面粘着性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0012】
図1A及びBは、実施形態に係るシール材10を示す。実施形態に係るシール材10は、いわゆるOリングであって、例えば、エッチング装置やプラズマCVD装置のようなプラズマを使用する半導体製造装置に好適に使用される。
【0013】
実施形態に係るシール材10は、環状ゴム製のシール材本体11と、その表面を被覆するように設けられたコーティング層12とを備える。そして、コーティング層12は、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されている。
【0014】
このような実施形態に係るシール材10によれば、コーティング層12が、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーと、粘着抑制材とを含有するコーティング剤の架橋硬化物で形成されていることにより、コーティング層12のシール材本体11の表面への高い密着性とともに、低い表面粘着性を得ることができる。そのため、取扱い時におけるコーティング層12の剥離や埃の付着が抑制されるので、優れた装着作業性を得ることができる。加えて、コーティング層12が、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーを含有するので、優れた低温シール性能、耐薬品性、及び耐プラズマ性を得ることもできる。
【0015】
ここで、シール材本体11を形成するゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン-α-オレフィン系ゴム等が挙げられる。シール材本体11を形成するゴムは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。シール材本体11は、コーティング層12の第1ポリマーが有する官能基との親和性の高い酸素を主骨格に有し、コーティング層12との密着性を高めることができるという観点から、シリコーンゴムで形成されていることがより好ましい。
【0016】
コーティング層12の厚さは、耐プラズマ性及び耐薬品性とシール性能とのバランスの観点から、好ましくは1μm以上70μm以下、より好ましくは1μm以上50μm以下である。なお、コーティング層12は、シール材本体11の表面の全部を被覆するように設けられていてもよく、また、表面の一部分を被覆するように設けられていてもよい。
【0017】
第1ポリマーは、酸変性やシロキサン結合等の修飾を有さないことが好ましい。コーティング層12に含有される粘着抑制材としては、例えば、パーフルオロ基変性された縮合反応架橋型の第2ポリマー、固体摺動材等が挙げられる。粘着抑制材は、これらのうちの一方又は両方を含むことが好ましい。
【0018】
第2ポリマーとしては、例えば、パーフルオロ基変性された縮合反応型のアクリルポリマーやエポキシポリマーが挙げられる。コーティング層12における第2ポリマーの含有量の第1ポリマーの含有量に対する比は、耐薬品性及び耐ラジカル性と低表面粘着性とのバランスの観点から、好ましくは、1/10以上1/2以下、より好ましくは1/5以上1/3以下である。
【0019】
固体摺動材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂粉、二硫化モリブデン、有機モリブデン化合物、グラファイト、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、二硫化タングステン等が挙げられる。固体摺動材は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、低表面粘着性を得る観点から、フッ素樹脂粉を含むことがより好ましい。固体摺動材の平均粒子径(d50)は、表面粘着性とシール性能とのバランスの観点から、好ましくは1μm以上100μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下である。コーティング層12における固体摺動材の含有量は、耐薬品性及び耐ラジカル性と表面粘着性とのバランスの観点から、第1ポリマー100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
【0020】
実施形態に係るシール材10は、プレス成形等によりシール材本体11を作製した後、その表面にコーティング剤をコートして硬化させてコーティング層12を形成することにより製造することができる。
【0021】
ここで、コーティング剤は、第1ポリマーと粘着抑制材と溶剤とを含有する。溶剤としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロエーテル、メタキシレンヘキサフロライド等のフッ素系溶媒が挙げられる。コーティング剤の固形分濃度は、コーティング層12の優れた形成加工性を得る観点から、好ましくは1質量%以上40質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0022】
コーティング剤のコート方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。コーティング剤の硬化は、オーブンでの加熱雰囲気下で行ってもよく、また、常温雰囲気下で行ってもよい。
【実施例】
【0023】
(試験片)
以下の実施例1及び2並びに比較例1~5の試験片を作製した。なお、それぞれの構成については表1にも示す。
【0024】
<実施例1>
