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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】基板
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20220714BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20220714BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H01F1/24
H05K1/02 A
H05K1/03 630A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018220109
(22)【出願日】2018-11-26
(65)【公開番号】P2020088154
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 駿
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-243330(JP,A)
【文献】特開2015-175047(JP,A)
【文献】特開2017-34054(JP,A)
【文献】特開2011-216849(JP,A)
【文献】実開昭56-164533(JP,U)
【文献】特開平4-36409(JP,A)
【文献】特開2000-150302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44- 3/14
H01F 30/00-38/12
H01F 38/16
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H05K 1/00- 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性部材を内蔵した基板であって、
前記磁性部材は、軟磁性金属粉末をバインダで結着させたものであり、
前記軟磁性金属粉末は、扁平形状を有しており、
前記バインダは、無機酸化物を主成分としており、
前記磁性部材は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上且つ30体積%以下の開細孔とを含んでおり、
前記磁性部材は、前記基板の端面の一部である特定領域のみにおいて露出している
基板。
【請求項2】
請求項1に記載の基板であって、
前記端面には、前記特定領域が複数設けられている
基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の基板であって、
前記磁性部材の厚みが0.3mm以下である
基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の基板であって、
前記磁性部材は、前記端面から離れている本体部と、前記本体部から前記端面へ延びて前記特定領域に達する延長部とを有しており、
前記基板の厚み方向において、前記特定領域のサイズは、前記本体部のサイズよりも小さい
基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に関し、特に磁性部材を内蔵する基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子素子や磁性部材等の部品(内蔵部品)を内蔵する基板が知られている。たとえば、特許文献1には、積層セラミックコンデンサを内蔵する基板(配線板)の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-080846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内蔵部品を内蔵する基板がリフロー工程などにおいて加熱されると、内蔵部品から発生したガスや、内蔵部品を収容するために基板に形成されたキャビティ内に残留していたガスが膨張し、基板を破損させるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、開細孔を含む磁性部材を内蔵する基板であって、磁性部材が部分的に基板の内部から外部に達するように設けられることによりガスの抜け道が形成された基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1の基板として、
磁性部材を内蔵した基板であって、
前記磁性部材は、軟磁性金属粉末をバインダで結着させたものであり、
前記軟磁性金属粉末は、扁平形状を有しており、
前記バインダは、無機酸化物を主成分としており、
