(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20220714BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20220714BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20220714BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M4/74 D
H01M50/463 B
(21)【出願番号】P 2019199090
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 由涼
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-160956(JP,A)
【文献】実開昭59-184464(JP,U)
【文献】特開2010-182567(JP,A)
【文献】特開2003-197200(JP,A)
【文献】特開平08-329949(JP,A)
【文献】米国特許第04980252(US,A)
【文献】特開2009-224248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/12
H01M 4/72-74
H01M 50/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有し、
前記セパレータの前記正極板と対向する面に、前記セル室の上下方向に延びる筋状の突起である縦リブが、前記正極板の幅方向に間隔を開けて複数形成され、
前記正極板は、長方形の格子状基板と前記格子状基板から上側に突出する耳部とを有する正極集電体と、前記格子状基板に保持された正極合剤と、を有し、
前記格子状基板は、前記長方形の外周縁を形成する外枠と、前記外枠を構成する二本の外縦骨の間に渡された複数の内横骨と、前記外枠を構成する二本の外横骨の間に渡された複数の内縦骨とで構成され、
前記外縦骨は、前記外枠の外側に突出する丸み部分を有
し、
前記外縦骨の長手方向に垂直な断面形状は、四角形の一辺が前記丸み部分を形成する曲線に置換された形状であり、
前記内横骨、前記外横骨、および前記内縦骨の長手方向に垂直な断面形状は、四角形である鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液式の鉛蓄電池は、セル室と、セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。正極板および負極板は、それぞれ、長方形の格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する集電体と、格子状基板に保持された活物質合剤(正極合剤、負極合剤)と、を有する。
格子状基板は、例えば、長方形の外周縁を形成する外枠と、外枠を構成する二本の外縦骨の間に渡された複数の内横骨と、外枠を構成する二本の外横骨の間に渡された複数の内縦骨と、で構成されている。
【0003】
鉛蓄電池は自動車用として広く使用されているが、従来から鉛蓄電池の寿命が短くなる原因の一つとして、セパレータが破れて短絡することが知られている。これは、高温環境下では特に顕著であり、高温となるエンジンルームに置かれる鉛蓄電池にとって長年解決すべき課題となっている。
セパレータが破れる原因としては主に二つが挙げられる。一つは、正極板との接触による酸化劣化である。これに対しては、セパレータの正極板と対向する面にリブを設け、正極板とセパレータが接触することを抑制する方法が広く採用されている。
【0004】
もう一つは、外部応力である。酸化状態に置かれている正極集電体の格子状基板は腐食によって伸びる。このとき、積層方向でセパレータに向けて格子状基板が反り曲がるように伸びていくと、格子状基板の外縦骨がセパレータのリブに引っかかってしまう。さらに格子状基板の伸びが進行すると、比較的強度が弱いセパレータはその伸びに追従できず、裂けるように破れて短絡に至る可能性がある。
【0005】
特許文献1および特許文献2には、鉛蓄電池の正極集電体を構成する格子状基板として、上記のような、二本の外縦骨(縦枠骨)と二本の外横骨(横枠骨)とからなる外枠、内横骨(横中骨と横細骨、横内骨)、外横骨(横枠骨)、および内縦骨(縦中骨と縦細骨、縦内骨)を有する構造が記載されている。しかし、いずれの文献においても、各骨における断面積の関係が規定されているだけで、各骨の断面形状を規定する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-231302号公報
