(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-07-13
(45)【発行日】2022-07-22
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子およびプリフォーム
(51)【国際特許分類】
C03C 3/17 20060101AFI20220714BHJP
C03C 3/247 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C03C3/17
C03C3/247
(21)【出願番号】P 2019519116
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015004
(87)【国際公開番号】W WO2018211861
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2020-11-03
(31)【優先権主張番号】P 2017099128
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】荻野 道子
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126603(JP,A)
【文献】特開2013-163632(JP,A)
【文献】特開平06-157068(JP,A)
【文献】特開2003-160356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン成分として、P
5+、Al
3+
、Zn
2+
およびR
2+
(R
2+
はMg
2+
、Ca
2+
、Sr
2+
およびBa
2+
からなる群から選ばれる少なくとも1つ)を含有し、アニオン成分として、O
2-およびF
-を含有し、
カチオン%で、
P
5+ 25~40%
Al
3+ 8.0~20%
Zn
2+ 3.0~15%
Ba
2+ 0~
9.89%
Mg
2+
0.0~8.56%
R
2+
の合計含有率 37.03~55.0%
Y
3++La
3++Gd
3++Yb
3++Lu
3+ 0~7.0%
アニオン%で、
O
2- 40~70%
F
- 30~60%
を含有し、
屈折率(nd)が1.53~1.60、アッベ数(νd)が65~75であり、摩耗度が420以下である光学ガラス。
【請求項2】
相対屈折率(589.3nm)の温度係数(40~60℃)が+2.0×10
-6~-5.5×10
-6(℃
-1)の範囲内にあることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、光学素子およびプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器のレンズ系は、通常、異なる光学的性質を持つ複数のガラスレンズを組み合わせて設計される。近年、光学機器のレンズ系に求められる特性は多様化しており、その設計の自由度をさらに広げるため、従来は着目されていなかった光学特性を備える光学ガラスが開発されている。中でも異常分散性(Δθg,F)が特徴的な光学ガラスは、収差の色補正に顕著な効果を奏するものとして着目されている。
【0003】
例えば特許文献1では、従来必要とされていた高屈折率および低分散性ならびに加工性に優れるという性質に加え、異常分散性が高い光学ガラスとして、例えばカチオン成分としてP5+、Al3+、アルカリ土類金属イオン等を含み、アニオン成分としてF-およびO2-を含む光学ガラスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-163632号公報
【文献】特開2015-205785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載のような従来の光学ガラスは、摩耗度が小さく加工性が不良であった。つまり、高い異常分散性を維持した上で、加工性を備える光学ガラスの開発が望まれている。
また、特許文献2に記載の従来の光学ガラスは、摩耗度が改善されているものの、Ba成分を多量に含有するため、比重が大きく、軽量化が求められるレンズユニットには適さない。
【0006】
本発明は、このような上記課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、異常分散性が高いことでガラスレンズの色収差を高精度に補正することができ、さらに、従来のものよりも軽量かつ、摩耗度が低く研磨加工を行い易い光学ガラス、光学素子およびプリフォームを提供することにある。
さらに、車載カメラ等の車載用光学機器に組み込まれる光学素子や、プロジェクタ、コピー機、レーザプリンタ及び放送用機材等のような多くの熱を発生する光学機器に組み込まれる光学素子としても利用できるよう、温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系をに使用できる光学ガラスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(3)である。
カチオン成分として、P5+、Al3+およびZn2+を含有し、アニオン成分として、O2-およびF-を含有し、
カチオン%で、
P5+ 25~40%
Al3+ 5~20%
Zn2+ 1~15%
Ba2+ 0~28%
アニオン%で、
O2- 40~70%
F- 30~60%
を含有し、
屈折率(nd)が1.53~1.60、アッベ数(νd)が65~75であり、摩耗度が420以下の範囲である光学ガラス。
(2)相対屈折率(546.07nm)の温度係数(40~60℃)が+2.0×10-6~-5.5×10-6(℃-1)の範囲内にあることを特徴とする(1)の光学ガラス。
(3)(1)又は(2)の光学ガラスからなる光学素子
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、異常分散性が高いことでガラスレンズの色収差を高精度に補正することができ、さらに、従来のものよりも軽量かつ、摩耗度が低く研磨加工を行い易い光学ガラスを提供できる。さらに、温度変動によっても結像特性等に影響が生じ難い光学系に使用できる光学ガラスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について説明する。
本発明は、カチオン成分として、P5+、Al3+およびZn2+を含有し、アニオン成分として、O2-およびF-を含有し、
カチオン%で、
P5+ 25~40%
Al3+ 5~20%
Zn2+ 1~15%
アニオン%で、
O2- 40~70%
F- 30~60%
を含有し、
屈折率(nd)が1.53~1.60、アッベ数(νd)が65~75であり摩耗度が420以下の範囲である光学ガラスである。
このような光学ガラスを、以下では「本発明の光学ガラス」という。
【0010】
<ガラス成分>
