(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】導電性インタフェースおよび導電性インタフェースを含む電極を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20220714BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220714BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220714BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220714BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220714BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220714BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220714BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220714BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220714BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20220714BHJP
C01G 37/02 20060101ALI20220714BHJP
H01G 11/68 20130101ALI20220714BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220714BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20220714BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/58
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/66 A
C01B33/02 Z
C01G37/02
H01G11/68
H01G11/86
H01G11/30
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2018551253
(86)(22)【出願日】2017-03-29
(86)【国際出願番号】 AU2017050269
(87)【国際公開番号】W WO2017165916
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-25
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2016-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512290632
【氏名又は名称】アンテオ テクノロジーズ プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ANTEO TECHNOLOGIES PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ファン、チャン-イー
(72)【発明者】
【氏名】マエジ、ノブヨシ ジョー
(72)【発明者】
【氏名】ソン、クァンシェン
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-065812(JP,A)
【文献】特開2011-141989(JP,A)
【文献】特開2002-164084(JP,A)
【文献】特開2003-115298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/48
H01M 4/58
H01M 4/485
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/66
H01M 4/139
C01B 33/02
C01G 37/02
H01G 11/68
H01G 11/86
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性インタフェースを含む電極を製造する方法であって、前記方法は、
(i)集電体基材である電極基材と活物質とを提供するステップと、
(ii)前記集電体基材および前記活物質の一方または両方を金属配位錯体と接触させるステップと、
(iii)前記集電体基材を前記活物質のスラリーでコーティングするステップであって前記スラリーがバインダをさらに含み、それにより前記導電性インタフェース
を含む電極を形成する、コーティングするステップと、
を含み、
前記電極において、前記金属配位錯体は、前記活物質、前記バインダおよび前記集電体基材と供与結合を介して接触している状態にあり、かつ前記活物質がシリコンナノパウダーおよび導電性カーボンブラックの両方を含むとともに前記集電体基材が銅箔である場合、前記バインダはポリアクリル酸(PAA)ではな
く、
前記金属配位錯体はオリゴマー状金属配位錯体である、方法。
【請求項2】
前記集電体基材は、アルミニウム、銅、銀、白金および金の集電体、からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極がアノードであるとき、前記集電体基材は銅集電体基材であり、あるいは前記電極がカソードであるとき、前記集電体基材はアルミニウム集電体基材である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記活物質は、金属、金属酸化物、セラミック、金属間化合物、メタロイド、粘土、炭素、並びに合成及び生体の両ポリマーからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活物質は、シリコンであって、シリコンの酸化物、合金、及び複合材を含めたもの、スズであって、スズの酸化物、合金、及び複合材を含めたもの、硫黄であって、硫黄の複合材を含めたもの、LiFePO
4(LFP)、混合金属酸化物並びに炭素からなる群より選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記活物質は、シリコン、炭素および混合金属酸化物から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭素は、グラファイト、super-Pカーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、及びケッチェンブラック(KB)から選択された形態である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合金属酸化物は、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記金属配位錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム及びロジウムからなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属はクロムイオンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属配位錯体は、金属イオンに供与結合した窒素、酸素、又は硫黄から選択される、供与結合を形成する原子を備えている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記オリゴマー状金属配位錯体はオキソ架橋型オリゴマー状クロム(III)錯体である、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記活物質のスラリーを前記集電体基材上にコーティングした後に、コーティングされた集電体基材が乾燥ステップにかけられる、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記活物質がシリコンナノパウダーおよび導電性カーボンブラックの両方を含むとき、前記集電体基材は銅箔ではない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
電極の導電性インタフェースであって、集電体基材である電極基材上にコーティングされた活物質およびバインダと、前記活物質、前記バインダおよび前記集電体基材と供与結合を介して接触している状態にある金属配位錯体と、を含む電極の導電性インタフェースにおいて、前記活物質がシリコンナノパウダーおよび導電性カーボンブラックの両方を含むとともに前記集電体基材が銅箔である場合、前記バインダはポリアクリル酸(PAA)ではな
く、
前記金属配位錯体はオリゴマー状金属配位錯体である、導電性インタフェース。
【請求項16】
前記集電体基材は、アルミニウム、銅、銀、白金および金の集電体、からなる群より選択される、請求項
15に記載の導電性インタフェース。
【請求項17】
前記電極がアノードであるとき、前記集電体基材は銅集電体基材であり、あるいは前記電極がカソードであるとき、前記集電体基材はアルミニウム集電体基材である、請求項
16に記載の導電性インタフェース。
【請求項18】
前記活物質は、金属、金属酸化物、セラミック、金属間化合物、メタロイド、粘土、炭素、並びに合成及び生体の両ポリマーからなる群より選択される、請求項
15~
17のいずれか一項に記載の導電性インタフェース。
【請求項19】
前記活物質は、シリコンであって、シリコンの酸化物、合金、及び複合材を含めたもの、スズであって、スズの酸化物、合金、及び複合材を含めたもの、硫黄であって、硫黄の複合材を含めたもの、LiFePO
4(LFP)、混合金属酸化物並びに炭素からなる群より選択される、請求項
15~
18のいずれか一項に記載の導電性インタフェース。
【請求項20】
前記活物質は、シリコン、炭素および混合金属酸化物から選択される、請求項
19に記載の導電性インタフェース。
【請求項21】
前記炭素は、グラファイト、super-Pカーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、及びケッチェンブラック(KB)から選択された形態である、請求項
19または
20に記載の導電性インタフェース。
【請求項22】
前記混合金属酸化物は、コバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの1以上を含む、請求項
19に記載の導電性インタフェース。
【請求項23】
前記金属配位錯体の金属は、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム及びロジウムからなる群より選択される、請求項
15~
22のいずれか一項に記載の導電性インタフェース。
【請求項24】
前記金属はクロムイオンである、請求項
23に記載の導電性インタフェース。
【請求項25】
前記金属配位錯体は、金属イオンに供与結合した窒素、酸素、又は硫黄から選択される、供与結合を形成する原子を備えている、請求項
15~
24のいずれか一項に記載の導電性インタフェース。
【請求項26】
前記オリゴマー状金属配位錯体はオキソ架橋型オリゴマー状クロム(III)錯体である、請求項
15に記載の導電性インタフェース。
【請求項27】
前記活物質がシリコンナノパウダーおよび導電性カーボンブラックの両方を含むとき、前記集電体基材は銅箔ではない、請求項
15に記載の導電性インタフェース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材調合物及び該調合物から形成された複合品の分野に関する。特に、本発明は、導電的に接触している構造物を形成すること、該構造物を調製するための方法、並びに導電性インタフェースを調製、維持及び制御するための該構造物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中におけるいかなる先行技術への言及も、その先行技術が任意の管轄域において共通の一般知識の一部を形成するということ、又は、その先行技術が当業者によって、理解されていること、関連性を有するものと見なされていること、及び他の先行技術の一部と組み合わされることのうち少なくともいずれかであると合理的に予想されることが考えられるということを、認識するものでも示唆するものでもない。
【0003】
異なる材料間における電子及びイオンのうち少なくともいずれか一方の流れは、あらゆるエネルギーの貯蔵及び転換システムの基礎である。より高いエネルギー密度及び出力密度の必要を満たし、かつより長いサイクル寿命を含むその他の利点を提供するためには、新たなアノード及びカソード材料の開発が不可欠であると考えられる。新たな材料組成物及びドーピング方法、様々なマイクロ構造/形状及びナノ構造/形状、並びに表面コーティングの使用は全て、そのようなエネルギーの貯蔵及び転換システムで使用される活物質の性能の改善をもたらすための、推進中の活発な研究領域である。しかしながらこれは、例えばより高性能のバッテリーを生産する場合に考慮されるべき唯一の問題ではない。バッテリーは様々な材料によって形成されたインタフェースを横切る電子及びイオンの流れにより機能し、かつ各々のインタフェースでは、この流れを促進しかつ良好な導電率を維持することが極めて重要である。そのような機能的に有効な、アルミニウム(カソード)及び銅(アノード)のような集電体と該集電体のそれぞれの活物質コーティングとの間のインタフェースを維持することは、性能及び稼働寿命改善にとって重要である。
【0004】
