(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団とその製造方法、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20220714BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220714BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220714BHJP
A61K 35/50 20150101ALI20220714BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12Q1/02
A61P43/00 105
A61K35/50
G01N33/53 Y
(21)【出願番号】P 2018551641
(86)(22)【出願日】2017-11-14
(86)【国際出願番号】 JP2017040923
(87)【国際公開番号】W WO2018092769
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2016222243
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 真広
(72)【発明者】
【氏名】喜田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】梅田 伸好
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/077428(WO,A1)
【文献】Hum. Reprod.,2008年08月,Vol.23, No.8,pp.1760-1770
【文献】J. Vet. Sci.,2013年,Vol.14, No.2,pp.151-159
【文献】Stem Cell Res. Ther.,2014年04月10日,Vol.5, No.2, 48,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団において、CD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上であり、CD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満であり、CD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であ
り、CD14
+
を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上である、
前記細胞集団。
【請求項2】
前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後40日以降まで増殖停止することなく培養することが可能である、請求項1
に記載の細胞集団。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後、倍加回数が10回以上になるまで培養することが可能である、請求項1
又は2に記載の細胞集団。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞において、倍加時間が2日以下である請求項1から
3の何れか一項に記載の細胞集団。
【請求項5】
請求項1から
4の何れか一項に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
【請求項6】
胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団を
3800細胞/cm
2
以下の密度で播種し、培養することを4回以上繰り返す工程を含み、
前記胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団が、胎児付属物から採取した上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む試料をコラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼで処理して得た細胞集団である、
前記細胞集団の製造方法。
【請求項7】
上記培養期間が、4~10日間である、請求項
6に記載の細胞集団の製造方法。
【請求項8】
胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団において、
CD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満
、かつ、前記細胞集団におけるCD14
+
を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングする方法。
【請求項9】
ドナーから胎児付属物由来の間葉系幹細胞を含む細胞集団を採取し、CD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満
、かつ、前記細胞集団におけるCD14
+
を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した
胎児付属物由来の間葉系幹細胞を含む試料の評価方法。
【請求項10】
ドナーから採取した試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、CD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106
+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満
、かつ、前記細胞集団におけるCD14
+
を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として評価する、前記試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団に関する。本発明は、上記細胞集団の製造方法、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物に関する。さらに本発明は、細胞集団における特定のマーカーを発現する間葉系幹細胞の比率を指標として利用する、間葉系幹細胞の増殖性のモニタリング方法、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の評価方法、並びに酵素処理条件の確認及び/又は予測方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)ともよばれる間葉系幹細胞は、骨髄などに存在することが報告されている体性幹細胞であり、骨、軟骨及び脂肪などに分化する能力を有する。間葉系幹細胞は、細胞治療における有望な細胞ソースとして注目され、最近では、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物にも存在することが明らかになっている。
【0003】
間葉系幹細胞は、分化能以外に免疫抑制能を有することで注目されており、骨髄間葉系幹細胞を用いた、急性移植片対宿主病(GVHD)、及び炎症性腸疾患であるクローン病に対する実用化が進んでいる。間葉系幹細胞として種々の細胞が知られており、なかでも、羊膜間葉系幹細胞は免疫抑制効果が高く、また細胞ソースである羊膜が非侵襲的に採取可能であることから、様々な免疫関連疾患を対象とした細胞治療への応用が期待されている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、羊膜間葉系細胞組成物の製造方法及び凍結保存方法、並びに治療剤について記載されている。特に、ジメチルスルホキシドを5~10質量%含有し、ヒドロキシルエチルデンプンを5~10質量%またはデキストランを1~5質量%含有する溶液中に羊膜間葉系細胞を含む混合物を凍結保存することによって、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることが記載されている。また、特許文献2には、(D)哺乳動物の羊膜から間葉系細胞の細胞集団を採取するステップと、(E)前記採取された細胞集団を400~35000/cm2の細胞濃度において播種し、2~3日間初期培養するステップと、(F)前記初期培養の1/5000以上1/10未満の細胞濃度において播種し、1週間に2回の培地交換を行う継代培養を3~4回繰り返すステップと、(G)前記継代培養において紡錘状の形態を有する細胞のコロニーが形成されたとき、細胞がコンフルエントになるまで同一の培養皿で培養を維持するステップとを含む、羊膜間葉系幹細胞集団を調製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-61520号公報
【文献】国際公開WO2013/077428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの予備的な検討において、羊膜間葉系幹細胞は増殖性が低く、また継代を3回重ねると、それ以降はほとんど増殖せず、継代数や倍加回数が延びないことを確認した。そのため、細胞製剤化に必要な細胞を大量かつ迅速に調製・製造することは必ずしも容易ではないことが分かった。特許文献1には、羊膜間葉系細胞を含む混合物を、特定の凍結保存液にて凍結保存することにより、解凍後の羊膜間葉系細胞の生存率減少を抑制し、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることは記載されている。しかしながら、間葉系幹細胞の中から特定の優れた特長を有する間葉系幹細胞を選択的に調製すること、具体的には、細胞製剤を大量かつ迅速に製造するために有用な増殖性が高い間葉系幹細胞を多く含む細胞集団を、間葉系幹細胞の特性を指標として選択的に調整することについては、一切記載されていない。また、特許文献2には、低密度で細胞を播種することによって、高い増殖能と分化能を有する間葉系幹細胞集団を調製しているものの、間葉系幹細胞集団に含まれる間葉系幹細胞の特性を指標として、高増殖性を維持して培養する方法、並びに、前記間葉系幹細胞の特性を有し、且つ、増殖性が高い間葉系幹細胞を多く含む細胞集団については記載も示唆もない。
【0007】