【文献】特開2016-126924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、正極集電体の格子状基板がセパレータに向けて反り曲がるように伸びた場合でもセパレータの破損が抑制できる、新規な鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の鉛蓄電池は、下記の構成(a)~(c)を有している。
(a)セル室と、セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、極板群は、交互に配置された正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。セパレータの正極板と対向する面に、セル室の上下方向に延びる筋状の突起である縦リブが、正極板の幅方向に間隔を開けて複数形成されている。
(b)正極板は、長方形の格子状基板と格子状基板から上側に突出する耳部とを有する正極集電体と、格子状基板に保持された正極合剤と、を有する。格子状基板は、長方形の外周縁を形成する外枠と、外枠を構成する二本の外縦骨の間に渡された複数の内横骨と、外枠を構成する二本の外横骨の間に渡された複数の内縦骨と、で構成されている。
(c)外縦骨は、外枠の外側に突出する丸み部分を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鉛蓄電池によれば、正極集電体の格子状基板がセパレータに向けて反り曲がるように伸びた場合でもセパレータの破損が抑制される。よって、短絡が防止され、寿命が長くなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第一実施形態の鉛蓄電池を構成する正極板を示す部分破損正面図である。
【
図3】第一実施形態の鉛蓄電池を構成する積層体の一部を示す平面図である。
【
図4】第二実施形態の鉛蓄電池を構成する正極板を示す部分断面図であって、
図1のA-A断面図に相当する図である。
【
図5】実施例で作製したサンプルNo.3およびNo.4の鉛蓄電池を構成する積層体の一部を示す平面図である。
【
図6】実施例で作製したサンプルNo.3の鉛蓄電池を構成する正極板を示す部分断面図であって、
図1のA-A断面図に相当する図である。
【
図7】実施例で作製したサンプルNo.4の鉛蓄電池を構成する正極板を示す部分断面図であって、
図1のA-A断面図に相当する図である。
【
図8】実施例で行った各サンプルの試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0012】
[第一実施形態]
〔全体構成の説明〕
この実施形態の鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が配置されている。各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0013】
正極板は、正極集電体と正極合剤(正極活物質を含む合剤)で構成され、正極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板から上側に突出する耳部とを有し、格子状基板に正極合剤が保持されている。負極板は、負極集電体と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板から上側に突出する耳部とを有し、格子状基板に負極合剤が保持されている。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数Mnは正極板の枚数Mpよりも一枚多い。
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。この負極板が入った袋状セパレータと正極板とが交互に積層されて、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。
【0014】
また、各極板群は、積層体の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱を有する。正極ストラップおよび負極ストラップは、正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップには、正極極柱および負極極柱がそれぞれ小片部を介して形成され、外部端子となる正極極柱および負極極柱と接続している。
【0015】
〔正極板とセパレータについて〕
この実施形態の鉛蓄電池は、
図1に示す正極板1を有する。
正極板1は、正極集電体2と正極合剤3で構成されている。正極集電体2は、長方形の格子状基板21と、格子状基板21から上側に突出する耳部22で構成されている。
格子状基板21は、長方形の外周縁を形成する外枠211と、複数の内横骨212と、複数の内縦骨213とで構成されている。外枠211は、二本の外縦骨211aと、二本の外横骨211bとで構成されている。内横骨212は、二本の外縦骨211aの間に渡されている。内縦骨213は、外枠211を構成する二本の外横骨211bの間に渡されている。これらの骨により、網目状の孔214が形成されている。