同様に、活物質コーティングを構成する様々な構成要素の間の機能的に有効なインタフェースを維持することも、性能及び稼働寿命改善にとって重要である。2つの「相」が境界を形成する場合にインタフェースが存在するが、これらの二相が相互に混合する方式は、それら二相の表面化学及びこのインタフェースが単位体積当たりに存在する程度に応じて変わることになる。ナノ粒子及びマイクロ粒子が関与する場合、粒径及び粒子分布、形状及び形態、並びに総表面積及び孔隙率が、混合の主要な決定要因(determinates)である。加えて、粒子の表面化学、例えば表面電荷の有無、密度及び分布、並びに全体的な疎水性と親水性とのバランスは、別の一連の主要なパラメータである。併せると、これらの要因は、様々な粒子が一様に分散した系又は十分に分散していない系を形成する程度を決定する。したがって、様々な溶媒(有機溶媒及び水性溶媒)中で様々なナノサイズ及びマイクロサイズの粒子の均質な混合物を形成することは、決して些細なプロセスではない。
【0005】
より小さな粒子を用いると、表面積/体積の比は増大し、表面特性が極めて重要となってインタフェースの特性及び凝集挙動の両方に影響を及ぼすようになる。明確に異なる表面特性を有する2以上の異なる粒子が含まれる場合、均質な複合材の形成は特に難易度が高い。高い剪断力が必要とされるのは、凝集状態のような(aggregated like)粒子を壊し、かつ最大の均質性を促すためであるが、これらはいずれもプロセスをさらに複雑にし、かつ所望の特性を備えた複合材調合物を再現性よく作出するコストを増大させる。
【0006】
ナノ複合材、又は固有の特性若しくは他の方法では実現するのが困難な特性を提供することが可能な多相材料の分野において、複合材の粒子、テープ、チューブ、シート、及びその他の構造要素の全体にわたり又はその内部において良好な均質性を得ることは重要である。そのような複合材の一例は、バッテリー又はキャパシタ及びスーパーキャパシタ、並びにその他のエネルギーの貯蔵及び転換システムのための、電気材料(electromaterials)の開発において見られる。シリコン及び炭素のナノ粒子の混合物をポリアクリル酸のようなバインダとともに所定の比率で含んでなる材料は、次世代アノードのために必要である。合金、コア-シェル構造体、多孔質構造体、及びナノ構造体のような様々なシリコン材料が開発されており、それぞれ異なる表面化学を有している。加えて、グラファイト、super-P(登録商標)カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、及びケッチェンブラック(KB)の形態の様々な炭素材料は、ある種の複合材料中への望ましい包含物として利用可能である。これらの材料の全てが広範囲にわたる疎水性-親水性の特徴を示すようになることが可能であり、またそのような多様な材料から確実にかつ予想どおりに均質な混合物を作出するための簡単な方法は、一般に利用可能なものではない。そのような材料の一例は、多種多様の工業的用途において有用な導電性ナノ複合材の一般領域にある。導電性複合材は、数あるなかでも特に、電気-光学デバイス、静電放電、導電性塗料、及び落雷保護に使用することができる。本発明は、前述の先行技術の短所のうちの少なくともいくつかに取り組むものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも一部には、様々な表面、電荷、大きさ、疎水性及びその他の特性の粒子が、ある種の金属配位錯体の存在下で、好都合に混合されてより確実に均質な複合材先駆物質調合物(composite precursor formulation)を形成することが可能であり、その結果形成される複合材料に改善された特性をもたらす、という発見に基づいている。1つのそのような重要な適用は、コーティングされていない活物質、集電体又はその他の材料インタフェース(interfaces)の使用を上回るいくつかの利点を有する、導電性複合材活物質インタフェースにおける金属配位錯体(metal-coordination complex)の存在である。そのような複合材料によって形成された導電性インタフェースにおけるバインダ又はコーティングとしての金属配位錯体の使用は、強度及び安定性の点で改善された粘着層を提供し、かつより効果的な導電性インタフェースを提供する。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、金属配位錯体がナノサイズ及びマイクロサイズの活物質の凝集を最小限とするように作用し、それにより様々な表面特性を有する様々な活物質を含んでなる混合物中の分散度及び相互作用を改善し、かつそれにより、より分散しており十分に分布した複合材先駆物質調合物及び該調合物から形成された複合材料を形成することが可能であると考えている。
【0008】
必ずしも最も広い態様ではないが第1の態様では、本発明は、複合材先駆物質調合物であって、(i)第1の活物質;(ii)第2の活物質;及び(iii)金属配位錯体を含んでなり、第1の活物質及び第2の活物質は互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、複合材先駆物質調合物に属する。
【0009】
1つの実施形態では、複合材先駆物質調合物は液体担体をさらに含んでなることができる。
液体担体は、水性溶媒若しくは有機溶媒、又はそれらの混合物であってもよいし、液体担体が液体の追加の活物質であってもよい。
【0010】
第2の態様では、本発明は、複合材先駆物質調合物を生産する方法であって、(i)第1及び第2の活物質を提供するステップであって、第1の活物質及び第2の活物質は互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、ステップと;(ii)金属配位錯体を提供するステップと;(iii)第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体を組み合わせることにより、複合材先駆物質調合物を形成するステップと、を含む方法に属する。
【0011】
1つの実施形態では、該方法は、第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体の組み合わされた混合物を撹拌するステップをさらに含むことができる。
第3の態様では、本発明は、複合材料であって、(i)第1の活物質;(ii)第2の活物質;並びに(iii)第1及び第2の活物質に結合しているか又は別のかたちで関連付けられている金属配位錯体を含んでなり、第1の活物質及び第2の活物質は、複合材料に形成される前は、互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、複合材料に属する。
【0012】
上記態様の1つの実施形態では、金属配位錯体は、例えばバインダのような仲介物質によって第1及び第2の活物質に関連付けられている。
複合材先駆物質調合物が液体担体を含んでなるいくつかの実施形態では、該方法は、液体担体を除去するステップをさらに含みうる。
【0013】
第4の態様では、本発明は、2以上の活物質の間、又は少なくとも1つの活物質と基材との間に、導電性インタフェース(conductive interface)を形成する方法であって、(i)少なくとも1つの活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方を金属配位錯体と接触させるステップと;(ii)活物質を混合するか、又は基材を少なくとも1つの活物質と混合するか若しくは少なくとも1つの活物質でコーティングして、それにより導電性インタフェースを形成するステップと、活物質のうちの少なくとも2つ又は活物質のうちの1つ及び基材は、互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有することと、を含む方法に属する。
【0014】
導電性インタフェースは、少なくとも部分的には第1の態様の複合材先駆物質調合物又は第3の態様の複合材料から形成されうる。
第5の態様では、本発明は、導電性インタフェースであって、(i)少なくとも2つの活物質及び該活物質に接触している金属配位錯体を含んでなる活物質複合材、又は(ii)基材と混合されたか若しくは基材上にコーティングされた活物質並びに該活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方に接触している金属配位錯体、を含んでなる導電性インタフェースに属する。
【0015】
第4及び第5の態様の任意の実施形態において、導電性インタフェースは、該インタフェースを通る電子及びイオンのうち少なくともいずれか一方の流れを提供するインタフェースである。
【0016】
第4及び第5の態様の1つの実施形態では、導電性インタフェースは電極又は半導体の一部である。
導電性インタフェースを形成する前、活物質のうち少なくとも2つは互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有する。
【0017】
1つの実施形態では、基材はセパレータであってよい。
好ましくは、第5の態様の導電性インタフェースは第4の態様の方法によって形成される。
【0018】
第6の態様では、本発明は、導電性インタフェースを含んでなる電極を製作する方法であって、(i)電極基材及び活物質を提供するステップと;(ii)電極基材及び活物質のうち一方又は両方を金属配位錯体と接触させるステップと;(iii)電極基材を活物質でコーティングすることにより電極を形成するステップと、を含む方法に属する。
【0019】
電極の導電性インタフェースは、少なくとも部分的には、第1の態様の複合材先駆物質調合物若しくは第3の態様の複合材料から、又は第4の態様の方法から、形成されうる。
上記の個々のセクションにおいて言及された本発明の様々な特徴及び実施形態は、必要に応じて、変更すべき点を変更すれば他のセクションにも当てはまる。従って、あるセクションにおいて指定された特徴は、必要に応じて、他のセクションで指定された特徴と組み合わせることができる。
【0020】
本発明のさらなる特徴及び利点は以降の詳細な説明から明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】以下のような銅の集電体上で実施された一連の接触角(θ)測定値を示す図。a.対照1(金属配位錯体の代わりに水を用いて処理)、b.pH4.5の金属配位錯体を用いて処理、c.pH5.0の金属配位錯体を用いて処理、d.対照2(金属配位錯体の代わりに水及びポリアクリル酸(PAA)を用いて処理)、e.pH4.5の金属配位錯体、及びPAAを用いて処理、f.pH5.0の金属配位錯体、及びPAAを用いて処理。
【
図2】以下のようなアルミニウムの集電体上で実施された一連の接触角(θ)測定値を示す図。a.対照1(金属配位錯体の代わりに水を用いて処理)、b.pH4.5の金属配位錯体を用いて処理、c.pH5.0の金属配位錯体を用いて処理、d.対照2(金属配位錯体の代わりに水及びポリアクリル酸(PAA)を用いて処理)、e.pH4.5の金属配位錯体、及びPAAを用いて処理、f.pH5.0の金属配位錯体、及びPAAを用いて処理。
【
図3】シリコン(1~3μm)及び炭素の粒子の複合材先駆物質調合物の一連のSEM像a~dであって、金属配位錯体を含むもの(a)COMPO 倍率×100、(c)COMPO 倍率×250、及び金属配位錯体を含まないもの(b)COMPO 倍率×100、(d)COMPO 倍率×250、を示す図。
【
図4】高容量LiNiCoMnO2及び炭素の複合材先駆物質調合物の一連のSEM像a~dであって、金属配位錯体を含むもの(a)COMPO 倍率×100、(c)COMPO 倍率×250、及び金属配位錯体を含まないもの(b)COMPO 倍率×100、(d)COMPO 倍率×250、を示す図。
【
図5】pH3.7の金属配位錯体調合物で処理されたシリコンナノ粒子のゼータ電位データを示す図。このpHでは、金属配位錯体はさほど安定したコーティングは形成せず、洗浄後には配位ポテンシャル(coordination potential)に乏しい部分的にコーティングされた粒子をもたらす。
【
図6】pH5.0の金属配位錯体調合物で処理されたシリコンナノ粒子のゼータ電位データを示す図。Si粒子は、負の電荷を有するSi-OH基の存在から予想されるように負のゼータ電位を有する。金属配位錯体は正の電荷を有し、効果的なコーティングにおいては負の電荷を有する粒子が正味の正の電荷を有する粒子を形成することができる。pH5.0に調整された金属配位錯体は、他の粒子又はバインダと配位する可能性がより高い、より安定した正の電荷を有するSiナノ粒子を生成する。
【
図7】シリコン(100nm)及び炭素の複合材先駆物質調合物の一連のSEM像(a~d)であって、金属配位錯体を含むもの(a)SEI 倍率×1000、(c)COMPO 倍率×250、及び金属配位錯体を含まないもの(b)SEI 倍率×1000、(d)COMPO 倍率×250、を示す図。
【
図8】Si(100nm)電極試料であって金属配位錯体を含むもの(c及びd)並びに含まないもの(a及びb)(試料は充電/放電サイクルを経ていない)についての表面形態及び電極構造における差を示している一連のSEM像(a~d)を示す図。
【
図9】Si(100nm)電極試料であって金属配位錯体を含むもの(c及びd)並びに含まないもの(a及びb)についての、何百回もの深い充電/放電サイクルの後の表面形態及び電極構造における差を示している一連のSEM像(a~d)を示す図。
【
図10】(a)金属配位錯体を用いずに形成された銅箔及び活物質のインタフェース、並びに(b)同様の方式で、ただし金属配位錯体を含めて形成された銅箔及び活物質のインタフェースの、断面SEM像を示す図。該SEM像は、0.5C(1C=4,200mAh/g)での1000回の深い充放電サイクルの後の解体されたハーフコインセルから得られた。
【
図11】(a)解体された電極であって金属配位錯体を用いずに形成されたもの、及び(b)解体された電極であって同様の方式で、ただし金属配位錯体を含めて形成されたものの写真を示す図。該写真は、0.5C(1C=4,200mAh/g)で1000回の深い充放電サイクルの後の解体されたハーフコインセルに由来する電極の構成要素を撮影したものである。
【