本発明は、細胞製剤を大量かつ迅速に製造するために有用な、増殖性が高い間葉系幹細胞(MSC)、上記間葉系幹細胞を含む細胞集団、その製造方法、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物を提供することを課題とする。さらに本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞集団に関する指標を利用して、間葉系幹細胞の増殖性のモニタリング方法、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の評価方法、並びに最適な酵素処理条件の判断及び/又は予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団においてCD105+を呈する間葉系幹細胞の比率が所定値以上であり、CD200+を呈する間葉系幹細胞の比率とCD106+を呈する間葉系幹細胞の比率がそれぞれ所定値未満に維持する条件下において培養すると、常に高い増殖性を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得できることを見出した。さらに本発明者らは、胎児付属物から採取した間葉系幹細胞を含む細胞集団においてCD105+を呈する間葉系幹細胞の比率が所定値以上であり、CD200+を呈する間葉系幹細胞の比率とCD106+を呈する間葉系幹細胞の比率がそれぞれ所定値未満であることを指標として利用することによって、間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングでき、増殖性の高い間葉系幹細胞を効率的に取得するという観点から、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の品質を評価でき、さらに、ドナーから採取した試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
(1) 胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団であって、
前記細胞集団において、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上であり、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満であり、CD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満である、前記細胞集団。
(2) 前記細胞集団において、少なくともCD14+を呈する前記間葉系幹細胞を含む、(1)に記載の細胞集団。
(3) 前記細胞集団において、CD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上である、(2)に記載の細胞集団。
(4) 前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後40日以降まで増殖停止することなく培養することが可能である、(1)から(3)の何れか一に記載の細胞集団。
(4-1) 前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後70日以降まで増殖停止することなく培養することが可能である、(1)から(4)の何れか一に記載の細胞集団。
(5) 前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後、倍加回数が10回以上になるまで培養することが可能である、(1)から(4)及び(4-1)の何れか一に記載の細胞集団。
(5-1) 前記間葉系幹細胞が、生体外での培養開始後、倍加回数が30回以上になるまで培養することが可能である、(1)から(4)、(4-1)及び(5)の何れか一に記載の細胞集団。
(6) 前記間葉系幹細胞の倍加時間が2日以下である(1)から(4)、(4-1)、(5)及び(5-1)の何れか一に記載の細胞集団。
(7) (1)から(4)、(4-1)、(5)、(5-1)及び(6)の何れか一に記載の細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
(8) 胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団を、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満に維持する条件下において培養する工程を含む、前記細胞集団の製造方法。
(9) 前記胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団が、胎児付属物から採取した上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である、(8)に記載の細胞集団の製造方法。
(10) 上記胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団を、400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を含む、(8)又は(9)に記載の細胞集団の製造方法。
(11) 上記培養期間が、4~10日間である、(10)に記載の細胞集団の製造方法。
(12) 胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団において、
CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングする方法。
(12-1) 前記細胞集団において、さらにCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングする、(12)に記載の方法。
(13) ドナーから胎児付属物由来の間葉系幹細胞を含む細胞集団を採取し、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として評価する、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の評価方法。
(13-1) 前記細胞集団において、さらにCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として評価する、(13)に記載のドナー及び/又はドナーから採取した試料の評価方法。
(14) ドナーから採取した試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として評価する、前記試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
(14-1) 前記細胞集団において、さらにCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%以上であることを指標として評価する、(14)に記載の前記試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、増殖性が高い間葉系幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。また、本発明によれば、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む細胞集団形成の指標として、各種表面抗原の陽性率を使用することができる。これにより細胞製剤(医薬組成物)を大量かつ迅速に製造することができる。本発明によれば、細胞集団におけるCD105+を呈する間葉系幹細胞の比率が50%以上であり、細胞集団におけるCD200+を呈する間葉系幹細胞の比率が10%未満であり、細胞集団におけるCD106+を呈する間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標とすることによって、間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングすることができる。特に、前記指標を経時的に測定することで、間葉系幹細胞の増殖性の変化を迅速に把握し、予測することができる。さらに本発明によれば、前記の指標を利用することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した試料の品質を評価することができる。さらに本発明によれば、前記指標を使用することによって、ドナーから採取した試料を酵素処理する際の酵素処理方法が、最適かどうかを判断及び/又は予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、羊膜MSCを継代培養(通常培養)した時の細胞の写真を示す。
【
図2】
図2は、継代培養(通常培養)によって得られた継代毎の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図3】
図3は、本発明による培養において7継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200、CD14)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図4】
図4は、本発明による培養において9継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200、CD14)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図5】
図5は、本発明による培養において11継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200、CD14)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図6】
図6は、羊膜MSCを通常培養と本発明による培養によってそれぞれ培養した時の羊膜MSCの増殖曲線を示す。
【
図7】
図7は、羊膜MSCを本発明による培養によって継代培養した時の細胞の写真を示す。
【
図8】
図8は、本発明による培養において2、4、6、8及び10継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図10】
図10は、本発明による培養で得られた羊膜MSCの免疫調節作用を検討した結果を示す。
【
図11】
図11は、羊膜MSCを、本発明の方法で酵素処理した時の増殖曲線を示す。
【
図12】
図12は、本発明による酵素処理後、国際公開WO2013/077428号公報の請求項7に記載の方法による培養において9継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD44、CD166、CD45、CD326、CD14、SSEA-4)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図13】
図13は、異なるドナーから得られた羊膜MSC(#4及び#5)を本発明の培養によって継代培養した時の6継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメトリーを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200)の陽性率を解析した結果を示す。
【
図14】
図14は、ドナーの異なる羊膜MSC#4及び#5を本発明による培養によってそれぞれ培養したときの羊膜MSCの増殖曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0013】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系幹細胞を含む。
【0014】
本明細書における「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」は、下記の定義を満たす幹細胞を指し、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」と区別なく用いられる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。