正極集電体2は、カルシウム(Ca)を含む鉛合金で形成されている。
格子状基板21の全ての孔214の中および格子状基板21の表裏面の全体に、正極合剤3が保持されている。
なお、
図1は、正極合剤3を部分的に除去して、正極集電体2の一部を露出させた図になっている。
【0016】
図2に示すように、外縦骨211aは、外枠の外側に突出する丸み部分25を有する。そして、外縦骨211aの長手方向に垂直な断面形状は、長方形(四角形)の一辺が、丸み部分25を形成する曲線251に置換された形状である。つまり、外縦骨211aの丸み部分25以外の断面形状を構成する線(以下、単に「断面線」とも称する。)は直線である。また、曲線251は、円弧、略円弧、楕円弧、または略楕円弧である。
内縦骨213の長手方向に垂直な断面形状は、正方形(四角形)である。内横骨212および外横骨211bの長手方向に垂直な断面形状も、内縦骨213と同様に正方形(四角形)である。つまり、内縦骨213、内横骨212、および外横骨211bの断面線は直線である。
【0017】
図3には、正極板1、負極板4、および袋状セパレータ5からなる積層体の一部が示されており、Xは積層体の積層方向を示している。
図3に示すように、負極板4は袋状セパレータ5の中に収納されている。袋状セパレータ5は、板状の基部51と、基部51の外面(正極板1と対向する面)から突出する複数本の縦リブ52とで構成されている。縦リブ52は、セル室の上下方向(紙面に垂直な方向)に延びる筋状の突起である。複数本の縦リブ52は、正極板1の幅方向Yに間隔を開けて形成されている。
【0018】
〔製造方法〕
実施形態の液式鉛蓄電池は、例えば以下の方法で製造することができる。
先ず、正極集電体および負極集電体を作製する。Caを含む鉛合金圧延板にパンチング法で、全ての格子状基板の孔を開けると同時に、隣り合う耳部同士の間の部分を抜くことによって、多数の集電体が連結された基板シートを作製する。これにより、全ての格子状基板を構成する全ての骨の長手方向に垂直な断面形状が長方形になる。次に、正極板用の基板シートには正極合剤を含むペーストを、負極板用の基板シートには負極合剤を含むペーストを、それぞれ充填して乾燥させる。
乾燥後に、各基板シートをロータリーカッターで切断して、一枚毎の正極充填板(化成により正極板となるもの)および負極充填板(化成により負極板となるもの)を得る。正極充填板については、外縦骨の外側に対してのみ、半円柱形の凹型を用いた圧縮加工を行うことで、
図2に示すように、外縦骨211aに、外枠211の外側に突出する丸み部分25を形成する。
【0019】
次に、袋状セパレータ5の中に負極充填板を収納し、負極充填板が収納された袋状セパレータ5と正極充填板とを交互に配置することで、化成前の積層体を得る。
次に、この化成前の積層体を、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極板の耳部同士を接続した正極ストラップおよび負極板の耳部同士を接続した負極ストラップを形成するとともに、正極中間極柱、負極中間極柱、外部端子となる正極極柱および負極極柱を形成する。その後で、前記積層体を電槽の各セル室に配置する。
【0020】
次に、隣接するセル室の正極中間極柱同士および負極中間極柱同士を抵抗溶接することで、隣接するセル間を電気的に直列に接続する。次に、電槽の上面と蓋の下面とを熱で溶かして蓋を電槽に載せ、熱溶着により電槽に蓋を固定する。なお、蓋を電槽に載せる際に、正極極柱および負極極柱を蓋にインサート成形したブッシングの貫通穴に通す。その後、ブッシングの貫通穴からそれぞれ突出した状態の正極極柱および負極極柱を、バーナー等で加熱してブッシングと一体化させることで、正極端子および負極端子を形成する。
その後、蓋を貫通する孔として設けた注液孔からセル室内に、電解液として硫酸アルミニウムを添加した希硫酸水溶液を注入した後、注液孔を液口栓で塞ぎ、未化成の液式鉛蓄電池を組み立てる。その後、通常の条件で電槽化成を行って完成品とする。
【0021】
〔実施形態の作用、効果〕
この実施形態の鉛蓄電池では、正極集電体2の格子状基板21が袋状セパレータ5に向けて反り曲がるように伸びて、格子状基板21の外縦骨211aが袋状セパレータ5の縦リブ52に接触した場合でも、丸み部分25の存在により外縦骨211aは縦リブ52に引っかかりにくい。これに対して、丸み部分25がなく、外縦骨211aの断面形状が長方形である場合は、外縦骨211aが縦リブ52に引っかかった状態になり易く、この状態で格子状基板21がさらに伸びようとするため、これに追従できない袋状セパレータ5の基部51に破損が生じ易くなる。この破損箇所は縦リブ52の付け根に近い位置となる。
【0022】