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。
本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%またはアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」および「アニオン%」とは、本発明の光学ガラスのガラス構成成分をカチオン成分およびアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているのであって、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えばPは通常、イオン価が5の状態でガラス中に存在するので、本明細書中では「P5+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性はある。このように厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分は代表値のイオン価で光学ガラス中に存在しているものとして扱う。
【0011】
[カチオン成分について]
<P5+>
本発明の光学ガラスはP5+を含む。P5+は、ガラス形成成分であり、ガラスの失透を抑制し、屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、P5+の含有率は25.0~40.0%であることが好ましい。また、26.0%以上であることがより好ましく、28.0%以上であることがさらに好ましい。また、40.0%以下であることがより好ましく、38.0%以下であることがより好ましく、37.0%以下であることがさらに好ましい。
P5+は、原料として例えばAl(PO3)3、Ca(PO3)2、Ba(PO3)2、Zn(PO3)2、BPO4、H3PO4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0012】
<Al3+>
本発明の光学ガラスはAl3+を含む。Al3+は、ガラスの耐失透性を高め、磨耗度を低くする性質を有する。
このような性質が強まるので、Al3+の含有率は5.0~20.0%であることが好ましい。また、7.0%以上であることがより好ましく、8.0%以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。また、19.0%以下であることがより好ましく、17.0%以下であることがさらに好ましい。
Al3+は、原料として例えばAl(PO3)3、AlF3、Al2O3等を用いてガラス内に含有させることができる。
<Zn2+>は、ガラスの摩耗度を本発明において要求する値に保持しつつ、耐失透性を高める性質を有する。しかし、過剰に含有させると却ってガラスの磨耗度が悪化し、屈折率が低くなる性質を有する。
Zn2+の含有率は1.0~18.0%であることが好ましい。また、2.0%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることがより好ましく、16.0以上であることがさらに好ましい。また、15.0%以下であることがより好ましい。
【0013】
<アルカリ土類金属>
本発明の光学ガラスにおいて、アルカリ土類金属はMg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+を意味する。また、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群から選ばれる少なくとも1つをR2+と表す場合がある。
また、R2+の合計含有率とは、これらの4つのイオンの合計含有率(Mg2++Ca2++Sr2++Ba2+)を意味するものとする。
R2+の合計含有率は20.0~55.0%であることが好ましい。このような範囲の含有率であると、より安定なガラスを得ることができるからである。
R2+の合計含有率は27.0%以上であることがより好ましく、29.0%以上であることがさらに好ましい。また、55.0%以下であることがより好ましく、53.0%以下であることがより好ましく、50.0%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
<Mg2+>
本発明の光学ガラスはMg2+を含む。Mg2+は、ガラスの耐失透性を高め、摩耗度を低くする性質を有する。
このような性質が強まるので、Mg2+の含有率は0.0~20.0%であることが好ましい。また、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。また、18.0%以下であることがより好ましく、15.0%以下であることがさらに好ましい。
Mg2+は、原料として例えばMgO、MgF2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0015】
<Ca2+>
本発明の光学ガラスはCa2+を含むことが好ましい。Ca2+は、耐失透性を高め、屈折率の低下を抑制し、ガラスの磨耗度を低くする性質を有する。
このような性質が強まるので、Ca2+の含有率は0.0~25.0%であることがより好ましい。また、2.0%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることがさらに好ましい。また、23.0%以下であることがより好ましく、20.0%以下であることがさらに好ましい。
Ca2+は、原料として例えばCa(PO3)2、CaCO3、CaF2等を用いてガラス内に含有させることができる。
<Sr2+>
本発明の光学ガラスはR2+(アルカリ土類金属)の1つとして、Sr2+を含む場合がある。Sr2+は、ガラスの耐失透性を高め、屈折率の低下を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、Sr2+の含有率は0%~20.0%であることが好ましい。また、1.0%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることがさらに好ましい。また、18.0%以下であることがより好ましく、16.0%以下であることがさらに好ましい。
Sr2+は、原料として例えばSr(NO3)2、SrF2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0016】
<Ba2+>
本発明の光学ガラスはR2+(アルカリ土類金属)の1つとして、Ba2+を含む場合がある。Ba2+は、所定量含有したときにガラスの耐失透性を高める性質を有する。また、低い分散性を維持し、屈折率を高める性質を有する。しかし、過剰に含有させると比重が大きくなりすぎるため、レンズユニットの部品として使用し難くなる場合がある。