前記磁性部材は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上且つ30体積%以下の開細孔とを含んでおり、
前記磁性部材は、前記基板の端面の一部である特定領域のみにおいて露出している
基板を提供する。
【0007】
また、本発明は、第2の基板として、第1の基板であって、
前記端面には、前記特定領域が複数設けられている
基板を提供する。
【0008】
また、本発明は、第3の基板として、第1又は第2の基板であって、
前記磁性部材の厚みが0.3mm以下である
基板を提供する。
【0009】
また、本発明は、第4の基板として、第1から第3の基板のうちのいずれかであって、
前記磁性部材は、前記端面から離れている本体部と、前記本体部から前記端面へ延びて前記特定領域に達する延長部とを有しており、
前記基板の厚み方向において、前記特定領域のサイズは、前記本体部のサイズよりも小さい
基板を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、第1の基板の製造方法として、磁性部材を内蔵した基板の製造方法であって、
複数の前記磁性部材が相互に連結され、かつ互いに隣接する二つの前記磁性部材が少なくとも一つの分離スペースによって部分的に分離されている磁性部材層を、上側主部材と下側主部材とで上下方向から挟んで積層体を形成し、
前記積層体を前記上下方向から加圧するとともに前記上側主部材と前記下側主部材とを硬化させて積層硬化体を形成し、
互いに隣接する二つの前記磁性部材が前記分離スペースを通る仮想分割線に沿って分割されるように、前記積層硬化体を分割し、前記磁性部材を個々に内蔵する基板を得る、
基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の基板において、磁性部材は開細孔を含んでいる。また、磁性部材は、部分的に基板の端面に露出している。この構成によれば、基板が加熱処理されたときに磁性部材からガスが発生したり、基板内の残留ガスが膨張したりしても、それらのガスは基板の外へ流出する。これにより、加熱処理を受ける基板が、内部のガスの膨張によって破損することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施の形態による基板を示す斜視図である。基板に内蔵されている磁性部材が破線で示されている。
図2図1の基板を示すA-A線断面図である。
図3図1の基板を示す平面図である。基板に内蔵されている磁性部材が破線で示されている。
図4図2の基板のB線枠内を拡大して示す拡大図である。
図5】磁性部材の厚みと許容巻取り半径Rとの関係を示すグラフである。
図6図1の基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図7図1の基板の製造途中の一状態を示す平面図である。
図8図7の状態から形成される積層体を示す平面図である。連結磁性部材が破線で示されている。
図9図8の積層体を硬化させた硬化積層体を分割して得られる複数の基板を示す平面図である。磁性部材が破線で示されている。
図10】本発明の第2の実施の形態による基板を示す斜視図である。基板に内蔵されている磁性部材が破線で示されている。
図11図10の基板を示す平面図である。基板に内蔵されている磁性部材が破線で示されている。
図12図10の基板の製造途中の一状態を示す平面図である。
図13図12の状態から形成される積層体を示す平面図である。連結磁性部材が破線で示されている。
図14図13の積層体を硬化させた硬化積層体を分割するための仮想分割線を示す平面図である。
図15図14の仮想分割線に沿って硬化積層体を分割して得られる複数の基板を示す平面図である。磁性部材が破線で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施の形態)
図1を参照すると、本発明の一実施の形態による基板10は、主部材30と磁性部材50とを備えている。主部材30は、磁性部材50の周囲を囲い、特定領域20を除いて基板10の外面を構成している。磁性部材50は、基板10に内蔵されており、特定領域20のみにおいて露出している。基板10は、その外面として一対の主面12,14とそれらを互いに接続する端面16とを有している。特定領域20は、基板10の端面16に複数設けられている。特定領域20は、その周りが主部材30によって囲まれている。
【0014】
