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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20220714BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220714BHJP
   H02M 7/12 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 E
H02M7/48 L
H02M7/12 A
H02M7/12 G
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019164414
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2020054223
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018174492
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】浦部 宏之
(72)【発明者】
【氏名】神宮 勲
(72)【発明者】
【氏名】木村 一秋
(72)【発明者】
【氏名】臼木 一浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕喜
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147935(WO,A1)
【文献】特開2015-233384(JP,A)
【文献】国際公開第2018/154783(WO,A1)
【文献】特開2013-021891(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137749(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の単位変換器を含むアームを含み、交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、
前記交流回路を負荷とする場合または前記直流回路を負荷とする場合において、前記負荷を表すパラメータがあらかじめ設定されたしきい値よりも小さい場合に、前記電力変換器内を循環して流れる補助循環電流についての指令値を生成する補助循環電流制御機能を含む制御装置と、
を備えた電力変換装置。
【請求項2】
前記負荷を表すパラメータは、前記複数の単位変換器を流れるアーム電流である請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記負荷を表すパラメータは、前記電力変換器を入出力する有効電力である請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記負荷を表すパラメータは、前記電力変換器を入出力する無効電力である請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記負荷を表すパラメータは、前記電力変換器を入出力する皮相電力である請求項1~4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記負荷を表すパラメータは、前記制御装置に指令を送信する上位装置から送信される請求項2~5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記補助循環電流制御機能は、前記交流回路の周波数の2以上の整数倍の周波数を有する前記補助循環電流の指令値を生成する請求項1~6のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記補助循環電流制御機能は、前記負荷を表すパラメータの大きさに応じて、前記補助循環電流についての指令値の大きさを設定する請求項1~7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記しきい値は、ヒステリシスを有する請求項1~8のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記補助循環電流制御機能は、停止シーケンスの開始から、前記電力変換器の動作を停止させる停止信号が前記電力変換器に供給されるまでの第1期間では、前記指令値を時間の経過とともに低減させる請求項1~9のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記補助循環電流制御機能は、前記第1期間では、前記指令値を線形に低減させる請求項10記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記補助循環電流制御機能は、前記第1期間では、前記指令値を指数関数的に低減させる請求項10記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記補助循環電流制御機能は、異常時に生成される異常停止信号を入力した場合には、前記補助循環電流を前記第1期間よりも短い第2期間で低減する請求項10~12のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記補助循環電流制御機能は、