【0015】
間葉系幹細胞の定義
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。
ii)表面抗原CD105、CD73、CD90が陽性であり、CD45、CD34、CD11b、CD79alpha、CD19、HLA-DRが陰性。
【0016】
本明細書における「羊膜間葉系幹細胞」は、羊膜に由来する間葉系幹細胞を指し、「羊膜間葉系間質細胞」と区別なく用いられる。本明細書において、「羊膜間葉系幹細胞」は「羊膜MSC」と記載されることがある。
【0017】
本明細書における「間葉系幹細胞集団」は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を意味し、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞浮遊液又は細胞懸濁液などが挙げられる。
【0018】
本明細書における「増殖能」とは、細胞が細胞分裂を行うことにより、細胞数が増加する能力のことをいう。本発明において、「増殖能が高い」は「増殖性が高い」と区別無く用いることができる。羊膜間葉系幹細胞集団における羊膜間葉系幹細胞(羊膜MSC)の増殖能は、培養1バッチあたりの取得細胞数、増殖速度、倍加回数、倍加時間及び/又は継代回数を用いて評価することができる。
【0019】
本明細書における「細胞集団における、CD105+、CD200+、CD106+、CD14+、CD73+、CD90+、及びCD45+から選択される表面抗原を呈する間葉系幹細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した上記表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「表面抗原について陽性である細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。
【0020】
[2]胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団
本発明により提供される胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団は、前記細胞集団において、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上であり、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満であり、CD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを特徴とする。
また、本発明により提供される胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上であり、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満であり、CD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満の条件を満たすと、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を増殖性の高い又は高い増殖能を有する間葉系幹細胞を含む細胞集団形成の指標とすることができる。また、前記指標を経時的に測定することで、間葉系幹細胞の増殖性の変化を迅速に把握し、予測することができる。さらに本発明によれば、前記の指標を利用することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した試料の品質を評価することができる。さらに本発明によれば、前記指標を使用することによって、ドナーから採取した試料を酵素処理する際の酵素処理方法が、最適かどうかを判断及び/又は予測することができる。
【0021】
前記細胞集団において、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率は、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上である。
【0022】
前記細胞集団において、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率は、好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは6%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは4%以下である。
【0023】
前記細胞集団において、CD106+を呈する間葉系幹細胞の比率は、好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0%である。
【0024】
本発明の細胞集団は、好ましくは、少なくともCD14+を呈する間葉系幹細胞を含んでいてもよい。本発明の細胞集団が、CD14+を呈する間葉系幹細胞を含む場合、前記細胞集団において、CD14+を呈する前記間葉系幹細胞の比率は、好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは6%以上であり、さらに好ましくは7%以上であり、さらに好ましくは8%以上である。
【0025】
前記細胞集団において、CD73+を呈する間葉系幹細胞の比率は、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上である。
【0026】
前記細胞集団において、CD90+を呈する間葉系幹細胞の比率は、好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、さらに好ましくは100%である。
【0027】
前記細胞集団において、CD45+を呈する間葉系幹細胞の比率は、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは6%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは4%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0%である。
【0028】
本発明において、CD105+、CD200+、CD106+、CD14+、CD73+、CD90+、及びCD45+とはそれぞれ、CD105、CD200、CD106、CD14、CD73、CD90、及びCD45の発現が陽性であることを意味し、CD105+、CD200+、CD106+、CD14+、CD73+、CD90+、又はCD45+を呈するとは、上記の各発現マーカーの発現が陽性であることが示されることを意味する。
【0029】
発現マーカー(CD105、CD200、CD106、CD14、CD73、CD90、及びCD45)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。発現マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0030】
本発明の細胞集団においては、間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、増殖停止することなく培養することが可能である。
【0031】
本発明の細胞集団においては、間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
【0032】
倍加回数とは、ある一定の培養期間において細胞が分裂した回数であり、[log10(培養終了時の細胞数)-log10(培養開始時の細胞数)]/log10(2)の計算式にて算出される。継代を行った場合は、各継代数毎の倍加回数を上記の式で計算した後、累積することによって、総倍加回数が算出される。
【0033】
本発明の細胞集団における間葉系幹細胞の継代可能回数は、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代可能回数の上限は、特に限定されないが、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下又は30回以下である。
【0034】
本発明の細胞集団における倍加時間は、細胞の倍加に必要な日数又は時間であり、培養日数又は時間を倍加回数で除することにより算出される。例えば6継代目における倍加時間は、6継代目の細胞を播種してから回収するまでの日数を、6継代目の細胞を播種してから回収するまでの倍加回数で除することによって算出される。1継代あたりの倍加時間を継代毎に算出することにより、細胞の増殖速度の経時変化を評価することができる。本明細書においては倍加時間としては2日以下、好ましくは1.9日以下、より好ましくは1.8日以下、さらに好ましくは1.7日以下、さらに好ましくは1.6日以下、さらに好ましくは1.5日以下、さらに好ましくは1.4日以下、さらに好ましくは1.3日以下、さらに好ましくは1.2日以下、さらに好ましくは1.1日以下、さらに好ましくは1日以下である。
【0035】
本発明の間葉系幹細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の間葉系幹細胞集団は、間葉系幹細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0036】
[3]間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団を、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満に維持する条件下において培養する工程を含む方法である。
前記条件は、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む細胞集団形成の指標であり、本発明の培養方法は、前記指標を満たせば特に制限されない。
【0037】
本発明の製造方法は、羊膜などの胎児付属物を酵素処理することにより、間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を含むものでもよい。
【0038】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜MSCが含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮カドヘリン(E-cadherin:CD324)及び上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、羊膜MSCはこれら上皮特異的表面抗原マーカーを発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。
【0039】