このような性質が強まるので、Ba2+の含有率は0~30.0%であることが好ましい。また、1.0%以上であることが好ましく、3.0%以上であることがさらに好ましい。28.0%以下であることがより好ましく、23.0%以下であることがさらに好ましい。 Ba2+は、原料として例えばBa(PO3)2、BaCO3、Ba(NO3)2、BaF2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0017】
<Ln3+>
本発明においてLn3+はY3+、La3+、Gd3+、Yb3+およびLu3+からなる群から選ばれる少なくとも1つを意味する。また、Ln3+の合計含有率とは、これらの5つのイオンの合計含有率(Y3++La3++Gd3++Yb3++Lu3+)を意味するものとする。
本発明の光学ガラスは、Ln3+を10.0%以下の合計含有率で含有することが好ましい。このような範囲の含有率であると、ガラスの屈折率が高まり、低分散となる傾向があるからである。また、9.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。なお、Ln3+は任意成分であるので、本発明の光学ガラスはLn3+を含まなくてもよい。
【0018】
<Y3+>
本発明の光学ガラスはLn3+の1つとしてY3+を含んでよい。Y3+は、低い分散性を維持し、屈折率を高め、耐失透性を高めることができる性質を有する。しかし、過剰に含有すると安定性が悪化しやすくなるので、10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。また、Y3+を含まなくとも本発明のガラスを得ることができるので、このような点からはY3+を含まなくともよい。
Y3+は、原料として例えばY2O3、YF3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0019】
<La3+>
本発明の光学ガラスはLn3+の1つとしてLa3+を含んでよい。La3+は、低い分散性を維持し、屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、La3+の含有率は10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。
La3+は、原料として例えばLa2O3、LaF3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0020】
<Gd3+>
本発明の光学ガラスはLn3+の1つとしてGd3+を含んでよい。Gd3+は、低い分散性を維持し、屈折率を高め、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Gd3+の含有率は10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。
Gd3+は、原料として例えばGd2O3、GdF3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0021】
<Yb3+>
本発明の光学ガラスはLn3+の1つとしてYb3+を含んでよい。Yb3+は低い分散性を維持し、屈折率を高め、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Yb3+の含有率は10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。
Yb3+は、原料として例えばYb2O3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0022】
<Lu3+>
本発明の光学ガラスはLn3+の1つとしてLu3+を含んでよい。Lu3+は低い分散性を維持し、屈折率を高め、さらに耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Lu3+の含有率は9.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。
Lu3+は、原料として例えばLu2O3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0023】
<Si4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてSi4+を含んでもよい。Si4+は、所定量含有したときにガラスの耐失透性を高め、屈折率を高めつつ、磨耗度を低下させる性質を有する。
このような性質が強まるので、Si4+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Si4+は、原料として例えばSiO2、K2SiF6、Na2SiF6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0024】
<B3+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてB3+を含んでもよい。B3+は、所定量含有したときにガラスの耐失透性を高め、屈折率を高めつつ、磨耗度を低下させて、さらに化学的耐久性を悪化し難くする性質を有する。
このような性質が強まるので、B3+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。 B3+は、原料として例えばH3BO3、Na2B4O7、BPO4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0025】
<Li+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてLi+を含んでもよい。Li+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、Li+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。
Li+は、原料として例えばLi2CO3、LiNO3、LiF等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0026】
<Na+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてNa+を含んでもよい。Na+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、Na+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、9.5%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Na+は、原料として例えばNa2CO3、NaNO3、NaF、Na2SiF6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0027】
