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特許7105226電気化学燃料電池のためのカソード電極設計
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】電気化学燃料電池のためのカソード電極設計
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220714BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220714BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220714BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220714BHJP
   B01J 31/06 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M4/90 M
B01J31/06 M
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019516666
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 US2017054596
(87)【国際公開番号】W WO2018064623
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】62/402,638
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504229022
【氏名又は名称】バラード パワー システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】イェ, シユ
(72)【発明者】
【氏名】レオン, アレクサンダー マン-チュン
(72)【発明者】
【氏名】バイ, キョン
(72)【発明者】
【氏名】バンハム, ダスティン ウィリアム エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ヤング, アラン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-204664(JP,A)
【文献】特開2014-078356(JP,A)
【文献】特表2015-529383(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0142946(US,A1)
【文献】特開2014-026743(JP,A)
【文献】国際公開第2009/060582(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101494290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/10
H01M 4/92
H01M 4/90
B01J 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス拡散層およびアノード触媒層を含むアノード電極と、
カソードガス拡散層およびカソード触媒層を含むカソード電極と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に介在するポリマー電解質膜と
を含む膜電極アセンブリであって、
前記カソード触媒層が、
前記ポリマー電解質膜に隣接する第1のカソード触媒副層であって、前記第1のカソード触媒副層が第1の貴金属触媒組成物と、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを含む第1のイオノマー組成物とを含む、第1のカソード触媒副層、および
前記カソードガス拡散層に隣接する第2のカソード触媒副層であって、前記第2のカソード触媒副層が単一の第2の貴金属触媒組成物と、単一の第3のイオノマーを含む第2のイオノマー組成物とを含む、第2のカソード触媒副層
を含み、
前記第1のイオノマーは、化学構造および当量のうち少なくとも1つが前記第2のイオノマーと異なる、膜電極アセンブリ。
【請求項2】
前記第1のイオノマーが、下記の化学構造
【化4】

を有する、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項3】
前記第2のイオノマーが、下記の化学構造
【化5】

を有する、請求項2に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項4】
前記第1のイオノマーが、前記第2のイオノマーよりも低い当量を有する、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項5】
前記第1のイオノマーの当量が、前記第2のイオノマーの当量よりも00超の差で低い、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項6】
前記第1のイオノマーが00EW未満の当量を有し、前記第2のイオノマーが00EWに等しいまたはそれよりも大きい当量を有する、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項7】