本発明における胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団は、好ましくは胎児付属物から採取した上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0040】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0041】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0042】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0043】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を処理することが好ましい。さらに好ましくは、前記組み合わせによって胎児付属物を同時一括に処理する。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系幹細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0044】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0045】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した間葉系幹細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系幹細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系幹細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0046】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0047】
間葉系幹細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0048】
フィルターを通した間葉系幹細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0049】
上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満に維持する条件下において培養する。前記条件は、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。培養方法としては、前記指標を満たすものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団を、400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1000細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1100細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1200細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1300細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1400細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは2000細胞/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは4800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2200細胞/cm2以下である。
【0050】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0051】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。なお、前記基礎培地に増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えて、さらに添加することにより調製してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加することで調製してもよい。
【0052】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
他の成分としては例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられる。アルブミンの場合、0.05%より多く5%以下の濃度が好ましい。血清の場合、5%以上の濃度が好ましい。
【0053】
また、上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社)、Corning stemgro ヒト間葉系幹細胞培地(コーニング社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0054】
間葉系幹細胞の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0055】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、N回継代した細胞を取得することができる(Nは1以上の整数を示す)。継代回数Nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数Nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
【0056】
本発明の製造方法によれば、増殖能が高い間葉系幹細胞を得ることができ、これにより細胞製剤(医薬組成物)を大量かつ迅速に製造することができる。培養1バッチあたりの取得細胞数(単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数)の下限は、播種細胞数、播種密度等によって異なるが、例えば、1.0×105(個/cm2/day)以上、2.0×105(個/cm2/day)以上、3.0×105(個/cm2/day)以上、4.0×105(個/cm2/day)以上、5.0×105(個/cm2/day)以上、6.0×105(個/cm2/day)以上、7.0×105(個/cm2/day)以上、8.0×105(個/cm2/day)以上、9.0×105(個/cm2/day)以上又は10.0×105(個/cm2/day)以上である。また、培養1バッチあたりの取得細胞数の上限は、特に限定されないが、例えば、10.0×108(個/cm2/day)以下、9.0×108(個/cm2/day)以下、8.0×108(個/cm2/day)以下、7.0×108(個/cm2/day)以下、6.0×108(個/cm2/day)以下、5.0×108(個/cm2/day)以下、4.0×108(個/cm2/day)以下、3.0×108(個/cm2/day)以下、2.0×108(個/cm2/day)以下又は1.0×108(個/cm2/day)以下である。
【0057】
本発明の製造方法によれば、増殖能が高い間葉系幹細胞を得ることができる。これにより、本発明の製造方法によって得られる間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、増殖停止することなく培養することが可能である。
【0058】
また、本発明の製造方法によって得られる間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
【0059】
本発明の製造方法は、間葉系幹細胞を含む細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
【0060】
また、本発明の製造方法は、前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0061】
前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、-5℃/分、-6℃/分、-7℃/分、-8℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、-12℃/分、-13℃/分、-14℃/分又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。
【0062】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
凍結用保存液は、相対的に増殖能が高いMSCの生存率を高める観点から、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有することが好ましい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0064】
[4]間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングする方法、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の評価方法、並びに酵素処理条件を確認及び/又は予測する方法
本発明においては、間葉系幹細胞を含む細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として測定することによって(好ましくは経時的に測定することによって)、間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングすることができる。前記モニタリングが必要な工程としては、例えば、培養する工程、凍結保存する工程及び/又は製剤化する工程である。
【0065】
培養する工程においては、指標を経時的に測定することで、間葉系幹細胞の増殖性の変化を迅速に把握且つ予測することができる。上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団においては、間葉系幹細胞の増殖性が高いことが分かる。一方上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、間葉系幹細胞の増殖性が低下しつつあることが予測できる。例えば、上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団においては、倍加時間が一定の数値以下を維持している。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、倍加時間が一定の数値を超えるデータが得られる。増殖性が低下しつつあることを指標から読み取った場合には、培養条件(播種密度、培地、増殖因子の添加、血清の変更など)を必要に応じて適切に変更することによって、間葉系幹細胞の増殖性を向上させることができる。また、上記指標を満たさない場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団を分取することができる。前記細胞集団における間葉系幹細胞を再度播種して継代培養することによって、間葉系幹細胞の増殖性を向上させることができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子の添加、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。