図12】金属配位錯体を用いて形成された、解体された電極の(a)100×、(c)250×、SEIモードでのSEM像、及び、金属配位錯体を用いずに同様の方式で形成された、解体された電極の(b)100×、(d)250×、SEIモードでのSEM像を示す図。画像は、0.5C(1C=4,200mAh/g)で1000回の深い充放電サイクルの後の、解体されたハーフコインセルに由来する電極を撮影したものである。金属配位錯体を含む試料の像は、ポリプロピレン/ポリエチレンの繊維で作製されたバッテリーセパレータに相当する毛髪様の構造を示している。対照的に、金属配位錯体が使用されなかった場合、セパレータの繊維はほとんど又は全く観察されなかった。
【
図13】1000回の深い充放電サイクル(0.5C、1C=150mAh/g)の後の解体されたハーフコインセルに由来する、金属配位錯体を備えたLiNiCoMnO2材料(a)及び対照試料(b)の写真を示す図。
【
図14】(a)金属配位錯体を用いて、及び(b)金属配位錯体を用いずに形成された、解体された電極の、100×、SEIモードでのLiNiCoMnO2材料のSEM像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のさらなる態様及び前述部分に記載された態様のさらなる実施形態は、例としてかつ添付図面に関連して与えられる以降の説明から明白となろう。
第1の態様では、本発明は、複合材先駆物質調合物であって、(i)第1の活物質;(ii)第2の活物質;及び(iii)金属配位錯体を含んでなり、第1の活物質及び第2の活物質は互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、複合材先駆物質調合物に属する。
【0023】
複合材又はナノ複合材(nanocomposite)という用語は、金属材料、金属間材料、メタロイド材料、炭素材料、セラミック材料及びポリマー材料のうち少なくともいずれかの任意の混合物を包含するように意図されている。最終的な複合品又は複合材料の形成に先立って一様に分散した懸濁物、スラリー又は混成物を形成するために最初に混合される時、その乾燥混合物又は液体ベースの混合物は本明細書中では複合材先駆物質調合物と呼ばれる。これらの調合物が最終的な物品又は材料へと変換されると、それらは本明細書中では複合材料又はそのような複合材料を使用して形成された複合品若しくは導電性インタフェースと呼ばれる。
【0024】
本明細書中で使用されるような用語「活物質(active material)」は、必ずというわけではないが、最終的な複合材料及び同複合材料を含んでなる導電性インタフェースのうち少なくともいずれか一方における導電性についての積極的な機能的役割という意味を含んでいる。加えて、又はその代りに、活物質は複合材料の強度、弾性、又は分割(partitioning)の特性に寄与する場合もある。別例として、活物質の積極的役割は、複合材料の形成より前の、複合材先駆物質調合物の範囲内にのみあってもよい。好ましくは、少なくとも1つの活物質は導電性に著しく寄与することになろう。1つの非限定的な例において、活物質は、シリコン及びグラファイト又はその他の炭素粒子のうち少なくともいずれかなど、電極のような導電性インタフェースの構成要素である材料であってよい。したがって、1つの実施形態では、活物質(第1の、第2の、又は追加の活物質)は微粒子であってよい。
【0025】
均質という用語は一般に、複合材先駆物質調合物を形成している十分に分散かつ十分に分布せしめられた第1及び第2の活物質について説明するように意図されている。
用語「導電性インタフェース(conductive interface)」は、活物質(第1及び第2のうち少なくともいずれか)並びに基材のうち少なくともいずれかの任意の配置構成であって、1つの材料が別の材料に直接隣接しているものを包含するように意図されている。いくつかの実施形態では、インタフェースは、1つの連続した材料であって、連続していても不連続であってもよい別の材料に直接隣接している材料を呈する。活物質又は基材のうちいずれかは、連続した材料であっても不連続な材料であってもよい。ある実施形態では、導電性インタフェースは、イオン及び電子のうち少なくともいずれか一方の流れを可能にするか又は促進するものとなろう。そのような導電性インタフェースの非限定的な1つの例は、シリコン、炭素、バインダ若しくは混合金属酸化物のような活物質の間、又はそのような活物質と、該活物質でコーティングされたその下にある銅若しくはアルミニウムのような集電体との間の、インタフェースである。別の例は、半導体材料と適切な基材との間の半導電性インタフェースの形成にある。
【0026】
1つの実施形態では、第1及び第2の活物質は、一方の少なくとも1つの表面特性が他方の活物質におけるその同じ表面特性とは本質的に異なっているという点で、互いに異なっている。活物質間で様々となりうる表面特性は、第1及び第2の活物質が互いの内部で容易に分散しないように、全体的な表面電荷、密度及び分布並びに大きさ及び分布、疎水性/親水性、ゼータ電位などの観点において呈することができる。1つの非限定的な例は、一方の活物質の表面特性が主として又はほぼ疎水性の表面をもたらし、他方が主として又はほぼ親水性の表面を呈する場合である。
【0027】
実施形態において、複合材先駆物質調合物の第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質は、金属、金属酸化物、セラミック、金属間化合物、メタロイド、粘土、炭素、並びに合成及び生体の両ポリマーで構成されている群から選択される。ある実施形態では、シリコンは好ましいメタロイドである。
【0028】
複合材先駆物質調合物から形成されるべき複合材料が、電極、又はその他の導電性インタフェース、特にアノードの一部を形成することになっている1つの非限定的な実施形態では、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質は、シリコン、スズ及び炭素のうち1以上から選択される。シリコンは、純粋なシリコン、その様々な酸化物(SiO、SiO2など)、その合金(Si-Al、Si-Snなど)、及び複合材(Si-C、Si-グラフェンなど)の形態であってよい。同様に、スズもその様々な適切な形態のうち任意の1以上であってよい。炭素は、グラファイト、super-P(登録商標)カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、及びケッチェンブラック(KB)のうち1以上から選択された1以上の炭素粒子の形態であることが好ましい。好ましくは、炭素はグラファイトの形態である。
【0029】
好ましくは、電極がカソードである場合、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質は、硫黄、LiFePO4(LFP)、混合金属酸化物であってコバルト、リチウム、ニッケル、鉄及びマンガンのうち少なくともいずれかを含有するもの、並びに炭素のうち1以上から選択される。炭素は、グラファイト、super-Pカーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、アセチレンカーボンブラック、及びケッチェンブラック(KB)のうち1以上から選択された1以上の炭素粒子の形態であることが好ましい。好ましくは、炭素はグラファイトの形態である。
【0030】
複合材先駆物質調合物は、複合材料を形成するための必要に応じて、1以上の追加の活物質を含んでなることも可能であり、かつその追加の活物質はそれぞれ、第1及び第2の活物質について説明された同じ群及び材料から選択可能である。例えば、複合材先駆物質調合物は、第3の活物質、第4の活物質、第5の活物質などをさらに含んでなることができる。
【0031】
第1及び第2の活物質、並びに任意の追加の活物質は、任意の形状のもの、例えば粒子、チューブ、糸状物、ナノケージ、ナノ複合材、ナノ織物、ナノ繊維、ナノ薄片、ナノフラワー、ナノフォーム、ナノメッシュ、箱状物(box-shaped)、ナノ粒子、ナノピラー、ナノピンフィルム(nanopin film)、ナノプレートレット、ナノリボン、ナノリング、ナノロッド、ナノシート、ナノシェル、ナノチップ、量子ドット、量子ヘテロ構造及び彫刻薄膜(sculptured thin film)であってよい。第1及び第2の、又は追加の活物質の形状又は形態が何であれ、それらのうち少なくとも2つは互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有することになり、その結果各々が典型的には、かつ特に金属配位錯体が存在しない状態では、均質な複合材の形成とは全く異なり自身と凝集する傾向を有することになろう。
【0032】
1つの実施形態では、追加の活物質は極性又は非極性のポリマーから選択されうる。
そのような極性及び非極性ポリマーは、水性溶媒又は有機溶媒の環境に混和性を有しうる。当然のことであろうが、そのようなポリマーを用いると、分子量が閾値を超えて増大すれば、該ポリマーは固体となり、かつそのような実施形態では、複合材先駆物質調合物は乾燥混合物であってよい、すなわち液体担体は存在しなくてもよい。
【0033】
したがって、当然のことであろうが、第1及び第2の活物質、並びに任意の追加の活物質は、金属配位錯体が存在する状態で、乾燥混合の環境、流体環境、水性溶媒の環境、及び有機溶媒の環境、又はこれらの混合物の中で、混合可能である。
【0034】
乾燥混合の環境は、1つの実施形態では、高分子量のポリマーが調合物の第1若しくは第2の活物質又は追加の構成要素のうちの1つとして存在する場合に、生じうる。別例として、乾燥混合の環境における混合は、第1又は第2の活物質のうちの1つが液体環境中で金属配位錯体と接触せしめられ、これがその後完全に乾燥されるために生じる場合もある。金属配位錯体でコーティングされた第1又は第2の活物質がその後、コーティングされていない第1又は第2の活物質とともに乾燥混合せしめられることも可能である。したがって、金属配位錯体それ自体は液体担体により提供される液体環境中で用いられるべきである一方、第1及び第2の活物質は、それらの活物質のうち一方又は両方の上に液体環境中で事前にコーティング済みの金属配位錯体が存在する状態で、乾燥混合されることが可能である。そのような手法は、本願の特許請求の範囲の範囲内にあると考えられる。
【0035】
流体環境は、1つの実施形態では、加熱された液体ポリマーが調合物の第1若しくは第2の活物質又は追加材料のうちの1つとして存在する場合に、生じうる。別例として、流体環境は、1つの実施形態では、調合物中に液体担体を含めることにより生じる場合もある。液体ポリマーが第1又は第2の活物質のうちの一方である場合、他方の活物質はその液体ポリマーとは異なる少なくとも1つの表面特性を示すことになり、かつ金属配位錯体を追加しなければ該液体ポリマーの中で凝集する傾向を有することになろう。
【0036】
複合材先駆物質調合物及び該調合物から形成される複合材料の形成における金属配位錯体の使用は、この態様では、混合物又はスラリーの均質性を改善し、かつ追加として、該複合材又はそれにより形成されるナノ複合材料の使用を必要とするデバイスの所望の特性を改善する可能性のある、混合強化剤の使用として考えることが可能である。特に導電性の複合材料又はナノ複合材料。そのような複合材料の例は、電極中、例えばバッテリー中、及びスーパーキャパシタのような導電性インタフェース中で使用される活物質の混合物である。例えばシリコン及び炭素の粒子を含んでなる、均質なスラリーであって、1以上のバインダのような他の活性物質を含むものは、より高いエネルギー密度、より速い充放電サイクルを含むアノードの性能の改善に必要な複合材を作製するため、かつより長い動作サイクル寿命を提供するために、必要とされる。明白なことであるが、均質性の不十分なスラリーは、不十分な活性複合材料及び不十分な導電性インタフェースのうち少なくともいずれか一方の原因となり、かつその結果として、この種のアノードの最適な性能に満たないことになり、そしてその結果バッテリーの全体的な性能の低下をもたらすことになる。
【0037】
実施形態において、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質粒子の表面に結合している金属配位錯体の層は、粒子間の凝集物(aggregate)及び集塊物(agglomerate)のうち少なくともいずれか一方を最小限にするために作用し、かつ調合物内の均質性を促進する。複合材又はナノ複合材内部の異なる活物質の間の架橋は、金属配位錯体の様々な粒子への結合若しくは直接的会合(directly associating with)に起因する場合もあれば、間接的には金属配位錯体と、調合物のさらなる構成要素、例えばバルクマトリックスとの間の相互作用に起因する場合もある。
【0038】
この点では、架橋相互作用は、金属配位錯体を介して活物質粒子とバルクマトリックスとの間に生じてもよい。1つの実施形態では、マトリックスは、第1及び第2の活物質粒子又は増量剤が埋め込まれている連続相として存在する、金属、セラミック又はポリマーであってよい。そのようなマトリックスは、本明細書中で仲介物質(intermediary agents)と呼ばれうる個々の構成要素を有しうる。ある実施形態では、そのようなマトリックス及び仲介物質はバインダであってよい。よって、ある実施形態では、第1又は第2の活物質に結合しているか又は会合している(associated with)金属配位錯体はさらに、バインダ部分のような仲介物質への供与結合(dative bond)も備えている。好ましいバインダ部分は、カルベン、窒素含有基、酸素含有基、及び硫黄含有基から選択されうる。より好ましくは、バインダ部分は酸素含有基である。最も好ましくは、バインダ部分は、カルボキシル、ヒドロキシル、及びカルボニルのうち少なくとも1つから選択される。金属配位錯体は、任意の隣接する粒子、増量剤、マトリックス又はバインダ材料及び第1又は第2の活物質との供与結合を形成し、かつそのような材料のうちのいずれか1つを他の材料のうちのいずれか1以上に架橋するための、表面を呈しうる。
【0039】