また、外横骨211bおよび内横骨212は圧縮加工されていないため、圧縮加工されているものよりも
図3のY方向に伸びにくい。圧縮加工されているものは、圧縮加工時に入る応力歪みに起因する腐食によって、圧縮加工されていないものより伸び易くなる。つまり、格子状基板21は、外横骨211bおよび内横骨212が圧縮加工されていているものと比較して、Y方向での伸びの程度が小さいため、外縦骨211aが袋状セパレータ5の基部51の幅方向端部に接触しにくいものとなっている。
【0023】
以上のことから、この実施形態の鉛蓄電池では、袋状セパレータ5の破損が抑制されて、正極板1と負極板4との短絡が防止されるため、寿命が長くなる。
また、外縦骨211aの丸み部分25以外の断面線が直線であるとともに、外縦骨211a以外の格子状基板21を構成する骨(内横骨212、外横骨211b、および内縦骨213)の断面線も直線であるため、これらの断面線が外側に凸の曲線である場合と比較して、正極合剤の保持性能が高くなる。
【0024】
これは次のように考えられる。鉛蓄電池の正極合剤は、充電と放電によって活物質の酸化状態が変化するため、膨張と収縮を繰り返す。通常、格子状基板の穴に保持された状態では、格子状基板の表面と正極活物質が腐食層を形成して結合した状態となるが、正極合剤の体積変化に格子状基板が追従できない場合、正極合剤の剥離や脱落を生じてしまう。したがって、格子状基板と正極合剤の界面には結合に十分な腐食層が形成されることが好ましい。ここで、格子状基板を構成する骨の断面線が直線である場合、格子状基板の穴に正極合剤を所定の圧力で充填した際に、骨の表面に強く正極合剤を圧迫させることができる。そのため、骨の表面と活物質合剤の接触がより確実なものとなることで、化成後に腐食層による結合が高まると推定される。
【0025】
[第二実施形態]
第二実施形態の鉛蓄電池は、第一実施形態の鉛蓄電池と比較して、正極集電体の格子状基板の形状のみが異なる。
第二実施形態の鉛蓄電池において、正極集電体の格子状基板21Aは、
図4に示すように、内縦骨213の長手方向に垂直な断面形状が長穴形状(長方形の対向する二辺が半円状に突出している形状)であり、内横骨212の長手方向に垂直な断面形状も長穴形状である。つまり、内横骨212および内縦骨213は圧縮加工されている。これ以外の点は、第一実施形態の正極集電体の格子状基板21と同じである。
第二実施形態の鉛蓄電池は、第一実施形態の鉛蓄電池と同様に、正極集電体2の格子状基板21の外縦骨211aが、外枠211の外側に突出する丸み部分25を有する。よって、格子状基板21が袋状セパレータ5に向けて反り曲がるように伸びて、格子状基板21の外縦骨211aが袋状セパレータ5の縦リブ52に接触した場合でも、丸み部分25の存在により外縦骨211aは縦リブ52に引っかかりにくい。
【0026】
また、第一実施形態の鉛蓄電池とは異なり、内横骨212および内縦骨213は圧縮加工されていることで、伸び易くなっている。ただし、内縦骨213の伸びについては、外縦骨211aの伸びと同様、正極集電体2の格子状基板21が袋状セパレータ5に向けて反り曲がる方向の伸びではなく、上下方向の伸びであるため、問題はない。
しかし、内横骨212が大きく伸びることで、格子状基板21のY方向での伸びの程度が大きくなるため、第一実施形態の正極集電体2と比較して、外縦骨211aが袋状セパレータ5の基部51の幅方向端部に接触し易いものとなっている。この接触により、高電圧状態にある正極集電体で基部51が酸化されることで、基部51が破損し易くなるため、基部51のY方向端部に破損が生じやすい。
【0027】
以上のことから、第二実施形態の鉛蓄電池では、第一実施形態の鉛蓄電池と同様に、丸み部分25の存在により外縦骨211aが縦リブ52に引っかかりにくいため、正極集電体2が袋状セパレータ5を破損することを抑制する効果が得られる。しかし、内横骨212の伸びが大きいため、セパレータ破損抑制効果は第一実施形態の正極集電体よりも小さい。よって、第二実施形態の鉛蓄電池は第一実施形態の鉛蓄電池よりは寿命が短くなる。
【0028】
また、内縦骨213および内横骨212の長手方向に垂直な断面形状が長穴形状であることにより、四角形である第一実施形態の鉛蓄電池よりも、格子状基板21に対する正極合剤の保持性能は低下するが、正極合剤の充填性能は向上する。なお、第二実施形態では内縦骨213および内横骨212の長手方向に垂直な断面形状は長穴形状としたが、断面形状が楕円であっても、同様の作用効果を生じるものである。
また、外横骨211bの長手方向に垂直な断面形状が正方形(四角形)であるため、この断面形状が円弧、略円弧、楕円弧、または略楕円弧である場合よりも、Y方向への伸びが軽減される。
【実施例】
【0029】
[試験電池の作製]
〔サンプルNo.1〕