【0066】
本発明においては、ドナーから胎児付属物由来の間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得し、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として評価することによって、ドナー自体及び/又はドナーから採取した試料の品質を評価することができる。上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナー及び/又はドナーから採取した試料の品質が良好であることを確認できる。一方、前記間葉系幹細胞を含む細胞集団における上記比率が、上記指標から逸脱している場合には、ドナーから採取した試料の品質が不良であるため、培養条件(播種密度、培地、増殖因子の添加、血清の変更など)を適切に変更することによって、間葉系幹細胞の増殖性を向上させることができる。また、前記間葉系幹細胞を含む細胞集団における上記比率が、上記指標から逸脱している場合には、例えばセルソーティング技術を利用することによって、上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団を分取し、前記細胞集団における間葉系幹細胞を播種して培養することによって、間葉系幹細胞の増殖性を向上させることができる。培養初期段階においては、その工程の最終段階において前記指標を満たすように培養条件(播種密度、培地、増殖因子の添加、血清の変更など)を設計して、少なくとも最終段階においては、上記指標を満たすことができればよい。なお、ドナーから採取した試料の品質を確認する場合については、試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0067】
本発明においては、ドナーから採取した試料を酵素処理して得られた細胞集団に対して、CD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率、CD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率及びCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率を測定し、前記細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として評価することで、前記試料の最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測することができる。上記指標を満たす間葉系幹細胞を含む細胞集団が得られる場合(好ましくは容易に得られる場合)には、ドナーから採取した試料の酵素処理方法が適切であることを判断及び/又は予測することができる。一方、上記指標から値が逸脱した培養状態が継続している場合には、ドナーから採取した試料の酵素処理方法が不適切であることを判断及び/又は予測することができる。なお、最適な酵素処理方法を判断及び/又は予測する場合については、試料の調製及び処理方法、細胞集団の培養方法は特に限定されず、任意の方法を採用することができる。
【0068】
上記の指標は必要なタイミングで測定すればよく、特に限定されないが、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0069】
[5]医薬組成物
本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明によれば、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0070】
本発明の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、免疫性疾患、虚血性疾患(下肢虚血、虚血性心疾患(心筋梗塞等)、冠動脈性心疾患、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血等)、神経性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、クローン病、潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスを含む膠原病、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、放射線腸炎、肝硬変、脳卒中、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、紅斑性狼瘡、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert-Bazin症候群)、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、眼疾患、血管新生関連疾患、うっ血性心不全、心筋症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、癌等から選択される疾患の治療剤として使用することができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記疾患を治療することができる。
【0071】
本発明によれば、医薬組成物のために使用される、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0072】
本発明によれば、免疫性疾患、虚血性疾患(下肢虚血、虚血性心疾患(心筋梗塞等)、冠動脈性心疾患、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血等)、神経性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、クローン病、潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスを含む膠原病、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、放射線腸炎、肝硬変、脳卒中、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、紅斑性狼瘡、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert-Bazin症候群)、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、眼疾患、血管新生関連疾患、うっ血性心不全、心筋症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、癌等から選択される疾患の治療のために使用される、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0073】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制のために使用される、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0074】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
【0075】
本発明によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0076】
本発明によれば、免疫性疾患、虚血性疾患(下肢虚血、虚血性心疾患(心筋梗塞等)、冠動脈性心疾患、脳血管虚血、腎臓虚血、肺虚血等)、神経性疾患、移植片対宿主病(GVHD)、クローン病、潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスを含む膠原病、脳梗塞、脳内血腫、脳血管麻痺、放射線腸炎、肝硬変、脳卒中、アトピー性皮膚炎、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、紅斑性狼瘡、糖尿病、菌状息肉腫(Alibert-Bazin症候群)、強皮症、軟骨等の結合組織の変性及び/又は炎症から起こる疾患、眼疾患、血管新生関連疾患、うっ血性心不全、心筋症、創傷、上皮損傷、線維症、肺疾患、癌等から選択される疾患の治療剤の製造のための、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0077】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、心筋の再生、心筋細胞の産生、血管新生、血管の修復、又は、免疫応答の抑制に必要な治療剤の製造のための、本発明による胎児付属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0078】
本発明の医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。投与量は、特に限定されないが、例えば、104個/kg体重以上、105個/kg体重以上又は106個/kg体重以上である。また、投与量は、特に限定されないが、例えば、109個/kg体重以下、108個/kg体重以下又は107個/kg体重以下である。
【0079】
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、リンパ節内注射、静脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射又は局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。
【0080】
本発明の医薬組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
【0081】
本発明の患者又は被験者とは典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、フェレット等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類が挙げられる。
【0082】
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。本発明の医薬組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0083】
また、本発明の医薬組成物は、羊膜間葉系幹細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0084】