シリコーンゴム(KE-871C-U 信越化学工業社製)に、その100質量部に対して1質量部の硬化剤(C-8 信越化学工業社製)添加し、それを2本ロールで混錬して得たコンパウンドを調製した。このコンパウンドを用い、165℃及び15分の条件でのプレス成型による一次架橋、及びその後の180℃及び4時間の条件での二次架橋により、150mm×150mm×厚み2mmのゴムシート本体を得た。同様にして、AS-214サイズのOリングのシール材本体を得た。
【0025】
また、パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーに、その100質量部に対して25質量部のパーフルオロ基変性された縮合反応架橋型のアクリルポリマーの第2ポリマーを加えるとともに、フッ素溶剤(Novec7200 3M社製)で希釈して固形分濃度が5質量%のコーティング剤を調製した。
【0026】
そして、シリコーンゴム製のゴムシート本体及びシール材本体のそれぞれの表面に、コーティング剤をスプレーコートし、その後、150℃及び60分の条件で加熱してコーティング層を形成することにより、実施例1のゴムシート及びシール材の試験片を作製した。コーティング層の厚さは10μmであった。
【0027】
<実施例2>
パーフルオロポリエーテル骨格を有する縮合反応架橋型の第1ポリマーに、その100質量部に対して5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)粉(KVNAR741 アルケマ d50:15μm)を加えるとともに、フッ素溶剤(Novec7200 3M社製)で希釈して超音波処理により分散させたコーティング剤を用いた以外は実施例1と同様にしてゴムシート及びシール材の試験片を作製し、それらを実施例2とした。
【0028】
<比較例1>
第2ポリマーを加えていないコーティング剤を用いた以外は実施例1と同様にしてゴムシート及びシール材の試験片を作製し、それらを比較例1とした。
【0029】
<比較例2>
第1ポリマーに代えて、パーフルオロポリエーテル骨格を有する付加反応架橋型のポリマーを含有するコーティング剤を用いた以外は実施例1と同様にしてゴムシート及びシール材の試験片を作製し、それらを比較例2とした。
【0030】
<比較例3>
第1ポリマーに代えて、パーフルオロポリエーテル骨格を有する付加反応架橋型のポリマーを含有するコーティング剤を用いた以外は実施例2と同様にしてゴムシート及びシール材の試験片を作製し、それらを比較例3とした。
【0031】
<比較例4>
シリコーンゴム製のシール材本体の表面がパーフロオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)で被覆された市販品のシール材の試験片を比較例4とした。
【0032】
<比較例5>
コーティング層を有さないシリコーンゴム製の市販品のシール材の試験片を比較例5とした。
【0033】
【0034】
(試験方法)
<ゴムへの密着性>
実施例1及び2並びに比較例1~3のそれぞれのシート材の試験片について、JIS K5600-5-6:1999に準じてクロスカット法試験を実施し、試験結果を分類0~分類5のいずれに該当するかで評価した。なお、格子の間隔は2mmとし、剥離テープにはニチバン社製のセロテープ(登録商標)を用いた。
【0035】
<表面粘着性>
実施例1及び2並びに比較例1~5のそれぞれのシール材の試験片について、幅50mm×高さ70mmのポリエチレン製の袋に入れ、その際にスムーズに入ればA評価、及び袋に付いて引っ掛かればB評価とした。
【0036】
<シール性能>
実施例1及び2並びに比較例1~5のそれぞれのシール材の試験片について、表面粗さRa=1.6μmのアルミA5056製の冶具で25%圧縮した後、Heリークディテクター(HELEN M-222LD-H キヤノンアネルバ社製)を取り付けて-25℃の恒温槽中で3時間冷却した。その後、恒温槽中にHeガスを導入し、Heリークディテクターでシール材を透過するHe量を測定した。
【0037】
シール材の気体リークには、接面から漏れ出す接面リークと、内部を透過する透過リークとの2種類がある。接面リークがない場合、Heがシール材の内部を透過するまで、HeリークディテクターにHeが検出されない。そのため、Heガスの導入後、He検出量が増加しない数十秒間のシール領域が認められる。一方、接面リークがある場合、Heガスの導入直後から、HeリークディテクターにHeが検出される。コーティング層によるシール性は、接面リークに関係するので、シール性能として、シール領域の長さを記録した。
【0038】
<耐プラズマ性>
実施例1及び2並びに比較例1~5のそれぞれのシール材の試験片について、マイクロ波プラズマ発生機を用いて発生させたプラズマに曝露した際の質量減少率を求めた。なお、試験条件は、ガス流量は、O2:340ml/min及びCF4:170ml/min、圧力は100Pa、並びに曝露時間は30分とした。
【0039】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。これによれば、実施例1及び2は、ゴムとの密着性、表面粘着性、シール性能、及び耐プラズマ性のいずれも優れることが分かる。一方、比較例1では、表面粘着性が高く、比較例2では、表面粘着性が高い上にゴムとの密着性が低く、比較例3では、ゴムとの密着性が低いことが分かる。また、市販品の比較例4では、シール性能が低く、市販品の比較例5では、耐プラズマ性が低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、シール材及びそれに用いるコーティング剤の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0041】
10 シール材
11 シール材本体
12 コーティング層