前記停止シーケンスの開始を表す第1の停止信号を入力して、前記指令値が所定値よりも低下し、または前記第1期間の経過で前記停止信号を生成するソフトストップ機能と、
出力可能な前記指令値の大きさを制限するリミッタを有する指令値生成機能と、
を含み、
前記ソフトストップ機能は、前記リミッタに作用して、前記指令値生成機能が出力する前記指令値を低減させる請求項10~13のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記制御装置は、前記停止シーケンスの開始を表す第1の停止信号を入力して、前記指令値が所定値よりも低下し、または前記第1期間の経過で前記停止信号を生成するソフトストップ機能をさらに含み、
前記ソフトストップ機能は、前記補助循環電流制御機能が出力する前記指令値を低減させる請求項10~13のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流を直流に変換し、直流を交流に変換する電力変換装置がある。このような電力変換装置では、たとえば基幹系の電力網に用いるために大容量化が望まれている。
【0003】
自己消弧形の半導体スイッチング素子を用いることによって小型化をはかりつつ、大容量化を実現することができる電力変換方式として、モジュラーマルチレベルコンバータ(Modular Multilevel Converter、以下、MMCという。)の実用化が進められている。
【0004】
基幹系統に用いられるような大容量の電力変換装置は、連系される電力系統の状態によらず、安定して運転を継続することが求められる。系統側が異常状態になった場合(たとえば、特許文献1等)に限らず、いかなる負荷状態であっても安定して運転することが望ましい。
【0005】
MMCでは、多数の単位変換器(以下、セルという。)をカスケードに接続して、高電圧の入出力を可能にしている。それぞれのセルは、コンデンサを有しており、複数のスイッチング素子をオンオフ動作させて、セルのコンデンサの電圧を制御する。
【0006】
各セルではコンデンサの電圧をバランスさせるバランス制御を行って、電力変換装置の安定な運転を実現している。しかし、軽負荷の状態になると、各セルをバランス制御するための電流が減少して、コンデンサの電圧が低周期で脈動することがある。このような脈動を生じた状態で、入出力の変動が重畳されると、セルの中には、過電圧検出のレベルを超過するものが生じて、電力変換装置自体の動作が停止してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-143626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
実施形態は、負荷条件によらず安定して運転することができる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る電力変換装置は、直列接続された複数の単位変換器を含むアームを含み、交流回路と直流回路との間に接続された電力変換器と、前記交流回路を負荷とする場合または前記直流回路を負荷とする場合において、前記負荷を表すパラメータがあらかじめ設定されたしきい値よりも小さい場合に、前記電力変換器内を循環して流れる補助循環電流についての指令値を生成する補助循環電流制御機能を含む制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態では、負荷条件によらず安定して運転することができる電力変換装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図2図1の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。
図3】第1の実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのブロック図である。
図4】比較例の電力変換装置を例示するブロック図である。