<K+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてK+を含んでもよい。K+は、ガラス形成時の耐失透性を維持しつつ、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する。
このような性質が強まるので、K+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
K+は、原料として例えばK2CO3、KNO3、KF、KHF2、K2SiF6等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0028】
<Rn+>
本発明の光学ガラスでは、Rn+(Rn+はLi+、Na+およびK+からなる群から選ばれる少なくとも1つ)の合計含有率が、20.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
<Nb5+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてNb5+を含んでもよい。Nb5+は、ガラスの屈折率を高め、化学的耐久性を高め、さらに、アッベ数の低下を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、Nb5+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Nb5+は、原料として例えばNb2O5等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0030】
<Ti4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTi4+を含んでもよい。Ti4+は、ガラスの屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Ti4+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Ti4+は、原料として例えばTiO2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0031】
<Zr4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてZr4+を含んでもよい。Zr4+は、ガラスの屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Zr4+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Zr4+は、原料として例えばZrO2、ZrF4等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0032】
<Ta5+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTa5+を含んでもよい。Ta5+は、ガラスの屈折率を高める性質を有する。
このような性質が強まるので、Ta5+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Ta5+は、原料として例えばTa2O5等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0033】
<W6+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてW6+を含んでもよい。W6+は、ガラスの屈折率を高め、ガラス転移点を低下する性質を有する。
このような性質が強まるので、W6+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
W6+は、原料として例えばWO3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0034】
<Ge4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてGe4+を含んでもよい。Ge4+は、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める性質を有する。
このような性質が顕著になるので、Ge4+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Ge4+は、原料として例えばGeO2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0035】
<Bi3+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてBi3+を含んでもよい。Bi3+は、ガラスの屈折率を高め、ガラス転移点を低下する性質を有する。
このような性質が強まるので、Bi3+の含有率は10.0%以下であることが好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Bi3+は、原料として例えばBi2O3等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0036】
<Te4+>
本発明の光学ガラスは任意成分としてTe4+を含んでもよい。Te4+は、ガラスの屈折率を上げ、ガラス転移点を低下させ、着色を抑える性質を有する。
このような性質が強まるので、Te4+の含有率は15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。
Te4+は、原料として例えばTeO2等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0037】
[アニオン成分について]
<F->
本発明の光学ガラスはF-を含む。F-は、ガラスの異常分散性およびアッベ数を高め、さらにガラスを失透し難くする性質を有する。
このような性質が強まるので、F-の含有率はアニオン%(モル%)表示で30.0~60.0%であることが好ましい。また、30.0%以上であることがより好ましく、33.0%以上であることがより好ましく、36.0%以上であることがさらに好ましい。
また、60.0%以下であることがより好ましく、55.0%以下であることがより好ましく50.0%以下であることがさらに好ましい。
F-は、原料として例えばAlF3、MgF2、BaF2等の各種カチオン成分のフッ化物を用いてガラス内に含有させることができる。
【0038】
<O2->
本発明の光学ガラスはO2-を含む。O2-は、ガラスの磨耗度の上昇を抑制する性質を有する。
このような性質が強まるので、O2-の含有率はアニオン%(モル%)表示で40.0~70.0%であることが好ましい。また、40.0%以上であることがより好ましく、45.0%以上であることがより好ましく、50.0%以上であることがさらに好ましい。
また、70.0%以下であることがより好ましく、66.0%以下であることがより好ましく、64.0%以下であることがさらに好ましい。