患者又は被験者において間葉系幹細胞を含む細胞集団を用いて治療することができる疾患等の他の例、前記疾患等の更なる具体例、及び、治療の具体的な手順は、Hare et al., J. Am. Coll. Cardiol., 2009 December 8; 54(24): 2277-2286、Honmou et al., Brain 2011: 134; 1790-1807、Makhoul et al., Ann. Thorac. Surg. 2013; 95: 1827-1833、特許第590577号公報、特開2010-518096号公報、特表2012-509087号公報、特表2014-501249号公報、特開2013-256515号公報、特開2014-185173号公報、特表2010-535715号公報、特開2015-038059号公報、特開2015-110659号公報、特表2006-521121号公報、特表2009-542727号公報、特開2014-224117号公報、特開2015-061862号公報、特表2002-511094号公報、特表2004-507454号公報、特表2010-505764号公報、特表2011-514901号公報、特開2013-064003号公報、特開2015-131795号公報等に記載された事項を参照することができる。
【0085】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
<比較例1>
(工程1-1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0087】
(工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む羊膜を480PU/mLコラゲナーゼ及び400PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いて、MSCの代表的な陽性マーカーとして知られている表面抗原の一つであるCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析したところ、CD90発現が陽性である細胞の比率は89%であり、高純度で羊膜から羊膜MSCを分離できていることを確認した。
【0088】
表面抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、測定条件は解析細胞数:10,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)とした。アイソタイプコントロール用の抗体としてFITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を使用した。CD90抗原に対して陽性である細胞の比率は、以下の手順で算出した。
(1)測定結果を縦軸に細胞数、横軸を抗体に標識された色素の蛍光強度としたヒストグラムで展開した。
(2)アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が0.1~1.0%となる蛍光強度を決定した。
(3)CD90抗原に対する抗体で測定した総細胞のうち、(2)で決定した蛍光強度よりも蛍光強度が高い細胞の割合を算出した。
【0089】
(工程1-3:羊膜MSCの培養;通常培養)
上述の「羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた、羊膜MSCを含む細胞集団を4,000cells/cm
2の密度でプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで培養した。その後、TrypLE Selectを用いて細胞を剥離し、1/4量の細胞を先の培養と同じスケールのプラスチック製培養容器に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は週2回の頻度で実施した。このようにして継代培養を続けたところ、4回目まで継代することが可能であったが、4回目の継代終了後に羊膜MSCの増殖は停止した。細胞形態を観察したところ、2継代目までは紡錘形であったが、3継代目以降は扁平状であった(
図1)。
【0090】
細胞形態から、本培養における羊膜MSCは、3継代目の段階から培養状態不良に陥ったと推察された。本継代培養によって得られた継代毎の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(CD73、CD90、CD105)の陽性率を解析した(
図2)。P0、P1、P2、P3及びP4はそれぞれ、継代数0、継代数1、継代数2、継代数3及び継代数4の細胞を意味する。本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、PE Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:555749)、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:550257)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(AnCell社/型番:326-040)を使用した。細胞の測定及び陽性となる細胞の比率の算出は、上述の「羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」と同様の手順で行った。その結果、2継代目ではこれら表面抗原に対して陽性である細胞の比率が高かったのに対し、3継代目以降では陽性である細胞の比率が低下していた。このことからCD73、CD90、CD105の陽性率が低下すると間葉系幹細胞の増殖性が急激に低下し、培養状態不良となることが分かった。したがって、間葉系幹細胞の増殖性を評価するに際してはCD73、CD90、CD105等の表面抗原に対する陽性率を指標とすることができる。また、継代毎の倍加回数を計算し、増殖曲線を作成した(
図6の通常培養)。
【0091】
<実施例1:羊膜MSCの培養(本発明による培養)>
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた、羊膜MSCを含む細胞集団を2,000cells/cm
2の密度でプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて1週間培養した。培地交換は週2回の頻度で実施した。その後、同様にして2,000cells/cm
2の密度で播種する継代培養を繰り返した。その結果、継代を繰り返すごとに紡錘形かつサイズの小さい細胞の割合が増えていき、4継代目の段階で大多数が紡錘形かつサイズの小さい細胞となった(
図7)。
【0092】
この段階で得られた細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて上記と同様の密度で継代する継代培養を繰り返した。
【0093】
上記の培養方法で培養した7、9、11継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(羊膜MSCマーカーとして知られているCD73、CD90、CD105、CD14、CD45、CD106、CD200)に対して陽性となる細胞の比率を解析した(7継代目:
図3のbFGF(-)、9継代目:
図4のbFGF(-)、11継代目:
図5のbFGF(-))。その結果、CD105の陽性率は50%以上(具体的には7継代目:98%、9継代目:88%、11継代目:73%)、CD200の陽性率は10%未満(具体的には7継代目:4%、9継代目:6%、11継代目:5%)、CD14の陽性率は5%以上(具体的には7継代目:8%、9継代目:16%、11継代目:18%)、CD106の陽性率は5%未満(具体的には7継代目:0%、9継代目:4%、11継代目:4%)であった。つまり、本発明の方法より得られた胎児附属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団には、単球マーカーであるCD14の陽性を呈する間葉系幹細胞が存在し、また、胎児特異的マーカーであるCD200の陽性を呈する間葉系幹細胞がごく微量にしか存在しないことが判明した。
【0094】
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、PE Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:555749)、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)、FITC Mouse IgG2a, κ Isotype Control、REA Control (S)-PE アイソタイプコントロール抗体(Miltenyi Biotec社/130-104-612)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:550257)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(AnCell社/型番:326-040)を、CD14抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD14(BD社/型番:555397)を、CD45抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD45(BD社/型番:555482)を、CD200抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD200(BD社/型番:561762)を、CD106抗原に対する抗体としてCD106-PE, human monoclonal(Miltenyi Biotec社/130-104-163)を使用した。
【0095】
細胞の測定及び陽性となる細胞の比率の算出は、上述の「工程1-2;羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」と同様の手順で行った。
【0096】
上記11継代目の羊膜MSCを上記の培養方法でさらに培養を継続したところ、少なくとも総培養日数107日まで、倍加回数46回まで、羊膜MSCは増殖停止することなく培養することが可能であった。このように培養した羊膜MSCに関しても、「工程1-3;羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成した(
図6の本発明の培養(bFGF-))。また、7継代目における倍加時間は1.6日、9継代目における倍加時間は1.5日、11継代目における倍加時間は1.3日であった。
これらの結果から、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD14の陽性率は5%以上、CD106の陽性率は5%未満の条件を満たす羊膜MSCは、増殖性が高く、倍加時間も2日以下であることが示された。
【0097】
<実施例2:羊膜MSCの培養(塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の添加)>
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた、羊膜MSCを含む細胞集団を2,000cells/cm2の密度でプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて1週間培養した。培地交換は週2回の頻度で実施した。その後、同様にして2,000cells/cm2の密度で播種する継代培養を繰り返した。その結果、継代を繰り返すごとに紡錘形かつサイズの小さい細胞の割合が増えていき、4継代目の段階で大多数が紡錘形かつサイズの小さい細胞となった。
【0098】