図5】第2の実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図6図6(a)は、図5の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。図6(b)は、図5の電力変換装置の変形例の一部を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図1に示すように、実施形態の電力変換装置10は、電力変換器20と、制御装置50と、を備える。電力変換装置10は、交流端子21a~21cを介して、交流系統(交流回路)1に接続される。この例のように、電力変換装置10は、変圧器2を介して交流系統1に接続されてもよい。たとえば、交流系統1は、三相または単相の50Hz若しくは60Hzの電源、負荷および交流送電線を備える構成とすることができる。この例では、交流系統1が三相交流である場合について説明する。
【0014】
電力変換装置10は、直流端子21d,21eを介して、直流系統(直流回路)3に接続される。直流系統3は、たとえば直流送電線等を含む。
【0015】
電力変換装置10は、交流系統1と直流系統3との間に接続されて、双方向の電力変換を行うことができる。電力変換装置10は、双方向の電力変換に限らず、一方向の電力変換を行うようにしてもよい。
【0016】
交流端子21a~21cと変圧器2との間には、交流系統1の各相の電圧を検出する交流電圧検出器4a~4cが設けられている。交流電圧検出器4a~4cは、交流系統1の各相の交流電圧を検出して、検出した交流電圧のデータを、制御装置50に供給する。この例では、交流電圧検出器4a~4cは、電力変換器20の外部に設けられているが、電力変換器20内に設けられてもかまわない。
【0017】
電力変換器20は、交流系統1の三相各相に対応したアーム22を含む。アーム22は、直流端子21d,21e間で直列に接続されレグを形成する。
【0018】
直流端子21d,21e間で直列に接続されるアーム22には、変圧器24がそれぞれ直列に接続されている。変圧器24に代えてバッファリアクトルを接続してもよい。
【0019】
アーム22は、カスケードに接続された単位変換器(以下、セルという。)30を含む。セル30は、アーム22あたり1個以上あればよいが、以下では、M個直列接続されているものとする(Mは2以上の整数)。
【0020】
図2に示すように、セル30は、端子31a,31bを含む。セル30は、端子31a,31bによって、他のセル30等と接続される。セル30は、主回路32と、ゲートドライバ35と、を含む。ゲートドライバ35は、制御装置50から出力される制御信号にしたがって、ゲート駆動信号を生成し、主回路32に供給する。
【0021】
主回路32は、スイッチング素子32aと、ダイオード32bと、コンデンサ32cと、を含む。スイッチング素子32aは、自己消弧型の半導体素子である。スイッチング素子32aは、直列に2個接続されている。
【0022】
ダイオード32bは、還流ダイオードである。2個のダイオード32bは、直列に接続されているスイッチング素子32aにそれぞれ逆並列に接続されている。
【0023】
コンデンサ32cは、直列に接続された2個のスイッチング素子32aに並列に接続されている。
【0024】
なお、図示しないが、各セル30は、コンデンサ32cの両端のセル電圧を検出する電圧検出器を有しており、電圧検出器によって検出されたセル電圧は制御装置50に送信される。制御装置50では、各セル30から取得されたセル電圧の検出値を用いて、バランス制御を含む各種制御を行う。
【0025】
以下では、上述したようなハーフブリッジ構成のセル30を用いたMMCについて説明するが、セルをフルブリッジ構成とし、すべてのセルをフルブリッジ構成に置き換えてももちろんよい。
【0026】
図1に戻って説明を続ける。各アーム22は、アーム22に流れる電流を検出する電流検出器40を含む。各アーム22の電流検出器40によって検出されたアーム電流のデータは、制御装置50に供給される。アーム電流は、各相のうちU相の高電位側のアーム22では、Iupとし、U相の低電位側のアーム22では、Iunとする。V相の高電位側のアーム22では、Ivpとし、V相の低電位側のアーム22では、Ivnとする。W相の高電位側のアーム22ではIwpとし、低電位側のアーム22では、Iwnとする。
【0027】
制御装置50は、セル電圧やアーム電流Iup~Iwn、交流系統1の各相の電圧Vu~Vwを入力して、これらにもとづいて制御信号を生成し、電力変換器20に供給する。制御装置50は、バランス制御機能52を有し、バランス制御機能52は、補助循環電流制御機能54を含む。
【0028】
バランス制御機能52は、各アーム22に流れるアーム電流Iup~Iwnによって、各セル30のコンデンサ32cの電圧のバランスを制御する。コンデンサ32cの電圧のバランスを制御するとは、たとえば相間のセル電圧の平均値をバランス(均等化)させる相間バランス、各相において、高電位側アームおよび低電位側アームのセル電圧の平均値をバランスさせるpn間バランス、アーム22内のセル電圧をバランスさせるアーム内個別バランスを行うことをいう。電圧バランスの制御を行う際には、たとえばバランスさせる相間のセル電圧の平均値が等しくなるまで、各相のセル30に電流を流して、セル電圧を制御する。