前記第1のイオノマーは、化学構造および当量の両方が前記第2のイオノマーと異なる、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項8】
前記第1の貴金属触媒組成物と前記第2の貴金属触媒組成物が異なる、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項9】
前記第1および第2のイオノマーのうち少なくとも1つがパーフルオロ化されている、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項10】
前記第1のカソード触媒副層が、0重量%から0重量%の前記第1のイオノマー組成物を含む、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項11】
前記第1および第2の貴金属触媒組成物のうち少なくとも1つが、白金、金、ルテニウム、イリジウム、およびパラジウム、ならびにこれらの合金、固溶体、および金属間化合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属触媒を含む、請求項1に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項12】
前記少なくとも1種の貴金属触媒が、触媒担体上に担持される、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項13】
前記第1の貴金属触媒組成物が、第1の触媒および第2の触媒を含み、前記第1の触媒と前記第2の触媒が異なる、請求項11に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項14】
請求項1に記載の膜電極アセンブリを含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
開示の分野
本開示は、電気化学燃料電池用の触媒層に関し、詳細には、電気化学燃料電池用の膜電極アセンブリのカソード触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
電気化学燃料電池は、燃料および酸化剤を電気に変換する。固体ポリマー電気化学燃料電池は、一般に、2つの電極の間に配置された固体ポリマー電解質膜を含む膜電極アセンブリを用いる。膜電極アセンブリを、典型的には2つの導電性フローフィールドプレートの間に介在させて、燃料電池を形成する。これらのフローフィールドプレートは、集電体として機能し、電極への支持を提供し、反応物および生成物のための通路を提供する。そのようなフローフィールドプレートは、燃料および酸化剤反応物流体の流れをそれぞれ、膜電極アセンブリの各々のアノードおよびカソードに向け、かつ過剰な反応物流体および反応生成物を除去するための、流体流チャネルを典型的には含む。動作中、電極は、外部回路を通して電極間に電子を伝導させるために、電気的に接続される。典型的には、所望の電力出力を有する燃料電池積層体が形成されるように、いくつかの燃料電池が直列に電気的に接続される。
【0003】
アノードおよびカソードは各々、アノード触媒およびカソード触媒の層をそれぞれ含有する。触媒は、金属、合金、または担持された金属/合金触媒、例えばカーボンブラック上に担持された白金であってもよい。触媒層は、例えばNAFION(登録商標)(E. I. du Pont de Nemours and Co.により提供される)などのイオン伝導性材料、および/または、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのバインダを含有していてもよい。各電極は、反応物分布および/または機械的支持のための、例えば炭素繊維紙または炭素布などの導電性多孔質基材をさらに含む。多孔質基材の厚さは、典型的には約50から約250ミクロンに及ぶ。任意選択で、電極は、触媒層と基材との間に配置された多孔質副層を含んでいてもよい。副層は、通常、例えば炭素粒子などの導電性粒子と、任意選択で、例えば気体拡散および水分管理などのその性質を変化させる撥水性材料とを含有する。触媒は、膜上に被覆されて触媒被覆膜(CCM)を形成してもよく、副層もしくは基材上に被覆されて電極を形成してもよい。
【0004】
触媒は、典型的に使用される貴金属に起因して、燃料電池において最も高価な構成要素の1つである。そのような貴金属には、アノードとカソードとで異なる好ましい反応を強化しかつ望まない副反応を軽減するように、例えばルテニウム、イリジウム、コバルト、ニッケル、モリブデン、パラジウム、鉄、スズ、チタン、マンガン、セリウム、クロム、銅、およびタングステンなどの他の金属と混合されるまたは合金化されることの多い、白金および金が含まれる。触媒は、必要とされる触媒の荷重が低減されるように、ならびに触媒層内での電子伝導性が改善されるように、触媒担体上に担持されてもよい。例えば炭素および黒鉛などの追加の電子伝導体を触媒層に使用して、導電性をさらに改善してもよい。
【0005】
水素ガス燃料電池内でのアノードおよびカソードの半電池反応は、下記の反応式で示される。