また、O2-の含有率とF-の含有率との合計は、アニオン%表示で98.0%以上であることが好ましく、99.0%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。安定なガラスを得ることができるからである。
O2-は、原料として例えばAl2O3、MgO、BaO等の各種カチオン成分の酸化物や、Al(PO3)3、Mg(PO3)2、Ba(PO3)2等の各種カチオン成分の燐酸塩等を用いてガラス内に含有させることができる。
【0039】
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0040】
[含有すべきでない成分について]
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、および含有することが好ましくない成分について説明する。
【0041】
Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、AgおよびMo等の遷移金属のカチオンは、それぞれを単独または複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0042】
また、Pb、Th、Cd、Tl、Os、BeおよびSeのカチオンは、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、および製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、光学ガラスに環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、この光学ガラスを製造し、加工し、および廃棄できる。
【0043】
また、脱泡剤として有用ではあるが、近年、Sbは環境に不利益を及ぼす成分として光学ガラスに含めないようにする傾向があり、このような点からSbを含まないことが好ましい。
【0044】
[製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝またはアルミナ坩堝または白金坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝またはイリジウム坩堝に入れて900~1200℃の温度範囲で2~10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより製造することができる。
【0045】
[物性]
本発明の光学ガラスは、部分分散比(θg,F)が特徴的である。したがって、色収差を高精度に補正する光学ガラスを得ることができる。
部分分散比(θg,F)は0.520以上であることが好ましく、0.522以上であることがより好ましく、0.524以上であることがさらに好ましい。
また0.560以下であることが好ましく、0.558以下であることがより好ましく、0.556以下であることがさらに好ましい。
なお、部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定して得た値を意味するものとする。
【0046】
ここで、部分分散比(θg,F)および異常分散性(Δθg,F)について説明し、その後、本発明の光学ガラスの物性における特徴をより詳細に説明する。
初めに、部分分散比(θg,F)について説明する。
部分分散比(θg,F)とは、屈折率の波長依存性のうち、ある2つの波長域における屈折率の差の割合を示すものであり、次の式(1)で表される。
θg,F=(n
g-n
F)/(n
F-n
C)・・・・・・式(1)
ここでn
gはg線(435.83nm)、n
FはF線(486.13nm)、n
CはC線(656.27nm)における屈折率を意味する。
そして、この部分分散比(θg,F)とアッベ数(νd)との関係をXYグラフ上にプロットすると、一般的な光学ガラスの場合、ほぼ、ノーマルラインと呼ばれる直線上にプロットされることになる。ノーマルラインとは、部分分散比(θg,F)を縦軸に、アッベ数(νd)を横軸に採用したXYグラフ上(直交座標上)で、NSL7とPBM2の部分分散比およびアッベ数をプロットした2点を結ぶ右上がりの直線を意味する(
図1参照)。ノーマルラインの基準となるノーマルガラスは光学ガラスメーカー毎によっても異なるが、各社ともほぼ同等の傾きと切片で定義している(NSL7とPBM2は株式会社オ
ハラ社製の光学ガラスであり、NSL7のアッベ数(νd)は60.5、部分分散比(θg,F)は0.5436であり、PBM2のアッベ数(νd)は36.3,部分分散比(θg,F)は0.5828である)。
【0047】
このような部分分散比(θg,F)に対して、異常分散性(Δθg,F)とは、部分分散比(θg,F)およびアッベ数(νd)のプロットが、ノーマルラインから縦軸方向にどの程度離れているかを示すものである。異常分散性(Δθg,F)が大きいガラスからなる光学素子は、青色付近の波長範囲について、他のレンズによって生じていた色収差を補正することができる性質を有する。
【0048】
また、中低分散領域(アッベ数が55程度以上の領域)においては、従来、アッベ数(νd)が大きいほど、異常分散性(Δθg,F)が大きくなる傾向があった。さらに、磨耗度を420以下としつつ、かつ異常分散性を高位に維持することは困難となる傾向があった。
【0049】
本発明者は鋭意検討し、アッベ数(νd)に対する異常分散性(Δθg,F)の値が高く、かつ加工性が良好な光学ガラスを開発することに成功した。
【0050】
本発明の光学ガラスは、高い屈折率(nd)を有するとともに、低い分散性(高いアッベ数)を有する。
本発明の光学ガラスにおいて、屈折率(nd)は1.50~1.60であることが好ましい。屈折率(nd)は1.50以上であることが好ましく、1.51以上であることがより好ましい。また、1.59以下であることが好ましく、1.58以下であることがより好ましい。
本発明の光学ガラスにおいて、アッベ数(νd)は60~80であることが好ましい。
アッベ数は62以上であることが好ましく、64以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。また、78以下であることが好ましく、76以下であることがより好ましい。
なお、屈折率(nd)およびアッベ数(νd)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定して得た値を意味するものする。
【0051】
本発明の光学ガラスは、磨耗度が特に低く、420以下であることが好ましい。したがって、光学ガラスの必要以上の磨耗や傷が低減され、光学ガラスに対する研磨加工における取扱いを容易にして、研磨加工を行い易くすることができる。
摩耗度は415以下であることがより好ましく、410以下であることがさらに好ましい。