図1から理解されるように、本実施の形態において、基板10の形状は、上下方向に沿って見たとき正方形である。換言すると、本実施の形態において、基板10の主面12,14の形状は正方形である。なお、本実施の形態において、上下方向は、基板10の厚み方向に一致するZ方向である。+Z方向が上方であり、-Z方向が下方である。また、端面16は四つの平面(側面)で構成されている。特定領域20は、四つの側面に一つずつ設けられている。但し、本発明は、これに限られない。基板10は、その用途に応じて、任意の形状を採用することができる。たとえば、基板10は、上下方向に沿って見たときの形状が、正方形以外の多角形、角丸多角形、円形あるいは楕円形であってもよい。また、特定領域20は、端面16の一部に設けられていればよく、その数、位置、形及びサイズは、任意に設定することができる。但し、特定領域20は、基板10の角部から離れていることが好ましい。また、特定領域20の面積は、磁性部材50内で発生したガスや基板10内の残留ガスが外部へ流出可能であればよく、できるだけ小さいことが好ましい。これらは、磁性部材50が特定領域20から崩れるのを防止するためである。
【0015】
図1に示されるように、本実施の形態において、磁性部材50は本体部52と延長部54とを有している。本体部52の形状は、基板10の形状と相似している。即ち、本実施の形態において、本体部52の形状は、上下方向に沿って見たとき正方形である。本体部52は、基板10の内部に位置しており、基板10の端面16から離れている。延長部54は、本体部52の四つの側面の夫々から対応する基板10の側面(端面16)へ延びている。延長部54の先端は、端面16の一部である特定領域20において露出している。但し、本発明はこれに限られない。たとえば、磁性部材50は、本体部52と延長部54とを明確に区別することができない形状を有していてもよい。
【0016】
図1及び図2から理解されるように、本実施の形態において、磁性部材50の延長部54の夫々は、延びている方向に沿って見たとき、本体部52よりも小さい。換言すると、上下方向及びそれに直交する方向(X方向又はY方向)の夫々において、特定領域20のサイズは、本体部52のサイズよりも小さい。但し、本発明はこれに限られない。上下方向において、特定領域20のサイズは、磁性部材50の本体部52のサイズと同じであってもよい。但し、前述のように磁性部材50が崩れるのを防止するため、上下方向において、特定領域20のサイズは磁性部材50の本体部52のサイズよりも小さいことが好ましい。
【0017】
図2を参照すると、主部材30は、上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34とを備えている。上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34は、実質的に同一の構成を有している。詳しくは、上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34の夫々は、繊維状補強基材36と、繊維状補強基材36に含浸された熱硬化性樹脂組成物38とを有している。本実施の形態において、繊維状補強基材36は、ガラス織布からなる。また、熱硬化性樹脂組成物38は、エポキシ樹脂を主成分とするものである。但し、本発明はこれに限られない。繊維状補強基材36は、ガラス不織布であってもよい。あるいは、繊維状補強基材36は、ガラス以外を原料とする織布若しくは不織布であってもよい。また、主部材30は、磁性部材50を収容するキャビティを備えるリジッド基板と、キャビティに蓋をする蓋部材との組み合わせであってもよい。この場合、蓋部材として、プリプレグ硬化体を用いることができる。しかしながら、キャビティを利用する場合には、キャビティを形成する工程や、キャビティ内に個別に磁性部材50を配置する工程が必要となる。したがって、上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34を用いた方が、製造工程数とコストを削減することができるので好ましい。
【0018】
図3から理解されるように、上下方向に沿って基板10を透視したとき、基板10には磁性部材50が存在しない領域(結合領域301)が複数存在する。これらの結合領域301では、上側プリプレグ硬化体32(図2参照)と下側プリプレグ硬化体34(図2参照)とが互いに直接結合され一体化している。そのため、上側プリプレグ硬化体32及び下側プリプレグ硬化体34の夫々が、磁性部材50から剥離することが防止される。上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34との間に所定の結合力を得るため、結合領域301の夫々は、0.0025mm以上の面積を有することが望ましい。また、隣り合う結合領域301の最短距離は、5mm以下であることが望ましい。なお、本実施の形態において、隣り合う結合領域301の最短距離は、磁性部材50の延長部54の幅Wに等しい。ここで、磁性部材50の延長部54の幅Wは、対応する基板10の側面(端面16)に平行でかつ上下方向と直交する方向(X方向又はY方向)のサイズである。