【化1】
【0006】
アノード上で、主な機能は水素燃料を酸化してプロトンおよび電子を形成することである。燃料源に応じて、アノード触媒は不純物に耐える必要がある場合がある。例えば、アノード触媒の一酸化炭素被毒は、改質油ベースの燃料で動作するときに生ずることが多い。一酸化炭素被毒を軽減するには、例えば白金-ルテニウムなどの白金合金触媒がアノード上では好ましい。
【0007】
カソード上で、主な機能は、酸素を還元し水を形成することである。この反応は、アノード反応よりも本質的に非常に遅く、したがってカソード触媒荷重は、アノード触媒荷重よりも典型的には大きい。カソード半電池反応を強化する1つの方法は、触媒層の電気化学活性および触媒利用を改善し、それによって、電子およびプロトン抵抗ならびに物質輸送に関する電圧損失を減少させることである。別の例では、米国特許公開第2017/0141406号に開示されるように、2層カソード触媒層設計が、性能および耐久性の両方の改善をもたらし得る。
【0008】
触媒層では、電気化学反応を実施するのに、触媒、反応物、および電解質(または膜)が交わる3相境界が必要であることが、当技術分野では周知である。例えば、従来のポリマー電解質燃料電池のカソード上で酸素還元反応を実施するために、プロトンは、プロトン伝導体を通して膜から触媒に伝導される必要があり、電子は、触媒から集電体に伝導する必要があり、酸素および生成物水は、触媒層およびガスチャネルに移動しかつそこから移動できる必要がある。
【0009】
触媒層で使用されるプロトン伝導体は、典型的には、膜内のイオノマーと同じでも異なっていてもよいイオノマーである。当技術分野では、様々な組成および当量(EW)の多くの異なるイオノマーが存在する。典型的には、より低いEWのイオノマーは、低い相対湿度で好ましく、より高いEWのイオノマーは、高い相対湿度で好ましい。
【0010】
膜内のイオノマーを特徴付けるために、多くの研究が行われてきた。最も一般的に使用されるイオノマーは、例えば、化学分解に対するその比較的高い耐性ならびに湿潤動作条件下でのその比較的高いプロトン伝導性により、特に低温から中程度の温度での用途に向けたNafion(登録商標)(DuPont)などのパーフルオロスルホン酸(PFSA)イオノマーである。しかし、水和レベルに対するそのプロトン伝導依存性によって、Nafion(登録商標)は、低い相対湿度条件でも、より乾燥した条件でも、比較的高い温度(摂氏100度を超える)でもの動作に不適切である。
【0011】
一部の用途、特に自動車では、高いまたは低い温度および/または相対湿度であるか否かにかかわらず、広範な動作条件下で性能が維持される必要がある。異なる性質および化学構造を有するイオノマーは、それぞれ、異なる動作条件でそれ自体の利点を提示する。その結果、広範な動作パラメーターにわたり性能を改善するために、触媒層設計においてより多くの調査が依然求められている。本発明の記載は、これらの課題に対処し、さらなる関連した利点を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2017/141406号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
簡単な概要
簡潔には、本開示は、電気化学燃料電池用のカソード触媒層に関する。
【0014】
一実施形態において、膜電極アセンブリは、アノードガス拡散層およびアノード触媒層を含むアノード電極と;カソードガス拡散層およびカソード触媒層を含むカソード電極と;前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に介在するポリマー電解質膜とを含み、ここで、前記カソード触媒層は、前記ポリマー電解質膜に隣接する第1のカソード触媒副層であって、前記第1のカソード触媒副層が第1の貴金属触媒組成物と、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを含む第1のイオノマー組成物とを含む、第1のカソード触媒副層;および前記カソードガス拡散層に隣接する第2のカソード触媒副層であって、前記第2のカソード触媒副層が第2の貴金属触媒組成物と、第3のイオノマーを含む第2のイオノマー組成物とを含む、第2のカソード触媒副層を含み;前記第1のイオノマーは、化学構造および当量のうち少なくとも1つが前記第2のイオノマーと異なる。
【0015】
一部の実施形態では、第1のイオノマーは(1)の化学構造を有し、第2のイオノマーは(2)の化学構造を有する。
【化2】
【0016】
一部の実施形態では、第1のイオノマーは、第2のイオノマーよりも低い当量を有する。
【0017】
一部の実施形態では、第1のイオノマーは、化学構造および当量が第2のイオノマーと異なる。
【0018】
特定の実施形態では、第1のイオノマーは約900EW未満の当量を有し、第2のイオノマーは、約900EWに等しいまたはそれよりも大きい当量を有する。
【0019】
これらおよび他の態様は、添付される図面および以下の詳細な記載を参照することにより明らかになる。
【0020】