サンプルNo.1の鉛蓄電池として、第一実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池を作製した。具体的には、M-42型(外形寸法および端子形状はJIS B20と同じ)のアイドリングストップ用液式鉛蓄電池であって、20時間容量が40Ah、動作電圧が12Vの液式鉛蓄電池を、第一実施形態に記載された方法で作製した。
【0030】
<正極充填板の作製>
正極集電体2の格子状基板21の寸法は、縦110mm、横100mm、厚み1.0mmとした。外縦骨211aの外枠の外側となる部分にのみ、直径1.0mmの半円柱形の凹型を用いた圧縮加工を行うことにより、丸み部分25を形成した。
外縦骨211aの長手方向に垂直な断面をなす曲線251以外の三辺は1.0mmであった。外縦骨211aの丸み部分25を形成する曲線251は、曲率半径が0.5mmの円弧となった。よって、外縦骨211aの長手方向に垂直な断面の周囲長は4.57mmとなった。内横骨212、外横骨211b、および内縦骨213の長手方向に垂直な断面をなす正方形の一辺は1.0mmであり、これらの周囲長は各4.0mmとなった。作製した正極充填板(化成前の正極板)は公知の方法にて熟成した。
【0031】
<負極充填板の作製>
負極集電体は、連続鋳造法で作製した後、公知の方法で負極合剤を充填して、負極充填板(化成前の負極板)を作製した。作製した負極充填板は、公知の方法にて熟成した。
【0032】
<袋状セパレータの作製>
袋状セパレータは以下の方法で作製した。先ず、ベースの厚みが0.2mmで、幅が110mmの帯状であって、縦リブを有する多孔性合成樹脂製セパレータがロール状に巻かれたもの(セパレータロール)を用意した。縦リブの幅は1.0mm、突出寸法は0.5mmであって、5mm間隔で形成されている。このセパレータロールから長さ231mmに切り出したセパレータを、リブ側を外側に折って重ねて縁部をギヤシールすることで袋状セパレータを得た。
【0033】
<積層体の形成以降の工程>
上述の方法で作製した六枚の正極充填板と、七枚の負極充填板を用意した。次に、七枚の負極充填板をそれぞれ袋状セパレータ内に収納し、この負極充填板入りセパレータと正極充填板とを交互に積層することで、正極充填板を六枚、および負極板を七枚有する積層体を六個得た。
次に、得られた六個の積層体にストラップ、中間極柱、端子と接続する極柱等の形成を行った後に、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた後、積層体のセル室内での圧迫力が5kPa以上10kPa以下の範囲になるように、スペーサを用いて調整した。
その後、第一実施形態に記載された方法で、中間極柱間の抵抗溶接、蓋の固定、端子の形成を行って、未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた後、通常の方法で電槽化成を行った。
【0034】
〔サンプルNo.2〕
サンプルNo.2の鉛蓄電池として、第二実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池を作製した。サンプルNo.1との違いは、正極集電体の格子状基板の内横骨212および内縦骨213の形状のみであり、それ以外の点はサンプルNo.1と同じである。サンプルNo.2の正極集電体は、
図4に示す格子状基板21Aを有する。
つまり、正極集電体を作製する際に、外縦骨211aに対してだけでなく、全ての内横骨212および内縦骨213に対しても圧縮加工を行なっている。内横骨212および内縦骨213に対しては、直径1.0mmの半円柱形の凹型で両側から挟むように圧縮加工を行うことにより、長手方向に垂直な断面形状を長穴形状にした。
内横骨212および内縦骨213の長手方向に垂直な断面をなす長穴形状の寸法は、半円部分の直径が1.0mm、半円部分の間を接続する線分の長さが0.1mmとなっていた。よって、内横骨212および内縦骨213の長手方向に垂直な断面の周囲長は約3.34mmとなる。
【0035】
〔サンプルNo.3〕
サンプルNo.3の鉛蓄電池として、正極板以外は第一実施形態の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池を作製した。
サンプルNo.3の鉛蓄電池は、
図3に示す第一実施形態の鉛蓄電池が有する積層体に代えて、
図5に示す積層体を有している。つまり、サンプルNo.3の鉛蓄電池は、第一実施形態の鉛蓄電池の正極板1とは異なる正極板10を備えている。正極板10の正極集電体20は、正極板1の正極集電体2とは異なる。
正極集電体20の格子状基板21Bは、
図6に示すように、外枠211の外縦骨211aの長手方向に垂直な断面形状が長方形である。つまり、サンプルNo.1とは異なり、外縦骨211aに対する圧縮加工を行っていない。これ以外の点は、第一実施形態の正極集電体2の格子状基板21と同じである。外縦骨211aの長手方向に垂直な断面をなす長方形の短辺(格子状基板の厚み)は1.0mm、長辺は1.5mmであり、これらの周囲長は5.0mmとなる。