【0019】
図4に示されるように、磁性部材50は、軟磁性金属粉末501をバインダ503によって結着させたものである。軟磁性金属粉末501は、上下方向に薄い扁平形状を有し、概ね上下方向と直交する方向(面内方向)に配向されている。バインダ503は、無機酸化物、たとえば酸化ケイ素を主成分とする。
【0020】
本実施の形態において、磁性部材50は、60体積%以上の軟磁性金属粉末501と、10体積%以上且つ30体積%以下の開細孔505とを含んでいる。開細孔505は、基板10の外部へ開いている孔である。開細孔505の存在により、磁性部材50内で発生したガスや基板10内の残留ガスは外部へ流出可能である。したがって、基板10が熱処理された場合に、発生したガスや残留ガスが膨張しても基板10を損傷させることはない。また、磁性部材50は、僅かな体積%の閉細孔507も含んでいる。閉細孔507は基板10の外部へ開いていない孔である。しかしながら、閉細孔507の含有量は僅かであるため、基板10が熱処理されたとしても、閉細孔507内に残るガスが膨張して基板10を損傷させることはない。
【0021】
図4に示されるように、軟磁性金属粉末501は、一つ以上の粉末集合体511を形成している。粉末集合体511の夫々は、複数の軟磁性金属粉末501を含む。粉末集合体511の夫々において、軟磁性金属粉末501の各々は、少なくとも一つの他の軟磁性金属粉末501と上下方向に重なっている。粉末集合体511において互いに重なる軟磁性金属粉末501は、多くの場合、面内方向にずれている。粉末集合体511の夫々において、上下方向に重なる軟磁性金属粉末501は、第1結着体513によって互いに結着されている。また、上下方向に隣り合う粉末集合体511は、第2結着体515によって互いに結着されている。面内方向に隣り合う粉末集合体511も、第2結着体515によって互いに結着されている。粉末集合体511を構成しない軟磁性金属粉末501は、隣り合う粉末集合体511又は他の粉末集合体511を構成しない軟磁性金属粉末501と、第2結着体515によって結着している。ここで、第1結着体513及び第2結着体515は、ともにバインダ503を熱硬化させたバインダ成分である。第1結着体513は、軟磁性金属粉末501の表面に沿って平面状に広がっている。第2結着体515は、粒状に固まっている。
【0022】
図4から理解されるように、第1結着体513は、上下方向において、軟磁性金属粉末501に比べて著しく薄い。つまり、粉末集合体511を構成する複数の軟磁性金属粉末501は、高密度に集まっている。これにより、磁性部材50は、60体積%以上の軟磁性金属粉末501を含むことができる。一方、第2結着体515は、上下方向及び面内方向の夫々において、比較的大きなサイズを有している。これにより、第2結着体515は、隣り合う粉末集合体511の間に比較的大きな隙間を形成する。また、第2結着体515は、粉末集合体511を構成しない軟磁性金属粉末501と周囲の軟磁性金属粉末501又は粉末集合体511との間に比較的大きな隙間を形成する。第2結着体515が形成する隙間の大部分は、磁性部材50の外部へ開く開細孔505を構成する。第2結着体515が形成する隙間の残りの部分は、個々に独立した閉細孔507を構成する。開細孔505及び閉細孔507の存在により、磁性部材50は可撓性を有する。所望の可撓性を得るため、磁性部材50における開細孔505の体積比率は10体積%以上とする。
【0023】
本実施の形態において、磁性部材50の本体部52の厚みTm(図2参照)は、0.3mm以下である。この数値は、発明者らが行った試験結果に基づく。試験は、電子情報技術産業協会規格JEITA ED-4702Bに従い、様々な厚みを有する磁性部材に対して行った。詳しくは、様々な厚みを有する磁性部材を夫々多数用意し、各磁性部材を厚み100μmの一対のプリプレグで上下から挟み、プリプレグを硬化させて試料とした。そして、試験条件(支持スパンと押し込み量)を変更しつつ、試料の機械的強度試験を行って、磁性部材に割れが発生する比率が100個中0個となる条件のうち最も厳しい条件を求めた。それから、求めた条件を、試料をロール状に巻いた(曲げた)ときの巻取り半径(許容巻取り半径)Rに換算した。その結果を、図5に示す。
【0024】