図中、同一の参照符号は、類似の要素または動作であると認める。図中、要素のサイズおよび相対位置は、必ずしも縮尺通りに描かれていない。例えば、様々な要素の形状および角度は縮尺通りに描かれておらず、これらの要素の一部は、図の見易さが改善されるように、任意に拡大され位置決めされている。さらに、図示される要素の特定の形状は、特定の要素の実際の形状に関するいかなる情報も伝えることを意図されておらず、図中の認識を容易にするために選択されただけである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態による膜電極アセンブリの分解断面図を示す。
図2a図2aは、100%相対湿度での、比較例1から4までに関する定常状態分極曲線のグラフを示す。
図2b図2bは、60%相対湿度での、比較例1から4までに関する定常状態分極曲線のグラフを示す。
図3a図3aは、100%相対湿度での、比較例5および本発明の実施例1から3までに関する平均定常状態分極曲線のグラフを示す。
図3b図3bは、60%相対湿度での、比較例5および本発明の実施例1から3までに関する平均定常状態分極曲線のグラフを示す。
図4a図4aは、100%相対湿度での、比較例5から7までおよび本発明の実施例2に関する定常状態分極曲線のグラフを示す。
図4b図4bは、60%相対湿度での、比較例5から7までおよび本発明の実施例2に関する定常状態分極曲線のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
文脈が他に必要としない限り、本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体を通して、「含む(comprise)」という単語およびその変化形、例えば「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」は、「~を含むが~に限定されない(including but not limited to)」というような制約のない包括的な意味に解釈されるものとする。
【0023】
本発明の文脈において、「荷重」は、形成されたまたは基材に塗布された材料の量を指し、通常、基材の単位表面積当たりの材料の質量として表される。
【0024】
本発明の文脈において、触媒および触媒担体の「表面積」は、BET法により測定される表面積を指す。
【0025】
本明細書で使用される「黒鉛化炭素」は、炭素粒子の少なくとも表面に主に黒鉛状炭素を含む、炭素材料を指す。
【0026】
本発明の文脈において、「少なくとも部分的に黒鉛化された」炭素質担体は、炭素質担体の表面が少なくともいくらかの黒鉛状炭素を含むことを意味する。
【0027】
一実施形態によれば、図1を参照すると、膜電極アセンブリ2は、アノードガス拡散層6およびアノード触媒層8を含むアノード電極4と;カソードガス拡散層12およびカソード触媒層14を含むカソード電極10と;アノード触媒層8とカソード触媒層14との間に介在するポリマー電解質膜16とを含む。カソード触媒層14は、膜16に隣接する第1のカソード触媒副層18と、カソードガス拡散層12に隣接する第2のカソード触媒副層20とを有する。第1のカソード触媒副層18は、第1の貴金属触媒組成物と、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを含む第1のイオノマー組成物とを含み、第2のカソード触媒副層20は、第2の貴金属触媒組成物と、第3のイオノマーを含む第2のイオノマー組成物とを含む。第1のイオノマーは、化学構造および当量のうち少なくとも1つが第2のイオノマーと異なる。
【0028】
一実施形態では、第1のイオノマーは、第2のイオノマーよりも短い側鎖を含む。特定の実施形態では、第1のイオノマーは(1)の化学構造を含み、第2のイオノマーは(2)の化学構造を含む。
【化3】
【0029】
別の実施形態では、第1のイオノマーは、第2のイオノマーよりも低い当量を有する。例えば、第1のイオノマーは、約900EWに等しいまたはそれよりも小さい当量(典型的には、当業者により「低EW」と見なされる)を有していてもよく、一方、第2のイオノマーは、約900EWよりも大きい当量(典型的には、当業者により「高EW」と見なされる)を有していてもよい。他の例では、第1のイオノマーの当量は、第2のイオノマーの当量よりも少なくとも約100、例えば少なくとも約150低い。特定の実施形態では、第1のイオノマーは約850の当量(equivalent of)を有していてもよく、第2のイオノマーは約1100の当量を有していてもよい。
【0030】
さらなる実施形態では、第1のイオノマーは、当量と化学構造の両方が第2のイオノマーと異なる。例えば、第1のイオノマーは第2のイオノマーよりも低い当量を有し、第1のイオノマーは第2のイオノマーよりも短い側鎖を有する。特定の実施形態では、第1のイオノマーは(1)の化学構造を有し、一方、第2のイオノマーは(2)の化学構造を有する。
【0031】
上で論じたように、異なる化学構造のイオノマーおよび異なる当量のイオノマーは、それら自体の利点および欠点を有する。
【0032】
2層カソード触媒層設計において、膜に隣接するカソード触媒副層に、化学構造および当量が異なる2種のイオノマーの混合物を用いることにより、2層カソード触媒層設計の第1および第2のカソード触媒副層に単一イオノマーを用いるのとは対照的に、60%および100%の両方の相対湿度(RH)で性能の改善があることが意外にも発見された。特に、第1のカソード触媒副層は、約30重量%から約80重量%の第1のイオノマーを含有していてもよい(残部は第2のイオノマー)。