【0029】
補助循環電流制御機能54は、電力変換装置10の負荷が所定のしきい値よりも小さい場合に、補助循環電流の指令値を生成して、相間を流れる循環電流を供給できるようにする。なお、負荷という場合には、以下の説明では特に断らない限り、交流系統1側から直流系統3側への電力変換についての負荷をいうが、この実施形態を含むすべての形態において、直流系統3から交流系統1への電力変換の場合の負荷も含むものとする。
【0030】
所定のしきい値は、適切なものを任意に設定することができる。たとえば、所定のしきい値は、アーム電流についてのしきい値として設定することができる。アーム電流についてのしきい値は、たとえば、各アーム22に設けられた電流検出器40によって検出されたアーム電流Iup~Iwnの平均値に対して設定される。あるいは、各アーム22のアーム電流Iup~Iwnのうち、しきい値よりも低いものを少なくとも1つ検出したときに、補助循環電流の指令値を生成するようにしてもよい。なお、アーム電流についてのしきい値という場合のアーム電流は、たとえば実効値を用いることができ、実効値の代わりにピーク値を用いてもよい。
【0031】
アーム電流Iup~Iwnの平均値についてしきい値を設けた場合には、取得されたアーム電流Iup~Iwnの平均値が計算され、計算された平均値がしきい値よりも小さいときに、補助循環電流制御機能54は、補助循環電流の指令値を生成する。制御装置50は、生成された補助循環電流の指令値にもとづいて、制御信号を生成して各セル30に供給する。
【0032】
所定のしきい値は、アーム電流に限らず、他のパラメータを用いることもできる。たとえば、所定のしきい値は、交流系統1側に入出力される有効電力および無効電力のそれぞれについてのしきい値としてもよい。電力変換装置10に入出力される有効電力および無効電力の一方または両方が、それぞれのしきい値よりも小さいときには、補助循環電流制御機能54は、補助循環電流の指令値を生成する。
【0033】
電力変換器20に入出力される有効電力が小さい場合であっても、電力変換器20が無効電力を交流系統1に注入していることがあるので、そのようなときには、アーム電流を十分流すことができる。そのため、電力変換装置10は、補助循環電流によらず、バランス制御が可能である。
【0034】
所定のしきい値は、交流系統1側に入出力される皮相電力についてのしきい値としてもよい。電力変換器20に入出力される皮相電力がしきい値よりも小さいときに、補助循環電流制御機能54は、補助循環電流の指令値を生成する。制御装置50は、生成された補助循環電流の指令値にもとづいて、制御信号を生成して各セル30に供給する。
【0035】
皮相電力は、有効電力の2乗と無効電力の2乗との和の平方根なので、皮相電力の大きさにもとづいて、補助循環電流制御機能54の起動の有無を判定することは、上述の有効電力および無効電力の大きさについてそれぞれ判定することと実質的に同等とすることもできる。すなわち、有効電力および無効電力の大きさについてそれぞれ判定するのに代えて、皮相電力の大きさで判定することができる。
【0036】
有効電力、無効電力および皮相電力の測定、演算のためには、交流電圧検出器4a~4cによって検出された各相の相電圧およびアーム電流によって求められた各相の線電流が用いられる。なお、各相の線電流は、その相の高電位側のアーム電流と低電位側のアーム電流の差を計算することによって求めることができる。
【0037】
有効電力、無効電力および皮相電力は、測定値ではなく図示しない上位装置からの指令値を用いてもよい。なお、上位装置は、たとえば制御装置50に対して直流電力指令値や潮流方向等を設定する指令を送信する装置である。
【0038】
上述の負荷を表すパラメータ、すなわちアーム電流、有効電力、無効電力および皮相電力に対するそれぞれのしきい値は、単独で設定してもよいし、複数のパラメータに対するしきい値を組み合わせてもよい。しきい値を組み合わせる場合には、すべてのパラメータが対応するしきい値を下回ったことを条件にしてもよいし、いずれかのパラメータが対応するしきい値を下回ったことを条件にしてもよいし、その他の組合せ条件を設定してもよい。
【0039】
補助循環電流制御機能54は、上述の所定のしきい値によって補助循環電流を生成する場合には、一定の補助循環電流としてもよいし、アーム電流、皮相電力、有効電力あるいは無効電力等負荷の大きさに応じて大きさを変化させてもよい。より具体的には、補助循環電流の最小値を、セル電圧のバランス制御を行える程度の値に設定し、補助循環電流の最小値を下限にしてこれらのパラメータ(アーム電流、皮相電力、有効電力および無効電力等)がしきい値よりも小さくなるにしたがい、補助循環電流を大きく設定することができる。