図5から理解されるように、磁性部材の厚みを薄くするほど許容巻取り半径Rは小さくなる。ここで、製造工程における実用性を考慮すると、複数の基板10が配列形成された連続体をロール状に巻いたときの巻取り半径(曲げ半径)Rは100mm以下であることが望ましい。図5に示される試験結果によれば、磁性部材50の本体部52の厚みTmが0.3mm以下であれば、磁性部材50に割れを発生させることなく、基板10の連続体の巻取り半径Rを100mm以下にすることができる。特に、磁性部材50の本体部52の厚みTmが0.15mm以下であれば、基板10の連続体を折り曲げても(巻取り半径R=0としても)、磁性部材50の本体部52に割れは発生しない。よって、本実施の形態では、磁性部材50の本体部52の厚みTmを0.3mm以下とし、好ましくは、0.15mm以下とする。加えて、磁性部材50の延長部54の厚みTeは、図2に示されるように、本体部52の厚みTmよりも薄くする。延長部54の厚みTeを本体部52の厚みTmよりも薄くすることで、通気を確保しつつ、上側及び下側プリプレグ硬化体32,34の剥離をより効果的に防止することができる。
【0025】
磁性部材50は、上述したように60体積%以上の軟磁性金属粉末501を含んでいる。このため、磁性部材50は、優れた磁気特性を示す。具体的には、磁性部材50は、0.5T以上の高い飽和磁束密度と、フェライト相当の高い透磁率を有する。たとえば、1MHz以上の周波数において、磁性部材50の比透磁率の実数成分は100以上である。磁性部材50の比透磁率を高めるため、軟磁性金属粉末501は、磁性部材50に70体積%以上含まれていることがより好ましい。また、磁性部材50における軟磁性金属粉末501の体積比率を60体積%以上とするため、開細孔505の体積比率は30体積%以下とする。
【0026】
軟磁性金属粉末501の夫々は、上述したように、扁平形状を有し、面内方向に配向されている。即ち、磁性部材50の磁化容易軸は、面内方向へ延びている。面内方向の反磁界係数を小さくし、磁性部材50の比透磁率を高くするために、軟磁性金属粉末501の平均最大厚さに対する平均長径の割合で表される平均アスペクト比は、10以上であることが好ましい。
【0027】
軟磁性金属粉末501は、所望の磁気特性を得るために、Fe系合金からなることが好ましい。さらに、軟磁性金属粉末501は、Fe-Si系合金からなることが好ましい。さらに、軟磁性金属粉末501は、Fe-Si-Al系合金(センダスト)又はFe-Si-Cr系合金からなることが好ましい。
【0028】
軟磁性金属粉末501がSi及びAlを含む場合、軟磁性金属粉末501におけるSiの比率は、3重量%以上かつ18重量%以下であることが好ましく、Alの比率は、1重量%以上かつ12重量%以下であることが好ましい。軟磁性金属粉末501が上記組成を有する場合、磁性部材50の結晶磁気異方性定数及び磁歪定数が低下し、磁気特性が向上する。
【0029】
前述したように、軟磁性金属粉末501は無機物であるバインダ成分によって結着されている。このため、磁性部材50は、260℃程度の高温でのリフローにも耐えることができる。また、軟磁性金属粉末501は絶縁性のバインダ成分によって結着されている。このため、磁性部材50は、優れた周波数特性と、10kΩ・cm以上の高い電気抵抗率を有している。即ち、磁性部材50は、良好な絶縁性を有している。さらに、軟磁性金属粉末501が所定量のSi及びAlを含んでいる場合、磁性部材50を作製する際に、軟磁性金属粉末501の表面にSi及びAlを含む不動態膜が形成されるので、磁性部材50の電気抵抗率がさらに大きくなる。
【0030】
磁性部材50に含まれるバインダ成分の体積比率の好ましい範囲は、バインダ成分の密度に依存する。また、バインダ成分の密度は、閉細孔507の量によって変化する。たとえば、バインダ成分の密度が、1.3g/cc以上かつ2.2g/cc以下の場合、磁性部材50に含まれるバインダ成分の体積比率は、4体積%以上かつ30体積%以下であることが望ましい。バインダ成分の体積比率が4体積%よりも小さいと、磁性部材50は、十分な強度を有しない。また、バインダ成分の体積比率が30体積%よりも大きいと、軟磁性金属粉末501の体積比率を60体積%以上とし、開細孔505の体積比率を10体積%以上とすることができない。
【0031】
次に、図6から図9を参照して、図1の基板10の製造方法について説明する。まず、下側プリプレグ341を用意する(ステップS601)。下側プリプレグ341は、後の加圧加熱工程(ステップS606)により下側プリプレグ硬化体34(図2参照)へ変化するものである。詳しくは、下側プリプレグ341は、シート状で、繊維状補強基材36(図2参照)と、繊維状補強基材36に含浸された熱硬化性樹脂組成物38(図2参照)とを有している。下側プリプレグ341の表面は、概ね平坦で、磁性部材50(図1参照)を収容するキャビティや枠体等は設けられていない。熱硬化性樹脂組成物38は、半硬化状態(ステージB)にあり、下側プリプレグ341は、柔軟性を有している。下側プリプレグ341の厚みや熱硬化性樹脂組成物38の組成は、下側プリプレグ341が下側プリプレグ硬化体34に変化した状態で、所定の曲げ半径Rを実現できるように選択される。たとえば、下側プリプレグ341の厚みは100μm以下である。下側プリプレグ341の面内方向のサイズは、所定数の磁性部材50を配列形成することができる大きさである。