【0036】
〔サンプルNo.4〕
サンプルNo.4の鉛蓄電池として、正極集電体以外はサンプルNo.3の鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池を作製した。サンプルNo.4の正極集電体は、
図7に示す格子状基板21Cを有する。
つまり、外縦骨211aおよび外横骨211bに対する圧縮加工は行わず、全ての内横骨212および内縦骨213に対してのみNo.2と同じ方法で圧縮加工を行った。これにより、全ての内横骨212および内縦骨213の長手方向に垂直な断面形状をNo.2と同じ長穴形状にした。
【0037】
[性能試験]
得られたNo.1~4の鉛蓄電池について、以下の方法で試験を行った。この試験は、「JIS D5301 始動用鉛蓄電池 10.5寿命試験 a)軽負荷寿命試験」に準拠した方法であり、試験手順は以下に示す通りである。
先ず、75℃雰囲気下に鉛蓄電池を置き、25Aで2分間放電し、引き続き14.8V(最大電流25A)で10分間充電することを1サイクルとし、このサイクルを繰り返し行う。このサイクルを480回繰り返す毎に、その鉛蓄電池を56時間、25℃の雰囲気中に放置し、その放置後に、280Aで5秒間連続放電を行い、放電5秒後の電圧を測定する。測定された電圧が7.2Vより大きい場合は、電圧測定後の鉛蓄電池を、14.8V(最大電流25A)で10分間充電して、上記サイクルを繰り返す。なお、試験中に電解液中の水分が減少するため、適宜精製水を補給した。
そして、放電5秒後に測定された電圧が7.2V以下になった時点で試験を終了し、それまでに繰り返したサイクル数を、寿命サイクル数とした。また、試験終了後に、鉛蓄電池を解体して正極板とセパレータの状態を調べた。
No.1~4の液式鉛蓄電池で測定された寿命サイクル数について、No.1の液式鉛蓄電池の結果を100とした場合の相対値を算出した。その結果を
図8にグラフで示す。
【0038】
[結果]
No.1の液式鉛蓄電池は最も寿命が長かった。また、No.1の液式鉛蓄電池では、正極集電体2に腐食による伸びは見られたが、袋状セパレータ5の基部51に破損は生じていなかった。よって、寿命になった原因は、正極板1と負極板4との短絡ではなく、正極集電体2の腐食と正極合剤3の軟化にあると推定される。
No.2の液式鉛蓄電池はNo.1の液式鉛蓄電池より寿命が短かったが、No.3およびNo.4の液式鉛蓄電池よりは寿命が長かった。また、No.2の液式鉛蓄電池では、正極集電体2に腐食による伸びが見られ、Y方向の伸びがNo.1より大きく、袋状セパレータ5の基部51のY方向端部に破損が生じていた。
【0039】
No.3の液式鉛蓄電池はNo.1およびNo.2の液式鉛蓄電池より寿命が短かったが、No.4の液式鉛蓄電池よりは寿命が長かった。また、No.3の液式鉛蓄電池では、正極集電体2に腐食による伸びが見られ、外縦骨211aが袋状セパレータ5の縦リブ52に引っかかっていた。これが原因で基部51に破損が生じ、正極板1と負極板4との短絡により寿命になっていた。基部51の破損箇所は縦リブ52の付け根に近い位置であった。
【0040】
No.4の液式鉛蓄電池は最も寿命が短かった。また、No.4の液式鉛蓄電池では、正極集電体2に腐食による伸びが見られ、外縦骨211aが袋状セパレータ5の縦リブ52に引っかかっていた。これが原因で基部51に破損が生じ、正極板1と負極板4との短絡により寿命になっていた。基部51の破損箇所は縦リブ52の付け根に近い位置であった。また、内横骨212と内縦骨213が圧縮加工されていることで、No.3よりも正極集電体2の腐食が進行していた。
【0041】
これらの結果から分かるように、正極集電体の格子状基板の外縦骨211aに丸み部分25を設けることで、袋状セパレータ5の破損が防止できて、液式鉛蓄電池の寿命を長くすることができる。また、格子状基板を構成する骨のうち、圧縮加工されている骨は圧縮加工されていない骨よりも腐食し易いため、圧縮加工を施す骨の数を少なくすることで寿命を長くすることができる。
加えて、内縦骨213に圧縮加工を施さない場合は、内縦骨213の長手方向に垂直な断面形状が四角形となるため、格子状基板21に対する正極合剤の保持性能が向上し、正極合剤の脱落が防止されることで、鉛蓄電池がより長寿命となる。
よって、格子状基板を構成する骨を丸く加工するために圧縮加工を採用する場合は、外縦骨211aのみを丸く加工する(つまり、丸み部分25を設ける)ことが好ましい。
【符号の説明】
【0042】
1 正極板
2 正極集電体
21 格子状基板
211 格子状基板の外枠
211a 外縦骨
211b 外横骨
212 内横骨
213 内縦骨
214 格子状基板の孔
22 正極板の耳部
3 正極合剤
4 負極板
5 袋状セパレータ
51 基部
52 縦リブ
10 正極板
20 正極集電体