【0040】
補助循環電流制御機能54は、交流の補助循環電流の指令値を生成するようにしてもよい。その場合には、好ましくは、補助循環電流の周波数は、交流系統1の周波数の2倍の周波数とする。これによって、交流系統1や直流系統3に補助循環電流にもとづいて流出入する電流を低減することができる。交流系統1の周波数の2倍以上の整数倍の周波数の補助循環電流とすることによって、補助循環電流による有効電力をほぼゼロにすることができるので、補助循環電流の周波数は、交流系統1の2倍以上の整数倍としてもよい。
【0041】
実施形態の電力変換装置10の動作について、説明する。
図3は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのブロック図である。
図3には、図1のブロック図のうち、交流電圧検出器4a~4c、電流検出器40およびアーム22の図示が省略されている。図の太い実線の矢印は、循環電流を表している。図の破線の矢印は、交流系統1の各相の線電流Iu,Iv,Iwを表している。図の一点鎖線の矢印は、直流系統3に流れる直流電流Idcを表している。
【0042】
図3に示すように、電力変換装置10は、通常の動作状態(たとえば、定格負荷における運転状態)では、交流電流、直流電流および循環電流が適切に流れている。交流電流は、交流系統1との間で入出力される交流系統1の各相の線電流Iu,Iv,Iwである。直流電流Idcは、制御装置50あるいは上位の制御システムにおいて設定される直流電流の指令値にもとづいて、直流系統3との間で入出力される。
【0043】
循環電流は、各相間を流れ、電力変換器20の外部に流出入しない電流である。循環電流は、たとえば高電位側のアーム22のセル電圧の平均値と低電位側のアームのセル電圧の平均値との間(pn間)でアンバランスがある場合に、バランス制御機能52によってpn間のバランスをとる場合等に流れる電流である。
【0044】
循環電流は、交流と直流との電力変換には直接寄与しないので、小さな値であることが好ましい。上述のように、セル電圧のバランス制御のために流れた循環電流は、セル電圧のバランスがとれた後には、ほとんど流れなくなる。
【0045】
入出力される交流電流や直流電流が小さい場合(負荷が小さい場合)には、各セル30を流れるアーム電流も小さくなる。このような軽負荷や無負荷の場合であっても、各セル30のセル電圧は、放電用の抵抗器による放電や、ゲートドライバ35の消費電流等によって、低下することがあり、セル30ごとに低下の度合いが相違する。そのため、セル電圧にはアンバランスが生じ得る。
【0046】
また、負荷が小さく、アーム電流が小さい場合には、各セル30または一部のセル30でセル電圧が脈動し、動作が不安定になることがある。このようにセル電圧が脈動している状態から、負荷変動等によって大きな電圧変動が重畳されると、いくつかのセル30において、過電圧を検出し、電力変換装置10全体の動作が停止することがある。
【0047】
そこで、実施形態の電力変換装置10では、軽負荷の状態を検出した場合には、補助循環電流制御機能54が起動して、補助循環電流を流すための指令値を生成する。補助循環電流は、電力変換器20内を流れるので、電力変換装置10は、セル電圧のバランス制御をすることが可能になり、セル電圧の脈動が低減される。
【0048】
負荷がしきい値以上の場合には、補助循環電流制御機能54は、補助循環電流の指令値の生成を停止する。そのため、電力変換器20内に不必要な循環電流は流れないので、変換効率の低下等招くとことなく運転を継続することができる。
【0049】
実施形態の電力変換装置10の効果について、比較例の電力変換装置と比較しつつ説明する。
図4は、比較例の電力変換装置を例示するブロック図である。
図4に示すように、比較例の電力変換装置110は、電力変換器20と、制御装置150と、を含む。比較例の場合には、制御装置150の構成が、実施形態の場合と相違しており、他については同じである。同一の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0050】
電力変換装置110の制御装置150は、バランス制御機能152を含む。バランス制御機能152は、相間、pn間、アーム内コンデンサ間のセル電圧のバランス制御を行う。このバランス制御機能152では、相間、pn間、アーム内コンデンサ間でセル電圧のアンバランスが生じた場合に、アーム電流を流して、セル電圧をバランスさせる。
【0051】