【0033】
触媒副層中の例示的なイオノマーには、Nafion(登録商標)(DuPont)、DyneonTM(3M)、Aciplex(登録商標)(旭化成株式会社、日本)、Flemion(登録商標)(旭硝子株式会社、日本)、およびAquivion(登録商標)(ソルベイプラスチックス、日本)という商標名で販売されるもの、ならびに旭硝子(日本)により提供される他のPFSAイオノマーが含まれるが、これらに限定されない。当技術分野では、Nafion(登録商標)イオノマーならびにFlemion(登録商標)およびAciplex(登録商標)イオノマーが比較的長い側鎖を有し、Aquivion(登録商標)およびDyneon(登録商標)イオノマーが比較的短い側鎖を有することが、周知である。
【0034】
触媒層中の触媒は、例えば白金、金、ルテニウム、イリジウム、およびパラジウムなどであるがこれらに限定されない貴金属、ならびにそれらの合金、固溶体、および金属間化合物である。また貴金属は、例えばコバルト、ニッケル、モリブデン、鉄、スズ、チタン、マンガン、セリウム、クロム、銅、またはタングステンなどであるがこれらに限定されない金属と合金化されてもよく、金属間化合物を形成してもよい。第1および第2の貴金属組成物は、1種または複数種の触媒から成り立ってもよい。例えば、第1の貴金属触媒組成物は、黒鉛状担体上に担持された白金と混合された、高表面積カーボンブラック担体上に担持された白金およびコバルトの合金を含んでいてもよい。さらに、第1の貴金属触媒組成物中の触媒は、第2の貴金属触媒組成物中の触媒と同じでも異なっていてもよい。
【0035】
第1および第2の貴金属触媒組成物中の触媒は、任意選択で触媒担体上に担持されてもよい。触媒担体は、例えば活性炭、カーボンブラック、少なくとも部分的に黒鉛化された炭素、および黒鉛などの、炭素質担体であってもよい。当業者なら理解されるように、炭素担体の黒鉛化レベルは、例えば高分解能TEM分光法、ラマン分光法、およびXPS(x線光子放出スペクトル)など、いくつかの技法によって測定することができる。一部の実施形態では、第1および第2の貴金属触媒組成物中の触媒は、それらのそれぞれの触媒担体上の被覆率が同じでも異なっていてもよい。
【0036】
特定の実施形態では、第1の貴金属触媒組成物は、例えばケッチェンブラックまたはアセチレンカーボンブラックなどの高表面積カーボンブラック担体上に担持された白金-コバルト合金を含み、一方、第2の貴金属触媒組成物は、黒鉛化炭素担体上に担持された白金を含む。別の特定の実施形態では、第1の貴金属触媒組成物は、形状が制御された触媒に使用されるものなどの、炭素上に担持された白金-ニッケル合金を含む。
【0037】
アノードおよびカソード電極の貴金属荷重は、コストが最小限に抑えられるように低くすべきである。例えば、アノード電極の白金荷重は、約0.01mgPt/cmから約0.15mgPt/cmに及んでもよく、一方、カソード電極の白金荷重は、約0.04mgPt/cmから約0.6mgPt/cmに及んでもよい。アノードおよびカソードの触媒層および副層は、触媒層塗布を助けるように、および水分管理の目的で、追加の炭素および/または黒鉛粒子を含有してもよい。アノードおよびカソードの触媒層および副層は、例えば疎水性バインダ(例えば、PTFE)などのバインダ、イオノマー、およびこれらの組合せを含有していてもよい。カソード触媒副層は、それぞれ同量のイオノマーを含有していてもよく、異なる量のイオノマーを含有していてもよい。イオノマー含量は、例えば、10重量%から50重量%に及んでもよい。
【0038】
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層は、導電性であり、熱伝導性であり、触媒層および膜の機械的支持のために適切に堅く、ガス拡散を可能にするのに十分多孔質であり、そして高い電力密度に合わせて薄く軽量であるべきである。したがって、従来のガス拡散層材料は、炭素繊維紙および炭素布、例えば炭化または黒鉛化炭素繊維不織マットを含む、市販の織られたおよび不織の多孔質炭素質基材から典型的には選択される。適切な多孔質基材には、TGP-H-060およびTGP-H-090(東レ株式会社、東京、日本);P50およびEP-40(AvCarb Material Solutions、Lowell、MA);ならびにGDL24および25シリーズ材料(SGL Carbon Corp.、Charlotte、NC)が含まれるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、多孔質基材は、疎水性化されてもよく、任意選択で、繊維状および/または粒子状形態の炭素および/または黒鉛を有する少なくとも1つのガス拡散副層を含んでいてもよい。
【0039】
ポリマー電解質膜は、任意の適切なプロトン伝導材料またはイオノマー、例えば限定するものではないがNafion(登録商標)(DuPont)、Flemion(登録商標)(旭硝子、日本)、Aquivion(登録商標)(ソルベイプラスチックス)、GORE-SELECT(登録商標)(W.L.Gore&Associates)、およびAciplex(登録商標)(旭化成、日本)、ならびに3M製の膜であってもよい。