バインダが含まれる実施形態では、バインダはポリマーであってよい。金属配位錯体とバインダとの間に供与結合を形成することが望ましい実施形態では、好ましいポリマーは、アクリラート、カルボキシル、ヒドロキシル、及びカルボニル部分から選択された酸素化学種を含んでなるポリマーである。これらの基は、金属イオンとの供与結合を形成することができる。しかしながら、これらの基を持たない他のポリマーも個別の基準次第で有用な場合があり、例えば適切なポリマーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はスチレン-ブタジエンゴムであってもよい。いずれにせよ、金属配位錯体とバインダとの間に供与結合が望まれる場合は、バインダが、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸(PAA)、ポリ(メタクリル酸)、無水マレイン酸共重合体、例えばエチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルキトサン、天然多糖類、キサンタンガム、アルギナート、及びポリイミドから選択されることがさらに好ましい。最も好ましくは、バインダはPAAである。代替実施形態では、バインダ部分が窒素原子を含有することが望ましい場合、適切なポリマーはポリアクリロニトリルである。
【0040】
当業者には明らかであろうが、複合材の様々な構成要素の比率は、均質な複合材先駆物質調合物の形成を制限するものではない。一方では、比較的低い割合(%)の、ナノ粒子/ナノ増量剤としての第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質を、バルクマトリックスに加えることが可能である。他方では、1つ、2つ、3つ又はそれ以上の異なる種類の活物質が、複合材先駆物質調合物の大部分を構成することもできる。後者の場合、補足のバインダは複合材のうち比較的低い割合(%)であってよい。1つの実施形態では、バインダは金属配位錯体を介した複合材の形成に必須ではない。
【0041】
用語「粒子」又は「微粒子」は一般に、一連の様々な形状の材料を包含するように意図されている。粒子は、任意の形状のもの、例えば、限定するものではないが球体、円柱、桿状体、ワイヤ、チューブであってよい。粒子は多孔性であってもよいし、非多孔性であってもよい。
【0042】
好ましくは、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子はナノサイズ又はミクロンサイズである。用語「ナノサイズ」は、約1nm~約1000nmの数平均粒子径を包含するように意図されている。用語「ミクロンサイズ」は、約1μm(1000nm)~約50μm(50,000nm)の数平均粒子径を包含するように意図されている。「ナノサイズ」の粒子の場合、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子は、ナノ形状の微粒子材料、例えばナノ粒子、炭素、シリコン又はその他のナノチューブ、グラフェンシート、シリコン、炭素及びその他のナノ複合材、ナノロッド、ナノワイヤ、ナノアレイ、コアシェル型ナノ構造体並びにその他の中空ナノ構造体である。粒子はほぼ球状の形状であることが一般に好ましいが、形状に従って、複合材及び先駆物質調合物の内部におけるそのようなナノサイズ材料の分布は、ある一定の混合条件を前提としても変化することになることを、理解することができる。粒子がますます小さくなれば、表面/体積の比は増大してインタフェース特性及び凝集挙動に影響を及ぼす。
【0043】
好ましくは、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子は、少なくとも10nmの数平均粒子径を有する。より好ましくは、粒子は少なくとも30nmの数平均粒子径を有する。さらにより好ましくは、粒子は少なくとも50nmの数平均粒子径を有する。最も好ましくは、粒子は少なくとも70nmの数平均粒子径を有する。
【0044】
好ましくは、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子は、50,000nm以下の数平均粒子径を有する。より好ましくは、粒子は10,000nm以下の数平均粒子径を有する。さらにより好ましくは、粒子は5000nm以下の数平均粒子径を有する。最も好ましくは、粒子は3000nm以下の数平均粒子径を有する。
【0045】
当然のことながら、粒子は、約1、10、30、50、又は70nmのうちのいずれか1つから選択された低値域(lower range)と;約50,000、10,000、5000、又は3000nmのうちのいずれか1つから選択された高値域(upper range)とを有する数平均直径を有する。最も好ましくは、数平均直径は所望の改善点に従って100nm~5,000nmの範囲内にある。
【0046】
同じく当然のことであるが、複合材先駆物質調合物及び複合材料は、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質が固体微粒子として提供されるもの以外も企図される。例えば、活物質は多孔性構造又は繊維構造を有してもよい。この実施形態では、活物質の表面は、金属配位錯体によって少なくとも部分的にコーティングされる。
【0047】
さらに別の実施形態では、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の表面は、ナノ構造又はナノパターンのフィーチャ(features)を示す。用語「ナノパターン」は、1~1000nmの範囲の大きさのフィーチャを包含するように意図されている。これらの実施形態では、これらのナノ構造又はナノパターンのフィーチャの表面は、金属配位錯体で少なくとも部分的にコーティングされる。
【0048】
1つの実施形態では、複合材先駆物質調合物は液体担体をさらに含んでなることができる。
液体担体は、水性溶媒若しくは有機溶媒、又はこれらの混合物であってもよいし、液体担体が液体の追加の活物質であってもよい。
【0049】
1つの実施形態では、液体担体は水性溶媒又は有機溶媒ベースの液体担体である。液体担体の特質は、多様な液体溶媒が様々な活物質について適切であろうことから、本発明の範囲を特に限定するものではない。ある実施形態では、(室温で)液体のケトン、アルコール、アルデヒド、ハロゲン化溶媒及びエーテルが適切であるかもしれない。1つの好ましい実施形態では、アルコール又は水/アルコールの液体担体が好ましい。適切であるようなアルコールには、メタノール、エタノール、及びイソプロパノールが挙げられる。
【0050】
第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の上又は周りにできる金属配位錯体の層は、混合中に、複合材先駆物質調合物の様々な材料及び任意選択の他の構成要素の分散及び分布を改善するように作用すると考えられる。1つの実施形態では、この混合は、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の表面上の配位子として作用することができる官能基との供与結合を形成する。金属配位錯体コーティングは、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の表面化学、例えば表面電荷の存在の有無、密度及び分布、並びに全体的な疎水性及び親水性のバランスを、その2者の間のいかなるインタフェースにおける差異も最小限にするように、変化させる。
【0051】
複合材先駆物質調合物の内部、及びそれにより形成された複合材料の内部の、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の分散及び分布の改善が本明細書中に示されて、1つの実施形態ではバッテリー性能を向上させ、例えばより高いエネルギー密度、より高速の充放電サイクルを提供し、かつより長いサイクル寿命を提供している。しかしながら、当然のことであろうが、本発明は電極用の複合材料の形成における使用にのみ限定されるものではなく、性質が異なっており他の方法では自然に均質な混合物を形成しないような多種多様の第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質を含んでなる、均質な導電性複合材先駆物質調合物の形成の促進において、より全般的な適用可能性を有している。
【0052】
第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の表面化学をより疎水性の高いものに変える必要がある場合、配位性の配位子であって導電性の疎水性配位子(R-X)になることができる配位子を、金属配位錯体上で利用できるようにすることが可能であり、ここでXは金属イオンに対して配位し、そしてXはその金属イオンとの配位結合を形成することができる任意の電子供与性基であってよい。より疎水性の高い表面化学の形成を支援するために、「R」は、好ましくは潜在的に導電性でもある疎水基である必要があり、かつ任意の共役ポリマー、そのようなポリマーの短鎖のもの、又は多共役小分子(polyconjugated small molecule)は、金属配位錯体を疎水性表面に結合させるための疎水性配位子として作用することが可能であって、この疎水性/導電性配位子は、非共有結合性かつ非配位性の相互作用によって疎水性表面に結合し、残りの金属配位部位は、導電材料を結合するための配位層を生じるために利用可能である。別例として、そのようなポリマーの短鎖のもの又は小分子が、金属配位錯体と導電材料との間の導電性インタフェースとして作用することも可能である。
【0053】
そのようなポリマーの例は、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(poly(3,4-ethyylenedioxythiophene))、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリナフタレン及びこれらの共重合体である。これらのポリマー及び共重合体の小分子先駆物質、並びにより短いオリゴマーユニット(二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体など)が好ましい。
【0054】
上記の第1の態様の説明から十分に理解されるであろうが、そのように限定はされないものの、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質は、組み合わさって導電性複合材料を、例えば、例として電極のような導電性インタフェースを形成するのに適した材料を、形成することが可能な材料であることが好ましい。
【0055】
第2の態様では、本発明は、複合材先駆物質調合物を生産する方法であって、(i)第1及び第2の活物質を提供するステップであって、第1の活物質及び第2の活物質は互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、ステップと;(ii)金属配位錯体を提供するステップと;(iii)第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体を組み合わせることにより複合材先駆物質調合物を形成するステップと、を含む方法に属する。
【0056】
第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体は、先に記載されたように、乾燥混合されてもよい。
1つの代替実施形態では、該方法は、第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体を液体担体中で組み合わせるステップを含む。
【0057】
液体担体は、第1の態様について先に記載されたとおりであってよい。
1つの実施形態では、該方法はさらに、第1及び第2の活物質並びに金属配位錯体の組み合わされた混合物を撹拌するステップを含む。
【0058】
撹拌は、振盪、機械混合、回転撹拌(rotating)、かき混ぜ撹拌(stirring)、遠心式撹拌(centrifuging)などであってよい。
十分理解されるであろうが、第1及び第2の活物質は液体担体に任意の順序で添加されてよく、かつ、金属配位錯体が液体担体に添加されるときに液体担体中にどちらも存在しなくてもよいし、一方又は両方が存在していてもよい。すなわち、第1及び第2の活物質が金属配位錯体と接触すると同時に液体担体中にあり、次いで適切な均質な複合材先駆物質調合物が生じうる限り、添加の順序は何であってもよい。
【0059】
ある実施形態では、金属配位錯体は、凝集の前に第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子に適用されるが、その場合、第1及び第2のうち少なくともいずれか一方の活物質の粒子の表面の少なくとも一部分が金属配位錯体でコーティングされる。好ましくは、粒子は金属配位錯体によって被包される。
【0060】
代替実施形態では、金属配位錯体は、混合並びに第1及び/又は第2の活物質のうち一方の粒子のうち少なくとも一部の凝集の後に導入されてもよい。この場合、第1及び/又は第2の活物質のうち他方の粒子の表面の少なくとも一部分が、金属配位錯体でコーティングされる。好ましくは、他方の粒子は金属配位錯体によって被包される。
【0061】
第3の態様では、本発明は、複合材料であって、(i)第1の活物質と;(ii)第2の活物質と;(iii)第1及び第2の活物質に結合しているか又はその他の方法で関連付けられている金属配位錯体とを含んでなり、第1の活物質及び第2の活物質は、複合材料へと形成される前には、互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有している、複合材料に属する。
【0062】
上記態様の1つの実施形態では、金属配位錯体は例えばバインダのような仲介物質を介して第1及び第2の活物質に会合されている。
第3の態様の複合材料は、少なくとも部分的に、第1の態様の複合材先駆物質調合物から形成されうる。
【0063】