しかし、電力変換装置110の制御装置150は、軽負荷時等の補助循環電流を生成する機能を有さないので、軽負荷時等にセル電圧がアンバランスとなり、セル電圧が低周波で脈動する。図示しないが、制御装置150は、セル電圧の過電圧保護機能を有しており、セル電圧が過電圧保護のしきい値を超えた場合には、制御装置150は、電力変換器20の動作を停止する。たとえば、セル電圧が脈動しているときに、大きな負荷変動等が生じ、脈動電圧に重畳すると、セル電圧は過電圧保護機能のしきい値を超えるおそれがある。つまり、比較例の電力変換装置110の場合には、軽負荷であるにもかかわらず、セル30のセル電圧の過電圧によって、運転が停止される可能性がある。
【0052】
これに対して、実施形態の電力変換装置10では、バランス制御機能52が補助循環電流制御機能54を含んでいる。補助循環電流制御機能54は、電力変換器20の負荷が所定のしきい値よりも小さい場合に起動して、補助循環電流のための指令値を生成する。制御装置50は、生成された補助循環電流の指令値にもとづいて、制御信号を生成し、電力変換器20は、生成された制御信号にしたがって動作して、相間を流れる循環電流である補助循環電流を流して、セル電圧のバランス制御を行う。そのため、セル電圧は、バランスされ、セル電圧の脈動が抑制される。制御装置50には、各セル30のための過電圧保護機能が含まれるが、セル電圧の脈動に起因する誤動作は防止される。なお、過電圧保護機能は、制御装置側に設けられているのは一例であり、変換器側や上位の制御システム側等に設けられている場合等がある。
【0053】
負荷がしきい値以上の場合には、補助循環電流制御機能54は、補助循環電流の指令値の生成を停止するので、電力変換器20に無駄な循環電流を流すことなく、電力変換装置10は、通常運転を行うことができる。
【0054】
負荷に対するしきい値は、適切なものを用途等に応じて任意に設定することができる。しきい値をアーム電流とした場合には、各相、各アームの電流を判定条件とすることができるので、適切な条件を任意に設定することができる。たとえば、各アームのアーム電流のうちいずれか1つのアーム電流がしきい値よりも小さい場合に、補助循環電流制御機能54を起動するようにすれば、どのアーム22においてもセル電圧の脈動が発生することを防止することができる。アーム電流の平均値を用いる場合には、電流の不平衡によって、一部のアーム電流が小さいときを除外して、無駄な循環電流が流れるのを防止することができる。
【0055】
しきい値を、有効電力とした場合には、有効電力は、直流系統3側で入出力する直流電力にほぼ等しいので、実質的な軽負荷状態を判定することができる。つまり、電力変換装置10が双方向の電力変換を行うシステムに用いられた場合であっても、交流側、直流側の双方に入出力する電流や電力を監視しなくても、適切な軽負荷等の判定をすることができる。
【0056】
電力変換装置10が無効電力制御を行っている場合には、無効電力についてのしきい値を追加することによって、有効電力がしきい値よりも小さいときであっても、補助循環電流制御機能54を起動せず、電力変換装置10に入出力する無効電力が、しきい値よりも小さいときにはじめて補助循環電流制御機能54を起動することができる。したがって、無駄な補助循環電流を流すことがないので、変換効率等を向上させることができる。
【0057】
上述のしきい値は、単独のパラメータを設定してももちろんよいが、複数のパラメータに対するしきい値を設定し、組み合わせて用いることによって、より精密な負荷条件によって、補助循環電流制御機能54を起動させることができる。
【0058】
また、上述のしきい値について、ヒステリシスを設けることによって、いわゆるチャタリングによって、補助循環電流制御機能が過度に動作、非動作を繰り返すことを防止することができる。
【0059】
補助循環電流制御機能54によって生成される補助循環電流の指令値を、しきい値を設定するパラメータの大きさに応じて、変化させることによって、より小さな負荷条件に対しては、より大きい補助循環電流とすることができ、変換効率の向上とともに、安定した運転を実現することができる。
【0060】
(第2の実施形態)
上述したように、補助循環電流制御機能を付加することによって、軽負荷時等においても、電力変換装置を安定動作させることができる。一方、補助循環電流制御機能が動作している状態で電力変換装置を停止させた場合には、補助循環電流が切れるまでの間、直流線路に全セル電圧が印加されるため、直流系統3に過電圧を発生させる可能性がある。本実施形態では、停止時においても安全に動作することができる電力変換装置を実現する。
【0061】
図5は、本実施形態に係る電力変換装置を例示するブロック図である。
図5に示すように、本実施形態の電力変換装置210は、電力変換器20と、制御装置250と、を備える。電力変換器20は、上述した他の実施形態の場合と同じである。本実施形態においては、制御装置250の構成が上述した他の実施形態の場合と異なっている。同一の構成要素には同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略する。