【0040】
MEAおよび触媒層および副層は、当技術分野で公知の方法によって作製することができる。例えば、触媒インクを、スクリーン印刷、ナイフコーティング、噴霧、またはグラビアコーティングによってガス拡散層もしくは膜に直接付着させてもよく、ガス拡散層または膜に転写してもよい。触媒インクは、所望の触媒荷重および/または触媒層構造を実現するために、1回の塗布でまたは多数回の薄いコーティングで塗布してもよい。
【0041】
炭素および黒鉛化炭素担体のみについて論じてきたが、例えばカーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーなどの他の炭素担体、ならびに、例えば酸化物担体などの非炭素担体も、本明細書に記載される担体の代わりにしてもよいことが企図される。さらに、カソード電極設計のみについて論じ示してきたが、アノード電極も2副層触媒層設計から利益を得られることが企図される。
【実施例
【0042】
カソード触媒層および副層において異なるカソード触媒およびイオノマーを使用して、10種のMEAを作製した。MEA構成を表1にまとめる。
【表1-1】
【表1-2】
【0043】
MEAの全てに関し、カソード触媒インクを膜(比較例1から4に関してはGore(登録商標)膜、比較例5から7ならびに本発明の実施例1から3に関してはNafion(登録商標)膜)上にコーティングして、例えば図1に示されるものなど、膜に隣接するカソード触媒副層#1、ならびにカソード触媒副層#1およびカソードガス拡散層に隣接するカソード触媒副層#2を備えた半CCMを形成した。次いで、半CCMのそれぞれは、担持された白金アノード触媒層が半CCMの膜側に転写されて、完全CCMを形成した。次いで完全CCMを、AvCarb Material Solutionsの2つの疎水性化炭素繊維GDLの間に挟んで、その結果、GDLは触媒層に隣接し、その後、封止されて非結合MEAを形成した。(カソード触媒層が2つの副層を含有する場合、GDLは、第2のカソード触媒副層に対して配置した。)
【0044】
MEAを、フローフィールドプレートの間に配置して、作用面積が45cmの燃料電池または燃料電池積層体を形成した。比較例1から4を一晩コンディショニングし、次いで表2の試験条件に供した。
【表2】
【0045】
図2aは、比較例1から4に関する定常状態分極曲線を示す。Nafion(登録商標)(23重量%)を含む比較例1と比較して低いAquivion(登録商標)含量(16重量%)の比較例2において同等の性能が実現されたが、性能は、100%RH(相対湿度)で、低EW短側鎖イオノマーの重量%が増加するにつれ、連続的に不十分になったことが明らかである。しかし、図2bに示されるように60%RHでは、中間および最高のAquivion(登録商標)含量(それぞれ、23重量%および30重量%)の比較例3および4は、比較例1および2よりも、高電流密度でかなり良好な性能を示した。したがって、異なる動作RHでは異なるイオノマーが好ましい。
【0046】
2層カソード触媒層設計の異なる層におけるブレンドされたイオノマーの作用を決定するために、比較例5から7ならびに本発明の実施例1から3を、100%RHで一晩コンディショニングし、次いで表3の試験条件に供した。
【表3】
【0047】
図3aは、比較例5のカソードを備えた10個のMEAの平均定常状態分極曲線を、100%RHで本発明の実施例1、2、および3を備えたMEAの平均定常状態分極曲線(本発明の実施例1のカソードを備えた7個のMEA、本発明の実施例2のカソードを備えた7個のMEA、および本発明の実施例3のカソードを備えた9個のMEA)と比較して示し、一方、図3bは、60%RHでの同じMEAに関する平均定常状態分極曲線を示す。カソード触媒副層#1内に混合イオノマーを含むMEAの全ては、60%および100%RHの両方で、混合イオノマーを含む単一触媒層を備えたMEA(比較例5)よりも、優れているとは言わないまでも少なくとも同様の性能を示したことが明らかである。さらに、本発明の実施例2は、60%および100%RHの両方で最良の性能を示した。したがって、カソード触媒副層の1つの中に混合イオノマーを含む2層カソード触媒層設計が、混合イオノマーを含む単一カソード触媒層よりも好ましい。
【0048】
さらに比較するために、カソード触媒副層#1中(即ち、膜に隣接する触媒副層中)に単一イオノマーを含み、かつカソード触媒副層#2中(即ち、GDLに隣接する触媒副層中)に混合イオノマーを含み、異なる白金荷重を有する比較例6および7について試験をした。図4aおよび4bは、それぞれ100%RHと60%RHとで比較例5および本発明の実施例2と比較して、比較例6および7(単セル試験)の定常状態分極曲線を示す。カソード触媒副層#1中に混合イオノマーを含む本発明の実施例2は、100%RHおよび60%RHの両方で、カソード触媒副層#2中に混合イオノマーを含む比較例6および7よりも良好な性能を示したことが明らかである。したがって、混合イオノマーは、2層カソード触媒層設計において第2のカソード触媒副層(ガス拡散層に隣接する)中よりもむしろ第1のカソード触媒副層(膜に隣接する)中にあるのが好ましい。
【0049】