当業者は十分理解するであろうが、そのような複合材料又はナノ複合材料は、1つの非限定的な実施形態では、導電性インタフェースの少なくとも一部を形成するために使用可能である。1つの実施形態では、複合材先駆物質調合物は、アノード又はカソード電極のうち一方又は両方を形成するために使用可能であり、かつ、第1の態様について先に記載されたもののような1以上の活物質であって典型的には一方のために使用される活物質から、形成されうる。したがって複合材料は、この実施形態では、電荷を収集する基材上のコーティングのような、電極の構成要素であるということになる。アノードであれカソードであれ、金属配位錯体の使用は電極材料の均質性を改善するが、このことは、そのようなナノ複合材を使用するバッテリー及び他のエネルギー貯蔵デバイスの性能及びバッチ再現性の改善をもたらすと考えられる。
【0064】
金属配位錯体が自身と結合している活物質に付与する弾性、及び金属配位錯体の固有の導電性は、それを導電性インタフェースにおける特定の効能に付け加える。
第4の態様では、本発明は、2以上の活物質の間、又は少なくとも1つの活物質と基材との間に、導電性インタフェースを形成する方法であって、(i)活物質のうち少なくとも1つ及び基材のうち少なくともいずれか一方を、金属配位錯体と接触させるステップと;(ii)活物質を混合するか、又は基材を少なくとも1つの活物質と混合するか若しくは少なくとも1つの活物質でコーティングし、それにより導電性インタフェースを形成するステップと、活物質のうち少なくとも2つ又は活物質のうちの1つ及び基材は、互いに異なる少なくとも1つの表面特性を有していることと、を含む方法に属する。
【0065】
第5の態様では、本発明は、導電性インタフェースであって、(i)少なくとも2つの活物質及び該活物質と接触している金属配位錯体を含んでなる活物質複合材;又は(ii)基材と混合されたか又は基材上にコーティングされた活物質並びに該活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方と接触している金属配位錯体、を含んでなる導電性インタフェースに属する。
【0066】
以下の注釈は第4及び第5の態様に等しく当てはまる。
十分理解されることであろうが、第4の態様の方法は、第1の態様の複合材先駆物質調合物を使用することにより生じうる。すなわち、該方法が少なくとも2つの活物質から導電性インタフェースを形成する場合、それらの活物質は、第1の態様について説明されたように、互いに異なる表面特性を有することになる。第4の態様の方法が1つの活物質及び基材を使用する場合、該活物質は好ましくは、基材のものとは異なる少なくとも1つの表面特性を有することになろう(したがって基材はこの態様における特別な種類の活物質であると見なすことが可能である)。
【0067】
さらに、導電性インタフェースが第4の態様の方法によって形成される場合、該導電性インタフェースは第3の態様の複合材料から形成されるか又は該複合材料を含んでなることができる。すなわち、該導電性インタフェースは、金属配位錯体とともに複合材料を形成する第1及び第2の活物質(そのうちの1つはこの態様では基材である)を含んでなることができる。この実施形態では、複合材料は導電性であってそれにより導電性インタフェースを形成する。
【0068】
第4及び第5の態様の任意の実施形態において、導電性インタフェースは、該インタフェースを通る電子及びイオンのうち少なくともいずれか一方の流れを提供する導電性インタフェースである。
【0069】
第4及び第5の態様の1つの実施形態では、導電性インタフェースは電極又は半導体の一部である。
好ましくは、第5の態様の導電性インタフェースは第4の態様の方法によって形成される。
【0070】
金属配位錯体のコーティングが活物質若しくは基材のいずれに施されるかにかかわらず、又はコーティングが活物質若しくは基材のいずれかとの接触に先立って何らかの補足のバインダ材料に施されるべきであるとしても、形成される導電性インタフェースは、金属配位錯体を含めずに形成された同一のインタフェースと比較して、より強固であり、かつ/又は使用時に優れた導電性を維持する。
【0071】
上記の態様のうちいずれに関しても、概ね、金属配位錯体は、配位子によって占められる1以上の配位部位と、導電性インタフェースの活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方に結合するために利用可能な1以上の配位部位とを有する金属イオンを備えている。
【0072】
好ましくは、金属配位錯体は、金属配位錯体が該錯体の金属イオンに供与結合した少なくとも1つの配位子を備え、かつ金属イオンは活物質の表面への供与結合を有するように、活物質上にコーティングされる。
【0073】
1つの実施形態では、金属配位錯体は、導電性インタフェースのさらなる構成要素への供与結合を形成することができる。そのようなさらなる構成要素には、集電体、さらなる活物質又はバインダ材料が挙げられる。構成要素の特質にかかわらず、金属配位錯体は、導電性接着インタフェースを形成するためにそのような材料表面との供与結合を形成する能力を有するであろう。金属及びプラスチックのようないくつかの材料は供与結合を形成する潜在能力を持たないと考えられているが、それらは通常、酸素含有雰囲気中に存する結果としてその表面に酸素化学種を有することになる。
【0074】
1つの実施形態では、基材はセパレータであってよい。セパレータは、電極間を隔てるために一般的に使われるような、ポリプロピレン又は他の材料で構築されうる。
さらなる実施形態では、追加の基材が存在してもよく、かつ、1つの実施形態では、追加の基材は現行のバッテリーにおいて知られるようなさらなるセパレータであってよい。
【0075】
セパレータは、不織繊維、ポリマー、ポリマーフィルム及び天然に存在する物質を含んでなることができる。1つの実施形態では、セパレータは、綿、ナイロン、ポリエステル、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、PVC、ゴム、アスベスト及び木材で構成されている群から選択されうる。
【0076】
好都合には、第4及び第5の態様に関して、活物質の粒子の周りの金属配位錯体のコーティングは、電極を形成するために電荷収集電極基材の上にコーティングされた時、電気化学電池において典型的に使用される、電荷を担持する小さなリチウムなどのイオンのような電解質の、周期的インターカレーションの結果としてシステムにかかる負担にもかかわらず、導電性インタフェースを維持するために作用する。すなわち、金属配位錯体コーティングは、活物質の表面を集電体へと効果的に架橋し、かつ活物質間の接触の劣化及び瓦解を最小限にするか又は防止することにより、活物質の伸縮に関連したストレス及び負担を緩和するために作用する。この予想外の効果は、より高いエネルギー密度、より高速の充放電サイクルを有している活物質について長いサイクル寿命を提供することができる。
【0077】
活物質のそのようなコーティングは、導電性インタフェースを形成しているときに、他の材料との活物質の接触面(interface)においてより強固な粘着層を形成するためにはこれまで使用されてこなかったが、このことは、活物質の物理的寸法の変化、例えば周期的な膨張及び収縮などが生じるかもしれない場合には特に望ましい必要条件である。さらに、アルミニウム、銅及び銀のような導電性金属は、その表面が容易に酸化する可能性があり、酸化した層は導電性に乏しくなることになる。さらに、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリンなどのような導電性ポリマーは、適切な官能性の欠如により結合相互作用を容易には形成しない。受動的結合とは対照的に、一貫して導電性を維持することができる金属配位錯体を使用する場合に形成される強力な結合インタフェースは、所定の電子及びイオンのうち少なくともいずれか一方の流れを必要とする多くの用途において望ましい。
【0078】
1つの実施形態では、基材は活物質と混合されてもよい。金属配位錯体は、基材及び活物質のうちいずれか一方又は両方に対して施用済み又は接触済みであってよい。例えば、基材はセパレータを形成するためのポリプロピレン繊維であってもよい。これを、活物質と混合するか又は他の方法で接触させる前に、金属配位錯体と接触させることができる。
【0079】
実施形態において、活物質の粒子は金属配位錯体によって少なくとも部分的にコーティングされる。しかしながら、代替実施形態では、活物質の粒子は金属配位錯体によってほぼ完全に覆われる。導電性インタフェースを形成している活物質若しくは基材のうち一方若しくは他方のどちらが最初に金属配位錯体でコーティングされるかということ、又は、インタフェースが金属配位錯体の適用に先立って形成されるということは、重要ではない。先に議論されたように、金属配位錯体の供与結合はインタフェースの安定性を増強しており、これはいくつかの方法で形成可能である。
【0080】
第4の態様の1つの実施形態では、(1以上の)活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方は、(1以上の)活物質が混合されるか又は活物質が基材上にコーティングされる前に金属配位錯体と接触せしめられる。金属配位錯体は、基材上への活物質のコーティングの後に活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方と接触させてもよいが、活物質及び基材のうち少なくともいずれか一方、特に活物質を、基材上への活物質のコーティングに先立って金属配位錯体と接触させることが好ましい。
【0081】
ある実施形態では、導電性インタフェースは、導電材料と、多孔性構造又は繊維構造を含んでなることにより電解質中のイオン又は電子の移動を可能にする非導電材料とを含んでなることができる。活物質又は基材のいずれかが、そのような導電材料又は非導電材料から形成されてもよい。
【0082】
本明細書中におけるほとんどの議論は1つの活物質が異なる活物質と混合されるか又は基材上にコーティングされることに関するものであるが、当業者には明らかであろうように、これらの実施形態は典型例であり、本発明の範囲を限定するようには意図されていない。例えば、第1及び第2の活物質並びに基材、第2及び第3の活物質並びに基材、第3及び第4の活物質並びに基材などを含んでなる多数のインタフェースも含まれうることは理解されるであろう。第1の活物質又は基材が金属配位錯体でコーティングされるが、第2、第3、及び第4の活物質、並びに基材のうち少なくともいずれかが、コーティング又は非コーティングの任意の組み合わせで導電性インタフェースの一部として存在することができることは、十分理解されるであろう。1、2、3又はそれ以上の層を構成している活物質及び基材は、少なくとも1つのインタフェースが上述の方式で金属配位錯体の供与結合によって安定化される限りは、用途によって必要とされるような任意の形状(フィルム、ストリップなど)及び厚さであってよい。
【0083】
金属配位錯体は、活物質上にコーティング又は施用されてその活物質の表面上に薄いフィルムを形成することができる。フィルムは単層として形成されうる。しかしながら、必要であればより厚いフィルムも調製可能である。使用される調合物に応じて、これらのコーティングの厚さを増大させることができる。これは、例えば活物質の表面上に金属配位錯体の格子を形成するように、より厚い金属配位錯体の層を形成することにより、及び/又は、活物質の表面上に多層のラミネート構造を形成するために追加の金属配位錯体、ポリマー、若しくはバインダのようなさらなるコーティング層を施すことにより、達成されうる。追加のコーティング層は全体的なコーティングの特性を変更するのに有用な場合がある。よって、活物質、及び導電性インタフェースを含んでなる構造体の特性は、金属配位錯体の層の厚さを制御することにより調整可能である。
【0084】
1つの実施形態では、活物質又は基材のいずれかの上に形成された金属配位錯体の層は、厚さ約250nm未満、好ましくは約100nm未満、より好ましくは約50nm未満、さらにより好ましくは約20nm未満、さらにより一層好ましくは約10nm未満、及び最も好ましくは約5nm未満である。
【0085】
金属配位錯体は、好ましくは(1以上の)活物質の表面上の任意の電子供与性基に配位して、金属配位錯体を該活物質に結合させることが可能である。従って、少なくとも1つの活物質は電子供与性基を有する表面を備え、かつ金属配位錯体層の金属イオンは、本明細書中に説明されるように、供与結合を介して活物質の上記電子供与性基に結合する。
【0086】
ある実施形態では、活物質は、粒子の集合の形態である。この集合はスラリーを形成するために処理されうるが、該スラリーはバインダを含んでもよく、かつ続いて銅、アルミニウム又は別の導電性若しくは半導電性の基材のような、連続した基材表面に適用されうる。活物質又は基材は、議論されるように非導電性であってもよいが、その構造(例えばその孔隙率)は電子及びイオンのうち少なくともいずれか一方の拡散を可能にする。金属配位錯体は、活物質スラリー及びバインダと混合することが可能であり、かつそのようにして活物質粒子の周りにコーティング又は層を、該粒子が利用可能でありかつ追加としてバインダが、及び基材へのコーティング後には基材表面が利用可能な、結合を備えて形成する。
【0087】
当業者であれば、導電性インタフェースが電極の一部である場合、該電極はアノード又はカソードであってよく、かついずれかのために一般に使用される材料(活物質及び基材を形成するもの)から形成されうることを十分理解するであろう。いずれの場合も、活物質は、表面、典型的には活物質の粒子によって提示される表面を備え、かつ金属配位錯体の金属イオンは、その表面との供与結合を形成することができる。好ましくは、活物質の表面は、供与結合の形成のための孤立電子対を有している、窒素、酸素、硫黄、ヒドロキシル、又はカルボン酸の化学種を含んでなる。最も好ましくは、表面は酸素化学種を備えている。酸素化学種は一般的に好ましく、活物質の表面は、必要な場合に酸化物層を備えるために容易に酸化可能であるか、又は機能上は酸化物と見なすことができる。よって、好ましい実施形態では、活物質の表面は酸化物であるか又は部分的に酸化された表面である。
【0088】