一方、摩耗度が低すぎると逆に研磨加工が難しくなる傾向がある。したがって、摩耗度は200以上であることが好ましく、210以上であることがより好ましく、220以上であることがさらに好ましい。
なお、摩耗度とは、「JOGIS10-1994光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じて測定して得た値を意味するものとする。
【0052】
本発明の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数(dn/dT)が低い値をとる。
より具体的には、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは+3.0×10-6℃-1、より好ましくは+2.0×10-6℃-1、より好ましくは+1.0×10-6℃-1、さらに好ましくは0×10-6℃-1を上限値とし、この上限値又はそれよりも低い(マイナス側)の値をとり得る。
他方で、本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、好ましくは-5.5×10-6℃-1、より好ましくは-4.5×10-6℃-1、さらに好ましくは-4.0×10-6℃-1、さらに好ましくは-3.7×10-6℃-1、最も好ましくは-3.0×10-6℃-1を下限値とし、この下限値又はそれよりも高い(プラス側)の値をとり得る。
このうち、相対屈折率の温度係数がマイナスとなるガラスは殆ど知られておらず、温度変化による結像のずれ等の補正の選択肢を広げられる。また、相対屈折率の温度係数の絶対値の小さなガラスは温度変化による結像のずれ等の補正をより容易にできる。したがって、このような範囲の相対屈折率の温度係数にすることで、温度変化による結像のずれ等の補正に寄与することができる。
本発明の光学ガラスの相対屈折率の温度係数は、光学ガラスと同一温度の空気中における屈折率(589.3nm)の温度係数のことであり、40℃から60℃に温度を変化させた際の、1℃当たりの変化量(℃-1)で表される。
【0053】
[プリフォームおよび光学素子]
本発明の光学ガラスは、様々な光学素子および光学設計に有用であるが、その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームに対して研磨加工や精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム、ミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性を実現することができる。ここで、プリフォーム材を製造する方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平8-319124に記載のガラスゴブの成形方法や特開平8-73229に記載の光学ガラスの製造方法および製造装置のように溶融ガラスから直接プリフォーム材を製造する方法を用いることもでき、また、光学ガラスから形成したストリップ材に対して研削研磨等の冷間加工を行って製造する方法を用いることもできる。
【0054】
また、より幅広い温度範囲で、所望の結像特性等の光学特性を得ることができる本発明の光学ガラスであると、これを用いたより好ましいプリフォーム及び光学素子が得られるので好ましい。
【実施例】
【0055】
本発明の光学ガラスである実施例1~47のガラスの組成(カチオン%表示またはアニオン%表示のモル%で示す)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、異常分散性(Δθg,F)および磨耗度(Aa)を第1~7表に示す。
【0056】
本発明の実施例1~47の光学ガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の弗燐酸塩ガラスに使用される高純度原料を選定し、第1表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で900~1200℃の温度範囲で2~10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0057】
ここで、実施例1~47および比較例1の光学ガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)および部分分散比(θg,F)については、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとして、アニール条件は徐冷降下速度を-25℃/hrとして、徐冷炉にて処理を行ったものを用いた。そして、測定されたアッベ数(νd)における、
図1のノーマルライン上にある部分分散比(θg,F)の値と測定された部分分散比(θg,F)の値との差から、異常分散性(Δθg,F)を求めた。
【0058】
また、磨耗度は「JOGIS10-1994光学ガラスの磨耗度の測定方法」に準じて測定した。すなわち、30×30×10mmの大きさのガラス角板の試料を水平に毎分60回転する鋳鉄製平面皿(250mmφ)の中心から80mmの定位置に乗せ、9.8N(1kgf)の荷重を垂直にかけながら、水20mLに#800(平均粒径20μm)のラップ材(アルミナ質A砥粒)を10g添加した研磨液を5分間一様に供給して摩擦させ、ラップ前後の試料質量を測定して、磨耗質量を求めた。同様にして、日本光学硝子工業会で指定された標準試料の磨耗質量を求め、
磨耗度={(試料の磨耗質量/比重)/(標準試料の磨耗質量/比重)}×100 により計算した。
【0059】
実施例のガラスの相対屈折率の温度係数(dn/dT)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS18-1994「光学ガラスの屈折率の温度係数の測定方法」に記載された方法のうち干渉法により、波長589.3nmの光についての、40~60℃における相対屈折率の温度係数の値を測定した。
相対屈折率の温度係数の値は第8表に示す。
他方、比較例のガラスの組成及び物性を第9表に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
第1~7表に表されるように、本発明の実施例1~47の光学ガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.50~1.60であり、アッベ数(νd)が60~80であり、θg.f値が0.52~0.56の範囲内であった。
また、本発明の実施例1~47の光学ガラスは、摩耗度が420以下であり、研磨加工が行いやすいガラスであった。
【0070】
表8に示されるように、本発明の光学ガラスは、高温の環境で用いられる車載用光学機器やプロジェクタ等の光学系において、温度変化による結像特性のずれ等の補正に寄与し得る光学ガラスであることが分かった。
【0071】
第9表に示されるように、比較例の光学ガラスは、Ba2+の含有量が多すぎるため、摩耗度が高くなり過ぎ、かつdn/dt値が本発明の所望の値を取り得なかった。