【0032】
次に、下側プリプレグ341の表面上に磁性部材50を配列形成するための位置決め治具(図示せず)を配置する(ステップS602)。続いて、位置決め治具を用い、図7に示されるように、複数の磁性部材50が相互に連結された連結磁性部材60を下側プリプレグ341の表面上に配置する(ステップS603)。互いに隣り合う二つの磁性部材50は、一つの連結部62で互いに連結され、二つの分離スペース64によって部分的に分離されている。但し、本発明はこれに限られない。互いに隣り合う磁性部材50は、少なくとも一つの分離スペース64で部分的に分離されていればよい。しかしながら、延長部54が基板10の角部に位置しないようにするには、互いに隣り合う二つの磁性部材50の間には、少なくとも二つの分離スペース64が必要である。
【0033】
次に、上側プリプレグ321を用意する(ステップS604)。上側プリプレグ321は、後の加圧加熱工程により上側プリプレグ硬化体32(図2参照)へと変化するものである。上側プリプレグ321は、下側プリプレグ341と同一の構成を有している。
【0034】
次に、連結磁性部材60が配置された下側プリプレグ341の上に上側プリプレグ321を積層し(図8参照)、下側プリプレグ341と上側プリプレグ321との間に連結磁性部材60を挟み込む(ステップS605)。こうして、連結磁性部材60の上下に上側プリプレグ321と下側プリプレグ341が夫々配置された積層体が形成される。
【0035】
次に、積層体を上下方向から加圧するとともに、熱硬化性樹脂組成物38(図2参照)が硬化する温度以上にまで加熱する(ステップS606)。この加圧及び加熱には、加熱プレス機やオートクレーブ等を用いることができる。加熱工程において、熱硬化性樹脂組成物38は、一旦融解し、その後硬化する(ステージC)。このとき、融解した熱硬化性樹脂組成物38は、加圧による影響で、上側プリプレグ321及び下側プリプレグ341と連結磁性部材60との間の隙間を埋める。また、分離スペース64では、上側プリプレグ321と下側プリプレグ341(図7参照)とが直接互いに接触し、上側プリプレグ321と下側プリプレグ341との間の境界が消失する。そして、そのような状態を保ったまま、熱硬化性樹脂組成物38は硬化する。こうして、上側プリプレグ321及び下側プリプレグ341は、上側プリプレグ硬化体32及び下側プリプレグ硬化体34へと夫々変化し、硬化積層体が形成される。硬化積層体の分離スペース64において、上側プリプレグ硬化体32と下側プリプレグ硬化体34とが相互に直接結合され一体化している。なお、この加圧及び加熱工程において、磁性部材50の収縮率は約0.1%であるため、高い寸法精度を実現できる。また、磁性部材50は、可撓性を有しているので、物理的に破壊されることもない。さらに、磁性部材50の磁気特性が劣化することもない。
【0036】
次に、図9に示されるように、硬化積層体を、個々に磁性部材50を内蔵する複数の基板10に分割する(ステップS607)。この分割は、打ち抜き加工により行うことができる。打ち抜き加工により、複数の基板10を一度に個片化することができる。分割は、互いに隣接する二つの磁性部材50を、分離スペース64(図8参照)を通る仮想分割線(図示せず)に沿って分割するように行う。本実施の形態では、二つの分離スペース64の間に位置する連結部62(図8参照)を、連結部62が延びる方向に二分割するように行う。連結部62は二分割されて、延長部54(図1参照)となる。このように、分離スペース64を通る仮想分割線に沿って硬化積層体を分割することにより、各基板10の端面16の特定領域20(図1参照)のみにおいて、磁性部材50が部分的露出する基板10を得ることができる。
【0037】
上述した基板10の製造方法によれば、磁性部材50を収容するキャビティを設ける必要がないので、工程数とコストを削減できる。また、複数の磁性部材50が相互に連結された連結磁性部材60を用いることができるので、磁性部材50を個々に扱う手間を省くことができる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図10を参照すると、本発明の第2の実施の形態による基板10Aは、主部材30Aと磁性部材50Aとを備えている。本実施の形態による基板10Aと第1の実施の形態による基板10との相違点は、その形状と、磁性部材50Aの形状である。これらの点以外の点については、本実施の形態による基板10Aと第1の実施の形態による基板10とは、互いに共通しているので、その説明を省略する。