実施形態において、基材は、金属、金属間化合物、メタロイド、多孔質ポリマー及び導電性ポリマーで構成されている群から選択されうる。好ましくは、基材は、アルミニウム、銅、銀、金、白金、鉄、亜鉛、ニッケル、及びこれらの合金又は導電性ポリマー若しくはその他の導電材料で構成されている群から選択される。適切な導電性ポリマーには、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリピレン、ポリアズレン、ポリナフタレン及びこれらの共重合体が挙げられる。好ましくは、導電性インタフェースが電極の一部である場合、電極がアノードであるときは基材は銅であり、かつ電極がカソードであるときはアルミニウムである。
【0089】
導電性インタフェースが半導体配置構成物の一部である場合、(1以上の)活物質は2以上の元素を含んでなる任意の適切な半導体材料から形成されうる。1つの実施形態では、元素のうち少なくとも1つは、インジウム、アルミニウム及びガリウムで構成されている群から選択されたIII族元素であり、別の1つは、窒素、リン、ヒ素及びアンチモンで構成されている群から選択されたV族元素であってよい。ある実施形態では、活物質はIII族の窒化物、III族のヒ化物、III族のヒ化窒化物又はIII族のヒ化-リン化物である。ある実施形態では、活物質はそれぞれ、窒化ガリウム、窒化インジウムガリウム、窒化アルミニウムインジウムガリウム、窒化インジウムアルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、ヒ化インジウムガリウム、ヒ化窒化インジウムガリウム、ヒ化窒化アルミニウムインジウムガリウム リン化インジウムガリウム、ヒ化リン化インジウムガリウム、ヒ化リン化インジウム、ヒ化インジウムアルミニウム、ヒ化インジウムアルミニウムガリウム、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、酸化タンタル、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、ホウ素でドープされた結晶シリコン及び非晶質シリコン、リン及びヒ素、並びに銅、アルミニウム、金、銀及びこれらの合金で構成されている群から選択される。
【0090】
半導体配置構成物に適している基材には、サファイア、亜鉛、ガラス及びその他のシリコン系基材が挙げられる。いくつかの半導体チップが1つの組み合わせシステムを形成するためにともに積層される場合、基材上の活物質は、順番に、次に入って来る活物質の基材になることができる。
【0091】
半導体用途における、先述のような金属-配位子錯体を含んでなる本発明の導電性(この用語は明確に半導体インタフェースを含む)インタフェースの潜在的な用途及び利点には、限定するものではないが、(i)チップ裏面(例えばアルミニウム、銅、アルミニウム銅、金、又は裸の結晶シリコン及び非晶質シリコン、GaN、GaAsのような材料)とPVC箔との間の粘着層としての使用;(ii)2つの稼働物(actives)(例えば2以上の半導体チップ、すなわちチップ・オン・チップアセンブリ)の間の導電材料として;並びに(iii)セラミック又は銅の基材と半導体裏面との間の接着促進剤として、が挙げられる。
【0092】
本明細書中に記載された態様のうち任意の1以上の、1つの実施形態では、活物質がシリコンナノパウダー及び導電性カーボンブラックの両方を含んでなるとき、基材は任意選択で銅箔ではない可能性がある。
【0093】
さらなる実施形態では、活物質がバインダをさらに含んでなる場合であってひいては活物質がシリコンナノパウダー及び導電性カーボンブラックの両方を含んでなりかつ基材が銅箔である場合、バインダは任意選択でポリアクリル酸(PAA)ではない可能性がある。
【0094】
本発明の1つの実施形態では、任意選択で第1及び第2の活物質のどちらもメタロイドではない。
十分理解されることであろうが、導電性インタフェースの構成要素として、例えば電極内部で又は電極セパレータインタフェースを備えて使用される金属配位錯体は、動作において、また特に活物質の接着又は下層にある基材へのインタフェースの接着を改善するために、ある一定の利点を備えている。様々な実施形態において、第4の態様に従って形成された導電性インタフェースは、(i)活物質相互及び下層にある基材への活物質の物理的接着又は結合を改善すること;(ii)導電性インタフェースにおけるイオン伝導率及び電気伝導率を改善又は増大すること;(iii)活物質の安定性を改善又は維持すること;(iv)ある種の電極材料の溶解度を減少させること;(v)バッテリーのサイクル寿命を長くすること、並びに(vi)全体的なバッテリー廃棄物を低減すること、が可能である。
【0095】
第4及び第5の態様は、ここではシリコンアノード内での導電性インタフェースの形成について特に言及して説明されることになる。しかしながら、十分理解されることであろうが、基本的概念は、限定するものではないがインタフェースにおける接着及び導電性の維持が重要な様々な用途に使用される構造物の任意の他の導電性インタフェースに適用可能である。
【0096】
金属配位錯体を備えたシリコンアノードは、様々な方法で生産することができる。例として、シリコンアノードスラリーのための1つの生産方法では、3つの構成要素すなわち(i)シリコン粒子、(ii)炭素/グラファイト粒子、及び(iii)ポリアクリル酸(PAA)のようなバインダ、が用いられる。スラリーはその後、集電体に結合せしめられる。金属配位錯体がシリコン粒子に添加されて活性化シリコン材料を形成することが可能であり、該材料はその後、炭素粒子及びPAAと組み合わされてもよい。別例として、又は追加として、炭素粒子が金属配位錯体を用いてコーティングされ、次いでシリコン粒子及びPAAと組み合わされてもよい。別例として、金属配位錯体がバインダに添加されて金属-配位子-バインダ複合体を形成してもよく、該複合体はその後、シリコン及び炭素粒子と組み合わされる。別例として、金属配位錯体は、シリコン粒子、炭素粒子、及びPAAの先在する混合物に直接添加されて、該混合物と混合されてもよい。別例として、シリコン粒子及び炭素粒子及び/又はバインダが全て金属配位錯体でコーティングされてもよく、かつ、任意選択で、異なる特質の金属配位錯体が、コーティングされている特定の活物質に応じて使用されることも可能である。
【0097】
同様に、金属配位錯体を伴ったスラリーの集電体への結合において、集電体それ自体が1以上の金属配位錯体であらかじめ活性化されてもよい。
シリコン系アノードの場合、金属配位錯体が隣接した原子との供与結合を形成する能力は、動的な化学的環境においてそれらの結合を形成及び再形成する能力を備えた安定した構造を生じさせる。アノード及びカソード電極はいずれも、それらの電極を構成する活性粒子の内部にリチウムイオンが出入りすることを可能にする。挿入(又はインターカレーション)の際、イオンは電極の中へ移動する。逆のプロセスである脱離(又はデインターカレーション)の際、イオンは電極の外へ移動する。リチウムイオン系電池が放電している時、正のリチウムイオンは負電極(この場合はシリコン系)から移動し、正電極(リチウム含有化合物)に入る。電池が充電している時は、逆のことが生じる。
【0098】
次に、明白なことであろうが、電荷を増大させている時、シリコンはリチウムイオンを蓄積するために膨張しなければならない。リチウム吸収に伴う膨張は、高容量リチウムイオンアノード材料を設計する時には常に課題であった。シリコンはリチウムイオン蓄積材料の中で最も高い容量を有する(has amongst the highest capacity)が、完全に充電された時にはその体積の3~4倍に膨張する。この膨張はアノード内の電気接触を急速に破壊する。本明細書中に記載されるような金属配位錯体は、シリコンアノード材料の様々な構成要素の間に配位力を形成する。この結合の組み合わせは活物質内の伸縮に抵抗することができると考えられている。さらに、伸張時にこれらの配位結合のうちの一部の破損があっても、配位結合は収縮後に再形成することができる。加えて、同じ利点は活物質及び集電体の導電性インタフェースにも当てはまり、集電体からの活物質の剥離を防止する。従って、第4の態様は、より高い安定性及び長寿命の電極を形成するために使用されうる導電性インタフェースを提供する。さらに、金属配位錯体は、電子が自由に移動するように促進する。
【0099】
金属配位錯体コーティングの利点はアノードに限定されない。優れた導電性インタフェースを維持することを中心とした同じ課題はカソードにも直面し、上述の金属配位錯体の使用の利点はさらに、より有効なカソード性能をも可能にする。
【0100】
金属配位錯体、関連する配位子及びその結合に関する次の注釈は、第1~第6の態様全てに当てはまる。
実施形態において、金属配位錯体の金属イオンは、クロム、ルテニウム、鉄、コバルト、アルミニウム、ジルコニウム及びロジウムで構成されている群から選択される。
【0101】
好ましくは、金属イオンはクロムである。
金属イオンは任意の適用可能な酸化状態で存在しうる。例えば、クロムは次の酸化状態I、II、III、IV、V、又はVIを有することが知られている。
【0102】
金属イオンがクロムイオンである実施形態では、クロムはIIIの酸化状態を有することが好ましい。
金属イオンは、対イオン、例えばクロリド、アセタート、ブロミド、ニトラート、過塩素酸、アラム、フルオリド、フォルマート、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロホスファート及びスルファートで構成されている群から選択されたアニオンと会合していてもよく、対イオンは配位性であってもよいし非配位性(弱配位性)であってもよい。1つの実施形態では、対イオンは非配位性アニオンである。別の実施形態では、対イオンは配位性アニオンである。
【0103】
ある実施形態では、異なる金属イオンの混合物が、例えば、複数の異なる金属配位錯体を形成するために使用されてもよい。そのような場合、少なくとも1つの金属イオンはクロムであることが好ましい。
【0104】
金属は一連の金属配位錯体を形成することが知られている。金属配位錯体を形成するための好ましい配位子は、供与結合を形成する基として窒素、酸素、又は硫黄を含む配位子である。より好ましくは、供与結合を形成する基は酸素又は窒素である。さらにより好ましくは、供与結合を形成する基は酸素含有基である。さらになおより好ましくは、酸素含有基は、酸化物、水酸化物、水、スルファート、ホスファート、又はカルボキシラートで構成されている群から選択される。
【0105】
金属配位錯体はさらに、個々の錯体の金属イオンを互いに交差結合してより大きなオリゴマー状金属配位錯体を形成することにより安定させることも可能である。よって、1つの実施形態では、金属配位錯体はオリゴマー状金属配位錯体である。好ましくは、オリゴマー状金属配位錯体はクロム(III)のオリゴマー状金属配位錯体である。
【0106】
1つの実施形態では、金属配位錯体は、配位子として、少なくとも2つの金属イオンに供与結合している架橋化合物を含んでなる。好ましくは、これはオリゴマー状金属配位錯体の形成をもたらす。
【0107】
ある実施形態では、様々な配位子の混合物が1又は複数の金属配位錯体を形成するために使用されてもよい。様々な配位子は、様々な機能、例えば、複数の異なる金属配位錯体を形成する機能、金属配位錯体の間を架橋する機能、金属イオンを交差結合する機能、又は複合材の様々な構成要素との供与結合を形成するための表面を提供する機能、を有しうる。
【0108】
1つの典型的な実施形態では、金属配位錯体はオキソ架橋型クロム(III)錯体である。この錯体は、任意選択で、カルボン酸、硫酸、リン酸及びその他の多座配位子のような1以上の架橋結合を伴ってさらにオリゴマー化されてもよい。
【0109】
金属配位錯体について以下に、合成手法で利用可能な変法及びそれにより最終生産物中で達成される差異の可能性に関して、議論する。
金属配位錯体は、2以上の金属イオンを架橋するか又は他の方法で連結若しくは結合するための電子供与基を形成するための条件を提供することによって形成可能である。これは、pH7を下回るpH、例えばpH6未満若しくはpH5未満、好ましくは約1.5~7、又は約2~7、又は約3~7若しくは約4~7、又は約1.5~6、又は約2~6、又は約3~6若しくは約4~6を、金属配位錯体と活物質の表面との接触から形成された組成物に提供することにより、行うことができる。
【0110】
様々なクロム塩、例えば塩化クロム、硝酸クロム、硫酸クロム、過塩素酸クロムが、金属配位錯体を形成するために使用されうる。これらの塩類は、様々な金属配位錯体を形成するために、水酸化カリウム、水酸化リチウム、重炭酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム及びアンモニアのようなアルカリ溶液と混合される。塩基として働くことができる有機試薬、例えばエチレンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)ジエチルアミン、ピリジン、イミダゾールも使用可能である。金属配位錯体の大きさ及び構造は、pH、温度、溶媒及びその他の条件に応じて変化する可能性がある。
【0111】
特に、金属塩及び反応環境を変更することにより、酸化物(シリカなど)及びその他の固体基材への金属配位錯体の結合を変化せしめ、かつ他の場合には均質に分散しないであろう調合物内部の様々な活物質に結合するための配位層を呈することが可能である。金属配位錯体と所与の活物質との間の個々の配位相互作用は比較的弱いが、配位力の多重性が極めて強力な相互作用をもたらす。個別には、各々の配位相互作用はある時点で局所的ストレス要因の結果として壊れる可能性が高い。しかしながら、局所的ストレス要因が複数の配位結合の全て又は大多数ですら壊すことになることは到底ありそうもない。したがって、ストレス要因を緩和又は除去すれば、壊れた結合は再形成することが可能である。
【0112】
オリゴマー状金属配位錯体は、予め形成されて液体担体に適用されてもよいし、活物質の存在下にてその場で形成されてもよい。この実施形態では、配位子は、金属イオンを効率的に架橋又は交差結合するために、多数の金属イオンとの多数の供与結合を形成することができる。すなわち、配位子は、2以上の金属イオンとの供与結合を形成することにより、1つの金属イオンを別の金属イオンに連結することができる。
【0113】
典型的なオキソ架橋型クロム構造は、下式
【0114】
【0115】