この段階で得られた細胞を、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて、上記と同様の密度で継代する継代培養を繰り返した。
【0099】
上記の培養方法で培養した7、9、11継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(羊膜MSCマーカーとして知られているCD73、CD90、CD105、CD14、CD45、CD106、CD200)に対して陽性となる細胞の比率を解析した(7継代目:
図3のbFGF(+)、9継代目:
図4のbFGF(+)、11継代目:
図5のbFGF(+))。その結果、CD105の陽性率は50%以上(具体的には7継代目:79%、9継代目:86%、11継代目:87%)、CD200の陽性率は10%未満(具体的には7、9、11継代目のいずれも0%)、CD14の陽性率は5%以上(具体的には7継代目:12%、9継代目:8%、11継代目:8%)、CD106の陽性率は5%未満(具体的には7、9、11継代目のいずれも0%)であった。つまり、本発明の方法より得られた胎児附属物に由来する間葉系幹細胞を含む細胞集団には、単球マーカーであるCD14の陽性を呈する間葉系幹細胞が存在し、また、胎児特異的マーカーであるCD200の陽性を呈する間葉系幹細胞がごく微量にしか存在しないことが判明した。
【0100】
上記11継代目の羊膜MSCを上記の培養方法でさらに培養を継続したところ、少なくとも総培養日数107日まで、倍加回数43回まで、羊膜MSCは増殖停止することなく培養することが可能であった。このように培養した羊膜MSCに関しても、「羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成した(
図6の本発明の培養(bFGF+))。また、7継代目における倍加時間は1.6日、9継代目における倍加時間は1.3日、11継代目における倍加時間は1.4日であった。これらの結果から、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD14の陽性率は5%以上、CD106の陽性率は5%未満の条件を満たす羊膜MSCは、培養方法によらず増殖性が高く、倍加時間が2.0日以下であることが示された。
【0101】
また、培地にbFGFを添加すると、bFGFを添加しない態様と比較して、CD200の陽性率は低く(
図3~5)、羊膜MSCの増殖性も向上した。このことより、各種表面抗原の中で、特にCD200の陽性率は羊膜MSCの増殖性に関与していることが示唆された。
【0102】
つまり、本発明においては、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD14の陽性率は5%以上、CD106の陽性率は5%未満を維持する条件を満たす培養方法であれば、いずれの場合も、増殖性の高い間葉系幹細胞を含む細胞集団を得られることが判明した。つまり、本発明によれば、間葉系幹細胞を含む細胞集団におけるCD105の陽性率が50%以上、CD200の陽性率が10%未満、CD14の陽性率が5%以上、CD106の陽性率が5%未満であることを指標として測定することによって(好ましくは経時的に測定することによって)、間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングすることができることが示された。
【0103】
本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、PE Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:555749)、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)、FITC Mouse IgG2a, κ Isotype Control、REA Control (S)-PE アイソタイプコントロール抗体(Miltenyi Biotec社/130-104-612)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:550257)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(AnCell社/型番:326-040)を、CD14抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD14(BD社/型番:555397)を、CD45抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD45(BD社/型番:555482)を、CD200抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD200(BD社/型番:561762)を、CD106抗原に対する抗体としてCD106-PE, human monoclonal(Miltenyi Biotec社/130-104-163)を使用した。
【0104】
細胞の測定及び陽性となる細胞の比率の算出は、上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」と同様の手順で行った。
【0105】
<実施例3:羊膜MSCの増殖性のモニタリング>
上述の「工程1-1:羊膜の採取」で得られた、上皮細胞層と間葉系幹細胞層とを含む羊膜を240PU/mLコラゲナーゼ及び200PU/mLディスパーゼIを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。これを6,000cells/cm
2の密度でCellStackに播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで培養した。その後、TrypLE Selectを用いて1継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellStackに播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて2継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が2×10
7cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1:25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、クライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約18,000cells/cm
2の密度で3継代目の細胞をCellStackに播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで培養した。その後、TrypLE Selectを用いて3継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellStackに播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて4継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×10
6cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1:25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、クライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で1日凍結保存した。その後、解凍して約6,000cells/cm
2の密度で5継代目の細胞をCellStackに播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで培養した。その後、TrypLE Selectを用いて5継代目の細胞を剥離し、1/5量の細胞を先の培養と同じスケールのCellStackに播種することにより、継代培養を行った。培地交換は2~4日に1回の頻度で実施した。サブコンフルエントに達した時点でTrypLE Selectを用いて6継代目の細胞を剥離し、細胞濃度が4×10
6cells/mLになるようRPMI1640を添加した。これに等量のCP-1溶液(CP-1:25%ヒト血清アルブミン=34:16の比で混合した溶液)を加え、クライオバイアルに移して-80℃まで緩慢凍結し、その後液体窒素下で凍結保存した。7継代目以降は全て約6,000cells/cm
2の密度で細胞をCellStackに播種し、終濃度にして10%のウシ胎児血清(FBS)及び10ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで培養した。その後、TrypLE Selectを用いて剥離し、継代培養を10継代目まで繰り返した。上記の培養方法で培養した2、4、6、8、10継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(羊膜MSCマーカーとして知られているCD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200)に対して陽性となる細胞の比率を解析した(
図8)。その結果、CD105の陽性率はいずれの継代数においても50%以上であった(具体的には2継代目:98%、4継代目:99%、6継代目:99%、8継代目:99%、10継代目:99%)。CD200の陽性率は4継代目までは10%以上であり、6継代目以降においては10%未満となった(具体的には2継代目:77%、4継代目:32%、6継代目:2%、8継代目:1%、10継代目:0%)。CD106の陽性率は4継代目までは5%以上であり、6継代目以降においては5%未満であった(具体的には2継代目:14%、4継代目:7%、6継代目:3%、8継代目:0%、10継代目:0%)。このように培養した羊膜MSCに関しても、「工程1-3;羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成した(
図9)。また、倍加時間を算出したところ、2継代目における倍加時間は2.9日であり、4継代目における倍加時間は5日であり、6継代目における倍加時間は1.3日であり、8継代目における倍加時間は1.3日であり、10継代目における倍加時間は1.6日であった。これらの結果から、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD106の陽性率は5%未満の条件を満たす羊膜MSC(具体的には6継代目以降の羊膜MSC)は増殖性が高く、倍加時間も2日以下となることが示された。一方、上記条件を満たさない羊膜MSC(具体的には2及び4継代目の羊膜MSC)は増殖性が低く、倍加時間も2日を超えることが示された。
【0106】