【0062】
この例では、直流系統203は、アレスタ204p,204nを含んでいる。アレスタ204pは、直流系統203のうち高電位側に設けられている。アレスタ204nは、直流系統203の低電位側に設けられている。アレスタ204p,204nは、この例のようにたとえば、直流送電線と接地間にそれぞれ接続されている。アレスタ204p,204nは、直流系統203への落雷等による過電圧を抑制し、系統に接続された電力変換器20を含む各機器を保護する。
【0063】
制御装置250は、バランス制御機能252を含んでおり、バランス制御機能252は、補助循環電流制御機能254を含む。補助循環電流制御機能254は、ソフトストップ機能を含んでいる。
【0064】
ソフトストップ機能256は、電力変換装置210が運転停止する場合に、第1の停止信号が入力されると、補助循環電流の指令値をあらかじめ設定されたレートで低減させる。ソフトストップ機能256は、補助循環電流の指令値が十分小さい値に達したときに、第2の停止信号を出力する。第2の停止信号は、たとえばゲートブロック信号であり、第2の停止信号によって、電力変換器20の各セル30は、動作を停止する。
【0065】
電力変換器20の各セル30は、補助循環電流が十分小さくなった後に運転を停止するので、直流系統203の過電圧を防止する。また、補助循環電流制御機能254では、第1の停止信号が入力された後に、補助循環電流の指令値が次第に低減されるので、コンデンサのバランス制御が維持される。
【0066】
図6(a)は、図5の電力変換装置の一部を例示するブロック図である。図6(b)は、図5の電力変換装置の変形例の一部を例示するブロック図である。
図6(a)に示すように、補助循環電流制御機能254は、たとえばPI制御器258を含んでおり、PI制御器258に入力された信号にもとづいて、補助循環電流の指令値を生成し、出力する。PI制御器258は、リミッタを有しており、PI制御器258が出力する信号は、リミッタ値を超えないように制限される。
【0067】
補助循環電流制御機能254は、ソフトストップ機能256を含んでいる。ソフトストップ機能256には、停止信号1が入力される。停止信号1は、たとえば、停止シーケンスが開始された場合に生成され、補助循環電流制御機能254に供給される。ソフトストップ機能256の1つの出力は、PI制御器258のリミッタに作用するように設けられている。
【0068】
ソフトストップ機能256は、停止信号1が入力されると、PI制御器258の出力があらかじめ設定されたレートで低減するように、リミッタに作用する。PI制御器258は、リミッタの低減レートに応じて低減する指令値を出力する。ソフトストップ機能256が出力する信号は、たとえば線形レートで低減するように設定されている。低減レートは、線形に限らず、一次遅れ(指数関数)等としてもよい。低減レートは、たとえばシミュレーション等を用いて決定される。
【0069】
ソフトストップ機能256の他の1つの出力は、補助循環電流の指令値が十分小さい値になったときに出力される。この出力信号は、停止信号2であり、たとえばゲートブロック信号として、各セル30に供給される。停止信号2の生成には、PI制御器258の出力が十分低下したことを検出してもよい。たとえば、PI制御器258の出力信号の大きさが、PI制御器258が出力できる最大値の10%以下に低下したしたときに停止信号2が生成される。あるいは、停止信号2の生成は、あらかじめ設定されている指令値の低減レートにもとづいて設定されるようにしてもよい。
【0070】
ソフトストップ機能256には、異常時停止信号が入力される。異常時停止信号は、交流系統等に地絡が発生した場合や、電力変換器20のいくつかのセル30において、過電圧が検出されて動作停止した場合等に生成される緊急停止のための停止信号である。
【0071】
ソフトストップ機能256は、異常時停止信号が入力された場合には、停止信号1が入力された場合よりも高い低減レートで低下する信号を生成する。たとえば、ソフトストップ機能256は、異常時停止信号の入力時には、有限の値からステップ状に0に変化する信号を生成する。これにより、PI制御器258のリミッタは、PI制御器258の出力を非常に小さい値に制限する。
【0072】
ソフトストップ機能256は、異常時停止信号が入力された場合には、補助循環電流のための指令値の低下に応じて、すみやかに停止信号2を出力する。
【0073】
図6(b)に示すように、バランス制御機能252aは、補助循環電流制御機能254aと、ソフトストップ機能256aと、を含むようにしてもよい。ソフトストップ機能256aは、停止信号1が入力された場合には、補助循環電流制御機能254aにあらかじめ設定された低減レートで、補助循環電流の指令値を低減するように指令を送信する。補助循環電流制御機能254aは、停止信号にもとづく指令に応じて、あらかじめ設定された低減レートで指令値を生成し、出力する。