【0039】
図10及び図11に示されるように、基板10Aは、上下方向に沿って見たとき、二つの長方形を互いに一方向にずらして合体させたような八角形の形状を有している。図10及び図11から理解されるように、磁性部材50Aは、本体部52Aと延長部54Aとを明確に区別することができない形状を有している。磁性部材50Aには、複数の切り取り部56が形成されている。基板10Aの端面16Aに沿って互いに隣り合う切り取り部56の間に位置する部分が延長部54Aである。図11に示されるように、基板10Aを上下方向に沿って見たとき、いくつかの切り取り部56は、基板10Aの角に当たる部分に形成されている。残りの切り取り部56は、互いに隣り合う切り取り部56間の距離D1~D10が所定の距離以下となるように、基板10Aの辺の途中に当たる箇所に形成されている。本実施の形態において、所定の距離は5mmである。
【0040】
図10に示されるように、磁性部材50Aは、基板10Aに内蔵されており、基板10の端面16Aの特定領域20Aのみにおいて露出している。切り取り部56の外側の領域(分離領域58)において、上側プリプレグ硬化体32Aと下側プリプレグ硬化体34Aとが直接結合し一体化している。上側プリプレグ硬化体32Aと下側プリプレグ硬化体34Aとの間に所定の結合力を得るため、上下方向に沿って見たときの分離領域58の面積は、0.0025mm以上であることが望ましい。
【0041】
本実施の形態による基板10Aにおいても、磁性部材50Aが部分的に露出している。そのため、基板10Aが熱処理されて内部に存在するガスが膨張したとしても、そのガスは外部へ流出することができる。よって、基板10Aが熱処理された場合に、基板10Aの内部に残留するガスや内部で発生するガスの膨張によって、基板10Aが損傷を受けることはない。
【0042】
本実施の形態による基板10Aは、第1の実施の形態による基板10と同一の製造方法により製造される。簡単に説明すると、基板10Aは次のように製造される。まず、図12に示されるように、下側プリプレグ341Aの表面上に、複数の磁性部材50Aが相互に連結された連結磁性部材60Aを配置する。次に、図13に示されるように、連結磁性部材60Aが配置された下側プリプレグ341Aの上に上側プリプレグ321Aを積層して積層体を形成する。それから、積層体を上下方向から加圧するとともに加熱し、下側プリプレグ341A及び上側プリプレグ321Aを硬化させて硬化積層体を形成する。最後に、図14に示される仮想分割線70に沿って硬化積層体を分割し、図15に示されるように複数の基板10Aを得る。
【0043】
本実施に形態においても、連結磁性部材60Aの互いに隣り合う二つの磁性部材50Aは、図12及び図14から理解されるように、相互に連続するとともに三つ又は四つの分離スペース64Aによって部分的に分離されている。分離スペース64Aは、上側プリプレグ硬化体32Aと下側プリプレグ硬化体34Aとによって埋められる。分離スペース64Aを通る仮想分割線70に沿って硬化積層体を分割することで、特定領域20Aのみにおいて、磁性部材50Aが露出する基板10Aが得られる。
【0044】
以上、本発明について実施の形態を掲げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の変形・変更が可能である。たとえば、上側プリプレグ321(321A)、下側プリプレグ341(341A)及び連結磁性部材60(60A)からなる積層体は、ロール状に巻かれた長尺の上側プリプレグ及び下側プリプレグを用いて連続的に製造されてもよい。また、キャビティを備えるリジッド基板を用いる場合には、キャビティ内に磁性部材50(50A)の本体部52(52A)に加え他の部材を配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 基板
12,14 主面
16,16A 端面
20,20A 特定領域
30,30A 主部材
301 結合領域
32,32A 上側プリプレグ硬化体
321,321A 上側プリプレグ
34,34A 下側プリプレグ硬化体
341,341A 下側プリプレグ
36 繊維状補強基材
38 熱硬化性樹脂組成物
50,50A 磁性部材
501 軟磁性金属粉末
503 バインダ
505 開細孔
507 閉細孔
511 粉末集合体
513 第1結着体
515 第2結着体
52,52A 本体部
54,54A 延長部
56 切り取り部
58 分離領域
60,60A 連結磁性部材
62 連結部
64,64A 分離スペース
70 仮想分割線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15