つまり本発明においては、間葉系幹細胞を含む細胞集団におけるCD105+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が50%以上、前記細胞集団におけるCD200+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が10%未満、前記細胞集団におけるCD106+を呈する前記間葉系幹細胞の比率が5%未満であることを指標として経時的に間葉系幹細胞の各表面抗原の陽性率を測定することによって、間葉系幹細胞の増殖性をモニタリングできることが示された。また、指標の測定結果から増殖性が低いと判断した場合には、培養条件を適切に変更することによって、間葉系幹細胞の増殖性を向上させることができることも示された。
なお、本測定では、アイソタイプコントロール用抗体として、PE Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:555749)、FITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:550616)、FITC Mouse IgG2a, κ Isotype Control(BD社/型番:555573)を使用し、CD73抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD73(BD社/型番:561254)を、CD90抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:555595)を、CD105抗原に対する抗体としてAnti-Human Antibodies FITC Conjugate(BioLegend社/型番:323203)を、CD45抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD45(BD社/型番:555482)を、CD200抗原に対する抗体としてPE Mouse Anti-Human CD200(BD社/型番:552475)を、CD106抗原に対する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD106(BD社/型番:551146)を使用した。細胞の測定及び陽性となる細胞の比率の算出は、上述の「工程1-2;羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」と同様の手順で行った。
【0107】
<実施例4:羊膜MSCの免疫調節作用の検討>
上述の「実施例1:羊膜MSCの培養(本発明による培養)」で培養した羊膜MSCをプラスチック製培養容器に1.5×10
4cells/cm
2の密度で播種し、10%FBSと20μM2-メルカプトエタノールを含むRPMI1640培地にて6時間培養した。培養した羊膜MSCに、1.5×10
5cells/cm
2の密度でヒト末梢血単核細胞(PBMC)を播種し、共培養した。また、ヒトPBMCを1.5×10
5cells/cm
2の密度で単独培養した。さらに、並行して、ヒトPBMCの増殖活性を上げるため、羊膜MSCとヒトPBMCの共培養、ヒトPBMC単独培養に対して終濃度2.5μg/mLのフィトヘマグルチニン(PHA)を添加して培養した。それぞれ48時間培養した後、Click-iT EdU Microplate Assayキット(ThermoFisher SCIENTIFIC社)を用いて各細胞集団の細胞増殖活性を評価した。細胞増殖活性の評価は、Click-iT EdU Microplate Assayキットに従い、励起光568nm/蛍光585nmの波長における蛍光強度を測定することにより実施した。結果を
図10に示す。
図10の縦軸の単位は、励起光568nm/蛍光585nmの波長における蛍光強度である。羊膜MSCは、活性化されたヒトPBMCの増殖活性を抑制した(
図10)。
【0108】
<実施例5:酵素処理方法の検討>
上述の「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた、羊膜MSCを含む細胞集団をWO2013/077428号公報の請求項7並びに段落0045の<羊膜間葉系細胞の細胞集団の調製>の記載の方法にて培養した。即ち羊膜MSCを含む細胞集団を、約10,000cells/cm
2の密度でプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にて3日間培養(初期培養)した。3日後、羊膜MSCを500cells/cm
2の密度で継代し、1週間培養した。その後、500cells/cm
2の密度で継代培養を繰り返した。紡錘状の形態を有する羊膜MSCがある程度純化されたことを確認した後、通常密度(約5,000~10,000cells)での継代培養を行った。このように培養した羊膜MSCに関して、「工程1-3;羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成した(
図11)。
【0109】
上記で得られた培養曲線(
図11)とWO2013/077428号公報の
図4(d)を比較した。上記で取得された羊膜MSCとWO2013/077428号公報の請求項7並びに段落0045の方法で取得された羊膜MSCでは、酵素処理条件のみが異なっており、酵素処理後の培養方法は、どちらも同一である。培養方法が同一であるにも関わらず、WO2013/077428号公報では、細胞分裂回数(倍加回数)が10回に至るまでには60日程度の培養日数が必要であるのに対して、本発明における酵素処理方法では、30日程度の培養日数で倍加回数は10回に達している(
図11)。即ち本発明の条件で酵素処理した羊膜MSCは、WO2013/077428号公報に記載の条件で酵素処理した羊膜MSCと比較して、羊膜MSCの増殖性が高かった。
【0110】
また、上記実施例5の方法で酵素処理並びに培養方法で培養した9継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(羊膜MSCマーカーとして知られているCD73、CD90、CD105、CD44、CD166、CD45、CD326、CD14)に対して陽性となる細胞の比率を解析した(
図12)。その結果、CD105の陽性率は50%以上(具体的には86%)、CD14の陽性率は5%以上(具体的には12%)であった。
【0111】
つまり、本発明によれば、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD14の陽性率は5%以上、CD106の陽性率は5%未満であることを、最適な酵素処理条件を判断及び/又は予測する際の指標として用いることができ、増殖性の高いMSCの含有量が高い試料を予め選定することができる。それにより、製造コストを下げることが可能となり、また培養期間を短縮することができる。
【0112】
<実施例6:ドナーから採取した試料の品質評価>
3名のインフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取し、それぞれの胎児付属物を「工程1-1:羊膜の採取」、「工程1-2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」に沿って処理し、羊膜MSCを取得する。3名の胎児付属物から得られた羊膜MSCはそれぞれ#1、#2、#3とする。
上記で得られる#1、#2、#3の羊膜MSCを含む細胞集団を「実施例1:羊膜MSCの培養(本発明による培養)」の方法で培養する。
【0113】
上記の培養方法で培養する羊膜MSCに関しては、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原に対して陽性となる細胞の比率を解析することができる。また、上記の培養方法で培養した羊膜MSCに関して、「工程1-3;羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成することができる。
【0114】
このようにして、ドナーの異なる#1、#2、#3の羊膜MSCにおいて、CD105、CD200、CD106及びCD14の陽性率を調べれば、ドナー自体及びドナーから採取した試料の品質を評価することができる。つまり、本発明によれば、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD14の陽性率は5%以上、CD106の陽性率は5%未満であることを指標とすることによって、ドナー自体及びドナーから採取した試料の品質を評価することができ、増殖性の高いMSCの含有量が高い試料を予め選定することができる。それにより、製造コストを下げることが可能となり、また培養期間を短縮することができる。
【0115】
<実施例7:異なるドナーから採取した試料の品質評価>
2名のインフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取し、それぞれの胎児付属物を実施例3に沿って処理し、羊膜MSCを取得した。2名の胎児付属物から得られた羊膜MSCはそれぞれ#4、#5とした。上記で得られた#4、#5の羊膜MSCを含む細胞集団を実施例3と同じ方法で6継代目まで培養した。前記6継代目の羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いて各種表面抗原(羊膜MSCマーカーとして知られているCD73、CD90、CD105、CD45、CD106、CD200、CD14)に対して陽性となる細胞の比率を解析した(
図13)。#4においては、CD105の陽性率は99%であり、CD200の陽性率は2%であり、CD106の陽性率は3%であり、CD14の陽性率は7%であった。一方#5においては、CD105の陽性率は99%であり、CD200の陽性率は32%であり、CD106の陽性率は38%であり、CD14の陽性率は11%であった。また、#4と#5の6継代目における羊膜MSCの倍加時間を比較すると、#4の羊膜MSCの倍加時間は2日以下(具体的には1.3日)であったのに対して#5の羊膜MSCの倍加時間は2日を超えており(具体的には2.7日)、#4と比較して2倍以上遅いことが明らかとなった。また、#4及び#5の羊膜MSCに関して、「工程1-3;羊膜MSCの培養;通常培養」と同様にして増殖曲線を作成したところ、(
図14)#4の羊膜MSCの方が高い増殖性を示した。以上の結果から、羊膜から同一の方法で羊膜MSCを採取・培養しても、ドナーの相違によって取得した羊膜MSCの増殖性に大きく差がでることが示され、CD105、CD200、CD106及びCD14の陽性率を調べれば、ドナー自体及びドナーから採取した試料の品質を評価できることが示唆された。つまり、本発明によれば、CD105の陽性率は50%以上、CD200の陽性率は10%未満、CD106の陽性率は5%未満であることを指標とすることによって、ドナー自体及びドナーから採取した試料の品質を評価することができ、増殖性の高いMSCの含有量が高い試料を選定することができる。
【0116】
<実施例8:医薬組成物の製造>
上記の「実施例1:羊膜MSCの培養(本発明による培養)」で得られた羊膜MSCの一部を医薬組成物の調製に供する。羊膜MSC2.3×108個、デキストラン0.50g、DMSO1.3g及びヒト血清アルブミン1.0gを含有するRPMI1640培地25mLからなる医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者に供することができる。