【0074】
補助循環電流のための指令値が十分小さい値となったことに応じて、ソフトストップ機能256aは、停止信号2を生成して、電力変換器20に供給する。
【0075】
ソフトストップ機能256aに異常時停止信号が入力された場合には、ソフトストップ機能256aは、補助循環電流制御機能254aに対して、補助循環電流のための指令値を0等の最小値に設定するよう指令を送信する。この場合の指令を受信した補助循環電流制御機能254aでは、補助循環電流制御機能254aは、停止信号が入力された場合の低減レートよりも十分に高いレートで指令値を最小値に設定する。
【0076】
ソフトストップ機能256aは、補助循環電流の指令値の低下に応じて、停止信号2を生成して、電力変換器20に供給する。
【0077】
図6(b)の例の場合には、既存の補助循環電流制御機能の回路ブロックにソフトストップ機能を追加することが、困難な場合等に、バランス制御機能252aの他の部分にソフトストップ機能を追加する場合等に有効である。
【0078】
本実施形態の電力変換装置210の効果について説明する。
本実施形態の電力変換装置210では、補助循環電流制御機能254,254aが生成する補助循環電流の指令値をあらかじめ設定された低減レートで低減するソフトストップ機能256,256aを含んでいる。そのため、通常運転時における停止動作の場合に、直流系統の過電圧を防止することができる。
【0079】
電力変換器20のようなMMCでは、電力変換器20をゲートブロック信号によって停止させた場合に、ダイオード32bを介して直流系統側に放電するため、直流系統にはすべてのセル30のセル電圧が印加される。ここで、補助循環電流を流した状態でゲートブロック信号によって電力変換器20を停止させると、直流系統203に過大な直流電圧が重畳される。
【0080】
このように、ソフトストップ機能256,256aがない場合には、電力変換装置の通常の停止シーケンスにおいて、直流系統に過電圧を生じ得る。図5に示した直流系統203のように、直流送電等の場合には、直流送電線にアレスタ204p,204nが接続されている。そのため、直流系統に過電圧を生じても、アレスタ204p,204nによって過電圧が抑制されるので、直流系統203に接続された装置や機器等に被害を生じる場合は少ないと考えられる。
【0081】
しかしながら、アレスタ204p,204nは、上述したとおり、直流系統203への落雷等の事故から装置や機器等を保護する目的で設けられているものである。アレスタ204p,204nは、頻繁な動作により劣化が進むことがあるので、電力変換装置の運転停止等のたびにアレスタ204p,204nが動作していたのでは、本来の必要なときに十分な性能を発揮できないおそれがある。
【0082】
本実施形態の電力変換装置210では、電力変換装置210の通常の停止シーケンスにおいては、直流系統203に過大な電圧を発生することを防止することができ、アレスタ204p,204nの劣化を抑制し、直流系統203に接続された他の装置、機器等を安全に保護することができる。
【0083】
また、本実施形態の電力変換装置210では、通常の停止シーケンスにおいて、停止シーケンスの開始と同時に補助循環電流を次第に低下させるように制御するので、停止シーケンスの実行中にバランス制御が不安定になることがない。そのため、安定して、停止シーケンスを実行することができる。
【0084】
さらに、本実施形態の電力変換装置210では、系統の地絡等の異常時には、補助循環電流も遮断し、すみやかにゲートブロック信号を生成して、電力変換器20を停止させることができる。そのため、直流系統203に接続された他の装置、機器等への不具合の拡大を抑制することができる。
【0085】
以上説明した実施形態によれば、確実に過電流保護が可能な電力変換装置を実現することができる。
【0086】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 交流系統、2 変圧器、3 直流系統、4a~4c 交流電圧検出器、10 電力変換装置、20 電力変換器、21a~21c 交流端子、21d,21e 直流端子、22 アーム、24 変圧器、30 単位変換器(セル)、31a,31b 端子、32 主回路、35 ゲートドライバ、40 電流検出器、50 制御装置、52 バランス制御機能、54 補助循環電流制御機能、210 電力変換装置、203 直流系統、204p,204n アレスタ、250 制御装置、252,252a バランス制御機能、254,254a 補助循環電流制御機能、256,256a ソフトストップ機能、258 PI制御器
図1
図2
図3
図4
図5
図6