実施例は、第1のカソード触媒副層が、当量および化学構造の両方が第2のイオノマーと異なる第1のイオノマーを含むことを示しているが、同じ化学構造を有するが異なる当量の、または異なる化学構造を有するが同じ当量の混合イオノマーの場合には、前記イオノマーが異なる水分管理能力(それらの水分取り込み/寸法安定性を含む)ならびにプロトン伝導を有することになるので、性能において同様の利益を経験することが企図される。したがってそれらの混合物は、実施例に示されるように、EWおよび化学構造の両方が異なるイオノマーの混合物と同様の利益をもたらし得る。
【0050】
本出願は、2016年9月30日に出願されその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国仮特許出願第62/402,638号の利益も請求する。本明細書で言及されかつ/または出願データシートに列挙された上記米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許文献の全ては、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
特定の要素、実施形態、および用途について示し記載してきたが、特に前述の教示に照らして本開示の精神および範囲から逸脱することなく当業者により改変がなされてもよいので、本開示は、上記特定の要素、実施形態、および用途に限定されるものではないことが理解される。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
アノードガス拡散層およびアノード触媒層を含むアノード電極と、
カソードガス拡散層およびカソード触媒層を含むカソード電極と、
前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に介在するポリマー電解質膜と
を含む膜電極アセンブリであって、
前記カソード触媒層が、
前記ポリマー電解質膜に隣接する第1のカソード触媒副層であって、前記第1のカソード触媒副層が第1の貴金属触媒組成物と、第1のイオノマーおよび第2のイオノマーを含む第1のイオノマー組成物とを含む、第1のカソード触媒副層、および
前記カソードガス拡散層に隣接する第2のカソード触媒副層であって、前記第2のカソード触媒副層が第2の貴金属触媒組成物と、第3のイオノマーを含む第2のイオノマー組成物とを含む、第2のカソード触媒副層
を含み、
前記第1のイオノマーは、化学構造および当量のうち少なくとも1つが前記第2のイオノマーと異なる、膜電極アセンブリ。
(項目2)
前記第1のイオノマーが、下記の化学構造
【化4】

を有する、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目3)
前記第2のイオノマーが、下記の化学構造
【化5】

を有する、項目2に記載の膜電極アセンブリ。
(項目4)
前記第1のイオノマーが、前記第2のイオノマーよりも低い当量を有する、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目5)
前記第1のイオノマーの当量が、前記第2のイオノマーの当量よりも約100超の差で低い、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目6)
前記第1のイオノマーが約900EW未満の当量を有し、前記第2のイオノマーが約900EWに等しいまたはそれよりも大きい当量を有する、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目7)
前記第1のイオノマーは、化学構造および当量の両方が前記第2のイオノマーと異なる、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目8)
前記第1の貴金属触媒組成物と前記第2の貴金属触媒組成物が異なる、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目9)
前記第1および第2のイオノマーのうち少なくとも1つがパーフルオロ化されている、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目10)
前記第1のカソード触媒副層が、約30重量%から約80重量%の前記第1のイオノマー組成物を含む、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目11)
前記第1および第2の貴金属触媒組成物のうち少なくとも1つが、白金、金、ルテニウム、イリジウム、およびパラジウム、ならびにこれらの合金、固溶体、および金属間化合物からなる群から選択される少なくとも1種の貴金属触媒を含む、項目1に記載の膜電極アセンブリ。
(項目12)
前記少なくとも1種の貴金属触媒が、触媒担体上に担持される、項目11に記載の膜電極アセンブリ。
(項目13)
前記第1の貴触媒組成物が、第1の触媒および第2の触媒を含み、前記第1の触媒と前記第2の触媒が異なる、項目11に記載の膜電極アセンブリ。
(項目14)
項目1に記載の膜電極アセンブリを含む、燃料電池。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b