に提供される。
第1又は第2の活物質のうち少なくとも一方及び基材のうち少なくともいずれかの存在下で液体担体に適用すると、各々の金属配位錯体上の水又は水酸基のうち少なくとも1つが、活物質の表面との供与結合に置き換わる。これは、「X」が活物質の表面への供与結合を表わしている下式
【0116】
【0117】
に例証されている。
同じく十分理解されることであろうが、多数の水又は水酸基が、第1若しくは第2の活物質又は基材のうちの1つの表面との供与結合に置き換えられてもよく、例えば、各々のクロムイオンが、活物質又は基材の表面との供与結合を形成してもよい。
【0118】
【0119】
加えて、水及び水酸基のうち少なくともいずれか一方が、調合物の追加の構成要素、例えばさらなる活物質又はバインダなどとの供与結合に置き換えられる場合もある。
第6の態様では、本発明は、導電性インタフェースを含んでなる電極を製作する方法であって、(i)電極基材及び活物質を提供するステップと;(ii)電極基材及び活物質の一方又は両方を金属配位錯体と接触させるステップと;(iii)電極基材を活物質でコーティングし、それにより電極を形成するステップとを含む方法に属する。
【0120】
実施形態において、電極を製作するステップは、活物質及び金属配位錯体を含んでなる複合材先駆物質調合物から電極をキャストすることを含む。活物質を含んでなる先駆物質調合物は、第1及び第2の態様の任意の1以上の実施形態に記載されるようにして形成されうる。
【0121】
電極の導電性インタフェースは、少なくとも部分的には、第1の態様の複合材先駆物質調合物又は第3の態様の複合材料又は第4の態様の方法から形成されうる。材料及び手法は、それらの態様のうちいずれかについて先述された通りであってよい。
【0122】
本明細書中において開示及び定義された発明は、明記されたか又は本文若しくは図面から明白である個々の特徴のうち2以上のあらゆる別例の組み合わせにも及ぶことは、理解されるであろう。これらの様々な組み合わせの全てが本発明の様々な代替態様を構成する。
【実施例】
【0123】
実施例1:金属配位錯体でコーティングされたシリコンナノ粒子
[様々な塩及び塩基の組み合わせを使用する金属配位錯体溶液の調製]
<溶液1>
この実施例では、過塩素酸クロム六水和物(45.9g)を480mLの精製水に溶解し、固形物が全て溶解するまで徹底的に混合した。同様に、8mLのエチレンジアミン溶液を490mLの精製水に添加した。これらの溶液を合わせて室温で一晩かき混ぜ撹拌し、次いで放置してpHおよそ4.5に平衡化した。
【0124】
<溶液2>
上記と同様に、様々な比率の過塩素酸クロム及びエチレンジアミン溶液を、様々なpH、例えばpH4.0、pH5.0又は何らかの他のpHを有する溶液を生成するために使用可能である。
【0125】
<溶液3>
この実施例では、塩化クロム六水和物(26.6gm)を500mLの精製水に溶解し、固形物が全て溶解するまで徹底的に混合した。pHは、1MのNaOH又はLiOHを用いてpH4.5(又は何らかの他の目標pH)へと徐々に調節した。
【0126】
<溶液4>
この実施例では、塩化クロム六水和物(26.6g)を480mLの精製水に溶解し、固形物が全て溶解するまで徹底的に混合した。同様に、8mLのエチレンジアミン溶液(又は他の量)を490mLの精製水に添加した。これらの溶液を合わせて室温で一晩かき混ぜ撹拌し、次いで放置してpHおよそ3.8(又は必要に応じて他のpHを選ぶことも考えられる)に平衡化した。
【0127】
<溶液5>
この実施例では、過塩素酸クロム(45.8g)を150mLのイソプロパノールに溶解し、固形物が全て溶解するまで徹底的に混合した。同様に、2-ナフトエ酸(2-naphtholic acid)(5.6g)を100mLのイソプロパノール中に懸濁し、最後に粉砕された水酸化カリウム(6.17g)を、激しくかき混ぜ撹拌しながら徐々に添加した。懸濁液を形成した後、かき混ぜ撹拌しながら過塩素酸クロム溶液を滴下し、次に、結果として生じた混合物を還流せしめて少なくとも60分間維持する。反応物は冷却されると2-ナフトエ酸を伴ったクロム(III)塩の暗緑色の配位錯体を形成する。同様に、導電性である可能性を有する他の共役酸を、上記の方法によって金属配位錯体に組み入れることも可能である。
【0128】
実施例2:金属配位錯体で活性化された集電体
[銅及びアルミニウムの集電体上の金属配位錯体の調製]
アセトン及びエタノールで予洗した後、銅及びアルミニウムの集電体を、実施例1に記載されたもののような5mMの金属配位錯体溶液で処理した。必要な作業用濃度を得るために、溶液1~3を使用する金属配位錯体実施例を水中で希釈した一方、溶液4のような実施例はイソプロパノール/水(1:1)に溶解した。集電体を様々な金属配位錯体溶液中に1時間放置し、水又はイソプロパノール/水(1:1)のいずれかで洗浄し、さらなる処理に先立ち乾燥用キャビネット中で1時間又は一晩乾燥させた。
【0129】
金属配位錯体でコーティングされた集電体をその後、ポリマー、粒子又は他の構成要素であって活物質を含んでなるものの中に放置した。例として、ポリアクリル酸(PAA)のようなポリマーの場合、PAAの1%の水溶液を調製して集電体を溶液中に1時間浸した。水で十分に洗浄した後、これらの修飾済の集電体を少なくとも1時間風乾し、金属配位錯体バインダで処理しなかったものと比較した。
【0130】
[金属配位錯体で処理した集電体及び未処理の集電体の接触角解析]
接触角解析は、金属配位錯体で処理した集電体及び未処理の集電体の両方の表面上の20μLのmilliQ(登録商標)水の滴を使用して、データフィジックス(Dataphysics)の機器にて実施した。9~12回繰り返す接触角の反復測定を実施した。
図1及び2に示されるように、金属配位錯体で処理された銅及びアルミニウムの集電体はいずれも、接触角(θ)の変化によって示されるように、ぬれ性、及びポリアクリル酸(PAA)との結合に有意差を示した。未処理の銅の集電体はその大きい接触角(θ=>80°)によって示されるように比較的疎水性であるが、金属配位錯体で処理すると接触角は著しく減少する。銅表面のぬれ性及びポリアクリル酸への結合は、金属配位錯体が形成されるpH(これは金属配位錯体溶液中のオリゴマー集団に影響する)に加え、ある程度は乾燥過程によっても影響を受けるということに注目すると興味深い。同様の特徴はアルミニウム集電体でも見られた(
図2)。
【0131】
実施例3:シリコン及び炭素の粒子の複合材
[金属配位錯体シリコン粒子(1~3μm)の調製]
この実施例では、50mM(終濃度)の金属配位錯体溶液を使用した。シリコン(Si)パウダー(1~3μmの大きさ)は、米国のユーエス・リサーチ・ナノマテリアルズ(US Research Nanomaterials)から購入した。20%(w/w)のシリコンスラリーは、アルミナ製のジャーにおいて1~3μmシリコンパウダーを金属配位錯体溶液とともにボールミル粉砕することによって調製した。
【0132】
[シリコン粒子(金属配位錯体を含まない)の調製]
20%(w/w)のシリコンスラリーは、アルミナ製のジャーにおいて1~3μmシリコンパウダーをddH2Oとともにボールミル粉砕することによって調製した。
【0133】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、シリコン及び炭素の粒子の複合材の調製]
上記で調製されたような、金属配位錯体でコーティングされたシリコンナノ粒子及びコーティングされていないシリコンナノ粒子を、米国のエムティーアイ・コーポレイション(MTI Corporation)から購入したTIMCAL Graphite&SuperP導電性カーボンブラック、及び米国のシグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich)から購入した平均Mw450,000Dのポリアクリル酸(PAA)とともに混合した。シリコンナノ粒子(金属配位錯体を含むもの又は含まないもの)を、シリコンナノ粒子の乾燥重量と等しい質量のSuperPカーボンと混合した。スラリーを、ddH2Oの添加により12.5%(w/w)固形分含量に希釈した。アルミナ製のジャーをボールミル中に入れ、450rpmで56時間運転した。十分な、ddH2O中5%(w/v)のポリアクリル酸(PAA)(平均Mw450,000D)溶液を、スラリーに添加して、SuperPカーボンの質量の半分に等しい質量のポリアクリル酸と、10%(w/w)の固形分含量とを達成した。スラリーを、200rpmで一晩ボールミル粉砕した。これにより、Si:SuperP:PAAの比が40:40:20(wt%)のスラリーを得た。Si、SuperP及びPAAの量はスラリーを構成している様々な比率を生じるように調整可能である。およそ25%(w/w)の最終固形分含量に到達するまでスラリーを90℃のオーブンで濃化した。
【0134】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、シリコン及び炭素の粒子の複合材のSEM解析]
走査型電子顕微鏡法(SEM)による撮像及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)による解析を、日本電子(JEOL)の7001Fを使用して実施した。2次電子画像(SEI)、後方散乱像(COMPO)及びEDSデータを収集した。
【0135】
金属配位錯体を用いて調製されたスラリーは明らかに、粒子のより均質な分布(シリコンはその原子質量がより大きいことにより後方散乱像において炭素より明るく見える)を示し、白色のシリコンが繰り返しパターンをなして均等に分布しているが(
図3a及び
図3c)、該パターンは金属配位錯体を用いずに調製されたスラリーでは再現されない(
図3b及び
図3d)。
【0136】
実施例4:高容量LiNiCoMnO2粒子及び炭素粒子の複合材
[金属配位錯体リチウム金属酸化物粒子の調製]
この実施例では、50mM(終濃度)のクロム金属配位錯体溶液を使用した。高容量リチウム金属酸化物(LiNiCoMnO2)粒子は米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入した。10%(w/w)のLiNiCoMnO2スラリーを、100mMの金属配位錯体溶液を乾燥リチウム金属酸化物粒子に添加することにより調製した。このスラリーを、磁気撹拌機を使用して550rpmで一晩混合した。一晩混合したスラリーを遠心分離管に移し、4,000gで10分間遠心分離処理して固体を溶液から分離した。90%の上清を出発時体積から取り除いてpH4.5のddH2Oに置き換えた。ペレットを、物理的撹拌及び高値設定で10分間の超音波浴を使用して再懸濁した。この洗浄ステップを繰り返し、2回目の遠心分離ステップの後に上清を溶液から取り除いてddH2O中10%(v/v)のイソプロパノールに置き換え、固形分含量10%(w/w)のスラリーを得た。該スラリーをさらに10分間超音波浴に供して粒子を完全に分散させた。
【0137】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、リチウム金属酸化物及び炭素の粒子の複合材の調製]
上述のように調製された、金属配位錯体でコーティングされたリチウム金属酸化物粒子、及び未処理のリチウム金属酸化物粒子を、米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入したTIMCAL SuperC45導電性カーボンブラック及び米国のシグマ-アルドリッチから購入した平均Mw450,000Dのポリアクリル酸(PAA)と混合した。リチウム金属酸化物粒子(金属配位錯体を伴うもの又は伴わないもの)を、磁気撹拌棒を備えた250mLのエルレンマイヤーフラスコに移した。SuperC45カーボンを、リチウム金属酸化物の乾燥重量に対する比を7:85として添加し、固形分含量が10%(w/w)のスラリーを得た。スラリーの入ったフラスコを磁気撹拌機に置き、550rpmで一晩混合した。ddH2O中に5%(w/v)の平均Mw450,000Dのポリアクリル酸(PAA)溶液を、SuperC45カーボンに対して8:7の比率でスラリーに添加し、固形分含量8.5%(w/w)とした。該スラリーを、550rpmで一晩放置混合した。該スラリーは、85:7:8(wt%)のLiNiCoMnO2:Super-C45:PAA比率を有する。Si、Super-C45及びPAAの量を調整して、スラリーを構成する様々な比率を作ることができる。およそ15%(w/w)の最終固形分含量に到達するまで、スラリーを90℃のオーブンで濃化した。
【0138】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、リチウム金属酸化物及び炭素の粒子の複合材のSEM解析]
走査型電子顕微鏡法(SEM)による撮像及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)による解析を、日本電子(JEOL)の7001Fを使用して実施した。2次電子画像(SEI)、後方散乱像(COMPO)及びEDSデータを収集した。
【0139】
金属配位錯体を用いて調製されたスラリーは、粒子のより均質な分布(LiNiCoMnO2はその原子質量がより大きいことにより後方散乱像において炭素よりも明るく見える)を示し、白色のLiNiCoMnO2が繰り返しパターンをなして均等に分布しているが(
図4a及び
図4c)、該パターンは金属配位錯体を用いずに調製されたスラリーでは再現されない(
図4b及び
図4d)ということが分かる。
【0140】
実施例5:シリコン(100nm)及び炭素の粒子の複合材
[金属配位錯体シリコン粒子の調製]
この実施例では、上述のような溶液1の50mM(終濃度)の金属配位錯体を使用した。シリコン(Si)ナノパウダー(100nmの大きさ)は米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入した。20%(w/v)のシリコンナノ粒子スラリーは、乾燥シリコンナノパウダーをpH4.3のddH2O中7.5%のイソプロパノール溶液と混合することにより調製した。スラリーを真空下に5分間置き、その後100mMの金属配位錯体溶液を添加した。このフラスコを40℃に加熱し、スラリーを、機械式オーバーヘッドミキサによって400rpmで5分間混合した。混合の後、該溶液をさらに10分間減圧した。スラリーをさらに、40℃、400rpmで一晩放置混合した。該スラリーを、10,000gで10分間遠心分離処理して溶液から固体を分離した。70%の上清を出発時体積から取り除いてpH4.3のddH2Oに置き換えた。ペレットを、物理的撹拌及び10分間の超音波浴を使用して再懸濁した。この洗浄ステップを繰り返し、3回目の遠心分離ステップの後に上清を溶液から取り除いた。pH4.3のddH2Oを、20%(w/v)の固形分含量に到達するまでスラリーに添加した。該スラリーをさらに10分間超音波浴に供して粒子を完全に分散させた。様々な濃度の金属配位錯体溶液を0回又は様々な回数の洗浄ステップと組み合わせて、Siナノ粒子をコーティングするために使用可能である。
【0141】
[ゼータサイザー(Zeta-sizer)によるSiナノ粒子の電荷及び表面変化の評価]
シリコン粒子の大きさ及び表面電荷を、Malvern(登録商標)ゼータサイザーを使用して評価した。上述のようなシリコンナノ粒子は、金属配位錯体でコーティングされたか、又はプローブ超音波処理を使用してddH2Oで処理された(対照)かのいずれかである。10000rpmで10分間の遠心分離処理の後、上清を除去し、プローブ超音波処理を使用して粒子をddH2Oで再分散させた。この洗浄ステップを合計3回繰り返し、金属配位錯体で活性化された粒子及び活性化されていない粒子を、ゼータサイザーを使用して大きさ及びゼータ電位について計測した。
【0142】
図5及び
図6は、それぞれpH3.7及びpH5.0で形成された2つの金属配位錯体調合物を用いて処理したシリコンナノ粒子の、ゼータ電位のデータを示す。Si粒子は、負の電荷を有するSi-OH基の存在から予想されるであろうように負のゼータ電位を有する。金属配位錯体は正の電荷を有し、負の電荷を有する粒子を効果的にコーティングすることで正味の正の電荷を有する粒子を形成することができる。厳しい洗浄の下でのこれらの粒子の安定性は
図5及び6の間に見ることができる。pH5.0に調整された金属配位錯体は、他の粒子又はバインダに配位する潜在能力を備えた安定した正の電荷を有するSiナノ粒子を生成する。pH3.7では、シリコンナノ粒子の電気陰性度の減少によって示されるように、シリコンナノ粒子上に金属配位錯体がなおも存在している。金属錯体の種類を制御することによって、pHの変化により例示されるように、シリコンナノ粒子の表面特性を、負の電荷を有する粒子から中性、及び正の電荷を有する粒子へと変化させることが可能である。
【0143】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、シリコン及び炭素の粒子の複合材の調製]
上記で調製された金属配位錯体コーティングされたシリコンナノ粒子及び未処理のシリコンナノ粒子を、米国のエムティーアイ・コーポレイションから購入したTIMCAL Graphite&SuperP導電性カーボンブラック、及び米国のシグマ-アルドリッチから購入した平均Mw450,000Dのポリアクリル酸(PAA)とともに混合した。シリコンナノ粒子(金属配位錯体を含むもの又は含まないもの)を、磁気撹拌棒を備えたサイドアームフラスコに移した。シリコンナノ粒子の乾燥重量と等しい質量のSuperPカーボンも同じフラスコ中に移した。該スラリーを、ddH2O中15%のイソプロパノールの添加により固形分含量15%(w/v)に希釈した。スラリーのフラスコを熱した撹拌機に置き、40℃、400rpmで5分間混合した。フラスコを真空状態に置き、さらに5分間混合し続けた。真空装置を取り外し、スラリーはそのままさらに1時間混合した。SuperPカーボンの質量の半分と等量の450kDaポリアクリル酸を量りとり、スラリーに添加した。該スラリーを、40℃、400rpmで一晩放置混合した。これにより、Si:Super-P:PAAの比が40:40:20(wt%)のスラリーを得た。Si、Super-P及びPAAの量はスラリーを構成している様々な比率を生じるように調整可能である。
【0144】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、シリコン(100nm)及び炭素の粒子の複合材のSEM解析]
走査型電子顕微鏡法(SEM)による撮像を、先述のようにして実行した。金属配位錯体を用いて調製されたスラリー(
図7a)は、SEI撮像において、金属配位錯体を用いずに調製されたスラリー(
図7b)よりも滑らかでより規則的な表面を示すということが分かる。後方散乱像は、この観察(シリコンはその原子質量がより大きいことにより後方散乱像上で炭素より明るく見える)を裏付けており、金属配位錯体を用いて調製されたスラリー(
図7c)における白色のシリコンは、用いていないスラリー(
図7d)よりも均等に分布し、かつ密集が少ない。
【0145】
実施例6:コイン電池における金属錯体を伴う場合及び伴わない場合のSiアノードの製作及び試験
[バッテリー用スラリーの調製]
金属配位錯体でコーティングされたシリコンナノ粒子(100nm)、及びSi:Super-P:PAAの比を40:40:20(wt%)としたバッテリー用スラリーを、実施例5に概説されるようにして調製した。Si、Super-P及びPAAの量は、スラリーの様々な調合物を得るために調整可能である。
【0146】
[コイン電池バッテリー中の金属配位錯体コーティングされたSiアノードの製作]
Siスラリーを、Si電極を形成するために集電体として使用される銅(Cu)箔上にキャストした。Si電極をその後真空下で乾燥させ、カレンダ加工し、コイン電池アセンブリ用に切断した。コーティングされていないSiを活物質として備えた類似の(analagous)Si電極も製作して対照として使用したが、これは金属配位錯体コーティングされたSi電極と同様の質量負荷(2.22~2.37mg/cm2)を有していた。リチウム(Li)金属を対電極として使用し、かつ1M LiPF6/EC:DEC:DMC=1:1:1に、10%FECを含めたものをコイン電池アセンブリ用の電解質として使用した。充電/放電サイクル試験については、コイン電池を、2サイクルについては0.01C(1C=4,200mAh/g)で活性化し、次に長期間安定度試験については0.5C(1C=4,200mAh/g)で充放電サイクルを実施した。Cレートは電極中のSi粒子の質量に基づくものとした。充電/放電試験のための電圧範囲は0.005~1.50V vs.Liであった。充電/放電試験は、コンピュータで制御されたニューアー(Neware)のマルチチャネル式バッテリー試験機で行なった。各条件について3個の同型の電池を作製及び試験した。
【0147】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、シリコン(100nm)電極の、充放電サイクル実施(cycling)の前後におけるSEM解析及び写真]
図8は、Cu箔基材上にスラリーをキャストした後の、金属-配位子錯体を伴う場合(c及びd)並びに伴わない場合(a及びb)のSi(100nm)電極テープそれぞれについての、2次電子画像(SEI)及び後方散乱像(COMPO)を示す。充放電サイクルを行う検討は、これらの電極については実施されていない。ここでも、混合物スラリーの一様性及び分散の面で明瞭な差異を見出すことが可能であり、金属配位錯体スラリーはより優れた一様性及び分散度を示す一方、対照のスラリーは分散の不十分なSi粒子の集塊物(より明るい色である)を含有している。すべてのスラリーは同一のボールミル粉砕処理を経たので、差異はSi粒子上の金属配位錯体コーティングに起因すると考えられる。
【0148】
図9は、何百回もの深い充電/放電サイクルの後の電極試料についての、金属配位錯体を伴う場合(c及びd)及び伴わない場合(a及びb)の、表面形態及び電極構造の差異を示している。金属配位錯体試料の電極構造はより良好に維持されている一方、対照試料は粒子の断片化及び微粉砕をより多く示しているということが分かる。これは、複合材先駆物質調合物の改善された均質性、及びそれにより形成された最終複合材料中に金属配位錯体が含まれることの両方に由来する利点を示している。
【0149】
図10は、反復する充電/放電サイクルの後の金属配位錯体試料(b)及び対照試料(a)についての断面を示している。金属配位錯体試料の電極構造及び完全性が、著しく良好に維持されている。図のように、銅箔(上部)は対照試料ではシリコン活物質から剥離している一方、金属配位錯体を組み込んでいる電極は銅箔がシリコン活物質に依然として結合している。
図11は、1000回の深い充放電サイクル(0.5C、1C=4,200mAh/g)の後の解体されたハーフコインセルに由来する、シリコン活物質であって金属配位錯体を含むもの(b)及び含まないもの、すなわち対照試料(a)の写真を示している。金属配位錯体が組み込まれた電池(b)は完全なままである一方、金属配位錯体を含まない電池(a)は著しい亀裂及び銅箔からの分離し易さを示している。
【0150】
図12の(a)、(b)、(c)及び(d)は、金属配位錯体を用いて形成された解体された電極のSEIモードでの(a)100×、(c)250×のSEM像、及び同様の方式だが金属配位錯体を用いずに形成された解体された電極のSEIモードでの(b)100×、(d)250×のSEM像である。以前のとおり、SEM像は、0.5C(1C=4,200mAh/g)で1000回の深い充放電サイクルの後に解体されたハーフコインセルから得た。金属配位錯体を含む試料上の像は、ポリプロピレン/ポリエチレンの繊維で作製されたバッテリー用セパレータに相当する毛髪様の構造を示す。対照的に、金属配位錯体が使用されなかった場合、セパレータ繊維はほとんど又は全く観察されなかった。これは、金属配位錯体の存在下では活物質とセパレータとの間に強力な結合があることを示している。
【0151】
実施例7:コイン電池における金属錯体を伴う場合及び伴わない場合のLiNiCoMnO2カソードの製作及び試験
[コイン電池における金属配位錯体でコーティングされたリチウム金属酸化物カソードの製作]
金属配位錯体でコーティングされたリチウム金属酸化物スラリーを実施例4に概説されるようにして調製し、電極製作及びコイン電池の組立てのために差し向けた。該スラリーを、集電体として使用されたアルミニウム(Al)箔上に、装荷する質量を13mg/cm2としてキャストし、LiNiCoMnO2電極を形成した。各々のLiNiCoMnO2電極をその後真空下で乾燥させ、カレンダ加工し、コイン電池組立用に切断した。リチウム(Li)金属を対電極として使用し、1M LiPF6/EC:DEC:DMC=1:1:1に、10%FECを含めたものを電解質として使用し、かつポリプロピレン/ポリエチレンのセパレータをコイン電池アセンブリ用に使用した。充電/放電サイクル試験については、コイン電池を、3サイクルについては0.02C(1C=150mAh/g)で活性化し、次に長期間安定度試験(1000サイクル)については0.1C(1C=150mAh/g)で充放電サイクルを実施した。Cレートは電極中のSi粒子の質量に基づいた。充電/放電試験のための電圧範囲は2.5~4.2V vs.Liであった。充電/放電試験は、コンピュータで制御されたニューアー(Neware)のマルチチャネル式バッテリー試験機で行なった。各条件について3個の同型の電池を作製及び試験した。
【0152】
[金属配位錯体を伴う場合及び伴わない場合の、リチウム金属酸化物電極の充放電サイクル実施の前後におけるSEM解析及び写真]
1000回の深いサイクルの後、コイン電池を解体した。LiNiCoMnO2カソード電極を取り外し、実施例6に記載されているように走査型電子顕微鏡法(SEM)による撮像及びエネルギー分散型X線分光法(EDS)を使用して解析した。
【0153】
図13(a)及び(b)は、1000回の深い充放電サイクル(0.5C、1C=150mAh/g)の後の解体されたハーフコインセルからの、金属配位錯体を備えたLiNiCoMnO
2材料(a)及び対照試料(b)の写真である。金属配位錯体が組み込まれた電池(a)は残存セパレータ材料(白色のパッチ)を伴って完全なままである一方、金属配位錯体を伴わない対照(b)は割れて、大部分の材料は簡単にアルミニウム箔から外れた。
図14(a)及び(b)は、金属配位錯体を用いて(a)、及び用いずに(b)形成された、解体された電極の100×SEIモードでのLiNiCoMnO
2材料のSEM像である。先に写真(
図13)に示されたように、毛髪様構造のセパレータ(ポリプロピレン/ポリエチレン繊維)のパッチが、金属配位錯体を伴う実施例に存在している。金属配位錯体を伴わない実施例にはそのような繊維の痕跡だけが存在していた。
【0154】
実施例8:GaN/サファイアインタフェースの形成
オーストラリア国ニューサウスウェールズ州のブルーグラス・リミテッド(BlueGlass Ltd)から得た窒化ガリウム/サファイアウエハーを砕いて小断片とし、該断片の一部を5mMの金属配位錯体溶液に1時間浸漬し、ddH2Oで30秒間洗浄し、次いで真空デシケータの中で1時間放置乾燥させた。金属配位錯体でコーティングされた断片及びコーティングされていない断片(同様の条件下で水を用いて処理した)を手付かずのウエハーの上に置き、上部のGaN(下のウエハーのもの)と下部のサファイア(上のウエハー断片のもの)との間のインタフェースを形成した。これらの積層されたウエハーを700℃で15分間放置した。
【0155】
ウエハーをRTまで放置冷却した後、該ウエハーを傾けると、コーティングされていない断片は直ちに下のウエハーから滑り落ちる、すなわち温度処理のみではいかなるインタフェース結着ももたらさないことが観察された。金属-配位子でコーティングされた断片は下のウエハーがほとんど90°に傾けられるまで滑り落ちなかった。金属配位錯体がわずかナノメートルの薄膜を形成することを考えれば、これらのウエハーを保持するための結着強度における、コーティングの無い対照と比較しての差異は重要であり、かつ、薄膜及びインタフェースへの金属配位錯体のより密接な組み込みを用いて改善することが可能であると考えられる。